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  • 特許-導電性炭素膜の成膜方法 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】導電性炭素膜の成膜方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/00 20170101AFI20221109BHJP
   C23C 16/26 20060101ALI20221109BHJP
   C23C 16/503 20060101ALI20221109BHJP
   C01B 32/05 20170101ALI20221109BHJP
   H05H 1/24 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
C01B32/00
C23C16/26
C23C16/503
C01B32/05
H05H1/24
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019204346
(22)【出願日】2019-11-12
(65)【公開番号】P2021075432
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2021-04-09
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中西 和之
(72)【発明者】
【氏名】小澤 康弘
(72)【発明者】
【氏名】太田 理一郎
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-066506(JP,A)
【文献】特開2008-144245(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0130011(US,A1)
【文献】特開2007-207718(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00
C23C 16/26
C23C 16/50
H05H 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圧付近の環境下にある被処理面へ、炭化水素ガスを含む原料ガスのプラズマを噴出させて、該被処理面導電性炭素膜を成膜する方法であって、
原料ガスが供給される導入部と、
該導入部の下流側に配設され、上流側から順に積層された第1絶縁体、第1電極、第2絶縁体および第2電極を有する生成部と、
該第1絶縁体、該第1電極、該第2絶縁体および該第2電極を上流側から下流側に貫通する連通孔とを備え、
該第1電極と該第2電極へ電圧を印加して、該連通孔から該原料ガスのプラズマを噴出させるプラズマ装置を用いてなされ
該導電性炭素膜は、
ラマンスペクトルで、GバンドとDバンドを有し、
該Gバンドのピーク強度(I)に対する該Dバンドのピーク強度(I)の比率である強度比(I/I)が1.1以上であり、
該Gバンドの半値幅が、40cm-1以上で130cm-1以下である導電性炭素膜の成膜方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性炭素膜等に関する。
【背景技術】
【0002】
特性向上や機能付与等を目的として、部材表面に被膜が設けられる。例えば、摺動特性(耐摩耗性、低摩擦化等)や耐食性等の向上を目的として、金属部材等の表面に非晶質炭素膜(いわゆる「DLC(Diamond-like Carbon)膜」)が形成される。また、所望の電気抵抗率を有するDLC膜も提案されており、例えば、下記の特許文献に関連する記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-246454号公報
【文献】特許第5217243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、静電チャックの被覆層として、電気抵抗率が比較的大きいDLC膜(10~1013Ω・cm)を提案している。また特許文献2は、燃料電池用セパレータ等の導電性膜として、電気抵抗率が小さいDLC膜(10Ω・cm以下)を提案している。これらDLC膜のラマンスペクトルを観ると、そのGバンド(1580~1610cm-1)は半値幅が比較的大きくブロードであった。なお、それら従来のDLC膜はいずれも、高真空下におけるプラズマCVD法により成膜されていた。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、従来と構造の異なる導電性炭素膜等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、大気圧付近の雰囲気下で、原料ガスのプラズマを被処理面に噴出させて、新たな導電性炭素膜を得ることに成功した。これらの成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0007】
《導電性炭素膜》
本発明は、ラマンスペクトルで、GバンドとDバンドを有し、該Gバンドのピーク強度(I)に対する該Dバンドのピーク強度(I)の比率である強度比(I/I)が1.1以上であり、該Gバンドの半値幅が130cm-1以下である導電性炭素膜である。
【0008】
本発明の導電性炭素膜(単に「炭素膜」ともいう。)は、導電性を有する従来のDLC膜と比較して、強度比(I/I)が大きく、sp混成軌道を有する炭素(Csp)に起因するGバンドに現れるスペクトルの形態がシャープである。従って本発明の導電性炭素膜は、従来の導電性DLC膜等とは膜構造が異なっている。
【0009】
《導電性炭素膜の成膜方法》
(1)上述した導電性炭素膜は、その成膜方法を問わないが、例えば、大気圧付近の環境下にある被処理面へ、炭化水素ガスを含む原料ガスのプラズマを噴出させて、該被処理面に上述した導電性炭素膜を成膜する方法によっても得られる。本発明は、このような導電性炭素膜の成膜方法としても把握される。
【0010】
この場合、高真空な雰囲気等を用意するまでもなく成膜が可能となり、被処理面に導電性炭素膜を成膜した被覆部材等を低コストで効率的に生産できる。また、その成膜方法によれば、電気伝導性(導電性)でない基材(樹脂、セラミックス等の非金属材)にも、導電性炭素膜を付与できる。
【0011】
(2)上述した成膜方法は、例えば、次のようなプラズマ装置を用いてなされてもよい。すなわち、前記原料ガスが供給される導入部と、該導入部の下流側に配設され、上流側から順に積層された第1絶縁体、第1電極、第2絶縁体および第2電極を有する生成部と、該第1絶縁体、該第1電極、該第2絶縁体および該第2電極を上流側から下流側に貫通する連通孔とを備え、該第1電極と該第2電極へ電圧を印加して、該連通孔から該原料ガスのプラズマを噴出させるプラズマ装置である。
【0012】
《被覆部材》
本発明は、基材と基材の少なくとも一部の表面を被覆する導電性炭素膜とを有する被覆部材(導電性部材)、または上述した方法により基材の被処理面に導電性炭素膜を成膜した被覆部材としても把握される。このような被覆部材は、基材自体が高抵抗でも、導電性炭素膜により優れた導電性が付与され得る。また被覆部材は、適宜、炭素膜に特有な特性(例えば、耐食性、摺動性等)も、導電性に加えて付与され得る。
【0013】
被覆部材の一例として、燃料電池用セパレータがある。その基材は、例えば、チタン(合金)、ステンレス鋼等の金属基材である。その基材上に形成される炭素膜は、例えば、膜厚が10~1000nm、20~300nmさらには30~100nmである。
【0014】
《その他》
(1)本明細書でいうラマンスペクトル(Raman spectrum)は、ラマン分光法により得られ、入射光(励起光、レイリー散乱光)とラマン散乱光の波数差であるラマンシフト(Raman shift)を横軸(cm-1)、散乱強度(Raman intensity)を縦軸とした線図である。炭素材料のラマンスペクトルには、グラファイト(Graphite)構造に由来するGバンド(G-band)と、欠陥(Defect)に由来するDバンド(D-band)との少なくとも一方が現れる。散乱強度の強いストークス線側を観ると、Gバンドは1590cm-1付近(例えば1580~1610cm-1)に現れるピークであり、Dバンドは1360cm-1付近(例えば1350~1370cm-1)に現れるピークである。
【0015】
一般的には、Gバンドはsp結合をしたC(Csp)量を指標し、Dバンドはsp結合をしたC(Csp)量を指標するといわれる。本発明では、必ずしも炭素膜中におけるCspとCsp の割合(またはσ結合とπ結合の割合)を問わない。
【0016】
(2)本明細書でいう「半値幅」は、ラマンスペクトルに基づいて定まる半値全幅である。本発明の炭素膜は、半値幅が比較的小さく、従来の導電性DLC膜よりも結晶性が高いと考えられる。但し、本発明の炭素膜は、結晶質に限らず、非晶質でもよい。
【0017】
(3)本明細書でいう「炭素膜」は、主成分がCであればよい。敢えていうと、例えば、炭素膜全体に対してCが70原子%(at%)以上、80at%以上さらには90at%以上含まれるとよい。なお、原料ガスにも依るが、炭素膜はC以外に、例えば、H等を含む。
【0018】
(4)本明細書でいう「導電性」は、少なくとも部材表面近傍の電気抵抗率(単に「抵抗率」という。)が、炭素膜の成膜後に小さくなることを意味する。導電性は、例えば、接触抵抗率により指標される。接触抵抗率は、敢えていうと、500mΩ・cm以下、100mΩ・cm以下さらには50mΩ・cm以下であるとよい。
【0019】
(5)本明細書でいう「大気圧付近」は、敢えていうと、大気圧(P)に対して、0.01P≦P≦1.1Pを満たす気圧(P)の範囲である。通常、大気圧(P)または準大気圧(0.1P≦P<P)であればよい。標準気圧(P=1.01325×10Pa≒1×10Pa)に基づいて、例えば、1×10Pa≦P≦1×10Paを大気圧付近としてもよい。
【0020】
(6)本明細書でいう「x~y」は、特に断らない限り、下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。本明細書でいう「x~ykHz」は、特に断らない限り、xkHz~ykHzを意味する。他の単位系(nm、mΩ・cm、sccm、mm等)についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1A】一例であるプラズマ装置の概要を要部断面で示す斜視図である。
図1B】そのプラズマ装置により実際に発生させたプラズマを示す写真である。
図2】試料6に係る膜断面を観察したSEM像である。
図3A】試料6に係る膜のラマンスペクトルである。
図3B】試料C1に係る膜のラマンスペクトルである。
図4】接触抵抗の測定方法を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、炭素膜やその成膜方法のみならず、被覆部材またはその製造方法等にも適宜該当する。方法的な構成要素であっても物に関する構成要素となり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0023】
《炭素膜》
炭素膜は、ラマン分光法で分析して得られるラマンスペクトルにおいて、少なくとも二つのピーク(GバンドとDバンド)を示す。炭素膜は、Gバンドのピーク値(I)に対するDバンドのピーク値(I)の比率である強度比(I/I)が、1.1以上、1.2以上さらには1.3以上となる。
【0024】
Gバンドの半値幅は、130cm-1以下、125cm-1以下さらには122cm-1以下となる。また、その半値幅は、例えば、40cm-1以上、50cm-1以上、90cm-1以上さらには100cm-1以上である。
【0025】
《成膜方法》
プラズマ装置を用いて炭素膜を成膜する場合を例にとり、以下説明する。
【0026】
(1)プラズマ装置は、例えば、上流側から順に積層された第1絶縁体、第1電極、第2絶縁体および第2電極を、貫通する連通孔からプラズマを噴出する。プラズマは、連通孔内に露出した第1電極の内周面と第2電極の内周面の間の放電で生じる。連通孔内に生じたプラズマ(気体分子が電離してできた電子、ラジカル、イオン等)は、連通孔の上流端口から導入された原料ガスの流れ(気流)に押し出されて、連通孔の下流端口から導出(噴出)される。このようなプラズマ装置によれば、誘電体バリア放電装置等と異なり、放電電流の大きい高電流密度なプラズマの生成も可能となる。このため、大気圧近傍の雰囲気下にあるワーク(基材)の被処理面に対しても、効率的なプラズマ処理が可能となる。なお、本明細書でいう上流と下流は、原料ガスまたはプラズマの流れる方向に沿う。
【0027】
各電極は、例えば、ステンレス鋼、鉄、銅、チタン、タングステン、アルミニウム等の金属材からなる。絶縁体は、例えば、セラミックス、石英、ガラス、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド(例えばカプトン)等からなる。セラミックスには、例えば、耐熱性にも優れたアルミナ(Al)窒化アルミニウム(AlN)、窒化ボロン(BN)等を用いることができる。
【0028】
各電極の厚さは、例えば、1~30mmさらには5~15mmである。各絶縁体の厚さは、例えば、0.1~20mmさらには1~10mmである。特に、第1絶縁体の厚さ(第1電極と第2電極の間隔)は0.1~5mmさらには0.5~3mmとするとよい。この厚さが過小では絶縁体が部分的に絶縁破壊して放電が不安定となる。その厚さは大きくてもよいが、過大になると放電電圧が大きくなり電源の装置コストが増加する。
【0029】
第2電極は、ワーク(またはそれを載置するステージ)と同電位でもよいし、それらに対してバイアス電位が付与されてもよい。両者間の電位差が適切なら、第2電極の下面とワークの間で放電が生じずに、プラズマはワークの被処理面へ効率的に誘導される。なお、第2電極の下面側(ワーク側)は絶縁体(膜)で覆われていてもよい。バイアス電位を付与しないとき、第2電極、ステージ(またはワーク)、それらを囲う筐体(チャンバー)等は共に接地されていてもよい。
【0030】
連通孔の形態や配置等は適宜、調整される。連通孔の断面は、例えば、丸孔状でも、スリット状(楕円状、長円状、方形状等)でもよい。丸孔状の孔径は、例えば、φ0.1~10mmさらにはφ0.5~5mmとするとよい。スリット状の孔サイズは、例えば、最大幅0.1~10mmさらには0.5~5mm、最大長20~200mmさらには40~120mmとするとよい。過小な連通孔は、長時間の成膜により詰まるおそれがある。過大な連通孔はプラズマの吹出長が小さくなる。
【0031】
連通孔は、一つもでも複数でもよい。連通孔が複数あると、各連通孔の配置は、規則的でも不規則でもよい。
【0032】
(2)原料ガスは、少なくとも炭素源ガスを含む。炭素源ガスは、例えば、メタン、エタン、プロパン、エチレン、アセチレン等の一種以上を含む炭化水素ガスである。原料ガスは、炭素源ガスに加えて、窒素ガスや希ガス(He、Ne、Ar、Kr、Xe等)を含むとよい。これらのガスは、低抵抗率な炭素膜の形成に寄与し得る。
【0033】
原料ガスの流量は、成膜条件(膜厚、印加電圧、連通孔のサイズ等)に応じて、適宜調整され得る。炭素源ガスの流量は、例えば、合計で30~2000sccm(標準条件:1気圧×0℃/以下同様)、さらには50~300sccmとするとよい。窒素ガスの流量は、例えば、200~4000sccmさらには400~2000sccmとするとよい。希ガスの流量は、例えば、100~3000sccmさらには200~1000sccmとするとよい。炭素源ガスが過少では、成膜性が低下する。各ガスは多くてもよいが、余剰なガスが増加する。なお、原料ガス中には、少量の不純物(酸素等)が含まれてもよい。
【0034】
(3)プラズマ発生に必要な電圧が電源から各電極間に印加される。印加電圧は、直流電圧でも、交流電圧でも、パルス電圧でもよい。交流電圧またはパルス電圧は、例えば、周波数を1k~50kHzさらには5k~20kHzとするとよい。
【0035】
印加電圧(最大値から最小値までの電圧差/peak to peak value)は、例えば、200~2000Vさらには400~1000Vとするとよい。通常、第2電極に対して第1電極に、正または負の高圧電圧が印加される。第2電極は、例えば、接地されているとよい。
【0036】
(4)連通孔の下端開口からワークまでの距離(間隔)は、例えば、0.1~20mmさらには0.5~10mmとするとよい。その間隔を適切に調整することにより、所望の炭素膜を安定して成膜できる。
【0037】
大気圧下にあるワークの被処理面に対しても炭素膜の成膜が可能であるが、少なくともワーク周辺を準大気圧としてもよい。これにより、処理に用いた原料ガスやプラズマ等の外部への漏出や拡散を防止でき、好適な作業環境の維持が図られる。従って、ドラフト装置、真空ポンプ等により排気された収容室(チャンバー等)内で、炭素膜の成膜がなされるとよい。
【0038】
被処理面は、例えば、300~700℃さらには350~650℃に加熱されていると、Hの少ない緻密な炭素膜が形成され得る。加熱温度が過小であるとその効果が乏しく、加熱温度が過大であると基材の変質、炭素膜と基材との反応等が生じ得る。
【0039】
被処理面の温度調整は、例えば、ワークを載置したステージに内蔵したヒーター等によりなされる。またワークの面方向に沿って、ステージを連通孔に対して相対移動させると、広範囲で炭素膜を効率的に成膜し得る。
【0040】
被処理面は、炭素膜の成膜前に、浄化や粗面化等の前処理等がなされていてもよい。前処理は、上述したプラズマ装置を用いてなされてもよい。例えば、炭素源ガスを含まないプラズマを被処理面へ噴出させる前処理を行ってもよい。
【0041】
《被覆部材》
基材の被処理面に炭素膜が成膜された被覆部材は、電気・電子分野に限らず、機械分野、化学分野等で用いられる。被覆部材の基材は問わず、例えば、金属、樹脂等である。被覆部材は、燃料電池用セパレータ以外の電子部品や機械部品等でもよい。
【実施例
【0042】
大気圧雰囲気下で炭素膜を成膜した複数の試料(被覆部材)を製作した。各試料の炭素膜について、ラマンスペクトルと導電性(接触抵抗率)を評価した。このような具体例を示しつつ、以下に、本発明より具体的に説明する。
【0043】
《プラズマ装置》
炭素膜の成膜に用いたプラズマ装置S(単に「装置S」という。)の概要(要部断面)を図1Aに示した。なお、説明の便宜上、上下、前後または左右の各方向は、図中に示した矢印方向とする。
【0044】
装置Sは、原料ガスの導入部1と、プラズマの生成部2と、電源6を備える。図1Aには、ヒータを内蔵したステージ3上に載置されたワークwも併せて示した。
【0045】
生成部2は、上方から順に、絶縁板211(第1絶縁体)、電極板221(第1電極)、絶縁板212(第2絶縁体)、電極板222(第2電極)が積層されてなる。また生成部2は、それら上下方向に貫通したノズル20(連通孔)を有する。ノズル20は、生成部2の前後方向(幅方向)の略中央で、左右方向(長手方向)に延在した細長状(スリット状)である。
【0046】
電極板221と電極板222の間に電源6から高電圧が印加されると、ノズル20の内周面221aと内周面222aとの間で放電が生じて、ノズル20内にプラズマpが発生する。プラズマpは、上流から下流に向かうノズル20内の気流(原料ガスの流れ)に押されて、ノズル20の下端開口20bから噴出する。
【0047】
《プラズマ生成》
次のような装置Sを実際に試作した。電極板221、222にはステンレス鋼(SUS304)の圧延板を、絶縁板211、212にはアルミナ(Al)の焼成体を用いた。電極板221の厚みは2mm、電極板222の厚みは1mm、絶縁板211の厚みは2mm、絶縁板212の厚みは1mmとした。ノズル20の開口は、1mm×45mmとした。電源にはパルス電源を用いた。
【0048】
導入部1へ窒素ガスを供給し、電極板221と電極板222の間にパルス電圧(600V(Peak to Peak 値)、周波数10kHz、矩形波)を印加した。電極板222の下面側を観察したところ、図1Bに示すように、ノズル20の下端開口20bに紫色のグロー放電が観られ、プラズマpの発生(噴出)が確認された。
【0049】
《試料の製作》
試作した装置Sを用いて、表1に示す種々の条件下で成膜を行った。
【0050】
ワークwには、試料1~3:SUS316L(株式会社ニラコ製)、試料4~6:純チタン(株式会社ニラコ製)を用いた。いずれのワークwも板状(100mm×110mm×t0.1mm)とした。ワークwはステージ3の内蔵ヒータで加熱した。
【0051】
原料ガスには、メタンガス(炭化水素ガス)と、窒素ガスまたはアルゴンガスとの混合ガスを用いた。ワークwの加熱温度は試料毎に変更した。電極板222の下面(ノズル20の下端開口20b)とワークwの被処理面waとの距離は4mmとした。
【0052】
こうして装置Sを用いて生成した各原料ガスのプラズマpを、大気圧環境下にあるワークwの被処理面waへ30分間照射した。このとき、ノズル20の下端開口20bを被処理面waに対して、相対速度0.06mm/秒で36mmの範囲を往復動(走査)させた。
【0053】
《観察》
(1)SEM
試料6に係る膜断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した様子を図2に示した。なお、そのSEM像から、膜厚(最大幅)は約30nmであった。
【0054】
(2)膜構造
各試料の膜をラマン分光装置(日本分光株式会社製NRS-3200/励起光の波長:532.05nm)を用いて分析した。得られたラマンスペクトルの一例(試料6)を図3Aに示した。
【0055】
比較例(試料C1)として、特許文献2(特許第5217243号公報)の記載に沿って、上述したチタン板上に導電性非晶質炭素膜(特許文献2の表5にある実施例14に相当) を成膜した。その炭素膜を同様に分析して得たラマンスペクトルを図3Bに示した。
【0056】
各試料に係るラマンスペクトルから、GバンドとDバンドについて、各ピーク値の波数と、それらピーク値の比率(I/I)とをそれぞれ求めた。また、Gバンドについては、ピークの半値幅も求めた。これらの結果を表1にまとめて示した。
【0057】
《測定》
各試料の膜に係る接触抵抗率を次のようにして求めた。図4に示すように、試料の上面側(被膜側)にカーボンペーパーを載置する。それらを2枚の銅板で挟持する。このとき、銅板間を1.47MPaで垂直方向に加圧した。また、試料およびカーボンペーパーと接触する銅板の各表面には金めっきを施しておいた。
【0058】
直流電源から1Aの定電流(I)を銅板間に供給した。銅板間の加圧開始から60秒後に、試料の基材とカーボンペーパーの間の電位差(V)を測定した。こうして算出された両者間の電気抵抗値(R=V/I)を、試料とカーボンペーパーの接触面積(4cm:2cm×2cm)で除して、接触抵抗率を求めた。各試料の接触抵抗率を表1に併せて示した。なお、成膜前の基材のみ(ワークw)の接触抵抗率は、純チタン:3mΩ・cm、SUS316L:1100mΩ・cmであった。
【0059】
《評価》
(1)膜構造
図3Aに示したラマンスペクトルおよび表1から、GバンドおよびDバンドを有する炭素膜が成膜されていることが確認された。
【0060】
図3A図3Bを比較すると明らかなように、試料6の炭素膜は、試料C1の炭素膜よりもピークがシャープであり、結晶性が高いこともわかった。試料1~5の炭素膜についても、表1に示したGバンドの半値幅から同様なことがいえる。また、試料1~6の炭素膜はいずれも、試料C1の炭素膜(従来のDLC膜)よりも強度比(I/I)が大きかった。
【0061】
(2)接触抵抗率
表1から明らかなように、いずれの炭素膜も接触抵抗率が小さく、優れた導電性を示すことが確認された。
【0062】
以上から、大気圧付近の環境下で、従来のDLC膜等とは異なる新たな導電性炭素膜が成膜され得ることが確認された。
【0063】
【表1】
【符号の説明】
【0064】
S プラズマ装置
1 導入部
2 生成部
20 ノズル(連通孔)
211 絶縁板(第1絶縁体)
212 絶縁板(第2絶縁体)
221 電極板(第1電極)
222 電極板(第2電極)
w ワーク
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4