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特許7173478面発光レーザ素子及び面発光レーザ素子の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】面発光レーザ素子及び面発光レーザ素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/18 20210101AFI20221109BHJP
   H01S 5/343 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
H01S5/18
H01S5/343 610
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017247048
(22)【出願日】2017-12-22
(65)【公開番号】P2019114663
(43)【公開日】2019-07-11
【審査請求日】2020-11-18
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「高輝度・高効率次世代レーザー技術開発/次々世代加工に向けた新規光源・要素技術開発/フォトニック結晶レーザーの短パルス化・短波長化」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願」
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001025
【氏名又は名称】弁理士法人レクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野田 進
(72)【発明者】
【氏名】田中 良典
(72)【発明者】
【氏名】デ ゾイサ メーナカ
(72)【発明者】
【氏名】小泉 朋朗
(72)【発明者】
【氏名】江本 渓
【審査官】百瀬 正之
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-067182(JP,A)
【文献】国際公開第2016/148075(WO,A1)
【文献】特開2003-023193(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0268291(US,A1)
【文献】特開2012-015228(JP,A)
【文献】特開2011-035078(JP,A)
【文献】特開2014-197659(JP,A)
【文献】特開2013-135001(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0044365(US,A1)
【文献】YOSHIDA et al.,Elliptical Double-Hole Photonic-Crystal Surface-Emitting Lasers,2017 Conference on Lasers and Electro-Optics Pacific Rim(CLEO-PR),米国,IEEE,2017年07月
【文献】KAWASHIMA et al.,GaN-based surface-emitting laser with two-dimensional photonic crystal acting as distributed-feedbac,APPLIED PHYSICS LETTERS,米国,American Institute of Physics,2010年12月22日,Vol.97,p.251112
【文献】YOKOYAMA et al.,Polarization Mode Control of Two-Dimensional Photonic Crystal Laser Having a Square Lattice Structur,IEEE JOURNAL OF QUANTUM ELECTRONICS,米国,IEEE,2003年09月,VOL.39, NO.9,pp.1074-1080
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
IEEE Xplore
Scitation
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MOVPE法によりIII族窒化物半導体からなる面発光レーザを製造する製造方法であって、
(a)基板上に第1導電型の第1のクラッド層を成長する工程と、
(b)前記第1のクラッド層上に前記第1導電型の第1のガイド層を成長する工程と、
(c)前記第1のガイド層に、エッチングにより前記第1のガイド層に平行な面内において互いに垂直な2軸を配列方向として正方格子位置に周期的に配された穴部を形成する工程と、
(d)III族原料及び窒素源を含むガスを供給して、前記穴部の上部を表面が平坦となるよう塞ぐ工程と、を有し、
前記工程(d)は、
(d1)III族原料及び窒素源を含むガスを供給して、前記穴部の前記上部にファセットを有する凹部が形成されるように成長を行って、前記穴部の前記上部を塞ぐ工程と、
(d2)前記穴部の前記上部を塞いだ後、マストランスポートによって前記凹部を平坦化する工程と、を有し、
前記穴部は、前記第1のガイド層に平行な面内において長軸及び前記長軸に垂直な短軸を有する多角形状又は長円形状を有する多角柱又は長円柱構造を有し、前記穴部の前記長軸の方向は<11-20>方向であり、前記長軸は前記穴部の前記配列方向のうちの1軸に対して傾き角θだけ傾いている製造方法。
【請求項2】
前記穴部の上部を塞ぐ工程(d1)及び前記平坦化する工程(d2)により、前記穴部は前記第1のガイド層に埋め込まれた空孔として形成され、前記第1のガイド層に平行な面は(0001)面であり、前記空孔は前記長軸に平行な{10-10}面である2つの側面を有する請求項に記載の製造方法。
【請求項3】
前記空孔は、前記2つの側面以外の4つの側面が{10-10}面である六角柱構造を有する請求項に記載の製造方法。
【請求項4】
前記傾き角θは、30°≦θ≦45°を満たす請求項1ないし3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記穴部は、底部に{1-102}ファセットを有する請求項1ないし4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記穴部の上部を塞ぐ工程(d1)及び前記平坦化する工程(d2)により、前記穴部は前記第1のガイド層に埋め込まれた空孔として形成され、
前記空孔は、前記長軸長を前記短軸長で除した値が1.4以上3.0以下である長六角形状又は長円形状を有する請求項1ないし5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記穴部の上部を塞ぐ工程(d1)及び前記平坦化する工程(d2)により、前記穴部は前記第1のガイド層に埋め込まれた空孔として形成され、
前記傾き角θは、30°≦θ≦45°を満たし、
前記空孔は前記第1のガイド層に平行な面内において長六角形状又は長円形状を有し、
前記空孔を含んで形成されるフォトニック結晶層のフィリングファクタが6%以上12%以下である請求項1ないし3、5及び6のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面発光レーザ素子及び面発光レーザ素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フォトニック結晶を用いた面発光レーザの開発が進められており、例えば、特許文献1には、融着貼り付けを行なわずに製造することを目的とした半導体レーザ素子について開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、フォトニック結晶の微細構造をGaN系半導体に作製する製造法が開示されている。非特許文献1には、減圧成長により横方向成長の速度を高め、フォトニック結晶を作製することが開示されている。
【0004】
また、非特許文献2には、フォトニック結晶レーザの面内回折効果と閾値利得差について開示され、非特許文献3は、正方格子フォトニック結晶レーザの三次元結合波モデルについて開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5082447号公報
【文献】特許第4818464号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】H. Miyake et al. : Jpn. J. Appl. Phys. Vol.38(1999) pp.L1000-L1002
【文献】田中他、2016年秋季応用物理学会予稿集15p-B4-20
【文献】Y. Liang et al.:Phys. Rev.B Vol.84(2011)195119
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フォトニック結晶を備えた面発光レーザにおいて、高い共振効果を得るためには、フォトニック結晶層における回折効果を高めることが求められる。すなわち、回折効果を高めるためには、フォトニック結晶における2次元的な屈折率周期が均一であること、フォトニック結晶における異屈折率領域の母材に対する占める割合(フィリングファクタ)が大きいこと、フォトニック結晶中に分布する面垂直方向の光強度(光フィールド)の割合(光閉じ込め係数)が大きいこと、などが求められる。
【0008】
また、フォトニック結晶レーザにおいて、安定な単一横モード動作が得られることが望ましい。特に、高出力動作において、高次横モードが抑制され、安定な単一横モード動作が得られることが望ましい。
【0009】
本発明は上記した点に鑑みてなされたものであり、均一な屈折率周期を有し、高い回折効果を有するフォトニック結晶を備えた面発光レーザ及びその製造方法を提供することを目的としている。また、フィリングファクタが大きく、また大きな光閉じ込め係数を有するフォトニック結晶を備えた面発光レーザ及びその製造方法を提供することを目的としている。
【0010】
さらに、高次横モードが抑制され、高出力動作においても安定な単一横モード動作が得られ、ビーム品質の高い面発光レーザ及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の1実施態様による面発光レーザは、III族窒化物半導体からなる面発光レーザであって、
第1導電型の第1のクラッド層と、
前記第1のクラッド層上に形成された前記第1導電型の第1のガイド層と、
前記第1のガイド層上に形成された発光層と、
前記発光層上に形成された第2のガイド層と、
前記第2のガイド層上に形成された前記第1導電型と反対導電型の第2導電型の第2のクラッド層と、を有し、
前記第1のガイド層または前記第2のガイド層は、当該ガイド層に平行な面内において互いに垂直な2軸を配列方向として正方格子位置に周期的に配された空孔を内部に有し、
前記空孔は、前記平行な面内において長軸及び前記長軸に垂直な短軸を有する多角形状又は長円形状を有する多角柱構造又は長円柱構造を有し、前記長軸は前記空孔の前記配列方向のうちの1軸に対して傾き角θだけ傾いている。
【0012】
本発明の他の実施態様による製造方法は、MOVPE法によりIII族窒化物半導体からなる面発光レーザを製造する製造方法であって、
(a)基板上に第1導電型の第1のクラッド層を成長する工程と、
(b)前記第1のクラッド層上に前記第1導電型の第1のガイド層を成長する工程と、
(c)前記第1のガイド層に、エッチングにより前記第1のガイド層に平行な面内において互いに垂直な2 軸を配列方向として正方格子位置に周期的に配された穴部を形成する工程と、
(d)III族原料及び窒素源を含むガスを供給して、前記穴部の上部表面が平坦となるよう塞ぐ工程と、を有し、
前記穴部は、前記第1のガイド層に平行な面内において長軸及び前記長軸に垂直な短軸を有する多角形状又は長円形状を有する多角柱又は長円柱構造を有し、前記穴部の前記長軸の方向は<11-20>方向であり、前記長軸は前記穴部の前記配列方向のうちの1軸に対して傾き角θだけ傾いている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】フォトニック結晶層を備えた面発光レーザの構造の一例を模式的に示す断面図である。
図2A】フォトニック結晶層及びフォトニック結晶層中に配列された空孔14Cを模式的に示す断面図である。
図2B】n-ガイド層に平行な面における空孔の配列を模式的に示す平面図である。
図2C】楕円率ER=長径/短径(=a/b)を示す図である。
図3A】傾き角θが0°の場合の、楕円率ERに対する結合係数κ3を、FFをパラメータとしてプロットした図である。
図3B】傾き角θが0°の場合の、楕円率ERに対する結合係数κ2Dを、FFをパラメータとしてプロットした図である。
図4A】傾き角θが15°の場合の、楕円率ERに対する結合係数κ3を、FFをパラメータとしてプロットした図である。
図4B】傾き角θが15°の場合の、楕円率ERに対する結合係数κ2Dを、FFをパラメータとしてプロットした図である。
図5A】傾き角θが30°の場合の、楕円率ERに対する結合係数κ3を、FFをパラメータとしてプロットした図である。
図5B】傾き角θが30°の場合の、楕円率ERに対する結合係数κ2Dを、FFをパラメータとしてプロットした図である。
図6A】傾き角θが45°の場合の、楕円率ERに対する結合係数κ3を、FFをパラメータとしてプロットした図である。
図6B】傾き角θが45°の場合の、楕円率ERに対する結合係数κ2Dを、FFをパラメータとしてプロットした図である。
図7A】FFが8%の場合の、楕円率ERに対する結合係数κ3を、傾き角θをパラメータとしてプロットした図である。
図7B】FFが8%の場合の、楕円率ERに対する結合係数κ2Dを、傾き角θをパラメータとしてプロットした図である。
図8A】空孔断面形状が六角形状の場合の空孔14Cの配列を示す図である。
図8B】空孔14Cの形状を拡大して示す図である。
図9】フォトニック結晶層14Pに平行な面内において長円形状を有する空孔14Cを示す図である。
図10】埋込前の空孔の断面を示すSEM像(a1)及び埋込後の空孔の断面を示すSEM像(a2)である。
図11】空孔CHの埋め込み工程の概要を模式的に示す断面図である。
図12】比較例1としての空孔14Dの形成について示すSEM像である。
図13】比較例2としての空孔14Dの形成について示すSEM像である。
図14A】傾き角θ=45°、FF=10%の場合の、長軸長/短軸長に対する結合係数κ3を、断面形状が楕円形状及び長六角形形状の場合についてプロットした図である。
図14B】傾き角θ=45°、FF=10%の場合の、長軸長/短軸長に対する結合係数κ2Dを、断面形状が楕円形状及び長六角形形状の場合についてプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下においては、本発明の好適な実施例について説明するが、これらを適宜改変し、組合せてもよい。また、以下の説明及び添付図面において、実質的に同一又は等価な部分には同一の参照符を付して説明する。
[フォトニック結晶面発光レーザの閾値利得]
フォトニック結晶を有する面発光レーザにおいて、高出力動作をさせる場合、基本横モード(以下、単に基本モードともいう。)のみならず高次横モード(以下、単に高次モードともいう。)の発振が生じ、多モード化する。基本モード性を保ったまま、高出力動作を実現するためには、基本モードと高次モードとの閾値利得差を大きくする必要がある。
【0015】
一般的に、フォトニック結晶面発光レーザ(以下、単にフォトニック結晶レーザともいう。)において、共振器内部の回折格子の回折効率は結合係数κで表され、結合係数κが大きいほど閾値利得は小さくなる。
【0016】
フォトニック結晶面発光レーザにおいて、フォトニック結晶層に平行な面内を伝搬する光波は、光波の進行方向に対して±180°方向だけでなく、進行方向に対して±90°方向にも回折される。すなわち、フォトニック結晶層に平行な面内に伝搬する光波の進行方向に対して、平行な方向に伝搬する光波の結合係数κ3(1次元結合係数)に加え、90°方向に伝搬する光波の結合係数κ2D(2次元結合係数)が存在する。
【0017】
基本モードと高次モードとの閾値利得差を大きくするには、結合係数κ3を小さくすることが有効であり、さらに結合係数κ2Dを大きくするとより有効である(例えば、非特許文献2を参照)。しかし、この場合、フォトニック結晶レーザの閾値利得そのものが増大するという問題がある。このため、高次モードとの閾値利得差を大きくし安定な基本モード発振を得るために、結合係数κ3を小さくすると同時に結合係数κ2Dを大きくする。
[フォトニック結晶面発光レーザの構造の一例]
図1は、フォトニック結晶層を備えた面発光レーザ(以下、単にフォトニック結晶レーザともいう。)10の構造の一例を模式的に示す断面図である。図1に示すように、半導体構造層11が基板12上に形成されている。より詳細には、基板12上に、n-クラッド層13、n-ガイド層14、活性層15、ガイド層16、電子障壁層17、p-クラッド層18がこの順で順次形成されている。すなわち、半導体構造層11は半導体層13、14、15、16、17、18から構成されている。また、n-ガイド層14は、フォトニック結晶層14Pを含んでいる。また、半導体構造層11は、六方晶系の窒化物半導体からなる。例えば、GaN系、InN、AlNおよびこれらの混晶材料を用いることができる。
【0018】
また、n-クラッド層12上(裏面)にはn電極19Aが形成され、p-クラッド層18上(上面)にはp電極19Bが形成されている。
【0019】
なお、n電極材料として、Ti/Al/Pt/Au、Ti/Al/Pt/Au、又はTi/Ni/Auなどを用いることができる。p電極材料として、Ni/AuやPd/Ti/Pt/Auなどを用いることができる。
【0020】
また、基板はc面GaN成長する基板であればよく、GaN基板、SiC基板、サファイア(Sapphire)基板などを用いることができる。
【0021】
面発光レーザ10からの光は、活性層15に垂直な方向に半導体構造層11の上面(すなわち、p-クラッド層18の表面)から外部に取り出される。尚、活性層15から下面に向かった光は、n電極19Aにより上面に反射され、上面より外部に取り出される。
【0022】
また、面発光レーザ10からの光が、半導体構造層11の下面(すなわち、n-クラッド層13の下面)から外部に取り出されるような構成としてもよい。光の取り出しをn-クラッド側から行う場合は、例えば、n電極を中央に円孔窓を設けた形状とし、円孔窓に対向するp電極を形成することで構成することができる。
[フォトニック結晶層の空孔の配列]
図2Aは、フォトニック結晶層14P及びフォトニック結晶層14P中に配列された空孔(キャビティ)14Cを模式的に示す断面図である。図2Bは、結晶成長面(半導体積層面)、すなわちn-ガイド層14に平行な面(図中、A-A断面)における空孔14Cの配列を模式的に示す平面図である。
【0023】
図2Bに示すように、n-ガイド層14に平行な面内において、空孔14Cは楕円形状(又は長円形状)を有し、周期PCで正方格子状に、すなわちx方向及びこれに垂直なy方向に等間隔PCの正方格子位置(又は正方格子点)に2次元配列されてn-ガイド層14内に埋め込まれて形成されている。なお、空孔14Cの楕円形状の楕円率は、図2Cに示すように、楕円率ER=長径/短径(=a/b)で表される。
【0024】
なお、空孔14Cの配列周期PCは、フォトニック結晶層14Pでの高い回折効果が得られるよう、活性層15の発振波長及びフォトニック結晶層14Pの実効的な屈折率に応じて定めることができる。
【0025】
図2Bの断面図に示すように、空孔14Cは、空孔14Cの当該楕円の長軸方向及び短軸方向(p方向及びq方向)が、空孔14Cの配列方向(x方向及びy方向)に対して角度θ(以下、傾き角という。)だけ傾いているように形成されている。換言すれば、配列の正方格子位置(x,y)=(m×PC,n×PC)(m,nは整数)を中心として、長軸方向及び短軸方向(p方向及びq方向)が配列方向(x方向及びy方向)に対して角度θだけ回転している。
【0026】
このように、空孔配列が正方格子状のフォトニック結晶層を有するフォトニック結晶レーザにおいて、フォトニック結晶層面内における空孔断面形状を、断面中心に関する90°回転に対して非対称であるようにすることによって、結合係数κ3を低減すると同時に結合係数κ2Dを大きくすることができる。
[空孔断面形状が楕円の場合の結合係数κ3及びκ2D
次に、空孔14Cの断面形状が楕円の場合の結合係数κ3及び結合係数κ2Dの関係についてのシミュレーション結果を説明する。なお、シミュレーションは、図1図2A~Cのデバイスモデルについて、非特許文献3の式(A13)を解いて結合係数κ3及びκ2Dを算出した。
【0027】
より詳細には、デバイスモデルとして、GaN基板上に、n型Al0.04Ga0.96Nクラッド層(層厚2000nm)、n型GaNガイド層(層厚350nm)、活性層(層厚28.5nm)、ノンドープGaNガイド層(層厚100nm)、p型Al0.18Ga0.92N電子ブロック層(層厚20nm)、p型Al0.06Ga0.94Nクラッド層(層厚600nm)を順次積層した構造を用いた。
【0028】
デバイスモデルにおけるn型GaNガイド層における空孔形成領域は、n型クラッド層側から層厚120nmの位置から105nmの範囲とした。つまり、n型クラッド層側から、n型GaN層(層厚120nm)、空孔の形成されたn型GaN層(層厚105nm)、n型GaN層(層厚130nm)が積層されたような構造とした。
【0029】
デバイスモデルにおける活性層は、多重量子井戸構造からなり、ノンドープGaNバリア層(層厚6nm)とノンドープIn0.08Ga0.92Nウェル層(層厚3.5nm)からなる積層ペアを3ペア積層した構造とした。
【0030】
空孔14Cについては大気の屈折率、各半導体層については上記各材料の屈折率を用いて計算を行った。
【0031】
モデリングした構造の各座標の複素屈折率を
【0032】
【数1】
【0033】
とすると、波数
【0034】
【数2】
【0035】
の光はマクスウェル方程式より次の関係式(非特許文献3の(2)式)を満たす。なお、このモデリングについては、非特許文献3中の数式を用いて説明する。
【0036】
【数3】
【0037】
フォトニック結晶内を伝搬する光はその構造の周期性よりブロッホ波で記述することができ、その中の基本波について結合を定式化すると、次の結合波方程式(15)(または(A13))が導出される(詳細は非特許文献3を参照)。
【0038】
【数4】
【0039】
式(15)の結合波行列
【0040】
【数5】
【0041】
は3種類の結合を表す
【0042】
【数6】
【0043】
の総和であり
【0044】
【数7】
【0045】
であらわされる。
【0046】
【数8】
【0047】
は180度方向に回折する基本波同士の結合、
【0048】
【数9】
【0049】
は放射波を介した基本波同士の結合、
【0050】
【数10】
【0051】
は高次波を介した結合をあらわし、それぞれ
【0052】
【数11】
【0053】
【数12】
【0054】
【数13】
【0055】
であらわされる。
【0056】
結合波行列Cの要素のうち180度方向に回折された基本波同士の結合を表す要素は
【0057】
【数14】
【0058】
の4つであり、例えば、
【0059】
【数15】
【0060】
である。本願においてこれらの平均値をκ3とした。つまり、
【0061】
【数16】
【0062】
で求めることができる。また、結合波行列Cの要素のうち90度方向に回折された基本波同士の結合を表す要素は、
【0063】
【数17】
【0064】
の8つであり、例えば、
【0065】
【数18】
【0066】
である。本願においてこれらの平均値をκ2Dとした。つまり、
【0067】
【数19】
【0068】
で求めることができる。
【0069】
尚、シミュレーションは、上記デバイスモデルを基本とし、楕円率、フィリングファクタ、傾き角θをパラメータとした複数のデバイスモデル用いて算出を行った。
【0070】
図3A図3Bは、傾き角θが0°の場合の、それぞれ楕円率ERに対する結合係数κ3、結合係数κ2Dの関係をプロットした図である。図4A図4Bは傾き角θが15°の場合の、それぞれ楕円率ERに対する結合係数κ3、結合係数κ2Dの関係をプロットした図である。図5A図5Bは傾き角θが30°の場合の、それぞれ楕円率ERに対する結合係数κ3、結合係数κ2Dの関係をプロットした図である。図6A図6Bは傾き角θが45°の場合の、それぞれ楕円率ERに対する結合係数κ3、結合係数κ2Dの関係をプロットした図である。なお、図3A図3B図4A図4B図5A図5B図6A図6Bは、フィリングファクタ(FF)をパラメータとして(FF=4%,6%,8%,10%,12%,14%,16%)プロットした図である。
【0071】
なお、傾き角θは正方格子配列の配列方向(x,y方向)に対する角度であるから、正方格子の対称性を考慮すれば、当該傾き角をθとし、0<θ≦45°とすれば十分である。従って、以下では、傾き角θを、0<θ≦45°の角度として説明する。なお、配列方向(x,y方向)に限定は無く、フォトニック結晶層面内における任意の方向を選択できる。
【0072】
また、フィリングファクタ(FF)は、フォトニック結晶の1周期PCの面積PC2を用い、FF=[楕円面積(πab)/1周期の面積(PC2)]により求められる。
【0073】
このシミュレーション結果において、傾き角θが0°の場合(図3A図3B)、楕円率ERの増加に対して結合係数κ3は減少し、結合係数κ2Dも減少する。
【0074】
傾き角θが15°の場合(図4A図4B)では、フィリングファクタ(FF)が小さい場合(FF=4%,6%,8%)、楕円率ERの増加に対して結合係数κ3は大きくは変化しないものの、楕円率ERが略1.4以上において、結合係数κ2Dは楕円率ERが増加するに従い増加することがわかる。すなわち、結合係数κ2Dは他のパラメータによっては高くなるが、結合係数κ3は楕円率ERによって減少しない。従って、基本モードと高次モードとの閾値利得差が大きくなりにくい。
【0075】
傾き角θが30°の場合(図5A図5B)では、楕円率ERが略1.4以上において、楕円率ERが増加するに従い結合係数κ3は減少する。一方、フィリングファクタ(FF)が小さい場合(FF=4%,6%,8%,10%,12%)、楕円率ERが略1.4以上において、楕円率ERが増加するに従い結合係数κ2Dは大きく増加することがわかる。
【0076】
傾き角θが45°の場合(図6A図6B)では、フィリングファクタ(FF)の大きさに関わらず(FF=4%~16%)、楕円率ERが増加するに従い結合係数κ3は大きく減少する。一方、フィリングファクタ(FF)が14%以下、楕円率ERが略1.4以上において、結合係数κ2Dは楕円率ERが増加するに従い大きく増加することがわかる。
【0077】
また、図7A図7Bは、フィリングファクタ(FF)が8%の場合の、それぞれ楕円率ERに対する結合係数κ3、結合係数κ2Dの関係をプロットした図である。より詳細には、傾き角θをパラメータ(θ=0°,15°,30°,45°)としてプロットした図である。
【0078】
図7A図7Bに示すように、傾き角θが0°の場合、特に適した楕円率ERは無い。また、傾き角θが15°の場合、楕円率ERが1.6以上で結合係数κ2Dが増加し始める。傾き角θが30°,45°の場合、図7Aに示すように、結合係数κ3は、楕円率ERが増加するに従い減少する。また、傾き角θが30°の場合に比べ、傾き角θが45°の場合の方が結合係数κ3の減少率は大きい。一方、図7Bに示すように、傾き角θが30°,45°の場合、結合係数κ2Dは楕円率ERが増加するに従い大きく増加することがわかる。従って、傾き角θは、30°≦θ≦45°であることが好ましく、傾き角θ=45°であることがさらに好ましい。
【0079】
以上のシミュレーション結果から、結合係数κ3が減少及び結合係数κ2Dが増加する条件として、傾き角θは15°以上(15°≦θ≦45°)が好ましい。また、傾き角θは30°≦θ≦45°がより好ましく、さらに、傾き角θ=45°が最も好ましい。
【0080】
なお、フィリングファクタ(FF)の下限は、最も効果の高いθ=45°の場合において、FFが4%以下の場合、結合係数κ3の減少が楕円率ERに対して緩やかとなる(図6A参照)。すなわち、FFが4%以下の場合、楕円形状とする効果が小さくなる。従って、フィリングファクタ(FF)は6%以上であることが好ましい。また、FFが16%では、結合係数κ2Dは楕円率ERに対して極小点を持ち、かつ楕円率ERを3としても、楕円率ERが1の場合と同程度の結合係数κ2Dになってしまう。従って、FFは、好ましくは6%~14%の範囲である。
【0081】
θ=45°の場合において、楕円率ERが1.6以上の場合ではκ2DはFFが8~10%で最大値をとる。すなわち、FFが大きくなりすぎると、楕円形状にする効果が弱くなる。θ=45°、楕円率が1.6の場合ではFFが14%を超えると、κ2Dは楕円率が0の場合を下回り楕円形状にした効果が得られなくなる。従って、FFはさらに好ましくは6%~12%の範囲である。
【0082】
また、楕円率については、1.4以上が好ましいが、少なくともフォトニック結晶の1周期(1辺の長さがPCの正方形)の中に収まる楕円である。具体的には、楕円の長軸長a(図2C)がフォトニック結晶の1ピッチ以内である。aが1ピッチと同じ長さである場合、例えば、FFを8%とするためには、短軸長b=0.102aであり、このときの楕円率ERは9.8である。この場合、楕円率ERの上限は9.8である。
【0083】
最も効果の高い傾き角θ=45°の場合において、結合係数κ3の減少が見られるのは楕円率ERが1.4よりも大きい場合である。すなわち、楕円率ERは好ましくは、1.4~9.8の範囲である。
[空孔形状の他の例]
図8Aは、空孔断面形状が六角形状の場合の空孔14Cの配列を示す図である。すなわち、図2Bの場合と同様に、n-ガイド層14(すなわちフォトニック結晶層14P)に平行な面(図2A、A-A断面を参照)における空孔14Cの配列を模式的に示す断面図である。
【0084】
空孔14Cは、フォトニック結晶層14Pに平行な面内において、六角形状の断面を有し、周期PCで正方格子状に、すなわちx方向及びこれに垂直なy方向に等間隔PCの正方格子位置に周期的に2次元配列されてn-ガイド層14内に埋め込まれて形成されている。
【0085】
図8Bは、空孔14Cの断面形状を拡大して示す図である。図8Bに示すように、空孔14Cの断面は、<11-20>方向を長軸方向とし、当該<11-20>方向に平行な2辺を長辺とする六角形状の断面を有している。従って、空孔14Cは、当該<11-20>方向に平行な{10-10}面(又はm面)を2つの側面(側壁又はファセット)とした六角柱構造を有している。図8Bに示す場合では、当該六角柱構造の他の4つの側面(側壁)は{10-10}面のファセットである。
【0086】
また、この場合の空孔14Cの断面における六角形状のアスペクト比は、AR=長軸長/短軸長(=a/b)で表される。
【0087】
しかし、空孔14Cにおいて、当該長軸方向に平行な2つの{10-10}面以外の側面(側壁)はどのような形状の面又はファセット(結晶面)であってもよく、この場合、空孔14Cは多角柱構造を有していてもよい。
【0088】
そして、再び図8Aを参照すると、フォトニック結晶層14Pに平行な面内において、空孔14Cは、空孔14Cの当該長軸方向及び短軸方向(p方向及びq方向)が、空孔14Cの配列の周期方向(x方向及びy方向)に対して傾き角θ=45°だけ傾いているように形成されている。
【0089】
なお、図9に示すように、空孔14Cは、フォトニック結晶層14Pに平行な面内において長円形状を有する、長円柱構造であってもよい。より詳細には、フォトニック結晶層14Pに平行な面内において、空孔14Cは、<11-20>方向を長軸方向とし、当該<11-20>方向に平行な2辺を長辺とし、長軸方向の両端が半円形からなる長円形状(又は角丸長方形)の断面を有している。
【0090】
従って、空孔14Cは、当該長軸方向に平行な{10-10}面(又はm面)を2つの側面(側壁又はファセット)とした長円柱構造を有している。
【0091】
本明細書では、図2B図2Cに示した、フォトニック結晶層14Pに平行な面内において長径及び短径を有する楕円形状の断面を有する楕円柱構造、及び図9に示した長円形状(又は角丸長方形)の断面を有する長円柱構造を共に長円柱構造と総称して説明する。
【0092】
また、上記したシミュレーション結果は、フォトニック結晶層14Pに平行な面内における空孔14Cの断面形状が楕円の場合についての結合係数κ3及びκ2Dの関係についてのものである。しかしながら、当該断面形状が、長軸及び短軸を有する六角形形状(長六角形)、角丸長方形等の形状の場合であっても、図14A、14B(傾き角θ=45°、FF=10%の場合)に示すように、上記シミュレーション結果に大きな違いが無いことを確認した。従って、楕円形状以外の場合においても、上記楕円率ERを、AR=長軸長/短軸長(=a/b)で読み替えることによって上記シミュレーション結果を適用することができる。
[半導体構造層11の成長]
半導体構造層11の作製工程について以下に詳細に説明する。結晶成長方法としてMOVPE(Metalorganic Vapor Phase Epitaxy)法を用い、常圧(大気圧)成長により成長基板11上に半導体構造層11を成長した。尚、半導体構造層11の成長は、後述するマストランスポートを生じさせることが可能なエピタキシャル成長であれば、MOVPE法に限らず、例えばMBE(Molecular Beam Epitaxy)法などを用いることもできる。
[クラッド層及びガイド層の成長]
半導体構造層11の成長用基板として、成長面が+c面のn型GaN基板12を用いた。従って、半導体構造層11の各成長層はc面に平行な層として成長された。
【0093】
基板12上に、n-クラッド層13としてAl(アルミニウム)組成が4%のn型AlGaN(層厚:2μm)を成長した。III族のMO(有機金属)材料としてトリメチルガリウム(TMG)及びトリメチルアルミニウム(TMA)を用い、V族材料としてアンモニア(NH3)を用い、成長温度は1100°であった。また、ドーピング材料としてジシラン(Si26)を供給した。室温でのキャリア密度は、およそ4×1018cm-3であった。
【0094】
続いて、TMG及びNH3を供給し、n-ガイド層14としてn型GaN(層厚:300nm)を成長した。また、ジシラン(Si26)を成長と同時に供給しドーピングを行った。キャリア密度は、およそ4×1018cm-3であった。
【0095】
なお、半導体構造層11のn-ガイド層14は、空孔埋込後のフォトニック結晶層を有する結晶層であるが、ここでは、空孔埋込前の結晶層(本実施例の場合、GaN層 )についてもn-ガイド層14として説明する。
【0096】
[ガイド層への空孔形成]
n-ガイド層14を成長後の基板、すなわちガイド層付きの基板(以下、ガイド層基板という。)をMOVPE装置から取り出し、n-ガイド層14に微細な空孔(ホール又は穴部)を形成した。
【0097】
図10を参照して、空孔の形成について以下に詳細に説明する。なお、図10には、(a1)埋込前の空孔の断面を示す走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)の像が示されている。また、(a2)埋込後の空孔の断面を示すSEM像が示されている。なお、上段はn-ガイド層14に平行な断面、下段はA-A線に沿ったn-ガイド層14に垂直な断面を示すSEM像である。上段のSEM像は、FID加工により、空孔が露出させたサンプルにて観測した。
【0098】
基板12上にn-クラッド層13及びn-ガイド層14を成長したガイド層基板の洗浄を行い清浄表面を得た。その後、プラズマCVDによってシリコン窒化膜(SiNx)SNを成膜(膜厚110nm)した。
【0099】
次に、SiNx膜SN上に電子線(EB:Electron Beam)描画用レジストRZをスピンコートで300nm程度の厚さで塗布し、電子線描画(EB)装置に入れてガイド層基板の表面上において2次元周期構造を有するパターンを形成した(図10、(a1)の上段)。
【0100】
より詳細には、フォトニック結晶層14Pに平行な面(すなわち、c面又は(0001)面)において、<11-20>方向を長軸方向(p方向)とし、長軸方向の長さが135nm、短軸方向の長さ(幅)60nmの長円(角丸長方形)形状の貫通孔をレジストRZにパターニング形成した。当該貫通孔は、2次元配列方向(x方向及びy方向)に対して傾き角θ=30°で傾いた状態で、正方格子位置に周期161nmで配列されるように形成された。なお、ここでレジストRZの貫通孔の長軸方向(p方向)は<11-20>方向であるが、x方向もこれと等価な<11-20>方向である。
【0101】
パターニングしたレジストRZを現像後、ICP-RIE(Inductive Coupled Plasma - Reactive Ion Etching)装置によってSiNx膜SNを選択的にドライエッチングした。これにより、面内周期PCが161nmで正方格子位置に2次元配列された、深さが110nmの貫通孔がSiNx膜SNに形成された。
【0102】
続いて、レジストRZを除去し、パターニングしたSiNx膜SNをハードマスクとしてn-ガイド層14(GaN)の表面から内部に至る空孔CHを形成した。より具体的には、ICP-RIE装置において塩素系ガスを用いてドライエッチングすることにより、n-ガイド層14内に2次元配列された空孔CHを形成した。
【0103】
空孔CHは、<11-20>方向(長軸方向)に平行な2つの側面(すなわち、当該長円(角丸長方形)の長辺に対応する側面)として{10-10}面を有する。
【0104】
断面SEM像(図10、(a1)の下段)に示すように、n-ガイド層14内に深さが約243nmの空孔CHが形成された。空孔CHは、n-ガイド層14の上面で開口する穴部(ホール)であり、底部を除いて略長円柱形状を有している。なお、本明細書において、n-ガイド層14内に埋め込み前にエッチングによって形成される空孔CHを、埋め込み後に形成される空孔14Cと特に区別する場合には、空孔CHを「穴部」CHと称して説明する。
【0105】
なお、マスクを用い、n-ガイド層14(GaN層)に略垂直にエッチングを行い、2つの{10-10}面を側面として表出させるが、当該2つの側面は完全な{10-10}面でなくともよく、{10-10}面に沿った面であればよい。{10-10}面から僅かに傾いた面、又は曲面状であってもよい。また、後述するマストランスポートにより{10-10}面が表出するような面であればよい。本明細書では、これらの場合を含め、空孔(穴部)CHは、<11-20>方向に平行な2つの{10-10}面を側面として有する多角柱構造又は長円柱構造を有するとして説明する。
【0106】
また、長円(角丸長方形)形状の貫通孔をレジストRZに形成し、n-ガイド層14内に空孔CHを形成する場合を例に説明したが、長軸及び短軸を有する六角形形状の貫通孔をレジストRZに形成し、空孔CHを形成してもよい。
【0107】
[空孔の埋め込み]
続いて、n-ガイド層14に2次元的な周期性を持つ空孔CHを形成した基板(ガイド層基板ともいう。)のSiNx膜SNをフッ酸(HF)を用いて除去し、脱脂洗浄を行って清浄表面を得、再度MOVPE装置内に導入した。
【0108】
MOVPE装置を用いて、空孔CHの埋め込みを行った。図11は、当該埋め込み工程の概要を模式的に示す断面図である。なお、<11-20>方向に垂直な断面を示している。
【0109】
まず、空孔CHが形成されたガイド層基板を(図11の(a1))を1100℃(成長温度)に加熱し、III族材料ガス(TMG)及びV族材料ガス(NH3)を供給して空孔CHの閉塞を行った。
【0110】
より詳細には、空孔CH上に凹部DPを形成するように成長を行って、空孔CHの開口部を閉じた。すなわち、成長時間の経過とともにファセットFCが優先的に成長し、互いに対向する面から成長するファセットFCが互いにぶつかることで空孔CHが閉塞される(図11の(a2))。埋め込まれた空孔CHの活性層15側の面(上面)には(000-1)面が、空孔CHの側面は{10-10}面であり、基板12側の底部は{1-102}ファセットが現れる。
【0111】
次に、表面平坦化を行った。空孔CHが閉塞された後、III族材料ガスの供給を停止し、V族材料ガス(NH3)を供給しながら1200℃まで昇温し、温度を保持した。1200℃で1分保持(熱処理)した後、n-ガイド層14の表面に形成されていたファセットFCは消失し、表面は平坦な(0001)面となった。すなわち、マストランスポートによって表面が平坦化されたn-ガイド層14が得られた。n-ガイド層14内に埋め込まれた空孔14Cは、<11-20>方向(長軸方向)に平行な2つの{10-10}面を側面(側壁)として有する。
【0112】
なお、ここではマストランスポートにより平坦な表面を得るための熱処理工程でIII族材料ガスの供給を停止したが、III族原料ガスの供給を行っても良い。
【0113】
すなわち、図10の(a2)埋込成長後の空孔の断面(上段のSEM像)に示すように、フォトニック結晶層14Pに平行な面(c面)において、<11-20>方向を長軸方向(p方向)とし、長軸方向の長さが90nm、短軸方向の長さ(幅)35nmの六角形形状の断面を有する六角柱構造の空孔14Cが形成された。
【0114】
すなわち、空孔14Cは、空孔14Cの長軸方向に平行な{10-10}面(又はm面)を2つの側面(側壁)とし、当該2つの側面の当該長軸方向の長さ(幅)が90nmであり、当該2つの側面の間隔WCは35nmである。また、他の4つの側面(側壁)は{10-10}面のファセットである。
【0115】
空孔14Cは、2次元配列方向(x方向及びy方向)に対して傾き角θ=30°で傾いた状態で、正方格子位置に周期161nmで配列されるように形成された。
【0116】
また、図11は、図10の(a2)埋込成長後の断面(下段のSEM像)に対応し、当該長軸方向に垂直な面における空孔14Cの断面形状の一例の詳細を模式的に示す断面図である。
【0117】
図11の(a3)熱処理後に示すように、空孔14Cの上面は(000-1)面であり、空孔14Cの深さHCは179nmであった。また、n-ガイド層14の平坦な表面((0001)面)と、空孔14Cの上面((000-1)面)との距離D2はおよそ85nmであった。マストランスポートによる表面平坦化前の距離D1(図11の(a2))よりも小さい。また、この場合のフィリングファクタ(FF)は、約10%であった。
【0118】
なお、上記したように、空孔14Cは、多角柱形状又は長円柱形状を有しているが、底部又は上部の一部の形状が異なっていてもよい。例えば、本実施例の場合、図11に示すように、空孔14Cの底部にファセットが現れていてもよい。具体的には、例えば、空孔14Cのn-クラッド層13側の底部に{1-102}ファセットを有する、又は当該底部が{1-102}ファセットにより構成された多角錐状(六角錐状)となっていてもよい。換言すれば、空孔14Cは多角柱又は長円柱部分を有していればよい。本明細書では、これらの場合を含め、空孔14Cが多角柱構造又は長円柱構造を有するとして説明する。
【0119】
以上、詳細に説明したように、フォトニック結晶層14Pに平行な面内において、一定の周期(PC)で正方格子位置に配列され、当該配列方向(x方向及びy方向)に対して所定の傾き角θを有する空孔14Cが形成されている。
【0120】
フォトニック結晶層14P内の各空孔14Cは、n-ガイド層14内において略同一の深さ(上面の深さがD2)であるように深さ方向に整列して配列されている。従って、フォトニック結晶層14P内に形成された各空孔14Cの上面はフォトニック結晶層14Pの上面を形成している。また、フォトニック結晶層14P内の空孔14Cは略同一の高さHCを有している。すなわち、フォトニック結晶層14Pは層厚HCであるように形成されている。また、n-ガイド層14は平坦な表面を有している。
【0121】
以上、説明したように、マスクを用いたエッチングにより、n-ガイド層14(GaN)内に<11-20>方向に平行な2つの{10-10}面を側面(側壁)として有する空孔CHを形成する。これにより、空孔CHの埋め込みの際に発生する空孔CHの形状変化が抑制される。GaN系結晶の埋め込み工程におけるマストランスポートにより、最も表面エネルギーが小さくなるように空孔形状が変化する。
【0122】
すなわち、空孔CHの側面はダングリング密度が小さい{10-10}面へと変化する。従って、予め空孔CHの側面を{10-10}面に沿った面として、すなわち安定な側面で空孔CHを構成することで、マストランスポートによる形状変化を抑制することができる。この結果、空孔CHの埋め込みによっても埋め込み前の空孔形状を維持したまま埋め込むことができる。
【0123】
[空孔の埋め込み(比較例)]
なお、図12は、図11と同様な図であるが、比較例1としての空孔14Dの形成について示すSEM像である。図12中、(a1)埋込前の上段のSEM像を参照すると、n-ガイド層14に平行な面内において、空孔(ホール)CHの配列方向(x、y方向)に関して非対称な構造である円(真円)状の断面形状を有する空孔CH(円柱)の埋込を行った場合を示している。
【0124】
より詳細には、本実施例の場合と同様な工程で、当該面内周期PCが161nmで正方格子位置に2次元配列された、深さが約252nmの空孔CHが形成された。当該円の直径は105nmであった。
【0125】
そして、上記実施例の場合と同様な工程で、空孔CHの埋込を行った。この場合のSEM像(図12、(a2)埋込後)を参照すると、埋め込みにより形成された空孔14Dは正六角柱状を有していた。
【0126】
すなわち、埋込後の空孔14Dは、6つの側面が{10-10}面である正六角柱状を有し、配列方向に関して対称な構造になっていた。
【0127】
また、図13は、図11、12と同様な図であるが、比較例2としての空孔14Dの形成について示すSEM像である。図13中、(a1)埋込前の上段のSEM像を参照すると、n-ガイド層14に平行な面内において、空孔(ホール)CHの配列方向(x、y方向)に関して非対称な構造である二等辺三角形の断面形状を有する空孔CH(三角柱)の埋込を行った場合を示している。
【0128】
より詳細には、本実施例の場合と同様な工程で、当該面内周期PCが161nmで正方格子位置に2次元配列された、深さが約250nmの空孔CHが形成された。当該二等辺三角形の等辺は100nmであった。
【0129】
そして、上記実施例の場合と同様な工程で、空孔CHの埋込を行った。この場合のSEM像(図13、(a2)埋込後)を参照すると、埋め込みにより形成された空孔14Dは正六角柱状を有していた。
【0130】
すなわち、比較例2では、埋込後の空孔形状は非対称性が消失し、配列方向に関して対称な構造になっていた。このように埋込前の空孔形状が非対称な場合であっても、{10-10}面に沿った面を有していない場合では、埋込後に各側面(側壁)が{10-10}面に変化することで埋込後の空孔形状は対称な構造になってしまうことが分かる。
【0131】
[活性層及びp型半導体層の成長]
続いて活性層15として、3層の量子井戸層を含む多重量子井戸(MQW) 層を成長した。多重量子井戸層のバリア層及び井戸層はそれぞれGaN及びInGaNで構成され、それぞれの層厚は、6.0nm、3.5nmであった。また、本実施例における活性層からのPL発光の中心波長は410nmであった。
【0132】
なお、バリア層は、成長温度を800℃に降温し、トリエチルガリウム(TEG)及びNH3を供給して成長した。井戸層は、バリア層と同じ温度で、TEG、トリメチルインジウム(TMI)及びNH3を供給して成長した。
【0133】
活性層15の成長後、基板を800℃に保ち、p側のガイド層であるガイド層16(層厚:100nm)を成長した。ガイド層16にはドーパントをドープせずに、ノンドープGaN層を成長した。ガイド層16は、ノンドープGaN層に限らず、Mgドープを施したあるいはMgが拡散されたp型GaN層とすることもできる。
【0134】
ガイド層16上に、成長温度を1050℃に昇温し、電子障壁層(EBL:Electron Blocking Layer)17及びp-クラッド層18を成長した。電子障壁層17及びp-クラッド層18の成長は、TMG、TMA及びNH3を供給して行った。
【0135】
電子障壁層17は、Al組成が18%のAlGaN層(層厚:15nm)であり、p-クラッド層18は、Al組成が6%のAlGaN層(層厚:600nm)であった。また、電子障壁層17及びp-クラッド層18の成長時にはCP2Mg(Bis-cyclopentadienyl magnesium)を供給し、キャリア密度は4×1017cm-3であった。
【0136】
上記した方法により、高次横モードが抑制され、高出力時においても安定な基本横モード発振を呈する面発光レーザを得ることができた。また、出力に関わらず安定したビーム形状(ガウシアン形状等)が得られ、ビーム品質の高い面発光レーザが得られた。
【0137】
また、均一な屈折率周期を有し、高い回折効果を有するフォトニック結晶を備えた面発光レーザ及びその製造方法を提供することができる。また、フィリングファクタが大きく、また大きな光閉じ込め係数を有するフォトニック結晶を備えた面発光レーザ及びその製造方法を提供することができる。
【0138】
以上、詳細に説明したように、フォトニック結晶の格子点に周期的に配列する空孔形状を当該配列方向(周期方向)に対して非対称とすることによってフォトニック結晶内での2次元結合が強くなる。
【0139】
例えば、上記比較例1,2で示したように、当該格子点に配列される空孔形状を周期方向に対して対称性の高い正六角形(正六角柱)とした場合、フォトニック結晶内での回折による光の2次元結合が弱まり、光子が面全体に広がらず、フォトニック結晶面発光レーザにおいて、高次モードが発生しやすくなる。すなわち、多モード化し、ビーム品質の劣化を招く。特に、発振面積を拡大した場合や高出力動作させた場合に、この現象が強く表れる。
【0140】
また、GaN系フォトニック結晶面発光レーザにおいて、埋め込み成長前の空孔形状を非対称なものとしても、埋め込み成長において空孔形状が対称な構造に変化し、非対称な形状の空孔を得ることができない(例えば、上記比較例2)。
【0141】
従って、本発明によれば、非対称性を有するフォトニック結晶層を有し、安定な基本横モード発振を呈し、高いビーム品質のフォトニック結晶面発光レーザを実現することができる。
【0142】
尚、上記した方法において、成長基板としての基板12上に半導体構造層11を成長して形成した面発光レーザの構造を例として示したが、成長基板とは別途の支持基板を半導体構造層11の成長基板と反対側に貼り付けた後、成長基板を除去した構造とすることもできる。また、そのような構造において、半導体構造層11と支持基板との間には適宜反射層または反射性電極層を形成することができる。
【符号の説明】
【0143】
10:フォトニック結晶面発光レーザ
12:基板
13:n-クラッド層
14:n-ガイド層
14P:フォトニック結晶層
14C:空孔
15:活性層
16:ガイド層
18:p-クラッド層
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B