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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】車両用フード
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/10 20060101AFI20221109BHJP
【FI】
B62D25/10 E
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021503457
(86)(22)【出願日】2020-01-23
(86)【国際出願番号】 JP2020002261
(87)【国際公開番号】W WO2020179269
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2019037324
(32)【優先日】2019-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(74)【代理人】
【識別番号】100183689
【弁理士】
【氏名又は名称】諏訪 華子
(72)【発明者】
【氏名】堀内 正直
(72)【発明者】
【氏名】川野 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】山本 賢治
【審査官】姫島 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-120852(JP,A)
【文献】特開2010-208556(JP,A)
【文献】特開2012-106653(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウターパネルとインナーパネルとの間に補強部材が展開される車両用フードであって、
前記補強部材の前部をなし車両の前端部を補強する面状の前方面部と、
前記前方面部の左右両端部のそれぞれから車両後方かつ車幅方向外側に向かって延長され、前記アウターパネルの側縁に沿って後方に延びる面状の後方面部と、
前記後方面部の車両外側端辺から車両前方に向かって延設され、前記インナーパネルに固定される後脚部とを備え、
前記後脚部が、
前記後方面部と同一平面をなす第一面部と、
前記第一面部に対して傾斜した向きで接続される第二面部と、
前記第二面部に対して傾斜した向きで接続され、前記インナーパネルに固定される第三面部とを有し、
前記第二面部が、車幅方向外側の第一端辺とこれに対向する車幅方向内側の第二端辺とを具備し、
前記第一端辺が、板面を屈曲させてなる補強部を有するとともに、
前記第二端辺が、板面を屈曲させていない平面状の非補強部を有する
ことを特徴とする、車両用フード。
【請求項2】
アウターパネルとインナーパネルとの間に補強部材が展開される車両用フードであって、
前記補強部材の前部をなし車両の前端部を補強する面状の前方面部と、
前記前方面部の左右両端部のそれぞれから車両後方かつ車幅方向外側に向かって延長され、前記アウターパネルの側縁に沿って後方に延びる面状の後方面部と、
前記後方面部の車両外側端辺から車両前方に向かって延設され、前記インナーパネルに固定される後脚部とを備え、
前記後脚部が、
前記後方面部と同一平面をなす第一面部と、
前記第一面部に対して傾斜した向きで接続される第二面部と、
前記第二面部に対して傾斜した向きで接続され、前記インナーパネルに固定される第三面部とを有し、
前記第一面部と前記第二面部との境界をなす境界部が、前記後方面部の車両外側端辺に対して平行に配置される
ことを特徴とする、車両用フード。
【請求項3】
アウターパネルとインナーパネルとの間に補強部材が展開される車両用フードであって、
前記補強部材の前部をなし車両の前端部を補強する面状の前方面部と、
前記前方面部の左右両端部のそれぞれから車両後方かつ車幅方向外側に向かって延長され、前記アウターパネルの側縁に沿って後方に延びる面状の後方面部と、
前記後方面部の車両外側端辺から車両前方に向かって延設され、前記インナーパネルに固定される後脚部とを備え、
前記後脚部が、
前記後方面部と同一平面をなす第一面部と、
前記第一面部に対して傾斜した向きで接続される第二面部と、
前記第二面部に対して傾斜した向きで接続され、前記インナーパネルに固定される第三面部とを有し、
前記第二面部と前記第三面部との境界が、前記第一面部と前記第二面部との境界に対して平行に配置される
ことを特徴とする、車両用フード。
【請求項4】
アウターパネルとインナーパネルとの間に補強部材が展開される車両用フードであって、
前記補強部材の前部をなし車両の前端部を補強する面状の前方面部と、
前記前方面部の左右両端部のそれぞれから車両後方かつ車幅方向外側に向かって延長され、前記アウターパネルの側縁に沿って後方に延びる面状の後方面部と、
前記後方面部の車両外側端辺から車両前方に向かって延設され、前記インナーパネルに固定される後脚部とを備え、
前記後脚部が、
前記後方面部と同一平面をなす第一面部と、
前記第一面部に対して傾斜した向きで接続される第二面部と、
前記第二面部に対して傾斜した向きで接続され、前記インナーパネルに固定される第三面部とを有し、
前記第一面部と前記第二面部との境界にて前記インナーパネル側に膨出した形状に形成されたビードを備える
ことを特徴とする、車両用フード。
【請求項5】
前記後脚部と前記補強部材との間を、前記後脚部と前記インナーパネルとの固定位置よりも車両後方まで切り込んだ形状に形成された切り込み部を備える
ことを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の車両用フード。
【請求項6】
前記後脚部が、車両前方に向かう下り勾配で傾斜した姿勢で配置される
ことを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の車両用フード。
【請求項7】
前記ビードが前記第一面部と前記第二面部との境界に複数設けられる
ことを特徴とする、請求項記載の車両用フード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アウターパネルとインナーパネルとの間に補強部材が展開された車両用フードに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のコンパートメント(エンジンルームやモータールームなど)の上面を覆う車両用フードにおいて、アウターパネルとインナーパネルとの間に補強部材を挿入した構造が知られている。例えば、インナーパネルにアーチ状のブラケットを固定し、ブラケットの板面をアウターパネルの裏面に沿って展開させた構造が提案されている(特許文献1参照)。また、アウターパネルの裏面に板状の補強部材を取り付けて剛性を高めた構造も提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-306237号公報
【文献】特開2016-010995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両用フードに外力が作用したときのエネルギーは、アウターパネルや補強部材の変形によって吸収される。したがって、その変形形状を制御することができれば、緩衝性能が向上しうる。一方、既存の車両用フードはこのような点が十分に考慮されたものとはいえず、改良の余地がある。例えば、補強部材をインナーパネルに固定するための構造に工夫を施すことで、さらなる緩衝性能の改善が期待される。
【0005】
本件の目的の一つは、上記のような課題に鑑みて創案されたものであり、車両用フードの補強部材の変形形状を制御して緩衝性能を向上させることである。なお、この目的に限らず、後述する「発明を実施するための形態」に示す各構成から導き出される作用効果であって、従来の技術では得られない作用効果を奏することも、本件の他の目的として位置付けることができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示の車両用フードは、アウターパネルとインナーパネルとの間に補強部材が展開される車両用フードである。この車両用フードは、前記補強部材の前部をなし車両の前端部を補強する面状の前方面部を備える。また、前記前方面部の左右両端部のそれぞれから車両後方かつ車幅方向外側に向かって延長され、前記アウターパネルの側縁に沿って後方に延びる面状の後方面部を備える。さらに、前記後方面部の車両外側端辺から車両前方に向かって延設され、前記インナーパネルに固定される後脚部を備える。前記後脚部は、前記後方面部と同一平面をなす第一面部と、前記第一面部に対して傾斜した向きで接続される第二面部と、前記第二面部に対して傾斜した向きで接続され、前記インナーパネルに固定される第三面部とを有する。また、以下の(1)~(4)のいずれかの構成を備える。
(1)前記第二面部が、車幅方向外側の第一端辺とこれに対向する車幅方向内側の第二端辺とを具備し、前記第一端辺が、板面を屈曲させてなる補強部を有するとともに、前記第二端辺が、板面を屈曲させていない平面状の非補強部を有する。
(2)前記第一面部と前記第二面部との境界をなす境界部が、前記後方面部の車両外側端辺に対して平行に配置される。
(3)前記第二面部と前記第三面部との境界が、前記第一面部と前記第二面部との境界に対して平行に配置される。
(4)前記第一面部と前記第二面部との境界にて前記インナーパネル側に膨出した形状に形成されたビードを備える。
【発明の効果】
【0007】
後脚部を後方面部の車両外側端辺から車両前方に向かって延設することで、車幅方向の寸法を増大させることなく、基端部から先端までの長さを確保しやすくなる。これにより、補強部材の変形のストロークを増大させることができ、車両用フードの緩衝性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例としての車両用フードの分解斜視図である。
図2】補強部材の上面図である。
図3】前脚部及び後脚部を示す補強部材の斜視図である。
図4】後脚部の斜視図である。
図5】後脚部の上面図である。
図6】(A)~(C)は後脚部の断面図である。
図7】外力による後脚部の変形を説明するための斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[1.車両用フードの構造]
図1図7を参照して、実施例としての車両用フード10を説明する。この車両用フード10は、車両の前部に設けられるコンパートメント(エンジンルームやモータールームなどの車載品収容室)の上面を被覆する部材である。コンパートメントの後端部近傍には、車体に対して車両用フード10を開閉可能に枢支するヒンジや、車両用フード10を開放方向に付勢するスプリングが設けられる。また、コンパートメントの前端部近傍には、車両用フード10の閉鎖状態を維持するためのフードロック装置や、開放状態を保持させるのに用いられるサポートロッドなどが設けられる。
【0010】
図1に示すように、車両用フード10は、アウターパネル1(フードアウターパネル)とインナーパネル2(フードインナーパネル)との間に補強部材3(フードロックリンフォースアッパー)が展開された構造を持つ。アウターパネル1は車両用フード10の外表面をなす部材であり、表側の板面には意匠的な塗装や凹凸加工が施される。また、アウターパネル1の前部には、コンパートメント内に導入される冷却風が通過する開口部が形成されたグリル補強部11が設けられる。グリル補強部11には、車両のグリル12が取り付けられる。車両のヘッドランプ13は、コンパートメントよりも前方において、車体に取り付けられる。ヘッドランプ13の位置は、車両用フード10の閉鎖状態において、グリル12の左右側方となる位置に設定される。
【0011】
インナーパネル2は、アウターパネル1に対して所定の間隔をあけて、その下方に配置され、アウターパネル1の外縁部に対して接合される。インナーパネル2の板面には、強度や剛性を高めるための凹凸が設けられる。本実施形態のインナーパネル2には、縁部14と梁部15とが設けられる。縁部14は、インナーパネル2の左右両端の縁に沿って形成されたほぼ水平な部位であり、補強用のフランジとして機能する。また梁部15は、板面を下方にへこませるとともに、そのへこみを縁部14の内側に沿って車両前後方向に連ねた部位であり、インナーパネル2の曲げ剛性を高める構造断面として機能する。
【0012】
補強部材3は、アウターパネル1とインナーパネル2とで囲まれた空間内において、アウターパネル1の板面に沿って面状に配置される。補強部材3の材質は、アルミ合金(例えば、Al-Mg系合金やAl-Mg-Si系合金など)であり、圧延板を加工して形成される。補強部材3は、アウターパネル1やインナーパネル2に対して固定される。例えば、本実施形態の補強部材3は、アウターパネル1に対してマスチック接着剤で固定されるとともに、インナーパネル2に対して溶接固定される。
【0013】
車両の上面視における補強部材3の全体形状は、弓なりに湾曲したブーメラン形状に準えられ、車幅方向の中央部付近が車両前方に飛び出すようなレイアウトで配置される。また、補強部材3の形状は、車両の上面視で左右対称(鏡面対称)である。図2に示すように、本実施形態の補強部材3は、前方面部4と一対の後方面部5とを有する。前方面部4とは、補強部材3のうち車両前部に位置する半月状の部位である。また、後方面部5とは、その左右両端部のそれぞれから、車両後方かつ車幅方向外側に向かって延長された部位である。前方面部4と後方面部5との境界線を、図2中に一点鎖線で例示する。ただし、前方面部4及び後方面部5は一体に形成されており、これらの境界は便宜的に定めたものに過ぎない。
【0014】
補強部材3には、インナーパネル2に固定される三対の脚部6,7,8が設けられる。これらの脚部6,7,8は、補強部材3からその外側かつ下方に向かって斜めに延設される。以下、前方面部4に設けられる脚部を前脚部6と呼ぶ。また、後方面部5に設けられる脚部のうち、車両外側に位置するものを後脚部7と呼び、車両内側に位置するものを第二後脚部8と呼ぶ。
【0015】
前脚部6は、前方面部4の前端部であって、グリル補強部11の左右両側方(グリル12を避けた位置)に配置される。車両の上面視における前脚部6の位置は、図2に示すように、ヘッドランプ13の裏側に相当する位置である。前脚部6の先端は、インナーパネル2の縁部14に対して面接触した状態で固定され、例えばスポット溶接で固定される。車両の上面視で前方面部4から前脚部6が伸びる方向は、斜め前方(車両外側かつ前方へ向かう方向)とされる。
【0016】
前方面部4の前端辺のうち左右の前脚部6によって挟まれた部分には、下方に向かって折り曲げられたフランジ16が形成される。ただし、フランジ16の左右両端部は、前脚部6に達する手前で途切れている。前方面部4の前端辺のうち、前脚部6に隣接する車両中央側の部位には、フランジ16が形成されない。一方、前脚部6に隣接する車両外側の部位には、第二フランジ17が形成される。第二フランジ17は、前方面部4の左右側端辺を下方に向かって折り曲げて形成された部位であり、前脚部6の板面につながるように設けられる。第二フランジ17の後端部は、後方面部5に達する手前で途切れている。
【0017】
後脚部7及び第二後脚部8は、後方面部5から延設される。後脚部7は、後方面部5の車両外側端辺のうち、車両後方寄り(端部寄り)の位置に配置される。これに対し、第二後脚部8は、後方面部5の車両内側端辺のうち、車両後方寄り(端部寄り)の位置に配置される。大まかにいえば、後脚部7及び第二後脚部8の位置は、ブーメラン形状における左右両端部(二つの先端)に相当する位置に設定される。また、ブーメラン形状の外側に配置されるのが後脚部7であり、ブーメラン形状の内側に配置されるのが第二後脚部8である。
【0018】
車両の上面視で後方面部5から第二後脚部8が伸びる方向は、前脚部6とは正反対の方向であって、斜め後方(車両内側かつ後方へ向かう方向)とされる。また、後方面部5から後脚部7が伸びる方向は、車両前方とされる。これにより、後脚部7の基端から先端までの距離が長くなり、外力作用時における変形のストロークが大きくなる。また、後脚部7を車幅方向外側に伸ばした場合と比較して、後脚部7の車幅方向への突出が抑制される。
【0019】
後脚部7の先端は、インナーパネル2の縁部14に対して面接触した状態で固定(例えばスポット溶接)される。一方、第二後脚部8の先端は、インナーパネル2の板面に対して面接触した状態で固定され、例えばスポット溶接で固定される。また、図2に示すように、後方面部5の車両外側端辺には、第二フランジ17が形成されない。つまり、後方面部5と後脚部7との境界付近には断面二次モーメントを増加させるための補強構造をあえて適用しないことで、曲げ変形を許容している。
【0020】
前方面部4の後端辺や後方面部5の車両内側端辺には、階段状に形成された階段フランジ18が設けられる。階段フランジ18は、前方面部4や後方面部5の板面を下方及び車両後方に向かってクランク状に屈曲させた部位であり、第二後脚部8の板面につながるように形成される。これにより、補強部材3の端辺のうち、ブーメラン形状の内側に相当する全範囲が曲げ変形しにくい構造となる。
【0021】
[2.後脚部の構造]
後脚部7は、補強部材3の後方面部5の縁端から面状に延設されて、インナーパネル2の縁部14に固定される。前述の通り、後脚部7は後方面部5の車両外側端辺のうち、車両後方寄り(端部寄り)の位置に配置され、車両前方に向かって延設される。前脚部6と同様に後脚部7は、補強部材3の板面の端部にプレス加工を施すことで成形することができる。図3図6に示すように、後脚部7には、上から順に後脚第一面部40,後脚第二面部41,後脚第三面部42が設けられる。
【0022】
後脚第一面部40(第一面部)は、後脚部7の最上部に設けられる面状の部位である。この後脚第一面部40は、後方面部5と同一平面をなすように、後方面部5の縁端から延設される。後方面部5と後脚第一面部40との境界50は直線状であり、図4図5中に破線で示す。なお、後脚第一面部40と後脚第二面部41との境界は、この境界50(後方面部5の車両外側端辺)に対して平行に配置される。言い換えると、後脚第一面部40の形状は長方形の平面状であり、境界50に接する辺がこれに隣接する辺よりも長くなるように形成される。
【0023】
後脚第二面部41(第二面部)は、後脚第一面部40に隣接してその下方に設けられる面状の部位である。この後脚第二面部41は、後脚第一面部40に対して傾斜した向きで斜めに接続される。後脚第二面部41の大まかな形状は、車両前方に向かって伸びた平行四辺形状に準えることができる。少なくとも、後脚第二面部41と後脚第三面部42との境界は、後脚第一面部40と後脚第二面部41との境界に対して平行に配置される。なお、基端側(後脚第一面部40側)の幅を先端側(後脚第三面部42側)よりも狭く形成することで、後脚第二面部41の変形しやすさを向上させてもよい。
【0024】
図4に示すように、後脚第一面部40と後脚第二面部41との境界をなす第三屈曲部43は、山折りの稜線(上に凸の折れ目)となる。後脚第一面部40に対する後脚第二面部41の屈曲角度θ4は、図6(B)に示すように、少なくとも直角よりも浅い角度(例えば、10~80°)に設定される。第三屈曲部43が境界50から離れた位置(車両外側)にずれていることから、外力作用時には境界50での屈曲変形が相対的に誘発されやすくなる。
【0025】
後脚第三面部42(第三面部)は、後脚第二面部41に隣接してその下方に設けられる面状の部位である。この後脚第三面部42は、後脚第一面部40に対して傾斜した向きで斜めに接続されるが、後脚第二面部41に対する後脚第三面部42の屈曲方向は、後脚第一面部40に対する後脚第二面部41の屈曲方向とは逆方向に設定される。これにより、後脚第二面部41と後脚第三面部42との境界をなす第四屈曲部44は、谷折りの溝(下に凸の折れ目)となる。
【0026】
本実施形態では、後脚第二面部41に対する後脚第三面部42の屈曲角度θ5が、直角よりも浅い角度であって、後脚第二面部41の屈曲角度θ4と同一の角度に設定される。すなわち、θ45である。後脚第二面部41の折り曲げが、後脚第三面部42の折り曲げによって元に戻される。これにより、後脚第三面部42の姿勢が後脚第一面部40と同じようにほぼ水平となり、インナーパネル2の縁部14に面接触しやすい向きとなる。また、後脚第三面部42を後方面部5に対して平行にすることで、補強部材3の固定状態が安定する。
【0027】
図3図5に示すように、後脚部7と後方面部5との間には切り込み部45が設けられる。切り込み部45とは、後脚部7とインナーパネル2との固定位置よりも車両後方まで切り込んだ形状に形成された部位であって、上面視で車両後方に向かって窪んだ入り江のような形状を有する。また、後方面部5及び後脚部7の縁部のうち、切り込み部45に接する部位には、フランジやビードなどの補強構造が適用されない。例えば、第二フランジ17は上面視で第三面部42よりも車両後方の範囲には進入しておらず、切り込み部45よりも車両前方のみに配置されている。
【0028】
図6(A)に示すように、第三屈曲部43には第三ビード46,第四ビード47が設けられる。これらのビード46,47は、後脚第一面部40と後脚第二面部41との境界において、下方のインナーパネル2側に膨出した形状に形成される。ビード46,47の形状は、横方向に細長い楕円形状や円形,卵形などに設定される。このようなビード46,47を設けることで、外力作用時における第三屈曲部43の変形が減少し、後脚第一面部40及び後脚第二面部41の屈曲角度θ4が維持されやすくなる。
【0029】
本実施形態では、複数のビード46,47が後脚第一面部40と後脚第二面部41との境界に設けられる。これらのビード46,47は、ともに第三屈曲部43に配置される。したがって、二つのビード46,47を結ぶラインは、境界50や第四屈曲部44の延在方向と平行になる。複数のビード46,47を設けることで、外力作用時における第三屈曲部43の変形がさらに抑制される。
【0030】
後脚第二面部41及び後脚第三面部42には、後脚部7の端辺(補強部材3とインナーパネル2との間をつなぐ端辺)を補強するための第四補強部48,第五補強部49が設けられる。これらの補強部48,49は、板面を屈曲させてなる部位であり、後脚部7の端辺に沿って形成される。本実施形態の補強部48,49は、後脚第二面部41,後脚第三面部42の板面を隆起させた形状を有する。すなわち、板面を二回屈曲させることで、断面形状をクランク状にしている。後脚第三面部42の断面形状は、図6(C)に示すように、左右両端部が中央部よりも隆起した形状(上下逆向きのハット形)に形成される。
【0031】
第四補強部48は、後脚第二面部41の端辺のうち、車幅方向外側の第一端辺51に設けられる。また、後脚第二面部41の第一端辺51に隣接する後脚第三面部42の端辺にも、第四補強部48が延設される。第四補強部48は、後脚第二面部41及び後脚第三面部42の外側端辺を補強して、外側端辺近傍での曲げ変形を抑制するように機能する。
【0032】
第五補強部49は、後脚第二面部41及び後脚第三面部42の端辺に設けられる。しかし、後脚第二面部41の第一端辺51に対向する第二端辺52にはほとんど第五補強部49が含まれないように、第五補強部49の範囲が設定される。例えば図5に示すように、後脚第二面部41の第二端辺52のうち、後脚第三面部42から直線状に伸びた部分のみに第五補強部49が設けられる。第二端辺52の大半は第五補強部49が設けられず、すなわち板面を屈曲させていない平面状の非補強部となる。
【0033】
[3.作用,効果]
図7は、車両用フード10の上方からアウターパネル1に外力が作用したときの後脚部7の変形状態を例示する図である。後脚第二面部41の第一端辺51は、第四補強部48によって補強されているため変形しにくく、姿勢が維持されやすい。一方、後脚部7と後方面部5との間には切り込み部45が設けられ、後脚第二面部41の第二端辺52にはほとんど第五補強部49が含まれない。これにより、第二端辺52側での屈曲変形が許容されやすくなる。
【0034】
また、第三屈曲部43には第三ビード46,第四ビード47が設けられることから、後脚第一面部40及び後脚第二面部41の屈曲角度θ4が維持されやすくなる。これにより、図7に示すように、境界50付近が第三屈曲部43よりも屈曲しやすくなり、境界50付近が谷折りの溝(下に凸の折れ目)となる。これにより、第三屈曲部43が後方面部5よりも上方へと移動することになり、変形のストロークが増大する。なお、後方面部5及び後脚部7の縁部のうち、切り込み部45に接する部位には、フランジやビードなどの補強構造が適用されない。したがって、後脚部7の変形時における、インナーパネル2との意図しない干渉や接触が防止され、後脚部7の緩衝性能が向上する。
【0035】
(1)上記の車両用フード10の補強部材3には、前方面部4と後方面部5とが設けられる。後方面部5は、前方面部4の左右両端部のそれぞれから車両後方かつ車幅方向外側に向かって延長された面状の部位である。この後方面部5の車両外側端辺から、車両前方に向かって後脚部7が延設され、インナーパネル2に固定される。このような構成により、後脚部7の車幅方向への突出を抑制しつつ、後脚部7の基端から先端までの距離を長くすることができる。したがって、外力作用時における後脚部7及び補強部材3の変形のストロークを増大させることができ、車両用フード10の緩衝性能を向上させることができる。
【0036】
(2)図3図5に示すように、後脚部7と後方面部5との間には切り込み部45が設けられる。これにより、上面視における後脚部7を車両前後方向に細長い形状にすることができ、車幅方向寸法が小さく長い脚を形成することができる。また、切り込み部45を設けることで、後脚部7での応力伝達方向を車両前後方向に制限することができる。これにより、外力作用時における後脚部7及び補強部材3の変形のストロークを増大させることができ、車両用フード10の緩衝性能を向上させることができる。
【0037】
(3)図6(B)に示すように、後脚部7は、車両外側に向かう下り勾配で傾斜した姿勢で配置される。これにより、後脚部7の板面が下方に落ち込むように変形させることが容易となり、補強部材3の変形形状の制御性を高めることができる。また、補強部材3に入力された外力を車両外側に分散させやすくすることができ、車両用フード10の緩衝性能を向上させることができる。
【0038】
(4)図6(B)に示すように、後脚部7には、後脚第一面部40,後脚第二面部41,後脚第三面部42が設けられる。これらの面部40~42のうち、インナーパネル2に固定されているのは後脚第三面部42のみである。また、後脚第一面部40は後方面部5と同一平面をなすように設けられる。このような構成により、外力作用時に境界50付近を屈曲させやすくすることができ、後脚部7を意図した通りに変形させることができる。したがって、車両用フード10の緩衝性能を向上させることができる。
【0039】
(5)後脚第二面部41の第一端辺51には、板面を屈曲させてなる第四補強部48が設けられる。一方、第一端辺51に対向する第二端辺52には、板面を屈曲させていない非補強部が設けられる。このような構成により、第一端辺51での屈曲変形を抑制しつつ、第二端辺52側のみでの屈曲変形を促進することができ、後脚部7を意図した通りに変形させることができる。例えば、第三屈曲部43が後方面部5よりも上方へと移動するように、後脚部7を屈曲変形させることができる。したがって、外力作用時における後脚部7の変形のストロークを増大させることができ、車両用フード10の緩衝性能を向上させることができる。
【0040】
(6)図5に示すように、後脚第一面部40と後脚第二面部41との境界をなす境界部(第三屈曲部43)は、境界50(後方面部5の車両外側端辺)に対して平行に配置される。これにより、外力作用時に境界50付近の全体を屈曲させやすくすることができる。つまり、外力作用時における後脚部7の変形のストロークを増大させることができ、車両用フード10の緩衝性能を向上させることができる。
【0041】
(7)同様に、後脚第二面部41と後脚第三面部42との境界は、後脚第一面部40と後脚第二面部41との境界に対して平行に配置される。このような構成により、後脚第二面部41を板面に垂直な方向(座屈方向)に変形しやすくすることができる。したがって、外力作用時における後脚部7の変形のストロークを増大させることができ、車両用フード10の緩衝性能を向上させることができる。
【0042】
(8)第三屈曲部43に第三ビード46,第四ビード47を設けることで、後脚第一面部40の下端(後脚第二面部41の上端)での変形を抑制することができ、屈曲角度θ4を維持しやすくすることができる。これにより、境界50付近での屈曲変形を促進することができ、後脚部7の変形のストロークを増大させることができる。また、第三屈曲部43の屈曲角度θ4が維持されやすくなることから、第三屈曲部43が後方面部5よりも下方に落ち込むような変形を抑制することができ、後脚部7を意図した通りに変形させることができる。したがって、車両用フード10の緩衝性能を向上させることができる。
【0043】
(9)なお、複数のビード46,47を設けることで、外力作用時における第三屈曲部43の変形を強く抑制することができ、より確実に後脚部7を意図した通りに変形させることができる。したがって、車両用フード10の緩衝性能を向上させることができる。特に、第三屈曲部43が屈曲して下方へ落ち込み、後脚部7の変形のストロークが小さくなってしまうような事態を防止することができる。
【0044】
[4.変形例]
上記の実施形態はあくまでも例示に過ぎず、本実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0045】
上述の実施形態では、後脚第二面部41の板面を二回屈曲させて隆起させることによって第四補強部48を形成している。一方、後脚第二面部41の板面を一回屈曲させた部位を第四補強部48としてもよい。第五補強部49についても同様であり、脚部の端辺を補強するために屈曲させた構造となっていればよい。
【符号の説明】
【0046】
1 アウターパネル
2 インナーパネル
3 補強部材
4 前方面部
5 後方面部
6 前脚部
7 後脚部
8 第二後脚部
10 車両用フード
40 後脚第一面部(第一面部)
41 後脚第二面部(第二面部)
42 後脚第三面部(第三面部)
43 第三屈曲部
44 第四屈曲部
45 切り込み部
46 第三ビード
47 第四ビード
48 第四補強部
49 第五補強部
50 境界
51 第一端辺
52 第二端辺
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7