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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20221109BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20221109BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20221109BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20221109BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D101:00
B62D119:00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019551154
(86)(22)【出願日】2018-10-23
(86)【国際出願番号】 JP2018039336
(87)【国際公開番号】W WO2019087865
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-09-10
(31)【優先権主張番号】P 2017213030
(32)【優先日】2017-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】松尾 成人
(72)【発明者】
【氏名】玉泉 晴天
(72)【発明者】
【氏名】西村 昭彦
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-042527(JP,A)
【文献】特開2017-001626(JP,A)
【文献】特開2007-030612(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0029025(US,A1)
【文献】特開2006-151360(JP,A)
【文献】特開2006-175940(JP,A)
【文献】特開2014-223832(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0197757(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
B62D 101/00
B62D 119/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の転舵輪を転舵させるべく操舵機構を動作させるために外部からの入力に基づいて前記操舵機構に付与する力の発生源であるモータの駆動を制御するための処理を実行する処理回路を備え、
前記入力には、運転者が入力する操舵トルクと、運転者の運転を支援するための運転支援指令値とが含まれ、
前記処理回路は、
トルク制御処理と、転舵角制御処理と、前記運転支援指令値を、前記転舵角制御処理への入力、または前記トルク制御処理への入力とする支援指令値入力処理と、を実行し、
前記トルク制御処理は、
運転者が入力すべき前記操舵トルクの目標値に対応するトルク指令値に前記操舵トルクをフィードバック制御するための操作量に応じたフィードバックトルク成分を演算するトルクフィードバック制御処理と、
前記フィードバックトルク成分と前記操舵トルクとの和に基づき前記トルク指令値を演算するトルク指令値演算処理と、を含み、前記フィードバックトルク成分に応じた値を前記転舵角制御処理への入力として出力するものであり、
前記転舵角制御処理は、
前記転舵角制御処理への前記入力に基づき前記転舵輪の転舵角に換算可能な回転軸の回転角度の目標値に対応する角度指令値を演算する角度指令値演算処理と、
前記回転角度を前記角度指令値にフィードバック制御するための操作量を算出する角度フィードバック制御処理と、
前記角度フィードバック制御処理による前記操作量に基づき、前記モータの駆動に必要なモータ制御信号を生成する制御信号生成処理と、を含む操舵制御装置。
【請求項2】
前記支援指令値入力処理は、前記運転支援指令値を前記トルク制御処理によって扱われるトルクの補正量とする処理である請求項1記載の操舵制御装置。
【請求項3】
前記運転支援指令値は、前記車両の走行方向を変更するためのトルクの指令値であり、
前記支援指令値入力処理は、前記運転支援指令値を前記転舵角制御処理への前記入力に加算する処理である請求項2記載の操舵制御装置。
【請求項4】
前記運転支援指令値は、前記車両の走行方向を変更するためのトルクの指令値であり、
前記支援指令値入力処理は、前記運転支援指令値を前記トルク指令値演算処理への入力に加算する処理を含む請求項2記載の操舵制御装置。
【請求項5】
前記支援指令値入力処理は、前記運転支援指令値を前記トルクフィードバック制御処理への入力となる前記トルク指令値に加算する処理である請求項2記載の操舵制御装置。
【請求項6】
前記支援指令値入力処理は、前記運転支援指令値を前記トルクフィードバック制御処理への入力パラメータとしての前記操舵トルクから減算する処理である請求項2記載の操舵制御装置。
【請求項7】
前記支援指令値入力処理は、前記運転支援指令値を前記転舵角制御処理によって扱われる角度の補正量とする処理である請求項1記載の操舵制御装置。
【請求項8】
前記運転支援指令値は、前記車両の走行方向を変更するための角度の指令値であり、
前記支援指令値入力処理は、前記角度フィードバック制御処理への入力となる前記角度指令値演算処理からの出力に前記運転支援指令値を加算する処理である請求項7記載の操舵制御装置。
【請求項9】
前記運転支援指令値は、前記車両の走行方向を変更するための角度の指令値であり、
前記支援指令値入力処理は、前記角度フィードバック制御処理への入力パラメータとしての前記回転角度から前記運転支援指令値を減算する処理である請求項7記載の操舵制御装置。
【請求項10】
前記角度指令値演算処理は、前記角度指令値に基づき前記モータが前記転舵輪を転舵させる力に抗する量であって前記角度指令値の絶対値が大きい場合に小さい場合よりも絶対値が大きくなるバネ成分を算出するバネ特性制御演算処理と、前記転舵角制御処理への前記入力から前記バネ成分を減算した値に基づき前記角度指令値を演算する処理を含み、
前記運転支援指令値は、前記車両の走行方向を変更するための角度の指令値であり、
前記支援指令値入力処理は、前記バネ特性制御演算処理への入力パラメータとしての前記角度指令値から前記運転支援指令値を減算する処理である請求項7記載の操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば下記特許文献1には、運転者による操舵トルクに基づき、操舵をアシストするアシストトルクをモータによって生成する制御を実行する操舵制御装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-203089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、操舵制御装置の機能を拡張して、ADAS(Advanced Driver Assistance System:先進運転支援システム)などの運転者の運転を支援する運転支援装置を構築することが検討されている。しかし、上記操舵制御装置の場合、たとえば運転を支援するための運転支援指令値として外部から転舵角の補正量が与えられる場合には、これに対処することが困難であるなど、運転支援指令値がいかなる量であるかによっては、操舵制御装置の機能を運転支援装置へと拡張することが困難となる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
1.車両の転舵輪を転舵させるべく操舵機構を動作させるために外部からの入力に基づいて前記操舵機構に付与する力の発生源であるモータの駆動を制御するための処理を実行する処理回路を備え、前記入力には、運転者が入力する操舵トルクと、運転者の運転を支援するための運転支援指令値とが含まれ、前記処理回路は、トルク制御処理と、転舵角制御処理と、前記運転支援指令値を、前記転舵角制御処理の入力、または前記トルク制御処理への入力とする支援指令値入力処理と、を実行し、前記トルク制御処理は、運転者が入力すべき前記操舵トルクの目標値に対応するトルク指令値に前記操舵トルクをフィードバック制御するための操作量に応じたフィードバックトルク成分を演算するトルクフィードバック制御処理と、前記フィードバックトルク成分と前記操舵トルクとの和に基づき前記トルク指令値を演算するトルク指令値演算処理と、を含み、前記フィードバックトルク成分に応じた値を前記転舵角制御処理への入力として出力するものであり、前記転舵角制御処理は、前記転舵角制御処理への前記入力に基づき前記転舵輪の転舵角に換算可能な回転軸の回転角度の目標値に対応する角度指令値を演算する角度指令値演算処理と、前記回転角度を前記角度指令値にフィードバック制御するための操作量を算出する角度フィードバック制御処理と、前記角度フィードバック制御処理による前記操作量に基づき、前記モータの駆動に必要なモータ制御信号を生成する制御信号生成処理と、を含む操舵制御装置。
【0006】
上記構成によれば、転舵角制御処理およびトルク制御処理の双方に基づいてモータ制御信号が生成されることから、運転支援指令値を転舵角制御処理への入力またはトルク制御処理への入力とすることにより、運転支援指令値が、角度の補正量とトルクの補正量とのいずれであっても、操舵制御装置の機能を運転支援装置へと拡張することができる。
【0007】
2.前記支援指令値入力処理は、前記運転支援指令値を前記トルク制御処理によって扱われるトルクの補正量とする処理である上記1記載の操舵制御装置である。
3.前記運転支援指令値は、前記車両の走行方向を変更するためのトルクの指令値であり、前記支援指令値入力処理は、前記運転支援指令値を前記転舵角制御処理への前記入力に加算する処理である上記2記載の操舵制御装置である。
【0008】
上記構成では、トルクの指令値である運転支援指令値によって転舵角制御処理への入力が補正されるため、転舵角制御処理では、トルク制御処理によるフィードバック成分に応じた値が運転支援指令値によって増加補正された量に基づき回転角度を制御する。これにより、運転支援指令値による増加補正がない場合に対して回転角度の制御が変更され、ひいては車両の走行方向が変更される。
【0009】
4.前記運転支援指令値は、前記車両の走行方向を変更するためのトルクの指令値であり、前記支援指令値入力処理は、前記運転支援指令値を前記トルク指令値演算処理への入力に加算する処理を含む上記2記載の操舵制御装置である。
【0010】
5.前記支援指令値入力処理は、前記運転支援指令値を前記トルクフィードバック制御処理への入力となる前記トルク指令値に加算する処理である上記2記載の操舵制御装置である。
【0011】
上記構成では、操舵トルクがトルク指令値にフィードバック制御されるため、トルク指令値が異なる場合には、フィードバックトルク成分が異なるものとなる。そのため、トルク指令値に運転支援指令値を加算することにより、加算しない場合と比較すると、運転者の操舵フィーリングを変更したり、走行方向を変更したりすることができる。
【0012】
6.前記支援指令値入力処理は、前記運転支援指令値を前記トルクフィードバック制御処理への入力パラメータとしての前記操舵トルクから減算する処理である上記2記載の操舵制御装置である。
【0013】
上記構成では、操舵トルクがトルク指令値にフィードバック制御されるため、フィードバック制御への入力パラメータとしての操舵トルクが実際の操舵トルクと異なる場合には、異ならない場合に対してフィードバックトルク成分が異なるものとなる。そのため、上記入力パラメータとしての操舵トルクから運転支援指令値を減算することにより、減算しない場合と比較すると、運転者の操舵フィーリングを変更したり、走行方向を変更したりすることができる。
【0014】
7.前記支援指令値入力処理は、前記運転支援指令値を前記転舵角制御処理によって扱われる角度の補正量とする処理である上記1記載の操舵制御装置である。
8.前記運転支援指令値は、前記車両の走行方向を変更するための角度の指令値であり、前記支援指令値入力処理は、前記角度フィードバック制御処理への入力となる前記角度指令値演算処理からの出力に前記運転支援指令値を加算する処理である上記7記載の操舵制御装置である。
【0015】
9.前記運転支援指令値は、前記車両の走行方向を変更するための角度の指令値であり、前記支援指令値入力処理は、前記角度フィードバック制御処理への入力パラメータとしての前記回転角度から前記運転支援指令値を減算する処理である上記7記載の操舵制御装置である。
【0016】
上記構成では、角度フィードバック制御処理への入力パラメータとしての回転角度から運転支援指令値が減算される場合、角度フィードバック制御処理により、回転角度が角度指令値に対して運転支援指令値に応じた量だけずれた角度に制御される。そのため、上記構成では、運転支援指令値によって、走行方向を変更することができる。
【0017】
10.前記角度指令値演算処理は、前記角度指令値に基づき前記モータが前記転舵輪を転舵させる力に抗する量であって前記角度指令値の絶対値が大きい場合に小さい場合よりも絶対値が大きくなるバネ成分を算出するバネ特性制御演算処理と、前記転舵角制御処理への前記入力から前記バネ成分を減算した値に基づき前記角度指令値を演算する処理を含み、前記運転支援指令値は、前記車両の走行方向を変更するための角度の指令値であり、前記支援指令値入力処理は、前記バネ特性制御演算処理への入力パラメータとしての前記角度指令値から前記運転支援指令値を減算する処理である上記7記載の操舵制御装置である。
【0018】
上記構成では、バネ成分に応じて角度指令値が演算されるため、バネ特性制御演算処理の入力パラメータとしての角度指令値から運転支援指令値が減算される場合には、減算されない場合とはバネ成分に基づき算出される角度指令値が異なったものとなる。このため、上記構成では、バネ特性制御演算処理への入力パラメータとしての角度指令値から運転支援指令値を減算することによって、減算しない場合に対して車両の走行方向を変更することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、操舵制御装置の機能を運転支援装置へと拡張することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】電動パワーステアリング装置についてその概略を示す図。
図2】同電動パワーステアリング装置についてその電気的構成とともに、その操舵制御装置におけるマイコンの機能を示すブロック図。
図3】同マイコンについてそのアシスト指令値演算部の角度指令値演算部の機能を示すブロック図。
図4】同角度指令値演算部についてその粘性制御演算部の機能を示すブロック図。
図5】同粘性制御演算部についてその切り戻り用補償成分演算部の操作状態判定部の判定方法を説明する図。
図6】同操舵制御装置についてその機能を運転者の運転を支援する運転支援装置に拡張した際のマイコンの機能を示すブロック図。
図7】(a)~(d)は、同運転支援装置に拡張した際の具体化の例を示すブロック図。
図8】(a)~(d)は、同運転支援装置に拡張した際の具体化の例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、操舵制御装置の一実施形態を説明する。
図1に示すように、電動パワーステアリング装置1は、運転者のステアリングホイール10の操作に基づいて転舵輪15を転舵させる操舵機構2、及び運転者のステアリング操作を補助するアシスト機構3を備えている。
【0022】
操舵機構2は、ステアリングホイール10と、ステアリングホイール10と固定されたステアリングシャフト11とを備えている。ステアリングシャフト11は、ステアリングホイール10と連結されたコラムシャフト11aと、コラムシャフト11aの下端部に連結されたインターミディエイトシャフト11bと、インターミディエイトシャフト11bの下端部に連結されたピニオンシャフト11cとを有している。ピニオンシャフト11cの下端部は、ラックアンドピニオン機構13を介して転舵軸としてのラックシャフト12に連結されている。なお、ラックシャフト12は、ラックハウジング16に支持されている。ラックシャフト12の両端には、タイロッド14を介して、左右の転舵輪15が連結されている。したがって、ステアリングホイール10、すなわちステアリングシャフト11の回転運動は、ピニオンシャフト11c及びラックシャフト12からなるラックアンドピニオン機構13を介してラックシャフト12の軸方向(図1の左右方向)の往復直線運動に変換される。当該往復直線運動が、ラックシャフト12の両端にそれぞれ連結されたタイロッド14を介して、転舵輪15にそれぞれ伝達されることにより、転舵輪15の転舵角θtが変化する。
【0023】
ラックシャフト12の周囲には、アシスト機構3を構成する要素として、操舵機構2に対して付与する動力(アシスト力)の発生源であるモータ40が設けられている。例えば、モータ40は、3相(U,V,W)の駆動電力に基づいて回転する3相ブラシレスモータである。モータ40は、ラックハウジング16に対してその外部から取り付けられている。また、ラックハウジング16の内部には、アシスト機構3を構成する要素として、ラックシャフト12の周囲に一体的に取り付けられたボールねじ機構20と、モータ40の出力軸40aの回転力をボールねじ機構20に伝達するベルト式減速機構30とが設けられている。モータ40の出力軸40aの回転力は、ベルト式減速機構30及びボールねじ機構20を介して、ラックシャフト12を軸方向に往復直線運動させる力に変換される。このラックシャフト12に付与される軸方向の力が動力(アシスト力)となり、転舵輪15の転舵角θtを変化させる。
【0024】
図1に示すように、モータ40には、当該モータ40の駆動を制御する操舵制御装置50が接続されている。操舵制御装置50は、各種のセンサの検出結果に基づき、モータ40の制御量である電流の供給を制御することによって、モータ40の駆動を制御する。各種のセンサとしては、例えば、トルクセンサ60、回転角センサ61、及び車速センサ62がある。トルクセンサ60は、ピニオンシャフト11cに設けられている。回転角センサ61は、モータ40に設けられている。トルクセンサ60は、運転者のステアリングの操作によりステアリングシャフト11に変化を伴って生じる操作状態量である操舵トルクTrqを検出する。回転角センサ61は、モータ40の出力軸40aの回転角度θmを検出する。車速センサ62は、車両の走行速度である車速値Vを検出する。
【0025】
次に、電動パワーステアリング装置1の電気的構成について説明する。
図2に示すように、操舵制御装置50は、モータ40の駆動に必要なモータ制御信号S_mを生成するマイコン(マイクロコンピュータ)51と、そのモータ制御信号S_mに基づいてモータ40に電流を供給する駆動回路52とを有している。マイコン51は、トルクセンサ60、回転角センサ61、車速センサ62の検出結果や、駆動回路52とモータ40との間の給電経路に設けられた電流センサ53により検出されるモータ40の実電流Iを取り込む。そして、マイコン51は、モータ制御信号S_mを生成し、PWM信号として駆動回路52に対して出力する。
【0026】
次に、マイコン51の機能について詳しく説明する。マイコン51は、図示しない中央処理装置(CPU(Central Processing Unit))及びメモリをそれぞれ備えており、メモリに記憶されたプログラムをCPUが実行することによって、モータ40の駆動が制御される。
【0027】
マイコン51は、アシスト指令値演算部54、制御信号生成部55、及びピニオン角演算部56を有している。アシスト指令値演算部54には、車速値V、操舵トルクTrq、及びピニオン角θpがそれぞれ入力される。本実施形態において、ピニオン角θpは、転舵輪15の転舵角θtに換算可能な回転角度であり、ピニオン角演算部56によって回転角度θmに基づいてピニオンシャフト11cにおけるトルクセンサ60よりも転舵輪15側の部位の回転角度として演算(生成)されるものである。ピニオン角演算部56は、ベルト式減速機構30の減速比と、ボールねじ機構20のリードとに応じて定められている換算係数を回転角度θmに乗算することによってピニオン角θpを得られる。
【0028】
そして、アシスト指令値演算部54は、車速値V、操舵トルクTrq、及びピニオン角θpに基づいて、モータ40に発生させるべきアシスト力に対応した電流量の目標値であるアシスト指令値Ta*を演算する。
【0029】
制御信号生成部55には、アシスト指令値演算部54で演算されたアシスト指令値Ta*、回転角度θm、及び実電流Iがそれぞれ入力される。制御信号生成部55は、回転角度θm及び実電流Iに基づいて、当該実電流Iをアシスト指令値Ta*に追従させるべく電流フィードバック制御の実行によりモータ制御信号S_mを生成し、PWM信号として駆動回路52に対して出力する。
【0030】
ここで、アシスト指令値演算部54の機能についてさらに詳しく説明する。
図2に示すように、アシスト指令値演算部54は、基本アシスト成分Tb*を演算(生成)する基本アシスト成分演算部70を有している。また、アシスト指令値演算部54は、角度指令値θp*を演算(生成)する角度指令値演算部71と、アシスト指令値Ta*を演算(生成)する角度フィードバック制御部(以下「角度F/B制御部」という)72と、摩擦成分Tf*を演算(生成)する摩擦補償制御部73とを有している。
【0031】
基本アシスト成分演算部70には、車速値V、操舵トルクTrq、及び摩擦成分Tf*がそれぞれ入力される。基本アシスト成分演算部70は、車速値V、操舵トルクTrq、及び摩擦成分Tf*に基づいて、アシスト指令値Ta*の基礎成分である基本アシスト成分Tb*を演算して生成するべく機能するトルク指令値演算部74と、トルクフィードバック制御部(以下「トルクF/B制御部」という)75とを有している。
【0032】
具体的には、トルク指令値演算部74には、操舵トルクTrqに基づいて演算される駆動トルクTcと、車速値Vとがそれぞれ入力される。トルク指令値演算部74は、駆動トルクTc及び車速値Vに基づいて、運転者が入力すべき操舵トルクTrqの目標値であるトルク指令値Th*を演算して生成する。本実施形態において、駆動トルクTcは、操舵機構2(ステアリングシャフト11やラックシャフト12)に入力されるトルクの合算であり、加算処理部76によって操舵トルクTrq及び基本アシスト成分Tb*の加算値として得られる(Tc=Trq+Tb*)。なお、トルク指令値演算部74は、駆動トルクTcの絶対値が大きいほど、車速値Vが小さいほど、より大きな絶対値となるトルク指令値Th*を演算する。このトルク指令値Th*は、摩擦補償制御部73で生成された摩擦成分Tf*が加算処理部77によって加算されて補償されている。
【0033】
摩擦補償制御部73は、車速値V及びピニオン角θpに基づいて、操舵機構2に入力されるトルクに対する摩擦(反力)である摩擦成分Tf*を演算して生成する。なお、摩擦補償制御部73は、ステアリングホイール10の切り込み時には、ピニオン角θpの絶対値が大きいほど、より大きな絶対値となる摩擦成分Tf*を演算するとともに、ピニオン角θpに対する摩擦成分Tf*の変化率の絶対値が小さくなるように摩擦成分Tf*を演算する。また、摩擦補償制御部73は、ステアリングホイール10の切り戻し時には、ピニオン角θpの絶対値に比例して大きい絶対値となる摩擦成分Tf*を演算する。そして、摩擦補償制御部73は、操舵方向の変化や上記切り込みの状況であるか上記切り戻しの状況であるか判断して、運転者に滑らかな操舵感を与えるために、運転者の操舵に適したヒステリシス特性を有する操舵反力を与える観点に基づいて摩擦成分Tf*を演算する。また、摩擦補償制御部73は、車速値Vが大きいほど、より小さな絶対値となる摩擦成分Tf*を演算する。
【0034】
摩擦補償制御部73の処理を通じて生成された摩擦成分Tf*は、加算処理部77において加算されることによって、運転者が入力すべき操舵トルクTrqの成分としてトルク指令値Th*に反映される。
【0035】
トルクF/B制御部75には、摩擦成分Tf*による補償後のトルク指令値Th*に基づいて演算されるトルク偏差ΔTrqが入力される。トルクF/B制御部75は、トルク偏差ΔTrqに基づいて、基本アシスト成分Tb*を演算して生成する。本実施形態において、トルク偏差ΔTrqは、トルク指令値Th*に対する操舵トルクTrqの偏差であり、減算処理部78によってトルク指令値Th*から操舵トルクTrqを減算した減算値として得られる(ΔTrq=Th*-Trq)。そして、トルクF/B制御部75は、トルク偏差ΔTrqに基づいて、操舵トルクTrqをトルク指令値Th*に追従させるべくトルクフィードバック制御の実行により基本アシスト成分Tb*を演算して生成する。
【0036】
角度指令値演算部71には、基本アシスト成分演算部70で生成された基本アシスト成分Tb*とともに、車速値V、操舵トルクTrq、及びピニオン角θpがそれぞれ入力される。角度指令値演算部71は、基本アシスト成分Tb*、車速値V、操舵トルクTrq、及びピニオン角θpに基づいて、ピニオン角θpの目標値である角度指令値θp*を演算して生成するべく機能する目標モデル演算部80を有している。
【0037】
具体的には、図3に示すように、目標モデル演算部80には、基本アシスト成分Tb*及び操舵トルクTrqを加算処理部81で加算して得られる駆動トルクTc(=Trq+Tb*)が入力される。駆動トルクTcは、ピニオンシャフト11cに伝達される入力トルクと見なせる。目標モデル演算部80は、駆動トルクTcに基づいて、角度指令値θp*を演算する。ここでは、駆動トルクTcと、角度指令値θp*とを関係づける以下の式(c1)にて表現されるモデル式を利用する。
【0038】
Tc=K・θp*+C・θp*’+J・θp*’’ …(c1)
上記の式(c1)にて表現されるモデルは、ステアリングホイール10の回転に伴って回転するピニオンシャフト11cの入力トルク(駆動トルク)とその回転角度(ピニオン角)との関係を定める理想モデルである。上記の式(c1)において、粘性係数Cは、電動パワーステアリング装置の摩擦等をモデル化したものであり、慣性係数Jは、電動パワーステアリング装置の慣性をモデル化したものであり、バネ係数Kは、電動パワーステアリング装置が搭載される車両のサスペンションやホイールアライメント等の仕様をモデル化したものである。
【0039】
本実施形態において、目標モデル演算部80は、上記の式(c1)の慣性項「J・θp*’’」に対応する慣性制御演算部82と、上記の式(c1)の粘性項「C・θp*’」に対応する粘性制御演算部83と、上記の式(c1)のバネ項「K・θp*」に対応するバネ特性制御演算部84とを有している。そして、目標モデル演算部80では、減算処理部85によって駆動トルクTcから粘性制御演算部83で生成された粘性成分Tvi*及びバネ特性制御演算部84で生成されたバネ成分Tsp*を減算して得られる慣性項が演算されて生成され、慣性制御演算部82に入力される。慣性制御演算部82は、慣性項を車速値Vに応じて設定される慣性係数Jで除算することによって得られる角加速度指令値αp*(角度指令値θp*の二階時間微分値(θp’’))を演算して生成する。
【0040】
また、目標モデル演算部80は、慣性制御演算部82で生成された角加速度指令値αp*を積分処理部86で積分することによって得られる角速度指令値ωp*(角度指令値θp*の一階時間微分値(θp’))を演算して生成する。また、目標モデル演算部80は、積分処理部86で生成された角速度指令値ωp*を積分処理部87で積分することによって得られる角度指令値θp*を演算して生成する。
【0041】
粘性制御演算部83には、目標モデル演算部80で生成された角速度指令値ωp*及び角度指令値θp*とともに、車速値V及び操舵トルクTrqがそれぞれ入力される。粘性制御演算部83は、角速度指令値ωp*に対して車速値Vに応じて設定される粘性係数Cを乗算することによって得られる基本粘性成分Tvib*と、当該基本粘性成分Tvib*を車両や操舵機構2の状態に適正化するべく補償する補償成分として、ダンピング補償成分Td*とを含む粘性成分Tvi*を演算して生成する。ダンピング補償成分Td*は、ステアリングホイール10の回転角度である操舵角θs(図1に示す)の急変(小刻みな振動)を抑えるように補償するための補償成分である。粘性成分Tvi*の演算の詳細については後で詳しく説明する。
【0042】
バネ特性制御演算部84には、目標モデル演算部80で生成された角度指令値θp*とともに、車速値V及びピニオン角θpがそれぞれ入力される。バネ特性制御演算部84は、角度指令値θp*に対して車速値V及びピニオン角θpに応じて設定されるバネ係数Kを乗算することによって得られるバネ成分Tsp*を演算して生成する。バネ成分Tsp*は、転舵角θtに対する転舵輪15を転舵させるのに必要なトルクを運転者に入力させるべくピニオン角θpに応じてバネ係数Kと、車速値Vとの関係を変更するように構成されている。なお、バネ成分Tsp*は、角度指令値θp*の絶対値が大きい場合に小さい場合よりもバネ成分Tsp*の絶対値が大きくなる傾向を有する。
【0043】
図2の説明に戻り、角度F/B制御部72には、角度指令値演算部71で生成された角度指令値θp*とともに、ピニオン角θpがそれぞれ入力される。角度F/B制御部72は、角度偏差Δθpに基づいて、アシスト指令値Ta*を演算して生成する。本実施形態において、角度偏差Δθpは、角度指令値θp*に対するピニオン角θpの偏差であり、角度指令値θp*からピニオン角θpを減算した減算値として得られる(Δθp=θp*-θp)。そして、角度F/B制御部72は、角度偏差Δθpに基づいて、ピニオン角θpを角度指令値θp*に追従させるべく角度フィードバック制御の実行によりアシスト指令値Ta*を演算して生成する。角度F/B制御部72で生成されたアシスト指令値Ta*は、制御信号生成部55に入力される。
【0044】
このように構成されるマイコン51は、モータ40の駆動を制御する間、基本アシスト成分演算部70の処理を通じて駆動トルクTcに応じた適切な操舵トルクTrqを運転者が入力することができるように、基本アシスト成分Tb*を所定周期で繰り返し生成する。また、マイコン51は、モータ40の駆動を制御する間、角度指令値演算部71の処理を通じて基本アシスト成分Tb*に基づいて変化されるように、角度指令値θp*を所定周期で繰り返し生成する。そして、マイコン51は、角度F/B制御部72の処理を通じて運転者が入力すべき操舵トルクTrqを、駆動トルクTcに応じた適切な操舵トルクに維持させるアシスト力を付与するための処理を所定周期毎に繰り返し実行する。
【0045】
すなわち、マイコン51は、基本アシスト成分演算部70の処理を通じて、運転者が入力すべき操舵トルクTrqの特性である電動パワーステアリング装置1の静特性を決定するように構成されている。また、マイコン51は、角度指令値演算部71及び角度F/B制御部72の処理を通じて、運転者が入力すべき操舵トルクTrqを適切な操舵トルクに維持させるように動作する転舵輪15の転舵角θtの特性である電動パワーステアリング装置1(車両)の動特性(動作の振る舞い)を決定するように構成されている。つまり、マイコン51は、電動パワーステアリング装置1について、静特性と、動特性とをそれぞれ独立して調整することができるように構成されている。
【0046】
ここで、粘性制御演算部83の機能についてさらに詳しく説明する。
図4に示すように、粘性制御演算部83は、角速度指令値ωp*、角度指令値θp*、車速値V、及び操舵トルクTrqに基づいて、粘性成分Tvi*を演算して生成するべく機能する、粘性係数乗算部90と、ダンピング補償成分演算部91と、戻り用補償成分演算部92とを有している。
【0047】
粘性係数乗算部90には、車速値V及び角速度指令値ωp*がそれぞれ入力される。粘性係数乗算部90は、角速度指令値ωp*に対して車速値Vに応じて設定される粘性係数Cを乗算することによって基本粘性成分Tvib*を演算して生成する。
【0048】
ダンピング補償成分演算部91には、車速値V及び角速度指令値ωp*がそれぞれ入力される。角度指令値θp*は、ステアリングホイール10(ステアリングシャフト11)の回転角度である操舵角θsと相関があり、当該操舵角θsに換算することができる。つまり、角速度指令値ωp*は、ステアリングホイール10の操舵角θsの変化量である操舵速度ωsと相関があり、当該操舵速度ωsを算出することができる。ダンピング補償成分演算部91は、車速値V及び角速度指令値ωp*に基づいて、ダンピング補償成分Td*を演算して生成する。なお、ダンピング補償成分演算部91は、角速度指令値ωp*の絶対値に応じて、その時の車速値Vに対して定めているダンピング補償成分Td*を演算する。ダンピング補償成分演算部91の処理を通じて生成されたダンピング補償成分Td*は、加算処理部93において基本粘性成分Tvib*に加算されることによって、その時の角速度指令値ωp*の発生方向とは反対方向の成分として粘性成分Tvi*に反映される。
【0049】
戻り用補償成分演算部92には、車速値V及び角速度指令値ωp*に加えて、操舵トルクTrq及び角度指令値θp*がそれぞれ入力される。戻り用補償成分演算部92は、車速値V、角速度指令値ωp*、操舵トルクTrq、及び角度指令値θp*に基づいて、ダンピング補償成分演算部91で生成されるダンピング補償成分Td*の影響を抑制するように基本粘性成分Tvib*を補償するための戻り用補償成分Tr*をダンピング補償成分Td*とは個別に演算して生成する。
【0050】
本実施形態において、ダンピング補償成分Td*の効果は、ステアリングホイール10を切り込んでから、運転者の切り戻しの操作なしにセルフアライニングトルクの作用によって、ステアリングホイール10が中立位置に戻る状況においても作用する。この場合、ダンピング補償成分Td*の効果は、ステアリングホイール10が中立位置に戻る際の操舵角θsの急変を抑えるように作用する結果、セルフアライニングトルクを阻害してしまう。つまり、ステアリングホイール10が中立位置に戻る速度が遅くなる可能性がある。そのため、本実施形態では、ステアリングホイール10が中立位置に戻る状況で、ダンピング補償成分演算部91で生成されるダンピング補償成分Td*の影響を抑制すべく、ダンピング補償成分Td*とともに、戻り用補償成分Tr*を角度指令値θp*に反映させるようにしている。
【0051】
具体的には、図4に示すように、戻り用補償成分演算部92は、車速値V及び角速度指令値ωp*に基づいて、戻り用補償成分Tr*の基礎成分である基本戻り用補償成分Trb*を演算(生成)する基本補償成分演算部94を有している。基本補償成分演算部94は、角速度指令値ωp*の絶対値に応じて、その時の車速値Vに対して定めている基本戻り用補償成分Trb*を演算する。基本戻り用補償成分Trb*は、その時の車速値V及び角速度指令値ωp*に基づいて生成されるダンピング補償成分Td*とは反対方向の成分として演算される。本実施形態において、基本戻り用補償成分Trb*は、その時の車速値V及び角速度指令値ωp*に基づいて生成されるダンピング補償成分Td*を相殺して打ち消すように構成され、絶対値が同値の成分である。
【0052】
また、戻り用補償成分演算部92は、車速値V、操舵トルクTrq、及び角度指令値θp*に基づいて、ステアリングホイール10を切り込んでから、運転者の切り戻しの操作なしにステアリングホイール10が中立位置に戻る状況であることを判定する操作状態判定部95を有している。操作状態判定部95は、転舵輪15を転舵させるようにステアリングホイール10の切り戻しの操作をするのに必要な力と比較して、操舵トルクTrqが小さいか否かを判定することによって、ステアリングホイール10が中立位置に戻る状況であるか否かを判定する。車両では、ステアリングホイール10を切り込み及び切り戻し操作するのに必要な力を車速値V及び角度指令値θp*(ピニオン角θp)に基づいて経験的に求めることができる。
【0053】
例えば、図5に示すように、ステアリングホイール10が所定方向に回転している場合に正、当該所定方向に対して反対方向に回転している場合に負とし、ステアリングホイール10を操作するのに必要な力について、角度指令値θp*(ピニオン角θp)に応じた特性を得ることができる。具体的には、同図に示すように、ステアリングホイール10を操作するのに必要な力の特性は、当該力の絶対値について、上記切り込み(図中、実線矢印)の状況と比較して、上記切り戻し(図中、白抜き矢印)の状況で小さい値となる。また、ステアリングホイール10を操作するのに必要な力の特性は、当該力の絶対値について、ステアリングホイール10の中立位置である「0(零値)」から最大角度θend(+),(-)の間で、上記切り込み(図中、実線矢印)の状況で増加傾向となり、上記切り戻し(図中、白抜き矢印)の状況で減少傾向となる。
【0054】
同図中、ハッチングにて示す領域に入ることによって、ステアリングホイール10を切り戻し操作するのに必要な力を操舵トルクTrq(絶対値)が下回る場合、ステアリングホイール10が中立位置に戻る状況であることを判断することができる。特にこの場合、操舵トルクTrq及び角度指令値θp*の符号が一致する範囲において、セルフアライニングトルクによってステアリングホイール10が中立位置に戻る状況であることを判断することができる。なお、操舵トルクTrq及び角度指令値θp*の符号が異なる範囲では、セルフアライニングトルクが弱まったり作用しなくなったり、車両の走行中であれば運転者の操作が基本的に行われている状況であることを判断することができる。
【0055】
本実施形態では、ステアリングホイール10を操作するのに必要な力の特性として、当該力の絶対値について、車速値V1の場合(図5中、実線)に対して、車速値V2の場合(図5中、一点鎖線の矢印の如く)、上記切り込みの状況と、上記切り戻しの状況との差が小さくなる特性が想定されている。また、ステアリングホイール10を操作するのに必要な力の特性は、当該力の絶対値について、車速値V1の場合(図5中、実線)に対して、車速値V3の場合(図5中、二点鎖線の矢印の如く)、上記切り込み及び上記切り戻しの状況での増加及び減少傾向の勾配が大きくなる特性が想定されている。
【0056】
操作状態判定部95は、操舵トルクTrq及び角度指令値θp*の符号が一致する範囲において、ステアリングホイール10を切り戻し操作するのに必要な力と比較して、操舵トルクTrq(絶対値)が小さい場合にステアリングホイール10が中立位置に戻る状況であることを判定する。この場合、操作状態判定部95は、戻り用補償ゲインGrとして「1」を演算して設定する。また、操作状態判定部95は、操舵トルクTrq及び角度指令値θp*の符号が一致する範囲において、ステアリングホイール10を切り戻し操作するのに必要な力と比較して、操舵トルクTrq(絶対値)が小さくない場合に運転者の操作が行われている状況である(ステアリングホイール10が中立位置に戻る状況でない)ことを判定する。この場合、操作状態判定部95は、戻り用補償ゲインGrとして「0(零値)」を演算して設定する。なお、操作状態判定部95は、操舵トルクTrq及び角度指令値θp*の符号が異なる範囲において、操舵トルクTrqに関係なく、戻り用補償ゲインGrとして「0(零値)」を演算して設定する。
【0057】
また、戻り用補償成分演算部92は、基本補償成分演算部94の処理を通じて生成された基本戻り用補償成分Trb*に対して、操作状態判定部95の処理を通じて設定された戻り用補償ゲインGrを乗算して得られる戻り用補償成分Tr*を演算(生成)する乗算処理部96を有している。
【0058】
そして、戻り用補償成分演算部92は、ステアリングホイール10が中立位置に戻る状況であることを条件とし、基本戻り用補償成分Trb*を、ダンピング補償成分Td*の影響を抑制するように機能する戻り用補償成分Tr*として生成する。また、戻り用補償成分演算部92は、ステアリングホイール10が中立位置に戻る状況でないことを条件とし、基本戻り用補償成分Trb*に関係なく零値を、ダンピング補償成分Td*の影響を抑制しないように機能する戻り用補償成分Tr*として生成する。戻り用補償成分演算部92の処理を通じて生成された戻り用補償成分Tr*は、加算処理部93において基本粘性成分Tvib*に加算されることによって、ダンピング補償成分Td*とは反対方向の成分として粘性成分Tvi*に反映される。
【0059】
このように構成されるマイコン51は、モータ40の駆動を制御する間、戻り用補償成分演算部92において、車速値V、角速度指令値ωp*、操舵トルクTrq、及び角度指令値θp*に基づいて、戻り用補償成分Tr*を所定周期で繰り返し生成する。つまり、マイコン51は、モータ40の駆動を制御する間、操舵角θsの急変を抑えるように補償し、ステアリングホイール10が中立位置に戻る状況で、ダンピング補償成分Td*の影響を抑制するための処理を所定周期で繰り返し実行する。
【0060】
以下、本実施形態の作用及び効果を説明する。
(1)本実施形態によれば、基本アシスト成分Tb*は、運転者が入力すべき操舵トルクTrqを、操舵機構2に入力される駆動トルクTcに基づき演算されるトルク指令値Th*にトルクフィードバック制御を実行することによって演算される。このように演算される基本アシスト成分Tb*は、角度指令値θp*を演算するのに用いられるものであり、角度指令値θp*を変化させ、当該変化に基づきアシスト力を変化させるように機能する。これにより、基本アシスト成分Tb*は、運転者が入力すべき操舵トルクTrqを、駆動トルクTcに応じた適切な操舵トルクTrqに維持させるように作用するアシスト力として操舵機構2に付与される。つまり、運転者が入力すべき操舵トルクTrqと、当該操舵トルクTrqに対する電動パワーステアリング装置1(車両)の出力である転舵輪15の転舵角θt(ピニオン角θp)との関係により示される操舵特性を最適化する場合、基本アシスト成分演算部70のトルク指令値演算部74の調整を通じて基本アシスト成分Tb*を調整すれば済むようになる。したがって、最適な操舵特性への調整については、基本アシスト成分Tb*を調整すればよく、他の成分との間で相互に調整を図る必要がある場合と比較して、調整を容易にすることができる。
【0061】
(2)ここで、実際の車両において、ステアリングホイール10の回転に伴って回転するピニオンシャフト11cの入力トルク(駆動トルク)とその回転角度(ピニオン角)との関係は、車両や当該車両の操舵機構2の状態によって変化し得る。つまり、実際の状態に基づいて、角度指令値θp*を演算する場合には、車両や当該車両の操舵機構2に作用する外乱の影響を受け易くなっている。
【0062】
その点、本実施形態において、角度指令値演算部71では、目標モデル演算部80が理想モデルを表現する上記の式(c1)に基づいて、角度指令値θp*を演算するので、車両や当該車両の操舵機構2に外乱が作用していたとしてもその影響を抑えるかたちで角度指令値θp*を演算することができるようになる。これにより、操舵制御装置50では、車両や当該車両の操舵機構2に作用する外乱の影響を受け難くなり、当該外乱に対するロバスト性を高くすることができる。したがって、操舵特性の変動を抑えることができ、最適化した操舵特性の再現性を高めることができる。
【0063】
(3)本実施形態において、角度指令値演算部71は、アシスト指令値Ta*を車両や当該車両の操舵機構2の状態に適正化するべく補償する各補償成分Td*,Tr*を演算する各補償成分演算部91,92を有している。これにより、車両や当該車両の操舵機構2の動作(振る舞い)に関わる動特性を補償する補償成分である各補償成分Td*,Tr*については、上記の式(c1)を考慮して角度指令値θp*を演算する角度指令値演算部71で纏めて演算されるように構成することができる。つまり、動特性を最適化する場合、角度指令値演算部71の調整を通じて各補償成分Td*,Tr*を調整すれば済むようになる。したがって、最適な動特性への調整については、角度指令値演算部71の各補償成分Td*,Tr*を調整すればよく、他の成分との間で相互に調整を図る必要がある場合と比較して、調整を容易にすることができる。
【0064】
(4)また、本実施形態によれば、運転者の切り戻しの操作なしにステアリングホイール10が中立位置に戻る状況で、ダンピング補償成分Td*とともに、戻り用補償成分Tr*が角度指令値θp*に反映されることによって、ダンピング補償成分Td*の影響が抑制されるようになる。これにより、ダンピング補償成分Td*の効果は、ステアリングホイール10を切り込んでいるか切り戻しているかに関係なく、運転者が意図的にステアリングホイール10を操作する状況において作用する一方、ステアリングホイール10が中立位置に戻る状況において作用しなくなる。つまり、ステアリングホイール10が中立位置に戻る状況であっても、ダンピング補償成分Td*が影響してセルフアライニングトルクの阻害が抑制され、ステアリングホイール10が中立位置に戻る速度が遅くなることが抑制されるようになる。この場合、操舵感の向上と、ステアリングホイール10が中立位置に戻る速度の調整とを個別に設定することができ、操舵感を向上しつつ、ステアリングホイール10が中立位置に戻る速度を調整することができる。
【0065】
(5)ここで、ステアリングホイール10が中立位置に戻る状況は、運転者がステアリングホイール10を保舵しているか否かに関係なく存在しうる。例えば、運転者がステアリングホイール10を保舵していたとしてもその力が十分に小さければ、運転者の切り戻しの操作なしにステアリングホイール10が中立位置に戻る状況であることを判断することができる。
【0066】
そこで、本実施形態において、マイコン51は、操舵トルクTrq及び角度指令値θp*に基づいて、ステアリングホイール10が中立位置に戻る状況であるか否かを判定するようにしている。つまり、ステアリングホイール10が中立位置に戻る状況で、運転者がステアリングホイール10を保舵していたとしても、ダンピング補償成分Td*が影響してセルフアライニングトルクの阻害を抑制し、ステアリングホイール10が中立位置に戻る速度が遅くなることを抑制することができるようになる。これにより、戻り用補償成分Tr*を適切に適用することができるため、ステアリングホイール10が中立位置に戻る速度が遅くなることに対して的確に対処することができる。
【0067】
(6)具体的には、マイコン51は、車速値V及び角度指令値θp*に基づいて想定されたステアリングホイール10を切り戻し操作するのに必要な力と比較して、操舵トルクTrqが小さい場合にステアリングホイール10が中立位置に戻る状況であることを判定するようにしている。つまり、運転者がステアリングホイール10を保舵していたとしても、セルフアライニングトルクによってステアリングホイール10が中立位置に戻る状況であることを的確に判断することができるようになる。これにより、ステアリングホイール10が中立位置に戻る速度が遅くなることに対してより的確に対処することができる。
【0068】
(7)本実施形態において、トルク指令値Th*に対して摩擦成分Tf*を反映させるので、基本アシスト成分Tb*は、運転者が入力すべき操舵トルクTrqを、運転者に滑らかな操舵感を与えるように作用するアシスト力として操舵機構2に付与される。つまり、操舵機構2に入力されるトルクに対する摩擦(反力)まで管理することができ、操舵特性をより好適に最適化することができる。
【0069】
(8)本実施形態において、マイコン51は、電動パワーステアリング装置1について、静特性と、動特性とをそれぞれ独立して調整することができるように構成されている。
例えば、図6に示すように、電動パワーステアリング装置1は、ADAS(Advanced Driver Assistance System:先進運転支援システム)などの運転者の運転を支援する運転支援装置を構築するように機能を拡張してもよい。この場合、操舵制御装置50は、車載ネットワークを構成するCAN(Controller Area Network)等の通信回線Comを介して車載される運転支援制御装置100と通信可能に接続される。運転支援制御装置100は、例えば、車両が走行中の走行レーンを維持して走行したりするように設定される目標進路に沿った車両の走行を実現する運転支援制御を操舵制御装置50に対して指示するものである。運転支援制御装置100は、車載カメラや車載レーダ等の車載センサ101の検出結果である車両情報Cimに基づいて、運転支援制御に使用する目標進路(道路に対する車両の相対的な方向)を演算して生成するものである。
【0070】
この構成の場合、運転支援制御装置100は、車載センサ101の検出結果に基づいて生成した目標進路を示す情報として、運転支援指令値As*を操舵制御装置50に対して出力する。また、運転支援制御装置100は、車両の走行状態にあった操舵感を実現する運転支援制御を操舵制御装置50に対して行うものでもある。この場合、運転支援制御装置100は、車両情報Cimに基づいて、運転支援制御に使用する操舵補正量(操舵感を調整するための操舵トルク成分)を演算して生成する。このような運転支援指令値As*は、運転支援制御装置100の仕様によって、操舵トルクTrqに対応する操舵トルク成分や、角度指令値θp*に対応する角度成分、アシスト指令値Ta*に対応するアシストトルク成分など、トルク成分や角度成分として出力される。これに対し、マイコン51は、操舵制御装置50の外部から入力される運転支援指令値As*に基づき、支援指令値入力処理部54aによる支援指令値入力処理として以下の処理を実行する。
【0071】
すなわち、図7(a)に示すように、本実施形態のマイコン51では、運転支援制御装置100から車両の走行方向を変更するためのトルクの指令値である運転支援指令値As*が出力される場合、運転支援指令値As*が角度指令値演算部71の加算処理部81にて加算されるようにしてもよい。これは、角度指令値演算部71への入力としての、アシスト指令値演算部54のトルクF/B制御部75で生成された基本アシスト成分Tb*に対して運転支援指令値As*が加算されたり、角度指令値演算部71への入力としての操舵トルクTrqに対して運転支援指令値As*が加算されたりすることと等価である。ここで運転支援指令値As*は、運転支援制御装置100が、軸力を操作することによって車両の走行方向を変更制御するための操作量である。ただし、ここでの軸力は、ラックシャフト12に実際に加わる力ではなく、ステアリングシャフト11に加わるトルクに換算された軸力となっている。
【0072】
また、図7(b)に示すように、本実施形態のマイコン51では、運転支援制御装置100から車両の走行方向を変更するためのトルクの指令値である運転支援指令値As*が出力される場合、運転支援指令値As*が基本アシスト成分演算部70の加算処理部76にて加算されるようにしてもよい。これは、トルク指令値演算部74への入力としての、駆動トルクTcに対して運転支援指令値As*が加算されることを意味する。ここで運転支援指令値As*は、運転支援制御装置100が、運転者によるステアリングホイール10へのトルクの入力を仮想的に操作することによって車両の走行方向を変更制御するための操作量である。
【0073】
また、図7(c)に示すように、本実施形態のマイコン51では、運転支援制御装置100から操舵トルク成分である運転支援指令値As*が出力される場合、アシスト指令値演算部54のトルク指令値演算部74で生成されたトルク指令値Th*に対して運転支援指令値As*が加算されるように、加算処理部77を変更すればよい。ここで運転支援指令値As*は、たとえば操舵感調整のために運転者の入力する操舵トルクTrqの大きさを調整する調整量であり、その場合、運転者に操舵トルクTrqを増加させることを狙う場合に正となる値である。もっとも、これに限らず、車両の走行方向を変更するための操作量であってもよい。
【0074】
また、図7(d)に示すように、本実施形態のマイコン51では、運転支援制御装置100から操舵トルク成分である運転支援指令値As*が出力される場合、減算処理部78の入力となる操舵トルクTrqから運転支援指令値As*が減算されるように減算処理部102を追加すればよい。ここで運転支援指令値As*は、たとえば操舵感調整のために運転者の入力する操舵トルクTrqの大きさを調整する調整量であり、その場合、運転者に操舵トルクTrqを増加させることを狙う場合に正となる値である。もっとも、これに限らず、車両の走行方向を変更するための操作量であってもよい。
【0075】
また、図8(a)に示すように、本実施形態のマイコン51では、運転支援制御装置100から車両の走行方向を変更するための角度成分である運転支援指令値As*が出力される場合、アシスト指令値演算部54の角度指令値演算部71で生成された角度指令値θp*に対して運転支援指令値As*が加算されるように、加算処理部103を追加すればよい。ここで運転支援指令値As*は、転舵角(ピニオン角θp)の補正指令値である。運転支援指令値As*は、ピニオン角θpを正の方向に補正することを意図する場合、正の値となる。
【0076】
また、図8(b)に示すように、本実施形態のマイコン51では、運転支援制御装置100から車両の走行方向を変更するための角度成分である運転支援指令値As*が出力される場合、角度F/B制御部72の入力となるピニオン角θpから運転支援指令値As*が減算されるように、減算処理部104を追加してもよい。ここで運転支援指令値As*は、転舵角(ピニオン角θp)の補正指令値である。運転支援指令値As*は、ピニオン角θpを正の方向に補正することを意図する場合、正の値となる。
【0077】
また、図8(c)に示すように、本実施形態のマイコン51では、運転支援制御装置100から車両の走行方向を変更するための角度成分である運転支援指令値As*が出力される場合、バネ特性制御演算部84に入力される角度指令値θp*から運転支援指令値As*が減算されるように、減算処理部105を追加してもよい。ここで運転支援指令値As*は、転舵角(ピニオン角θp)の補正指令値である。運転支援指令値As*は、ピニオン角θpを正の方向に補正することを意図する場合、正の値となる。
【0078】
また、図8(d)に示すように、本実施形態のマイコン51では、運転支援制御装置100からアシスト指令値成分である運転支援指令値As*が出力される場合、アシスト指令値演算部54の角度F/B制御部72で生成されたアシスト指令値Ta*に対して運転支援指令値As*が加算されるように、加算処理部106を追加すればよい。ここで運転支援指令値As*は、車両の走行方向を変更するためのトルクの指令値である。
【0079】
したがって、本実施形態の操舵制御装置50では、その機能を運転支援装置にまで拡張した際に上記何れの成分の運転支援指令値As*が出力される場合であっても、マイコン51の機能についての構成の変更を抑えることができ、容易に対応することができる。
【0080】
ちなみに、上記実施形態における事項と、上記「課題を解決するための手段」の欄に記載した事項との対応関係は、次の通りである。以下では、「課題を解決するための手段」の欄に記載した解決手段の番号毎に、対応関係を示している。[1]の処理回路は、マイコン51に対応する。[3]は図7(a)に対応する。[4]は図7(b)に対応する。[5]は図7(c)に対応する。[6]は図7(d)に対応する。[8]は図8(a)に対応する。[9]は図8(b)に対応する。[10]は図8(c)に対応する。
【0081】
なお、上記実施形態は、以下の形態にて実施することもできる。
・角度指令値演算部71(目標モデル演算部80)は、各補償成分演算部91,92を割愛したり、戻り用補償成分演算部92を割愛したり、他の動特性を補償する補償成分を追加したりしてもよい。各補償成分演算部91,92を割愛する場合には、対応する補償成分を基本アシスト成分Tb*の生成と合わせて生成するように構成してもよい。また、他の補償成分としては、例えば、ステアリングシャフト11に転舵輪15を介して路面から伝達される逆入力振動を抑えるように補償するためのトルク微分補償成分や、ステアリングホイール10の切り始め時の引っ掛かり感や切り終わり時の流れ感を抑制するための慣性補償成分等が考えられる。トルク微分補償成分の生成には、操舵トルクTrqを微分して得られるトルク微分値を用いればよい。慣性補償成分の生成には、角加速度指令値αp*を用いればよい。
【0082】
・角度指令値演算部71(目標モデル演算部80)は、理想モデルを表現する上記の式(c1)に替えて、例えば、駆動トルクTcを入力とし、角度指令値θp*をマップ演算することもできる。
【0083】
・バネ特性制御演算部84では、ピニオン角θpに替えて、例えば、ラックシャフト12の実際の軸力を検出したり、車両に作用するヨーレートや横加速度を検出したりして、実際の軸力やヨーレートや横加速度に応じてバネ係数Kと、車速値Vとの関係を変更することもできる。つまり、車両の仕様や使用環境等に応じて、転舵角θtに対する転舵輪15を転舵させるのに必要なトルクの特性を適宜変更可能である。
【0084】
・目標モデル演算部80において、慣性制御演算部82や粘性制御演算部83では、バネ特性制御演算部84と同様、ピニオン角θpに応じて慣性係数Jや粘性係数Cと、車速値Vとの関係を変更することもできる。この場合、上述と同様、ピニオン角θpに替えて、例えば、ラックシャフト12の実際の軸力であったり、車両に作用するヨーレートや横加速度であったりを採用してもよい。
【0085】
・アシスト指令値演算部54は、運転者が入力すべき操舵トルクTrqに対して、例えば、車両や当該車両の操舵機構2が有する機械的な摩擦(反力)を運転者が入力すべき操舵トルクTrqに反映させたい場合、摩擦補償制御部73を割愛してもよい。つまり、車両の仕様や使用環境等に応じて、摩擦補償制御部73を付加したり割愛したり適宜変更可能である。
【0086】
・操作状態判定部95は、操舵トルクTrq及び角度指令値θp*の符号が異なる範囲において、ステアリングホイール10を切り戻し操作するのに必要な力と比較して、操舵トルクTrq(絶対値)が小さい場合にステアリングホイール10が中立位置に戻る状況であることを判定してもよい。
【0087】
・操作状態判定部95は、車速値V及び角度指令値θp*に関係なく操舵トルクTrqが零値の場合にステアリングホイール10が中立位置に戻る状況であることを判定してもよい。つまり、操作状態判定部95は、車速値V及び角度指令値θp*を用いることなく、操舵トルクTrqに基づいて、ステアリングホイール10が中立位置に戻る状況であることを判定してもよい。
【0088】
・操作状態判定部95では、角速度指令値ωp*を用いてステアリングホイール10の操舵方向が中立位置に向かう方向であるか否かを判定した上で、操舵トルクTrq及び角度指令値θp*に基づいて、ステアリングホイール10が中立位置に戻る状況であるか否かを判定してもよい。操作状態判定部95は、角速度指令値ωp*及び角度指令値θp*の符号が異なる場合にステアリングホイール10の操舵方向が中立位置に向かう方向であることを判定すればよい。
【0089】
・操作状態判定部95では、転舵輪15を転舵させるようにステアリングホイール10を切り戻し操作するのに必要な力の特性として、想定する特性としてより多くの種類を用意してもよい。
【0090】
・操作状態判定部95は、車速値Vや角度指令値θp*の値に応じて、戻り用補償ゲインGrの値を「0(零値)」から「1」の間で段階的に設定するようにしてもよい。戻り用補償ゲインGrの値としては、例えば、セルフアライニングトルクが大きい状況、つまり車速値Vや角度指令値θp*が大きいほど「1」に近付けるように設定すればよい。
【0091】
・戻り用補償成分演算部92は、ダンピング補償成分Td*をいくらかでも打ち消すように戻り用補償成分Tr*を生成することができればよい。例えば、基本戻り用補償成分Trb*は、その時の車速値V及び角速度指令値ωp*に基づいて生成されるダンピング補償成分Td*に対して絶対値が小さくなるように設定したり、当該ダンピング補償成分Td*に対してその時の車速値V及び角速度指令値ωp*に応じて絶対値が小さくなったり同値になったり可変したりしてもよい。この場合、基本戻り用補償成分Trb*は、その時の車速値V及び角速度指令値ωp*に基づいて生成されるダンピング補償成分Td*を相殺して打ち消すように構成する一方で、戻り用補償ゲインGrは、「1」以下に設定したり、その時の車速値V及び角速度指令値ωp*に応じて「0(零値)」から「1」の間で可変したりしてもよい。
【0092】
・戻り用補償成分演算部92は、ダンピング補償成分Td*に乗算するゲインを演算する構成としてもよい。この場合、粘性制御演算部83は、ダンピング補償成分演算部91と、加算処理部93との間に、ダンピング補償成分Td*に対して、戻り用補償成分演算部92で生成されたゲインを乗算して補償後のダンピング補償成分Td´*を演算(生成)する乗算処理部を有していればよい。これは、ダンピング補償成分演算部91においても同様であり、当該ダンピング補償成分演算部91は、基本粘性成分Tvib*に乗算するゲインを演算する構成としてもよい。これら構成を共に適用する場合、粘性制御演算部83は、加算処理部93の替わりに、基本粘性成分Tvib*に対して、ダンピング補償成分演算部91で生成されたゲイン及び戻り用補償成分演算部92で生成されたゲインを乗算して粘性成分Tvi*を演算(生成)する乗算処理部を有していればよい。
【0093】
・トルク指令値Th*は、求められる操舵特性に応じて適宜調整することができる。たとえば、車速値Vが小さいほどより小さい絶対値となるトルク指令値Th*を演算するようにしてもよい。トルク指令値演算部74では、トルク指令値Th*を演算する際、駆動トルクTcを少なくとも用いていればよく、車速値Vを用いなくてもよい。その他、トルク指令値Th*を演算する際は、駆動トルクTc及び車速値Vと、これら以外の要素とを用いるようにしてもよい。これは、粘性制御演算部83のダンピング補償成分演算部91においても同様であり、ダンピング補償成分Td*を演算する際、角速度指令値ωp*を少なくとも用いていればよく、車速値Vを用いなくてもよいし、他の要素を組み合わせて用いるようにしてもよい。また、戻り用補償成分演算部92について、基本補償成分演算部94においても同様であり、基本戻り用補償成分Trb*を演算する際、角度指令値θp*を少なくとも用いていればよく、車速値Vを用いなくてもよいし、他の要素を組み合わせて用いるようにしてもよい。
【0094】
・上記実施形態では、転舵輪15の転舵角θtに換算可能な回転軸の回転角度として、ピニオン角θpに替えて、ステアリングホイール10の回転に基づき変化する操舵角θsを用いるようにしてもよい。この場合、操舵角θsを検出する舵角センサが車載されている場合、回転角度θmに替えて、当該舵角センサの検出値を用いるようにすればよい。
【0095】
上記実施形態では、トルク指令値演算部74において、操舵トルクTrqと基本アシスト成分Tb*との和である駆動トルクTcに対して運転者が入力すべき操舵トルクの目標値に対するトルク指令値Th*を演算したが、駆動トルクTcに基づきトルク指令値Th*を演算するものとしては、これに限らない。たとえば操舵トルクTrqと基本アシスト成分Tb*との和(駆動トルクTc)と、ヨーレートとの加重移動平均処理値に対してトルク指令値Th*を演算してもよい。
【0096】
上記実施形態では、減算処理部78によってトルク指令値Th*から操舵トルクTrqを減算した減算値を、トルクF/B制御部75の入力としたが、これに限らない。たとえば、操舵トルクTrqからトルク指令値Th*を減算した減算値をトルクF/B制御部75の入力としてもよい。この場合、たとえばトルクF/B制御部75が比例要素を有する場合に比例ゲインを正とするなど、フィードバックゲインを正とすることができる。
【0097】
上記実施形態では、メモリに記憶されたプログラムをCPUが実行することによって、アシスト指令値演算部54およびピニオン角演算部56を実現したが、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。たとえば、上記実施形態においてソフトウェア処理されたものの少なくとも一部を、ハードウェア処理する専用のハードウェア回路(たとえばASIC等)を備えてもよい。すなわち、操舵制御装置は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)上記処理の全てを、プログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶するROM等のプログラム格納装置とを備える。(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置およびプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備える。(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備える。ここで、処理装置およびプログラム格納装置を備えたソフトウェア処理回路や、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。すなわち、上記処理は、1または複数のソフトウェア処理回路および1または複数の専用のハードウェア回路の少なくとも一方を備えた処理回路によって実行されればよい。
【0098】
・上記実施形態は、出力軸40aがラックシャフト12の軸線に対して平行に配置されたモータ40により操舵機構2にアシスト力を付与するラックアシスト型の電動パワーステアリング装置1に限らず、例えば、コラム型やピニオン型等の電動パワーステアリング装置であっても適用可能である。
【0099】
・上記各変形例は、互いに組み合わせて適用してもよく、例えば、コラム型の電動パワーステアリング装置に適用することと、その他の変形例の構成とは、互いに組み合わせて適用してもよい。
【符号の説明】
【0100】
1…電動パワーステアリング装置、2…操舵機構、10…ステアリングホイール、11…ステアリングシャフト、11a…コラムシャフト、11b…インターミディエイトシャフト、11c…ピニオンシャフト、15…転舵輪、40…モータ、40a…出力軸、50…操舵制御装置、51…マイコン、54…アシスト指令値演算部、55…制御信号生成部、70…基本アシスト成分演算部、71…角度指令値演算部、72…角度F/B制御部(角度フィードバック制御部)、74…トルク指令値演算部、75…トルクF/B制御部(トルクフィードバック制御部)、80…目標モデル演算部、91…ダンピング補償成分演算部、92…戻り用補償成分演算部、θm…回転角度、θp…ピニオン角、θt…転舵角、Tc…駆動トルク、θp*…角度指令値、S_m…モータ制御信号、Ta*…アシスト指令値、Tb*…基本アシスト成分、Td*…ダンピング補償成分、Th*…トルク指令値、Tr*…戻り用補償成分、Trq…操舵トルク。
図1
図2
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図8