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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/16 20060101AFI20221109BHJP
   B60C 11/03 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
B60C11/16 Z
B60C11/03 300D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019199644
(22)【出願日】2019-11-01
(65)【公開番号】P2021070449
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-09-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】芝井 孝志
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】実開昭61-177903(JP,U)
【文献】韓国登録特許第10-0656790(KR,B1)
【文献】中国実用新案第206884611(CN,U)
【文献】特開昭55-22580(JP,A)
【文献】特開昭49-132706(JP,A)
【文献】国際公開第2019/138792(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/16
B60C 11/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記トレッド部の踏面にスタッドピンを植設した空気入りタイヤにおいて、
タイヤ赤道線上における間隔がタイヤ周長の0.8%となるように配置された一対のタイヤ子午線の間に区画される領域を帯状領域とし、複数の帯状領域をタイヤ周方向に沿って1度ずつずらしてタイヤ全周に亘って配列したとき、
前記複数の帯状領域は、当該帯状領域内に含まれるスタッドピンの本数が4本以上である集中領域と、当該帯状領域内に含まれるスタッドピンの本数が3本以下である点在領域とを含み、前記複数の帯状領域の中に複数の前記集中領域がタイヤ周方向に沿って間欠的に存在することを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記スタッドピンの総数が135本~250本であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
タイヤ周方向に隣り合う前記集中領域どうしの間隔がタイヤ周長の1.0%~30.0%であることを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
複数の前記集中領域の中に、スタッドピンの本数が5本以上である密集領域が3箇所~7箇所存在することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
タイヤ周方向に隣り合う前記密集領域どうしの間隔がタイヤ周長の5.0%~60.0%であることを特徴とする請求項4に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記集中領域に含まれる前記スタッドピンの平均突出量Px と、前記点在領域に含まれる前記スタッドピンの平均突出量Pavとが、Px ≦0.9×Pavの関係を満たすことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド部の踏面にスタッドピンが植設された空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
北欧やロシア等の厳冬地域では、冬季タイヤとしてスタッドタイヤが主に使用されている。スタッドタイヤでは、トレッド部にスタッドピンを植設するための複数の植え込み穴を設け、これら植え込み穴に対してスタッドピンを植設するようにしている(例えば、特許文献1を参照)。このようなスタッドピンは、氷雪路面における走行性能を向上する要因にはなるが、氷雪路面以外(一般的な舗装路面)を走行する場合には路面損傷の原因になる虞がある。そして、厳冬地域の冬季であっても、少なくない頻度で氷雪路面以外の舗装路面を走行する機会がある。そのため、スタッドタイヤにおいて、氷雪路面における走行性能(特に、氷上トラクション性能)を効果的に発揮しながら、路面損傷を抑制するための対策が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018‐187960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、トレッド部の踏面にスタッドピンが植設された空気入りタイヤにおいて、氷上性能を向上しながら、路面損傷を抑制することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成する本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記トレッド部の踏面にスタッドピンを植設した空気入りタイヤにおいて、タイヤ赤道線上における間隔がタイヤ周長の0.8%となるように配置された一対のタイヤ子午線の間に区画される領域を帯状領域とし、複数の帯状領域をタイヤ周方向に沿って1度ずつずらしてタイヤ全周に亘って配列したとき、前記複数の帯状領域は、当該帯状領域内に含まれるスタッドピンの本数が4本以上である集中領域と、当該帯状領域内に含まれるスタッドピンの本数が3本以下である点在領域とを含み、前記複数の帯状領域の中に複数の前記集中領域がタイヤ周方向に沿って間欠的に存在することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明では、上述のようにスタッドピンが設けられることで、氷上性能を効果的に高めながら、路面損傷を抑制することができる。具体的には、集中領域では、スタッドピン本数が多いため、氷上トラクション性能を向上することができ、点在領域では、スタッドピン本数が少ないことで、路面損傷を抑制できる。そして、これら集中領域と点在領域とがタイヤ周方向に混在し、集中領域が間欠的に存在するので、氷上トラクション性能を損なうことなく、路面損傷を効果的に抑制できる。
【0007】
本発明においては、スタッドピンの総数が135本~250本であることが好ましい。このように適度な本数のスタッドピンを設けることで、氷上トラクション性能を効果的に発揮しながら、路面損傷を抑制するには有利になる。
【0008】
本発明においては、タイヤ周方向に隣り合う集中領域どうしの間隔がタイヤ周長の1.0%~30.0%であることが好ましい。これにより、集中領域を間欠的に設けるにあたって、集中領域がタイヤ周上に適度な間隔で存在することになり、氷上トラクション性能を効果的に発揮しながら、路面損傷を抑制するには有利になる。
【0009】
本発明においては、複数の集中領域の中に、スタッドピンの本数が5本以上である密集領域が3箇所~7箇所存在することが好ましい。密集領域は、集中領域のなかでも特に氷上トラクション性能に優れるので、氷上トラクション性能の更なる向上を図ることができる。一方で、密集領域の数を3箇所~7箇所に抑えているので、密集領域を設けても路面損傷を十分に抑制することができる。
【0010】
このとき、タイヤ周方向に隣り合う密集領域どうしの間隔がタイヤ周長の5.0%~60.0%であることが好ましい。これにより、密集領域がタイヤ周上に適度な間隔で存在することになり、氷上トラクション性能を効果的に発揮しながら、路面損傷を抑制するには有利になる。
【0011】
本発明においては、集中領域に含まれるスタッドピンの平均突出量Px と、点在領域に含まれるスタッドピンの平均突出量Pavとが、Px ≦0.9×Pavの関係を満たすことが好ましい。このようにスタッドピンの突出量を設定することで、スタッドピンの本数が相対的に多い集中領域ではスタッドピンの突出量を低く抑えることができ、路面損傷を抑制するには有利になる。また、乗心地を向上することもできる。
【0012】
本発明において、「接地端」とは、タイヤを正規リムにリム組みして正規内圧を充填した状態で平面上に垂直に置いて正規荷重を加えたときに形成される接地領域のタイヤ軸方向の両端部である。「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRAであれば“Design Rim”、或いはETRTOであれば“Measuring Rim”とする。「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表“TIRE ROAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”であるが、タイヤが乗用車用である場合には250kPaとする。「正規荷重」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表“TIRE ROAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“LOAD CAPACITY”であるが、タイヤが乗用車用である場合には前記荷重の80%に相当する荷重とする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤの子午線断面図である。
図2】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤのトレッド面を示す正面図である。
図3】トレッド部に植設したスタッドピンの一例を模式的に示す断面図である。
図4】帯状領域ごとのスタッドピンの本数の変化を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
図1に示すように、本発明の空気入りタイヤは、トレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。図1において、符号CLはタイヤ赤道を示し、符号Eは接地端を示す。尚、図1は子午線断面図であるため描写されないが、トレッド部1、サイドウォール部2、ビード部3は、それぞれタイヤ周方向に延在して環状を成しており、これにより空気入りタイヤのトロイダル状の基本構造が構成される。以下、図1を用いた説明は基本的に図示の子午線断面形状に基づくが、各タイヤ構成部材はいずれもタイヤ周方向に延在して環状を成すものである。
【0016】
左右一対のビード部3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りに車両内側から外側に折り返されている。また、ビードコア5の外周上にはビードフィラー6が配置され、このビードフィラー6がカーカス層4の本体部と折り返し部とにより包み込まれている。一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層(図1では2層)のベルト層7が埋設されている。各ベルト層7は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。これらベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。更に、ベルト層7の外周側にはベルト補強層8が設けられている。ベルト補強層8は、タイヤ周方向に配向する有機繊維コードを含む。ベルト補強層8において、有機繊維コードはタイヤ周方向に対する角度が例えば0°~5°に設定されている。
【0017】
本発明は、このような一般的な断面構造の空気入りタイヤに適用されるが、その基本構造は上述のものに限定されない。また、本発明は、トレッド部1の踏面にスタッドピンPが植設された空気入りタイヤにおけるスタッドピンPの配置に関するものであるので、トレッド部1の表面に形成される溝や陸部の構造(トレッドパターン)は特に限定されない。
【0018】
尚、図2に示す空気入りタイヤは、タイヤ幅方向に沿って延在する複数本のラグ溝11と、タイヤ周方向に沿って延在する複数本の周方向溝12とによって、複数の陸部13が区画されたトレッドパターンを有する。図示の例において、ラグ溝11は、タイヤ幅方向に対して傾斜して延在し、一端がタイヤ赤道CL上に位置し、他端がタイヤ幅方向の一方側の接地端Eを超えて延在する第一ラグ溝11aと、タイヤ幅方向に対して傾斜して延在し、一端がタイヤ赤道CL上に位置し、他端がタイヤ幅方向の他方側の接地端Eを超えて延在する第二ラグ溝11bとを含む。第一ラグ溝11aおよび第二ラグ溝11bは、タイヤ赤道CL上において、第一ラグ溝11aの一端と第二ラグ溝11bの一端とがタイヤ周方向に交互に並び、且つ、第一ラグ溝11aと第二ラグ溝11bとが略V字状を成すように配置されている。周方向溝12は、各ラグ溝11の長さ方向の中途部において、タイヤ周方向に隣り合うラグ溝11どうしを連結するように、タイヤ周方向に対して傾斜して延在している。周方向溝12のタイヤ幅方向内側にはセンター陸部13aが区画され、周方向溝12のタイヤ幅方向外側にはショルダー陸部13b(ショルダーブロック)が区画される。更に、図示の例では、各周方向溝12の長さ方向の中途部に、一端が周方向溝12に連通し、周方向溝12からタイヤ赤道CL側に向かって延在し、他端がセンター陸部13a内で終端する補助溝14が設けられている。また、各陸部13には複数本のサイプ14が設けられている。スタッドピンPは、任意の陸部13に植設することができる。
【0019】
スタッドピンPは、トレッド部1の踏面に設けられたスタッドピン用の植え込み穴に植設される。スタッドピンPの植設は、植え込み穴を拡張した状態でその穴内にスタッドピンPを挿入した後、植え込み穴の拡張を解除することで行われる。図3は、スタッドピンPをトレッド部1の植え込み穴に植設した状態を模式的に示す断面図である。図示の例はスタッドピンPとして、ダブルフランジタイプのスタッドピンPを記載しているが、シングルフランジタイプ等の別の構造のスタッドピンPを使用することもできる。
【0020】
図3に例示するように、スタッドピンPは、円柱状の胴部P1、踏面側フランジ部P2、底側フランジ部P3、およびチップ部P4により構成されている。踏面側フランジ部P2と底側フランジ部P3は胴部P1よりも径が大きくなっており、踏面側フランジ部P2は胴部P1の踏面側(タイヤ径方向外側)に形成され、底側フランジ部P3は胴部P1の底側(タイヤ径方向内側)に形成されている。チップ部P4は、ピン軸(スタッドピンPの中心)において踏面側フランジ部P2からタイヤ径方向外側に突き出している。チップ部P4は、スタッドピンPがトレッド部1に植設された状態で踏面よりも突き出るため、氷雪路面に対して食い込むことができ、氷上トラクション性を発揮する。チップ部P4は、例えばアルミニウム等で構成される他の部分(胴部P1、踏面側フランジ部P2、底側フランジ部P3)よりも硬質な材料(例えばタングステン化合物)で構成されている。本発明では、後述の帯状領域に含まれるスタッドピンPの本数を規定するが、チップ部P4の少なくとも一部が後述の帯状領域内に存在すれば、当該帯状領域に含まれる本数として数えるものとする。
【0021】
本発明では、トレッド部1の表面に形成されるトレッドパターンに依らず、タイヤ赤道CL上における間隔がタイヤ周長の0.8%となるように配置された一対のタイヤ子午線の間に区画される領域を帯状領域Aと定義する(例えば、図2の斜線部を参照)。そして、図4に模式的に示すように、複数の帯状領域A(A1,A2,A3・・・)をタイヤ周方向に沿って1度ずつずらしてタイヤ全周に亘って配列し、各帯状領域A(A1,A2,A3・・・)の中に含まれるスタッドピンPの本数を測定する。尚、図4は、帯状領域Aの配列を模式的に示すものであり、トレッド部1に形成されるトレッドパターンの詳細やスタッドピンPの具体的な配置は省略している。また、符号A3以降の帯状領域Aは省略している。図中の符号Rはタイヤ周方向を表す。
【0022】
このように定義された複数の帯状領域Aのうち、当該帯状領域A内に含まれるスタッドピンの本数が4本以上である領域を集中領域A′、当該帯状領域A内に含まれるスタッドピンの本数が3本以下である領域を点在領域aとすると、本発明では、これら集中領域A′と点在領域aとがタイヤ周方向に混在して設けられている。言い換えると、複数の帯状領域Aの中に複数の集中領域A′が、タイヤ周方向に沿って間欠的に存在している。集中領域A′は、スタッドピンPの本数が多いため、氷上トラクション性能を向上することができる。点在領域aは、スタッドピンPの本数が少ないことで、路面損傷を抑制できる。従って、これら集中領域A′と点在領域aとがタイヤ周方向に混在し、集中領域A′が間欠的に存在することで、氷上トラクション性能を損なうことなく、路面損傷を効果的に抑制できる。
【0023】
更に、複数の集中領域A′の中でも、スタッドピンの本数が5本以上である領域を密集領域A″として区別すると、この密集領域A″が3箇所~7箇所存在することが好ましい。密集領域A″は、集中領域A′のなかでも特に氷上トラクション性能に優れるので、氷上トラクション性能の更なる向上を図ることができる。一方で、密集領域A″の数を3箇所~7箇所に抑えているので、密集領域A″を設けても路面損傷を十分に抑制することができる。密集領域A″の数が3箇所未満であると、氷上トラクション性能を向上する効果が不十分になる。密集領域A″の数が7箇所を超えると、路面損傷を十分に抑制することができない。
【0024】
図2の例のように、トレッド部1にセンター陸部13aと一対のショルダー陸部13bとからなる3列の陸部が設けられる場合は、4本以上のスタッドピンが設けられる集中領域A′や5本以上のスタッドピンが設けられる密集領域A″では、各陸部に少なくとも1本のスタッドピンを設けることが好ましい。同様に、トレッド部1に例えば5列の陸部(センター陸部と、一対のショルダー陸部と、センター陸部とショルダー陸部との間に区画されるミドル陸部)が設けられる場合は、5本以上のスタッドピンが設けられる密集領域A″では、各陸部に少なくとも1本のスタッドピンを設けることが好ましい。
【0025】
スタッドピンPは上述のように配列すればよいが、タイヤ全体におけるスタッドピンの総数が好ましくは135本~250本、より好ましくは135本~200本であるとよい。このようにタイヤ全体に適度な本数のスタッドピンPを設けることで、氷上トラクション性能を効果的に発揮しながら、路面損傷を抑制するには有利になる。スタッドピンの総数が135本未満であると、氷上トラクション性能を十分に向上することができない。スタッドピンの総数が250本を超えると、路面損傷を十分に抑制することができない。
【0026】
上述のように集中領域A′を間欠的に配列するにあたって、タイヤ周方向に隣り合う集中領域A′どうしの間隔L1がタイヤ周長の1.0%~30.0%であることが好ましい。このような配置にすることで、集中領域A′がタイヤ周上に適度な間隔で存在することになり、氷上トラクション性能を効果的に発揮しながら、路面損傷を抑制するには有利になる。タイヤ周方向に隣り合う集中領域A′どうしの間隔L1がタイヤ周長の1.0%未満であると、集中領域A′がタイヤ周方向に近接して配置されるため、路面損傷を十分に抑制することができない。タイヤ周方向に隣り合う集中領域A′どうしの間隔L1がタイヤ周長の30.0%を超えると、接地面内に集中領域A′が十分に存在しなくなる虞があり、氷上トラクション性能を十分に確保することが難しくなる。集中領域A′どうしの間隔L1とは、図2に例示するように、隣り合う集中領域A′の間で対向するタイヤ子午線間のタイヤ周方向に沿った長さである。尚、密集領域A″は集中領域A′にも該当するので、図2では、密集領域A″と集中領域A′との距離を集中領域A′どうしの間隔L1として示している。
【0027】
更に、タイヤ周方向に隣り合う密集領域A″どうしの間隔L2がタイヤ周長の5.0%~60.0%であることが好ましい。これにより、密集領域A″がタイヤ周上に適度な間隔で存在することになり、氷上トラクション性能を効果的に発揮しながら、路面損傷を抑制するには有利になる。タイヤ周方向に隣り合う密集領域A″どうしの間隔L2がタイヤ周長の5.0%未満であると、密集領域A″がタイヤ周方向に近接して配置されるため、路面損傷を十分に抑制することができない。タイヤ周方向に隣り合う密集領域A″どうしの間隔L2がタイヤ周長の60.0%を超えると、接地面内に密集領域A″が十分に存在しなくなる虞があり、氷上トラクション性能を十分に確保することが難しくなる。密集領域A″どうしの間隔L2(不図示)とは、前述の集中領域A′どうしの間隔L1と同様に、隣り合う密集領域A″の間で対向するタイヤ子午線間のタイヤ周方向に沿った長さである。
【0028】
スタッドピンの突出量hは均一であってもよいが、集中領域A′に含まれるスタッドピンの突出量hの平均値を平均突出量Px 、点在領域aに含まれるスタッドピンの突出量hの平均値を平均突出量Pavとしたとき、これらがPx ≦0.9×Pavの関係を満たすことが好ましい。このようにスタッドピンの突出量hを設定することで、スタッドピンの本数が相対的に多い集中領域A′ではスタッドピンの突出量を低く抑えることができ、路面損傷を抑制するには有利になる。また、乗心地を向上することもできる。更に、氷上トラクション性能を確保する観点からは、Px ≧0.7×Pavの関係を満たすことが好ましい。
【0029】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0030】
タイヤサイズが205/55R16 94Tであり、図1に例示する基本構造を有し、図2のトレッドパターンを基調とし、密集領域に含まれるスタッドピンの本数の最大値、集中領域の個数、密集領域の個数、スタッドピンの総数、タイヤ周方向に隣り合う集中領域どうしの間隔(最小値および最大値)、タイヤ周方向に隣り合う密集領域どうしの間隔(最小値および最大値)、点在領域に含まれるスタッドピンの平均突出量Pavに対する集中領域に含まれるスタッドピンの平均突出量Px の比Px /Pavをそれぞれ表1のように設定した従来例1、比較例1~2、実施例1~8の11種類の空気入りタイヤを作製した。
【0031】
尚、上述のサイズの空気入りタイヤのタイヤ周長は1980mmであるので、帯状領域のタイヤ周方向長さ(タイヤ周長の0.8%)は15.8mmである。
【0032】
これら空気入りタイヤについて、下記の評価方法により、氷上操縦安定性能、氷上制動性能、路面損傷抑制性能を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0033】
氷上操縦安定性能
各試験タイヤをリムサイズ16×6.5Jのホイールに組み付けて、車両指定空気圧を充填し、排気量1.4Lの前輪駆動車に装着し、氷雪路面からなるテストコース(旋回場)にて操縦安定性能についてテストドライバーによる官能評価を行った。評価結果は、従来例1の値を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど氷上操縦安定性能に優れることを意味する。
【0034】
氷上制動性能
各試験タイヤをリムサイズ16×6.5Jのホイールに組み付けて、車両指定空気圧を充填し、排気量1.4Lの前輪駆動車に装着し、氷雪路面からなるテストコース(直線路)にて、初速25km/hにおいてブレーキをかけて、速度が20km/hから5km/mになるまでの制動距離を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用い、従来例1の値を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど制動距離が短く、氷上制動性能に優れることを意味する。
【0035】
路面損傷抑制性能
各試験タイヤをリムサイズ16×6.5Jのホイールに組み付けて、空気圧を250kPaとし、排気量1.4Lの前輪駆動車に装着し、路面に設置した花崗岩の上を速度100km/hで200回走行させて、摩耗量を試験前後の花崗岩の重量差によって計測して、路面摩耗量を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用いて、従来例1の値を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど路面摩耗量が小さく、路面損傷抑制性能に優れることを意味する。尚、指数値が「85」以上であれば良好な路面損傷抑制性能が得られたことを意味する。
【0036】
【表1】
【0037】
表1から明らかなように、実施例1~8はいずれも、従来例1と比較して、氷上操縦安定性能および氷上制動性能を向上し、且つ、路面損傷抑制性能を良好に維持した。一方、比較例1,2は、集中領域が1箇所のみであるため、氷上性能の向上と路面損傷の抑制とを両立することができなかった。
【符号の説明】
【0038】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 ベルト補強層
11 ラグ溝
12 周方向溝
13 陸部
14 補助溝
15 サイプ
P スタッドピン
A 帯状領域
a 点在領域
A′ 集中領域
A″ 密集領域
CL タイヤ赤道
E 接地端
図1
図2
図3
図4