(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】橋梁上部工撤去工法
(51)【国際特許分類】
E01D 24/00 20060101AFI20221109BHJP
E01D 1/00 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
E01D24/00
E01D1/00 E
(21)【出願番号】P 2019150491
(22)【出願日】2019-08-20
【審査請求日】2021-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002963
【氏名又は名称】弁理士法人MTS国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100080458
【氏名又は名称】高矢 諭
(74)【代理人】
【識別番号】100144299
【氏名又は名称】藤田 崇
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕明
(72)【発明者】
【氏名】中村 信秀
(72)【発明者】
【氏名】伊佐 和人
(72)【発明者】
【氏名】木本 智美
【審査官】坪内 優佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-191893(JP,A)
【文献】特開2018-009371(JP,A)
【文献】特開2016-008406(JP,A)
【文献】特開2007-113376(JP,A)
【文献】特開2013-174075(JP,A)
【文献】特開2018-059311(JP,A)
【文献】特開2019-132008(JP,A)
【文献】特開2006-144282(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 1/00-24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設主桁を有する橋梁の上部工
の所定位置を切断して前記上部工を撤去する橋梁上部工撤去工法であって、
撤去対象径間およびその撤去対象径間に隣接する
隣接径間の前記上部工を補強する補強部材を
、前記撤去対象径間と前記隣接径間とを跨ぐように前記橋梁の橋軸方向に延びる方向に設置する補強部材設置工程と、
前記上部工の上方にクレーンを設置するクレーン設置工程と、
前記クレーン設置工程で設置されたクレーンで、前記撤去対象径間の撤去対象である前記上部工の所定部位を支持した状態で、前記撤去対象径間の前記上部工の
前記所定位置を切断する切断工程と、
前記切断工程により切り離された前記上部工の前記所定部位を、前記クレーンで撤去する撤去工程と、
を有することを特徴とする橋梁上部工撤去工法。
【請求項2】
既設主桁を有する橋梁の上部工の所定位置を切断して前記上部工を撤去する橋梁上部工撤去工法であって、
撤去対象径間およびその撤去対象径間に隣接する隣接径間の前記上部工を補強する補強部材を、前記撤去対象径間と前記隣接径間とを跨ぐように前記橋梁の橋軸方向に延びる方向に設置する補強部材設置工程と、
前記上部工の上方にクレーンを設置するクレーン設置工程と、
前記撤去対象径間の前記既設主桁の上フランジに、前記上部工の前記所定位置を間に挟む異なる位置に第1のブラケットをそれぞれ取り付け、取り付けた前記第1のブラケット同士の間にジャッキを配置するとともに、前記撤去対象径間の前記既設主桁の下フランジに、前記上部工の前記所定位置を間に挟む異なる位置に第2のブラケットをそれぞれ取り付け、取り付けた前記第2のブラケット同士の間にジャッキを配置し、上下に位置する前記第1のブラケットと前記第2のブラケットとの間に、側部を前記既設主桁のウェブに取り付けた補剛材を上下方向にそれぞれ配置し、前記補剛材を配置した後に、前記第1のブラケット同士の間に配置した前記ジャッキを伸長させて引張力を前記既設主桁の上フランジに付与し、前記第2のブラケット同士の間に配置した前記ジャッキを収縮させて圧縮力を前記既設主桁の下フランジに付与して、前記上部工の前記所定位置での曲げモーメントを減少させる曲げモーメント減少工程と、
前記曲げモーメント減少工程で曲げモーメントを減少させた状態で、前記上部工の前記所定位置を切断する切断工程と、
前記切断工程により切り離された前記上部工の所定部位を、前記クレーンで撤去する撤去工程と、
を有することを特徴とする橋梁上部工撤去工法。
【請求項3】
前記補強部材設置工程では、
前記補強部材を、前記撤去対象径間および
前記隣接径間の前記上部工の上方に、
前記既設主桁の上フランジ上面に前記橋梁の橋軸方向に延びる方向に
離散的に配置された接合部材を介して設置することを特徴とする請求項1または2に記載の橋梁上部工撤去工法。
【請求項4】
前記補強部材設置工程では、
前記撤去対象径間および
前記隣接径間の前記上部工の前記
既設主桁のウェブに、前記補強部材を前記橋梁の橋軸方向に延びる方向に設置することを特徴とする請求項1または2に記載の橋梁上部工撤去工法。
【請求項5】
前記補強部材設置工程で設置した前記補強部材の上方に軌条設備を設置する軌条設備設置工程をさらに有し、
前記クレーン設置工程では、前記軌条設備設置工程で設置した前記軌条設備に、前記クレーンを前記軌条設備に沿って移動可能に設置することを特徴とする請求項1~
3のいずれかに記載の橋梁上部工撤去工法。
【請求項6】
前記補強部材設置工程で設置した前記補強部材は、前記橋梁の橋軸方向に前記クレーンが移動できるようにする軌条設備も備えていることを特徴とする請求項3に記載の橋梁上部工撤去工法。
【請求項7】
前記クレーン設置工程で設置した前記クレーンを、前記撤去対象径間の中央寄りの、前記補強部材の端部付近に移動させるクレーン移動工程をさらに有し、
前記撤去工程では、前記切断工程により切り離された前記上部工の前記所定部位を、前記クレーン移動工程で移動させた前記クレーンで撤去することを特徴とする請求項5または6に記載の橋梁上部工撤去工法。
【請求項8】
前記切断工程により切り離される前記上部工の前記所定部位の上方に位置する前記補強部材の部位を、前記補強部材の他の部位から切り離して撤去した後、前記上部工の前記所定部位を前記切断工程で切り離すことを特徴とする請求項
3に記載の橋梁上部工撤去工法。
【請求項9】
前記撤去工程では、前記切断工程により切り離される前記上部工の前記所定部位だけでなく、該所定部位の上方に位置する前記補強部材の部位も同時に撤去することを特徴とする請求項
3に記載の橋梁上部工撤去工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁上部工撤去工法に関し、詳細には、橋梁の上部工を撤去する際の桁下空間の利用制限を大きく緩和させることができる橋梁上部工撤去工法に関する。ここで、本願において、上部工とは、当該橋梁の主桁および床版のうち、少なくとも主桁を含む当該橋梁の上部構造のことである。
【背景技術】
【0002】
橋梁の上部工を撤去する場合、撤去する橋梁の上部工の下方の空間を使用して撤去を行う工法が一般的に用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の橋梁の撤去方法では、2対のベントを使用して、それぞれ支持と降下を繰り返すことで、撤去する橋梁の上部工を降下させて撤去する。
【0004】
しかしながら、上記のようなベントを用いて橋梁の上部工を撤去する方法では、大型のクレーンを用いる必要はなくても、ベントを立設する作業、及び当該ベントを用いて上部工を撤去する作業の間は、比較的長い時間、桁下に通っている道路や鉄道を通行止めする必要がある。つまり、撤去する上部工の下方の空間を使用することが大きく制限される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、橋梁の上部工を撤去する際の桁下空間の利用の制限を大きく緩和させることができる橋梁上部工撤去工法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の橋梁上部工撤去工法により、前記課題を解決したものである。
【0008】
即ち、本発明に係る橋梁上部工撤去工法は、橋梁の上部工を撤去する橋梁上部工撤去工法であって、撤去対象径間およびその撤去対象径間に隣接する径間の前記上部工を補強する補強部材を前記橋梁の橋軸方向に延びる方向に設置する補強部材設置工程と、前記上部工の上方にクレーンを設置するクレーン設置工程と、前記補強部材設置工程の後、前記撤去対象径間の前記上部工の所定位置を切断する切断工程と、前記切断工程により切り離された前記上部工の所定部位を、前記クレーンで撤去する撤去工程と、を有することを特徴とする橋梁上部工撤去工法である。
【0009】
前記補強部材設置工程の後に、前記クレーン設置工程を行うようにしてもよい。
【0010】
前記補強部材設置工程では、撤去対象径間およびその撤去対象径間に隣接する径間の前記上部工の上方に、前記補強部材を前記橋梁の橋軸方向に延びる方向に設置してもよい。
【0011】
前記上部工が鋼主桁を備える場合、前記補強部材設置工程では、撤去対象径間およびその撤去対象径間に隣接する径間の前記上部工の前記鋼主桁のウェブに、前記補強部材を前記橋梁の橋軸方向に延びる方向に設置してもよい。
【0012】
前記補強部材設置工程で設置した前記補強部材の上方に軌条設備を設置する軌条設備設置工程をさらに備えさせ、前記クレーン設置工程では、前記軌条設備設置工程で設置した前記軌条設備に、前記クレーンを前記軌条設備に沿って移動可能に設置するようにしてもよい。
【0013】
前記補強部材設置工程で設置した前記補強部材は、前記橋梁の橋軸方向に前記クレーンが移動できるようにする軌条設備も備えているように構成してもよい。
【0014】
前記クレーン設置工程で設置した前記クレーンを、前記撤去対象径間の中央寄りの、前記補強部材の端部付近に移動させるクレーン移動工程をさらに備えさせ、前記撤去工程では、前記切断工程により切り離された前記上部工の前記所定部位を、前記クレーン移動工程で移動させた前記クレーンで撤去するようにしてもよい。
【0015】
前記切断工程により切り離される前記上部工の前記所定部位の上方に位置する前記補強部材の部位を、前記補強部材の他の部位から切り離して撤去した後、前記上部工の前記所定部位を前記切断工程で切り離すようにしてもよい。
【0016】
前記撤去工程では、前記切断工程により切り離される前記上部工の前記所定部位だけでなく、該所定部位の上方に位置する前記補強部材の部位も同時に撤去するようにしてもよい。
【0017】
前記切断工程では、前記上部工の切断位置における曲げモーメントを減少させてから、前記上部工を切断するようにしてもよい。
【0018】
前記切断工程では、前記上部工の前記切断位置における曲げモーメントを減少させる際にジャッキを用いてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る橋梁上部工撤去工法によれば、橋梁の上部工を撤去する際の桁下空間の利用の制限を大きく緩和させることができる橋梁上部工撤去工法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】上部工撤去対象の橋梁60を模式的に示す側面図(橋軸直角方向から見た側面図)
【
図2】第1実施形態に係る橋梁上部工撤去工法を用いて橋梁60の上部工62の撤去を行うときの代表的な工程を模式的に示す側面図(橋軸直角方向から見た側面図)
【
図3】第1実施形態に係る橋梁上部工撤去工法の実施の際に必要となる補強部材10および移動式クレーン20の設置が完了した状態を模式的に示す正面図(橋軸方向から見た正面図)
【
図4】上部工62の既設床版66の部位のうち、既設主桁64の上方に位置する部位に孔66Aを離散的に設けた状態を示す正面図(橋軸方向から見た正面図)
【
図5】本発明の第1実施形態に係る橋梁上部工撤去工法の一工程を模式的に示す側面図
【
図6】本発明の第1実施形態に係る橋梁上部工撤去工法の一工程を模式的に示す側面図
【
図7】本発明の第1実施形態に係る橋梁上部工撤去工法の一工程を模式的に示す側面図
【
図8】本発明の第1実施形態に係る橋梁上部工撤去工法の一工程を模式的に示す側面図
【
図9】本発明の第1実施形態に係る橋梁上部工撤去工法の一工程を模式的に示す側面図
【
図10】本発明の第1実施形態に係る橋梁上部工撤去工法の一工程を模式的に示す側面図
【
図11】本発明の第1実施形態に係る橋梁上部工撤去工法の一工程を模式的に示す側面図
【
図12】上部工62の切断位置62Xにおける曲げモーメントを減少させる一方法を模式的に示す側面図
【
図13】上部工62の切断位置62Xにおける曲げモーメントを減少させる一方法を模式的に示す側面図
【
図14】切断位置62Xで上部工62を切断した後、補強部材10の撤去対象径間68の中央寄りの部位にも接合部材12を設け、センターホールジャッキ96を撤去した状態を模式的に示す側面図
【
図15】第2実施形態に係る橋梁上部工撤去工法の実施の際に必要となる補強部材10および移動式クレーン20の設置が完了した状態を模式的に示す正面図(橋軸方向から見た正面図)
【
図16】第3実施形態に係る橋梁上部工撤去工法の実施の際に必要となる補強部材30および移動式クレーン20の設置が完了した状態を模式的に示す正面図(橋軸方向から見た正面図)
【
図17】補強部材30(断面T形の鋼部材30A)をボルト及びナット32で既設主桁64のウェブ64Cに機械的に連結した態様を示す正面図(橋軸方向から見た正面図)
【
図18】補強部材30(フラットバー30B)を溶接により既設主桁64のウェブ64Cに機械的に連結した態様を示す正面図(橋軸方向から見た正面図)
【
図19】第4実施形態に係る橋梁上部工撤去工法の実施の際に必要となる補強部材30および移動式クレーン20の設置が完了した状態を模式的に示す正面図(橋軸方向から見た正面図)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る橋梁上部工撤去工法について詳細に説明する。
【0022】
(1)第1実施形態
本発明に係る橋梁上部工撤去工法の第1実施形態は、撤去対象径間の上部工の既設主桁および既設床版を同時に撤去する実施形態である。
【0023】
(1-1)概要の説明
図1は、上部工撤去対象の橋梁60を模式的に示す側面図(橋軸直角方向から見た側面図)である。上部工撤去対象の橋梁60は、その上部工62が下部工74、76、78、80に架設された3径間連続橋であり、以下の説明では、下部工76、78に架設されている上部工62の部位で、下部工76、78の間の撤去対象径間68に位置する部位(以下、撤去対象上部工部位62Aと記すことがある。)を撤去するものとして説明する。ただし、本発明の適用対象の橋梁が連続橋に限定されるわけではない。また、撤去対象径間の両端に位置する下部工については、橋脚であっても橋台であっても本発明は適用可能であり、本発明に係る橋梁上部工撤去工法は、下部工の種類によらず、適用することができる。なお、
図1においては、上部工62の既設床版66(
図3参照)の記載は省略している。
【0024】
また、
図1において、隣接径間70は撤去対象径間68の左隣に位置する径間(下部工74、76の間の径間)であり、隣接径間72は撤去対象径間68の右隣に位置する径間(下部工78、80の間の径間)である。
【0025】
また、橋梁60は跨道橋であり、橋梁60の撤去対象径間68の下方においては、橋梁60の橋軸方向と略直交する方向に道路82が延びているが、後の説明で明らかになるように、本第1実施形態に係る橋梁上部工撤去工法においては橋面上からの作業のみで撤去対象上部工部位62Aを撤去することができ、道路82を含む桁下空間に与える影響を極力抑制した状態で、本第1実施形態に係る橋梁上部工撤去工法は実施可能である。なお、本発明の適用対象の橋梁が跨道橋に限定されるわけではなく、本発明は跨線橋等に対しても好適に適用可能である。
【0026】
なお、以下の説明では、上部工を撤去する対象の橋梁60は鋼橋であり、撤去対象の上部工62の既設主桁64(
図3参照)は鋼桁であるものとして説明するが、本発明の適用対象の橋梁が鋼橋に限定されるわけではない。
【0027】
図2は、本第1実施形態に係る橋梁上部工撤去工法を用いて橋梁60の上部工62の撤去を行うときの代表的な工程を模式的に示す側面図(橋軸直角方向から見た側面図)である。
図2においては、上部工62の既設床版66(
図3参照)の記載は省略している。
図3は、本第1実施形態に係る橋梁上部工撤去工法の実施の際に必要となる補強部材10および移動式クレーン20の設置が完了した状態を模式的に示す正面図(橋軸方向から見た正面図)である。
【0028】
本第1実施形態に係る橋梁上部工撤去工法を実施するに際しては、
図2および
図3に示すように、補強部材10を、橋梁60の橋軸方向に延びるように上部工62の上方に配置し、接合部材12で補強部材10を上部工62の既設主桁64の上フランジ64A上面に取り付けて上部工62を補強する。撤去対象上部工部位62Aを撤去していく際には、撤去対象上部工部位62Aを橋軸直角方向に切断するが、切断後には撤去対象上部工部位62Aは片持ちとなるため、切断前と比較して上部工62の作用断面力の分布が変わり、上部工62上に設置するクレーン等の撤去用に用いる機材・資材等の重量によっては、上部工62に耐荷力が不足する部位が生じる。即ち、補強部材10は、上部工62の切断によって生ずる、上部工62自体の耐荷力不足を、安全性が確保できるレベルまで補うために上部工62に取り付けられる部材であり、そのような補強部材10の材質や構造等は特には限定されず、具体的には例えば、トラス構造の鋼製部材、鈑桁、鋼製箱桁も、上記目的を達成できるものであれば補強部材10として用いることができる。
【0029】
補強部材10の配置位置は、
図2に示すように、撤去対象径間68の両端部(下部工76、78の上方の位置)を中心として、撤去対象径間68と隣接径間70、72とをそれぞれ跨ぐような位置である。
【0030】
また、補強部材10を上部工62に取り付ける接合部材12は、上部工62の既設床版66の部位のうち、既設主桁64の上方に位置する部位に離散的に設けた孔66A(
図4参照)内に設置し、接合部材12によって、補強部材10の下面と既設主桁64の上フランジ64Aとを連結する。接合部材12としては、具体的には例えば、断面H形の鋼材をリブ鋼板で補強した鋼材等を用いることができる。補強部材10と接合部材12との連結態様および既設主桁64と接合部材12との連結態様は、十分な接合耐力が得られるのであれば特には限定されず、具体的には例えば、ボルト及びナット等を用いた機械的な連結等を採用することができる。
【0031】
補強部材10の上面には、橋軸方向に延びる軌条設備14を設けており、軌条設備14には、軌条設備14上を橋軸方向に移動できる移動式クレーン20を設けている。軌条設備14と補強部材10との連結態様は、十分な接合耐力が得られるのであれば特には限定されず、具体的には例えば、ボルト及びナット等を用いた機械的な連結等を採用することができる。本第1実施形態では、補強部材10と軌条設備14とは、別々の部材としているが、補強部材10に軌条設備としての機能も備えさせ、補強部材10が軌条設備を兼ねるようにしてもよく、具体的には例えば、補強部材10に軌条設備14を予め取り付けておき、補強部材10の設置と同時に軌条設備14が設置されるようにしてもよい。
【0032】
撤去対象上部工部位62Aの所定撤去部位62A1(撤去対象上部工部位62Aのうち、撤去対象径間68の中央寄りの端部部位)を撤去する際には、移動式クレーン20を補強部材10の撤去対象径間68の中央寄りの端部付近に移動させて、その位置において、移動式クレーン20で、撤去対象上部工部位62Aの所定撤去部位62A1を支持した状態(
図2の右側の移動式クレーン20参照)で、所定撤去部位62A1を切り離し、切り離した所定撤去部位62A1を移動式クレーン20で吊り上げて撤去する(
図2の左側の移動式クレーン20参照)。
【0033】
撤去対象上部工部位62Aの所定撤去部位62A1の撤去を終えた後、移動式クレーン20を撤去対象径間68の端部方向(下部工76、78に近づく方向)に引き戻し、撤去対象上部工部位62Aの次の撤去対象部位62A2を切り離して撤去する。次の撤去対象部位62A2を切り離して撤去する際には、次の撤去対象部位62A2の上方に位置する補強部材10の端部部位10Aを同時に撤去してもよく、あるいは次の撤去対象部位62A2の上方に位置する補強部材10の端部部位10Aを撤去した後に次の撤去対象部位62A2の撤去を行ってもよい。
【0034】
(1-2)各工程についての説明
図5~
図11は、本発明の第1実施形態に係る橋梁上部工撤去工法の各工程を模式的に示す側面図(上部工撤去対象の橋梁60を側方(橋軸直角方向)から見た側面図)である。なお、
図5~
図11においては、上部工62の既設床版66(
図3参照)の記載は省略している。
【0035】
図5~
図11を参照しつつ、本実施形態に係る橋梁架け替え工法の各工程(ステップS1~S6)について説明する。
【0036】
<ステップS1>
図5に示すように、上部工62の所定の範囲(下部工76、78の上方の位置を中心とする所定の範囲)の上方に、補強部材10を橋梁60の橋軸方向に延びるように配置し、接合部材12(
図2、3参照)で上部工62の既設主桁64に取り付けて上部工62を補強するとともに、
図5に示すように、隣接径間70、72の端部近傍の上部工62の部位(下部工74、80近傍の部位)の上方に、橋梁60の上部工62の転倒を防ぐための重しとしての役割であるカウンターウェイト50を設ける。ただし、カウンターウェイト50は、他の構成により上部工62の転倒が既に防止されている場合には設ける必要がない。また、カウンターウェイト50を設けることに替えて、上部工62と隣り合う上部工84、86の端部に、上部工62の端部をそれぞれ連結して、橋梁60の上部工の連続化を行ってもよい。
【0037】
<ステップS2>
ステップS1で補強部材10を上部工62の所定の範囲に取り付けるとともに、必要に応じてカウンターウェイト50を設けた後、
図6に示すように、撤去対象径間68の中心位置(切断位置62X)で上部工62を橋軸直角方向に切断する。上部工62の切断には、ワイヤーソー、ウォールソー、ガス切断等を用いてもよい。なお、上部工62の「切断」には、ボルト継手を有する鋼主桁の場合、ボルト継手を取り外して、橋軸方向に連結されていた鋼主桁同士を切り離すことも含まれる。
【0038】
上部工62を切断する際には、切断位置62Xにおける曲げモーメントを減少させた状態で切断することが安全面で好ましい。切断位置62Xにおける曲げモーメントを減少させる際には、具体的には例えば、
図12に示すように、上部工62の既設主桁64の上フランジ64A上面に、切断位置62Xを挟むようにブラケット88を取り付け、取り付けたブラケット88の間にジャッキ90を配置して、既設主桁64の上フランジ64A(切断位置62X近傍の上フランジ64A)に引張力を加えるとともに、上部工62の既設主桁64の下フランジ64B下面に、切断位置62Xを挟むようにブラケット92を取り付け、取り付けたブラケット92の橋軸方向外側の面にセンターホールジャッキ94を定着させて、既設主桁64の下フランジ64B(切断位置62X近傍の下フランジ64B)に圧縮力を加えるようにしてもよい。ただし、前記引張力および前記圧縮力を加える前に、ブラケット88、92の間に補剛材64Dを上下方向に配置して、補剛材64Dの側部を既設主桁64のウェブ64Cに取り付け、補剛材64Dの上端部を既設主桁64の上フランジ64Aの下面に取り付け、補剛材64Dの下端部を既設主桁64の下フランジ64Bの上面に取り付けておく。
図12において、符号94Aはセンターホールジャッキ94のテンションロッドであり、符号94Bはセンターホールジャッキ94の定着体である。
【0039】
また、
図13に示すように、補強部材10の撤去対象径間68の中央寄りの部位において接合部材12を設けないようにするとともに、補強部材10の撤去対象径間68の中央寄りの端部とその下方の上部工62の部位との間に、それらをお互いに近づける方向に力を加えるセンターホールジャッキ96を上下方向に設けて、上部工62の中央部に上向きの力を加えて、切断位置62Xにおける曲げモーメントを減少させた状態にして、切断位置62Xで上部工62を橋軸直角方向に切断してもよい。このようにした場合には、切断位置62Xで上部工62を橋軸直角方向に切断した後に、
図14に示すように、補強部材10の撤去対象径間68の中央寄りの部位にも、接合部材12を設け、センターホールジャッキ96を撤去する。
【0040】
<ステップS3>
補強部材10の上に設けた軌条設備14(
図2参照)に移動式クレーン20を取り付け、移動式クレーン20を補強部材10の撤去対象径間68の中央寄りの端部付近に移動させて、その位置において、移動式クレーン20で、撤去対象上部工部位62Aの所定撤去部位62A1を支持した状態(
図7の右側の移動式クレーン20参照)で、所定撤去部位62A1を切り離し、切り離した所定撤去部位62A1を移動式クレーン20で吊り上げて撤去する(
図7の左側の移動式クレーン20参照)。
【0041】
撤去対象上部工部位62Aの所定撤去部位62A1を撤去する際には、
図8に模式的に示すように、移動式クレーン20で吊り上げた所定撤去部位62A1を台車22上に吊り降ろし、台車22を軌条設備14に沿って隣接径間70、72の中央寄りの位置に移動させ、隣接径間70、72の上部工62の上に設けたクレーン24で、台車22上の所定撤去部位62A1をトレーラー26に積み込み、撤去する。
【0042】
<ステップS4>
撤去対象上部工部位62Aの所定撤去部位62A1の撤去を終えた後、移動式クレーン20を撤去対象径間68の端部方向(下部工76、78に近づく方向)に引き戻し、撤去対象上部工部位62Aの次の撤去対象部位62A2を切り離して撤去するが、次の撤去対象部位62A2を切り離す前に、
図9に示すように、次の撤去対象部位62A2の上方に位置する補強部材10の端部部位10Aを撤去する。そして、その後に上部工62の次の撤去対象部位62A2の撤去を行う。
【0043】
なお、次の撤去対象部位62A2を切り離して撤去する際に、次の撤去対象部位62A2の上方に位置する補強部材10の端部部位10Aを同時に撤去してもよい。
【0044】
<ステップS5>
ステップS4を繰り返して、撤去対象径間68に位置する撤去対象上部工部位62Aの全ての撤去を行う。
図10は、撤去対象径間68に位置する撤去対象上部工部位62Aの全ての撤去を終えた後の状態を模式的に示す側面図である。
【0045】
<ステップS6>
ステップS5で撤去対象径間68に位置する撤去対象上部工部位62Aの全ての撤去を終えた後、隣接径間70、72の上部工62の上に残った補強部材10と移動式クレーン20を撤去して、本第1実施形態に係る橋梁上部工撤去工法の実施が完了する。
図11は、本第1実施形態に係る橋梁上部工撤去工法の橋梁60に対する実施が完了した後の状態を模式的に示す側面図である。
【0046】
(1-3)作用効果
以上説明したように、本第1実施形態に係る橋梁上部工撤去工法で用いる機材である補強部材10、接合部材12、軌条設備14、および移動式クレーン20、ならびに台車22、クレーン24、トレーラー26は、いずれも、上部工62の既設主桁64の上方に位置しており、本第1実施形態に係る橋梁上部工撤去工法では、橋面上からの作業のみで橋梁60の撤去対象上部工部位62Aを撤去することができる。
【0047】
また、本第1実施形態では、ステップS1で補強部材10を上部工62の所定の範囲に取り付けた後、ステップS3で移動式クレーン20を設置しており、補強部材10は、移動式クレーン20の重量に対しても耐荷力を確保できるように設けられる。
【0048】
(2)第2実施形態
先に説明した第1実施形態は、撤去対象径間68の上部工62(撤去対象上部工部位62A)の既設主桁64および既設床版66を同時に撤去する実施形態であったが、本発明に係る橋梁上部工撤去工法の第2実施形態は、撤去対象上部工部位62Aの既設床版66の撤去を先に行った後、既設主桁64の撤去を行う実施形態であり、既設床版66の撤去後に残った既設主桁64の撤去を行う際に実施する実施形態である。
【0049】
第1実施形態の撤去対象は既設主桁64および既設床版66の両方であって、第1実施形態はその両方を同時に撤去する実施形態であるのに対し、本第2実施形態に係る橋梁上部工撤去工法の撤去対象は、既設床版66の撤去後に残った既設主桁64であり、この点が第1実施形態に係る橋梁上部工撤去工法と異なり、それ以外の点は本第2実施形態に係る橋梁上部工撤去工法は第1実施形態に係る橋梁上部工撤去工法と同様である。
【0050】
本第2実施形態に係る橋梁上部工撤去工法においては、既設床版66の撤去をまず行った後、既設主桁64の補強を行う補強部材10を既設主桁64の上フランジ64Aの上に取り付けるが、撤去対象上部工部位62Aの既設床版66の撤去は、現状で行われている一般的な床版撤去工法で撤去すればよく、橋面上からの作業のみで撤去を行うことができる。
【0051】
図15は、本第2実施形態に係る橋梁上部工撤去工法の実施の際に必要となる補強部材10および移動式クレーン20の設置が完了した状態を模式的に示す正面図(橋軸方向から見た正面図)である。補強部材10および移動式クレーン20は、撤去対象上部工部位62Aの既設床版66の撤去を行った後に設置を行うので、
図15に示すように、本第2実施形態に係る橋梁上部工撤去工法においては、その実施をする前に、既設床版66はすでに撤去している。
【0052】
(3)第3実施形態
先に説明した第1および第2実施形態は、上部工62の既設主桁64の上フランジ64Aに接合部材12を介して補強部材10を取り付けて補強を行った上で、撤去対象上部工部位62Aの撤去を行う実施形態であったが、本発明に係る橋梁上部工撤去工法の第3実施形態は、
図16に示すように、撤去対象上部工部位62Aの既設主桁64のウェブ64Cに補強部材30を、橋梁60の橋軸方向に延びる方向に取り付けて既設主桁64の補強を行った上で、撤去対象上部工部位62Aの撤去を行う実施形態である。このため、軌条設備14は、
図16に示すように、上部工62の既設床版66の上に配置することになる。
【0053】
それら以外の点は、本第3実施形態は第1実施形態と同様であり、本第3実施形態は、第1実施形態と同様に、既設主桁64および既設床版66を同時に撤去する実施形態である。
【0054】
補強部材30は、撤去対象上部工部位62Aの既設主桁64のウェブ64Cに取り付けるが、その取り付け位置は、
図16に示すように、既設主桁64の上フランジ64Aの近傍下方の位置および下フランジ64Bの近傍上方の位置である。
【0055】
既設主桁64のウェブ64Cに補強部材30を取り付ける態様は、十分な接合耐力が得られるのであれば特には限定されず、具体的には例えば、
図17に示すように、補強部材30を断面T形の鋼部材30Aにして、ボルト及びナット32を用いて既設主桁64のウェブ64Cに機械的に連結する態様や、
図18に示すように、補強部材30をフラットバー30Bにして、既設主桁64のウェブ64Cに溶接により連結する態様等を採用することができる。
【0056】
補強部材30は、上部工62の上を運搬するとともに、既設床版66の一部に補強部材30が通過できる開口を設けることで、桁下空間を使用せずに取り付け対象の既設主桁64の位置に運び込むことができ、吊り足場等を利用して既設主桁64の所定の位置に設置することが可能である。また、補強部材30は、隣接径間70や隣接径間72の桁下空間を使用して上部工62の上に搬入し、吊り足場等を利用して既設主桁64の所定の位置に設置することも可能である。
【0057】
(4)第4実施形態
先に説明した第3実施形態は、撤去対象径間68の上部工62(撤去対象上部工部位62A)の既設主桁64および既設床版66を同時に撤去する実施形態であったが、本発明に係る橋梁上部工撤去工法の第4実施形態は、撤去対象上部工部位62Aの既設床版66の撤去を先に行った後、既設主桁64の撤去を行う実施形態であり、既設床版66の撤去後に残った既設主桁64の撤去を行う際に実施する実施形態である。
【0058】
第3実施形態の撤去対象は既設主桁64および既設床版66の両方であって、第3実施形態はその両方を同時に撤去する実施形態であるのに対し、本第4実施形態に係る橋梁上部工撤去工法の撤去対象は、既設床版66の撤去後に残った既設主桁64であり、この点が第3実施形態に係る橋梁上部工撤去工法と異なり、それ以外の点は本第4実施形態に係る橋梁上部工撤去工法は第3実施形態に係る橋梁上部工撤去工法と同様であり、本第4実施形態も、第3実施形態と同様、撤去対象上部工部位62Aの既設主桁64のウェブ64Cに補強部材30を取り付けて既設主桁64の補強を行った上で、撤去対象上部工部位62Aの既設主桁64の撤去を行う実施形態である。
【0059】
本第4実施形態に係る橋梁上部工撤去工法においては、既設床版66の撤去を行った後、または既設床版66の撤去と並行して、既設主桁64のウェブ64Cに補強部材30を取り付けて既設主桁64の補強を行うが、撤去対象上部工部位62Aの既設床版66の撤去は、現状で行われている一般的な床版撤去工法で撤去すればよく、橋面上からの作業のみで撤去を行うことができる。
【0060】
図19は、本第4実施形態に係る橋梁上部工撤去工法の実施の際に必要となる補強部材30および移動式クレーン20の設置が完了した状態を模式的に示す正面図(橋軸方向から見た正面図)である。移動式クレーン20は、撤去対象上部工部位62Aの既設床版66の撤去を行った後に設置を行うので、
図19に示すように、本第4実施形態に係る橋梁上部工撤去工法においては、その実施をする前に、既設床版66はすでに撤去している。
【0061】
なお、本第4実施形態において、既設主桁64のウェブ64Cに補強部材30を取り付ける態様は、第3実施形態と同様である。
【符号の説明】
【0062】
10、30…補強部材
10A…端部部位
12…接合部材
14…軌条設備
20…移動式クレーン
22…台車
24…クレーン
26…トレーラー
30A…断面T形の鋼部材
30B…フラットバー
32…ボルト及びナット
50…カウンターウェイト
60…橋梁
62、84、86…上部工
62A…撤去対象上部工部位
62A1…所定撤去部位
62A2…次の撤去対象部位
62X…切断位置
64…既設主桁
64A…上フランジ
64B…下フランジ
64C…ウェブ
64D…補剛材
66…既設床版
66A…孔
68…撤去対象径間
70、72…隣接径間
74、76、78、80…下部工
82…道路
88、92…ブラケット
90…ジャッキ
94、96…センターホールジャッキ
94A…テンションロッド
94B…定着体