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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】空気入りタイヤおよびアセンブリシート
(51)【国際特許分類】
   B60C 19/00 20060101AFI20221109BHJP
   B60C 5/14 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
B60C19/00 G
B60C5/14 Z
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020525206
(86)(22)【出願日】2018-06-22
(86)【国際出願番号】 JP2018023846
(87)【国際公開番号】W WO2019244349
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丹野 篤
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 峻
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-178763(JP,A)
【文献】特開2005-081864(JP,A)
【文献】特開2010-526400(JP,A)
【文献】特開2017-121730(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ内表面を構成するタイヤ内表面ゴム層と、
少なくとも一部が前記タイヤ内表面ゴム層の内腔側に配置された導電部材とを備え、
前記導電部材は、少なくとも一部が導電性を有する糸により構成され、伸縮性を有する編地からなり、
前記導電部材は、複数の導電部を備え、
複数の前記導電部は、前記タイヤ内に設けられた電気デバイスに電気的に接続され、複数の前記導電部を介して前記電気デバイスに電力を供給し、
前記編地の通気量は、60cm /cm ・s以上である
空気入りタイヤ。
【請求項2】
タイヤ内表面を構成するタイヤ内表面ゴム層と、
少なくとも一部が前記タイヤ内表面ゴム層の内腔側に配置された導電部材とを備え、
前記導電部材は、少なくとも一部が導電性を有する糸により構成され、伸縮性を有する編地からなり、
前記導電部材は、複数の導電部を備え、
複数の前記導電部は、前記タイヤ内に設けられた電気デバイスに電気的に接続され、複数の前記導電部を介して前記電気デバイスに電力を供給し、
前記導電部材は、前記タイヤ内表面において、ビード部のビードトゥを超えて、少なくともビードベース部まで延在している
空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記導電部材は、前記タイヤ内に設けられた電気デバイスと前記タイヤが装着されるリムに設けられた電極との間の少なくとも一部を電気的に接続する
請求項2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記導電部材は、前記電気デバイスと前記電極との間の一部において、前記タイヤ内表面から離れたタイヤ内腔部分を通る請求項3に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記導電部材は、一対のビードベース部それぞれに対応して設けられており、
前記導電部材は、それぞれ対応する一対の前記ビードベース部に接触する前記電極と前記タイヤ内に設けられた電気デバイスとに電気的に接続され、前記導電部材を介して前記電気デバイスに電力を供給する請求項3または4に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
タイヤ内表面を構成するタイヤ内表面ゴム層と、
少なくとも一部が前記タイヤ内表面ゴム層の内腔側に配置された導電部材とを備え、
前記導電部材は、少なくとも一部が導電性を有する糸により構成され、伸縮性を有する編地からなり、
前記導電部材は、複数の導電部を備え、
複数の前記導電部は、前記タイヤ内に設けられた電気デバイスに電気的に接続され、複数の前記導電部を介して前記電気デバイスに電力を供給し、
前記導電部材の長さ方向の引張力の幅あたりの値は0.01[N/mm]以上1.0[N/mm]以下である
空気入りタイヤ。
【請求項7】
タイヤ内表面を構成するタイヤ内表面ゴム層と、
少なくとも一部が前記タイヤ内表面ゴム層の内腔側に配置された導電部材とを備え、
前記導電部材は、少なくとも一部が導電性を有する糸により構成され、伸縮性を有する編地からなり、
前記導電部材は、複数の導電部を備え、
複数の前記導電部は、前記タイヤ内に設けられた電気デバイスに電気的に接続され、複数の前記導電部を介して前記電気デバイスに電力を供給し、
前記導電部材は、前記導電性を有する糸の合計断面積S[mm ]に対する、伝送する電流の最大値Imax[A]の比Imax/Sが
0.01≦Imax/S≦20
であり、かつ、
前記導電性を有する糸の延在方向に直交する幅WH[mm]に対する伝送する電力の最大値Pmax[W]の比Pmax/WHが
0.01≦Pmax/WH≦2
である
空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記導電部材は、前記タイヤ内に設けられた電気デバイスに電気的に接続される請求項1から請求項7のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記導電部材は、前記タイヤ内表面に沿って延在して配置され、
前記導電部材の延在する方向と前記編地の伸縮性を有する方向とが一致する請求項1から請求項8のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項10】
前記編地は、導電性を有する糸と、非導電性を有する糸とを混用して構成された請求項1から請求項9のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項11】
前記導電性を有する糸の色は、前記非導電性を有する糸の色と異なる請求項10に記載の空気入りタイヤ。
【請求項12】
前記タイヤ内表面ゴム層はインナーライナー層であり、前記編地を構成する糸の少なくとも一部は、前記インナーライナー層または前記インナーライナー層の内腔側に配置されたゴム層に埋没している請求項1から請求項11のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項13】
前記導電部材は、前記編地を構成する糸同士の間に形成される間隙部を備え、
前記タイヤ内表面ゴム層は、前記間隙部を通して、前記編地の表面に露出している露出領域を有する請求項1から請求項12のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項14】
前記導電部材は、タイヤ断面高さの40%以上70%以下を含む範囲に設けられている請求項1から請求項13のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項15】
前記導電部材のタイヤ内腔側に設けられ、前記導電部材の一部を覆うカバーゴム層をさらに備える請求項1から請求項14のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項16】
前記タイヤ内に設けられた電気デバイスは、タイヤ内表面において、周方向溝の直下を避けた領域または前記タイヤ内表面の端部からタイヤ断面高さの50%の位置までの領域に配置される請求項1から請求項15のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項17】
タイヤ内表面を構成するタイヤ内表面ゴム層と、
少なくとも一部が前記タイヤ内表面ゴム層の内腔側に配置された導電部材とを備え、
前記導電部材は、少なくとも一部が導電性を有する糸により構成され、伸縮性を有する編地からなり、
前記導電部材は、複数の導電部を含み、
複数の前記導電部は、前記導電部材の延在方向に直交する方向に並んで配置されており、
前記複数の導電部の間に設けられた非導電部を含み、
前記非導電部の前記直交する方向の幅は0.5[mm]以上である
空気入りタイヤ。
【請求項18】
導電性を有する糸と、非導電性を有する糸とを混用して構成され、伸縮性を有する編地からなる導電層を備え、前記導電層の一主面と他主面との少なくとも一方に設けられたゴム層を含み、前記導電層と前記ゴム層とが積層されてなり、
前記導電層と前記ゴム層とが積層された状態での100%モジュラスは、前記ゴム層の単体での100%モジュラスの102%以上180%以下である
アセンブリシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤおよびアセンブリシートに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの内表面に配線を施したり、電気部品を設置したりすることがある。空気入りタイヤの内表面にセンサを設けた技術が知られている(例えば、特許文献1)。この技術では、アンテナとなる導体をタイヤ内に設け、センサとタイヤ外部の装置との間で非接触通信を行う。
【0003】
また、空気入りタイヤの内表面にヒータを設けた技術が知られている(例えば、特許文献2)。この技術では、タイヤ内表面に接着された導電性糸を介して、ヒータに電力を供給する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-001716号公報
【文献】特開2016-203829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
空気入りタイヤの内表面に配線を施したり、電気部品を設置したりすることに関し、特許文献1に記載の技術は、アンテナとなる導体の設置方法に関して改善の余地がある。また、特許文献2に記載の技術は、電力を供給する配線の設置に関して改善の余地がある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は配線や電気部品をタイヤの内表面へ適切に設置できる空気入りタイヤおよびアセンブリシートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明のある態様による空気入りタイヤは、タイヤ内表面を構成するタイヤ内表面ゴム層と、少なくとも一部が前記タイヤ内表面ゴム層の内腔側に配置された導電部材とを備え、前記導電部材は、少なくとも一部が導電性を有する糸により構成され、伸縮性を有する編地からなり、前記導電部材は、複数の導電部を備え、複数の前記導電部は、前記タイヤ内に設けられた電気デバイスに電気的に接続され、複数の前記導電部を介して前記電気デバイスに電力を供給し、前記編地の通気量は、60cm /cm ・s以上である。
また、本発明の他の態様による空気入りタイヤは、タイヤ内表面を構成するタイヤ内表面ゴム層と、少なくとも一部が前記タイヤ内表面ゴム層の内腔側に配置された導電部材とを備え、前記導電部材は、少なくとも一部が導電性を有する糸により構成され、伸縮性を有する編地からなり、前記導電部材は、複数の導電部を備え、複数の前記導電部は、前記タイヤ内に設けられた電気デバイスに電気的に接続され、複数の前記導電部を介して前記電気デバイスに電力を供給し、前記導電部材は、前記タイヤ内表面において、ビード部のビードトゥを超えて、少なくともビードベース部まで延在している。
前記導電部材は、前記タイヤ内に設けられた電気デバイスと前記タイヤが装着されるリムに設けられた電極との間の少なくとも一部を電気的に接続することが好ましい。
前記導電部材は、前記電気デバイスと前記電極との間の一部において、前記タイヤ内表面から離れたタイヤ内腔部分を通ることが好ましい。
前記導電部材は、一対のビードベース部それぞれに対応して設けられており、前記導電部材は、それぞれ対応する一対の前記ビードベース部に接触する前記電極と前記タイヤ内に設けられた電気デバイスとに電気的に接続され、前記導電部材を介して前記電気デバイスに電力を供給することが好ましい。
また、本発明の他の態様による空気入りタイヤは、タイヤ内表面を構成するタイヤ内表面ゴム層と、少なくとも一部が前記タイヤ内表面ゴム層の内腔側に配置された導電部材とを備え、前記導電部材は、少なくとも一部が導電性を有する糸により構成され、伸縮性を有する編地からなり、前記導電部材は、複数の導電部を備え、複数の前記導電部は、前記タイヤ内に設けられた電気デバイスに電気的に接続され、複数の前記導電部を介して前記電気デバイスに電力を供給し、前記導電部材の長さ方向の引張力の幅あたりの値は0.01[N/mm]以上1.0[N/mm]以下である。
また、本発明の他の態様による空気入りタイヤは、タイヤ内表面を構成するタイヤ内表面ゴム層と、少なくとも一部が前記タイヤ内表面ゴム層の内腔側に配置された導電部材とを備え、前記導電部材は、少なくとも一部が導電性を有する糸により構成され、伸縮性を有する編地からなり、前記導電部材は、複数の導電部を備え、複数の前記導電部は、前記タイヤ内に設けられた電気デバイスに電気的に接続され、複数の前記導電部を介して前記電気デバイスに電力を供給し、前記導電部材は、前記導電性を有する糸の合計断面積S[mm ]に対する、伝送する電流の最大値Imax[A]の比Imax/Sが0.01≦Imax/S≦20であり、かつ、前記導電性を有する糸の延在方向に直交する幅WH[mm]に対する伝送する電力の最大値Pmax[W]の比Pmax/WHが0.01≦Pmax/WH≦2である。
【0008】
前記導電部材は、前記タイヤ内に設けられた電気デバイスに電気的に接続されることが好ましい。
【0009】
前記導電部材は、前記タイヤ内表面に沿って延在して配置され、前記導電部材の延在する方向と前記編地の伸縮性を有する方向とが一致することが好ましい。
【0010】
前記編地は、導電性を有する糸と、非導電性を有する糸とを混用して構成されていることが好ましい。
【0011】
前記導電性を有する糸の色は、前記非導電性を有する糸の色と異なることが好ましい。
【0012】
前記タイヤ内表面ゴム層はインナーライナー層であり、前記編地を構成する糸の少なくとも一部は、前記インナーライナー層または前記インナーライナー層の内腔側に配置されたゴム層に埋没していることが好ましい。
【0013】
前記導電部材は、前記編地を構成する糸同士の間に形成される間隙部を備え、前記タイヤ内表面ゴム層は、前記間隙部を通して、前記編地の表面に露出している露出領域を有することが好ましい。
【0014】
前記編地の通気量は、60cm/cm・s以上であることが好ましい。
【0016】
前記導電部材は、タイヤ断面高さの40%以上70%以下を含む範囲に設けられていることが好ましい。
【0017】
前記導電部材のタイヤ内腔側に設けられ、前記導電部材の一部を覆うカバーゴム層をさらに備えていてもよい。
【0018】
前記導電部材は、前記タイヤ内表面において、ビード部のビードトゥを超えて、少なくともビードベース部まで延在していることが好ましい。
【0022】
前記導電部材の長さ方向の引張力の幅あたりの値は0.01[N/mm]以上1.0[N/mm]以下であることが好ましい。
【0023】
前記導電部材は、前記導電性を有する糸の合計断面積S[mm]に対する、伝送する電流の最大値Imax[A]の比Imax/Sが0.01≦Imax/S≦20であり、かつ、前記導電性を有する糸の延在方向に直交する幅WH[mm]に対する伝送する電力の最大値Pmax[W]の比Pmax/WHが0.01≦Pmax/WH≦2であることが好ましい。
【0024】
前記タイヤ内に設けられた電気デバイスは、タイヤ内表面において、周方向溝の直下を避けた領域または前記タイヤ内表面の端部からタイヤ断面高さの50%の位置までの領域に配置されることが好ましい。
【0025】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の他の態様による空気入りタイヤは、タイヤ内表面を構成するタイヤ内表面ゴム層と、少なくとも一部が前記タイヤ内表面ゴム層の内腔側に配置された導電部材とを備え、前記導電部材は、少なくとも一部が導電性を有する糸により構成され、伸縮性を有する編地からなり、前記導電部材は、複数の導電部を含み、複数の前記導電部は、前記導電部材の延在方向に直交する方向に並んで配置されており、前記複数の導電部の間に設けられた非導電部を含み、前記非導電部の前記直交する方向の幅は0.5[mm]以上である。
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明のある態様によるアセンブリシートは、導電性を有する糸と、非導電性を有する糸とを混用して構成され、伸縮性を有する編地からなる導電層を備え、前記導電層の一主面と他主面との少なくとも一方に設けられたゴム層を含み、前記導電層と前記ゴム層とが積層されてなり、前記導電層と前記ゴム層とが積層された状態での100%モジュラスは、前記ゴム層の単体での100%モジュラスの102%以上180%以下である。
【発明の効果】
【0027】
本発明にかかる空気入りタイヤおよびアセンブリシートによれば、配線や電気部品をタイヤの内表面へ適切に設置できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、本発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤを示すタイヤ子午線方向の断面図である。
図2図2は、図1中の導電部材の構成例を示す平面図である。
図3図3は、図2中の導電部および非導電部を拡大して示す図である。
図4図4は、導電部材の設置範囲の例を示す図である。
図5図5は、フレックスゾーンを含む領域をタイヤ内腔側から見た図である。
図6図6は、タイヤのリムへの装着状態を示す図である。
図7図7は、導電部材が通る経路の例を示す図である。
図8図8は、一対のビードベース部それぞれに対応する導電部材を設けた例を示す図である。
図9図9は、電気デバイスの配置領域の例を示す図である。
図10図10は、電気デバイスの配置領域の他の例を示す図である。
図11図11は、電気デバイスの配置例を示す図である。
図12図12は、電気デバイスの配置例を示す図である。
図13図13は、タイヤの内表面に対する導電部材の配置例を示す図である。
図14図14は、タイヤの内表面に対する導電部材の配置例を示す図である。
図15図15は、タイヤの内表面に対する導電部材の配置例を示す図である。
図16図16は、導電部の一部がインナーライナー層のゴムに埋没する状態を示す断面図である。
図17図17は、導電部の一部がインナーライナー層のゴムに埋没する状態を示す断面図である。
図18図18は、図1中の導電部材の変形例を示す平面図である。
図19図19は、図1中の導電部材の変形例を示す平面図である。
図20図20は、図1中の導電部材の変形例を示す平面図である。
図21図21は、図1中の導電部材の変形例を示す平面図である。
図22図22は、図1中の導電部材の変形例を示す平面図である。
図23図23は、タイヤの成形時に用いることができるアセンブリシートの例を示す外観図である。
図24図24は、タイヤの成形時に用いることができるアセンブリシートの例を示す外観図である。
図25図25は、タイヤの成形時に用いることができるアセンブリシートの例を示す外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の各実施形態の説明において、他の実施形態と同一又は同等の構成部分については同一の符号を付し、その説明を簡略又は省略する。各実施形態により本発明が限定されるものではない。また、各実施形態の構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。なお、以下に記載した構成は適宜組み合わせることが可能である。また、発明の要旨を逸脱しない範囲で構成の省略、置換又は変更を行うことができる。
【0030】
[空気入りタイヤ]
図1は、本発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤを示すタイヤ子午線方向の断面図である。図1は、タイヤ径方向の片側領域の断面図を示している。また、図1は、空気入りタイヤの一例として、乗用車用ラジアルタイヤを示している。
【0031】
図1において、タイヤ子午線方向の断面とは、タイヤ回転軸(図示省略)を含む平面でタイヤを切断したときの断面をいう。また、符号CLは、タイヤ赤道面であり、タイヤ回転軸方向にかかるタイヤの中心点を通りタイヤ回転軸に垂直な平面をいう。また、タイヤ幅方向とは、タイヤ回転軸に平行な方向をいい、タイヤ径方向とは、タイヤ回転軸に垂直な方向をいう。
【0032】
また、車幅方向内側および車幅方向外側が、タイヤを車両に装着したときの車幅方向に対する向きとして定義される。また、タイヤ赤道面CLを境界とする左右の領域が、車幅方向外側領域および車幅方向内側領域としてそれぞれ定義される。また、車両に対するタイヤの装着方向が指定されている場合、空気入りタイヤ1は、車両に対するタイヤ装着方向を示す装着方向表示部(図示省略)を備える。装着方向表示部は、例えば、タイヤのサイドウォール部に付されたマークや凹凸によって構成される。例えば、ECER30(欧州経済委員会規則第30条)が、車両装着状態にて車幅方向外側となるサイドウォール部に車両装着方向の表示部を設けることを義務付けている。
【0033】
空気入りタイヤ(以下、単にタイヤと記すことがある)1は、タイヤ回転軸を中心とする環状構造を有し、一対のビードコア11、11と、一対のビードフィラー12、12と、カーカス層13と、ベルト層14と、トレッドゴム15と、一対のサイドウォールゴム16、16と、一対のリムクッションゴム17、17とを備える。
【0034】
一対のビードコア11、11は、スチールから成る1本あるいは複数本のビードワイヤを環状かつ多重に巻き廻して成り、ビード部10に埋設されて左右のビード部10のコアを構成する。一対のビードフィラー12、12は、一対のビードコア11、11のタイヤ径方向外周にそれぞれ配置されてビード部10を補強する。
【0035】
カーカス層13は、1枚のカーカスプライから成る単層構造あるいは複数枚のカーカスプライを積層して成る多層構造を有し、左右のビードコア11、11間にトロイダル状に架け渡されてタイヤの骨格を構成する。また、カーカス層13の両端部は、ビードコア11およびビードフィラー12を包み込むようにタイヤ幅方向外側に巻き返されて係止される。また、カーカス層13のカーカスプライは、スチールあるいは有機繊維材(例えば、アラミド、ナイロン、ポリエステル、レーヨンなど)から成る複数のカーカスコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、絶対値で80[deg]以上90[deg]以下のカーカス角度(タイヤ周方向に対するカーカスコードの長手方向の傾斜角として定義される)を有する。
【0036】
ベルト層14は、一対の交差ベルト141、142と、ベルトカバー143とを積層して成り、カーカス層13の外周に掛け廻されて配置される。一対の交差ベルト141、142は、スチールあるいは有機繊維材から成る複数のベルトコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、絶対値で20[deg]以上55[deg]以下のベルト角度を有する。また、一対の交差ベルト141、142は、相互に異符号のベルト角度(タイヤ周方向に対するベルトコードの長手方向の傾斜角として定義される)を有し、ベルトコードの長手方向を相互に交差させて積層される(いわゆるクロスプライ構造)。ベルトカバー143は、スチールあるいは有機繊維材から成るベルトカバーコードをコートゴムで被覆して構成され、絶対値で0[deg]以上10[deg]以下のベルト角度を有する。また、ベルトカバー143は、例えば、1本あるいは複数本のベルトカバーコードをコートゴムで被覆して成るストリップ材であり、このストリップ材を交差ベルト141、142の外周面に対してタイヤ周方向に複数回かつ螺旋状に巻き付けて構成され得る。
【0037】
空気入りタイヤ1は、カーカス層13のタイヤ内腔30側にインナーライナー層9を有する。インナーライナー層9は、タイヤ内面、すなわち、カーカス層13の内周面であって、各タイヤ幅方向両端部が一対のビード部10のビードコア11の位置まで至り、かつタイヤ周方向にトロイド状に掛け回されて貼り付けられている。インナーライナー層9は、タイヤ外側への空気分子の透過を抑制する。インナーライナー層9は、タイヤ内表面ゴム層である。インナーライナー層9の内面は、タイヤ内表面である。インナーライナー層9は、タイヤ内表面を構成する。
【0038】
トレッドゴム15は、カーカス層13およびベルト層14のタイヤ径方向外周に配置されてタイヤのトレッド部を構成する。一対のサイドウォールゴム16、16は、カーカス層13のタイヤ幅方向外側にそれぞれ配置されて左右のサイドウォール部を構成する。一対のリムクッションゴム17、17は、左右のビードコア11、11およびカーカス層13の巻き返し部に沿って配置されて、ビード部10のリム嵌合面を構成する。
【0039】
ビード部10は、ビードベース部19を有している。ビードベース部19は、ビード部10のタイヤ径方向内側の表面になっており、タイヤ幅方向における内側から外側に向かうに従ってタイヤ径方向外側に広がる方向に、タイヤ回転軸に対して傾斜して形成されている。ビードベース部19のタイヤ幅方向内側の端部は、ビードトゥ18として設けられており、ビードトゥ18は、ビード部10のタイヤ径方向における、最も内側の端部であるビード部最内端になっている。
【0040】
なお、空気入りタイヤ1は、タイヤ周方向に延在する複数の周方向溝21から24と、これらの周方向溝21から24に区画された複数の陸部31から35とをトレッド面に備える。
【0041】
[導電部材]
図1に示すように、空気入りタイヤ1は、タイヤ内表面に配置された導電部材5を備える。図1において、導電部材5はタイヤ内表面に沿ってタイヤ径方向に延在して配置されている。導電部材5は、少なくとも一部が導電性を有する糸により構成され、伸縮性を有する編地からなる。導電部材5は、タイヤ1の成型時にタイヤ内表面に設けてもよいし、タイヤ1の成型後にタイヤ内表面に設けてもよい。
【0042】
図2は、図1中の導電部材5の構成例を示す平面図である。図2において、導電部材5の長さ方向すなわち延在方向をX方向、導電部材5の幅方向をY方向とする。Y方向は、X方向に直交する方向である。
【0043】
図2において、導電部材5は、導電部51および52と、非導電部61、62および63とを有する。図2において、非導電部61、導電部51、非導電部62、導電部52、非導電部63が、Y方向に並んで配置される。非導電部61、導電部51、非導電部62、導電部52、非導電部63は、ともに、X方向に延在する。図2において、導電部51および52は、導電性糸を含む領域である。非導電部61、62および63は、非導電性糸のみで構成された領域である。
【0044】
図2に示すように、導電部51は、非導電部61と非導電部62との間に配置される。導電部52は、非導電部62と非導電部63の間に配置される。このため、図2に示す導電部材5は、2つの導電部51と導電部52とが非導電部62によって電気的に絶縁される。また、導電部51は、Y方向において非導電部61と非導電部62とに挟まれているため、タイヤ内表面に配置された状態において導電部51はタイヤ1を構成する他の部分とは電気的に絶縁される。さらに、導電部52は、Y方向において非導電部62と非導電部63とに挟まれているため、タイヤ内表面に配置された状態において導電部52はタイヤ1を構成する他の部分とは電気的に絶縁される。導電部材5によれば、電源電圧の供給を実現できる。すなわち、2つの導電部51、52を、正極、負極に対応付けることによって、電源電圧の供給を実現できる。
【0045】
また、非導電部61、62および63は、導電部51および52よりもX方向に沿って豊富な伸縮性を有している。このため、導電部材5は、タイヤ1の内表面に設ける際に、取り廻しが容易である。導電部材5を用いれば、タイヤ1の内表面に沿って導電部材5を設ける作業が容易である。
【0046】
[導電部材の編地]
図3は、図2中の導電部51、非導電部61および62を拡大して示す図である。図3に示すように、導電部材5は、導電性を有する糸(以下、導電性糸と記すことがある)511と、非導電性を有する糸(以下、非導電性糸と記すことがある)611および621とを混用して構成された編地50を有する。編地50は、導電性糸511、非導電性糸611および621を混用し、同一の編み方で製編された単一の編地である。図3に示す編地50の編み方は一例であり、X方向に沿って伸縮性を有する編み方であれば、他の編み方であってもよい。X方向は、導電部材5の延在する方向であり、かつ、編地50の伸縮性を有する方向である。したがって、導電部材5の延在する方向と編地50の伸縮性を有する方向とは一致する。
【0047】
編地50は、平面視において、導電性糸511を含んだ領域である導電部51と、非導電性糸611のみで構成された領域である非導電部とが別れている。また、編地50は、平面視において、導電性糸511を含んだ領域である導電部51と、非導電性糸621のみで構成された領域である非導電部62とが別れている。そして、導電性糸511を含んだ領域である導電部51が連続してX方向に延在することで導電部材として機能する。
【0048】
編地50の導電性糸511を使用している領域において、導電性糸511は編地50の表裏の両面に露出しているのが好ましい。例えば、図3において、紙面手前側が表面で、紙面奥側が裏面である。つまり、導電部材5は、厚み方向に均一な構造である。
【0049】
導電性糸511と非導電性糸611および621とは材質の違いにより弾性率が異なる。編地50は厚み方向の一部がタイヤ内表面のゴム層に埋没している部分を有することがある。タイヤ内表面のゴム層に埋没している部分において厚み方向に弾性率が異なると、編地50の耐久性が低下し、導電性糸511が破断することがある。
【0050】
ここで、導電性糸511は、絶縁被覆を施した金属線であることが好ましい。絶縁被覆により、導電部材5が構成する電気配線において意図しない位置での短絡を防ぐことができる。また、熱を加えることによって融解する絶縁被覆であれば、ハンダ付けによって導電部材5と電気デバイスとの電気的接続が可能である。絶縁被覆は、例えば、ナイロン、ポリエステル、ポリウレタン、フッ素樹脂などの樹脂が好ましい。180℃以上の耐熱性を有するエナメル被覆の銅線が最も好ましい。
【0051】
導電性糸511自体は伸びに追従しない糸であるが、編地50を構成することによって、タイヤ1の変形による局所的伸びに追従する。このため、電気抵抗の変化が小さい。導電部材5の電気抵抗は、例えば、4[Ω/m]以上15[Ω/m]以下の範囲である。導電部材5の伸縮による電気抵抗の変化は35%伸長時に10%以下である。また、導電部材5は、破断伸びが200%以上であり、10%伸長を50万回繰り返した後の電気抵抗の増加率が30%以下であることが好ましい。なお、上記の電気抵抗は、導電性糸からなる連続した単一の領域で測定した値である。例えば、図2の導電部51の2箇所について測定した値であり、導電部51と導電部52とを合わせて通電して測定した値ではない。
【0052】
導電部材5の長さ方向の引張力の幅あたりの値Tは、100%伸び時において、下記の式(1)の関係にあることが好ましい。
0.01[N/mm]≦T≦1.0[N/mm]…(1)
式(1)において、タイヤに設置する連続した1つの導電部材(導電性糸と非導電性糸とを含んでいてもよい)を引張試験機により速度500[mm/min]で引っ張り、100%伸びた時点での引張試験力をTとする。ここでいう幅は、導電部材全体の延在方向と直交する方向の引張試験前の寸法である。上記Tが式(1)の範囲より大きいとタイヤ1のユニフォーミティが悪化するので好ましくない。上記Tが式(1)の範囲より小さいと、繰り返しひずみにより糸の破断が発生することがあるので好ましくない。
【0053】
導電部材5は、延在方向であるX方向と交差するY方向に、非導電性の糸が間欠的に配置されていてもよい。Y方向に配置された非導電性の糸は、導電性糸511同士のクッションとして機能する。これにより、導電部材5が伸長した際に導電性糸511同士の絶縁被覆が損傷することを防止でき、導電性糸511同士の電気的に短絡を防止できる。
【0054】
また、導電性糸511は、複数本の金属線を束ねた構成であることが好ましい。複数本の金属線を束ねたものであれば、タイヤ1の繰り返し変形に対する導電性糸511の疲労耐久性が向上する。
【0055】
金属線の直径は、絶縁被覆を含んで、例えば10[μm]以上100[μm]以下であることが好ましく、20[μm]以上80[μm]以下であることがより好ましい。3本以上12本以下の金属線を束ねて1本の導電性糸511とすることが好ましい。編地50は、導電性糸511を複数本用いて製編される。例えば、導電性糸511は、絶縁被覆を含めた直径30[μm]の金属線を数本束ねた構成であってもよい。
【0056】
編地50は、導電性糸511と、非導電性糸611および621とを混用して製編されている。金属製の導電性糸511より有機繊維等からなる非導電性糸611および621のほうがタイヤ内表面のゴムに含浸しやすい。このため、非導電性糸611および621とタイヤ内表面のゴムとは優れた接着性を発現し、耐久性が向上する。なお、ゴムへの含浸性を高めるため、タイヤ成形時に導電部材5に5%以下の伸長を与えてからゴム材料へ設置してもよい。
【0057】
図2を参照して説明したように、導電性糸511による導電部51と導電部52との間に、非導電性糸621による非導電部62を設けることが好ましい。非導電部62を設けることによって、単一の編地50に複数の導電部51、52を敷設することができる。
【0058】
非導電性糸611および621は、ハンダ付けに対応するため高耐熱な繊維であることが好ましい。非導電性糸611および621には、耐熱性および耐久性の点から、例えば、アラミド等を用いることが好ましい。
【0059】
非導電性糸611および621も、複数本の繊維を束ねたものであってもよい。その場合は導電性糸511よりも細い繊維を、より多く束ねた糸を用いるとよい。これにより、導電性糸511に代わって編地50の柔軟性を確保できる。
【0060】
導電性糸511の色は、非導電性糸611および621の色と異なることが好ましい。色が異なることにより、導電性糸511による導電部51、52と電気デバイスとを電気的に接続する際に、電極等の接続位置を容易に識別でき、作業性が向上する。また、タイヤ内表面の色は黒であることが多いため、導電性糸511、非導電性糸611および621の色を、黒よりも明度が高く、コントラストを確保できる色とすることが好ましい。
【0061】
編地50を構成する糸、すなわち導電性糸511、非導電性糸611および621などの少なくとも一部が、タイヤ内表面ゴム層であるインナーライナー層9に埋没していることが好ましい。編地50を構成する糸のうち、タイヤ内表面のゴム層に接触している糸の少なくとも一部はゴム層に埋没していることで、強固な接合を確保でき、耐久性が向上する。なお、編地50を構成する糸とカーカス層13のカーカスコードとの最低距離を0.3[mm]以上にすれば、インナーライナー層9の空気遮断性能を阻害せず、かつ、酸化劣化を促進しないので好ましい。
【0062】
編地50を構成する糸同士の間に形成される間隙部G、Hを備えている。タイヤ内表面に導電部材5が設置された状態では、間隙部G、Hを通して、タイヤ内表面ゴム層であるインナーライナー層9が、編地50の表面に露出していることが好ましい。つまり、インナーライナー層9は、間隙部G、Hを通して、編地50の表面に露出している露出領域を有することが好ましい。導電性糸511は編地50の構造による相互接触や金属疲労により長期間で疲労切断してしまうことがある。導電部材5が設置された状態において、タイヤ内表面ゴム層であるインナーライナー層9が編地50の表面に露出し、導電部材5の少なくとも一部がタイヤ内表面ゴム層に埋没することにより、疲労切断することを抑制できる。平面視での編地50の任意領域において、タイヤ内表面ゴム層のゴムの露出面積の合計値の割合は、例えば、2%以上70%以下であることが好ましい。任意領域におけるゴムの露出面積の合計値の割合が5%未満であると耐久性が低下するため好ましくない。また、任意領域におけるゴムの露出面積の合計値の割合が70%を超えるとハンダ付け等による電気デバイス等との電気的接続を阻害するため好ましくない。なお、平面視での編地50の任意領域において、タイヤ内表面ゴム層のゴムの露出面積の合計値の割合が4%以上50%以下であることがより好ましい。
【0063】
なお、JIS L 1096 A法による、編地50の通気量は、60[cm/cm・s]以上であることが好ましい。また、JIS L 1096 A法による、編地50の通気量は、60[cm/cm・s]以上500[cm/cm・s]以下の範囲であることが好ましい。編地50が上記範囲の通気量を有していれば、ゴムの含浸が適切に行われ、接着強度が向上する。
【0064】
[導電部材の設置範囲]
図4は、導電部材5の設置範囲の例を示す図である。導電部材5の編地50を構成する導電性糸511が相互接触や金属疲労により切断しやすいのは、特にタイヤ1のフレックスゾーンFZである。フレックスゾーンFZは、サイドウォールゴム16において、車両の走行中に路面から加わる様々な力を吸収する領域である。
【0065】
図4において、フレックスゾーンFZは、例えば、タイヤ断面高さShの40%(0.4Sh)以上70%(0.7Sh)以下の範囲である。ただし、タイヤ断面高さShは、ビード部10側すなわちタイヤ径方向内側から測定する。導電部材5は、インナーライナー層9のタイヤ内腔30側において、タイヤ断面高さShの40%以上70%以下を含む範囲に設けられることが好ましい。タイヤ断面高さShは、タイヤ1を規定リムに装着し、かつ規定内圧を充填した無負荷状態のときの、タイヤ外径とリム径との差の1/2である。規定リムとは、JATMAに規定される「標準リム」、TRAに規定される「Design Rim」、あるいはETRTOに規定される「Measuring Rim」をいう。また、規定内圧とは、JATMAに規定される「最高空気圧」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、あるいはETRTOに規定される「INFLATION PRESSURES」をいう。なお、JATMAにおいて、乗用車用タイヤの場合には、規定内圧が空気圧180[kPa]である。
【0066】
[カバーゴム層]
また、図4に示すタイヤ1は、カバーゴム層130を備える。カバーゴム層130は、フレックスゾーンFZを含む領域において、導電部材5のタイヤ内腔30側に配置される。カバーゴム層130は、導電部材5の一部を覆う。図5は、タイヤ1のフレックスゾーンFZを含む領域をタイヤ内腔30側から見た図である。
【0067】
図5に示すように、導電部材5は、タイヤ内表面を構成するインナーライナー層9の内腔側に配置される。導電部材5は、フレックスゾーンFZでは、インナーライナー層9とカバーゴム層130とに挟まれ、完全にゴムに埋没している。これにより、フレックスゾーンFZにおいて、導電性糸511の無駄な動きや相互接触が無くなるので、耐久性が向上する。なお、図4および図5において、導電部材5の両端部50T、50Tは、カバーゴム層130に覆われておらず、タイヤ内腔側に露出する。
【0068】
[リムとの接触]
図4に戻り、導電部材5は、タイヤ内表面において、タイヤ1のビード部10のビードトゥ18を超えて、少なくともビードベース部19まで延在していることが好ましい。ビードベース部19まで導電部材5が延在することにより、リムとの接触部分に電気的接点を設けることができる。
【0069】
図6は、タイヤ1のリムへの装着状態を示す図である。図6に示すように、リム20は、タイヤ1のビードベース部19と接触する部分に電極210を有する。タイヤ1のリム20への装着状態において、導電部材5の一部分と電極210とが電気的に接触する。このため、タイヤ1内に電気デバイス7を設ければ、導電部材5は、タイヤ1が装着されるリム20に設けられた電極210と電気デバイス7との間を電気的に接続することができる。導電部材5はビード部10と電気デバイス7との間を接続するように帯状に延在して配置される。図6に示すように、電極210には、配線220が電気的に接続されている。このため、配線220、電極210および導電部材5を介して、電気デバイス7に電力を供給できる。なお、電気デバイス7に供給する電力には、電源電圧、信号、データが含まれる。
【0070】
電極210と電気デバイス7との間の全体が導電部材5で電気的に接続されている必要はなく、一部(例えば上記フレックスゾーンFZ)の範囲だけを電気的に接続してもよい。つまり、導電部材5は、電気デバイス7とリム20に設けられた電極210との間の少なくとも一部を電気的に接続する。
【0071】
[導電部材の経路]
図1図4図6に示すように、導電部材5は、少なくとも一部がタイヤ内表面を通る。ただし、導電部材5の一部は、タイヤ内表面から離れたタイヤ内腔30部分を通ってもよい。図7は、導電部材5が通る経路の例を示す図である。図7に示す例では、導電部材5の一部分50Aがタイヤ内面に接合されずに、タイヤ内腔30に浮いている。電気デバイス7と電極210との間の一部において、タイヤ内表面から離れたタイヤ内腔30部分を通ることにより、導電部材5の全長がタイヤ内表面を通るよりも導電部材5の長さを短くすることができ、消費電力や発熱量を抑えることができるとともに、導電部材5の質量やコストを低減できる。
【0072】
導電部材5の一部分50Aの範囲は、例えば上記フレックスゾーンFZに含まれる範囲とすることが好ましい。フレックスゾーンFZにおいて、導電部材5の一部分50Aが内腔30部分を通る場合、車両が走行中に縁石を乗り上げる等の、タイヤ1のサイドウォール部に局所的な大変形が発生しても、導電部材5がタイヤ内面に追従しない。このため、導電性糸511の損傷を抑制し、耐久性が向上する。
【0073】
タイヤ1は、一対のビードベース部19それぞれに対応する導電部材5を備えてもよい。図8は、一対のビードベース部19それぞれに対応する導電部材を設けた例を示す図である。図8に示すように、導電部材5P、5Nは、一対のビードベース部19それぞれに対応して設けられている。例えば、導電部材5Pを正極に対応させ、導電部材5Nを負極に対応させ、導電部材5P、5Nをそれぞれ対応するビードベース部19に接触する電極とタイヤ1内に設けられた電気デバイス7とに電気的に接続する。導電部材5Pを正の電極のみに接続し、導電部材5Nを負の電極のみに接続する。こうすることにより、タイヤ1は、タイヤ1内に設けられた電気デバイス7に、導電部材5Pおよび5Nを介して正電位および負電位を与えることができ、導電部材5P、5Nを介して電気デバイス7に電力を供給できる。
【0074】
ここで、一方のビードベース部19側に正電極および負電極が配置されていると、リム組み時に正電極、負電極と、導電部材5P、導電部材5Nとのタイヤ周方向の位置合わせが必要になるが、図8に示すように、導電部材5Pを正の電極のみに接続し、導電部材5Nを負の電極のみに接続する構成とすることにより、位置合わせの必要がなくなり、作業効率が向上する。
【0075】
[電気デバイス]
電気デバイス7は、例えば、タイヤ成形後にタイヤ1内に設けられる。電気デバイス7は、例えば、トレッド部のタイヤ径方向内側でインナーライナー層9の内腔側に設けられる。電気デバイス7は、例えば、図8に示すように、タイヤ赤道面CLを横切る位置に設けられる。電気デバイス7は、その一部分が導電部材5と電気的に接続される。電気デバイス7は、電気エネルギーによって動作する装置であり、電子回路、電気アクチュエータを含む。電気デバイス7は、例えば、発電素子を含む回路、圧力・温度・加速度・電界・磁界・電位・電気抵抗などの物理量を測定するセンサを含む回路、モータやポンプなどのアクチュエータ、通信モジュール、無線タグ、非接触給電のための受信または送信アンテナの整流回路、2次電池などである。電気デバイス7は、上記の各種センサ、モータ、ヒータ、電磁コイル、各種アクチュエータ、回路基板等を単独又は組み合わせたものである。
【0076】
電気デバイス7は、電子回路、電気アクチュエータなどを接続するためのコネクタであってもよい。タイヤ成形時にタイヤ内表面にコネクタを設置しておき、タイヤ成形後にコネクタに電子回路、電気アクチュエータなどを接続してもよい。コネクタを介して電子回路、電気アクチュエータなどを接続することにより、電子回路、電気アクチュエータなどの交換が容易になり、改良、改変、故障に対応することができる。
【0077】
なお、電気デバイス7は、導電部材5によって電力の供給を受けるとともに、導電部材5を介して電力線搬送通信によりデータの送受信を行ってもよい。図8に示す例では、導電部材5は、電気デバイス7からビードベース部19のリムに設けられた電極まで設けられている。このため、電気デバイス7は、例えば、リムに設けられた電極から導電部材5を介して電力の供給を受けることができる。また、電気デバイス7は、例えば、導電部材5を介してリムに設けられた電極との間でデータの送受信を行うことができる。
【0078】
[電気デバイスの配置領域]
次に、電気デバイス7の好ましい配置領域について説明する。電気デバイス7については、タイヤ1の内面に固定するための工夫が必要である。発進、加速、減速、停止など、車両の様々な走行モードにおいて、タイヤ1の局所的変形が比較的大きい領域と局所的変形が比較的小さい領域とがある。タイヤ1の内面に電気デバイス7を安定して固定するには、タイヤ1の局所的変形が大きい領域を避け、タイヤ1の局所的変形が小さい領域に電気デバイス7を配置することが好ましい。このため、タイヤ1のサイドウォール部の比較的大きく変形する部分を避けた領域に電気デバイスを配置することが好ましい。また、周方向溝の直下を避けた領域に電気デバイスを配置することが好ましい。
【0079】
図9は、電気デバイスの配置領域の例を示す図である。図9は、タイヤ子午線方向の断面図である。図9は、トレッド部に4本の周方向溝が配置されているタイヤを示す。図9において、周方向溝21から24は、タイヤ外表面における溝幅が3[mm]以上、かつ、最大溝深さがトレッドゴム15の厚みの40%以上であるものを指す。周方向溝21から24は、タイヤ周方向に延在しつつ、タイヤ幅方向の位置が変化する、蛇行形状またはジグザグ形状であっても構わない。
【0080】
図9において、タイヤ1の外表面における周方向溝の端部からタイヤ1の内面に下ろした垂線を垂線S1とする。また、ベルト141、142またはベルトカバー143のどちらかが規定する最も外側位置からタイヤ1の内面に下ろした垂線を垂線S2とする。垂線S1およびS2によって、タイヤ1の内面に、領域RAから領域REを定義する。領域RA、RBおよびRCは、タイヤ1の内面において、周方向溝領域を避けた領域であり、隣り合う垂線S1によって挟まれた領域である。領域RDおよびREは、タイヤ1の内面において、垂線S1と垂線S2とによって挟まれた領域である。領域RDは、タイヤ赤道面CLに対して車両外側の領域である。領域REは、タイヤ赤道面CLに対して車両内側の領域である。
【0081】
また、タイヤ断面高さShの50%の位置0.5Shによって、タイヤ1の内面に、領域RFおよびRGを定義する。領域RFおよびRGは、タイヤ1の内面において、タイヤ1の内表面の端部であるビードトゥ18からタイヤ断面高さShの50%の位置0.5Shまでの領域である。領域RFは、タイヤ赤道面CLに対して車両外側の領域である。領域RGは、タイヤ赤道面CLに対して車両内側の領域である。領域RFおよびRGは、タイヤ1のサイドウォール部の比較的大きく変形する部分を避けた領域である。
【0082】
なお、以下の説明において、電気デバイス7についての「配置」とは、タイヤ1の内面から見た平面視において、電気デバイス7の半分以上が領域RAから領域RGに入っていることを指す。
【0083】
タイヤトレッドの変形量やそれにかかる時間を推定して接地形状を求めるために加速度センサを含む電気デバイス7をタイヤ1に設ける場合がある。その場合においては、トレッド部に対応する位置に電気デバイス7を配置することが好ましい。具体的には、図9に示す領域RA、RB、RC、RDおよびREのいずれかに電気デバイス7を配置することが好ましい。領域RDまたは領域REに電気デバイス7を配置すれば、ビード部10から電気デバイス7までの配線が短くて済む。領域RAに電気デバイス7を配置すれば、タイヤ1の接地中心で測定することができる。
【0084】
磁気センサを含む電気デバイス7をタイヤ1に設ける場合がある。磁気センサを含む電気デバイス7は、地磁気を測定する目的またはタイヤ1もしくは車体に意図的に設置された磁界発生要素からの磁界を測定する目的で設ける。電気デバイス7が磁気センサを含む場合においては、タイヤ1の内表面に近いスチールコードが配置されているトレッド部を避け、ビード部10付近に電気デバイス7を配置することが好ましい。ビード部20付近に電気デバイス7を配置する場合においても、ビードワイヤから磁気センサまで直線距離で2[mm]以上離間した位置に電気デバイス7を設置することが好ましい。したがって、電気デバイス7が磁気センサを含む場合においては、領域RF、領域RGのいずれかに電気デバイス7を配置することが好ましい。ただし、ベルトコードがアラミドなどの非磁性体である場合は、領域RA、RB、RC、RDおよびREのいずれかに電気デバイス7を配置しても構わない。
【0085】
電磁界を測定するセンサを含む電気デバイス7や電磁気学的な物理現象を利用する電気デバイス7をタイヤ1に設ける場合がある。近年の自動車の電装化に伴い、車両から発生する電磁波の種類が増えている。また、車両と路面との間または車両と車輪との間の非接触給電が開発されている。車両が発生する電磁波の影響を抑えて、センサ類の測定精度や、アクチュエータの正確な作動を担保するためには、車両装着において車両外側に電気デバイス7を配置することが好ましい。このため、領域RAの赤道面CLより車両外側、領域RB、領域RD、領域RFの中から他の要件に従って選択した領域に電気デバイス7を配置することが好ましい。
【0086】
図10は、電気デバイスの配置領域の他の例を示す図である。図10は、タイヤ子午線方向の断面図である。図10は、トレッド部に3本の周方向溝が配置されているタイヤを示す。図10は、周方向溝23が赤道面CLにかかって配置されている場合を示す。図10に示すタイヤ1においても、図9を参照して上述したように、タイヤ1のサイドウォール部の比較的大きく変形する部分を避けた領域に電気デバイスを配置することが好ましい。また、周方向溝の直下を避けた領域に電気デバイスを配置することが好ましい。具体的には、領域RB、RC、RD、RE、RFおよびRGに電気デバイス7を設けることが好ましい。領域RB、RC、RD、RE、RFおよびRGのうち、電気デバイス7を設けることが好ましい領域については、図9を参照して上述したとおりである。
【0087】
以上のように、タイヤ1の内表面において、周方向溝の直下を避けた領域であり、かつ、サイドウォール部の比較的大きく変形する部分を避けた領域に、電気デバイス7を配置することが好ましい。これらの領域に電気デバイス7を配置すれば、タイヤ1の内面に電気デバイス7を安定して固定することができる。また、適切な領域を選択して電気デバイス7を配置すれば、車両が発生する電磁波の影響を抑えて、センサ類の測定精度や、アクチュエータの正確な作動を担保することができる。
【0088】
[電気デバイスの配置例]
図11および図12は、電気デバイス7の配置例を示す図である。図11は、電気デバイス7の内部が理解できるように図示しているが、実際には破線部分に樹脂モールドなどがあって電気デバイス7の内部は見えない。図11に示すように、インナーライナー層9の表面に、導電部材5が設けられている。導電部材5は、導電部51と導電部52とを有する。導電部51と導電部52とはX方向に帯状に延在している。導電部51と導電部52とはY方向の間隔が一定である。
【0089】
また、インナーライナー層9の表面の導電部材5の端部に、電気デバイス7が設けられている。電気デバイス7は、基板700を有する。基板700には、接続端子701および接続端子702が設けられている。接続端子701および接続端子702は、電気デバイス7に固定されており、両者の間隔は不変である。接続端子701および接続端子702は、例えば、電力の供給を受けるための端子である。基板700には、IC(Integrated Circuit)チップや無線通信モジュールなどの電子部品703、704、705が設けられている。電子部品703が接続端子701および接続端子702に電気的に接続されている。接続端子701は導電部51に電気的に接続されている。接続端子702は導電部52に電気的に接続されている。
【0090】
このように、電気デバイス7は、供給される電力が印加される接続端子701、702を備え、導電部材5は、接続端子701、702に対応する帯状の導電部51、52を有し、接続端子701は導電部51に、接続端子702は導電部52に、それぞれ少なくとも一部が電気的に接続されている。
【0091】
図12に示すように、接続端子701と接続端子702との距離W7は、導電部51と導電部52との距離W5に等しいことが好ましい。距離W7と距離W5とが等しいことにより、導電部51および導電部52に対する接続端子701および接続端子702の位置合わせが容易であり、電気デバイス7と導電部材とをハンダ付けなどによって接続する作業の効率が向上する。なお、距離W7は、接続端子701のY方向の中心と接続端子702のY方向の中心との距離である。距離W5は、導電部51のY方向の中心と導電部52のY方向の中心との距離である。
【0092】
このように、タイヤ内表面に取付けられた電気デバイス7に固定され、その間隔が不変である複数の接続端子701、702が、ハンダ付け等により導電部材5に電気的に接続される場合、複数の接続端子701、702同士の間隔が導電部51、52同士の間隔に対してY方向に重なっている。接続端子701、702同士の間隔と導電部51、52同士の間隔とがY方向に重なっていないと、電気的接続を実現するための電線などを別途設ける必要がある。別途設けた電線などはタイヤ1の回転に伴う振動で疲労切断してしまうことがあるため好ましくない。このため、図12に示すように、複数の接続端子701、702同士の間隔と導電部51、52同士の間隔とがY方向に重なっていることが好ましい。
【0093】
図12において、非導電部62のY方向の幅W6は、0.5[mm]以上が好ましい。非導電部62を構成する非導電性糸によるタイヤ内表面への接着力を確保し、かつ、最低限の放熱効果を得るためである。
【0094】
図13図14および図15は、タイヤ1の内表面に対する導電部材5の配置例を示す図である。図13図14および図15は、図9および図10を参照して説明した領域RAに電気デバイス7を配置した例を示す。図13図14および図15において、導電部材5は、タイヤ内表面に沿って延在して配置される。図13に示すように、比較的大きな電力を必要とする大型の電気デバイス71については、タイヤ周方向の幅が広い導電部材5P、5Nを用いることが好ましい。導電部材5P、5Nの端部5Tはビードベース部19に配置されている。図13において、導電部材5P、5Nは、電気デバイス72の位置からタイヤ幅方向に延在した後、タイヤ内表面に沿ってタイヤ径方向に延在してビードベース部19に到達している。
【0095】
一方、図14に示すように、比較的小さな電力で動作する小型の電気デバイス72については、タイヤ周方向に並んだ導電部材5P、5Nを用いることができる。導電部材5P、5Nの端部5Tはビードベース部19に配置されている。図14において、導電部材5P、5Nの延在方向Y1はタイヤ幅方向に対して平行である。導電部材5P、5Nは、電気デバイス72の位置からタイヤ幅方向に延在した後、タイヤ内表面に沿ってタイヤ径方向に延在してビードベース部19に到達している。本例では、電気デバイス72と端部5Tとは、タイヤ周方向の位置が一致する。
【0096】
また、導電部材の延在方向がタイヤ幅方向に対して平行ではなく、タイヤ幅方向に対して傾斜した方向に配置されてもよい。すなわち、図15に示すように、電気デバイス72に接続されている導電部材5P1、5N1が、タイヤ幅方向に対して傾斜した方向に延在していてもよい。図15において、導電部材5P1、5N1の延在方向Y2はタイヤ幅方向に対して平行ではなく、延在方向Y2がタイヤ幅方向に対して傾斜している。導電部材5P1、5N1は、電気デバイス72の位置からタイヤ幅方向に対して傾斜した方向に延在し、タイヤ内表面に沿ってタイヤ径方向に対して傾斜した方向に延在してビードベース部19に到達している。導電部材5P1、5N1が傾斜して延在するため、電気デバイス72と端部5Tとは、タイヤ周方向の位置が一致しない。編地50は編み方によっては、長手方向(X方向)と幅方向(Y方向)とで伸縮率や繰り返し耐久性が異なる。このため、特に上記のフレックスゾーンFZを通過する領域ではタイヤ幅方向に対して傾斜させて配置すると耐久性が向上する場合もある。
【0097】
[配線の形態]
通常の電力配線と異なり、導電部材5の少なくとも一部がインナーライナー層9のゴムに接触又は埋没するため、電力伝送によって発生する熱を放出しにくい。図16および図17は、導電部材5によって発生する熱を説明する図である。図16および図17は、導電部51の一部がインナーライナー層9のゴムに埋没する状態を示す断面図である。図16および図17において、導電部51の断面積が同じであっても、インナーライナー層9から露出する、導電性糸の延在方向に直交する幅WHは、図16の場合よりも、図17の場合の方が大きい、このため、導電部51の放熱効果は、図16の場合よりも、図17の場合の方が優れている。
【0098】
導電部材5の断面積や配置形状は下記の条件を満たす必要がある。すなわち、導電部材5を構成する導電性糸の合計断面積S[mm]に対する、伝送する電流の最大値Imax[A]の比Imax/Sが0.01≦Imax/S≦20の範囲であり、かつ、導電部材5を構成する導電性糸の延在方向に直交する幅WH[mm]に対する伝送する電力の最大値Pmax[W]の比Pmax/WHが0.01≦Pmax/WH≦2の範囲であることが必要である。ただし、導電性糸が絶縁被覆を有する場合はこれを除いて断面積を算出する。これらの範囲は、金属導線の少なくとも一部をゴムに埋設して電流を流す場合において、放熱性を担保するための固有の条件である。
【0099】
これらの範囲を超えると放熱が発熱に追いつかずに温度が上昇してしまうため好ましくない。これらの範囲未満であれば発熱の面で問題はないが、導電性糸を過剰に含みタイヤ1が重くなるため好ましくない。正極および負極など、電力の供給のために複数の導電部を設置する場合には、導電部それぞれについて上記条件を満たす必要がある。電力の供給のための導電部とは別に測定信号やデータを伝送する導電部については上記の条件を満たす必要はない。測定信号やデータの伝送については電力が非常に小さく、発熱が問題とならないからである。なお、比Imax/Sが0.02≦Imax/S≦15、比Pmax/WHが0.02≦Pmax/WH≦1.5であることが好ましい。
【0100】
[導電部材の変形例]
図18から図22は、図1中の導電部材5の変形例を示す平面図である。図18から図22において、導電部材5の長さ方向すなわち延在方向をX方向、導電部材5の幅方向をY方向とする。Y方向は、X方向に直交する方向である。
【0101】
非導電性糸611、621で構成される面積が減少しても、導電性糸511とタイヤ内面のゴム層との接着力が維持できる場合は、図18に示すように、導電部51、非導電部62および導電部52がY方向に並んで配置された導電部材5Aを導電部材5の代わりに用いることができる。
【0102】
図18において、導電部材5Aは、非導電部62のY方向の両側に導電部51および52が並んで配置された構成である。導電部51、非導電部62、導電部52は、ともに、X方向に延在する。導電部51と導電部52との間に、非導電部62が配置される。このため、図18に示す導電部材5Aにおいては、2つの導電部51と導電部52とが非導電部62によって電気的に絶縁される。
【0103】
図18に示す導電部材5Aは、図2に示す導電部材5の非導電部61と非導電部63とが省かれた構成である。非導電部61と非導電部63とが省かれることにより、図2に示す導電部材5よりも軽量にできるとともに、コストを低減できる。
【0104】
また、導電部51と導電部52とが十分に距離を空けて設置される場合など、導電部51と導電部52との絶縁を維持できる場合は、導電部51と導電部52とを分離し、両者の間に非導電部を設けない導電部材5Bを導電部材5の代わりに用いることができる。
【0105】
図19において、導電部材5Bは、Y方向に導電部51および導電部52が並んで配置された構成である。導電部51、導電部52は、ともに、X方向に延在する。図19に示す導電部材5Bは、図2に示す導電部材5の非導電部61、62および63が省かれた構成である。非導電部61、62および63が省かれることにより、図2に示す導電部材5よりもさらに軽量にできるとともに、コストをさらに低減できる。
【0106】
図18および図19を参照して説明した導電部材5、5A、5Bによれば、電源電圧の供給を実現できる。すなわち、2つの導電部51、52を、正極、負極に対応付けることによって、電源電圧の供給を実現できる。
【0107】
2つの導電部51および52に加えて、他の導電部が必要になる場合がある。例えば、2つの導電部51および52によって電源を供給する他に、電気デバイスにおいて処理する信号を他の導電部で伝送する場合である。この場合、導電部を追加することにより、電気デバイスにおいて処理する信号を伝送することができる。
【0108】
図20に示す導電部材5Cは、図2に示す導電部材5に、導電部53および非導電部64を追加した構成である。非導電部61、62、63および64は、導電部51、52および53よりもX方向に沿って豊富な伸縮性を有している。このため、導電部材5Cは、タイヤ1の内表面に設ける際に、取り廻しが容易である。導電部材5Cを用いれば、タイヤ1の内表面に沿って導電部材5Cを設ける作業が容易である。
【0109】
図21に示す導電部材5Dは、図20に示す導電部材5Cの非導電部61と非導電部64とが省かれた構成である。非導電部61と非導電部64とが省かれることにより、図20に示す導電部材5Cよりも軽量にできるとともに、コストを低減できる。
【0110】
図22に示す導電部材5Eは、導電部51、導電部52、導電部53を分離し、これらの間に非導電部を設けない構成である。導電部51、52および53が十分に距離を空けて設置される場合など、非導電性糸611、621で構成される面積が減少しても、導電性糸511とタイヤ内面のゴム層との接着力が維持できる場合は、導電部材5Eを導電部材5Cの代わりに用いることができる。
【0111】
図20から図22の場合は、電源の供給と信号伝送とに共通の負極を用いている。必要に応じてさらに導電部を追加し、電源の供給のための負極と信号伝送のための負極とを別々にしてもよい。
【0112】
なお、上記の導電部材5、5Aから5Eは、タイヤ1の静電気除去機能を担保する導電材として使用してもよい。その場合、導電性糸511の少なくとも一部がタイヤ内表面に露出していることが好ましい。これにより、タイヤ成形後に電気デバイス7等と接続するためにハンダ等を使用できる。
【0113】
上記の導電部材5の導体部の一部をアンテナとし、タイヤ1の外部の装置と電気デバイス7との間で非接触通信を行うようにしてもよい。これにより、例えば、電気デバイス7によって測定または処理したデータをワイヤレスでタイヤ1の外部の装置に送ったり、タイヤ1の外部の装置から電気デバイス7にワイヤレスでデータを送ったりすることができる。
【0114】
[アセンブリシート]
図23から図25は、タイヤ1の成形時に用いることができるアセンブリシートの例を示す外観図である。
【0115】
図23に示すアセンブリシート100Aは、導電性を有する糸と非導電性を有する糸とを混用して構成され、伸縮性を有する編地からなる導電部材5による導電層と、未加硫ゴムシート8によるゴム層とを含み、それらが積層されてなる。つまり、アセンブリシート100Aは、土台となる未加硫ゴムシート8によるゴム層の上に、導電部材5による導電層が積層された構造になっている。図23に示すアセンブリシート100Aは、未加硫ゴムシート8と導電部材5とは圧着されていてもよい。
【0116】
図23に示すアセンブリシート100Aを予め作成しておき、未加硫ゴムシート8をタイヤ1の内表面側に、導電部材5をタイヤ内腔30側とし、タイヤ1の成形工程においてタイヤ内表面に貼り付ける。つまり、アセンブリシート100Aは、インナーライナー層9の内腔30側の面に配置される。その後、加硫成形を行う。こうすることにより、タイヤ成形が容易になる。すなわち、タイヤ1の成形工程において導電部材5単体をタイヤ内表面のゴムに貼り付けると、適切な密着力が得られずに成形工程の後に脱落してしまう可能性がある。図23に示すアセンブリシート100Aをタイヤ内表面に貼り付けることによって、適切な密着力が得られる。
【0117】
未加硫ゴムシート8の厚みは1[mm]以下であることが好ましい。未加硫ゴムシート8の厚みが1[mm]を超えると、タイヤ1のユニフォーミティに影響を与えるため、好ましくない。
【0118】
ところで、導電部材5による導電層をタイヤ1に配する際に土台となる、未加硫ゴムシート8によるゴム層のゴム素材は、インナーライナー層9と導電部材5との接着性の観点から、インナーライナー層9と同種のゴム組成物であってもよいし、ゴム組成物がゴム成分、式(2)で表される化合物とホルムアルデヒドとの縮合物、メチレンドナーおよび加硫剤を含むゴム組成物であってもよい。なお、式(2)において、R、R、R、RおよびRは、水素、ヒドロキシル基または炭素原子数が1~8個のアルキル基である。
【0119】
【化1】
【0120】
図24に示すアセンブリシート100Bは、ゴム層である未加硫ゴムシート8と導電層である導電部材5とが積層され、さらに、他のゴム層であるカバーゴム層130が積層された構成である。これらは圧着されていてもよい。図24に示すアセンブリシート100Bを予め作成しておき、未加硫ゴムシート8をタイヤ1の内表面側に、カバーゴム層130をタイヤ内腔30側とし、タイヤ1の成形工程においてタイヤ内表面に貼り付ける。その後、加硫成形を行う。こうすることにより、図23の場合と同様に、タイヤ成形が容易になる。
【0121】
図25に示すアセンブリシート100Cは、導電部材5による導電層とカバーゴム層130とが積層された構成である。図25に示すアセンブリシート100Cにおいて、導電部材5のX方向における、カバーゴム層130のカバー率が比較的高い場合は、カバーゴム層130のY方向の幅を広くすれば、カバーゴム層130のY方向の延在部分で十分な密着力が得られる。このため、図25に示すアセンブリシート100Cでは、タイヤ内表面側の未加硫ゴムシートを省略することができる。
【0122】
図23から図25を参照して説明したように、アセンブリシート100A、100B、100Cは、いずれも、導電層である導電部材5の一主面M1と他主面M2との少なくとも一方にゴム層が設けられ、導電層である導電部材5とそれらゴム層とが積層されてなるアセンブリシートである。図23から図25を参照して説明したアセンブリシート100A、100B、100Cは、インナーライナー層9の内腔側に配置される。この場合、編地50を構成する糸の少なくとも一部は、インナーライナー層9の内腔側に配置された、未加硫ゴムシート8によるゴム層に埋没した状態になる。
【0123】
[100%モジュラス]
ここで、導電部材5とタイヤ内表面ゴム層の複合体としての100%モジュラスは、タイヤ内表面ゴム層の単体での100%モジュラスの102%以上180%以下であることが好ましい。導電部材5とタイヤ内表面ゴム層の複合体としての100%モジュラスは、タイヤ1のカーカス層13とインナーライナー層9との間で剥離して得た、サンプルについて測定する。導電部材5の厚みとタイヤ内表面ゴム層の厚みとの比によって100%モジュラスは変化する。ここでは、実際のタイヤ1での厚みにおいて100%モジュラスを測定する。なお、未加硫ゴムシートやカバーゴム層が積層されている場合はそれらも含めて100%モジュラスを測定する。つまり、カーカス層13より内腔30側を全て積層した状態において、100%モジュラスを測定する。100%モジュラスが上記範囲より小さい場合、タイヤ1の最も内側のゴムが加硫中にY方向外側に流れてしまい、最も内側のゴム層が薄くなって空気遮断性能が低下するため好ましくない。100%モジュラスが上記範囲より大きい場合、導電部材5の設置部分において剛性が増大してしまい、ユニフォーミティが悪化するため好ましくない。
【0124】
複合体の100%モジュラスの値は、以下のようにして求める。すなわち、タイヤ1から導電部材とゴム層との複合体を、導電部材の幅でカーカス層より内側から、導電部材の長さ方向に沿ってサンプルとして採取する。そして、そのサンプルについて引張試験を行う。引張試験では、100%伸び時における引張り応力(MPa)を速度500[mm/min]、試験温度25℃にて測定し、JIS K6251に準拠して求める。この値が、複合体の100%モジュラスの値である。タイヤ内表面ゴム層の単体の100%モジュラスの値も同様に測定する。
【符号の説明】
【0125】
1 空気入りタイヤ
5、5A-5E、5N、5N1、5P、5P1 導電部材
5T 端部
7、71、72 電気デバイス
8 未加硫ゴムシート
9 インナーライナー層
10 ビード部
11 ビードコア
12 ビードフィラー
13 カーカス層
14 ベルト層
15 トレッドゴム
16 サイドウォールゴム
17 リムクッションゴム
18 ビードトゥ
19 ビードベース部
20 リム
21-24 周方向溝
31-35 陸部
50 編地
51-53 導電部
61-64 非導電部
100A、100B、100C アセンブリシート
130 カバーゴム層
141、142 交差ベルト
143 ベルトカバー
210 電極
220 配線
511 導電性糸
611、621 非導電性糸
700 基板
701、702 接続端子
703 電子部品
FZ フレックスゾーン
G、H 間隙部
RA-RG 領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25