(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】鋼管、鋼管構造体、鋼管構造体の構築方法
(51)【国際特許分類】
E21B 17/14 20060101AFI20221109BHJP
E02D 5/28 20060101ALI20221109BHJP
E02D 7/20 20060101ALI20221109BHJP
E21B 7/20 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
E21B17/14
E02D5/28
E02D7/20
E21B7/20
(21)【出願番号】P 2019232209
(22)【出願日】2019-12-24
【審査請求日】2021-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】粟津 進吾
(72)【発明者】
【氏名】恩田 邦彦
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-077632(JP,U)
【文献】実開昭61-071628(JP,U)
【文献】特開昭53-070507(JP,A)
【文献】特開2018-123670(JP,A)
【文献】特開2004-019225(JP,A)
【文献】特開2005-133348(JP,A)
【文献】特開平01-146011(JP,A)
【文献】特開平11-071758(JP,A)
【文献】特開2001-059219(JP,A)
【文献】特開2013-147814(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21B 17/14
E02D 5/28
E02D 7/20
E21B 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転及び/又は揺動させて地盤を掘り進めながら地盤内に埋設される鋼管であって、
先端に切欠き形状部を有し、該切欠き形状部は鋼管が回転する際に地盤を掘削して円形の掘削溝を形成する機能を有
し、
前記切欠き形状部が形成された前記鋼管の先端部は、該先端部以外の部位よりも厚肉のC字形状の部材を溶接してなることを特徴とする鋼管。
【請求項2】
回転及び/又は揺動させて地盤を掘り進めながら地盤内に埋設される鋼管であって、
先端に切欠き形状部を有し、該切欠き形状部は鋼管が回転する際に地盤を掘削して円形の掘削溝を形成する機能を有
し、
前記切欠き形状部が形成された前記鋼管の先端部は、該先端部以外の部位よりも厚肉に形成され、厚肉部の外周面に先端から上端に至るスリット及び/又は厚肉部の内周面から外周面に至る斜め上方に向けて延びる貫通孔が形成されていることを特徴とする鋼管。
【請求項3】
前記切欠き形状部が形成された前記鋼管の先端部は耐摩耗鋼によって形成されていることを特徴とする請求項1
又は2に記載の鋼管。
【請求項4】
前記切欠き形状部は前記鋼管の先端面に周方向で所定のピッチで複数形成されていることを特徴とする請求項1
乃至3のいずれか一項に記載の鋼管。
【請求項5】
前記鋼管先端面における前記切欠き形状部以外の部分の全部又は一部に、先端に向かって薄肉となるような傾斜面部が形成されていることを特徴とする請求項1乃至
4のいずれか一項に記載の鋼管。
【請求項6】
鋼管の内壁に沿って上端から下方に向かって配設されたパイプと、該パイプの先端であって、鋼管先端部付近に設けられたノズル部とを有し、該ノズル部から冷却用の液体及び/又は気体を吐出するようにしたことを特徴とする請求項1乃至
5のいずれか一項に記載の鋼管。
【請求項7】
請求項1乃至
6のいずれかに記載の鋼管が地中に単数又は複数埋設され構築されたことを特徴とする鋼管構造体。
【請求項8】
請求項
7に記載の鋼管構造体の構築方法であって、
請求項1乃至
6のいずれか一項に記載の鋼管の上端を把持して地盤中に回転貫入させることを特徴とする鋼管構造体の構築方法。
【請求項9】
請求項
7に記載の鋼管構造体の構築方法であって、
先端にビットを備えた先行掘削用鋼管により、鉄筋コンクリート、無筋コンクリート又は石材の内、1種以上で構築された、既存の構造物を打ち抜く工程と、
先行掘削用鋼管を引き上げる工程と、
請求項1乃至
6のいずれか一項に記載の鋼管の上端を把持して地盤中の所定の支持層まで回転圧入する工程とを備えたことを特徴とする鋼管構造体の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転及び/又は揺動させて地盤を掘り進めながら地盤内に埋設される鋼管、該鋼管によって構築される鋼管構造体、該鋼管構造体の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、鋼管杭を回転圧入できる鋼管杭圧入装置を用いて、先端にビットを備えた掘削用鋼管杭でコンクリート護岸を打ち抜いて圧入して鋼管杭列を構築する方法が開示されている。先端にビットを備えた掘削用鋼管杭を用いることにより、掘削能力が増し、コンクリートなどの既設構造物や障害物を破壊できるメリットがある。
【0003】
また、特許文献2には、掘削能力の向上や高深度掘削の効率化を行うための、先端のビットの効率的な配置が開示されている。先端のビットを鋼管板の真下、内側、外側を掘削するように配置するとともに、真下を掘削するビットの先端位置を他のビットよりも下にすることで、鋼管の肉厚より広い掘削幅を確保し、かつビットの摩耗を低減させている。
【0004】
さらに、特許文献3では、耐摩耗性と耐衝撃性に優れたビットの構造が開示されている。ビット先端の超硬合金製のチップ部材に関して、比較的硬度の高い硬チップと硬度の低い軟チップを焼結させたチップをビットに取付け、耐摩耗性と靱性も両立させている。
【0005】
また、特許文献4では、鋼管を回転圧入させる際の補助装置として、鋼管内が土砂で閉塞することを防止するための流体を吐出する方法が開示されている。鋼管の内壁に沿って周方向に流体を吐出することで、鋼管の内壁と土砂との間に流体を介在させ、鋼管内の閉塞状態を除去している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4105076号
【文献】特許第6346694号
【文献】特開2017-133328号公報
【文献】特許第4242251号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、杭としての支持力を得るため、コンクリートなどの既設構造物を打ち抜いたのち、所定の地中深度まで施工(回転圧入による)を継続する必要がある。
しかし、先端にビットを備えた鋼管杭を圧入すると、回転施工する際に先端のビットにより支持地盤が乱され、地耐力が低下し、鋼管杭の支持力性能が低下するという懸念がある。
また、特許文献2のような先端ビットの配置と形状とすることで、掘削能力の向上は期待できると考えられるが、一方で、その強力な掘削の能力のために支持地盤が乱されて地耐力が低下することが特許文献1と同様に懸念される。
【0008】
また、特許文献3のように超硬合金製のチップをビット(鋼材)の先端に取り付ける際には、一般的にロウ付けで接合されることが多いが、掘削する際の摩擦熱によってロウ付けの接合強度が低下して、チップがビットから欠落するおそれがある。
【0009】
特許文献4のような装置で、鋼管の回転圧入中にウォータージェットを噴射することは、土砂による鋼管の拘束効果の低減機能や先端ビットの冷却機能として有効である。しかし、土砂による鋼管の拘束を低減させるためには、一定以上の圧力(文献では0.2MPa以上)で鋼管の内側だけでなく外側にも水を噴射する必要があり、かつ外側に噴射することは鋼管周面の土砂を除去するあるいはスラリー状にすることになる。そのため、水平抵抗を期待した構造物(例えば壁体)として圧入した鋼管においても、水平方向の地盤ばねが設計どおりに発揮されず、構造物として安定しないおそれがある。
【0010】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、回転及び/又は揺動させた鋼管の圧入施工時における圧入抵抗を低減しつつ、支持地盤の耐力低下を抑制して杭の支持力性能を確保するとともに、鋼管周面の水平地盤ばねの低下も抑制して水平抵抗も確保することができる鋼管、鋼管構造体、鋼管構造体の構築方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明に係る鋼管は、回転及び/又は揺動させて地盤を掘り進めながら地盤内に埋設されるものであって、
先端に切欠き形状部を有し、該切欠き形状部は鋼管が回転する際に地盤を掘削して円形の掘削溝を形成する機能を有することを特徴とするものである。
【0012】
(2)上記(1)に記載のものにおいて、前記切欠き形状部が形成された前記鋼管の先端部は耐摩耗鋼によって形成されていることを特徴とするものである。
【0013】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記切欠き形状部は前記鋼管の先端面に周方向で所定のピッチで複数形成されていることを特徴とするものである。
【0014】
(4)また、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のものにおいて、前記鋼管先端面における前記切欠き形状部以外の部分の全部又は一部に、先端に向かって薄肉となるような傾斜面部が形成されていることを特徴とするものである。
【0015】
(5)また、上記(1)乃至(4)のいずれかに記載のものにおいて、前記切欠き形状部が形成された前記鋼管の先端部は、該先端部以外の部位よりも厚肉に形成されていることを特徴とするものである。
【0016】
(6)また、上記(5)に記載のものにおいて、前記先端部に外周面に、厚肉部の先端から上端に至るスリット及び/又は厚肉部の内周面から外周面に至る斜め上方に向けて延びる貫通孔が形成されていることを特徴とするものである。
【0017】
(7)また、上記(1)乃至(6)のいずれかに記載のものにおいて、鋼管の内壁に沿って上端から下方に向かって配設されたパイプと、該パイプの先端であって、鋼管先端部付近に設けられたノズル部とを有し、該ノズル部から冷却用の液体及び/又は気体を吐出するようにしたことを特徴とするものである。
【0018】
(8)本発明に係る鋼管構造体は、上記(1)乃至(7)のいずれかに記載の鋼管が地中に単数又は複数埋設され構築されたことを特徴とするものである。
【0019】
(9)本発明に係る鋼管構造体の構築方法は、上記(8)に記載の鋼管構造体の構築方法であって、上記(1)乃至(7)のいずれかに記載の鋼管の上端を把持して地盤中に回転貫入させることを特徴とするものである。
【0020】
(10)また、上記(8)に記載の鋼管構造体の構築方法であって、
先端にビットを備えた先行掘削用鋼管により、鉄筋コンクリート、無筋コンクリート又は石材の内、1種以上で構築された、既存の構造物を打ち抜く工程と、
先行掘削用鋼管を引き上げる工程と、
上記(1)乃至(7)のいずれかに記載の鋼管の上端を把持して地盤中の所定の支持層まで回転圧入する工程とを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明においては、先端に切欠き形状部を有し、該切欠き形状部は鋼管が回転する際に地盤を掘削して円形の掘削溝を形成する機能を有することにより、回転及び/又は揺動させた鋼管の圧入施工時における圧入抵抗を低減しつつ、支持地盤の耐力低下を抑制して杭の支持力性能を確保するとともに、鋼管周面の水平地盤ばねの低下も抑制して水平抵抗も確保することができる
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施の形態1に係る鋼管の先端部の斜視図である。
【
図2】実施の形態1に係る鋼管の先端部の側面図(
図2(a))、底面図(
図2(b))である。
【
図3】実施の形態2に係る鋼管の先端部の斜視図である。
【
図4】実施の形態2に係る鋼管の先端部の側面図(
図4(a))、底面図(
図4(b))である。
【
図5】実施の形態3に係る鋼管の底面図(
図5(a))、
図5(a)の矢視A-A端面図(
図5(b))、
図5(a)の矢視B―B端面図である(
図5(c))。
【
図6】実施の形態4に係る鋼管の底面図(
図6(a))、
図6(a)の矢視A-A端面図(
図6(b))、
図6(a)の矢視B―B端面図である(
図6(c))。
【
図7】実施の形態4の他の態様に係る鋼管の底面図(
図7(a))、
図7(a)の矢視A-A端面図(
図7(b))、
図7(a)の矢視B―B端面図である(
図7(c))、
図7(a)の矢視C―C端面図である(
図7(d))。
【
図8】実施の形態4の他の態様に係る鋼管の底面図(
図8(a))、
図8(a)の矢視A-A端面図である(
図8(b))。
【
図9】実施の形態4の他の態様に係る鋼管の底面図(
図9(a))、
図9(a)の矢視A-A端面図(
図9(b))、
図9(a)の矢視B―B端面図である(
図9(c))。
【
図11】実施の形態4の作用の説明図である(その1)。
【
図12】実施の形態4の作用の説明図である(その2)。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[実施の形態1]
本発明の一実施の形態に係る鋼管1は、回転及び/又は揺動させて地盤を掘り進めながら地盤内に埋設されるものであって、
図1、
図2に示すように、先端に切欠き形状部3を有し、切欠き形状部3は鋼管1が回転する際に地盤を掘削して円形の掘削溝を形成する機能を有することを特徴とするものである。
【0024】
本実施の形態に係る切欠き形状部3は、
図1、
図2に示すように、鋼管1の先端面を周方向で所定のピッチで矩形状に複数切り欠いて形成されている。もっとも、本発明の切欠き形状部3は、このような態様のものに限られず、鋼管1の先端部に単数設けられたものを含み、複数設けられた場合において、所定のピッチではなく離散的に設けられていてもよい。
また、切欠き形状部3における切り欠きの形状も矩形状に限られない。
【0025】
また、切欠き形状部3の円周方向の長さL(
図2参照)は、鋼管周長(鋼管1の外周面の円周長)の1%以上、25%以下とすることが望ましい。切欠き形状部3の円周方向長さLが、鋼管周長の1%未満の場合、回転圧入施工した際の地盤の掘削能力が低下する可能性がある。一方、切欠き形状部3の円周方向長さLが、鋼管周長の25%超の場合、局所的に構造のバランスが悪くなり支持力低下を招く恐れがある。
さらに、切欠き形状部3の円周方向の長さLの総和(
図2に示す例では、L×8)が、鋼管周長の10%以上、70%以下とすることが望ましい。切欠き形状部3の円周方向長さLの総和が、鋼管周長の10%未満の場合、回転圧入施工した際の地盤の掘削能力が十分得られない可能性がある。一方、切欠き形状部3の円周方向長さLの総和が、鋼管周長の70%超の場合、支持地盤を乱すことによる支持力低下を招く恐れがある。
【0026】
本実施の形態の鋼管1によれば、先端部に形成した切欠き形状部3に地盤の掘削機能を持たせたので、従来の先端にビットを設けたもののように地盤を乱すことなく、鋼管1の圧入施工時における圧入抵抗を低減しつつ鋼管杭を打設することができ、鋼管1の支持力を確保することが可能となる。
【0027】
[実施の形態2]
本実施の形態に係る鋼管1は、
図3、
図4に示すように、切欠き形状部3が形成された鋼管1の先端部を耐摩耗鋼によって形成したものである。
図3、
図4において、耐摩耗鋼によって形成された部分はグレーに色付けして示している。
先端部に耐摩耗鋼を使用することで、回転及び/又は揺動させながら硬質地盤や地中障害物のある地盤に圧入する際に鋼管1の損傷を防止できる。
【0028】
なお、使用する耐摩耗鋼の表面ブリネル硬さ(JIS Z 2243:2018試験による)が公称値で340(±30)以上のものを用いることが望ましい。
また、耐摩耗鋼の加工性、溶接性を考慮すると、表面ブリネル硬さ(JIS Z 2243:2018試験による)が公称値で600以下のものとするのがよい。
【0029】
なお、
図3、
図4に示したものは、鋼管1の先端部のみを耐摩耗鋼によって形成したものであったが、鋼管1自体をその全長に亘って耐摩耗鋼によって形成してもよい。
【0030】
[実施の形態3]
本実施の形態に係る鋼管1は、
図5に示すように、鋼管先端面における切欠き形状部3以外の部分の全部又は一部に、先端に向かって肉薄となるような傾斜面部5を形成したものである。
図5に示す例では、先端部の内面側及び外面側から厚みの中心に向かって傾斜する一対の傾斜面部5が形成され、先端が尖った断面V字状になっている。
【0031】
このように、先端に向かって肉薄となるように傾斜する傾斜面部5を設けることで、掘削効率を向上させることができる。
【0032】
なお、先端を尖らせるための傾斜角度は、水平に対して25°~50°程度が望ましい。これは、地盤を掘削しながら圧入した際の開削角度は、地盤の受働崩壊角に近くなるため、地盤の内部摩擦角の範囲を考慮すると30°~50°程度となる。岩盤や固結地盤では45°程度となる。そのため、傾斜角度が急すぎると、先端のみが地盤と接触して摩耗が進み、掘削効率が良くないことが想定されるためである。
【0033】
なお、傾斜面部5を形成した部分の形状は、先端に向かって肉薄となるように傾斜する傾斜面部5が設けられておればよく、上述したV字状に限られず、例えば断面がレ字形状になるような態様であってもよい。
【0034】
[実施の形態4]
本実施の形態に係る鋼管1は、
図6に示すように、切欠き形状部3が形成された先端部を、先端部以外の部位よりも厚肉の厚肉先端部7としたものである。換言すれば、厚肉先端部7の管の内径を厚肉先端部以外の管よりも小さくするとともに、厚肉先端部7の管の外径を厚肉先端部7以外の管よりも大きくしたものである。
このようにすることで、鋼管1の圧入時において掘削した土砂による鋼管1内外からの拘束を低減できる。
【0035】
厚肉先端部7の厚肉にする程度、すなわち(先端部の外径-先端部以外の外径)および(先端部以外の内径-先端部の内径)は、厚肉先端部7以外の鋼管1の肉厚に対して、10%以上、100%以下とすることが望ましい。10%未満だと地盤の拘束圧低減効果が十分に得られない可能性がある。一方、100%超とすると、厚肉先端部7とそれ以外部分の剛性差が大きくなり、施工時の接続部(厚肉先端部7と通常厚みの鋼管1の境界部分)への応力集中が過大になるおそれがある。
【0036】
また、厚肉先端部7を形成することに加えて、
図7に示すように、先端部に外周面に、厚肉先端部7の先端から上端に至るスリット9及び/又は厚肉先端部7の内周面から外周面に至る斜め上方に向けて延びる貫通孔11を形成するようにしてもよい。
このようにすれば、先端で掘削した土砂が鋼管1の外側にスムーズに排出され、土砂による鋼管1の拘束を低減する効果が高まる。
【0037】
スリット幅は、厚肉先端部7の外周長(厚肉先端部7における外周面の円周長)の1%以上とすることが望ましい。スリット幅が、厚肉先端部7の外周長の1%未満の場合、土砂がスリット9と地盤との間に閉塞されるおそれがある。ここで、スリット幅とは、1つのスリット9の底部の円周方向の長さを指す。
一方、スリット幅は、厚肉先端部7の1ブロック長さに対し、90%以下とすることが望ましい。スリット幅が厚肉先端部7の1ブロック長さに対して90%超の場合、局所的に構造のバランスが悪くなり支持力低下を招く恐れがある。ここで、1ブロック長さとは、厚肉先端部7における隣り合う切欠き形状部3に挟まれた部分の外周長を指す。
また、スリット幅の総和は、厚肉先端部7の外周長に対して10%以上とすることが望ましい。スリット幅の総和が厚肉先端部7の外周長の10%未満の場合、鋼管1の外側に排出される土砂量が十分でなく、鋼管1の拘束の低減効果が小さくなるおそれがある。
さらに、切欠き形状部3の円周方向の長さLの総和とスリット幅の総和との合計長さは、厚肉先端部7より上部の鋼管周長に対して70%以下とすることが望ましい。切欠き形状部3の円周方向の長さLの総和とスリット幅の総和との合計長さが、厚肉先端部7の外周長の70%超の場合、支持地盤を乱すことによる支持力低下を招く恐れがある。
【0038】
また、
図8に示すように、鋼管1の内壁に沿って上端から下方に向かってパイプ13を配設すると共にパイプ13の先端であって鋼管先端部付近にノズル部15を設け、ノズル部15から冷却用の液体又は気体を吐出するようにしてもよい。
このようにすれば、鋼管先端部を冷却して切欠き形状部3の摩耗を遅らせることができるとともに、鋼管先端部で掘削した土砂の移動がよりスムーズになる。なお、冷却用の液体としては、水、掘削液等であり、気体としては空気が挙げられ、液体と気体の混合流体であってもよい。
本実施の形態で吐出する流体は、冷却するだけで土砂を吹き飛ばす必要がないため、ノズル部15からの吐出圧力が0.2MPa未満とすることが望ましい。
【0039】
なお、鋼管1の外側に流体供給用パイプ(図示なし)を配置させるとともに、セメントミルクを噴射させることで、鋼管周面の地盤を固化させて水平地盤ばねを確保するようにしてもよい。
【0040】
本実施の形態の厚肉先端部7は、円環状の厚肉の部材を鋼管1の先端に溶接してもよいし、厚肉先端部7を鋼管1と一体的に圧延等によって形成してもよい。
厚肉先端部7を鋼管1に溶接する場合の態様としては、
図9に示すように、厚肉先端部7を閉じた円環状の管でなく、周方向の一か所が開いたC字形状の構造とし、開いた部分(
図9の破線円で囲んだ部分)をスリット9として利用するようにしてもよい。
【0041】
ここで、切欠き形状部3が形成された先端部を、先端部以外の部位よりも厚肉に形成する本実施の形態の作用効果について、先端にビットを設けた鋼管と比較しながら説明する。
図10は先端にビット17を設けた鋼管19による地盤の掘削状況の説明図である。
図10に示すように、ビット17を地盤に当接させ(
図10(a)参照)、鋼管19を回転圧入すると、先端のビット17によって掘削された土砂が鋼管19の内側及び外側に移動する(
図10(b)参照)。この状態で回転圧入を進めると、内面側及び外面側からの鋼管19の拘束圧が増加して、回転圧入が難しくなる(
図10(c)参照)。そこで、鋼管19の内面及び外面の土砂をウォータージェットによって除去して回転圧入を継続するようにするが、その場合には、鋼管19の回転圧入完了時における鋼管周面の水平地盤ばねの低下により水平抵抗の確保が難しくなる(
図10(d)参照)。
【0042】
一方、本実施の形態の場合の鋼管1の回転圧入の状況を示したのが
図11である。なお、
図11においては、切欠き形状部3が掘削機能を有することを示すために厚肉先端部7の先端をV字状に図示している。
本実施の形態では、鋼管1を回転圧入すると厚肉先端部7によって掘削された土砂が鋼管1の内側及び外側に移動する(
図11(b)参照)。このとき、厚肉先端部7の上方の通常の厚みの鋼管部分には、地盤との間に隙間が生じているので、鋼管1の内側及び外側に移動した土砂が鋼管1の内面及び外面に沿って移動しやすく、拘束圧の増加が抑制される(
図11(c)参照)。そのため、先端にビット17を設けた場合のように、ウォータージェットを用いることなく回転圧入を継続することができ(
図11(d)参照)、回転圧入の完了時には、
図12に示すように、鋼管周面の水平地盤ばねが低下することなく、水平抵抗を確保できる。
【0043】
[実施の形態5]
実施の形態1~4は、鋼管1の先端に切欠き形状部3を有する鋼管1について説明したが、このような鋼管1の上端を把持して地盤に回転及び/又は揺動させて掘り進めながら地盤内に埋設することで、例えば鋼管杭のような鋼管構造体を構成することができる。
また、鋼管1を隣接させて複数地中に埋設してこれらを接続することで矢板壁のような鋼管構造体を構成することができる。
【0044】
上記の説明は、実施の形態1~4に係る鋼管1のみを用いる例であるが、
図10に示したような、先端にビット17を有する従来の鋼管19と併用して鋼管構造体を構築することもできる。このような鋼管構造体の構築方法の態様を概説すると以下のようになる。
先端にビット17を備えた先行掘削用鋼管(以下、「ビット付き先行掘削鋼管25」(
図15参照)と呼ぶ)により、鉄筋コンクリート、無筋コンクリート又は石材の内、1種以上で構築された、既存の構造物を打ち抜く工程と、
先行掘削用鋼管を引き上げる工程と、
実施の形態1~4の鋼管1の上端を把持して地盤中の所定の支持層まで回転及び/又は揺動により圧入する工程とを備える。
【0045】
なお、ビット付き先行掘削鋼管25による先行掘削の施工範囲は、コンクリートや石材で構築した部分の打ち抜きだけに留まらず、支持力地盤直前まで施工してもよい。
また、ビット付き先行掘削鋼管25の外径に対し、後行の鋼管外径を小さくするとともに、打設した後行の鋼管1の周囲にセメントミルク等を注入し地盤抵抗力を増大させてもよい。
【0046】
また、ビット付き先行掘削鋼管25よりも外径の小さい鋼管1を後行で用いる場合、後行の鋼管1の先端または周面、あるいはその両方に、羽形状を単数段もしくは複数段を設けるようにしてもよい。これにより、鋼管1の支持力がさらに増大する効果が得られる。
羽形状は、羽外径が先端ビット付き先行掘削鋼管25の外径以下とすれば、後行の鋼管杭の施工がスムーズとなる。一方、十分な支持力増大効果を得るためには、羽外径が後行の鋼管杭の外径の10%以上大きいことが望ましい。
【0047】
また、羽外径をビット付き先行掘削鋼管25の外径より大きくしてもよい。この場合、鉄筋コンクリート・無筋コンクリート・石材で構築した部分の再打ち抜きの際に、抵抗力が生じ、施工上はデメリットとなるが、同時に鉄筋コンクリート・無筋コンクリート・石材で構築した部分の内面に凹部形状が形成されることから、セメントミルク等による一体化がより強固となるという利点もある。
【実施例】
【0048】
本技術の施工事例を以下に示す。
・施工事例1(
図13参照)
<目的>
N値が50以上の領域(硬質地盤)が支持層以外にも存在する地盤に対し、支持力を期待する鋼管杭を打設する。
手順1:先端部に切欠き形状部3を有する鋼管1を鋼管杭圧入装置21によって回転または揺動させて地盤を掘り進めながら圧入する(
図13(a)参照)。
手順2:直径の1倍以上の深さまで鋼管杭を支持層に根入れする(
図13(b)参照)。
【0049】
・施工事例2(
図14参照)
<目的>
直径50cm以上の石材が敷き詰められたマウンド上のコンクリート製のケーソンに隣接した鋼管杭列を築造する。
手順1:先端部に切欠き形状部3を有する鋼管1を回転させて石材を破砕しながら圧入する(
図14(a)参照)。
手順2:鋼管1を地盤中の所定の深度まで回転圧入させて鋼管杭列を構築する(
図14(b)参照)。
手順3:この鋼管杭列から反力を得ながら、上記鋼管杭列に連続して後行の鋼管杭を鋼管杭圧入装置21に取り付けて、鋼管杭を地盤中の所定の深度まで圧入して連続壁を構築する。
【0050】
・施工事例3(
図15参照)
<目的>
鉄筋コンクリートで構築された既存の連続壁23を打ち抜いて支持層に根入れされた鋼管杭列の連続壁を構築する。
手順1:先端にビット17を備えたビット付き先行掘削鋼管25を回転圧入させ、既存の連続壁23を打ち抜く(
図15(a)参照)。
手順2:一旦、回転圧入したビット付き先行掘削鋼管25を引き上げる(
図15(b)参照)。
手順3:ビット付き先行掘削鋼管25を鋼管杭圧入装置21から取外し、先端部に切欠き形状部3を有する後行の鋼管1を鋼管杭圧入装置21に取り付けて、回転圧入を再開する(
図15(c)参照)。
手順4:鋼管1を地盤中の所定の支持層まで回転圧入し、連続壁を構築する(
図15(d)参照)。
【符号の説明】
【0051】
1 鋼管
3 切欠き形状部
5 傾斜面部
7 厚肉先端部
9 スリット
11 貫通孔
13 パイプ
15 ノズル部
17 ビット
19 鋼管
21 鋼管杭圧入装置
23 連続壁
25 ビット付き先行掘削鋼管