(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】転造ねじ及び転造ねじの製造方法
(51)【国際特許分類】
B21H 3/02 20060101AFI20221109BHJP
B21H 3/04 20060101ALI20221109BHJP
F16B 35/00 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
B21H3/02
B21H3/04 Z
F16B35/00 Q
(21)【出願番号】P 2021545506
(86)(22)【出願日】2020-09-04
(86)【国際出願番号】 JP2020033566
(87)【国際公開番号】W WO2021049430
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2021-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2019167702
(32)【優先日】2019-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 猛志
【審査官】石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-074509(JP,A)
【文献】特開2009-233705(JP,A)
【文献】特開2005-121216(JP,A)
【文献】特開2005-299706(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21H 3/02
B21H 3/04
F16B 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周部にねじ山とねじ溝とが軸方向に沿って交互に配置されるねじ部と、
前記ねじ部に対して軸方向の両側のうち少なくともいずれかに隣接する円柱部と、を備え、
前記円柱部の軸方向端面には、
前記軸方向に向けて凹む第1凹面と、
前記第1凹面の外周側に位置し且つ前記軸方向に向けて凹む第2凹面と、
前記第1凹面と前記第2凹面との境界部分に位置し、前記第1凹面の底及び前記第2凹面の底よりも突出し、且つ前記軸方向から見て周方向に沿って円弧状に延びる凸部と、が設けられる、
転造ねじ。
【請求項2】
ブランク材を準備する準備工程と、ブランク材を転造ねじに塑性変形させる加工工程とを含む転造ねじの製造方法であって、
前記準備工程で準備されるブランク材は、軸方向の一方側に向かうに従って外径が大きくなる第1外周面を有する第1円錐台部と、前記第1円錐台部に対して前記一方側に隣接して配置され且つ前記一方側に向かうに従って外径が大きくなる第2外周面を有する第2円錐台部と、前記第2円錐台部に対して前記一方側に隣接する第1円柱部と、前記第1円柱部に対して前記一方側に隣接し前記第1円柱部よりも外径が大きい第2円柱部と、を備え、前記第1円錐台部の前記一方側の端の外径は、前記第2円錐台部の前記一方側とは反対の他方側の端の外径と同一であり、前記第2円錐台部の前記一方側の端の外径は、前記第1円柱部の前記他方側の端の外径と同一である柱状のブランク材であって、
前記加工工程では、前記第2円柱部の外周部に、径方向内側に向けて加圧する転造を施してねじ溝を成形することにより、前記第1円錐台部の前記第1外周面と前記第2円錐台部の前記第2外周面とを径方向に沿うように塑性変形させる、
転造ねじの製造方法。
【請求項3】
前記加工工程では、
前記第1外周面は、径方向に延び且つ前記一方側に向けて凹む第1凹面に成形され、
前記第2外周面は、前記第1凹面の外周側に配置されて径方向に延び且つ前記一方側に向けて凹む第2凹面に成形され、
前記第1凹面と前記第2凹面との境界部分に、前記他方側に向けて突出し且つ軸方向から見て周方向に沿って円弧状に延びる凸部が成形される、
請求項2に記載の転造ねじの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、転造ねじ及び転造ねじの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転造ねじの製造方法には、例えば、スルーフィード転造及びインフィード転造がある。スルーフィード転造の適用例として、例えば、特許文献1及び特許文献2に記載がある。スルーフィード転造は、それぞれが回転する一対のダイスの間を長尺状のブランク材が軸方向に移動しながらブランク材の外周部分を加圧する転造方法である。即ち、スルーフィード転造は、繋がった状態の長尺状のブランク材を転造してねじ材とし、その後に転造した長尺状のねじ材を一定長さごとに切断して1本ごとの転造ねじにする方法である。これに対して、インフィード転造は、それぞれに回転する一対のダイスの間に、予め1本のねじの長さに切断したブランク材が位置された状態でブランク材の外周部分を加圧する転造方法である。このように、インフィード転造と比較して、スルーフィード転造では、転造後に切断工程等の後工程を行うと、転造ねじにバリやシャープエッジが生成しやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-233705号公報
【文献】特開2005-74509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インフィード転造において、よりバリの少ない転造ねじ及び転造ねじの製造方法が望まれる。
【0005】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、インフィード転造において、よりバリの少ない転造ねじ及び転造ねじの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本開示の一態様の転造ねじは、外周部にねじ山とねじ溝とが軸方向に沿って交互に配置されるねじ部と、前記ねじ部に対して軸方向の両側のうち少なくともいずれかに隣接する円柱部と、を備え、前記円柱部の軸方向端面には、前記軸方向に向けて凹む第1凹面と、前記第1凹面の外周側に位置し且つ前記軸方向に向けて凹む第2凹面と、前記第1凹面と前記第2凹面との境界部分に位置し、前記第1凹面の底及び前記第2凹面の底よりも突出し、且つ前記軸方向から見て周方向に沿って円弧状に延びる凸部と、が設けられる。
【0007】
転造ねじを製造する際に用いるブランク材の軸方向端部に、円柱部や円錐台部のような軸方向に凸の余肉部分を設けることで、ねじ部の端部壁面が軸方向に倒れてバリとなることが抑制される。転造加工によって、この余肉部分の一部が、第1凹面、第2凹面及び凸部となる。第1凹面及び第2凹面は、径方向に沿って延びるため、円柱部の軸方向端面が平坦状となる。よって、バリの発生を抑制し且つ円柱部の軸方向端面が平坦状となる転造ねじが得られる。
【0008】
本開示の一態様の転造ねじの製造方法は、ブランク材を準備する準備工程と、ブランク材を転造ねじに塑性変形させる加工工程とを含む転造ねじの製造方法であって、前記準備工程で準備されるブランク材は、軸方向の一方側に向かうに従って外径が大きくなる第1外周面を有する第1円錐台部と、前記第1円錐台部に対して前記一方側に隣接して配置され且つ前記一方側に向かうに従って外径が大きくなる第2外周面を有する第2円錐台部と、前記第2円錐台部に対して前記一方側に隣接する第1円柱部と、前記第1円柱部に対して前記一方側に隣接し前記第1円柱部よりも外径が大きい第2円柱部と、を備え、前記第1円錐台部の前記一方側の端の外径は、前記第2円錐台部の前記一方側とは反対の他方側の端の外径と同一であり、前記第2円錐台部の前記一方側の端の外径は、前記第1円柱部の前記他方側の端の外径と同一である柱状のブランク材であって、前記加工工程では、前記第2円柱部の外周部に、径方向内側に向けて加圧する転造を施してねじ溝を成形することにより、前記第1円錐台部の前記第1外周面と前記第2円錐台部の前記第2外周面とを径方向に沿うように塑性変形させる。
【0009】
本開示の準備工程で準備されるブランク材は、第1円錐台部及び第2円錐台部及び第1円柱部のように、軸方向の他方側に凸の余肉部分を設けている。これにより、ねじ部の端部壁面が軸方向に倒れて生じるバリの発生を低減することができる。よって、バフ掛けやバリ取り研削等のバリの除去作業が低減する。また、バリの有無を確認する品質確認作業を減らすことも可能となる。また、インフィード転造を適用すれば、ブランク材の歩留まりが向上するというメリットがある。
【0010】
上記の転造ねじの製造方法の望ましい態様として、前記加工工程では、前記第1外周面は、径方向に延び且つ前記一方側に向けて凹む第1凹面に成形され、前記第2外周面は、前記第1凹面の外周側に配置されて径方向に延び且つ前記一方側に向けて凹む第2凹面に成形され、前記第1凹面と前記第2凹面との境界部分に、前記他方側に向けて突出し且つ軸方向から見て周方向に沿って円弧状に延びる凸部が成形される。
【0011】
前記加工工程では、第1外周面は第1凹面に変形し、第2外周面は第2凹面に変形し、第1凹面と第2凹面とは径方向に沿って延びるように変形する。よって、ねじ部の軸方向端面が径方向に延びて平坦状になる。また、ねじ部の軸方向の端部までねじ溝を設けることができるため、ねじの有効長さをより長く設定することができる。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、インフィード転造において、よりバリの少ない転造ねじ及び転造ねじの製造方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施形態に係る転造ねじを側方から見た側面図である。
【
図3】
図3は、
図2のねじ部における軸方向の他方側の端部を拡大した側面図である。
【
図4】
図4は、
図2のねじ部における軸方向の一方側の端部を拡大した側面図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係る転造ねじのブランク材を示す側面図である。
【
図8】
図8は、ブランク材に転造加工を施している状態を示す模式図である。
【
図9】
図9は、転造ねじに軸受の内輪を圧入した状態を示す模式図である。
【
図10】
図10は、比較例に係る転造ねじのブランク材を示す側面図である。
【
図11】
図11は、比較例に係る転造ねじの側面図であり、バリ取り前の状態を示す図である。
【
図12】
図12は、比較例に係る転造ねじの軸方向の他方側の端部を示す側面図であり、バリ取り後の状態を示す図である。
【
図13】
図13は、比較例に係る転造ねじの軸方向の一方側の端部を示す側面図であり、バリ取り後の状態を示す図である。
【
図14】
図14は、変形例1に係る転造ねじの一部を拡大した模式図である。
【
図15】
図15は、変形例2に係る転造ねじに軸受の内輪を圧入している状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、発明を実施するための形態(以下、実施形態という)につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の実施形態により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0015】
[実施形態]
まず、実施形態に係る転造ねじ1について説明する。
図1は、実施形態に係る転造ねじを側方から見た側面図である。
図2は、
図1を軸方向から見た図である。
図3は、
図2のねじ部における軸方向の他方側の端部を拡大した側面図である。
図4は、
図2のねじ部における軸方向の一方側の端部を拡大した側面図である。
図5は、
図3を拡大した模式図である。なお、軸方向とは、転造ねじ1の軸心Axに沿う方向を示す。径方向とは、軸心Axに直交する方向である。また、軸方向の一方側とは、
図1の右側を示し、軸方向の他方側とは、
図1の左側を示す。
【0016】
図1から
図5に示すように、転造ねじ1は、軸部11と、円柱部2,4と、ねじ部3と、を備える。軸部11は、軸方向に沿って、細径部10と、小径部21と、溝部28と、を備える。細径部10及び小径部21は、円柱状である。小径部21は、細径部10に対して軸方向の一方側(
図1の右側)に隣接する。小径部21は、細径部10よりも外径が大きい。溝部28は、小径部21に対して軸方向の一方側(
図1の右側)に隣接する。溝部28は、径方向内側に凹む円弧状の形状を有する。
【0017】
図1及び
図5に示すように、大径部22(円柱部2)は、溝部28に対して軸方向の一方側(
図1の右側)に隣接する。大径部22は、円柱部2とも称する。大径部22は、小径部21よりも外径が大きい。大径部22は、径方向に広がる軸方向端面23を有する。軸方向端面23は、大径部22の軸方向の他方側(
図1の左側)の端に位置する。軸方向端面23は、第1凹面24と、第2凹面25と、を有する。大径部22の直径は、例えば、ねじ溝32の谷部321に対して+3%から-25%が望ましい。第1凹面24は、大径部22(円柱部2)の軸方向端面23に設けられ且つ軸方向の一方側に向けて凹む。第2凹面25は、大径部22(円柱部2)の軸方向端面23に設けられ且つ軸方向の一方側に向けて凹む。第2凹面25は、第1凹面24の外周側に位置する。
【0018】
ここで、ねじ部3の軸方向中央を第1中央部CL(
図1参照)とすると、第1凹面24は、第1中央部CLに向けて凹む凹面である。第2凹面25は、第1中央部CLに向けて凹む凹面である。また、第1凹面24及び第2凹面25は、軸心Axを中心とする円環状の形状を有する。第1凹面24と第2凹面25との境界部分に凸部26が設けられる。凸部26は、軸方向の他方側(
図1の左側)に向けて突出する。換言すると、凸部26は、第1中央部CLから遠ざかる方向に向けて突出する。また、
図2に示すように、凸部26は、周方向に沿って円環状又は円弧状に延びる。第2凹面25と大径部22の外周面との境界は、第2凹面25の外周端27である。
【0019】
ねじ部3は、外周部にねじ山31とねじ溝32とが軸方向に沿って交互に配置される。ねじ溝32の断面形状は円弧状である。ねじ溝32は、谷部321を有する。谷部321は、ねじ溝32において最も径方向内側に位置する部位である。ねじ部3の軸方向の両端には、端部壁面34及び端部壁面35が設けられる。端部壁面35は、軸方向の一方側の端面であり、端部壁面34は、軸方向の他方側の端面である。端部壁面34には、軸方向の他方側に向けて突出する膨出部33が設けられる。膨出部33における軸方向の他方側の先端は、軸方向端面23よりも軸方向の一方側に位置する。なお、前述した凸部26は、ねじ溝32の谷部321よりも径方向内側の部位に位置する。
【0020】
端部壁面35の軸方向の一方側に隣接して円柱部4が設けられる。円柱部4は、軸心Axを中心として径方向外側に広がる。円柱部4は、軸方向端面41を備える。軸方向端面41には、製品管理用のQRコード(登録商標)やデータをレーザ加工等で刻印してもよい。軸方向端面41は、第1凹面42と、第2凹面43と、を備える。第1凹面42は、円柱部4の軸方向端面41に設けられ且つ軸方向の他方側に向けて凹む。第2凹面43は、円柱部4の軸方向端面41に設けられ且つ軸方向の他方側に向けて凹む。第2凹面43は、第1凹面42の外周側に位置する。換言すると、第1凹面42は、第1中央部CL(
図1参照)に向けて凹む凹面であり、第2凹面43は、第1中央部CLに向けて凹む凹面である。また、第1凹面42及び第2凹面43は、軸心Axを中心とする円環状の形状を有する。第1凹面42と第2凹面43との境界部分に凸部44が設けられる。第2凹面43と円柱部4の外周面との境界は、第2凹面43の外周端45である。
【0021】
次いで、転造ねじの製造方法について説明する。
図6は、実施形態に係る転造ねじのブランク材を示す側面図である。
図7は、
図6の一部を拡大した側面図である。
図8は、ブランク材に転造加工を施している状態を示す模式図である。
【0022】
まず、
図6及び
図7を参照して、転造ねじのブランク材100の形状を説明する。ブランク材100は、軸部101と、第1円錐台部124と、第2円錐台部125と、第1円柱部122と、第2円柱部103と、第3円柱部104と、を備える柱状の形状を有する。ブランク材100における角部は、面取加工を施すことが好ましい。
【0023】
軸部101は、細径部110と、小径部121と、溝部128と、を備える。細径部110及び小径部121は、円柱状である。小径部121は、細径部110に対して軸方向の一方側(
図6の右側)に隣接する。小径部121は、細径部110よりも外径が大きい。溝部128は、小径部121に対して軸方向の一方側(
図6の右側)に隣接する。溝部128は、径方向内側に凹む円弧状の形状を有する。
【0024】
図7に示すように、第1円錐台部124は、第1外周面111を有する。第1外周面111は、軸方向の一方側(
図7の右側)に向かうに従って外径が大きくなるテーパ状の形状を有する。ここで、
図7に示すように、軸心Axに直交する径方向線20(二点鎖線で示す)に対して、第1外周面111は第1傾斜角θ0だけ傾いている。即ち、第1外周面111は径方向線20から軸方向の一方側に向けて第1傾斜角θ0だけ傾いている。第1傾斜角θ0は、例えば、0度よりも大きく且つ5度以下が好ましい。第2円錐台部125は、第2外周面112を有する。第2円錐台部125は、第1円錐台部124に対して前記一方側に隣接して配置される。また、第2外周面112は、前記一方側に向かうに従って外径が大きくなるテーパ状の形状を有する。径方向線20に対して、第2外周面112は第2傾斜角θ1だけ傾いている。即ち、第2外周面112は径方向線20から軸方向の一方側に向けて第2傾斜角θ1だけ傾いている。第2傾斜角θ1は、第1傾斜角θ0よりも大きい。第2傾斜角θ1は、例えば、ねじリード角の100%から300%の範囲の角度が好ましい。第1外周面111と第2外周面112との境界には、境界部126が設けられる。換言すると、第1外周面111と第2外周面112との交差部分が境界部126である。
【0025】
第2外周面112の前記一方側には、第1円柱部122が隣接している。第1円柱部122は、小径部121よりも外径が大きい。第1円柱部122の外周面と第2外周面112との交差部分は、第2外周面112の外周端127である。第1円柱部122の前記一方側には、第2円柱部103が隣接している。第2円柱部103は、第1円柱部122よりも外径が大きい。第2円柱部103における軸方向の他方側の端面は、端部壁面134である。なお、第1円錐台部124の前記一方側の端の外径は、第2円錐台部125の前記他方側の端の外径と同一である。第2円錐台部125の前記一方側の端の外径は、第1円柱部122の前記他方側の端の外径と同一である。
【0026】
次に、転造ねじの製造方法の内容を説明する。
図8に示すように、転造ねじ1は、転造ダイス200を用いて転造する。本実施形態では、インフィード転造とスルーフィード転造のうち、インフィード転造を適用する態様を説明する。転造ダイス200は、第1転造ダイス201と、第2転造ダイス202と、を備える。第1転造ダイス201及び第2転造ダイス202のそれぞれの外周部には、周方向に沿って延びる環状突起部が設けられている。第1転造ダイス201及び第2転造ダイス202は、図示しない駆動源によって回転駆動が可能である。また、第1転造ダイス201及び第2転造ダイス202は、互いに近づいたり離れたりする移動が可能である。第1転造ダイス201の回転軸と第2転造ダイス202の回転軸とは、平行に配置される。
【0027】
まず、製造方法の第1ステップは、ブランク材100を準備する準備工程である。ブランク材100は、前述したように、軸部101と、第1円錐台部124と、第2円錐台部125と、第1円柱部122と、第2円柱部103と、第3円柱部104と、を備える柱状の形状を有する。
【0028】
次に、製造方法の第2ステップは、ブランク材100を転造ねじ1に塑性変形させる加工工程である。具体的には、第1転造ダイス201と第2転造ダイス202との間にブランク材100を配置する。第1転造ダイス201と第2転造ダイス202とは、互いにブランク材100の第2円柱部103の直径よりも離隔された状態である。よって、第1転造ダイス201及び第2転造ダイス202の回転軸と平行な状態で、第1転造ダイス201と第2転造ダイス202との間に、ブランク材100を配置する。そして、第1転造ダイス201と第2転造ダイス202とを回転させながら、互いに近づける。これにより、第1転造ダイス201と第2転造ダイス202とで挟み込みながら、ブランク材100の第2円柱部103を径方向内側に向けて加圧する成形を行う。ここで、
図8に示すように、第1転造ダイス201による加圧力はF1であり、第2転造ダイス202による加圧力はF2である。加圧力F1と加圧力F2とは、同一の大きさである。ねじ部3(第2円柱部103)の全体で加圧力F1及びF2を受けたのち、加圧力F1及びF2は、軸方向の両側(
図8の左側及び右側の双方)に移動する。また、ブランク材100に加圧力F1と加圧力F2とを加えると、ブランク材100には、応力STが作用する。応力STが作用する範囲は、
図8に示すように、軸方向に延びる横長の楕円の範囲である。応力STは、ねじ部3(第2円柱部103)の軸方向中央部よりも軸方向の両端部(
図8の左側の端部及び右側の端部)の方が大きくなる。また、ねじ部3(第2円柱部103)における
図8の左側の端部よりも更に左側に配置された細径部10及び小径部21(細径部110及び小径部121)に作用する応力STは、ねじ部3(第2円柱部103)の軸方向の端部に作用する応力STよりも小さい。
【0029】
この第2ステップによって、第2円柱部103にねじ山31とねじ溝32(
図5参照)とが成形される。また、
図7に示す第1円錐台部124の第1外周面111は、径方向に近づくように変形する。即ち、
図7の第1傾斜角θ0が徐々に小さくなり、第1外周面111が
図7において反時計回り方向に移動するように塑性変形する。
図7に示す第2円錐台部125の第2外周面112は、径方向に近づくように塑性変形する。即ち、
図7の第2傾斜角θ1が徐々に小さくなり、第2外周面112が
図7において反時計回り方向に移動するように塑性変形する。これにより、
図7に示すブランク材100の第1外周面111は
図5の第1凹面24となり、
図7の第2外周面112は
図5の第2凹面25となる。
【0030】
また、ブランク材100の境界部126は凸部26となる。また、第2円柱部103を径方向内側に加圧することにより、
図5に示す膨出部33が成形される。なお、図示は省略するが、
図5に示す円柱部4の成形においても、ブランク材100に外周面の傾斜角度が異なる2つの円錐台部を設けることで、第1凹面42及び第2凹面43を有する軸方向端面41を成形することができる。このように、第2円柱部103の外周部に、径方向内側に向けて加圧する転造を施してねじ溝32を成形することにより、第1円錐台部124の第1外周面111と第2円錐台部125の第2外周面112とを径方向に沿うように塑性変形させることができる。
【0031】
次に、転造ねじ1の活用例の一例を説明する。
図9は、転造ねじに軸受の内輪を圧入した状態を示す模式図である。
【0032】
図9に示すように、軸部11の小径部21は、軸受の内輪300の内周面301に圧入されている。これにより、転造ねじ1の軸方向の一方の端部は、軸受の内輪300で回転可能に支持される。また、内輪300の軸方向端面302は、転造ねじ1の大径部22の軸方向端面23に接触している。
【0033】
[比較例]
次に、比較例を説明する。
図10は、比較例に係る転造ねじのブランク材を示す側面図である。
図11は、比較例に係る転造ねじの側面図であり、バリ取り前の状態を示す図である。
図12は、比較例に係る転造ねじの軸方向の他方側の端部を示す側面図であり、バリ取り後の状態を示す図である。
図13は、比較例に係る転造ねじの軸方向の一方側の端部を示す側面図であり、バリ取り後の状態を示す図である。
【0034】
図10に示す比較例に係るブランク材100Aは、
図6に示す実施形態に係るブランク材100と比較すると、第1円錐台部124、第2円錐台部125、第1円柱部122及び第3円柱部104が設けられていない。従って、
図11に示すように、転造を施した後のねじ中間体1Aは、ねじ部3Aの軸方向端面に軸方向に突出するバリ400,401が成形される。従って、転造の後の工程において、
図12及び
図13に示すように、バリ400,401を除去するために、第2円柱部103の端部壁面を径方向に沿って平面加工する作業が発生する。しかし、端部壁面の平面加工によって、
図12及び
図13に示すように、ねじ山がシャープエッジ402,403,404に成形され、端部壁面にシャープエッジ405が成形される可能性がある。
【0035】
以上説明したように、本実施形態に係る転造ねじ1は、ねじ山31とねじ溝32とを有するねじ部3と、ねじ部3に対して軸方向の両側に設けられる円柱部2,4と、を備える。軸方向端面23,41には、第1凹面24,42と第2凹面25,43と周方向に沿って円弧状に延びる凸部26,44とが設けられる。
【0036】
転造ねじ1を製造する際に用いるブランク材100に、第1円錐台部124及び第2円錐台部125のように、軸方向の他方側に凸の余肉部分を設けることでバリ400の生成を抑制することができる。これにより、バフ掛けやバリ取り研削等の作業を低減させることができる。また、バリの有無を確認する品質確認作業を減らすことも可能となる。また、第1凹面24,42、第2凹面25,43及び凸部26,44は、径方向に沿って配置されるため、円柱部2,4の軸方向端面23,41が平坦状となる。よって、バリの発生を抑制し且つ円柱部2,4の軸方向端面23,41が平坦状となる転造ねじ1が得られる。特に、軸方向端面41に、製品管理用のQRコード(登録商標)やデータをレーザ加工等で刻印する場合は、軸方向端面41の平坦度が高い方が望ましい。なお、第2円柱部103を、軸方向の他方側の先端まで径方向内側に加圧することにより、
図5に示す膨出部33が成形される。このように、ねじ部3の軸方向の先端までねじ溝32を設けることができるため、ねじ部3の有効長さを、より長く設定することができる。また、膨出部33における軸方向の他方側の先端は、軸方向端面23よりも軸方向の一方側に位置する。
【0037】
転造ねじの製造方法は、ブランク材100を用いる。ブランク材100は、第1外周面111を有する第1円錐台部124と、第2外周面112を有する第2円錐台部125と、第1円柱部122と、第2円柱部103と、を備える。第2円柱部103の外周部に、径方向内側に向けて加圧する転造を施してねじ溝32を成形することにより、第1円錐台部124の第1外周面111と第2円錐台部125の第2外周面112とを径方向に沿うように塑性変形させる。
【0038】
比較例で説明したように、比較例に係るブランク材100Aは、実施形態に係るブランク材100に対して、第1円錐台部124、第2円錐台部125、第1円柱部122及び第3円柱部104が設けられていない。このブランク材100Aを用いて転造加工を施すと、
図11に示すバリ400,401が成形されるため、バリ400,401の除去作業が発生する。さらに、バリ400,401の除去を行うために、端部壁面の平面加工を行うと、
図12及び
図13に示すように、ねじ山や端部壁面にシャープエッジ402,403,404,405が成形される可能性がある。
【0039】
これに対して、本実施形態に係るブランク材100は、第1円錐台部124、第2円錐台部125及び第1円柱部122が設けられているため、比較例のようなバリやシャープエッジが成形されにくいというメリットがある。特に、第1円錐台部124及び第2円錐台部125のように、軸方向の他方側に凸の余肉部分を設けることで、
図11に示す比較例のバリ400の生成を抑制することができる。これにより、バフ掛けやバリ取り研削等のバリの除去作業を低減させることができる。また、バリの有無を確認する品質確認作業を減らすことも可能となる。なお、本実施形態では、インフィード転造を適用するため、スルーフィード転造よりも、ブランク材100の歩留まりが向上するというメリットがある。
【0040】
また、
図5に示すように、大径部22(円柱部2)を設けており、膨出部33における軸方向の他方側の先端は、軸方向端面23よりも軸方向の一方側に位置する。従って、転造加工によって径方向内側に向けて加圧力が作用し端部壁面34に膨出部33が成形される場合でも、膨出部33が軸方向端面23よりも軸方向の他方側に突出することがない。このため、
図9で説明したように、内輪300の軸方向端面302が、転造ねじ1の大径部22の軸方向端面23に対してより確実に当接する。
【0041】
第2円柱部103の外周部に、径方向内側に向けて加圧する転造を施してねじ溝32を成形するときに、第1外周面111は、第1凹面24に成形され、第2外周面112は、第2凹面25に成形され、第1凹面24と第2凹面25との境界部分に凸部26が成形される。
【0042】
比較例に係るブランク材100Aを用いる転造加工によると、
図11に示すように、ねじ部3Aの端部壁面が軸方向に倒れてバリ400,401となる可能性がある。しかし、本実施形態に係るブランク材100には、第1円錐台部124及び第2円錐台部125のように、軸方向の他方側に凸の余肉部分を設けている。この余肉部分を設けることで、比較例のように、ねじ部3Aの端部壁面が軸方向に倒れてバリ400,401となることが抑制される。このように、インフィード転造において、比較例に係るブランク材100Aを用いる転造よりも、本実施形態に係るブランク材100を用いる転造の方が、よりバリの発生を抑制することができる。即ち、従来例に係るスルーフィード転造よりも本実施形態に係るインフィード転造の方がバリの生成が少なく、かつ、インフィード転造の中でも、比較例より本実施形態に係るブランク材100を用いた転造の方が、更にバリの生成を低減することができる。
【0043】
[変形例1]
次に、変形例1を説明する。
図14は、変形例1に係る転造ねじの一部を拡大した模式図である。実施形態では、
図7に示すように、軸心Axを含む断面において、溝部128の底面の断面形状は円弧状である。しかし、
図14に示すように変形例に係る溝部28Aの底面の断面形状は、軸心Axに沿った直線状である。即ち、溝部28Aの底面は、軸心Axを中心として周方向に延びる円筒状の形状を有する。また、軸部11の小径部21は、軸受の内輪500の内周面501に圧入されている。これにより、軸受の内輪500の内周面501と溝部28Aの底面との径方向の間隙は、軸方向に沿って同一の大きさとなる。
【0044】
以上説明したように、変形例1に係る溝部28Aの底面の断面形状は、軸心Axに沿った直線状である。このため、転造加工を施す際の加圧力によって、ねじ部3の端部壁面が軸方向に更に倒れにくくなるため、バリ400,401の発生が更に抑制される。よって、軸受の内輪500の軸方向端面502が大径部の軸方向端面23に、より確実に接するようになる。
【0045】
[変形例2]
次に、変形例2を説明する。
図15は、変形例2に係る転造ねじに軸受の内輪を圧入している状態を示す模式図である。変形例2に係る転造ねじ1Bは、実施形態に係る転造ねじ1に対して軸部11Bを更に備える。即ち、転造ねじ1Bは、ねじ部3Bの軸方向の両側に軸部11及び軸部11Bが設けられる。軸部11Bは、軸方向に沿って、細径部10Bと、小径部21Bと、溝部28Bと、を備える。細径部10B及び小径部21Bは、円柱状である。小径部21Bは、細径部10Bに対して軸方向の他方側(
図15の左側)に隣接する。小径部21Bは、細径部10Bよりも外径が大きい。溝部28Bは、小径部21Bに対して軸方向の他方側(
図15の左側)に隣接する。溝部28Bは、径方向内側に凹む円弧状の形状を有する。
図15に示すように、軸部11の小径部21は、軸受の内輪600の内周面601に圧入される。また、軸部11Bの小径部21Bは、軸受の内輪700の内周面701に圧入される。
【0046】
以上説明したように、変形例2に係る転造ねじ1Bでは、ねじ部3Bの軸方向の両側に軸部11及び軸部11Bが設けられる。従って、転造ねじ1Bの軸方向の両端部を軸受で支持することができるため、転造ねじ1Bを回転させる際に転造ねじ1Bの回転ブレを更に抑制することができる。
【符号の説明】
【0047】
2,4 円柱部
3 ねじ部
22 大径部(円柱部)
23,41 軸方向端面
24,42 第1凹面
25,43 第2凹面
26,44 凸部
31 ねじ山
32 ねじ溝
100 ブランク材
103 第2円柱部
111 第1外周面
112 第2外周面
122 第1円柱部
124 第1円錐台部
125 第2円錐台部
321 谷部
CL 第1中央部