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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/16 20060101AFI20221109BHJP
   B60C 11/03 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
B60C11/16 Z
B60C11/03 300D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019199645
(22)【出願日】2019-11-01
(65)【公開番号】P2021070450
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-09-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】芝井 孝志
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開昭49-132706(JP,A)
【文献】国際公開第2019/138792(WO,A1)
【文献】特開昭59-45203(JP,A)
【文献】実開昭62-8105(JP,U)
【文献】特開2007-50718(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/16
B60C 11/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記トレッド部の踏面にスタッドピンを植設した空気入りタイヤにおいて、
タイヤ赤道線上における間隔がタイヤ接地長の1/4となるように配置された一対のタイヤ子午線の間に区画される領域を帯状領域とし、複数の帯状領域をタイヤ周方向に沿って1度ずつずらしてタイヤ全周に亘って配列したとき、
前記複数の帯状領域のすべてにおいて各帯状領域に含まれるスタッドピンの本数nはタイヤ全周におけるスタッドピンの総数Nの4.0%以下であり、且つ、前記複数の帯状領域の2/3以上において当該帯状領域に含まれるスタッドピンの本数nは前記総数Nの2.0%以上であることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記スタッドピンの総数が135本~250本であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記複数の帯状領域の中に、当該帯状領域に含まれるスタッドピンの本数nが前記総数Nの3.0%以上である集中領域が1箇所以上、且つ、前記複数の帯状領域のうちの1/3以下に存在することを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記集中領域の中に、当該帯状領域に含まれるスタッドピンの本数nが前記総数Nの3.5%以上である密集領域が2箇所以上存在し、タイヤ周方向に隣り合う前記密集領域どうしの間隔がタイヤ接地長の100%以上であることを特徴とする請求項3に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記集中領域に含まれる前記スタッドピンの平均突出量Px と、前記集中領域を除いた領域における前記スタッドピンの平均突出量Pavとが、Px ≦0.9×Pavの関係を満たすことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記トレッド部の踏面をタイヤ幅方向に3等分した領域のうち、タイヤ赤道上に位置する領域をセンター領域とし、前記センター領域のタイヤ幅方向両側に位置する一対の領域をそれぞれショルダー領域としたとき、前記スタッドピンの本数nが3本以上である帯状領域では前記センター領域および一対の前記ショルダー領域のそれぞれに少なくとも1本のスタッドピンが存在することを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド部の踏面にスタッドピンが植設された空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
北欧やロシア等の厳冬地域では、冬季タイヤとしてスタッドタイヤが主に使用されている。スタッドタイヤでは、トレッド部にスタッドピンを植設するための複数の植え込み穴を設け、これら植え込み穴に対してスタッドピンを植設するようにしている(例えば、特許文献1を参照)。このようなスタッドピンは、氷雪路面を走行する際は、氷雪路面を掻く効果を発揮するので、氷上性能を向上することができる。一方で、氷雪路面以外(特に乾燥した舗装路面)を走行する場合には、硬いスタッドピンが舗装路面に当たる衝撃がショック感として伝わるため、乗心地を悪化させる要因になる虞がある。そして、厳冬地域の冬季であっても、少なくない頻度で氷雪路面以外の舗装路面(乾燥路面)を走行する機会がある。そのため、スタッドタイヤにおいて、氷雪路面における走行性能(特に、氷上トラクション性能)を効果的に発揮しながら、乾燥路面における乗心地性能を向上するための対策が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018‐187960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、トレッド部の踏面にスタッドピンが植設された空気入りタイヤにおいて、氷上性能を向上しながら、乾燥路面における乗心地性能を向上することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成する本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記トレッド部の踏面にスタッドピンを植設した空気入りタイヤにおいて、タイヤ赤道線上における間隔がタイヤ接地長の1/4となるように配置された一対のタイヤ子午線の間に区画される領域を帯状領域とし、複数の帯状領域をタイヤ周方向に沿って1度ずつずらしてタイヤ全周に亘って配列したとき、前記複数の帯状領域のすべてにおいて各帯状領域に含まれるスタッドピンの本数nはタイヤ全周におけるスタッドピンの総数Nの4.0%以下であり、且つ、前記複数の帯状領域の2/3以上において当該帯状領域に含まれるスタッドピンの本数nは前記総数Nの2.0%以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明では、上述のようにスタッドピンが設けられることで、氷上性能を効果的に高めながら、乾燥路面における乗心地性能を良好に発揮することができる。具体的には、すべての帯状領域において、スタッドピンの総数Nに対するスタッドピンの本数nの割合が4.0%以下に抑えられているので、乾燥路面を走行する際にスタッドピンが路面と接触するときのショック感を抑えることができ、乗心地性能を向上することができる。その一方で、スタッドピンの総数Nに対するスタッドピンの本数nの割合が2.0%以上という適度な範囲に設定された帯状領域がタイヤ全周に十分に設けられているので、氷上性能を良好に発揮することができる。
【0007】
本発明においては、スタッドピンの総数が135本~250本であることが好ましい。このように適度な本数のスタッドピンを設けることで、氷上性能を効果的に発揮しながら、乾燥路面における乗心地性能を向上するには有利になる。
【0008】
本発明においては、複数の帯状領域の中に、当該帯状領域に含まれるスタッドピンの本数nが総数Nの3.0%以上である集中領域が1箇所以上、且つ、複数の帯状領域のうちの1/3以下に存在することが好ましい。このように、スタッドピンの本数が多く氷上性能に優れる集中領域を設けることで、氷上性能の更なる向上を図ることができる。一方で、集中領域の数を複数の帯状領域のうちの1/3以下に抑えているので、集中領域を設けても乾燥路面における乗心地性能を良好に発揮することができる。
【0009】
このとき、集中領域の中に、当該帯状領域に含まれるスタッドピンの本数nが総数Nの3.5%以上である密集領域が2箇所以上存在し、タイヤ周方向に隣り合う前記密集領域どうしの間隔がタイヤ接地長の100%以上であることが好ましい。密集領域は、集中領域のなかでも特に氷上性能に優れるので、氷上性能の更なる向上を図ることができる。一方で、密集領域どうしの間隔をタイヤ接地長よりも大きくしているので、タイヤ転動時に接地面内に存在する密集領域は常に1箇所以下になり、密集領域を設けても乾燥路面における乗心地性能を良好に発揮することができる。
【0010】
更に、集中領域に含まれるスタッドピンの平均突出量Px と、集中領域を除いた領域におけるスタッドピンの平均突出量Pavとが、Px ≦0.9×Pavの関係を満たすことが好ましい。このようにスタッドピンの突出量を設定することで、スタッドピンの本数が相対的に多い集中領域ではスタッドピンの突出量を低く抑えることができ、乾燥路面における乗心地性能を良好に発揮するには有利になる。
【0011】
本発明においては、トレッド部の踏面をタイヤ幅方向に3等分した領域のうち、タイヤ赤道上に位置する領域をセンター領域とし、センター領域のタイヤ幅方向両側に位置する一対の領域をそれぞれショルダー領域としたとき、スタッドピンの本数nが3本以上である帯状領域ではセンター領域および一対のショルダー領域のそれぞれに少なくとも1本のスタッドピンが存在することが好ましい。このようにタイヤ幅方向にスタッドピンを分散して配置することで、タイヤ幅方向の全域で効率的に氷雪路面を掻く力を得ることができ、氷上性能を向上するには有利になる。また、タイヤ幅方向のユニフォミティを良好にすることもできる。
【0012】
本発明において、「接地長」とは、タイヤを正規リムにリム組みして正規内圧を充填した状態で平面上に垂直に置いて正規荷重を加えたときに形成される接地領域のタイヤ赤道上におけるタイヤ周方向の長さである。また、「接地端」とは、前述の接地領域のタイヤ軸方向の両端部である。「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRAであれば“Design Rim”、或いはETRTOであれば“Measuring Rim”とする。「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表“TIRE ROAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”であるが、タイヤが乗用車用である場合には250kPaとする。「正規荷重」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表“TIRE ROAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“LOAD CAPACITY”であるが、タイヤが乗用車用である場合には前記荷重の80%に相当する荷重とする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤの子午線断面図である。
図2】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤのトレッド面を示す正面図である。
図3】トレッド部に植設したスタッドピンの一例を模式的に示す断面図である。
図4】帯状領域ごとのスタッドピンの本数の変化を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
図1に示すように、本発明の空気入りタイヤは、トレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。図1において、符号CLはタイヤ赤道を示し、符号Eは接地端を示す。尚、図1は子午線断面図であるため描写されないが、トレッド部1、サイドウォール部2、ビード部3は、それぞれタイヤ周方向に延在して環状を成しており、これにより空気入りタイヤのトロイダル状の基本構造が構成される。以下、図1を用いた説明は基本的に図示の子午線断面形状に基づくが、各タイヤ構成部材はいずれもタイヤ周方向に延在して環状を成すものである。
【0016】
左右一対のビード部3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りに車両内側から外側に折り返されている。また、ビードコア5の外周上にはビードフィラー6が配置され、このビードフィラー6がカーカス層4の本体部と折り返し部とにより包み込まれている。一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層(図1では2層)のベルト層7が埋設されている。各ベルト層7は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。これらベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。更に、ベルト層7の外周側にはベルト補強層8が設けられている。ベルト補強層8は、タイヤ周方向に配向する有機繊維コードを含む。ベルト補強層8において、有機繊維コードはタイヤ周方向に対する角度が例えば0°~5°に設定されている。
【0017】
本発明は、このような一般的な断面構造の空気入りタイヤに適用されるが、その基本構造は上述のものに限定されない。また、本発明は、トレッド部1の踏面にスタッドピンPが植設された空気入りタイヤにおけるスタッドピンPの配置に関するものであるので、トレッド部1の表面に形成される溝や陸部の構造(トレッドパターン)は特に限定されない。
【0018】
尚、図2に示す空気入りタイヤは、タイヤ幅方向に沿って延在する複数本のラグ溝11と、タイヤ周方向に沿って延在する複数本の周方向溝12とによって、複数の陸部13が区画されたトレッドパターンを有する。図示の例において、ラグ溝11は、タイヤ幅方向に対して傾斜して延在し、一端がタイヤ赤道CL上に位置し、他端がタイヤ幅方向の一方側の接地端Eを超えて延在する第一ラグ溝11aと、タイヤ幅方向に対して傾斜して延在し、一端がタイヤ赤道CL上に位置し、他端がタイヤ幅方向の他方側の接地端Eを超えて延在する第二ラグ溝11bとを含む。第一ラグ溝11aおよび第二ラグ溝11bは、タイヤ赤道CL上において、第一ラグ溝11aの一端と第二ラグ溝11bの一端とがタイヤ周方向に交互に並び、且つ、第一ラグ溝11aと第二ラグ溝11bとが略V字状を成すように配置されている。周方向溝12は、各ラグ溝11の長さ方向の中途部において、タイヤ周方向に隣り合うラグ溝11どうしを連結するように、タイヤ周方向に対して傾斜して延在している。周方向溝12のタイヤ幅方向内側にはセンター陸部13aが区画され、周方向溝12のタイヤ幅方向外側にはショルダー陸部13b(ショルダーブロック)が区画される。更に、図示の例では、各周方向溝12の長さ方向の中途部に、一端が周方向溝12に連通し、周方向溝12からタイヤ赤道CL側に向かって延在し、他端がセンター陸部13a内で終端する補助溝14が設けられている。また、各陸部13には複数本のサイプ14が設けられている。スタッドピンPは、任意の陸部13に植設することができる。
【0019】
スタッドピンPは、トレッド部1の踏面に設けられたスタッドピン用の植え込み穴に植設される。スタッドピンPの植設は、植え込み穴を拡張した状態でその穴内にスタッドピンPを挿入した後、植え込み穴の拡張を解除することで行われる。図3は、スタッドピンPをトレッド部1の植え込み穴に植設した状態を模式的に示す断面図である。図示の例はスタッドピンPとして、ダブルフランジタイプのスタッドピンPを記載しているが、シングルフランジタイプ等の別の構造のスタッドピンPを使用することもできる。
【0020】
図3に例示するように、スタッドピンPは、円柱状の胴部P1、踏面側フランジ部P2、底側フランジ部P3、およびチップ部P4により構成されている。踏面側フランジ部P2と底側フランジ部P3は胴部P1よりも径が大きくなっており、踏面側フランジ部P2は胴部P1の踏面側(タイヤ径方向外側)に形成され、底側フランジ部P3は胴部P1の底側(タイヤ径方向内側)に形成されている。チップ部P4は、ピン軸(スタッドピンPの中心)において踏面側フランジ部P2からタイヤ径方向外側に突き出している。チップ部P4は、スタッドピンPがトレッド部1に植設された状態で踏面よりも突き出るため、氷雪路面に対して食い込むことができ、氷上トラクション性を発揮する。チップ部P4は、例えばアルミニウム等で構成される他の部分(胴部P1、踏面側フランジ部P2、底側フランジ部P3)よりも硬質な材料(例えばタングステン化合物)で構成されている。本発明では、後述の帯状領域に含まれるスタッドピンPの本数を規定するが、チップ部P4の少なくとも一部が後述の帯状領域内に存在すれば、当該帯状領域に含まれる本数として数えるものとする。
【0021】
本発明では、トレッド部1の表面に形成されるトレッドパターンに依らず、タイヤ赤道CL上における間隔がタイヤ接地長の1/4となるように配置された一対のタイヤ子午線の間に区画される領域を帯状領域Aと定義する(例えば、図2の斜線部を参照)。そして、図4に模式的に示すように、複数の帯状領域A(A1,A2,A3・・・)をタイヤ周方向に沿って1度ずつずらしてタイヤ全周に亘って配列し、各帯状領域A(A1,A2,A3・・・)の中に含まれるスタッドピンPの本数nを測定する。尚、図4は、帯状領域Aの配列を模式的に示すものであり、トレッド部1に形成されるトレッドパターンの詳細やスタッドピンPの具体的な配置は省略している。また、符号A3以降の帯状領域Aは省略している。図中の符号Rはタイヤ周方向を表す。
【0022】
このように定義された複数の帯状領域Aのすべてにおいて、各帯状領域Aに含まれるスタッドピンPの本数nはタイヤ全周におけるスタッドピンPの総数Nの4.0%以下に設定されている。例えば、図4に示す例では、スタッドピンPの本数nは7本以下となっている。図4の例では、総数N=190本を想定しており、総数Nの4.0%は7.6本であるので、図4の例は、上述の条件を満たしている。また、図2の例についても、総数N=190本とすると、一点鎖線で囲んだ3箇所の帯状領域A(斜線部)は、いずれもスタッドピンPの本数nは7本以下であり、上述の条件を満たしている。一方で、複数の帯状領域Aのうちの2/3以上において、当該帯状領域Aに含まれるスタッドピンPの本数nはスタッドピンPの総数Nの2.0%以上に設定されている。例えば、総数N=190本の場合、総数Nの2.0%は3.8本であるので、図4の例では、4本以上のスタッドピンPが設けられた帯状領域Aが複数の帯状領域Aのうちの2/3以上であれば上述の条件を満たしていることになる。このように、すべての帯状領域Aにおいて、スタッドピンPの総数Nに対するスタッドピンPの本数nの割合が4.0%以下に低く抑えられているので、乾燥路面を走行する際にスタッドピンPが路面と接触するときのショック感を抑えることができ、乗心地性能を向上することができる。その一方で、スタッドピンPの総数Nに対するスタッドピンPの本数nの割合が2.0%以上という適度な範囲に設定された帯状領域Aがタイヤ全周に十分に設けられているので、氷上性能を良好に発揮することができる。
【0023】
更に、複数の帯状領域Aの中でも、当該帯状領域Aに含まれるスタッドピンPの本数nがスタッドピンPの総数Nの3.0%以上である領域を集中領域A′として区別すると、この集中領域A′はタイヤ周上に1箇所以上存在することが好ましい。尚、図4に示す例では、上述のように総数N=190本を想定しており、総数Nの3.0%は5.7本であるので、図4の例では、6本以上のスタッドピンPが設けられた帯状領域Aが集中領域A′に該当することになる。また、図2に示す3箇所の帯状領域A(斜線部)では、スタッドピンPの本数nが6本または7本の箇所が集中領域A′に該当する。尚、図2においてスタッドピンPの本数nが7本の箇所は後述の密集領域A″にも該当するため、図中の符号はA(A″)と表示しているが、この箇所も集中領域A′に該当する。複数の集中領域A′を設ける場合は、集中領域A′を複数の帯状領域Aのうちの1/3以下に抑えることが好ましい。集中領域A′は、スタッドピンPの本数nが他の帯状領域Aよりも多く氷上性能に優れるので、このような集中領域A′を設けることで氷上性能の更なる向上を図ることができる。一方で、集中領域A′の数を複数の帯状領域Aのうちの1/3以下に抑えているので、集中領域A′を設けても乾燥路面における乗心地性能を良好に発揮することができる。集中領域A′の数が複数の帯状領域Aのうちの1/3を超えると、走行時のショック感の原因となり得るスタッドピンPが多く存在する集中領域A′が増加するため、乗心地性能を良好に発揮することが難しくなる。
【0024】
更に、集中領域A′の中でも、当該帯状領域に含まれるスタッドピンPの本数nがスタッドピンPの総数Nの3.5%以上である領域を密集領域A″として区別すると、この密集領域A″がタイヤ周上に1箇所以上存在していることが好ましい。尚、図4に示す例では、上述のように総数N=190本を想定しており、総数Nの3.5%は6.7本であるので、図4の例では、7本以上のスタッドピンPが設けられた帯状領域Aが集中領域A′に該当することになる。また、図2に示す3箇所の帯状領域A(斜線部)では、スタッドピンPの本数nが7本の箇所が集中領域A″に該当する。複数の密集領域A″を設ける場合は、タイヤ周方向に隣り合う密集領域A″どうしの間隔がタイヤ接地長の100%以上であることが好ましい。密集領域A″は、集中領域A′のなかでも特に氷上性能に優れるので、氷上性能の更なる向上を図ることができる。一方で、密集領域A″どうしの間隔をタイヤ接地長よりも大きくしているので、タイヤ転動時に接地面内に存在する密集領域A″は1箇所以下になり、密集領域A″を設けても乾燥路面における乗心地性能を良好に発揮することができる。密集領域A″どうしの間隔が接地長の100%未満であると、走行時のショック感の原因となり得るスタッドピンPが多く存在する密集領域A″が接地面内に複数存在する場合が発生するため、乗心地性能を良好に発揮することが難しくなる。尚、密集領域A″どうしの間隔とは、隣り合う密集領域A″の間で対向するタイヤ子午線間のタイヤ周方向に沿った長さである。
【0025】
スタッドピンPは上述のように配列すればよいが、タイヤ全体におけるスタッドピンの総数が好ましくは135本~250本、より好ましくは135本~200本であるとよい。このようにタイヤ全体に適度な本数のスタッドピンPを設けることで、氷上性能を効果的に発揮しながら、乗心地性能を良好に発揮するには有利になる。スタッドピンの総数が135本未満であると、氷上トラクション性能を十分に向上することができない。スタッドピンの総数が250本を超えるとであると、乗心地性能を十分に発揮することができない。
【0026】
図2に示すように、トレッド部1の踏面(タイヤ幅方向両側の接地端Eの間の範囲)をタイヤ幅方向に3等分した領域のうち、タイヤ赤道CL上に位置する領域をセンター領域Ceとし、センター領域Ceのタイヤ幅方向両側に位置する一対の領域をそれぞれショルダー領域Shとしたとき、スタッドピンPの本数nが3本以上である帯状領域Aでは、センター領域Ceおよび一対のショルダー領域Shのそれぞれに少なくとも1本のスタッドピンPが存在することが好ましい。このようにタイヤ幅方向にスタッドピンを分散して配置することで、タイヤ幅方向の全域で効率的に氷雪路面を掻く力を得ることができ、氷上性能を向上するには有利になる。また、タイヤ幅方向のユニフォミティを良好にすることもできる。例えば、スタッドピンPの総数Nが135本である場合、スタッドピンPの本数nが総数Nの2.0%以上である帯状領域Aでは、スタッドピンPの本数nは3本以上である(135本×0.020=2.7本)。この場合に、上述のスタッドピンPの分散配置を採用すると、複数の帯状領域Aのうちの2/3以上において、スタッドピンPがセンター領域Ceおよび一対のショルダー領域Shのそれぞれに少なくとも1本ずつ分散して配置されることになる。従って、氷上性能を向上するには非常に有効である。
【0027】
スタッドピンPの突出量hは均一であってもよいが、集中領域A′に含まれるスタッドピンPの突出量hの平均値を平均突出量Px 、集中領域A′を除く領域に設けられたスタッドピンPの突出量hの平均値を平均突出量Pavとしたとき、これらがPx ≦0.9×Pavの関係を満たすことが好ましい。このようにスタッドピンPの突出量hを設定することで、スタッドピンの本数が相対的に多い集中領域A′ではスタッドピンの突出量を低く抑えることができ、乗心地性能を向上するには有利になる。更に、氷上性能を十分に確保する観点からは、Px ≧0.7×Pavの関係を満たすことが好ましい。
【0028】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0029】
タイヤサイズが205/55R16 94Tであり、図1に例示する基本構造を有し、図2のトレッドパターンを基調とし、表1に示すように構造を設定した従来例1、比較例1~2、実施例1~8の11種類の空気入りタイヤを作製した。
【0030】
表1において、「総数N」は、タイヤ全体に設けられたスタッドピンの総数であり、「n」は各密集領域に含まれるスタッドピンの本数である。「帯状領域におけるnの最大値」については、本発明で定義される上限値の条件(総数Nの4.0%=0.04N)と、各タイヤにおける測定値と、これらの大小関係を表示した。特に、大小関係については、測定値が上限条件(0.04N)以下である場合を「〇」、測定値が上限条件(0.04N)を超える場合を「×」で示した。「標準配置領域」とは、スタッドピンの本数nがスタッドピンの総数Nの2.0%以上の条件を満たす帯状領域を意味する。この「標準配置領域」については、本発明で定義される下限値の条件(総数Nの2.0%=0.02N)と、標準配置領域の有無と、全帯状領域に対する標準配置領域の割合を表示した。「集中領域」については、本発明で定義される下限値の条件(総数Nの3.0%=0.03N)と、集中領域の有無と、全帯状領域に対する集中領域の割合を表示した。「密集領域」については、本発明で定義される下限値の条件(総数Nの3.5%=0.035N)と、密集領域の有無と、タイヤ周方向に隣り合う密集領域どうしの最小間隔(接地長に対する割合)を表示した。「スタッドピンの幅方向の配置」とは、スタッド本数nが3本以上の帯状領域におけるスタッドピンのタイヤ幅方向の配置を意味し、センター領域および一対のショルダー領域のそれぞれに少なくとも1本のスタッドピンが存在する場合を「分散」、センター領域および一対のショルダー領域のいずれかにスタッドピンが存在しない場合を「偏在」と表示した。「Px /Pav」とは、集中領域を除く領域に設けられたスタッドピンの平均突出量Pavに対する集中領域に含まれるスタッドピンの平均突出量Px の比である。
【0031】
尚、上述の11種類の空気入りタイヤ(従来例1、比較例1~2、実施例1~8)については、接地長は120mmで共通であった。即ち、各例において、帯状領域のタイヤ周方向長さ(タイヤ接地長の1/4)は30mmである。
【0032】
これら空気入りタイヤについて、下記の評価方法により、氷上操縦安定性能、乾燥路面における乗心地性能、乾燥路面における低振動性能を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0033】
氷上操縦安定性能
各試験タイヤをリムサイズ16×6.5Jのホイールに組み付けて、車両指定空気圧を充填し、排気量1.4Lの前輪駆動車に装着し、氷雪路面からなるテストコース(旋回場)にて、操縦安定性能についてテストドライバーによる官能評価を行った。評価結果は、従来例1の値を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど氷上操縦安定性能に優れることを意味する。
【0034】
乾燥路面における乗心地性能
各試験タイヤをリムサイズ16×6.5Jのホイールに組み付けて、車両指定空気圧を充填し、排気量1.4Lの前輪駆動車に装着し、乾燥路面からなるテストコースにて、乗心地性能(ショック感)についてテストドライバーによる官能評価を行った。評価結果は、従来例1の値を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどショック感が小さく、乾燥路面における乗心地性能に優れることを意味する。
【0035】
乾燥路面における低振動性能
各試験タイヤをリムサイズ16×6.5Jのホイールに組み付けて、車両指定空気圧を充填し、排気量1.4Lの前輪駆動車に装着し、乾燥路面からなるテストコースにて、振動についての官能評価を行った。評価結果は、従来例1の値を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど振動が小さく、乾燥路面における低振動性能に優れることを意味する。尚、この低振動性能に優れるほど、タイヤの重量バランスが良好で、ユニフォミティに優れることを意味する。
【0036】
【表1】
【0037】
表1から明らかなように、実施例1~8はいずれも、従来例1と比較して、氷上操縦安定性能を良好に発揮しながら、乾燥路面における乗心地性能および低振動性能も良好に発揮し、これら性能を高度に両立した。一方、比較例1は、スタッドピンの本数nがスタッドピンの総数Nの2.0%以上の条件を満たす帯状領域が少ないため、氷上操縦安定性能が悪化した。比較例2は、総数Nの4.0%よりも多い本数のスタッドピンが存在する帯状領域を有するため、乾燥路面における乗心地性能および低振動性能が悪化した。
【符号の説明】
【0038】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 ベルト補強層
11 ラグ溝
12 周方向溝
13 陸部
14 補助溝
15 サイプ
P スタッドピン
A 帯状領域
A′ 集中領域
A″ 密集領域
Ce センター領域
Sh ショルダー領域
CL タイヤ赤道
E 接地端
図1
図2
図3
図4