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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】複合繊維
(51)【国際特許分類】
   D01F 9/08 20060101AFI20221109BHJP
【FI】
D01F9/08 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022510765
(86)(22)【出願日】2021-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2021013033
(87)【国際公開番号】W WO2021193957
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-04-15
(31)【優先権主張番号】P 2020056313
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100187584
【弁理士】
【氏名又は名称】村石 桂一
(72)【発明者】
【氏名】西浦 貴子
(72)【発明者】
【氏名】立石 貴志
(72)【発明者】
【氏名】辻 雅之
(72)【発明者】
【氏名】田口 英治
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-124276(JP,A)
【文献】国際公開第2019/151330(WO,A1)
【文献】特開2018-104878(JP,A)
【文献】特開平08-012425(JP,A)
【文献】特開昭53-130320(JP,A)
【文献】特開平11-309314(JP,A)
【文献】特開2000-096344(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 8/00- 8/18
B01D 39/00-41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部と該芯部を覆う鞘部とを有して成る芯鞘構造を有する複合繊維であって、
前記芯部が金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)およびプラチナ(Pt)からなる群から選択される少なくとも一種の焼結体である金属または、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ナノカーボン材、金、銀、プラチナ、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウム、スズ、マンガン、ステンレス、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化亜鉛ニッケル、マグネシウム、タングステン、コバルト、クロム、チタンからなる群から選択される少なくとも一種の焼結体である導電性材を含んで成り、
前記鞘部が酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、リン酸三カルシウム、アパタイトからなる群から選択される少なくとも一種の焼結体であるセラミック成分を含んで成るセラミック鞘部であり、
前記芯部および前記鞘部がいずれも焼結体を含んで成り、
前記芯部がアース接続されている場合、前記鞘部の表面全域にわたって前記鞘部が正または負のいずれか一方の表面電位のみを示す、エレクトレット繊維である複合繊維。
【請求項2】
前記セラミック成分がアパタイトである、請求項1記載の複合繊維。
【請求項3】
前記セラミック鞘部がアパタイト単体あるいはアパタイトと樹脂とのコンポジットから構成されている、請求項1または2に記載の複合繊維。
【請求項4】
前記アパタイトが、フルオロアパタイト、クロロアパタイトおよびハイドロキシアパタイトからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項2または3に記載の複合繊維。
【請求項5】
前記導電性材が導電性フィラーと樹脂とのコンポジットである、請求項1~のいずれかに記載の複合繊維。
【請求項6】
エレクトレットフィルタに用いられる、請求項1~のいずれかに記載の複合繊維。
【請求項7】
請求項1~のいずれかに記載の複合繊維を含む、エレクトレットフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合繊維に関する。具体的には、本発明は、芯鞘構造を有する複合繊維に関し、より具体的には、芯部が金属または導電性材を含んで成り、鞘部がセラミック成分を含んで成るセラミック鞘部である複合繊維などに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば集塵用フィルタに用いることができるエレクトレット繊維としてコロナ放電などの帯電処理を施した樹脂繊維などが知られている(例えば特許文献1)。
【0003】
また、エレクトレット繊維として、2つの異なる樹脂成分を用いて作製した芯鞘型の複合繊維なども知られている(例えば特許文献2、3)。
【0004】
さらに、エレクトレット繊維を使用したシート(エレクトレット繊維シート)なども知られている(例えば特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭53-130320号公報
【文献】特公平6-104952号公報
【文献】特開2018-138280号公報
【文献】特開2003-3367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明者らは、従前のエレクトレット繊維、特に樹脂製の複合繊維には克服すべき課題があることに気付き、そのための対策を取る必要性を見出した。具体的には以下の課題があることを本願発明者らは見出した。
【0007】
本願発明者らの研究により、コロナ放電などの方法で樹脂繊維をエレクトレット化(帯電処理)すると(例えば特許文献1)、時間の経過とともに電荷が容易に消失することがわかった。また、水やイソプロピルアルコール(IPA)などで洗浄するだけでも繊維表面から電荷が容易に消失することもわかった。従って本願発明者らの研究によりコロナ放電などの方法では繊維表面に電荷を高密度に帯電させることが困難であることがわかった。
【0008】
また、2つの異なる樹脂成分を用いて作製された芯鞘型の樹脂繊維(複合繊維)をエレクトレット化した繊維なども知られている(例えば特許文献2、3)。本願発明者らの研究により、このようなエレクトレット繊維では繊維表面に正と負の電荷が混在するために電荷が中和されて消失し易く、高密度に帯電させることが困難であることがわかった。また、正と負のいずれか一方の電荷のみを繊維表面に発現させることも困難であることがわかった。
【0009】
例えば図14に示すように特許文献2に記載の樹脂製の複合繊維(100)では、芯部(101)が極性ポリマーからなり、鞘部(102)が無極性ポリマーからなる。そのため、このような複合繊維をエレクトレット化すると鞘部(102)の表面(繊維表面)には正と負の両方の電荷が存在(混在)し、芯部(101)の内部では正と負に分極している。
【0010】
例えば図15に示すように特許文献3に記載の樹脂製の複合繊維(200)では、芯部(201)が無極性ポリマーからなり、鞘部(202)が有極性ポリマーからなる。そのため、このような複合繊維をエレクトレット化すると鞘部(202)には正と負の両方の電荷が混在することになる。
【0011】
さらに特許文献4にはエアフィルタなどに使用することができるエレクトレット繊維シートが開示されている。しかし、このようなエレクトレット繊維シートの表面、特にエレクトレット繊維の表面では正極性と負極性の両方の電荷が混在するように帯電されている。
【0012】
従って、従来の樹脂繊維では、その繊維表面において正と負の両方の電荷が混在することから電荷の中和により時間の経過とともに電荷が消失し、高密度に帯電させることが困難であった。また、繊維表面に正または負のいずれか一方の表面電位のみを発現させることも困難であった。
【0013】
本発明はかかる課題に鑑みて為されたものである。即ち、本発明の主たる目的は、繊維表面において高密度に帯電させることや、繊維表面において正または負のいずれか一方の表面電位(電荷)のみを有することができる複合繊維を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明者らは、従来技術の延長線上で対応するのではなく、特に樹脂製の繊維を使用することなく、新たな方向で対処することによって、上記課題の解決を試みた。その結果、上記主たる目的が達成された複合繊維の発明に至った。
【0015】
本発明では、芯部と該芯部を覆う鞘部とを有して成る芯鞘構造を有する複合繊維であって、前記芯部が金属または導電性材を含んで成り、前記鞘部がセラミック成分を含んで成るセラミック鞘部である、複合繊維が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、繊維表面において高密度に帯電させることや、繊維表面において正または負のいずれか一方の表面電位(電荷)のみを有することができる複合繊維を得ることができる。尚、本明細書に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものでなく、また、付加的な効果があってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る複合繊維を模式的に示す概略図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る複合繊維の帯電状態(表面電位)を模式的に示す概略図である。
図3図3は、本発明の一実施形態に係る複合繊維における表面電位の測定方法を模式的に示す概略図である。
図4図4は、本発明の実施例で使用する表面電位の測定サンプルを模式的に示す概略図である。
図5図5は、本発明の実施例で使用する表面電位の測定サンプルの帯電方法を模式的に示す概略図である。
図6図6は、本発明の実施例で使用する表面電位の測定サンプルの測定ポイント(9箇所)を模式的に示す概略図(上面図)である。
図7図7は、本発明の実施例で使用する表面電位の測定サンプル(正に帯電させたサンプル)の各測定ポイントでの電位を示すグラフである。
図8図8は、本発明の実施例で使用する表面電位の測定サンプル(負に帯電させたサンプル)の各測定ポイントでの電位を示すグラフである。
図9図9は、比較例で使用する従来のエレクトレットフィルタの測定ポイント(14箇所)を示す写真である。
図10図10は、比較例で使用する従来のエレクトレットフィルタの各測定ポイントでの電位を示すグラフである。
図11図11は、本発明の実施例で作製した複合繊維を模式的に示す概略図である。
図12図12は、本発明の実施例で作製した複合繊維の帯電方法を模式的に示す概略図である。
図13図13は、本発明の実施例で作製した複合繊維の測定ポイント(4箇所)を模式的に示す概略図である。
図14図14は、従来の複合繊維(エレクトレット繊維)の帯電状態を模式的に示す概略断面図である。
図15図15は、従来の他の複合繊維(エレクトレット繊維)の帯電状態を模式的に示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、複合繊維に関する。本発明は、具体的には、エレクトレット化することができる又はエレクトレット化された複合繊維(エレクトレット繊維)に関する。より具体的には、本発明は、「芯部」と、この芯部を覆う「鞘部」とを有して成る「芯鞘構造」を有する複合繊維に関し、芯部が「金属」または「導電性材」を含んで成り、鞘部が「セラミック成分」を含んで成る「セラミック鞘部」であることを特徴とする複合繊維に関する(以下、「本開示の複合繊維」、単に「複合繊維」または「繊維」と呼ぶ場合もある)。
【0019】
本開示の複合繊維は、従来のエレクトレット繊維(樹脂製繊維)とは技術的思想が全く異なるものである。例えば、本開示の複合繊維では、芯部が「金属」または「導電性材」を含んで成ることから、このような芯部は少なくとも電気伝導性を有することができ、エレクトレット化した後、かかる芯部をアース接続(又はGND接続)すると、このような芯部を覆う「セラミック鞘部」の表面全域にわたって、鞘部が正または負のいずれか一方の表面電位のみを示すことができる。また、本開示の複合繊維では、鞘部が正または負のいずれか一方の表面電位のみを示すことから繊維表面(鞘部表面)において電荷を高密度に帯電させることができる。ひいては正または負のいずれか一方の表面電位の値を向上させることができる。
【0020】
(複合繊維)
本開示において「複合繊維」とは、概して、異なる2種類以上の材料から構成され得る繊維を意味する。本開示の複合繊維では、以下にて詳しく説明する「芯鞘構造」の「芯部」と「鞘部」とがそれぞれ別々の材料(又は主成分)から構成されていることを意味する。
【0021】
本開示において「芯鞘構造」とは、「芯部」とこの芯部を覆う「鞘部」とを少なくとも有して成る構造を意味する。本開示において鞘部は芯部の少なくとも一部を被覆していればよい。本開示において鞘部は芯部の全部を被覆していてよい。
【0022】
本開示において「芯部」とは、繊維の軸方向に垂直な断面における断面形状の幾何学的中心を含む部分である。例えば図1に示す通り、芯部1は、複合繊維10の軸方向に垂直な方向の断面の円形の中心を含む部分である(図1(B)参照)。尚、本開示の複合繊維において芯部の形状は図示する形態に限定されるものではない。
【0023】
本開示の複合繊維において「芯部」は「金属」または「導電性材」を含んで成るが、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。
【0024】
本開示において「金属」とは、以下に記載の金属元素から構成され得る金属(好ましくは金属単体)または合金を意味する。本開示の複合繊維において芯部は金属線から構成されていてもよい。
【0025】
本開示の複合繊維における芯部を構成し得る金属または合金は焼結体であってもよい。芯部において焼結体からなる金属単体を用いてよい。
【0026】
本開示において「焼結体」とは、概して、無機物(好ましくは無機物を含む組成物のペースト)を加熱処理して焼き固めた焼結体(無機固体材料)を意味する。
【0027】
「金属元素」として、例えば、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)およびプラチナ(Pt)からなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。
【0028】
本開示において「導電性材」とは電気伝導性を有する材料を意味し、電気伝導性を有するものであれば特に制限はない。
【0029】
「導電性材」は、例えば、以下に記載の「導電性フィラー」と「樹脂」とのコンポジットであることが好ましい。
【0030】
「導電性材」に含まれ得る「導電性フィラー」とは、例えば樹脂などの高分子材料に導電性を付与する(電気/電子を通りやすくする)ことのできる材料(物質)を意味し、導電性を付与することのできるものであれば特に制限はない。導電性フィラーとして、例えば、カーボン系、金属系、金属酸化物系などの導電性フィラーが挙げられる。導電性フィラーとして、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ナノカーボン材、金、銀、プラチナ、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウム、スズ、マンガン、ステンレス、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化亜鉛ニッケル、マグネシウム、タングステン、コバルト、クロム、チタンなどを使用することができる。
【0031】
「導電性材」に含まれ得る「樹脂」とは、例えば高分子材料を意味し、高分子材料であれば特に制限はなく、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などの樹脂を必要に応じて適宜使用すればよい。樹脂として、好ましくは体積抵抗率1014[Ω・m]以下の樹脂が良い。例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂、塩化ビニル系樹脂、ウレタン樹脂、ナイロン樹脂、エーテル樹脂、ポリエーテル樹脂、ケトン樹脂、全芳香族ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、メラミン樹脂、シリコン樹脂などを使用することができる。
【0032】
「導電性材」において使用する用語「コンポジット」とは、2種類以上の材料、具体的には「導電性フィラー」と「樹脂」とが複合化された材料(複合材料)を意味する。本開示においてコンポジットは2種類以上の材料を単に混合(又は配合)しただけの混合物(又は配合物)であってもよい。
【0033】
コンポジットにおける導電性フィラーと樹脂との比(導電性フィラー/樹脂)は、重量を基準として、例えば99/1~1/99、好ましくは80/20~40/60である。
【0034】
本開示の複合繊維において芯部は金属や導電性フィラーなどを含むため、外部と電気的に接続することができる。好ましくは本開示の複合繊維を帯電させた後(エレクトレット化した後)に芯部をアース接続またはGND接続することで以下にて詳しく説明する「鞘部」において(好ましくは鞘部の表面全域にわたって)正または負のいずれか一方の表面電位のみを示すことができる。
【0035】
本開示において「鞘部」とは、上記の「芯部」を覆う部分を意味し、芯部の少なくとも一部を覆うことができるものであればよい。鞘部は芯部の全部を覆っていてよい。
例えば図1に示す通り、鞘部2は、複合繊維10の芯部1を同心円状に覆う部分であってもよい(図1(B)参照)。本開示の複合繊維において鞘部の形状は図示する形態に限定されるものではない。
【0036】
本開示において「鞘部」は「セラミック鞘部」であることが好ましい。本開示において「セラミック鞘部」とは、以下に記載の「セラミック成分」を含んで成る鞘部を意味する。「セラミック鞘部」は、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。
【0037】
本開示において「セラミック成分」とは、セラミックまたはセラミック原料などの無機物(好ましくは無機物を含む組成物のペースト)を加熱処理して焼き固めた焼結体(無機固体材料)を意味する。
【0038】
「セラミック成分」として特に制限はなく、例えば、アルミナ(酸化アルミニウム)、ジルコニア(酸化ジルコニウム)、リン酸三カルシウム、アパタイトなどのセラミックスが挙げられる。なかでもセラミックス系バイオマテリアルとして使用されるものを使用することが好ましい。特にバイオマテリアルとして生体親和性を有するとともに高い機械的強度や破壊靭性、優れた電子物性などを有するアパタイトを使用することが好ましい。このような場合、アパタイトはバイオマテリアルとして知られているセラミックスであるにもかかわらずエレクトレット繊維などの繊維分野において用いられる点で特異性がある。
【0039】
「アパタイト」(apatite)は、リン酸カルシウム系機能性無機材料として知られているセラミックスであり、リン(P)とカルシウム(Ca)を主成分とする。アパタイトは、概して、高い機械的強度や破壊靭性を有し、電子物性、生体親和性、イオン交換性、表面吸着性、光学性などに優れる。
本開示の複合繊維では、このような材料を芯鞘構造の鞘部に使用することで高い機械的強度や破壊靭性を鞘部に与えるとともに電荷保持能力の発現・制御などの電子物性を繊維に与えることができる。
【0040】
「アパタイト」として、フルオロアパタイト、クロロアパタイトおよびハイドロキシアパタイトからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。なかでも特にハイドロキシアパタイトを使用することが好ましい。ハイドロキシアパタイトはバイオマテリアルとして知られているセラミックスであるにもかかわらずエレクトレット繊維などの繊維分野に用いられる点で特異性がある。ハイドロキシアパタイトは高い機械的強度や破壊靭性だけでなく電荷保持能力などの優れた電子物性を与えることができる。
【0041】
「フルオロアパタイト」(FAp)(fluorapatite)は、化学式:Ca(POFで示され、「フッ素アパタイト」、「フッ素リン灰石」とも呼ばれる。
【0042】
「クロロアパタイト」(CAp)(chlorapatite)は、化学式:Ca(POClで示され、「塩素アパタイト」、「塩素リン灰石」とも呼ばれる。
【0043】
「ハイドロキシアパタイト」(HAp)(hydroxyapatite)は、化学式:Ca(POOHで示され、「水酸アパタイト」、「水酸リン灰石」とも呼ばれる。
【0044】
「セラミック鞘部」は、アパタイト単体(上記アパタイトの単体、好ましくはハイドロキシアパタイト単体)あるいはアパタイト(上記アパタイト、好ましくはハイドロキシアパタイト)と樹脂とのコンポジットから構成されることが好ましい。セラミック鞘部がアパタイトと樹脂とのコンポジットから構成されることがより好ましい。あるいはセラミック鞘部は焼結体から構成されていてもよい。
【0045】
「セラミック鞘部」に含まれ得る「樹脂」とは、例えば高分子材料を意味し、高分子材料であれば特に制限はなく、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などの樹脂を必要に応じて適宜使用すればよい。樹脂として、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アクリロニトリル樹脂などを使用することができる。また前記の樹脂材料にヒンダードアミン系添加物、もしくはトリアジン系添加物を1種類以上配合したものでも良い。
【0046】
「セラミック鞘部」において使用する用語「コンポジット」とは、2種類以上の材料、具体的には「アパタイト」と「樹脂」とが複合化された材料(複合材料)を意味する。本開示においてコンポジットは2種類以上の材料を単に混合(又は配合)しただけの混合物(又は配合物)であってもよい。
【0047】
コンポジットにおけるアパタイトと樹脂との比(アパタイト/樹脂)は、体積を基準として、例えば99/1~1/99、好ましくは64/36~1/99、より好ましくは30/70~1/99、さらにより好ましくは20/80~1/99の範囲内である。
【0048】
本開示の複合繊維において鞘部が上記のセラミック成分(特にアパタイト)を含むことから本開示の複合繊維を帯電させた後(エレクトレット化した後)に芯部をアース接続またはGND接続することで鞘部の表面全域にわたって正または負のいずれか一方の表面電位のみを示すことができる。従って、鞘部の表面は正負のいずれかに帯電していることから、繊維表面において正と負の電荷が中和して消失することがなく、電荷を繊維表面に高密度に帯電させることができ、繊維の電気的特性が向上する。また、本開示の複合繊維によると、表面電位の極性の選択や表面電位の大きさを制御することもできる。
【0049】
本開示において「表面電位」とは、複合繊維の表面、特に鞘部の表面に発生し得る電位を意味する。表面電位は、例えば、電気力顕微鏡(Electric Force Microscope (EFM))により測定することができる。本開示の複合繊維の表面電位は、例えば芯部をアース接続した後(換言するとGND接続した後)、電気力顕微鏡(EFM)にて測定することが好ましい。
【0050】
本開示の複合繊維の表面(好ましくは鞘部の表面)に発生し得る表面電位は、例えば1mV以上であり、好ましくは20V以上、より好ましくは50V以上、さらにより好ましくは70V以上、特に好ましくは100V以上である。表面電位の上限値は、例えば2000V以下、好ましくは1000V以下、より好ましくは500V以下、さらにより好ましくは450V以下、特に好ましくは350V以下または300V以下である。本開示の複合繊維において表面電位は正の値であっても負の値であってもよい。
【0051】
本開示の複合繊維において、芯部と鞘部の体積比(芯部/鞘部)に特に制限はなく、例えば1/99~99/1の範囲内である。
また、本開示の複合繊維において、芯部と鞘部の重量比(芯部/鞘部)に特に制限はなく、例えば1/99~99/1の範囲内である。
【0052】
本開示の複合繊維の繊維径は、例えば10μm以上200μm以下である。ここで、本開示の複合繊維の「繊維径」とは、繊維の軸方向に垂直な方向での断面における最大の寸法(例えば直径)を意味する。
【0053】
本開示の複合繊維は「エレクトレット繊維」であることが好ましい。本開示において「エレクトレット繊維」とは、エレクトレット化することができる繊維およびエレクトレット化された後の繊維の両方を意味する。
【0054】
本開示において「エレクトレット化」とは、電気を帯びさせること(帯電化)を意味し、具体的には帯電処理を施すことなどを意味する。帯電処理に特に制限はなく、従来公知の帯電方法を適宜使用することができる。例えば、電界処理、好ましくは電界印加などを使用することができる。
【0055】
(本発明の実施形態)
本発明の一実施形態に係る複合繊維を図1に示す。本発明は図示する実施形態に限定されるものではない。
【0056】
図1(A)は、本発明の一実施形態に係る複合繊維10を模式的に示す概略斜視図である。複合繊維10は、芯部1と鞘部2から構成され得る芯鞘構造を有する。
【0057】
図1(B)は、複合繊維10の軸方向に垂直な方向の断面を示す。図示する実施形態では、芯部1と鞘部2とが共に略円形の断面を有していて略同心円状に配置されている。尚、本開示の複合繊維において、芯部1および鞘部2の断面の形状に特に制限はない。芯部1および鞘部2は、任意の幾何学的形状、例えば、円形、楕円形、矩形、異形などの断面形状を有していてもよい。
【0058】
図1(C)は、図1(B)のX-X’の断面(複合繊維10の軸方向の断面)を示す。
【0059】
このように図示する実施形態では鞘部2が芯部1をその軸方向および周方向のいずれにおいても全体的に被覆している。尚、本開示の複合繊維において鞘部は芯部の少なくとも一部を被覆していればよい。
【0060】
鞘部2の厚みに特に制限はなく、芯部1の直径と同一であっても、芯部1の直径よりも小さくてもよく、芯部1の直径よりも大きくてもよい。芯部1の直径/鞘部2の厚みの比は、例えば99/1~1/99、好ましくは99/1~50/50または50/50~1/99、より好ましくは99/1~51/49または49/51~1/99の範囲内である。鞘部2の厚みは、例えば10mm以下、好ましくは5mm以下、より好ましくは1mm以下である。
【0061】
図2は、本発明の一実施形態に係る複合繊維10が帯電した状態を模式的に示す概略図である。
【0062】
図2(A)は、エレクトレット化された複合繊維10の鞘部2(繊維表面)が負(-)に帯電した状態を示す。このとき芯部1はアース接続またはGND接続されていて、鞘部2の表面全域にわたって(軸方向および周方向のいずれにおいても)鞘部2が負(-)の表面電位のみを示すことができる。尚、このような帯電状態は、例えば、エレクトレット化の際に本開示の複合繊維において鞘部2が負(-)に帯電するように電界を印加することにより達成することができる。
【0063】
図2(B)は、エレクトレット化された複合繊維10の鞘部2(繊維表面)が正(+)に帯電した状態を示す。このとき芯部1はアース接続またはGND接続されていて、鞘部2の表面全域にわたって(軸方向および周方向のいずれにおいても)鞘部2が正(+)の表面電位のみを示すことができる。尚、このような帯電状態は、例えば、エレクトレット化の際に本開示の複合繊維において鞘部2が正(+)に帯電するように電界を印加することにより達成することができる。
【0064】
このように本発明では芯部をアースに接地またはGND接続して鞘部の表面電位を測定したときに面内(鞘部)のどの部分においても片側極性の表面電位を示すことができる。
すなわち、このように本開示の複合繊維では繊維表面(鞘表面)のどの部分を測定しても表面電位が片側極性を示すことから表面電荷は片側極性に偏在、もしくは片側極性が優勢であると言える。
このようなことから本開示の複合繊維では繊維表面において静電気力が打ち消されず、エレクトレットの電気的特性が向上する。
また、本発明によれば表面電位の極性や大きさなどを制御することができることから所望の繊維(特にエレクトレット繊維)を設計することができる。
【0065】
図3は、複合繊維10の表面電位の測定方法の一例を模式的に示す概略図である。複合繊維10の表面電位の測定は、少なくとも以下の工程(a)、(b)および(c)を含む方法で測定することができる。
(a)エレクトレット化された複合繊維10を固定する工程(ステップ)
(b)複合繊維10の芯部1をアース接続またはGND接続する工程(ステップ)
(c)電気力顕微鏡(EFM)により複合繊維10の表面電位を測定する工程(ステップ)
【0066】
工程(a)
工程(a)では、エレクトレット化された複合繊維10を固定する。例えば、複合繊維10の両端を剛体の治具で挟むことで複合繊維10を固定することができる。このとき複合繊維10に張力をかけてもよい。
【0067】
工程(b)
工程(b)では、複合繊維10の芯部1をアース接続またはGND接続する。尚、この工程は、工程(a)の前に行ってもよい。
【0068】
工程(c)
工程(c)では、電気力顕微鏡(EFM)により複合繊維10の表面電位(鞘部2の表面電位)を測定する。例えば、電気力顕微鏡のプローブが複合繊維10の軸方向(A-A’方向)および周方向(B-B’方向)の両方を走査することで鞘部2の表面電位を表面全域にわたって測定することができる。
【0069】
あるいは電位計(例えば川口電機製作所製、S2002A)を用いて複合繊維の表面電位を測定してもよい。このとき繊維表面から3mmの間隔をあけて測定した電位を複合繊維の表面電位とする。
【0070】
(本開示の複合繊維の製造方法)
本開示の複合繊維は少なくとも「芯部」と「鞘部」とを含み、この「芯部」と「鞘部」が一体的に互いに隣接して形成または製造されることが好ましい。
【0071】
本開示の複合繊維の製造方法に特に制限はなく、例えば、従来公知のセラミックの焼成技術などを応用して本開示の複合繊維を適宜製造することができる。
【0072】
例えば、上記の金属元素を含む原材料を必要に応じて焼結助剤や共材、バインダー(樹脂)(例えば、エチルセルロース、セルロースアセテートブチレート、ポリビニルブチラール)、分散剤(例えば、ポリカルボン酸系分散剤)、可塑剤、溶剤(例えば、ブチルカルビトール、トルエン)などとともにペーストにしたもの(芯部用ペースト)と、上記のセラミック成分の原材料(セラミックまたはセラミック原料)を必要に応じて焼結助剤や共材、バインダー(樹脂)(例えば、エチルセルロース、セルロースアセテートブチレート、ポリビニルブチラール)、分散剤(例えば、ポリカルボン酸系分散剤)、可塑剤、溶剤(例えば、ブチルカルビトール、トルエン)などとともにペーストにしたもの(鞘部用ペースト)をそれぞれ準備した後、例えば適切に成形して、例えば共に焼成することで芯部と鞘部とが一体的に隣接して形成された複合繊維を製造することができる。このとき、例えば多重ノズル(二重ノズル、三重ノズルなどの複合紡糸用ノズル)や成形型などを用いて各ペーストを所望の形状に成形してもよい。
【0073】
本開示の複合繊維の芯部および鞘部がいずれも焼結体を含んでいてよい。換言すると、芯部および鞘部はいずれも焼結体から構成されていてよい。好ましくは芯部および鞘部はいずれも焼結体である。複合繊維の芯部および鞘部がいずれも焼結体を含むことによって、複合繊維の表面、特に鞘部の表面において、より高密度に帯電させることができる。ひいては、100V以上、好ましくは300V以上の電位を達成することができる。
【0074】
また、芯部や鞘部においてコンポジットを使用する場合(例えば、芯部で導電性フィラーと樹脂とのコンポジットを使用する場合や、鞘部でアパタイトと樹脂とのコンポジットを使用する場合など)、各コンポジットのペーストを準備した後、例えば多重ノズル(二重ノズル、三重ノズルなどの複合紡糸用ノズル)や成形型などを用いて各ペーストを所望の形状に成形することで本開示の複合繊維を製造してもよい。
【0075】
尚、芯部が金属である場合、所望の形状の金属線や金属板などを使用してもよい。
【0076】
本開示の複合繊維の製造方法は上記のものに限定されない。
【0077】
(用途)
本開示の複合繊維は糸として用いてもよい。糸として、例えば、複数の繊維を単に引きそろえただけの糸(引きそろえ糸)であってもよく、撚りをかけた糸(撚り合わせ糸)であってもよい。尚、撚り合わせ方法に特に制限はなく、従来公知の方法を使用することができる。本開示の複合繊維は、このような糸の状態でエレクトレット化してもよい。
【0078】
また、本開示の複合繊維は、このような糸を含んで成るフィルタや布(例えば、織物、編物、不織布)などとして提供することもできる。本開示の複合繊維は、エレクトレットフィルタとして用いられることが好ましい。集塵用、花粉対策用、抗菌用、抗ウイルス用のエレクトレットフィルタなどとして用いることができる。
【0079】
本開示の複合繊維は上記の実施形態に限定されるものではない。以下、実施例により本開示の複合繊維についてさらに詳しく説明する。
【実施例
【0080】
実施例1
実施例1では、以下の「芯部用の金属線」および「鞘部用のペースト」を用いて図1に示す形状の複合繊維を作製した。
<芯部用の金属線>
芯部用の金属線として銅線(Cu)を準備した(直径:0.1mm)。
<鞘部用のペースト>
アパタイト/ポリアミドイミド系材料(樹脂)(体積比率:20/80)を湿式混合することによって鞘部用のペーストを調製した。
【0081】
ノズルを用いた押出成形法に準じて銅線(芯部用の金属線)のまわりに鞘部用のペーストを被覆させて芯鞘構造を有する複合繊維の成形体を作製した。次いで、250℃~300℃の温度で加熱することで芯部が銅(Cu)からなり、鞘部がハイドロキシアパタイト(HAp)を含んで成るコンポジットからなる複合繊維を製造した(芯部の直径:0.1mm、鞘部の厚み:0.1mm)。
【0082】
実施例1で作製した複合繊維に電界を印加して鞘部を負(-)に帯電させた後に芯部をアース接続して電気力顕微鏡(EFM)により表面電位を測定すると鞘部の表面全体が負(-)のみで帯電していることがわかった(図2(A))。
【0083】
また、同様に実施例1で作製した複合繊維に電界を印加して鞘部を正(+)に帯電させた後に芯部をアース接続して電気力顕微鏡(EFM)により表面電位を測定すると鞘部の表面全体が正(+)のみで帯電していることがわかった(図2(B))。
【0084】
実施例2
実施例2では本開示の複合繊維から構成されるエレクトレットフィルタを模した表面電位の測定サンプルを作製し、その表面電位を測定した。
【0085】
<測定サンプルの作製>
図4に示す通り、本開示の複合繊維の芯部に対応し得る金属層(又は導電層)21の両面に鞘部に対応し得るセラミック層22(22a、22b)が配置された表面電位の測定サンプル20(円盤形状、直径:8mm)を作製した。
尚、図4(A)は測定サンプル20の概略斜視図であり、図4(B)は測定サンプル20の概略断面図である(直径部分の積層方向での断面を示す)。
【0086】
本実施例では、金属層21は銅(Cu)から構成され(厚み:0.1mm)、セラミック層22a、22bはそれぞれハイドロキシアパタイト(HAp)から構成されている(厚み:1mm)。尚、セラミック層22a、22bは、実施例1で使用した鞘部用のペーストから作製した。
【0087】
<エレクトレット化>
例えば図5に示す通り、測定サンプル20を2つの電極(30A(アルミニウム(Al)の負極(-))、30B(アルミニウム(Al)の正極(+)))の間に配置した。このとき、セラミック層(HAp)22aと負極(Al)30Aとの間には、サブ電極層31aとして銅箔(銅テープ)および絶縁層32としてシリコーンゴムのフィルムを配置した。セラミック層(HAp)22bと正極(Al)30Bとの間にはサブ電極層31bとして銅箔(銅テープ)を配置した。また、測定サンプル20の金属層(Cu)21は、負極(Al)30Aと電気的に接続されていた。
【0088】
以下の電界印加条件で測定サンプル20に電界を印加してエレクトレット化を行った。
電界印加条件
温度 :200℃
電圧 :1000V
電界強度:10kV/cm
印加時間:1時間
【0089】
本実施例では、上記のようにセラミック層22a、22bをともに正(+)に帯電させた(以下、「サンプルA」と呼ぶ)。さらに他の同じ測定サンプルを用いて、電極(30A、30B)の極性を逆にして電界を印加することにより(30A:正極(+)、30B:負極(-))、セラミック層22a、22bをともに負(-)に帯電させた(以下、「サンプルB」と呼ぶ)。
【0090】
<表面電位の測定>
「サンプルA」および「サンプルB」について、金属層21をアース接続した後、それぞれ表面電位を測定した。
具体的には、測定サンプル20の上面から3mmの間隔をあけて、図6(上面図)に示す9箇所の測定ポイント1~9で電位計(川口電機製作所製、S2002A)を用いて各ポイントでの電位を測定した。また、測定サンプル20の下面から3mmの間隔をあけて同様に表面電位を測定ポイント1~9において測定した。
尚、測定ポイントの間隔は等しく、3mmであった。
【0091】
「サンプルA」(セラミック層(+))を用いて測定した結果を図7に示す。
「サンプルA」では、上下面のいずれにおいても、測定ポイント1~9において正(+)の電位のみを示した(上面:細線、下面:太線)。
【0092】
「サンプルB」(セラミック層(-))を用いて測定した結果を図8に示す。
「サンプルB」では、上下面のいずれにおいても、測定ポイント1~9において負(-)の電位のみを示した(上面:細線、下面:太線)。
【0093】
図7および図8の結果から、本発明によると正(+)または負(-)のいずれか一方の表面電位のみが得られることが実証された。
【0094】
比較例1
比較用のエレクトレットフィルタとして「3Mフィルタレット」(空気清浄フィルタ[エアコン用])を準備した。
図9に示すように、巻き内側の14箇所(1cm間隔)および巻き外側の14箇所(1cm間隔)(図示せず)において電位計(川口電機製作所製、S2002A)を用いて各ポイントで電位を測定した(表面からの距離:3mm)。結果を図10に示す。
【0095】
図10に示すグラフから比較例1のエレクトレットフィルタでは、巻き外側、巻き内側のいずれにおいても正の電位と負の電位とが混在していることがわかった。
【0096】
比較例1と実施例2との比較から、比較例1では正と負の電位が混在しているのに対して本発明の実施例2では正(+)または負(-)のいずれか一方の表面電位のみを示す。
【0097】
本発明の実施例1および実施例2のように正または負のいずれか一方の表面電位のみが存在する場合には、正と負の電荷が打ち消しあって電荷が中和して消失することがないので、繊維表面(特にエレクトレットフィルタの表面)を高密度に帯電させることができた。
【0098】
実施例3
実施例3では、以下の「芯部用のペースト」および「鞘部用のペースト」を用いて図1に示す形状と同様の形状を有する複合繊維(サンプル)40を作製した(図11参照)。
【0099】
<芯部用ペーストの調製>
芯部用ペーストは、プラチナ(Pt)粉末と、バインダー樹脂と、有機溶剤とを含んで成る。プラチナ(Pt)粉末の平均粒径は1.0μmのものを用いた。バインダ-樹脂として、例えば、ブチルカルビトールに樹脂を溶解した樹脂溶液が用いられる。ブチルカルビトールに溶解される樹脂としては、例えば、エチルセルロース、セルロースアセテートブチレート等が用いられる。
芯部用ペーストの調製に当たっては、プラチナ(Pt)粉末(平均粒径1.0μm)を50重量部と、ブチルカルビトールにエチルセルロースを10重量部溶解した樹脂溶液と、残部としてブチルカルビトールとを調合し、ボールミルにより芯部用ペーストを調製した。
【0100】
<鞘部用ペーストの調製>
鞘部用ペーストは、ハイドロキシアパタイト(HAp)粉末と、ポリビニルブチラール系バインダー樹脂と、トルエンなどの有機溶剤とを含んで成る。ハイドロキシアパタイトの平均粒径は300nmのものを用いた。
鞘部用ペーストの調製に当たっては、ハイドロキシアパタイト(平均粒径300nm)を82重量部と、ポリビニルブチラールを18重量部と、トルエンとを調合し、ボールミルにより鞘部用ペーストを調製した。
【0101】
<複合繊維前駆体の作製>
芯部用ペーストおよび鞘部用ペーストを用いて二重ノズルを通して同心円状に芯部用ペーストと鞘部用ペーストとが配置された円形断面を有する「複合繊維前駆体」を作製した(中心部:芯部用ペースト、外側部:鞘部用ペースト、断面積比(金属(Pt)/セラミック(HAp)):1/1)。
【0102】
<焼成>
「複合繊維前駆体」を以下の条件で焼成することで芯部41と鞘部42とが互いに隣接して成る複合繊維(サンプル)40を製造した(図11参照)(芯部41の直径:0.1mm、鞘部42の厚み:0.1mm)。
【0103】
(焼成条件)
空気中300℃、10時間の条件で脱脂処理した後、空気中、トップ温度1400℃、2時間の条件で焼成した。
【0104】
<エレクトレット化>
図12に示す通り、複合繊維(サンプル)40の鞘部電極44として銅箔(銅テープ)および絶縁体43としてシリコーンゴムのフィルムを配置した。複合繊維40の芯部(Pt)41に負極を接続し、鞘部電極44に正極を接続し、以下の電界印加条件で複合繊維40に電界を印加してエレクトレット化を行った。本実施例では、鞘部(HAp)42を正(+)に帯電させた。
【0105】
電界印加条件
温度 :200℃
電圧 :2000V
印加時間:1時間
【0106】
<表面電位の測定>
複合繊維(サンプル)40から絶縁体43および鞘部電極44を取り外した後、芯部41をアース接続して複合繊維40の表面電位を測定した。具体的には複合繊維40の外周から3mmの間隔をあけて図13に示す周方向の4箇所の測定ポイント1~4(90°間隔)(上下左右)において電位計(川口電機製作所製、S2002A)を用いて電位を測定した。
【0107】
複合繊維(サンプル)40を用いて測定した表面電位の測定結果を以下の表1に示す。
複合繊維40では、測定ポイント1~4において、上下左右のいずれにおいても、正(+)の電位のみを示した。
【0108】
【表1】
【0109】
比較例2
比較例2では、以下の「芯部用の金属線」および「従来のエレクトレットフィルタ」を用いて図1に示す形状に類似した形状を有する比較用の複合繊維を作製した。
<芯部用の金属線>
芯部用の金属線として銅線(Cu)を準備した(直径:0.1mm)。
<従来のエレクトレットフィルタ>
エレクトレットフィルタとして「3Mフィルタレット」(空気清浄フィルタ[エアコン用])を準備した。
【0110】
芯部用の銅線(Cu)にエレクトレットフィルタ(3Mフィルタレット)を巻き付けて固定した。従来のエレクトレットフィルタの巻き外側を上側(表面)にして巻き付けたものと、巻き内側を上側(表面)にして巻き付けたものをそれぞれ用意した。
芯部(銅線(Cu))をアース接続(GND接続)した後、電位計(川口電機製作所製、S2002A)を用いて繊維の軸方向に沿って14箇所(1cm間隔)において表面電位を測定した(表面からの距離:3mm)。
図10に示す結果と同様にエレクトレットフィルタの巻き外側および巻き内側のいずれの面においても正の電位と負の電位とが混在していることがわかった。
【0111】
比較例2と実施例3との比較から、比較例2では正と負の電位が混在しているのに対して本発明の実施例3では正(+)または負(-)のいずれか一方の表面電位のみを示す。
【0112】
本発明の実施例3のように正または負のいずれか一方の表面電位のみが存在する場合には、正と負の電荷が打ち消しあって中和して消失することがないので、繊維表面(特にエレクトレットフィルタの表面)を高密度に帯電させることができた。
【0113】
このように本発明によると表面電位を正または負のいずれか一方に選択することができ、しかも表面電位の大きさについて任意に制御することができる。
また、本発明によると繊維の電気的特性が向上するのでエレクトレットフィルタなどに使用した場合、使用する繊維の量を低減することができ、ひいてはフィルタの目詰まり(圧力損失)などを改善することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本開示の複合繊維は、エレクトレット繊維として使用することができる。
また、本開示の複合繊維は、糸、布(例えば、織物、編物、不織布)などに加工して使用することができる。
本開示の複合繊維は、糸、布として、あるいはフィルタ、特にエレクトレットフィルタとして使用することができる。
【符号の説明】
【0115】
1,101,201 芯部
2,102,202 鞘部
10,40 複合繊維
20 測定サンプル
21 金属層(または導電層)
22 セラミック層
30 電極
31 サブ電極層
32 絶縁層
41 芯部(Pt)
42 鞘部(HAp)
43 絶縁体
44 鞘部電極
100 従来の複合繊維
200 従来の他の複合繊維
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15