(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】ユニフロー掃気式2サイクルエンジン
(51)【国際特許分類】
F01L 3/20 20060101AFI20221109BHJP
F02F 1/22 20060101ALI20221109BHJP
F02F 1/24 20060101ALI20221109BHJP
F01L 3/22 20060101ALI20221109BHJP
F02B 25/04 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
F01L3/20 B
F02F1/22
F02F1/24 F
F01L3/20 C
F01L3/22 C
F02B25/04
(21)【出願番号】P 2021069902
(22)【出願日】2021-04-16
(62)【分割の表示】P 2019503836の分割
【原出願日】2017-03-06
【審査請求日】2021-04-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】山田 敬之
(72)【発明者】
【氏名】山田 剛
(72)【発明者】
【氏名】梅本 義幸
【審査官】二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-153914(JP,A)
【文献】実開平01-102410(JP,U)
【文献】実開昭63-118333(JP,U)
【文献】国際公開第2009/122221(WO,A1)
【文献】米国特許第01873119(US,A)
【文献】特開昭58-150002(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 3/20
F02F 1/22
F02F 1/24
F01L 3/22
F02B 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
掃気ポートから流入した掃気によって、シリンダ内の排気ガスが排気ポートから押し出されるユニフロー掃気式2サイクルエンジンであって、
前記排気ポートを開放可能に閉塞する弁体と、
前記弁体のうち、前記シリンダ内に配されたピストンに対向する対向面に設けられ、不燃性の流体を噴射する噴射部と、
前記弁体のうち前記対向面と反対側に固定されているシャフトと、
前記シャフトに荷重を作用させて前記排気ポートを開放する開位置に前記弁体を移動させる駆動部と、
不燃性ガスが貯留され前記シャフトの少なくとも一部が位置するとともに、前記弁体が前記開位置に移動すると容積が縮小するガス室を有するガススプリング機構と、
前記弁体および前記シャフトに形成され、前記ガス室と前記噴射部とを連通する連通路と、を備え、
前記連通路には、前記ガス室から前記噴射部へ向かう不燃性ガスの流れを許容し、かつ前記噴射部から前記ガス室へ向かう不燃性ガスの流れを規制する逆止弁が設けられ、
前記噴射部は、
球面部が前記ピストンに対向し、
平面部が前記対向面に当接する半球形状体であると共に、前記流体を噴射する複数の放射孔が開口の中心軸の方向が互いに異なって放射状に複数設けられるノズル部と、前記ピストンのストローク方向に貫通するプラグ孔を有する筒状部材であると共に、前記弁体に螺合され、前記放射孔を前記連通路に連通させる前記プラグ孔を備えるプラグ部とを備え、
前記逆止弁は、前記プラグ部の端部に当接するコイルバネによって前記連通路に押圧されているユニフロー掃気式2サイクルエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、排気ポートを排気弁が開閉するユニフロー掃気式2サイクルエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
船舶の機関としても用いられるユニフロー掃気式2サイクルエンジンは、シリンダのうち、ピストンのストローク方向の一端側に掃気ポートが設けられ、他端側に配されたシリンダカバーに排気ポートが設けられている。掃気ポートから燃焼室に活性ガスが吸入されると、燃料燃焼後の排気ガスが、活性ガスによって排気ポートから押し出されるようにして排気される。
【0003】
特許文献1には、シリンダのうちピストンの下死点の近くの部分に、主掃気孔(掃気ポート)とは別に副掃気孔を設け、ピストンが下死点近傍まで下降したとき副掃気孔から圧縮空気をシリンダ内に噴出する構成が記載されている。こうして、シリンダの中央部で淀んだ排気ガス(残留ガス)を拡散させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
排気ポートには排気弁が設けられており、排気弁によって排気ポートが開閉される。排気弁の弁体は、開弁時には排気ポートから離隔しているものの、排気ポートから排出される排気ガスの流れの妨げとなる場合がある。そのため、排気弁のうち、ピストンと対向する対向面の近傍に排気ガスが淀んでしまう可能性がある。
【0006】
本開示は、このような課題に鑑み、排気ガスをシリンダから効率的に排出することが可能なユニフロー掃気式2サイクルエンジンを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示の第1の態様のユニフロー掃気式2サイクルエンジンは、掃気ポートから流入した掃気によって、シリンダ内の排気ガスが排気ポートから押し出されるユニフロー掃気式2サイクルエンジンであって、排気ポートを開放可能に閉塞する弁体と、弁体のうち、シリンダ内に配されたピストンに対向する対向面に設けられ、不燃性の流体を噴射する噴射部と、を備える。
【0008】
本開示の第2の態様は、上記第1の態様のユニフロー掃気式2サイクルエンジンにおいて、弁体の対向面が、ピストンに対してピストンのストローク方向に対向している。
【0009】
本開示の第3の態様は、上記第1または第2の態様のユニフロー掃気式2サイクルエンジンにおいて、噴射部が、不燃性の流体の噴射方向を異にする複数の噴射口を有する。
【0010】
本開示の第4の態様は、上記第3の態様のユニフロー掃気式2サイクルエンジンが、弁体のうち対向面と反対側に固定されているシャフトと、シャフトに荷重を作用させて排気ポートを開放する開位置に弁体を移動させる駆動部と、不燃性ガスが貯留されシャフトの少なくとも一部が位置するとともに、弁体が開位置に移動すると容積が縮小するガス室を有するガススプリング機構と、弁体およびシャフトに形成され、ガス室と噴射部とを連通する連通路と、をさらに備えている。
【0011】
本開示の第5の態様は、上記第4の態様のユニフロー掃気式2サイクルエンジンにおいて、連通孔には、ガス室から噴射部へ向かう不燃性ガスの流れを許容し、かつ噴射部からガス室へ向かう不燃性ガスの流れを規制する逆止弁が設けられている。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、排気ガスをシリンダから効率的に排出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】ユニフロー掃気式2サイクルエンジンの全体構成を示す説明図である。
【
図2】
図1の一点鎖線で囲まれた部分の抽出拡大図であり、排気弁が閉弁している状態を示す。
【
図3】
図1の一点鎖線で囲まれた部分の抽出拡大図であり、排気弁が開弁している状態を示す。
【
図4】排気弁の内部構造を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。この実施形態に示す構成要素の寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
図1は、ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100の全体構成を示す説明図である。本実施形態のユニフロー掃気式2サイクルエンジン100は、例えば、船舶等に用いられる。具体的に、ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100は、シリンダ110と、シリンダカバー112と、ピストン114と、ピストンロッド116と、掃気ポート118と、掃気溜120と、掃気室122と、冷却器124と、整流板126と、ドレインセパレータ128と、燃料ガス主管130と、燃料噴射装置132と、環状配管134と、燃料配管136と、燃料噴出口138と、燃焼室140と、排気ポート142、排気弁144と、排気弁駆動装置146と、を含んで構成される。以下、シリンダ110の中心軸方向(
図1の紙面上下方向)において、シリンダカバー112側を上側と称し、掃気室122側を下側と称する場合がある。
【0016】
ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100では、シリンダ110(シリンダライナ110a)内をピストン114が摺動し、ピストン114の上昇行程および下降行程の2行程の間に、排気、吸気、圧縮、燃焼、膨張が行われる。ピストン114には、ピストンロッド116の一端が固定されている。また、ピストンロッド116の他端には、不図示のクロスヘッドが連結されており、クロスヘッドは、ピストン114とともに往復移動する。ピストン114の往復移動に伴いクロスヘッドが往復移動すると、その往復移動に連動して、不図示のクランクシャフトが回転する。以下、ピストン114がシリンダ110の中心軸方向で往復移動する方向を、ピストン114のストローク方向と称する場合がある。
【0017】
掃気ポート118は、シリンダ110の内周面から外周面まで貫通する孔であり、シリンダ110の全周囲に亘って、間隔をあけて複数設けられている。そして、掃気ポート118は、ピストン114のストローク方向の摺動動作に応じてシリンダ110内に活性ガスを吸入する。この活性ガスは、酸素、オゾン等の酸化剤、または、その混合気(例えば空気)を含む。本実施形態の掃気ポート118は、シリンダ110の径方向視で、ストローク方向に延びる長円形に形成されているが、このような形状に限定されず、例えば、円形、楕円形、矩形、多角形等であってもよい。
【0018】
掃気溜120には、不図示の過給機やブロワー等によって圧縮された活性ガス(例えば空気)が、冷却器124によって冷却されて封入されている。活性ガスは、掃気溜120を冷却器124から掃気室122に向けて流動する。圧縮および冷却された活性ガスは、掃気溜120内に配置された整流板126によって整流された後、ドレインセパレータ128で水分が除去される。
【0019】
掃気室122は、掃気溜120と連通するとともに、シリンダ110のうち、ピストン114のストローク方向(以下、単にストローク方向と称す)の一端側(
図1中、下側)を囲繞している。掃気室122には、掃気溜120から、圧縮、冷却、および、水分の除去が為された活性ガスが導かれる。
【0020】
掃気室122には、掃気ポート118が開口している。ピストン114が掃気ポート118より下側に下降したとき、シリンダ110内と掃気室122とは掃気ポート118を通して互いに連通し、掃気ポート118は、掃気室122とシリンダ110内の差圧によって、掃気室122からシリンダ110内に活性ガスを吸入する。
【0021】
燃料ガス主管130は、不図示の燃料タンクに連通するとともに、燃料噴射装置132を介して環状配管134と連通している。燃料ガス主管130には、燃料タンクから燃料ガスが導かれており、燃料噴射装置132が駆動すると、燃料ガス主管130の燃料ガスが環状配管134に流入する。
【0022】
ここで、燃料ガスは、例えば、LNG(液化天然ガス)をガス化して生成されたガスである。また、燃料ガスは、LNGに限らず、例えば、LPG(液化石油ガス)、軽油、重油等をガス化したガスを使用することもできる。
【0023】
環状配管134は、シリンダ110の径方向外側に、掃気ポート118より、
図1中、上側に配されており、シリンダ110の周方向に環状に延びてシリンダ110を囲繞する。環状配管134のうち、ストローク方向での掃気ポート118側(すなわち
図1中の下側)には複数の燃料配管136が固定されている。燃料配管136は、それぞれの掃気ポート118に対し1つずつ配され、ストローク方向に延びている。以下、シリンダ110の径方向を単に径方向と称し、シリンダ110の周方向を単に周方向と称する場合がある。
【0024】
燃料配管136は、シリンダ110のうち、周方向に隣り合う掃気ポート118の間の壁面に対向しており、燃料配管136のうち、この壁面との対向部位には、燃料噴出口138が形成されている。ここでは、掃気ポート118がシリンダ110の全周囲に亘って複数設けられていることから、掃気ポート118に合わせて燃料配管136(燃料噴出口138)も、シリンダ110の周方向に亘って複数設けられている。
【0025】
燃料噴出口138は、環状配管134に流入した燃料ガスを、掃気ポート118に吸入される活性ガスに噴射する。その結果、燃料ガスは、活性ガスの流れに合流して活性ガスとともに掃気ポート118からシリンダ110内に吸入される。
【0026】
燃焼室140は、ピストン114が上死点側にあるとき、シリンダ110の上端開口部を覆うように配されたシリンダカバー112(シリンダヘッド)と、シリンダライナ110aと、ピストン114とに囲繞されてシリンダ110の内部に形成される。シリンダ110内に吸入された活性ガスおよび燃料ガスは、ピストン114によって燃焼室140に導かれる。
【0027】
エンジンサイクルにおける所望の時点で、シリンダカバー112に設けられた不図示のパイロット噴射弁から適量の燃料油が燃焼室140に噴射される。この燃料油は、燃焼室140の熱で気化する。そして、燃料油が気化して自然着火し僅かな時間で燃焼して、燃焼室140の温度が極めて高くなり、燃焼室140に導かれて圧縮された燃料ガスが燃焼する。ピストン114は、主に燃料ガスの燃焼による膨張圧によって往復移動する。
【0028】
排気ポート142は、燃焼室140の、
図1中、上側に形成され、シリンダ110内において燃料ガスが燃焼して生じた排気ガスをシリンダ110の外部に排出するために開閉される。本実施形態の排気ポート142は、シリンダカバー112および後述する排気弁箱156に形成されている。排気弁144は、排気弁駆動装置146によって所定のタイミングで上下に摺動され、排気ポート142を開閉する。燃料ガスの燃焼後、排気弁144が開弁すると、掃気ポート118から流入した活性ガス(掃気)によって、シリンダ110内の排気ガスが排気ポート142から押し出される。
【0029】
図2、
図3は、
図1の一点鎖線で囲まれた部分の抽出拡大図である。
図2には、排気弁144が閉弁している状態を示し、
図3には、排気弁144が開弁している状態を示す。
図2、
図3に示すように、シリンダカバー112には、燃焼室140の上側においてストローク方向に貫通する貫通孔110bが設けられており、貫通孔110bの内部に排気弁座110cが取り付けられている。排気弁座110cは、貫通孔110bと同じ方向に貫通する弁座孔110dを有する環状部材である。
【0030】
排気弁144は、弁体144aと、シャフト144bを有している。弁体144aは、燃焼室140の内側に配されている。弁体144aには、ピストン114に対してストローク方向(図中、上下方向)に対向する対向面144c(触火面)が形成されている。対向面144cは、ストローク方向に対して略垂直な面方向に延びている。弁体144aは、排気弁座110cに着座して弁座孔110dを開放可能に閉塞している。シリンダカバー112の燃焼室140と逆側には、排気弁箱156が設けられている。
【0031】
弁体144aのうち、対向面144cと反対側の背面部144dには、シャフト144bが固定されている。シャフト144bは、ストローク方向に延びており、排気弁箱156を貫通して設けられている。排気弁箱156の先端部(下側の先端部)が、シリンダカバー112の貫通孔110bのうち、排気弁座110cの上側の部分に挿入されて固定されている。排気弁箱156の内部には、弁座孔110dと連通するとともに、図中、右上に向かって湾曲して延びる排気孔156aが形成されている。排気孔156aは、図中、排気弁箱156の右側面から略右側に向けて開口している。
【0032】
排気弁座110cの弁座孔110dおよび排気弁箱156の排気孔156aは、両内周面の連続部分が略面一となっている。排気弁座110cの弁座孔110dおよび排気弁箱156の排気孔156aによって、排気ポート142が形成されている。弁体144aは、排気ポート142を開放可能に閉塞している。
【0033】
排気弁箱156には、排気弁箱156の上端156bから排気ポート142までストローク方向に貫通するシャフト孔156cが設けられている。シャフト孔156cには、環状(略筒状)のガイドブッシュ158が挿通され、ガイドブッシュ158には、シャフト144bが挿通されている。
【0034】
このように、シャフト144bは、ガイドブッシュ158を介してシャフト孔156cに挿通され、ガイドブッシュ158に対してストローク方向に摺動可能となっている。すなわち、シャフト144bは、排気弁箱156に対してストローク方向に相対移動可能となっている。また、シャフト144bの先端(上端部)が排気弁箱156から上方に向けて突出している。
【0035】
排気弁駆動装置146は、シャフト144bのうち、排気弁箱156から上方に向けて突出した部位を駆動することで、シャフト144bに固定された弁体144aを、図中、上下に移動させて排気ポート142を開閉する。
【0036】
具体的に、排気弁駆動装置146は、下部ケーシング148を有している。下部ケーシング148は、ストローク方向に貫通するケーシング孔148aを有する略円筒形状の部材であって、下端が排気弁箱156に固定されるとともに、上端に上部カバー150が取り付けられている。
【0037】
上部カバー150には、下部ケーシング148に向けて開口しケーシング孔148aと連通するカバー穴150aが形成されている。カバー穴150aは、ストローク方向に延びている。カバー穴150aは、上部カバー150のうち、下部ケーシング148と反対側の壁部(上壁部)によって閉塞されており、よってカバー穴150aの底は、上部カバー150の下部ケーシング148と反対側(上端部)に形成され、下方に対向している。すなわち、上部カバー150は略有頂筒状に形成されている。上部カバー150のうち、カバー穴150aの底の近傍には、上部カバー150の外周面からカバー穴150aまで貫通する油孔150bが形成されている。
【0038】
また、シャフト144bの先端(上端)には油圧駆動ピストン152が固定されている。油圧駆動ピストン152がカバー穴150aにストローク方向に摺動可能に挿入されて、油圧駆動ピストン152とカバー穴150aの底との間に油圧室154が形成されている。油孔150bは、油圧室154に開口しており、不図示のオイルポンプから供給された作動油が油孔150bから油圧室154に導かれる。
【0039】
油圧室154に作動油が導かれて油圧駆動ピストン152に油圧による荷重が作用すると、すなわち油圧駆動ピストン152が油圧によって付勢されると、シャフト144bを介して油圧駆動ピストン152に連結されている弁体144aが、
図2中、下側に移動して、
図3に示すように、排気ポート142が開口する。このように、油圧駆動ピストン152および油圧室154は、シャフト144bに荷重を作用させて排気ポート142を開放する開位置に弁体144aを移動させる駆動部155として機能する。すなわち、駆動部155は、油圧駆動ピストン152と油圧室154とを有している。
【0040】
そして、油圧室154に導かれる作動油の油圧が低下すると、下部ケーシング148のケーシング孔148aに形成されたガススプリング機構160によって弁体144aが排気ポート142を閉じる閉位置に戻る。
【0041】
ガススプリング機構160について詳述すると、ガススプリング機構160は、環状のガススプリング受160aを有する。ガススプリング受160aは、シャフト144bにコッター162によって固定されるとともに、下部ケーシング148のケーシング孔148aにストローク方向に摺動可能に挿入され、ケーシング孔148aの内部をストローク方向に2つの空間に区画している。すなわち、ガススプリング受160aは、シャフト144bのストローク方向の移動に連係して移動可能である。
【0042】
ガス室160bは、ガススプリング受160aによって区画された、ケーシング孔148aの内部の2つの空間のうちの弁体144a側の空間であり、ガス室160bの内部にシャフト144bの一部(ストローク方向の中間部分)が位置する。
【0043】
下部ケーシング148には、下部ケーシング148の外周面からケーシング孔148aまで貫通するガス孔148bが形成されている。ガス孔148bは、ガス室160bに開口しており、不図示のコンプレッサで圧縮された空気(不燃性ガス、不燃性の流体)がオリフィス164を通った後、ガス孔148bからガス室160bに導かれて貯留される。
【0044】
また、図中、ガス室160bの上側に位置するガススプリング受160aにはシールリングが設けられ、ガス室160bの下側(排気弁箱156側)には、シール板166が設けられており、よってガス室160bから外部への空気漏れを抑制している。
【0045】
駆動部155によって弁体144aが開位置に移動すると、
図3に示すように、ガススプリング受160aがシール板166に近づき、ガス室160bの容積が小さくなってガス室160bに貯留されている空気が圧縮される。そのため、駆動部155による弁体144a(シャフト144b)への荷重が除荷されると、ガススプリング機構160は、圧縮された空気が膨張し、ガススプリング受160aが図中、上側に押圧されることで、
図2に示すように、シャフト144bを介してガススプリング受160aと連結されている弁体144aを閉位置に復帰させる。このとき、ガス孔148bからガス室160bに圧縮された空気が供給されて、ガス室160b内の空気量の減少分を補填する。
【0046】
図3に示すように、排気弁144が開弁しているとき、排気ポート142の燃焼室140側の正面には排気弁144の弁体144aが位置しており、排気ポート142から排出される排気ガスの流れの妨げとなる場合がある。排気ガスは、弁体144aを避けるように、弁体144aの周囲に回り込んで排気ポート142に導かれるが、本実施形態では、ピストン114と対向する対向面144cの近傍に排気ガスが淀むことを抑制して排気ポート142に円滑に向かうようにするための機構が設けられている。
【0047】
図4は、排気弁144の内部構造を説明するための説明図である。
図4に示されている弁体144aは、排気ポート142を開放する開位置にある。
図4に示すように、排気弁144には、連通路144e(連通孔)が設けられている。連通路144eは、弁体144aの対向面144cに一端が開口するとともに、弁体144aが開位置にあるときのシャフト144bの外周面のうちガス室160bに面する部分に他端が開口している。連通路144eは、弁体144aの内部からシャフト144bの内部に連続して形成されている。
【0048】
また、弁体144aの対向面144cのうち、連通路144eが開口している部分に噴射部168が取り付けられている。噴射部168は、連通路144eを通ってガス室160bから導かれた空気を、
図4中、破線の矢印で示すように燃焼室140に噴射し、対向面144cの近傍で淀んだ排気ガスを拡散させる。すなわち、連通路144eは、ガス室160bと噴射部168とを連通している。また、噴射部168から燃焼室140に噴射される空気(不燃性ガス、不燃性の流体)の温度は、燃焼室140内の排気ガスの温度より低い。なお、本実施形態のユニフロー掃気式2サイクルエンジン100は、弁体144aと、シャフト144bと、駆動部155と、噴射部168と、ガススプリング機構160と、連通路144eと、をさらに備えている。
【0049】
そのため、排気ガスは、弁体144aを回り込んで排気ポート142から排出され易くなり、残留した高温の排気ガスによる燃焼室140の内部温度の上昇を抑制することができる。その結果、過早着火を抑制しつつエンジン出力を上げることが可能な運転領域を拡大することが可能となる。
【0050】
また、本実施形態では、弁体144aの対向面144cがピストン114に対してストローク方向に対向することから、弁体144aが他の向きに配置されている場合よりも、対向面144cの近傍に排気ガスが残留しやすくなる可能性がある。そのため、噴射部168を設けることで、排気ガスの排出性能が大きく向上する。
【0051】
図5、
図6は、
図4の噴射部168近傍の拡大抽出図である。
図5に示すように、噴射部168は、ノズル部170と、プラグ部172を有している。ノズル部170の本体部170aは、略半球形状に形成されており、本体部170aのうち、平面部170bが対向面144cに当接し、曲面部170c(球面部)が対向面144cと反対側に位置している。すなわち、曲面部170cおよび対向面144cは、いずれも燃焼室140に対向している。
【0052】
また、ノズル部170には、平面部170bの中心に曲面部170cに向けて窪む略半球形状の窪み部170dが形成され、窪み部170dから曲面部170cに貫通する放射孔170eが、放射状に複数設けられている。
【0053】
また、連通路144eのうち、一端側(噴射部168に連通する部分)の内部には、逆止弁174が設けられている。逆止弁174は、ガス室160b側(図中、上側)から噴射部168側(図中、下側)への不燃性ガス(空気)の流れのみを許容する。すなわち、逆止弁174は、ガス室160bから噴射部168へ向かう不燃性ガスの流れを許容し、かつ噴射部168からガス室160bへ向かう不燃性ガスの流れを規制する。本実施形態の逆止弁174は球状の弁体を備えているが、他の構成を有する逆止弁であってもよい。
【0054】
具体的に、弁体144aの連通路144eの一端(噴射部168に連通する部分)には、対向面144cに開口する大内径部144fが設けられるとともに、連通路144eのうち大内径部144fより他端側(図中、上側)には、大内径部144fより内径が小さい小内径部144gが設けられている。大内径部144fと小内径部144gとの接続部分には、テーパ面144hが形成されており、テーパ面144hの内径は、大内径部144fから小内径部144gに向かうに従い漸減している。そして、大内径部144fの内部に、逆止弁174が収容される。テーパ面144hは、逆止弁174の弁座として機能する。
【0055】
また、大内径部144fの内周面のうち、対向面144c側の部分にはネジ溝が形成されており、プラグ部172が対向面144c側から挿入されて螺合している。プラグ部172は、ストローク方向に貫通するプラグ孔172aを有する環状部材(筒状部材)であって、一端(下端)が噴射部168の平面部170bに固定されている。そして、プラグ部172のプラグ孔172aを通して、噴射部168の窪み部170dおよび放射孔170eが連通路144eと連通している。
【0056】
また、プラグ部172の他端(上端)には、コイルバネ176が当接している。コイルバネ176は、大内径部144fに収容され、逆止弁174とプラグ部172との間に圧縮状態で挟まれ、逆止弁174をテーパ面144hに向かって押圧している。
【0057】
例えば、排気弁144が閉弁しているときは、
図5に示すように、逆止弁174は、コイルバネ176の付勢力によってテーパ面144hに押し付けられており、連通路144eは閉じられる。すなわち、コイルバネ176の逆止弁174への付勢力は、不図示のコンプレッサからオリフィス164を通してガス室160bに供給された空気の圧力に基づく逆止弁174をテーパ面144hから離間させる力よりも高い。
【0058】
そして、ガススプリング受160aと連結されているシャフト144bが移動して排気弁144が開弁すると、ガススプリング受160aの移動によりガス室160bの容積が小さくなってガス室160bの空気が圧縮され、連通路144eにおける小内径部144g内の空気の圧力が高まる。空気の圧力によって逆止弁174に作用する荷重が、コイルバネ176の付勢力より大きくなると、
図6に示すように、逆止弁174が小内径部144g内の空気に押圧されてテーパ面144hから離隔する。その結果、ガス室160bの空気が連通路144eを通して噴射部168の放射孔170eから燃焼室140に噴射される。
【0059】
すなわち、放射孔170eの曲面部170c側の開口それぞれが、空気を噴射する噴射口170fとなっている。連通路144eは、ガス室160bの容積が小さくなると、圧縮された空気をガス室160bから複数の噴射口170fに導く。
【0060】
これらの噴射口170fの開口の中心軸(放射孔170eの中心軸)の方向が互いに異なっていることから、噴射口170fは互いに異なった方向に空気を噴射させる。すなわち、これらの噴射口170fの、空気(不燃性の流体)の噴射方向は互いに異なっている。そのため、噴射部168は、対向面144cの近傍で淀んだ排気ガスを効率的に拡散させることができ、排気ガスが、弁体144aを回り込んで排気ポート142から一層排出され易くなる。
【0061】
また、ガス室160bに供給されて排気弁144を閉弁させるエアスプリングとして機能する空気を噴射口170fから燃焼室140に噴射させることができ、噴射口170fから噴射する空気を別途供給する必要がない。その結果、簡易な構成で低コスト化を図ることが可能となる。
【0062】
また、連通路144eの内部には、逆止弁174が設けられていることから、排気弁144が開弁してガス室160bの圧力が高くなると、逆止弁174が自動的に開弁する。そのため、噴射口170fからの空気の噴射を制御する電気的な機構を設ける必要がなく、さらに簡易な構成で一層の低コスト化を図ることが可能となる。
【0063】
以上、添付図面を参照しながら本開示の実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態には限定されない。上記実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本開示の技術的範囲において設計要求等に基づき、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
【0064】
例えば、上述した実施形態では、噴射部168が空気を噴射する場合について説明したが、噴射部168が噴射するのは不燃性の(燃料のように燃焼しない)流体であればよく、例えば、水であってもよい。不燃性の流体として水を噴射する場合、燃焼室140の内部温度の上昇を一層抑制することが可能となる。また、噴射部168から噴射される前は不燃性の液体であるが、燃焼室140に噴射されると気化して不燃性ガスとなる流体を用いてもよい。
【0065】
また、上述した実施形態では、噴射部168は、ノズル部170を有し、ノズル部170に、空気の噴射方向を異にする複数の噴射口170fが形成される場合について説明した。しかし、噴射部168(ノズル部170)は、1つの噴射口170fのみが形成されていてもよいし、ノズル部170やプラグ部172を設けずに、対向面144cの一部を噴射部168として、対向面144cに噴射口170fが形成されてもよい。
【0066】
また、上述した実施形態では、噴射部168は、ガス室160bの空気をエアスプリングとして機能させるガススプリング機構160を利用する場合について説明したが、ガススプリング機構160の代わりにコイルバネを用いてもよい。また、空気の代わりに他の不燃性の気体(不燃性ガス)を用いてもよい。
【0067】
また、上述した実施形態では、連通路144eに逆止弁174が設けられる場合について説明したが、逆止弁174を設けず、例えば、電子制御弁などで代替してもよい。
【0068】
また、上述した実施形態では、燃料噴出口138が掃気ポート118の外側に設けられ、燃料ガスが掃気ポート118からシリンダ110内に流入する場合について説明したが、シリンダ110のうち、掃気ポート118より排気ポート142側の部分に、燃料ガスを流入させるための燃料噴射ポートを設けてもよい。
【0069】
また、上述した実施形態では、弁体144aの対向面144cがピストン114に対してストローク方向に対向しているが、対向面144cがピストン114にストローク方向と異なる方向で対向していてもよい。例えば、対向面144cが、ストローク方向の直交方向に対して僅かに傾いていてもよい。
【0070】
また、上述した実施形態では、噴射部168は、不燃性の流体の噴射方向を異にする複数の噴射口170fを有しているが、噴射部が、対向面144cに平行な方向に間隔をあけて配設されるとともに不燃性の流体を同一方向(例えば、ストローク方向に沿ってピストン114に向かう方向)に噴射する複数の噴射口を有する構成であってもよい。また、上述した実施形態では、窪み部170dおよび放射孔170eによって噴射部168内に分岐流路が形成されているが、連通路144eが、例えば弁体144aの内部で分岐して配設され、複数の噴射口に各別に連通する構成であってもよい。
【0071】
また、上述した実施形態では、シリンダ110の中心軸方向において、シリンダカバー112側を上側と称し、掃気室122側を下側と称しているが、これは実際の使用時におけるユニフロー掃気式2サイクルエンジン100の姿勢を限定するものではなく、適切な動作が確保できるのであればどのような姿勢で使用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本開示は、排気ポートを排気弁が開閉するユニフロー掃気式2サイクルエンジンに利用することができる。
【符号の説明】
【0073】
100 ユニフロー掃気式2サイクルエンジン
110 シリンダ
114 ピストン
118 掃気ポート
142 排気ポート
144 排気弁
144a 弁体
144b シャフト
144c 対向面
144e 連通路
152 油圧駆動ピストン
154 油圧室
155 駆動部
160 ガススプリング機構
160a ガススプリング受
160b ガス室
168 噴射部
170f 噴射口
174 逆止弁