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特許7173081アルミニウム合金板と鋼板の摩擦撹拌接合方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】アルミニウム合金板と鋼板の摩擦撹拌接合方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20221109BHJP
【FI】
B23K20/12 310
B23K20/12 344
B23K20/12 364
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020069636
(22)【出願日】2020-04-08
(65)【公開番号】P2021164943
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2021-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松下 宗生
(72)【発明者】
【氏名】木谷 靖
(72)【発明者】
【氏名】岩田 匠平
【審査官】梶本 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-159247(JP,A)
【文献】特開2002-079383(JP,A)
【文献】特開2010-260109(JP,A)
【文献】国際公開第2020/032141(WO,A1)
【文献】特開2016-124002(JP,A)
【文献】特開2003-225780(JP,A)
【文献】特開2007-301579(JP,A)
【文献】特開2002-096183(JP,A)
【文献】特開2003-048083(JP,A)
【文献】国際公開第2001/028732(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金板と鋼板とを重ね合わせ、鋼板側に裏当て治具を当接して固定した被接合体を、回転ツールとして先端に同軸的に配設したプローブとショルダーが別体に構成され、回転数を別個に設定可能とした複動式回転ツールを用い、上記複動式回転ツールのプローブを回転させながらアルミニウム合金板側から被接合体内に挿入し、かつ、上記複動式回転ツールのショルダーを回転させながらアルミニウム合金板の表面に当接させ、その状態で上記回転ツールを接合方向に移動させて被接合体を摩擦撹拌し、塑性流動させて摩擦撹拌接合する方法において、
上記プローブには、断面が円形で、先端部が平面もしくは曲率半径が10mm以上の凸型曲面に形成してなるものを用い、
上記プローブの先端部を、アルミニウム合金板の表面からアルミニウム合金板と鋼板との合わせ面もしくは該合わせ面より鋼板側まで挿入し、
上記ショルダーの回転数SS(回/分)をプローブの回転数PS(回/分)より高くすることを特徴とする摩擦撹拌接合方法。
【請求項2】
上記複動式回転ツールは、プローブの先端部に、回転方向とは反対方向に形成された渦状凹部を有することを特徴とする請求項1に記載の摩擦撹拌接合方法。
【請求項3】
上記複動式回転ツールは、ショルダーのアルミニウム合金板と接触する表面がリング状で、平面もしくは凸型曲面に形成してなり、かつ、回転方向とは反対方向に形成された渦状凹部を有することを特徴とする請求項1または2に記載の摩擦撹拌接合方法。
【請求項4】
ショルダーの回転数SS(回/分)、ショルダーの径SD(mm)、プローブの径PD(mm)および接合速度JS(mm/分)により表される単位接合長さ当たりのショルダーによる発熱量と相関するパラメータ:SS×(SD-PD)/JSが、アルミニウム合金板の厚さt(mm)に対して下記(1)式を満たし、かつ、プローブの回転数PS(回/分)、プローブの径PD(mm)および接合速度JS(mm/分)により表される単位接合長さ当たりのプローブによる発熱量と相関するパラメータ:PS×PD/JSが、アルミニウム合金板の厚さt(mm)に対して下記(2)式を満たすことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の摩擦撹拌接合方法。

3000×t≦SS×(SD-PD)/JS≦34000×t ・・・(1)
100×t≦PS×PD/JS≦1100×t ・・・(2)
【請求項5】
回転ツールのショルダーの径SD(mm)およびプローブの径PD(mm)がアルミニウム合金板の厚さt(mm)に対して、下記(3)および(4)式を満たすことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の摩擦撹拌接合方法。

4×t≦SD≦15×t ・・・(3)
≦PD≦5×t ・・・(4)
【請求項6】
アルミニウム合金板の表面から回転させながら挿入する回転ツールのプローブ先端の、アルミニウム合金板と鋼板の合わせ面から鋼板側への挿入量P(mm)を、0mm以上0.5mm以下の範囲内とすることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の摩擦撹拌接合方法。
【請求項7】
アルミニウム合金板の表面から回転させながら挿入する回転ツールの回転軸を、アルミニウム合金板の表面に対して垂直とすることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の摩擦撹拌接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金板と鋼板の接合方法に関し、具体的には、アルミニウム合金板と鋼板を重ね合わせて接合する摩擦撹拌接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量化が要求される自動車などの輸送機器の分野において、アルミニウム合金と鋼を組み合わせ、それぞれの材料が有する特性を十分に活用した構造体や部品(以降、「部材」と称する)が開発されている。このようなアルミニウム合金と鋼を組み合わせた部材では、異種金属材料を接合する必要があるが、工業的に広く使用されているアーク溶接などの溶融溶接法では、接合部にアルミニウム合金と鋼を構成する主要元素からなる脆弱な金属間化合物が形成されることが多く、十分な継手強度が得られないという問題があった。
【0003】
そこで、アルミニウム合金と鋼を強固に接合する方法として、拡散接合法などの溶融層を形成しない固相接合法が開発されている。しかし、拡散接合法では、材料の会合面の表面を清浄に保つための準備工程が必要で、コストの増大に繋がるため、工業的に実施するのが難しいという問題があった。
【0004】
その他の拡散接合法としては、摩擦接合法が挙げられ、例えば特許文献1には、一対の金属材料の両方または片方を回転させて金属材料に摩擦熱を生じさせ、軟化させながら、その軟化した部位を撹拌して塑性流動を起こさせることによって、金属材料を接合する技術が開示されている。しかしながら、この技術は、接合する金属材料を回転させる必要があるため、本方法を適用する金属材料の形状や寸法に制限がある。
【0005】
ところで、近年、新たな固相接合方法として摩擦撹拌接合法が開発され、同種あるいは近似した金属材料間の突合せ接合を中心として普及が進んでいる。例えば、特許文献2には、金属板よりも硬い材質からなる回転ツールを金属板の未接合部に挿入し、この回転ツールを回転させながら接合方向に移動させ、回転ツールと金属板との間に熱と塑性流動を生じさせることによって、金属板を長手方向に連続的に接合する方法が提案されている。この方法では、金属板を固定した状態で、回転ツールを回転しながら移動させることによって金属板を接合する。そのため、無限に長い部材でも、接合方向に沿って連続的に固相接合できるという利点がある。また、回転ツールと金属板との摩擦熱による金属の塑性流動を利用した固相接合であるため、接合部を溶融することなく接合することができ、溶加材も必要としない。さらに、接合部が加熱される温度が低く、溶融しないため、接合部の変形が少なく、欠陥も少ない等、多くの利点がある。
【0006】
摩擦撹拌接合法は、アルミニウム合金やマグネシウム合金に代表される低融点金属の接合法として、航空機、船舶、鉄道車輌および自動車等の分野での利用が広がってきている。その理由は、これらの低融点金属は、従来のアーク溶接法では満足な接合部の特性を得ることが難しいのに対して、摩擦撹拌接合法を適用した場合には、品質の高い接合部を得られるだけでなく、生産性を向上することができるためである。さらに、回転ツールにより接合界面を撹拌するので、清浄面を創出して清浄面同士を接触させることができ、拡散接合のような事前の準備工程は不要であるというメリットも期待できる。
【0007】
この摩擦撹拌接合法は、先に述べたように、同種あるいは近似した金属材料同士の接合においては極めて優れた接合方法であるが、アルミニウム合金と鋼のように特性が大きく異なる金属同士を接合する場合、接合界面において両金属が混合し、融点が低下して溶融相が生成し、粗大凝固組織が生じたり、凝固時に脆弱な金属間化合物が生成したりする等の問題があった。
【0008】
この問題を解決する手段として、特許文献3には、アルミニウム合金板と鋼板をZn-5Al層またはZn溶融メッキ層を介して重ね合わせ、接合部の表面を回転工具で押圧してアルミニウム合金を摩擦によって撹拌し、塑性流動させてZn-5Al層やZn溶融メッキ層とアルミニウム合金とを相互拡散させることによって、Al、Al-Zn、Zn-Al、Fe-ZnおよびFeとからなる拡散層を形成し、さらに塑性流動させてAl-Zn-Fe合金層を形成させることで、脆弱な金属間化合物を生成することなく、アルミニウム合金板と鋼板を接合する方法が開示されている。
【0009】
また、特許文献4には、アルミニウム合金と鋼のような異種金属同士を重ね合わせた摩擦撹拌接合法において、接合に用いる鋼に、接合するアルミニウム合金の融点より低い低融点のメッキ層を有する低融点メッキ鋼板を用い、さらに、摩擦撹拌接合時に回転する接合ピンをアルミニウム合金の表面から押圧してアルミニウム合金と低融点メッキ鋼板が接合する接合界面の近傍まで挿入し、アルミニウム合金側に形成される塑性流動域での塑性流動によってメッキ層を拡散し、低融点メッキ鋼板の表面に新生面を露出してアルミニウム合金と低融点メッキ鋼板を固相接合する、高強度の接合継手を得る摩擦撹拌接合方法と摩擦撹拌接合部材が開示されている。
【0010】
一方、回転工具としては、ピン部材と、当該ピン部材を内挿する中空を有する略円柱状のショルダー部材とからなる接合ツールを用いる複動式の摩擦撹拌接合法が知られている。このピン部材およびショルダー部材からなる接合ツールは、回転および進退の動作をそれぞれ別個に制御できるため、ピン部材の進退動作とショルダー部材の進退動作とのタイミングを調整することで、ピン部材の圧入により形成される凹部を埋め戻すことを可能としている。
【0011】
上記複動式の摩擦撹拌接合法として、例えば特許文献5には、三重構造の摩擦接合工具でアルミニウム合金板より硬質な圧入ピンを、複数の重ね合わせたアルミニウム合金板に対して圧入、撹拌した後、生じた圧入穴から外方へ溢れ出たアルミニウム合金溢出部を、圧入ピンと外部リングとの間に封じ込め、圧入穴からの圧入ピンの除去工程の開始以後、摩擦接合工具の中間リングをアルミニウム合金板面まで押圧して、圧入穴にアルミニウム合金溢出部を流動、埋入するアルミニウム合金の点接合方法が開示されている。
【0012】
さらに、複動式の摩擦撹拌接合法により異種金属部材を接合する他の方法として、例えば特許文献6には、鋼板に重ね合わせたアルミニウム板の側から、回転工具のプローブを鋼板の直上に達するように差し込み、それらのアルミニウム板と鋼板を摩擦撹拌接合する際、回転工具としてプローブとショルダー部材とが別個に軸方向に移動可能とした複動式回転工具を用い、プローブをアルミニウム板に差し込んで摩擦撹拌接合を行なった後、プローブを、アルミニウム板に形成された摩擦撹拌部から引き抜く一方、かかる引き抜きによって生じるプローブ穴を、摩擦撹拌部の他部位からの材料の流動によって、埋め込むようにする異種金属部材の接合方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開昭62-183979号公報
【文献】特表平07-505090号公報
【文献】特開2002-66759号公報
【文献】特開2007-253172号公報
【文献】特開2001-259863号公報
【文献】特開2010-260109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、上記特許文献3および4には、アルミニウム合金板と鋼板のような異種金属同士を摩擦撹拌接合で接合する際に問題となる接合界面での脆弱な金属間化合物の生成を解決する方法が開示されているが、上記複動式の摩擦撹拌接合法に関する特許文献5および6では、上記問題点について何ら検討されていない。例えば、特許文献5には、アルミニウム合金板を重ね合わせた部材、特許文献6には、アルミニウム合金板と鋼板を重ね合わせた部材の接合方法に関する技術が開示されているが、いずれもピン部材の圧入により形成された凹部を埋め戻すことによって継手特性を向上することを開示するのみで、接合界面に脆弱な金属間化合物が生成する問題に対する解決方法については何ら開示されていない。
【0015】
本発明は、従来の複動式の摩擦撹拌接合法が有する上記問題点に鑑みて開発したものであり、その目的は、アルミニウム合金板と鋼板とを摩擦撹拌接合する際、両材料の新生面同士が接触する接合界面における金属間化合物の生成を抑制し、十分な接合強度を有する接合部を効率的に形成することが可能な複動式の摩擦撹拌接合方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を重ねた結果、以下の新規知見を得た。
a) アルミニウム合金板と鋼板とを重ね合わせた被接合体に対し、回転ツールをアルミニウム合金板の表面から回転させながら挿入するとともに、上記回転ツールを接合方向に移動させ、摩擦撹拌により接合材料を塑性流動させることによって、アルミニウム合金板と鋼板とを摩擦撹拌接合する際、プローブの先端をアルミニウム合金板と鋼板の合わせ面より鋼板側まで挿入することで、合わせ面に両材料の新生面同士が接触する接合界面を形成することができ、冶金的な接合状態を確保することができる。
b) 上記接合界面が形成され、冶金的な接合状態が達成される過程において、両材料の主成分である鉄とアルミニウムが拡散し、接合界面を跨いで両材料に分布する状態となるが、この拡散範囲内に鉄とアルミニウムからなる脆弱な金属間化合物が生成した場合には、接合強度が低下する原因となる。
c) 上記金属間化合物の生成を抑制するには、接合界面を跨いで両材料に分布する鉄とアルミニウムの拡散を抑制する必要があり、そのためには、新生面同士が接触する接合界面が形成された直後のピーク温度(最高到達温度)とその後の冷却速度を適正範囲に制御する必要がある。
d) 摩擦撹拌接合においては、回転ツールで接合材料を摩擦撹拌するときに発生する摩擦発熱と塑性発熱によって接合部が加熱されるが、上記回転ツールとして、先端に同軸的に配設されたプローブとショルダーが別体に構成され、それぞれが別個に回転速度を制御可能な複動式回転ツールを用いることで、プローブおよびショルダーにより発生する熱をそれぞれ別個に制御することができる。従って、上記複動式回転ツールを、アルミニウム合金板と鋼板との摩擦撹拌接合に適用することで、接合界面のピーク温度および冷却速度を適正範囲に制御することができる。
e) 具体的には、回転ツールのショルダーの回転速度をプローブの回転速度より高くすることで、プローブ先端によるアルミニウム合金板と鋼板との合わせ面の摩擦撹拌を最小限に留めるとともに、上記プローブの回転速度の低下による入熱不足を高速回転するショルダーによる摩擦撹拌で補完することで、接合界面のピーク温度を抑制することができる。
f) さらに、先端部の形状を適正化したプローブをアルミニウム合金板と鋼板の合わせ面もしくは合わせ面よりも鋼板側まで挿入し、合わせ面で接する両材料を摩擦撹拌することで、両材料の新生面同士が接触する接合界面を形成する際、均質な新生面を効率的に形成することができ、かつ、過度な温度上昇を回避して脆弱な金属間化合物の生成を抑制することができる。
本発明は、上記の新規知見に基づき、さらに改良を加えて開発したものである。
【0017】
すなわち、本発明は、アルミニウム合金板と鋼板とを重ね合わせ、鋼板側に裏当て治具を当接して固定した被接合体を、回転ツールとして先端に同軸的に配設したプローブとショルダーが別体に構成され、回転数を別個に設定可能とした複動式回転ツールを用い、上記複動式回転ツールのプローブを回転させながらアルミニウム合金板側から被接合体内に挿入し、かつ、上記複動式回転ツールのショルダーを回転させながらアルミニウム合金板の表面に当接させ、その状態で上記回転ツールを接合方向に移動させて被接合体を摩擦撹拌し、塑性流動させて摩擦撹拌接合する方法において、上記プローブには、断面が円形で、先端部が平面もしくは曲率半径が10mm以上の凸型曲面に形成してなるものを用い、上記プローブの先端部を、アルミニウム合金板の表面からアルミニウム合金板と鋼板との合わせ面もしくは該合わせ面より鋼板側まで挿入し、上記ショルダーの回転数SS(回/分)をプローブの回転数PS(回/分)より高くすることを特徴とする摩擦撹拌接合方法。
【0018】
本発明の上記摩擦撹拌接合方法に用いる上記複動式回転ツールは、プローブの先端部に、回転方向とは反対方向に形成された渦状凹部を有することを特徴とする。
【0019】
また、本発明の上記摩擦撹拌接合方法に用いる上記複動式回転ツールは、ショルダーのアルミニウム合金板と接触する表面がリング状で、平面もしくは凸型曲面に形成してなり、かつ、回転方向とは反対方向に形成された渦状凹部を有することを特徴とする。
【0020】
また、本発明の上記摩擦撹拌接合方法は、ショルダーの回転数SS(回/分)、ショルダーの径SD(mm)、プローブの径PD(mm)および接合速度JS(mm/分)により表される単位接合長さ当たりのショルダーによる発熱量と相関するパラメータ:SS×(SD-PD)/JSが、アルミニウム合金板の厚さt(mm)に対して下記(1)式;
3000×t≦SS×(SD-PD)/JS≦34000×t ・・・(1)
を満たし、かつ、プローブの回転数PS(回/分)、プローブの径PD(mm)および接合速度JS(mm/分)により表される単位接合長さ当たりのプローブによる発熱量と相関するパラメータ:PS×PD/JSが、アルミニウム合金板の厚さt(mm)に対して下記(2)式;
100×t≦PS×PD/JS≦1100×t ・・・(2)
を満たすことを特徴とする。
【0021】
また、本発明の上記摩擦撹拌接合方法は、回転ツールのショルダーの径SD(mm)およびプローブの径PD(mm)がアルミニウム合金板の厚さt(mm)に対して、下記(3)および(4)式;
4×t≦SD≦15×t ・・・(3)
≦PD≦5×t ・・・(4)
を満たすことを特徴とする。
【0022】
また、本発明の上記摩擦撹拌接合方法は、アルミニウム合金板の表面から回転させながら挿入する回転ツールのプローブ先端の、アルミニウム合金板と鋼板の合わせ面から鋼板側への挿入量P(mm)を、0mm以上0.5mm以下の範囲内とすることを特徴とする。
【0023】
また、本発明の上記摩擦撹拌接合方法は、アルミニウム合金板の表面から回転させながら挿入する回転ツールの回転軸を、アルミニウム合金板の表面に対して垂直とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、アルミニウム合金板と鋼板とを重ね合わせて接合する摩擦撹拌接合方法において、回転ツールとして、先端に同軸的に配設したプローブとショルダーが別体に構成され、別個に回転数を設定可能とした複動式回転ツールを用い、プローブ先端部の形状、プローブ先端の鋼板側への挿入量およびショルダーとプローブの回転数を適正化したので、接合界面に均質な新生面を効率的に形成し、さらに、接合界面の過度な温度上昇を防止し、金属間化合物の生成を抑制することができるので、高強度の重ね接合継ぎ手を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】アルミニウム合金板と鋼板の接合に用いる本発明の複動式の摩擦撹拌接合方法を説明する図である。
図2図1のA-A断面図であり、アルミニウム合金板と鋼板を重ね合わせた被接合体を複動式の回転ツールで摩擦撹拌する領域を説明する図である。
図3-1】本発明に用いることができる複動式回転ツールの形状の説明する図である。
図3-2】本発明に用いることができる複動式回転ツールの形状の説明する図である。
図3-3】本発明に用いることができる複動式回転ツールの形状の説明する図である。
図3-4】本発明に用いることができる複動式回転ツールの形状の説明する図である。
図4】比較例の複動式回転ツールの形状の説明する図である。
図5】せん断強度を測定する引張試験片を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、アルミニウム合金板1と鋼板2を重ね合わせた被接合体を摩擦撹拌接合法で接合する技術に関するものであり、図1に示すように、先端に同軸的に配設したプローブ4とショルダー5が別体に構成され、別個に回転速度を制御可能とした複動式の回転ツール3を、図2に示したように、回転ツール3のプローブ4の先端をアルミニウム合金板1の表面から回転させながら挿入し、かつ、上記回転ツール3のショルダー5を回転させながらアルミニウム合金板1の表面に当接させ、その状態で上記回転ツール3を接合方向に移動することで被接合体を摩擦撹拌し、塑性流動させて、両材料を接合する。その際、上記プローブ4の先端を両材料の合わせ面6よりも鋼板側まで挿入するとともに、回転ツール3のプローブ4の先端部の形状を適正化することによってアルミニウム合金板1と鋼板2の合わせ面6に両材料の新生面同士が接触する接合界面7を形成し、さらに、回転ツール3のプローブ4とショルダー5の回転速度を別個に設定してプローブ4およびショルダー5の回転により発生する摩擦熱や塑性変形熱を別々に制御することによって接合界面7のピーク温度(最高到達温度)およびその後の冷却速度を制御して接合界面7を跨いだ鉄とアルミニウム元素の拡散を抑制して脆弱な金属間化合物の生成を抑制し、接合強度に優れるアルミニウム合金板と鋼板との接合部8を得ようとする技術である。なお、図中に示した9は、アルミニウム合金板1と鋼板2を重ね合わせた被接合体の鋼板側に裏当てした治具を、また、10は回転ツール3のプローブ4とショルダー5によって接合材料が塑性流動する領域を示す。
【0027】
まず、本発明の摩擦撹拌接合方法を適用する被接合体(部材)を構成するアルミニウム合金板1と鋼板2の板厚は、本発明の効果を最大限に享受する観点から、アルミニウム合金板は1~3mm、鋼板は1~3mmの範囲内であることが好ましい。ただし、上記範囲外の板厚であっても本発明の効果を得ることができる。
【0028】
また、本発明の摩擦撹拌接合方法に用いる先端に同軸的に配置したプローブ4とショルダー5が別体に構成されてなる複動式の回転ツール3は、アルミニウム合金板と鋼板の合わせ面より鋼板側まで挿入されるため、鋼板と直接接触するプローブ先端は、少なくとも鋼板よりも硬い材質で形成されてなり、また、アルミニウム合金板と接触する先端以外のプローブおよびショルダーは、少なくともアルミニウム合金板よりも硬い材質で形成されてなることが重要である。
【0029】
なお、本発明に用いる複動式の回転ツール3を構成するプローブ4とショルダー5の回転方向は、同一方向であってもよいし、逆方向であってもよい。
【0030】
さらに、本発明のアルミニウム合金板と鋼板を重ね合わせて接合する摩擦撹拌接合方法では、接合条件を以下の範囲に限定することで、接合界面における金属間化合物の生成抑制効果を高め、接合強度を向上することができる。
【0031】
まず、複動式回転ツール3のプローブ4は、断面が円形で、先端部が平面もしくは曲率半径が10mm以上の凸型曲面を有するものであることが必要である。プローブの先端をアルミニウム合金板と鋼板の合わせ面もしくは合わせ面より鋼板側まで挿入し、合わせ面で接する両材料を摩擦撹拌して新生面同士が接触する接合界面を形成する際、プローブ先端部を、上記条件を満たす形状とすることで、合わせ面に対してプローブ先端を均等に当接することができ、均質な新生面を形成することができる。なお、プローブ先端を凸型曲面とする場合、好ましい曲率半径は40mm以上である。
【0032】
また、上記複動式回転ツール3のプローブ4の先端部は、回転方向とは反対方向に形成された渦状凹部を有することが好ましい。この渦状凹部は、プローブ先端部の平面部または凸曲面部よりも凹んだ形状であることが好ましい。なお、凹んだ形状としては、例えば、断面形状が溝状や階段状(略水平の段を有する段差形状)であるものを挙げることができる。このような渦状凹部を設けることによって、アルミニウム合金板と鋼板の合わせ面以上まで挿入したプローブ先端部による撹拌で生じる摩擦熱により軟化した材料を、プローブ先端部の外側から内側へ向かって流動させて、プローブ先端部の押圧による材料の外側への流出を抑制することができる。また、これにより、合わせ面における塑性流動を助長し、新生面の形成を促進することができ、さらに、合わせ面において鋼板側からアルミニウム合金板側に突出するバリや小片の発生を抑制することができる。これらのバリや小片は、高温で生成されるため、その周辺に脆弱な金属間化合物が生成され易く、接合継手の強度が低下する原因となる。なお、渦状凹部を設けることによる上記効果は、渦状の向きをプローブの回転方向とは反対方向に設けることによってのみ得られる。
【0033】
また、上記プローブの先端部に形成する渦状凹部の本数は、1以上設けることが好ましい。しかし、渦状凹部の本数が6を超えると、材料の塑性流動を促進する効果が飽和するだけでなく、形状の複雑化によりプローブ先端部が破損し易くなる。なお、渦状凹部の本数は、材料の塑性流動を向上しつつ、プローブ先端部の破損を防止する観点から、プローブ先端部の直径に応じて変化させることが好ましく、具体的には、プローブ先端部の直径が大きいほど多くし、プローブ先端部の直径が小さいほど少なくするのが望ましい。なお、好ましい本数は2~4本である。
【0034】
また、プローブ先端部に設ける1本の渦状凹部の長さは、プローブ先端部の外周の長さを1周としたとき、0.25周以上1周以下とするのが好ましい。この渦状凹部の長さについても、プローブ先端部の直径に応じて変化させるのが好ましく、プローブ先端部の直径が大きいほど長くし、プローブ先端部の直径が小さいほど短くするのが望ましい。
【0035】
図3は、本発明に適合する複動式の回転ツールを示したものであり、図3の(a)、(c)、(e)および(g)は、プローブの先端部が平面の例、(b)、(d)、(f)および(h)にはプローブの先端部が凸型局面の例である。また、(c)~(h)には、プローブの先端部に渦状凹部を4本設けた例を示した。
【0036】
一方、複動式回転ツール3のショルダー5は、断面がリング状で、アルミニウム合金板と接触する表面は、平面、凸型曲面および凹型曲面のいずれでもよいが、凸型曲面にすることで、1000mm/min以上での高速接合が可能となるので好ましい。また、上記アルミニウム合金板と接触する表面は、プローブ先端部と同様、回転方向とは反対方向に形成された渦状凹部を有することが好ましい。なお、アルミニウム合金板と接触する表面を曲面とする場合、上記曲面の曲率半径は30mm以上とするのが好ましい。
【0037】
また、ショルダーのアルミニウム合金板と接触する表面に設ける渦状凹部は、先端部のその他の面(平面または曲面)よりも凹んだ形状とすることが必要である。なお、凹んだ形状としては、例えば、断面形状が溝状や階段状(略水平の段を有する段差形状)であるものを挙げることができる。このような溝状凹部を設けることによって、ショルダーのアルミニウム合金板と接触する表面を、アルミニウム合金板の表面に押圧し、撹拌する際に生じる摩擦熱により軟化した材料を、ショルダーのアルミニウム合金板と接触する表面の外側から内側へ向かって流動させて、ショルダーのアルミニウム合金板と接触する表面から外側へ材料が流出するのを抑制することができる。また、これにより、押圧部の塑性流動を促進することができるとともに、接合部の厚さが元の厚さに対して減少することを防止し、さらに、バリのない美麗な接合部表面を形成することができる。なお、この渦状凹部を設けることによる効果は、渦状凹部をショルダーの回転方向とは反対方向に設けることによってのみ得られる。
【0038】
また、上記ショルダーのアルミニウム合金板と接触する表面に形成する渦状凹部の数は、1本以上とするのが好ましい。しかし、渦状凹部の数が6を超えると、材料の塑性流動を促進する効果が飽和するだけでなく、形状の複雑化によりショルダー表面が破損し易くなるおそれがあるので、6本以下とするのが好ましい。なお、ショルダー表面に設ける渦状凹部の本数は、材料の塑性流動を促進しつつ、ショルダー表面の破損を防止する観点から、ショルダーの直径に応じて変化させることが好ましく、具体的には、ショルダーの径が大きいほど多くし、ショルダーの径が小さいほど少なくするのが望ましい。
【0039】
また、ショルダーのアルミニウム合金板と接触する表面に形成する1本の渦状凹部の長さは、ショルダーの外周の長さを1周としたとき、0.5周以上2周以下とするのが好ましい。なお、ショルダーのアルミニウム合金板と接触する表面に形成する渦状凹部の長さについても、ショルダーの径に応じて変化させるのが好ましく、ショルダーの径が大きいほど長くし、ショルダーの径が小さいほど短くするのが望ましい。
【0040】
先述したように、図3は、本発明に適合する複動式の回転ツールを示したものであるが、図3の(a)~(d)には、ショルダーのアルミニウム合金板と接触する表面を凹曲面とした例、(e)および(f)には上記表面を平面とした例、また、(g)および(h)には上記表面を凸曲面とした例を示した。また、(e)~(h)には、ショルダーのアルミニウム合金板と接触する表面に渦状凹部を4本設けた例を示した。
【0041】
さらに、本発明の摩擦撹拌接合方法は、本発明の効果をより高めるためには、ショルダーの回転数SS(回/分)、ショルダーの径SD(mm)、プローブの径PD(mm)および複動式回転ツールの移動速度(すなわち接合速度)JS(mm/分)により表される単位接合長当たりのショルダーによる発熱量と相関するパラメータ:SS×(SD-PD)/JSが、アルミニウム合金板の厚さt(mm)に対して、下記(1)式;
3000×t≦SS×(SD-PD)/JS≦34000×t ・・・(1)
を満たしていることが好ましい。
【0042】
回転ツールのショルダーの回転速度SSをプローブの回転速度PDより高くすることで、プローブ先端によるアルミニウム合金板と鋼板との合わせ面の摩擦撹拌を最小限に留めるとともに、上記プローブの回転速度の低下による入熱不足を高速回転するショルダーによる摩擦撹拌で補完することで、接合界面のピーク温度を抑制することができる。しかし、SS×(SD-PD)/JSが3000×t未満では、ショルダーによるアルミニウム合金板表面の摩擦撹拌による発熱が不十分となり、アルミニウム合金板と鋼板の合わせ面に冶金的に接合された状態の接合界面を形成することができなくなる。一方、34000×tを超えると、ショルダーによるアルミニウム合金板表面の摩擦撹拌による発熱が過度となり、アルミニウム合金板と鋼板の合わせ面の接合界面周辺に過度な熱量が投入されて、接合界面のピーク温度(最高到達温度)が上昇したり、冷却速度が低下したりして、脆弱な金属間化合物の生成が助長されるようになる。なお、より好ましい(SD-PD)/JSの範囲は、10000×t以上、25000×t以下の範囲である。
【0043】
また、本発明の摩擦撹拌接合方法は、複動式回転ツールのプローブの回転数PS(回/分)、プローブの径PD(mm)および複動式回転ツールの移動速度(すなわち接合速度)JS(mm/分)により表される単位接合長さ当たりのプローブによる発熱量と相関するパラメータ:PS×PD/JSが、アルミニウム合金板の厚さt(mm)に対して、下記(2)式;
100×t≦PS×PD/JS≦1100×t ・・・(2)
を満たしていることが好ましい。
【0044】
PS×PD/JSが100×t未満では、プローブによるアルミニウム合金板の摩擦撹拌が不十分となり、欠陥が発生し易くなるため好ましくない。一方、1100×tを超えると、プローブ先端で合わせ面の鋼板側を過度に摩擦撹拌するため、接合界面の温度上昇を招き、脆弱な金属間化合物の生成を助長する。なお、より好ましいPS×PD/JSの範囲は、120×t以上、900×t以下の範囲である。
【0045】
また、本発明の摩擦撹拌接合方法は、複動式回転ツールのショルダーの径SD(mm)が、アルミニウム合金板の厚さt(mm)に対して、下記(3)式;
4×t≦SD≦15×t ・・・(3)
を満たすことが好ましい。
【0046】
複動式回転ツールのショルダーは、アルミニウム合金板の表面に回転させながら当接させ、アルミニウム合金板を摩擦撹拌することで摩擦発熱、塑性発熱が発生して接合部が加熱される。しかし、ショルダーの直径SDが4×tmm未満では、厚さ方向に均一な塑性流動が得られない。一方、15×tmmを超えると、塑性流動を生じる領域を不要に広げるのみで、回転ツールに過大な負荷がかかる。したがって、ショルダーの直径SDを、アルミニウム合金板の厚さt(mm)に対して、4×tmm以上かつ15×tmm以下に限定することで、アルミニウム合金板の表面から厚さ方向の温度分布を均一化し、接合部の欠陥発生を抑制しつつ、アルミニウム合金板と鋼板の合わせ面に形成される接合界面に、冶金的に接合される状態を確保する上で必要十分な熱量を供給することができる。なお、好ましいショルダーの径SD(mm)は、6×tmm以上、12×tmm以下の範囲である。
【0047】
さらに、本発明の摩擦撹拌接合方法は、複動式回転ツールのプローブの径PD(mm)は、アルミニウム合金板の厚さt(mm)に対して、下記(4)式;
≦PD≦5×t ・・・(4)
を満たすことが好ましい。
【0048】
アルミニウム合金板と鋼板の重ね接合を行う際に、プローブの先端をアルミニウム合金板と鋼板の合わせ面もしくは合わせ面の鋼板側まで挿入することで、合わせ面に両材料の新生面同士が接触する接合界面を形成し、冶金的な接合状態を確保することができる。しかし、プローブの直径PDがtmm未満では、接合界面の面積を十分に確保し、必要な接合強度が得られない。一方、5×tmmを超えると、接合時に接合材料がプローブの周囲を流動する距離が長くなり、接合界面における欠陥発生を防止することが困難となる。したがって、プローブの直径PDをtmm以上かつ5×tmm以下に限定することで、両材料の合わせ面に冶金的な接合状態を確保された接合界面の面積を必要十分に確保し、接合強度を高めることができる。なお、好ましいプローブの径PD(mm)は、2×tmm以上、4×tmm以下の範囲である。
【0049】
さらに、本発明の摩擦撹拌接合方法は、複動式回転ツールをアルミニウム合金板の表面から回転させながら挿入するプローブ先端の挿入量Pは、アルミニウム合金板と鋼板の合わせ面を基準(0mm)とした場合(図2参照)、鋼板側へ0mm以上0.5mm以下の範囲とするのが好ましい。
【0050】
プローブの先端をアルミニウム合金板と鋼板の合わせ面もしくは合わせ面の鋼板側まで挿入することで、合わせ面に両材料の新生面同士が接触する接合界面を形成することができ、冶金的な接合状態を確保することができる。しかし、0mm未満では、プローブの先端が合わせ面まで到達せず、プローブ先端の材料撹拌による新生面の形成が達成できない。一方、0.5mmを超えると、プローブ先端で合わせ面の鋼板側を過度に摩擦撹拌するため、形成された接合界面の過度の温度上昇を招き、脆弱な金属間化合物の生成を助長するため好ましくない。なお、好ましい挿入量Pは、0.2~0.4mmの範囲である。
【0051】
また、本発明の摩擦撹拌接合方法は、アルミニウム合金板の表面から回転させながら挿入する回転ツール3の回転軸は、アルミニウム合金板1の表面に対して垂直とするのが好ましい。例えば、回転ツールの回転軸を、アルミニウム合金板の表面に対する垂線に対し、接合方向とは反対側に傾斜させると、回転ツールが受ける負荷を、回転軸方向の圧縮応力と、回転軸と直角方向の曲げ応力とに分け、回転ツールが受ける曲げ方向の力を低減することができるので、回転ツールの破損を防止することができる。しかし,その場合、プローブ先端をアルミニウム合金板と鋼板の合わせ面もしくは合わせ面の鋼板側まで挿入し、合わせ面に接する両材料を摩擦撹拌して接合界面を形成する際、合わせ面に対するプローブ先端の当接が偏り、均質な新生面を形成することが難しくなる。したがって、回転ツールの回転軸を、アルミニウム合金板の表面に対する垂線に対し、接合方向とは反対側に傾斜させる場合であっても、傾斜角は5°以下に抑えることが好ましい。
【実施例
【0052】
表1に示した、JIS H 4000で規定されるA5052アルミニウム合金板と、590MPa級の自動車用高強度冷延鋼板とを重ね合わせた被接合体に対して複動式の摩擦撹拌接合を適用し、1回の接合長さを0.3mとする接合実験を行った。
なお、上記複動式の摩擦撹拌接合には、図3に示した形状、寸法の複動式の回転ツールを用いた。また、比較例として、図4に示した形状、寸法の複動式の回転ツールを用いた。これらの回転ツールの仕様を表2に纏めて示したが、これらの回転ツールのプローブ径PDおよびショルダー径SDは(3)式および(4)式をそれぞれ満たしている。
また、上記回転ツールのプローブおよびショルダーには、接合材料である表1に記載のアルミニウム合金板および鋼板よりも硬い、ビッカース硬さHvが530の工具鋼(SKD61)を素材としたものを用いた。また、接合する際、上記複動式の回転ツールのショルダーおよびプローブは、共に時計回りに回転させた。
また、その他の接合条件については表3に示した。なお、表3中に示した傾斜角αは、アルミニウム合金板の表面に対する垂線に対し、接合方向とは反対側に傾斜させた角度である。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
【表3】
【0056】
斯くして得た接合継手について、接合状態の成否の確認、接合界面における金属間化合物の厚さの測定および接合継手の引張試験を、以下の要領で行った。
<接合状態の成否>
接合状態の成否は、作製した接合継手が、接合した後、自ずと剥離する状態であるか否かを確認した。剥離しない場合は接合状態成立をとして「〇」、剥離した場合は接合状態不成立として「×」として示した。
<金属間化合物の厚さ>
金属間化合物の厚さは、作製した接合継手を、接合部を横切る(接合方向と直角)方向に切断し、その断面に露出した接合界面中央部を、走査型電子顕微鏡を用いて5000倍で3ヶ所以上を観察し、金属間化合物の厚さの測定し、その平均値を求めた。
<接合継手の引張試験>
接合継手の引張試験は、作製した接合継手から、図5に示したように、接合部を引張方向に対して直角になるように含む、幅20mmの引張試験片を採取し、引張試験を行い、剪断強度を測定した。
【0057】
上記評価試験の結果を表4に併記した。この結果から、以下のことがわかる。
まず、本発明の条件を満たす、No.1~8の継手(発明例1~8)は、いずれも接合状態が成立し、かつ、接合界面の金属間化合物の厚さが0.9μm以下であったため、6.5kN以上の引張強度(剪断引張強さ)を得ることができた。
これに対して、No.13および14の継手(比較例5、6)は、プローブ先端のアルミニウム合金板と鋼板の合わせ面から鋼板側への挿入量Pが本発明の範囲より小さかったため、接合界面が形成されず、接合後に自ずと剥離する、接合状態不成立となった。
また、No.11および12の継手(比較例3、4)は、ショルダーの回転数SSとプローブの回転数PSが同一で、本発明を逸脱する条件であったため、接合状態は成立したものの、プローブからの発熱量が過大となり、接合界面の金属間化合物の厚さが1.1μm以上になったため、継手の引張強さが4.9kN以下となった。
また、No.9および10の継手(比較例1,2)は、本発明に適合していない図4に示した回転ツールを使用した例であり、合わせ面に対してプローブ先端を均等に当接することができず、均質な新生面を有する接合界面を形成することができなかった。そのため、一応、接合状態が成立し、接合界面の金属間化合物を0.7μm以下とすることができたものの、均質な新生面の領域が狭いため、継手の引張強さが5.3kN以下となった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の技術は、自動車部材のみならず、鉄道車両、航空機、船舶、建築構造物、電気機器等にも利用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1:アルミニウム合金板
2:鋼板
3:複動式の回転ツール
4:プローブ
5:ショルダー
6:アルミニウム合金板と鋼板の合わせ面
7:接合界面
8:接合部
9:裏当て治具
10:塑性流動領域
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図3-4】
図4
図5