(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】二酸化バナジウム含有粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 31/02 20060101AFI20221109BHJP
C09K 9/00 20060101ALI20221109BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20221109BHJP
【FI】
C01G31/02
C09K9/00 Z
B82Y40/00
(21)【出願番号】P 2020540202
(86)(22)【出願日】2019-08-06
(86)【国際出願番号】 JP2019030815
(87)【国際公開番号】W WO2020044981
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-12-24
(31)【優先権主張番号】P 2018162942
(32)【優先日】2018-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 昌一
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/158894(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/208892(WO,A1)
【文献】特開2016-191015(JP,A)
【文献】特開2012-140252(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 31/02
C09K 9/00
B82Y 40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水熱反応部を有する流通式反応装置を用いた二酸化バナジウム含有粒子の製造方法であって、
少なくとも下記の第1ステップ~第3ステップを有し:
第1ステップ:少なくともバナジウム含有化合物、反応調整剤及び水を含有するスラリー原料液を調製するステップ
第2ステップ:前記スラリー原料液に脱塩処理を施すステップ
第3ステップ:前記脱塩処理を施したスラリー原料液と、超臨界又は亜臨界状態の水とを混合した反応液を用いる水熱反応法により、二酸化バナジウム含有粒子を製造するステップ
上記第2ステップにおいて、前記スラリー原料液の25℃における
pHを8.0~11.0の範囲内とし、
25℃における電気伝導率を10~1000mS/mの範囲内に維持し、
前記二酸化バナジウム含有粒子の平均一次粒径を1~30nmの範囲内とし、かつ、
平均結晶子径を1~15nmの範囲内になるように調整して製造することを特徴とする二酸化バナジウム含有粒子の製造方法。
【請求項2】
前記スラリー原料液から塩類を除去する脱塩処理が、限外濾過装置を用いて行うことを特徴とする請求項1に記載の二酸化バナジウム含有粒子の製造方法。
【請求項3】
前記スラリー原料液から塩類を除去する脱塩処理が、液温30℃以下で行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の二酸化バナジウム含有粒子の製造方法。
【請求項4】
前記第3ステップにおける反応液を構成する水が、超臨界状態の水であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の二酸化バナジウム含有粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流通式反応装置を用い、水熱合成法により、平均粒径が小さい二酸化バナジウム含有粒子を製造する二酸化バナジウム含有粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅やビル等の建物、及び車両のような移動体において、室内や車両内等の内部環境と外部環境との間で大きな熱交換が生じる箇所、例えば、建築用窓ガラスや車体用窓ガラス等においては、省エネルギー化と快適性の確保を両立するため、サーモクロミック材料の適用が盛んに検討されている。
【0003】
ここでいう「サーモクロミック材料」とは、例えば、光透過性に代表される光学的特性を、温度により制御することを可能とする材料で、例えば、建物の窓ガラスにサーモクロミック材料を適用した場合、夏季においては赤外線を反射させて室内に侵入する熱を遮断し、冬季には赤外線を室内に透過させて、その熱エネルギーを利用することが可能となる材料である。
【0004】
近年、最も着目されているサーモクロミック材料の一つとして、二酸化バナジウム(VO2)を含む材料が挙げられる。この二酸化バナジウムは、室温近傍で相転移を起こす際に、温度により光学特性が可逆的に変化する性質である「サーモクロミック性」を示すことが知られている。したがって、この性質を利用することにより、環境温度依存型のサーモクロミック特性を発現する材料を得ることができる。
【0005】
ここで、二酸化バナジウムには、A相、B相、C相及びルチル型結晶相(以下、「R相」ともいう。)など、いくつかの結晶相が存在するが、そのなかでも、上記サーモクロミック性を100℃以下の比較的低温で示す結晶構造は、R相(ルチル型結晶相)に限定される。このR相は、相転移温度(約68℃)未満では単斜晶の構造を有し、可視光線及び赤外線の透過率が高い特性を発現する。一方、R相は、相転移温度である68℃以上の温度領域では正方晶の構造を有し、単斜晶構造の場合に比べて赤外線の透過率が低いという性質を示す。すなわち、相転移温度を境にして、赤外線の透過率が大きく変化するという特有の性質を有している。
【0006】
このような特性を有する二酸化バナジウム含有粒子を、窓ガラス等に貼付して使用する光学フィルムに適用する場合には、粒子としての透明性(ヘイズが低いこと)が要求され、そのためには、二酸化バナジウム含有粒子が凝集していないこと(二次粒径サイズが小さいこと)、粒径がナノオーダー(100nm以下)であることが望ましい。
【0007】
このような透明性の高い微粒子である二酸化バナジウム含有粒子を製造する方法として、近年、水熱反応を用いて、R相の二酸化バナジウム粒子を製造する方法が報告されている。
【0008】
例えば、特許文献1には、ドーピング二酸化バナジウム粉体(V1-xMxO2)の組成をドーピング元素が0<x≦0.5となる組成とすることにより、粉体の寸法及び形状が制御可能となることが開示されている。また、その結果、製造されるドーピング二酸化バナジウム粉体の結晶子径の寸法を小さくし、均一化し得ることが開示されている。そして、ドーピング二酸化バナジウム粉体の製造方法として、水熱反応がより容易に行えるよう処理された反応前駆体を水熱反応オートクレーブに移行して水熱反応を行った後、水熱反応生成物を乾燥分離する方法が開示されている。
【0009】
しかしながら、特許文献1で開示されている方法は、水熱オートクレーブを用いたバッチ方式の製造装置で、水熱反応時間が6~12時間という長時間を要する製造方法であり、得られる二酸化バナジウムも、平均粒径が大きく、かつ分布も広いため、この二酸化バナジウム含有粒子を光学フィルムに適用した場合には、ヘイズが高いため車載用又は建材用途のフィルムとしては不向きであった。
【0010】
また、特許文献2には、流通式反応装置を用いた製造方法として、超臨界状態の高温高圧水を用いる水熱合成法が開示されている。特許文献2で開示されている流通式反応装置を用いた水熱合成法では、微粒子合成を行う際に、反応場にアルカリ水溶液を供給してpHを調整することにより機能性のナノ粒子の粒子径を制御する方法であるが、粒子形成過程で過剰に存在する塩類等の除去を行わず、そのままの環境下で粒子形成を行っているため、粒子の結晶子径や粒子径を所望の条件に制御させることが難しく、その結果、粒径分布が広くなり、サーモクロミック性の低下や、光学フィルムに適用した際、透明性(ヘイズ)の低下を引き起こすという問題を抱えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特表2014-505651号公報
【文献】特開2010-069474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、平均粒径が小さく、低ヘイズで、サーモクロミック性に優れた光学フィルムを得ることができる二酸化バナジウム含有粒子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討した結果、水熱反応部を有する流通式反応装置を用いた二酸化バナジウム含有粒子の製造方法において、バナジウム含有化合物、反応調整剤及び水を含有するスラリー原料液の脱塩処理を施すステップの条件を調整することにより、平均一次粒径が1~30nm、平均結晶子径が1~15nmの範囲内となる二酸化バナジウム含有粒子を製造する方法により、平均粒径が小さく、低ヘイズで、サーモクロミック性に優れた光学フィルムを得ることができる二酸化バナジウム含有粒子の製造方法を見いだし、本発明に至った。
【0014】
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0015】
1.水熱反応部を有する流通式反応装置を用いた二酸化バナジウム含有粒子の製造方法であって、
少なくとも下記の第1ステップ~第3ステップを有し:
第1ステップ:少なくともバナジウム含有化合物、反応調整剤及び水を含有するスラリー原料液を調製するステップ
第2ステップ:前記スラリー原料液に脱塩処理を施すステップ
第3ステップ:前記脱塩処理を施したスラリー原料液と、超臨界又は亜臨界状態の水とを混合した反応液を用いる水熱反応法により、二酸化バナジウム含有粒子を製造するステップ
前記第2ステップにおいて、前記スラリー原料液の25℃におけるpHを8.0~11.0の範囲内とし、
25℃における電気伝導率を10~1000mS/mの範囲内に維持し、
前記二酸化バナジウム含有粒子の平均一次粒径を1~30nmの範囲内とし、かつ、
平均結晶子径を1~15nmの範囲内になるように調整して製造する
ことを特徴とする二酸化バナジウム含有粒子の製造方法。
【0016】
2.前記スラリー原料液から塩類を除去する脱塩処理が、限外濾過装置を用いて行うことを特徴とする第1項に記載の二酸化バナジウム含有粒子の製造方法。
【0017】
3.前記スラリー原料液から塩類を除去する脱塩処理が、液温30℃以下で行うことを特徴とする第1項又は第2項に記載の二酸化バナジウム含有粒子の製造方法。
【0018】
4.前記第3ステップにおける反応液を構成する水が、超臨界状態の水であることを特徴とする第1項から第3項までのいずれか一項に記載の二酸化バナジウム含有粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の上記手段により、低ヘイズで、サーモクロミック性に優れた光学フィルムを得ることができる二酸化バナジウム含有粒子の製造方法を提供することができる。
【0020】
本発明で規定する製造条件とすることにより、上記課題を解決することができる効果の発現機構及び作用機構について、以下のように推測している。
【0021】
二酸化バナジウム含有粒子を水熱合成法により製造する際、例えば、バナジウム含有化合物、アルカリ剤等により構成されているスラリー原料液が、塩類を多く含有している状態にあると、当該塩類が、水熱合成時の粒子構造の制御、特に、結晶子の形成に影響を及ぼし、所望の粒子プロファイルを有する二酸化バナジウム含有粒子を得ることが難しかった。
【0022】
そこで、脱塩処理における各条件について検討を進めた結果、脱塩処理ステップにおいて、スラリー原料液中の塩類を過度に除去する、例えば、スラリー原料液の電気伝導率として1mS/m程度まで脱塩を進めると、水熱合成時の粒子形成環境が改善され、二酸化バナジウム含有粒子の結晶子径を調整でき、水熱合成時、例えば、流通式反応装置を用いる場合に、粒子凝集等による流路の閉塞を防止することができ、連続生産性を向上させることができるという利点を有しているが、下記のような問題を抱えていることが判明した。
【0023】
すなわち、スラリー原料液の脱塩を過度に進め、大部分の塩類を除去すると、塩濃度の低下に伴い、バナジウム含有前駆体粒子の溶解度がアップし、脱塩処理ステップでの微粒子の溶解及び大きな粒子への成長、いわゆるオストワルド熟成が進行し、最終的に得られる粒子は結晶成長が進んだものとなり、平均粒子径や平均結晶子径が大きなものとなる。したがって、高品質の特性が要求されている光学フィルムの適用においては、ヘイズの上昇や光学性能の低下の要因となるため、改良すべき余地を残しているのが現状である。
【0024】
本発明者は、脱塩処理条件について更に詳細な検討を進めた結果、脱塩処理時のスラリー原料液の液特性として、前記スラリー原料液の25℃におけるpHを8.0~11.0の範囲内とし、かつ25℃における電気伝導率を10~1000mS/mという特定の条件範囲内を維持して脱塩処理を施すことにより、上記のような粒子の粗大化を起こすことなく、平均一次粒径を1~30nmの範囲内、平均結晶子径を1~15nmの範囲内にある単分散性の高い二酸化バナジウム含有粒子を得ることができ、その結果、凝集体(二次粒子)の生成が抑制され、粒径分布が狭く、分散安定性に優れた平均粒径の小さい二酸化バナジウム含有粒子と、それを適用した低ヘイズで、かつサーモクロミック性に優れた光学フィルムを得ることができたと推測している。
【0025】
なお、上記の各技術的な機構はあくまでも推測であり、本発明の技術的範囲を制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の脱塩処理ステップを有する二酸化バナジウム含有粒子の製造工程の一例を示す工程フロー図
【
図2】本発明に係る脱塩処理ステップに適用可能な脱塩装置の一例である限外濾過装置の処理フローの一例を示す概略図
【
図3】本発明に係る二酸化バナジウム含有粒子の製造に適用可能な水熱反応部を具備した製造フローの一例を示す概略図
【
図4】本発明に係る二酸化バナジウム含有粒子の製造に適用可能な水熱反応部を具備した流通式反応装置の一例を示す概略図
【
図5】本発明に係る製造方法で規定する二酸化バナジウム含有粒子の粒子構造(結晶子径)の一例を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の二酸化バナジウム含有粒子の製造方法は、水熱反応部を有する流通式反応装置を用いた二酸化バナジウム含有粒子の製造方法であって、少なくとも前記の第1ステップ~第3ステップを有し、前記第2ステップにおいて、前記スラリー原料液の25℃におけるpHを8.0~11.0の範囲内とし、25℃における電気伝導率を10~1000mS/mの範囲内に維持し、前記二酸化バナジウム含有粒子の平均一次粒径を1~30nmの範囲内とし、かつ、平均結晶子径を1~15nmの範囲内になるように調整して製造することを特徴とする。この特徴は、下記各実施形態に共通する又は対応する技術的特徴である。
【0028】
本発明の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、スラリー原料液から塩類を除去する脱塩処理として、限外濾過装置を用いることが、効率よく脱塩処理を行うことができる点で好ましい。
【0029】
また、スラリー原料液から塩類を除去する脱塩処理が、液温30℃以下で行うことが、更に効率よく脱塩処理を行うことができる点で好ましい。
【0030】
また、反応液を構成する水が、超臨界状態の水であることが、高品質の二酸化バナジウム含有粒子を安定して製造できる点で好ましい。
【0031】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。なお、各図の説明において、構成要素の末尾に記載した数字は、説明する図面に記載した符号を表す。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0032】
《二酸化バナジウム含有粒子の製造方法》
はじめに、本発明の二酸化バナジウム含有粒子の製造方法の全体概要を説明する。
【0033】
本発明の二酸化バナジウム含有粒子の製造方法は、水熱反応部を有する流通式反応装置を用いた二酸化バナジウム含有粒子の製造方法であって、
少なくとも下記の第1ステップ~第3ステップを有し:
第1ステップ:少なくともバナジウム含有化合物、反応調整剤及び水を含有するスラリー原料液を調製するステップ
第2ステップ:前記スラリー原料液に脱塩処理を施すステップ
第3ステップ:前記脱塩処理を施したスラリー原料液と、超臨界又は亜臨界状態の水とを混合した反応液を用いる水熱反応法により、二酸化バナジウム含有粒子を製造するステップ、
上記第2ステップにおいて、前記スラリー原料液の25℃におけるpHを8.0~11.0の範囲内とし、
25℃における電気伝導率を10~1000mS/mの範囲内に維持し、
前記二酸化バナジウム含有粒子の平均一次粒径を1~30nmの範囲内とし、かつ、
平均結晶子径を1~15nmの範囲内になるように調整して製造する
ことを特徴とする。
【0034】
本発明において、「二酸化バナジウム(VO2)含有粒子」を「本発明に係る二酸化バナジウム含有粒子」、「本発明に係るVO2含有粒子」、又は単に「VO2含有粒子」ともいう。
【0035】
本発明においては、脱塩処理を施したバナジウム含有化合物を含むスラリー原料液と、超臨界化又は亜臨界化させた水とを水熱反応させ、二酸化バナジウム含有粒子を形成する方法を「水熱合成方法」、「水熱反応方法」、又は「水熱反応」ともいい、その水熱反応を実施する工程を「水熱反応工程」と称し、具体的に、詳細は後述する
図3及び
図4に示すような連続して水熱反応を行う装置を「流通式反応装置」という。
【0036】
[二酸化バナジウム含有粒子の基本的な製造フロー]
図1は、脱塩処理ステップを有する本発明の二酸化バナジウム含有粒子の製造方法の一例を示すフロー図である。
【0037】
二酸化バナジウム含有粒子の製造方法では、第1ステップとして、スラリー原料液の調製を行う。本発明に係るスラリー原料液は、主の構成要素として、(A)バナジウム含有化合物及び水を含む原料液と、(B)反応調整剤(例えば、アルカリ)と、(C)水(好ましくはイオン交換水)で構成され、その他に必要に応じて、各種添加剤が添加されている。
【0038】
第2ステップとしては、上記調製したスラリー原料液に対し脱塩処理を施し、不要の塩類(例えば、カルシウムイオン等)をスラリー原料液から取り除く。この時、スラリー原料液の25℃におけるpHを8.0~11.0の範囲内とし、かつ25℃における電気伝導率を10~1000mS/mの範囲内を維持することを特徴とする。脱塩処理方法としては、特に制限はないが、デカンテーション法、遠心分離法、限外濾過法等を適用することができるが、その中でも、特に、限外濾過法が好ましい。本発明において、スラリー原料液のpHは、市販のpHメーターを用いて容易に測定でき、電気伝導率についても、市販の電気伝導率計を用いて、容易に測定することができる。この時、脱塩処理温度は30℃以下であることが好ましい。
【0039】
次いで、第3ステップとして、脱塩処理を施したスラリー原料液と、超臨界化又は亜臨界化したイオン交換水と会合させて「反応液」を調製した後、水熱反応装置(例えば、
図4に示すような流通式反応装置)を用いて高温高圧下で反応させて、平均一次粒径が1~30nmの範囲内で、かつ平均結晶子径が1~15nmの範囲内の二酸化バナジウム含有粒子を製造する。
【0040】
[スラリー原料液]
はじめに、スラリー原料液を構成する(1)バナジウム含有化合物、(2)反応調整剤、及び(3)水について説明する。
【0041】
〔(1)バナジウム含有化合物〕
本発明に適用可能なバナジウム含有化合物(二酸化バナジウム含有粒子の原料)としては、例えば、五価のバナジウム(以下、バナジウム(V)と記載する。)としては、五酸化二バナジウム(V)(V2O5)、バナジン酸アンモニウム(V)(NH4VO3)、三塩化酸化バナジウム(V)(VOCl3)、バナジン酸ナトリウム(V)(NaVO3)等、四価のバナジウム(以下、バナジウム(IV)と記載する。)としては、シュウ酸バナジル(IV)(VOC2O4)、酸化硫酸バナジウム(以下、硫酸バナジルとも称する)(IV)(VOSO4)、及び四酸化二バナジウム(IV)(V2O4)を硫酸等の酸で溶解したものが例示できる。なお、上記のバナジウム含有化合物のうち、スラリー状の原料液を構成する観点から、四価のバナジウム(バナジウム(IV))を適用することが好ましい。また、バナジウム含有化合物は1種単独で用いてもよく、又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0042】
スラリー原料液を構成する反応調整剤としては、スラリー原料液を水熱反応させることによって二酸化バナジウム含有粒子を製造することができるものであれば、特に制限されないが、四価のバナジウム(バナジウム(IV))を適用する場合には、アルカリが使用される。
【0043】
具体的には、バナジウム含有化合物として四価のバナジウム(IV)含有化合物を用いる場合には、前記反応調整剤としては、アルカリを適用する。この時、アルカリは、バナジウム含有化合物及びイオン交換水を含む水溶液に添加される。
【0044】
なお、バナジウム含有化合物として五価のバナジウム(V)含有化合物を用いる場合には、反応調整剤としては、還元剤(例えば、ヒドラジン及びその水和物等)が適用されるが、本発明の二酸化バナジウム含有粒子の製造方法においては、主には、バナジウム含有化合物としては、スラリー原料液を形成することができる四価のバナジウム(IV)含有化合物を適用することが好ましいため、五価のバナジウム(V)含有化合物及び還元剤の詳細な説明は省略する。
【0045】
(四価のバナジウム(IV)含有化合物)
本発明の二酸化バナジウム含有粒子の製造方法に適用するバナジウム(IV)含有化合物(二酸化バナジウム含有粒子の原料)は、特に制限されず、上記で列挙した化合物の中から適宜選択できる。その中でも、水熱反応後に副生成物をできるだけ生成させない観点から、酸化硫酸バナジウム(IV)(VOSO4)であることが好ましい。なお、バナジウム(IV)含有化合物は、1種単独で用いてもよく、又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0046】
反応液に含まれるバナジウム(IV)含有化合物の初期濃度は、本発明の目的効果が得られる限りにおいて特に制限されないが、好ましくは0.1~1000ミリモル/Lである。このような濃度であれば、バナジウム(IV)含有化合物を十分に溶解又は分散し、得られる二酸化バナジウム含有粒子の平均一次粒径(粒子径)を小さくし、かつ粒子径(粒度)分布を狭くして、二酸化バナジウム含有粒子のサーモクロミック性、及び二酸化バナジウム含有粒子を含む光学フィルムの透明性をより高めることができる。反応液に含まれるバナジウム(IV)化合物の初期濃度は、二酸化バナジウム含有粒子の平均一次粒径及び粒子径分布、すなわち二酸化バナジウム含有粒子のサーモクロミック性、及び二酸化バナジウム含有粒子を含む光学フィルムの透明性などの観点から、より好ましくは20~600ミリモル/Lの範囲内であり、さらに好ましくは50~400ミリモル/Lの範囲内である。なお、上記の「初期濃度」とは、水熱反応前における、反応液1L中のバナジウム(IV)含有化合物量(2種以上のバナジウム(IV)含有化合物を含む場合は、その合計量)である。
【0047】
〔(2)反応調整剤〕
バナジウム含有化合物として、バナジウム(IV)含有化合物を使用する場合には、反応調整剤として、アルカリを用いることが好ましい。また、前述のように、バナジウム含有化合物として五価のバナジウム(V)含有化合物を用いる場合には、反応調整剤としては、還元剤(例えば、ヒドラジン及びその水和物等)が適用される。
【0048】
(アルカリ)
水熱合成法(水熱反応)では、バナジウム含有化合物がバナジウム(IV)含有化合物である場合、反応調整剤の少なくとも1種としてアルカリを用いて行うことが好ましい。なお、本発明でいうアルカリとは、水溶液中において水酸化物イオン(OH-)を発生させる物質を意味し、それ自体が水酸化物イオンを生じる化合物の他に、それ自体が水酸化物イオンを生じるわけではなく結果的に水酸化物イオンを生じる化合物も含まれる。
【0049】
アルカリとしては、特に制限されないが、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられる。上記アルカリは、1種単独、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0050】
これらの中でも、アンモニア、水酸化ナトリウム、又は水酸化カリウムであることが好ましく、アンモニア、又は水酸化ナトリウムであることがより好ましく、アンモニアであることがさらに好ましい。
【0051】
なお、バナジウム(IV)含有化合物、アルカリ及びイオン交換水より構成されるスラリー原料液中のアルカリ濃度は、特に制限されないが、例えば、0.01~10mol/Lの範囲内であることが好ましく、0.1~5mol/Lの範囲内であることがより好ましい。
【0052】
スラリー原料液と、超臨界化又は亜臨界化したイオン交換水とを混合して得られる反応液中のアルカリの量は、特に制限されないが、例えば、バナジウム含有化合物、バナジウム含有化合物と反応する化合物及び超臨界又は亜臨界状態のイオン交換水により構成される反応液のpHとして、6.8~11.2の範囲内となるように調整することが好ましく、7.0~8.5の範囲内に調整することがより好ましい。
【0053】
〔(3)スラリー原料液調製用の水〕
スラリー原料液を構成する水としては、特に制限はないが、イオン交換水又は脱気水を用いることが好ましく、特には、イオン交換水を用いることが好ましい。
【0054】
〔その他の添加剤〕
(バナジウム含有粒子の相転移調節剤)
本発明の二酸化バナジウム含有粒子の製造方法では、水熱反応部において、反応液が含有するバナジウム含有化合物の二酸化バナジウム含有粒子への相転移温度を調節するため、特定の元素を含む相転移調整剤を含有することができる。
【0055】
ここで、二酸化バナジウム含有粒子の相転移温度を調節するため相転移調節剤の反応液への添加方法は、特に制限されず、公知の方法を用いることができる。反応液への添加方法としては、バナジウム含有化合物含むスラリー原料液に添加されることが好ましい。また、水熱反応前の反応液へ直接添加される方法も用いることもできる。
【0056】
ここで、相転移調節剤としては、特に制限されないが、例えば、タングステン、チタン、モリブデン、ニオブ、タンタル、錫、レニウム、イリジウム、オスミウム、ルテニウム、ゲルマニウム、クロム、鉄、ガリウム、アルミニウム、フッ素、リン等の、バナジウム以外の金属元素を含む物質が使用できる。反応液が上記相転移調節剤を含むことにより、得られる二酸化バナジウム含有粒子の相転移温度を低下させることができる。相転移調節剤の具体例としては、例えば、タングステン酸アンモニウムパラ五水和物((NH4)10W12O41・5H2O)等を挙げることができる。
【0057】
[脱塩処理ステップ]
本発明の二酸化バナジウム含有粒子の製造方法においては、上記調製したスラリー原料液について、水熱合成法により二酸化バナジウム含有粒子を製造する前に、スラリー原料液から所定量の塩類を除去する脱塩処理を施すこと、かつ脱塩処理時に、前記スラリー原料液の25℃におけるpHを8.0~11.0の範囲内とし、かつ25℃における電気伝導率を10~1000mS/mの範囲内を維持して脱塩処理を行うことを特徴とする。
【0058】
脱塩処理手段としては、スラリー原料液から塩類、例えば、アンモニウムイオン、硫酸イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン等を所定の濃度取り除くことができる方法であれば特に制限はなく、例えば、デカンテーション法、遠心分離法、限外濾過法等を適用することができるが、その中でも、特に、限外濾過法が好ましい。
【0059】
(遠心分離法)
脱塩処理で適用可能な遠心分離法は、上記調製したスラリー原料液のpHを調製した後、遠心分離機により、固液分離を行った後、水系の分離液の一部を系外に排出し、その後、排出したのと同容量のイオン交換水を追加添加し、その後分散処理を行い、この操作を繰り返して、不要の塩類を排出して、スラリー原料液を所定のpH及び電気伝導率に調整する。
【0060】
(限外濾過法)
次いで、本発明に好適な脱塩手段である限外濾過法を用いた脱塩処理方法について、図を交えて説明する。
【0061】
図2は、本発明に係る二酸化バナジウム含有粒子の製造に用いる脱塩装置の一例である限外濾過装置の処理フローを示す概略図である。
【0062】
図2に示す限外濾過装置50は、スラリー原料液52を貯留するための調製釜51、pHを所定の値に調整するための補充用pH調整水58を貯留している補充用pH調整水ストック釜57、補充用pH調整水58を、調整釜51に添加する補充用pH調整水供給ライン59、調製釜51を、循環ポンプ54により循環させる循環ライン53、循環ライン53の経路内に脱塩手段として限外濾過部55と、電気伝導計60及びpHメーター61が配置されている構成である。
【0063】
限外濾過装置を用いた脱塩処理のフローについて説明する。
【0064】
〈工程(I)〉
調製釜51に、上記で説明した方により調製した、バナジウム含有化合物、バナジウム含有化合物と反応する化合物及び水を含むスラリー原料液52を貯留して、循環ポンプ54を用いて循環させながら、限外濾過部55で、スラリー原料液中の塩類を含む水分を排出口56より、予め設定した排出量V1で排出して、所定の塩濃度まで濃縮する。
【0065】
〈工程(II)〉
次いで、限外濾過部55で濃縮したスラリー原料液52に対し、補充用pH調整水ストック釜57より、補充用pH調整水供給ライン59を経由して、限外濾過部55での排出量(V1)と同容量の補充用pH調整水58を添加量V2として添加し、十分に撹拌混合して、第一次の脱塩したスラリー原料液52を調製する。この時、電気伝導計60により、第一次の脱塩したスラリー原料液52の電気伝導率(mS/m)及びpHを測定する。
【0066】
〈工程(III)〉
次いで、上記工程(I)と同様にして、循環ポンプ54により、第一次の脱塩したスラリー原料液52を循環させながら、限外濾過部55で、スラリー原料液52中の構成液(イオン交換水+塩類)を排出量V1で系外に排出56する。
【0067】
〈工程(IV)〉
次いで、上記工程(II)と同様にして、濃縮した混合溶液52に対し、補充用pH調整水ストック釜57より、補充用pH調整水供給ライン59を経由して、排出量V1と同容量の補充用pH調整水58を添加量V2で添加し、十分に撹拌混合して、第二次の脱塩したスラリー原料液52を調製する。この時、電気伝導計60及びpHメーター61により、第二次の脱塩したスラリー原料液52の電気伝導率(mS/m)及びpHを測定する。
【0068】
上記工程(III)及び工程(IV)を繰り返し、スラリー原料液52の電気伝導率(mS/m)が、所望の条件となるまで、繰り返して行い、脱塩処理済みのスラリー原料液52を調製する。なお、pHについて、所定のpHに対し、差異が生じた場合、最終的には、pH調整用の酸又はアルカリを添加して、調整する。
【0069】
上記脱塩処理工程で用いる限外濾過方法としては、例えば、リサーチ・ディスクロージャー(Research Disclosure)のNo.10208(1972)、No.13122(1975)及びNo.16351(1977)などの記載を参照することができる。
【0070】
操作条件として重要な圧力差や流量は、大矢春彦著「膜利用技術ハンドブック」幸書房出版(1978)、p275に記載の特性曲線を参考に設定することができる。
【0071】
限外濾過膜は、膜材質として、有機膜では、すでにモジュールとして組み込まれた平板型、スパイラル型、円筒型、中空糸型、ホローファイバー型などが旭化成(株)、ダイセル化学(株)、(株)東レ、(株)日東電工などから市販されているが、耐溶媒性のある膜としては、日本ガイシ(株)、(株)ノリタケなどのセラミック膜が好ましい。
【0072】
具体的には、例えば、濾過膜としてSartorius stedim社製ビバフロー50(有効濾過面積50cm2、分画分子量5000)を用い、流速300ml/min(分)、液圧100kPa、室温で限外濾過を行う方法や、ポリエーテルスルホン製で分画分子量が30万の濾過膜を有する限外濾過装置(日本ミリポア株式会社製 ペリコン2カセット)等を挙げることができる。
【0073】
〔水熱反応装置〕
二酸化バナジウム含有粒子の製造方法においては、上記脱塩処理を施し、所定の電気伝導率及びpHの調整したスラリー原料液は、
図1のフロー図で示すように、次工程で水熱合成法により、平均一次粒径を1~30nmの範囲内で、かつ平均結晶子径を1~15nmの範囲内にある二酸化バナジウム含有粒子を製造する。
【0074】
水熱反応処理の条件(例えば、反応物の量、処理温度、処理圧力、処理時間等。)は、適宜設定されるが、水熱反応処理の温度は、例えば、300~500℃の範囲内であり、好ましくは350~400℃の範囲内である。温度を上記範囲内とすることで、結晶性が低くなる恐れを回避しつつ、平均一次粒径(D)等を小さく、かつ、粒子径分布を狭くすることができる。また、水熱反応処理の時間は、特に制限はないが、3~1000秒の範囲内とすることが好ましい。上記のような条件であれば、粒子径分布の狭い粒子径の小さい二酸化バナジウム含有粒子を効率よく製造できる。また、二酸化バナジウム含有粒子の結晶性が低くなるおそれを回避できる。なお、上記水熱反応は、同じ条件を用いて1段階で行われても、又は条件を変化させて多段階で行われてもよい。本発明に係る水熱反応は、撹拌しながら実施することが好ましい。撹拌により、二酸化バナジウム含有粒子をより均一に調製できる。
【0075】
本発明の二酸化バナジウム含有粒子の製造方法においては、水熱反応装置としては、好ましくは、耐圧性の管型又は槽型などのフロー型リアクターを具備した流通式反応装置を用いて亜臨界又は超臨界状態にある高温高圧水と混合して連続的に合成する方法であり、特には管型のリアクターを利用する流通式反応装置を好適に利用できる。
【0076】
(流通式反応装置)
本発明の二酸化バナジウム含有粒子の製造方法においては、水熱反応装置としては、特に、水熱反応を、水熱反応部を有する流通式反応装置を用いて行うことが好ましい形態である。
【0077】
以下、本発明の二酸化バナジウム含有粒子の製造方法において好適な流通式反応装置を用いて水熱反応を行う実施形態について説明する。なお、本発明では、下記で説明する形態にのみ限定されるものではない。
【0078】
本発明に係る流通式反応装置とは、水熱反応部を備えた流通式反応装置である。ここでいう水熱反応部とは、高温高圧条件下で、高速混合及び反応を実現する混合及び反応器をいう。
【0079】
水熱反応部において、高圧下、超臨界又は亜臨界状態のイオン交換水の存在下で、脱気処理を施した原料スラリー液に水熱反応を実施することにより、優れた二酸化バナジウム含有粒子のサーモクロミック性及び単分散性の高い二酸化バナジウム含有粒子を製造することができ、光学フィルムの透明性を達成することができる。この理由は、水熱反応を高圧下、超臨界又は亜臨界状態のイオン交換水の存在下で実施することにより、水熱反応時の酸化性雰囲気を抑制し、所望の粒子プロファイルを有する二酸化バナジウムを安定した反応により製造することができ、サーモクロミック性を有する二酸化バナジウム(VO2)含有粒子を安定して製造することができる。
【0080】
流通式反応装置を用いて水熱反応を行う場合は、本発明においては、流通式反応装置の水熱反応を行う水熱反応部において、脱塩処理を施したバナジウム含有化合物、バナジウム含有化合物と反応する化合物及びイオン交換水を含むスラリー原料液と、超臨界又は亜臨界状態のイオン交換水とを混合した反応液の通過時間を、4~700秒の範囲内であり、さらには12~700秒の範囲内とすることが好ましい。
【0081】
次いで、図を交えて、本発明の二酸化バナジウム含有粒子の製造方法に適用可能な流通式反応装置の具体的な構成について説明する。
【0082】
図3に、本発明の二酸化バナジウム含有粒子の製造方法に好適な水熱反応部を有する流通式反応装置の製造フローの一例を示す。
【0083】
図3で示すように、脱塩処理済みのスラリー原料液容器5には、1)バナジウム含有化合物、2)バナジウム含有化合物と反応する化合物、例えば、イオン交換水に所定の濃度で溶解したアルカリと、3)イオン交換水から構成される塩処理済みのスラリー原料液を入れ、他方の原料液容器2には、水としてイオン交換水を貯留し、このイオン交換水を加熱媒体13で所定の温度、圧力下で、超臨界又は亜臨界状態のイオン交換水としたのち、両者を合流点MPで会合させて反応液とした後、水熱反応部を構成する水熱反応部16内の加熱部配管17で水熱処理を施して、二酸化バナジウム含有粒子を調製する方法である。この時、混合した後の反応液は、水熱反応を施すまで超臨界又は亜臨界状態を維持させる。
【0084】
図4は、本発明に係る二酸化バナジウム含有粒子の製造に適用可能な、水熱反応部を有する流通式反応装置の一例を示す概略図である。
【0085】
図4において、水熱反応部16を有する流通式反応装置1は、一方の構成液であるバナジウム含有化合物、バナジウム含有化合物と反応する化合物及びイオン交換水を含む脱塩処理済みの25℃におけるpHが8.0~11.0の範囲内で、かつ25℃における電気伝導率を10~1000mS/mの範囲内であるスラリー原料液を入れるスラリー原料液容器5、他方の構成液である超臨界水又は亜臨界水を形成するためのイオン交換水を入れるイオン交換水容器2、水熱反応を行う加熱媒体14を有する水熱反応部16、水熱反応後の反応液を入れるためのタンク9、スラリー原料液容器5、イオン交換水容器2とタンク9をそれぞれ連結するための流路3及び6(配管)、一方の脱塩処理済みのスラリー原料液を、スラリー原料液容器5から、配管6、合流点MP、加熱部配管17、配管18及び制御弁19を経由してタンク9に送液するためのポンプ7、他方の構成液であるイオン交換水容器2に貯留している超臨界水又は亜臨界水を形成するためのイオン交換水等を、イオン交換水容器2から、配管3、加熱媒体13、合流点MP、加熱部配管17、配管18及び制御弁19を経由して、タンク9に送液するためのポンプ4が配置されている。
【0086】
また、流通式反応装置1には、必要に応じて、水熱反応後の二酸化バナジウム含有粒子を含む反応液を冷却するための流路18を具備した冷却部8を備えてもよい。また、詳細は後述するが、必要に応じて、水熱反応後の二酸化バナジウム含有粒子を含む反応液に添加する、例えば、表面修飾剤、pH調整剤や、又は水熱反応後の反応液に混合して冷却するための冷却媒体(例えば、水)を入れるためのタンク10や、表面修飾剤、pH調整剤、冷却媒体等を、流路11を経由して、流路18に送液するためのポンプ12を有してもよい。
【0087】
流通式反応装置1には、流路6又は流路3のライン中に、加熱媒体13及び15を有する。特に、流路3に配置されている加熱媒体13は、イオン交換水容器2に貯留しているイオン交換水を、所定の温度及び圧力を付与して、超臨界水又は亜臨界水を形成する。
【0088】
また、バナジウム含有化合物、バナジウム含有化合物と反応する化合物及びイオン交換水を含むスラリー原料液や、水熱反応後の反応液が流通する水熱反応部16と加熱部配管17、及び流路3、6、11、18等を構成する配管の材質は、特に制限されないが、ステンレス鋼、アルミニウム、鉄、ハステロイなどが挙げられる。
【0089】
水熱反応部16の内部に構成される加熱部配管17の加熱部配管のライン長Lは、特に、制限はなく、合流部MPで合流したバナジウム含有化合物、バナジウム含有化合物と反応する化合物及び超臨界又は亜臨界状態のイオン交換水、により構成される反応液が、3~1000秒の時間内で通過できる長さであればよい。
【0090】
また、水熱反応部内の加熱部配管17を通過(流通)させる反応液の速度(流通速度)は、特に制限されないが、好ましくは0.1~10m/秒、より好ましくは0.2~8.0m/秒である。このような流通速度であれば、反応液に含まれるバナジウム含有化合物と、バナジウム含有化合物と反応する化合物が、超臨界又は亜臨界状態のイオン交換水の存在下で、水熱反応を所定の条件で有効に実施できる。
【0091】
本発明でいう加熱部配管17のライン長Lとは、各原料液が合流点MPを経て、加熱媒体14の入口INから、水熱処理後に、加熱媒体14の出口OUTに達するまでの配管部の長さをいう。
【0092】
本発明において、水熱反応部である加熱部配管17における反応液の通過時間は、上述の反応液の流通速度と加熱部配管のライン長Lにより決定されるが、流通速度は、各流路(3及び6)内に設置されているポンプ4及び7の送液圧力や各流路の内径により、圧力や流量を制御することにより所望の条件とすることができる。
【0093】
また、原料液を送液する流路3及び6、水熱反応後の反応液に添加する冷媒や表面修飾剤等を送液する流路11、反応液を冷却するための流路18の長さは、特に制限されないが、概ね50~10000mmの範囲内であり、好ましくは100~1000mmの範囲内である。また、流路の間隙(配管の場合は内径)は、特に制限されないが、概ね0.1~10mmの範囲内であり、好ましくは1.0~8mmの範囲内である。
【0094】
なお、配管3、6、11及び18は、上記材質、長さ、内径を有することが好ましいが、それぞれ、同じであっても又は異なるものであってもよい。
【0095】
上記の水熱反応工程によって得られた水熱反応後の反応液は、濾過(例えば、限外濾過)や遠心分離により、分散媒や溶媒の置換を行い、二酸化バナジウム含有粒子を水やアルコール(例えば、エタノール)等によって洗浄してもよい。得られた二酸化バナジウム含有粒子は、任意の手段により乾燥してもよい。なお、
図4に記載のTCは、温度センサーである。
【0096】
(水熱反応条件:温度、圧力)
本発明においては、上記で説明した条件で水熱反応を行うことで、形成される二酸化バナジウム含有粒子の平均一次粒径及び平均結晶子径を所望の条件に制御することができ、二酸化バナジウム含有粒子のサーモクロミック性及び二酸化バナジウム含有粒子を含む光学フィルムの透明性を向上(ヘイズの減少)することができる。
【0097】
これらの優れた効果に関し、詳細なメカニズムは不明であるが、上記で示したような条件下の水熱反応によって、析出した二酸化バナジウムの微結晶の結晶成長が抑制されることで達成されると推測される。
【0098】
本発明に係る水熱反応部において、高温高圧状態にある水とは、超臨界又は亜臨界状態にある高温高圧水、すなわち、超臨界水(super-critical water:SCW)又は亜臨界水(sub-critical water:sub-CW)である。水の臨界温度は374.2℃、水の臨界圧力は22.12MPaであるので、当該温度及び圧力以上にある水を超臨界水という。また、亜臨界水とは、水の超臨界点より僅かながら温度又は圧力が低い状態にある水を指しており、例えば、温度でいうと200℃以上の領域から臨界温度374℃までというように、その温度が水の臨界温度より低く、かつ圧力が水の臨界圧力22MPa又はそれ以上の圧力である領域をいう。
【0099】
典型的な超臨界水の領域は、例えば、375~500℃、好ましくは375~450℃、より好ましくは375~420℃、さらに好ましくは375~400℃であり、ある場合には、例えば、375~395℃、好ましくは375~390℃、より好ましくは375~385℃、又は、375~380℃の範囲内であり、その反応圧力としては、例えば、22~50MPa、好ましくは22~45MPa、より好ましくは22~40MPa、さらに好ましくは25~35MPaの範囲内である。
【0100】
典型的な亜臨界水の領域は、圧力が臨界圧力22MPa又はそれ以上であり、かつ、150℃以上の温度から臨界温度374℃までの温度領域、又は、200℃以上の温度から臨界温度374℃までの領域、又は、250℃以上の温度から臨界温度374℃までの領域、300℃以上の温度から臨界温度374℃までの領域などが挙げられる。もちろん、亜臨界水の領域は、10.0MPa以上の圧力から臨界圧力22MPaまでの領域、又は、15.0MPa以上の圧力から臨界圧力22MPaまでの領域、又は、18.0MPa以上の圧力から臨界圧力22MPaまでの領域、又は、20.0MPa以上の圧力から臨界圧力22MPaまでの領域なども含まれてよい。
【0101】
上記のように、亜臨界水については様々な定義があるが、本発明においては、200~373℃の温度範囲内で、5.0~50MPaの圧力範囲内の領域にある水を亜臨界水と定義する。
【0102】
水熱反応における温度及び圧力の条件としては、前述のように150~500℃の範囲内であり、かつ圧力が飽和蒸気圧よりも上である状態であれば特に制限されないが、温度が300~500℃の範囲内にあり、圧力が10~40MPaの範囲内にあり、かつ設定温度における飽和蒸気圧よりも上の圧力となる条件であることがより好ましい条件である。温度が300℃以上であると、結晶性が低くなる恐れを回避しつつ、平均一次粒径(D)等をより小さくすることができる。また、温度が500℃以下であると、粒子径分布を狭くすることができる。同様の観点から、温度が350~450℃の範囲内であり、圧力が20~40MPaの範囲内であり、かつ設定温度における飽和蒸気圧よりも上の圧力となる条件であることがさらに好ましく、温度が380~400℃の範囲内で、圧力が25~30MPaの範囲内の超臨界水の存在下で水熱反応を行うことがさらに好ましい。
【0103】
本発明においては、水熱反応時間は、特に制限はないが、3~1000秒の範囲内とすることが好ましい。上記のような条件であれば、粒子径分布が狭く、かつ粒子径の小さい二酸化バナジウム含有粒子を効率よく製造できる。また、二酸化バナジウム含有粒子の結晶性が低くなるおそれを回避できる。なお、上記水熱反応は、同じ条件を用いて1段階で行われても、又は条件を変化させて多段階で行われてもよい。本発明に係る水熱反応は、撹拌しながら実施することが好ましい。撹拌により、二酸化バナジウム含有粒子をより均一に調製できる。
【0104】
(冷却工程)
本発明の二酸化バナジウム含有粒子の製造方法においては、上記で説明した水熱反応工程に加えて、水熱反応後の反応液(二酸化バナジウム含有粒子を含む分散液)を冷却する冷却工程(
図4で示す冷却部8)をさらに有することが好ましい。
【0105】
冷却工程は、水熱反応を所定時間行って(反応終了時点)から1分以内に、水熱反応後の反応液の冷却を開始することが好ましいが、反応液全量をこの時間内に冷却することが難しい場合は、反応時間に幅を持たせて反応液を反応温度に保ちながら所定量ずつ順次冷却してもよい。
【0106】
本工程では、冷却速度は適宜調整することができる。
【0107】
水熱反応後の反応液の冷却方法は、特に制限されず、公知の方法と同様にして、又は適宜変更して適用できる。冷却方法としては、例えば、水熱反応後の反応液を必要であれば撹拌しながら冷却媒体中に浸漬する方法、水熱反応後の反応液と冷却媒体(特に水)とを混合する方法、水熱反応後の反応液にガス状の冷却媒体(例えば、液体窒素)を通過させる方法などが挙げられる。これらのうち、冷却速度の制御が容易である点から、
図4で例示するように、水熱反応後の反応液と冷却媒体とを配管を介して接触させる方法が好ましい。ここで、少なくとも、流通式反応装置1において、冷却は、水熱反応部16に、直接又は他の構成部分を介して接続された、冷却部8を用いて行われることが好ましい。
【0108】
流通式反応装置1において、水熱反応部16に接続され、内部に流路18を有する冷却部8を用いた冷却方法について説明する。なお、本発明に用いることができる冷却方法は、以下で説明する形態に限定されない。
【0109】
本発明に係る冷却方法としては、水熱反応後の反応液を流通式反応装置1の流路18を通過(流通)させることにより冷却することが好ましい。すなわち、
図4に示す流通式反応装置1を例として説明すると、水熱反応部16の下流側で、二酸化バナジウム含有粒子を含む反応液を冷却部8の流路18を通過(流通)させることにより冷却を行う。冷却部8には、冷却媒体Cが流入し、流路18を外面より冷却している。
【0110】
また、他の方法としては、冷却媒体(例えば、水)と混合して冷却することを目的として、流通式反応装置1において、前述のようにタンク10を、前記説明した表面修飾剤やpH調整剤を入れるために用いる方法に代えて、あるいは同様の添加ラインを別に設けて、冷却媒体を直接添加するに用いてもよい。このとき、冷却媒体を、流路11を介して流通させるためのポンプ12をさらに有してもよい。
【0111】
また、この場合、冷却媒体としては、pH調整剤が媒体として水等に溶解されている形態では、pH調整効果を有する冷却媒体として用いてもよい。
【0112】
冷却媒体を使用する場合の、冷却媒体の水熱反応後の反応液との混合割合は、所望の冷却速度を達成できる限り、特に制限されない。例えば、冷却媒体を、水熱反応後の反応液に比して、1~2000倍(体積比)、より好ましくは10~1000倍(体積比)の割合で混合することが好ましい。なお、上記混合割合は、水熱反応後の反応液及び冷却媒体の流通速度を上記したような割合になるように設定することによって制御できる。
【0113】
また、冷却媒体の温度は、特に制限されないが、二酸化バナジウムの相転移温度(約68℃)より高いことが好ましく、70~95℃であることがより好ましい。上記に代えて又は上記に加えて、水熱反応後の反応液を水と混合してから5分間以上、前記水熱反応直後の反応液と水との混合物の温度を70~95℃に維持することがより好ましい。このような温度に設定することによって、所望のルチル型結晶相(R相)の二酸化バナジウムの純度をより向上できる。なお、水熱反応直後の反応液と水との混合物の温度を維持する時間の上限は、特に制限されないが、水熱反応直後の反応物を水と混合してから10分以下であれば十分である。
【0114】
冷却媒体を使用する場合には、水熱反応後の反応液と冷却媒体(好ましくは水)との混合物のpHは、特に制限されないが、25℃において、4.0~7.0の範囲内であることが好ましい。pHを上記の範囲内に設定することによって、粒子形成(結晶析出)後の二酸化バナジウム含有粒子の安定性を向上できる。ゆえに、所望のルチル型結晶相(R相)の二酸化バナジウムの純度をより向上し、二酸化バナジウム含有粒子のサーモクロミック性をより有効に向上できる。なお、かようなpHの値の達成手段は、特に制限されず、前述のpH調整剤を冷却工程前の水熱反応後の反応液に添加することで達成されてもよく、冷却工程においてpH調整剤が混合された冷却媒体を用いることで達成されてもよい。
【0115】
冷却媒体を使用する場合について、水熱反応後の反応液と冷却媒体との混合位置(配管11の設置位置)は、特に制限されないが、水熱反応後の反応液の冷却効率などを考慮すると、配管11が、タンク9側の出口から10~500mmの距離の位置で加熱部配管17と連結されていることが好ましい。
【0116】
冷却された水熱反応後の反応液(冷却液)は、制御弁19を経由して、タンク9に貯留される。貯留後は、濾過(例えば、限外濾過)や遠心分離により、分散媒や溶媒の置換を行い、二酸化バナジウム含有粒子を水やアルコール(例えば、エタノール)等によって洗浄してもよい。また、得られた二酸化バナジウム含有粒子は、任意の手段により乾燥してもよい。
【0117】
[その他の添加剤]
本発明の二酸化バナジウム含有粒子の製造方法においては、バナジウム含有化合物、バナジウム含有化合物と反応する化合物(アルカリ)の他に、必要に応じて各種添加剤を適用することができる。
【0118】
以下の、代表的な添加剤について説明する。
【0119】
〔表面修飾剤〕
本発明の二酸化バナジウム含有粒子の製造方法においては、水熱反応直後の二酸化バナジウム含有粒子を含む反応液に対し、さらに、
図4に示すタンク10より、流路11を経由して表面修飾剤を添加することができる。
【0120】
水熱反応により形成した二酸化バナジウム含有粒子を含む反応液に表面修飾剤を添加することによって、二酸化バナジウム含有粒子の凝集が有効に抑制・防止され、二酸化バナジウム含有粒子の大きさ(粒子径)をより小さくし、粒子径分布も狭くして、二酸化バナジウム含有粒子の分散安定性及び保存安定性をより向上できる。ゆえに、二酸化バナジウム含有粒子によるヘイズが低下し、また、サーモクロミック性を有効に発現させることができる。
【0121】
本発明に提供可能な表面修飾剤としては、例えば、有機ケイ素化合物、有機チタン化合物、有機アルミニウム化合物、有機ジルコニア化合物、界面活性剤、シリコーンオイル等を挙げることができる。表面修飾剤の反応性基の数は、特に制限されないが、1又は2であることが好ましい。
【0122】
〈有機ケイ素化合物〉
本発明に適用可能な表面修飾剤の具体例として有機ケイ素化合物(有機シリケート化合物)が挙げられ、例えば、ヘキサメチルジシラザン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、テトラエトキシシラン(オルトケイ酸テトラエチル)、トリメチルシリルクロライド、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。また、有機ケイ素化合物は市販品としても入手することができ、例えば、SZ6187(東レ・ダウシリコーン社製)等を好適に用いることができる。
【0123】
これらの有機ケイ素化合物のうち、分子量が小さく、高い耐久性を示す有機シリケート化合物を用いることが好ましく、特に、ヘキサメチルジシラザン、テトラエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルシリルクロライドを用いることがより好ましい。
【0124】
〈有機チタン化合物〉
有機チタン化合物としては、例えば、テトラブチルチタネート、テトラオクチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリデシルベンゼンスルフォニルチタネート及びビス(ジオクチルパイロフォスフェート)オキシアセテートチタネート、キレート化合物として、チタンアセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンエチルアセトアセテート、リン酸チタン化合物、チタンオクチレンギリコレート、チタンエチルアセトアセテート、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート等が挙げられる。また、有機チタン化合物は市販品としても入手することができ、例えば、プレンアクトTTS、プレンアクトTTS44(以上、味の素ファインテクノ株式会社製)等が挙げられる。
【0125】
〈有機アルミニウム化合物〉
有機アルミニウム化合物としては、例えば、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムtert-ブトキシド等が挙げられる。
【0126】
〈有機ジルコニア化合物〉
有機ジルコニア化合物としては、例えば、ノルマルプロピルジルコネート、ノルマルブチルジルコネート、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムモノアセチルアセトネート、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート等が挙げられる。
【0127】
〈界面活性剤〉
界面活性剤は、同一分子中に親水基と疎水基とを有する化合物である。界面活性剤の親水基としては、具体的には、ヒドロキシ基、炭素数1以上のヒドロキシアルキル基、カルボニル基、エステル基、アミノ基、アミド基、アンモニウム塩、チオール、スルホン酸塩、リン酸塩、ポリアルキレングリコール基等が挙げられる。ここで、アミノ基は1級、2級、3級のいずれであってもよい。界面活性剤の疎水基としては、具体的にはアルキル基、アルキル基を有するシリル基、フルオロアルキル基等が挙げられる。
【0128】
ここで、アルキル基は、置換基として芳香環を有していてもよい。界面活性剤は、上記のような親水基と疎水基とをそれぞれ同一分子中に少なくとも1個ずつ有していればよく、各基を2個以上有していてもよい。このような界面活性剤としては、より具体的には、ミリスチルジエタノールアミン、2-ヒドロキシエチル-2-ヒドロキシドデシルアミン、2-ヒドロキシエチル-2-ヒドロキシトリデシルアミン、2-ヒドロキシエチル-2-ヒドロキシテトラデシルアミン、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ジ-2-ヒドロキシエチル-2-ヒドロキシドデシルアミン、アルキル(炭素数8~18)ベンジルジメチルアンモニウムクロライド、エチレンビスアルキル(炭素数8~18)アミド、ステアリルジエタノールアミド、ラウリルジエタノールアミド、ミリスチルジエタノールアミド、パルミチルジエタノールアミド、パーフルオロアルケニル、パーフルオロアルキル化合物等が挙げられる。
【0129】
シリコーンオイルとしては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル等のストレートシリコーンオイルや、アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、カルボキシル変性シリコーンオイル、カルルビノール変性シリコーンオイル、メタクリル変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、異種官能基変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、メチルスチリル変性シリコーンオイル、親水性特殊変性シリコーンオイル、高級アルコキシ変性シリコーンオイル、高級脂肪酸含有変性シリコーンオイル及びフッ素変性シリコーン等の変性シリコーンオイルが挙げられる。
【0130】
上記表面修飾剤は、ヘキサン、トルエン、メタノール、エタノール、アセトン、水等で適宜希釈して、溶液の形態で水熱反応後の反応液と混合されることが好ましい。また、上記表面修飾剤によって導入される有機官能基中の炭素原子数は、1~6であることが好ましい。これにより耐久性を向上させることができる。また、表面修飾剤を含む溶液は、pH調節剤を用いて適当なpH値(例えば、2~12)に調節してもよい。ここで、pH調節剤としては、特に制限されず、後述のpH調節剤と同様のものが使用できる。
【0131】
表面修飾剤を使用する場合の表面修飾剤の添加量は、特に制限されないが、水熱反応により得られた二酸化バナジウム含有粒子の質量に対して、0.1~100質量%の範囲内であることが好ましく、1~10質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0132】
表面修飾剤の添加は、二酸化バナジウム含有粒子表面を修飾する観点から、水熱反応直後(反応終了時点の直後)に開始することが好ましい。具体的には反応終了時点から10秒以内に添加を行うことが好ましく、5秒以内に添加を行うことがより好ましい。
【0133】
表面修飾剤の添加方法としては、特に制限されず、公知の方法を用いることができる。例えば、
図4に記載の流通式反応装置1を用いる場合は、水熱反応直後の反応液に対して、表面修飾剤(又は表面修飾剤を含む溶液)を、タンク10からポンプ12で流路11を介して、加熱部配管17に合流させることで、反応液と混合することができる。
【0134】
表面修飾剤を含む溶液が流路11を通過(流通)する速度(流通速度)は、特に制限されないが、好ましくは0.01~10mL/秒の範囲内であり、より好ましくは0.1~5mL/秒の範囲内である。
【0135】
このような流通速度であれば、表面修飾剤と二酸化バナジウム含有粒子とを十分接触させて、有機部位の割合が小さいため耐久性は確保したまま、表面修飾剤による効果(粒子の凝集抑制効果、分散安定性や保存安定性)を有効に発揮させることができる。
【0136】
水熱反応後の反応液と表面修飾剤との混合位置(配管11の設置位置)は、特に制限されないが、表面修飾剤の添加を水熱反応直後に開始するために、水熱反応部16の出口Bの直後に配置することが好ましい。また、流通式反応装置1のように、水熱反応部16の後に冷却部8を有する場合は、
図4で示すように、水熱反応部16の直後であって冷却部8の前に配置することが好ましい。
【0137】
なお、表面修飾剤と共に、後述のpH調整剤、後述の冷却工程における冷却媒体を用いる場合は、タンク10、流路11及びポンプ12により構成される別ラインを個別に設けてもよい。
【0138】
〔pH調整剤〕
流通式反応装置を用いた二酸化バナジウム含有粒子の製造方法においては、水熱反応直後の反応液に対し、さらに、タンク10より、流路11を経由してpH調整剤を添加することができる。
【0139】
pH調整剤としては、特に制限されないが、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、シュウ酸(水和物を含む)、水酸化アンモニウム、アンモニア等の有機又は無機の酸又はアルカリ等を用いることができる。
【0140】
水熱反応後の反応液のpHは、二酸化バナジウム含有粒子の粒子径、粒子径分布、二酸化バナジウム含有粒子のサーモクロミック性及び二酸化バナジウム含有粒子を含む光学フィルムの透明性の観点から、25℃において、3.0~10.0の範囲内であることが好ましく、より好ましくは4.0~9.0の範囲内である。なお、pH調節剤は、水熱反応においてバナジウム含有化合物と反応する化合物として用いたアルカリ、及び還元剤等と同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。
【0141】
上記pH調整剤は、メタノール、エタノール、水等で適宜希釈して、溶液の形態で水熱反応後の反応液と混合されることが好ましい。
【0142】
pH調整剤の添加方法としては、特に制限されず、公知の方法を用いることができる。例えば、
図4に記載の流通式反応装置1を用いる場合は、水熱反応直後の反応液に対して、pH調整剤(又はpH調整剤を含む溶液)を、タンク10からポンプ12で流路11を経由して、反応液と混合することができる。
【0143】
水熱反応後の反応液とpH調整剤との混合位置(流路11の設置位置)としては、特に制限されないが、表面修飾剤の添加を水熱反応後に開始する観点からは、水熱反応部16の後に配置することが好ましい。また、
図4で示す流通式反応装置1において、水熱反応部16の後に冷却部8を有する場合は、水熱反応部16の後であって、冷却部8の前に配置してもよいし、あるいは冷却部8の後であってタンク9の前に配置されていてもよい。
【0144】
なお、pH調整剤と共に、前述の表面修飾剤、や後述の冷却工程における冷却媒体を用いる場合は、タンク10、流路11及びポンプ12より構成される供給ラインは、それぞれ個別に設けてもよい。また、pH調整剤及び表面修飾剤、あるいはpH調整剤及び冷却媒体を混合し、1つの供給ラインにより供給させる方法であってもよい。
【0145】
また、pH調整剤の添加が、下記で説明する冷却工程よりも前に行われる場合は、これらの添加は水熱反応工程に含まれるものとし、下記の冷却工程以後に行われる場合は、冷却工程に含まれるものとする。
【0146】
〔二酸化バナジウム含有粒子プロファイル〕
本発明の二酸化バナジウム含有粒子の製造方法においては、製造される二酸化バナジウム含有粒子の平均一次粒径が1~30nmの範囲内であり、平均結晶子径は1~15nmの範囲内であることを特徴とする。
【0147】
二酸化バナジウム含有粒子の平均一次粒径は、1~30nmの範囲内であることを特徴とするが、1~20nmの範囲内であることが好ましい。このような粒子径の二酸化バナジウム含有粒子であれば、ヘイズを良好に下げ、サーモクロミック性を効果的に発現させることができる。なお、二酸化バナジウム含有粒子の粒子径は、電子顕微鏡観察や動的光散乱法に基づく粒子径測定法により測定できる。
【0148】
二酸化バナジウム含有粒子の粒子径測定に、電子顕微鏡観察を用いる場合、走査型電子顕微鏡(日立社製、Hitachi S-5000型)を用いて測定することができる。本発明では、二酸化バナジウム含有粒子の平均一次粒径(D)(nm)は、下記の方法によって測定することができる。
【0149】
二酸化バナジウム含有粒子及び水を含有する分散液を、120℃のオーブンで乾燥固化させて紛体とし、測定用の粒子サンプルを調製する。
【0150】
次いで、得られた粒子サンプルを用い、走査型電子顕微鏡(日立社製、Hitachi S-5000型)によりSEM写真を撮影する。SEM写真(1100nm×950nm)を用いて、粒子径の算出を行う。ここで、粒子径は、面積円相当径を意味する。具体的には、SEM写真において、各粒子の面積を測定し、同一の面積を有する円の直径を粒子の粒子径とした。SEM写真において、寸法および形状が最も普遍的な粒子30個を選定し、粒子30個の平均一次粒径を算出し、その平均値を平均一次粒径(D)(nm)とした。
【0151】
また、二酸化バナジウム含有粒子の平均結晶子径は、1~15nmの範囲内であることを特徴とするが、1~10nmの範囲内であることがさらに好ましい。
【0152】
本発明に係る「結晶子」とは、多結晶粒子中において完全な単結晶として存在する微小結晶の最大の領域をいう。
【0153】
図5は、本発明に係る二酸化バナジウム含有粒子の粒子構造の一例を示す模式図である。
【0154】
図5に示すように、本発明に係る二酸化バナジウム含有粒子Pは、複数の結晶子CLにより形成されている。スラリー原料液に、事前に脱塩処理を施すこと、及び水熱反応処理時の温度及び時間によって、結晶子CLの成長速度を変化させることにより、酸化バナジウム含有粒子の平均結晶子径として、1~15nmの範囲内に制御させることができる。なお、
図5に示すDは、二酸化バナジウム含有粒子Pの平均一次粒径である。
【0155】
一般に、得られた平均結晶子径Aは、結晶粒子中で同一方向に成長している結晶の大きさを表している。平均結晶子径Aが小さいということは、結晶粒子中において、特定の同一方向に成長している結晶子CLが小さいということである。事前に脱塩処理を施したスラリー原料液を適用することにより、結晶子CLが成長するため、平均一次粒径Dに対し、平均結晶子径Aが大きい結晶粒子ができる。
【0156】
本発明に係る平均結晶子径Aは、XRD(X-ray diffraction)測定により、下式(1)に示すシェラー(Scherrer)の式を用いて計算することができる。
【0157】
式(1)
A=Kλ/βcosθ
上記式(1)において、Kはシェラー定数であり、λはX線波長である。βは、回折線の半値幅である。θは回折線に関するブラッグ角である。
【0158】
《光学フィルム》
本発明に係る二酸化バナジウム含有粒子は、光学フィルムに好ましく用いることができる。ここでいう光学フィルムとは、透明基材、及び透明基材上に形成される光学機能層を有し、当該光学機能層が、樹脂及び本発明に係る二酸化バナジウム(VO2)含有粒子を含有する構成からなるサーモクロミック性を発現するフィルムである。
【0159】
光学フィルムに適用可能な透明基材としては、透明であれば特に制限はなく、ガラス、石英、透明樹脂フィルム等を挙げることができるが、フレキシブル性の付与や生産適性(ロールtoロール適性)の観点から、透明樹脂フィルムであることが好ましい。本発明でいう透明基材における「透明」とは、可視光領域における平均光線透過率が50%以上であることをいい、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、特に好ましくは80%以上である。
【0160】
本発明において、透明基材の厚さは、30~200μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは30~100μmの範囲内であり、さらに好ましくは35~70μmでの範囲内である。透明基材の厚さが30μm以上であれば、取扱い中にシワ等が発生しにくくなり、また厚さが200μm以下であれば、合わせガラス作製時、ガラス基材と貼り合わせる際のガラス曲面への追従性がよくなる。
【0161】
本発明において、透明基材は、光学フィルムのシワの生成や赤外線反射層の割れを防止する観点から、温度150℃において、熱収縮率が0.1~3.0%の範囲内であることが好ましく、1.5~3.0%の範囲内であることがより好ましく、1.9~2.7%であることがさらに好ましい。
【0162】
本発明において、光学フィルムに適用可能な透明基材としては、上述のように、透明であれば特に制限されることはなく、種々の透明樹脂フィルムを用いることができ、例えば、ポリオレフィンフィルム(例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等)、ポリエステルフィルム(例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム等)、ポリ塩化ビニルフィルム、トリアセチルセルロースフィルム等を用いることができ、好ましくはポリエステルフィルム、トリアセチルセルロースフィルムであり、より好ましくはポリエステルフィルムである。
【0163】
ポリエステルフィルムを構成するポリエステルとしては、特に限定されるものではないが、ジカルボン酸成分とジオール成分を主要な構成成分とするフィルム形成性を有するポリエステルであることが好ましい。主要な構成成分のジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルチオエーテルジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸などを挙げることができる。また、ジオール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビスフェノールフルオレンジヒドロキシエチルエーテル、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ハイドロキノン、シクロヘキサンジオールなどを挙げることができる。これらを主要な構成成分とするポリエステルの中でも、透明性、機械的強度、寸法安定性などの点から、ジカルボン酸成分として、テレフタル酸や2,6-ナフタレンジカルボン酸、ジオール成分として、エチレングリコールや1,4-シクロヘキサンジメタノールを主要な構成成分とするポリエステルが好ましい。中でも、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、及びこれらを主要な構成成分とするポリエステルや、テレフタル酸と2,6-ナフタレンジカルボン酸とエチレングリコールとからなる共重合ポリエステル、及びこれらのポリエステルの二種以上の混合物を主要な構成成分とするポリエステルが好ましい。
【0164】
透明樹脂フィルムとしては、二軸配向ポリエステルフィルムであることが特に好ましいが、未延伸又は少なくとも一方に延伸された一軸延伸ポリエステルフィルムを用いることもできる。強度向上、熱膨張抑制の点から延伸フィルムが好ましい。特に、本発明において光学フィルムを具備した合わせガラスを、自動車のフロントガラスとして用いられる際に、延伸フィルムがより好ましい。
【0165】
本発明において、透明基材として透明樹脂フィルムを用いる場合、取り扱いを容易にするために、透明性を損なわない範囲内で微粒子を含有させてもよい。当該透明樹脂フィルムに適用可能な微粒子としては、例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、シリカ、カオリン、タルク、二酸化チタン、アルミナ、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、ゼオライト、硫化モリブデン等の無機微粒子や、架橋高分子微粒子、シュウ酸カルシウム等の有機微粒子を挙げることができる。また、微粒子を添加する方法としては、フィルムを形成する原料とする樹脂(例えば、ポリエステル等)中に、微粒子を含有させる方法、押出機に直接添加する方法等を挙げることができ、このうちいずれか一方の方法を採用してもよく、二つの方法を併用してもよい。透明樹脂フィルムには必要に応じて上記微粒子の他にも各種添加剤を加えてもよい。このような添加剤としては、例えば、安定剤、潤滑剤、架橋剤、ブロッキング防止剤、酸化防止剤、染料、顔料、紫外線吸収剤などが挙げられる。
【0166】
透明基材である透明樹脂フィルムは、従来公知の一般的な方法により製造することが可能である。例えば、材料となる樹脂を溶媒と混合してドープを調製し、当該ドープを連続支持体上に流延することで製膜を行い、連続回転する無端の支持体上で一部乾燥を行った後に、無端支持体から剥離し、その後十分乾燥を行うとともに、任意に乾燥中や乾燥後に延伸処理を行うことにより、未延伸又は延伸された透明樹脂フィルムを製造する溶液流延法により作製することができる。また、例えば、材料となる樹脂を押し出し機により溶融し、環状ダイやTダイにより押し出して急冷することにより、実質的に無定形で配向していない未延伸の透明樹脂フィルムを製造する、溶融流延法により作製することができる。
【0167】
また、未延伸の透明樹脂フィルムを一軸延伸、テンター式逐次二軸延伸、テンター式同時二軸延伸、チューブラー式同時二軸延伸などの公知の方法により、透明樹脂フィルムの搬送方向(縦軸方向、MD方向)又は透明樹脂フィルムの搬送方向とは直角の横軸方向(幅手方向、TD方向)に延伸することにより、延伸透明樹脂フィルムを製造することができる。この場合の延伸倍率は、透明樹脂フィルムの原料となる樹脂に合わせて適宜選択することできるが、縦軸方向及び横軸方向にそれぞれ2~10倍の範囲内で延伸することが好ましい。また、当該延伸処理は、予め延伸された透明樹脂フィルムに対してさらに行ってもよい。
【0168】
透明樹脂フィルムは、寸法安定性の点で弛緩処理、オフライン熱処理を行ってもよい。弛緩処理は、例えば、ポリエステルフィルムの延伸製膜工程中の熱固定した後、横延伸のテンター内、又はテンターを出た後の巻き取りまでの工程で行われるのが好ましい。弛緩処理は処理温度が80~200℃の範囲内で行われることが好ましく、より好ましい処理温度は100~180℃の範囲内である。また搬送方向、横軸方向ともに、弛緩率が0.1~10%の範囲で行われることが好ましく、より好ましくは弛緩率が2~6%の範囲内で処理されることである。弛緩処理された基材は、オフライン熱処理を施すことにより耐熱性が向上し、さらに、寸法安定性が良好になる。
【0169】
透明樹脂フィルムは、製膜過程で片面又は両面にインラインで下引層塗布液を塗布することができる。透明樹脂フィルムに対して有用な下引層塗布液に使用する樹脂としては、ポリエステル樹脂、(メタ)アクリル変性ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリエチレンイミンビニリデン樹脂、ポリエチレンイミン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、変性ポリビニルアルコール樹脂及びゼラチン等が挙げられ、いずれも好ましく用いることができる。これらの下引層には、従来公知の添加剤を加えることもできる。そして、上記の下引層は、ロールコート、グラビアコート、ナイフコート、ディップコート、スプレーコート等の公知の方法によりコーティングすることができる。上記の下引層の塗布量としては、0.01~2g/m2(乾燥状態)程度とすることができる。
【0170】
光学フィルムの透明基材上には、樹脂及び本発明に係る二酸化バナジウム含有粒子を含有する光学機能層が設けられる。
【0171】
ここで、樹脂としては、特に制限されず、広く一般に光学フィルムの光学機能層に使用されるのと同様の樹脂が使用でき、好ましくは水溶性高分子が使用できる。ここでいう「水溶性高分子」とは、25℃の水100gに0.001g以上溶解する高分子のことをいう。水溶性高分子の具体例としては、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ゼラチン(例えば、特開2006-343391号公報記載のゼラチンを代表とする親水性高分子)、デンプン、グアーガム、アルギン酸塩、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシアルキルセルロース、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリエチレンイミン、ポリエチレングリコール、ポリアルキレンオキサイド、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルメチルエーテル、カルボキシビニルポリマー、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、ナフタリンスルホン酸縮合物や、アルブミン、カゼイン等の蛋白質、アルギン酸ソーダ、デキストリン、デキストラン、デキストラン硫酸塩等の糖誘導体などを挙げることができる。
【0172】
光学機能層における二酸化バナジウム含有粒子の含有量は、所望のサーモクロミック性を得る観点から、光学機能層の総質量に対して1~60質量%の範囲内であることが好ましく、5~50質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0173】
光学機能層には、本発明の目的とする効果を損なわない範囲で、従来公知の各種添加剤を使用することができる。適用可能な各種の添加剤を、以下に列挙する。例えば、特開昭57-74193号公報、特開昭57-87988号公報、及び特開昭62-261476号公報等に記載の紫外線吸収剤、特開昭57-74192号公報、特開昭57-87989号公報、特開昭60-72785号公報、特開昭61-146591号公報、特開平1-95091号公報、及び特開平3-13376号公報等に記載されている退色防止剤、アニオン、カチオン又はノニオンの各種界面活性剤、特開昭59-42993号公報、特開昭59-52689号公報、特開昭62-280069号公報、特開昭61-242871号公報、及び特開平4-219266号公報等に記載されている蛍光増白剤、硫酸、リン酸、酢酸、クエン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム等のpH調整剤、消泡剤、ジエチレングリコール等の潤滑剤、防腐剤、防黴剤、帯電防止剤、マット剤、熱安定剤、酸化防止剤、難燃剤、結晶核剤、無機粒子、有機粒子、減粘剤、滑剤、赤外線吸収剤、色素、顔料等の公知の各種添加剤などが挙げられる。
【0174】
光学フィルムの製造方法(光学機能層の形成方法)としては、特に制限されず、本発明に係る二酸化バナジウム含有粒子を使用する以外は、公知の方法と同様にして、又は適宜修正して適用できる。具体的には、二酸化バナジウム含有粒子を含む塗布液を調製し、当該塗布液を湿式塗布方式により透明基材上に塗布、乾燥して光学機能層を形成する方法が好ましい。
【0175】
上記方法において、湿式塗布方式としては、特に制限されず、例えば、ロールコーティング法、ロッドバーコーティング法、エアナイフコーティング法、スプレーコーティング法、スライド型カーテン塗布法、又は米国特許第2761419号明細書、米国特許第2761791号明細書などに記載のスライドホッパー塗布法、エクストルージョンコート法などが挙げられる。
【実施例】
【0176】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、特記しない限り、「%」及び「部」は、それぞれ、「質量%」及び「質量部」を意味する。なお、各図の説明で、構成要件の後に記載の数字は、各図に記載の符号を表す。
【0177】
《二酸化バナジウム含有粒子の調製》
〔二酸化バナジウム含有粒子101の調製〕
(スラリー原料液Aの調製)
原料液1として酸化硫酸バナジウム(IV)(VOSO4)19.0gをイオン交換水に溶解して300mLとし、この液を撹拌しながら、アルカリとして3.0mol/LのNH3水溶液を68mL添加して、スラリー原料液Aを調製した。
【0178】
(スラリー原料液Aの脱塩処理)
次いで、酸化硫酸バナジウム(IV)とアルカリを含むスラリー原料液Aに下記遠心分離法による脱塩処理1を施して、脱塩処理済みのスラリー原料液1を調製した。
【0179】
〈脱塩処理1〉
公知の遠心分離装置を用い、30℃で上記酸化硫酸バナジウム(IV)とアルカリを含むスラリー原料液Aに遠心分離処理による固液分離を行った後、水系の分離液の一部を系外に排出し、その後、排出したのと同容量のイオン交換水を追加添加し、その後分散処理を行い、この操作を繰り返して、不要の塩類を排出して、スラリー原料液の電気伝導率を1mS/m、pHを3.0mol/LのNH3水溶液を用いて7.5に調整して、脱塩処理済みのスラリー原料液1を調製した。
【0180】
(水熱反応処理)
次いで、上記脱塩処理を施したスラリー原料液1について、
図3及び
図4に記載の水熱反応部を有する流通式反応装置を用い、下記の方法に従って、二酸化バナジウム含有粒子101を調製した。
【0181】
図3及び
図4に記載のスラリー原料液容器5に、原料液1として上記の方法で脱塩処理を施した酸化硫酸バナジウム(IV)とアルカリを含み、電気伝導率(mS/m)が1mS/m、pHが7.5であるスラリー原料液1を貯留した。一方、
図3及び
図4に記載のイオン交換水容器2には、原料液2としてイオン交換水を収納した。
【0182】
酸化硫酸バナジウム(IV)とアルカリを含む脱塩処理済みのスラリー原料液1は、スラリー原料液容器5から流路6内をポンプ7により送液し、加熱媒体15で、25℃で、30MPaの条件となるように加圧した。
【0183】
一方、原料液2であるイオン交換水は、脱気処理後、イオン交換水容器2から流路3内をポンプ4により送液し、加熱媒体13で、440℃で、30MPaの条件で加熱加圧して、超臨界水を得た。
【0184】
次いで、
図3及び
図4で示す合流点MPで、酸化硫酸バナジウム(IV)とアルカリを含むスラリー原料液1と、超臨界水であるイオン交換水を、体積比として、スラリー原料液1:イオン交換水=1:4となる条件で混合して、反応液を形成し、超臨界を維持した状態で、反応液を水熱反応部である水熱反応部16に送液した。水熱反応部では、加熱媒体14内に配置されている加熱部配管17に送液した。加熱配管部17における水熱反応条件としては、440℃、30MPaの条件で、処理時間(通過時間)として5秒となる条件で行い、二酸化バナジウム(VO
2)含有粒子101を形成した。次いで、冷却部8にて反応液を冷却し、二酸化バナジウム含有粒子101及び水を含有する分散液1を調製した。
【0185】
〔二酸化バナジウム含有粒子102の調製〕
上記二酸化バナジウム含有粒子101の調製において、遠心分離法による脱塩処理1を施して調製したスラリー原料液1に代えて、下記の限外濾過法による脱塩処理2を施して調製したスラリー原料液2を用いた以外は同様にして、二酸化バナジウム含有粒子102を調製した。
【0186】
(脱塩処理済みのスラリー原料液2の調製)
〈脱塩処理2〉
図2に記載の限外濾過装置50を用いて、30℃の酸化硫酸バナジウム(IV)とアルカリを含むスラリー原料液Aに限外濾過法による脱塩処理2を施して、脱塩処理済みのスラリー原料液2を調製した。
【0187】
調整釜51に、液温が30℃のスラリー原料液A(52、初期電気伝導率:3400mS/m)を貯留して、循環ポンプ54を用いて循環させながら、限外濾過部55で、スラリー原料A1中の塩類を含む水分を排出口56より、排出量V1で排出し、次いで、アンモニア添加よりpHを10.0に調整したイオン交換水58のストック釜57より、供給ライン59を経由して、限外濾過部55における排出量V1と同容量のpH10のイオン交換水58を添加量V2で添加した。電気伝導率計60により、脱塩したスラリー原料液52の電気伝導率(mS/m)を測定しながらこの操作を繰り返し行い、スラリー原料液52の25℃における電気伝導率(mS/m)が3000mS/mとなった時点で、脱塩操作を終了し、その後分散処理を行い、脱塩処理済みのスラリー原料液2を調製した。この時の脱塩処理済みのスラリー原料液2の25℃で測定したpHは10.2であった。
【0188】
〔二酸化バナジウム含有粒子103の調製〕
上記二酸化バナジウム含有粒子102の調製において、水熱反応装置として、水熱反応部を有する流通式反応装置に代えて、下記のオートクレーブを用いた以外は同様にして、二酸化バナジウム含有粒子103を調製した。
【0189】
(水熱反応処理:オートクレーブ)
脱塩処理済みのスラリー原料液2(電気伝導率:3000mS/m、pH:10.2)を、内容積が500mLのオートクレーブに入れ、300℃、8.6MPaで6時間の水熱反応処理を行い、二酸化バナジウム含有粒子103を形成した。次いで、反応液を冷却して、二酸化バナジウム含有粒子103を含有する分散液を調製した。
【0190】
〔二酸化バナジウム含有粒子104の調製〕
上記二酸化バナジウム含有粒子102の調製において、脱塩処理済みのスラリー原料液2に代えて、30℃のスラリー原料液Aを用いた限外濾過法で、脱塩処理条件を適宜変更して、電気伝導率が100mS/m、pHが8.0のスラリー原料液3(脱塩処理3)を調製し、これを用いた以外は同様にして、二酸化バナジウム含有粒子104を調製した。
【0191】
〔二酸化バナジウム含有粒子105の調製〕
上記二酸化バナジウム含有粒子102の調製において、脱塩処理済みのスラリー原料液2に代えて、30℃のスラリー原料液Aを用いた限外濾過法で、脱塩処理条件を適宜変更して電気伝導率が620mS/m、pHが9.2のスラリー原料液4(脱塩処理4)を調製し、これを用いた以外は同様にして、二酸化バナジウム含有粒子105を調製した。
【0192】
〔二酸化バナジウム含有粒子106の調製〕
上記二酸化バナジウム含有粒子102の調製において、脱塩処理済みのスラリー原料液2に代えて、30℃のスラリー原料液Aを用いた限外濾過法で、脱塩処理条件を適宜変更して、電気伝導率が1000mS/m、pHが10.7のスラリー原料液5(脱塩処理5)を調製し、これを用いた以外は同様にして、二酸化バナジウム含有粒子106を調製した。
【0193】
〔二酸化バナジウム含有粒子107の調製〕
上記二酸化バナジウム含有粒子101の調製において、脱塩処理済みのスラリー原料液1に代えて、30℃のスラリー原料液Aを用いた遠心分離法で、脱塩処理条件を適宜変更して、電気伝導率が620mS/m、pHが8.0のスラリー原料液6(脱塩処理6)を調製し、これを用いた以外は同様にして、二酸化バナジウム含有粒子107を調製した。
【0194】
〔二酸化バナジウム含有粒子108の調製〕
上記二酸化バナジウム含有粒子107の調製において、電気伝導率が620mS/m、pHが8.0のスラリー原料液6(脱塩処理6)を用い、流通式反応装置における水熱反応条件を、反応温度を195℃、反応圧力を10MPa、処理時間を2秒に、それぞれ変更した以外は同様にして、二酸化バナジウム含有粒子108を調製した。
【0195】
〔二酸化バナジウム含有粒子109の調製〕
上記二酸化バナジウム含有粒子107の調製において、電気伝導率が620mS/m、pHが8.0のスラリー原料液6(脱塩処理6)を用い、流通式反応装置における水熱反応条件として、処理時間を2秒に変更した以外は同様にして、二酸化バナジウム含有粒子109を調製した。
【0196】
〔二酸化バナジウム含有粒子110の調製〕
上記二酸化バナジウム含有粒子102の調製において、脱塩処理済みのスラリー原料液2に代えて、30℃のスラリー原料液Aを用いた限外濾過法で、脱塩処理条件を適宜変更して電気伝導率が200mS/m、pHが11.8のスラリー原料液7(脱塩処理7)を調製し、これを用いた以外は同様にして、二酸化バナジウム含有粒子110を調製した。
【0197】
〔二酸化バナジウム含有粒子111の調製〕
上記二酸化バナジウム含有粒子104の調製において、脱塩処理済みのスラリー原料液3に代えて、30℃のスラリー原料液Aを用いた限外濾過法で、脱塩処理条件を適宜変更して電気伝導率が100mS/m、pHが5.5のスラリー原料液8(脱塩処理8)を調製し、これを用いた以外は同様にして、二酸化バナジウム含有粒子111を調製した。
【0198】
〔二酸化バナジウム含有粒子112の調製〕
上記二酸化バナジウム含有粒子105の調製において、スラリー原料液Aの限外濾過時の処理温度を50℃に変更した以外は同様にして調製した電気伝導率が620mS/m、pHが8.0のスラリー原料液9(脱塩処理9)を用いた以外は同様にして、二酸化バナジウム含有粒子112の調製を調製した。
【0199】
〔二酸化バナジウム含有粒子113の調製〕
上記二酸化バナジウム含有粒子105の調製において、スラリー原料液Aを下記スラリー原料液Bに変更し、かつ、脱塩処理条件を適宜変更して電気伝導率が620mS/m、pHが8.0のスラリー原料液10(脱塩処理10)を調製し、これを用いた以外は同様にして、二酸化バナジウム含有粒子113を調製した。
【0200】
(スラリー原料液Bの調製)
原料液1として酸化硫酸バナジウム(IV)(VOSO4)19.0gをイオン交換水に溶解して300mLとし、この液を撹拌しながら、アルカリとして3.0mol/LのNaOH水溶液を68mL添加して、スラリー原料液Bを調製した。
【0201】
〔二酸化バナジウム含有粒子114の調製〕
上記二酸化バナジウム含有粒子105の調製において、スラリー原料液Aの限外濾過時のpHを8.0に変更し、かつ流通式反応装置における水熱反応条件を、反応温度を380℃、処理時間を10秒に、それぞれ変更した以外は同様にして、二酸化バナジウム含有粒子114を調製した。
【0202】
〔二酸化バナジウム含有粒子115の調製〕
上記二酸化バナジウム含有粒子105の調製において、スラリー原料液Aの限外濾過時のpHを8.0に変更し、かつ流通式反応装置における水熱反応条件として、反応温度を380℃に変更した以外は同様にして、二酸化バナジウム含有粒子115を調製した。
【0203】
〔二酸化バナジウム含有粒子116の調製〕
上記二酸化バナジウム含有粒子106の調製において、流通式反応装置における水熱反応条件を、反応温度を390℃、反応圧力を28.0MPa、処理時間を60秒に、それぞれ変更した以外は同様にして、二酸化バナジウム含有粒子116を調製した。
【0204】
〔二酸化バナジウム含有粒子117の調製〕
上記二酸化バナジウム含有粒子106の調製において、流通式反応装置における水熱反応条件を、反応温度を410℃、反応圧力を35.0MPa、処理時間を10秒に、それぞれ変更した以外は同様にして、二酸化バナジウム含有粒子117を調製した。
【0205】
以上により調製した各二酸化バナジウム含有粒子の詳細を、表Iに示す。
【0206】
【0207】
《光学フィルムの作製》
〔光学フィルム101の作製〕
厚さが50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡製A4300、両面易接着層付)上に、下記組成の光学機能層形成用塗布液1を、ダイコーターを用いて乾燥膜厚が2.0μmになるように塗布量を調整して湿式塗布を行い、90℃で1分間乾燥させて、サーモクロミックフィルムである光学フィルム101を作製した。
【0208】
〈光学機能層形成用塗布液1の調製〉
二酸化バナジウム含有粒子101を含む分散液 9.3質量部(固形分)
樹脂バインダー:(ポリ-N-ビニルアセトアミド、商品名:GE191-103、昭和電工社製、分子量900000) 90.7質量部
上記の各構成材料を順次添加、混合及び溶解し、固形分濃度が3.0質量%になるように水で希釈し、水系の光学機能層形成用塗布液1を調製した。
【0209】
〔光学フィルム102~117の作製〕
上記光学フィルム101の作製において、光学機能層形成用塗布液1の調製に用いた二酸化バナジウム含有粒子101を、それぞれ二酸化バナジウム含有粒子102~117に変更した以外は同様にして、光学フィルム102~117を作製した。
【0210】
《二酸化バナジウム含有粒子及び光学フィルムの評価》
〔二酸化バナジウム含有粒子の評価〕
上記調製した各二酸化バナジウム含有粒子について、下記の各評価を行った。
【0211】
(平均結晶子径の測定)
各二酸化バナジウム含有粒子について、粉末X線回折装置(リガク社製、MiniFlexII)を用いて粒子30個について結晶子径を測定し、その平均値を求めた。X線源としては、CuKα線を使用し、平均結晶子径は、X線回折のメインピーク((011)面)を用いて、下式(1)のシェラーの式により算出した。
【0212】
式(1)
D=Kλ/βcosθ
上記式(1)において、Kはシェラー定数であり、λはX線波長である。βは、回折線の半値幅である。θは回折線に関するブラッグ角である。
【0213】
次いで、上記測定した平均結晶子径について、下記のランクで分類した。
【0214】
〇:平均結晶子径が、1nm以上、15nm以下
×:平均結晶子径が、15nmを超えている
(平均一次粒径の測定)
上記調製した各二酸化バナジウム含有粒子及び水を含有する分散液を、120℃のオーブンで乾燥固化させて紛体とし、測定用の粒子サンプルを調製した。
【0215】
次いで、得られた粒子サンプルを用い、走査型電子顕微鏡(日立社製、Hitachi S-5000型)によりSEM写真を撮影した。撮影したSEM写真(1100nm×950nm)を用いて、粒子径の算出を行った。二酸化バナジウム含有粒子の粒子径は、面積円相当径を適用し、SEM写真において、各二酸化バナジウム含有粒子の面積を測定し、同一の面積を有する円の直径をもって、二酸化バナジウム含有粒子の粒子径とした。SEM写真において、寸法および形状が最も普遍的な粒子30個を選定し、粒子30個の平均一次粒径を算出し、その平均値を平均一次粒径D(nm)とした。
【0216】
次いで、上記測定した平均一次粒径について、下記のランクで分類した。
【0217】
◎:平均一次粒径が、1nm以上、20nm以下
○:平均一次粒径が、20nmを超えて、30nm以下
△:平均一次粒径が、30nmを超えて、40nm以下
×:平均一次粒径が、40nmを超えている。
【0218】
〔光学フィルムの評価〕
(ヘイズの評価)
上記作製した各光学フィルムについて、室温にて、ヘイズメーター(日本電色工業社製、NDH2000)を用いて、ヘイズ(%)を測定し、下記の基準に従ってヘイズの評価を行った。
【0219】
◎:ヘイズが、1.5%未満である
○:ヘイズが、1.5%以上、2.0%未満である
△:ヘイズが、2.0%以上、3.0%未満である
×:ヘイズが、3.0%以上である。
【0220】
(遮熱性の評価(ΔTSERの評価))
上記作製した各光学フィルムについて、サーモクロミック性の尺度である遮熱性(TSER)差(ΔTSER)を評価した。
【0221】
具体的には、分光光度計(積分球使用、株式会社日立製作所製、U-4000型)を用いて300~2500nmの波長領域において、2nmおきの光透過率及び光反射率を、各光学フィルムの温度が低温時(10℃)と、高温時(80℃)の条件下で測定した。
【0222】
次いで、JIS R 3106:1998に記載の方法に従い、日射反射率R(DS)と日射透過率T(DS)を求めた後、下記式(2)から算出される低温時と高温時の遮熱性能(TSER、%)を求め、次いで、式(3)に従ってΔTSER(%)を算出し、下記評価基準に従って遮熱性を評価した。
【0223】
式(2)
TSER(%)=((100-T(DS)-R(DS))×0.7143)+R(DS)
式(3)
ΔTSER(%)=TSER(高温)-TSER(低温)
○:ΔTSERが、13.0%以上である
△:ΔTSERが、8.0%以上、13.0%未満である
×:ΔTSERが、8.0%未満である。
【0224】
以上により得られた結果を、表IIに示す。
【0225】
【0226】
表IIに記載の結果より明らかなように、水熱反応前に、バナジウム含有化合物を含むスラリー原料液に脱塩処理を施し、スラリー原料液の25℃におけるpHを8.0~11.0の範囲内とし、かつ25℃における電気伝導率を10~1000mS/mの範囲内としたのち、水熱合成法により処理することにより、二酸化バナジウム含有粒子の平均一次粒径を1~30nmの範囲内、平均結晶子径を1~15nmの範囲内とすることができ、当該二酸化バナジウム含有粒子を適用した光学フィルムは、優れたサーモクロミック性(ΔTSER)と透明性(ヘイズ耐性)を両立させることができることを確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0227】
本発明の二酸化バナジウム含有粒子の製造方法により製造した二酸化バナジウム含有粒子は、平均粒径が小さく、低ヘイズで、サーモクロミック性に優れ、室内や車両内等の内部環境と外部環境との間で大きな熱交換が生じる箇所、例えば、建築用窓ガラスや車体用窓ガラス等においては、省エネルギー化と快適性の確保を両立することができる光学フィルム等に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0228】
1 流通式反応装置
2 イオン交換水容器
3、6、11、18 流路(配管)
4、7、12 ポンプ
5 スラリー原料液容器
8 冷却部
9、10 タンク
13、14、15 加熱媒体
16 水熱反応部
17 加熱部配管
19 制御弁
C 冷却媒体
IN 加熱媒体の入口
OUT 加熱媒体の出口
L 加熱部配管のライン長
MP 合流点
TC 温度センサー
50 限外濾過装置
51 調整釜
52 スラリー原料液
53 配管
54 循環ポンプ
55 限外濾過部
56 排出口
57 補充用pH調整水ストック釜
58 補充用pH調整水
59 補充用pH調整水供給ライン
60 電気伝導計
61 pHメーター
V1 排出量
V2 補充用pH調整水の添加量
A 平均結晶子径
CL 結晶子
D 粒子径
P 二酸化バナジウム含有粒子