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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】美白剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/44 20060101AFI20221109BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20221109BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20221109BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20221109BHJP
   A61K 31/198 20060101ALI20221109BHJP
   A61K 31/405 20060101ALI20221109BHJP
   A61K 31/4172 20060101ALI20221109BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20221109BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20221109BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20221109BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221109BHJP
   A61Q 19/02 20060101ALI20221109BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20221109BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20221109BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20221109BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
A61K8/44
A61K9/06
A61K9/08
A61K9/107
A61K31/198
A61K31/405
A61K31/4172
A61K47/10
A61K47/34
A61P17/00
A61P43/00 111
A61Q19/02
G01N30/88 F
G01N33/15 Z
G01N33/50 Q
G01N33/50 U
G01N33/68
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019507552
(86)(22)【出願日】2018-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2018009351
(87)【国際公開番号】W WO2018173816
(87)【国際公開日】2018-09-27
【審査請求日】2020-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2017060070
(32)【優先日】2017-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀧野 嘉延
(72)【発明者】
【氏名】唐川 幸聖
(72)【発明者】
【氏名】大倉 冬美恵
(72)【発明者】
【氏名】池上 絵梨
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-049630(JP,A)
【文献】特開2008-088113(JP,A)
【文献】特開2004-315384(JP,A)
【文献】特開2005-247738(JP,A)
【文献】特開平10-158149(JP,A)
【文献】特開平11-049629(JP,A)
【文献】特開平08-217661(JP,A)
【文献】特開2012-006870(JP,A)
【文献】芦田 豊 他,皮膚におけるD-アミノ酸の存在とその生理活性,BIO INDUSTRY,2011年,Vol.28, No.2,pp.40-44
【文献】三上直子,アミノ酸と美容,BIO INDUSTRY,2008年,Vol.25, No,10,pp.21-25
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61P 1/00-43/00
A61K 31/00-31/80
G01N 30/00-30/96
G01N 33/00-33/46
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
D-アスパラギンD-アロスレオニン、D-リシンD-ヒスチジンD-フェニルアラニン、D-トリプトファン、及びD-チロシンからなる群から選択される少なくとも1種のD-アミノ酸を有効成分とする美白剤。
【請求項2】
分光測色計測定値より算出したメラニンインデックスを下げる又はL値を上げる請求項1に記載の美白剤。
【請求項3】
D-ヒスチジン、及びD-トリプトファンからなる群から選択される少なくとも1種のD-アミノ酸、並びに
D-チロシン及び/又はD-リシンであるD-アミノ酸、の少なくともいずれかを有効成分とする請求項1又は2に記載の美白剤。
【請求項4】
D-フェニルアラニン、及びD-チロシンからなる群から選択される少なくとも1種のD-アミノ酸を有効成分とするか、或いは
D-ヒスチジンD-トリプトファン、D-アスパラギンD-アロスレオニン、及びD-リシンからなる群から選択される少なくとも1種のD-アミノを有効成分とする請求項1又は2に記載の美白剤。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の美白剤含む美白用皮膚化粧料又は美白用皮膚外用剤。
【請求項6】
ポリオール化合物、界面活性剤、高級アルコール、増粘剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、キレート剤、防腐剤及びシリコーンからなる群より選択される少なくとも1種の基剤を更に含む請求項に記載の美白用皮膚化粧料又は美白用皮膚外用剤。
【請求項7】
剤形が、乳液、クリーム、化粧水、又はジェルである請求項又はに記載の美白用皮膚化粧料又は美白用皮膚外用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、美白剤に関する。
【背景技術】
【0002】
肌のしみ、そばかす、くすみは、紫外線の照射等の原因により色素細胞(メラノサイト)から黒色のメラニン色素が産生及び沈着することで発生する。メラニン色素は、アミノ酸物質であるチロシンを出発物質としてチロシナーゼ及びチロシナーゼ関連タンパク質により生成することが知られている。そのため、メラニンの沈着を抑制するために、チロシナーゼ及びチロシナーゼ関連タンパク質1(TRP-1)の阻害作用を有する技術が提案されている(特許文献1)。
【0003】
可食経験のある植物由来の抽出物を用いて、単回摂取により、紫外線により誘発される皮膚の炎症とそれに伴う皮膚の劣化を予防又は軽減することを目的として、カロテノイド色素の1種であるクロセチンを用いる経口皮膚保護剤が提案されている(特許文献2)。
【0004】
表皮と真皮とを隔てる基底膜に多量に存在するタンパク質へ影響を与えるD-アミノ酸として、D-アラニン及びD-ヒドロキシプロリンが報告されている(特許文献3)。
【0005】
美白効果を著しく改善し、かつ肌荒れ改善作用を目的とした、ハイドロキノン配糖体、アルコキシサリチル酸及び/又はその塩、α-グリコシル-L-アスコルビン酸から選ばれる美白薬剤と、1種又は2種以上のベタイン誘導体と、高級脂肪酸と、L-セリン、D-セリン、DL-セリン、アラニン、及びアミノメチルプロパンジオールから選ばれる1種又は2種以上と、を含有する皮膚外用剤が開示されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2013/118887号
【文献】特開2013-67592号公報
【文献】国際公開第2011/040082号
【文献】特開2002-060313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されたチロシナーゼの抑制作用を有する生理活性物質は、ヨブスマソウ及び/又はイヌドウナをアルコール抽出して得られるものである。しかしながら、メラニン色素は、MITF抑制作用に加えて、チロシナーゼ阻害成分及び抗酸化成分により抑制されていることが開示されている。即ち、特許文献1に開示されたチロシナーゼの抑制作用を有する生理活性物質は、それ単独ではチロシナーゼの遺伝子発現抑制作用が不十分であることが認められる。
【0008】
特許文献2に開示されたクロセチンは、紅班強度(即ち、紫外線による炎症)に効果があることは実施例で開示されている。しかしながら、しみ及びそばかす等のメラニンが沈着した状態に対しても効果が得られることは実証されていない。
【0009】
特許文献3には、D-アスパラギン酸等のD-アミノ酸化合物を用いた場合、ラミニン332の産生促進効果は発現しないことが開示されている。また、皮膚におけるラミニン332の産生促進を開示するものであり、ラミニン332以外のタンパク質の産生を抑制する技術については記載も示唆もされていない。
【0010】
特許文献4に記載の皮膚外用剤は、D-Serとは異なる特定の美白薬剤を必須成分として使用しており、D-Ser自体に美白作用があることは記載も示唆もされていない。
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、メラニン産生関連タンパク質の産生を十分に抑制し、十分な美白効果を発揮することができる美白剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた。その結果、被検者の肌状態(例えば、メラニンインデックス)と、角層内に含まれる特定のD-アミノ酸に相関関係があることを見出した。斯かる知見に基づき、特定のD-アミノ酸が、チロシナーゼ、チロシナーゼ関連タンパク質1、メラノコルチン1レセプター等のメラニン産生関連タンパク質の産生を抑制し得ると考え、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕D-アスパラギン、D-バリン、D-アロスレオニン、D-リシン、D-グルタミン、D-ヒスチジン、D-ロイシン、D-フェニルアラニン、、D-セリン、D-トリプトファン、及びD-チロシン(以下、本明細書中、それぞれ「D-Asn」、「D-Val」、「D-allo-Thr」、「D-Lys」、「D-Gln」、「D-His」、「D-Leu」、「D-Phe」、「D-Ser」、「D-Trp」、及び「D-Tyr」と略記する)からなる群から選択される少なくとも1種のD-アミノ酸を有効成分とする美白剤。
〔2〕分光測色計測定値より算出したメラニンインデックスを下げる又はL値を上げる上記〔1〕に記載の美白剤。
〔3〕D-Gln、D-His、及びD-Trpからなる群から選択される少なくとも1種のD-アミノ酸、並びにD-Tyr及び/又はD-LysであるD-アミノ酸、の少なくともいずれかを有効成分とする上記〔1〕又は〔2〕に記載の美白剤。
〔4〕D-Leu、D-Phe、D-Ser、及びD-Tyrからなる群から選択される少なくとも1種のD-アミノ酸を有効成分とするか、或いはD-Hisと、D-Gln、D-Trp、D-Asn、D-Val、D-allo―Thr、及びD-Lysからなる群から選択される少なくとも1種のD-アミノ酸と、の少なくともいずれかを有効成分とする上記〔1〕又は〔2〕に記載の美白剤。
〔5〕D-Asn、D-Phe、D-Trp、及びD-Hisからなる群から選択される少なくとも1種のD-アミノ酸を有効成分とする、チロシナーゼ、チロシナーゼ関連タンパク質1、及びメラノコルチン1レセプターからなる群から選択される少なくとも1種のメラニン産生関連タンパク質の産生抑制剤。
〔6〕上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の美白剤、又は上記〔5〕に記載のメラニン産生関連タンパク質の産生抑制剤を含む皮膚化粧料又は皮膚外用剤。
〔7〕ポリオール化合物、界面活性剤、高級アルコール、増粘剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、キレート剤、防腐剤及びシリコーンからなる群より選択される少なくとも1種の基剤を更に含む上記〔6〕に記載の皮膚化粧料又は皮膚外用剤。
〔8〕剤形が、乳液、クリーム、化粧水、又はジェルである上記〔6〕又は〔7〕に記載の皮膚化粧料又は皮膚外用剤。
〔9〕被検者の肌のメラニンインデックス及びL値の少なくともいずれかを測定して前記被検者の肌の外観を確認すること、前記被検者の肌の色素沈着部位から角層を採取すること、前記角層に含まれる少なくとも1種のD-アミノ酸量を特定すること、前記肌の外観と前記D-アミノ酸量との関係を、被検者の結果の間で比較すること、を含む、D-アミノ酸による肌の評価方法。
〔10〕前記D-アミノ酸量の特定が、前記角層に含まれるタンパク質量あたりのD-アミノ酸含有量の測定である上記〔9〕に記載の評価方法。
〔11〕前記D-アミノ酸の含有量の測定を、液体クロマトグラフ-タンデム型質量分析計により行う上記〔9〕又は〔10〕に記載の評価方法。
〔12〕前記タンパク質量の測定をBCA法により行う上記〔10〕又は〔11〕に記載の評価方法。
〔13〕前記D-アミノ酸が、D-Asn、D-Val、D-allo-Thr、D-Lys、D-Gln、D-His、D-Leu、D-Phe、D-Pro、D-Ser、D-Trp、及びD-Tyrからなる群から選択される少なくとも1種を含む上記〔9〕~〔12〕のいずれかに記載の評価方法。
〔14〕前記被検者が、20代又は30代の女性であり、前記D-アミノ酸が、D-Lys、D-Gln、D-His、D-Pro、D-Trp、及びD-Tyrからなる群から選択される少なくとも1種である上記〔13〕に記載の評価方法。
〔15〕前記被検者が、40代又は50代の女性であり、前記D-アミノ酸が、D-Asn、D-Val、D-allo-Thr、D-Lys、D-Gln、D-His、D-Leu、D-Phe、D-Ser、D-Trp、及びD-Tyrからなる群から選択される少なくとも1種である上記〔13〕に記載の評価方法。
〔16〕前記比較の結果、肌の外観とD-アミノ酸量との間に相関関係が確認された場合に、肌の外観とそのD-アミノ酸との相関関係を被検者の肌の評価の指標として選抜することを更に含む、〔9〕~〔15〕のいずれかに記載の評価方法。
〔17〕皮膚化粧料、皮膚外用剤、又はそれらの有効成分候補物質の投与前後の被検者の肌の色素沈着部位の角層に含まれる、〔16〕に記載の評価方法で選抜された相関関係を構成するD-アミノ酸量を測定すること、及び、
前記D-アミノ酸量から前記相関関係に基づき投与前後の肌の外観を特定し、比較すること
を含む、皮膚化粧料又は皮膚外用剤の評価方法。
〔18〕皮膚化粧料又は皮膚外用剤の投与前後の被検者の肌の色素沈着部位の角層に含まれる、〔16〕に記載の評価方法で選抜された相関関係を構成するD-アミノ酸量を測定すること、及び、
前記D-アミノ酸量から前記相関関係に基づき投与前後の肌の外観を特定し、比較すること
を含む、被検者への皮膚化粧料又は皮膚外用剤の有効性の評価方法。
本明細書中、アミノ酸を、慣用の3文字表記(例えば、「Asn」、「Gln」)に「L-」、「D-」、「D,L-」等の立体配置の接頭詞を付けて表すことがある。
【発明の効果】
【0013】
本発明の美白剤は、十分な美白効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、20代又は30代の女性において、角層中のD-Pro量と肌のメラニンインデックスとの相関を示す図である。
図2図2は、40代又は50代の女性において、角層中のD-His量と肌のメラニンインデックスとの相関を示す図である。
図3図3は、20代又は30代の女性において、角層中のD-Lys量と肌のL値との相関を示す図である。
図4図4は、40代又は50代の女性において、角層中のD-Tyr量と肌のL値との相関を示す図である。
図5図5は、D-Asn(実施例2)のメラニン産生関連タンパク質遺伝子(チロシナーゼ)の増幅量(コントロールの増幅量に対する相対値)を示すグラフである。
図6図6は、D-Asn(実施例2)のメラニン産生関連タンパク質遺伝子(チロシナーゼ関連タンパク質1)の増幅量(コントロールの増幅量に対する相対値)を示すグラフである。
図7図7は、D-Asn(実施例1)のメラニン産生関連タンパク質遺伝子(メラノコルチン1レセプター)の増幅量(コントロールの増幅量に対する相対値)を示すグラフである。
図8図8は、D-Phe(実施例3)のメラニン産生関連タンパク質遺伝子(チロシナーゼ)の増幅量(コントロールの増幅量に対する相対値)を示すグラフである。
図9図9は、D-Phe(実施例3)のメラニン産生関連タンパク質遺伝子(チロシナーゼ関連タンパク質1)の増幅量(コントロールの増幅量に対する相対値)を示すグラフである。
図10図10は、D-Trp(実施例4)のメラニン産生関連タンパク質遺伝子(チロシナーゼ関連タンパク質1)の増幅量(コントロールの増幅量に対する相対値)を示すグラフである。
図11図11は、正常ヒト色素細胞におけるD-Asn、D-Phe及びD-Trp添加時の細胞生存率を示すグラフである。
図12図12は、B16メラノーマ細胞におけるD-Asp添加時の黒色メラニン産生率を示すグラフである。
図13図13は、B16メラノーマ細胞におけるD-Glu添加時の黒色メラニン産生率を示すグラフである。
図14図14は、B16メラノーマ細胞におけるD-Cys添加時の黒色メラニン産生率を示すグラフである。
図15図15は、B16メラノーマ細胞におけるD-Trp添加時の黒色メラニン産生率を示すグラフである。
図16図16は、B16メラノーマ細胞におけるD-Asp添加時の細胞生存率を示すグラフである。
図17図17は、B16メラノーマ細胞におけるD-Glu添加時の細胞生存率を示すグラフである。
図18図18は、B16メラノーマ細胞におけるD-Cys添加時の細胞生存率を示すグラフである。
図19図19は、B16メラノーマ細胞におけるD-Trp添加時の細胞生存率を示すグラフである。
図20図20は、正常ヒト色素細胞におけるD-Cys添加時のメラニン産生速度率を示すグラフである。
図21図21は、正常ヒト色素細胞におけるD-Asp添加時のメラニン産生速度率を示すグラフである。
図22図22は、正常ヒト色素細胞におけるD-His添加時のメラニン産生速度率を示すグラフである。
図23図23は、正常ヒト色素細胞におけるD-Phe添加時のメラニン産生速度率を示すグラフである。
図24図24は、正常ヒト色素細胞におけるD-Trp添加時のメラニン産生速度率を示すグラフである。
図25図25は、正常ヒト色素細胞におけるD-Cys添加時のタンパク質量の相対比を示すグラフである。
図26図26は、正常ヒト色素細胞におけるD-Asp添加時のタンパク質量の相対比を示すグラフである。
図27図27は、正常ヒト色素細胞におけるD-His添加時のタンパク質量の相対比を示すグラフである。
図28図28は、正常ヒト色素細胞におけるD-Phe添加時のタンパク質量の相対比を示すグラフである。
図29図29は、正常ヒト色素細胞におけるD-Trp添加時のタンパク質量の相対比を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[1.美白剤]
本発明の美白剤は、D-Asn、D-Val、D-allo-Thr、D-Lys、D-Gln、D-His、D-Leu、D-Phe、D-Pro、D-Ser、D-Trp、D-Tyr、D-Asp、D-Glu、及びD-Cysからなる群から選択される少なくとも1種のD-アミノ酸を有効成分とする。有効成分は、D-Asn、D-Val、D-allo-Thr、D-Lys、D-Gln、D-His、D-Leu、D-Phe、D-Ser、D-Trp、及びD-Tyrからなる群から選択される少なくとも1種のD-アミノ酸であることが好ましい。D-Cysは、L-Cysと同様に安定性が低い場合がある(特開2009-227660号公報)。また、D-Asp及びD-Gluは、溶解性を向上させるためにpHを高めに調整する必要が生じる場合がある。
本発明者らは、生体中にごく微量にしか含まれていないD-アミノ酸の含有量と肌のメラニンインデックス及びL値に相関関係があることを見出した。そして、相関関係を見出したD-アミノ酸を用いて、メラニン産生に関連するタンパク質の遺伝子発現量を検討したところ、タンパク質の遺伝子発現量に有意な減少がみられるものを見出した。
従って、従来、ラセミ体としてのアミノ酸そのものが有効成分とみなされていたアミノ酸のうち、生体中にごく微量にしか含まれていないD-アミノ酸が、肌のメラニンインデックス及びL値に関連するタンパク質の産生を強く抑制し、有効成分として作用するという新規な知見を見出した。本発明の美白剤は、このような新規な知見に基づき、生体中にごく微量にしか含まれていないD-アミノ酸が有する顕著な効果を利用するものである。
本明細書中、「美白」とは、肌の過剰なメラニンの発生を抑制し、しみ、そばかす、くすみを改善することを意味する。
【0016】
アミノ酸には、光学異性体としてD体及びL体が存在する。このうち、天然のタンパク質は、L-アミノ酸がペプチド結合して構成されている。例えば、リモネンは、光学異性体で生理活性が異なるものが存在することが知られている。しかし、D-アミノ酸がL-アミノ酸で構成されるタンパク質に及ぼす影響について、現在のところ研究段階であり、体系的な理解はなされていない。
【0017】
D-アミノ酸は、それらの塩であってもよい。塩としては薬学上許容される塩であればよい。例えば、カリウム塩、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩、トリシクロヘキシルアンモニウム塩等のアンモニウム塩;モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、モノイソプロピルアルコールアミン塩、ジイソプロピルアルコールアミン塩、トリイソプロピルアルコールアミン塩等のアルカノールアミン塩が挙げられる。
【0018】
D-アミノ酸の製法は特に限定されない。例えば、合成法、抽出法、酵素法、発酵法が挙げられる。D,L―アミノ酸のラセミ混合物を光学分割して製造する方法も挙げられる。光学分割は特に限定されなく、従来公知の方法(例えば、カンファースルホン酸等の光学分割剤を用いてジアステレオマー塩を調製し、溶解性の差を利用して分割する)で行えばよい。
本発明の美白剤は、必要に応じて上記のD-アミノ酸以外の美白成分を含有し、美白剤組成物を形成していてもよい。
【0019】
本発明の美白剤は、D-Gln、D-His、D-Pro、及びD-Trpからなる群から選択される少なくとも1種のD-アミノ酸、並びにD-Tyr及び/又はD-LysであるD-アミノ酸、の少なくともいずれかを有効成分とするものであることが好ましく、D-Gln、D-His、及びD-Trpからなる群から選択される少なくとも1種のD-アミノ酸、並びにD-Tyr及び/又はD-LysであるD-アミノ酸、の少なくともいずれかを有効成分とするものであることがより好ましい。これらのD-アミノ酸は後述する本発明の評価方法において、若い年代の女性のメラニンインデックス及びL値の少なくともいずれかと相関が認められたものである。
本発明の美白剤は、D-Leu、D-Phe、D-Ser、及びD-Tyrからなる群から選択される少なくとも1種のD-アミノ酸を有効成分とするか、或いはD-Hisと、D-Gln、D-Trp、D-Asn、D-Val、D-allo-Thr、及びD-Lysからなる群から選択される少なくとも1種のD-アミノ酸と、の少なくともいずれかを有効成分とするものであることも好ましい。これらのD-アミノ酸は後述する本発明の評価方法において、年配の女性のメラニンインデックス及びL値の少なくともいずれかと相関が認められたものである。
【0020】
本発明の美白剤の効能は、例えば、日本香粧品学会誌,Vol.30,No.4,pp.333-337(2006)に記載の新規効能取得のための医薬部外品美白機能評価試験ガイドラインに記載の方法で判断し得る。より詳細には、目視又は写真による色素沈着評価において色素沈着が抑制されることを確認する方法、若しくは、分光測色計測定値より算出したメラニンインデックスを下げる、又はL値を上げることを確認する方法で判断し得る。中でも、分光測色計測定値より算出したメラニンインデックスを下げる、又はL値を上げる方法が好ましい。
【0021】
[1-1.メラニン産生関連タンパク質の産生抑制剤]
本発明のメラニン産生関連タンパク質の産生抑制剤は、D-Asn、D-Phe、D-Trp、D-Asp、D-Glu、D-Cys及びD-Hisからなる群から選択される少なくとも1種のD-アミノ酸を有効成分とする。有効成分は、D-Asn、D-Phe、D-Trp、及びD-Hisからなる群から選択される少なくとも1種のD-アミノ酸であることが好ましい。メラニン産生関連タンパク質は、チロシナーゼ、チロシナーゼ関連タンパク質1、及びメラノコルチン1レセプターからなる群から選択される少なくとも1種である。そのため、チロシナーゼ、チロシナーゼ関連タンパク質1、及びメラノコルチン1レセプターからなる群から選択される少なくとも1種のメラニン産生関連タンパク質の産生を抑制するので、しみ、そばかす、くすみを改善又は抑制することができる。上記D-アミノ酸は、それらの塩であってもよく、美白剤に関して上述したとおりである。
【0022】
本発明のメラニン産生関連タンパク質の産生抑制剤により産生が抑制されるタンパク質は、チロシナーゼ、チロシナーゼ関連タンパク質1、及びメラノコルチン1レセプターからなる群から選択される少なくとも1種である。
チロシナーゼは、しみに強く関連するタンパク質であり、メラニン産生の最初の反応を触媒する。
チロシナーゼ関連タンパク質1は、しみに強く関連するタンパク質であり、メラニン産生のなかで、チロシナーゼの次の段階を触媒する。
メラノコルチン1レセプターは、しみに強く関連するタンパク質であり、α-MSH(メラノサイト刺激ホルモン)受容体である。
【0023】
本発明のメラニン産生関連タンパク質の産生抑制剤は、必要に応じてD-Asn、D-Phe、D-Trp、D-Asp、D-Glu、D-Cys及びD-His以外のメラニン産生関連タンパク質の産生抑制剤を含有し、メラニン産生関連タンパク質の産生抑制組成物を形成していてもよい。
【0024】
[2.皮膚化粧料及び皮膚外用剤(皮膚化粧料組成物及び皮膚外用剤組成物)]
本発明の皮膚化粧料及び皮膚外用剤は、上記の美白剤又はメラニン産生関連タンパク質の産生抑制剤を含む。上記の美白剤又はメラニン産生関連タンパク質の産生抑制剤の含有量は、皮膚化粧料及び皮膚外用剤の種類に応じて適宜調整すればよい。D-アミノ酸の合計量で換算した場合の好適な含有量の下限は、通常、0.01質量%以上であり、好ましくは0.1質量%以上であり、さらに好ましくは1質量%以上である。上限は、通常、30質量%以下であり、好ましくは10質量%以下である。
【0025】
本発明の皮膚化粧料及び皮膚外用剤は、ポリオール化合物、界面活性剤、高級アルコール、増粘剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、キレート剤、防腐剤及びシリコーンからなる群より選択される少なくとも1種の基剤を更に含んでもよく、含むことが好ましい。
【0026】
(ポリオール化合物)
ポリオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、ブチルエチルプロパンジオール、ポリプロピレングリコール共重合体、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ソルビトールが挙げられる。中でも、ブチレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、及びソルビトールからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0027】
(界面活性剤)
界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンソルビタンオレイン酸エステル、高級脂肪酸石けん、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルエーテルリン酸エステル塩、N-アシルアミノ酸塩、アシルN-メチルタウリン塩等のアニオン界面活性剤;塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム等のカチオン界面活性剤;コカミドプロピルベタイン、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルアミドジメチルアミノ酢酸ベタイン、2-アルキル-N-カルボキシ-N-ヒドロキシイミダゾリニウムベタイン等の両性界面活性剤;グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン誘導体(リゾレシチン)、ポリオキシエチレン型(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル等)、多価アルコールエステル型、エチレンオキシド・プロピレンオキシドブロック共重合体等の非イオン界面活性剤が挙げられる。中でも、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン誘導体、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、及びポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0028】
(高級アルコール)
高級アルコールとしては、例えば、セタノール、ベヘニルアルコール、イソヘキサデシルアルコールが挙げられる。中でも、ベヘニルアルコールが好ましい。
【0029】
(増粘剤)
増粘剤は、例えば、ポリアクリル酸、カラギーナン、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシビニルポリマー、ポリオキシエチレングリコールジステアリン酸エステル、アクリル酸系ポリマー、セルロース系天然ポリマー、エタノール、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、ミリスチン酸カリウムが挙げられる。中でも、アクリル酸系ポリマー、キサンタンガム、及びセルロース系天然ポリマーからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0030】
(紫外線吸収剤)
紫外線吸収剤としては、例えば、ブチルメトキシベンゾイルメタン、パラジメチルアミノ安息香酸オクチル、パラメトキシ桂皮酸2-エチルヘキシル等の桂皮酸誘導体、ジメトキシベンジリデンジオキソイミダゾリジンプロピオン酸エチルヘキシルが挙げられる。中でも、桂皮酸誘導体が好ましい。
【0031】
(紫外線散乱剤)
紫外線散乱剤としては、酸化チタン及び酸化亜鉛の少なくともいずれかが好ましい。
【0032】
(キレート剤)
キレート剤としては、例えば、エチドロン酸、エデト酸三ナトリウム等のエチレンジアミン四酢酸(又はその誘導体)が挙げられる。中でも、エチレンジアミン四酢酸が好ましい。
【0033】
(防腐剤)
防腐剤としては、パラベン及びフェノキシエタノールの少なくともいずれかが好ましい。パラベンとしては例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン等が挙げられる。
【0034】
(シリコーン)
シリコーンとしては、例えば、メチルポリシロキサン、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、シクロヘキサシロキサン、シクロペンタシロキサン、トリメチルシロキシケイ酸、ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体、シリコンフルイド、シリコーンゴム、シリコーン油が挙げられる。
【0035】
本発明の皮膚化粧料又は皮膚外用剤は、上記以外の1又は2以上の他の基剤を含んでもよい。他の基剤は、通常の皮膚化粧料又は皮膚外用剤に用いられる基剤であればよく、例えば、油性基剤、水溶性基剤、乳化剤、安定化剤、pH調整剤、保存剤、他の機能性成分(生理活性成分)、トリエチルヘキサノイン等の香料、色素、溶剤、天然物抽出物、上記のD-アミノ酸以外のアミノ酸(誘導体)が挙げられる。
【0036】
油性基剤としては、例えば、ヒマシ油、綿実油、胡麻油、ホホバ油、オリーブ油、カカオ脂等の植物油脂;モクロウ、液状ラノリン等のラノリン、キャンデリラロウ、ミツロウ、カルナウバロウ等のロウ;ワセリン、流動パラフィン、固形パラフィン等のパラフィン、スクワラン、オレフィンオリゴマー、プラスチベース等の高級炭化水素;ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸等の脂肪酸及びそれらのエステル;白灯油等のベースワックス;天然高分子、水添ポリイソブテンが挙げられる。
【0037】
水溶性基剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体(例えば、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カチオン化セルロース)、カルボキシビニルポリマー、エステル(例えば、イソプロピルミリステート、イソプロピルパルミテート、ステアリルステアレート、ミリスチン酸オクチルドデシル、オレイン酸オクチルドデシル、2-エチルヘキサン酸トリグリセリド)が挙げられる。
【0038】
乳化剤としては、例えば、ステアリルアルコール、グリセリルモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ジグリセリンモノステアリン酸エステル、ポリソルベート60、ミリストイルメチル-β-アラニン(フィトステリル/デシルテトラデシル)が挙げられる。
【0039】
安定化剤としては、例えば、球状ポリアクリル酸アルキル粉末、ジメチルジステアリルアンモニウムヘクトライト、アスコルビン酸、ピロ亜硫酸ナトリウム、ジェランガム、ペクチンが挙げられる。
pH調整剤としては、例えば、リン酸塩緩衝剤、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエタノールアミンが挙げられる。
保存剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸エチル、安息香酸ナトリウム、サリチル酸、ソルビン酸、亜硫酸水素ナトリウム、フェノキシエタノールが挙げられる。
溶剤としては、例えば、アルギニン水溶液、精製水が挙げられる。
色素としては、例えば、赤202、黄色4、青色1、ベンガラ、黄酸化鉄、黒酸化鉄が挙げられる。
【0040】
他の機能性成分としては、例えば、コウジ酸、リン酸トリオレイル、スクワラン、エチルヘキサン酸セチル、トコフェロール、マイカ、ビス(N-ラウロイル-L-グルタミン酸・N-ラウロイル-サルコシン)ダイマージリノレイル、酢酸トコフェロール、チオタウリン、ハチミツ、ラウロイルサルコシンイソプロピル、ラウロイルリシン、タルク、ジブチルエチルヘキサノイルグルタミド、ジブチルラウロイルグルタミド、ベントナイト、タウリン、アルブチン、パンテノール、ナイアシンアミド、ピリドキシン塩酸塩、レチノール、カロチン、リボフラビン、ユビキノン、ヒアルロン酸ナトリウム、水溶性コラーゲン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、乳酸稈菌、乳発酵液、ホエイ、ヨーグルトエキス、加水分解カゼインナトリウム、ダイズ発酵エキス、塩化ベンザルコニウム、トリクロサン、サリチル酸、クエン酸、ビサボロール、塩化カルシウム、カプリル酸グリセリル、ミネラルオイル、ラウロイルグルタミン酸ナトリウム、コカミドMEA、コカミドメチルMEA、ポリビニルピロリドン、ココアンホ酢酸ナトリウム、ポリクオタニウム、グアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリドが挙げられる。
天然物抽出物としては、例えば、ラベンダーエキス、ペパーミントエキス、セージエキス、アニスエキス、バラエキス、ヒノキ水、ルイボスエキス、ラベンダー抽出物、クララエキスが挙げられる。
アミノ酸(誘導体)としては、例えば、L-ロイシン、L-イソロイシン、L-バリン、L-フェニルアラニン、L-トリプトファン、L-アスパラギン酸、L-グルタミン酸ナトリウム、L-リシン(塩酸塩)、L-アルギニン、L-スレオニン、L-アラニン、L-プロリン、L-セリン、グリシン、アセチルグルタミン、L-ヒスチジン、ピリドキシルセリン、カルノシン、アセチルメチオニン、アセチルシステイン、ポリアスパラギン酸ナトリウム、シトルリン、オルニチン、ベタイン、L-チロシン、L-アスパラギン、L-メチオニンが挙げられる。
上記の他の基剤の含有量は、適宣設定すればよく、特に限定されるものではない。
【0041】
本発明の皮膚化粧料又は皮膚外用剤の剤形は特に限定されないが、例えば、液体、ローション剤、軟膏剤、クリーム剤、プラスター、テープ製剤、粉末、化粧水、ジェルが挙げられる。中でも、乳液、クリーム、化粧水、又はジェルが挙げられ、これらのいずれかであることが好ましい。
【0042】
本発明の皮膚化粧料又は皮膚外用剤の使用部位は特に限定されなく、通常、皮膚、粘膜に適用される。中でも、好ましくは皮膚に使用される。そのため、本発明の皮膚化粧料又は皮膚外用剤の使用形態としては、例えば、水溶液、乳化物、粉末分散体、エマルジョン(水中油型、油中水型等)が挙げられる。より詳細には、液剤、油剤、ローション、ゲル、ゾル、乳液、懸濁液、クリーム、軟膏、貼付剤、スティック等が挙げられる。いわゆる化粧料としては、例えば、ローション、美容液等の化粧水;エモリエント乳液、ミルキーローション、ナリシング乳液、クレンジング乳液等の乳液;エモリエントクリーム、マッサージクリーム、クレンジングクリーム、メイクアップクリーム等のクリーム;スプレー;パック、ファンデーション、口紅、リップスティック、アイシャドウ、チーク、おしろい、カラーパウダー等のメイクアップ用化粧料、洗顔料、メイク落とし、ボディシャンプー、石鹸等の皮膚洗浄用化粧料が挙げられる。化粧料の他、医薬部外品、医薬品、食品(サプリメント、及び飲料を含む)として使用してもよい。
【0043】
本発明の皮膚化粧料又は皮膚外用剤の乳液又はクリームとしての構成は、例えば、本発明の剤と、ポリオール群(ブチレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール、及びジプロピレングリコールからなる群から選択される少なくとも1種)と、界面活性剤群(グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及びレシチン誘導体からなる群から選択される少なくとも1種)と、高級アルコール群(ベヘニルアルコール)と、増粘剤群(アクリル酸系ポリマー及びキサンタンガムの少なくともいずれか)と、紫外線吸収剤群(桂皮酸誘導体)と、紫外線散乱剤群(酸化チタン及び酸化亜鉛の少なくともいずれか)と、キレート剤群(エチレンジアミン四酢酸)と、防腐剤群(パラベン及びフェノキシエタノールの少なくともいずれか)と、シリコーンと、を含有する構成が挙げられる。
【0044】
本発明の皮膚化粧料又は皮膚外用剤の化粧水としての構成は、例えば、本発明の剤と、ポリオール群(ブチレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール、及びソルビトールからなる群から選択される少なくとも1種)と、界面活性剤群(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、及びポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種)と、増粘剤群(アクリル酸系ポリマー、キサンタンガム、及びセルロース系天然ポリマーからなる群から選択される少なくとも1種)と、紫外線吸収剤群(桂皮酸誘導体)と、キレート剤群(エチレンジアミン四酢酸)と、防腐剤群(パラベン及びフェノキシエタノールの少なくともいずれか)と、シリコーンと、を含有する構成が挙げられる。
【0045】
本発明の皮膚化粧料又は皮膚外用剤のジェルとしての構成は、例えば、本発明の剤と、ポリオール群(ブチレングリコール、グリセリン、及びポリエチレングリコールからなる群から選択される少なくとも1種)と、界面活性剤群(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、及びポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種)、増粘剤群(アクリル酸系ポリマー、キサンタンガム、及びセルロース系天然ポリマーからなる群から選択される少なくとも1種)と、紫外線吸収剤群(桂皮酸誘導体)と、キレート剤群(エチレンジアミン四酢酸)と、防腐剤群(パラベン及びフェノキシエタノールの少なくともいずれか)と、シリコーンと、を含有する構成が挙げられる。
【0046】
本発明の美白剤及びメラニン産生関連タンパク質の産生抑制剤は、美白作用を通じて、加齢、紫外線、炎症等の原因によるしみ、そばかす、くすみの予防、抑制、治療に優れた効果を発揮することができる。
【0047】
[3.評価方法]
本発明の評価方法は、被検者の肌のメラニンインデックス及びL値の少なくともいずれかを測定して被検者の肌の外観を確認すること、前記被検者の肌の色素沈着部位から角層を採取すること、角層に含まれる少なくとも1種のD-アミノ酸量を特定すること、前記肌の外観と前記D-アミノ酸量との関係を、被検者の結果の間で比較することを含む、D-アミノ酸による肌の評価方法である。
本発明の評価方法は、大別すると、次の2つの実施態様がある。一実施態様は、肌の外観と各成分との関係を、被検者(予備被検者)の結果の間で比較(同じ被検者の複数の結果の間での比較でもよいし、複数の異なる被検者の結果の間での比較でもよい)し、相関関係があるか否かを確認し、相関関係が確認された場合に、肌の外観とそのD-アミノ酸量との相関関係を被検者(予備被検者と同一でもよいし別でもよい)の肌の評価の指標として選抜する実施態様である。他の実施態様は、被検者に皮膚化粧料、皮膚外用剤、これらの候補物質等のサンプルを投与した前後の角質中のD-アミノ酸量を特定し、上記の相関関係に照らして得られた投与前後の肌の評価を比較して、サンプルの評価、又は、被検者の肌に対する有効性の評価を行う実施態様である。
【0048】
被検者は、男性及び女性のいずれであってもよい。但し、美白に敏感であることから女性であることが好ましく、加齢によるしみ又はくすみに関心を持ちはじめる20代若しくは30代の女性、又は加齢によるしみ又はくすみのケアを行うことが多い40代若しくは50代の女性が更に好ましい。
【0049】
本発明の評価方法において、肌の外観は、メラニンインデックス及びL値の少なくともいずれかで確認してもよい。
しみ又はくすみのある人は、皮膚細胞の機能低下、中でも、紫外線暴露等の外部刺激によるメラノサイトのメラニン産生亢進、それに続くケラチノサイトへのメラニンの過剰輸送、蓄積を原因とする細胞機能(細胞分化増殖機能)の低下により、ケラチノサイトにおけるメラニン量が増加し易い。そのため、メラニンインデックスは、しみ及びくすみの無さ、すなわち肌の美白を評価する指標として用いられている。
値は、色の明度を表す指標であり、0~100の数値で評価される指標として用いられている。0は黒色、100は白の拡散色を示し、数値が高いほど美白効果に優れると言える。
【0050】
メラニンインデックス及びL値の測定は、従来公知の方法で行えばよい。例えば、パルスキセノンランプを光源に用い400~700nmの範囲において反射光を測定できる分光測色計CM-700d(コニカミノルタ社製)及びデータ解析に肌解析ソフトウェアCM-SAの組み合わせを用いる測定が挙げられる。メラニンインデックスは少ない方が美白効果に優れているといえる。肌の外観は、Courage+Khazaka社のMexameterMX18を用いて、肌に660nm又は880nmの波長の光を照射した際の反射された光から測定できるメラニンの濃さで評価してもよい。
【0051】
肌の外観の測定部位は特に限定されるものではない。但し、紫外線等の外部刺激による過剰なメラニン産生を原因とするしみ、そばかす、くすみを評価する観点から、日常生活で外部にさらされる部位であることが好ましい。例えば、頬や腕が挙げられる。
測定箇所は、1か所であってもよく、2か所以上であってもよい。
【0052】
角層は、肌の外観の色素沈着部位から、テープストリッピング法等の従来公知の方法で採取すればよい。テープストリッピング法とは皮膚に粘着テープを貼り付けて、粘着テープを剥がすことにより、粘着面に付着した角層を採取する方法である。
角層の採取方法としては、例えば、測定部位に市販の粘着テープを押し付けてはがした際に、粘着テープに付着した角層を採取する方法が挙げられる。市販の粘着テープとしては、例えば、アサヒバイオメッド社製角質チェッカー、モリテックス社製角層シール、PROMOTOOL社製角質チェッカー(ディスクタイプW、ディスクタイプG、PROタイプ)、Integral社製Corneofix、3M社製透明テープ、3M社製透明両面テープ、ニチバン社製セロテープ(登録商標)が挙げられる。
【0053】
D-アミノ酸量を特定する方法は、特に限定されず、例えば、直接法(プレカラム誘導体化した後、キラル固定相カラムを用いるクロマトグラフィーで分離する方法)、又は間接法(キラルな誘導体化試薬でジアステレオマーに誘導体化した後、逆相カラムを用いるクロマトグラフィーで分離する方法)が挙げられる。
直接法としては、例えば、NBD-Fでプレカラム蛍光誘導体化をした後、キラルカラムで分離して蛍光検出する方法が挙げられる。詳細には、“Comprehensive analysis of branched aliphatic D-amino acids in mammals using an integrated multi-loop two-dimensional column-switching high-performance liquid chromatographic system combining reversed-phase and enantioselective columns.” J Chromatogr A. 2007 Mar 2;1143(1-2):105-11. Hamase K, Morikawa A, Ohgusu T, Lindner W, Zaitsu K.を参照し得る。
間接法として、例えば、OPAとキラルチオールで誘導体化して逆相カラムで分離し、蛍光検出する方法、及びDBD-PyNCSで誘導体化して逆相カラムで分離して、質量分析計で検出する方法が挙げられる。詳細には、“High-performance liquid chromatography analysis of naturally occurring D-amino acids in sake.” J Chromatogr B Analyt Technol Biomed Life Sci. 2011 Nov 1;879(29):3259-67. Gogami Y, Okada K, Oikawa T.“Determination of DL-amino acids, derivatized with R(-)-4-(3-isothiocyanatopyrrolidin-1-yl)-7-(N,N-dimethylaminosulfonyl)-2,1,3-benz oxadiazole, in nail of diabetic patients by UPLC-ESI-TOF-MS” J. Chromatogr. B, 879, 3220-3228 (2011). J.Z. Min, S. Hatanaka, H.F. Yu, T. Higashi, S. Inagaki, T. Toyo’okaを参照し得る。
【0054】
特定対象であるD-アミノ酸は、D-Asn、D-Val、D-allo-Thr、D-Lys、D-Gln、D-His、D-Leu、D-Phe、D-Pro、D-Ser、D-Trp、及びD-Tyrからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
上記のより好ましいD-アミノ酸は、20代から30代、及び40代から50代の少なくともいずれかの年代の女性の肌のメラニンインデックス及びL値の少なくともいずれかと相関関係を有する成分であることが、本発明の評価方法から確認し得る。
本発明のD-アミノ酸による肌の評価方法の一実施態様により、特定のD-アミノ酸と肌の外観との相関について新たな知見がもたらされる。そのため本発明の評価方法は、天然物に由来する美白剤等の皮膚化粧料、又は皮膚外用剤の開発へ応用し得る。
【0055】
より詳細に、被検者の年代とD-アミノ酸の種類として以下のことが言える。被検者が、20代又は30代の女性である場合、D-アミノ酸は、D-Lys、D-Gln、D-His、D-Pro、D-Trp、及びD-Tyrからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0056】
被検者が、40代又は50代の女性である場合、D-アミノ酸は、D-Asn、D-Val、D-Allo-Thr、D-Lys、D-Gln、D-His、D-Leu、D-Phe、D-Ser、D-Trp、及びD-Tyrからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0057】
D-アミノ酸量の特定方法は、特に限定されない。例えば、液体クロマトグラフィー(LC)又はガスクロマトグラフィー(GC)を用いる質量分析法、定量用酵素を用いる酵素法、バイオアッセイ法が挙げられる。
上述した中でも、D-アミノ酸の特定と含有量の測定を同時に行うことができるので、液体クロマトグラフ-タンデム型質量分析計が好ましい。
【0058】
D-アミノ酸量は、角層に含まれるタンパク質量あたりのD-アミノ酸含有量であることが好ましい。これにより、角層の採取方法に由来する実験誤差を低減することができる。
タンパク質量の測定方法は、特に限定されず、例えば、紫外吸収法、BCA法、ブラッドフォード法、ローリー法、ビューレット法等の分光光度計を用いた測定方法、電気泳動による測定方法が挙げられる。中でも、BCA法が好ましい。
【0059】
本発明のD-アミノ酸による肌の外観の評価方法によれば、肌のメラニンインデックス及びL値の少なくともいずれかと、D-アミノ酸量との関係が、複数の被検者から得られ、これらを比較することで、肌の外観と相関するD-アミノ酸を特定し得る。
【0060】
本発明のD-アミノ酸による肌の外観の評価方法を用いることで、D-アミノ酸の含有量により肌の外観を評価し得る。そのため、同一被検者を対象として、皮膚化粧料又は皮膚外用剤等のサンプルを投与した前後において、相関関係が認められたD-アミノ酸の含有量を比較することで、対象者へのサンプルの有効性を確認できる。そのため、対象者に適切な皮膚化粧料又は皮膚外用剤であるか否かを確認する方法としても利用し得る。
本発明のD-アミノ酸による肌の外観の評価方法の他の実施態様により、皮膚化粧料又は皮膚外用剤を投与する前後で、従来の測定方法のようにメラニンインデックスの低下又はL値の増加による短期的な評価のみならず、投与直後にはメラニンインデックスの低下又はL値の増加が観測されなくても、D-アミノ酸の含有量により長期的にメラニンインデックスの低下又はL値の増加を予想し、美白効果の可能性があるか否かを評価することができる。
【実施例
【0061】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本実施例により本発明が限定されるものではない。
【0062】
(メラニンインデックス及びL値の測定)
被検者は洗顔した後、恒温恒湿室(湿度40%、室温20℃)にて20分間馴化した。
【0063】
馴化後、分光測色計CM-700d(コニカミノルタ社製)及びデータ解析に肌解析ソフトウェアCM-SAを用いて、被検者の頬中央部を測定した。
【0064】
(テープストリッピング法による角層採取)
上記測定終了後、被検者の頬中央部に3cm×3cmにカットしたテープを貼付し、角層を採取した。1回目に採取した最表層の角層は分析には利用せず、2回目以降に採取した角層を分析に利用した。
【0065】
(D-アミノ酸抽出操作)
被検者(全員女性、年齢構成:20-30代 31名、40-60代 40名:合計人数 71名)の肌状態(メラニンインデックス及びL値)を測定した同じ部位の顔面頬部にテープ(3×3cm)を貼り、テープストリッピング法により角層を採取した。採取した1層目の角層は分析には使用せず、分析は2あるいは3層目を利用した。採取したテープは、コニカルチューブ(50ml)に入れて密閉し、-80℃にて保存した。
【0066】
採取した角層を、95%メチルアルコール水溶液を用いて超音波処理を2回繰り返し、水溶成分を抽出した。抽出液には内部標準液(D-Arg等複数種のD,L-アミノ酸安定同位体を含む)を添加して行った。得られたメチルアルコール水溶液は、遠心エバポレーターで乾固し、D-アミノ酸分析用のサンプルとした。
【0067】
(D-アミノ酸の定量分析)
濃縮乾固したサンプルに50μLの水を添加してボルテックスミキサーで撹拌して再溶解し、サンプル溶液とした。20μLのサンプル溶液に、濃度200mMのほう酸緩衝液(pH8.8)を10μL加えて撹拌した後、5mg/mLの(R)-N-(hydroxysuccinimidyl carbamate)-β-(3-pyridyl)-alanine methyl ester/アセトニトリル溶液を20μL加えて室温で10分間反応させた。反応溶液に0.1M塩酸水溶液を60μL添加して分析サンプルとした。分析にはLC/MS/MSを用い、以下の条件で分析した。
【0068】
(HPLC条件)
装置 :Nexera X2(島津製作所製)
ガードカラム :Waters ACQUITY BEH C18 VanGuard
(2.1×50mm、1.7μm)
カラム :Waters ACQUITY UPLC BEH C18
(2.1×100mm、1.7μm)
移動相A :10mM重炭酸アンモニウム水溶液(pH9.5)
移動相B :80%メタノール/水
流速 :0.5mL/min
カラム温度 :50℃
サンプル注入量:1μL
【0069】
グラジエント条件を表1に示す。
【表1】
【0070】
(質量分析計条件)
装置 :Triple Quad 6500(SCIEX)
イオン化法 :ESI、 Positiveモード
スキャンタイプ:SRM(Selected Reaction Monitoring)
【0071】
トランジッションを表2に示す。
【表2】
【0072】
(タンパク質抽出)
水溶成分を抽出した後の上記テープをマイクロチューブに入れ、ヘキサンを用いて不溶画分を溶出した。テープを除去した後、不溶画分をヘキサンにて洗浄し、タンパク質定量分析用サンプルとした。
【0073】
(タンパク質定量分析)
上記「D-アミノ酸抽出操作」にて利用したチューブ等に、NaOH(0.5mol/L)-SLS(0.05wt%)水溶液を加え、60分間、90℃で加熱した。これらの溶液に溶出されたタンパク質を定量した。
【0074】
タンパク質の定量には、Micro BCA Protein Assay Reagent(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を利用し、MicroBCA法を実施した。サンプル溶液とMicroBCA溶液を同量加え、1時間、50℃で加熱振とう(1100rpm)した。分光器にて、吸光度(562nm)を測定してタンパク質を定量した。
【0075】
評価方法の実施例及び比較例
表3に、D-Asn、D-Val、D-allo-Thr、D-Lys、D-Gln、D-His、D-Leu、D-Phe、D-Pro、D-Ser、D-Trp、D-Tyrの角層中の含有量と肌のメラニンインデックス及びL値の相関を示す。相関係数の絶対値が0.3以上を「中程度の相関」として「A」と評価し、0.2以上を「弱い相関」として「B」と評価した。
【表3】
【0076】
表3からわかるように、D-Gln、D-His、D-Leu、D-Phe、D-Pro、D-Ser、D-Trp、及びD-TyrのD-アミノ酸の角層中の含有量は、若い女性及び年配女性の少なくともいずれかと肌のメラニンインデックスに相関が認められた。また、D-Gln、D-Leu、D-Phe、D-Ser、D-Trp、D-Tyr、D-Asn、D-Val、D-allo-Thr、及びD-LysのD-アミノ酸の角層中の含有量は、若い女性及び年配女性の少なくともいずれかと肌のL値に相関が認められた。
【0077】
メラニンインデックスと、D-アミノ酸の含有量と、を比較したプロットを図1及び2に示し、L値と、D-アミノ酸の含有量と、を比較したプロットを図3及び4に示す。図1~4において、アミノ酸含有量は、上記「D-アミノ酸の定量分析」にて求めたアミノ酸含有量を上記「タンパク質定量分析」にて求めたタンパク質量で除した値である。
【0078】
美白剤の実施例1~4
(正常ヒト表皮色素細胞を用いた、D-アミノ酸の「美白」に関する遺伝子発現試験)
正常ヒト表皮色素細胞(ライフテクノロジーズ社)を、Medium 254(ライフテクノロジーズ社)(HMGS特注増殖添加剤セット含有(クラボウ社))にて37℃、5%CO、飽和蒸気下で培養した。コンフルエント状態になった細胞を、6ウェルプレートに3.0×10(cells/ウェル)の播種密度で播種した。
【0079】
評価サンプルは、各D-アミノ酸を500μMになるように上記培地にて調整したものを利用した。播種翌日、各評価サンプルを500μMに調整し、各ウェル培地を交換した。24時間培養し、RNeasy mini kit(キアゲン社)を用いて細胞からRNAを抽出し、High-Capacity cDNA Reverse Transcription Kit with RNase Inhibitor(サーモフィッシャー社)を用いてcDNAに合成した。このcDNAを鋳型にしてRT-PCR法(7500 fast system(サーモフィッシャーサイエンティフィック社))により、サンプル添加群とコントロール群とを比較し遺伝子発現量の増減を評価した。チロシナーゼ及びチロシナーゼ関連タンパク質1の少なくともいずれかの遺伝子発現量を評価した。結果を表4に示す。表4中、TYRはチロシナーゼを、TRP1はチロシナーゼ関連タンパク質1を、MC1Rはメラノコルチン1レセプターを示す。
【表4】
【0080】
表4から、D-Asnを用いた場合、100μMの濃度で、メラノコルチン1レセプター遺伝子、500μMの濃度で、チロシナーゼ、チロシナーゼ関連タンパク質1遺伝子の発現量の減少が認められた。また、D-Pheを用いた場合、500μMの濃度で、チロシナーゼ、チロシナーゼ関連タンパク質1遺伝子の発現量の減少が認められた。さらに、D-Trpを用いた場合、500μMの濃度でチロシナーゼ関連タンパク質1遺伝子の発現量の減少が認められた。
【0081】
図5は、D-Asn(実施例2)のメラニン産生関連タンパク質遺伝子(チロシナーゼ)の増幅量(コントロールの増幅量に対する相対値)を示すグラフである。図6は、D-Asn(実施例2)のメラニン産生関連タンパク質遺伝子(チロシナーゼ関連タンパク質1)の増幅量(コントロールの増幅量に対する相対値)を示すグラフである。図7は、D-Asn(実施例1)のメラニン産生関連タンパク質遺伝子(メラノコルチン1レセプター)の増幅量(コントロールの増幅量に対する相対値)を示すグラフである。図8は、D-Phe(実施例3)のメラニン産生関連タンパク質遺伝子(チロシナーゼ)の増幅量(コントロールの増幅量に対する相対値)を示すグラフである。図9は、D-Phe(実施例3)のメラニン産生関連タンパク質遺伝子(チロシナーゼ関連タンパク質1)の増幅量(コントロールの増幅量に対する相対値)を示すグラフである。さらに、図10は、D-Trp(実施例4)のメラニン産生関連タンパク質遺伝子(チロシナーゼ関連タンパク質1)の増幅量(コントロールの増幅量に対する相対値)を示すグラフである。
【0082】
これらの結果は、D-アミノ酸がメラニン産生関連タンパク質の産生を抑制し、美白剤の有効成分として有用であることを示している。
【0083】
実施例5
(細胞毒性試験:ニュートラルレッド法)
正常ヒト表皮色素細胞を6ウェルプレートに播種し、翌日、D-アミノ酸(500μM)を、細胞の培養用培地にて調整したサンプルを添加した。24時間後、プレートから評価サンプル溶液を取り除き、各ウェルを2mlの細胞の培地を用いてリンスした。NR(ニュートラルレッド(クラボウ社))入り培地を2ml/wellで滴下し、2時間、37℃、5%CO、飽和蒸気下で静置した。
【0084】
培地(ニュートラルレッド入り)を捨て、洗浄固定液(2wt%塩化カルシウム溶液及び2wt%ホルマリン溶液を等量で混合)を2ml/well添加し、1分間静置後、洗浄固定液を取り除いた。NR抽出液(50容量%エチルアルコール、1容量%酢酸)2ml/wellを添加し、プレートシェイカーにて15分間震蕩した。生細胞へのNRの取り込みは、マイクロプレートリーダー(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)でNR抽出液の540nmの吸光度を測定することにより調べた。コントロール(サンプル添加なし)のNR抽出液の測定値(吸光度)を100%と規定した場合の、所定濃度の各サンプル添加細胞のNR抽出液の吸光度を相対%にすることにより、各サンプルの細胞毒性を算出した。評価結果を図11に示す。
【0085】
図11から、500μMの濃度では、各D-アミノ酸成分は、細胞毒性がないことがわかる。従って、細胞毒性の無い濃度において、D-アミノ酸が各種メラニン産生関連タンパク質の遺伝子発現量を低減し得ることを見出した。
【0086】
実施例6
(黒色メラニン産生抑制試験1)
B16メラノーマ細胞をDMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium)(高グルコース、血清10%含有)にて培養した。コンフルエントになった細胞を、トリプシンにて剥がし、96ウェルプレートに播種した。翌日、細胞がプレートに接着後、各評価サンプル(コントロール(サンプル添加なし)、D-アミノ酸(D-Asp、D-Glu、D-Cys、D-Trpのいずれか))を所定評価濃度(1mMあるいは5mM)を添加したDMEM(高グルコース、血清10%含有、フェノールレッド不含)と培地交換し、3日間培養した。プレートシェーカーにて96ウェルプレートを5分間震とうし、450nmにおける吸光度をマイクロプレートリーダー(Multiskan FC、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)にて測定した。コントロール(サンプル添加なし)の測定値(吸光度)を100%と規定した場合の、各サンプル所定濃度添加3日後の吸光度を相対%にすることにより、コントロール中の黒色メラニン量を100%とした場合の、各サンプルの黒色メラニン産生率を算出した。結果を図12~15に示す。
【0087】
図12~15から、各サンプルの1mM又は5mMの評価濃度において添加により細胞の黒色メラニン産生率が低下することがわかる。
【0088】
実施例7
(細胞毒性試験(ニュートラルレッド法))
実施例6にて吸光度を測定した後、プレートから評価サンプル溶液を取り除き、各ウェルを200μlのDMEM(高グルコース、血清10%含有)を用いてリンスした。NR(ニュートラルレッド)(0.5%)入り培地を200μl/wellで滴下し、2時間、37℃、5%CO、飽和蒸気下で静置した。培地を捨て、洗浄固定液(2wt%塩化カルシウム溶液及び2wt%ホルマリン溶液を等量で混合)を200μl/well添加し、1min静置後、洗浄固定液を取り除いた。NR抽出液(酢酸酸性エタノール)200μl/wellを添加し、プレートシェイカーにて15min震とうした。生細胞へのNRの取り込みは、マイクロプレートリーダー(Multiskan FC、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)でNR抽出液の540nmの吸光度を測定することにより調べた。コントロール(サンプルなし)のNR抽出液の測定値(吸光度)を100%と規定した場合の、所定濃度の各サンプル添加細胞のNR抽出液の吸光度を相対%にすることにより、各サンプルの細胞生存率を算出した。結果を図16~19に示す。
【0089】
図16~19から、1mM又は5mMの評価濃度において各サンプルの細胞毒性はいずれも低いことがわかる。実施例6及び7の結果は、各サンプルがメラニン産生抑制活性を示し、かつ細胞毒性が低いことを示している。
【0090】
実施例8
(チロシナーゼ活性抑制試験)
正常ヒト色素細胞をMedium254(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)にHMGS特注増殖添加剤セット(倉敷紡績株式会社製)を添加した培地にて培養した。コンフルエントになった細胞を、トリプシンにて剥がし、6ウェルプレートに播種した。翌日、細胞がプレートに接着後、前述の培地からホルボール12-ミリスタート13-アセタート(PMA)を除いた培地で培地交換した。さらに48時間後、各評価サンプル(コントロール(サンプル添加なし)、D-アミノ酸)を所定濃度(1mMあるいは5mM)で添加したPMAを除いた培地と交換し、3日間培養した。培地を除き、1/15に希釈したPBSでリンスした。溶解液(1wt%Triton X-100、1/15に希釈したPBS)を200μl/well添加し、プレートシェイカーにて5min震とうした。ピペッティングにより細胞を溶解、撹拌した溶解液をマイクロチューブに回収し、20μlをタンパク質定量用に分注した。残りの溶解液を遠心分離(9100g、4℃、5min)し、上清40μlを96ウェルプレートに添加した。この96ウェルプレートにL-DOPA溶液(2mg/ml、1/15に希釈したPBS)を100μl/wellで添加し、37℃に加温しながら、1min毎に490nmの吸光度を測定した。測定中は定期的にプレートリーダーによって96ウェルプレートを撹拌した。測定した吸光度から最大メラニン産生速度(単位時間当たりの吸光度の変化)を算出し、コントロール(サンプルなし)の最大メラニン産生速度を100%と規定した場合の、所定濃度の各D-アミノ酸添加細胞の最大メラニン産生速度を相対%にすることにより、各D-アミノ酸のメラニン産生速度率を算出した。結果を図20~24に示す。
【0091】
図20~24から、各サンプルの添加により細胞のメラニン産生速度が低下することがわかる。
【0092】
実施例9
(タンパク質定量)
実施例8のチロシナーゼ活性抑制試験にて分注した細胞溶解液(20μl)にMilliQ水(80μl)を添加し、100μlとした。この溶液中のタンパク質量を、DCプロテインアッセイ(バイオ・ラッド社製)を使用して定量した。測定は、サンプル溶液100μlに対して、A液100μl、B液800μlを混和して行った。コントロール(サンプルなし)のタンパク質量を100%と規定した場合の、所定濃度の各D-アミノ酸添加でのタンパク質量の相対%を算出した。結果を図25~29に示す。
【0093】
図25~29から、各サンプルのタンパク質量はいずれも95%以上であった。実施例8及び9の結果は、各サンプルがチロシナーゼ活性抑制効果を有し、かつ細胞毒性が低いことを示している。
【0094】
(処方例1;美容液)
【表5】
【0095】
(処方例2;クリーム)
【表6】
【0096】
(処方例3;乳液)
【表7】
【0097】
(処方例4;口紅)
【表8】
【0098】
(処方例5;軟膏)
【表9】
【0099】
(処方例6;日焼け止め)
【表10】
【0100】
(処方例7;化粧水)
【表11】
【0101】
(処方例8;ジェリー状パック)
【表12】
【0102】
表12中のD-アミノ酸及びL-アミノ酸の詳細を表13に記す。
【表13】
【0103】
(処方例9;o/w型ファンデーション)
【表14】
【0104】
(処方例10;メイククレンジング)
【表15】
【0105】
(処方例11;洗顔フォーム)
【表16】
【0106】
(処方例12;ボディシャンプー)
【表17】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図15
図16
図17
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図22
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図28
図29