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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】光検出器
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/10 20060101AFI20221109BHJP
   C01B 32/194 20170101ALI20221109BHJP
【FI】
H01L31/10 E
H01L31/10 D
C01B32/194
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020046591
(22)【出願日】2020-03-17
(65)【公開番号】P2021150378
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2021-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】田村 伸一
【審査官】原 俊文
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0011930(US,A1)
【文献】特開2017-092210(JP,A)
【文献】特開2019-026528(JP,A)
【文献】特表2014-522117(JP,A)
【文献】特表2016-520438(JP,A)
【文献】特開2010-206176(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00-31/0392
H01L 31/08-31/119
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構成を備えた光検出器。
(1)前記光検出器は、
グラフェンからなるチャネルと、
前記チャネルの表面に形成されたグラフェンナノ構造体を含む光吸収層と
を備えている。
(2)前記グラフェンナノ構造体は、
ナノグラフェンと、
前記ナノグラフェンに結合している有機基と
を備えている。
(3)前記チャネルは、
キャリアが移動する経路が湾曲又は屈曲しており、
前記チャネルの放出部から放出されたフォノンを、前記フォノンを放出した前記チャネルの再吸収部で再吸収させることが可能な波型又は渦巻き型の平面形状を持ち、
前記放出部と前記再吸収部との間の平均距離Dが10μm以下である。
【請求項2】
前記チャネルの平面形状は、波型である請求項1に記載の光検出器。
【請求項3】
前記放出部と前記再吸収部との間の平均距離Dは、10nm以上10μm以下である請求項1又は2に記載の光検出器。
【請求項4】
前記有機基は、π共役性窒素官能基からなる請求項1から3までのいずれか1項に記載の光検出器。
【請求項5】
前記有機基は、
ピラジン骨格を介して前記ナノグラフェンに結合しているπ共役性官能基と、
前記π共役性官能基に導入された1又は2以上のBr基又はCN基と
を備えている請求項1から4までのいずれか1項に記載の光検出器。
【請求項6】
フォトダイオード又は電界効果トランジスタからなる請求項1から5までのいずれか1項に記載の光検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光検出器に関し、さらに詳しくは、広帯域の光を高い感度で検出することが可能な光検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは、黒鉛結晶の1原子層~数原子層からなるシート状物質であり、室温におけるキャリア移動度が極めて高く、かつ、深紫外からテラヘルツまでのあらゆる波長の光を吸収できる特性を有している。そのため、このようなグラフェンの特異な性質を利用して、深紫外線から赤外線までの光に応答性を有した広帯域光検出器の作製が試みられている。しかし、グラフェンは金属性であり、光検出器の感度が低いことが課題となっていた。
【0003】
一方、グラフェンを数nmサイズにまで微細化すると、グラフェン量子ドット等の半導体化したグラフェンナノ構造体を得ることができる。また、このようなグラフェンナノ構造体を用いて、光検出器の感度を向上させることも試みられている。
【0004】
例えば、特許文献1には、チャネルがグラフェンからなる電界効果トランジスタ(グラフェンFET)と、チャネルの表面に形成された光吸収層とを備え、光吸収層が窒素官能基化ナノグラフェンからなる光センサが開示されている。
同文献には、グラフェンFETと窒素官能基化ナノグラフェンとを組み合わせると、フォトコンダクティブゲインが高く、有害元素を含まず、かつ、紫外光から近赤外光領域で応答する光センサが得られる点が記載されている。
【0005】
特許文献2には、ナノグラフェンと、ピラジン骨格を介して前記ナノグラフェンに結合しているπ共役性官能基と、前記π共役性官能基に導入された1又は2以上のBr基及び/又はCN基とを備えたグラフェンナノ構造体が開示されている。
同文献には、
(a)ナノグラフェンに、ピラジン骨格を介してπ共役性官能基を導入すると、短波長域の光の感度が向上する点、及び、
(b)π共役性官能基にBr基及び/又はCN基を導入すると、短波長域の光の感度がさらに向上すると同時に、光吸収端が1000nm以上に長波長化し、かつ、長波長域の光の感度が著しく向上する点
が記載されている。
【0006】
特許文献3には、光検出器の感度の向上を目的とするものではないが、
グラフェン層と、
グラフェン層の一端に連結されたソース電極と、
グラフェン層の他端に連結されたドレイン電極と、
グラフェン層とドレイン電極との間に挿入された機能性層と、
グラフェン層の裏面に形成されたゲートと、
グラフェン層とゲートとの間に挿入されたゲート絶縁層と
を備えたグラフェン素子が開示されている。
同文献には、グラフェン層とドレイン電極との間に機能性層を挿入することにより、多機能を有するグラフェン素子が得られる点が記載されている。
【0007】
特許文献4~6には、光検出器の感度の向上を目的とするものではないが、光検出器(光電変換素子)を備えた撮像素子において、光検出器の導電層(搬送層)としてグラフェンを用いる点が記載されている。
さらに、特許文献7には、光検出器の感度の向上を目的とするものではないが、LEDを備えた表示素子において、LEDの電極や窒化物半導体の下に形成される層としてグラフェンを用いる点が記載されている。
【0008】
既存の撮像素子では、撮像できる光の波長が、例えば、可視域、近赤外域のように、用途によって分かれている。そのため、複数の帯域の光を撮像しようとすると、複数の素子が必要となる。これは、撮像素子に使われている材料のバンドギャップが決まっているために、応答できる光の波長が限られるためである。
【0009】
これに対し、特許文献1、2に記載されたグラフェンナノ構造体は、広帯域の光を吸収することができるだけでなく、光の感度も高い。そのため、これを撮像素子用の光検出器に応用すれば、広帯域の光に対して高い感度を持つ撮像素子を得ることができる。
しかしながら、撮像素子の性能をさらに向上させるためには、光検出器の光の感度をさらに向上させることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2017-092210号公報
【文献】特開2019-026528号公報
【文献】特開2016-025356号公報
【文献】特開2018-207273号公報
【文献】特開2017-028682号公報
【文献】特開2016-213823号公報
【文献】特開2016-029794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、広帯域の光を高い感度で検出することが可能な光検出器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明に係る光検出器は、以下の構成を備えている。
(1)前記光検出器は、
グラフェンからなるチャネルと、
前記チャネルの表面に形成されたグラフェンナノ構造体を含む光吸収層と
を備えている。
(2)前記グラフェンナノ構造体は、
ナノグラフェンと、
前記ナノグラフェンに結合している有機基と
を備えている。
(3)前記チャネルは、
キャリアが移動する経路が湾曲又は屈曲しており、
前記チャネルの放出部から放出されたフォノンを、前記フォノンを放出した前記チャネルの再吸収部で再吸収させることが可能な平面形状を持つ。
【発明の効果】
【0013】
グラフェンチャネルの上に、広帯域で高感度を示すグラフェンナノ構造体を形成した光検出器において、グラフェンナノ構造体に光が照射されると、キャリアが励起され、励起された一方のキャリア(例えば、電子)がグラフェンに移動する。そのため、グラフェンチャネルに移動したキャリアの量(すなわち、電流の変化量)を検出すれば、光の有無及び光量を知ることができる。
しかしながら、チャネルの平面形状が直線型の形状である場合において、グラフェンナノ構造体に光が照射された時には、光応答感度の高い領域である紫外から可視領域の光はキャリアを励起し、電流の変化量として検出されるが、光応答感度の低い領域である近赤外より長波長の光ではフォノンとしてチャネルから放出され、電流変化にほとんど寄与しない。
【0014】
これに対し、グラフェンチャネルの平面形状を適度に湾曲又は屈曲させた形状とすると、チャネルの一部分(放出部)から放出されたフォノンを、チャネルの他の部分(再吸収部)で再吸収させることができる。グラフェンはゼロギャップ半導体又はこれに近い性質を持つ材料であるため、フォノンがグラフェンに再吸収されるとグラフェン内でキャリアが励起される。その結果、グラフェンチャネルが直線型である場合に比べて光の感度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】π共役性官能基及びBr基又はCN基を備えた有機基、並びに、これを備えたグラフェンナノ構造体の模式図である。
図2図2(A)は、直線型のグラフェンチャネルに光を照射したときのフォノンの挙動の模式図である。図2(B)は、波型のグラフェンチャネルに光を照射したときのフォノンの挙動の模式図である。
図3】本発明に係る光検出器を備えた撮像素子の1画素の断面模式図である。
【0016】
図4図4(A)は、実施例1で得られた撮像素子の画素部のSEM像である。図4(B)は、図4(A)の撮像素子に備えられる光検出器の拡大SEM像である。
図5図5(A)は、直線型のグラフェンチャネルを有する光検出器(比較例1)の光学顕微鏡像である。図5(B)は、波型のグラフェンチャネルを有する光検出器(実施例1)の光学顕微鏡像である。
図6】直線型(比較例1)又は波型(実施例1)のグラフェンチャネルを有する光検出器に光を照射した時の、光の波長と電流値変化量ΔIとの関係を示す図である。
【0017】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. グラフェンナノ構造体]
本発明において、グラフェンナノ構造体は、
ナノグラフェンと、
前記ナノグラフェンに結合している有機基と
を備えている。
【0018】
[1.1. ナノグラフェン]
「ナノグラフェン」とは、炭素の環構造及びsp2結合性の芳香環で構成された2次元のシート状構造を有する物質であって、有機基が導入された状態において、半導体性(Eg>0eV)を示すものをいう。ナノグラフェンは、単層のシートからなる場合と、多層のシートからなる場合とがある。通常、ナノグラフェンが半導体性を示す場合、これに有機基が導入されたグラフェンナノ構造体もまた、半導体性を示す。
【0019】
[1.2. 有機基]
「有機基」とは、ナノグラフェンの光吸収端を長波長化させ、及び/又は、光の吸光度を増大させる作用がある官能基をいう。換言すれば、「有機基」とは、ナノグラフェンに電子を供与することで、バンドギャップを小さくし、ナノグラフェンの光吸収端を長波長化させ、及び/又は、光の吸光度を増大させる作用がある官能基をいう。
このような有機基としては、例えば、
(a)π共役性窒素官能基、
(b)ピラジン骨格を介してナノグラフェンに結合しているπ共役性官能基と、π共役性官能基に導入された1又は2以上のBr基又はCN基とを備えている官能基、
などがある。
ナノグラフェンには、これらのいずれか1種の有機基が結合していても良く、あるいは、2種以上が結合していても良い。
【0020】
[1.2.1. π共役性窒素官能基]
有機基の第1の具体例は、π共役性窒素官能基からなる。ここで、「π共役性窒素官能基」とは、非共有電子対を有する窒素原子を構成元素として含む官能基をいう。
π共役性窒素官能基としては、例えば、アミン基、ジメチルアミン基、アゾ基、ナフタレンジアミン基、フェニレンジアミン基、メチルレッド基などがある。グラフェンナノ構造体は、これらのいずれか1種のπ共役性窒素官能基を含むものでも良く、あるいは、2種以上を含むものでも良い。
π共役性窒素官能基は、ナノグラフェンのエッジ及び/又は基底面に結合しているのが好ましい。
【0021】
[1.2.2. π共役性官能基及びBr基又はCN基を含む有機基]
有機基の第2の具体例は、
ピラジン骨格を介して前記ナノグラフェンに結合しているπ共役性官能基と、
前記π共役性官能基に導入された1又は2以上のBr基又はCN基と
を備えているものからなる。
図1に、π共役性官能基及びBr基又はCN基を備えた有機基、並びに、これを備えたグラフェンナノ構造体の模式図を示す。
【0022】
[A. π共役性官能基、ピラジン骨格]
「π共役性官能基」とは、π電子を持つ原子が環状に並んだ構造を持つ不飽和環状化合物に由来する官能基をいう。π電子を持つ原子としては、例えば、C、Nなどがある。π共役性官能基は、ピラジン骨格を介してナノグラフェンに結合している。
【0023】
「ピラジン骨格」とは、ナノグラフェンのエッジ及び/又は基底面に1辺のみを共有して結合しているピラジン環(=C42=)をいう。ピラジン環の「2位及び3位の炭素」又は「5位及び6位の炭素」のいずれか一方はナノグラフェンとピラジン骨格との間で共有され、他方はピラジン骨格とπ共役性官能基との間で共有されている。
図1の上段は、ナノグラフェンのエッジ又は基底面にピラジン骨格が結合している様子を表す模式図である。ピラジン骨格の先端にある、隣り合う2つのRを共有する形で、ピラジン骨格と、Br基又はCN基が置換したπ共役性官能基とが結合する。
【0024】
π共役性官能基の基礎となる不飽和環状化合物としては、例えば、
(a)環状構造がCのみで構成される不飽和環状化合物(例えば、ベンゼン(C66)、アズレン(C108)、シクロブタジエン(C44)など)、
(b)環状構造がC及びNで構成される不飽和環状化合物(例えば、ピリジン(C55N)、ピラジン(C442)、フェナジン(C1282)、ピリダジン(C442)、ピリミジン(C442)など)、
(c)環状構造がC及びOで構成される不飽和環状化合物(例えば、フラン(C44O)など)、
(d)環状構造がC及びNで構成され、かつ、N-H結合を含む不飽和環状化合物(例えば、ピロール(C45N)、ピラゾール(C342)、イミダゾール(C342)など)、
(e)炭素数が6を超えるアヌレン(例えば、シクロオクタテトラエン(C88)、シクロテトラデカヘプタエン(C1414)、シクロオクタデカノナエン(C1818)など)、
などがある。
グラフェンナノ構造体は、これらのいずれか1種のπ共役性官能基を含むものでも良く、あるいは、2種以上を含むものでも良い。
【0025】
[B. Br基、CN基]
π共役性官能基には、Br基及び/又はCN基が導入されている。「Br基及び/又はCN基が導入されている」とは、π共役性官能基の環状構造を構成する原子に結合している水素原子がBr基及び/又はCN基で置換されていることをいう。π共役性官能基には、Br基又はCN基のいずれか一方が導入されていても良く、あるいは、双方が導入されていても良い。
【0026】
さらに、π共役性官能基には、1個のBr基又はCN基が導入されていても良く、あるいは、2個以上のBr基及び/又はCN基が導入されていても良い。Br基及びCN基は、いずれも強電子吸引性であるため、π共役性官能基に導入されるBr基及びCN基の数が多くなるほど、ナノグラフェンのπ電子とのプッシュ・プル効果が増大し、光吸収波長が長波長化する。但し、必要以上にBr基又はCN基を導入しても、効果に差がなく、実益がない。従って、Br基及びCN基の数は、目的に応じて最適な数を選択するのが好ましい。
【0027】
Br基及び/又はCN基が導入されたπ共役性官能基としては、例えば、4-ブロモベンゼン基(C63Br=)、4,5-ジブロモベンゼン基(C62Br2=)、5-ブロモピリジン基(C52BrN=)、5-ブロモピラジン基(C4HBrN2=)、ベンゾニトリル基(C63CN=)、フタロニトリル基(C62(CN)2=)、2,3-ジシアノピラジン基(C42(CN)2=)などがある(図1参照)。
【0028】
[1.3. 平均サイズ]
「グラフェンナノ構造体のサイズ」とは、シートを法線方向から見た時の、シートの最大長さをいう。
「平均サイズ」とは、無作為に選んだn個(n≧5)のグラフェンナノ構造体のサイズの平均値をいう。
【0029】
グラフェンナノ構造体の平均サイズは、バンドギャップEgに影響を与える。グラフェンナノ構造体の平均サイズが小さくなりすぎると、Egが過度に大きくなり、半導体性が失われる場合がある。従って、平均サイズは、1nm以上が好ましい。平均サイズは、好ましくは、3nm以上である。
一方、グラフェンナノ構造体の平均サイズが大きくなりすぎると、半導体性が失われる。従って、平均サイズは、100nm以下が好ましい。平均サイズは、好ましくは、50nm以下、さらに好ましくは、30nm以下である。
【0030】
[1.4. 平均厚さ]
「グラフェンナノ構造体の平均厚さ」とは、無作為に選んだn個(n≧5)のグラフェンナノ構造体の厚さの平均値をいう。
厚さの測定方法としては、例えば、
(a)原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、シートの厚さを直接測定する方法、
(b)透過電子顕微鏡(TEM)で観察されるグラフェンナノ構造体の層数から、理想的な1層分の厚み(0.34nm)を考慮して厚さを求める方法
などがある。いずれの方法を用いても、ほぼ同様の結果が得られる。
【0031】
グラフェンナノ構造体の平均厚さは、半導体性及び太陽光の透過率に影響を与える。グラフェンナノ構造体が厚くなりすぎると、半導体性が失われる場合がある。従って、グラフェンナノ構造体の平均厚さは、100nm以下が好ましい。平均厚さは、好ましくは、50nm以下、さらに好ましくは、10nm以下である。
【0032】
[1.5. バンドギャップ]
本発明に係るグラフェンナノ構造体を光検出器に応用する場合、グラフェンナノ構造体は、光を吸収することによって電子-ホール対を形成可能なものである必要がある。そのためには、グラフェンナノ構造体は、半導体性(Eg>0eV)を示すものである必要がある。
グラフェンナノ構造体が半導体性を示すか否か、及びそのバンドギャップ(Eg)の大きさは、主としてグラフェンナノ構造体の平均サイズ(又は、平均質量)、有機基の種類(例えば、Br基及び/又はCN基の数)などに依存する。
【0033】
一般に、グラフェンナノ構造体のEgが小さくなるほど、より長波長の光を吸収することができる。しかし、Egが小さくなりすぎると、キャリアの熱励起が可能となり、広帯域用光検出器として用いることができなくなる。従って、Egは、0.01eV以上が好ましい。
一方、Egが大きくなりすぎると、長波長の光を吸収できなくなる。従って、Egは、1.2eV以下が好ましい。Egは、好ましくは、1.0eV以下、さらに好ましくは、0.8eV以下である。
【0034】
[1.6. HOMO準位]
本発明に係るグラフェンナノ構造体は、種々の用途に用いることができるが、特に、チャネルにグラフェンを用いた光検出器(例えば、フォトトランジスタ)の光吸収層の材料として好適である。
一般に、光励起されたキャリアは、寿命が短く、再結合により消滅しやすい。一方、光励起キャリア寿命の長い光吸収層と、グラフェン電解効果トランジスタ(グラフェンFET)とを組み合わせると、光吸収層内において励起されたキャリアの一方(例えば、電子)はグラフェン層に速やかに移動するが、光吸収層に残った他方のキャリア(例えば、ホール)の寿命は長くなる。その結果、グラフェンFETのフォトコンダクティブゲインが向上する。
【0035】
一般に、光吸収層とグラフェンとの間のLUMO(最低空軌道)準位差又はHOMO(最高被占有軌道)準位差が小さくなるほど、一方のキャリアがグラフェン層に移動しやすくなる。高いフォトコンダクティブゲインを得るためには、両者の間のLUMO準位差又はHOMO準位差は、2eV以下である必要がある。LUMO準位差又HOMO準位差は、好ましくは、1eV以下である。
【0036】
本発明に係るグラフェンナノ構造体と、グラフェンFETのチャネルに用いられるグラフェンとの間のLUMO準位差又はHOMO準位差は、主として、グラフェンナノ構造体に導入された有機基の種類(例えば、π共役性官能基の種類、Br基及び/又はCN基の数など)に依存する。
グラフェンのHOMO準位は、約-4.6eVである。一方、有機基の種類を最適化すると、グラフェンナノ構造体のHOMO準位は、-6.0eV以上-4.0eV以下となる。そのため、このようなHOMO準位を持つグラフェンナノ構造体とグラフェンFETとを組み合わせると、電子がグラフェン層に速やかに移動することが可能となり、フォトコンダクティブゲインが向上する。
【0037】
[2. グラフェンナノ構造体の製造方法]
本発明に係るグラフェンナノ構造体の製造方法は、
(a)π共役性窒素官能基を持つ化合物、又は、(b)Br基及び/又はCN基が置換したπ共役性官能基を含有するジアミン化合物、を溶解させた水溶液にナノグラフェンを分散させ、分散液を得る分散工程と、
前記分散液を60℃以上で加熱する加熱工程と
を備えている。
【0038】
[2.1. 分散工程]
まず、
(a)π共役性窒素官能基を持つ化合物、又は、
(b)Br基及び/又はCN基が置換したπ共役性官能基を含有するジアミン化合物
を溶解させた水溶液にナノグラフェンを分散させ、分散液を得る(分散工程)。
【0039】
[2.1.1. π共役性窒素官能基を持つ化合物]
「π共役性窒素官能基を持つ化合物(以下、「窒素含有化合物」ともいう)」とは、非共有電子対を有する窒素原子を構成元素として含む官能基を持つ化合物であって、水に溶解又は分散可能なものをいう。出発原料には、いずれか1種の窒素含有化合物を用いても良く、あるいは、2種以上を用いても良い。
【0040】
窒素含有化合物としては、例えば、2,3-ジアミノナフタレン(DAN)、o-フェニレンジアミン(o-PD)、アニリン、アンモニア、ジメチルホルムアミド、ジフェニルリン酸アジド、パラメチルレッドなどがある。
【0041】
[2.1.2. ジアミン化合物]
「Br基及び/又はCN基が置換したπ共役性官能基を含有するジアミン化合物(以下、単に「ジアミン化合物」ともいう)」とは、Br基及び/又はCN基が置換したπ共役性官能基の隣り合う2つの位置に、それぞれ、1級アミン基が結合した化合物であって、水に溶解又は分散可能なものをいう。
【0042】
このようなジアミン化合物としては、例えば、
4-ブロモ-1,2-ジアミノベンゼン(C63Br(NH2)2)、
4,5-ジブロモ-1,2-フェニレンジアミン(C62Br2(NH2)2)、
2,3-ジアミノ-5-ブロモピリジン(C5HNBr(NH2)2)、
2,3-ジアミノ-5-ブロモピラジン(C4HN2Br(NH2)2)、
3,4-ジアミノベンゾニトリル(C63CN(NH2)2)、
4,5-ジアミノフタロニトリル(C62(CN)2(NH2)2)、
5,6-ジアミノ-2,3-ジシアノピラジン(C62(CN)2(NH2)2)、
などがある。
出発原料には、これらのいずれか1種のジアミン化合物を用いても良く、あるいは、2種以上を用いても良い。
【0043】
[2.1.3. 水溶液の濃度]
窒素含有化合物及びジアミン化合物は、いずれも、水に溶解又は分散させた水溶液の状態で使用される。水溶液に含まれる窒素含有化合物又はジアミン化合物の濃度は、特に限定されるものではなく、出発原料の種類や要求される特性などに応じて最適な濃度を選択すればよい。窒素含有化合物又はジアミン化合物の濃度は、通常、0.1~10mol/Lである。
【0044】
[2.1.4. ナノグラフェン]
ナノグラフェンは、
(a)酸化グラファイト又はグラフェン酸化物をアルカリ性水溶液中に分散させ、密閉容器中で60℃以上に加熱すること、あるいは、
(b)ナノグラファイト粒子を、例えば、強酸(濃硫酸)中で酸化剤(過マンガン酸カリウム、硝酸カリウムなど)を用いて酸化させること、
により合成することができる。
【0045】
ここで、「酸化グラファイト」とは、グラファイトを構成するグラフェン層のエッジ及び/又は基底面上に酸素含有官能基(例えば、-COOH基、-OH基、-C-O-C-基など)が結合しているものをいう。酸化グラファイトは、例えば、強酸(濃硫酸)中で酸化剤(過マンガン酸カリウム、硝酸カリウムなど)を用いてグラファイトを酸化させることにより得られる。
【0046】
「グラフェン酸化物」とは、酸化グラファイトの層間を剥離させることにより得られるシート状物質をいう。グラフェン酸化物は、例えば、酸化グラファイトを水溶液中に分散させ、超音波を照射することにより得られる。
本発明において、出発原料には、層間剥離を行う前の酸化グラファイト又は層間剥離させたグラフェン酸化物のいずれか一方を用いても良く、あるいは、双方を用いても良い。
【0047】
[2.1.5. 分散液]
ナノグラフェンは、窒素含有化合物又はジアミン化合物を含む水溶液に添加される。分散液に含まれるナノグラフェンの量は、特に限定されるものではなく、出発原料の種類や要求される特性などに応じて最適な量を選択すれば良い。ナノグラフェンの量は、通常、0.1~50mg/mLである。
【0048】
[2.2. 加熱工程]
次に、窒素含有化合物又はジアミン化合物を溶解又は分散させた水溶液にナノグラフェンを分散させた後、分散液を加熱する(加熱工程)。
加熱は、反応速度を速くするために行う。加熱温度が分散液の沸点を超える場合、加熱は、密閉容器内で行う。
【0049】
最適な加熱温度は、有機基源の種類により異なる。例えば、有機基源として窒素含有化合物を用いる場合において、加熱温度が低すぎると、現実的な時間内に反応が十分進行しない。従って、加熱温度は、60℃以上が好ましい。加熱温度は、さらに好ましくは、70℃以上、さらに好ましくは、80℃以上である。
一方、加熱温度が高くなりすぎると、結合した窒素が脱離するおそれがある。また、高価な耐圧容器が必要となり、製造コストが増大する。従って、加熱温度は、200℃以下が好ましい。加熱温度は、さらに好ましくは、180℃以下、さらに好ましくは、160℃以下である。
【0050】
また、有機基源としてジアミン化合物を用いる場合において、加熱温度が低すぎると、現実的な時間内に反応が十分進行しない。従って、加熱温度は、100℃以上が好ましい。加熱温度は、さらに好ましくは、120℃以上、さらに好ましくは、140℃以上である。
一方、加熱温度が高くなりすぎると、置換又は結合しているBr基、CN基、又は1級アミン基が脱離するおそれがある。また、高価な耐圧容器が必要となり、製造コストが増大する。従って、加熱温度は、260℃以下が好ましい。加熱温度は、さらに好ましくは、240℃以下、さらに好ましくは、220℃以下である。
【0051】
加熱時間は、加熱温度に応じて最適な時間を選択する。一般に、加熱温度が高くなるほど、短時間で反応を進行させることができる。加熱時間は、通常、1~20時間である。
得られたグラフェンナノ構造体は、そのまま各種の用途に用いても良く、あるいは、必要に応じて、洗浄、ろ過及び/又は透析を行っても良い。
【0052】
[3. 光検出器]
本発明に係る光検出器は、
グラフェンからなるチャネルと、
前記チャネルの表面に形成されたグラフェンナノ構造体を含む光吸収層と
を備えている。
【0053】
[3.1. チャネル]
[3.1.1. 材料]
チャネルは、グラフェンからなる。「グラフェン」とは、炭素の環構造及びsp2結合性の芳香環で構成された2次元のシート状構造を有する物質(換言すれば、黒鉛結晶の1原子層~数原子層からなるシート状物質)であって、半金属的性質を示すものをいう。グラフェンは、その大きさや原子層の数に応じて、半金属的性質を示すものから、半導体的性質を示すものまで存在する。
本発明において、グラフェンは、半金属(バンドギャップ(Eg)≒0eV)からなる。半金属からなるグラフェンは、キャリアの移動度が高く、遷移時間(τtransit)が短いので、チャネルの材料として好適である。
【0054】
本発明において、「(広義の)半金属」とは、
(a) 伝導帯および価電子帯がフェルミ準位において完全に一致している物質(すなわち、ゼロギャップ半導体)、又は、
(b)伝導体の下端と価電子帯の上端とがフェルミ準位をまたいで僅かに重なり合ったバンド構造を持つ物質(すなわち、狭義の半金属)
をいう。
なお、本発明において、「半金属」というときは、特に断らない限り、「広義の半金属」を表す。
【0055】
グラフェンが半金属的性質を持つためには、グラフェンの大きさは、幅、高さ共に、100nm超である必要がある。グラフェンの大きさは、幅、高さ共に、10μm以上、さらに好ましくは、50μm以上である。
【0056】
単層のグラフェンは、ゼロギャップ半導体である。一方、2以上の原子層が重なったグラフェンは、狭義の半金属的性質を示す。しかし、原子層数が大きくなりすぎると、電子状体がバルクに近づくため、キャリア移動度が小さくなる。従って、グラフェンの原子層数は、2以下が好ましい。
【0057】
高いフォトコンダクティブゲインを得るためには、グラフェンのキャリア移動度は高いほど良い。グラフェンのキャリア移動度は、好ましくは、100cm2-1-1以上、さらに好ましくは、500cm2-1-1以上、さらに好ましくは、1000cm2-1-1以上である。
【0058】
[3.1.2. 形状]
本発明において、チャネルは、
キャリアが移動する経路が湾曲又は屈曲しており、
前記チャネルの放出部から放出されたフォノンを前記チャネルの再吸収部で再吸収させることが可能な平面形状を持つ。
この点が従来とは異なる。
【0059】
図2(A)に、直線型のグラフェンチャネルに光を照射したときのフォノンの挙動の模式図を示す。図2(B)に、波型(S字型)のグラフェンチャネルに光を照射したときのフォノンの挙動の模式図を示す。
グラフェンナノ構造体に光が照射された場合、光応答感度の低い領域である近赤外より長波長の光は、フォノンとしてチャネルから放出される。この場合において、図2(A)に示すように、チャネルが直線型である時には、フォノンはそのまま外界に放出される。そのため、放出されたフォノン(すなわち、余剰エネルギー)は、光検出器の感度の向上にほとんど寄与しない。
【0060】
これに対し、図2(B)に示すように、チャネルを適度に湾曲又は屈曲させると、チャネルの一部分(以下、これを「放出部」ともいう)から放出されたフォノンがチャネルの他の部分(以下、これを「再吸収部」ともいう)に再吸収される。グラフェンはゼロギャップ半導体又はこれに近い性質を持つ材料であるため、フォノンがグラフェンに再吸収されるとグラフェン内でキャリアが新たに励起される。その結果、グラフェンチャネルが直線型である場合に比べて、光の感度が向上する。
【0061】
光の感度を向上させることが可能なチャネルの平面形状としては、例えば、
(a)チャネルが周期的に湾曲又は屈曲している波型(例えば、U字型、V字型、N字型、S字型、W字型、正弦波型、矩形波型、三角波型、鋸歯状波型など)
(b)チャネルが渦巻き状に湾曲又は屈曲している渦巻き型、
などがある。
チャネルの平面形状は、特に波型が好ましい。これは、湾曲部又は屈曲部の数や形状によって、抵抗値やチャネル長さなどのパラメータの調節がしやすいためである。
【0062】
[3.1.3. 放出部と再吸収部との間の平均距離D]
「放出部と再吸収部との間の平均距離D」とは、フォノンの授受が行われる放出部と再吸収部との間の最短距離Dminと最長距離Dmaxの平均値をいう。
チャネルが湾曲又は屈曲している場合において、放出部と再吸収部との間の平均距離Dは、光検出器の性能に影響を与える。平均距離Dが短くなりすぎると、トンネル電流が増大し、光未照射時のグラフェンの抵抗が下がり、光検出の機能が著しく低下する場合がある。従って、平均距離Dは、10nm以上が好ましい。
一方、平均距離Dが長くなりすぎると、フォノンが再吸収される割合が少なくなる。従って、平均距離Dは、10μm以下が好ましい。
さらに、フォノンの授受を効率良く行うためには、図2(B)に示すように、対向する放出部と再吸収部との間の距離が一定である形状が好ましい。
【0063】
[3.2. 光吸収層]
光吸収層は、チャネルの表面に形成されている。本発明において、光吸収層は、グラフェンナノ構造体を含む。光吸収層は、グラフェンナノ構造体のみからなるものでも良く、あるいは、他の材料がさらに含まれていても良い。グラフェンナノ構造体の詳細については、上述した通りであるので説明を省略する。
【0064】
[3.3. 光検出器の種類]
本発明において、光検出器の種類は、特に限定されない。
光検出器としては、具体的には、
(a)チャネルの両端にアノード及びカソードが接合されたフォトダイオード、
(b)チャネルの両端にソース電極及びドレイン電極が接合され、さらに、チャネルの上面又は下面に絶縁膜を介してゲート電極が配置された電界効果トランジスタ、
(c)チャネルの両端にアノード及びカソードが接合されたフォトレジスタ、
などがある。
【0065】
[4. 撮像素子]
本発明に係る光検出器は、撮像素子の光検出器として用いることができる。撮像素子は、一般に、半導体回路基板と、半導体回路基板の表面に形成された、2次元規則配列している複数の画素とを備えている。各画素は、それぞれ、光を検出するための光検出器と、光検出器からの出力を取り出すためのソースフォロア回路と、ソースフォロア回路をリセットするためのリセット回路とを備えている。ソースフォロア回路及びリセット回路の構造は、特に限定されるものではなく、公知の回路を用いることができる。
【0066】
図3に、本発明に係る光検出器を備えた撮像素子の1画素の断面模式図を示す。図3において、画素10は、本発明に係る光検出器20と、電流又は電圧を増幅する役割を持つ金属-酸化物-半導体型電界効果トランジスタ(MOSFET)40とを備えている。光検出器20は、チャネル22と、チャネル22の表面に形成された光吸収層24とを備えている。上述したように、チャネル22はグラフェンからなり、光吸収層24はグラフェンナノ構造体を含む。
【0067】
チャネル22の一端にはソース電極26が接続され、他端にはドレイン電極28が接続されている。さらに、チャネル22の下方にはゲート電極30が配置されている。すなわち、図3において、光検出器20は、電界効果トランジスタからなる。さらに、MOSFET40のソース電極44は、配線32を介して光検出器20のドレイン電極28に接続されている。
【0068】
[5. 作用]
グラフェンチャネルの上に、広帯域で高感度を示すグラフェンナノ構造体を形成した光検出器において、グラフェンナノ構造体に光が照射されると、キャリアが励起され、励起された一方のキャリア(例えば、電子)がグラフェンに移動する。そのため、グラフェンチャネルに移動したキャリアの量(すなわち、電流の変化量)を検出すれば、光の有無及び光量を知ることができる。
しかしながら、チャネルの平面形状が直線型の形状である場合において、グラフェンナノ構造体に光が照射された時には、光応答感度の高い領域である紫外から可視領域の光はキャリアを励起し、電流の変化量として検出されるが、光応答感度の低い領域である近赤外より長波長の光ではフォノンとしてチャネルから放出され、電流変化にほとんど寄与しない。
【0069】
これに対し、グラフェンチャネルの平面形状を適度に湾曲させた形状とすると、グラフェンナノ構造体で発生するフォノンを効率良く電流として読み出すことができる。これは、以下の理由によると考えられる。
すなわち、グラフェンナノ構造体は平坦な形状をしているため、グラフェン上に堆積しやすく、グラフェンへのエネルギー移動も起こりやすい。そのため、グラフェンナノ構造体は、光照射時にフォトンによる応答のみでなく、フォノンによる応答も示す。グラフェンナノ構造体からグラフェンチャネル表面にフォノンが伝導し、グラフェン表面の伝導が支配的になると考えられる。
【0070】
この際、グラフェンチャネルの平面形状を適度に湾曲又は屈曲した形状(例えば、波型)にしておくことにより、チャネルを移動する際にフォノンが逃げにくくなり、電流として検出しやすくなる。また、チャネルの平面形状を湾曲又は屈曲させると、フォノンを逃がすことなく受光面積を大きくすることができ、抵抗値の調節も可能となる。
【0071】
さらに、フォノンのエネルギーを最大限に利用するには、基板からグラフェンへの影響を無くすことが効果的である。具体的には、光検出器の構造を電界効果トランジスタの構造とし、チャネルにゲート電圧をかけることで基板からの影響を無くすことができる。
グラフェンは理想状態ではゼロバンドギャップの半導体であるが、基板やグラフェンナノ構造体との静電的な相互作用によって、電子の状態密度が変わり、バンドギャップが変化することがある。この電子の状態の変化を外部からゲート電圧を印加することで調整し、バンドギャップを理想状態へと近づけると、フォノンの感度が向上する。
【実施例
【0072】
(実施例1、比較例1)
[1. 撮像素子の作製]
グラフェンとグラフェンナノ構造体からなるグラフェン光検出器(グラフェンPD)がNMOS半導体構造上に形成された撮像素子を作製した。グラフェンナノ構造体には、フェニレンジアミン基で修飾されたナノグラフェンを用いた。チャネル形状は、
(a)波型(幅8μm、長さ90μm、面積657μm2)(実施例1)、又は、
(b)直線型(幅10μm、長さ100μm、面積1000μm2)(比較例1)
とした。
【0073】
[2. 試験方法]
[2.1. 光学顕微鏡観察]
得られた撮像素子について、光学顕微鏡観察を行った。
[2.2. 電流値変化量]
グラフェンPDのソース電極-ドレイン電極間に0.5Vの電圧を印加しながら、グラフェンチャネルに波長406nm、488nm、850nm、又は1310nmの光を照射したときの電流値変化量ΔIを測定した。
【0074】
[3. 結果]
[3.1. 光学顕微鏡観察]
図4(A)に、実施例1で得られた撮像素子の画素部のSEM像を示す。図4(B)に、図4(A)の撮像素子に備えられる光検出器の拡大SEM像を示す。図5(A)に、直線型のグラフェンチャネルを有する光検出器(比較例1)の光学顕微鏡像を示す。図5(B)に、波型のグラフェンチャネルを有する光検出器(実施例1)の光学顕微鏡像を示す。図4及び図5より、狙い通りのチャネル形状を有するグラフェンPDが得られていることがわかる。
【0075】
[3.2. 電流値変化量]
図6に、直線型(比較例1)又は波型(実施例1)のグラフェンチャネルを有する光検出器に光を照射した時の、光の波長と電流値変化量ΔIとの関係を示す。図6より、実施例1のΔIは、比較例1のΔIより大きいことが分かる。これは、グラフェンチャネルの平面形状を波型にしたことにより、フォノンが逃げにくくなったためと考えられる。
なお、図6では、波長850nmの時のΔIが極端に低くなっている。その理由の詳細は不明であるが、グラフェンナノ構造体の電子状態や、グラフェンと組み合わせた時のグラフェンの電子状態などが影響していると考えられる。
【0076】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明に係る光検出器は、撮像素子、製品の傷・汚れ・欠陥の検査、人感センサー、脈拍・赤血球数の検知などのヘルスケアのためのセンシングなどに用いることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6