(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】流体プリントヘッドおよび流体プリンタ
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20221109BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
B41J2/14 611
B41J2/01 401
B41J2/01 451
B41J2/14 205
(21)【出願番号】P 2021143735
(22)【出願日】2021-09-03
(62)【分割の表示】P 2020124977の分割
【原出願日】2016-03-30
【審査請求日】2021-09-15
(32)【優先日】2015-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000201113
【氏名又は名称】船井電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148460
【氏名又は名称】小俣 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100168125
【氏名又は名称】三藤 誠司
(72)【発明者】
【氏名】エデレン・ジョン グレン
(72)【発明者】
【氏名】ベルグステット・スティーブ
【審査官】大浜 登世子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-016568(JP,A)
【文献】特開平10-076662(JP,A)
【文献】特開2002-127404(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0333694(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々が、
対応する流体チャンバと、
前記流体チャンバ内に配置されたヒーター素子と
を含む複数の流体吐出素子と、
キャビテーション層により形成された第1電極であって、少なくともその一部が前記複数の流体チャンバ内に配置され、ステップ電圧を受けるよう構成された、前記複数の流体チャンバにより共有される共通の第1電極と、
前記第1電極への前記ステップ電圧の印加に基づき、プリントヘッド状態の指標としての出力を生成する、前記複数の流体吐出素子にそれぞれ配置された複数の第2電極のうち対応する第2電極にそれぞれ電気的に接続された複数の検知回路と
、
前記複数の検知回路から前記出力を受信する検知バスと
を含むプリントヘッド状態検出システムと
を備え、
前記複数の検知回路の各々は、当該検知回路に対応する前記流体チャンバ内の少なくとも一部に流体が存在しないことを検知した場合に、デジタル低出力を出力する
流体プリントヘッド。
【請求項2】
前記ステップ電圧を受けて前記共通の第1電極へ伝達するよう構成された刺激ノードをさらに備える
請求項1に記載の流体プリントヘッド。
【請求項3】
前記検知バスは、通常時はデジタル高出力を保持する
請求項
1に記載の流体プリントヘッド。
【請求項4】
前記検知バスは、前記複数の検知回路からの出力の論理和を出力する
請求項
1に記載の流体プリントヘッド。
【請求項5】
前記流体チャンバ内に流体が存在することが検知された場合、当該流体チャンバに対応する前記検知回路の出力はデジタル高出力である
請求項1に記載の流体プリントヘッド。
【請求項6】
前記複数の検知回路の各々は、排他的OR論理セルを有している
請求項1に記載の流体プリントヘッド。
【請求項7】
前記複数の検知回路の各々の前記排他的OR論理セルは、信号入力部を有している
請求項
6に記載の流体プリントヘッド。
【請求項8】
前記複数の検知回路の各々は、前記信号入力部に低論理信号が入力されることにより、対応する前記流体チャンバ内に流体が存在することを検知した場合に、前記デジタル低出力の出力に切り替え可能である
請求項
7に記載の流体プリントヘッド。
【請求項9】
ハウジングと、
制御機構に従って前記ハウジングに対して相対的に移動するのに伴って印刷媒体上に流体を吐出するよう前記ハウジングに移動可能に接続された1以上のプリントヘッドアセンブリと
を備える流体プリンタであって、
前記1以上のプリントヘッドアセンブリのうち少なくとも1つは、各々が、
対応する流体チャンバと、
前記流体チャンバ内に配置されたヒーター素子と
を含む複数の流体吐出素子と、
キャビテーション層により形成された第1電極であって、少なくともその一部が前記複数の流体チャンバ内に配置され、ステップ電圧を受けるよう構成された、前記複数の流体チャンバにより共有される共通の第1電極と、
前記第1電極への前記ステップ電圧の印加に基づき、プリントヘッド状態の指標としての出力を生成する、前記複数の流体吐出素子にそれぞれ配置された複数の第2電極のうち対応する第2電極にそれぞれ電気的に接続された複数の検知回路と
、
前記複数の検知回路から前記出力を受信する検知バスと
を含むプリントヘッド状態検出システムと
を含む流体プリントヘッド
を備え、
前記複数の検知回路の各々は、当該検知回路に対応する前記流体チャンバ内の少なくとも一部に流体が存在しないことを検知した場合に、デジタル低出力を出力する
流体プリンタ。
【請求項10】
前記ステップ電圧を受けて前記共通の第1電極へ伝達するよう構成された刺激ノードをさらに備える
請求項
9に記載の流体プリンタ。
【請求項11】
前記検知バスは、通常時はデジタル高出力を保持する
請求項
9に記載の流体プリンタ。
【請求項12】
前記検知バスは、前記複数の検知回路からの出力の論理和を出力する
請求項
9に記載の流体プリンタ。
【請求項13】
前記流体チャンバ内に流体が存在することが検知された場合、当該流体チャンバに対応する前記検知回路の出力はデジタル高出力である
請求項
9に記載の流体プリンタ。
【請求項14】
前記複数の検知回路の各々は、排他的OR論理セルを有している
請求項
9に記載の流体プリンタ。
【請求項15】
前記複数の検知回路の各々の前記排他的OR論理セルは、信号入力部を有している
請求項
14に記載の流体プリンタ。
【請求項16】
前記複数の検知回路の各々は、前記信号入力部に低論理信号が入力されることにより、対応する前記流体チャンバ内に流体が存在することを検知した場合に、前記デジタル低出力の出力に切り替え可能である
請求項
15に記載の流体プリンタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリントヘッドに関し、特にインクジェットプリントヘッドのノズルの状態を検出するためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットノズルの状態検出は、当分野における長年の懸案事項となっている。スキャン方式のプリントヘッドでは、そのマルチパス実行機能を用いてノズルの欠落や誤動作の影響を最小限に抑えようとしている。インクジェット技術がレーザープリンタ並みの性能を達成しつつあるなか、ページ幅全体をカバーできるノズル付きプリントヘッドが一般的になりつつある。このような印刷方法を用いると印刷スピードは向上するものの、もはやマルチパス印刷の余地はない。したがって、ノズルが正しく噴射していることを検証する方法が必要である。
【0003】
そのような方法として、米国特許第8177318号明細書、米国特許第8376506号明細書、米国特許第8449068号明細書などに開示された光検出による方法がある。この方法では外部電源とセンサが必要となるため、印刷装置に余分なコストと複雑さが上乗せされることになりかねない。外部デバイスを使用せずにすむ別の方法として、吐出チップ自体にインピーダンスセンサを設置する方法が開示されている。
【0004】
そのような方法の実施可能な例が、米国特許第8870322号明細書、米国特許第8899709号明細書、および米国特許出願公開第2014/0333694号明細書に記載されている。これらの特許および特許出願は、差動インピーダンスまたはシングルエンドインピーダンスを経時測定することにより熱蒸気泡の形成と崩壊を検出することを教示している。さらに、センサから集めたデータを外部処理することにより、ノズルの詰まりや機能低下といった様々なノズル状態を判定できることも教示されている。米国特許第8870322号明細書に示されているように、システムの性能を十分に発揮させるためには較正方法が必要になる場合もある。こういった従来のプリントヘッド状態検出技術において、各インク室に対応するノズルが正しく噴射しているかどうかを判定するには、各インク室の各センサの出力を分析する必要がある。このことが実用的かつ効率的な検出方法の実現を阻んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第8177318号明細書
【文献】米国特許第8376506号明細書
【文献】米国特許第8449068号明細書
【文献】米国特許第8870322号明細書
【文献】米国特許第8899709号明細書
【文献】米国特許出願公開第2014/0333694号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、インクジェットプリントヘッドを刺激して、その反応を検知することによりプリントヘッドのノズルの状態を判定する実用的な方法を提供することである。
【0007】
本発明の他の目的は、単一のバスライン上で複数のノズルの状態を検知することのできる流体検知回路を提供することである。
【0008】
本発明の他の目的は、単一の共通入力でプリントヘッド状態検出セルを刺激する能力のあるシステムを提供することである。
【0009】
本発明の他の目的は、状態検出セル内の電極としてキャビテーション保護層を用いたプリントヘッド状態検出システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一例示的実施形態による流体プリントヘッドは、各々が、対応する流体チャンバと、前記流体チャンバ内に配置されたヒーター素子とを含む複数の流体吐出素子と、キャビテーション層により形成された第1電極であって、少なくともその一部が前記複数の流体チャンバ内に配置され、ステップ電圧を受けるよう構成された、前記複数の流体チャンバにより共有される共通の第1電極と、前記第1電極への前記ステップ電圧の印加に基づき、プリントヘッド状態の指標としての出力を生成する、前記複数の流体吐出素子にそれぞれ配置された複数の第2電極のうち対応する第2電極にそれぞれ電気的に接続された複数の検知回路とを含むプリントヘッド状態検出システムとを備え、前記複数の検知回路の各々は、当該検知回路に対応する前記流体チャンバ内の少なくとも一部に流体が存在しないことを検知した場合に、デジタル低出力を出力する。
【0011】
一例示的実施形態において、前記ステップ電圧を受けて前記共通の第1電極へ伝達するよう構成された刺激ノードをさらに備える。
【0012】
一例示的実施形態において、前記複数の検知回路から前記出力を受信する検知バスをさらに備える。
【0013】
一例示的実施形態において、前記検知バスは、通常時はデジタル高出力を保持する。
【0014】
一例示的実施形態において、前記検知バスは、前記複数の検知回路からの出力の論理和を出力する。
【0015】
一例示的実施形態において、前記流体チャンバ内に流体が存在することが検知された場合、当該流体チャンバに対応する前記検知回路の出力はデジタル高出力である。
【0016】
一例示的実施形態において、前記複数の検知回路の各々は、排他的OR論理セルを有している。
【0017】
一例示的実施形態において、前記複数の検知回路の各々の前記排他的OR論理セルは、信号入力部を有している。
【0018】
一例示的実施形態において、前記複数の検知回路の各々は、前記信号入力部に低論理信号が入力されることにより、対応する前記流体チャンバ内に流体が存在することを検知した場合に、前記デジタル低出力の出力に切り替え可能である。
【0019】
本発明の一例示的実施形態による流体プリンタシステムは、ハウジングと、制御機構に従って前記ハウジングに対して相対的に移動するのに伴って印刷媒体上に流体を吐出するよう前記ハウジングに移動可能に接続された1以上のプリントヘッドアセンブリとを備える流体プリンタシステムであって、前記1以上のプリントヘッドアセンブリのうち少なくとも1つは、各々が、対応する流体チャンバと、前記流体チャンバ内に配置されたヒーター素子とを含む複数の流体吐出素子と、キャビテーション層により形成された第1電極であって、少なくともその一部が前記複数の流体チャンバ内に配置され、ステップ電圧を受けるよう構成された、前記複数の流体チャンバにより共有される共通の第1電極と、前記第1電極への前記ステップ電圧の印加に基づき、プリントヘッド状態の指標としての出力を生成する、前記複数の流体吐出素子にそれぞれ配置された複数の第2電極のうち対応する第2電極にそれぞれ電気的に接続された複数の検知回路とを含むプリントヘッド状態検出システムとを含む流体プリントヘッドを備え、前記複数の検知回路の各々は、当該検知回路に対応する前記流体チャンバ内の少なくとも一部に流体が存在しないことを検知した場合に、デジタル低出力を出力する。
【0020】
一例示的実施形態において、前記ステップ電圧を受けて前記共通の第1電極へ伝達するよう構成された刺激ノードをさらに備える。
【0021】
一例示的実施形態において、前記複数の検知回路から前記出力を受信する検知バスをさらに備える。
【0022】
一例示的実施形態において、前記検知バスは、通常時はデジタル高出力を保持する。
【0023】
一例示的実施形態において、前記検知バスは、前記複数の検知回路からの出力の論理和を出力する。
【0024】
一例示的実施形態において、前記流体チャンバ内に流体が存在することが検知された場合、当該流体チャンバに対応する前記検知回路の出力はデジタル高出力である。
【0025】
一例示的実施形態において、前記複数の検知回路の各々は、排他的OR論理セルを有している。
【0026】
一例示的実施形態において、前記複数の検知回路の各々の前記排他的OR論理セルは、信号入力部を有している。
【0027】
一例示的実施形態において、前記複数の検知回路の各々は、前記信号入力部に低論理信号が入力されることにより、対応する前記流体チャンバ内に流体が存在することを検知した場合に、前記デジタル低出力の出力に切り替え可能である。
【0028】
本発明の一例示的実施形態による流体プリントヘッドは、流体チャンバと、前記流体チャンバに流体が供給される際に流体が通過するスロート部と、前記流体チャンバ内に配置されたヒーター素子とを含む少なくとも1つの流体吐出素子と、少なくともその一部が前記流体チャンバ内に配置され、ステップ電圧を受けるよう構成された第1電極と、前記スロート部内に配置された第2電極と、前記第1電極への前記ステップ電圧の印加に基づき、プリントヘッド状態の指標としての出力を生成する、前記第2電極に電気的に接続された検知回路とを含むプリントヘッド状態検出システムとを備える。
【0029】
一例示的実施形態において、前記少なくとも1つの流体吐出素子は、複数の流体吐出素子を含み、各流体吐出素子は、対応する流体チャンバと、スロート部と、ヒーター素子とを含み、前記プリントヘッド状態検出システムは、前記複数の流体チャンバにより共有される共通の第1電極と、それぞれ対応する流体吐出素子の前記スロート部内に配置された複数の第2電極と、それぞれ対応する第2電極に電気的に接続された複数の検知回路とを含む。
【0030】
一例示的実施形態において、前記流体プリントヘッドは、前記ステップ電圧を受けて前記共通の第1電極へ伝達するよう構成された刺激ノードをさらに備える。
【0031】
一例示的実施形態において、前記流体プリントヘッドは、前記複数の検知回路から前記出力を受信する検知バスをさらに備える。
【0032】
一例示的実施形態において、前記流体チャンバ内に流体が存在する場合、前記検知回路の出力はデジタル高出力である。
【0033】
一例示的実施形態において、前記流体チャンバ内に流体が存在しない場合、前記検知回路の出力はデジタル低出力である。
【0034】
本発明の実施形態のその他特徴および利点は、以下の詳細な説明、添付の図面、および別記の請求項から容易に明らかになるであろう。
【発明の効果】
【0035】
本発明による流体プリントヘッドは、インクジェットプリントヘッドを刺激して、その反応を検知することによりプリントヘッドノズルの状態を判定する実用的な方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
本発明の例示的実施形態の特徴および利点は、添付図面と照らし合わせながら以下の詳細な説明を参照することで、より完全に理解されるであろう。
【
図1】
図1は、本発明の一例示的実施形態によるインクジェットプリントヘッドの斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の一例示的実施形態によるインクジェットプリンタの斜視図である。
【
図3】
図3は、本発明の一例示的実施形態によるプリントヘッド状態検出セルの平面図である。
【
図4】
図4は、定常状態にある本発明の一例示的実施形態によるプリントヘッド状態検出セルの平面図である。
【
図5】
図5は、
図4のプリントヘッド状態検出セルの要素間の電気化学的相互作用を表す回路図である。
【
図6】
図6は、本発明の一例示的実施形態による、インクが存在する状態検出セルに5V入力したときの反応の測定結果を示す。
【
図7】
図7は、本発明の一例示的実施形態による、インクが存在しない状態検出セルに5V入力したときの反応の測定結果を示す。
【
図8】
図8は、本発明の一例示的実施形態による状態検出セルの反応に基づく等価直列抵抗および二重層容量の計算方法を示す。
【
図9】
図9は、本発明の一例示的実施形態による検知回路の回路図である。
【
図10】
図10は、本発明の一例示的実施形態によるプリントヘッド状態検出システムのブロック図である。
【
図11】
図11は、本発明の一例示的実施形態による複数のインク検知回路と1本の検知バスとの電気的接続を示す回路図である。
【
図12】
図12は、本発明の一例示的実施形態によるインク検知回路と検知バスとの電気的接続を示す回路図である。
【
図13】
図13は、蒸気泡が形成され始めた、本発明の一例示的実施形態によるプリントヘッド状態検出セルの平面図である。
【
図14】
図14は、蒸気泡が完全に形成された、本発明の一例示的実施形態によるプリントヘッド状態検出セルの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本明細書で使用する見出し項目は、構成上の目的でのみ使用し、明細書または請求項の範囲を限定するために使用するものではない。本出願全体で使用する「してもよい」および「できる」という言葉は、強制(つまり「ねばならぬ」)の意味ではなく、許容(つまり「可能性がある」)の意味で使用している。同様に、「含む」および「含んでいる」という言葉は、何かを含むが限定的ではないことを意味する。理解しやすいように、可能な場合は、諸図に共通する類似の要素を表すのに類似の参照番号を付与している。
【0038】
電気化学システムにおいては、組成変化を起こすためではなくシステムの探査に用いられる電極のことを微小電極と定義する。さらに、限界寸法が25μm未満の微小電極は超微小電極(ultra-microelectrode(UME))と呼ばれる。本発明の例示的実施形態によると、吐出素子スロートそれぞれに配置された複数の個別帯域用のUMEに加えて1つの汎用の微小電極も用いてインクの有無を検知する。
【0039】
図1を参照すると、本発明の一例示的実施形態によるインクジェットプリントヘッドが全体的に10で示されている。プリントヘッド10は、インクを保持するのに適した任意の材料でできたハウジング12を有する。その形状は様々であり得、プリントヘッドを担持または収容する外部デバイスに依るところが大きい。ハウジングは、初回または補充のインクを保持するコンパートメント16を少なくとも1つ内部に有している。ある実施形態では、コンパートメントは単一のチャンバを有し、ブラックインク、フォトインク、シアンインク、マゼンタインクまたはイエローインクのうちの1種類を保持している。他の実施形態では、コンパートメントは複数のチャンバを有し、3種類のインクを収容している。コンパートメントにはシアン、マゼンタおよびイエローのインクが含まれることが好ましい。さらに別の実施形態では、コンパートメントは、ブラック、フォト、シアン、マゼンタまたはイエローのインクのうちの複数種を収容している。しかし、コンパートメント16はプリントヘッドのハウジング12内に局所的に一体化して示されているが、その代わりに遠隔のインク源に接続して、例えばチューブからインクの供給を受ける場合もあることが理解されよう。
【0040】
ハウジング12の1つの表面18に接着されているのは、フレキシブル回路の、特にテープ自動接合(TAB)回路20の部分19である。TAB回路20のもうひとつの部分21は、ハウジングの別の表面22に接着されている。この実施形態において、2つの表面18、22は、ハウジングのエッジ23のところで互いに対して直角に配置されている。
【0041】
TAB回路20は、使用中にヒーターチップ25をプリンタ、ファックス機、コピー機、写真複写機、プロッター、複合機などの外部デバイスに電気的に接続するための複数の入力/出力(I/O)コネクタ24を支持している。TAB回路20には複数の導電体26が存在して、I/Oコネクタ24をヒーターチップ25の入力端子(接合パッド28)に電気的に接続したり短絡したりする。当業者であれば、そのような接続を容易に行う種々の技法を心得ている。わかりやすくするために、
図1は8つのI/Oコネクタ24、8つの導電体26、8つの接着パッド28を示しているが、昨今のプリントヘッドに含まれる数量ははるかに多く、本明細書において任意の数が同様に採用される。さらにまた、これらコネクタ、導電体、接合パッドの数は互いに等しいが、実際のプリントヘッドではそれぞれの数が異なることもあり得ることを当業者であれば理解するであろう。
【0042】
ヒーターチップ25は、使用中にコンパートメント16からインクを吐出する役割を果たす複数の流体噴射素子の列34を収容している。流体噴射素子は、薄膜層としてシリコン基板に形成される熱抵抗ヒーター素子(短絡用ヒーター)を具現化したもの、またはヒーターチップという名称からして熱技術の意味を含むかのように思われるが、圧電性素子を具現化したものであってもよい。わかりやすくするために、列34の複数の流体噴射素子は、インクビア32に隣接して一列に並んだ5つのドットとして示されているが、実用では数百個または数千個の流体噴射素子が含まれる場合もある。以下に説明するように、垂直方向に隣接する流体噴射素子は、間に水平方向の間隙があってもなくてもよいし、互い違いになっていてもいなくてもよい。一般に、流体噴射素子は、付属のプリンタの解像度(1インチ当たりのドット数)に合わせて、垂直方向に間隔がとってある。間隔のいくつかの例としては、ビアの長手方向に沿って、1インチの1/300、1/600、1/1200、1/2400などが挙げられる。ビアを形成するには、ヒーターチップを厚さ方向に貫通して切断またはエッチングしてビア32を形成する多くの方法が知られている。いくつかのさらに好ましい方法としては、グリットブラスティングやエッチング、たとえばウエット、ドライ、反応性イオンエッチング、深堀り反応性イオンエッチングなどが挙げられる。ノズルプレート(図示せず)には各ヒーターの位置に合わせた複数の孔があり、使用中にインクを発射する。ノズルプレートは、接着剤またはエポキシで接着しても、薄膜層として製造してもよい。
【0043】
記憶部27は、例えば、製造日、耐用年数、補充可能回数などの情報に関するデータを保存する。
【0044】
図2を参照すると、プリントヘッド10を収容するインクジェットプリンタとしての外部デバイスが、全体的に40として示されている。プリンタ40には、1つ以上のプリントヘッド10を収容するための複数のスロット44を有するキャリッジ42が含まれる。当技術分野では周知のように、キャリッジ42は、ドライブベルト50に供給される推進力によって、シャフト48に沿って(コントローラ57の出力59に従い)印刷ゾーン46の上方で往復動する。キャリッジ42の往復動は、プリンタ40内で給紙トレイ54から用紙搬送路に沿って印刷ゾーン46を通過し排紙トレイ56へと送られる用紙52などの印刷媒体に対して相対的に生じる。
【0045】
印刷ゾーンでは、キャリッジ42は、矢印で示すように、用紙送り方向に送られている用紙52に対して概ね垂直の往復動方向に往復動する。そのようなときに、コンパートメント16(
図1)からのインク滴は、プリンタのマイクロプロセッサまたは他のコントローラ57の指令に応じてヒーターチップ25から吐出されることになる。インク滴放出のタイミングは、印刷中の画像のピクセルパターンに対応する。多くの場合、そのようなパターンは、プリンタ外部の、コントローラ57に(外部入力により)電気的に接続されたデバイスで生成される。そのようなデバイスとしては、コンピュータ、スキャナ、カメラ、視覚的表示装置、携帯情報端末などを含むが、これに限定されない。
【0046】
インク一滴を印刷または放出するために、流体噴射素子(
図1の列34のドット)に少量の電流が個別に流されて、少量のインクを急速に加熱する。それによってインクは局所のインクチャンバ内でヒーターとノズルプレートの間で蒸発し、ノズルプレートから印刷媒体に向けて吐出されて発射される。そのようなインク滴を放出するのに必要な噴射パルスは、単一またはスプリット噴射パルスを具現化してもよく、接合パッド28、導電体26、I/Oコネクタ24およびコントローラ57間の接続から入力端子(たとえば接合パッド28)のヒーターチップで受信される。入力端子からの噴射パルスは、内部ヒーターチップ配線により、1個または多数の流体噴射素子へと搬送される。
【0047】
コントローラ57への入力62として、ユーザー選択インターフェース60を有するコントロールパネル58も多くのプリンタに付属して、プリンタの追加の機能や堅牢性を提供している。
【0048】
図3は、本発明の一例示的実施形態による、全体的に参照番号100で表される流体吐出素子の平面図である。流体吐出素子100は、感光材に形状を描画、現像するフォトリソグラフィ法を用いて形成された流体チャンバ102を備える。チャンバ102の厚みはおよそ15μmでもよい。薄膜加熱素子104はチャンバ102内にある。デバイス全体に電位差をかけることにより加熱素子104を通電することができる。典型的なインクジェットの用途において、加熱素子の表面温度は、1μs足らずで周囲温度から約350℃まで上昇する。チャンバが水性インク溶液で満たされていると、加熱素子の表面に蒸気泡が形成され、急速に膨張する。このように泡が膨張することによって、インクがノズル孔を通じてチャンバから押し出される。一般に、ノズル(
図3には示されず)は、加熱素子104の上方にある。加熱素子104の寸法は、吐出される液体の滴のサイズや液体の特性に大きく左右されるが、一般的には、加熱素子のアスペクト比(長さ/幅)は、通常1~3である。一例示的実施形態において、加熱素子104は、厚さ約800ÅのTaAlNの薄層を蒸着することによって形成される。
【0049】
インクなどの流体をノズルの開口部を通じてチャンバ102から吐出すると、蒸気泡は崩壊する。泡が崩壊すると、大きなキャビテーション力が働いて、またたく間に加熱素子104を破壊してしまう。このような理由から、キャビテーション保護層を加熱素子104付近に施している。一例示的実施形態において、キャビテーション保護層はタンタルでできている。材質の硬さと耐化学性によりタンタルが一般的に用いられるが、他の材料も同様に用いることができるだろう。以下にさらに詳しく説明するように、キャビテーション保護層は、プリントヘッド状態検出システム内の流体吐出素子100に対応する状態検出セルの第1電極106として機能する。プリントヘッド内の他の流体吐出素子も同じキャビテーション層を共有するため、これら吐出素子に対応する各状態検出セル用の第1電極106としても機能することになる。
【0050】
流体吐出素子100は、第2電極110も備えている。第2電極110は、各流体吐出素子のスロート108に配置することが好ましい。本開示の目的において、「スロート」とは、流体ビア(図示せず)と流体チャンバ102との間の流路を提供する通路と定義してもよい。スロート108は、チャンバ102と同じ材料で同じように形成される。第2電極110は個別帯域用UMEであり、一例示的実施形態において、タンタルでできていてもよく、プロセスの効率のために、第1電極/キャビテーション保護層106と同時に蒸着、エッチングしてもよい。なお、第2電極110は、プリントヘッド状態センサの性能を向上させるものであれば他の材料から形成してもよい。
【0051】
図4は、液体で満たされた、定常状態の流体吐出素子100を示す。図示されるように、第1電極106および第2電極110が流体を介して接続されている。電気化学的原理から、流体と第1、第2電極106、110との関係は、液抵抗を表す抵抗器Rsと、バイアスをかけたときに電極と流体との界面に形成される二重層容量を表すコンデンサCdを有する電気回路により表すことができる。そのような電気回路を表したものが
図5に示されている。なお当然ながら、液体が存在しなければ二重層コンデンサも存在しないため、直列抵抗が開回路のように見えることになる。
【0052】
このように状態検出セルの特性を理解すれば、2つの電極間の液体の有無を検出する実用的な方法を検討することが可能になる。インクジェット印刷やその他の液体分配供給の用途において、吐出チップの各チャンバの状態を検知できることが望ましい。このような設計上の目標を達成するには、簡単なインターフェースの維持はもちろん金型のサイズをできるだけ小さくしたいという要望とのバランスも図らなくてはならない。
【0053】
本発明の一例示的実施形態では、システムにステップ電圧を印加して、それに対する反応を用いて、液体の有無をシステムから検知する。
図6は、インクが存在する状態検出セルに5Vを入力したときの反応の測定結果を示す。
図7は、インクが存在しないときの反応の測定結果を示す。さらに、
図8は、セルの反応に基づく等価直列抵抗と二重層容量の計算方法を示している。この方法では、ステップ電圧という簡単な入力を用いることができるが、さらに実用的な測定方法が必要である。そのような測定に好ましい検知回路112が
図9に示されている。
【0054】
検知回路112は、状態検出セルにインクが存在するときはデジタル高出力を、セルが空のときはデジタル低出力を供給する。セルの状態を判定するのに、複雑でスペースをとるセルのアナログ出力のサンプリングは必要ない。これは、大幅なチップ上のスペースの節約を表している。
【0055】
この例示的実施形態の検知回路112を7つの機能ブロックにグループ分けしてもよい。バイアスブロック202は、しきい値検出ブロック204により用いられる電流バイアスを生成する。サンプリングブロック206は、検知ピンがハイ状態のときサンプリングパッドを試料電流ミラー208に接続する。すると、試料電流ミラー208は、検知されたインク電流を複製し、その電流がしきい値電流検出ブロック204へと流れ込む。ミラー化された検知電流がしきい値電流より大きい場合、インクが存在し、インバータブロック210は、ラッチブロック212の入力においてロー状態を生成し、ラッチブロックの検出ピンがハイ状態になる。インク内を流れる電流には過渡帯電性があるため、ラッチが必要となる。インクが存在しなければ、サンプル後の電流はしきい値検出電流よりはるかに小さく(ほぼゼロに)なるだろう。すると、インバータはハイ状態を生成し、さらにラッチ検出出力においてロー状態が生成される。ラッチは記憶素子であって、「検知リセット(sense_reset)」ピンが強制的にハイ状態にされるまで、記憶素子の状態は持続する。「検知リセット」ピンがハイ状態になれば、ラッチの検出出力ピンのロー状態がクリアされることになる。つまり、インク内の過渡電流パルスによりラッチが起動され、その検出出力ピンはハイ状態または「インク検知」状態でラッチされることになる。
【0056】
図10は、本発明の一例示的実施形態による、全体的に参照番号120で表される状態検出システムを示している。チップ上のすべてのノズルの状態を検知する実用的な方法を提供するという目標を遂行するために、すべての流体チャンバについて検知回路112の出力を単一の検知バス122に接続することができる。さらに、キャビテーション保護層はすべてのチャンバに共通の第1電極として機能するため、電圧ステップ関数を単一の刺激ノード124に適用すると、刺激ノード124がキャビテーション保護層にその電圧ステップ関数を伝達する。全チャンバの状態を単一の検知バス出力126で読み出すことができる。検知バス122は通常はデジタルハイとなるよう構成してもよい。つまり、複数のインク検知回路112のうちのいずれか1つの回路の出力でも、検知バス122をロー状態にプルダウンできるようにインク検知回路を構成してもよい。例えば、検知バス出力126からデジタルローの値が読み出されたときは、複数のチャンバのうち少なくとも1つがデプライムされた、またはカートリッジ内のインクが空になったことを示すことになる。あるいは、デジタルローの値が読み出されたときは、印刷後も少なくとも1つのチャンバにはインクが残っている、つまり、少なくとも1つのヒーターが点火しなかったことを示してもよい。
【0057】
図11は、本発明の一例示的実施形態による検知バス122と複数のインク検知回路112との電気的接続を示す回路図である。本実施形態において、検知バス122は、複数のインクセル上でのインク検知の失敗を検出するのに用いられる。本実施形態の検知バス122は、複数のインク検知セルを「ワイヤードOR(wired or)」接続する単一のプルダウン配線122である。インク検知回路112のうちいずれか1つにインクがあることが検出されると、当回路のNMOSプルダウントランジスタが起動されて、検知バス122が低論理状態に「プルダウン」される。このように、インクジェットヒーター群の点火直後に「検知(sense)」信号を使って検知することにより、インクがまだ残っていれば失敗または非点火ヒーターを検出するという手法が可能になる。この方法によると、多数のヒーターを同時にチェックすることができ、アレイ内の任意のヒーターもしくは全ヒーターをたった1本の配線で接続することができる。これにより失敗の検出に必要な時間が削減されるとともに、検出システムに必要な面積も削減される。
【0058】
一例示的実施形態において、記載されたシステムおよび方法を用いて、チャンバ内の蒸気泡の有無を検出することができるであろう。上述したように、また
図13に示されるように、加熱素子表面の蒸気泡が成長することにより、チャンバからインクが吐出される。
図14に示されるように、チャンバからインクが吐出された後、蒸気泡はさらに成長を続けスロートへと侵入し、ついにはビア内のインクの圧力が蒸気泡の力に勝り、蒸気泡が崩壊し、インクがチャンバに補充される。
図13に示されるように、泡が形成され始めたときには、第1、第2電極106、110はまだ流体連結している。液滴が吐出されてしばらくすると、蒸気泡は第2電極110まで拡大して、流体路を破壊する。この状態では、セルはチャンバが空であるかのような読み出しを繰り返してしまう。泡の形成から適切な時間経過後にセルを検知することにより、泡が正しく形成されたかどうか、および当システムを用いてノズルの全体的な状態を評価することができるかどうかを判定することが可能になる。
【0059】
テストモード次第では、プルダウン配線もしくはバスによる接続を、グループ内の任意のインクジェットヒーターセル上のインクの存在もしくはインクの欠如(つまり「泡」)の検知にまで拡大してもよい。この点に関して、
図12に示されるように、「排他的OR(exclusive or)」(xor)論理セル214および新たな入力信号「逆プルダウン検知(inv_pulldown_sense)」(ips)信号216を含むように上述したインク検知回路を変更してもよい。ips信号216をxor論理セル214と共に用いて、プルダウンNMOSトランジスタの起動に必要な論理状態を反転させる。低論理ips信号は、いずれかのインク検知セルにインクが存在すると、プルダウン回路を起動させる、またはプルダウン配線を低状態に設定する。高論理ips信号は、いずれかのインク検知セルにインクがない(つまり、泡を検出する)と、プルダウン回路を起動させる、またはプルダウン配線を低状態に設定する。このように、ips信号を使えば、複数のインクジェットヒーターセルから成る任意のグループについて、単一の配線を用いて、正確な時間(瞬間)に検知をおこなうことにより、インク有(ヒーター非点火)またはインク無(泡)のチェックを行うことができる。
【0060】
一例示的実施形態において、一度に全チャンバを検知するのではなく、個々のチャンバを指定して検知することによりインクが存在しないチャンバを確定できるようにしてもよい。
【0061】
本発明の特定の実施形態を図示し説明してきたが、当業者にとっては本発明の精神と範囲を逸脱しない限り様々な他の変化形態および変更形態が可能であることは明白であろう。したがって、本発明の範囲内のそのような変化形態および変更形態はすべて別記の請求項に含まれるものとする。
【符号の説明】
【0062】
10 プリントヘッド
12 ハウジング
16 コンパートメント
18、22 表面
19、21 部分
20 TAB回路
23 エッジ
24 I/Oコネクタ
25 ヒーターチップ
26 導電体
28 接合パッド
32 インクビア
34 列
40 プリンタ
42 キャリッジ
44 スロット
46 印刷ゾーン
48 シャフト
50 ドライブベルト
52 用紙
54 給紙トレイ
56 排紙トレイ
57 コントローラ
58 コントロールパネル
59 出力
60 ユーザー選択インターフェース
62 入力
100 流体吐出素子
102 流体チャンバ
104 加熱素子
106 第1電極
108 スロート
110 第2電極
112 検知回路
120 状態検出システム
122 単一の検知バス
126 単一の検知バス出力
202 バイアスブロック
204 しきい値検出ブロック
206 サンプリングブロック
208 試料電流ミラー
210 インバータブロック
212 ラッチブロック
214 xor論理セル
216 ips信号