IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社GSユアサの特許一覧

<>
  • 特許-鉛蓄電池 図1
  • 特許-鉛蓄電池 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20221109BHJP
   H01M 4/14 20060101ALI20221109BHJP
   H01M 4/68 20060101ALI20221109BHJP
   H01M 10/06 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
H01M4/62 B
H01M4/14 Q
H01M4/68 A
H01M10/06 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021521913
(86)(22)【出願日】2020-05-29
(86)【国際出願番号】 JP2020021479
(87)【国際公開番号】W WO2020241882
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-06-17
(31)【優先権主張番号】P 2019103304
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼野 泰如
(72)【発明者】
【氏名】籠橋 宏樹
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-071477(JP,A)
【文献】特開平09-147872(JP,A)
【文献】特開平10-241673(JP,A)
【文献】国際公開第2018/079262(WO,A1)
【文献】特開平08-311138(JP,A)
【文献】特開2006-140074(JP,A)
【文献】国際公開第2018/083110(WO,A1)
【文献】特開2002-117856(JP,A)
【文献】特開2014-065857(JP,A)
【文献】特表2016-524288(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/06-22
H01M 4/14
H01M 4/62
H01M 4/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と、負極板と、電解液と、ポリマー化合物と、を備える鉛蓄電池であって、
前記正極板は、正極集電体と、正極電極材料を備え、
前記負極板は、負極集電体と、負極電極材料を備え、
前記正極集電体は、0.95質量%以上のSnを含み、
少なくとも前記負極電極材料が、前記ポリマー化合物を含み、
前記ポリマー化合物は、H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.42ppm以下の範囲にオキシプロピレンユニットの-CH -に由来するピークを有し、3.42ppmを超え3.8ppm以下の範囲にオキシプロピレンユニットの-CH<および-CH -に由来するピークを有する、鉛蓄電池。
【請求項2】
正極板と、負極板と、電解液と、ポリマー化合物と、を備える鉛蓄電池であって、
前記正極板は、正極集電体と、正極電極材料を備え、
前記負極板は、負極集電体と、負極電極材料を備え、
前記正極集電体は、0.95質量%以上のSnを含み、
少なくとも前記負極電極材料が、前記ポリマー化合物を含み、
前記ポリマー化合物は、オキシCアルキレンユニットの繰り返し構造を含む、鉛蓄電池。
【請求項3】
正極板と、負極板と、電解液と、ポリマー化合物と、を備える鉛蓄電池であって、
前記正極板は、正極集電体と、正極電極材料を備え、
前記負極板は、負極集電体と、負極電極材料を備え、
前記正極集電体は、0.95質量%以上のSnを含み、
少なくとも前記負極電極材料が、前記ポリマー化合物を含み、
前記ポリマー化合物が、末端基に結合した酸素原子と、酸素原子に結合した-CH -基および/または-CH<基とを含み、
前記ポリマー化合物の H-NMRスペクトルにおいて、3.2ppm~3.8ppmのピークの積分値と、前記-CH -基の水素原子のピークの積分値と、前記-CH<基の水素原子のピークの積分値との合計に占める、前記3.2ppm~3.8ppmのピークの積分値の割合が85%以上である、鉛蓄電池。
【請求項4】
前記正極集電体中のSn含有量が、3質量%未満である、請求項1~3のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項5】
前記正極集電体が、更にCaを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項6】
記負極電極材料中の前記ポリマー化合物の含有量が、質量比で5~500ppmである、請求項1~のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項7】
前記ポリマー化合物の数平均分子量が、500以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、車載用、産業用の他、様々な用途で使用されている。鉛蓄電池には、負極板、正極板、セパレータ(またはマット)、および電解液などが含まれる。様々な機能を付与する観点から、鉛蓄電池の構成部材に添加剤が添加されることがある。
【0003】
特許文献1には、リグニンスルホン酸塩と併用してプロピレンオキシドとエチレンオキシドとの共重合体を負極板活物質中に添加したことを特徴とする鉛蓄電池が提案されている。
特許文献2には、有機高分子を含む活性化剤を電槽内への裂開機構を有する小型密閉容器に封入し、小型密閉容器を電槽または蓋部に装着したことを特徴とする鉛蓄電池が提案されている。
【0004】
特許文献3には、サイズ組成物で被覆された複数の繊維と、バインダ組成物と、1種以上の添加剤とを含み、該添加剤が、ゴム添加剤、ゴム誘導体、アルデヒド、金属塩、エチレン-プロピレンオキサイドブロックコポリマー、硫酸エステル、スルホン酸エステル、リン酸エステル、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、リグニン、フェノールホルムアルデヒド樹脂、セルロース、および木粉などのうち1種以上を含み、該添加剤が、鉛蓄電池における水分損失を減じるように機能し得る繊維貼付マットが提案されている。
【0005】
一方、特許文献4は、制御弁式鉛蓄電池の正極板のエキスパンド格子体を、Snを1.2質量%~1.8質量%含むPb-Ca-Sn合金で構成することを提案している。しかしながら、このようなエキスパンド格子体ではスリット部を機械的に引っ張って展開伸長するため、圧延鉛合金シートの引張り強度と伸び率に留意する必要がある。特に鉛蓄電池のトリクル寿命改善を目的として圧延鉛合金シート中のSn濃度を1.2質量%以上に高めた場合、圧延鉛合金シートの引張り強度が向上するとともに、伸び率が低下し、スリット形成部を展開して網目部を形成する際に網目部が切断したり、クラックが発生したりする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭60-182662号公報
【文献】特開2000-149980号公報
【文献】特表2017-525092号公報
【文献】特開2003-346887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
Snを含む正極集電体は、例えばPb-Sb合金を含む正極集電体に比べ、鉛蓄電池の充電時に過電圧を増大させるため、電解液に含まれる水の分解反応が抑制される。一方、高温環境下でのフロート充電時には、Snを含む正極集電体を用いる場合でも、水の分解反応を十分に抑制することは困難であり、充電電気量が増大し、正極集電体の腐食反応が進行する。腐食反応の進行が続けば、正極集電体が破断することがあり、充放電を行うことが困難になり得る。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面は、正極板と、負極板と、電解液と、ポリマー化合物と、を備え、前記正極板は、正極集電体と、正極電極材料を備え、前記負極板は、負極集電体と、負極電極材料を備え、前記正極集電体は、0.95質量%以上のSnを含み、前記ポリマー化合物は、H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有する、鉛蓄電池に関する。
【0009】
本発明の別の側面は、正極板と、負極板と、電解液と、ポリマー化合物と、を備え、前記正極板は、正極集電体と、正極電極材料を備え、前記負極板は、負極集電体と、負極電極材料を備え、前記正極集電体は、0.95質量%以上のSnを含み、前記ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含む、鉛蓄電池に関する。
【発明の効果】
【0010】
鉛蓄電池において、高温環境下でのフロート充電時における正極集電体の腐食反応が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一側面に係る鉛蓄電池の外観と内部構造を示す、一部を切り欠いた分解斜視図である。
図2】正極集電体におけるSn含有量と高温フロート耐久性との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[鉛蓄電池]
本発明の実施形態に係る鉛蓄電池は、正極板と、負極板と、電解液と、ポリマー化合物と、を備える。正極板は、正極集電体と、正極電極材料を備える。負極板は、負極集電体と、負極電極材料を備える。正極集電体は、0.95質量%以上のSnを含む。
【0013】
ポリマー化合物は、H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有する。或いは、ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含む。なお、H-NMRスペクトルの3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲に現れるピークは、オキシC2-4アルキレンユニットに由来する。以下、これらのポリマー化合物を単に「ポリマー化合物」と総称する。ここで、H-NMRスペクトルは、重クロロホルムを溶媒として用いて測定される。
【0014】
上記構成によれば、高温環境下でのフロート充電時における正極集電体の腐食を抑制する効果が顕著に高められ、鉛蓄電池の耐久性能が顕著に向上する。より具体的には、正極集電体にSnを含ませると、Sn含有量の増加に伴い、高温環境下でのフロート充電時における正極集電体の腐食を抑制する効果が次第に向上するが、向上効果は次第に飽和する傾向が見られる。ここで、鉛蓄電池がポリマー化合物を含む場合、正極集電体におけるSn含有量が0.95質量%以上になると、高温環境下でのフロート充電時における正極集電体の腐食を抑制する効果が顕著に高められ、鉛蓄電池の耐久性能が顕著に向上する。これは、ポリマー化合物が負極過電圧を大きくすることで、フロート充電の際の充電電流値が低減され、正極集電体の腐食抑制に有利となる点に加え、ポリマー化合物が正極集電体の結晶粒界に析出したSn化合物に作用するためと考えられる。
【0015】
このような顕著な耐久性能の向上は、より具体的には、以下のメカニズムによるものと考えられる。
【0016】
まず、ポリマー化合物には負極板における水素過電圧を上昇させ、フロート充電時の水の分解反応を抑制する効果がある。これにより、フロート充電時の充電電気量が低減され、正極集電体の腐食抑制に有利となる。また、正極集電体のSn含有量が0.95質量%の臨界点以上で耐久性能の向上が顕著になる理由は、おそらくポリマー化合物が正極集電体の結晶粒界に析出したSn化合物に付着し、粒界の腐食部分を埋めることで、粒界腐食が抑制されているものと考えられる。正極集電体におけるSn含有量が0.95質量%以上である場合、結晶粒界に析出するSn化合物量が増大し、ポリマー化合物による粒界腐食の抑制効果が顕著になるものと考えられる。
【0017】
ただし、Snは高価であるため、正極集電体を構成する鉛合金のSn含有量を低減することが望まれている。また、鉛合金のSn含有量が増加すると、鉛合金の伸び量が小さくなるため、正極集電体の加工性や生産性が低下するとともに、クラック等の不良を発生しやすくなる。従って、鉛合金のSn含有量を高めるには限界がある。十分な加工性を確保し得る正極集電体のSn含有量の上限は、例えば3.0質量%未満であり、2.5質量%以下が好ましく、より高い加工性を確保する観点からはSn含有量を1.8質量%以下とすることが好ましい。また、高温環境下でのフロート充電時における正極集電体の腐食をより顕著に抑制する観点から、正極集電体のSn含有量を1.1質量%以上とすることが好ましい。
【0018】
正極集電体は、更にCaを含むPb-Ca-Sn合金で構成されていてもよい。正極集電体がCaを含むことで、鉛合金の加工性が向上し、正極集電体の生産性が向上する。正極集電体の腐食を抑制する効果を高める観点からは、正極集電体のCa含有量は、0.17質量%以下が好ましく、0.13質量部以下がより好ましく、0.10質量部以下でもよく、0.07質量%以下でもよく、0.05質量%以下でもよい。Caの添加による正極集電体の生産性の向上効果を十分に得る観点からは、正極集電体のCa含有量は、例えば0.01質量%以上であればよく、0.03質量%以上でもよい。
【0019】
以下、ポリマー化合物の負極板における作用について更に詳述する。
鉛蓄電池では、水の分解反応は、鉛と電解液との界面における水素イオンの還元反応に大きく影響される。ポリマー化合物により負極電極材料中の鉛の表面が覆われた状態となることで、水素過電圧が上昇し、過充電時にプロトンから水素が発生する副反応が阻害され、水の分解反応が低減される。よって、フロート充電時の充電電気量を抑制する効果を高めるには、ポリマー化合物を、少なくとも負極電極材料に含ませることが好ましい。
【0020】
しかし、ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットを有することで線状構造を取り易くなるため、負極電極材料中に留まり難く、電解液中に拡散し易いと予想される。ところが、実際には、負極電極材料中にごく僅かなポリマー化合物が含まれる場合でも、フロート充電時の充電電気量の低減効果が得られる。ポリマー化合物を負極電極材料中に含有させ、鉛の近傍に存在させる場合、オキシC2-4アルキレンユニットの鉛に対する高い吸着作用が発揮されるものと考えられる。
【0021】
負極電極材料に含まれるポリマー化合物は、ごく僅かな量でも、フロート充電時の充電電気量の低減効果を発揮する。このことは、ポリマー化合物が鉛の表面に薄く広がった状態となり、鉛表面の広範囲な領域で水素イオンの還元反応を抑制していることを示唆している。このことは、ポリマー化合物が線状構造を取り易いこととも矛盾しない。フロート充電時の充電電気量が低減されることで、減液を低減できるため、鉛蓄電池の長寿命化に有利である。
【0022】
一般に、鉛蓄電池では、電解液に硫酸水溶液が用いられるため、有機系添加剤(オイル、高分子、または有機防縮剤など)を負極電極材料中に含有させると、電解液への溶出と鉛への吸着とのバランスを取ることが難しくなる。例えば、鉛への吸着性が低い有機系添加剤を用いると、電解液中に溶出し易くなり、フロート充電時の充電電気量を低減し難くなる。一方、鉛への吸着性が高い有機系添加剤を用いると、鉛表面に薄く付着させることが難しくなり、有機系添加剤が鉛の細孔内に偏在した状態となり易い。
【0023】
また、一般に、鉛の表面が有機系添加剤で覆われると、水素イオンの還元反応が起こり難くなるため、フロート充電時の充電電気量は減少する傾向にある。一方、鉛の表面が有機系添加剤で覆われた状態になると、放電時に生成した硫酸鉛が充電時に溶出し難くなるため、充電受入性は低下する。そのため、充電受入性の低下抑制と、フロート充電時の充電電気量の低減とは、トレードオフの関係にあり、両立させることは従来困難であった。さらに、有機系添加剤が鉛の細孔内で偏在した状態となると、フロート充電時の充電電気量の十分な低減効果を確保するには、負極電極材料中の有機系添加剤の含有量を多くする必要がある。しかし、有機系添加剤の含有量を多くすると、充電受入性が大きく低下する。
【0024】
鉛の細孔内で有機系添加剤が偏在した状態になると、偏在した有機系添加剤の立体障害により、イオン(鉛イオンおよび硫酸イオンなど)の移動が阻害される。そのため、低温ハイレート(HR)放電性能も低下する。フロート充電時の充電電気量の十分な低減効果を確保するために、有機系添加剤の含有量を多くすると、細孔内におけるイオンの移動もさらに阻害され、低温HR放電性能も低下することになる。
【0025】
それに対し、例えばオキシC2-4アルキレンユニットを有するポリマー化合物を負極電極材料中に含有させる場合、上述のように、薄く広がった状態のポリマー化合物で鉛表面が覆われることになる。そのため、他の有機系添加剤を用いる場合に比べて、負極電極材料中の含有量が少量でも、フロート充電時の充電電気量の低減効果を十分に確保することができる。また、ポリマー化合物は、鉛表面を薄く覆うため、放電時に生成する硫酸鉛の充電時における溶出が阻害され難くなり、充電受入性の低下を抑制することもできる。よって、フロート充電時の充電電気量を低減しながら、充電受入性の低下を抑制することができる。鉛の細孔内におけるポリマー化合物の偏在が抑制されるため、イオンが移動し易くなり、低温HR放電性能の低下を抑制することもできる。
【0026】
本発明に係る鉛蓄電池では、ポリマー化合物は、末端基に結合した酸素原子と、酸素原子に結合した-CH-基および/または-CH<基とを含んでもよい。H-NMRスペクトルにおいて、3.2ppm~3.8ppmのピークの積分値の、このピークの積分値と、酸素原子に結合した-CH-基の水素原子のピークの積分値と、酸素原子に結合した-CH<基の水素原子のピークの積分値との合計に占める割合は、85%以上であることが好ましい。このようなポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットを分子中に多く含む。そのため、鉛に吸着し易くなるとともに、線状構造を取り易いことで鉛表面を薄く覆い易くなると考えられる。よって、フロート充電時の充電電気量をより効果的に低減することができる。
【0027】
H-NMRスペクトルにおいて、3.2ppm~3.8ppmのケミカルシフトの範囲にピークを有するポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むことが好ましい。オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物を用いる場合、鉛に対してより吸着し易くなるくなるとともに、線状構造を取り易いことで鉛表面を薄く覆い易くなると考えられる。
【0028】
本明細書中、ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し単位を有するか、および/または数平均分子量(Mn)が500以上であるものをいうものとする。
【0029】
なお、オキシC2-4アルキレンユニットは、-O-R-(RはC2-4アルキレン基を示す。)で表されるユニットである。
【0030】
ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエーテル化物およびオキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエステル化物からなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよい。ここで、ヒドロキシ化合物は、ポリC2-4アルキレングリコール、オキシC2-4アルキレンの繰り返し構造を含む共重合体、およびポリオールのC2-4アルキレンオキサイド付加物からなる群より選択される少なくとも一種である。このようなポリマー化合物を用いる場合、充電受入性の低下をさらに抑制することができる。また、フロート充電時の水の充電電気量を低減する効果が高いため、水素ガス発生をより効果的に抑制できるとともに、高い減液抑制効果が得られる。
【0031】
オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造は、少なくともオキシプロピレンユニット(-O-CH(-CH)-CH-)の繰り返し構造を含んでもよい。このようなポリマー化合物は、鉛に対する高い吸着性を有しながらも、鉛表面に薄く広がり易く、これらのバランスに優れていると考えられる。よって、フロート充電時の水の分解反応が抑制されやすく、充電電気量をより効果的に低減することができる。
【0032】
このようにポリマー化合物は、鉛に対する高い吸着性を有しながらも、鉛表面を薄く覆うことができるため、負極電極材料中のポリマー化合物の含有量が少量(例えば、500ppm以下)であってもフロート充電時の充電電気量を低減することができる。また、含有量が少量でも十分なフロート充電時の充電電気量の低減効果を確保できるため、充電受入性の低下を抑制することもできる。同様に、負極電極材料から僅かに溶出したポリマー化合物は、正極集電体の結晶粒界に析出したSn化合物に対しても高い吸着性を有すると考えられる。高温環境下でも、正極集電体の腐食を十分に抑制する観点からは、負極電極材料中のポリマー化合物の含有量は、5ppm以上とすることが好ましい。
【0033】
ポリマー化合物は、負極電極材料中に含有させることが好ましいが、鉛蓄電池を作製する際に、鉛蓄電池の構成要素(例えば、負極板、正極板、電解液、および/またはセパレータなど)のいずれに含有させてもよい。ポリマー化合物は、1つの構成要素に含有させてもよく、2つ以上の構成要素(例えば、負極板および電解液など)に含有させてもよい。
【0034】
なお、負極電極材料中のポリマー化合物の含有量および電解液中のポリマー化合物の濃度は、それぞれ、満充電状態の鉛蓄電池について求めるものとする。
【0035】
本明細書中、液式の鉛蓄電池の満充電状態は、JIS D 5301:2006の定義によって定められる。より具体的には、鉛蓄電池を、定格容量(Ah)として記載の数値の0.2倍の電流(A)で、15分ごとに測定した充電中の端子電圧または20℃に温度換算した電解液密度が3回連続して有効数字3桁で一定値を示すまで充電した状態を満充電状態とする。また、制御弁式の鉛蓄電池の満充電状態とは、化成後の鉛蓄電池を、25℃±2℃の気槽中で、定格容量(Ah)として記載の数値の0.2倍の電流(A)で、2.23V/セルの定電流定電圧充電を行い、定電圧充電時の充電電流が定格容量として記載の数値の0.005倍になった時点で充電を終了した状態である。なお、定格容量として記載の数値は単位をAhとした数値である。定格容量として記載の数値を元に設定される電流の単位はAとする。
【0036】
満充電状態の鉛蓄電池は、既化成の鉛蓄電池を満充電したものをいう。鉛蓄電池の満充電は、化成後であれば、化成直後でもよく、化成から時間が経過した後に行ってもよい(例えば、化成後で、使用中(好ましくは使用初期)の鉛蓄電池を満充電してもよい)。使用初期の電池とは、使用開始後、それほど時間が経過しておらず、ほとんど劣化していない電池をいう。
【0037】
本明細書中、数平均分子量Mnは、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により求められるものである。Mnを求める際に使用する標準物質は、ポリエチレングリコールとする。
【0038】
鉛蓄電池は、制御弁式(密閉式)鉛蓄電池および液式(ベント式)鉛蓄電池のいずれでもでもよい。
【0039】
以下、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池について、主要な構成要件ごとに説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0040】
[鉛蓄電池]
(負極板)
負極板は、通常、負極電極材料に加え、負極集電体を備える。負極電極材料は、負極板から負極集電体を除いたものである。なお、負極板には、マット、ペースティングペーパなどの部材が貼り付けられていることがある。このような部材(貼付部材)は負極板と一体として使用されるため、負極板に含まれるものとする。また、負極板がこのような部材を含む場合には、負極電極材料は、負極集電体および貼付部材を除いたものである。ただし、セパレータにマットなどの貼付部材が貼り付けられている場合には、貼付部材の厚みは、セパレータの厚みに含まれる。
【0041】
負極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛シートまたは鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工や打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。負極集電体として負極格子を用いると、負極電極材料を担持させ易いため好ましい。
【0042】
負極集電体に用いる鉛合金は、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金のいずれであってもよい。これらの鉛もしくは鉛合金は、更に、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuなどからなる群より選択された少なくとも1種を含んでもよい。負極集電体は、表面層を備えていてもよい。負極集電体の表面層と内側の層とは組成が異なるものであってもよい。表面層は、負極集電体の耳部に形成されていてもよい。耳部の表面層は、SnまたはSn合金を含有するものであってもよい。
【0043】
負極板は、負極集電体に負極ペーストを塗布または充填し、熟成および乾燥することにより未化成の負極板を作製し、その後、未化成の負極板を化成することにより形成できる。負極ペーストは、鉛粉と有機防縮剤および必要に応じて各種添加剤に、水と硫酸を加えて混練することで作製する。熟成する際には、室温より高温かつ高湿度で、未化成の負極板を熟成させることが好ましい。
【0044】
負極電極材料は、上記のポリマー化合物を含む。負極電極材料は、さらに、酸化還元反応により容量を発現する負極活物質(鉛もしくは硫酸鉛)を含んでいる。負極電極材料は、防縮剤、炭素質材料、および/または他の添加剤を含んでもよい。添加剤としては、硫酸バリウム、繊維(樹脂繊維など)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、充電状態の負極活物質は、海綿状鉛であるが、未化成の負極板は、通常、鉛粉を用いて作製される。
【0045】
(ポリマー化合物)
ポリマー化合物は、H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有する。このようなポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットを有する。オキシC2-4アルキレンユニットとしては、オキシエチレンユニット、オキシプロピレンユニット、オキシトリメチレンユニット、オキシ2-メチル-1,3-プロピレンユニット、オキシ1,4-ブチレンユニット、オキシ1,3-ブチレンユニットなどが挙げられる。ポリマー化合物は、このようなオキシC2-4アルキレンユニットを一種有していてもよく、二種以上有していてもよい。
【0046】
ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むことが好ましい。繰り返し構造は、一種のオキシC2-4アルキレンユニットを含むものであってもよく、二種以上のオキシC2-4アルキレンユニットを含むものであってもよい。ポリマー化合物には、一種の上記繰り返し構造が含まれていてもよく、二種以上の繰り返し構造が含まれていてもよい。
【0047】
ポリマー化合物としては、例えば、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物(ポリC2-4アルキレングリコール、オキシC2-4アルキレンの繰り返し構造を含む共重合体、ポリオールのC2-4アルキレンオキサイド付加物など)、これらのヒドロキシ化合物のエーテル化物またはエステル化物などが挙げられる。
【0048】
共重合体としては、異なるオキシC2-4アルキレンユニットを含む共重合体、ポリC2-4アルキレングリコールアルキルエーテル、カルボン酸のポリC2-4アルキレングリコールエステルなどが挙げられる。共重合体は、ブロック共重合体であってもよい。
【0049】
ポリオールは、脂肪族ポリオール、脂環式ポリオール、芳香族ポリオール、および複素環式ポリオールなどのいずれであってもよい。ポリマー化合物が鉛表面に薄く広がり易い観点からは、脂肪族ポリオール、脂環式ポリオール(例えば、ポリヒドロキシシクロヘキサン、ポリヒドロキシノルボルナンなど)などが好ましく、中でも脂肪族ポリオールが好ましい。脂肪族ポリオールとしては、例えば、脂肪族ジオール、トリオール以上のポリオール(例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、糖アルコールなど)などが挙げられる。脂肪族ジオールとしては、炭素数が5以上のアルキレングリコールなどが挙げられる。アルキレングリコールは、例えば、C5~14アルキレングリコールまたはC5-10アルキレングリコールであってもよい。糖アルコールとしては、例えば、エリスリトール、キシリトール、マンニトール、ソルビトールなどが挙げられる。ポリオールのアルキレンオキサイド付加物においては、アルキレンオキサイドは、ポリマー化合物のオキシC2-4アルキレンユニットに相当し、少なくともC2-4アルキレンオキサイドを含む。ポリマー化合物が線状構造を取りやすい観点からは、ポリオールはジオールであることが好ましい。
【0050】
エーテル化物は、上記のオキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物の少なくとも一部の末端の-OH基(末端基の水素原子とこの水素原子に結合した酸素原子とで構成される-OH基)がエーテル化された-OR基を有する(式中、Rは有機基である。)。ポリマー化合物の末端のうち、一部の末端がエーテル化されていてもよく、全ての末端がエーテル化されていてもよい。例えば、線状のポリマー化合物の主鎖の一方の末端が-OH基で、他方の末端が-OR基であってもよい。
【0051】
エステル化物は、上記オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物の少なくとも一部の末端の-OH基(末端基の水素原子とこの水素原子に結合した酸素原子とで構成される-OH基)がエステル化された-O-C(=O)-R基を有する(式中、Rは有機基である。)。ポリマー化合物の末端のうち、一部の末端がエステル化されていてもよく、全ての末端がエステル化されていてもよい。例えば、線状のポリマー化合物の主鎖の一方の末端が-OH基で、他方の末端が-O-C(=O)-R基であってもよい。
【0052】
有機基RおよびRのそれぞれとしては、炭化水素基が挙げられる。炭化水素基は、置換基(例えば、ヒドロキシ基、アルコキシ基、および/またはカルボキシ基など)を有するものであってもよい。炭化水素基は、脂肪族、脂環族、および芳香族のいずれであってもよい。芳香族炭化水素基および脂環族炭化水素基は、置換基として、脂肪族炭化水素基(例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基など)を有するものであってもよい。置換基としての脂肪族炭化水素基の炭素数は、例えば、1~20であってもよく、1~10であってもよく、1~6または1~4であってもよい。
【0053】
芳香族炭化水素基としては、例えば、炭素数が24以下(例えば、6~24)の芳香族炭化水素基が挙げられる。芳香族炭化水素基の炭素数は、20以下(例えば、6~20)であってもよく、14以下(例えば、6~14)または12以下(例えば、6~12)であってもよい。芳香族炭化水素基としては、アリール基、ビスアリール基などが挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。ビスアリール基としては、例えば、ビスアレーンに対応する一価基が挙げられる。ビスアレーンとしては、ビフェニル、ビスアリールアルカン(例えば、ビスC6-10アリールC1-4アルカン(2,2-ビスフェニルプロパンなど)など)が挙げられる。
【0054】
脂環族炭化水素基としては、例えば、炭素数が16以下の脂環族炭化水素基が挙げられる。脂環族炭化水素基は、架橋環式炭化水素基であってもよい。脂環族炭化水素基の炭素数は、10以下または8以下であってもよい。脂環族炭化水素基の炭素数は、例えば、5以上であり、6以上であってもよい。
【0055】
脂環族炭化水素基の炭素数は、5(または6)以上16以下、5(または6)以上10以下、あるいは5(または6)以上8以下であってもよい。
【0056】
脂環族炭化水素基としては、例えば、シクロアルキル基(シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基など)、シクロアルケニル基(シクロヘキセニル基、シクロオクテニル基など)などが挙げられる。脂環族炭化水素基には、上記の芳香族炭化水素基の水素添加物も包含される。
【0057】
鉛表面にポリマー化合物が薄く付着し易い観点からは、炭化水素基のうち、脂肪族炭化水素基が好ましい。脂肪族炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ジエニル基などが挙げられる。脂肪族炭化水素基は、直鎖状および分岐鎖状のいずれであってもよい。
【0058】
脂肪族炭化水素基の炭素数は、例えば、30以下であり、26以下または22以下であってもよく、20以下または16以下であってもよく、14以下または10以下であってもよく、8以下または6以下であってもよい。炭素数の下限は、脂肪族炭化水素基の種類に応じて、アルキル基では1以上、アルケニル基およびアルキニル基では2以上、ジエニル基では3以上である。鉛表面にポリマー化合物が薄く付着し易い観点からは中でもアルキル基やアルケニル基が好ましい。
【0059】
アルキル基の具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、ネオペンチル、i-ペンチル、s-ペンチル、3-ペンチル、t-ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル、n-オクチル、n-デシル、i-デシル、ラウリル、ミリスチル、セチル、ステアリル、ベヘニルなどが挙げられる。
【0060】
アルケニル基の具体例としては、ビニル、1-プロペニル、アリル、パルミトレイル、オレイルなどが挙げられる。アルケニル基は、例えば、C2-30アルケニル基またはC2-26アルケニル基であってもよく、C2-22アルケニル基またはC2-20アルケニル基であってもよく、C10-20アルケニル基であってもよい。
【0061】
ポリマー化合物のうち、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエーテル化物および/またはオキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエステル化物を用いると、充電受入性の低下抑制効果をさらに高めることができるため好ましい。また、これらのポリマー化合物を用いた場合にも高い減液抑制効果を確保することができる。
【0062】
負極電極材料は、ポリマー化合物を一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。
【0063】
フロート充電時の充電電気量の低減効果をさらに高めることができる点で、オキシC2-4アルキレンの繰り返し構造が少なくともオキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含むことが好ましい。オキシプロピレンユニットを含むポリマー化合物は、H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm~3.8ppmの範囲に、オキシプロピレンユニットの-CH<および-CH-に由来するピークを有する。これらの基における水素原子の原子核の周囲の電子密度が異なるため、ピークがスプリットした状態となる。このようなポリマー化合物は、H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、例えば、3.2ppm以上3.42ppm以下の範囲と、3.42ppmを超え3.8ppm以下の範囲とのそれぞれにピークを有する。3.2ppm以上3.42ppm以下の範囲のピークは、-CH-に由来し、3.42ppmを超え3.8ppm以下の範囲のピークは、-CH<および-CH-に由来する。
【0064】
このようなポリマー化合物としては、ポリプロピレングリコール、オキシプロピレンの繰り返し構造を含む共重合体、上記ポリオールのプロピレンオキサイド付加物、またはこれらのエーテル化物もしくはエステル化物などが挙げられる。共重合体としては、オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体(ただし、オキシアルキレンは、オキシプロピレン以外のC2-4アルキレン)、ポリプロピレングリコールアルキルエーテル、カルボン酸のポリプロピレングリコールエステルなどが挙げられる。オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体としては、オキシプロピレン-オキシエチレン共重合体、オキシプロピレン-オキシトリメチレン共重合体などが例示される。オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体は、ブロック共重合体であってもよい。
【0065】
オキシプロピレンの繰り返し構造を含むポリマー化合物において、オキシプロピレンユニットの割合は、例えば、5mol%以上であり、10mol%以上または20mol%以上であってもよい。
【0066】
鉛に対する吸着性および正極集電体の結晶粒界に析出したSn化合物に対する吸着性が高まるとともに、線状構造を取り易くなる観点から、ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットを多く含むことが好ましい。このようなポリマー化合物は、例えば、末端基に結合した酸素原子と、酸素原子に結合した-CH-基および/または-CH<基とを含んでいる。ポリマー化合物のH-NMRスペクトルでは、3.2ppm~3.8ppmのピークの積分値の、このピークの積分値と、-CH-基の水素原子のピークの積分値と、-CH<基の水素原子のピークの積分値との合計に占める割合が大きくなる。この割合は、例えば、50%以上であり、80%以上であってもよい。フロート充電時の充電電気量の低減効果がさらに高まるとともに、充電受入性および/または低温HR放電性能の低下抑制効果がさらに高まる観点からは、上記の割合は、85%以上が好ましく、90%以上であることがより好ましい。例えば、ポリマー化合物が末端に-OH基を有するとともに、この-OH基の酸素原子に結合した-CH-基や-CH<基を有する場合、H-NMRスペクトルにおいて、-CH-基や-CH<基の水素原子のピークは、ケミカルシフトが3.8ppmを超え4.0ppm以下の範囲にある。
【0067】
ポリマー化合物は、Mnが500以上の化合物を含んでもよく、Mnが600以上の化合物を含んでもよく、Mnが1000以上の化合物を含んでもよい。このような化合物のMnは、例えば、20000以下であり、15000以下または10000以下であってもよい。負極電極材料中にポリマー化合物を保持させ易く、鉛表面により薄く広がり易く、かつ正極集電体の結晶粒界に析出したSn化合物に付着しやすい点で、上記化合物のMnは、5000以下が好ましく、4000以下または3500以下であってもよい。
【0068】
上記の化合物のMnは、500以上(または600以上)20000以下、500以上(または600以上)15000以下、500以上(または600以上)10000以下、500以上(または600以上)5000以下、500以上(または600以上)4000以下、500以上(または600以上)3500以下、1000以上20000以下(または15000以下)、1000以上10000以下(または5000以下)、あるいは1000以上4000以下(または3500以下)であってもよい。
【0069】
ポリマー化合物は、少なくともMnが1000以上の化合物を含むことが好ましい。このような化合物のMnは、1000以上20000以下であってもよく、1000以上15000以下であってもよく、1000以上10000以下であってもよい。負極電極材料中に化合物を保持させ易く、鉛表面により薄く広がり易く、かつ負極電極材料から適度にポリマー化合物が溶出して、正極集電体の結晶粒界に析出したSn化合物に付着しやすい点で、上記化合物のMnは、1000以上5000以下が好ましく、1000以上4000以下であってもよく、1000以上3500以下であってもよい。このようなMnを有する化合物を用いる場合、高温環境下でのフロート充電時における正極集電体の腐食反応がより顕著に抑制され得る。また、水素ガスが負極活物質に衝突することに起因する負極活物質の構造変化も抑制することができる。よって、高温軽負荷試験後の低温HR放電性能の低下を抑制する効果を高めることもできる。上記のようなMnを有する化合物は、電解液中に含まれる場合でも、負極電極材料中に移動し易いため、負極電極材料中に化合物を補充することができ、このような観点からも負極電極材料中に化合物を保持させ易い。ポリマー化合物としては、Mnが異なる2種以上の化合物を用いてもよい。つまり、ポリマー化合物は、分子量の分布において、Mnのピークを複数有するものであってもよい。
【0070】
負極電極材料中のポリマー化合物の含有量は、質量基準で、例えば5ppm以上であればよく、50ppm以上でもよく、250ppm以上でもよい。ポリマー化合物の含有量がこのような範囲である場合、水素発生電圧をより高め易く、フロート充電時の充電電気量を低減する効果をさらに高めることができ、かつ正極集電体の結晶粒界に析出したSn化合物にポリマー化合物を付着させやすい。負極電極材料中のポリマー化合物の含有量(質量基準)は、例えば500ppm以下であり、360ppm以下でもよく、350ppm以下でもよい。ポリマー化合物の含有量が500ppm以下である場合、鉛の表面がポリマー化合物で過度に覆われることが抑制されるため、低温HR放電性能の低下を効果的に抑制できる。これらの下限値と上限値とは、任意に組み合わせることができる。
【0071】
負極電極材料におけるポリマー化合物の含有量(質量基準)は、5ppm以上500ppm以下、50ppm以上500ppm以下、250ppm以上500ppm以下、5ppm以上250ppm以下、50ppm以上250ppm以下であってもよい。
【0072】
(防縮剤)
負極電極材料は、防縮剤を含むことができる。防縮剤としては、有機防縮剤が好ましい。有機防縮剤には、リグニン類および/または合成有機防縮剤を用いてもよい。リグニン類としては、リグニン、リグニン誘導体などが挙げられる。リグニン誘導体としては、リグニンスルホン酸またはその塩(アルカリ金属塩(ナトリウム塩など)など)などが挙げられる。有機防縮剤は、通常、リグニン類と合成有機防縮剤とに大別される。合成有機防縮剤は、リグニン類以外の有機防縮剤であるとも言える。合成有機防縮剤は、硫黄元素を含む有機高分子であり、一般に、分子内に複数の芳香環を含むとともに、硫黄含有基として硫黄元素を含んでいる。硫黄含有基の中では、安定形態であるスルホン酸基もしくはスルホニル基が好ましい。スルホン酸基は、酸型で存在してもよく、Na塩のように塩型で存在してもよい。負極電極材料は、防縮剤を一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。
【0073】
有機防縮剤としては、少なくとも芳香族化合物のユニットを含む縮合物を用いることが好ましい。このような縮合物としては、例えば、芳香族化合物の、アルデヒド化合物(アルデヒド(例えば、ホルムアルデヒド)および/またはその縮合物など)による縮合物が挙げられる。有機防縮剤は、一種の芳香族化合物のユニットを含んでもよく、二種以上の芳香族化合物のユニットを含んでいてもよい。
なお、芳香族化合物のユニットとは、縮合物に組み込まれた芳香族化合物に由来するユニットを言う。
【0074】
有機防縮剤としては、公知の方法により合成したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。芳香族化合物のユニットを含む縮合物は、例えば、芳香族化合物と、アルデヒド化合物とを反応させることにより得られる。例えば、この反応を亜硫酸塩の存在下で行ったり、硫黄元素を含む芳香族化合物(例えば、ビスフェノールSなど)を用いたりすることで、硫黄元素を含む有機防縮剤を得ることができる。例えば、亜硫酸塩の量および/または硫黄元素を含む芳香族化合物の量を調節することで、有機防縮剤中の硫黄元素含有量を調節することができる。他の原料を用いる場合も、この方法に準じて得ることができる。
【0075】
芳香族化合物が有する芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環などが挙げられる。芳香族化合物が複数の芳香環を有する場合には、複数の芳香環は直接結合や連結基(例えば、アルキレン基(アルキリデン基を含む)、スルホン基など)などで連結していてもよい。このような構造としては、例えば、ビスアレーン構造(ビフェニル、ビスフェニルアルカン、ビスフェニルスルホンなど)が挙げられる。芳香族化合物としては、例えば、上記の芳香環と、ヒドロキシ基および/またはアミノ基とを有する化合物が挙げられる。ヒドロキシ基やアミノ基は、芳香環に直接結合していてもよく、ヒドロキシ基やアミノ基を有するアルキル鎖として結合していてもよい。なお、ヒドロキシ基には、ヒドロキシ基の塩(-OMe)も包含される。アミノ基には、アミノ基の塩(アニオンとの塩)も包含される。Meとしては、アルカリ金属(Li、K、Naなど)、周期表第2族金属(Ca、Mgなど)などが挙げられる。
【0076】
芳香族化合物としては、ビスアレーン化合物(ビスフェノール化合物、ヒドロキシビフェニル化合物)、アミノ基を有するビスアレーン化合物(アミノ基を有するビスアリールアルカン化合物、アミノ基を有するビスアリールスルホン化合物、アミノ基を有するビフェニル化合物など)、ヒドロキシアレーン化合物(ヒドロキシナフタレン化合物、フェノール化合物など)、アミノアレーン化合物(アミノナフタレン化合物、アニリン化合物(アミノベンゼンスルホン酸、アルキルアミノベンゼンスルホン酸など)など)などが好ましい。芳香族化合物は、さらに置換基を有していてもよい。有機防縮剤は、これらの化合物の残基を一種含んでもよく、複数種含んでもよい。ビスフェノール化合物としては、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなどが好ましい。
【0077】
縮合物は、少なくとも硫黄含有基を有する芳香族化合物のユニットを含むことが好ましい。中でも、硫黄含有基を有するビスフェノール化合物のユニットを少なくとも含む縮合物を用いると、高温軽負荷試験後の低温HR放電性能の低下を抑制する効果を高めることができる。減液を抑制する効果が高まる観点からは、硫黄含有基を有するとともに、ヒドロキシ基および/またはアミノ基を有するナフタレン化合物のアルデヒド化合物による縮合物を用いることが好ましい。
【0078】
硫黄含有基は、化合物に含まれる芳香環に直接結合していてもよく、例えば、硫黄含有基を有するアルキル鎖として芳香環に結合していてもよい。硫黄含有基としては、特に制限されないが、例えば、スルホニル基、スルホン酸基またはその塩などが挙げられる。
【0079】
また、有機防縮剤として、例えば、上記のビスアレーン化合物のユニットおよび単環式の芳香族化合物(ヒドロキシアレーン化合物、および/またはアミノアレーン化合物など)のユニットからなる群より選択される少なくとも一種を含む縮合物を少なくとも用いてもよい。有機防縮剤は、ビスアレーン化合物のユニットと単環式芳香族化合物(中でも、ヒドロキシアレーン化合物)のユニットとを含む縮合物を少なくとも含んでもよい。このような縮合物としては、ビスアレーン化合物と単環式の芳香族化合物との、アルデヒド化合物による縮合物が挙げられる。ヒドロキシアレーン化合物としては、フェノールスルホン酸化合物(フェノールスルホン酸またはその置換体など)が好ましい。アミノアレーン化合物としては、アミノベンゼンスルホン酸、アルキルアミノベンゼンスルホン酸などが好ましい。単環式の芳香族化合物としては、ヒドロキシアレーン化合物が好ましい。
【0080】
負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量は、例えば、0.01質量%以上であり、0.05質量%以上であってもよい。有機防縮剤の含有量は、例えば、1.0質量%以下であり、0.5質量%以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0081】
負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量は、0.01~1.0質量%、0.05~1.0質量%、0.01~0.5質量%、または0.05~0.5質量%であってもよい。
【0082】
(炭素質材料)
負極電極材料中に含まれる炭素質材料としては、カーボンブラック、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどを用いることができる。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、ランプブラックなどが例示される。黒鉛は、黒鉛型の結晶構造を含む炭素質材料であればよく、人造黒鉛および天然黒鉛のいずれであってもよい。炭素質材料は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせてもよい。
【0083】
負極電極材料中の炭素質材料の含有量は、例えば0.05質量%以上であり、0.10質量%以上であってもよい。炭素質材料の含有量は、例えば5質量%以下であり、3質量%以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0084】
負極電極材料中の炭素質材料の含有量は、0.05~5質量%、0.05~3質量%、0.10~5質量%、または0.10~3質量%であってもよい。
【0085】
(硫酸バリウム)
負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、例えば0.05質量%以上であり、0.10質量%以上であってもよい。負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、3質量%以下であり、2質量%以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0086】
負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、0.05~3質量%、0.05~2質量%、0.10~3質量%、または0.10~2質量%であってもよい。
【0087】
(1)ポリマー化合物の分析
分析に先立ち、化成後の鉛蓄電池を満充電してから解体して分析対象の負極板を入手する。入手した負極板を水洗し、負極板から硫酸分を除去する。水洗は、水洗した負極板表面にpH試験紙を押し当て、試験紙の色が変化しないことが確認されるまで行う。ただし、水洗を行う時間は、2時間以内とする。水洗した負極板は、減圧環境下、60±5℃で6時間程度乾燥する。乾燥後に添付部材が含まれる場合には剥離により負極板から添付部材が除去される。次に、負極板から負極電極材料を分離することにより試料(以下、試料Aとも称する。)を得る。試料Aは、必要に応じて粉砕され、分析に供される。
(1-1)ポリマー化合物の定性分析
粉砕した100.0±0.1gの試料Aに150.0±0.1mLのクロロホルムを加え、20±5℃で16時間撹拌し、ポリマー化合物を抽出する。その後、ろ過によって固形分を除く。抽出により得られるポリマー化合物が溶解したクロロホルム溶液またはクロロホルム溶液を乾固することにより得られるポリマー化合物について、赤外分光スペクトル、紫外可視吸収スペクトル、NMRスペクトル、LC-MSおよび/または熱分解GC-MSなどから情報を得ることで、ポリマー化合物を特定する。
【0088】
抽出により得られるポリマー化合物が溶解したクロロホルム溶液から、クロロホルムを減圧下で留去することによりクロロホルム可溶分を回収する。クロロホルム可溶分を重クロロホルムに溶解させて、下記の条件でH-NMRスペクトルを測定する。このH-NMRスペクトルから、ケミカルシフトが3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲のピークを確認する。また、この範囲のピークから、オキシC2-4アルキレンユニットの種類を特定する。
【0089】
装置:日本電子(株)製、AL400型核磁気共鳴装置
観測周波数:395.88MHz
パルス幅:6.30μs
パルス繰り返し時間:74.1411秒
積算回数:32
測定温度:室温(20~35℃)
基準:7.24ppm
試料管直径:5mm
【0090】
H-NMRスペクトルから、ケミカルシフトが3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲に存在するピークの積分値(V)を求める。また、ポリマー化合物の末端基に結合した酸素原子に対して結合した-CH-基および-CH<基の水素原子のそれぞれについて、H-NMRスペクトルにおけるピークの積分値の合計(V)を求める。そして、VおよびVから、VがVおよびVの合計に占める割合(=V/(V+V)×100(%))を求める。
【0091】
なお、定性分析で、H-NMRスペクトルにおけるピークの積分値を求める際には、H-NMRスペクトルにおいて、該当するピークを挟むように有意なシグナルがない2点を決定し、この2点間を結ぶ直線をベースラインとして各積分値を算出する。例えば、ケミカルシフトが3.2ppm~3.8ppmの範囲に存在するピークについては、スペクトルにおける3.2ppmと3.8ppmとの2点間を結ぶ直線をベースラインとする。例えば、ケミカルシフトが3.8ppmを超え4.0ppm以下の範囲に存在するピークについては、スペクトルにおける3.8ppmと4.0ppmとの2点間を結ぶ直線をベースラインとする。
【0092】
(1-2)ポリマー化合物の定量分析
上記のクロロホルム可溶分の適量を、±0.0001gの精度で測定したm(g)のテトラクロロエタン(TCE)と共に重クロロホルムに溶解させて、H-NMRスペクトルを測定する。ケミカルシフトが3.2~3.8ppmの範囲に存在するピークの積分値(S)とTCEに由来するピークの積分値(S)を求め、以下の式から負極電極材料質中のポリマー化合物の質量基準の含有量C(ppm)を求める。
【0093】
=S/S×N/N×M/M×m/m×1000000
(式中、Mはケミカルシフトが3.2~3.8ppmの範囲にピークを示す構造の分子量(より具体的には、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造の分子量)であり、Nは繰り返し構造の主鎖の炭素原子に結合した水素原子の数である。Nr、はそれぞれ基準物質の分子に含まれる水素数、基準物質の分子量であり、m(g)は抽出に使用した負極電極材料の質量である。)
なお、本分析での基準物質はTCEであるためN=2、M=168である。また、m=100である。
【0094】
例えば、ポリマー化合物がポリプロピレングリコールの場合、Mは58であり、Nは3である。ポリマー化合物がポリエチレングリコールの場合、Mは44であり、Nは4である。共重合体の場合には、Nは、各モノマー単位のN値を繰り返し構造に含まれる各モノマー単位のモル比率(モル%)を用いて平均化した値であり、Mは各モノマー単位の種類に応じて決定される。
【0095】
なお、定量分析では、H-NMRスペクトルにおけるピークの積分値は、日本電子(株)製のデータ処理ソフト「ALICE」を用いて求める。
【0096】
(1-3)ポリマー化合物のMn測定
ポリマー化合物のGPC測定を、下記の装置を用い、下記の条件で行う。別途、標準物質のMnと溶出時間のプロットから校正曲線(検量線)を作成する。この検量線およびポリマー化合物のGPC測定結果に基づき、ポリマー化合物のMnを算出する。
【0097】
分析システム:20A system((株)島津製作所製)
カラム:GPC KF-805L(Shodex社製)2本を直列接続
カラム温度:30℃
移動相:テトラヒドロフラン
流速:1mL/min.
濃度:0.20質量%
注入量:10μL
標準物質:ポリエチレングリコール(Mn=2,000,000、200,000、20,000、2,000、200)
検出器:示差屈折率検出器(Shodex社製、Shodex RI-201H)
【0098】
(正極板)
鉛蓄電池の正極板は、ペースト式、クラッド式などに分類できる。ペースト式正極板は、正極集電体と、正極電極材料とを具備する。正極電極材料は、正極集電体に保持されている。ペースト式正極板では、正極電極材料は、正極板から正極集電体を除いたものである。クラッド式正極板は、複数の多孔質のチューブと、各チューブ内に挿入される芯金と、複数の芯金を連結する集電部と、芯金が挿入されたチューブ内に充填される正極電極材料と、複数のチューブを連結する連座とを具備する。クラッド式正極板では、正極電極材料は、チューブ、芯金、集電部、および連座を除いたものである。クラッド式正極板では、芯金と集電部とを合わせて正極集電体と称する場合がある。
【0099】
正極電極材料は、正極集電体に保持されている。正極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する正極活物質(二酸化鉛もしくは硫酸鉛)を含む。正極電極材料は、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。正極電極材料は、正極板から正極集電体を除いたものである。
【0100】
正極集電体は、Snを含む鉛合金の鋳造により形成してもよく、Snを含む鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工や打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。正極集電体として格子状の集電体を用いると、正極電極材料を担持させ易いため好ましい。
【0101】
正極集電体に用いる鉛合金は、Pb-Sn系合金、Pb-Ca-Sn系合金などであればよい。鉛合金は、更に、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuなどからなる群より選択された少なくとも1種を含んでもよい。
【0102】
Snは高価であり、かつ、Sn含有量が増加すると鉛合金の伸び量が小さくなるため、正極集電体のSn含有量の上限は、例えば3.0質量%未満であり、2.5質量%以下が好ましく、より高い加工性を確保する観点からはSn含有量を1.8質量%以下とすることが好ましい。また、高温環境下でのフロート充電時における正極集電体の腐食をより顕著に抑制する観点から、正極集電体のSn含有量は、0.95質量%以上であり、1.1質量%以上とすることが好ましい。すなわち、正極集電体のSn含有量は、例えば0.95質量%以上、3.0質量%未満であり、1.1質量%以上、3.0質量%未満であってもよく、0.95質量%以上、2.5質量%以下であってもよく、1.1質量%以上、2.5質量%以下であってもよく、0.95質量%以上、1.8質量%以下であってもよく、1.1質量%以上、1.8質量%以下であってもよい。
【0103】
正極集電体がCaを含むことで、鉛合金の加工性が向上し、正極集電体の生産性が向上する。正極集電体の腐食を抑制する効果を高める観点から、正極集電体のCa含有量は、0.17質量%以下が好ましく、0.13質量部以下がより好ましく、0.10質量部以下でもよく、0.07質量%以下でもよく、0.05質量%以下でもよい。Caの添加による正極集電体の生産性の向上効果を十分に得る観点からは、正極集電体のCa含有量は、例えば0.01質量%以上であればよく、0.03質量%以上でもよい。すなわち、正極集電体のCa含有量は、例えば0.01質量%以上、0.17質量%以下であり、0.01質量%以上、0.13質量%以下でもよく、0.01質量%以上、0.10質量%以下でもよく、0.01質量%以上、0.07質量%以下でもよく、0.01質量%以上、0.05質量%以下でもよく、0.03質量%以上、0.17質量%以下でもよく、0.03質量%以上、0.13質量%以下でもよく、0.03質量%以上、0.10質量%以下でもよく、0.03質量%以上、0.07質量%以下でもよく、0.03質量%以上、0.05質量%以下でもよい。
【0104】
特に補水不要のメンテナンスフリーの鉛蓄電池においては、正極集電体としてPb-Ca-Sn合金を用いることが有効である。正極集電体は、表面層を備えていてもよい。正極集電体の表面層と内側の層とは組成が異なるものであってもよい。表面層は、正極集電体の一部に形成されていてもよい。表面層は、正極集電体の格子部分のみや、耳部分のみ、枠骨部分のみに形成されていてもよい。
【0105】
正極板には、マット、ペースティングペーパなどの部材が貼り付けられていることがある。このような部材(貼付部材)は正極板と一体として使用されるため、正極板に含まれるものとする。また、正極板がこのような部材を含む場合には、正極電極材料は、ペースト式正極板では、正極板から正極集電体および貼付部材を除いたものである。
【0106】
未化成のペースト式正極板は、正極集電体に、正極ペーストを充填し、熟成、乾燥することにより得られる。正極ペーストは、鉛粉、添加剤、水、および硫酸を混練することで調製される。未化成のクラッド式正極板は、集電部で連結された芯金が挿入された多孔質なチューブに鉛粉またはスラリー状の鉛粉を充填し、複数のチューブを連座で結合することにより形成される。その後、これらの未化成の正極板を化成することにより正極板が得られる。
【0107】
正極板は、例えば、正極集電体に正極ペーストを塗布または充填し、熟成および乾燥することにより未化成の負極板を作製し、その後、未化成の正極板を化成することにより形成できる。正極ペーストは、鉛粉に、必要に応じて添加剤を加え、さらに水と硫酸を加えて混練することで作製する。熟成する際には、室温より高温かつ高湿度で、未化成の正極板を熟成させることが好ましい。
【0108】
正極集電体に含まれるSnおよびCaの定量は、例えばJIS H2105に記載の鉛分離誘導結合プラズマ発光分光法に準拠して分析できる。鉛蓄電池から取り出した正極板の正極集電体に含まれる元素の含有量を分析する場合、先ず正極板に振動を加えて正極電極材料を正極集電体から脱落させた後、セラミックナイフを用いて正極集電体の周囲に残存している正極電極材料を除去し、金属光沢を有する正極集電体の一部を試料として採取する。採取した試料を酒石酸と希硝酸で分解し、水溶液を得る。水溶液に塩酸を加えて塩化鉛を沈殿させ、濾過し、濾液を採取する。ICP発光分光分析装置(例えば(株)島津製作所製 ICPS-8000)を用いて、検量線法により、濾液中のSnおよびCa濃度を分析し、正極集電体の質量あたりのSn含有量およびCa含有量に換算する。
【0109】
(化成)
負極板および正極板の化成は、例えば、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、それぞれ未化成の負極板および正極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行い得る。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。化成により、負極板では海綿状鉛が生成し、正極板で二酸化鉛が生成する。
【0110】
(セパレータ)
セパレータは、シート状であってもよく、袋状に形成されていてもよい。正極板と負極板との間に1枚のシート状のセパレータを挟むように配置してもよい。また、折り曲げた状態の1枚のシート状のセパレータで極板を挟むように配置してもよい。この場合、折り曲げたシート状のセパレータで挟んだ正極板と、折り曲げたシート状のセパレータで挟んだ負極板とを重ねてもよく、正極板および負極板の一方を折り曲げたシート状のセパレータで挟み、他方の極板と重ねてもよい。また、シート状のセパレータを蛇腹状に折り曲げ、正極板および負極板を、これらの間にセパレータが介在するように、蛇腹状のセパレータに挟み込んでもよい。蛇腹状に折り曲げられたセパレータを用いる場合、折り曲げ部が鉛蓄電池の水平方向に沿うように(例えば、折り曲げ部が水平方向と平行になるように)セパレータを配置してもよく、鉛直方向に沿うように(例えば、折り曲げ部が鉛直方向と平行になるように)セパレータを配置してもよい。蛇腹状に折り曲げられたセパレータでは、セパレータの両方の主面側に交互に凹部が形成されることになる。正極板や負極板の上部には通常耳部が形成されているため、折り曲げ部が鉛蓄電池の水平方向に沿うようにセパレータを配置する場合、セパレータの一方の主面側の凹部のみに正極板および負極板が配置される(つまり、隣接する正極板と負極板との間には、二重のセパレータが介在した状態となる)。折り曲げ部が鉛蓄電池の鉛直方向に沿うようにセパレータを配置する場合、一方の主面側の凹部に正極板を収容し、他方の主面側の凹部に負極板を収容することができる(つまり、隣接する正極板と負極板との間には、セパレータが一重に介在した状態とすることができる。)。袋状のセパレータを用いる場合、袋状のセパレータが正極板を収容していてもよいし、負極板を収容してもよい。
なお、本明細書中、極板における上下方向は、鉛蓄電池の鉛直方向における上下方向を意味する。
【0111】
(電解液)
電解液は、硫酸を含む水溶液であり、必要に応じてゲル化させてもよい。
電解液には、上記のポリマー化合物が含まれていてもよい。
【0112】
電解液中のポリマー化合物の濃度は、質量基準で、例えば、500ppm以下であってもよく、300ppm以下または200ppm以下であってもよい。このように電解液に少量のポリマー化合物が含まれることで、正極集電体の結晶粒界に析出したSn化合物にポリマー化合物を付着させやすくなる。電解液中のポリマー化合物の濃度は、質量基準で、1ppm以上であってもよく、5ppm以上であってもよい。これらの上限値と下限値とは任意に組み合わせることができる。
【0113】
電解液中のポリマー化合物の濃度は、例えば、質量基準で、8ppmより多く、500ppm以下であってもよく、15ppm以上、300ppm以下であってもよく、15ppm以上、200ppm以下であってもよい。このように負極電極材料および電解液に含まれるポリマー化合物の量が少量の場合でも、正極集電体のSn含有量を0.95質量%以上に制御することで、フロート充電時の充電電気量が低減され、正極集電体の腐食抑制の効果が得られる。
【0114】
ポリマー化合物は、少なくともMnが500以上の化合物を含むことが好ましい。この場合、ポリマー化合物が負極電極材料中に留まり易いことに加え、鉛に対する吸着性が高まるため、フロート充電時の充電電気量を低減する効果がより高まる。
【0115】
また、電解液中のポリマー化合物の濃度が、100ppm以上である場合も好ましい。このとき、ポリマー化合物は、少なくともMnが1000以上5000以下の化合物を含むことが好ましい。Mnが5000以下のポリマー化合物は、電解液中に溶解し易く、電解液中を移動し易いため、正極板(正極集電体)や負極電極材料中に移動して、フロート充電時の充電電気量を低減する効果をさらに高めることができる。Mnが1000以上のポリマー化合物では、鉛に対する吸着性がより高くなると考えられ、フロート充電時の充電電気量の低減効果をさらに高めることができる。鉛蓄電池を長期間使用すると負極電極材料の構造変化が徐々に進行して、負極板からポリマー化合物が溶出し易くなる傾向がある。しかし、電解液がある程度の濃度のポリマー化合物を含むことで、負極板からのポリマー化合物の溶出を抑制することができ、負極電極材料中にポリマー化合物を保持できるとともに、電解液中からポリマー化合物を負極板に補充することができる。
【0116】
電解液中のポリマー化合物の濃度は、既化成の満充電状態の鉛蓄電池から取り出した所定量(m(g))の電解液にクロロホルムを加えて混合し、静置して二層に分離させた後、クロロホルム層のみを取り出す。この作業を数回繰り返した後、クロロホルムを減圧下で留去し、クロロホルム可溶分を得る。クロロホルム可溶分の適量をTCE0.0212±0.0001gと共に重クロロホルムに溶解させて、H-NMRスペクトルを測定する。ケミカルシフトが3.2~3.8ppmの範囲に存在するピークの積分値(S)とTCEに由来するピークの積分値(S)を求め、以下の式から電解液中のポリマー化合物の含有量Cを求める。
=S/S×N/N×M/M×m/m×1000000
(式中、MおよびNは、それぞれ前記に同じ。)
【0117】
電解液は、必要に応じて、カチオン(例えば、ナトリウムイオン、リチウムイオン、マグネシウムイオン、および/またはアルミニウムイオンなどの金属カチオン)、および/またはアニオン(例えば、リン酸イオンなどの硫酸アニオン以外のアニオン)を含んでいてもよい。
【0118】
満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、例えば、1.20以上であり、1.25以上であってもよい。電解液の20℃における比重は、1.35以下であり、1.32以下であることが好ましい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。電解液の20℃における比重は、1.20以上1.35以下、1.20以上1.32以下、1.25以上1.35以下、または1.25以上1.32以下であってもよい。
【0119】
蓄電池は、電槽に、正極板、負極板、および電解液を収容することにより鉛蓄電池を組み立てる工程を含む製造方法により得ることができる。鉛蓄電池の組み立て工程において、セパレータは、通常、正極板と負極板との間に介在するように配置される。鉛蓄電池の組み立て工程は、正極板、負極板、および電解液を電槽に収容する工程の後、必要に応じて、正極板および/または負極板を化成する工程を含んでもよい。正極板、負極板、電解液、およびセパレータは、それぞれ、電槽に収容される前に準備される。
【0120】
図1に、本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池の一例の外観を示す。
自動車用鉛蓄電池1は、極板群11と電解液(図示せず)とを収容する電槽12を具備する。電槽12内は、隔壁13により、複数のセル室14に仕切られている。各セル室14には、極板群11が1つずつ収納されている。電槽12の開口部は、負極端子16および正極端子17を具備する蓋15で閉じられる。蓋15には、セル室毎に液口栓18が設けられている。補水の際には、液口栓18を外して補水液が補給される。液口栓18は、セル室14内で発生したガスを電池外に排出する機能を有してもよい。
【0121】
極板群11は、それぞれ複数枚の負極板2および正極板3を、セパレータ4を介して積層することにより構成されている。ここでは、負極板2を収容する袋状のセパレータ4を示すが、セパレータの形態は特に限定されない。電槽12の一方の端部に位置するセル室14では、複数の負極板2を並列接続する負極棚部6が貫通接続体8に接続され、複数の正極板3を並列接続する正極棚部5が正極柱7に接続されている。正極柱7は蓋15の外部の正極端子17に接続されている。電槽12の他方の端部に位置するセル室14では、負極棚部6に負極柱9が接続され、正極棚部5に貫通接続体8が接続される。負極柱9は蓋15の外部の負極端子16と接続されている。各々の貫通接続体8は、隔壁13に設けられた貫通孔を通過して、隣接するセル室14の極板群11同士を直列に接続している。
【0122】
正極棚部5は、各正極板3の上部に設けられた耳部同士をキャストオンストラップ方式やバーニング方式で溶接することにより形成される。負極棚部6も、正極棚部5の場合に準じて各負極板2の上部に設けられた耳部同士を溶接することにより形成される。
【0123】
なお、鉛蓄電池の蓋15は、一重構造(単蓋)であるが、図示例の場合に限らない。蓋15は、例えば、中蓋と外蓋(または上蓋)とを備える二重構造を有するものであってもよい。二重構造を有する蓋は、中蓋と外蓋との間に、中蓋に設けられた還流口から電解液を電池内(中蓋の内側)に戻すための還流構造を備えるものであってもよい。
【0124】
<高温フロート耐久性能>
測定対象の同じ鉛蓄電池を2つ準備する。一方の鉛蓄電池を75℃±3 ℃での水槽に鉛蓄電池を浸し、2.5V/セルの定電圧充電(すなわち高温フロート充電)を30日間行う。その後、鉛蓄電池を解体し、正極板から正極集電体を取り出し、マンニット、ヒドラジンおよび水酸化ナトリウムを溶解させた水溶液で腐食層を除去する。腐食層を除去した後の正極集電体の質量W1を測定する。また、他方の鉛蓄電池を、高温フロート充電を施すことなく解体し、正極板から正極集電体を取り出し、腐食層を有さない正極集電体の質量W0を測定する。W0とW1との差を腐食量として計算し、その逆数を高温フロート耐久性能として指数化した。腐食量が大きいほど、逆数(指数)は小さくなる。指数値が大きいほど、耐久性能に優れていることを示す。
【0125】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池を以下にまとめて記載する。
(1)正極板と、負極板と、電解液と、ポリマー化合物と、を備え、
前記正極板は、正極集電体と、正極電極材料を備え、
前記負極板は、負極集電体と、負極電極材料を備え、
前記正極集電体は、0.95質量%以上のSnを含み、
前記ポリマー化合物は、H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有する、鉛蓄電池。
【0126】
(2)上記(1)において、前記正極集電体中のSn含有量は、例えば、3質量%未満であればよい。
(3)上記(1)において、正極集電体が、更にCaを含んでもよい。
【0127】
(4)上記(1)~(3)のいずれか1つにおいて、少なくとも前記負極電極材料が、前記ポリマー化合物を含むことが好ましい。
【0128】
(5)上記(4)において、前記負極電極材料中のポリマー化合物の含有量は、例えば、質量比で5~500ppmであればよい。
【0129】
(6)上記(1)~(5)のいずれか1つにおいて、前記ポリマー化合物の数平均分子量は、例えば、500以上であればよい。
【0130】
(7)正極板と、負極板と、電解液と、ポリマー化合物と、を備え、
前記正極板は、正極集電体と、正極電極材料を備え、
前記負極板は、負極集電体と、負極電極材料を備え、
前記正極集電体は、0.95質量%以上のSnを含み、
前記ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含む、鉛蓄電池。
【0131】
(8)上記(7)において、前記正極集電体中のSn含有量は、例えば、3質量%未満であればよい。
(9) 上記(7)において、正極集電体が、更にCaを含んでもよい。
(10)上記(7)において、少なくとも前記負極電極材料が、前記ポリマー化合物を含むことが好ましい。
【0132】
(11)上記(7)において、前記負極電極材料中のポリマー化合物の含有量は、例えば、質量比で5~500ppmであればよい。
(12)上記(7)~(11)のいずれか1つにおいて、前記ポリマー化合物の数平均分子量は、例えば、500以上であればよい。
【0133】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0134】
《鉛蓄電池A1~A15およびR1~R13》
(1)鉛蓄電池の作製
以下の表1に示す、ポリプロピレングリコール(PPG)含有量を有する負極電極材料と、Sn含有量を有する正極集電体とを用いて、以下の(a)~(c)の要領で、鉛蓄電池A1~A15およびR1~R13を組み立てた。A1~A15は実施例、R1~R13は比較例に対応する。
【0135】
【表1】
【0136】
(a)負極板の作製
原料の鉛粉と、硫酸バリウムと、カーボンブラックと、ポリマー化合物(ポリプロピレングリコール(PPG)、Mn=1500)と、有機防縮剤(スルホン酸基を導入したビスフェノール化合物のホルムアルデヒドによる縮合物)とを、適量の硫酸水溶液と混合して、負極ペーストを得る。このとき、いずれも既述の手順で求められる、負極電極材料中のポリマー化合物の含有量が表1に示す値となるとともに、硫酸バリウムの含有量が0.6質量%、カーボンブラックの含有量が0.3質量%、有機防縮剤の含有量が0.1質量%となるように各成分を混合する。負極ペーストを、負極集電体であるPb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成乾燥し、未化成の負極板を得る。
【0137】
(b)正極板の作製
原料の鉛粉を硫酸水溶液と混合して、正極ペーストを得る。正極ペーストを、Pb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成乾燥し、未化成の正極板を得る。既述の手順で求められる正極集電体(すなわち、ここではPb-Ca-Sn合金)のSn含有量は表1に示す値とする。Pb-Ca-Sn合金のCa含有量は、0.09質量%とする。
【0138】
(c)試験電池の作製
試験電池は定格電圧2V、定格5時間率容量は32Ahである。試験電池の極板群は、正極板7枚と負極板7枚とで構成する。負極板は袋状セパレータに収容し、正極板と積層し、極板群を形成する。極板群をポリプロピレン製の電槽に電解液(硫酸水溶液)とともに収容して、電槽内で化成を施し、液式の鉛蓄電池を作製する。化成後の電解液の比重は1.28(20℃換算)である。
【0139】
なお、既述の手順で測定されるポリマー化合物のH-NMRスペクトルでは、3.2ppm以上3.42ppm以下のケミカルシフトの範囲にオキシプロピレンユニットの--CH-に由来するピークが観察され、3.42ppmを超え3.8ppm以下のケミカルシフトの範囲にオキシプロピレンユニットのCH<および-CH-に由来するピークが観察される。また、H-NMRスペクトルにおいて、3.2ppm~3.8ppmのピークの積分値の、このピークの積分値と、酸素原子に結合した-CH-基の水素原子のピークの積分値と、酸素原子に結合した-CH<基の水素原子のピークの積分値との合計に占める割合は、98.1%である。
【0140】
(2)評価
上記鉛蓄電池を用いて、既述の方法で、高温フロート耐久性能を測定した。結果を表2A~2Dに示す。
【0141】
【表2A】
【0142】
【表2B】
【0143】
【表2C】
【0144】
【表2D】
【0145】
図2には、正極集電体のSn含有量と高温フロート耐久性との関係をグラフで示す。表2A~2Dおよび図2より、正極集電体のSn含有量が0.95質量%以上になると、負極電極材料中にポリマー化合物が含まれることによる高温フロート耐久性能の向上が顕著になることが理解できる。特に正極集電体のSn含有量が1.10質量%~1.80質量%の範囲では、負極電極材料におけるポリマー化合物(PPG)の含有量に関わらず、耐久性能の向上が顕著である。
【0146】
《電池A16、A17およびR14、R15》
正極集電体のSn含有量を1.10質量%または0.60質量%とし、負極電極材料におけるPPG含有量を500ppmまたは750ppmとしたこと以外、上記と同様に、実施例の鉛蓄電池A16、A17および比較例の鉛蓄電池R14、R15を作製し、同様に評価した。
【0147】
表3に、Sn含有量が1.10質量%または0.60質量%の場合の表2A~2Dからの抜粋とともに結果を示す。表3より、正極集電体のSn含有量が0.95質量%より高い場合と低い場合とで、負極電極材料にPPGを添加することによる耐久性能の挙動が大きく異なることが容易に理解できる。
【0148】
【表3】
【0149】
《電池A18~A21》
負極電極材料に含ませるポリマー化合物の数平均分子量を表4に示すように変更したこと以外、実施例の電池A12と同様に、実施例の鉛蓄電池A18~A21を作製し、同様に評価した。結果を表4に示す。
【0150】
【表4】
【0151】
表4によれば、ポリマー化合物の数平均分子量Mnは500以上であればよいが、高温フロート耐久性能を向上させる観点からは、1000以上が好ましく、2500以上(例えば3000程度)までMnが大きいほど耐久性能も向上することがわかる。ただし、Mnが2500を超えると、耐久性能の向上が飽和している。これはMnが一定以上に大きくなると、負極電極材料からポリマー化合物が溶出しにくくなり、正極集電体の結晶粒界に析出したSn化合物に付着するポリマー化合物の量が減少するためと推察される。
【0152】
《電池A22、A23》
正極集電体のCa含有量を表5に示すように変更したこと以外、実施例の電池A12と同様に、実施例の鉛蓄電池A22、A23を作製し、同様に評価した。結果を表5に示す。
【0153】
【表5】
【0154】
表5によれば、高温フロート耐久性能の観点からは、正極集電体のCa含有量が低いほど望ましいことが示唆されるが、それほど大きな相違は見られない。Ca含有量が低くなると、正極集電体の腐食反応が抑制されやすいことが耐久性能の向上に関連しているものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0155】
本発明に係る鉛蓄電池は、例えば、車両(自動車、バイクなど)の始動用電源や、電動車両(フォークリフトなど)などの産業用蓄電装置などの電源として好適に利用できる。なお、これらの用途は単なる例示であり、これらの用途に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0156】
1:鉛蓄電池
2:負極板
3:正極板
4:セパレータ
5:正極棚部
6:負極棚部
7:正極柱
8:貫通接続体
9:負極柱
11:極板群
12:電槽
13:隔壁
14:セル室
15:蓋
16:負極端子
17:正極端子
18:液口栓
図1
図2