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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】プレス成形限界線取得方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 22/00 20060101AFI20221109BHJP
   G01N 3/28 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
B21D22/00
G01N3/28
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021142057
(22)【出願日】2021-09-01
【審査請求日】2022-09-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】仮屋▲崎▼ 祐太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健太郎
【審査官】堀内 亮吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-147949(JP,A)
【文献】特開2012-166252(JP,A)
【文献】特開2011-141237(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/00
G01N 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属薄板のプレス成形加工において、前記金属薄板の変形経路が圧縮変形から引張変形に変化する部位の割れ発生の有無を判定するための成形限界線を求めるプレス成形限界線取得方法であって、
前記金属薄板を前記変形経路で変形させる基礎成形試験を種々の成形条件で行い、該種々の成形条件について、前記金属薄板における前記変形経路が圧縮変形から引張変形に変化する部位の割れ発生の有無を取得する基礎成形試験工程と、
前記金属薄板の前記基礎成形試験を解析対象とするFEM解析を前記種々の成形条件について行い、前記金属薄板の板厚の変化を算出するFEM解析工程と、
該FEM解析工程において算出した前記金属薄板の板厚の変化に基づいて、前記種々の成形条件について、前記変形経路の圧縮変形において前記金属薄板が最大板厚に至るまでの板厚の変化量である最大板厚増加量と、前記変形経路において圧縮変形から引張変形へと変化して前記金属薄板が最大板厚から最小板厚に至るまでの板厚の変化量である相対板厚減少量と、を割れ判定パラメータとして求める割れ判定パラメータ取得工程と、
前記基礎成形試験工程において前記種々の成形条件について取得した割れの発生の有無と、前記割れ判定パラメータ取得工程において前記種々の成形条件について求めた割れ判定パラメータと、を関連付けて、前記最大板厚増加量及び前記相対板厚減少量を各軸とする二次元座標上にプロットする割れ判定パラメータプロット工程と、
該二次元座標上にプロットした割れ発生の有無の分布に基づいて、前記変形経路で前記金属薄板が変形する部位の割れ発生の有無を区分する成形限界線を作成する成形限界線作成工程と、を含むことを特徴とするプレス成形限界線取得方法。
【請求項2】
前記基礎成形試験工程は、前記金属薄板を絞り加工することにより該金属薄板を前記変形経路で変形させることを特徴とする請求項1記載のプレス成形限界線取得方法。
【請求項3】
前記基礎成形試験工程は、前記金属薄板の絞り加工において、前記金属薄板の形状、又は、前記金属薄板に付与するしわ押さえ力を変更することにより、前記種々の成形条件を設定することを特徴とする請求項2記載のプレス成形限界線取得方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属薄板のプレス成形加工において、金属薄板の変形経路が圧縮変形から引張変形に変化する部位における割れ発生の有無を判定するための成形限界線を求めるプレス成形限界線取得方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のエネルギー・地球環境問題への対応として、自動車の燃費向上を目的とした車体の軽量化と衝突安全性への要求が高まっている。これらの要望に応えるため、車体の軽量化を目的とした高強度鋼板の適用拡大が進んでいる。そして、衝突性能と車体の軽量化を両立させるべく、高張力鋼板を様々な形状の自動車部品に成形する技術の開発が一層求められている。また、先進各国がガソリン車の撤廃目標を掲げるなど、動力の転換も急速に進んでおり、特に電気自動車へのシフトが顕著である。電気自動車はバッテリーを車体に積む必要があるため、今後、バッテリーケースのような金属薄板を深絞り加工した自動車部品の需要が急増する可能性があり、このような需要に対応するプレス成形技術の開発が急務である。
【0003】
プレス成形時の最も大きな課題として、プレス成形過程において発生する割れが挙げられる。
一般的に、プレス成形時に割れを生じさせるプレス成形の形態は、曲げ変形、伸びフランジ変形、絞り変形及び張出変形、の4種に分類できる。そして、これらのプレス成形の形態において、割れ発生の有無を予め判定する技術がいくつか提案されている。
例えば、曲げ変形における割れ発生を判定する方法として、V曲げ試験の割れ発生時における曲げ外側表面ひずみ量から曲げ割れを判定する方法が開示されている(特許文献1)。
また、伸びフランジ変形における割れ発生を判定する方法として、穴広げ試験後のせん断縁近傍におけるひずみ勾配から、伸びフランジ部の板縁割れの成形限界を算出する方法が開示されている(特許文献2)。
【0004】
さらに、絞り変形及び張出変形における割れ発生の判定には、成形限界線図(Forming Limit Diagram;FLD)が広く利用されている(非特許文献1)。FLDは簡易な成形試験で得ることができるうえ、スクライブドサークルや各種ドットパターンを印字した金属薄板(ブランク)を用いたプレス成形品のプレス成形加工において、スクライブドサークルやドットパターン等の印字形状の変化に基づいて金属薄板におけるひずみ分布を測定することで、実際のプレス成形品での割れ発生の有無の判定に容易に適用することができる。また、多くの商用のCAE(Computer Aided Engineering)ソルバーにも、プレス成形シミュレーションで求めた結果を用いてFLDにより割れ発生の有無を判定する機能が実装されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-128956号公報
【文献】特開2009-204427号公報
【0006】
【文献】ISO 12004-2:2008, "Metallic materials - Sheet and strip - Determination of forming-limit curves - Part 2: Determination of forming-limit curves in the laboratory", 2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、FLDにより割れ発生の有無を判定することができるのは、絞り成形や張出成形において一定の変形経路で生じる割れであり、プレス成形中に変形経路が圧縮変形から引張変形へと変化する場合においては、一定の変形経路で変形する場合とは成形限界が異なるため、FLDにより割れ発生の有無を判定することができないという問題があった。
また、実際のプレス成形品のプレス成形において変形経路が一次経路から二次経路へと変化する場合、一次経路と二次経路それぞれの変形パターン(圧縮変形、引張変形)の組み合わせや、一次経路から二次経路へと変化するひずみ分配比の違いにより、無数の変形経路が考えられるため、変形経路が一定の簡易な成形試験に基づいて作成したFLDを用いて割れ発生の有無を判定するのには限界があった。
さらに、プレス成形加工において金属薄板の圧縮変形中にしわが発生すると、しわの発生する箇所とその周囲の応力が変化するため、発生したしわによる成形限界への影響も考慮する必要があるが、FLDではこのような影響を考慮することはできなかった。
【0008】
特に、実際の自動車車体部品のように複雑な形状のプレス成形の絞り加工によるプレス成形において変形経路が圧縮変形から引張変形に転じる場合、一次経路での圧縮変形時の圧縮変形量が大きいと、その後の二次経路での引張変形量が小さい場合でも割れが発生し易くなり、FLDを用いて適切な割れ発生の有無を判定ができない場合があった。
【0009】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、金属薄板のプレス成形過程において、金属薄板の変形経路が圧縮変形から引張変形に変化する部位の割れの発生の有無を判定する成形限界線を求めるプレス成形限界線取得方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明に係るプレス成形限界線取得方法は、金属薄板のプレス成形加工において、前記金属薄板の変形経路が圧縮変形から引張変形に変化する部位の割れ発生の有無を判定するための成形限界線を求めるものであって、
前記金属薄板を前記変形経路で変形させる基礎成形試験を種々の成形条件で行い、該種々の成形条件について、前記金属薄板における前記変形経路が圧縮変形から引張変形に変化する部位の割れ発生の有無を取得する基礎成形試験工程と、
前記金属薄板の前記基礎成形試験を解析対象とするFEM解析を前記種々の成形条件について行い、前記金属薄板の板厚の変化を算出するFEM解析工程と、
該FEM解析工程において算出した前記金属薄板の板厚の変化に基づいて、前記種々の成形条件について、前記変形経路の圧縮変形において前記金属薄板が最大板厚に至るまでの板厚の変化量である最大板厚増加量と、前記変形経路において圧縮変形から引張変形へと変化して前記金属薄板が最大板厚から最小板厚に至るまでの板厚の変化量である相対板厚減少量と、を割れ判定パラメータとして求める割れ判定パラメータ取得工程と、
前記基礎成形試験工程において前記種々の成形条件について取得した割れの発生の有無と、前記割れ判定パラメータ取得工程において前記種々の成形条件について求めた割れ判定パラメータと、を関連付けて、前記最大板厚増加量及び前記相対板厚減少量を各軸とする二次元座標上にプロットする割れ判定パラメータプロット工程と、
該二次元座標上にプロットした割れ発生の有無の分布に基づいて、前記変形経路で前記金属薄板が変形する部位の割れ発生の有無を区分する成形限界線を作成する成形限界線作成工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0011】
(2)上記(1)に記載のものにおいて、
前記基礎成形試験工程は、前記金属薄板を絞り加工することにより該金属薄板を前記変形経路で変形させることを特徴とするものである。
【0012】
(3)上記(2)に記載のものにおいて、
前記基礎成形試験工程は、前記金属薄板の絞り加工において、前記金属薄板の形状、又は、前記金属薄板に付与するしわ押さえ力を変更することにより、前記種々の成形条件を設定することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、金属薄板を圧縮変形から引張変形へと変化する変形経路で変形させる基礎成形試験により取得した金属薄板における割れ発生の有無と、基礎成形試験を対象とするFEM解析により割れ判定パラメータとして求めた圧縮変形における金属薄板の最大板厚増加量及び引張変形における相対板厚減少量と、を関連付けて二次元座標上にプロットし、該プロットした割れ発生の有無の分布に基づいて割れ発生の有無を区分する成形限界線を作成することで、金属薄板における変形経路が圧縮変形から引張変形に変化する部位の割れ発生の有無を判定する成形限界線を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態に係るプレス成形限界線取得方法における処理の流れを説明するフロー図である。
図2】本発明の実施の形態に係るプレス成形限界線取得方法において、金属薄板の変形経路が圧縮変形から引張変形にする部位における金属薄板の板厚の変化と、割れ発生の有無を判定する割れ判定パラメータとして求める最大板厚増加量及び相対板厚減少量と、を説明するグラフである。
図3】本発明の実施の形態と実施例において、基礎成形試験として金属薄板を角筒状の底付き容器に絞り加工する金型の一例を説明する図である((a)斜視図、(b)成形方向に平行な断面図、(c)成形方向に直交する断面図)。
図4】金属薄板を角筒状の底付き柱状容器に絞り加工した場合において、変形経路が圧縮変形から引張変形に変化する部位を説明する図である。
図5】本発明の実施の形態及び実施例において用いた金属薄板の形状及び寸法を説明する図である。
図6】実施例において、金属薄板を角筒状に絞り加工する基礎成形試験により求めた割れ発生の有無を、基礎成形試験のFEM解析により割れ判定パラメータとして求めた最大板厚増加量及び相対板厚減少量に関連付けて二次元座標平面上にプロットした結果と、プロットした割れ発生の有無の分布に基づいて作成した成形限界線と、を示すグラフである。
図7】実施例において、基礎成形試験として金属薄板を円筒状の底付き容器に絞り加工する金型の一例を説明する図である((a)斜視図、(b)成形方向に平行な断面図、(c)成形方向に直交する断面図)。
図8】実施例において、金属薄板を円筒状に絞り加工する基礎成形試験により求めた割れ発生の有無と、実施の形態において金属薄板を角筒状に絞り加工する基礎成形試験とFEM解析により求めた成形限界線と、を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<発明に至った経緯>
本発明の実施の形態に係るプレス成形限界線取得方法について説明するに先立ち、本発明を着想するに至った経緯を説明する。
【0016】
発明者らは、プレス成形中に金属薄板の変形経路が圧縮変形から引張変形へと変化する場合においては、一定の変形経路で変形する場合とは成形限界が異なる原因について鋭意検討した。そして、一次経路での圧縮変形による変形量が大きいと、その後の二次経路での引張変形による変形量が小さくても材料割れ(破断)が発生しやすいことに着目し、一次経路では圧縮変形による加工硬化が影響して材料の延性等の変形特性が低下し(ダメージを受け)、その後の二次経路での引張変形により容易に割れが発生する、とのメカニズムを推定した。
そこで、一次経路での圧縮変形による圧縮変形量と、二次経路での引張変形による引張変形量、のそれぞれを、金属薄板の板厚方向の真ひずみ(板厚変化量)で表すことを想到した。
【0017】
図2に、金属薄板を圧縮変形から引張変形へと変化する変形経路で変形させた場合の板厚の変化を模式的に表した図を示す。
図2において、縦軸は圧縮変形から引張変形へと変化する変形経路での金属薄板の板厚方向の真ひずみ(-ln(変形後板厚/変形前板厚))で与えられる板厚減少率、横軸は金属薄板の変形開始からの経過時間である。
このとき、(i)一次経路での圧縮変形による板厚方向の真ひずみεcompressionと、(ii)二次経路での引張変形による板厚方向の真ひずみεtension after compressionは、それぞれ、式(1)及び式(2)で与えられる。
【0018】
【数1】
【0019】
そして、圧縮変形と引張変形それぞれにおける真ひずみを圧縮変形量及び引張変形量として求め、これらの変形量に基づいて圧縮変形から引張変形に変化する変形経路で金属薄板を変形させたときの当該金属薄板における割れ発生の有無を判定することを着想した。
【0020】
しかし、金属薄板を圧縮変形から引張変形に変化する変形経路で変形させる成形試験により金属薄板における割れの発生の有無を求めることはできても、当該変形経路における金属薄板の圧縮変形による最大板厚hc及び引張変形による最小板厚htを直接実測することは困難である。
【0021】
そこで、圧縮変形から引張変形に変化する変形経路での金属薄板の変形を再現したFEM(Finite Element Method;有限要素法)解析を行い、金属薄板における圧縮変形から引張変形に変化する部位に相当する要素の板厚の変化を算出し、該算出した板厚の変化から最大板厚及び最小板厚を求めることとした。
【0022】
本発明は、上記の検討に基づいてなされたものであり、以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0023】
<プレス成形限界線取得方法>
本発明の実施の形態に係るプレス成形限界線取得方法は、金属薄板のプレス成形加工において、金属薄板における変形経路が圧縮変形から引張変形に変化する部位の割れ発生の有無を判定するための成形限界線を求めるものであって、図1に示すように、基礎成形試験工程S1と、FEM解析工程S3と、割れ判定パラメータ取得工程S5と、割れ判定パラメータプロット工程S7と、成形限界線作成工程S9と、を含むものである。
以下、上記の各工程について説明する。
【0024】
≪基礎成形試験工程≫
基礎成形試験工程S1は、金属薄板を圧縮変形から引張変形に変化する変形経路で変形させる基礎成形試験を種々の成形条件で行い、種々の成形条件について、金属薄板における変形経路が圧縮変形から引張変形に変化する部位の割れ発生の有無を取得する工程である。
【0025】
本実施の形態では、図3に例示するような、パンチ3とダイ5とブランクホルダー7とを備えた金型1を用いて金属薄板(図示なし)を絞り加工する基礎成形試験を行う。
【0026】
絞り加工とは、金属薄板の端部をダイ5とブランクホルダー7とにより挟持しながらパンチ3をダイ5のダイ穴部5aに押し込むことで金属薄板を中央に引き寄せて、平らな金属薄板から角筒状の底付き柱状容器11を成形することをいう。なお、図4は、底付き柱状容器11におけるコーナー部11aを中心とした1/4の領域を表示したものである。
【0027】
金型1を用いて金属薄板を底付き柱状容器11に成形する絞り加工においては、まず、金属薄板がパンチ3によりダイ穴部5aに向けて引き込まれるため、金属薄板はダイ穴部5aに向かって流動し、ダイ穴部5aの外縁周方向に沿って圧縮変形を受ける。
そして、金属薄板における圧縮変形を受けた部位は、パンチ肩部3aに接してダイ穴部5aに押し込まれることで引張変形を受け、ダイ穴部5aへの引き込み後においても引張変形を受ける。
その結果、底付き柱状容器11のコーナー部11aとその周辺における縦壁部15は、圧縮変形から引張変形へと変化する変形経路で成形される。
【0028】
基礎成形試験における種々の成形条件は、金属薄板の形状及び寸法、ブランクホルダーによる金属薄板のしわ押さえ力、金属薄板におけるダイとブランクホルダーにより挟持される部位の潤滑条件(潤滑油の種類、粘度、供給量、極圧添加剤の添加等)、金属薄板に付与するビード形状等を変更して適宜設定すればよい。
【0029】
特に、図3に示す金型を用いて絞り加工する基礎成形試験では、金属薄板の形状、又は、ブランクホルダー7により金属薄板に付与するしわ押さえ力を変更することで、容易に成形条件を変更することができる。
【0030】
本実施の形態では、パンチ肩部3aのパンチ肩半径をR12mm、ダイ肩部5bのダイ肩半径をR5mm、コーナー部11aのコーナー半径をR25mmとした。そして、金属薄板には、板厚1.4mm、980MPa級の鋼板を供試材とし、図5に示す形状及び寸法の金属薄板21を用い、また、ブランクホルダー7によるしわ押さえ力は5~20tonfの範囲で変更して、基礎成形試験における種々の成形条件を設定した。
【0031】
表1に、図5に示す金属薄板21を角筒状の底付き柱状容器11に絞り加工する基礎成形試験における成形条件(金属薄板の形状・寸法及びしわ押さえ力)と、割れ発生の有無を示す。
【0032】
【表1】
【0033】
≪FEM解析工程≫
FEM解析工程S3は、金属薄板の基礎成形試験を解析対象とするFEM解析を種々の成形条件について行い、金属薄板の板厚の変化を算出する工程である。
【0034】
本実施の形態において、FEM解析工程S3におけるFEM解析は、図3に示す金型1を用いて金属薄板を角筒状の底付き柱状容器11に絞り加工する基礎成形試験を解析対象とする。そして、FEM解析工程S3における成形条件は、基礎成形試験工程S1における基礎成形試験と同じ成形条件とする。
【0035】
図2に、金属薄板における圧縮変形から引張変形に変化する部位の板厚の変化をFEM解析により算出した一例を示す。
図2に示すように、金属薄板は、圧縮変形する過程では板厚が増加して最大板厚hcに達し、圧縮変形後に引張変形する過程では板厚が減少する。ここで、引張変形における板厚の最小値を最小板厚htと表記する。
【0036】
なお、FEM解析工程S3は、基礎成形試験工程S1において割れの発生の有無を取得した金属薄板の部位に相当する要素の板厚の変化を算出する。
【0037】
≪割れ判定パラメータ取得工程≫
割れ判定パラメータ取得工程S5は、FEM解析工程S3において算出した金属薄板の板厚の変化に基づいて、種々の成形条件について、変形経路の圧縮変形において金属薄板が最大板厚hcに至るまでの板厚の変化量である最大板厚増加量と、変形経路において圧縮変形から引張変形へと変化して金属薄板が最大板厚hcから最小板厚htに至るまでの板厚の変化量である相対板厚減少量と、を割れ判定パラメータとして求める工程である。
【0038】
FEM解析工程S3において図2に示すように金属薄板の板厚の変化が算出されている場合、割れ判定パラメータ取得工程S5は、金属薄板の初期の板厚h0と圧縮変形での最大板厚hcとを用いて、前述した式(1)により与えられる圧縮変形での真ひずみεcompressionを最大板厚増加量として算出し、最大板厚hcと引張変形での最小板厚htとを用いて、前述した式(2)により与えられる圧縮変形後の引張変形での真ひずみεtension after compressionを相対板厚減少量として算出する。
そして、このように算出した最大板厚増加量と相対板厚減少量とを割れ判定パラメータとして取得する。
【0039】
前記した表1に、図5に示す金属薄板21を角筒状の底付き柱状容器11に絞り加工する基礎成形試験のFEM解析により、各成形条件について割れ判定パラメータとして算出した最大板厚増加量及び相対板厚減少量の結果を示す。
【0040】
≪割れ判定パラメータプロット工程≫
割れ判定パラメータプロット工程S7は、図6に一例として示すように、基礎成形試験工程S1において種々の成形条件について取得した割れの発生の有無と、割れ判定パラメータ取得工程S5において種々の成形条件について求めた割れ判定パラメータと、を関連付けて、最大板厚増加量及び前記相対板厚減少量を各軸とする二次元座標上にプロットする工程である。
【0041】
図6において、〇印のプロットは、基礎成形試験工程S1において割れ発生無しを、×印のプロットは基礎成形試験工程S1において割れ発生有りを示す。
【0042】
≪成形限界線作成工程≫
成形限界線作成工程S9は、割れ判定パラメータプロット工程S7において二次元座標上にプロットした割れ発生の有無の分布に基づいて、圧縮変形から引張変形に変化する変形経路で金属薄板が変形する部位の割れ発生の有無を区分する成形限界線を作成する工程である。
【0043】
図6に、割れ判定パラメータプロット工程S7において二次元座標上にプロットした割れ判定パラメータの分布に基づいて作成した成形限界線の一例を示す。
【0044】
成形限界線は、例えば、割れ判定パラメータにおいて、割れ発生有りと割れ発生なしとの境界を近似する関数式をフィッティングにより求めて作成してもよい。
【0045】
本発明が対象としている、変形経路が圧縮変形から引張変形に変化する成形形態における割れは、最大板厚増加量が大きい場合には相対板厚減少量の限界値は低く、逆に、最大板厚増加量が小さい場合には相対板厚減少量の限界値は大きくなる。したがって、成形限界線は、高次(例えば三次)の逆関数として定式化することができる。
【0046】
具体的には、割れ判定パラメータプロット工程S7においてプロットした割れ判定パラメータのうち割れ発生有りの割れ判定パラメータを抽出し、抽出した割れ判定パラメータを滑らかに結ぶ成形限界線として高次の逆関数を仮定し、抽出した割れ判定パラメータと仮定した逆関数の誤差二乗和が最小になるように逆関数の係数を決定することにより、成形限界線を作成すればよい。
【0047】
ここで、成形限界線より上の領域にプロットされた割れ判定パラメータはすべて割れ発生有りでなければならないため、割れ発生有りと割れ発生なしの境界付近、すなわち、割れ発生有りの割れ判定パラメータのうち、各最大板厚増加量における最小の相対板厚減少量の割れ判定パラメータのプロットを抽出する。
【0048】
図6に示す成形限界線は、式(3)に示す三次の逆関数を仮定して作成したものであり、式(3)中の各係数の値は、a=2.1×10-10、b=8.9×10-12、c=2.0、d=0、e=0.01である。
【0049】
【数2】
【0050】
以上、本実施の形態に係るプレス成形限界線取得方法によれば、圧縮変形から引張変形へと変化する変形経路で変形される金属薄板の割れ発生の有無を判定する成形限界線を求めることができる。
そして、プレス成形限界線取得方法により求めた成形限界線を用いることで、プレス成形過程において、圧縮変形から引張変形へと変化する変形経路が生じる部位の板厚の変化に基づいて割れの発生の有無を判定することができ、安定してプレス成形可能なプレス成形条件を確立することができる。
【0051】
なお、本実施の形態に係るプレス成形限界線取得方法は、金属薄板の基礎成形試験として図3に示す金型1を用いて絞り加工を行うものであったが、このような金属薄板の絞り加工において、ダイ穴部5aの外縁に沿った方向に圧縮変形し、その後、ダイ穴部5aに金属薄板が押し込まれる方向に引張変形しているため、一次経路での圧縮変形の方向と、二次経路での引張変形の方向とが一致していない。
【0052】
金属薄板における圧縮変形から引張変形へと変化する変形経路で変形する部位の割れは、一次経路での圧縮変形による加工硬化と、その後の二次経路での引張変形が関係すると考えられるため、本発明に係るプレス成形限界線取得方法での基礎成形試験は前述した絞り加工のように、一次経路での圧縮方向と、二次経路での引張方向とを必ずしも一致させる必要はない。
【0053】
そのため、基礎成形試験工程S1における基礎成形試験は、圧縮方向と引張方向が一致する単軸圧縮引張試験に限らず、本実施の形態で述べたように、圧縮方向と引張方向が一致しない絞り加工でもよい。
【0054】
もっとも、金属薄板の面内で圧縮変形から引張変形に反転する単軸圧縮引張試験では、金属薄板の圧縮変形中に座屈が発生するため、金属薄板に付与できる圧縮変形量は狭い範囲に留まる。
これに対し、絞り加工では、金属薄板を圧縮変形させる一次経路において大きな圧縮変形量を付与することができ、また、その後の二次経路においても大きな引張変形を与えることができる。これにより、絞り加工による基礎成形試験では、圧縮変形における最大板厚増加量と圧縮変形後の引張変形における相対板厚減少量とを広い範囲で求めることができるため、割れ発生の有無を区分する成形限界線を広い範囲で作成することができ、成形限界線の精度を高めるとともに適用可能な成形条件を広範囲とすることができる。
【0055】
絞り加工による基礎成形試験では、金属薄板のダイ穴部5a(図3参照)に向かう材料流動の流入抵抗を変更することで、成形条件を変更することができる。そして、成形条件を変更することで、圧縮変形による最大板厚増加量と引張変形による相対板厚減少量とを変更することができる。
【0056】
例えば、金型1を用いて金属薄板を絞り加工する基礎成形試験において、金属薄板のダイ穴部5aに向かう材料流動の流入抵抗を高くする成形条件とするには、金属薄板の寸法を大きくする、ブランクホルダー7によるしわ押さえ力を大きくする、金属薄板とダイ5及びブランクホルダー7との摩擦係数が高い潤滑条件とする、金属薄板にビード形状を付与する、等を行えばよい。
【0057】
そして、材料流動の流入抵抗を高くする成形条件では、金属薄板のダイ穴部5aに向かう流動が抑制されることで、金属薄板におけるダイ穴部5aの外縁周方向の圧縮変形が緩和されるので、最大板厚増加量は小さくなる。さらに、ダイ穴部5aに引き込まれる材料流動が減少することで、絞り加工による金属薄板の引張変形が大きくなり、相対板厚減少量は大きくなる。
【0058】
なお、金属薄板の絞り加工では、フランジ部にしわが発生すると当該発生したしわが過剰な絞り力を誘発して金属薄板の破断(割れ)の原因となる可能性がある。このような金属薄板の割れは、本発明で対象とする圧縮変形から引張変形へと変形経路が変化する部位での割れとは異なるため、割れ発生の有無を適正に判定することができない。そのため、金属薄板の絞り加工により基礎成形試験を行う場合においては、図3に示すように、ブランクホルダー7を用いてしわの発生を防ぐことが好ましい。
【0059】
また、図3に示すような金型1により絞り加工する場合、ダイ肩部5bのダイ肩半径が金属薄板の板厚に比べて小さいと、圧縮変形後の引張変形での板厚減少が急激に促進されて割れに至るので、割れ発生の有無の適正な判定を行うことができない。そのため、ダイ5のダイ肩半径は、金属薄板の板厚の数倍以上とするのが好ましい。
【0060】
なお、絞り加工試験では、前述した図3に示す金型1を用いて角筒の容器を成形するものに限らず、図7に示すような金型31を用いて円筒の容器を成形するものであってもよい。
【0061】
なお、上記の説明において、割れ判定パラメータ取得工程S5は、一例として、式(1)で与えられる圧縮変形での真ひずみεcompressionを最大板厚増加量として求め、式(2)で与えられる真ひずみεtension after compressionを相対板厚減少量として求めるものであった。
もっとも、本発明において、割れ判定パラメータとして求める最大板厚増加量及び相対板厚減少量は、例えば、圧縮変形及び圧縮変形後の引張変形における真ひずみから変換される公称ひずみや、圧縮変形での板厚方向の真ひずみをプラスとし、引張変形での板厚方向の真ひずみをマイナスとして算出したものであってもよい。
【0062】
上記の説明は、980MPa級鋼板を金属薄板の供試材とした場合の結果であるが、本発明は、金属薄板の材料強度や板厚を限定するものではなく、金属薄板の材質についても鋼板に限らず、その他の金属材料であってもよい。
【実施例
【0063】
本発明に係るプレス成形限界線取得方法の作用効果を検証する実験及び解析を行ったので、以下、これについて説明する。
【0064】
本実施例では、図7に示す金型31を用いて金属薄板を円筒状の底付き柱状容器(図示なし)に絞り加工し、円筒状の底付き柱状容器における割れ発生の有無を、実施の形態で説明した角筒状に絞り加工する基礎成形試験により求めた成形限界線(図6)を用いて判定した。
【0065】
金属薄板には引張強度980MPa級、板厚1.4mmの鋼板を供試材とし、前述した図5に示す形状及び寸法の金属薄板21を用いた。
【0066】
金型31は、パンチ33と、ダイ35と、ブランクホルダー37と、を備えたものであり、パンチ肩部33aのパンチ肩半径をR12mm、ダイ肩部35bのダイ肩半径をR5mmとした。また、ブランクホルダー37によるしわ押さえ力は5tonfとした。
【0067】
まず、金型31を用いて金属薄板21を絞り加工した円筒状の底付き柱状容器における割れ発生の有無を、図5に示す金属薄板21の各形状及び寸法について取得した。
【0068】
次に、図5に示す形状及び寸法の各金属薄板21について、金型31を用いて絞り加工するFEM解析を行い、圧縮変形から引張変形へと変化する変形経路で変形される部位である円筒状の底付き柱状容器の縦壁部における最大板厚増加量及び相対板厚減少量を割れ判定パラメータとして取得した。
【0069】
表2に、円筒状の底付き柱状容器の絞り加工により取得した割れ発生の有無と、FEM解析により求めた割れ判定パラメータ(最大板厚増加量及び相対板厚減少量)の結果を示す。
【0070】
【表2】
【0071】
そして、絞り加工により取得した割れ発生の有無を、FEM解析により求めた割れ判定パラメータと関連付けて、図8に示すように、最大板厚増加量及び相対板厚減少量を二軸とする二次元座標平面上にプロットした。
【0072】
さらに、前述した実施の形態で説明した金属薄板を角筒状の底付き柱状容器11に絞り加工する基礎成形試験について求めた成形限界線(図6)を、図8に示す割れ発生の有無をプロットした二次元座標上に表示した。
【0073】
図8に示すように、金属薄板を角筒状の底付き柱状容器11に絞り加工する基礎成形試験について求めた成形限界線を用いても、円筒状の底付き柱状容器に絞り加工する場合における割れ発生の有無を精度良く判定できることが示され、本発明の有効性が実証された。
【符号の説明】
【0074】
1 金型
3 パンチ
3a パンチ肩部
5 ダイ
5a ダイ穴部
5b ダイ肩部
7 ブランクホルダー
11 底付き柱状容器
11a コーナー部
13 底部
15 縦壁部
17 フランジ部
21 金属薄板
31 金型
33 パンチ
33a パンチ肩部
35 ダイ
35a ダイ穴部
35b ダイ肩部
37 ブランクホルダー
【要約】
【課題】金属薄板のプレス成形加工において、変形経路が圧縮変形から引張変形に変化する部位の割れ発生の有無を判定する成形限界線を求めるプレス成形限界線取得方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るプレス成形限界線取得方法は、金属薄板における変形経路が圧縮変形から引張変形に変化する部位の割れ発生の有無を取得する基礎成形試験を行う工程(S1)と、FEM解析により金属薄板の基礎成形試験における板厚変化量を算出する工程(S3)と、算出した板厚変化量から、圧縮変形での金属薄板の最大板厚増加量と、圧縮変形後の引張変形での金属薄板の相対板厚減少量と、を割れ判定パラメータとして求める工程(S5)と、割れの発生の有無と割れ判定パラメータと関連付けて二次元座標上にプロットする工程(S7)と、プロットした割れ発生の有無の分布に基づいて割れ発生の有無を区分する成形限界線を作成する工程(S9)と、を含むものである。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8