(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】モータコアおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 1/02 20060101AFI20221109BHJP
H02K 15/02 20060101ALI20221109BHJP
H02K 15/12 20060101ALI20221109BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20221109BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20221109BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20221109BHJP
C22C 38/06 20060101ALI20221109BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20221109BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20221109BHJP
C21D 8/12 20060101ALI20221109BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
H02K1/02 Z
H02K15/02 F
H02K15/12 A
H01F1/147 175
H01F41/02 B
C22C38/00 303U
C22C38/06
C22C38/60
C21D9/46 501A
C21D8/12 A
C21D9/00 S
(21)【出願番号】P 2021510483
(86)(22)【出願日】2020-11-18
(86)【国際出願番号】 JP2020043085
(87)【国際公開番号】W WO2021124780
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2021-02-25
(31)【優先権主張番号】P 2019226786
(32)【優先日】2019-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】田中 孝明
(72)【発明者】
【氏名】大久保 智幸
(72)【発明者】
【氏名】尾田 善彦
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/017263(WO,A1)
【文献】特開2019-178373(JP,A)
【文献】特開2007-186790(JP,A)
【文献】国際公開第2013/125223(WO,A1)
【文献】特表2019-504193(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/02
H02K 15/02
H02K 15/12
H01F 1/147
H01F 41/02
C22C 38/00
C22C 38/06
C22C 38/60
C21D 9/46
C21D 8/12
C21D 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁鋼板の積層体であるモータコアであって、該モータコアの外周面における、粒径が15μm以下の再結晶粒の表出率がモータコアの板厚の70%以上であるモータコア。
【請求項2】
前記外周面の内側に、未再結晶粒がモータコアの板厚の70%以上を占める、未再結晶粒層を有する請求項1に記載のモータコア。
【請求項3】
前記電磁鋼板は、質量%で
C:0.0100%以下、
Si:2.0%以上7.0%以下、
Mn:0.05%以上3.0%以下、
Al:3.0%以下、
P:0.2%以下、
S:0.005%以下および
N:0.0050%以下
を含み、残部がFeおよび不可避的不純物である成分組成を有する請求項1または2に記載のモータコア。
【請求項4】
前記成分組成は、さらに質量%で、
Cr:0.1%以上5.0%以下、
Ca:0.001%以上0.01%以下、
Mg:0.001%以上0.01%以下、
REM:0.001%以上0.01%以下、
Sn:0.001%以上0.2%以下、
Sb:0.001%以上0.2%以下、
Cu:0.10%以下、
Ti:0.010%以下、
Nb:0.010%以下、
V:0.20%以下、
Mo:0.20%以下、
B:0.0050%以下、
Co:0.1%以下および
Ni:0.1%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する請求項3に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のモータコアの製造方法であって、
前記電磁鋼板からモータコア材を打抜く打抜き工程と、
該モータコア材の複数枚を積層する積層工程と、
該積層されたモータコア材を3℃/min以上の昇温速度にて550℃以上700℃以下の温度まで加熱し、該温度に650秒以上36000秒以下保持する焼鈍工程と
を有するモータコアの製造方法。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載のモータコアの製造方法であって、
前記電磁鋼板からモータコア材を打抜く打抜き工程と、
該モータコア材を3℃/min以上の昇温速度にて550℃以上700℃以下の温度まで加熱し、該温度に650秒以上36000秒以下保持する焼鈍工程と、
該焼鈍されたモータコア材の複数枚を積層する積層工程と
を有するモータコアの製造方法。
【請求項7】
前記打抜き工程における打抜きクリアランスを、前記電磁鋼板の厚みの3%以上15%以下とする請求項5または6に記載のモータコアの製造方法。
【請求項8】
前記打抜き工程における打抜き速度を100mm/s以上500mm/s以下とする請求項5から7のいずれかに記載のモータコアの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁鋼板を積層してなる疲労特性に優れるモータコアおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の電気機器に対する省エネルギー化への世界的な要求の高まりにともない、回転機の鉄心(モータコア)に使用される無方向性電磁鋼板に対しては、より優れた磁気特性及び疲労特性が要求されている。また、最近では、HEV(ハイブリッド車)やEV(電気自動車)の駆動モータ等において、小型化・高出力化のニーズが強く、本要求を達成するため、モータの回転数を上昇させることが検討されている。
【0003】
より詳説すると、モータコアは、ステータコアとロータコアとから構成されている。HEV・EV駆動モータのロータコアは外径が大きいことから大きな遠心力が働く。また、ロータコアは構造上ロータコアブリッジ部と呼ばれる非常に狭い部分(1~2mm幅)が存在し、該部分は駆動中に特に高応力状態となる。さらに、モータは回転と停止を繰り返すため、ロータコアには遠心力による大きな繰り返し応力が働く。従って、ロータコアに用いられる電磁鋼板は、優れた疲労特性を有する必要がある。
【0004】
一方、ステータコアに用いられる電磁鋼板は、モータの小型化・高出力化を達成するため、高磁束密度かつ低鉄損であることが求められる。すわなち、モータコアに使用される電磁鋼板の特性としては、ロータコア用には高疲労特性、ステータコア用には高磁束密度かつ低鉄損であることが必要である。
【0005】
このように、同じモータコアに使用される電磁鋼板であっても、ロータコアとステータコアでは要求される特性が大きく異なる。ところで、モータコアの製造においては、材料歩留りや生産性を高めるため、同一の素材鋼板からロータコア材とステータコア材を打抜き加工により同時に採取し、その後、それぞれのコア材を積層してロータコアまたはステータコアに組み立てられることがある。
【0006】
特許文献1には、高強度の無方向性電磁鋼板から打抜加工でロータコア材とステータコア材を採取し、それを積層して、ロータコアとステータコアを組み立てることが開示されている。その後、ステータコアのみに歪取焼鈍を施すことにより、高強度のロータコアと低鉄損のステータコアを同一素材から製造する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に開示の技術では、高強度の無方向性電磁鋼板を使用することにより降伏応力は向上するが、最も重要な特性の一つである疲労特性の向上については何ら考慮されていない。
【0009】
本発明は、上記従来技術が抱える問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、磁気特性のみならず疲労特性にも優れたモータコア及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
1.電磁鋼板の積層体であるモータコアであって、該モータコアの外周面における、粒径が15μm以下の再結晶粒の表出率がモータコアの板厚の70%以上であるモータコア。
ここで、前記「外周面」とは、電磁鋼板から打ち抜き等によって取り出されたモータコア材が複数積層されることによって形成される面をいい、モータコアの外周側面を意味する。また、前記「再結晶粒」は、結晶粒内において、その結晶粒の平均方位と粒内の測定点との方位差を、結晶粒内のすべての点について求め、それを平均した値である、GOSが2.0°以下の結晶粒である。
【0011】
2.前記外周面の内側に、未再結晶粒がモータコアの板厚の70%以上を占める、未再結晶粒層を有する前記1に記載のモータコア。
ここで、前記未再結晶粒は、前記GOSが2.0°超えの結晶粒である。
【0012】
3.前記電磁鋼板は、質量%で
C:0.0100%以下、
Si:2.0%以上7.0%以下、
Mn:0.05%以上3.0%以下、
Al:3.0%以下、
P:0.2%以下、
S:0.005%以下および
N:0.0050%以下
を含み、残部がFeおよび不可避的不純物である成分組成を有する前記1または2に記載のモータコア。
【0013】
4.前記成分組成は、さらに質量%で、
Cr:0.1%以上5.0%以下、
Ca:0.001%以上0.01%以下、
Mg:0.001%以上0.01%以下、
REM:0.001%以上0.01%以下、
Sn:0.001%以上0.2%以下、
Sb:0.001%以上0.2%以下、
Cu:0.10%以下、
Ti:0.010%以下、
Nb:0.010%以下、
V:0.20%以下、
Mo:0.20%以下、
B:0.0050%以下、
Co:0.1%以下および
Ni:0.1%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する前記3に記載の無方向性電磁鋼板。
【0014】
5.前記1から4のいずれかに記載のモータコアの製造方法であって、
前記電磁鋼板からモータコア材を打抜く打抜き工程と、
該モータコア材の複数枚を積層する積層工程と、
該積層されたモータコア材を3℃/min以上の昇温速度にて550℃以上700℃以下の温度まで加熱し、該温度に650秒以上36000秒以下保持する焼鈍工程と
を有するモータコアの製造方法。
【0015】
6.前記1から4のいずれかに記載のモータコアの製造方法であって、
前記電磁鋼板からモータコア材を打抜く打抜き工程と、
該モータコア材を3℃/min以上の昇温速度にて550℃以上700℃以下の温度まで加熱し、該温度に650秒以上36000秒以下保持する焼鈍工程と、
該焼鈍されたモータコア材の複数枚を積層する積層工程と
を有するモータコアの製造方法。
【0016】
7.前記打抜き工程における打抜きクリアランスを、前記電磁鋼板の厚みの3%以上15%以下とする前記5または6に記載のモータコアの製造方法。
【0017】
8.前記打抜き工程における打抜き速度を100mm/s以上500mm/s以下とする前記5から7のいずれかに記載のモータコアの製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、疲労特性に優れるモータコアを安価に提供することできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】ロータコアブリッジ部の断面組織を示す模式図である。
【
図2】打抜き端面における粒径15μm以下の再結晶粒の表出率の影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のモータコアについて説明する。
以下の説明において再結晶粒は、上述のとおりGOSが2.0°以下の結晶粒であり、後述するEBSD測定により求めることができる。未再結晶粒は、上述のとおりGOSが2.0°超えの結晶粒であり、後述するEBSD測定により求めることができる。また、一般に引張強さと疲労限には相関がある。そこで、本発明において優れた疲労特性とは、モータコア材の引張強さの半分に所定の閾値を加えた基準値に対して、当該モータコア材から作製したモータコアを疲労試験して得られる、疲労限が高いことを意味する。従って、疲労限と基準値との差が大きな正の値であればあるほど優れた疲労特性を有する、といえる。なお、所定の閾値は後述するように70MPaとしているが、これは将来における顧客のモータコアに対する高い疲労特性要求に対応可能な値として、発明者らが設定した値である。
【0021】
本発明のモータコアは、電磁鋼板から各コア形状に従って打抜き加工したモータコア材、例えば100枚から1000枚のモータコア材を積層してなる。その際のモータコアの外周面、すなわち積層した複数のモータコア材の打抜き端面からなる集合面において、径が15μm以下の再結晶粒がモータコアの板厚の70%以上にわたって表出していることが肝要である。
【0022】
[モータコアの外周面(打抜き端面)における、径が15μm以下の再結晶粒の表出率がモータコアの板厚の70%以上である]
発明者らは、母材となる電磁鋼板から打ち抜いたモータコア材の打抜き端面(モータコア外周面となる面)に歪の残存した未再結晶粒が表出していると、モータコアに繰り返し応力が作用したときに、残存歪部に応力が集中して、疲労亀裂の発生の起点となり易いことを見出した。従って、モータコア材の打抜き端面には、歪残存のない再結晶粒が表出している必要がある。但し、打抜き端面の結晶粒が再結晶粒であっても粒が粗大である場合は、繰り返し応力が作用するときに、変形が不均一となり応力集中が生じて、疲労亀裂が発生しやすい。一方、打抜き端面に表出した再結晶粒が微細粒となるように制御すると、細粒化強化により端面強度が上昇し、疲労亀裂の発生を抑止する効果が得られる。
【0023】
本発明者らは、以上の知見に基づいてさらに究明したところ、再結晶粒の細粒化により疲労亀裂の発生を十分に抑制するためには、打抜き端面において粒径が15μm以下の再結晶粒の表出率を該打抜き端面の厚みの70%以上とするのが有効であることを見出した。ここで、モータコアにおける再結晶粒の表出率は、打抜き端面に表出している、径が15μm以下の再結晶粒の同端面板厚に対する比率を意味する。以下、単に「径」というときは「粒径」を意味するものとする。
【0024】
すなわち、前記表出率を70%以上とすることによって、モータコア材の疲労限を上記した基準値より高くすることができる。この再結晶粒の表出率は、好ましくは、80%以上、より好ましくは90%以上に制御することにより、疲労特性はさらに向上する。
【0025】
[径が15μm以下の再結晶粒の内側に、未再結晶粒がモータコアの板厚の70%以上にわたって延びる、未再結晶粒層を有する]
上述した通り、未再結晶粒は疲労亀裂発生の起点となる。一方で、未再結晶粒の粒内は結晶方位に揺らぎがあり、打ち抜き端面で生じた疲労亀裂の内部への進展に対する抵抗力が高い。打抜き端面で生じた疲労亀裂の進展を阻止することは重要であり、鋼板内部においては未再結晶粒層が存在することが好ましい。このような効果を得るためには、モータコアの外周面の内側(打抜き端面の内側)、好ましくは径が15μm以下の再結晶粒層の隣接域に、厚み方向における未再結晶粒が同端面の板厚の70%以上にわたって存在する(以下、存在率ともいう)未再結晶粒層を有することが好ましい。ここで、未再結晶粒の存在率は、打抜き端面の内側に存在する未再結晶粒の、同端面板厚に対する比率を意味する。すなわち、板厚方向に離間する複数の未再結晶層が存在する場合には、それら各未再結晶層の板厚方向の長さの合計値が、未再結晶粒層の長さとなる。
【0026】
上記存在率を70%以上とすることによって、モータコア材の疲労限を上記した基準値より確実に高くすることができる。この未再結晶粒の存在率は、より好ましくは、80%以上、さらに好ましくは90%以上に制御することにより、疲労亀裂の進展を阻止する効果がさらに高まる。
【0027】
以上の条件を満足する組織について、該組織を模式的に示す
図1を参照して、詳しく説明する。
図1は、板厚がSTのモータコア材のロータコアブリッジ部の断面組織を示す。この断面において、白抜き表示の結晶粒は径が15μm以下の再結晶粒であり、斜線表示の結晶粒は未再結晶粒である。図示例では、打抜き端面に径が15μm以下の再結晶粒が表出し、一部に未再結晶粒が表出している。この場合は、
図1に示すように、径が15μm以下の再結晶粒の表出長さはL
1+L
2であり、表出率(%)は(L
1+L
2)/ST×100になる。従って、打抜き端面に表出していない再結晶粒P
1は、この表出率の算定には含まれない。ちなみに、図示例では未再結晶粒が打抜き端面の一部に表出しているが、未再結晶粒は打抜き端面に表出していないことが好ましい。
【0028】
また、打抜き端面の内側には、未再結晶粒が板厚方向に互いに隣接して連続して存在する集合体である、未再結晶粒層Lyを有することが好ましい。未再結晶粒層Lyは、前記再結晶粒層に隣接する未再結晶粒が板厚方向へ連続している領域である。図示例において、未再結晶層Lyの板厚方向の長さはL3で表される。そして、未再結晶粒層Lyの存在率(%)は、L3/ST×100になる。従って、この領域から再結晶粒を介して離隔する未再結晶粒P2は未再結晶粒層Lyに含まれない。また、板厚方向に離間する複数の未再結晶層が存在する場合には、それら各未再結晶層の板厚方向の長さの合計値が、前記L3となる。
【0029】
なお、上記した径が15μm以下の再結晶粒および未再結晶粒層Lyを除く、残りの領域は、いかなる組織であってもよい。例えば、再結晶粒P1を含む再結晶粒および未再結晶粒層Lyに属さない未再結晶粒のいずれか一方または両方からなる組織であってよい。
【0030】
[鋼板の成分組成]
次に、本発明のモータコアに用いる電磁鋼板が有する好適な成分組成について説明する。成分組成における元素の含有量の単位はいずれも「質量%」であるが、以下、特に断らない限り単に「%」で示す。
【0031】
C:0.0100%以下
Cは、モータの使用中に炭化物を形成して磁気時効を起こし、鉄損特性を劣化させる有害な元素である。磁気時効を回避するためには、鋼板中に含まれるCを0.0100%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.0050%以下である。なお、Cの下限は、特に規定しないが、過度にCを低減した鋼板は非常に高価であることから、0.0001%程度とするのが好ましい。
【0032】
Si:2.0%以上7.0%以下
Siは、鋼の固有抵抗を高め、鉄損を低減する効果がある。また、固溶強化により鋼の強度を高める効果がある。このような効果を確実に得るためには、Si添加量を2.0%以上とすることが好ましい。一方、7.0%を超えると、靱性が低下して割れを生じやすいため、上限は7.0%とすることが好ましい。したがって、Siは2.0%以上7.0%以下の範囲で含有することが好ましい。Siの下限は、より好ましくは3.0%である。さらに好ましくは、3.7%以上である。
【0033】
Mn:0.05%以上3.0%以下
Mnは、Siと同様、鋼の固有抵抗と強度を高めるのに有用な元素であるため、0.05%以上含有することが好ましい。一方、3.0%を超える添加は、靱性が低下し、加工時に割れを生じやすいため、上限は3.0%とすることが好ましい。したがって、Mnは0.05%以上3.0%以下の範囲で含有することが好ましい。より好ましくは0.1%以上である。より好ましくは2.0%以下である。
【0034】
Al:3.0%以下
Alは、Siと同様、鋼の固有抵抗を高め、鉄損を低減する効果がある有用な元素である。しかし、3.0%を超えると、靱性が低下し、加工時に割れを生じやすいため、上限は3.0%とすることが好ましい。より好ましくは2.0%以下である。
なお、Alの含有量が0.01%超え0.1%未満の範囲では、微細なAlNが析出して鉄損が増加しやすいため、Alは0.01%以下もしくは0.1%以上の範囲とするのがより好ましい。特に、Alを低減すると、集合組織が改善され、磁束密度が向上するので、磁束密度を重視する場合はAl:0.01%以下とするのが好ましい。より好ましくは0.003%以下である。
【0035】
P:0.2%以下
Pは、鋼の強度(硬さ)調整に用いられる有用な元素である。しかし、0.2%を超えると、靱性が低下し、加工時に割れを生じやすいため、上限は0.2%とすることが好ましい。なお、下限は特に規定しないが、過度にPを低減した鋼板は非常に高価であることから、0.001%程度とするのがより好ましい。さらに好ましくは0.005%以上0.1%以下の範囲である。
【0036】
S:0.005%以下
Sは、微細析出物を形成して鉄損特性に悪影響を及ぼす元素である。特に、0.005%を超えると、その悪影響が顕著になるため、0.005%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.003%以下である。
【0037】
N:0.0050%以下
Nは、微細析出物を形成して鉄損特性に悪影響を及ぼす元素である。特に、0.0050%を超えると、その悪影響が顕著になるため、0.0050%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.003%以下である。
【0038】
本発明に用いる電磁鋼板は、上記成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。さらに、要求特性に応じて、上記成分組成に加えて、Cr、Ca、Mg、REM、Sn、Sb、Cu、Ti、Nb、V、Mo、B、CoおよびNiのうちから選ばれる1種または2種以上を下記の範囲で含有することができる。
Cr:0.1%以上5.0%以下
Crは、鋼の固有抵抗を高め、鉄損を低減する効果がある。このような効果を得るためには、Crは0.1%以上添加するのが好ましい。一方、5.0%を超えると、飽和磁束密度の低下によって磁束密度が顕著に低下する。よって、Crを添加する場合は、0.1%以上5.0%以下の範囲で添加するのが好ましい。
【0039】
Ca:0.001%以上0.01%以下
Caは、Sを硫化物として固定し、鉄損低減に寄与する元素である。このような効果を得るためにはCaを0.001%以上添加するのが好ましい。一方、0.01%を超えると、上記効果が飽和し、原料コストの上昇を招くだけであるため、上限は0.01%とするのが好ましい。
【0040】
Mg:0.001%以上0.01%以下
Mgは、Sを硫化物として固定し、鉄損低減に寄与する元素である。このような効果を得るためには、Mgを0.001%以上添加するのが好ましい。一方、0.01%を超えると、上記効果が飽和し、原料コストの上昇を招くだけであるため、上限は0.01%とするのが好ましい。
【0041】
REM:0.001%以上0.01%以下
REMは、Sを硫化物として固定し、鉄損低減に寄与する元素である。このような効果を得るためにはREMを0.001%以上添加するのが好ましい。一方、0.01%を超えると、上記効果が飽和し、原料コストの上昇を招くだけであるため、上限は0.01%とするのが好ましい。
【0042】
Sn:0.001%以上0.2%以下
Snは、集合組織の改善を介して磁束密度を向上するのに効果的な元素である。このような効果を得るためには、0.001%以上添加するのが好ましい。一方、0.2%を超えると、上記効果が飽和し、原料コストの上昇を招くだけであるため、上限は0.2%とするのが好ましい。
【0043】
Sb:0.001%以上0.2%以下
Sbは、集合組織の改善を介して磁束密度を向上するのに効果的な元素である。このような効果を得るためには、0.001%以上添加するのが好ましい。一方、0.2%を超えると、上記効果が飽和し、原料コストの上昇を招くだけであるため、上限は0.2%とするのが好ましい。
【0044】
Cu:0.10%以下
Cuは、上記の焼鈍工程等において時効によって鋼中に微細に析出し、析出強化により鋼板の強度上昇に寄与するため、0.005%以上添加することが好ましい。一方、0.10%を超えて過剰に添加すると、析出したCuが焼鈍工程での打抜き端面の再結晶を抑制するとともに、疲労亀裂の起点となり、疲労特性を劣化させる場合がある。このため、Cuを添加する場合の含有量は、0.10%以下が好ましい。さらに、0.05%以下がより好ましい。
【0045】
Ti:0.010%以下
Tiは、上記の焼鈍工程等において時効によって炭化物として鋼中に微細に析出し、析出強化により鋼板の強度上昇に寄与するため、0.0005%以上添加することが好ましい。一方、0.010%を超えて過剰に添加すると、析出したTi炭化物が焼鈍工程での打抜き端面の再結晶を抑制するとともに、疲労亀裂の起点となり、疲労特性を劣化させる場合がある。このため、Tiを添加する場合の含有量は、0.010%以下が好ましい。さらに、0.005%以下がより好ましい。
【0046】
Nb:0.010%以下
Nbは、上記の焼鈍工程等において時効によって炭化物として鋼中に微細に析出し、析出強化により鋼板の強度上昇に寄与するため、0.0005%以上添加することが好ましい。一方、0.010%を超えて過剰に添加すると、析出したNb炭化物が焼鈍工程での打抜き端面の再結晶を抑制するとともに、疲労亀裂の起点となり、疲労特性を劣化させる場合がある。このため、Nbを添加する場合の含有量は、0.010%以下が好ましい。さらに、0.005%以下がより好ましい。
【0047】
V:0.20%以下
Vは、上記の焼鈍工程等において時効によって炭化物として鋼中に微細に析出し、析出強化により鋼板の強度上昇に寄与するため、0.0005%以上添加することが好ましい。一方、0.20%を超えて過剰に添加すると、析出したV炭化物が焼鈍工程での打抜き端面の再結晶を抑制するとともに、疲労亀裂の起点となり、疲労特性を劣化させる場合がある。このため、Vを添加する場合の含有量は、0.20%以下が好ましい。さらに、0.05%以下がより好ましい。
【0048】
Mo:0.20%以下
Moは、上記の焼鈍工程等において時効によって炭化物として鋼中に微細に析出し、析出強化により鋼板の強度上昇に寄与するため、0.0005%以上添加することが好ましい。一方、0.20%を超えて過剰に添加すると、析出したMo炭化物が焼鈍工程での打抜き端面の再結晶を抑制するとともに、疲労亀裂の起点となり、疲労特性を劣化させる場合がある。このため、Moを添加する場合の含有量は、0.20%以下が好ましい。さらに、0.10%以下がより好ましい。
【0049】
B:0.0050%以下
Bは、鋼板の加工性を高め、冷間圧延時の破断を抑制する効果がある。このような効果を得るためには、Bは0.0010%以上添加するのが好ましい。一方、0.0050%を超えると、鋼中で窒化物を多量に形成し、鉄損を劣化させる場合がある。このためBを添加する場合の含有量は、0.0050%以下が好ましい。
【0050】
Co:0.1%以下
Coは、鋼板の磁束密度を高める効果がある。このような効果を得るためには、Coは0.01%以上添加するのが好ましい。一方、0.1%を超えると、その効果が飽和する。従って、Coを添加する場合の含有量は、0.1%以下とするのが好ましい。
【0051】
Ni:0.1%以下
Niは、鋼板の磁束密度を高める効果がある。このような効果を得るためには、Niは0.01%以上添加するのが好ましい。一方、0.1%を超えると、その効果が飽和する。従って、Niを添加する場合の含有量は、0.1%以下とするのが好ましい。
【0052】
次に、本発明のモータコアの製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」ともいう)の好適な態様を説明する。概略的には、電磁鋼板から打抜き加工でモータコア材を採取する打抜き工程と、モータコア材を積層する積層工程と、モータコア材またはモータコアに熱処理を施す焼鈍工程とにより、疲労特性に優れたモータコアを得る方法である。
【0053】
〈電磁鋼板〉
本発明によれば、モータコアの素材としてどのような電磁鋼板を用いた場合においても、従来の製品と比較して、疲労特性に優れるモータコアが得られる。したがって、本発明のモータコアの製造に用いる電磁鋼板は、特に限定されないが、モータコアの性能を高める観点から、できるだけ高磁束密度、低鉄損、高強度の電磁鋼板を用いることが望ましい。
【0054】
〈打抜き工程〉
打抜き工程は、上記電磁鋼板からロータコアとステータコアを構成するモータコア材(ロータコア材とステータコア材)を打抜く工程である。
打抜き工程は、上記電磁鋼板から所定寸法のモータコア材が得られる工程であれば、特に限定されず、常用の打抜き工程を使用できる。
また、後述する打抜きクリアランス制御、打抜き速度制御を組み合わせることで、より疲労特性に優れるモータコアを得ることができる。
【0055】
[打抜きクリアランス:板厚の3%以上15%以下]
電磁鋼板からモータコア材を打抜く際のパンチとダイとの隙間、すなわち打抜きクリアランスが板厚の3%未満であると、打抜き端面に2次せん断面や亀裂などの荒れが生じやすくなり、疲労亀裂の起点となり、疲労特性が低下する場合があるため、打抜きクリアランスは板厚の3%以上とすることが好ましい。一方、打抜きクリアランスが板厚の15%を超えて大きくなると、打抜き加工による打抜き端面の加工硬化が抑制され易くなり、打抜き端面の再結晶が抑制され、疲労特性が低下する場合があるため、打抜きクリアランスは板厚の15%以下とすることが好ましい。したがって、打抜きクリアランスは板厚の3%以上15%以下とすることが好ましい。より好ましくは、板厚の5%以上であり、12%以下である。
【0056】
[打抜き速度:100mm/s以上500mm/s以下]
電磁鋼板からモータコア材を打抜く際の打抜き速度が100mm/s未満であると、バリ等の応力集中部が生じ易くなり、これが疲労亀裂の起点となって疲労特性が低下する場合があるため、打抜き速度は100mm/s以上とすることが好ましい。一方、打抜き速度が500mm/sを超えると、打抜き端面に荒れや欠け等の応力集中部が生じやすくなり、疲労特性が低下する場合があるため、打抜き速度は500mm/s以下とすることが好ましい。
【0057】
〈積層工程〉
積層工程は、モータコア材を積層して、モータコアを製造する工程である。積層工程は、所定寸法の範囲内でモータコア材を積層できる工程であれば、特に限定されず、常用の積層工程を使用できる。
【0058】
〈焼鈍工程〉
焼鈍工程は、モータコア材またはそれを積層したモータコアに焼鈍を施す工程である。より詳細には、焼鈍工程は、モータコア材またはモータコアを、3℃/min以上の昇温速度で550℃以上700℃以下の温度まで加熱し、650秒以上36000秒以下保持し、冷却する工程である。なお、ここでの温度は鋼板表面温度である。積層したコアを焼鈍する場合には、鋼板内部温度の上昇に長時間を要する場合があるが、本発明では打抜き端面が所定の熱履歴となればよいため、以下に述べる温度は全て鋼板表面温度を意味する。
【0059】
[昇温速度:3℃/min以上]
昇温速度が3℃/min未満であると、再結晶が開始する温度以下の温度で長時間保持されることになるため、再結晶が開始する前に回復が過度に生じる。このため、打抜き端面が十分に再結晶せず、打抜き端面において板厚の70%以上にわたり粒径15μm以下の再結晶粒が表出した、所望の鋼板組織(以下、単に「所望の鋼板組織」とも称する)とならない。したがって、昇温速度を3℃/min以上に制限する。好ましくは5℃/min以上である。昇温速度の上限については特に制限する必要はないが、昇温速度が50℃/minを超えると、再結晶核の生成が促進される結果、打抜き端面内側の未再結晶粒層の存在率が70%未満となる、おそれがある。このため、昇温速度は50℃/min以下であることが好ましい。
【0060】
[焼鈍温度:550℃以上700℃以下]
焼鈍温度が550℃未満であると、焼鈍による打抜き端面の再結晶が十分に起こらず、製造したモータコアの打抜き端面が所望の鋼板組織とならない。一方、焼鈍温度が700℃を超えると、打抜き端面の再結晶粒が過度に成長するため粒径が粗大となり打抜き端面が所望の鋼板組織とならない。このため、焼鈍温度Tは550℃以上700℃以下の範囲に制限する。好ましくは570℃以上であり、650℃以下の範囲である。
【0061】
[焼鈍温度にて650秒以上36000秒以下保持]
上記焼鈍温度にて保持する時間が650秒未満の場合には、焼鈍による再結晶が十分に起こらず、製造したモータコアの打抜き端面が所望の鋼板組織とならない。一方、上記焼鈍温度で保持する時間が36000秒超の場合には、打抜き端面の再結晶粒が過度に成長するため粒径が粗大となり打抜き端面が所望の鋼板組織とならない。したがって、上記焼鈍温度にて保持する時間は650秒以上36000秒以下とする。好ましくは1200秒以上であり、18000秒以下である。
【0062】
上記のようにして得たモータコアは優れた疲労特性を有するが、モータコア素材として高強度鋼板を用いた場合には、より優れた疲労特性を得ることができる。この場合、高強度鋼板の使用によってステータコアの鉄損劣化が懸念されるときは、ステータコアのみを対象として鉄損改善を目的とする歪取焼鈍を施してもよい。
【実施例】
【0063】
<モータコアの製造>
表1-1および表1-2に示す板厚および成分組成を有する電磁鋼板から、上記打ち抜き条件に合致した打抜き加工によりステータコア材とロータコア材を採取し、各コア材の400枚を積層して、ステータコアとロータコアを同一素材から製造した。さらに、上記ロータコアは、表2-1および表2-2に示す条件にて熱処理を施した(焼鈍工程)。
【0064】
<評価>
得られたロータコアから、試験片を採取し、後述のEBSD測定を行った。また、疲労特性の測定用に、ロータコアと同じ電磁鋼板を用い、同じ条件で打抜き、同じ条件で熱処理を施した引張疲労試験片を作製した。さらに、引張強さ測定用および磁気特性評価用に、ロータコアと同じ電磁鋼板に同じ条件で熱処理を施した鋼板から、引張試験片および磁気測定用試験片を作製した。これらの試験片を用いて、磁気特性評価、引張試験および引張疲労試験を行った。試験方法は、次のとおりとした。
【0065】
(EBSD測定)
ロータコアのブリッジ部から、板面および打抜き端面に垂直な面が観察面となるように、EBSD測定用の試験片を切り出し、該試験片を樹脂にて包埋し、前記観察面を研磨および化学研磨により鏡面化した。この観察面に対し、打抜き端面およびその近傍を含むような視野で、電子線後方散乱回折(EBSD)測定を行った。なお、上記測定条件は、ステップサイズ:0.3μmとし、測定領域:板厚方向に板厚全厚×板厚直交方向に板厚の半分以上とし、EBSD測定を行った。次いで、上記測定結果を、解析ソフト:OIM Analysis 8を用いて、局所方位データの解析を行った。なお、上記データ解析に先立ち、Partition PropertiesでGSZ[&;5.000,20,0.100,0,0,8.0,1,1,1.0,0;]>0.000の条件(Minimum Size:20 points, Minimum Confidence Index:0.1, Grain Size> 0)で測定点を選別し、解析に使用した。なお、本解析はすべてGrain Tolerance Angleが 5°の条件で行った。
【0066】
径(diameter)が15μm以下かつGOSが2.0°以下の結晶粒のうち、打抜き端面に表出した結晶粒を抽出し、打抜き端面において、その領域(表出率)が板厚の何%であるかを測定した。この数字が、ロータコアの外周面(打抜き端面)において板厚の何%以上にわたり粒径15μm以下の再結晶粒が表出しているかに相当する。以上の測定を、打抜き端面を異ならせた3視野にて行って、その平均を表出率とした。
【0067】
本実施形態において再結晶粒の表出率は、板厚に対する、上記観察視野において打抜き端面に表出している複数の再結晶粒の板厚方向の長さを合計した長さにより算出される。各再結晶粒は互いに隣接しているか否かを問わず、表出している部分における再結晶粒の長さを加算する。また、打抜き端面に表出した再結晶粒に隣接しているとしても打抜き端面に表出していない再結晶粒については本実施形態でいう表出率には含めていない。
【0068】
すなわち、先に
図1に示したとおり、本実施形態でいう打抜き端面において表出している再結晶粒の長さは、長さL
1とL
2との合計値である。そして、0.7×板厚ST≦L
1+L
2が成立するとき、モータコアの外周面(打抜き端面)において板厚の70%以上にわたり結晶粒径15μm以下の再結晶粒が表出しているといえる。
【0069】
次に、ロータコアの内層部(打抜き端面内側)において、GOSが2.0°超えの結晶粒を抽出し、その領域が板厚の何%を占めているかを測定した。この数字が、ロータコアの内層部(打抜き端面内側)に板厚の何%以上にわたり未再結晶粒層を有するか(未再結晶粒が存在するか)に相当する。
【0070】
ここで、本実施形態において未再結晶粒層とは、上述のとおり、複数の未再結晶粒が一体となって厚み方向へ連続する層をいい、具体的には互いに隣接した複数の未再結晶粒の集合体から構成される。この未再結晶粒の存在率は、板厚に対する未再結晶層の板厚方向の長さにより算出される。
すなわち、先に
図1に示したとおり、本実施形態でいう未再結晶層は互いに隣接した未再結晶層の集合体からなり、その未再結晶層Lyの板厚方向の長さはL
3である。そして、0.7×板厚ST≦L
3が成立するとき、モータコアの内層部(打抜き端面内側)に板厚の70%以上にわたる未再結晶粒層を有する、といえる。なお、板厚方向に離間する複数の未再結晶層が存在する場合には、それら各未再結晶層の板厚方向の長さの合計値が、0.7×板厚STよりも長ければよい。
【0071】
(引張試験)
上記ロータコア材の採取元と同じ電磁鋼板に対し、上記ロータコアと同じ条件で熱処理を施した後、圧延方向を引張方向とするJIS5号引張試験片を採取し、JIS Z2241:2011に準拠した引張試験を行ない、引張強さ(TS)を測定した。
【0072】
(引張疲労試験)
上記ロータコア材の採取元と同じ電磁鋼板から、打抜き加工により、圧延方向を長手方向とした引張疲労試験片(JIS Z2275:1978に準拠した1号試験片、b:15mm、R:100mmと同じ形状)を採取し、上記ロータコアと同じ条件で熱処理を施した後、疲労試験に供した。上記疲労試験は、引張り-引張り(片振り)、応力比(=最小応力/最大応力):0.1および周波数:20Hzの条件で行い、繰り返し数107回において疲労破断を起こさない最大応力を疲労限(σmax)とした。なお、試験結果の評価は、疲労限が下記式の条件を満たしているものを疲労特性に優れる、満たさないものを疲労特性が不良と評価した。
疲労限≧0.5×引張強さ(TS)+70(MPa)
【0073】
上記式において、一般に引張強さとの関係で要求される疲労限が「0.5×引張強さ」であり、所定の閾値が上記式の右辺において加算した70MPaである。上記式を満たす場合は、後述する表2において「B1:(疲労限)-0.5×TS+70」の列に正の値が記載されるとともに、B2(打抜き疲労特性)列での表記は△、○、又は◎となっている。一方、上記式を満たさない場合は、B1列に負の値が記載されるとともに、B2列の表記は×になっている。B2列において、△はB1列の値が0~19である場合に付され、○はB1列の値が20~39であって疲労特性がより優れている場合に付され、◎はB1列の値が40以上であって疲労特性が極めて優れている場合に付されている。なお、△、○、◎は疲労特性の優位性を一見して視認しやすいように相対的に付しているものであって絶対的な評価でないことはいうまでもない。例えば、同一の○が付されていても、B1列の値が「30」である実施例は「20」である実施例よりも疲労特性が優れていることは明らかであって、疲労特性の絶対的な評価はB1列の数値によって行われるものである。
【0074】
(磁気特性測定)
上記ロータコア材の採取元と同じ電磁鋼板から、長さ方向を圧延方向および圧延直角方向とする、幅30mm、長さ180mmの磁気測定用試験片を採取し、上記ロータコアと同じ条件で熱処理した後、JIS C2550-1:2011に準拠し、エプスタイン法で鉄損W10/400を測定した。鉄損値についてはいずれも優れた値を示している。
【0075】
上記評価試験の結果を、表2-1および表2-2に併記した。また、疲労限に及ぼす、打抜き端面における粒径15μm以下の再結晶粒の表出率の影響を整理して、
図2示す。同図に示すように、表出率が70%以上であれば、(疲労限)-0.5×TS+70は10MPa以上になることがわかる。
【0076】
表1-1~2並びに表2-1~2のNo.1~No.36およびNo.57~No.64の結果から、表出率が70%以上であれば、鋼板の組成によらず、優れた疲労特性及び鉄損特性を有することが分かる。また、表1-1~2並びに表2-1~2のNo.1とNo.37~No.56との結果から、打抜工程における打抜条件及び焼鈍工程における焼鈍条件を上述した条件とすることにより、優れた疲労特性及び鉄損特性を付与できることが分かる。加えて、疲労特性を向上させるためには、打抜条件よりも焼鈍条件を精密に制御する方が、疲労特性の向上に対する貢献が大きく、更に焼鈍条件においては、焼鈍温度T及び保持温度tが疲労特性の向上に大きく貢献していることが分かる。
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【産業上の利用分野】
【0081】
本発明の技術は、モータコアの疲労特性の改善に有効であるので、同一素材鋼板からロータコア材とステータコア材を同時に採取する場合に限定されるものではなく、異なる素材鋼板からロータコア材とステータコア材を別々に採取する場合にも適用することができる。