(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】検出装置、検出方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 27/26 20060101AFI20221109BHJP
【FI】
G01N27/26 371Z
G01N27/26 371A
(21)【出願番号】P 2021536880
(86)(22)【出願日】2020-07-09
(86)【国際出願番号】 JP2020026837
(87)【国際公開番号】W WO2021020063
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2021-12-10
(31)【優先権主張番号】P 2019142490
(32)【優先日】2019-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020069205
(32)【優先日】2020-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和2年2月6日 Japanese Journal of Applied Physics,第59巻,SGGH04,2020年にて公開した。
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】沖野 剛士
(72)【発明者】
【氏名】高橋 講平
(72)【発明者】
【氏名】牛場 翔太
【審査官】櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-115714(JP,A)
【文献】特開2018-146586(JP,A)
【文献】特開2018-187479(JP,A)
【文献】特表2019-505029(JP,A)
【文献】国際公開第2018/207524(WO,A1)
【文献】特開2016-121992(JP,A)
【文献】特開平08-233809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
A61B 5/145-5/1495
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサに基づいて対象を検出する検出装置であって、
前記センサからの信号を測定する測定部と、
前記測定部で測定した信号を前記センサの変動成分と応答成分とに分離する演算部と、を備え、
前記演算部は、
前記センサの変動成分の時系列情報により規定された状態方程式と、前記センサの変動成分と前記センサの応答成分とが分離されて規定される観測方程式とを含む状態空間モデルを用いて解析を行う状態空間モデル解析部と、
前記状態空間モデル解析部で用いる前記状態空間モデルに含まれるパラメータを決定するパラメータ決定部と、を含み、
前記パラメータ決定部で決定したパラメータを用いて、応答成分に対応する対象を求
め、
前記状態方程式がx
t
=G(x
t-1
,w
t
)で、
前記観測方程式がy
t
=F(x
t
,q
t
,v
t
)であり、
x
t
が前記センサの変動成分、y
t
が前記センサからの信号、q
t
が応答モデル、w
t
がシステムノイズ、v
t
が観測ノイズをそれぞれ表している、検出装置。
【請求項2】
前記演算部での演算フェーズを制御する制御部をさらに備え、
前記制御部において前記演算部での演算フェーズを第1演算フェーズに制御した場合、前記パラメータ決定部は、既知の対象と、当該既知の対象から得られる応答情報とを前記状態空間モデルに適用して、対象と応答成分との関係を表す応答モデルのパラメータを決定し、
前記制御部において前記演算部での演算フェーズを第2演算フェーズに制御した場合、前記状態空間モデル解析部は、前記測定部で測定した信号を前記センサの変動成分と応答成分とに分離し、前記第1演算フェーズで決定した前記応答モデルのパラメータを用いて、応答成分に対応する対象を求める、請求項1に記載の検出装置。
【請求項3】
前記観測方程式は、前記センサの応答成分が非線形の前記応答モデルである、請求項2に記載の検出装置。
【請求項4】
前記演算部は、シミュレーションにより前記状態空間モデルの数値計算を行うシミュレーション部をさらに備え、
前記シミュレーション部は、前記第1演算フェーズにおいて前記応答モデルのパラメータをシミュレーションにより算出し、前記第2演算フェーズにおいて前記応答モデルから応答成分に対応する対象をシミュレーションにより求める、請求項3に記載の検出装置。
【請求項5】
前記シミュレーション部は、マルコフ連鎖モンテカルロ法を用いて前記状態空間モデルの数値計算を行う、請求項4に記載の検出装置。
【請求項6】
前記センサは、複数のセンサ素子を含むアレイセンサで、
前記演算部は、各々のセンサ素子で測定した信号を前記センサの変動成分と応答成分とにそれぞれ分離する演算を行う、請求項2~請求項5のいずれか1項に記載の検出装置。
【請求項7】
前記状態空間モデル解析部は、各々のセンサ素子の前記応答モデルのパラメータに異なる事前分布を与える、請求項6に記載の検出装置。
【請求項8】
前記パラメータ決定部は、各々のセンサ素子に対して前記第1演算フェーズで決定した前記応答モデルのパラメータが所定基準内か否かを判定し、
前記状態空間モデル解析部は、前記所定基準外のパラメータのセンサ素子に対して前記第2演算フェーズの演算を行わない、請求項6または請求項7に記載の検出装置。
【請求項9】
センサからの信号を測定する測定部と、前記測定部で測定した信号を前記センサの変動成分と応答成分とに分離する演算部と、前記演算部での演算フェーズを制御する制御部と、を備え、前記演算部は、前記センサの変動成分の時系列情報により規定された状態方程式と、前記センサの変動成分と前記センサの応答成分とが分離されて規定される観測方程式とを含む状態空間モデルを用いて解析を行う状態空間モデル解析部と、前記状態空間モデル解析部で用いる前記状態空間モデルに含まれるパラメータを決定するパラメータ決定部と、を含む前記センサに基づいて対象を検出する検出装置での検出方法であって、
前記制御部において前記演算部での演算フェーズを第1演算フェーズに制御した場合、前記パラメータ決定部で、既知の対象と、当該既知の対象から得られる応答情報とを前記状態空間モデルに適用して、対象と応答成分との関係を表す応答モデルのパラメータを決定するステップと、
前記制御部において前記演算部での演算フェーズを第2演算フェーズに制御した場合、前記状態空間モデル解析部で、前記測定部で測定した信号を前記センサの変動成分と応答成分とに分離し、前記第1演算フェーズで決定した前記応答モデルのパラメータを用いて、応答成分に対応する対象を求めるステップと、を有
し、
前記状態方程式がx
t
=G(x
t-1
,w
t
)で、
前記観測方程式がy
t
=F(x
t
,q
t
,v
t
)であり、
x
t
が前記センサの変動成分、y
t
が前記センサからの信号、q
t
が応答モデル、w
t
がシステムノイズ、v
t
が観測ノイズをそれぞれ表している、検出方法。
【請求項10】
センサからの信号を測定する測定部と、前記測定部で測定した信号を前記センサの変動成分と応答成分とに分離する演算部と、前記演算部での演算フェーズを制御する制御部と、を備え、前記演算部は、前記センサの変動成分の時系列情報により規定された状態方程式と、前記センサの変動成分と前記センサの応答成分とが分離されて規定される観測方程式とを含む状態空間モデルを用いて解析を行う状態空間モデル解析部と、前記状態空間モデル解析部で用いる前記状態空間モデルに含まれるパラメータを決定するパラメータ決定部と、を含む前記センサに基づいて対象を検出する検出装置の前記演算部で実行するプログラムであって、
前記制御部において前記演算部での演算フェーズを第1演算フェーズに制御した場合、前記パラメータ決定部で、既知の対象と、当該既知の対象から得られる応答情報とを前記状態空間モデルに適用して、対象と応答成分との関係を表す応答モデルのパラメータを決定するステップと、
前記制御部において前記演算部での演算フェーズを第2演算フェーズに制御した場合、前記状態空間モデル解析部で、前記測定部で測定した信号を前記センサの変動成分と応答成分とに分離し、前記第1演算フェーズで決定した前記応答モデルのパラメータを用いて、応答成分に対応する対象を求めるステップと、を実行
し、
前記状態方程式がx
t
=G(x
t-1
,w
t
)で、
前記観測方程式がy
t
=F(x
t
,q
t
,v
t
)であり、
x
t
が前記センサの変動成分、y
t
が前記センサからの信号、q
t
が応答モデル、w
t
がシステムノイズ、v
t
が観測ノイズをそれぞれ表している、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1つ以上のセンサを備える検出装置、検出方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化合物または生化学化合物を検出するため、電位差測定センサ(例えば、特許文献1)や、グルコース値を連続的に測定するためグルコースセンサ(例えば、特許文献2)など様々なセンサが開発されている。これらのセンサにおいて共通して問題となるのは、センサの応答成分以外に、センサの変動成分(ドリフト成分)が重畳してセンサからの信号として出力されることである。
【0003】
そのため、特許文献1では、電位差測定センサであるイオンセンサに重畳している基準電圧のドリフト成分を補正のために、別途電極を設けている。また、特許文献2では、生体系内の分析物濃度センサであるグルコースセンサに重畳しているドリフト成分を校正するために、あらかじめ定常状態の値を測定しておき、その値を用いて校正を行っている。さらに、センサからの信号に含まれるドリフト成分を補正する方法として、ドリフト成分が線形に変化すると近似してセンサからの信号を補正する方法などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-121992号公報
【文献】特表2018-532440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ドリフト成分が線形に変化するとして近似する方法では、センサからの信号に含まれるドリフト成分が非線形な成分である場合、近似の精度が低下し、補正後の対象の検出精度が低下する恐れがあった。また、特許文献1では、電位差測定センサであるイオンセンサに重畳している基準電圧のドリフト成分を補正のために、別途電極を設けるなど追加のハードウェアが必要となり、装置構成が煩雑で、製造コストが増加する問題があった。さらに、特許文献2では、あらかじめ定常状態の値を測定しておき、その値を用いて校正を行っているため、検出の対象が定常状態となるまで待って検出を行う必要があり、検出を完了するまでに時間がかかる問題があった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、別途ハードウェアを追加する必要がなく、対象が定常状態となるまで待つ必要もなく、対象を精度よく検出することができる検出装置、検出方法およびプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態に係る検出装置は、センサに基づいて対象を検出する検出装置であって、センサからの信号を測定する測定部と、測定部で測定した信号をセンサの変動成分と応答成分とに分離する演算部と、を備える。演算部は、センサの変動成分の時系列情報により規定された状態方程式と、センサの変動成分とセンサの応答成分とが分離されて規定される観測方程式とを含む状態空間モデルを用いて解析を行う状態空間モデル解析部と、状態空間モデル解析部で用いる状態空間モデルに含まれるパラメータを決定するパラメータ決定部と、を含み、パラメータ決定部で決定したパラメータを用いて、応答成分に対応する対象を求め、状態方程式がx
t
=G(x
t-1
,w
t
)で、観測方程式がy
t
=F(x
t
,q
t
,v
t
)であり、x
t
がセンサの変動成分、y
t
がセンサからの信号、q
t
が応答モデル、w
t
がシステムノイズ、v
t
が観測ノイズをそれぞれ表している。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、演算部が、センサの変動成分の時系列情報により規定された状態方程式と、センサの変動成分とセンサの応答成分とが分離されて規定される観測方程式とを含む状態空間モデルを用いて解析を行うので、別途ハードウェアを追加することなく、対象が定常状態となるまで待つこともなく、対象を精度よく検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施の形態1に係る検出装置の構成を説明するための概略図である。
【
図2】本実施の形態1に係る演算部の構成を説明するための概略図である。
【
図3】本実施の形態1に係る学習フェーズのフローチャートである。
【
図4】本実施の形態1に係る学習フェーズの測定値の変化を示すグラフである。
【
図5】本実施の形態1に係る学習フェーズの測定値の変化を示す別のグラフである。
【
図6】本実施の形態1に係る学習フェーズで推定した応答モデルのパラメータを示す図である。
【
図7】本実施の形態1に係る予測フェーズのフローチャートである。
【
図8】本実施の形態1に係る予測フェーズの測定値の変化を示すグラフである。
【
図9】本実施の形態1に係る予測フェーズで算出したタンパク質溶液の濃度を示す図である。
【
図10】本実施の形態1に係るコンピュータの構成を説明するためのブロック図である。
【
図11】本実施の形態2に係る検出装置の構成を説明するための概略図である。
【
図12】本実施の形態2に係る学習フェーズのフローチャートである。
【
図13】本実施の形態2に係る予測フェーズのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施の形態に係る検出装置について図面を参照して詳しく説明する。なお、図中同一符号は同一または相当部分を示す。
【0011】
(実施の形態1)
以下に、本実施の形態1に係る検出装置について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施の形態1に係る検出装置の構成を説明するための概略図である。
図1に示す検出装置100は、グラフェンFETセンサを用いて検出対象であるタンパク質溶液の濃度を検出する。グラフェンFETセンサは、下地の上に設けられたグラフェン膜を有するFETセンサである。グラフェン膜は、膜の表面で生じる原子、分子の結合、吸着あるいは近接に対して電気的に大きな特性変化を生じる膜である。そのため、当該グラフェン膜を有するグラフェンFETセンサは、イオンセンサ、酵素センサ、DNAセンサ、抗原・抗体センサ、タンパク質センサ、呼気センサ、ガスセンサなどへの応用が期待されている。
【0012】
グラフェンFETセンサ(以下、単にセンサともいう)1は、筐体1aの中に設けられ、上面を緩衝液1bで満たしている。緩衝液1bには、リン酸緩衝生理食塩水(PBS:Phosphate buffered salts)を用いた。検出の対象であるタンパク質溶液は、滴下装置2から緩衝液1bに滴下される。滴下装置2は、例えばマイクロピペットである。検出装置100は、センサ1からの電流値を連続的にモニタリングしながら、滴下装置2から滴下されたタンパク質溶液の濃度を対象として検出する。なお、一例として、タンパク質溶液の濃度を対象とする場合について説明するが、それ以外にも、イオン、酵素、DNA、抗原、抗体などの濃度を対象としてもよい。
【0013】
なお、本実施の形態では、センサ1をグラフェンFETセンサであるとして説明するが、センサ1はグラフェンFETセンサに限定されず、Si-FETセンサ、カーボンナノチューブFET、シリコンナノワイヤFET、ダイヤモンドFETなど他の種類のセンサであってもよい。検出装置100は、センサに変動成分(ドリフト成分)が生じる温度センサ、ガスセンサ、慣性センサなどのセンサに対して適用することができる。
【0014】
検出装置100は、センサ1、測定部10、制御部20、演算部30を含む。なお、本実施の形態において検出装置100は、センサ1を含む装置として説明するが、センサを検出装置の外に設け、センサからの信号に基づいて対象を検出する検出装置でもよい。また、検出装置100は、制御部20が滴下装置2を制御して、検出の対象であるタンパク質溶液を緩衝液1bに滴下するが、もちろん制御部20が滴下装置2を制御せずに手動で行ってもよい。そもそも、滴下装置を有しない検出装置でもよい。
【0015】
測定部10は、センサ1からの信号を測定し、電流値を連続的にモニタリングしている。測定部10の構成は、センサ1の構成に合わせて異なり、センサ1の電流値を測定する場合は電流計を含み、センサ1の電圧値を測定する場合は電圧計を含むことになる。
【0016】
制御部20は、検出装置100全体の動作を制御しており、センサ1、滴下装置2、測定部10、演算部30などの動作を制御している。
図1では、制御部20が滴下装置2の滴下を制御し、演算部30での演算を制御していることを一例として図示している。具体的に、制御部20は、滴下装置2から滴下するタンパク質溶液の滴下タイミング、滴下量などを制御でき、その情報を演算部30に出力することもできる。また、制御部20は、滴下装置2から濃度が既知のタンパク質溶液を滴下する場合、既知の濃度情報も演算部30に出力することもできる。
【0017】
制御部20は、演算部30での演算フェーズを制御することもできる。演算部30では、状態空間モデルを用いて測定部10で測定した電流値(信号)からセンサ1の変動成分と応答成分とに分離することができる。そのため、演算部30は、後術する状態空間モデルのパラメータを決定する学習フェーズ(第1演算フェーズ)と、決定したパラメータに基づいてタンパク質溶液の濃度(対象)を求める予測フェーズ(第2演算フェーズ)とを有している。制御部20は、演算部30を学習フェーズで演算させるのか、予測フェーズで演算させるのかを制御している。
【0018】
図2は、本実施の形態1に係る演算部30の構成を説明するための概略図である。演算部30は、状態空間モデル解析部31と、シミュレーション部32と、パラメータ決定部と含む。状態空間モデル解析部31は、センサ1の変動成分の時系列情報により規定された状態方程式と、センサ1の変動成分とセンサ1の応答成分とが分離されて規定される観測方程式とを含む状態空間モデルを用いて解析を行う。本実施の形態では、センサ1の変動成分を状態空間モデルの「状態」として扱い、実際に「観測」された結果をセンサ1からの信号として扱っている。
【0019】
具体的に、状態空間モデルでは、状態方程式と観測方程式という二つの方程式を用いて変動成分(ドリフト成分)を含むセンサ1からの信号を表現することができる。
状態方程式:xt=G(xt-1,wt)
観測方程式:yt=F(xt,qt,vt)
ここで、xtがセンサ1の変動成分(ドリフト成分)、ytがセンサ1からの信号(測定部10で測定した電流値)、qtが検出する対象であるタンパク質溶液の濃度とセンサ1の応答量との関係を表す応答モデルをそれぞれ示している。wtは、システムノイズを、vtは、観測ノイズをそれぞれ表している。なお、方程式中の各変数(例えば、xtおよびwt)は、ベクトル量であってもよい。例えば、上記の状態方程式において、xt=(xt,xt-1)、xt-1=(xt-1,xt-2)とすることで、二時刻前までの状態を扱うことも可能になる。
【0020】
また、システムノイズwtおよび観測ノイズvtは、必ずしも正規分布である必要はなく、コーシー分布やt分布などの他の分布でもよい。さらに、システムノイズwtおよび観測ノイズvtの分布それぞれのパラメータは、上述した応答モデルqtのパラメータと一括して数値計算することが可能であり、あらかじめ固定値を与えておく必要はない。各ノイズの分布および応答モデルqtのパラメータは、数値計算での制約を与えるためにあらかじめ分布として決めておいてもよい。
【0021】
状態空間モデルでは、センサ1の変動成分についての関数があらかじめ分かっていなくても、センサ1の変動成分の時系列情報により規定された状態方程式として表現することができる。具体的に、本実施の形態では、状態方程式および観測方程式を以下のような式で規定する。
状態方程式:xt-xt-1=xt-1-xt-2+wt wt~N(0,σw)
観測方程式:yt=xt+qt+vt vt~N(0,σv)
上記の状態方程式は二階差分モデルと呼ばれ、緩やかな時系列変化xtを表現することができる。センサ1の変動成分は、少しずつ変動するような緩やかなものであると考えられるため、二階差分モデルはより適切な状態方程式である。観測方程式では、緩やかな変動成分と、タンパク質への応答成分と、観測ノイズとを各々足し合わせたものが信号として得られることをモデル化している。
【0022】
応答モデルqtは、任意のモデルを用いることができ、例えば非線形モデルを用いることができる。具体的に、本実施の形態では、応答モデルqtを以下のような式で規定した。
応答モデル:qt=(ct/(10a+ct))・b
ここで、ctは時間tでのタンパク質溶液の濃度、a,bは応答モデルqtのパラメータをそれぞれ示している。上記の式は、ラングミュアの吸着等温式と呼ばれる式で、溶液中の溶質が固体表面に吸着する現象をモデル化した式である。本実施の形態では、タンパク質がセンサ1に吸着することで濃度を検出することができるため、上記の式のラングミュアの吸着等温式を応答モデルqtに適用した。応答モデルqtは、もちろんこれに限定されず、他の非線形関数などでモデル化してもよく、応答モデルqtのパラメータの数についても制限されない。
【0023】
状態空間モデル解析部31は、上記の状態空間モデルを解析して、センサ1からの信号(測定部10で測定した電流値)からセンサ1の変動成分(ドリフト成分)を分離して、タンパク質溶液の濃度を求めることができる。しかし、状態空間モデル解析部31は、状態空間モデルからタンパク質溶液の濃度を求めるためには、パラメータ決定部33であらかじめ状態空間モデルに含まれるパラメータを決定しておく必要がある。上記の状態空間モデルでは、パラメータ決定部33で応答モデルqtのパラメータa,bを予め決定しておく必要がある。
【0024】
上記の状態空間モデルには、非線形関数である応答モデルqtが含まれるので、状態空間モデル解析部31は、解析的に解を導出することが難しい。そこで、演算部30では、シミュレーション部32を設け、非線形関数である応答モデルqtを含む状態空間モデルに対してシミュレーションによる数値計算を行い、解を導出している。シミュレーション部32では、例えば、マルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC法)を用いて状態空間モデルに対してシミュレーションによる数値計算を行い、解を導出する。もちろん、シミュレーション部32で行う数値計算は、マルコフ連鎖モンテカルロ法に限定されず、他の数値計算の方法を用いてもよい。さらに、状態空間モデルに非線形関数を含まない場合、状態空間モデルに非線形関数を含んでいても解析的に解を導出できる場合、演算部30は、シミュレーション部32を設けずに、解析を行ってもよい。
【0025】
上記の状態空間モデルでは、観測方程式に応答モデルqtを含めると説明したが、状態方程式に応答モデルqtを含めたり、あるいは状態方程式を2つ以上に分けて、そのうちのいずれかの式に応答モデルqtを含めたりしてもよい。
【0026】
次に、演算部30の演算フェーズのうち、学習フェーズ(第1演算フェーズ)について説明する。学習フェーズは、応答モデルqtのパラメータa,bを決定する演算フェーズである。具体的に、学習フェーズでは、既知の濃度のタンパク質溶液をセンサ1に滴下して、センサ1からの信号に基づいて応答モデルqtのパラメータa,bを決定する。
【0027】
図3は、本実施の形態1に係る学習フェーズのフローチャートである。まず、演算部30は、測定部10からセンサ1で測定した測定値(電流値)を取得する(ステップS10)。次に、演算部30は、既知のタンパク質溶液の濃度(検出対象濃度)を制御部20から取得する(ステップS11)。なお、ステップS11において、演算部30は、制御部20から既知のタンパク質溶液の濃度を取得するのではなく、使用者が入力した既知のタンパク質溶液の濃度を受付けてもよい。
【0028】
演算部30は、上記の状態空間モデルを用いた解析を状態空間モデル解析部31で行う(ステップS12)。さらに、演算部30は、シミュレーション部32で、上記の状態空間モデルに対してシミュレーションによる数値計算を行い応答モデルqtのパラメータa,bを決定する(ステップS13)。
【0029】
次に、学習フェーズの具体例を説明する。
図4は、本実施の形態1に係る学習フェーズの測定値の変化を示すグラフである。
図4(a)では、センサ1からの信号(測定部10で測定した電流値)yと、タンパク質溶液の濃度(検出対象濃度)cとの変化を示し、yの縦軸は測定値、cの縦軸は検出対象濃度、横軸は時間をそれぞれ示している。
図4(b)では、センサ1からの信号(測定部10で測定した電流値)yと、センサ1の変動成分(ドリフト成分)xと、センサ1の応答成分(応答モデル)qとの変化を示し、縦軸は測定値、横軸は時間をそれぞれ示している。
【0030】
図4に示す測定値は、例えばグラフェンFETのセンサ1のゲート電極およびドレイン電極のそれぞれに所定の電圧を印加した状態でドレイン電流を連続的にモニタした値である。そして、
図4では、時間tのタイミングで、緩衝液1bに、既知の濃度のタンパク質溶液を滴下した場合の測定値の変化を示している。
【0031】
図4(a)に示すように、実線で示すセンサ1からの信号(測定部10で測定した電流値)yは、既知の濃度のタンパク質溶液を滴下する前の時間でも電流値が非直線的に変化しており、変動成分(ドリフト成分)が重畳している。時間tのタイミングで既知の濃度のタンパク質溶液を滴下すると、破線で示すタンパク質溶液の濃度(検出対象濃度)cの変化に合わせて、センサ1からの信号yも変化する。
【0032】
演算部30は、ステップS12で上記の状態空間モデルを用いで解析を行うことで、
図4(b)に示すように、センサ1からの信号yをセンサ1の変動成分(ドリフト成分)xと、センサ1の応答成分(応答モデル)qとに分離できる。状態空間モデルを用いた解析では、センサ1の変動成分xおよびセンサ1の応答成分qを点推定ではなく分布推定を行うことが可能であるが、
図4(b)では、分布推定したセンサ1の変動成分xおよびセンサ1の応答成分qのそれぞれの平均値が図示してある。状態空間モデルを用いてセンサ1の変動成分を解析することで、センサ1の変動成分についての関数があらかじめ分かっていなくても、センサ1の応答成分qと分離して、定量的に把握することができる。
【0033】
図4では、1種類の既知の濃度のタンパク質溶液をセンサ1に対して滴下する場合の測定値の変化を示した。次に、2種類以上の既知の濃度のタンパク質溶液をセンサ1に対して間欠的に滴下する場合の測定値の変化について説明する。
図5は、本実施の形態1に係る学習フェーズの測定値の変化を示す別のグラフである。
【0034】
図5(a)では、センサ1からの信号(測定部10で測定した電流値)yと、タンパク質溶液の濃度(検出対象濃度)cとの変化を示し、yの縦軸は測定値、cの縦軸は検出対象濃度、横軸は時間をそれぞれ示している。
図5(b)では、センサ1からの信号(測定部10で測定した電流値)yと、センサ1の変動成分(ドリフト成分)xと、センサ1の応答成分(応答モデル)qとの変化を示し、縦軸は測定値、横軸は時間をそれぞれ示している。
【0035】
図5では、時間t
1のタイミングで、緩衝液1bに、1種類目の既知の濃度のタンパク質溶液を滴下し、時間t
2のタイミングで、緩衝液1bに、2種類目の既知の濃度のタンパク質溶液を滴下した場合の測定値の変化を示している。
【0036】
図5(a)に示すように、実線で示すセンサ1からの信号(測定部10で測定した電流値)yは、既知の濃度のタンパク質溶液を滴下する前の時間でも電流値が非直線的に変化しており、変動成分(ドリフト成分)が重畳している。時間t
1のタイミングで1種類目の既知の濃度のタンパク質溶液を滴下すると、破線で示すタンパク質溶液の濃度(検出対象濃度)cの変化に合わせて、センサ1からの信号yも変化する。時間t
2のタイミングで2種類目の既知の濃度のタンパク質溶液を滴下すると、さらに破線で示すタンパク質溶液の濃度(検出対象濃度)cの変化に合わせて、センサ1からの信号yも階段状に変化する。
【0037】
演算部30は、2種類以上の既知の濃度のタンパク質溶液をセンサ1に対して間欠的に滴下しても、ステップS12で上記の状態空間モデルを用いで解析を行うことで、
図5(b)に示すように、センサ1からの信号yをセンサ1の変動成分(ドリフト成分)xと、センサ1の応答成分(応答モデル)qとに分離できる。
図5(b)では、分布推定したセンサ1の変動成分xおよびセンサ1の応答成分qのそれぞれの平均値が図示してある。
【0038】
さらに、演算部30は、シミュレーション部32およびパラメータ決定部33においてMCMC法を用いて応答モデルq
tのパラメータa,bを推定する。
図6は、本実施の形態1に係る学習フェーズで推定した応答モデルq
tのパラメータa,bを示す図である。
図6(a)には、推定した応答モデルq
tのパラメータaの分布を示し、
図6(b)には、推定した応答モデルq
tのパラメータbの分布を示す。応答モデルq
tのパラメータa,bを推定することで、センサ1の応答成分(応答モデル)qだけでなく、センサ1の特性も評価することができる。
図6(a)および
図6(b)では、横軸をパラメータの値、縦軸を頻度としている。
【0039】
次に、演算部30の演算フェーズのうち、予測フェーズ(第2演算フェーズ)について説明する。予測フェーズは、学習フェーズで決定した応答モデルqtのパラメータa,bの結果を利用して、未知のタンパク質溶液の濃度を予測する演算フェーズである。具体的に、予測フェーズでは、未知の濃度のタンパク質溶液をセンサ1に滴下して、センサ1からの信号に基づいてタンパク質溶液の濃度を求める。
【0040】
図7は、本実施の形態1に係る予測フェーズのフローチャートである。まず、演算部30は、測定部10からセンサ1で測定した測定値(電流値)を取得する(ステップS20)。次に、演算部30は、未知のタンパク質溶液をセンサ1に滴下したタイミング(検出タイミング)を制御部20から取得する(ステップS21)。なお、ステップS21において、演算部30は、制御部20から未知のタンパク質溶液をセンサ1に滴下したタイミングを取得するのではなく、使用者が入力した滴下のタイミングを受付けてもよい。
【0041】
演算部30は、上記の状態空間モデルに学習フェーズで決定した応答モデルqtのパラメータa,bの結果を用いた解析を、状態空間モデル解析部31で行う(ステップS22)。学習フェーズで決定した応答モデルqtのパラメータa,bの結果を状態空間モデルに用いる方法は、平均値や中央値のような代表点を用いても、正規分布などの分布のパラメータに置換えて用いてもよい。さらに、演算部30は、応答モデルqtのパラメータa,bを推定する際に使用したデータの全てを状態空間モデルに用いて解析してもよい。さらに、演算部30は、応答モデルqtからタンパク質溶液の濃度(検出対象濃度)cを算出する(ステップS23)。
【0042】
次に、予測フェーズの具体例を説明する。
図8は、本実施の形態1に係る予測フェーズの測定値の変化を示すグラフである。
図8(a)では、センサ1からの信号(測定部10で測定した電流値)yの変化を示し、縦軸は測定値、横軸は時間をそれぞれ示している。
図8(b)では、センサ1からの信号(測定部10で測定した電流値)yと、センサ1の変動成分(ドリフト成分)xと、センサ1の応答成分(応答モデル)qとの変化を示し、縦軸は測定値、横軸は時間をそれぞれ示している。
【0043】
図8に示す測定値は、例えばグラフェンFETのセンサ1のゲート電極およびドレイン電極のそれぞれに所定の電圧を印加した状態でドレイン電流を連続的にモニタした値である。そして、
図8では、時間tのタイミングで、緩衝液1bに、未知の濃度のタンパク質溶液を滴下した場合の測定値の変化を示している。
【0044】
図8(a)に示すように、実線で示すセンサ1からの信号(測定部10で測定した電流値)yは、未知の濃度のタンパク質溶液を滴下する前の時間でも電流値が非直線的に変化しており、変動成分(ドリフト成分)が重畳している。時間tのタイミングで未知の濃度のタンパク質溶液を滴下すると、センサ1からの信号yの測定値が急激に上昇する。
【0045】
演算部30は、ステップS22で上記の状態空間モデルに学習フェーズで決定した応答モデルq
tのパラメータa,bの結果を用いで解析を行うことで、
図8(b)に示すように、センサ1からの信号yをセンサ1の変動成分(ドリフト成分)xと、センサ1の応答成分(応答モデル)qとに分離できる。状態空間モデルを用いた解析では、センサ1の変動成分xおよびセンサ1の応答成分qを点推定ではなく分布推定を行うことが可能であるが、
図8(b)では、分布推定したセンサ1の変動成分xおよびセンサ1の応答成分qのそれぞれの平均値が図示してある。状態空間モデルを用いてセンサ1の変動成分を解析することで、センサ1の変動成分についての関数があらかじめ分かっていなくても、センサ1の応答成分qと分離して、定量的に把握することができる。
【0046】
さらに、演算部30は、シミュレーション部32においてMCMC法を用いて応答モデルq
tからタンパク質溶液の濃度(検出対象濃度)cを求める。
図9は、本実施の形態1に係る予測フェーズで算出したタンパク質溶液の濃度(検出対象濃度)cを示す図である。
図9には、算出したタンパク質溶液の濃度(検出対象濃度)cの分布を示す。タンパク質溶液の濃度(検出対象濃度)cを算出することができることで、未知のタンパク質溶液を評価することができる。
図9では、横軸をタンパク質溶液の濃度の値、縦軸を頻度としている。
【0047】
図4~
図6および
図8~
図9で解析した状態空間モデルは、状態方程式をx
t=Gx
t-1+w
t、観測方程式をy
t=Fx
t+q
t+v
tとし、応答モデルq
tのみ非線形関数で、他の項は線形またはガウス分布であるとした。ここで、Gは、例えば2行2列の行列で、Fは、例えば1行2列の行列である。それぞれの行列の各要素は定数となっている。しかし、状態空間モデルは、これに限定されず状態方程式および観測方程式において応答モデルq
t以外に非線形関数を含んでいてもよい。
【0048】
上記の制御部20および演算部30は、例えば、コンピュータ300により実現することができる。
図10は、本実施の形態1に係るコンピュータ300の構成を説明するためのブロック図である。コンピュータ300は、オペレーティングシステム(OS:Operating System)を含む各種プログラムを実行するCPU301と、CPU301でのプログラムの実行に必要なデータを一時的に記憶するメモリ部312と、CPU301で実行されるプログラムを不揮発的に記憶するハードディスク部(HDD:Hard Disk Drive)310とを含む。また、ハードディスク部310には、学習フェーズ、予測フェーズにおいて状態空間モデルの解析を実現するためのプログラムなどが予め記憶されており、このようなプログラムは、CD-ROMドライブ314などによって、それぞれCD-ROM(Compact Disk-Read Only Memory)314aなどの記憶媒体から読み取られる。
【0049】
CPU301は、キーボードやマウスなどからなる入力部308を介してユーザなどからの指示を受取るとともに、プログラムの実行によって分析される分析結果などを、ディスプレイ部304へ出力する。各部は、バス302を介して互いに接続される。また、インターフェイス部306は、測定部10や滴下装置2などの外部装置と接続するため接続部である。なお、コンピュータ300と外部装置との接続は、有線で接続されても無線で接続されてもよい。
【0050】
以上のように、本実施の形態に係る検出装置100は、センサ1に基づいて対象を検出する検出装置であって、センサ1からの信号を測定する測定部10と、測定部10で測定した信号をセンサ1の変動成分と応答成分とに分離する演算部30と、を備える。演算部30は、センサ1の変動成分の時系列情報により規定された状態方程式と、センサ1の変動成分とセンサ1の応答成分とが分離されて規定される観測方程式とを含む状態空間モデルを用いて解析を行う状態空間モデル解析部31と、状態空間モデル解析部31で用いる状態空間モデルに含まれるパラメータを決定するパラメータ決定部33と、を含み、パラメータ決定部33で決定したパラメータ(応答モデルqtのパラメータa,b)を用いて、応答成分に対応する対象を求める。
【0051】
これにより、本実施の形態に係る検出装置100は、演算部30が、センサ1の変動成分の時系列情報により規定された状態方程式と、センサ1の変動成分とセンサ1の応答成分とが分離されて規定される観測方程式とを含む状態空間モデルを用いて解析を行うので、別途ハードウェアを追加することなく、対象が定常状態となるまで待つこともなく、対象(例えば、タンパク質溶液の濃度c)を精度よく検出することができる。
【0052】
本実施の形態に係る検出装置100は、状態空間モデルでセンサ1の変動成分とセンサ1の応答成分とを分けてモデル化し、厳密に定式化できないセンサ1の変動成分を時系列情報により規定された状態方程式とすることで、非線形関数の複雑な応答モデルで表されるセンサ1の特性を推定することができる。
【0053】
本実施の形態に係る検出装置100では、センサ1からの信号を一般的な状態空間モデルとして扱うため、カルマンフィルタなどのように前もって決める必要のあった観測ノイズやシステムノイズの分布のパラメータを応答モデルqtのパラメータa,bと一括して解析することができる。その結果、応答モデルqtのパラメータa,bの推定精度が向上する。本実施の形態に係る検出装置100は、状態空間モデルというベイズ推定の枠組みを採用しているので、AIC,BIC,WAIC,WBICなどの情報量基準を用いた適切なモデルを選択できる。さらに、本実施の形態に係る検出装置100では、あらかじめ考えうる状態空間モデルを複数提案しておき、それぞれに時系列情報を当てはめて情報量基準の比較を行い、最も適切な状態空間モデルを選んでもよい。
【0054】
本実施の形態に係る検出装置100では、演算部30での演算フェーズを制御する制御部20をさらに備えてもよい。制御部20において演算部30での演算フェーズを学習フェーズ(第1演算フェーズ)に制御した場合、パラメータ決定部33は、既知の対象と、当該既知の対象から得られる応答情報とを状態空間モデルに適用して、対象と応答成分との関係を表す応答モデルqtのパラメータa,bを決定する。制御部20において演算部30での演算フェーズを予測フェーズ(第2演算フェーズ)に制御した場合、状態空間モデル解析部31は、測定部10で測定した信号をセンサ1の変動成分と応答成分とに分離し、学習フェーズで決定した応答モデルqtのパラメータa,bを用いて、応答成分に対応する対象(例えば、タンパク質溶液の濃度c)を求める。これにより、本実施の形態に係る検出装置100では、演算フェーズに応じて応答モデルqtのパラメータa,bを決定と、タンパク質溶液の濃度(検出対象濃度)cと切替えて演算することができる。
【0055】
観測方程式は、センサ1の応答成分が非線形の応答モデルqtでもよい。これにより、本実施の形態に係る検出装置100では、対象と応答成分との関係を応答モデルqtで最適に表すことができる。
【0056】
演算部30は、シミュレーションにより状態空間モデルの数値計算を行うシミュレーション部32をさらに備えてもよい。シミュレーション部32は、学習フェーズ(第1演算フェーズ)において応答モデルqtのパラメータa,bをシミュレーションにより算出し、予測フェーズ(第2演算フェーズ)において応答モデルqtから応答成分に対応する対象(例えば、タンパク質溶液の濃度c)をシミュレーションにより求める。これにより、本実施の形態に係る検出装置100では、非線形の応答モデルqtでもパラメータa,bを推定し、対象を求めることができる。なお、シミュレーション部32は、マルコフ連鎖モンテカルロ法を用いて状態空間モデルの数値計算を行ってもよい。
【0057】
本実施の形態に係る検出装置100の検出方法では、制御部20において演算部30での演算フェーズを学習フェーズ(第1演算フェーズ)に制御した場合、パラメータ決定部33は、既知の対象と、当該既知の対象から得られる応答情報とを状態空間モデルに適用して、対象と応答成分との関係を表す応答モデルqtのパラメータa,bを決定するステップ(ステップS10~S13)を有している。また、本実施の形態に係る検出装置100の検出方法では、制御部20において演算部30での演算フェーズを予測フェーズ(第2演算フェーズ)に制御した場合、状態空間モデル解析部31は、測定部10で測定した信号をセンサ1の変動成分と応答成分とに分離し、学習フェーズで決定した応答モデルqtのパラメータa,bを用いて、応答成分に対応する対象(例えば、タンパク質溶液の濃度c)を求めるステップ(ステップS20~S23)を有している。
【0058】
これにより、本実施の形態に係る検出装置100の検出方法は、演算部30が、センサ1の変動成分の時系列情報により規定された状態方程式と、センサ1の変動成分とセンサ1の応答成分とが分離されて規定される観測方程式とを含む状態空間モデルを用いて解析を行うので、別途ハードウェアを追加することなく、対象が定常状態となるまで待つこともなく、対象(例えば、タンパク質溶液の濃度c)を精度よく検出することができる。
【0059】
本実施の形態に係る検出装置100の演算部30で実行するプログラムでは、制御部20において演算部30での演算フェーズを学習フェーズ(第1演算フェーズ)に制御した場合、パラメータ決定部33は、既知の対象と、当該既知の対象から得られる応答情報とを状態空間モデルに適用して、対象と応答成分との関係を表す応答モデルqtのパラメータa,bを決定するステップ(ステップS10~S13)を実行する。また、本実施の形態に係る検出装置100の演算部30で実行するプログラムでは、制御部20において演算部30での演算フェーズを予測フェーズ(第2演算フェーズ)に制御した場合、状態空間モデル解析部31は、測定部10で測定した信号をセンサ1の変動成分と応答成分とに分離し、学習フェーズで決定した応答モデルqtのパラメータa,bを用いて、応答成分に対応する対象(例えば、タンパク質溶液の濃度c)を求めるステップ(ステップS20~S23)を実行する。
【0060】
これにより、本実施の形態に係る検出装置100の演算部30で実行するプログラムは、演算部30が、センサ1の変動成分の時系列情報により規定された状態方程式と、センサ1の変動成分とセンサ1の応答成分とが分離されて規定される観測方程式とを含む状態空間モデルを用いて解析を行うので、別途ハードウェアを追加することなく、対象が定常状態となるまで待つこともなく、対象(例えば、タンパク質溶液の濃度c)を精度よく検出することができる。
【0061】
(実施の形態2)
実施の形態1では、
図1に示すように1つのセンサ1が測定部10に接続された検出装置100について説明した。本実施の形態2では、測定部に複数のセンサが接続された検出装置について説明する。
図11は、本実施の形態2に係る検出装置200の構成を説明するための概略図である。なお、
図11に示す検出装置200のうち、
図1に示す検出装置100と同じ構成については同じ符号を付して詳しい説明を繰返さない。
【0062】
図11に示す検出装置200では、センサ1が複数のセンサ素子を含むアレイセンサである。アレイセンサでは、1つのセンサ素子が
図1に示したセンサ1に対応し、各々のセンサ素子をセンサ1(i)(i=1~n)と表す。なお、アレイセンサの構成は、マトリクス状にセンサ素子が並んでいる構成に限定されず、独立したセンサを複数並べて構成してもよい。
図11に示すアレイセンサでは、
図1のセンサ1を複数並べた構成として図示してある。
【0063】
図11に示すアレイセンサは、
図1のセンサ1を複数並べた構成であるため、各々のセンサ1に対して滴下装置2が設けられた構成である。しかし、滴下装置2は、各々のセンサ1に対して滴下装置2が設けるのではなく、複数のセンサ1に対して滴下装置2を1つ設ける構成でもよい。
【0064】
アレイセンサを構成するセンサ1(i)は、それぞれ測定部10に接続されている。各々のセンサ1(i)からの信号は、演算部30で、各々のセンサ1(i)に対応する状態空間モデルで解析が行われる。演算部30は、各々のセンサ1(i)(各々のセンサ素子)で測定した信号を、実施の形態1で説明したようにセンサ1の変動成分と応答成分とにそれぞれ分離する演算を行う。なお、状態空間モデルは、各々のセンサ1(i)を関連づけた一つの状態空間モデルとして解析してもよいし、一つずつ独立して解析してもよい。
【0065】
次に、演算部30の演算フェーズのうち、学習フェーズ(第1演算フェーズ)について説明する。学習フェーズは、各々のセンサ1(i)の応答モデルqtのパラメータa,bを決定する演算フェーズである。具体的に、学習フェーズでは、既知の濃度のタンパク質溶液を各々のセンサ1(i)に滴下して、各々のセンサ1(i)からの信号に基づいて応答モデルqtのパラメータa,bを各々のセンサ1(i)ごとに決定する。
【0066】
図12は、本実施の形態2に係る学習フェーズのフローチャートである。なお、
図12に示すフローチャートは、各々のセンサ1(i)を独立して解析する場合として図示してある。まず、演算部30は、演算を行うセンサ1(i)を特定する(ステップS30)。次に、演算部30は、測定部10からセンサ1(i)で測定した測定値(電流値)を取得する(ステップS31)。次に、演算部30は、既知のタンパク質溶液の濃度(検出対象濃度)を制御部20から取得する(ステップS32)。なお、ステップS32において、演算部30は、制御部20から既知のタンパク質溶液の濃度を取得するのではなく、使用者が入力した既知のタンパク質溶液の濃度を受付けてもよい。
【0067】
演算部30は、実施の形態1で説明した状態空間モデルを用いた解析を状態空間モデル解析部31で行う(ステップS33)。さらに、演算部30は、シミュレーション部32で、実施の形態1で説明した状態空間モデルに対してシミュレーションによる数値計算を行い、センサ1(i)の応答モデルqtのパラメータa,bを決定する(ステップS34)。
【0068】
次に、演算部30は、演算を行うセンサ1(i)をセンサ1(i=i+1)に切り替え、切り替えたセンサの番号(i=i+1)がnより大きい番号か否かを判断する(ステップS35)。センサ1の番号が(i=i+1)>nでない場合(ステップS35でNO)、演算部30は、切り替えたセンサ1(i=i+1)からの信号に対してステップS31~S34までの演算を行う。センサ1の番号が(i=i+1)>nである場合(ステップS35でYES)、演算部30は、センサ1(1)~センサ1(n)までの全てのセンサに対して演算を行ったとして処理を終了する。なお、各々のセンサ1(i)の演算は、実施の形態1で説明したセンサ1の演算と同じになるため、詳細な説明は繰り返さない。
【0069】
次に、演算部30の演算フェーズのうち、予測フェーズ(第2演算フェーズ)について説明する。予測フェーズは、学習フェーズで決定した各々のセンサ1(i)の応答モデルqtのパラメータa,bの結果を利用して、未知のタンパク質溶液の濃度を予測する演算フェーズである。具体的に、予測フェーズでは、未知の濃度のタンパク質溶液を各々のセンサ1(i)のセンサ1に滴下して、各々のセンサ1(i)のからの信号に基づいてタンパク質溶液の濃度を求める。なお、各々のセンサ1(i)に異なるタンパク質溶液を滴下することで、一度の検出処理で多くのタンパク質溶液の濃度を検出することが可能となる。
【0070】
図13は、本実施の形態2に係る予測フェーズのフローチャートである。まず、演算部30は、演算を行うセンサ1(i)を特定する(ステップS40)。次に、演算部30は、測定部10からセンサ1(i)で測定した測定値(電流値)を取得する(ステップS41)。次に、演算部30は、未知のタンパク質溶液をセンサ1(i)に滴下したタイミング(検出タイミング)を制御部20から取得する(ステップS42)。なお、ステップS42において、演算部30は、制御部20から未知のタンパク質溶液をセンサ1(i)に滴下したタイミングを取得するのではなく、使用者が入力した滴下のタイミングを受付けてもよい。
【0071】
演算部30は、実施の形態1で説明した状態空間モデルに、学習フェーズで決定したセンサ1(i)の応答モデルqtのパラメータa,bの結果を用いた解析を、状態空間モデル解析部31で行う(ステップS43)。学習フェーズで決定したセンサ1(i)の応答モデルqtのパラメータa,bの結果を状態空間モデルに用いる方法は、平均値や中央値のような代表点を用いても、正規分布などの分布のパラメータに置換えて用いてもよい。さらに、演算部30は、センサ1(i)の応答モデルqtのパラメータa,bを推定する際に使用したデータの全てを状態空間モデルに用いて解析してもよい。さらに、演算部30は、センサ1(i)の応答モデルqtからタンパク質溶液の濃度(検出対象濃度)cを算出する(ステップS44)。
【0072】
次に、演算部30は、演算を行うセンサ1(i)をセンサ1(i=i+1)に切り替え、切り替えたセンサの番号(i=i+1)がnより大きい番号か否かを判断する(ステップS45)。センサ1の番号が(i=i+1)>nでない場合(ステップS45でNO)、演算部30は、切り替えたセンサ1(i=i+1)からの信号に対してステップS41~S44までの演算を行う。センサ1の番号が(i=i+1)>nである場合(ステップS45でYES)、演算部30は、センサ1(1)~センサ1(n)までの全てのセンサに対して演算を行ったとして処理を終了する。
【0073】
なお、各々のセンサ1(i)の演算は、実施の形態1で説明したセンサ1の演算と同じになるため、詳細な説明は繰り返さない。状態空間モデル解析部31は、各々のセンサ1(i)(各々のセンサ素子)の応答モデルqtのパラメータa,bに異なる事前分布を与えてもよい。例えば、センサ1(i)の位置によって応答モデルqtのパラメータa,bの値に傾向があれば、その傾向を反映した事前分布を状態空間モデル解析部31に与えて、学習フェーズ(第1演算フェーズ)の演算を行ってもよい。状態空間モデル解析部31に与える事前分布は、センサ1(i)ごとにあらかじめ決めてもよいし、または階層ベイズモデルを導入して、センサ1(i)ごとに推定してもよい。
【0074】
検出装置200は、各々のセンサ1(i)に異なる種類のタンパク質溶液を滴下して、各々のセンサ1(i)で独立してタンパク質溶液の濃度(検出対象濃度)cを求めてもよい。また、検出装置200は、各々のセンサ1(i)に同じタンパク質溶液を滴下して、各々のセンサ1(i)で一つのタンパク質溶液の濃度(検出対象濃度)cを求めてもよい。その場合、検出装置200は、各々のセンサ1(i)で独立してタンパク質溶液の濃度(検出対象濃度)cを求め、その平均値を算出してもよい。また、検出装置200は、各々のセンサ1(i)を関連づけた一つの状態空間モデルで解析し、各々のセンサ1(i)で一つのタンパク質溶液の濃度(検出対象濃度)cを求めてもよい。
【0075】
本実施の形態2に係る検出装置200では、複数のセンサ1(i)を用いてタンパク質溶液の濃度を検出することができるので、パラメータ決定部33で、各々のセンサ1(i)に対して学習フェーズ(第1演算フェーズ)で決定した応答モデルq
tのパラメータa,bが所定基準内か否かを判定し、状態空間モデル解析部31で、所定基準外のパラメータのセンサ1(i)に対して予測フェーズ(第2演算フェーズ)の演算を行わないようにしてもよい。なお、所定基準は、あらかじめ決めておく必要がある。所定基準内か否かを判定する方法には、例えば
図6で分布として推定した応答モデルq
tのパラメータa,bの代表値(例えば、平均値、中央値、分散など)を、あらかじめ準備した分布に代入し、その尤度(対数尤度でもよい)が所定基準内か否かで判定する方法がある。また、所定基準内か否かを判定する方法は、KL情報量などの指標を使ったパラメータの分布と、あらかじめ準備した分布との類似度(例えば、KL情報量の逆数)を求め、当該類似度が所定基準内か否かを判定する方法などでもよい。
【0076】
以上のように、本実施の形態2に係る検出装置200は、センサ1が、複数のセンサ素子を含むアレイセンサである。演算部30は、各々のセンサ1(i)(各々のセンサ素子)で測定した信号をセンサ1(i)の変動成分と応答成分とにそれぞれ分離する演算を行う。
【0077】
これにより、本実施の形態に係る検出装置200は、各々のセンサ1(i)で応答モデルqtのパラメータa,bを決定し、当該パラメータa,bを用いて対象を求めるので、センサ素子の特性のばらつきに依存せずに、対象を精度よく検出することができる。
【0078】
状態空間モデル解析部31は、各々のセンサ1(i)(各々のセンサ素子)の応答モデルqtのパラメータa,bに異なる事前分布を与えてもよい。これにより、検出装置200は、各々のセンサ1(i)に個体差を反映させて、画一的でない柔軟なパラメータ推定が可能となる。
【0079】
パラメータ決定部33は、各々のセンサ1(i)に対して学習フェーズ(第1演算フェーズ)で決定した応答モデルqtのパラメータa,bが所定基準内か否かを判定してもよく、状態空間モデル解析部31は、所定基準外のパラメータのセンサ1(i)に対して予測フェーズ(第2演算フェーズ)の演算を行わないようにしてもよい。これにより、検出装置200は、対象の検出に利用できないセンサ1(i)の結果を除くことができるので、対象を精度よく検出することができる。
【0080】
(その他の変形例)
(1)前述の実施の形態おいて、検出装置100,200が学習フェーズ(第1演算フェーズ)で応答モデルqtのパラメータa,bを決定し、予測フェーズ(第2演算フェーズ)で決定した応答モデルqtのパラメータa,bを用いて対象(例えば、タンパク質溶液の濃度c)を求めると説明した。しかし、検出装置100,200は、検出処理を行う度に学習フェーズ(第1演算フェーズ)と予測フェーズ(第2演算フェーズ)とを行ってもよいが、1回の学習フェーズ(第1演算フェーズ)を行った後に、複数回予測フェーズ(第2演算フェーズ)を行ってもよい。例えば、検出装置100,200は、起動時に学習フェーズ(第1演算フェーズ)を1回行い、その後、予測フェーズ(第2演算フェーズ)のみ行い対象(例えば、タンパク質溶液の濃度c)を求めてもよい。また、学習フェーズ(第1演算フェーズ)と予測フェーズ(第2演算フェーズ)とで、異なる検出装置を用いてもよい。
【0081】
(2)本実施の形態2に係る検出装置200では、各々のセンサ1(i)で異なる種類のタンパク質溶液の濃度を検出し、基準の濃度内か否かを各々のセンサ1(i)で個別に判定するようにしてもよい。例えば、検出装置200を癌マーカの検出に用いる場合、多数の検体から基準の濃度以上の癌マーカを含む検体を自動的に判定することができる。
【0082】
(3)本実施の形態2に係る検出装置200では、状態空間モデルにおいて、センサ1(i)(各々のセンサ素子)ごとに異なる応答モデルqtを設定してもよい。これにより、検出装置200は、各々のセンサ1(i)の特性に応じた状態空間モデルの解析を行うことができる。
【0083】
(4)上記説明した各種処理は、コンピュータ300のCPU301によって実現されるものとしてあるが、これに限られない。これらの各種機能は、少なくとも1つのプロセッサのような半導体集積回路、少なくとも1つの特定用途向け集積回路ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、少なくとも1つのDSP(Digital Signal Processor)、少なくとも1つのFPGA(Field Programmable Gate Array)、および/またはその他の演算機能を有する回路によって実装され得る。
【0084】
これらの回路は、有形の読取可能な少なくとも1つの媒体から、1以上の命令を読み出すことにより上記の各種処理を実行しうる。
【0085】
このような媒体は、磁気媒体(たとえば、ハードディスク)、光学媒体(例えば、コンパクトディスク(CD)、DVD)、揮発性メモリ、不揮発性メモリの任意のタイプのメモリなどの形態をとるが、これらの形態に限定されるものではない。
【0086】
揮発性メモリはDRAM(Dynamic Random Access Memory)およびSRAM(Static Random Access Memory)を含み得る。不揮発性メモリは、ROM、NVRAMを含み得る。
【0087】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0088】
1 センサ、1a 筐体、1b 緩衝液、2 滴下装置、10 測定部、20 制御部、30 演算部、31 状態空間モデル解析部、32 シミュレーション部、33 パラメータ決定部、100,200 検出装置。