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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】磁気記録媒体
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/70 20060101AFI20221109BHJP
   G11B 5/78 20060101ALI20221109BHJP
   G11B 5/702 20060101ALI20221109BHJP
   G11B 5/738 20060101ALI20221109BHJP
   G11B 5/706 20060101ALI20221109BHJP
   G11B 5/09 20060101ALI20221109BHJP
   G11B 5/39 20060101ALI20221109BHJP
   G11B 5/31 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
G11B5/70
G11B5/78
G11B5/702
G11B5/738
G11B5/706
G11B5/09 331
G11B5/39
G11B5/31 A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019526169
(86)(22)【出願日】2018-04-13
(86)【国際出願番号】 JP2018015573
(87)【国際公開番号】W WO2019003578
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-03-05
(31)【優先権主張番号】P 2017128815
(32)【優先日】2017-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082762
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 正知
(74)【代理人】
【識別番号】100123973
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 拓真
(72)【発明者】
【氏名】三浦 利昭
(72)【発明者】
【氏名】阿部 悟
(72)【発明者】
【氏名】鴨下 裕子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 吏玖
【審査官】中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-123222(JP,A)
【文献】特開2010-238330(JP,A)
【文献】特開平08-115517(JP,A)
【文献】特開2005-259287(JP,A)
【文献】特開2005-149622(JP,A)
【文献】特開2014-154178(JP,A)
【文献】特開2014-088365(JP,A)
【文献】特開2000-025111(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/70
G11B 5/78
G11B 5/702
G11B 5/738
G11B 5/706
G11B 5/09
G11B 5/39
G11B 5/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状の基体と、
磁性粉とバインダとを含む磁性層と
を備え、
前記磁性層側の面に線状の凸部が形成され、
前記バインダのガラス転移点が、75℃以上であり、
前記磁性層側の面から無作為に選び出された5箇所の位置において、10μm×10μmの正方形状の原子間力顕微鏡の観察像を取得した場合に、取得した5箇所の前記観察像のうち4箇所の前記観察像中に、高さ3nm以上20nm以下、幅0.3μm以上1.0μm以下であり、前記観察像の2辺に跨る線状の凸部が存在しない磁気記録媒体。
【請求項2】
前記面の算術平均粗さRaが、1.5nm以下である請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
平均厚みが、5.0μm以下である請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
平均厚みが、4.5μm以下である請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記基体と前記磁性層との間に設けられた非磁性層をさらに備える請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
前記磁性層の平均厚みと前記非磁性層の平均厚みとの総和が、0.7μm以下である請求項5に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
前記磁性層の平均厚みと前記非磁性層の平均厚みとの総和が、0.5μm以下である請求項5に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
前記非磁性層が、針状の非磁性粒子を含み、
前記非磁性粒子の平均長軸長が、70nm以上である請求項5に記載の磁気記録媒体。
【請求項9】
前記非磁性層が、カーボンを含み、
前記非磁性層内における前記カーボンの面積比が、80%以上である請求項5に記載の磁気記録媒体。
【請求項10】
前記磁性粉が、ε酸化鉄またはバリウムフェライトを含む粒子を含む請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項11】
線記録密度が、520kbpi以上である請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項12】
トラックピッチが、2.0μm以下である請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項13】
1.0μm以下の幅を有する再生ヘッドにより再生される請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項14】
トンネル磁気抵抗効果型のヘッドにより再生される請求項1に記載の磁気記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録媒体では、耐久性などの向上の観点から、高いガラス転移点Tgを有するバインダが用いられるようになっている。例えば特許文献1では、磁気記録媒体用バインダとして、ガラス転移点Tgが50~115℃であるポリウレタン樹脂が用いられている。また、特許文献2では、磁気記録媒体用バインダとして、ガラス転移点Tgが70~160℃であるポリウレタン樹脂が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-73623号公報
【文献】特開2015-56189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、75℃以上のガラス転移点Tgを有するバインダを用いた場合、磁気記録媒体のエラーレートが悪化する虞がある。
【0005】
本開示の目的は、エラーレートを向上することができる磁気記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するために、本開示は、長尺状の基体と、磁性粉とバインダとを含む磁性層とを備え、磁性層側の面に線状の凸部が形成され、バインダのガラス転移点が、75℃以上であり、磁性層側の面から無作為に選び出された5箇所の位置において、10μm×10μmの正方形状の原子間力顕微鏡の観察像を取得した場合に、取得した5箇所の観察像のうち4箇所の観察像中に、高さ3nm以上20nm以下、幅0.3μm以上1.0μm以下であり、観察像の2辺に跨る線状の凸部が存在しない磁気記録媒体である。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、エラーレートを向上することができる磁気記録媒体が得られる。なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本開示中に記載されたいずれかの効果またはそれらと異質な効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施形態に係る磁気記録媒体の構成を示す断面図である。
図2】原子間力顕微鏡の断面プロファイルの一例を示す概略図である。
図3】変形例に係る磁気記録媒体の構成を示す断面図である。
図4】変形例に係る磁気記録媒体の構成を示す断面図である。
図5】変形例に係る磁気記録媒体の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の実施形態について以下の順序で説明する。
概要
磁気記録媒体の構成
磁気記録媒体の製造方法
効果
変形例
【0010】
[概要]
本発明者らは、鋭意検討の結果、75℃以上のガラス転移点Tgを有するバインダを用いた場合にエラーレートが悪化する原因は、以下の点にあることを見出した。すなわち、75℃以上のガラス転移点Tgを有するバインダを用いた場合、カレンダ処理時の加熱ロールの温度を高温とする必要がある。しかし、加熱ロールの温度を高温とすると、加熱ロール表面のクラックが媒体表面(磁性層の表面)に転写されてしまい、媒体表面に線状の凸部が形成されやすくなる。このようなクラックが媒体表面に多く形成されると、エラーレートの悪化を招く虞がある。
【0011】
そこで、本発明者らは、上記のエラーレートの悪化の原因を鑑みて、鋭意検討した結果、磁性層側の面から無作為に選び出された5箇所の位置において、10μm×10μmの正方形状の原子間力顕微鏡の観察像を取得した場合に、取得した5箇所の観察像のうち4箇所の観察像中に、高さ3nm以上20nm以下、幅0.3μm以上1.0μm以下であり、観察像の2辺に跨る線状の凸部が存在しないようにすることで、エラーレートを向上できることを見出した。
【0012】
[磁気記録媒体の構成]
以下、図1を参照して、一実施形態に係る磁気記録媒体の構成の一例について説明する。磁気記録媒体は、垂直磁気記録方式の磁気記録媒体であって、長尺状の基体11と、基体11の一方の主面上に設けられた非磁性層(下地層)12と、非磁性層12上に設けられた磁性層(記録層)13とを備える。磁気記録媒体が、必要に応じて、磁性層13上に設けられた保護層(図示せず)および潤滑剤層(図示せず)などをさらに備えるようにしてもよい。また、必要に応じて、基体11の他方の主面上に設けられたバックコート層14をさらに備えるようにしてもよい。
【0013】
磁気記録媒体は長尺状を有し、記録再生の際には長手方向に走行される。磁気記録媒体の最短記録波長は、好ましくは75nm以下である。磁気記録媒体の線記録密度は、好ましくは520kbpi以上、より好ましくは560kbpi以上である。磁気記録媒体のトラックピッチは、好ましくは2.0μm以下、より好ましくは1.5μm以下である。
【0014】
磁気記録媒体は、例えばリング型ヘッドによりデータが記録されるものである。磁気記録媒体は、好ましくは1.0μm以下、より好ましくは0.5μm以下の幅を有する再生ヘッドによりデータが再生されるものである。再生ヘッドとしては、例えばトンネル磁気抵抗効果(Tunnel Magnetoresistive:TMR)型のヘッドが用いられる。
【0015】
(線状の凸部の存在)
磁性層13側の媒体表面から無作為に選び出された5箇所の位置において、10μm×10μmの正方形状の原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)の観察像(以下「AFM像」という。)を取得した場合に、媒体表面が以下のような構成を有している。すなわち、取得した5箇所のAFM像のうち4箇所のAFM像中に、高さ3nm以上20nm以下、幅0.3μm以上1.0μm以下であり、AFM像の2辺に跨る線状の凸部が存在しない。ここで、上記AFM像の2辺は、正方形状のAFM像の4辺のうちいずれの2辺であってもよい。すなわち、隣接する2辺であってもよいし、対応する2辺であってもよい。磁性層13側の媒体表面が上記構成を有することで、エラーレートを向上することができる。エラーレートの更なる向上の観点からすると、取得した5箇所のAFM像のうち5箇所のAFM像中に、上記線状の凸部が存在しないことが好ましい。
【0016】
ここで、上記線状の凸部の高さおよび幅は以下のようにして測定される。まず、上述のようにして取得したAFM像の2辺に跨る線状の凸部が観察された場合、この凸部の延設方向に対してほぼ垂直な方向における断面プロファイルを取得する(図2参照)。次に、取得した断面プロファイルから、JIS B0601に準拠して平均高さ(中心線)Hを求める。具体的には、断面プロファイルから波長の長い凹凸を取り除き、粗さ曲線に変換し、山の部分の面積と谷の部分の面積の和が等しくなるように引いた線を平均高さ(中心線)Hとして定義する。続いて、断面プロファイル中で最も高い山を選び出し、上記平均高さHを基準として最も高い山の高さhを求め、それを“線状の凸部の高さ”とする。また、上記平均高さHにおける最も高い山の幅wを求め、それを“線状の凸部の幅”とする。なお、AFMとしてはDigital Instruments社製、Nano Scope IIIa D3100を用い、カンチレバーとしてはシリコン単結晶製のものを用いる。
【0017】
(算術平均粗さRa)
磁性層13側の媒体表面における算術平均粗さRaが、1.5nm以下であることが好ましい。算術平均粗さRaが1.5nm以下であると、良好な平滑性を有する媒体表面を得ることができるので、エラーレートを更に向上することができる。
【0018】
上記算術平均粗さRaは次のようにして求められる。まず、磁性層13の表面をAFMにより観察し、40μm×40μmのAFM像を得る。AFMとしてはDigital Instruments社製、Nano Scope IIIa D3100を用い、カンチレバーとしてはシリコン単結晶製のものを用いる。次に、AFM像を256×256(=65536)個の測定点に分割し、各測定点にて高さZ(i)(i:測定点番号、i=1~65536)を測定し、測定した各測定点の高さZ(i)を単純に平均(算術平均)して平均高さ(平均面)Zave(=(Z(1)+Z(2)+・・・+Z(65536))/65536)を求める。続いて、各測定点での平均中心線からの偏差Z”(i)(=Z(i)-Zave)を求め、算術平均粗さRa[nm](=(Z”(1)+Z”(2)+・・・+Z”(65536))/65536)を算出する。
【0019】
(磁気記録媒体の平均厚み)
磁気記録媒体の平均厚みが、好ましくは5.0μm以下、より好ましくは4.5μm以下である。カレンダ処理により磁性層13側の媒体表面に良好な平滑性を付与するためには、磁気記録媒体の平均厚みが薄いほど、カレンダ処理時の加熱ロールのニップ圧を高くすることが好ましいが、ニップ圧を高くすると加熱ロール表面のクラックが磁性層13側の媒体表面に転写されやすくなる傾向がある。このため、平均厚みが5.0μm以下である磁気記録媒体では、上記のように線状の凸部の存在を規定することが特に有効となる。
【0020】
磁気記録媒体の平均厚みは以下のようにして求められる。まず、磁気記録媒体の長手方向(走行方向)に200mごとに合計5か所の位置で、磁気記録媒体の厚みを段差計により測定する。次に、測定した5か所の磁気記録媒体の厚みを単純に平均(算術平均)して、磁気記録媒体の平均厚みを求める。
【0021】
(磁性層の平均厚みと非磁性層の平均厚みとの総和)
磁性層13の平均厚みと非磁性層12の平均厚みとの総和が、好ましくは0.7μm以下、より好ましくは0.5μm以下である。カレンダ処理により磁性層13側の媒体表面に良好な平滑性を付与するためには、磁性層13の平均厚みと非磁性層12の平均厚みとの総和が薄いほど、カレンダ処理時の加熱ロールのニップ圧を高くすることが好ましいが、ニップ圧を高くすると加熱ロール表面のクラックが磁性層13側の媒体表面に転写されやすくなる傾向がある。このため、磁性層13の平均厚みと非磁性層12の平均厚みとの総和が0.7μm以下である磁気記録媒体では、上記のように線状の凸部の存在を規定することが特に有効となる。
【0022】
磁性層13の平均厚みと非磁性層12の平均厚みとの総和は以下のようにして求められる。まず、測定対象となる磁気記録媒体をFIB法などにより加工して、磁気記録媒体の幅方向に平行な主面を有する薄片を作製し、TEMにより薄片の断面観察を行う。観察倍率としては、磁性層13および非磁性層12の厚みが明瞭に観察できるよう、少なくとも5万倍以上で行うのが好ましい。断面TEMの観察は、磁気記録媒体の長手方向(走行方向)に200mごとに合計5か所の位置で行われる。次に、一視野あたり均等に50ポイントにおいて磁性層13および非磁性層12の厚みを観察し、5視野全ての磁性層13の厚みを単純に平均(算術平均)して磁性層13の平均厚みを求めると共に、5視野全ての非磁性層12の厚みを単純に平均(算術平均)して非磁性層12の平均厚みを求める。続いて、磁性層13の平均厚みと非磁性層12の平均厚みとの総和を求める。
【0023】
(基体)
支持体となる基体11は、可撓性を有する長尺状の非磁性基体である。非磁性基体はフィルムであり、フィルムの厚みは、例えば3μm以上8μm以下である。基体11の材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル類、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類、セルローストリアセテート、セルロースダイアセテート、セルロースブチレートなどのセルロース誘導体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどのビニル系樹脂、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミドイミドなどのプラスチック、アルミニウム合金、チタン合金などの軽金属、アルミナガラスなどのセラミックなどを用いることができる。
【0024】
(磁性層)
磁性層13は、いわゆる垂直記録層であり、例えば、磁性粉およびバインダを含んでいる。磁性層13が、必要に応じて、導電性粒子、潤滑剤、研磨剤、防錆剤などの添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0025】
(磁性粉)
磁性粉は、ε酸化鉄を含むナノ粒子(以下「ε酸化鉄粒子」という。)の粉末を含んでいる。ε酸化鉄粒子は微粒子でも高保持力を得ることができる。ε酸化鉄粒子は、例えば、球状もしくはほぼ球状を有しているか、または立方体状もしくはほぼ立方体状を有している。ε酸化鉄粒子は、コアシェル型構造を有する。具体的には、ε酸化鉄粒子は、コア部と、このコア部の周囲に設けられた2層構造のシェル部とを備える。2層構造のシェル部は、コア部上に設けられた第1シェル部と、第1シェル部上に設けられた第2シェル部とを備える。
【0026】
コア部は、ε酸化鉄を含んでいる。コア部に含まれるε酸化鉄は、ε-Fe23結晶を主相とするものが好ましく、単相のε-Fe23からなるものがより好ましい。
【0027】
第1シェル部は、コア部の周囲のうちの少なくとも一部を覆っている。具体的には、第1シェル部は、コア部の周囲を部分的に覆っていてもよいし、コア部の周囲全体を覆っていてもよい。コア部と第1シェル部の交換結合を十分なものとし、磁気特性を向上する観点からすると、コア部の表面全体を覆っていることが好ましい。
【0028】
第1シェル部は、いわゆる軟磁性層であり、例えば、α-Fe、Ni-Fe合金またはFe-Si-Al合金などの軟磁性体を含んでいる。α-Feは、コア部に含まれるε酸化鉄を還元することにより得られるものであってもよい。
【0029】
第2シェル部は、酸化防止層としての酸化被膜である。第2シェル部は、α酸化鉄、酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素を含んでいる。α酸化鉄は、例えばFe34、Fe23およびFeOのうちの少なくとも1種の酸化鉄を含んでいる。第1シェル部がα-Fe(軟磁性体)を含む場合には、α酸化鉄は、第1シェル部に含まれるα-Feを酸化することにより得られるものであってもよい。
【0030】
ε酸化鉄粒子が、上述のように第1シェル部を有することで、熱安定性を確保するためにコア部単体の保磁力Hcを大きな値に保ちつつ、ε酸化鉄粒子(コアシェル粒子)全体としての保磁力Hcを記録に適した保磁力Hcに調整できる。また、ε酸化鉄粒子が、上述のように第2シェル部を有することで、磁気記録媒体の製造工程およびその工程前において、ε酸化鉄粒子が空気中に暴露されて、粒子表面に錆びなどが発生することにより、ε酸化鉄粒子の特性が低下することを抑制することができる。したがって、磁気記録媒体の特性劣化を抑制することができる。
【0031】
磁性粉の平均粒子サイズ(平均最大粒子サイズ)は、好ましくは22nm以下、より好ましくは8nm以上22nm以下、更により好ましくは12nm以上22nm以下である。
【0032】
上記の磁性粉の平均粒子サイズは、以下のようにして求められる。まず、測定対象となる磁気記録媒体をFIB(Focused Ion Beam)法などにより加工して薄片を作製し、TEM(Transmission Electron Microscope)により薄片の断面観察を行う。次に、撮影したTEM像から500個のε酸化鉄粒子を無作為に選び出し、それぞれの粒子の最大粒子サイズdmaxを測定して、磁性粉の最大粒子サイズdmaxの粒度分布を求める。ここで、“最大粒子サイズdmax”とは、いわゆる最大フェレ径を意味し、具体的には、ε酸化鉄粒子の輪郭に接するように、あらゆる角度から引いた2本の平行線間の距離のうち最大のものをいう。その後、求めた最大粒子サイズdmaxの算術平均を求めて、これを磁性粉の平均粒子サイズ(平均最大粒子サイズ)とする。
【0033】
(バインダ)
バインダは、磁気記録媒体の耐久性等の向上の観点から、ガラス転移点Tgが75℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは85℃以上、更により好ましくは90℃以上、特に好ましくは95℃以上、最も好ましくは100℃以上であるバインダを含んでいる。バインダが、必要に応じて75℃以下のガラス転移点Tgを有するバインダを更に含んでいてもよい。
【0034】
ガラス転移点Tgが75℃以上であるバインダとしては、例えば、ポリエステル樹脂を用いることができるが、これに限定されるものではない。ポリエステル樹脂としては、ウレタン変性共重合ポリエステル樹脂などの変性共重合ポリエステル樹脂を用いてもよい。ポリエステル樹脂の具体例としては、東ソー株式会社製の商品名SSS-835(Tg=80℃)、東洋紡社製の商品名UR-1400(Tg=83℃)、UR-1700(Tg=92℃)、UR-4800(Tg=106℃)のものが挙げられる。
【0035】
また、75℃以下のガラス転移点Tgを有するバインダとしては、例えば、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂を用いることができるが、これらに限定されるものではない。ポリエステル樹脂としては、ウレタン変性共重合ポリエステル樹脂などの変性共重合ポリエステル樹脂を用いてもよい。塩化ビニル樹脂としては、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル-ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体などの塩化ビニル系共重合体を用いてもよい。
【0036】
ポリエステル樹脂の具体例としては、東ソー株式会社製の商品名N-2304(Tg=-23℃)、東洋紡社製の商品名UR-8200(Tg=73℃)のものが挙げられる。塩化ビニル樹脂の具体例としては、日本ゼオン社製の商品名MR110、MR104、MR112、MR113(Tg=70℃)のものが挙げられる。
【0037】
バインダのガラス転移点Tgは次のようにして求められる。まず、磁気記録媒体から測定サンプルを切り出し、下記条件で動的粘弾性を測定して粘弾性スペクトルを得る。次に、得られた粘弾性スペクトルのTanδの最大の温度を求め、ガラス転移点Tgとする。
測定機器:Rheometrics社製、粘弾性測定装置(商品名:RSA-II)
サンプルサイズ:22.0mm×4.0mm
測定周波数:0.1Hz~10Hz
測定温度:25℃~210℃
昇温速度:5℃/min
測定間隔:10sec
変位量:0.1%
【0038】
(磁性層の平均厚み)
磁性層13の平均厚みが、好ましくは30nm以上120nm以下、より好ましくは40nm以上100nm以下、更により好ましくは40nm以上80nm以下、最も好ましくは40nm以上70nm以下である。
【0039】
磁性層13の平均厚みは、上述の“磁性層の平均厚みと非磁性層の平均厚みとの総和”にて説明したのと同様の測定方法により求められる。
【0040】
(非磁性層)
非磁性層12は、例えば、非磁性粉およびバインダを含む下地層である。非磁性層12が、必要に応じて、導電性粒子、潤滑剤、硬化剤および防錆剤などのうちの少なくとも1種の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0041】
(非磁性粉)
非磁性粉は、非磁性粒子の粉末を含んでいる。非磁性粒子は、無機物質を含んでいてもよいし、有機物質を含んでいてもよい。無機物質としては、例えば、金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物または金属硫化物などが挙げられる。
【0042】
また、非磁性粒子は、カーボンブラックなどのカーボンを含んでいてもよい。この場合、非磁性層12内におけるカーボンの面積比が、80%以上であることが好ましい。非磁性層12内におけるカーボンの面積比が80%以上であると、塗膜の強度が向上し、高湿度環境下における走行耐久性が向上する。
【0043】
非磁性層12内におけるカーボンの面積比は以下のようにして求められる。まず、非磁性層12の5箇所のTEM断面写真から、カーボンの断面積と非磁性層12全体の断面積をそれぞれ求める。次に、これらの断面積から上記5箇所の面積比(カーボンの断面積÷非磁性層12全体の断面積)をそれぞれ求め、求めた面積比の算術平均値を非磁性層12内におけるカーボンの面積比とする。
【0044】
非磁性粒子の形状としては、例えば、針状、球状、立方体状または板状などの各種形状が挙げられるが、これに限定されるものではない。なお、2種以上の形状の非磁性粒子を組み合わせて用いてもよい。非磁性粒子の形状が針状である場合には、非磁性粉の平均長軸長が、70nm以上であることが好ましい。平均長軸長が70nm以上であると、カレンダ処理により磁性層13側の媒体表面を平滑化しにくくなるため、カレンダ処理時の加熱ロールのニップ圧を高くすることが好ましいが、ニップ圧を高くすると加熱ロール表面のクラックが磁性層13側の媒体表面に転写されやすくなる傾向がある。このため、平均長軸長が70nm以上である非磁性粉を非磁性層12に含む場合には、上記のように線状の凸部の存在を規定することが特に有効となる。
【0045】
上記の非磁性粉の平均長軸長は、以下のようにして求められる。まず、測定対象となる磁気記録媒体をFIB法などにより加工して薄片を作製し、TEMにより薄片の断面観察を行う。次に、撮影したTEM像から500個の非磁性粒子を無作為に選び出し、それぞれの粒子の長軸長を測定して、非磁性粒子の長軸長の算術平均を求めて、これを非磁性粉の平均長軸長とする。
【0046】
(バインダ)
バインダは、上述の磁性層13に含まれるバインダと同様である。
【0047】
(非磁性層の平均厚み)
非磁性層12の平均厚みは、好ましくは0.4μm以上2.0μm以下、より好ましくは0.4μm以上1.4μm以下である。非磁性層12の平均厚みは、上述の“磁性層の平均厚みと非磁性層の平均厚みとの総和”にて説明したのと同様の測定方法により求められる。
【0048】
[加熱ロールの構成]
以下、カレンダ処理に用いられる加熱ロールの構成の一例について説明する。加熱ロールは、鋼材からなるロール胴部と、ロール胴部表面に被覆されたアモルファス状ニッケル合金層と、ニッケル合金層上に被覆された硬質クロムめっき層とを備える。
【0049】
アモルファス状ニッケル合金は、ニッケル-リン合金、ニッケル-タングステン合金およびニッケル-タングステン-リン合金のうちの1種を含むことが好ましい。
【0050】
硬質クロムめっき層の厚さは、0.1μm以上2.0μm以下であることが好ましい。硬質クロムめっき層の表面粗さRaは、好ましくは5nm以下、より好ましくは3nm以下である。
【0051】
[加熱ロールの作製方法]
上記構成を有する加熱ロールは、以下のようにして作製される。まず、鋼材からなるロール胴部表面にアモルファス状ニッケル合金層を被覆する。次に、ニッケル合金層を研磨または切削し、研磨後または切削後のアモルファス状ニッケル合金層上にクロムめっき層を被覆する。その後、クロムめっき層を研磨することにより、硬質クロムめっき層を最外部に形成する。クロムめっき層の研磨には、フェルトまたはスエードクロスからなる研磨パッドと、平均粒径が10μm以下の酸化物を含む遊離砥粒を用いることが好ましい。
【0052】
[磁気記録媒体の製造方法]
以下、上述の構成を有する磁気記録媒体の製造方法の一例について説明する。
【0053】
(混合工程)
まず、非磁性粉およびバインダなどを溶剤に混練、分散させることにより、非磁性層形成用塗料を調製する。次に、磁性粉およびバインダなどを溶剤に混練、分散させることにより、磁性層形成用塗料を調製する。磁性層形成用塗料および非磁性層形成用塗料の調製には、例えば、以下の溶剤、分散装置および混練装置を用いることができる。
【0054】
上述の塗料調製に用いられる溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、乳酸エチル、エチレングリコールアセテートなどのエステル系溶媒、ジエチレングリコールジメチルエーテル、2-エトキシエタノール、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、適宜混合して用いてもよい。
【0055】
上述の塗料調製に用いられる混練装置としては、例えば、連続二軸混練機、多段階で希釈可能な連続二軸混練機、ニーダー、加圧ニーダー、ロールニーダーなどの混練装置を用いることができるが、特にこれらの装置に限定されるものではない。また、上述の塗料調製に用いられる分散装置としては、例えば、ロールミル、ボールミル、横型サンドミル、縦型サンドミル、スパイクミル、ピンミル、タワーミル、パールミル(例えばアイリッヒ社製「DCPミル」など)、ホモジナイザー、超音波分散機などの分散装置を用いることができるが、特にこれらの装置に限定されるものではない。
【0056】
(塗布工程)
次に、非磁性層形成用塗料を長尺状の基体11の一方の主面に塗布して乾燥させることにより、非磁性層12を形成する。続いて、この非磁性層12上に磁性層形成用塗料を塗布して乾燥させることにより、磁性層13を非磁性層12上に形成する。これにより、長尺状を有する幅広の磁気記録媒体が得られる。なお、乾燥の際に、例えばソレノイドコイルにより、磁性粉を基体11の厚み方向に磁場配向させる。磁性層13の形成後、必要に応じて、磁性層13上に保護層および潤滑剤層を形成してもよいし、基体11の他方の主面にバックコート層14を形成してもよい。
【0057】
(カレンダ処理工程)
次に、得られた磁気記録媒体に対してカレンダ処理を行う。具体的には、得られた磁気記録媒体を加熱ロールと冷却ロールとによりニップし、磁性層13の表面を平滑化させる。なお、加熱ロールとしては、上述の構成を有する加熱ロールが用いられる。この際、加熱ロールの表面温度は、バインダの融点以上、例えば100℃以上150℃以下に調整される。また、加熱ロールにより磁性層13の表面に加わる圧力が、例えば100N/mm以上となるように、加熱ロールと冷却ロールとによるニップ圧が調整される。
【0058】
(裁断工程)
最後に、上述のようにして得られた磁気記録媒体を、所定の幅となるように当該媒体の長手方向に裁断する。以上により、目的とする磁気記録媒体が得られる。
【0059】
[効果]
一実施形態に係る磁気記録媒体は、長尺状の基体11と、磁性粉とバインダとを含む磁性層13とを備える。バインダのガラス転移点が、75℃以上である。また、磁性層13側の面から無作為に選び出された5箇所の位置において、10μm×10μmの正方形状のAFM像を取得した場合に、取得した5箇所のAFM像のうち4箇所のAFM像中に、高さ3nm以上20nm以下、幅0.3μm以上1.0μm以下であり、AFM像の2辺に跨る線状の凸部が存在しない。これにより、エラーレートを向上することができる。
【0060】
[変形例]
(変形例1)
磁性粉が、ε酸化鉄粒子の粉末に代えて、バリウムフェライトを含む粒子の粉末を含んでいてもよい。
【0061】
(変形例2)
磁気記録媒体は、非磁性層12を備えていなくてもよい。
【0062】
(変形例3)
上述の一実施形態では、ε酸化鉄粒子が2層構造のシェル部を有している場合について説明したが、ε酸化鉄粒子が単層構造のシェル部を有していてもよい。この場合、シェル部は、第1シェル部と同様の構成を有する。但し、ε酸化鉄粒子の特性劣化を抑制する観点からすると、上述した一実施形態におけるように、ε酸化鉄粒子が2層構造のシェル部を有していることが好ましい。
【0063】
(変形例4)
上述の一実施形態では、ε酸化鉄粒子がコアシェル構造を有している場合について説明したが、ε酸化鉄粒子が、コアシェル構造に代えて添加剤を含んでいてもよいし、コアシェル構造を有すると共に添加剤を含んでいてもよい。この場合、ε酸化鉄粒子のFeの一部が添加剤で置換される。ε酸化鉄粒子が添加剤を含むことによっても、ε酸化鉄粒子全体としての保磁力Hcを記録に適した保磁力Hcに調整できるため、記録容易性が高まる。添加剤は、鉄以外の金属元素、好ましくは3価の金属元素、より好ましくはアルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)およびインジウム(In)からなる群より選ばれる1種以上である。
【0064】
具体的には、添加剤を含むε酸化鉄は、ε-Fe2-xx3結晶(但し、Mは鉄以外の金属元素、好ましくは3価の金属元素、より好ましくは、Al、GaおよびInからなる群より選ばれる1種以上である。xは、例えば0<x<1である。)である。
【0065】
(変形例5)
磁気記録媒体が、図3に示すように、基体11の両主面のうち、バックコート層14側となる他方の主面(以下「裏面」という。)に設けられた強化層15をさらに備えていてもよい。この場合、強化層15上にバックコート層14が設けられる。
【0066】
なお、強化層15は、基体11の両主面のうちのいずれに設けられていてもよく、基体11の両主面のうち、磁性層13側となる一方の主面(以下「表面」という。)に強化層15が設けられていてもよい。この場合、強化層15上に非磁性層12が設けられる。
【0067】
強化層15は、磁気記録媒体の機械的強度を高めて、優れた寸法安定性を得るためのものである。強化層15は、例えば、金属および金属化合物のうちの少なくとも1種を含んでいる。ここで、金属には、半金属が含まれるものと定義する。金属は、例えば、アルミニウムおよび銅のうちの少なくとも1種であり、好ましくは銅である。銅は、安価で蒸気圧が比較的低いため、安価に強化層15を成膜が可能であるからである。金属化合物は、例えば、金属酸化物である。金属酸化物は、例えば、酸化アルミニウム、酸化銅および酸化シリコンのうちの少なくとも1種であり、好ましくは酸化銅である。蒸着法などにより安価に強化層15を成膜が可能であるからである。強化層15は、例えば、真空斜方蒸着法により形成される蒸着膜であってもよいし、スパッタ法により形成されるスパッタ膜であってもよい。
【0068】
強化層15は、2層以上の積層構造を有していることが好ましい。強化層15の厚みを厚くしていくと、外力に対する基体11の伸縮をより抑えることができる。しかしながら、蒸着法やスパッタリングなどの真空薄膜の作製技術を用いて強化層15を形成する場合、上記のように強化層15の厚みを厚くしていくと、強化層15中に空隙が生じやすくなる虞がある。上記のように強化層15を2層以上の積層構造とすることで、真空薄膜の作製技術を用いて強化層15を形成する際に強化層15中に生じる空隙を抑制し、強化層15の緻密性を向上できる。したがって、強化層15の水蒸気透過率を低減できるので、基体11の膨張をさらに抑制し、磁気記録媒体の寸法安定性をさらに向上できる。強化層15が2層以上の積層構造を有する場合、各層の材料は同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0069】
強化層15の平均厚みは、好ましくは150nm以上500nm以下である。強化層15の平均厚みが150nm以上であると、強化層15として良好な機能(すなわち磁気記録媒体の良好な寸法安定性)が得られる。一方、強化層15の平均厚みを500nmを超えて厚くしなくとも、強化層15として十分な機能が得られる。なお、上記の強化層15の平均厚みは、上述の磁性層13の平均厚みの算出方法と同様にして求められる。
【0070】
磁気記録媒体が強化層15を有する場合、長尺状の磁気記録媒体の長手方向のヤング率が、好ましくは7GPa以上14GPa以下である。ヤング率が7GPa以上であると、良好な磁気ヘッド当たりを得ることができ、かつ、エッジダメージを抑制することができる。一方、ヤング率が14GPa以下であると、良好な磁気ヘッド当たりを得ることができる。
【0071】
また、磁気記録媒体の湿度膨張係数が、好ましくは0.5ppm/%RH以上、4ppm/%RH以下である。湿度膨張係数が上記範囲であると、磁気記録媒体の寸法安定性をさらに向上できる。
【0072】
(変形例6)
磁気記録媒体が、図4に示すように、強化層15上に設けられたカッピング抑制層16をさらに備えていてもよい。なお、非磁性層12およびカッピング抑制層16が基体11の裏面側に設けられた場合、バックコート層14はカッピング抑制層16上に設けられる。一方、非磁性層12およびカッピング抑制層16が基体11の表面側に設けられた場合、非磁性層12はカッピング抑制層16上に設けられる。
【0073】
カッピング抑制層16は、基体11上に強化層15を形成したことにより発生するカッピングを抑制するためのものである。ここで、カッピングとは、長尺状の基体11の幅方向に発生する湾曲を意味する。強化層15には内部応力として引っ張り応力、すなわち基体11の両主面のうち強化層15が設けられた主面側を幅方向に且つ凹形状に湾曲させる応力が働く。これに対して、カッピング抑制層16には、内部応力として圧縮応力、すなわち基体11の両主面のうちカッピング抑制層16が設けられた主面側を幅方向に且つ凸形状に湾曲させる応力が働く。このため、強化層15とカッピング抑制層16との内部応力が相殺し合って、磁気記録媒体にカッピングが発生することを抑制できる。したがって、磁気ヘッドと磁気記録媒体との接触状態を良好な状態に保持でき、かつトラック幅方向における高い寸法安定性を有する、オフトラック特性に優れた磁気記録媒体を提供できる。
【0074】
カッピング抑制層16は、例えば、炭素薄膜である。炭素薄膜は、ダイヤモンドライクカーボン(以下「DLC」という。)を含む硬質炭素薄膜であることが好ましい。カッピング抑制層16は、例えば、化学気相成長(Chemical Vapor Deposition:CVD)法により形成されるCVD膜であってもよいし、スパッタ法により形成されるスパッタ膜であってもよい。
【0075】
カッピング抑制層16は、2層以上の積層構造を有していることが好ましい。磁気記録媒体の寸法安定性をさらに向上できるからである。なお、その原理は、強化層15を2層以上の積層構造とする場合と同様である。カッピング抑制層16が2層以上の積層構造を有する場合、各層の材料は同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0076】
カッピング抑制層16の平均厚みは、好ましくは10nm以上200nm以下である。カッピング抑制層16の平均厚みが10nm未満であると、カッピング抑制層16の圧縮応力が小さくなりすぎる虞がある。一方、カッピング抑制層16の平均厚みが200nmを超えると、カッピング抑制層16の圧縮応力が大きくなりすぎる虞がある。なお、カッピング抑制層16の平均厚みは、上述の磁性層13の平均厚みの算出方法と同様にして求められる。
【0077】
(変形例7)
磁気記録媒体は、図5に示すように、基体11の表面上に設けられた第1強化層17と、基体11の裏面上に設けられた第2強化層18と、第2強化層18上に設けられた凝着抑制層19とをさらに備えていてもよい。この場合、バックコート層14は、凝着抑制層19上に設けられる。基体11、第1強化層17、第2強化層18および凝着抑制層19により積層体10が構成される。
【0078】
なお、凝着抑制層19は、第1、第2強化層17、18のうちいずれかの層上に設けられていればよく、第1強化層17上に凝着抑制層19が設けられていてもよい。この場合、非磁性層12は、凝着抑制層19上に設けられる。この場合、凝着抑制層19が炭素薄膜である場合には、表面改質処理により凝着抑制層19の表面の濡れ性を改善することが好ましい。炭素薄膜に対する非磁性層形成用塗料の塗布性を改善できるからである。
【0079】
第1、第2強化層17、18は、磁気記録媒体の機械的強度を高めて、優れた寸法安定性を得るためのものである。第1、第2強化層17、18の材料としては、変形例5の強化層15と同様の材料を例示することができる。なお、第1、第2強化層17、18の材料は同一の材料であってもよいし、異なる材料であってもよい。第1、第2強化層17、18はそれぞれ、2層以上の積層構造を有していることが好ましい。磁気記録媒体の寸法安定性をさらに向上できるからである。なお、その原理は、変形例5において強化層15を2層以上の積層構造とする場合と同様である。
【0080】
第1、第2強化層17、18の平均厚みは、好ましくは75nm以上300nm以下である。第1、第2強化層17、18の平均厚みが75nm以上であると、第1、第2強化層17、18として良好な機能(すなわち磁気記録媒体の良好な寸法安定性)が得られる。一方、第1、第2強化層17、18の平均厚みを300nmを超えて厚くすると、磁気記録媒体の厚みが厚くなってしまう虞がある。また、第1、第2強化層17、18の平均厚みを300nmを超えて厚くしなくとも、第1、第2強化層17、18として十分な機能が得られる。なお、第1、第2強化層17、18の平均厚みは、上述の磁性層13の平均厚みの算出方法と同様にして求められる。
【0081】
第1、第2強化層17、18は、内部応力として引っ張り応力が働くものである。具体的には、第1強化層17は、基体11の表面側を幅方向に且つ凹形状に湾曲させる応力が働くものであり、第2強化層18は、基体11の裏面側を幅方向に且つ凹形状に湾曲させる応力が働くものである。したがって、第1、第2強化層17、18の内部応力が相殺し合って、磁気記録媒体にカッピングが発生することを抑制できる。ここで、カッピングとは、長尺状の基体11の幅方向に発生する湾曲を意味する。
【0082】
第1、第2強化層17、18の平均厚みは、同一であってもよいし、異なっていてもよいが、同一またはほぼ同一であることが好ましい。基体11の両面に設けられた第1、第2強化層17、18の内部応力(引っ張り応力)が同一またはほぼ同一となり、カッピングの発生をより抑制できるからである。ここで、第1、第2強化層17、18の平均厚みがほぼ同一とは、第1、第2強化層17、18の平均厚み差が5nm以内であることを意味する。
【0083】
凝着抑制層19は、積層体10をロール状に巻き取った場合に、第1、第2強化層17、18が金属凝着して貼り付くことを抑制するためのものである。凝着抑制層19は、導電性を有していてもよいし、絶縁性を有していてもよい。凝着抑制層19は、内部応力として圧縮応力(すなわち基体11の両主面のうち、凝着抑制層19が設けられた面側を幅方向に且つ凸形状に湾曲させる応力)が働くものであってもよいし、内部応力として引っ張り応力(すなわち基体11のうち、凝着抑制層19が設けられた面側を幅方向に且つ凹形状に湾曲させる応力)が働くものであってもよい。
【0084】
第1、第2強化層17、18の引っ張り応力(内部応力)が異なる場合には、第1、第2強化層17、18のうち、より引っ張り応力が大きい強化層上に、内部応力として圧縮応力が働く凝着抑制層19を設けるようにしてもよい。第1、第2強化層17、18の引っ張り応力の違いにより相殺仕切れなかった引っ張り応力を、凝着抑制層19の圧縮応力により相殺することができるからである。また、第1、第2強化層17、18のうち、より引っ張り応力が小さい強化層上に、内部応力として引っ張り応力が働く凝着抑制層19を設けるようにしてもよい。第1、第2強化層17、18の引っ張り応力の違いにより発生した圧縮応力を、凝着抑制層19の引っ張り応力により相殺することができるからである。
【0085】
凝着抑制層19の平均厚みは、好ましくは1nm以上100nm以下、より好ましくは2nm以上25nm以下、更により好ましくは2nm以上20nm以下である。凝着抑制層19の平均厚みが1nm以上であると、凝着抑制層19の平均厚みが薄くなりすぎ、凝着抑制層19としての機能が低下することを抑制できる。一方、凝着抑制層19の平均厚みが100nm以下であると、凝着抑制層19の平均厚みが厚くなりすぎる、すなわち凝着抑制層19の内部応力が大きくなりすぎることを抑制できる。凝着抑制層19の平均厚みは、上述の磁性層13の平均厚みの算出方法と同様にして求められる。
【0086】
第2強化層18の平均厚みD2が75nm以上300nm以下である場合、第2強化層18の平均厚みD2に対する凝着抑制層19の平均厚みD4の比率(D4/D2)が、0.005以上0.35以下であることが好ましい。比率(D4/D2)が0.005以上であると、第2強化層18の平均厚みD2に対して凝着抑制層19の平均厚みD4が薄くなりすぎ、凝着抑制層19としての機能が低下することを抑制できる。一方、比率(D4/D2)が0.35以下であると、第2強化層18の平均厚みD2に対して凝着抑制層19の平均厚みD4が厚くなりすぎる、すなわち第2強化層18の引っ張り応力に対して凝着抑制層19の圧縮応力が大きくなりすぎることを抑制できる。したがって、カッピングの発生をより抑制できる。
【0087】
凝着抑制層19は、例えば、炭素および金属酸化物のうちの少なくとも1種を含んでいる。凝着抑制層19は、炭素を主成分とする炭素薄膜または金属酸化物を主成分とする金属酸化物膜であることが好ましい。炭素は、ダイヤモンドライクカーボン(以下「DLC」という。)であることが好ましい。金属酸化物は、酸化アルミニウム、酸化銅および酸化コバルトのうちの少なくとも1種を含むことが好ましい。凝着抑制層19は、例えば、化学気相成長(Chemical Vapor Deposition:CVD)法により形成されるCVD膜であってもよいし、スパッタ法により形成されるスパッタ膜であってもよい。
【0088】
凝着抑制層19は、2層以上の積層構造を有していることが好ましい。磁気記録媒体の寸法安定性をさらに向上できるからである。なお、その原理は、変形例5において強化層15を2層以上の積層構造とする場合と同様である。凝着抑制層19が2層以上の積層構造を有する場合、各層の材料は同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0089】
上述の構成を有する磁気記録媒体では、第1、第2強化層17、18の内部応力(引っ張り応力)が相殺し合って、磁気記録媒体にカッピングが発生することを抑制できる。したがって、磁気ヘッドと磁気記録媒体との接触状態を良好な状態に保持でき、かつトラック幅方向における高い寸法安定性を有する、オフトラック特性に優れた磁気記録媒体を提供できる。また、磁気記録媒体の製造工程において、積層体10をロール状に巻き取った際に、凝着抑制層19が第1、第2強化層17、18の間に介在するため、第1、第2強化層17、18の金属凝着を抑制することができる。
【実施例
【0090】
以下、実施例により本開示を具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0091】
[実施例1]
(加熱ロールの作製工程)
まず、ロールの胴部の表面をグラインダ研磨加工した後に、バフ研磨した。次に、めっき法により、研磨した表面にニッケル-リン合金層を被覆した。続いて、円筒精密鏡面仕上機にて砥石により、ロールの胴部に被覆したニッケル-リン合金層の表面を研磨した。
【0092】
次に、フェルトと遊離砥粒を用いて、ロールの胴部に被覆したニッケル-リン合金層の表面をさらに研磨した。続いて、当該ロールを硫酸溶液に浸漬した後、無水クロム酸と硫酸とを含むクロムめっき浴を用いて、ニッケル-リン合金層上にクロムめっきを被覆した。クロムメめっき層の厚みは1μmとし、クロムめっき後の表面粗さRaは3nmとした。
【0093】
再度、同一の円筒精密鏡面仕上機にロールを装着し、研磨パッドをスエードクロスとした研磨ヘッドにて、遊離砥粒(アルミナ)と硝酸アルミニウムと分散助剤とを含む研磨液を滴下しながら、ロールのクロムめっき面を研磨した。以上により、目的とする加熱ロールが得られた。
【0094】
(磁性粉の作製工程)
磁性粉を次のようにして作製した。まず、ほぼ球形を有するε酸化鉄ナノ粒子(ε-Fe23結晶粒子)の粉末を準備した。次に、以下のようにしてε酸化鉄ナノ粒子の粉末に対して還元処理および徐酸化処理を施すことにより、2層構造のシェル部を有するコアシェル型のε酸化鉄ナノ粒子の粉末を得た。
【0095】
(還元処理)
まず、ε酸化鉄ナノ粒子の粉末を石英ボートに載せ、管状炉へ投入した。投入後、管状炉を一度N2雰囲気に置換した後、所定の温度まで昇温させた。昇温後、100%H2を流量100ml/minでフローさせながら、350℃で加熱処理を行った。これにより、ε酸化鉄ナノ粒子の表面が還元されα-Feに変態し、ε酸化鉄ナノ粒子の表面にα-Fe層が形成された。その後、再びN2雰囲気に置換して、室温まで冷却した。これにより、α-Fe層を表面に有するコアシェル型のε酸化鉄ナノ粒子の粉末が得られた。
【0096】
(徐酸化処理)
続いて、所定の温度まで加熱し、微量酸素を含むN2ガスを流量100ml/minでフローさせながら、300℃で5分間加熱処理を行った。これにより、α-Fe層の表面が酸化され、α-Fe層の表面にα-Fe23層が形成された。その後、再びN2雰囲気に置換して、室温まで冷却した。以上により、α-Fe23層(酸化被膜)およびα-Fe層(軟磁性層)を表面に有する、平均粒子サイズ20nmのコアシェル型のε酸化鉄ナノ粒子の粉末が得られた。
【0097】
(磁性層形成用塗料の調製工程)
磁性層形成用塗料を以下のようにして調製した。まず、下記配合の第1組成物をエクストルーダで混練した。次に、ディスパーを備えた攪拌タンクに、混練した第1組成物と、下記配合の第2組成物を加えて予備混合を行った。続いて、さらにサンドミル混合を行い、フィルター処理を行い、磁性層形成用塗料を調製した。
【0098】
(第1組成物)
磁性粉:100質量部
ポリエステルポリウレタン樹脂(メチルエチルケトン・トルエン溶液30質量%):10質量部(東ソー株式会社製、商品名:SSS-835)
酸化アルミニウム粉末:5質量部
(α-Al23、平均粒径0.2μm)
カーボンブラック:2質量部
(東海カーボン社製、商品名:シーストTA)
【0099】
(第2組成物)
ポリエステルポリウレタン樹脂(メチルエチルケトン・トルエン溶液30質量%):10質量部(東ソー株式会社製、商品名:SSS-835)
n-ブチルステアレート:2質量部
メチルエチルケトン:121.3質量部
トルエン:121.3質量部
シクロヘキサノン:60.7質量部
【0100】
最後に、上述のようにして調製した磁性層形成用塗料に、硬化剤として、ポリイソシアネート(商品名:コロネートL、東ソー株式会社製):4質量部と、ミリスチン酸:2質量部とを添加した。
【0101】
(非磁性層形成用塗料の調製工程)
非磁性層形成用塗料を以下のようにして調製した。まず、下記配合の第3組成物をエクストルーダで混練した。次に、ディスパーを備えた攪拌タンクに、混練した第3組成物と、下記配合の第4組成物を加えて予備混合を行った。続いて、さらにサンドミル混合を行い、フィルター処理を行い、非磁性層形成用塗料を調製した。
【0102】
(第3組成物)
針状酸化鉄粉末:100質量部
(α-Fe23、平均長軸長0.15μm)
ポリエステルポリウレタン樹脂(メチルエチルケトン・トルエン溶液30質量%):10質量部(東ソー株式会社製、商品名:SSS-835)
カーボンブラック:10質量部
(平均粒径20nm)
【0103】
(第4組成物)
ポリエステルポリウレタン樹脂(メチルエチルケトン・トルエン溶液30質量%):10質量部(東ソー株式会社製、商品名:SSS-835)
n-ブチルステアレート:2質量部
メチルエチルケトン:108.2質量部
トルエン:108.2質量部
シクロヘキサノン:18.5質量部
【0104】
最後に、上述のようにして調製した非磁性層形成用塗料に、硬化剤として、ポリイソシアネート(商品名:コロネートL、東ソー株式会社製):4質量部と、ミリスチン酸:2質量部とを添加した。
【0105】
(バックコート層形成用塗料の調製工程)
バックコート層形成用塗料を以下のようにして調製した。下記原料を、ディスパーを備えた攪拌タンクで混合を行い、フィルター処理を行うことで、バックコート層形成用塗料を調製した。
カーボンブラック(旭社製、商品名:#80):100質量部
ポリエステルポリウレタン:100質量部
(東ソー株式会社製、商品名:N-2304)
メチルエチルケトン:500質量部
トルエン:400質量部
シクロヘキサノン:100質量部
【0106】
(成膜工程)
上述のようにして作製した塗料を用いて、非磁性支持体である厚み3.9μmのポリエチレンナフタレートフィルム(PENフィルム)上に平均厚み0.5μmの非磁性層、および平均厚み70nmの磁性層を以下のようにして形成した。まず、PENフィルム上に、非磁性層形成用塗料を塗布し、乾燥させることにより、PENフィルム上に非磁性層を形成した。次に、非磁性層上に、磁性層形成用塗料を塗布し、乾燥させることにより、非磁性層上に磁性層を形成した。なお、磁性層形成用塗料の乾燥の際に、ソレノイドコイルにより、磁性粉をPENフィルムの厚み方向に磁場配向させた。
【0107】
(カレンダ処理)
続いて、非磁性層、および磁性層が形成されたPENフィルムに対してカレンダ処理を行い、磁性層表面を平滑化した。この際、加熱ロールの表面温度を115℃とし、加熱ロールにより磁性層13の表面に加わる圧力を100N/mmとした。その後、磁性層とは反対側の面に、バックコート層形成用塗料を膜厚0.6μmに塗布し乾燥することにより、バックコート層を形成した。
【0108】
(裁断の工程)
上述のようにして非磁性層、磁性層およびバックコート層が形成されたPENフィルムを1/2インチ(12.65mm)幅に裁断した。これにより、目的とする磁気テープが得られた。
【0109】
[実施例2]
クロムめっき層の厚みを2μmにすること以外は実施例1と同様にして磁気テープを得た。
【0110】
[比較例1]
以下の加熱ロールの作製工程により得られた加熱ロールを用いて、カレンダ処理を行うこと以外は実施例1と同様にして磁気テープを得た。
【0111】
(加熱ロールの作製工程)
実施例1の加熱ロールの作製工程において、ニッケル-リン合金層を形成せずに、クロムめっきのみを形成することにより、加熱ロールを作製した。なお、クロムめっき層の厚みは50μmとした。
【0112】
[評価]
(線状の凸部)
まず、磁性層の表面から無作為に選び出された5箇所の位置において、10μm×10μmのAFM像を取得した。次に、取得した5箇所のAFM像のうちに、高さ3nm以上20nm以下、幅0.3μm以上1.0μm以下であり、AFM像の2辺に跨る線状の凸部が存在するか否かを評価した。なお、線状の凸部の高さおよび幅は、上述の一実施形態にて説明した測定方法により測定した。
【0113】
(エラーレート)
まず、記録/再生ヘッドおよび記録/再生アンプを取り付けた1/2インチテープ走行装置(Mountain Engineering II社製MTS Transport)を用いて、25℃環境における磁気テープのエラーレートを測定した。なお、記録/再生ヘッドとしては、市販のLTO(Linier Tape Open)-6のものを用いた。次に、測定したエラーレートを以下の基準で評価した。
◎:エラーレートが、基準テープのエラーレートの1/2以下である。
○:エラーレートが、基準テープのエラーレートと同一値以下、基準テープのエラーレートの1/2を超える範囲内である。
×:エラーレートが、基準テープのエラーレートを超える。
【0114】
表1は、実施例1、2、比較例1の磁気テープの評価結果を示す。
【表1】
【0115】
上記評価結果から、磁性層の表面の5箇所のAFM像のうち4箇所のAFM像において、AFM像の2辺に跨る線状の凸部が存在しない場合には、エラーレートを向上できることがわかった。
【0116】
以上、本開示の実施形態および実施例について具体的に説明したが、本開示は、上述の実施形態および実施例に限定されるものではなく、本開示の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0117】
例えば、上述の実施形態および実施例において挙げた構成、方法、工程、形状、材料および数値などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、工程、形状、材料および数値などを用いてもよい。また、化合物等の化学式は代表的なものであって、同じ化合物の一般名称であれば、記載された価数等に限定されない。
【0118】
また、上述の実施形態および実施例の構成、方法、工程、形状、材料および数値などは、本開示の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【0119】
また、本開示は以下の構成を採用することもできる。
(1)
長尺状の基体と、
磁性粉とバインダとを含む磁性層と
を備え、
前記バインダのガラス転移点が、75℃以上であり、
前記磁性層側の面から無作為に選び出された5箇所の位置において、10μm×10μmの正方形状の原子間力顕微鏡の観察像を取得した場合に、取得した5箇所の前記観察像のうち4箇所の前記観察像中に、高さ3nm以上20nm以下、幅0.3μm以上1.0μm以下であり、前記観察像の2辺に跨る線状の凸部が存在しない磁気記録媒体。
(2)
前記面の算術平均粗さRaが、1.5nm以下である(1)に記載の磁気記録媒体。
(3)
平均厚みが、5.0μm以下である(1)または(2)に記載の磁気記録媒体。
(4)
平均厚みが、4.5μm以下である(1)から(3)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(5)
前記基体と前記磁性層との間に設けられた非磁性層をさらに備える(1)から(4)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(6)
前記磁性層の平均厚みと前記非磁性層の平均厚みとの総和が、0.7μm以下である(5)に記載の磁気記録媒体。
(7)
前記磁性層の平均厚みと前記非磁性層の平均厚みとの総和が、0.5μm以下である(5)または(6)に記載の磁気記録媒体。
(8)
前記非磁性層が、針状の非磁性粒子を含み、
前記非磁性粒子の平均長軸長が、70nm以上である(5)から(7)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(9)
前記非磁性層が、カーボンを含み、
前記非磁性層内における前記カーボンの面積比が、80%以上である(5)から(8)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(10)
前記磁性粉が、ε酸化鉄またはバリウムフェライトを含む粒子を含む(1)から(9)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(11)
線記録密度が、520kbpi以上である(1)から(10)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(12)
トラックピッチが、2.0μm以下である(1)から(11)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(13)
1.0μm以下の幅を有する再生ヘッドにより再生される(1)から(12)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(14)
トンネル磁気抵抗効果型のヘッドにより再生される(1)から(13)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【符号の説明】
【0120】
11 基体
12 非磁性層
13 磁性層
14 バックコート層
15 強化層
16 カッピング抑制層
17 第1強化層
18 第2強化層
19 凝着抑制層
図1
図2
図3
図4
図5