(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】試料測定装置、プログラムおよび測定パラメータ設定支援装置
(51)【国際特許分類】
G01N 30/86 20060101AFI20221109BHJP
G01N 30/02 20060101ALI20221109BHJP
G01N 30/52 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
G01N30/86 R
G01N30/02 Z
G01N30/52
(21)【出願番号】P 2020557489
(86)(22)【出願日】2018-11-29
(86)【国際出願番号】 JP2018044061
(87)【国際公開番号】W WO2020110268
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-05-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】野田 陽
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/099949(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0224705(US,A1)
【文献】特開平01-250060(JP,A)
【文献】国際公開第2014/068786(WO,A1)
【文献】特開2008-196963(JP,A)
【文献】前田 仁,ベイズ推定を活用した新規デザインスペース構築手法の開発,薬剤学,日本,2014年,74,P192-196
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00 -30/96
B01J 20/281-20/292
G01N 27/60 -27/92
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の測定を行う測定部と、
前記測定部による測定結果を分析する制御部と、を備え、
前記制御部は、測定パラメータの条件が互いに異なる複数の測定条件による測定結果に基づいてモデル式を用いて他の測定条件における測定結果を推定して取得するとともに、推定した測定結果に基づいて測定パラメータに対する測定品質指標の分布を推定するように構成されている、試料測定装置。
【請求項2】
前記制御部は、測定品質指標の分布に基づいて、測定品質指標の許容範囲に応じた測定パラメータの範囲を算出するように構成されている、請求項1に記載の試料測定装置。
【請求項3】
前記制御部は、測定品質指標の分布に基づいて、測定品質指標の許容範囲に応じた測定パラメータの範囲をベイジアンデザインスペースを用いて表示するように構成されている、請求項2に記載の試料測定装置。
【請求項4】
前記制御部は、測定品質指標の分布に基づいて、互いに異なる複数の測定品質指標の許容範囲に応じた測定パラメータの複数の範囲を表示するように構成されている、請求項2または3に記載の試料測定装置。
【請求項5】
前記制御部は、測定指標の分布または算出した測定パラメータの範囲に基づいて、測定パラメータの範囲を更新するために次に測定する測定条件の候補を算出するように構成されている、請求項2~4のいずれか1項に記載の試料測定装置。
【請求項6】
前記測定部は、クロマトグラフを含み、
前記制御部は、クロマトピーク分離度および保持時間のうち少なくとも1つを測定品質指標として推定するように構成されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の試料測定装置。
【請求項7】
測定パラメータは、温度、溶媒濃度、pHのうち少なくとも1つを含む、請求項6に記載の試料測定装置。
【請求項8】
前記制御部は、ベイズ推定を用いて測定品質指標の分布を推定するように構成されている、請求項1~7のいずれか1項に記載の試料測定装置。
【請求項9】
試料の測定を行うための測定パラメータの条件が互いに異なる複数の測定条件による測定結果に基づいてモデル式を用いて他の測定条件における測定結果を推定して取得し、推定した測定結果に基づいて測定パラメータに対する測定品質指標の分布を推定することをコンピュータに実行させる、プログラム。
【請求項10】
試料の測定を行うための測定パラメータの条件が互いに異なる複数の測定条件による測定結果に基づいてモデル式を用いて他の測定条件における測定結果を推定して取得するとともに、推定した測定結果に基づいて測定パラメータに対する測定品質指標の分布を推定する演算装置を備える、測定パラメータ設定支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、試料測定装置、プログラムおよび測定パラメータ設定支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、試料測定装置が知られている。試料測定装置は、たとえば、特開2015-166726号公報に開示されている。
【0003】
上記特開2015-166726号公報には、試料の分析を行うクロマトグラフ(試料測定装置)が開示されている。また、上記特開2015-166726号公報には、1つの試料に対して複数の条件での分析を行い試料に最適な分析条件を探索するメソッドスカウティングにおいて、分析条件の複数のパラメータについての変更を行う際に、未検討の分析条件のリストを表示するクロマトグラフ用データ処理装置が開示されている。
【0004】
また、従来、試料の分析に用いるパラメータと品質指標との関係を応答曲面として求め、設計上許容されるパラメータの範囲をデザインスペースとして算出する品質管理手法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来のデザインスペースを算出する品質管理手法では、いくつかの測定点を元にモデル式にあてはめて応答曲面を作成する際に、測定点数を多くすれば応答曲面の精度が高くなり、測定点数が少なければ精度が落ちてしまう。このため、測定点を十分に多く取り精度よくデザインスペースを算出する必要がある。あるいは、デザインスペースに十分な安全率を設定する必要がある。つまり、測定結果から算出されたデザインスペースに安全率を設定してデザインスペースの範囲を適切に狭める必要がある。一方、上記特開2015-166726号公報のクロマトグラフ用データ処理装置では、試料に最適な分析条件を探索するメソッドスカウティングにおいて、分析条件の複数のパラメータについての変更を行う際に、未検討の分析条件のリストを表示することができるので、次に分析を行う分析条件の測定点を容易に決定することができる。しかしながら、上記特開2015-166726号公報のクロマトグラフ用データ処理装置でも、精度よくデザインスペースを算出するためには、分析条件の測定点数が多くなるのを抑制することは困難である。また、パラメータに対して品質指標が線形な関係となる場合であれば、経験的に適切な安全率を設定することは難しくないものの、クロマトグラフの品質指標としての分離度のように、パラメータに対して品質指標が非線形な関係となる場合には、デザインスペースを狭めすぎない必要十分な安全率を設定することが困難である。これらの結果、精度よくデザインスペースを算出することは困難である。このため、分析条件の測定点数が多くなるのを抑制しながら、許容されるデザインスペース(測定パラメータの範囲)を精度よく算出することが望まれている。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、測定点数が多くなるのを抑制しながら、許容される測定パラメータの範囲を精度よく算出することが可能な試料測定装置、プログラムおよび測定パラメータ設定支援装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、この発明の第1の局面による試料測定装置は、試料の測定を行う測定部と、測定部による測定結果を分析する制御部と、を備え、制御部は、測定パラメータの条件が互いに異なる複数の測定条件による測定結果に基づいてモデル式を用いて他の測定条件における測定結果を推定して取得するとともに、推定した測定結果に基づいて測定パラメータに対する測定品質指標の分布を推定するように構成されている。
【0009】
この発明の第1の局面による試料測定装置では、上記のように制御部を、測定パラメータの条件が互いに異なる複数の測定条件による測定結果に基づいてモデル式を用いて他の測定条件における測定結果を推定して取得するとともに、推定した測定結果に基づいて測定パラメータに対する測定品質指標の分布を推定するように構成する。これにより、測定品質指標の分布に基づいて、統計的に安全率を設定することができるので、許容される測定パラメータの範囲を狭めすぎない必要十分な安全率を統計に基づいて容易に設定することができる。その結果、測定パラメータの許容される範囲を精度よく算出することができる。また、モデル式を用いて測定結果を推定することができるので、測定点数を過度に多くしなくても、測定パラメータの許容される範囲を算出することができる。これらにより、測定点数が多くなるのを抑制しながら、許容される測定パラメータの範囲を精度よく算出することができる。また、測定パラメータの許容される範囲を算出する場合に使用する装置と、実際に量産現場で使用する装置とが同一でなく装置の個体差がある場合でも、実際に使用する装置により想定される装置の個体差由来の誤差を測定品質指標の分布に加味することにより、使用する装置に適合した測定パラメータの範囲を容易に算出することができる。
【0010】
この発明の第2の局面によるプログラムは、試料の測定を行うための測定パラメータの条件が互いに異なる複数の測定条件による測定結果に基づいてモデル式を用いて他の測定条件における測定結果を推定して取得し、推定した測定結果に基づいて測定パラメータに対する測定品質指標の分布を推定することをコンピュータに実行させる。前記プログラムは、プログラムを記憶した記憶媒体という形態で提供されてもよい。
【0011】
この発明の第3の局面による測定パラメータ設定支援装置は、試料の測定を行うための測定パラメータの条件が互いに異なる複数の測定条件による測定結果に基づいてモデル式を用いて他の測定条件における測定結果を推定して取得するとともに、推定した測定結果に基づいて測定パラメータに対する測定品質指標の分布を推定する演算装置を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、上記のように、測定点数が多くなるのを抑制しながら、許容される測定パラメータの範囲を精度よく算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態による試料測定装置の概略を示したブロック図である。
【
図2】本発明の一実施形態による試料測定装置の保持時間およびピーク幅予測の一例を説明するための図である。
【
図3】本発明の一実施形態による試料測定装置の保持時間の応答曲面の一例を示した図である。
【
図4】本発明の一実施形態による試料測定装置の測定パラメータの許容範囲の表示の第1例を示した図である。
【
図5】本発明の一実施形態による試料測定装置の測定パラメータの許容範囲の表示の第2例を示した図である。
【
図6】本発明の一実施形態による試料測定装置の制御部によるデザインスペース作成処理を説明するためのフローチャートである。
【
図7】本発明の一実施形態による試料測定装置の制御部による保持時間・ピーク幅予測処理を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
(試料測定装置の構成)
図1~
図5を参照して、本実施形態による試料測定装置100の構成について説明する。
【0016】
図1に示すように、試料測定装置100は、クロマトグラフ1と、制御装置2とを備えている。試料測定装置100は、試料中の成分を検出して分析を行うように構成されている。クロマトグラフ1は、試料の測定を行うように構成されている。また、制御装置2は、クロマトグラフ1の測定結果を分析するように構成されている。なお、クロマトグラフ1は、請求の範囲の「測定部」の一例である。また、制御装置2は、請求の範囲の「制御部」および「測定パラメータ設定支援装置」の一例である。
【0017】
クロマトグラフ1は、移動相供給部11と、ポンプ12と、試料供給部13と、カラム14と、温度調整部15と、検出部16とを含んでいる。また、制御装置2は、CPU(Central Processing Unit)21と、記憶部22とを含んでいる。また、制御装置2には、操作部3と、表示部4とが接続されている。なお、CPU21は、請求の範囲の「演算装置」の一例である。
【0018】
クロマトグラフ1は、移動相供給部11と、ポンプ12と、試料供給部13と、カラム14と、検出部16とが、送液管により接続されている。移動相供給部11は、移動相(溶媒液)を所定の濃度に調整して供給するように構成されている。ポンプ12は、移動相の流量を調整して移動相をカラム14に向けて送液するように構成されている。試料供給部13は、所定のタイミングにおいて試料が移動相中に供給される。カラム14は、試料が移動される。この際、試料の成分によって移動速度が異なるため、成分(物質)ごとに分離されて検出部16に到達する。
【0019】
温度調整部15は、カラム14の温度を調整するように構成されている。具体的には、温度調整部15は、カラム14が所定の温度になるように加熱または冷却するように構成されている。検出部16は、カラム14を移動して到達する試料中の各成分を検出するように構成されている。検出部16は、たとえば、吸光スペクトル、屈折率、または、光の散乱を測定して、試料中の各成分を検出する。また、検出部16は、フローセルを含んでいる。検出部16は、検出結果を制御装置2に送信するように構成されている。
【0020】
制御装置2は、クロマトグラフ1の各部を制御するように構成されている。制御装置2は、コンピュータにより構成されている。具体的には、制御装置2のCPU21は、記憶部22に格納されたプログラム221に基づいて、クロマトグラフ1を制御するように構成されている。制御装置2は、操作部3により操作者からの操作を受け付けるように構成されている。また、制御装置2は、操作のための画面、測定結果の表示などを、表示部4に表示させる制御を行うように構成されている。
【0021】
制御装置2は、同じ物質群の混合物であるが、濃度比が異なる試料を繰り返し測定する場合における、適した測定条件(分析メソッド)を設定するために用いられるように構成されている。このような分析メソッドの開発においては、それぞれの測定において十分なピーク分離度が保証される分析メソッドを開発する必要がある。具体的には、pH、温度、溶媒濃度などの分析パラメータを分離度を規準に最適に設定する必要がある。
【0022】
ただし、分離度だけを基準とした場合、一般的には分析時間が長くなってしまうので、分離度と分析完了時間の両方を最適化したり、移動相溶媒やヒータ電力などのその他のコストを織り込んで最適化してもよい。
【0023】
ここで、制御装置2は、測定パラメータの条件が互いに異なる複数の測定条件による測定結果に基づいてモデル式を用いて他の測定条件における測定結果を推定して取得するように構成されている。また、制御装置2は、推定した測定結果に基づいて測定パラメータに対する測定品質指標の分布を推定するように構成されている。また、制御装置2は、測定品質指標の分布に基づいて、測定品質指標の許容範囲に応じた測定パラメータの範囲を算出するように構成されている。
【0024】
つまり、制御装置2は、プログラム221に基づいて、試料の測定を行うための測定パラメータの条件が互いに異なる複数の測定条件による測定結果に基づいてモデル式を用いて他の測定条件における測定結果を推定して取得し、推定した測定結果に基づいて測定パラメータに対する測定品質指標の分布を推定することを実行する。
【0025】
また、制御装置2は、測定品質指標の分布に基づいて、測定品質指標の許容範囲に応じた測定パラメータの範囲をベイジアンデザインスペースを用いて表示するように構成されている。また、制御装置2は、測定品質指標の分布に基づいて、互いに異なる複数の測定品質指標の許容範囲に応じた測定パラメータの複数の範囲を表示するように構成されている。たとえば、制御装置2は、許容範囲として異なるパーセンタイルに応じた測定パラメータの範囲を表示するように構成されている。
【0026】
また、制御装置2は、測定指標の分布または算出した測定パラメータの範囲に基づいて、測定パラメータの範囲を更新するために次に測定する測定条件の候補を算出するように構成されている。具体的には、制御装置2は、ベイズ最適化と同様に、n点目までの測定点からデザインスペース(許容される測定パラメータの範囲)を求め、デザインスペースの情報を元に採用する測定条件として有望な場所近傍をより明確化する事が期待されるn+1点目を測定点として決定する。
【0027】
また、制御装置2は、クロマトピーク分離度および保持時間を測定品質指標として推定するように構成されている。クロマトピーク分離度は、対象とする2つのピークの保持時間およびピーク幅から算出される。たとえば、分離度Rは、各ピーク幅W1、W2、各ピーク幅の保持時間rt1、rt2(ただし、rt1<rt2)を用いて、式(1)のように表される。
R=2(rt2-rt1)/(W1+W2)・・・(1)
分離度は、値が大きくなるほど分離されていることを意味する。たとえば、分離度が1.5以上の場合に完全分離されているとみなされる。また、保持時間は、検出される最も遅いピークの保持時間から算出される。
【0028】
また、制御装置2は、ベイズ推定を用いて測定品質指標の分布を推定するように構成されている。
【0029】
具体的には、制御装置2は、実際に測定した測定点の間を補完するためにモデル式を用いて測定結果を推定する。測定結果としては、たとえば、クロマトの保持時間(Rtime)、およびピーク幅が得られる。また、測定パラメータは、溶媒濃度x0、および、温度x1を含んでいる。たとえば、保持時間rt(x)は、式(2)のようなモデル式により推定される。
rt(x)=exp(p0+p1*x0+p2*x1)+p3・・・(2)
ただし、p0、p1、p2およびp3は、保持時間を推定する場合のモデル式の係数(パラメータ)である。なお、p0、p1、p2およびp3は、分布を持つため、推定される保持時間rt(x)も分布を持つ。
【0030】
また、ピーク幅w(x)は、式(3)のようなモデル式により推定される。
w(x)=exp(q0+q1*x0+q2*x1)+q3・・・(3)
ただし、q0、q1、q2およびq3は、ピーク幅を推定する場合のモデル式の係数(パラメータ)である。なお、q0、q1、q2およびq3は、分布を持つため、推定されるピーク幅w(x)も分布を持つ。
【0031】
なお、保持時間およびピーク幅を推定するモデル式は、上記のような指数関数に限られず、多項式や、ガウスカーネル回帰などのカーネル回帰でもよい。保持時間とピーク幅とを推定するモデル式は、同一形状の関数(指数関数)としたが、互いに異なる形の関数でもよい。
【0032】
また、値の推定に当たっては、さらにy=rt(X)+εのように、誤差εを導入している。また、観測される保持時間・ピーク幅に誤差が発生するとしているが、溶媒濃度誤差、温調誤差を考慮にいれてxのほうに誤差を追加するy=rt(X+ε)でもよい。また、ベイズ推定にあたっては、サンプリングによるベイズ推定を行うが、他のサンプリングアルゴリズムを用いても、変分ベイズ等によるベイズ推定を用いてもよい。
【0033】
保持時間およびピーク幅をモデル式により推定することにより、
図2のような推定結果を複数得ることができる。
図2(A)は、温度40.0℃、溶媒濃度40.0%による測定条件の一推定結果である。
図2(B)は、温度30.0℃、溶媒濃度30.0%による測定条件の一推定結果である。
図2(C)は、温度55.0℃、溶媒濃度55.0%による測定条件の一推定結果である。
図2(D)は、温度10.0℃、溶媒濃度10.0%による測定条件の一推定結果である。
図2(E)は、温度10.0℃、溶媒濃度10.0%による測定条件の他の測定結果である。モデル式の係数は、分布を持つため、同じ測定条件であっても、複数の測定結果が推定される。
【0034】
図3では、溶媒濃度および温度に対する保持時間の応答曲面の例を示す。
図3の例では、測定条件が5点、6点、7点、8点の場合の保持時間(Rtime)の5パーセンタイル、50パーセンタイルおよび95パーセンタイルの点をプロットして応答曲面を示している。
【0035】
モデル式による推定で得られた推定量から保持時間とピーク幅の予測量が生成される。また、生成された予測量を用いてピーク分離度が生成される。このようにして得られた生成分布に分離度が2.0である境界線を50パーセンタイル、5パーセンタイルで描画したものが
図4である。中央値である50パーセンタイルでの境界は、計測点数が5点の場合に大部分が分離度が2以上であると判断してしまう。しかし、5パーセンタイルでの境界がなくその信頼性が低いことがわかる。また、計測点数を増やすにつれて、5パーセンタイルの破線が見えてくる。さらに、50パーセンタイルと5パーセンタイルの線が接近してくる(分離度の分布の幅が小さくなる)ことから十分に信頼できる境界線ができることが分かる。
【0036】
このように逐次的に観測点を増やすに当たっては、デザインスペースを参照して境界線として有望であることや、試料調合の手間等を考慮してユーザが測定点を決めてもよい。また、ベイズ最適化に用いられる獲得関数を用いて自動的に決めてもよい。また、得られたモデル式(パラメータ推定量)を用いて、各測定点での観測値を予測し、その予測量から、5パーセンタイルの範囲がより広くなる測定点を採用するベイズアプローチを取ってもよい。
【0037】
また、
図5に示すように、分析時間を考慮して、デザインスペースを生成して表示してもよい。
図5の例では、最大の保持時間が3分以下であれば分離度を用いてデザインスペースを生成する。また、最大の保持時間が3分以上であれば(分離度)*(3分)/(最大保持時間)を品質指標値として用いてデザインスペースを生成する。その結果、
図6の例では、
図5の例に比べて、5パーセンタイルの境界線が保持時間が短い右上に集まっている。
【0038】
(デザインスペース作成処理)
図6を参照して、制御装置2によるデザインスペース作成処理について説明する。
【0039】
図6のステップ201において、制御装置2は、実際に測定した複数の測定結果に基づいて、試料内の各物質の各測定条件における保持時間・ピーク幅を予測する。ステップ202において、制御装置2は、各測定条件における保持時間・ピーク幅の分布から保持時間の値、ピーク幅の値をそれぞれランダムにサンプリングする。
【0040】
ステップ203において、制御装置2は、試料中の物質を2つずつ組み合わせて、組み合わせた2つの物質の分離度の分布を作成する。たとえば、試料中の物質が4つの場合、2つずつ選ぶ組み合わせは、6通りになる。ステップ204において、制御装置2は、各組合せの分離度のうち最少の分離度を抽出サンプル結果として保存する。つまり、ピークの距離(時間)が最も近い2つの物質における分離度がその測定条件における測定品質指標としての分離度とされる。
【0041】
ステップ205において、制御装置2は、サンプル量が十分であるか否かを判断する。サンプル量が十分であれば、ステップ206に進み、サンプル量が十分ではなければ、ステップ202に戻る。ステップ206において、制御装置2は、収集した各測定条件の分離度サンプル群から描画するパーセンタイル(5パーセンタイル、50パーセンタイル)の分離度の値を抽出する。なお、5パーセンタイルの値は、分布のデータの小さい方から5%目にあたる値である。また、50パーセンタイルの値は、分布のデータの小さい方から50%目(半分)にあたる値である。
【0042】
ステップ207において、制御装置2は、各パーセンタイルの規定分離度(2.0)以上の領域をデザインスペースとして描画する。その後、デザインスペース作成処理が終了する。なお、測定点数を増やすたびにステップ201~207の処理が繰り返される。
【0043】
(保持時間・ピーク幅予測処理)
図7を参照して、制御装置2による保持時間・ピーク幅予測処理について説明する。
図7の保持時間・ピーク幅予測処理は、
図6のステップ201の処理を詳細に説明するものである。
【0044】
図7のステップ211において、制御装置2は、特定物質由来のクロマトの測定データを取得する。ステップ212において、制御装置2は、保持時間・ピーク幅の各関数の関数パラメータをベイズ推定により推定する。ステップ213において、制御装置2は、関数パラメータの分布から各測定条件における保持時間・ピーク幅を予測する。その後、保持時間・ピーク幅予測処理が終了する。
【0045】
(本実施形態の効果)
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0046】
本実施形態では、上記のように、制御装置2を、測定パラメータの条件が互いに異なる複数の測定条件による測定結果に基づいてモデル式を用いて他の測定条件における測定結果を推定して取得するとともに、推定した測定結果に基づいて測定パラメータに対する測定品質指標の分布を推定するように構成する。これにより、測定品質指標の分布に基づいて、統計的に安全率を設定することができるので、許容される測定パラメータの範囲を狭めすぎない必要十分な安全率を統計に基づいて容易に設定することができる。その結果、測定パラメータの許容される範囲を精度よく算出することができる。また、モデル式を用いて測定結果を推定することができるので、測定点数を過度に多くしなくても、測定パラメータの許容される範囲を算出することができる。これらにより、測定点数が多くなるのを抑制しながら、許容される測定パラメータの範囲を精度よく算出することができる。また、測定パラメータの許容される範囲を算出する場合に使用する装置と、実際に量産現場で使用する装置とが同一でなく装置の個体差がある場合でも、実際に使用する装置により想定される装置の個体差由来の誤差を測定品質指標の分布に加味することにより、使用する装置に適合した測定パラメータの範囲を容易に算出することができる。
【0047】
また、本実施形態では、上記のように、制御装置2を、測定品質指標の分布に基づいて、測定品質指標の許容範囲に応じた測定パラメータの範囲を算出するように構成する。これにより、測定品質指標の許容範囲に応じた測定パラメータの範囲を容易に算出することができる。
【0048】
また、本実施形態では、上記のように、制御装置2を、測定品質指標の分布に基づいて、測定品質指標の許容範囲に応じた測定パラメータの範囲をベイジアンデザインスペースを用いて表示するように構成する。これにより、ベイズ推定を用いて精度よく測定パラメータのデザインスペースを算出することができる。また、表示されたベイジアンデザインスペースに基づいて、容易に適した測定条件を決定することができる。
【0049】
また、本実施形態では、上記のように、制御装置2を、測定品質指標の分布に基づいて、互いに異なる複数の測定品質指標の許容範囲に応じた測定パラメータの複数の範囲を表示するように構成する。これにより、表示された複数の測定品質指標の許容範囲に基づいて、より容易に適した測定条件を決定することができる。
【0050】
また、本実施形態では、上記のように、制御装置2を、測定指標の分布または算出した測定パラメータの範囲に基づいて、測定パラメータの範囲を更新するために次に測定する測定条件の候補を算出するように構成する。これにより、算出された測定条件の候補に基づいて、容易に次の測定条件を決定することができる。また、算出された測定条件の候補に基づいて測定を行うことにより、測定品質指標の許容範囲に応じた測定パラメータをより精度よく算出することができる。
【0051】
また、本実施形態では、上記のように、制御装置2を、クロマトピーク分離度および保持時間のうちの少なくとも1つを測定品質指標として推定するように構成する。これにより、クロマトグラフによる測定において、クロマトピーク分離度および保持時間のうち少なくとも1つの許容される測定パラメータの範囲を精度よく算出することができる。
【0052】
また、本実施形態では、上記のように、測定パラメータは、温度、溶媒濃度、PHのうちの少なくとも1つを含む。これにより、クロマトグラフ1による測定において、許容される温度、溶媒濃度、PHのうちの少なくとも1つの範囲を精度よく算出することができる。
【0053】
また、本実施形態では、上記のように、制御装置2を、ベイズ推定を用いて測定品質指標の分布を推定するように構成する。これにより、ベイズ推定により、測定品質指標の分布を容易に推定することができる。
【0054】
(変形例)
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく請求の範囲によって示され、さらに請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0055】
たとえば、上記実施形態では、測定部がクロマトグラフを含む構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、測定部は、クロマトグラフ以外の原理により試料の測定を行ってもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、測定品質指標として、クロマトピーク分離度および保持時間を用いる例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、測定品質指標として、クロマトピーク分離度および保持時間のうち少なくとも1つを用いてもよいし、他の指標を用いてもよい。
【0057】
また、上記実施形態では、測定パラメータとして、温度および溶媒濃度を用いる例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、測定パラメータとして、温度、溶媒濃度、pHのうち少なくとも1つを用いてもよいし、他の測定パラメータを用いてもよい。
【0058】
また、上記実施形態では、ベイズ推定を用いて測定結果を推定して、測定品質指標の分布を推定する構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、ベイズ推定以外の方法を用いて測定品質指標の分布を推定してもよい。
【0059】
また、上記実施形態では、測定品質指標の許容範囲に応じた測定パラメータの範囲をベイジアンデザインスペースを用いて表示する構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、測定品質指標の許容範囲に応じた測定パラメータの範囲をベイジアンデザインスペース以外の方法により表示してもよい。
【0060】
また、上記実施形態では、互いに異なる2つの測定品質指標の許容範囲に応じた測定パラメータの2つの範囲を表示する構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、1つの測定品質指標の許容範囲に応じた測定パラメータの範囲を表示してもよいし、3つ以上の測定品質指標の許容範囲に応じた測定パラメータの3つ以上の範囲を表示してもよい。
【0061】
また、上記実施形態では、説明の便宜上、本発明の制御部の処理動作を処理フローに沿って順番に処理を行うフロー駆動型のフローチャートを用いて説明したが、本発明はこれに限られない。本発明では、制御部による処理動作を、イベント単位で処理を実行するイベント駆動型(イベントドリブン型)の処理により行ってもよい。この場合、完全なイベント駆動型で行ってもよいし、イベント駆動およびフロー駆動を組み合わせて行ってもよい。
【符号の説明】
【0062】
1 クロマトグラフ(測定部)
2 制御装置(制御部、測定パラメータ設定支援装置)
21 CPU(演算装置)
23 記憶部
100 試料測定装置