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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】冷熱生成方法
(51)【国際特許分類】
   F25B 27/00 20060101AFI20221109BHJP
   F25B 17/08 20060101ALI20221109BHJP
   F25B 35/04 20060101ALI20221109BHJP
   F24S 80/60 20180101ALI20221109BHJP
   F24S 10/95 20180101ALI20221109BHJP
   F24S 70/225 20180101ALI20221109BHJP
【FI】
F25B27/00 L
F25B17/08 Z
F25B35/04
F24S80/60
F24S10/95
F24S70/225
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020104038
(22)【出願日】2020-06-16
(65)【公開番号】P2021196129
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2021-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】釘本 恒
(72)【発明者】
【氏名】廣田 靖樹
(72)【発明者】
【氏名】小宅 教文
【審査官】庭月野 恭
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-011822(JP,A)
【文献】実開昭58-013445(JP,U)
【文献】特開2004-108747(JP,A)
【文献】特開2015-014379(JP,A)
【文献】特開昭58-047973(JP,A)
【文献】実開昭60-101659(JP,U)
【文献】特開2005-164123(JP,A)
【文献】特開昭59-049449(JP,A)
【文献】特開平10-324579(JP,A)
【文献】特開昭57-117749(JP,A)
【文献】特表2011-530057(JP,A)
【文献】特表2010-526983(JP,A)
【文献】特開2017-089931(JP,A)
【文献】特開2016-011821(JP,A)
【文献】特開2018-080146(JP,A)
【文献】特表2017-527500(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 27/00
F25B 17/08
F25B 35/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着質が蒸発して冷熱を生成する蒸発器と、
前記蒸発器で蒸発した前記吸着質を吸着する第一吸着材を含む第一吸着器と、
前記第一吸着材から脱着した前記吸着質を吸着する第二吸着材を含む第二吸着器と、
前記第二吸着器を加熱する加熱源であって、太陽光を吸収して昇温する集熱板と、前記太陽光を前記集熱板に集光する集光器及び前記集熱板からの放射熱を断熱する断熱材の少なくとも一方の昇温補助手段とを含み、前記太陽光により前記集熱板を160℃以上に昇温可能な太陽光集熱器と、
前記第一吸着器をバイパスして前記蒸発器と前記第二吸着器とを接続するバイパス配管と、
を備える、吸着式ヒートポンプシステムを用い、
前記第一吸着材で前記吸着質を吸着することにより前記蒸発器で前記吸着質を蒸発させて冷熱を生成させる工程と、
前記第二吸着材で前記吸着質を吸着することにより前記第一吸着材から前記吸着質を脱着させて冷熱を生成させる工程と、
を交互に複数回繰り返した後、
前記太陽光集熱器で前記第二吸着材を加熱して前記吸着質を脱着させることにより前記第二吸着材を再生させる工程と、
前記第二吸着材を再生させる工程の前に、前記蒸発器から前記バイパス配管を通じて前記第二吸着器に導入された前記吸着質を前記第二吸着材で吸着する工程と、
を含む、冷熱生成方法
【請求項2】
前記第二吸着器の吸着容量が前記第一吸着器の吸着容量よりも大きい請求項1に記載の冷熱生成方法
【請求項3】
記蒸発器が、前記第二吸着材から脱着した前記吸着質が前記バイパス配管を通じて前記蒸発器に導入された前記吸着質を凝縮する凝縮器を兼ねる、請求項1又は請求項2に記載の冷熱生成方法
【請求項4】
前記吸着式ヒートポンプシステムが、前記蒸発器の熱交換を行う熱交換器、前記第一吸着材の熱交換を行う熱交換器、及び前記第二吸着材の熱交換を行う熱交換器からなる群より選ばれる少なくとも1つの熱交換器を備える請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の冷熱生成方法
【請求項5】
前記太陽光集熱器が、熱交換器、熱交換流体、液送ポンプ及びヒートパイプからなる群より選ばれる少なくとも1つの伝熱手段を介して前記第二吸着材を加熱する請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の冷熱生成方法
【請求項6】
前記集熱板と前記第二吸着材とが、前記断熱材を含む同一の断熱構造内に配置されている請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の冷熱生成方法
【請求項7】
前記太陽光集熱器が、前記断熱材として、前記集熱板に前記太陽光を選択的に透過する選択透過材料を含み、かつ、前記集熱板として、前記選択透過材料を透過した前記太陽光を選択的に吸収する選択吸収材料を含む、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の冷熱生成方法
【請求項8】
前記選択透過材料は、波長0.3μm~2.5μmの太陽光領域における平均透過率が80%以上、かつ、熱伝導率が0.5W/m/K以下であり、
前記選択吸収材料は、前記太陽光領域における平均吸収率が80%以上であり、波長2.5μm超~20μmの放射光領域において前記選択透過材料の透過率が20%以上となる波長帯における平均放射率が60%以下である請求項7に記載の冷熱生成方法
【請求項9】
前記第一吸着材がメソポーラスシリカ、Al-MOF及びZr-MOFからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、前記第二吸着材がゼオライトである請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の冷熱生成方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、吸着式ヒートポンプシステム及び冷熱生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカゲル、ゼオライト等の吸着材と、水、アンモニア等の吸着質との吸脱着現象を繰り返して熱エネルギーに変換することでエアコン、冷蔵、冷凍などに利用する吸着式ヒートポンプが知られている。
例えば、非特許文献1では、ゼオライト系の吸着材を用いて水蒸気の吸脱着を行い、ソーラーコレクターで60~75℃程度に加熱した温水を利用して吸着材の脱着を行う吸着式冷凍機が開示されている。
【0003】
また、特許文献1では、蒸発器、第一吸着器、第二吸着器を備え、第一吸着器で吸着質を吸着して蒸発器で冷熱を生成し、第一吸着器で吸着した吸着質を第二吸着器で吸着して第一吸着器で冷熱を生成する吸着式ヒートポンプが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6065882号
【非特許文献】
【0005】
【文献】日本機械学会誌 2010. 1 Vol. 113 No.1094
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に開示されている吸着式冷凍機は、蒸発器からの水蒸気を吸着材で吸着した後、温水によって脱着した水蒸気を凝縮して液体(水)とし、凝縮された水を再度蒸発器に戻す、いわば単段吸着式ヒートポンプである。
一方、特許文献1に開示されているような複数の吸着器を用いて複数回(多段階)の吸脱着を行う多段吸着式ヒートポンプであれば、単段吸着式ヒートポンプよりも効率化を図ることができる。
【0007】
しかし、多段式ヒートポンプでは、後段の吸着器は前段の吸着器よりも吸着質に対する吸着力が高い吸着材を用いる必要があり、再生(脱着)にはより高温の熱源が必要である。例えば、非特許文献1に開示されているようなソーラーコレクターで60~75℃に加熱した温水では後段の吸着材から吸着質を脱着させることが困難である。
また、例えば吸着材を電気等で加熱して脱着させることは、そもそも吸着式ヒートポンプが持つ省エネルギーの利点を妨げることになる。
【0008】
本開示は、太陽光を利用して高効率に冷熱生成を行うことができる吸着式ヒートポンプシステム及び冷熱生成方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
<1> 吸着質が蒸発して冷熱を生成する蒸発器と、
前記蒸発器で蒸発した前記吸着質を吸着する第一吸着材を含む第一吸着器と、
前記第一吸着材から脱着した前記吸着質を吸着する第二吸着材を含む第二吸着器と、
前記第二吸着器を加熱する加熱源であって、太陽光を吸収して昇温する集熱板と、前記太陽光を前記集熱板に集光する集光器及び前記集熱板からの放射熱を断熱する断熱材の少なくとも一方の昇温補助手段とを含み、前記太陽光により前記集熱板を160℃以上に昇温可能な太陽光集熱器と、
を備える、吸着式ヒートポンプシステム。
<2> 前記第二吸着器の吸着容量が前記第一吸着器の吸着容量よりも大きい<1>に記載の吸着式ヒートポンプシステム。
<3> 前記第一吸着器をバイパスして前記蒸発器と前記第二吸着器とを接続するバイパス配管を備え、前記蒸発器が、前記第二吸着材から脱着した前記吸着質が前記バイパス配管を通じて前記蒸発器に導入された前記吸着質を凝縮する凝縮器を兼ねる、<1>又は<2>に記載の吸着式ヒートポンプシステム。
<4> 前記蒸発器の熱交換を行う熱交換器、前記第一吸着材の熱交換を行う熱交換器、及び前記第二吸着材の熱交換を行う熱交換器からなる群より選ばれる少なくとも1つの熱交換器を備える<1>~<3>のいずれか1つに記載の吸着式ヒートポンプシステム。
<5> 前記太陽光集熱器が、熱交換器、熱交換流体、液送ポンプ及びヒートパイプからなる群より選ばれる少なくとも1つの伝熱手段を介して前記第二吸着材を加熱する<1>~<4>のいずれか1つに記載の吸着式ヒートポンプシステム。
<6> 前記集熱板と前記第二吸着材とが、前記断熱材を含む同一の断熱構造内に配置されている<1>~<4>のいずれか1つに記載の吸着式ヒートポンプシステム。
<7> 前記太陽光集熱器が、前記断熱材として、前記集熱板に前記太陽光を選択的に透過する選択透過材料を含み、かつ、前記集熱板として、前記選択透過材料を透過した前記太陽光を選択的に吸収する選択吸収材料を含む、二重光学断熱構造を有する<1>~<6>のいずれか1つに記載の吸着式ヒートポンプシステム。
<8> 前記選択透過材料は、波長0.3μm~2.5μmの太陽光領域における平均透過率が80%以上、かつ、熱伝導率が0.5W/m/K以下であり、
前記選択吸収材料は、前記太陽光領域における平均吸収率が80%以上であり、波長2.5μm超~20μmの放射光領域において前記選択透過材料の透過率が20%以上となる波長帯における平均放射率が60%以下である<7>に記載の吸着式ヒートポンプシステム。
<9> 前記第一吸着材がメソポーラスシリカ、Al-MOF及びZr-MOFからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、前記第二吸着材がゼオライトである<1>~<8>のいずれか1つに記載の吸着式ヒートポンプシステム。
<10> <1>~<9>のいずれか1つに記載の吸着式ヒートポンプシステムを用い、
前記第一吸着材で前記吸着質を吸着することにより前記蒸発器で前記吸着質を蒸発させて冷熱を生成させる工程と、
前記第二吸着材で前記吸着質を吸着することにより前記第一吸着材から前記吸着質を脱着させて冷熱を生成させる工程と、
を交互に複数回繰り返した後、
前記太陽光集熱器で前記第二吸着材を加熱して前記吸着質を脱着させることにより前記第二吸着材を再生させる工程を含む、冷熱生成方法。
<11> 前記吸着式ヒートポンプシステムが<3>に記載の前記バイパス配管を備え、前記第二吸着材を再生させる工程の前に、前記蒸発器から前記バイパス配管を通じて前記第二吸着器に導入された前記吸着質を前記第二吸着材で吸着する工程を含む<10>に記載の冷熱生成方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、太陽光を利用して高効率に冷熱生成を行うことができる吸着式ヒートポンプシステム及び冷熱生成方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の第一実施形態の吸着式ヒートポンプシステムの構成を示す概略図である。
図2】第一実施形態の吸着式ヒートポンプシステムにおける太陽光集熱器の構成の一例を示す概略図である。
図3】本開示の吸着式ヒートポンプシステムにおける太陽光集熱器に使用することができる選択透過材料と選択吸収材料の光学特性の関係の一例を示す図である。
図4A】真空容器内に選択透過材料と選択吸収材料を重ねた2重光学断熱構造とした集熱器を用いて太陽光による昇温実験を行った結果を示すグラフである。
図4B】真空容器内に選択透過材料と選択吸収材料を重ねた2重光学断熱構造とした集熱器を用いて太陽光による昇温実験を行った装置構成を示す概略図である。
図5】ソーラーシミュレーションにおいて昇温手段の構成を変えた場合の最高到達温度を示すグラフである。
図6】本開示の第二実施形態の吸着式ヒートポンプシステムの構成を示す概略図である。
図7】第二実施形態の吸着式ヒートポンプシステムにおける集熱・第二吸着器(太陽光集熱器の一例)の構成を示す概略図である。
図8図7に示す集熱・第二吸着器を太陽光の入射側から見た主要部の位置関係を示す概略図である。
図9A】本開示の第二実施形態の吸着式ヒートポンプシステムの蓄熱モードにおける水蒸気及び熱交換流体の流れを示す概略図である。
図9B】本開示の第二実施形態の吸着式ヒートポンプシステムの1段目出力モードにおける水蒸気及び熱交換流体の流れを示す概略図である。
図9C】本開示の第二実施形態の吸着式ヒートポンプシステムの2段目出力モードにおける水蒸気及び熱交換流体の流れを示す概略図である。
図10】蒸発器及び吸着器の各温度変化のシミュレーションに用いた単段吸着式ヒートポンプシステムの構成を示す概略図である。
図11図10に示す構成の単段吸着式ヒートポンプシステムによりシミュレーションした蒸発器及び吸着器の各温度変化を示す図である。
図12】蒸発器及び吸着器の各温度変化のシミュレーションに用いた多段吸着式ヒートポンプシステムの構成を示す概略図である。
図13図12に示す構成の多段吸着式ヒートポンプシステムを用いたシミュレーションにおける水蒸気の流れを示す概略図である。
図14図12に示す構成の単段吸着式ヒートポンプシステムによりシミュレーションした蒸発器及び吸着器の各温度変化を示す図である。
図15】単段吸着式ヒートポンプシステムのシミュレーション結果と多段吸着式ヒートポンプシステムのシミュレーション結果に基づく冷房出力を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示に係る吸着式ヒートポンプシステム及び冷熱生成方法の実施形態について図面を参照しながら説明する。
本開示に係る吸着式ヒートポンプシステムは、吸着質が蒸発して冷熱を生成する蒸発器と、蒸発器で蒸発した吸着質を吸着する第一吸着材を含む第一吸着器と、第一吸着材から脱着した吸着質を吸着する第二吸着材を含む第二吸着器とを備える。さらに、本開示に係る吸着式ヒートポンプシステムは、第二吸着器を加熱する加熱源として、太陽光を吸収して昇温する集熱板と、太陽光を集熱板に集光する集光器及び集熱板からの放射熱を断熱する断熱材の少なくとも一方の昇温補助手段とを含み、太陽光により集熱板を160℃以上に昇温可能な太陽光集熱器を備える。
このような構成を有する本開示に係る吸着式ヒートポンプシステムでは、第一吸着材で吸着質を吸着することにより蒸発器で吸着質が蒸発して冷熱を生成し、第二吸着材で吸着質を吸着することにより第一吸着材から吸着質が脱着して冷熱を生成し、太陽光集熱器で第二吸着材を加熱して吸着質を脱着させることにより第二吸着材が再生する。
【0013】
[第一実施形態]
図1は、本開示の第一実施形態のヒートポンプシステムの構成を示す概略図である。第一実施形態の吸着式ヒートポンプシステムは、集熱器10、蒸発器と凝縮器を兼ねた蒸発・凝縮器20、第一吸着器30、第二吸着器40を備えている。また、集熱器10、蒸発・凝縮器20、第一吸着器30、第二吸着器40にはそれぞれ熱交換流体によって外部と熱交換を行うための熱交換器12,22,32,42が設けられている。
【0014】
(蒸発・凝縮器)
蒸発・凝縮器20は、蒸発器としての機能と、凝縮器としての機能とを併せ持っている。蒸発・凝縮器20に収容されている液体状の吸着質は、蒸発・凝縮器20の内部における気体の圧力が低下(減圧)した場合や、液体(液体状の吸着質)の温度が上昇(加熱)した場合に吸着質が蒸発し、その際に冷熱が生成される。また、外部から蒸発・凝縮器20に導入された気体状の吸着質が熱エネルギーを奪われることで吸着質が凝縮される。なお、吸着質としては、水、アンモニア、アルコールなど公知の吸着質を用いることができる。
蒸発・凝縮器20は接続配管50Bで第一吸着器30と接続されている。接続配管50Bに設けられている開閉弁60Bの開弁により、蒸発・凝縮器20と第一吸着器30との間で吸着質が移動可能となっている。
また、蒸発・凝縮器20には、熱交換流体により熱交換を行うための熱交換器22が設けられている。蒸発・凝縮器20で生成した冷熱は、熱交換器22に連結する接続管24A,24Bを流れる熱交換流体を介して外部に伝達することが可能である。また、蒸発・凝縮器20に導入された気体状の吸着質を、熱交換器22で冷却して凝縮させることも可能である。
【0015】
(第一吸着器)
第一吸着器30は、吸着質を吸脱着することが可能な第一吸着材を含んでいる。第一吸着材としては、例えば、メソポーラスシリカ、Al-MOF及びZr-MOFなどを用いることができる。Zr-MOFとしては、例えばMOF-801が挙げられる。
第一吸着器30は、接続配管50Cを介して第二吸着器40と接続されている。接続配管50Cに設けられている開閉弁60Cの開弁により、第一吸着器30と第二吸着器40との間で吸着質が移動可能となっている。
また、第一吸着器30には、熱交換流体により熱交換を行うための熱交換器32が設けられている。第一吸着器30で生成した熱は、熱交換器32に連結する接続管34A,34Bを流れる熱交換流体を介して外部に伝達することが可能である。
【0016】
(第二吸着器)
第二吸着器40は、吸着質を吸脱着することができる第二吸着材を含んでいる。第二吸着器40の第二吸着材は、接続配管50Cを通じて第一吸着器30から移動する吸着質を吸着することで第一吸着材から吸着質の脱着を促し、第一吸着器30の第一吸着材よりも高い再生温度の熱で吸着質が脱着する材料が選択される。第二吸着材は、160℃以上で加熱されることで吸着質が脱着される吸着材が好ましい。第二吸着材としては、例えば、Y型ゼオライトなどのゼオライトを好適に用いることができる。
第二吸着器40は、第一吸着器30をバイパスするバイパス配管50Aで蒸発・凝縮器20と接続されている。バイパス配管50Aに設けられているバイパス開閉弁60Aの開弁により、第二吸着器40と蒸発・凝縮器20との間で吸着質が移動可能となっている。このような第二吸着器40と蒸発・凝縮器20とを接続するバイパス配管50Aを設けて、第二吸着器40で脱着された吸着質を蒸発・凝縮器20に移動させることで、第二吸着器(第二吸着材)の再生を簡易に行うことができる。また、蒸発・凝縮器20の吸着質をバイパス配管50Aを通じて第二吸着器40に移動させて第二吸着材で吸着させることもできる。
また、第二吸着器40には、熱交換流体により熱交換を行うための熱交換器42が設けられている。第二吸着器40で生成した熱は、熱交換器42に連結する接続管44A,44Bを流れる熱交換流体を介して外部に伝達することが可能である。
【0017】
第一吸着器30の第一吸着材と第二吸着器40の第二吸着材の組み合わせは、第一吸着器で吸着質を脱着した後の第一平衡圧力に対し、脱着された吸着質を第二吸着器40で吸着した後の第二平衡圧力が第一平衡圧力以下となる組み合わせであることが好ましい。このような組み合わせにより、第一吸着器30で脱着された吸着質を第二吸着器40で吸着させる動作を確実に行わせることが可能となる。
【0018】
また、第二吸着器40の吸着容量が第一吸着器30の吸着容量よりも大きいことが好ましい。第二吸着器40の吸着容量が第一吸着器30の吸着容量よりも大きいことで、第一吸着器30の吸着質を確実に第二吸着器40で吸着することが可能である。
なお、本開示における第一吸着材及び第二吸着材による吸着及び脱着の反応機構は限定されず、例えば、吸着質の飽和蒸気圧以下の圧力で吸着質と反応することで、系の圧力を飽和蒸気圧以下に下げることが可能であればよい。ここでいう反応には、物理吸着、化学吸着、吸収、化学反応等が含まれる。
【0019】
(太陽光集熱器)
太陽光集熱器10(本開示において、単に「集熱器」と記す場合がある。)は、第二吸着器40の第二吸着材を加熱して再生(脱着)させるための加熱源である。集熱器10には、熱交換流体により熱交換を行うための熱交換器12が設けられている。集熱器10の熱交換器12は、第二吸着器40の熱交換器42と接続管14A,14Bによって接続されている。接続管14Aに設けられた開閉弁70Dの開弁により、熱交換器12,42を流れる熱交換流体を介して集熱器10の熱を第二吸着器40に伝達することが可能である。熱交換器12,42を流れる熱交換流体としては公知の熱媒体を用いることができる。通常は沸点が低いオイル、例えばダウサム(Dowtherm:登録商標)A(ビフェニルとジフェニルエーテルとの3:7混合物)などを用いることができる。
【0020】
図2は、本実施形態の吸着式ヒートポンプシステムにおける太陽光集熱器10の一例を示す概略図である。図2に示す太陽光集熱器10Aは、太陽光が透過する窓56、太陽光を選択的に透過する選択透過材料58、集光板として太陽光を選択的に吸収する選択吸収材料48、断熱材92などを備えている。
本開示において「太陽光を選択的に透過する」とは、波長0.3μm~2.5μmの太陽光領域における平均透過率が80%以上であることが好ましく、「太陽光を選択的に吸収する」とは、波長0.3μm~2.5μmの太陽光領域における平均吸収率が80%以上であることが好ましい。
【0021】
選択透過材料58は、波長0.3μm~2.5μmの太陽光領域における平均透過率が80%以上であり、かつ、選択吸収材料から放出される熱に対する断熱性が高いことが好ましい。選択透過材料58は、具体的には、波長0.3μm~2.5μmの太陽光領域における平均透過率が80%以上、かつ、熱伝導率が0.5W/m/K以下であることが好ましい。選択透過材料58として、光透過性及び断熱性の観点から、例えば、シリカエアロゲル、PMSQエアロゲルなどのエアロゲル、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)などの透明樹脂を好適に用いることができる。
【0022】
選択吸収材料48は、太陽光をできるだけ吸収して熱エネルギーに変換する観点から、波長0.3μm~2.5μmの太陽光領域における平均吸収率が80%以上である材料が好ましい。例えば、TiNOX(登録商標)などの多層膜で波長選択性を発現する材料、ブラックNi、ブラックCr、ブックCuなどの単一材料又は複合材料の物性によって波長選択性を発現する材料、表面の微細構造によって波長選択性を発現する材料が挙げられる。
【0023】
また、集熱器10における断熱性を高めるため、選択吸収材料48は、太陽光の吸収率が高いだけでなく、選択透過材料58が透過し易い波長帯の放射率が低いことが好ましい。具体的には、選択吸収材料48は、波長0.3μm~2.5μmの太陽光領域における平均吸収率が80%以上であり、波長2.5μm超~20μmの放射光領域において選択透過材料58の透過率が20%以上となる波長帯が存在する場合に、この波長帯における平均放射率が60%以下であることが好ましい。選択吸収材料48として、太陽光吸収率が高く、赤外光放射率が低い観点から、特にTiNOX(登録商標)を好適に用いることができる。
【0024】
選択吸収材料48の背面側(太陽光を受光する側とは反対側)には、伝熱部94及び断熱材92が配置されている。
断熱材92よりも伝熱部94の方が熱伝導率が高ければよい、断熱材92としては、石英繊維フィルタ、エアロゲルなどが挙げられる。伝熱部94としては、ヒートパイプ、金属などが挙げられる。
【0025】
選択透過材料58、選択吸収材料48、伝熱部94、断熱材92は、窓56とステンレス製の筐体90の内部に収容されている。また、選択透過材料58、選択吸収材料48、伝熱部94、断熱材92の周囲には、真空環境を構築するための真空断熱部98が設けられている。
太陽光集熱器10Aの背面側(受光面とは反対側)には熱交換器12が設けられている。太陽光集熱器10Aの伝熱部94の熱交換流体接触部96が、熱交換器12の内部にて熱交換流体と接触するように構成されている。
【0026】
窓56及び選択透過材料58を透過した太陽光は、選択吸収材料48に吸収され、熱エネルギーに変換されて昇温する。選択透過材料58としてシリカエアロゲルを用いれば、太陽光が透過するとともに、昇温した選択吸収材料48からの放射熱が効果的に遮断され、受光面側には放熱されにくい。上記のような光学特性を有する選択透過材料58と選択吸収材料48の組み合わせにより、いわば2重光学断熱構造が構築される。
【0027】
伝熱部94の背面側には断熱材92が配置されており、外周は真空断熱となっている。このような断熱構造により、選択吸収材料48は、太陽光のみで160℃以上に昇温することが可能である。選択吸収材料48で生成された熱は、伝熱部94に効率的に伝熱され、さらに熱交換流体接触部96を介して熱交換器12内の熱交換流体を介して外部、すなわち、第二吸着器40に伝熱される。
なお、集熱器10から第二吸着器40への伝熱手段は限定されず、熱交換器、熱交換流体、液送ポンプ及びヒートパイプなどから選択することができる。
【0028】
図3は、選択透過材料と選択吸収材料の光学特性の関係の一例を示す図である。太陽光透過率が0.9、赤外光透過率が0.1である選択透過材料58と、太陽光吸収率が0.9、赤外光放射率が0.1である選択吸収材料48とを組み合わせた2重光学断熱構造とした場合、太陽光1sunのうち、0.9sunが選択透過材料を透過し、選択吸収材料によって0.81sunが熱に変換される。さらに、選択吸収材料では赤外光が0.1black放射されるが、選択透過材料で赤外線透過が妨げられ、外部環境への放射ロスは0.01blackに留まることになる。これにより放射ロスを1/100程度に抑制することができる。また、このような2重光学断熱と真空断熱を組み合わせることで極めて効率的に昇温させることができる。
【0029】
図4Aは、真空容器内に選択透過材料(シリカエアロゲル)と選択吸収材料(TiNOX)を重ねた2重光学断熱構造とした集熱器を用いて太陽光による昇温実験を行った結果を示すグラフである。なお、実験に用いた集熱器は図4Bに示す概略構成を有しており、選択吸収材料(TiNOX)の受光面側には選択透過材料(シリカエアロゲル)が配置され、背面側には断熱材として選択透過材料(シリカエアロゲル)とガラス繊維フィルタが配置されている。このような構成の集熱器では、太陽光を集光することなく、選択吸収材料付近では275℃まで昇温することが確認された(図4A)。
【0030】
図5は、昇温手段の構成を下記のように変えてソーラーシミュレータによる昇温実験を行った場合の最高到達温度を示すグラフである。
構成番号1:黒色材料+選択透過材料
構成番号2:選択吸収材料+選択透過材料
構成番号3:選択吸収材料+真空断熱
構成番号4:選択吸収材料+選択透過材料+真空断熱
ここで構成番号1における黒色材料はアルミ板を黒色の顔料塗料で塗装したものである。
いずれの手段でも160℃以上に昇温することができ、2重光学断熱(構成番号2)だけでも230℃程度まで昇温し、2重光学断熱によって効率的に高温に昇温させることができることが分かる。
【0031】
次に、図1に示す吸着式ヒートポンプシステム100を用いて冷熱を生成する方法について説明する。以下において、「開弁」と明記した開閉弁以外の開閉弁は、閉弁されている。
【0032】
(蒸発・凝縮器における冷熱の生成)
蒸発・凝縮器20に液状の吸着質を収容した状態で開閉弁60Bを開弁することで、蒸発・凝縮器20で蒸発した吸着質が接続配管50Bを通じて第一吸着器30に移動して第一吸着器30で吸着される。第一吸着器30における吸着により、蒸発・凝縮器20は減圧される。減圧された蒸発・凝縮器20では吸着質が蒸発し、蒸発潜熱によって冷熱を生成する。開閉弁70Aを開弁し、熱交換器22に接続管24Aから室温の熱交換流体を供給して熱交換した後、接続管24Bから排出することで、蒸発・凝縮器20で生成した冷熱を外部に取り出すことができる。
一方、第一吸着器30で吸着熱として生成した温熱は、熱交換器32に室温の熱交換流体を供給して熱交換することで外部に取り出される。外部に取り出された温熱は、暖房などに利用してもよい。
なお、熱交換器22における熱交換流体の供給及び排出は、例えば、接続管24A,24Bを介してポンプ(不図示)で強制的に循環させ、ポンプ(不図示)を駆動することで開閉弁70Aを開く構成とすることができる。熱交換器32,42における熱交換流体の供給及び排出、並びに、開閉弁70B,70Cの開弁も同様の構成とすることができる。
【0033】
(第一吸着器における冷熱の生成)
第一吸着器30で吸着が飽和状態となった場合、開閉弁60Bを閉じ、開閉弁60Cを開弁して第一吸着材の再生(脱着)を行う。
第二吸着器40の第二吸着材は、第一吸着器30の第一吸着材よりも吸着質に対する吸着力が高く、第二吸着材の吸着能力により、第一吸着器30の第一吸着材に吸着されていた吸着質が脱着し、接続配管50Cを通じて第二吸着器40に移動して第二吸着器40の第二吸着材に吸着される。これにより、第一吸着器30は減圧される。そして、第一吸着器30では脱着による冷熱が生成し、第一吸着材が再生される。開閉弁70Bを開弁し、熱交換器32に室温の熱交換流体を供給して熱交換を行うことで、第一吸着器30から冷熱を取り出すことができる。
一方、第二吸着器40で吸着熱として生成した温熱は、熱交換器42に室温の熱交換流体を供給して熱交換を行うことで外部に取り出される。
【0034】
(第二吸着器による蒸発・凝縮器からの吸着質の吸着)
なお、「蒸発・凝縮器における冷熱の生成」と「第一吸着器における冷熱の生成」を交互に繰り返し行うと、徐々に蒸発速度及び吸着速度が低下し、冷熱及び温熱の発生も低下する。そのため、「蒸発・凝縮器における冷熱の生成」と「第一吸着器における冷熱の生成」を交互に繰り返し行った後、第二吸着器40の再生を行うが、第一吸着器30における冷熱の生成後、第二吸着器40の第二吸着材が限界吸着量まで達していない場合がある。そこで、第二吸着器の再生の前に蒸発器の吸着質を第二吸着材で吸着させてもよい。第一吸着器30における冷熱の生成後、開閉弁60Cを閉じ、バイパス開閉弁60Aを開弁することで、蒸発・凝縮器20内の吸着質(気体)がバイパス配管50Aを通じて第二吸着器40に導入され、第二吸着材に吸着されるとともに蒸発・凝縮器20内の減圧によって吸着質(液体)の蒸発が促されて冷熱が生成する。
このように第二吸着器40から第一吸着器30を経由することなく、第二吸着材の吸着能力によって蒸発・凝縮器20内の吸着質を蒸発させて吸着した後、第二吸着器の再生を行ってもよい。
【0035】
(第二吸着器の再生)
第二吸着器40で吸着が飽和状態となった場合又は吸着力が大きく低下した場合、開閉弁60Cを閉じ、開閉弁70D,60Aを開弁して第二吸着材の再生(脱着)を行うとともに、吸着質の凝縮を行う。
集熱器10では、太陽光の吸収により集熱板(選択吸収材料48)が160℃以上の高温に昇温し、熱交換器12内の熱交換流体も同様に加熱される。集熱器10により高温に加熱された熱交換器12の熱交換流体を、接続管14A,14Bを通じて第二吸着器40の熱交換器42に循環させることで第二吸着器40の第二吸着材が高温に加熱されて吸着質が脱着する。これにより、第二吸着器40の第二吸着材が再生される。
【0036】
第二吸着材から脱着した吸着質は、バイパス配管50Aを経て蒸発・凝縮器20に移動する。第二吸着器40から蒸発・凝縮器20に移動した吸着質は、熱交換器22に室温の熱交換流体を供給して熱交換を行うことで冷却され、凝縮して液状となる。
【0037】
第二吸着器の再生(脱着)を終了する場合は、例えば、配管14A,14Bが、ループヒートパイプのように自動で熱交換流体が循環する方式であれば、開閉弁70Dを閉じ、開閉弁70Cを開弁して、熱交換器42に室温の熱交換流体を供給して熱交換を行う。これにより、集熱器10用の熱交換器12から第二吸着器40用の熱交換器42に供給された高温の熱交換流体の温熱が外部に取り出される。
また、配管14A,14Bにポンプ(不図示)等で強制的に熱交換流体を循環させている場合は、ポンプ等をオフにして熱交換流体の循環を停止することで第二吸着器40の再生(脱着)を終了してもよい。
また、シャッター(不図示)等で集熱器10への太陽光の照射を遮断することで第二吸着器40の再生(脱着)を終了してもよい。
【0038】
第一吸着器30よりも第二吸着器40の吸着容量を大きくしておき、上記の「蒸発・凝縮器における冷熱の生成」と「第一吸着器における冷熱の生成」を交互に繰り返し行い、第一吸着器における冷熱の生成後、必要に応じて、蒸発・凝縮器20内の吸着質を第一吸着器30を経由せずに第二吸着器40で吸着することで、連続して冷熱を外部に取り出して、エアコン、冷蔵庫、冷凍機などに利用することができる。
第二吸着器40における吸着が飽和して吸着ができなくなった場合、又は、吸着量が大きく低下した場合に、「第二吸着器の再生」を行う。
【0039】
[第二実施形態]
次に、本開示の第二実施形態の吸着式ヒートポンプシステムについて説明する。第二実施形態において、第一実施形態と同じ構成要素、部材等については同じ符号を付して説明を省略する。
図6は、本開示の第二実施形態の吸着式ヒートポンプシステムの構成を示す概略図である。図6に示す吸着式ヒートポンプシステム200は、第一実施形態と同様、蒸発器と凝縮器を兼ねた蒸発・凝縮器20、第一吸着器30を備えている。また、吸着式ヒートポンプシステム200は、集熱器と第二吸着器とが一体となった集熱・第二吸着器50を備えている。蒸発・凝縮器20、第一吸着器30、集熱・第二吸着器50には、それぞれ熱媒体流体により熱交換を行うための熱交換器22,32,52が設けられている。
【0040】
図7は、第二実施形態の吸着式ヒートポンプシステムにおける集熱・第二吸着器50(太陽光集熱器の一例)の構成を示す概略図である。図8は、図7に示す集熱・第二吸着器50を太陽光の入射側から見た主要部の位置関係を示す概略図である。
集熱・第二吸着器50は、太陽光を受光する側から、ミラー、レンズ等の集光器61、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)等で形成された抑え板66、透明窓56、選択透過材料としてシリカエアロゲル58A、選択吸収材料48、ハニカム構造の第二吸着材46、熱交換器42、断熱材としてシリカエアロゲル58Bが配置され、周囲にも断熱材としてシリカエアロゲル58C,58Dが配置されている。
選択透過材料としてのシリカエアロゲル58Aは断熱材も兼ねており、シリカエアロゲル58A,58B,58C,58Dによって断熱容器(断熱構造)69が構成されている。断熱容器69の側壁を構成するシリカエアロゲル58C,58Dには、水蒸気などの吸着質を通すための孔64、熱交換器52の配管54A,54Bを通すための孔68C,68Dが形成されている。このような断熱容器69内に、選択吸収材料48、第二吸着材46、熱交換器42が収容されている。
【0041】
さらに、断熱容器69は、窓56とPEEK等で形成された容器62によって構成された真空容器71内に収容されている。窓56は抑え板66と容器62の上縁との間に配置され、ボルト54によって抑え板66が容器62の上縁に固定されている。また、窓56と容器62の上縁との間にOリング51が介在して封止されている。断熱容器69と真空容器71との間には、接続配管50C,50Aを通じて吸着質が供給又は排除される空間73が設けられている。空間73は、真空ポンプ(不図示)によって減圧される。
【0042】
このように、集熱器と第二吸着器を一体化することで真空容器や断熱構造を共通化でき、部品点数を減らして構造の簡易化が実現できる。
また、図1に示した第一実施形態では、集熱器10から熱交換器12,42と熱輸送媒体(熱交換流体)を用いて第二吸着器40に熱を輸送することになるが、この場合、配管14A,14B等から空気や他の部品に熱が伝わり熱ロスが生じる。
一方、第二実施形態のように集熱器と第二吸着器を一体化することにより、集熱器と第二吸着器との間の熱輸送機構を設ける必要がなくなる。そのため、熱ロスの要因が減り、その分、効率向上が見込まれる。
【0043】
図7に示す吸着式ヒートポンプシステム200は、集光器61、二重光学断熱容器69、及び真空断熱によって選択吸収材料48を160℃以上、200℃以上、又は300℃以上の高温に効率的に昇温させることができる。また、吸着質の導入及び排出が可能な断熱容器69内で、選択吸収材料48、第二吸着材46及び熱交換器42が重なった状態で配置されているため、断熱容器69内に導入された吸着質の吸脱着、第二吸着材46の熱交換も効率的に行うことができる。なお、第二吸着材46と熱交換器42の位置は逆でもよい。
【0044】
次に、図6に示す吸着式ヒートポンプシステム200を用いて冷熱を生成する方法について説明する。
図9A図9Cは、吸着質として水Wを用い、第二実施形態の吸着式ヒートポンプシステムの各運転モードにおける水蒸気及び熱交換流体の流れを示す概略図である。なお、図9A図9Cでは、場面に応じて閉弁した状態の開閉弁を図示し、開弁した状態の開閉弁は図示を省略している。また、図中の温度は一例である。
【0045】
Aモード:蓄熱モード
集熱・第二吸着器50に太陽光が照射されて選択吸収材料が160℃以上に昇温し、第二吸着材から水蒸気が脱着する。図9Aに示すように、バイパス開閉弁60Aを開弁することで、水蒸気はバイパス配管50Aを通じて蒸発・凝縮器20に移動する。蒸発・凝縮器20に移動した水蒸気は、熱交換器22に供給される室温の熱交換流体によって冷却されることで、凝縮して液体(水)として収容される。
【0046】
Bモード:1段目出力モード
図9Bに示すように、バイパス開閉弁60Aを閉弁し、開閉弁60Bを開弁することで、蒸発・凝縮器20に存在する水蒸気が第一吸着器30に移動して吸着される。第一吸着器30で水蒸気が吸着されることで蒸発・凝縮器20は内部の減圧により水の蒸発が促進され、冷熱が生成する。蒸発・凝縮器20で生成した冷熱は、熱交換器22を流れる熱交換流体を介して外部に取り出される。
【0047】
Cモード:2段目出力モード
図9Cに示すように、開閉弁60Bを閉弁し、開閉弁60Cを開弁する。第一吸着器30から水蒸気が脱着し、集熱・第二吸着器50に移動して第二吸着材に吸着される。これにより、第一吸着器30では脱着による冷熱が生成する。集熱・第二吸着器50で生成した冷熱は、熱交換器52を流れる熱交換流体を介して外部に取り出される。
【0048】
上記のような各モードを、例えば、太陽が出ている日中はAモードとし、夜間は第二吸着材で吸着できなくなるまでB→C→B→C・・・を繰り返す。このような運転モードとすることで、蒸発・凝縮器20と第一吸着器30から交互に冷熱を外部に取り出し、外部機器に連続的に冷水又は冷気を供給することができる。
また、第二実施形態においても、BモードとCモードを繰り返し、最後のCモードとした後、蒸発・凝縮器20内の吸着質を第一吸着器30を経由することなくバイパス配管50Aを通じて集熱・第二吸着器50に移動、吸着させて蒸発・凝縮器20で冷熱を生成し、その後、Aモードとして第二吸着材の再生を行ってもよい。
【0049】
<単段吸着式ヒートポンプシステムと多段吸着式ヒートポンプシステムとの比較>
第一吸着器30の第一吸着材としてAl-MOF、第二吸着器40の吸着材としてゼオライト13Xをそれぞれ用い、単段吸着式ヒートポンプシステムと多段吸着式ヒートポンプシステムの冷熱生成能力を比較するため、シミュレーションを行った。
【0050】
(単段吸着式ヒートポンプシステムによるシミュレーション)
図10は、蒸発器及び吸着器の各温度変化のシミュレーションに用いた単段吸着式ヒートポンプシステムの構成を示す概略図である。集熱器と吸着器を兼ねた構成において吸着材と熱交換器との間の熱抵抗として接触熱抵抗模擬層を配置し、蒸発・凝縮器の水蒸気が吸着材に吸着される条件でシミュレーションを行った。図11は単段吸着式ヒートポンプシステムでシミュレーションを行った蒸発器及び吸着器の各温度変化を示す図である。運転開始当初、蒸発器では冷熱を、吸着器では温熱をそれぞれ生成して温度差が大きかったが、時間ともに温度差が小さくなり、蒸発器の温度と吸着器の温度はほぼ同レベルとなった。最初は、吸着材が空なので、大きな吸着速度、蒸発速度が発生し、それに伴う温度上昇、温度低下が発生している。徐々に吸着材が平衡吸着量に近づいてくるため、吸着速度と蒸発速度が低下し、熱交換器は常に常温の熱交換流体が流れて一定温度に保たれている前提であるため、最終的には、温熱、冷熱の発生がなくなり、どちらも熱交換器の温度に達すると考えられる。
【0051】
(多段吸着式ヒートポンプシステムによるシミュレーション)
図12は、蒸発器及び吸着器の各温度変化のシミュレーションに用いた多段吸着式ヒートポンプシステムの構成を示す概略図である。蒸発・凝縮器、第一吸着器、集熱・第二吸着器を備えた構成とし、第一吸着器、集熱・第二吸着器とも、吸着材と熱交換器との間の熱抵抗として接触熱抵抗模擬層を配置した構成とした。第一吸着器の第一吸着材としてAl-MOFを、第二吸着器の第二吸着材としてゼオライト13Xを用いた。図13は、図12に示す構成の多段吸着式ヒートポンプシステムを用いたシミュレーションにおける水蒸気の流れを示す概略図である。図13に示すように、水(吸着質)が、蒸発・凝縮器から第一吸着器へ移動して第一吸着材に吸着されるモードと、第一吸着器から集熱・第二吸着器に移動して第二吸着材に吸着されるモードを交互に繰り返す条件でシミュレーションを行った。
図14は、図12に示す構成の多段吸着式ヒートポンプシステムによりシミュレーションした蒸発器及び吸着器の各温度変化を示す図である。1はBモードにおける蒸発・凝縮器の温度、2はBモードにおける第一吸着器の温度である。3はCモードにおける第一吸着器の温度、4はCモードにおける第二吸着器の温度を示している。図14に示すように、BモードとCモードを交互に繰り返すことで高効率で冷熱を取り出すことができることが分かる。
【0052】
図15は、各シミュレーション結果に基づいて算出した冷房出力を比較したグラフである。多段吸着式ヒートポンプシステムの冷房能力は、単段吸着式ヒートポンプシステムの冷房能力の2倍を超えており、高効率であることが分かる。
【0053】
以上、第一実施形態及び第二実施形態の吸着式ヒートポンプシステムについて説明したが、本開示に係る吸着式ヒートポンプシステムはこれらの実施形態に限定されない。
例えば、第一実施形態及び第二実施形態では、蒸発器と凝縮器を兼ねた蒸発・凝縮器とバイパス配管を備えた構成となっているが、バイパス配管を備えず、蒸発器と凝縮器を別々に設けてもよい。例えば、第二吸着器と蒸発器との間に凝縮器を配置し、第二吸着器から脱着した吸着質を凝縮器に移動させて熱交換器で冷却して凝縮した後、蒸発器に移動させてもよい。
【0054】
また、第二吸着器の再生時に第二吸着器の吸着質を第一吸着器に吸着させてもよい。
また、太陽光集熱器は、図2又は図7に示したような選択透過材料と選択吸収材料を組み合わせたものに限定されず、例えば、集熱板として黒色材料を用い、真空断熱と組み合わせて160℃以上に昇温可能な集熱器としてもよい。
【0055】
また、第一吸着器が複数備えられ、蒸発器及び第二吸着器との接続方向に対し並列に配置された構成としてもよい。このように並列配置された複数の第一吸着器により、異なる処理を行うことが可能である。たとえば、特定の第一吸着器では蒸発器の吸着質を吸着し、他の第一吸着器では脱着させて第二吸着器で吸着してもよい。
【符号の説明】
【0056】
10,10A 太陽光集熱器
12,22,32,42,52 熱交換器
20 蒸発・凝縮器
30 第一吸着器
40 第二吸着器
46 第二吸着材
48 選択吸収材料(集熱板の一例)
50 集熱・第二吸着器
50A バイパス配管
56 窓
58 選択透過材料
58A,58B,58C,58D シリカエアロゲル
60A バイパス開閉弁
60B 開閉弁
60C 開閉弁
61 集光器
62 容器
64 孔
66 抑え板
68C,68D 孔
69 断熱容器
70A 開閉弁
70B 開閉弁
70C 開閉弁
70D 開閉弁
71 真空容器
73 空間
90 筐体
92 断熱材
94 伝熱部
96 熱交換流体接触部
100 吸着式ヒートポンプシステム
200 吸着式ヒートポンプシステム
W 水(吸着質の一例)
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10
図11
図12
図13
図14
図15