(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】電流検出装置、電流検出方法、電流制御装置および電流制御方法
(51)【国際特許分類】
G01R 19/00 20060101AFI20221109BHJP
【FI】
G01R19/00 M
G01R19/00 B
(21)【出願番号】P 2021026216
(22)【出願日】2021-02-22
【審査請求日】2021-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006622
【氏名又は名称】株式会社安川電機
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北 浩志
【審査官】越川 康弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/106044(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0341772(US,A1)
【文献】特開2009-281773(JP,A)
【文献】特開平08-145714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象の導線に流れる電流をシャント抵抗に基づいて検出する第1電流検出部と、
前記電流をホール素子に基づいて検出する第2電流検出部と、
前記第1電流検出部および前記第2電流検出部による各検出値
を平均とし、あらかじめ取得した標準偏差をそれぞれ有する正規分布である確率分布を記憶する記憶部と、
前記各検出値にそれぞれ対応する前記確率分布を合成する合成部と、
前記合成部による過去の合成分布で最新の前記合成分布をベイズ更新した更新分布を生成するとともに、前記更新分布の平均を推定電流として最尤推定する推定部と、
前記推定電流を出力する出力部と
を備えることを特徴とする電流検出装置。
【請求項2】
前記記憶部は、
過去の前記合成分布を学習情報としてさらに記憶し、
前記学習情報に基づいて
現在値予測に相当する予測分布を予測する予測部
をさらに備え、
前記推定部は、
前記予測部による
前記予測分布と最新の前記合成分布とを合成することで前記電流を推定すること
を特徴とする請求項
1に記載の電流検出装置。
【請求項3】
前記シャント抵抗の出力線に設けられる第1位相シフタと、
前記ホール素子の出力線に設けられる第2位相シフタと
をさらに備えることを特徴とする請求項1
または2に記載の電流検出装置。
【請求項4】
前記シャント抵抗の出力線および前記ホール素子の出力線は、
それぞれノイズフィルタを構成要素として有しないこと
を特徴とする請求項1~
3のいずれか一つに記載の電流検出装置。
【請求項5】
検出対象の導線に流れる電流をシャント抵抗に基づいて検出する第1電流検出工程と、
前記電流をホール素子に基づいて検出する第2電流検出工程と、
前記第1電流検出工程および前記第2電流検出工程による各検出値
を平均とし、あらかじめ取得した標準偏差をそれぞれ有する正規分布である確率分布を記憶する記憶工程と、
前記各検出値にそれぞれ対応する前記確率分布を合成する合成工程と、
前記合成工程による過去の合成分布で最新の前記合成分布をベイズ更新した更新分布を生成するとともに、前記更新分布の平均を推定電流として最尤推定する推定工程と、
前記推定電流を出力する出力工程と
を含むことを特徴とする電流検出方法。
【請求項6】
請求項1~
4のいずれか一つに記載の電流検出装置と、
前記電流検出装置から出力された前記電流に基づいて出力電流を制御する出力制御部と
を備えることを特徴とする電流制御装置。
【請求項7】
検出対象の導線に流れる電流をシャント抵抗に基づいて検出する第1電流検出工程と、
前記電流をホール素子に基づいて検出する第2電流検出工程と、
前記第1電流検出工程および前記第2電流検出工程による各検出値
を平均とし、あらかじめ取得した標準偏差をそれぞれ有する正規分布である確率分布を記憶する記憶工程と、
前記各検出値にそれぞれ対応する前記確率分布を合成する合成工程と、
前記合成工程による過去の合成分布で最新の前記合成分布をベイズ更新した更新分布を生成するとともに、前記更新分布の平均を推定電流として最尤推定する推定工程と、
前記推定電流を出力する出力工程と、
前記出力工程によって出力された前記電流に基づいて出力電流を制御する出力制御工程と
を含むことを特徴とする電流制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の実施形態は、電流検出装置、電流検出方法、電流制御装置および電流制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シャント抵抗を用いて電流を検出する電流検出装置や、ホール素子を用いて電流を検出する電流検出装置が知られている。なお、かかる電流検出装置によって検出された電流をフィードバック値として用いることで出力電流を制御する電流制御装置も知られている。
【0003】
また、シャント抵抗およびホール素子の双方を備える電流検出装置も提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、シャント抵抗およびホール素子の双方を備える従来の電流検出装置では、ホール素子による検出値のオフセット補正用としてシャント抵抗による検出値が用いられている。すなわち、従来の電流検出装置では、シャント抵抗による検出値およびホール素子による検出値の双方が十分に活用されているとはいえず、電流の検出精度に向上の余地がある。
【0006】
実施形態の一態様は、電流の検出精度を高めることができる電流検出装置、電流検出方法、電流制御装置および電流制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の一態様に係る電流検出装置は、第1電流検出部と、第2電流検出部と、記憶部と、合成部と、推定部と、出力部とを備える。第1電流検出部は、検出対象の導線に流れる電流をシャント抵抗に基づいて検出する。第2電流検出部は、前記電流をホール素子に基づいて検出する。記憶部は、前記第1電流検出部および前記第2電流検出部による各検出値を平均とし、あらかじめ取得した標準偏差をそれぞれ有する正規分布である確率分布を記憶する。合成部は、前記各検出値にそれぞれ対応する前記確率分布を合成する。推定部は、前記合成部による過去の合成分布で最新の前記合成分布をベイズ更新した更新分布を生成するとともに、前記更新分布の平均を推定電流として最尤推定する。出力部は、前記推定電流を出力する。
【0008】
実施形態の一態様に係る電流検出方法は、第1電流検出工程と、第2電流検出工程と、記憶工程と、合成工程と、推定工程と、出力工程とを含む。第1電流検出工程は、検出対象の導線に流れる電流をシャント抵抗に基づいて検出する。第2電流検出工程は、前記電流をホール素子に基づいて検出する。記憶工程は、前記第1電流検出工程および前記第2電流検出工程による各検出値を平均とし、あらかじめ取得した標準偏差をそれぞれ有する正規分布である確率分布を記憶させる。合成工程は、前記各検出値にそれぞれ対応する前記確率分布を合成する。推定工程は、前記合成工程による過去の合成分布で最新の前記合成分布をベイズ更新した更新分布を生成するとともに、前記更新分布の平均を推定電流として最尤推定する。出力工程は、前記推定電流を出力する。
【0009】
実施形態の一態様に係る電流制御装置は、上記した電流検出装置と、出力制御部とを備える。出力制御部は、前記電流検出装置から出力された前記電流に基づいて出力電流を制御する。
【0010】
実施形態の一態様に係る電流制御方法は、第1電流検出工程と、第2電流検出工程と、記憶工程と、合成工程と、推定工程と、出力工程と、出力制御工程とを含む。第1電流検出工程は、検出対象の導線に流れる電流をシャント抵抗に基づいて検出する。第2電流検出工程は、前記電流をホール素子に基づいて検出する。記憶工程は、前記第1電流検出工程および前記第2電流検出工程による各検出値を平均とし、あらかじめ取得した標準偏差をそれぞれ有する正規分布である確率分布を記憶する。合成工程は、前記各検出値にそれぞれ対応する前記確率分布を合成する。推定工程は、前記合成工程による過去の合成分布で最新の前記合成分布をベイズ更新した更新分布を生成するとともに、前記更新分布の平均を推定電流として最尤推定する。出力工程は、前記推定電流を出力する。出力制御工程は、前記出力工程によって出力された前記電流に基づいて出力電流を制御する。
【発明の効果】
【0011】
実施形態の一態様によれば、電流の検出精度を高めることができる電流検出装置、電流検出方法、電流制御装置および電流制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施形態に係る電流検出装置の概要を示す模式図である。
【
図3】
図3は、電流検出装置の構成を示すブロック図である。
【
図4A】
図4Aは、合成部の処理内容を示す模式図その1である。
【
図4B】
図4Bは、合成部の処理内容を示す模式図その2である。
【
図5】
図5は、推定部および予測部の処理内容を示す模式図である。
【
図6】
図6は、電流検出装置が実行する処理手順を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、検出素子の組み合わせ例を示す図である。
【
図8】
図8は、電流制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図9】
図9は、電流制御装置が実行する処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本願の開示する電流検出装置、電流検出方法、電流制御装置および電流制御方法の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0014】
まず、実施形態に係る電流検出装置100について
図1を用いて説明する。
図1は、実施形態に係る電流検出装置100の概要を示す模式図である。なお、電流検出装置100の具体的な構成については、
図2および
図3を用いて後述する。
【0015】
図1に示すように、電流検出装置100は、特性の異なる第1素子および第2素子によって検出対象の導線に流れる電流をそれぞれ検出する。第1素子は、たとえば、シャント抵抗であり、第2素子は、たとえば、ホール素子である。なお、
図1の各ステップ(ステップS1、ステップS2およびステップS3)に破線枠で示した各グラフの横軸は電流(I)であり、縦軸は確率(P)である。
【0016】
ここで、シャント抵抗は、抵抗の両端における電圧差を測定し、オームの法則に則って電流を検出するが、周囲温度や自己発熱によるノイズを出力に乗じてしまうという欠点がある。また、ホール素子は、電流の周りに発生する起磁力を測定し、アンペールの法則に則って非接触で電流を検出するが、周囲の電磁ノイズを出力に乗じてしまうという欠点がある。
【0017】
このように、シャント抵抗およびホール素子には、それぞれ上記した欠点があるため、それぞれを単体で用いた場合には、電流の検出精度が十分に高いとはいえず、検出精度の観点からは向上の余地がある。
【0018】
そこで、実施形態に係る電流検出装置100では、特性がそれぞれ異なる第1素子および第2素子によって導線に流れる電流をそれぞれ検出し、検出値をそれぞれ確率分布として取り扱うこととした。そして、それぞれの確率分布を合成した合成分布に基づいて電流を最尤推定することとした。
【0019】
ここで、第1素子および第2素子としては、シャント抵抗とホール素子との組み合わせのように、精度悪化の要因がそれぞれ異なる素子の組み合わせとすることが好ましい。このように異なる特性の素子を用いることで、お互いに欠点を補完しあうことが可能となり、検出精度の向上を図りやすい。
【0020】
また、上記した「確率分布」とは、各素子を経由して計測された電流値を平均(μ)とし、標準偏差(σ)のばらつきを有する正規分布とした統計的な分布に相当する。つまり、確率分布は、各素子による各検出値の不確かさをそれぞれ示しているといえる。なお、各素子を経由して計測された電流値の標準偏差(σ)については、各素子のカタログ値から取得したり、実験に基づいて取得したりすることができる。また、確率分布を「確率分布関数」と呼ぶこととしてもよい。
【0021】
さらに、実施形態に係る電流検出装置100では、合成分布に基づいて電流を最尤推定することに加え、過去の合成分布で最新の合成分布をベイズ更新した更新分布に基づいて電流を最尤推定することとした。
【0022】
以下、上記した処理内容について具体的に説明する。まず、電流検出装置100は、第1素子および第2素子による電流の各検出値をそれぞれ確率分布Dとみなす(ステップS1)。具体的には、「ステップS1」における破線枠に示すように、第1素子によって検出された電流値が「i1」であったとする。この場合、電流検出装置100は、第1素子による検出値を、i1を平均(μ)とし、第1素子に対応する標準偏差(σ)とする「確率分布D1」として取り扱う。
【0023】
また、同様に、第2素子によって検出された電流値が「i2」であったとする。この場合、電流検出装置100は、第2素子による検出値を、i2を平均(μ)とし、第2素子に対応する標準偏差(σ)とする「確率分布D2」として取り扱う。このように、各検出値を単なる値ではなく、各検出値の不確かさをあらわす確率的な分布として取り扱うことで、各素子の検出値を統計的に妥当な形で合成することが可能となる。
【0024】
次に、電流検出装置100は、電流軸(I軸)について合成分布SDを生成する(ステップS2)。具体的には、「ステップS2」における破線枠に示すように、ステップS1に示した確率分布D1と、確率分布D2とを合成する、すなわち、確率分布D1と、確率分布D2とを確率軸(P軸)について合成することで、合成分布SDを生成する。ここで、合成分布SDの平均(μ)を「i3」とする。なお、電流検出装置100は、「i3」を出力値とすることとしてもよい。
【0025】
つづいて、電流検出装置100は、時間軸(T軸)について合成分布SDをベイズ更新する(ステップS3)。具体的には、「ステップS3」における破線枠に示すように、過去の合成分布SDで最新の合成分布SDをベイズ更新した更新分布MDを順次、生成していく。そして、電流検出装置100は、ベイズ更新の結果である更新分布MDの平均(μ)である電流値を出力する。
【0026】
ここで、ベイズ更新(Bayesian Updating)とは、情報が随時アップデートされる場合に推定値もそれに合わせて更新していくことで推定の精度を高めていく既知の手法のことを指す。なお、ベイズ更新は、逐次ベイズ推定と呼ばれることもある。
【0027】
なお、ステップS3では、最新の時間をt0、前回の時間をt1、さらに前回の時間をt2として例示している。時系列に説明すると、t2における合成分布MDは合成分布MD(t2)であり、t1における合成分布MDは合成分布MD(t1)であり、t0における合成分布MDは合成分布MD(t0)である。また、t2における出力値はi(t2)であり、t1における出力値はi(t1)であり、t0における出力値はi(t0)である。
【0028】
ステップS3に示したように、各合成分布MDにおける標準偏差(σ)は、ベイズ更新を繰り返すことで小さくなっていく、すなわち、正規分布の電流軸(I軸)向きの広がりが小さくなっていくので、電流検出の精度を高めていくことができる。このように、時間軸向きの最尤化を行うことで、電流の検出精度をさらに高めることができる。
【0029】
次に、
図1に示した電流検出装置100の回路構成の例について
図2を用いて説明する。
図2は、回路の構成例を示す模式図である。
図2に示すように、電流の検出対象である導線5上にはシャント抵抗30が設けられ、導線5とは非接触となるようにホール素子40が設けられる。なお、
図2に示した場合では、シャント抵抗30とホール素子40とを近接して配置している。このように配置することで、電流検出装置100の小型化を図ることができる。
【0030】
なお、シャント抵抗30の近傍にホール素子40を必ずしも配置する必要はない。すなわち、両素子は、検出対象となる導線5に沿って設けられていれば同じ電流値を取得することができるので、シャント抵抗30とホール素子40とが見かけ上大きく離れていても構わない。ここで、ホール素子40は、IC型のホール素子であり、交流のみならず直流の電流も検出することができる。
【0031】
シャント抵抗30の出力線である第1出力線31には、上流側から順に、アイソレーションアンプ31aと、第1位相シフタ31bと、AD変換器31cとが設けられる。アイソレーションアンプ31aは、アナログの入力信号と出力信号との間を電気的に絶縁したアンプであり、シャント抵抗30における両端の電圧差を増幅する。
【0032】
第1位相シフタ31bは、第2出力線41のアンプ41aの出力波形の位相と合わせるために、アイソレーションアンプ31aの出力波形の位相を任意の時間だけ遅らせる。AD変換器31cは、アナログの入力信号をデジタルの出力信号へ変換する。
【0033】
ホール素子40の出力線である第2出力線41には、上流側から順に、アンプ41aと、第2位相シフタ41bと、AD変換器41cとが設けられる。アンプ41aは、ホール素子40による出力値を増幅する。第2位相シフタ41bは、第1出力線31のアイソレーションアンプ31aの出力波形の位相と合わせるために、アンプ41aの出力の位相を任意の時間だけ遅らせる。AD変換器41cは、アナログの入力信号をデジタルの出力信号へ変換する。
【0034】
このように、電流検出装置100では、シャント抵抗30に対応する第1出力線31と、ホール素子40に対応する第2出力線41との双方にそれぞれ位相シフタを設けることとした。したがって、シャント抵抗30の系、ホール素子40の系のどちらが位相遅れしても位相合わせすることができるので、直流のみならず交流の電流検出にも問題なく適用することができる。なお、検出対象が直流の場合には、第1出力線31および第2出力線41のうち一方の位相シフタを省略することとしてもよい。
【0035】
また、
図2に示したように、第1出力線31および第2出力線41は下流側で合流しており、合流先にはCPU(Central Processing Unit)10およびメモリ20が設けられる。そして、CPU10によって生成された出力値は外部へ出力される。なお、CPU10およびメモリ20は、後述する
図3の制御部10および記憶部20にそれぞれ対応する。
【0036】
また、
図2に示したように、第1出力線31および第2出力線41は、それぞれノイズフィルタを含まない。これは、上記したように、電流検出装置100が2系統の確率分布を合成することによって出力値を最尤推定するのでノイズの影響を抑制することができるからである。このように、ノイズフィルタを省略することで、電流検出装置100のコスト削減および小型化を図ることができる。
【0037】
次に、電流検出装置100の構成について
図3を用いて説明する。
図3は、電流検出装置100の構成を示すブロック図である。なお、
図3では、
図2に示した第1出力線31および第2出力線41の記載を省略している。
【0038】
図3に示すように、電流検出装置100は、制御部10と、記憶部20と、シャント抵抗30と、ホール素子40とを備える。なお、シャント抵抗30およびホール素子40については、
図2を用いて既に説明したので、ここでの説明を省略する。
【0039】
制御部10は、第1電流検出部11と、第2電流検出部12と、合成部13と、推定部14と、予測部15と、出力部16とを備える。記憶部20は、確率分布情報21と、学習情報22とを記憶する。
【0040】
ここで、制御部10は、たとえば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、入出力ポートなどを有するコンピュータや各種の回路を含む。
【0041】
コンピュータのCPUは、たとえば、ROMに記憶されたプログラムを読み出して実行することによって、制御部10の第1電流検出部11、第2電流検出部12、合成部13、推定部14、予測部15および出力部16として機能する。
【0042】
また、制御部10の第1電流検出部11、第2電流検出部12、合成部13、推定部14、予測部15および出力部16の少なくともいずれか一つまたは全部をASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアで構成することもできる。
【0043】
記憶部20は、たとえば、RAMやHDDに対応する。RAMやHDDは、確率分布情報21および学習情報22を記憶することができる。なお、制御部10は、有線や無線のネットワークで接続された他のコンピュータや可搬型記録媒体を介して上記したプログラムや各種情報を取得することとしてもよい。
【0044】
第1電流検出部11は、シャント抵抗30の系の電流値を合成部13へ出力する。また、第2電流検出部12は、ホール素子40の系の電流値を合成部13へ出力する。なお、シャント抵抗30およびホール素子40は、電流の検出対象となる導線5上にあれば互いの位置関係は問わない。
【0045】
合成部13は、記憶部20の確率分布情報21に基づき、シャント抵抗30の系の電流値を確率分布へ変換するとともに、ホール素子40の系の電流値を確率分布へ変換する。そして、合成部13は、各確率分布を合成することで合成分布を生成し、生成した合成分布を推定部14へ出力する。なお、合成部13のさらに具体的な処理内容については、
図4Aおよび
図4Bを用いて後述する。
【0046】
推定部14は、合成部13による合成分布に基づいて電流を最尤推定する。具体的には、推定部14は、予測部15による予測分布と、合成部13から受け取った合成分布とを合成することで最尤分布を生成する。そして、推定部14は、生成した最尤分布の平均(μ)を推定電流として出力部16へ出力するとともに、生成した最尤分布を時間情報と関連付けたうえで学習情報22として記憶部20へ記憶させる。
【0047】
予測部15は、学習情報22に基づいて最新の合成分布を予測した予測分布を生成し、生成した予測分布を推定部14へ出力する。なお、推定部14および予測部15のさらに具体的な処理内容については、
図5を用いて後述する。また、出力部16は、推定部14から受け取った推定電流を外部へ出力する。
【0048】
確率分布情報21は、シャント抵抗30を経由して計測される電流値の分散(σ)や、ホール素子40を経由して計測される電流値の分散(σ)を含んだ情報である。ここで、確率分布情報21を、単に「確率分布21」と呼ぶこととしてもよい。また、学習情報22は、推定部14によって過去に生成された最尤分布と時間とを関連付けた情報である。なお、学習情報22は、直前に生成された最尤分布の情報のみとしてもよく、時系列に複数の最尤分布の情報を含むこととしてもよい。
【0049】
次に、
図3に示した合成部13の処理内容について
図4Aおよび
図4Bを用いて説明する。
図4Aおよび
図4Bは、合成部13の処理内容を示す模式図その1およびその2である。
【0050】
図4Aに示すように、合成部13は、シャント抵抗30の系によって検出された電流値がi1であった場合、i1を平均(μ)とし、確率分布情報21におけるシャント抵抗30に対応する標準偏差(σ)とする正規分布である確率分布Dsを生成する。
【0051】
また、合成部13は、ホール素子40の系によって検出された電流がi2であった場合、i2を平均(μ)とし、確率分布情報21におけるホール素子40に対応する標準偏差(σ)とする正規分布である確率分布Dhを生成する。
【0052】
つづいて、
図4Bに示すように、合成部13は、電流軸(I軸)についての合成分布SDを生成する。具体的には、
図4Aに示した確率分布Dsと、確率分布Dhとを確率軸(P軸)について合成することで、合成分布SDを生成する。そして、合成部13は、生成した合成分布SDを推定部14へ出力する。なお、合成分布SDの平均(μ)であるi3を、電流検出装置100の出力値とすることとしてもよい。
【0053】
次に、
図3に示した推定部14および予測部15の処理内容について
図5を用いて説明する。
図5は、推定部14および予測部15の処理内容を示す模式図である。なお、
図5に示す合成分布SDは、推定部14が合成部13から受け取った最新の合成分布SDである。また、
図5に示す予測分布PDは、予測部15から受け取った最新の予測分布PDである。
【0054】
推定部14は、合成部13から受け取った合成分布SDと、予測部15から受け取った予測分布PDとを確率軸(P軸)について合成することで、最尤分布MDを生成する。そして、推定部14は、生成した最尤分布MDを学習情報22として記憶部20へ記憶させるとともに、最尤分布MDの平均(μ)であるimを出力部16へ出力する。
【0055】
このように、推定部14は、最新の現在値に相当する合成分布SDと、過去の合成分布SDから予測される現在値予測に相当する予測分布PDとを合成するので、過去からの変動履歴を反映した尤もらしい電流値を得ることができる。
【0056】
次に、電流検出装置100が実行する処理手順について
図6を用いて説明する。
図6は、電流検出装置100が実行する処理手順を示すフローチャートである。なお、電流検出装置100は、サンプリングのタイミングごとに
図6に示した処理手順を繰り返す。
【0057】
図6に示すように、電流検出装置100は、シャント抵抗30を経由して電流を検出するとともに(ステップS101)、確率分布情報21に基づいて検出値を確率分布へ変換する(ステップS102)。また、電流検出装置100は、ホール素子40を経由して電流を検出するとともに(ステップS103)、確率分布情報21に基づいて検出値を確率分布へ変換する(ステップS104)。なお、ステップS101からステップS102と、ステップS103からステップS104とは並列的に実行されるものとする。
【0058】
つづいて、合成部13は、ステップS102の確率分布と、ステップS104の確率分布とを合成することで、最新の合成分布を生成する(ステップS105)。そして、予測部15は、学習情報22に基づいて予測分布を生成する(ステップS106)。また、推定部14は、ステップS105における最新の合成分布と、ステップS106における予測分布とを合成して最尤分布を生成する(ステップS107)。
【0059】
また、推定部14は、ステップS107における最尤分布を学習情報22へ保存するとともに(ステップS108)、出力部16は、ステップS107における最尤分布に基づく電流値を出力し(ステップS109)、処理を終了する。
【0060】
ところで、これまでは、電流検出装置100が、シャント抵抗と、ホール素子との組み合わせで電流を検出する場合について説明してきたが、検出素子を異なる組み合わせとすることとしてもよい。
【0061】
そこで、以下では、検出素子の組み合わせのバリエーションについて
図7を用いて説明することとする。
図7は、検出素子の組み合わせ例を示す図である。なお、
図7の例1に示す組み合わせが、
図2~
図6で説明した電流検出装置100に対応する組み合わせである。
【0062】
図7に示すように、「例1」は、シャント抵抗を第1検出素子として、ホール素子を第2検出素子として、それぞれ用いる場合である。例1の組み合わせの場合、上記したように、電流の検出対象は交流および直流である。また、応答性や精度などの性能も良好である。
【0063】
「例2」は、例1のホール素子の代わりに「カレントトランス(電流トランス)」を用いる例である。つまり、シャント抵抗を第1検出素子として、カレントトランスを第2検出素子として、それぞれ用いる場合である。例2の組み合わせの場合、例1の場合とは異なり検出対象は交流に限られる。なお、応答性や精度などの性能については例1と同様に良好である。
【0064】
「例3」は、例1のシャント抵抗の代わりに「カレントトランス」を用いる例である。つまり、カレントトランスを第1検出素子として、ホール素子を第2検出素子として、それぞれ用いる場合である。なお、例3の組み合わせの場合、例2の場合と同様に検出対象は交流に限られる。また、応答性や精度などの性能は、両素子ともに電磁ノイズの影響を受けるタイプであるため、例1や例2よりも劣る。
【0065】
ところで、上記した電流検出装置100を備える電流制御装置200を構成することとしてもよい。そこで、以下では、電流検出装置100を備える電流制御装置200について、
図8および
図9を用いて説明する。
図8は、電流制御装置200の構成を示すブロック図であり、
図9は、電流制御装置200が実行する処理手順を示すフローチャートである。
【0066】
図8に示すように、電流制御装置200は、電流検出装置100と、出力制御部210とを備える。なお、電流検出装置100の構成については
図3等を用いて説明したので、ここでの説明を省略する。出力制御部210は、電流検出装置100から出力された電流に基づいて出力電流を制御する。
【0067】
たとえば、出力制御部210は、電流検出装置100によって検出された電流値をフィードバック値として用いることで、出力電流を目標電流に近づける制御を行う。ここで、出力制御部210は、PI(比例積分)制御を行うものとする。なお、PI制御に変えてP(比例)制御やPID(比例積分微分)制御を行うこととしてもよい。
【0068】
このように、電流制御装置200は、電流の検出精度が高い電流検出装置100による検出電流を用いて電流制御を行うので、電流制御の精度を高めることができる。なお、
図8では、電流検出装置100が1つである場合を例示したが、複数の電流検出装置100を電流制御装置200が備えることとしてもよい。
【0069】
図9に示すように、電流制御装置200は、電流検出装置100の処理手順(
図6のステップS101~ステップS109参照)を実行する(ステップS201)。つづいて、出力制御部210は、電流検出装置100の出力値をフィードバック値として出力制御を行い(ステップS202)、処理を終了する。
【0070】
上述してきたように、実施形態に係る電流検出装置100は、第1電流検出部11と、第2電流検出部12と、記憶部20と、合成部13と、推定部14と、出力部16とを備える。第1電流検出部11は、検出対象の導線5に流れる電流をシャント抵抗30によって検出する。第2電流検出部12は、ホール素子40によって電流を検出する。記憶部20は、第1電流検出部11および第2電流検出部12による各検出値の不確かさをそれぞれ示す確率分布を記憶する。合成部13は、各検出値にそれぞれ対応する確率分布を合成する。推定部14は、合成部13による合成分布に基づいて電流を最尤推定する。出力部16は、最尤推定された電流を出力する。
【0071】
このように、実施形態に係る電流検出装置100によれば、シャント抵抗30による検出値およびホール素子40による検出値をそれぞれ確率分布として取り扱い、両分布を合成した合成分布から電流値を推定することとした。すなわち、確率分布に対して電流軸向きの最尤化(最も尤もらしい電流値の推定)を行うこととしたので、電流検出の精度を高めることができる。
【0072】
また、実施形態に係る電流制御装置200は、電流検出装置100と、出力制御部210とを備える。出力制御部210は、電流検出装置100から出力された電流に基づいて出力電流を制御する。このように、実施形態に係る電流制御装置200によれば、電流検出装置100から出力された電流に基づいて出力電流を制御するので、電流制御の精度を高めることができる。
【0073】
なお、上述した実施形態では、シャント抵抗30あるいはホール素子40の個数がそれぞれ1つである場合を例示したが、シャント抵抗30やホール素子40を複数含む電流検出装置100や電流制御装置200を構成することとしてもよい。
【0074】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施例に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0075】
5 導線
10 制御部(CPU)
11 第1電流検出部
12 第2電流検出部
13 合成部
14 推定部
15 予測部
16 出力部
20 記憶部(メモリ)
21 確率分布情報(確率分布)
22 学習情報
30 シャント抵抗
31 第1出力線
31a アイソレーションアンプ
31b 第1位相シフタ
31c AD変換器
40 ホール素子
41 第2出力線
41a アンプ
41b 第2位相シフタ
41c AD変換器
100 電流検出装置
200 電流制御装置
210 出力制御部
D 確率分布
MD 最尤分布
PD 予測分布
SD 合成分布