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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】音響装置及び音響再生方法
(51)【国際特許分類】
   H04R 3/00 20060101AFI20221109BHJP
   H04R 15/00 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
H04R3/00 310
H04R15/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020551017
(86)(22)【出願日】2018-10-03
(86)【国際出願番号】 JP2018037088
(87)【国際公開番号】W WO2020070837
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】514315159
【氏名又は名称】株式会社ソシオネクスト
(74)【代理人】
【識別番号】100189430
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100190805
【弁理士】
【氏名又は名称】傍島 正朗
(72)【発明者】
【氏名】宮阪 修二
【審査官】大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-165099(JP,A)
【文献】実開昭64-028100(JP,U)
【文献】国際公開第2017/094429(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 3/00
H04R 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音声信号を再生する音響装置であって、
前記音声信号のうち高音域に対応する信号の再生を担う第1の音響再生器と、
低周波数側のカットオフ周波数から高周波数側のカットオフ周波数までの再生帯域を有し、前記音声信号のうち、前記高音域より低い中音域に対応する信号の再生を担う第2の音響再生器と、
前記音声信号のうち前記低周波数側のカットオフ周波数未満の特定周波数に対応する基音信号に対する複数の倍音信号を生成する倍音生成器と
前記高音域に対応する信号を選択的に通過させて、前記第1の音響再生器に供給する第1のフィルタと、
前記中音域に対応する信号を選択的に通過させて、前記第2の音響再生器に供給する第2のフィルタと、
前記基音信号を選択的に通過させて、前記倍音生成器に供給する第3のフィルタとを備え、
前記複数の倍音信号の少なくとも一部は、前記第2の音響再生器の再生帯域に含まれ
前記第2のフィルタは、前記特定周波数の2倍の周波数を通過させるバンドパスフィルタであり、
前記第1のフィルタは、カットオフ周波数が前記特定周波数の2倍の周波数より大きいハイパスフィルタである
音響装置。
【請求項2】
前記第2の音響再生器は、ウーファである
請求項1に記載の音響装置。
【請求項3】
前記第2の音響再生器は、アクチュエータと当該アクチュエータによって駆動される前記第1の音響再生器を保持する構造体を含む
請求項1に記載の音響装置。
【請求項4】
前記第2のフィルタ及び前記第3のフィルタの周波数特性を設定する設定器を備える
請求項1~3のいずれか1項に記載の音響装置。
【請求項5】
前記第2のフィルタ及び前記第3のフィルタの周波数特性を設定する設定器を備え、
前記第2の音響再生器は、アクチュエータと当該アクチュエータによって駆動される前記第1の音響再生器を保持する構造体を含み、
前記設定器は、前記構造体に加わる付加荷重の質量に応じて、前記第2のフィルタ及び前記第3のフィルタの周波数特性を設定する
請求項に記載の音響装置。
【請求項6】
前記複数の倍音信号は、前記第1の音響再生器に供給されない
請求項1~のいずれか1項に記載の音響装置。
【請求項7】
前記複数の倍音信号は、前記第1の音響再生器の再生帯域に含まれない
請求項1~のいずれか1項に記載の音響装置。
【請求項8】
音声信号を再生する音響装置であって、
前記音声信号のうち高音域に対応する信号の再生を担う第1の音響再生器と、
低周波数側のカットオフ周波数から高周波数側のカットオフ周波数までの再生帯域を有し、前記音声信号のうち、前記高音域より低い中音域に対応する信号の再生を担う第2の音響再生器と、
前記音声信号のうち前記低周波数側のカットオフ周波数未満の特定周波数に対応する基音信号に対する複数の倍音信号を生成する倍音生成器とを備え、
前記複数の倍音信号の少なくとも一部は、前記第2の音響再生器の再生帯域に含まれ
前記複数の倍音信号は、前記第1の音響再生器の再生帯域に含まれない
音響装置。
【請求項9】
音声信号のうち高音域に対応する信号の再生を担う第1の音響再生器と、低周波数側のカットオフ周波数から高周波数側のカットオフ周波数までの再生帯域を有し、前記音声信号のうち、前記高音域より低い中音域に対応する信号の再生を担う第2の音響再生器と、前記高音域に対応する信号を選択的に通過させて、前記第1の音響再生器に供給する第1のフィルタと、前記中音域に対応する信号を選択的に通過させて、前記第2の音響再生器に供給する第2のフィルタと、前記音声信号のうち前記低周波数側のカットオフ周波数未満の特定周波数に対応する基音信号を選択的に通過させる第3のフィルタとを用いて前記音声信号を再生する音響再生方法であって、
前記第3のフィルタから供給される記基音信号に対する複数の倍音信号を生成する倍音生成ステップと、
前記複数の倍音信号の少なくとも一部を、前記第2の音響再生器で再生するステップとを含み、
前記第2のフィルタは、前記特定周波数の2倍の周波数を通過させるバンドパスフィルタであり、
前記第1のフィルタは、カットオフ周波数が前記特定周波数の2倍の周波数より大きいハイパスフィルタである
音響再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、音声信号のうち高音域に対応する信号の再生を担う第1の音響再生器と、音声信号のうち中音域に対応する信号の再生を担う第2の音響再生器とを用いる音響装置及び音響再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スピーカなどの音響装置において、コスト、筐体のデザイン性重視などのため、音声信号のうち低音成分を再生するのに十分な筐体の容量が確保できない場合がある。低音成分を再生できないスピーカの再生帯域を聴感的に拡大する方法として、ミッシングファンダメンタル現象を利用した技術が実用化されている。ミッシングファンダメンタル現象とは、例えば、基音を80Hzとした場合、基音を出音せず、その倍音である160Hz、240Hz、320Hz、400Hz、・・・の音だけを同時に出音すると、存在しない基音の音程が知覚されるという聴覚の現象である。この現象を利用すれば、例えば、基音を再生できない小型のスピーカであっても、その倍音を音声信号に付加することで、聴感的には基音を再生できるということになる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4286510号公報
【文献】特許第5680487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ミッシングファンダメンタル現象を利用した再生方法においては、倍音が強く知覚される場合がある。この場合、元の音声信号には存在しない倍音が煩く感じられ、ユーザに不快感を与える場合がある。
【0005】
また、中低音の再生と、スピーカの小型化との両立に関する他の技術として、アクチュエータと振動板とを用いる技術が提案されている(特許文献2)。特許文献2には、振動板としてスピーカの筐体の一部などを利用することで小型化を実現し、かつ、アクチュエータに対する慣性質量要素を付加することで、中低音の再生を実現している。しかしながら、特許文献2に記載された技術において、低音の再生を実現するためには、慣性質量要素を大型化する必要がある。このため、スピーカの小型化を実現できない。
【0006】
本開示は、このような問題を解決するためになされたものであり、低音域専用の音響再生器を用いることなく、高音質な低音を再生できる音響装置及び音響再生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本開示の一形態に係る音響装置は、音声信号を再生する音響装置であって、前記音声信号のうち高音域に対応する信号の再生を担う第1の音響再生器と、低周波数側のカットオフ周波数から高周波数側のカットオフ周波数までの再生帯域を有し、前記音声信号のうち、前記高音域より低い中音域に対応する信号の再生を担う第2の音響再生器と、前記音声信号のうち前記低周波数側のカットオフ周波数未満の特定周波数に対応する基音信号に対する複数の倍音信号を生成する倍音生成器とを備え、前記複数の倍音信号の少なくとも一部は、前記第2の音響再生器の再生帯域に含まれる。
【0008】
また、上記目的を達成するために、本開示の一形態に係る音響再生方法は、音声信号のうち高音域に対応する信号の再生を担う第1の音響再生器と、低周波数側のカットオフ周波数から高周波数側のカットオフ周波数までの再生帯域を有し、前記音声信号のうち、前記高音域より低い中音域に対応する信号の再生を担う第2の音響再生器とを用いて前記音声信号を再生する音響再生方法であって、前記音声信号のうち前記低周波数側のカットオフ周波数未満の周波数に対応する基音信号に対する複数の倍音信号を生成する倍音生成ステップと、前記複数の倍音信号の少なくとも一部を、前記第2の音響再生器で再生するステップとを含む。
【発明の効果】
【0009】
本開示により、低音域専用の音響再生器を用いることなく、高音質な低音を再生できる音響装置及び音響再生方法を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施の形態1に係る音響装置の構成を示すブロック図である。
図2図2は、実施の形態1に係る第1のフィルタ、第2のフィルタ及び第3のフィルタの周波数特性を示すグラフである。
図3図3は、実施の形態1に係る倍音生成器が生成する倍音信号と第1の音響再生器及び第2の音響再生器の再生帯域との関係を示す図である。
図4図4は、実施の形態1に係る音響再生方法を示すフローチャートである。
図5図5は、実施の形態1に係る第1の音響再生器の再生帯域と、第2の音響再生器の再生帯域と、基音信号に対応する特定周波数の帯域とを示す図である。
図6図6は、音声信号を音符で表現した図である。
図7図7は、実施の形態1に係る音響装置が再生する音声信号の周波数と知覚レベルとの関係を示すグラフである。
図8図8は、比較例の音響装置における周波数と出音される信号のエネルギーとの関係を示すグラフである。
図9図9は、比較例の音響装置が再生する音声信号の周波数と知覚レベルとの関係を示すグラフである。
図10図10は、実施の形態1の変形例1に係る音響装置の構成を示すブロック図である。
図11図11は、実施の形態1の変形例1に係る第1の音響再生器及び第2の音響再生器の再生帯域を示すグラフである。
図12図12は、実施の形態1の変形例2に係る音響装置の構成を示すブロック図である。
図13図13は、実施の形態2に係る音響装置の構成を示すブロック図である。
図14図14は、実施の形態2に係るアクチュエータと振動板とその全体に加わる荷重体との関係を示す構造図である。
図15A図15Aは、実施の形態2に係るアクチュエータに加わる荷重とアクチュエータによる振動の周波数特性との関係を示す概念図である。
図15B図15Bは、実施の形態2に係る荷重に対するフィルタの周波数特性の設定例を示す図である。
図16A図16Aは、設置場所で使用されている素材の硬さとアクチュエータによる振動の周波数特性との関係を示す概念図である。
図16B図16Bは、実施の形態2に係る設定器が有する操作手段の一例を示す図である。
図16C図16Cは、実施の形態2に係る設定器が有するテーブルの一例を示す図である。
図17図17は、実施の形態2の変形例1に係る音響装置の構成を示すブロック図である。
図18図18は、本開示に係る音響装置の機能をソフトウェアにより実現するコンピュータのハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本開示の一具体例を示す。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、規格、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序等は、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、本開示の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、各図は、必ずしも厳密に図示したものではない。各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化する場合がある。
【0012】
(実施の形態1)
実施の形態1に係る音響装置及び音響再生方法について、説明する。
【0013】
[1-1.構成]
まず、本実施の形態に係る音響装置の構成について図面を参照しながら説明する。図1は、本実施の形態に係る音響装置100の構成を示すブロック図である。音響装置100は、音声信号を再生する装置であって、図1に示されるように、第1の音響再生器111と、第2の音響再生器112と、倍音生成器130とを備える。本実施の形態では、音響装置100は、第1のフィルタ121と、第2のフィルタ122と、第3のフィルタ123と、加算器140とをさらに備える。
【0014】
なお、音響装置100に入力される音声信号は、アナログ信号であってもよいし、デジタル信号であってもよい。例えば、音声信号がデジタル信号である場合には、音響装置100は、第1の音響再生器111及び第2の音響再生器112がデジタル信号をアナログ信号に変換するD/A変換器及びアナログ信号を増幅する増幅器を有してもよい。
【0015】
第1の音響再生器111は、音響装置100に入力される音声信号のうち高音域に対応する信号の再生を担う音響再生器である。本実施の形態では、高音域とは、例えば300Hz以上の周波数帯域を意味する。第1の音響再生器として、例えば所謂フルバンドのスピーカ、ツイータなど高音域をフラットな特性で再生できるスピーカを用いることができる。
【0016】
第2の音響再生器112は、音響装置100に入力される音声信号のうち高音域より低い中音域に対応する信号の再生を担う音響再生器である。本実施の形態では中音域とは例えば120Hz以上、300Hz未満の周波数帯域を意味する。第2の音響再生器112は、低周波数側のカットオフ周波数から高周波数側のカットオフ周波数までの再生帯域を有する。ここで用いられるカットオフ周波数とは、第2の音響再生器112のゲインが最大値から6dB低下する周波数である。
【0017】
第2の音響再生器112として、例えば、音声信号に同期して振動するアクチュエータ115と、アクチュエータによって駆動される振動板116とを組み合わせた音響再生器を用いることができる。アクチュエータ115は、振動板116を振動させる機器であり、例えば、磁歪アクチュエータなどを用いることができる。また、振動板116として、例えば、第1の音響再生器111を保持する構造体を用いることができる。具体的には、音響装置100の筐体の底板などを振動板116として用いることができる。これにより、振動板116として別途部材を音響装置100に追加することなく、第2の音響再生器112を形成できる。したがって、第2の音響再生器112を備えることに伴う音響装置100の大型化を抑制できる。
【0018】
第1のフィルタ121は、音声信号のうち高音域に対応する信号を選択的に通過させて、第1の音響再生器111に供給するフィルタである。第1のフィルタ121は、第1の音響再生器111が再生する周波数成分を通過させる。本実施の形態では、第1のフィルタ121は、カットオフ周波数が後述する特定周波数の2倍の周波数より大きいハイパスフィルタである。第1のフィルタ121は、例えば、300Hz以上の周波数に対応する信号を選択的に透過させる。ここで、第1のフィルタ121の周波数特性について図2を用いて説明する。図2は、本実施の形態に係る第1のフィルタ121、第2のフィルタ122及び第3のフィルタ123の周波数特性を示すグラフである。図2の横軸は、周波数を示し、縦軸は、ゲインを示す。図2の太い実線のグラフで示されるように、第1のフィルタ121は、カットオフ周波数が約300Hzであるハイパスフィルタである。ここで、カットオフ周波数は、ゲインが最大値から6dB低下する周波数である。
【0019】
第2のフィルタ122は、音声信号のうち中音域に対応する信号を選択的に通過させて、第2の音響再生器112に供給するフィルタである。第2のフィルタ122は、第2の音響再生器112が再生する周波数成分を通過させる。本実施の形態では、第2のフィルタ122は、後述する特定周波数の2倍の周波数を通過させるバンドパスフィルタである。第2のフィルタ122は、例えば、120Hzから300Hzまでの周波数に対応する信号を選択的に通過させる。つまり、図2の破線のグラフで示されるように、第2のフィルタ122は、低周波数側のカットオフ周波数が約120Hz、高周波数側のカットオフ周波数が約300Hzであるバンドパスフィルタである。
【0020】
第3のフィルタ123は、第2の音響再生器112の低周波数側のカットオフ周波数未満の特定周波数に対応する基音信号を選択的に通過させて、倍音生成器に供給するフィルタである。本実施の形態では、第3のフィルタ123は、例えば、60Hz以上、120Hz未満の特定周波数に対応する基音信号を選択的に通過させるバンドパスフィルタである。つまり、図2の細い実線で示されるように、第3のフィルタ123は、低周波数側のカットオフ周波数が60Hz、高周波数側のカットオフ周波数が120Hzであるバンドパスフィルタである。なお、本実施の形態では、特定周波数は、60Hz以上、120Hz未満であるが、特定周波数の範囲は、これに限定されない。例えば、特定周波数は、50Hz以上、100Hz未満などであってもよい。
【0021】
上述したように、第1のフィルタ121はカットオフ周波数が300Hzのハイパスフィルタ、第2のフィルタ122は通過できる周波数が120Hz以上300Hz未満のバンドパスフィルタ、第3のフィルタ123は通過できる周波数が60Hz以上120Hz未満のバンドパスフィルタである。つまり、図2に示されるように、ゲインが最大値から6dB低下する周波数でそれぞれのフィルタの周波数特性を示す曲線が交差している。なお、もちろん、各フィルタの周波数特性は、図2に示される特性と厳密に一致しなくてもよく、音響装置100に求められる品質に応じた誤差を含んでもよい。
【0022】
倍音生成器130は、音声信号のうち基音信号に対する複数の倍音信号を生成する信号生成器である。倍音生成器130について、図3を用いて説明する。図3は、本実施の形態に係る倍音生成器130が生成する倍音信号と第1の音響再生器111及び第2の音響再生器112の再生帯域との関係を示す図である。図3では、一例として基音信号に対応する特定周波数が70Hzである場合が示されている。なお、第1の音響再生器111の再生帯域とは、第1の音響再生器111の低周波数側のカットオフ周波数以上の周波数帯域を意味する。
【0023】
図3に示されるように、基音信号に対応する特定周波数が70Hzである場合、倍音生成器130は、140Hz、210Hz、280Hz、350Hzなどの周波数に対応する複数の倍音信号を生成する。複数の倍音信号の少なくとも一部は、第2の音響再生器の再生帯域に含まれる。
【0024】
加算器140は、音響装置100に入力される音声信号と倍音生成器130の出力信号とを加算し、加算した信号を、第1のフィルタ121と、第2のフィルタ122に供給する演算器である。
【0025】
[1-2.動作]
次に、以上のように構成された音響装置100の動作及び音響装置100で用いられる音響再生方法について図4などを用いて説明する。図4は、本実施の形態に係る音響再生方法を示すフローチャートである。
【0026】
本実施の形態に係る音響再生方法は、音声信号のうち高音域に対応する信号の再生を担う第1の音響再生器111と、低周波数側のカットオフ周波数から高周波数側のカットオフ周波数までの再生帯域を有し、音声信号のうち、高音域より低い中音域に対応する信号の再生を担う第2の音響再生器112とを用いて音声信号を再生する方法である。
【0027】
図4に示されるように、本実施の形態に係る音響再生方法においては、まず、音響装置100に入力される音声信号のうち低周波数側のカットオフ周波数未満の周波数に対応する基音信号を抽出する(S12)。具体的には、第3のフィルタ123で特定周波数に対応する基音信号を通過させる。本実施の形態では、第3のフィルタ123の周波数特性の概形は、図2の細い実線で示されている。図2に示されるように、第3のフィルタ123は、概ね60Hz以上、120Hz未満の周波数に対応する基音信号を通過させる。
【0028】
続いて、抽出した基音信号に対する複数の倍音信号を生成する(S14)。具体的には、倍音生成器130によって基音信号に対する複数の倍音信号が生成される。上述した図3に示される例では基音信号が70Hzの場合における倍音信号が示されている。図3に示されるように、基音信号自体は第1の音響再生器111でも第2の音響再生器112でも実質的に再生できないが、その倍音信号の低次のものは第2の音響再生器112で再生でき、高次のものは第1の音響再生器111で再生できる。このため、ミッシングファンダメンタル現象による基音信号の知覚が可能となる。ここで倍音信号を生成する方法は特に限定されない。倍音信号を生成するために、例えば、特許文献1に開示された方法を用いてもよい。
【0029】
続いて、音声信号と、倍音生成器130の出力信号である複数の倍音信号とを加算器140で加算する(S16)。具体的には、加算器140で生成された信号は、第1のフィルタ121と、第2のフィルタ122とに供給される。ここで、第1のフィルタ121の周波数特性の概形は、図2の太い実線で示されている。第1のフィルタ121は概ね300Hz以上の周波数に対応する信号を通過させるものであり、この通過周波数帯域は、第1の音響再生器111の再生帯域と対応している。また、第2のフィルタ122の周波数特性の概形は、図2の点線で示されている。第2のフィルタ122は概ね120Hz以上、300Hz未満の周波数に対応する信号を通過させるものであり、この通過周波数帯域は、第2の音響再生器112の再生帯域と対応している。
【0030】
続いて、音声信号及び複数の倍音信号を第1の音響再生器111及び第2の音響再生器112で再生する(S18)。ここで、複数の倍音信号の少なくとも一部を、第2の音響再生器112で再生する。具体的には、音声信号及び複数の倍音信号のうち、第1のフィルタ121の出力信号は、第1の音響再生器111によって再生(つまり、出音)される。音声信号及び複数の倍音信号のうち、第2のフィルタ122の出力信号は、第2の音響再生器112によって再生(つまり、出音)される。
【0031】
図3に示されるように、第3のフィルタ123を通過する基音信号は第1の音響再生器111でも第2の音響再生器112でも再生できないが、その複数の倍音信号のうち低次のものは第2の音響再生器112で再生でき、高次のものは第1の音響再生器111で再生できる。このため、ミッシングファンダメンタル現象による基音信号に対応する音の知覚が可能となる。
【0032】
[1-3.効果]
次に、本実施の形態に係る音響装置100及び音響再生方法の効果について、比較例と比較しながら図5図8を用いて説明する。図5は、本実施の形態に係る第1の音響再生器111の再生帯域と、第2の音響再生器112の再生帯域と、基音信号に対応する特定周波数の帯域とを示す図である。図6は、音声信号を音符で表現した図である。図6において最も周波数の低い音声信号は80Hzであるとする。この80Hzの音声信号は音階のドの音とみなすと、図6には、その音を起点とし3オクターブ高い640Hzまでの音階までが示されている。図7は、本実施の形態に係る音響装置100が再生する音声信号の周波数と知覚レベルとの関係を示すグラフである。図8は、比較例の音響装置における周波数と出音される信号のエネルギーとの関係を示すグラフである。図9は、比較例の音響装置が再生する音声信号の周波数と知覚レベルとの関係を示すグラフである。比較例の音響装置は、第2の音響再生器112を備えない点以外は、本実施の形態に係る音響装置100と同様の構成を有する。
【0033】
ここで、図6に示される音声信号のうち、最も周波数の低いドの音の周波数は80Hzであるので、第3のフィルタ123を通過し、倍音生成器130によって、その倍音信号が生成される。生成される複数の倍音信号の周波数は160Hz、240Hz、320Hz、400Hz・・・であるので、低次の倍音信号は第2の音響再生器112で再生でき、高次の倍音信号は第1の音響再生器111で再生できるので、80Hzのドの音自体は再生できないが、ミッシングファンダメンタル現象によって知覚できることになる。80Hzのドの音に続くレ、ミ、ファ、ソあたりまでの音も、同様にミッシングファンダメンタル現象によって知覚できる。図7の左端の曲線は、このようなミッシングファンダメンタル現象によって知覚されるレベルを表している。
【0034】
上述した、ミッシングファンダメンタル現象を用いて知覚される音声信号に続くラの音から約1オクターブ高い音に対応する音声信号に対する倍音信号は生成されないが、音声信号そのものが第2の音響再生器112で再生できる。図7の水平方向中央の曲線は第2の音響再生器112によって再生される音声信号に対する知覚レベルを表している。
【0035】
第2の音響再生器112の再生帯域より高い音は第1の音響再生器111で再生できる。第1の音響再生器111は高音域専用のスピーカであるのでフラットな特性で高音域の音声信号を再生できる。図7の右端の曲線は第1の音響再生器111によって再生される音声信号に対する知覚レベルを表している。
【0036】
このように、本実施の形態1の構成で、図6に示されるすべての周波数成分が知覚可能かあるいは再生可能となる。
【0037】
一方、比較例の音響装置では、80Hzのドの音に続くレ、ミ、ファ、ソあたりまでの音は、本実施の形態に係る音響装置100と同様にミッシングファンダメンタル現象を用いて知覚できる。しかしながら、比較例の音響装置は、図8に示されるように第2の音響再生器112を備えないため、図9に示されるように倍音信号を第1の音響再生器111だけで再生する。このため、比較例の音響装置では、基音信号の知覚レベルが、本実施の形態に係る音響装置100を用いる場合より低くなる。これに対する対策として、倍音信号のレベルを高めることで基音信号の知覚レベルを高めることも考えられる。しかしながら、高音域においては、人の聴覚の感度が比較的高いため、倍音信号そのものの音の知覚レベルが高くなり、倍音信号が煩く感じられる。
【0038】
これに対して、本実施の形態では、中音域を再生する第2の音響再生器112を備え、複数の倍音信号の少なくとも一部は、第2の音響再生器112の再生帯域に含まれる。これにより、人の聴覚の感度が比較的低い中音域における倍音信号によってミッシングファンダメンタル現象を実現できる。したがって、本実施の形態に係る音響装置100によれば、基音信号そのものを低音域用のスピーカで再生した場合の音に近い低音を知覚できる。よって、本実施の形態に係る音響装置100によれば、比較例の音響装置より豊かな低音を知覚でき、かつ、倍音信号そのものが知覚されることを抑制できる。このように、本実施の形態に係る音響装置100及び音響再生方法によれば、低音域専用の音響再生器を用いることなく、高音質な低音を再生できる。
【0039】
また、本実施の形態では、第2のフィルタは、特定周波数の2倍の周波数を通過させるバンドパスフィルタであり、特定周波数の2倍の周波数は、第2の音響再生器112の再生帯域に含まれる。これにより、最も低次の倍音信号、すなわち、人の聴覚の感度がもっとも低い倍音信号を第2の音響再生器112で再生できるため、倍音信号そのものが知覚されることを抑制できる。
【0040】
さらに、本実施の形態では、第1のフィルタは、カットオフ周波数が特定周波数の2倍の周波数より大きいハイパスフィルタであるため、第1の音響再生器111で低次の倍音信号が再生されない。したがって、二つの音響再生器で低次の倍音信号が再生されることがないため、音色の斑(むら)なく倍音信号を再生できる。
【0041】
また、本実施の形態に係る音響装置100は、倍音信号をアクチュエータ115及び振動板116からなる第2の音響再生器112で再生できる。このため、ウーファなど低音域専用のスピーカを用いる場合より音響装置100を小型化できる。しかも高音域の音声信号を高音域専用のスピーカで再生できるので、中音域及び高音域兼用の小型スピーカを用いる場合より、高音域においてフラットな周波数特性が得られる音響装置を実現できる。
【0042】
[1-4.変形例1]
本実施の形態では、第2の音響再生器112として、音声信号に同期して振動するアクチュエータ115とアクチュエータ115によって駆動される振動板116とを用いたが、第2の音響再生器の構成はこれに限定されない。例えば、第2の音響再生器として、中音域を再生するウーファを用いてもよい。第2の音響再生器としてウーファを用いる変形例について図10及び図11を用いて説明する。図10は、本実施の形態の変形例1に係る音響装置100aの構成を示すブロック図である。図11は、本変形例に係る第1の音響再生器111a及び第2の音響再生器112aの再生帯域を示すグラフである。図10に示されるように本変形例に係る音響装置100aは、実施の形態1に係る音響装置100と同様に、第1の音響再生器111aと、第2の音響再生器112aと、倍音生成器130と、第1のフィルタ121aと、第2のフィルタ122aと、第3のフィルタ123aと、加算器140とを備える。本変形例では、第2の音響再生器112aはウーファである。ここでは、ウーファを、低音域から中音域のいずれかの音域の音声信号を再生するスピーカであって、専用の振動板を有するものと定義する。例えば、ウーファには、振動板116として筐体などを用いる音響再生器などは含まれない。
【0043】
本変形例に係る音響装置100aは、ウーファからなる第2の音響再生器112aを備えるため、実施の形態1に係る音響装置100より寸法が大きくなる。しかしながら、近年ではウーファは、小型化され、直径が6cm程度で、60Hz以上、150Hz以下程度の再生帯域を有するものもある。本変形例に係る第2の音響再生器112aとしてこのような比較的小型のウーファを用いる(図10参照)。それに合わせて、図10及び図11に示されるように第1の音響再生器111aとして、150Hz以上の再生帯域を有するスピーカを用いる。また、第1のフィルタ121aとして、150Hz程度のカットオフ周波数を有するハイパスフィルタを用い、第2のフィルタ122aとして、低周波数側及び高周波数側のカットオフ周波数が、それぞれ60Hz程度及び150Hz程度であるバンドパスフィルタを用いる。また、第3のフィルタ123aとして、60Hz程度のカットオフ周波数を有するローパスフィルタを用いる。
【0044】
倍音生成器130aは、30Hz以上、60Hz未満の特定周波数に対応する基音信号に対する倍音信号を生成する信号生成器である。
【0045】
以上のような構成を備えることにより、本変形例に係る音響装置100aは、第2の音響再生器112aとして、小型とはいえウーファを用いるため実施の形態1に係る音響装置100より大型化してしまう。しかしながら、本変形例に係る音響装置100aによれば、小型のウーファでは再生できない重低音域(30Hz以上、60Hz未満の周波数帯域)に対応する信号をミッシングファンダメンタル現象を用いて知覚できる。
【0046】
[1-5.変形例2]
本実施の形態では、加算器140は、倍音生成器130からの倍音信号と音声信号とを加算し、その出力信号を第1のフィルタ121と第2のフィルタ122とに供給した。つまり、倍音信号を第1の音響再生器111及び第2の音響再生器112の両方に供給したが、第2の音響再生器112だけに供給してもよい。以下このような構成を備える変形例について、図12を用いて説明する。図12は、本実施の形態の変形例2に係る音響装置100bの構成を示すブロック図である。図12に示されるように、加算器140の出力信号を第2のフィルタ122にだけ供給し、第1のフィルタ121には音声信号だけを供給してもよい。つまり、複数の倍音信号は、第1の音響再生器111に供給されなくてもよい。ミッシングファンダメンタル現象による基音信号の知覚レベルへの影響は、低次の倍音信号によるものが支配的であるため、第1の音響再生器111によって高次の倍音信号が再生されなくても基音信号の知覚レベルに対して大きな影響はない。むしろ、すべての倍音信号を第2の音響再生器112で再生できるので、音色の斑なく倍音信号を再生できる。したがって、より一層高音質で豊かな低音を再生できる。また、人の聴覚の感度が比較的高い高音域の倍音信号を再生しないため、倍音信号そのものが知覚されることを抑制できる。
【0047】
(実施の形態2)
実施の形態2に係る音響装置及び音響再生方法について説明する。本実施の形態に係る音響装置及び音響再生方法は、主に、第2の音響再生器112の特性に合わせて、第2のフィルタ及び第3のフィルタが設定される点において、実施の形態に1に係る音響装置100及び音響再生方法と相違する。以下、本実施の形態に係る音響装置について、図13図17を用いて説明する。
【0048】
図13は、本実施の形態に係る音響装置200の構成を示すブロック図である。図13に示されるように、本実施の形態に係る音響装置200は、実施の形態1に係る音響装置100と同様に、第1の音響再生器111と、第2の音響再生器112と、倍音生成器130と、第1のフィルタ121と、第2のフィルタ222と、第3のフィルタ223とを備える。本実施の形態に係る音響装置200は、設定器250をさらに備える。
【0049】
設定器250は、第2のフィルタ222及び第3のフィルタ223の周波数特性を設定する機器である。設定器250は、振動板116を含む構造体に加わる付加荷重の質量Mに応じて、第2のフィルタ222及び第3のフィルタ223の周波数特性を設定する。より具体的には、筐体などの構造体に加わる付加荷重の質量Mを予め計測又は予測し、その質量Mに応じて、第2のフィルタ222と第3のフィルタ223の周波数特性を設定する。本実施の形態では、設定器250によって各フィルタの周波数特性を適切に設定することで、アクチュエータ115と振動板116とを含む構造体に加わる付加荷重の質量Mに応じて第2の音響再生器112で再生される周波数成分が変動することに対応できる。図14は、本実施の形態に係るアクチュエータ115と振動板116とその全体に加わる荷重体114との関係を示す構造図である。図14に示す質量Mの荷重体の重心位置の高さをaとしたとき、作用点Paを中心とする慣性モーメントはM×aで表される。質量Mが増大するとこの慣性モーメントが大きくなり、機械共振系の共振周波数が低下する(特許文献2参照)。すなわち、荷重体114の質量Mに応じて、第2の音響再生器112が再生できる周波数帯域が変動する。ここで、荷重体114の質量Mは、音響装置200の筐体の素材や大きさなどの要因で変動するので、同じアクチュエータ115を用いた音響装置であっても音響装置の筐体によって再生される周波数特性は異なる。そこで図13では設定器250を備えており、アクチュエータ115と振動板116とを含む筐体に加わる付加荷重の質量Mを予め計測又は予測し、その質量に応じて第2のフィルタ222と第3のフィルタ223の周波数特性を設定できるようにしている。そうすることで、付加荷重の質量Mが変動しても、機器の構成を変えることなく、アクチュエータ115と振動板116とによって高音質で豊かな低音を再生できる。以下、図15A及び図15Bを用いて、設定器250による周波数特性の設定について具体的に説明する。
【0050】
図15Aは、本実施の形態に係るアクチュエータ115に加わる荷重とアクチュエータ115による振動の周波数特性との関係を示す概念図である。図15Bは、本実施の形態に係る荷重に対するフィルタの周波数特性の設定例を示す図である。図15Bには、設定器250によって設定される第2のフィルタ222及び第3のフィルタ223の通過帯域及びゲインの設定例が示されている。
【0051】
図15Aに示されるように、荷重が10gの場合には、第2の音響再生器112によって、100Hz付近の周波数帯域(80Hz以上、300Hz以下程度の周波数帯域)の信号が増幅される。このため、その周波数帯域に倍音信号が生じるように、第3のフィルタ223は、50Hz付近の周波数帯域(40Hz以上、80Hz以下程度の周波数帯域)の信号を抽出して倍音生成器130に送る。第2のフィルタ222は100Hz付近の周波数帯域(80Hz以上、300Hz以下程度)の信号をとりだして第2の音響再生器112に送る。ここで、荷重が10gの場合、低音成分の増幅は少ないので、第3のフィルタ223、又は、第2のフィルタ222は、所定のゲイン(増幅率)で信号を増幅してもよい。図15Bでは、9dB増幅することが示されている。同様の考え方で、荷重に応じたフィルタ特性が図15Bのように定められる。
【0052】
上記の例では、設定器250は、荷重に応じてフィルタ特性を設定したが、音響装置200の設置条件に応じてユーザー自身がフィルタ特性を設定してもよい。ウーファ、アクチュエータなどの低音域の信号を再生する音響再生器は、一般的に、硬いものの上に、滑りにくい状態で設置することが推奨される。これは、ウーファ、アクチュエータなどが、自分自身の振動で動いてしまうと、その動きによってエネルギーが浪費されるため、音を放出する振動板が空気を押す力を弱めてしまうからである。しかしながら、住宅事情、インテリアの好みなどによって、ウーファ、アクチュエータなどを上述した推奨される場所に設置されるとは限らない。例えば、集合住宅などの場合では、周囲への振動に配慮し、むしろ、柔らかい資材の上に低音域用の音響再生器を設置する場合すらある。そうでないまでも、設置場所は、絨毯の上であったり、テーブルクロスを引いたテーブルの上であったり、畳の上であったり、コンクリートの床材の上であったり、と様々な材質上であり得る。第2の音響再生器112の設置場所で使用されている素材に応じて、周波数特性が変化し得る。ここで第2の音響再生器112の周波数特性と、素材の硬さとの関係について、図16Aを用いて説明する。図16Aは、設置場所で使用されている素材の硬さとアクチュエータ115による振動の周波数特性との関係を示す概念図である。
【0053】
図16Aに示されるように、設置場所で使用されている素材の硬さに応じて、アクチュエータ115による振動の周波数特性が変化し得る。
【0054】
そこで、設定器250は、フィルタ特性を設定するための操作手段を有してもよい。このような操作手段の一例について、図16Bを用いて説明する。図16Bは、本実施の形態に係る設定器250が有する操作手段の一例を示す図である。設定器250は、例えば、図16Bに示されるつまみを有してもよい。このようなつまみの位置(回転角度)に応じて、フィルタ特性を変更できてもよい。具体的には、設定器250が、設置場所で使用されている素材の種類に対応するつまみの位置と、各フィルタ特性とを関連付けたテーブルを有し、つまみの位置を変えることで、フィルタ特性を変えることができてもよい。ここで、このようなテーブルについて、図16Cを用いて説明する。図16Cは、本実施の形態に係る設定器250が有するテーブルの一例を示す図である。設定器250によって、図16Cに示されるようなテーブルに基いてフィルタ特性が設定されることで、設置場所に応じたフィルタ特性を実現できる。
【0055】
これにより、ユーザは、設定器250を用いて、設置場所で使用されている素材に適したフィルタ特性に設定することができる。なお、図16B及び図16Cに示される例では、つまみで設定できる位置は0から4の5段階で、それぞれに応じたフィルタ特性をテーブルで記憶しているが、つまみで二つの段階間の中間的な値を設定できるようにしてもよく、その場合、設定されるフィルタの特性はその値の近傍のフィルタ特性から補間などによって類推されてもよい。
【0056】
なお、設定器250が有する操作手段は、つまみに限定されない。例えば、ボタンなどであってもよいし、タッチディスプレイなどであってもよい。
【0057】
なお、設定器250は、例えば、実施の形態1の変形例2に係る音響装置100bなどに適用されてもよい。このような音響装置の構成について図17を用いて説明する。図17は、本実施の形態の変形例1に係る音響装置200aの構成を示すブロック図である。このような、構成を有する音響装置200aによっても、音響装置200と同様の効果を奏することができる。
【0058】
(変形例など)
以上、本開示に係る音響装置及び音響再生方法について、各実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、これらの実施の形態に限定されるものではない。本開示の主旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を各実施の形態に施したものや、各実施の形態における一部の構成要素を組み合わせて構築される別の形態も、本開示の範囲内に含まれる。
【0059】
例えば、実施の形態1に係る音響装置100において、複数の倍音信号は、第1の音響再生器111の再生帯域に含まれなくてもよい。このような構成を有する場合には、実施の形態1の変形例2に係る発明と同様に、すべての倍音信号を第2の音響再生器112で再生できるので、音色の斑なく倍音信号を再生できる。したがって、より一層高音質で豊かな低音を再生できる。また、人の聴覚の感度が比較的高い高音域の倍音信号を再生しないため、倍音信号そのものが知覚されることを抑制できる。
【0060】
また、上記各実施の形態では、第1のフィルタ、第2のフィルタ及び第3のフィルタを備えたが、これらのフィルタを必ずしも備えなくてもよい。例えば、第3のフィルタを用いることなく音声信号から第2の音響再生器の低周波数側のカットオフ周波数未満の特定周波数を抽出できれば、音響装置は第3のフィルタを備えなくてもよい。
【0061】
また、上記各実施の形態においては、各フィルタの通過帯域は互いに重なることのないように設定されたが、一部が互いに重なってもよいし、隣り合う通過帯域間にいずれのフィルタの通過帯域でもない周波数帯域が存在してもよい。第1の音響再生器及び第2の音響再生器の各再生帯域についても一部が重なってもよいし、再生帯域間にどちらの再生帯域でもない周波数帯域が存在してもよい。
【0062】
また、以下に示す形態も、本開示の一つ又は複数の態様の範囲内に含まれてもよい。
【0063】
(1)上記の音響装置を構成する構成要素のハードウェア構成は、特に限定されないが、例えば、コンピュータで構成されてもよい。このようなハードウェア構成例について、図18を用いて説明する。図18は、本開示に係る音響装置の機能をソフトウェアにより実現するコンピュータ1000のハードウェア構成の一例を示す図である。
【0064】
コンピュータ1000は、図18に示されるように、入力装置1001、出力装置1002、CPU1003、内蔵ストレージ1004、RAM1005及びバス1009を備えるコンピュータである。入力装置1001、出力装置1002、CPU1003、内蔵ストレージ1004及びRAM1005は、バス1009により接続される。
【0065】
入力装置1001は入力ボタン、タッチパッド、タッチパネルディスプレイなどといったユーザインタフェースとなる装置であり、ユーザの操作を受け付ける。なお、入力装置1001は、ユーザの接触操作を受け付ける他、音声での操作、リモコン等での遠隔操作を受け付ける構成であってもよい。
【0066】
内蔵ストレージ1004は、フラッシュメモリなどである。また、内蔵ストレージ1004は、音響装置100の機能を実現するためのプログラム、及び、音響装置100の機能構成を利用したアプリケーションの少なくとも一方が、予め記憶されていてもよい。
【0067】
RAM1005は、ランダムアクセスメモリ(Random Access Memory)であり、プログラム又はアプリケーションの実行に際してデータ等の記憶に利用される。
【0068】
CPU1003は、中央演算処理装置(Central Processing Unit)であり、内蔵ストレージ1004に記憶されたプログラム、アプリケーションをRAM1005にコピーし、そのプログラムやアプリケーションに含まれる命令をRAM1005から順次読み出して実行する。
【0069】
コンピュータ1000は、例えば、デジタル信号からなる音声信号を、上記各実施の形態に係るフィルタ及び倍音生成器などと同様に処理して、第1の音響再生器及び第2の音響再生器に出力してもよい。また、コンピュータ1000が、第1の音響再生器及び第2の音響再生器をさらに備えてもよい。
【0070】
(2)上記の音響装置を構成する構成要素の一部は、1個のシステムLSI(Large Scale Integration:大規模集積回路)から構成されているとしてもよい。システムLSIは、複数の構成部を1個のチップ上に集積して製造された超多機能LSIであり、具体的には、マイクロプロセッサ、ROM、RAMなどを含んで構成されるコンピュータシステムである。前記RAMには、コンピュータプログラムが記憶されている。前記マイクロプロセッサが、前記コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、システムLSIは、その機能を達成する。
【0071】
(3)上記の音響装置を構成する構成要素の一部は、各装置に脱着可能なICカード又は単体のモジュールから構成されているとしてもよい。前記ICカード又は前記モジュールは、マイクロプロセッサ、ROM、RAMなどから構成されるコンピュータシステムである。前記ICカード又は前記モジュールは、上記の超多機能LSIを含むとしてもよい。マイクロプロセッサが、コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、前記ICカード又は前記モジュールは、その機能を達成する。このICカード又はこのモジュールは、耐タンパ性を有するとしてもよい。
【0072】
(4)また、上記の音響装置を構成する構成要素の一部は、前記コンピュータプログラム又は前記デジタル信号をコンピュータで読み取り可能な記録媒体、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、CD-ROM、MO、DVD、DVD-ROM、DVD-RAM、BD(Blu-ray(登録商標) Disc)、半導体メモリなどに記録したものとしてもよい。また、これらの記録媒体に記録されている前記デジタル信号であるとしてもよい。
【0073】
また、上記の音響装置を構成する構成要素の一部は、前記コンピュータプログラム又は前記デジタル信号を、電気通信回線、無線又は有線通信回線、インターネットを代表とするネットワーク、データ放送等を経由して伝送するものとしてもよい。
【0074】
(5)本開示は、上記に示す方法であるとしてもよい。また、これらの方法をコンピュータにより実現するコンピュータプログラムであるとしてもよいし、前記コンピュータプログラムからなるデジタル信号であるとしてもよい。
【0075】
(6)また、本開示は、マイクロプロセッサとメモリを備えたコンピュータシステムであって、前記メモリは、上記コンピュータプログラムを記憶しており、前記マイクロプロセッサは、前記コンピュータプログラムにしたがって動作するとしてもよい。
【0076】
(7)また、前記プログラム又は前記デジタル信号を前記記録媒体に記録して移送することにより、又は前記プログラム又は前記デジタル信号を、前記ネットワーク等を経由して移送することにより、独立した他のコンピュータシステムにより実施するとしてもよい。
【0077】
(8)上記実施の形態及び上記変形例をそれぞれ組み合わせるとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本開示に係る音響装置は、コスト、デザイン性重視のため十分な筐体の容量が確保できないスピーカに適用できる。本開示に係る音響装置は、省スペース、かつ、高音質な低音の再生が求められる薄型テレビ、スマートスピーカ、ポータブルスピーカなどに特に有用である。
【符号の説明】
【0079】
100、100a、100b、200、200a 音響装置
111、111a 第1の音響再生器
112、112a 第2の音響再生器
115 アクチュエータ
116 振動板
121、121a 第1のフィルタ
122、122a、222 第2のフィルタ
123、123a、223 第3のフィルタ
130、130a 倍音生成器
140 加算器
250 設定器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15A
図15B
図16A
図16B
図16C
図17
図18