(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】セラミックス基複合材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/80 20060101AFI20221109BHJP
C04B 35/84 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
C04B35/80 300
C04B35/84
(21)【出願番号】P 2021552383
(86)(22)【出願日】2020-10-13
(86)【国際出願番号】 JP2020038551
(87)【国際公開番号】W WO2021075411
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2019190326
(32)【優先日】2019-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代構造部材創製・加工技術開発のうち、研究開発項目4-2「軽量耐熱複合材CMC技術開発(高性能材料開発)」委託研究、産業技術力強化法第17条第1項の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】中村 武志
(72)【発明者】
【氏名】平野 洋人
(72)【発明者】
【氏名】小谷 正浩
(72)【発明者】
【氏名】篠原 貴彦
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/037617(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/122593(WO,A1)
【文献】特開平02-296770(JP,A)
【文献】特開2000-007453(JP,A)
【文献】国際公開第2014/199459(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/129591(WO,A1)
【文献】特開平03-109269(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/80
C04B 35/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基複合材料であって、
炭化珪素繊維で形成される繊維体を含む基材と、
前記基材に設けられ、RE
3Al
5O
12と、RE
2Si
2O
7と、を含み、残部がRE,Al及びSiの酸化物またはRE
2SiO
5により構成されるマトリクスと、
を備える、セラミックス基複合材料(但し、REは、YまたはYb)。
【請求項2】
請求項1に記載のセラミックス基複合材料であって、
REは、Ybである、セラミックス基複合材料。
【請求項3】
請求項2に記載のセラミックス基複合材料であって、
前記マトリクスの組成は、SiO
2とYb
2O
3とAl
2O
3との3成分で表したとき、
図2に示すSiO
2-Yb
2O
3-Al
2O
3系の3元系状態図におけるX1点(SiO
2:66.6mol%、Yb
2O
3:33.4mol%、Al
2O
3:0mol%)、X2点(SiO
2:53.5mol%、Yb
2O
3:16.5mol%、Al
2O
3:30.0mol%)、X3点(SiO
2:0mol%、Yb
2O
3:37.5mol%、Al
2O
3:62.5mol%)、X4点(SiO
2:50.0mol%、Yb
2O
3:50.0mol%、Al
2O
3:0mol%)の4点で囲まれた組成範囲で構成されている、セラミックス基複合材料。
【請求項4】
請求項2に記載のセラミックス基複合材料であって、
前記マトリクスは、Yb
3Al
5O
12と、Yb
2Si
2O
7と、を含み、前記マトリクスの残部は、Yb,Al及びSiの酸化物であり、Yb
2Si
2O
7とAl
6Si
2O
13との共晶組成を有している、セラミックス基複合材料。
【請求項5】
請求項4に記載のセラミックス基複合材料であって、
前記マトリクスの組成は、SiO
2とYb
2O
3とAl
2O
3との3成分で表したとき、
図2に示すSiO
2-Yb
2O
3-Al
2O
3系の3元系状態図におけるX1点(SiO
2:66.6mol%、Yb
2O
3:33.4mol%、Al
2O
3:0mol%)、X2点(SiO
2:53.5mol%、Yb
2O
3:16.5mol%、Al
2O
3:30.0mol%)、X3点(SiO
2:0mol%、Yb
2O
3:37.5mol%、Al
2O
3:62.5mol%)の3点で囲まれた組成範囲で構成されている、セラミックス基複合材料。
【請求項6】
請求項2に記載のセラミックス基複合材料であって、
前記マトリクスは、Yb
3Al
5O
12と、Yb
2Si
2O
7と、を含み、前記マトリクスの残部は、Yb
2SiO
5である、セラミックス基複合材料。
【請求項7】
請求項6に記載のセラミックス基複合材料であって、
前記マトリクスの組成は、SiO
2とYb
2O
3とAl
2O
3との3成分で表したとき、
図2に示すSiO
2-Yb
2O
3-Al
2O
3系の3元系状態図におけるX1点(SiO
2:66.6mol%、Yb
2O
3:33.4mol%、Al
2O
3:0mol%)、X3点(SiO
2:0mol%、Yb
2O
3:37.5mol%、Al
2O
3:62.5mol%)、X4点(SiO
2:50.0mol%、Yb
2O
3:50.0mol%、Al
2O
3:0mol%)の3点で囲まれた組成範囲で構成されている、セラミックス基複合材料。
【請求項8】
セラミックス基複合材料の製造方法であって、
炭化珪素繊維で形成される繊維体を含む基材に、SiO
2とRE
2O
3とAl
2O
3との3成分で表したときに少なくとも1成分からなる粉末原料を粉末含浸する粉末含浸工程と、
前記粉末含浸した基材に、RE
2Si
2O
7とAl
6Si
2O
13とを混合した液相原料を、前記液相原料の融点以上で熱処理することにより溶融させて溶融含浸し、マトリクスを、RE
3Al
5O
12と、RE
2Si
2O
7と、を含み、残部がRE,Al及びSiの酸化物またはRE
2SiO
5により構成する溶融含浸工程と、
を備える、セラミックス基複合材料の製造方法(但し、REは、YまたはYb)。
【請求項9】
請求項8に記載のセラミックス基複合材料の製造方法であって、
REは、Ybである、セラミックス基複合材料の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載のセラミックス基複合材料の製造方法であって、
前記粉末含浸工程は、前記粉末原料がYb
2SiO
5粉末である、セラミックス基複合材料の製造方法。
【請求項11】
請求項9または10に記載のセラミックス基複合材料の製造方法であって、
前記溶融含浸工程において、前記液相原料は、Yb
2Si
2O
7とAl
6Si
2O
13との共晶組成で構成されており、前記液相原料の熱処理温度が1500℃以上である、セラミックス基複合材料の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載のセラミックス基複合材料の製造方法であって、
前記溶融含浸工程において、前記液相原料の熱処理温度が1500℃以上1600℃以下である、セラミックス基複合材料の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載のセラミックス基複合材料の製造方法であって、
前記溶融含浸工程において、前記液相原料の熱処理温度が1580℃以上1600℃以下であり、前記粉末含浸した基材と前記液相原料との接触角が25度から60度である、セラミックス基複合材料の製造方法。
【請求項14】
請求項8から13のいずれか1つに記載のセラミックス基複合材料の製造方法であって、
前記液相原料は、前記溶融含浸の前に、予めRE
2Si
2O
7とAl
6Si
2O
13とを混合した後に溶融させて一体で形成される、セラミックス基複合材料の製造方法(但し、REは、YまたはYb)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セラミックス基複合材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス基複合材料(CMC:Ceramic Matrix Composite)は、Ni基合金等の耐熱金属材料と比較して比重が1/3以下であり、耐熱性に優れている。このためセラミックス基複合材料は、航空エンジン用高温材料等として注目されている。セラミックス基複合材料の製造方法の中でも、溶融珪素を含浸させることによりマトリクスを形成する溶融含浸法は、短時間の処理で緻密なセラミックス基複合材料の製造が可能である。このようなセラミックス基複合材料の製造方法では、セラミックス繊維を束ねた繊維束を含むプリフォームに、炭素粉末を含浸させた後に溶融珪素を溶融含浸させて反応焼結することにより、炭化珪素を主相とするマトリクスを形成することが行われている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、航空機エンジン等では、燃費向上等のために、セラミックス基複合材料に1400℃以上の耐熱性を持たせることが望まれている。しかし、従来のような溶融珪素を溶融含浸して形成される炭化珪素を主相とするマトリクスを備えるセラミックス基複合材料は、溶融含浸後の残留珪素等により、1400℃以上になる高温ガス流中での酸化等による材料劣化が激しくなり、耐熱性が低下する可能性がある。
【0005】
そこで本開示の目的は、耐熱性をより向上させることが可能なセラミックス基複合材料及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係るセラミックス基複合材料は、炭化珪素繊維で形成される繊維体を含む基材と、前記基材に設けられ、RE3Al5O12と、RE2Si2O7と、を含み、残部がRE,Al及びSiの酸化物またはRE2SiO5により構成されるマトリクスと、を備える(但し、REは、YまたはYb)。
【0007】
本開示に係るセラミックス基複合材料において、REは、Ybとしてもよい。
【0008】
本開示に係るセラミックス基複合材料において、前記マトリクスの組成は、SiO
2とYb
2O
3とAl
2O
3との3成分で表したとき、
図2に示すSiO
2-Yb
2O
3-Al
2O
3系の3元系状態図におけるX1点(SiO
2:66.6mol%、Yb
2O
3:33.4mol%、Al
2O
3:0mol%)、X2点(SiO
2:53.5mol%、Yb
2O
3:16.5mol%、Al
2O
3:30.0mol%)、X3点(SiO
2:0mol%、Yb
2O
3:37.5mol%、Al
2O
3:62.5mol%)、X4点(SiO
2:50.0mol%、Yb
2O
3:50.0mol%、Al
2O
3:0mol%)の4点で囲まれた組成範囲で構成されていてもよい。
【0009】
本開示に係るセラミックス基複合材料において、前記マトリクスは、Yb3Al5O12と、Yb2Si2O7と、を含み、前記マトリクスの残部は、Yb,Al及びSiの酸化物であり、Yb2Si2O7とAl6Si2O13との共晶組成を有していてもよい。
【0010】
本開示に係るセラミックス基複合材料において、前記マトリクスの組成は、SiO
2とYb
2O
3とAl
2O
3との3成分で表したとき、
図2に示すSiO
2-Yb
2O
3-Al
2O
3系の3元系状態図におけるX1点(SiO
2:66.6mol%、Yb
2O
3:33.4mol%、Al
2O
3:0mol%)、X2点(SiO
2:53.5mol%、Yb
2O
3:16.5mol%、Al
2O
3:30.0mol%)、X3点(SiO
2:0mol%、Yb
2O
3:37.5mol%、Al
2O
3:62.5mol%)の3点で囲まれた組成範囲で構成されていてもよい。
【0011】
本開示に係るセラミックス基複合材料において、前記マトリクスは、Yb3Al5O12と、Yb2Si2O7と、を含み、前記マトリクスの残部は、Yb2SiO5であるとよい。
【0012】
本開示に係るセラミックス基複合材料において、前記マトリクスの組成は、SiO
2とYb
2O
3とAl
2O
3との3成分で表したとき、
図2に示すSiO
2-Yb
2O
3-Al
2O
3系の3元系状態図におけるX1点(SiO
2:66.6mol%、Yb
2O
3:33.4mol%、Al
2O
3:0mol%)、X3点(SiO
2:0mol%、Yb
2O
3:37.5mol%、Al
2O
3:62.5mol%)、X4点(SiO
2:50.0mol%、Yb
2O
3:50.0mol%、Al
2O
3:0mol%)の3点で囲まれた組成範囲で構成されていてもよい。
【0013】
本開示に係るセラミックス基複合材料の製造方法は、炭化珪素繊維で形成される繊維体を含む基材に、SiO2とRE2O3とAl2O3との3成分で表したときに少なくとも1成分からなる粉末原料を粉末含浸する粉末含浸工程と、前記粉末含浸した基材に、RE2Si2O7とAl6Si2O13とを混合した液相原料を、前記液相原料の融点以上で熱処理することにより溶融させて溶融含浸し、マトリクスを、RE3Al5O12と、RE2Si2O7と、を含み、残部がRE,Al及びSiの酸化物またはRE2SiO5により構成する溶融含浸工程と、を備える(但し、REは、YまたはYb)。
【0014】
本開示に係るセラミックス基複合材料の製造方法において、REは、Ybとしてもよい。
【0015】
本開示に係るセラミックス基複合材料の製造方法において、前記粉末含浸工程は、前記粉末原料がYb2SiO5粉末としてもよい。
【0016】
本開示に係るセラミックス基複合材料の製造方法は、前記溶融含浸工程において、前記液相原料は、Yb2Si2O7とAl6Si2O13との共晶組成で構成されており、前記液相原料の熱処理温度が1500℃以上であってもよい。
【0017】
本開示に係るセラミックス基複合材料の製造方法は、前記溶融含浸工程において、前記液相原料の熱処理温度が1500℃以上1600℃以下であってもよい。
【0018】
本開示に係るセラミックス基複合材料の製造方法は、前記溶融含浸工程において、前記液相原料の熱処理温度が1580℃以上1600℃以下であり、前記粉末含浸した基材と前記液相原料との接触角が25度から60度としてもよい。
【0019】
本開示に係るセラミックス基複合材料の製造方法において、前記液相原料は、前記溶融含浸の前に、予めRE2Si2O7とAl6Si2O13とを混合した後に溶融させて一体で形成されていてもよい(但し、REは、YまたはYb)。
【発明の効果】
【0020】
上記構成のセラミックス基複合材料及びその製造方法によれば、セラミックス基複合材料の耐熱性をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本開示の実施形態において、セラミックス基複合材料の構成を示す断面概略図である。
【
図2】本開示の実施形態において、SiO
2-Yb
2O
3-Al
2O
3系の3元系状態図である。
【
図3】本開示の実施形態において、Yb
2Si
2O
7―Al
6Si
2O
13系の擬2元系状態図である。
【
図4】本開示の実施形態において、セラミックス基複合材料の製造方法を示すフローチャートである。
【
図5】本開示の実施形態において、粉末含浸工程(S10)を説明するための模式図である。
【
図6】本開示の実施形態において、溶融含浸工程(S12)を説明するための模式図である。
【
図7】本開示の実施形態において、各試験片の成分組成を示す図である。
【
図8】本開示の実施形態において、各試験片をマトリクスとして用いたときのマトリクスの破断応力と、マトリクスの発生応力との関係を示すグラフである。
【
図9】本開示の実施形態において、濡れ性の測定結果を示すグラフである。
【
図10】本開示の実施形態において、各セラミックス基複合材料における疲労試験結果を示すグラフである。
【
図11】本開示の実施形態において、各セラミックス基複合材料における1000サイクルで疲労破壊するときの疲労強度を示すグラフである。
【
図12】本開示の実施形態において、各セラミックス基複合材料における水蒸気曝露前後の曲げ試験による応力―歪み線図である。
【
図13】本開示の実施形態において、各セラミックス基複合材料における水蒸気曝露による強度低下を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本開示の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
図1は、セラミックス基複合材料10の構成を示す断面概略図である。セラミックス基複合材料10は、炭化珪素繊維で形成される繊維体12を含む基材14と、基材14に設けられるマトリクス16と、を備えている。セラミックス基複合材料10は、例えば、ジェットエンジンのタービン翼等の高圧タービン部品、ロケットエンジンのスラスタ等の高温部品等に用いることが可能である。多量の冷却空気を必要とする高圧タービン部品では、セラミックス基複合材料10に1400℃以上の耐熱性を持たせることで、冷却空気を大幅に削減できる。
【0023】
基材14は、炭化珪素繊維(SiC繊維)で形成される繊維体12を含んで構成されている。基材14は、セラミックス基複合材料10を強化する機能を有している。炭化珪素繊維には、結晶性炭化珪素繊維や非結晶性炭化珪素繊維を用いることができる。炭化珪素繊維には、結晶性炭化珪素繊維を用いるとよい。結晶性炭化珪素繊維は、非結晶性炭化珪素繊維よりも耐熱性に優れているので、セラミックス基複合材料10の耐熱性を向上させることができる。炭化珪素繊維には、長繊維、短繊維、ウイスカ等を用いることが可能である。
【0024】
繊維体12には、例えば、炭化珪素繊維のフィラメントを数百から数千本程度束ねて繊維束とした後、この繊維束をXYZ方向に織ることにより得られる3次元織物を用いることが可能である。繊維体12には、平織りや朱子織り等の2次元織物等を用いることができる。
【0025】
繊維体12の炭化珪素繊維は、界面層で被覆されていてもよい。界面層は、マトリクス16に生じたクラック等の炭化珪素繊維への伝播を抑える機能を有している。界面層は、耐酸化性に優れる窒化硼素(BN)等で形成されているとよい。界面層の厚みは、例えば、0.1μmから0.5μmとするとよい。
【0026】
基材14は、繊維体12における炭化珪素繊維同士の間の隙間に、炭化珪素層を設けるようにしてもよい。炭化珪素層は、炭化珪素繊維を被覆する界面層を保護することができる。
【0027】
マトリクス16は、基材14に設けられており、基材14を支持する機能を有している。マトリクス16は、基材14の隙間等に形成されている。より詳細には、マトリクス16は、例えば、繊維体12の間の隙間や、炭化珪素繊維の間の気孔等に形成されている。
【0028】
マトリクス16は、RE3Al5O12と、RE2Si2O7と、を含み、残部がRE,Al及びSiの酸化物またはRE2SiO5により構成されている。但し、REは、Y(イットリウム)またはYb(イッテルビウム)である。マトリクス16は酸化物のみで構成されているので、セラミックス基複合材料10の耐熱性や耐酸化性を向上させることができる。
【0029】
また、RE3Al5O12(但し、REは、YまたはYb)は、ガーネット型構造を有する複合酸化物である。これらのガーネット型構造を有する複合酸化物は、高融点化合物であるので、セラミックス基複合材料10の耐熱性をより向上させることができる。
【0030】
更に、RE2Si2O7(但し、REは、YまたはYb)は、耐水蒸気性に優れる複合酸化物である。マトリクス16は、耐水蒸気性に優れるRE2Si2O7(但し、REは、YまたはYb)を含むので、セラミックス基複合材料10の耐水蒸気性を向上させることができる。
【0031】
なお、マトリクス16の残部におけるRE,Al及びSiの酸化物は、RE,Al及びSiの複合酸化物とすることができる(但し、REは、YまたはYb)。また、マトリクス16は、不可避的不純物を含んでいてもよい。
【0032】
マトリクス16において、REは、Ybであるとよい。より詳細には、マトリクス16は、Yb3Al5O12と、Yb2Si2O7とを含み、残部がYb,Al及びSiの酸化物またはYb2SiO5により構成されているとよい。次に、マトリクス16の例として、REがYbである場合について説明する。
【0033】
マトリクス16の組成は、SiO
2とYb
2O
3とAl
2O
3との3成分で表したとき、
図2に示すSiO
2-Yb
2O
3-Al
2O
3系の3元系状態図におけるX1点(SiO
2:66.6mol%、Yb
2O
3:33.4mol%、Al
2O
3:0mol%)、X2点(SiO
2:53.5mol%、Yb
2O
3:16.5mol%、Al
2O
3:30.0mol%)、X3点(SiO
2:0mol%、Yb
2O
3:37.5mol%、Al
2O
3:62.5mol%)、X4点(SiO
2:50.0mol%、Yb
2O
3:50.0mol%、Al
2O
3:0mol%)の4点で囲まれた組成範囲で構成することができる。
【0034】
図2は、SiO
2-Yb
2O
3-Al
2O
3系の3元系状態図である。
図2は、1550℃のときの3元系状態図を示している。
図2において、YSは、Yb
2SiO
5を表している。YS
2は、Yb
2Si
2O
7を表している。Yは、Yb
2O
3を表している。AY
2は、Yb
4Al
2O
9を表している。A
5Y
3は、Yb
3Al
5O
12を表している。Aは、Al
2O
3を表している。Mは、Al
6Si
2O
13を表している。Cは、クリストバライト(SiO
2)を表している。Lは、液相を表している。
【0035】
図2において、X1点は、SiO
2が66.6mol%、Yb
2O
3が33.4mol%、Al
2O
3が0mol%の組成を示しており、Yb
2Si
2O
7に対応している。X2点は、SiO
2が53.5mol%、Yb
2O
3が16.5mol%、Al
2O
3が30.0mol%の組成を示している。X3点は、SiO
2が0mol%、Yb
2O
3が37.5mol%、Al
2O
3が62.5mol%の組成を示しており、Yb
3Al
5O
12に対応している。X4点は、SiO
2が50.0mol%、Yb
2O
3が50.0mol%、Al
2O
3が0mol%の組成を示しており、Yb
2SiO
5に対応している。X5点は、Yb
2O
3が100mol%の組成を示している。X6点は、SiO
2が0mol%、Yb
2O
3が66.6mol%、Al
2O
3が33.4mol%の組成を示しており、Yb
4Al
2O
9に対応している。X7点は、Al
2O
3が100mol%の組成を示している。X8点は、SiO
2が40.0mol%、Yb
2O
3が0mol%、Al
2O
3が60.0mol%の組成を示しており、Al
6Si
2O
13に対応している。X9点は、SiO
2が71.1mol%、Yb
2O
3が11.3mol%、Al
2O
3が17.7mol%の組成を示している。
【0036】
マトリクス16の組成が、
図2に示す3元系状態図のX1点、X2点、X3点及びX4点の4点で囲まれた組成範囲にある場合には、マトリクス16は、Yb
3Al
5O
12と、Yb
2Si
2O
7とを含み、残部がYb,Al及びSiの酸化物またはYb
2SiO
5により構成される。
【0037】
マトリクス16の組成が、
図2に示す3元系状態図のX1点、X2点、X3点及びX4点の4点で囲まれた組成範囲であれば、セラミックス基複合材料10の製造時や使用環境での熱曝露等により生じるマトリクス16の発生応力がマトリクス16の破断応力よりも小さくなる。これにより、セラミックス基複合材料10が熱曝露等されたときに、マトリクス16中のクラックの発生を抑制することができる。
【0038】
これに対してマトリクス16の組成が、
図2に示す3元系状態図のX4点、X5点及びX6点の3点で囲まれた組成範囲であるときは、マトリクス16の発生応力がマトリクス16の破断応力よりも大きくなる。このためマトリクス16中にクラックが発生しやすくなる。同様に、マトリクス16の組成が、
図2に示す3元系状態図のX3点、X4点及びX6点の3点で囲まれた組成範囲や、X2点、X3点及びX7点の3点で囲まれた組成範囲である場合にも、マトリクス16中にクラックが発生しやすくなる。
【0039】
より詳細には、セラミックス基複合材料10の製造時や使用環境での熱曝露時において、マトリクス16には、マトリクス16と、繊維体12を含む基材14との熱膨張差により熱応力からなる発生応力が生じる。マトリクス16の発生応力がマトリクス16の破壊応力より大きくなると、マトリクス16にクラックが発生し易くなる。マトリクス16の発生応力は、後述する溶融含浸工程(S12)での溶融含浸温度である熱処理温度が、マトリクス16が曝される最高温度となり易いので、マトリクス形成時が最も大きくなる傾向がある。マトリクス16の発生応力がマトリクス16の破断応力よりも小さくなるようにすることで、マトリクス16中のクラックの発生を抑制することができる。マトリクス16中のクラックは、酸素の侵入経路になるので、マトリクス16中のクラックの発生を抑制することにより、炭化珪素繊維等の酸化を抑制することができる。
【0040】
また、マトリクス16の組成が、
図2に示す3元系状態図のX1点、X2点、X3点及びX4点の4点で囲まれた組成範囲であれば、後述する溶融含浸工程(S12)で溶融含浸によりマトリクス16を形成するときに、液相量が過剰に生じることを抑制できるので、マトリクス16を形成可能となる。例えば、マトリクス16の組成が、
図2に示す3元系状態図のX1点、X2点及びX9点の3点で囲まれた組成範囲である場合には、溶融含浸によりマトリクスを形成するときに、液相量が過剰に生じるので形状保持が難しくなり、マトリクス16を形成し難くなる。
【0041】
マトリクス16の組成は、SiO
2とYb
2O
3とAl
2O
3との3成分で表したとき、
図2に示すSiO
2-Yb
2O
3-Al
2O
3系の3元系状態図のX1点、X2点及びX3点の3点で囲まれた組成範囲で構成されていてもよい。マトリクス16がこの組成範囲にある場合には、マトリクス16は、Yb
3Al
5O
12と、Yb
2Si
2O
7とを含み、残部がYb,Al及びSiの酸化物から構成される。残部におけるYb,Al及びSiの酸化物は、
図2に示す3元系状態図のX2点(SiO
2:53.5mol%、Yb
2O
3:16.5mol%、Al
2O
3:30.0mol%)の酸化物組成で構成される。残部におけるYb,Al及びSiの酸化物は、1500℃以上で液相を形成する。
【0042】
より詳細には、
図3は、Yb
2Si
2O
7―Al
6Si
2O
13系の擬2元系状態図である。
図3の擬2元系状態図は、
図2に示す3元系状態図のX1点、X2点及びX8点を結んだ直線上の組成に対応している。Yb
2Si
2O
7とAl
6Si
2O
13との共晶組成は、
図2に示す3元系状態図のX2点の酸化物組成に対応している。このことから残部におけるYb,Al及びSiの酸化物は、Yb
2Si
2O
7とAl
6Si
2O
13との共晶組成で構成されている。
図3の擬2元系状態図からYb
2Si
2O
7とAl
6Si
2O
13の共晶温度が1500℃であるので、残部におけるYb,Al及びSiの酸化物は、1500℃以上で液相を形成する。マトリクス16の形成時に、残部におけるYb,Al及びSiの酸化物が適度な液相を形成するので、マトリクス16の固着力が高くなる。これにより、マトリクス16の破断応力がより大きくなるので、セラミックス基複合材料10の機械的強度を向上させることができる。
【0043】
マトリクス16の組成は、SiO
2とYb
2O
3とAl
2O
3との3成分で表したとき、
図2に示すSiO
2-Yb
2O
3-Al
2O
3系の3元系状態図のX1点、X3点及びX4点の3点で囲まれた組成範囲で構成されていてもよい。マトリクス16の組成範囲がこの組成範囲にある場合には、マトリクス16は、Yb
3Al
5O
12と、Yb
2Si
2O
7とを含み、残部がYb
2SiO
5で構成される。Yb
2SiO
5は、耐水蒸気性に優れた酸化物なので、セラミックス基複合材料10の耐水蒸気性をより向上させることができる。
【0044】
次に、セラミックス基複合材料10の製造方法について説明する。
図4は、セラミックス基複合材料10の製造方法を示すフローチャートである。セラミックス基複合材料10の製造方法は、粉末含浸工程(S10)と、溶融含浸工程(S12)と、を備えている。
【0045】
粉末含浸工程(S10)は、炭化珪素繊維で形成される繊維体12を含む基材14に、SiO
2とRE
2O
3とAl
2O
3との3成分で表したときに少なくとも1成分からなる粉末原料を粉末含浸する工程である。但し、REは、Y(イットリウム)またはYb(イッテルビウム)である。
図5は、粉末含浸工程(S10)を説明するための模式図である。
【0046】
まず、基材14について説明する。基材14に含まれる繊維体12は、炭化珪素繊維で形成されている。繊維体12は、2次元織物や3次元織物等のプリフォームから構成されている。結晶性炭化珪素繊維には、例えば、ハイニカロン タイプS(日本カーボン株式会社)、チラノ繊維 SAグレード(宇部興産株式会社)等を用いることができる。非結晶性炭化珪素繊維には、例えば、ハイニカロン(日本カーボン株式会社)、チラノ繊維 ZMIグレード(宇部興産株式会社)等を用いることができる。炭化珪素繊維には、窒化硼素(BN)等で形成される界面層を被覆してもよい。界面層の被覆は、例えば、化学気相蒸着法(CVD法)で行うことができる。
【0047】
基材14は、粉末含浸工程(S10)を行う前に、化学気相含浸法(CVI法)で、繊維体12の炭化珪素繊維間に炭化珪素層を形成してもよい。例えば、反応炉内に繊維体12をセットして加熱し(反応温度900℃から1000℃)、反応ガスとしてメチルトリクロロシラン(CH3SiCl3)等を用いることにより、炭化珪素繊維間に炭化珪素層を形成することができる。
【0048】
次に、粉末原料18の粉末含浸方法について説明する。まず、粉末原料18について説明する。粉末原料18は、SiO2とRE2O3とAl2O3との3成分で表したときに少なくとも1成分から構成されている。粉末原料18は、SiO2とRE2O3とAl2O3との3成分で表したときに1成分で構成されていてもよく、2成分や3成分で構成されていてもよい。粉末原料18が1成分で構成されている場合には、SiO2粉末、RE2O3粉末またはAl2O3粉末を用いることができる。
【0049】
粉末原料18が2成分または3成分で構成されている場合には、各成分を混合した混合粉末を用いてもよいし、各成分を複合した複合酸化物粉末を用いてもよい。例えば、粉末原料18がSiO2とRE2O3との2成分で構成されている場合には、粉末原料18には、SiO2粉末及びRE2O3粉末の混合粉末を用いてもよいし、RE2SiO5粉末等の複合酸化物粉末を用いてもよい。REがYbの場合において、粉末原料18がSiO2とYb2O3との2成分で構成されているときには、粉末原料18には、SiO2粉末及びYb2O3粉末の混合粉末を用いてもよいし、Yb2SiO5粉末等の複合酸化物粉末を用いてもよい。
【0050】
また、例えば、粉末原料18がSiO2とRE2O3とAl2O3との3成分で構成されている場合には、粉末原料18には、SiO2粉末、RE2O3粉末及びAl2O3粉末の混合粉末を用いてもよいし、各成分を複合した複合酸化物粉末を用いてもよい。REがYbの場合において、粉末原料18がSiO2とYb2O3とAl2O3との3成分で構成されている場合には、SiO2粉末、Yb2O3粉末及びAl2O3粉末の混合粉末を用いてもよいし、各成分を複合した複合酸化物粉末を用いてもよい。
【0051】
粉末原料18における粉末の粒径は、平均粒径で3μm以上5μm以下とするとよい。粉末の粒径が平均粒径で3μmより小さい場合には、後述するスラリ中で粉末同士が凝集し易くなり、スラリに超音波振動を加えたときに凝集を解くのが難しくなるからである。また、粉末の平均粒径が5μmより大きい場合には、繊維体12の空隙への粉末の充填率が低下する可能性があるからである。なお、平均粒径とは、例えば、レーザ回折・散乱法で測定した粒子の粒度分布を用いて、粒径の小さい方から粒度分布の結果を累積し、その累積した値が50%となる粒度(メディアン直径)である。
【0052】
粉末原料18の粉末含浸は、固相含浸法により行われるとよい。固相含浸法によれば、粉末原料18の基材14への充填率を高めることができる。次に、例として、粉末原料18を固相含浸法により粉末含浸する場合について説明する。まず、容器の中にエタノール、メタノール、アセトン等の分散媒と、粉末原料18とを入れて混合し、スラリを作製する。
【0053】
容器の中のスラリを真空引きして脱泡する。スラリを脱泡することにより、スラリ中に含まれる気泡等を除去する。これにより、繊維体12の空隙に粉末原料18を充填させるときに、気泡等の巻き込みを抑制することができる。真空引きには、一般的な真空ポンプ等を用いることが可能である。スラリを脱泡した後に真空引きを停止して大気開放する。
【0054】
次に、容器の中に基材14を入れて、スラリに浸漬させる。基材14をスラリに浸漬させた状態で静置する。静置時間については、30分間から60分間とするとよい。静置することにより、スラリ中に粉末原料18が沈殿するので、繊維体12の空隙への粉末原料18の充填率を高めることができる。
【0055】
静置後に、超音波振動機により、基材14を浸漬させたスラリに超音波振動を加える。超音波振動は、主に、エタノール等の分散媒を介して粉末原料18に伝播される。これにより粉末原料18の凝集を解きほぐすので、繊維体12の空隙への粉末原料18の充填率を高めることができる。超音波振動の周波数は、23kHz以上28kHz以下とするとよい。超音波振動の周波数が23kHzより低い場合には、粉末原料18の凝集を解きほぐし難くなり、粉末原料18の充填率が低下し易くなる。超音波振動の周波数が28kHzより高い場合には、粉末原料18の振動が大きくなり、粉末原料18が繊維体12の空隙に充填され難くなる。超音波の出力は、例えば、600Wとするとよい。超音波振動の加振時間は、10分間以上15分間以下とするとよい。超音波振動機には、一般的な超音波振動装置を用いることが可能である。超音波振動を加えた後に、スラリから基材14を取り出して乾燥させる。このようにして基材14に粉末原料18が充填される。
【0056】
溶融含浸工程(S12)は、粉末含浸した基材14に、RE
2Si
2O
7とAl
6Si
2O
13とを混合した液相原料を、液相原料の融点以上で熱処理することにより溶融させて溶融含浸し、マトリクス16を、RE
3Al
5O
12と、RE
2Si
2O
7と、を含み、残部がRE,Al及びSiの酸化物またはRE
2SiO
5により構成する工程である。但し、REは、Y(イットリウム)またはYb(イッテルビウム)である。
図6は、溶融含浸工程(S12)を説明するための模式図である。
【0057】
まず、RE2Si2O7とAl6Si2O13とを混合した液相原料20を形成する。液相原料20には、RE2Si2O7粉末と、Al6Si2O13粉末とを所定比率で混合した混合粉末を用いることができる。液相原料20は、溶融含浸の前に、予めRE2Si2O7とAl6Si2O13とを混合した後に溶融させて一体で粒状等に形成してもよい。
【0058】
RE2Si2O7と、Al6Si2O13とは、共晶反応型の酸化物である。共晶組成の融点は、RE2Si2O7やAl6Si2O13の各融点より低いことから、熱処理温度をより低い温度にすることができる。熱処理により溶融した液相原料20が、基材14の繊維体12の隙間や、粉末原料18の隙間に流れ込み溶融含浸される。そして、溶融した液相原料20と、粉末原料18とが反応して、RE3Al5O12と、RE2Si2O7と、を含み、残部がRE,Al及びSiの酸化物またはRE2SiO5から構成されるマトリクス16が形成される。
【0059】
次に、例として、REがYbである場合について説明する。まず、Yb
2Si
2O
7とAl
6Si
2O
13とを混合した液相原料20を形成する。
図3に示すように、Yb
2Si
2O
7と、Al
6Si
2O
13とは、共晶反応型の酸化物であり、共晶温度は、1500℃である。
【0060】
液相原料20には、Yb2Si2O7粉末と、Al6Si2O13粉末とを所定比率で混合した混合粉末を用いることができる。液相原料20は、溶融含浸前に、予めYb2Si2O7粉末と、Al6Si2O13粉末とを所定比率で混合した混合粉末を溶融させて一体的に形成してもよい。
【0061】
液相原料20は、Yb
2Si
2O
7とAl
6Si
2O
13との共晶組成とするとよい。Yb
2Si
2O
7とAl
6Si
2O
13との共晶組成は、SiO
2とYb
2O
3とAl
2O
3との3成分で表したとき、
図2に示す3元系状態図におけるX2点(SiO
2:53.5mol%、Yb
2O
3:16.5mol%、Al
2O
3:30.0mol%)の組成とすることができる。共晶組成の融点は、Yb
2Si
2O
7やAl
6Si
2O
13の各融点より低いことから、熱処理温度をより低い温度にすることができる。これにより、溶融含浸工程(S12)の生産性が向上すると共に、生産コストを低減することが可能となる。また、炭化珪素繊維の結晶粒粗大化が抑えられるので、セラミックス基複合材料10の機械的強度の低下を抑制できる。
【0062】
液相原料20は、Yb2Si2O7とAl6Si2O13との共晶組成だけでなく、共晶組成の近傍の組成からなるようにしてもよい。共晶組成の近傍の組成についても、Yb2Si2O7やAl6Si2O13の各融点より低いことから、熱処理温度をより低い温度にすることができる。
【0063】
粉末含浸した基材14に、液相原料20を配置した後に、液相原料20の融点以上で熱処理する。粉末含浸した基材14には、例えば、Yb2SiO5粉末や、SiO2粉末、Yb2O3粉末及びAl2O3粉末の混合粉末等の粉末原料18が粉末含浸されている。液相原料20は、例えば、粉末含浸した基材14の上側に配置するとよい。
【0064】
液相原料20がYb2Si2O7とAl6Si2O13との共晶組成で構成されている場合には、熱処理は、1500℃以上の熱処理温度で行うことができる。熱処理温度が1500℃よりも低温の場合には、液相原料20が溶融しないからである。熱処理は、1500℃以上1600℃以下の熱処理温度で行うとよい。熱処理温度が1600℃より高温の場合には、炭化珪素繊維の熱劣化が生じ易く、セラミックス基複合材料10の疲労強度等の機械的強度が低下する可能性があるからである。熱処理時間は、例えば、30分間から10時間とするとよい。
【0065】
熱処理温度は、1580℃以上1600℃以下としてもよい。この熱処理温度で熱処理する場合には、粉末含浸した基材14と、液相原料20との濡れ性が向上する。より詳細には、熱処理温度が1580℃より低温である場合には、粉末含浸した基材14と、液相原料20との接触角(濡れ角)が約70度になる。一方、熱処理温度が1580℃以上1600℃以下の場合には、粉末含浸した基材14と、液相原料20との接触角が25度から60度になる。このように粉末含浸した基材14と、液相原料20との接触角が減少して濡れ性が向上することにより、粉末含浸した基材14に液相原料20が溶融含浸されやすくなり、マトリクス16の充填率を高めることができる。
【0066】
熱処理温度は、1590℃以上1600℃以下としてもよい。この熱処理温度で熱処理する場合には、粉末含浸した基材14と、液相原料20との接触角が25度から45度になる。これにより粉末含浸した基材14と、液相原料20との濡れ性が更に向上することにより、粉末含浸した基材14に液相原料20が溶融含浸されやすくなり、マトリクス16の充填率を更に高めることができる。熱処理温度は、1600℃としてもよい。熱処理温度を1600℃とすることにより、粉末含浸した基材14と、液相原料20との接触角が25度になる。これにより粉末含浸した基材14と、液相原料20との濡れ性が更に向上する。
【0067】
熱処理雰囲気については、炭化珪素繊維等の酸化を抑制するために、真空中またはアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気中で行われるとよい。溶融含浸時の加圧については、加圧してもよいし、加圧せずに大気圧としてもよい。熱処理設備には、一般的な真空熱処理炉、雰囲気熱処理炉、ホットプレス装置、HIP装置等を用いることができる。
【0068】
熱処理により溶融した液相原料20が、基材14の繊維体12の隙間や、粉末原料18の隙間に流れ込み溶融含浸される。そして、溶融した液相原料20と、粉末原料18とが反応して、Yb3Al5O12と、Yb2Si2O7とを含み、残部がYb,Al及びSiの酸化物またはYb2SiO5から構成されるマトリクス16が形成される。
【0069】
例えば、粉末原料18にYb
2SiO
5粉末、液相原料20にYb
2Si
2O
7とAl
6Si
2O
13との共晶組成または共晶組成の近傍組成を用いた場合には、
図2に示す3元系状態図のX4点の組成に対応するYb
2SiO
5粉末と、
図2に示す3元系状態図のX2点またはX2点の近傍組成に対応する液相原料20とが反応してマトリクス16が形成される。これによりマトリクス16は、
図2に示す3元系状態図のX1点、X2点、X3点及びX4点で囲まれた組成範囲で形成される。また、粉末原料18にYb
2SiO
5粉末、液相原料20にYb
2Si
2O
7とAl
6Si
2O
13との共晶組成を用いた場合には、マトリクス16は、
図2に示す3元系状態図のX2点とX4点とを結んだ線上の組成に対応する酸化物で形成される。
【0070】
例えば、粉末原料18にYb
2SiO
5粉末、液相原料20にYb
2Si
2O
7とAl
6Si
2O
13との共晶組成または共晶組成の近傍組成を用いた場合において、液相原料20と、Yb
2SiO
5粉末との比率を調整することにより、マトリクス16を、
図2に示す3元系状態図のX1点、X2点及びX3点で囲まれた組成範囲の酸化物や、X1点、X3点及びX4点で囲まれた組成範囲の酸化物で形成することができる。マトリクス16を、
図2に示す3元系状態図のX1点、X2点及びX3点で囲まれた組成範囲の酸化物で形成する場合には、液相原料20をYb
2SiO
5粉末よりもより多くすればよい。マトリクス16を、
図2に示す3元系状態図のX1点、X3点及びX4点で囲まれた組成範囲の酸化物で形成する場合には、Yb
2SiO
5粉末を液相原料20よりもより多くすればよい。このようにしてセラミックス基複合材料10を製造することができる。
【0071】
セラミックス基複合材料10には、耐環境性コーティングを施してもよい。耐環境性コーティングについては、例えば、セラミックス基複合材料10の表面にYb2SiO5とAl6Si2O13とを混合した混合層を被覆し、混合層の表面にHfO2層を被覆すればよい。また、セラミックス基複合材料10の表面にYb2SiO5とAl6Si2O13とを混合した混合層を被覆する場合には、マトリクス16は、Yb3Al5O12と、Yb2Si2O7と、を含み、残部がYb,Al及びSiの酸化物またはYb2SiO5により構成されるとよい。これにより、セラミックス基複合材料10と、混合層との密着性を向上させることができる。
【0072】
以上、上記構成のセラミックス基複合材料によれば、炭化珪素繊維で形成される繊維体を含む基材と、基材に設けられ、RE3Al5O12と、RE2Si2O7と、を含み、残部がRE,Al及びSiの酸化物またはRE2SiO5により構成されるマトリクスと、を備えている(但し、REは、YまたはYb)。マトリクスが酸化物のみで形成されているので、セラミックス基複合材料の耐熱性を向上させることができる。また、上記構成のセラミックス基複合材料によれば、マトリクスが酸化物のみで形成されているので、1400℃以上になる高温ガス流に曝された場合でも、マトリクスの酸化による体積膨張が抑制される。これにより、マトリクス中のクラックの発生が抑制されるので、炭化珪素繊維の酸化や水蒸気劣化等を防止することができる。
【実施例】
【0073】
(マトリクス評価試験)
セラミックス基複合材料のためのマトリクスの評価を行った。まず、マトリクスを評価するための試験片について説明する。試験片は、実施例1から2、比較例1から4の6種類を作製した。
図7は、各試験片の成分組成を示す図である。
図7では、
図2に示すSiO
2-Yb
2O
3-Al
2O
3系の3元系状態図に、各試験片の成分組成を追記している。
【0074】
実施例1は、
図2に示す3元系状態図において、X1点、X3点及びX4点の3点で囲まれた組成範囲を代表している。実施例1は、Yb
3Al
5O
12と、Yb
2Si
2O
7と、を含み、残部がYb
2SiO
5で構成した。実施例1の組成は、SiO
2とYb
2O
3とAl
2O
3との3成分で表したとき、SiO
2が51.1mol%、Yb
2O
3が40.9mol%、Al
2O
3が8.0mol%とした。
【0075】
実施例2は、
図2に示す3元系状態図において、X1点、X2点及びX3点の3点で囲まれた組成範囲を代表している。実施例2は、Yb
3Al
5O
12と、Yb
2Si
2O
7と、を含み、残部がYb,Al及びSiの酸化物により構成した。残部におけるYb,Al及びSiの酸化物は、
図2に示す3元系状態図のX2点の組成からなり、Yb
2Si
2O
7とAl
6Si
2O
13との共晶組成を有している。実施例2の組成は、SiO
2とYb
2O
3とAl
2O
3との3成分で表したとき、SiO
2が52.4mol%、Yb
2O
3が30.5mol%、Al
2O
3が17.1mol%とした。
【0076】
比較例1は、
図2に示す3元系状態図において、X1点、X2点及びX9点の3点で囲まれた組成範囲を代表している。比較例1は、Yb
2Si
2O
7と、
図2に示す3元系状態図のX2点及びX9点の組成を有するYb,Al及びSiの酸化物とから構成した。比較例1の組成は、SiO
2とYb
2O
3とAl
2O
3との3成分で表したとき、SiO
2が64.6mol%、Yb
2O
3が21.0mol%、Al
2O
3が14.1mol%とした。
【0077】
比較例2は、
図2に示す3元系状態図において、X4点、X5点及びX6点の3点で囲まれた組成範囲を代表している。比較例2は、Yb
4Al
2O
9と、Yb
2O
3と、Yb
2SiO
5とから構成した。比較例2の組成は、SiO
2とYb
2O
3とAl
2O
3との3成分で表したとき、SiO
2が16.4mol%、Yb
2O
3が73.5mol%、Al
2O
3が10.1mol%とした。
【0078】
比較例3は、
図2に示す3元系状態図において、X3点、X4点及びX6点の3点で囲まれた組成範囲を代表している。比較例3は、Yb
4Al
2O
9と、Yb
3Al
5O
12と、Yb
2SiO
5とから構成した。比較例3の組成は、SiO
2とYb
2O
3とAl
2O
3との3成分で表したとき、SiO
2が29.8mol%、Yb
2O
3が51.7mol%、Al
2O
3が18.5mol%とした。
【0079】
比較例4は、
図2に示す3元系状態図において、X2点、X3点及びX7点の3点で囲まれた組成範囲を代表している。比較例4は、Al
2O
3と、Yb
3Al
5O
12と、
図2に示す3元系状態図のX2点の組成を有するYb,Al及びSiの酸化物とから構成した。比較例4の組成は、SiO
2とYb
2O
3とAl
2O
3との3成分で表したとき、SiO
2が18.1mol%、Yb
2O
3が18.5mol%、Al
2O
3が63.4mol%とした。
【0080】
次に、各試験片の作製方法について説明する。各試験片について、Yb
2O
3粉末と、SiO
2粉末と、Al
2O
3粉末とを混合した混合粉末からなる粉末原料と、Yb
2Si
2O
7とAl
6Si
2O
13とを混合した液相原料とを各試験片の成分組成となるように混合した。液相原料は、Yb
2Si
2O
7とAl
6Si
2O
13との共晶組成とし、
図2に示す3元系状態図におけるX2点の組成となるように調整した。各試験片は、粉末原料と液相原料との混合物を、ホットプレスで加熱加圧して反応焼結させて作製した。加熱条件は、1600℃、1時間保持とした。圧力条件は、20MPaとした。雰囲気条件は、アルゴンガス雰囲気中とした。試験片の形状は、矩形状とした。実施例1から2、比較例2から4については、試験片の作製が可能であった。比較例1は、液相量が過多となり形状を保持できず、試験片を作製できなかった。
【0081】
次に、各試験片を用いてマトリクスの発生応力の評価を行った。マトリクスの発生応力を評価するために、各試験片について熱膨張測定と、曲げ試験とを行った。熱膨張測定は、室温から1400℃の範囲で行った。曲げ試験は、弾性率と、破断応力とを室温で測定した。曲げ試験は、4点曲げ試験とし、JIS R1601に準拠して行った。マトリクスの発生応力σは、σ=E×(αc-αm)×ΔTから算出した。Eは、マトリクスの弾性率である。αcは、セラミックス基複合材料(CMC)の熱膨張係数(CTE)である。αmは、マトリクスの熱膨張係数(CTE)である。ΔTは、温度差である。ΔTは、溶融含浸時の熱処理温度を想定して1500℃とした。
【0082】
表1は、各試験片をマトリクスとして用いたときのマトリクスの発生応力を示している。
図8は、各試験片をマトリクスとして用いたときのマトリクスの破断応力と、マトリクスの発生応力との関係を示すグラフである。なお、比較例1については、試験片が作製できなかったため、マトリクスの発生応力を評価していない。また、セラミックス基複合材料(CMC)の各データについては、後述する実施例3のセラミックス基複合材料を用いて測定したデータを示している。
【0083】
【0084】
実施例1から2は、マトリクスの発生応力が、マトリクスの破断応力よりも小さくなった。このことから、実施例1から2をマトリクスとして用いた場合には、マトリクス中のクラック発生が抑制され、酸素侵入経路(酸素パス)の形成を抑制できることがわかった。これに対して比較例2から4は、マトリクスの発生応力が、マトリクスの破断応力よりも大きくなった。このことから、比較例2から4をマトリクスとして用いた場合には、マトリクス中にクラックが発生しやすくなり、酸素侵入経路(酸素パス)を形成し易くなることがわかった。
【0085】
また、実施例2は、実施例1よりもマトリクスの破断応力が大きくなった。この理由は、実施例2では、試験片を作製するときの加圧焼結時に、残部におけるYb、Al及びSiの酸化物の液相が形成されるので、Yb2Si2O7とYb3Al5O12とがより強固に固着したことによると考えられる。
【0086】
(溶融含浸性評価試験)
マトリクスにおける溶融含浸性の評価試験を行った。まず試験方法について説明する。基材には、炭化珪素繊維で形成された織物からなるプリフォームを使用した。このプリフォームに粉末原料であるYb
2SiO
5粉末を固相含浸法で粉末含浸した。粉末含浸した基材と、Yb
2Si
2O
7とAl
6Si
2O
13とを混合した液相原料との濡れ性を接触角θ/2法により評価した。液相原料は、Yb
2Si
2O
7とAl
6Si
2O
13との共晶組成とし、
図2に示す3元系状態図におけるX2点の組成となるように調整した。濡れ性の評価は、粉末含浸した基材と、液相原料との接触角(濡れ角)を測定した。測定温度は、1500℃から1750℃とした。測定雰囲気は、アルゴンガス雰囲気とした。昇温速度は、10℃/minとした。
【0087】
図9は、濡れ性の測定結果を示すグラフである。
図9のグラフでは、横軸に温度を取り、縦軸に接触角を取り、温度と接触角との関係を実線で示している。液相原料は、1500℃以上の温度で溶解して液状になる。接触角は、1500℃から1550℃では、約70度で略一定であった。接触角は、1580℃から1600℃で大きく低下し、25度から60度であった。接触角は、1590℃から1600℃では、25度から45度であった。接触角は、1600℃以上では、25度で略一定であった。この結果から、熱処理温度が1580℃以上では、粉末含浸した基材と、液相原料との接触角が減少して濡れ性が向上することにより、粉末含浸した基材に液相原料が溶融含浸されやすくなることがわかった。
【0088】
(疲労特性評価試験)
セラミックス基複合材料の疲労特性について評価した。まず、実施例3のセラミックス基複合材料の作製方法について説明する。基材には、炭化珪素繊維で形成された織物からなるプリフォームを使用した。まず、プリフォームに粉末原料であるYb
2SiO
5粉末を固相含浸法で粉末含浸した。粉末含浸したプリフォームに、Yb
2Si
2O
7とAl
6Si
2O
13とを混合した液相原料を配置し、液相原料の融点以上で熱処理することにより溶融含浸した。液相原料は、Yb
2Si
2O
7とAl
6Si
2O
13との共晶組成とし、
図2に示す3元系状態図におけるX2点の組成となるように調整した。熱処理温度は、1600℃とした。熱処理時間は、1時間とした。熱処理雰囲気は、アルゴンガス雰囲気中とした。このようにしてマトリクスは、Yb
3Al
5O
12と、Yb
2Si
2O
7と、を含み、残部がYb,Al及びSiの酸化物またはYb
2SiO
5により構成した。また、マトリクスの組成は、
図2に示す3元系状態図におけるX1点、X2点、X3点及びX4点で囲まれた組成範囲で構成した。
【0089】
次に、実施例4,5のセラミックス基複合材料の作製方法について説明する。実施例4,5のセラミックス基複合材料の作製方法は、実施例3のセラミックス基複合材料の作製方法と、熱処理温度が相違しており、熱処理温度以外の構成は同じとした。実施例4のセラミックス基複合材料では、熱処理温度を1650℃とした。実施例5のセラミックス基複合材料では、熱処理温度を1700℃とした。
【0090】
次に、比較例5のセラミックス基複合材料の作製方法について説明する。基材には、実施例3と同様のプリフォームを使用した。マトリクスは、プリフォームに炭素粉末を含浸させた後に、溶融珪素を溶融含浸することにより反応焼結させてSiCマトリクスを形成した。
【0091】
実施例3から5及び比較例5のセラミックス基複合材料について疲労試験を行った。疲労試験は、引張疲労試験とし、ASTM C 1275、ASTM C1359に準拠して行った。試験制御は、荷重制御とし、波形は、正弦波とした。周波数は、1Hzとし、応力比は、R0.1とした。疲労試験は、試験温度が1400℃、試験雰囲気が大気中及び水蒸気中とした。なお、実施例3については、1400℃大気中及び水蒸気中で疲労試験を行った。実施例4,5及び比較例5については、1400℃大気中のみで疲労試験を行った。疲労試験は、低サイクル疲労(LCF)を評価した。
【0092】
図10は、各セラミックス基複合材料における疲労試験結果を示すグラフである。
図10では、横軸にサイクル数を取り、縦軸に応力を取り、実施例3の1400℃大気中の疲労特性を黒三角形、実施例3の1400℃水蒸気中の疲労特性を白三角形、比較例5の1400℃大気中の疲労特性を黒丸で示している。なお、
図10のグラフ中の矢印は、疲労破壊していないことを示している。実施例3は、比較例5に対して、1400℃大気中の疲労強度が向上していることが明らかとなった。また、実施例3は、1400℃水蒸気中においても優れた疲労特性を有していた。
【0093】
次に、実施例3から5の各セラミックス基複合材料において、1400℃大気中で疲労試験を行ったときに1000サイクルで疲労破壊するときの疲労強度を比較した。
図11は、各セラミックス基複合材料における1000サイクルで疲労破壊するときの疲労強度を示すグラフである。
図11では、横軸に実施例3から5の各セラミックス基複合材料を取り、縦軸に実施例3の疲労強度に対する比率を取り、各セラミックス基複合材料の疲労強度の比率を棒グラフで示している。実施例3の疲労強度を100%としたとき、実施例4の疲労強度は約95%であり、実施例5の疲労強度は約85%であった。この結果から熱処理温度がより高温になると、炭化珪素繊維の熱劣化等により疲労強度が低下する傾向にあることがわかった。
【0094】
(耐水蒸気性評価試験)
セラミックス基複合材料の耐水蒸気性について評価した。耐水蒸気性評価には、実施例3及び比較例6のセラミックス基複合材料を用いた。比較例6のセラミックス基複合材料は、比較例5のセラミックス基複合材料と同様の構成のものに耐酸化性向上処理を施して作製した。耐水蒸気性評価試験は、水蒸気曝露前後の強度低下により評価した。水蒸気曝露は、1400℃±10℃で500時間とした。試験雰囲気は、水蒸気―空気混合ガスとした。圧力は、全圧が960KPa、水蒸気分圧が80KPaとした。水蒸気曝露前後の強度試験は、室温での曲げ試験とした。曲げ試験は、4点曲げ試験とし、JIS R1601に準拠して行った。
【0095】
次に、耐水蒸気性評価試験結果について説明する。
図12は、各セラミックス基複合材料における水蒸気曝露前後の曲げ試験による応力―歪み線図である。
図12では、横軸に歪みを取り、縦軸に応力を取り、実施例3の水蒸気曝露前を太い実線で示し、実施例3の水蒸気曝露後を太い破線で示し、比較例6の水蒸気曝露前を細い実線で示し、比較例6の水蒸気曝露後を細い破線で示している。また、
図13は、各セラミックス基複合材料における水蒸気曝露による強度低下を示すグラフである。
図13では、縦軸に破壊応力を取り、横軸にセラミックス基複合材料を取り、各セラミックス基複合材料の破壊応力を棒グラフで示している。水蒸気曝露後の強度低下は、実施例3が約12%であり、比較例6が約51%であった。この結果から、実施例3のセラミックス基複合材料は、耐水蒸気特性に優れていることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本開示は、セラミックス基複合材料の耐熱性をより向上させることができるので、ジェットエンジンのタービン部品等に有用なものである。