(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】永久磁石回転子および回転電気機械
(51)【国際特許分類】
H02K 1/276 20220101AFI20221109BHJP
【FI】
H02K1/276
(21)【出願番号】P 2018079149
(22)【出願日】2018-04-17
【審査請求日】2020-11-09
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】595181210
【氏名又は名称】株式会社ダイドー電子
(73)【特許権者】
【識別番号】391002487
【氏名又は名称】学校法人大同学園
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藪見 崇生
(72)【発明者】
【氏名】加納 善明
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-296685(JP,A)
【文献】特開2003-158838(JP,A)
【文献】特開2012-165482(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0187257(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータコアと、前記ロータコアに埋設され、磁極を構成する永久磁石とを有する永久磁石回転子において、
前記ロータコアは、前記永久磁石が埋設される複数のスロットを前記ロータコアの周方向に有するとともに、
前記複数のスロットの間の位置に、前記永久磁石が埋設されない空隙として、フラックスバリアを有し、
前記フラックスバリアは、前記ロータコアの内周側の端縁と外周側の端縁との間の距離が、前記スロットの該距離よりも大きい部位を有し、
前記複数のスロットのうち隣り合う2つのスロットは、前記ロータコアの内周側の端縁および前記外周側の端縁がそれぞれ前記ロータコアの内側に向かって凸な円弧となった形状が、2つに分割されたものとして形成されており、それら隣り合う2つのスロットの間の位置に前記フラックスバリアが形成されており、
前記フラックスバリアにおいて、前記ロータコアの周方向の中途部に、前記フラックスバリアの外周側の部位と内周側の部位をつなぐ第一のブリッジが、前記ロータコアと一体に形成されており、前記第一のブリッジに面する両側の前記フラックスバリアの隅部に、R形状が設けられて
おり、
相互に隣接する前記スロットと前記フラックスバリアの間には、前記ロータコアの外周側の部位と内周側の部位とをつなぐ第二のブリッジが、前記ロータコアと一体に形成されており、
前記ロータコアの回転軸に直交する断面において、前記第二のブリッジは、前記スロットと前記フラックスバリアの隣接方向に沿った幅方向の寸法が最も小さくなった狭窄部を有するとともに、前記狭窄部から、前記幅方向に交差する方向に沿って両側に、前記幅方向の寸法が漸次広がった形状を有し、
前記狭窄部の幅方向両側において、前記スロットおよび前記フラックスバリアの端縁が、直線形状、または、前記第二のブリッジの幅方向内側に向かって凸な曲線形状をとっており、
前記第二のブリッジに面した前記スロットの外周側の隅部であるスロット外隅部が、R形状を有するとともに、
前記スロット外隅部のR形状に外接する遠心力の方向に沿った接線が、前記第二のブリッジを通って、前記フラックスバリアの端縁と交差する位置であるバリア内隅部が、R形状を有し、かつ
前記第二のブリッジを挟んで相互に対向する前記スロットの内周側の隅部であるスロット内隅部、および前記フラックスバリアの外周側の隅部であるバリア外隅部にも、R形状が形成されており、
前記R形状の曲率半径が、前記バリア内隅部、および前記スロット外隅部において、前記スロット内隅部、および前記バリア外隅部よりも大きくなっており、
前記スロット内隅部、および前記バリア外隅部の前記R形状の曲率半径は、前記スロット外隅部の前記R形状の曲率半径の75%以下である永久磁石回転子。
【請求項2】
前記バリア内隅部の前記R形状の曲率半径は、前記スロット外隅部の前記R形状の曲率半径よりも大きくなっている請求項1に記載の永久磁石回転子。
【請求項3】
前記永久磁石回転子の極数を[極数]と表記した際に、
前記スロット外隅部および前記バリア内隅部の前記R形状の接線の方向が、前記ロータコアの径方向に対して、±180°/[極数]の範囲に収まっている、請求項
1または2に記載の永久磁石回転子。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれか1項に記載の永久磁石回転子を有する回転電気機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石回転子および回転電気機械に関し、さらに詳しくは、ロータコアに永久磁石が埋め込まれた永久磁石回転子およびそのような永久磁石回転子を有する回転電気機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
永久磁石埋め込み(IPM)モータ等の回転電気機械に用いられる永久磁石回転子において、出力トルクを向上させること、また、トルクリプルやコギングトルクを低減することが求められる。そのために、ロータコアに永久磁石を埋設するためのスロットの配置や形状について、改良が試みられている。
【0003】
例えば、特許文献1においては、複数層のスリット部(スロット)の大きさや、各層のスリット部に埋設される永久磁石の残留磁束密度を、所定の関係を満たすように規定するとともに、スリット部の一部に、永久磁石を埋設しない空スリット部を形成している。それらの構成により、回転電機に組み込まれた状態で固定子との間の隙間に形成される磁束密度分布が、正弦波に近い階段状の分布形状になり、トルクリプルやコギングトルクの低減に効果を有するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
永久磁石回転子において、永久磁石を埋設しない空スリットは、フラックスバリアとも称され、磁石の中心を通ってロータコアの内周側から外周側に向かうd軸に沿った磁束経路において、磁気抵抗を増加させることにより、永久磁石回転子のリラクタンストルクを向上させる働きをする。
図7に示すように、特許文献1に開示されたものをはじめ、従来一般の永久磁石回転子100においては、フラックスバリア117は、永久磁石116が埋設されるスリット113,114,115と同様に、ロータコア111の径方向中央部に向かって凸の円弧状に形成されている。特許文献1では、フラックスバリア117の長さL(円弧の周方向に沿った寸法)については、固定子との間の隙間に形成される磁束密度の正弦波化の観点から、各層に設けられたフラックスバリアの間で、関係性が規定さているが、フラックスバリア117の形状および寸法については、永久磁石116が埋設されたスリット113,114,115と同様の円弧形状のもの以外に検討されていない。
【0006】
しかし、フラックスバリア117の形状を工夫することで、永久磁石回転子100が組み込まれた回転電気機械において、リラクタンストルクの向上を、さらに図ることができる可能性がある。リラクタンストルクの向上により、回転電気機械の出力トルクを向上させることができる。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、フラックスバリアの形状の検討により、大きなリラクタンストルクを与えることができる永久磁石回転子およびそのような永久磁石回転子を有する回転電気機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかる永久磁石回転子は、ロータコアと、前記ロータコアに埋設され、磁極を構成する永久磁石とを有する永久磁石回転子において、前記ロータコアは、前記永久磁石が埋設される複数のスロットを前記ロータコアの周方向に有するとともに、前記複数のスロットの間の位置に、前記永久磁石が埋設されない空隙として、フラックスバリアを有し、前記フラックスバリアは、前記ロータコアの内周側の端縁と外周側の端縁との間の距離が、前記スロットの該距離よりも大きい部位を有するものである。
【0009】
ここで、相互に隣接する前記スロットと前記フラックスバリアの間には、前記ロータコアの外周側の部位と内周側の部位とをつなぐブリッジが、前記ロータコアと一体に形成されており、前記ロータコアの回転軸に直交する断面において、前記ブリッジは、前記スロットと前記フラックスバリアの隣接方向に沿った幅方向の寸法が最も小さくなった狭窄部を有するとともに、前記狭窄部から、前記幅方向に交差する方向に沿って両側に、前記幅方向の寸法が漸次広がった形状を有し、前記狭窄部の幅方向両側において、前記スロットおよび前記フラックスバリアの端縁が、直線形状、または、前記ブリッジの幅方向内側に向かって凸な曲線形状をとっているとよい。
【0010】
この場合、前記ブリッジに面した前記スロットの外周側の隅部であるスロット外隅部が、R形状を有するとともに、前記スロット外隅部のR形状に外接する遠心力の方向に沿った接線が、前記ブリッジを通って、前記フラックスバリアの端縁と交差する位置であるバリア内隅部が、R形状を有するとよい。
【0011】
前記バリア内隅部の前記R形状の曲率半径は、前記スロット外隅部の前記R形状の曲率半径よりも大きいとよい。
【0012】
また、前記ブリッジを挟んで相互に対向する前記スロットの内周側の隅部であるスロット内隅部および前記フラックスバリアの外周側の隅部であるバリア外隅部にも、R形状が形成されており、前記R形状の曲率半径が、前記バリア内隅部および前記スロット外隅部において、前記スロット内隅部および前記バリア外隅部よりも大きいとよい。
【0013】
そして、前記フラックスバリアにおいて、前記ロータコアの周方向の中途部に、前記フラックスバリアの外周側の部位と内周側の部位をつなぐブリッジが、前記ロータコアと一体に形成されているとよい。
【0014】
本発明にかかる回転電気機械は、上記のような永久磁石回転子を有するものである。
【発明の効果】
【0015】
上記発明にかかる永久磁石回転子においては、フラックスバリアに、ロータコアの内周側の端縁と外周側の端縁との間の距離(径方向寸法)が、スロットの径方向寸法よりも大きい部位が設けられている。フラックスバリアの径方向寸法が長い位置においては、d軸磁束経路の磁気抵抗が大きくなる。その結果、特許文献1に開示されたもののように、フラックスバリアの径方向寸法が、スロットの径方向寸法と同じになった単純な円弧形状のフラックスバリアを用いる場合と比較して、大きなリラクタンストルクを与える永久磁石回転子となる。
【0016】
ここで、相互に隣接するスロットとフラックスバリアの間に、ロータコアの外周側の部位と内周側の部位とをつなぐブリッジが、ロータコアと一体に形成されており、ロータコアの回転軸に直交する断面において、ブリッジが、スロットとフラックスバリアの隣接方向に沿った幅方向の寸法が最も小さくなった狭窄部を有するとともに、狭窄部から、幅方向に交差する方向に沿って両側に、幅方向の寸法が漸次広がった形状を有し、狭窄部の幅方向両側において、スロットおよびフラックスバリアの端縁が、直線形状、または、ブリッジの幅方向内側に向かって凸な曲線形状をとっている場合には、ブリッジに、幅が狭くなった狭窄部が存在することで、永久磁石の磁束やd軸磁束、q軸磁束など有効となる磁束の漏れを低減することができる。すると、モータに生じるマグネットトルクとリラクタンストルクが向上され、有効磁束の漏れによるトルク低下を抑制することで、高出力と安定な高速回転が両立可能な永久磁石回転子とすることができる。また、狭窄部の幅方向両側において、スロットおよびフラックスバリアの端縁が、直線形状、または、ブリッジの幅方向内側に向かって凸な曲線形状をとっていることにより、永久磁石回転子が回転した際に、狭窄部の幅方向両側の位置に、曲げ応力が集中するのを緩和できる。その結果、ブリッジに狭窄部を設けても、高速回転に耐えられる十分な機械的強度を、ブリッジにおいて確保することができる。
【0017】
この場合、ブリッジに面したスロットの外周側の隅部であるスロット外隅部が、R形状を有するとともに、スロット外隅部のR形状に外接する遠心力の方向に沿った接線が、ブリッジを通って、フラックスバリアの端縁と交差する位置であるバリア内隅部が、R形状を有する構成によれば、永久磁石回転子が回転した際に、ブリッジの対角に位置するスロット外隅部およびバリア内隅部に、曲げ応力が集中するのを、R形状の存在によって、緩和することができる。その結果、ブリッジの幅を狭くしても、高速回転に耐えられる十分な機械的強度を確保しやすくなる。
【0018】
バリア内隅部のR形状の曲率半径が、スロット外隅部のR形状の曲率半径よりも大きい構成によれば、ブリッジにおいて、幅の狭い領域を形成しやすくなる。その結果、ブリッジでの有効な磁束の漏れを効果的に低減することができる。
【0019】
また、ブリッジを挟んで相互に対向するスロットの内周側の隅部であるスロット内隅部およびフラックスバリアの外周側の隅部であるバリア外隅部にも、R形状が形成されており、R形状の曲率半径が、バリア内隅部およびスロット外隅部において、スロット内隅部およびバリア外隅部よりも大きい場合には、ブリッジにおいて、幅の狭い領域を長く形成しやすい。その結果、ブリッジにおける磁束の漏れを効果的に低減することができる。
【0020】
そして、フラックスバリアにおいて、ロータコアの周方向の中途部に、フラックスバリアの外周側の部位と内周側の部位をつなぐブリッジが、ロータコアと一体に形成されている場合には、永久磁石回転子が回転した際に発生する遠心力が、スロットとフラックスバリアの間に設けたブリッジに集中せずに、フラックスバリアの中途部に設けたブリッジにも、引張応力として分散されるようになる。その結果、各ブリッジの幅を狭く形成しながら、永久磁石回転子の高速回転に一層対応しやすくなる。
【0021】
本発明にかかる回転電気機械は、上記の永久磁石回転子を有しており、永久磁石回転子に設けられたフラックスバリアに、径方向寸法が大きくなった部位が設けられていることの効果により、大きなリラクタンストルクを発生するものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の第一の実施形態にかかる永久磁石回転子および回転電気機械の構成を示す横断面図である。
【
図2】
図1の断面図の一部を抜き出した拡大図である。
【
図3】
図2のフラックスバリア近傍をさらに拡大した図である。
【
図4】上記第一の実施形態の変形形態にかかる永久磁石回転子の構成を示す横断面図である。
【
図5】本発明の第二の実施形態にかかる永久磁石回転子について、フラックスバリア近傍を示す図である。
【
図6】本発明の第三の実施形態にかかる永久磁石回転子について、フラックスバリア近傍を示す図である。
【
図7】従来一般の永久磁石回転子の構成を示す横断面図である。(a)は全体図、(b)はフラックスバリア近傍の拡大図である。
【
図8】従来一般の永久磁石回転子(従来形態A)に印加される主応力の分布を示す図である。(a)は全体像、(b)はフラックスバリア近傍の拡大像を示している。
【
図9】従来一般の永久磁石回転子において、ブリッジの幅を広くした形態(従来形態B)について、印加される主応力の分布を示す図である。(a)は全体像、(b)はフラックスバリア近傍の拡大像を示している。
【
図10】本発明の第二の実施形態にかかる永久磁石回転子(実施形態A)に印加される主応力の分布を示す図である。(a)は全体像、(b),(c)はフラックスバリア近傍の拡大像を示している。
【
図11】本発明の第三の実施形態にかかる永久磁石回転子(実施形態B)に印加される主応力の分布を示す図である。(a)は全体像、(b)はフラックスバリア近傍の拡大像を示している。
【
図12】従来一般の永久磁石回転子を備えたモータの出力特性を示す図であり、(a)はブリッジの幅が狭い形態(従来形態A)、(b)はブリッジの幅を広くした形態(従来形態B)について示している。
【
図13】本発明の第二の実施形態にかかる永久磁石回転子(実施形態A)を備えたモータの出力特性を示す図である。
【
図14】従来一般の永久磁石回転子(従来形態A,B)と、本発明の第二の実施形態にかかる永久磁石回転子(実施形態A)とで、(a)速度-トルク特性、および(b)速度-出力特性の比較を示す図である。
【
図15】永久磁石磁束の巻線磁束鎖交数を比較する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態にかかる永久磁石回転子および回転電気機械について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0024】
[1]第一の実施形態
まず、本発明の第一の実施形態にかかる永久磁石回転子および回転電気機械について、詳細に説明する。
【0025】
[回転電気機械の構成]
本発明の第一の実施形態にかかる回転電気機械の概略を、
図1に示す。回転電気機械1は、本発明の第一の実施形態にかかる永久磁石回転子10を有している。本明細書においては、回転電気機械1がモータである場合を中心に説明するが、発電機である場合にも、同様の構成を適用することができる。
【0026】
回転電気機械1は、永久磁石埋め込み(IPM)モータとして構成されている。モータ1は、中空筒状のステータ(固定子)30と、ステータ30の中空部内に、同軸状に、軸回転可能に支持されたロータ(永久磁石回転子)10と、を有している。
【0027】
ステータ30は、ステータコア31とコイル(図略)とを有している。ステータコア31は、複数層の電磁鋼板を積層してなるものであり、円環形状のバックヨーク部31aとバックヨーク部31aから円環形状の内側に向かって突出した複数のティース31bを一体に備えている。そして、各ティース31bの外周に、コイルが巻き回されている。
【0028】
ロータ10は、略円柱状の外形を有するロータコア11と、ロータコア11に埋設された複数の永久磁石16とを有している。ロータコア11の中心には、駆動軸40を挿通可能な中空部12が貫通されている。ロータ10をステータ30の中空部12に同軸状に収容した状態で、ステータコア31のティース31bとロータコア11の外周面の間には、空隙が確保される。ロータ10の構成の詳細について、次に説明する。
【0029】
[永久磁石回転子の構成]
上記のように、ロータ(永久磁石回転子)10は、ロータコア11と、永久磁石16とを有している。ロータ10の構成を、
図1~3に示す。
図2は、ロータ10の磁極1つ分を示したものであり、永久磁石16の極性を交互に変えながら、複数(ここでは8個)の磁極を回転対称に連続的に配置したものが、
図1のようなロータ10の全体構造となる。なお、以下では、「周方向」「内周」「外周」「径方向」等、回転体における方向を示す語は、特記しないかぎり、ロータコア11についての方向を指すものとする。
【0030】
ロータコア11は、複数層の電磁鋼板を積層して構成されており、略円柱形状の外形を有している。ロータコア11には、軸方向に貫通または陥没した空隙として、スロット13,14,15とフラックスバリア17とが形成される。スロット13,14,15には、永久磁石16を埋設することができる。フラックスバリア17は、永久磁石16を埋設されず、空隙のままで維持される。あるいは、フラックスバリア17の中に、非磁性体が充填されてもよい。
【0031】
スロット13,14,15は、ロータコア11の回転中心側に向かって凸な形状を有している。スロット13,14,15の具体的な形状は特に限定されるものではないが、ここでは、それぞれが、略円弧形状を有している。つまり、ロータコア11の内周側に位置する内周側端縁(13b等)と、ロータコア11の外周側に位置する外周側端縁(13a等)が、それぞれ、ロータコア11の内側に向かって凸な円弧として形成されている。そして、それら内周側端縁(13b等)と外周側端縁(13a等)の間が、径方向端縁(13c等)によってつながれている。
【0032】
スロット13,14,15の層数は特に限定されるものではないが、本実施形態においては、リラクタンストルク向上等の観点から、永久磁石16を埋設できるスロット13,14,15を多層に設けている。つまり、ロータコア11の径方向に沿って、複数層(ここでは3層)のスロット13,14,15を、相互に離間させて配置している。各スロット13,14,15には、同極性の永久磁石16が埋設されている。永久磁石16としては、金属磁石を用いることが好ましい。なお、本実施形態においては、3層全てのスロット13,14,15に永久磁石16を埋設しているが、永久磁石回転子10の質量の低減等を目的として、一部のスロット、例えば最外層のスロット15に、永久磁石16を埋設しない形態としてもよい。
【0033】
最内層、中間層、最外層の各層を構成するスロット13,14,15は、ロータコア11の周方向に、それぞれ2つに分割されている。中間層および最外層においては、それぞれ2つに分割されたスロット14,15が、ブリッジ18を介して、ロータコア11の周方向に隣接している。一方、最内層においては、2つに分割されてロータコア11の周方向に隣り合ったスロット13の間の位置に、フラックスバリア17が形成されている。本実施形態においては、各層のスロット13,14,15およびフラックスバリア17をはじめ、ロータ10の各構成要素が、ロータコア11の径方向に沿った回転子d軸(図中d’にて表示)に対して、対称に形成されている。
【0034】
ロータコア11においては、各スロット13,14,15および各フラックスバリア17の内周側の部位と外周側の部位との間をつなぐブリッジ18,19,20が、ロータコア11と一体に形成されている。各ブリッジ18,19,20は、ロータ10を軸回転させた際に、遠心力の作用によって、ロータコア11の外周側の部位が内周側の部位から分離すること、またスロット13,14,15に埋設した永久磁石16が飛散することを防止する役割を果たす。
【0035】
本実施形態においては、フラックスバリア17の形状および最内層のスロット13とフラックスバリア17の間に形成されるブリッジ20の形状の効果によって、ロータ10の高出力化と、高速での安定回転を達成する。以下に、それらの形状について、主に
図3を参照しながら、詳細に説明する。
【0036】
(1)フラックスバリアの径方向長さ
本実施形態においては、フラックスバリア17と、フラックスバリア17に隣接するスロット(ここでは最内層のスロット)13の間で、径方向長さが、所定の関係をなしている。ここで、フラックスバリア17およびスロット13の径方向長さとは、ロータコア11の周方向に交差する方向の長さ寸法、つまり、それぞれの内周側端縁17b/13bと外周側端縁17a/13aとの間の距離を指す。
【0037】
スロット13は、略円弧形状に形成されており、径方向長さlmが、円弧形状の長手方向に沿って略均一となっている。これに対し、フラックスバリア17の径方向長さLmは、スロット13に対向する径方向端縁17c近傍の位置(回転子d軸から離れた位置)では、スロット13の径方向長さlmと略等しくなっているものの、スロット13から離れた位置(回転子d軸に近づく位置)では、スロット13の径方向長さlmよりも大きくなっている。
【0038】
フラックスバリア17においては、外周側端縁17aは、ロータコア11の内周側に向かって凸な略円弧形状をとっており、隣接するスロット13の外周側端縁13aを外挿したものに相当する形状と位置を有している。しかし、フラックスバリア17の内周側端縁17bは、スロット13に対向する径方向端縁17cの位置から、周方向に沿って離れるに従って(回転子d軸側に向かうに従って)、外周側端縁17aから離れて、ロータコア11の内周側に向かって延びている。これにより、フラックスバリア17の径方向長さLmが、スロット13から離れた位置で(回転子d軸側に向かう位置で)、スロット13の径方向長さlmよりも大きくなっている。
【0039】
ロータコア11にフラックスバリア17を設けておくことで、ロータ10において、d軸磁束経路の磁気抵抗が増大する。すると、q軸磁束経路との間で、磁気抵抗の差が大きくなり、モータ1のリラクタンストルクを向上させることができる。d軸磁束経路に沿ったフラックスバリア17の寸法が大きいほど、このような効果は大きくなる。よって、上記のように、フラックスバリア17に、径方向長さLmがスロット13の径方向長さlmよりも大きくなった部位を設けておくことで、
図7に示す従来一般のロータ100のように、フラックスバリア117が、スロット113と同じ均一な径方向長さを有する場合よりも、ロータ10に生じるリラクタンストルクを大きくすることができる。
【0040】
リラクタンストルク向上の効果は、フラックスバリア17の径方向長さLmを大きくするほど高くなる。十分にリラクタンストルクを向上させる観点から、フラックスバリア17の径方向長さLmの最大値は、スロット13の径方向長さlmの1.5倍以上とすることが好ましい。一方、フラックスバリア17の径方向長さLmを大きくしすぎても、リラクタンストルク向上の効果が飽和するうえ、ロータコア11の機械的強度が低下する可能性があるので、最大値を、スロット13の径方向長さlmの5.0倍以下に抑えておくことが好ましい。
【0041】
上記のように、フラックスバリア17に、径方向長さLmの大きい部分を設けることで、ロータ10に生じるリラクタンストルクを向上させる効果が得られるが、スロット13と対向する径方向端縁17c近傍の位置においては、ブリッジ20における機械強度の低下を防ぐ観点から、径方向長さLmを、スロット13の径方向長さlmと同程度に留めておく方がよい。
【0042】
フラックスバリア17を設ける層は特に限定されるものではないが、本実施形態のように、フラックスバリア17を最内層のスロット13に隣接させて設けることで、ロータ10に生じるリラクタンストルクを効果的に向上させることができ、またロータ10とステータ30の間の空隙における磁束密度波形の正弦波化の達成が容易となる。また、他層のスロット14,15等との間の干渉を避けながら、フラックスバリア17に径方向長さLmが大きい部分を形成しやすい。ただし、必要に応じて、最内層以外のスロット14,15の間の位置にも、径方向長さLmが大きくなった部位を有する上記のようなフラックスバリア17を設けるように構成してもよい。さらに、フラックスバリア17の具体的な形状も、特に限定されるものではないが、本実施形態のように、フラックスバリア17の外周側端縁17aではなく、内周側端縁17bを、他方の端縁から離れさせることで、径方向長さLmを広げるように構成すれば、最内層のスロット13よりも内周側のスロットが形成されていないロータコア11の面を利用して、径方向長さLmを大きく確保しやすい。
【0043】
(2)ブリッジの形状
上記のように、ロータコア11には、各スロット13,14,15およびフラックスバリア17の内周側の部位と外周側の部位との間をつなぐブリッジ18,19,20が形成されている。これらのうち、最内層のスロット13とフラックスバリア17との間の位置に設けられたブリッジ20に着目する。このブリッジ20の形状は、ブリッジ20を挟んで相互に対向するスロット13とフラックスバリア17の端縁の形状によって規定される。
【0044】
スロット13においては、ブリッジ20に面する2つの隅部13d,13eのうち、ロータコア11の外周側に位置するスロット外隅部13eが、R形状を有している。つまり、ロータ10の横断面において、スロット外隅部13eが、スロット13の外周側端縁13aの外挿線および径方向端縁13cの外挿線よりもスロット13の内側を通る、スロット13の外に向かって凸な曲線として構成され、外周側端縁13aおよび径方向端縁13cと滑らかに接合されている。
【0045】
一方、フラックスバリア17においては、ブリッジ20に面する二つの隅部17d,17eのうち、ロータコア11の内周側に位置するバリア内隅部17dが、R形状を有している。つまり、ロータ10の横断面において、バリア内隅部17dが、フラックスバリア17の内周側端縁17bの外挿線および径方向端縁17cの外挿線よりもフラックスバリア17の内側を通る、フラックスバリア17の外に向かって凸な曲線として構成され、内周側端縁17bおよび径方向端縁17cと滑らかに接合されている。なお、図示した形態では、バリア内隅部17dのR形状の曲率半径が大きいうえ、フラックスバリア17の径方向長さLmも大きくなっているため、バリア内隅部17dと内周側端縁17bの間の区別が必ずしも明確ではないが、そのように、内周側端縁17bが滑らかなR形状で径方向端縁17cにつながる形態も含むものとする。スロット外隅部13eのR形状に外接する遠心力の方向に沿った接線として規定される対角線bが、ブリッジ20を通って、フラックスバリア17の端縁と交差する位置を含む曲線部を、バリア内隅部17dとし、そのバリア内隅部17dが、R形状を有していればよい。
【0046】
本実施形態においては、スロット外隅部13eとバリア内隅部17dのR形状を比較すると、バリア内隅部17dの曲率半径が、スロット外隅部13eの曲率半径よりも大きくなっている。つまり、バリア内隅部17dの方が、スロット外隅部13eより緩やかに曲がったR形状を有している。
【0047】
ブリッジ20に面するスロット外隅部13eとバリア内隅部17d以外の隅部、つまり、スロット13の内周側に位置するスロット内隅部13d、およびフラックスバリア17の外周側に位置するバリア外隅部17eは、R形状を有していても、R形状を有さず、角形状に形成されていてもよい。図示した形態では、スロット内隅部13dおよびバリア外隅部17eもR形状を有しているが、それらの曲率半径よりも、スロット外隅部13eおよびバリア内隅部17dの曲率半径が大きくなっており、スロット内隅部13dおよびバリア外隅部17eの方が、角形状に近い形状をとっている。図示した形態では、曲率半径の関係は、次のようになっている。
(バリア内隅部17d)>(スロット外隅部13e)>(バリア外隅部17e)≒(スロット内隅部13d)
【0048】
本実施形態にかかるロータ10においては、ブリッジ20の形状を規定するスロット13およびフラックスバリア17の端縁において、上記のように、バリア内隅部17dおよびスロット外隅部13e、さらにはバリア外隅部17eおよびスロット内隅部13dに、R形状が形成されていることにより、ブリッジ20の幅w、つまりスロット13とフラックスバリア17の隣接方向に沿った方向のブリッジ20の寸法が、長手方向a(幅方向に交差し、ブリッジ20の内周側と外周側を結ぶ方向)に沿って、変化している。つまり、ブリッジ20の長手方向aに沿った中途部に、幅wの最も狭くなった狭窄部20aを有している。狭窄部20aは、長手方向aに沿って、ブリッジ20の一部の長さ領域を占めているが、その狭窄部20aから、長手方向aに沿って両側、つまり外周側および内周側の両側に向かって、ブリッジ20の幅wが、漸次広がっている。
【0049】
このように、ブリッジ20に、幅wが狭くなった狭窄部20aを設けておくことで、ブリッジ20において、有効となる磁束の漏れ、つまり永久磁石16の磁束およびd軸磁束、またq軸磁束に相当するコイルからの磁束のロータコア11内での短絡を、抑制することができる。ブリッジ20における有効な磁束の漏れを低減することで、ロータ10が組み込まれたモータ1のマグネットトルクおよびリラクタンストルクを高めることができる。その結果、モータ1において、安定した高速回転と高出力化を両立することができる。
【0050】
ブリッジ20において、長手方向aに沿って、幅wの狭い狭窄部20aが存在していれば、ブリッジ20を通る磁束量が、その狭窄部20aの幅wによって規定されるため、狭窄部20aよりも幅wの広い部位がブリッジ20に存在していても、ブリッジ20全体における磁束の漏れを抑制することができる。特に、長手方向aの両側の部位から、狭窄部20aに向かって、ブリッジwの幅が急激に小さくなっていることで、ブリッジ20全体が狭い幅を有する場合よりもさらに、磁束の漏れを、効果的に低減することができる。従って、ブリッジ20が、狭窄部20aから長手方向両側に幅wが広がった形状を有していることで、狭窄部20aの存在による漏れ磁束の低減と、幅wが広がった部分における機械的強度の確保とを、両立することができる。
図7に示すような従来一般のロータ100においては、ブリッジ120は、長手方向aに沿って、略均一な幅wを有しており、ブリッジ120の機械的強度を確保する観点から、ブリッジ120の幅wを大きくすると(
図9参照)、ブリッジ120における漏れ磁束が大きくなってしまう。
【0051】
ロータ10が高速で回転され、遠心力が発生すると、ブリッジ20の長手方向aがロータコア11の径方向に対して角度を有しているため、ブリッジ120に曲げ応力が印加される。ブリッジ20に、狭窄部20aが設けられていると、その幅wの狭さのため、ブリッジ20の具体的な形状によっては、狭窄部20aの幅方向両側の部位に、曲げ応力が集中しやすくなる場合がある。例えば、スロット13の径方向端縁13cおよびフラックスバリア17の径方向端縁17cが、狭窄部20aの幅方向両端の位置に、ブリッジ20の内側に向かって凸な角形状を有していると、その角形状の部分に、応力が集中しやすくなる。ブリッジ20の特定の箇所に曲げ応力が集中することで、その箇所における機械的強度が低下しやすくなる。すると、ロータ10を高速で回転させることが難しくなる。
【0052】
しかし、本実施形態では、
図3に示すように、スロット13の径方向端縁13cおよびフラックスバリア17の径方向端縁17cが、狭窄部20aの幅方向両側の位置において、角のない直線形状を有している。そのため、ロータ10を高速回転させても、狭窄部20aの幅方向両側の位置に、応力が集中しにくい。よって、ブリッジ20に狭窄部20aを設けても、高速回転に耐えられる十分な機械的強度を確保しやすくなっている。
【0053】
さらに、本実施形態にかかるロータ10においては、ブリッジ20の形状の効果により、ブリッジ20の狭窄部20aのみならず、対角部においても、高速回転時の応力の集中を緩和することができる。
図7に示すような従来一般のロータ100においては、ブリッジ120に面する4つの隅部113d,113e,117d,117eのいずれにおいても、ロータコア111にスロット113およびフラックスバリア117を設ける際に、製造上要求される程度の曲率半径の小さなR形状しか形成されていない。後の実施例にも示すように、ロータ100を高速回転させた際に、曲げ応力は、ブリッジ120において対角線bをなして相互に対向するスロット外隅部113eとバリア内隅部117dに、集中して印加される。スロット外隅部113eとバリア内隅部117dを結ぶ対角線bの方向が、遠心力が印加される方向であるロータコア111の径方向に近いからである。
【0054】
しかし、本実施形態にかかるロータ10においては、ブリッジ20を挟んで、対角線bをなして相互に対向するスロット外隅部13eとバリア内隅部17dに、それぞれ、R形状が形成されている。そのため、ロータ10が高速で回転され、ロータコア11の径方向に遠心力が印加されても、遠心力によってロータコア11に発生する応力が、後の実施例に示すように、スロット外隅部13eとバリア内隅部17dの狭い領域に局所的に集中せずに、ブリッジ20内の広い領域に分散されるようになる。
【0055】
このように、スロット外隅部13eとバリア内隅部17dにR形状を設け、ブリッジ20の特定の箇所に曲げ応力を集中させないようにすることで、ブリッジ20において、高速回転に耐えられる機械的強度を確保しやすくなる。機械的強度の確保のために、ブリッジ20の幅wを過度に大きくすることも必要でなくなる。ブリッジ20の幅wを狭くしておくこと、特に、局所的に幅wの狭くなった狭窄部20aを設けておくことで、ブリッジ20における有効となる磁束の漏れ、つまり永久磁石16の磁束およびコイルからの磁束の漏れを抑制し、磁束の漏れによるトルク低下を抑えて、ロータ10が組み込まれたモータ1のマグネットトルクおよびリラクタンストルクを高めることができる。その結果、モータ1において、安定した高速回転と高出力化を両立することができる。スロット外隅部13eとバリア内隅部17dにR形状を設けることは、ブリッジ20への狭窄部20aの形成と、対角部への曲げ応力の集中の緩和の両方に効果を有し、安定した高速回転と高出力化の両立に資するものである。
【0056】
それらの効果を十分に得る観点から、スロット外隅部13eとバリア内隅部17dのR形状の曲率半径は、スロット13の径方向長さlmの25%以上とすることが好ましい。一方、それら隅部13e,17dのR形状の曲率半径を大きくしすぎても、ブリッジ20の幅方向両側で応力集中が起きやすくなるため、スロット13の径方向長さlmの5倍以下とすることが好ましい。また、スロット外隅部13eおよびバリア内隅部17dのR形状の接線の方向が、遠心力が作用するロータコア11の径方向に近い方が、応力を分散させる効果に優れ、例えば、それら接線の方向が、ロータコア11の径方向に対して、±180°/[極数]程度の範囲に収まるようにすることが好ましい。なお、本実施形態においては、極数は8である。
【0057】
さらに、本実施形態においては、上記のように、バリア内隅部17dのR形状の曲率半径が、スロット外隅部13eのR形状の曲率半径よりも大きくなっている。フラックスバリア17は、径方向長さLmがスロット13の径方向長さlmよりも大きくなった部位を有しており、このような状況で、バリア内隅部17dのR形状の曲率半径を大きくすることにより、ブリッジ20において、幅wが狭い領域を長手方向aに沿って長く設けながら、曲げ応力の集中の緩和を効果的に達成することができる。
【0058】
もし、フラックスバリア17の径方向長さLmが、スロット13の径方向長さlmと同程度であり、バリア内隅部17dのR形状の曲率半径がスロット外隅部13eと同程度に小さいとすれば、
図3中に点線sで示すように、径方向端縁17cに対して、バリア内隅部17dの外縁が大きく内側を通るようになる(矢印s1で表示)。これに対し、バリア内隅部17dのR形状の曲率半径を実線で示すように大きくとることで、バリア内隅部17dの外縁が、径方向端縁17cに近接した位置を通る領域が長くなるので、ブリッジ20の幅wが狭い領域が、長手方向aに沿って長く続く。すると、ブリッジ20における、永久磁石16の磁束等、有効磁束の漏れを、低減することができる。このようなブリッジ20の幅wの狭さによる磁束漏れの低減と、R形状の曲率半径の大きさによるバリア内隅部17dへの曲げ応力の集中の効果的な緩和とが、両立される。
【0059】
上記効果を十分に得る観点から、バリア内隅部17dのR形状の曲率半径は、スロット外隅部13eのR形状の曲率半径の2倍以上であることが好ましい。一方、上記の効果が飽和することや、バリア内隅部17dの曲率半径が大きくなりすぎて、かえってブリッジ20への応力集中を招くことを避ける観点から、バリア内隅部17dのR形状の曲率半径は、スロット外隅部13eのR形状の曲率半径の25倍以下に抑えておくことが好ましい。
【0060】
本実施形態においては、上記のように、スロット外隅部13eおよびバリア内隅部17dだけでなく、スロット内隅部13dおよびバリア外隅部17eにも、R形状が設けられているが、その曲率半径は、スロット外隅部13eおよびバリア内隅部17dのR形状の曲率半径よりも小さくなっている。ロータコア11の径方向に近い方向に向いた対角線b上に位置するスロット外隅部13eおよびバリア内隅部17dには、その配置に起因して、ロータ10の回転によって生じる曲げ応力が集中しやすいため、これらの隅部13e,17dにR形状を形成することが、応力集中の緩和に効果的であるが、スロット内隅部13dおよびバリア外隅部17eは、そもそも応力が集中しにくい配置にあるため、同様の目的でR形状を形成することは必要でない。むしろ、スロット内隅部13dおよびバリア外隅部17eについては、R形状を設ける場合でも、その曲率半径を小さくしておいた方が、それらの隅部13d,17eの外縁がスロット13およびフラックスバリア17の内側に向かって退避する量が小さくなるので、ブリッジ20の幅wを、長手方向aの全域にわたって、小さく抑えることができる。すると、ブリッジ20における磁束漏れを低減しやすくなる。スロット内隅部13dおよびバリア外隅部17eのR形状の曲率半径は、スロット外隅部13eのR形状の曲率半径の75%以下であることが好ましい。スロット内隅部13dおよびバリア外隅部17eは、R形状を有さない角形状としてもよい。
【0061】
以上のように、ロータ10のスロット13とフラックスバリア17の間に設けられたブリッジ20において、幅wの狭くなった狭窄部20aを設けておくことで、永久磁石16の磁束等、有効となる磁束のブリッジ20における漏れを低減し、モータ1のマグネットトルクおよびリラクタンストルクを大きくすることができる。スロット外隅部13eおよびバリア内隅部17dにR形状を形成することで、狭窄部20aを簡便に形成することができるとともに、それらスロット外隅部13eおよびバリア内隅部17dにおいて、配置に起因して起こりやすい高速回転時の応力集中を緩和し、モータ1の回転速度を高速側へ拡大することが可能となる。そして、R形状の曲率半径を、バリア内隅部17dで特に大きくすること、さらにはスロット内隅部13dおよびバリア外隅部17eで小さくすることにより、狭窄部20aの形成の効果と併せて、ブリッジ20における永久磁石16の磁束等、有効磁束の漏れを低減し、モータ1のマグネットトルクおよびリラクタンストルクの向上に寄与することができる。その結果、フラックスバリア17に、径方向長さLmがスロット13の径方向長さlmよりも大きい部位を設けることにより、リラクタンストルクを向上させることの効果と合わせて、モータ1の出力トルクを向上させることができる。このように、フラックスバリア17およびブリッジ20の形状の効果により、モータ1の高速回転の安定化と高出力化を同時に達成することができる。
【0062】
(3)フラックスバリア中途部へのブリッジの配置
さらに、本実施形態にかかるロータ10においては、周方向に沿って、フラックスバリア17の中途部に、ブリッジ21が形成されている。ブリッジ21は、フラックスバリア17の外周側の部位と内周側の部位をつないで、ロータコア11と一体に形成されている。フラックスバリア17は、このブリッジ21によって周方向に2分割されている。図示した形態では、ブリッジ21は、フラックスバリア17の周方向中央の位置に、回転子d軸に沿って設けられている。
【0063】
フラックスバリア17の中途部にブリッジ21を設けることで、ロータコア11の機械的強度を高めることができる。特に、ロータ10を高速で回転させた際に、ロータコア11の各部に印加される曲げ応力を低減するのに効果を有する。
【0064】
フラックスバリア17は、周方向に2分割された最内層のスロット13の間の位置に設けられており、フラックスバリア17の周方向中途部に内周側と外周側をつないで設けられたブリッジ21は、フラックスバリア17とスロット13の間に設けられたブリッジ20よりも、ロータコア11の径方向に近い方向に長手方向が延びることになる。すると、ロータ10の回転時に遠心力によって印加される応力として、フラックスバリア17とスロット13の間のブリッジ20においては、曲げ応力の成分、つまりロータコア11の周方向に沿った成分が大きいのに対して、フラックスバリア17の中途部に設けられたブリッジ21においては、引張応力の成分、つまりロータコア11の径方向に沿った成分が大きくなる。図示した形態のように、フラックスバリア17の周方向中央の位置にブリッジ21を設ける場合には、ブリッジ21の方向がロータコア11の径方向(回転子d軸)に一致するため、応力として、ほぼ引張応力のみが印加される状態となる。ロータコア11において、ブリッジ18~21のように幅の狭い部位に曲げ応力が印加されると、材料の機械的強度の低下や変形につながりやすいが、引張応力であれば、幅の狭い部位に印加されても、それらの事態が起こりにくい。
【0065】
よって、フラックスバリア17の中途部にブリッジ21を設けておき、ロータ10の回転時に遠心力によってロータコア11に印加される応力の一部を、そのブリッジ21に印加される引張応力として分布させることで、スロット13とフラックスバリア17の間のブリッジ20をはじめ、幅が狭く、機械的強度が低くなりやすい部位に印加される応力、特に曲げ応力を分散させることができる。その結果、ロータコア11全体として、高速での回転に耐えられる機械的強度を確保しやすくなる。フラックスバリア17の周方向中途部にブリッジ21を設けずに、スロット13とフラックスバリア17の間のブリッジ20を幅広に形成する場合と比較して、両ブリッジ20,21の合計の幅を狭くしても、同等の機械的強度を確保することができる。
【0066】
図示した形態では、ブリッジ21は、フラックスバリア17の周方向中央部に1本のみ設けているが、特に、応力分散の効果を高めたい場合等には、1つのフラックスバリア17内に、複数のブリッジ21を設けるように構成してもよい。逆に、応力分散の必要性が低い場合等には、フラックスバリア17の周方向中途部にブリッジ21を設けない形態としてもよい。この場合には、
図4に変形形態にかかるロータ10’として示すように、周方向に連続した1つのフラックスバリア17’が、回転子d軸を挟んで対称に設けられる。そして、径方向長さLmの長い部位が、回転子d軸を横切って周方向に連続することになる。
【0067】
図3に示した形態では、ブリッジ21に面する両側のフラックスバリア17の隅部17f,17gにも、R形状を設けている。これにより、ブリッジ21の幅の狭さと、これら隅部17f,17gへの応力集中によるブリッジ21の破断の回避を、両立しやすくなる。また、ロータ10の製造における鋼板の加工工程において、現状想定できる加工機で、容易にブリッジ21の加工を行えるようになる。
【0068】
[2]第二の実施形態
スロットとフラックスバリアの間のブリッジとしては、スロットとフラックスバリアの隣接方向に沿った幅方向の寸法が最も小さくなった狭窄部を有するとともに、狭窄部から、幅方向に交差する方向に沿って両側に、幅方向の寸法が漸次広がった形状を有し、さらに、その狭窄部の幅方向両側において、スロットおよびフラックスバリアの端縁が、直線形状、または、ブリッジの幅方向内側に向かって凸な曲線形状していれば、上記第一の実施形態に示した具体形状を有するブリッジに限らず、ブリッジでの有効となる磁束の漏れを低減するとともに、ブリッジの狭窄部の幅方向両側での応力の集中を緩和することができる。以下、本発明の第二の実施形態および第三の実施形態にかかる永久磁石回転子10A,10Bとして、第一の実施形態にかかる永久磁石回転子10と異なる形状のブリッジを有する場合について、説明する。
【0069】
以下では、第一の実施形態と異なる部分を中心に説明し、共通する部分については、対応する符号を図中に付し、詳細な説明を省略する。また、第二の実施形態および第三の実施形態にかかる永久磁石回転子10A,10Bも、第一の実施形態にかかる永久磁石回転子10と同様に、回転電気機械1を構成することができる。
【0070】
図5に、本発明の第二の実施形態にかかる永久磁石回転子10Aの、フラックスバリア17A近傍の状態を示す。第一の実施形態にかかる永久磁石回転子10においては、
図3に示すように、フラックスバリア17の径方向端縁17cが、略直線状の端縁として形成されており、その径方向端縁17cと内周側端縁17bの間に、R形状を有するバリア内隅部17dが形成されていた。これに対し、第二の実施形態にかかる永久磁石回転子10Aにおいては、フラックスバリア17Aにおいて、スロット13Aに対向する径方向端縁17cの全体が、ブリッジ20Aの内側に向かって凸な曲線形状、具体的には略円弧形状を有している。
【0071】
そして、その略円弧状の径方向端縁17cの中途部に相当する位置で、ブリッジ20Aの幅wが最も狭くなっており、狭窄部20aが形成されている。狭窄部20aの幅方向両側には、フラックスバリア17Aの径方向端縁17cと、スロット13Aのスロット外隅部13eのR形状の端縁が、面している。フラックスバリア17Aの径方向端縁17cの略円弧形状、そしてスロット13Aのスロット外隅部13eのR形状、また内周側ほどスロット13Aの内側に向かう径方向端縁13cの傾斜形状により、ブリッジ20Aは、狭窄部20aから長手方向aに沿って両側に、幅wが漸次広がった形状を有している。
【0072】
このように、第二の実施形態にかかるロータ10Aにおいても、第一の実施形態にかかるロータ10と同様に、相互に隣接するスロット13Aとフラックスバリア17Aの間に設けられたブリッジ20Aが、幅wの狭くなった狭窄部20aを有するとともに、狭窄部20aから長手方向aに沿って両側に、幅wが漸次広がった形状をとっている。ブリッジ20Aがこのような形状を有することで、狭窄部20aの存在によるブリッジで20Aでの有効磁束の漏れの低減と、幅wが広がった部位による機械的強度の確保を、両立することができる。その結果、高速回転の安定化と高出力化を両立することが可能となる。
【0073】
また、第二の実施形態にかかるロータ10Aにおいては、ブリッジ20Aの狭窄部20aの幅方向両側に、スロット13Aのスロット外隅部13eの端縁と、フラックスバリア17Aの径方向端縁17cとが面している。それらスロット外隅部13eおよび径方向端縁17cは、いずれも、狭窄部20aの位置において、ブリッジ20Aの内側に向かって凸な曲線形状をとっている。このように、狭窄部20aの幅方向両側に面する端縁が、ブリッジの幅方向内側に向かって凸な曲線形状をとっていることで、狭窄部20aの幅方向両側に面する端縁が直線形状をとっている第一の実施形態にかかるロータ10と同様に、狭窄部20aの幅方向両側の部位に、ロータ回転時に応力が集中するのを、緩和することができる。
【0074】
上記のように、第二の実施形態にかかるロータ10Aのフラックスバリア17Aにおいては、径方向端縁17c全体が略円弧形状に形成されており、その径方向端縁17cと、内周側端縁17bの間が、内周側に向かうほどフラックスバリア17Aの内側に傾斜した傾斜端縁17hによって接合されている。このような場合にも、上記第一の実施形態と同様に、スロット外隅部13eのR形状に外接する遠心力の方向に沿った接線として規定される対角線bが、ブリッジ20Aを通って、フラックスバリア17Aの端縁と交差する位置をバリア内隅部17dとし、第一の実施形態において、スロット外隅部13eについて、曲率等に関して記載した好ましい形態を適用することができる。
図5に示した形態においては、略円弧形状の径方向端縁17cのうち、内周側の一部の領域が、そのように規定されるバリア内隅部17dとなる。
【0075】
以上のように、フラックスバリア17/17Aにおいて、第一の実施形態のように、径方向端縁17cを直線的に形成し、その内周側の端部に、R形状を有するバリア内隅部17dを設ける場合でも、第二の実施形態のように、径方向端縁17c全体を、バリア内隅部17dをその一部に含む略円弧形状に形成する場合でも、ブリッジ20/20Aに、幅方向両側の端縁が、直線形状またはブリッジ20/20Aの幅方向内側に向かって凸な曲線形状となった狭窄部20aを設けておくことで、狭窄部20aの幅方向両端部への応力の集中を避けながら、ブリッジ20/20Aにおける漏れ磁束を低減することができる。応力集中の緩和と漏れ磁束の低減の観点からは、いずれの形態をとってもよいが、第二の実施形態では、径方向端縁17b、傾斜端縁17h、内周側端縁17bが、一連の滑らかな形状に結合され、径方向長さLmが大きくなった部位を有するフラックスバリア17Aを、第一の実施形態におけるよりも、滑らかな端縁で構成しやすい。
【0076】
[3]第三の実施形態
最後に、本発明の第三の実施形態にかかる永久磁石回転子10Bについて説明する。
図6に第三の実施形態にかかる永久磁石回転子10Bのフラックスバリア17B近傍の状態を示す。
【0077】
第三の実施形態においても、ブリッジ20Bは、幅wが最も狭くなった狭窄部20aを有している。そして、狭窄部20aから、長手方向aに沿って両側に、幅wが漸次広がっている。
【0078】
ブリッジ20Bの幅方向の一方側に面するフラックスバリア17Bの径方向端縁は、2つの直線状部17c1,17c2を有している。第一の直線状部17c1は、狭窄部20aよりも外周側に位置し、外周側に向かうほど、フラックスバリア17Bの内側に向かう傾斜を有した直線よりなっている。第二の直線状部17c2は、狭窄部20aよりも内周側に位置し、内周側に向かうほど、フラックスバリア17Bの内側に向かう傾斜を有した直線よりなっている。つまり、2つの直線部17c1,17c2は、略V字状の相互配置をとっている。しかし、2つの直線状部17c1,17c2の接合部には、角形状の頂点が形成されるのではなく、2つの直線状部17c1,17c2が、ブリッジ20Bの内側に向かって凸なR形状を有する接合部17c3によって、滑らかに接合されている。
【0079】
ブリッジ20Bの幅方向wの他方側に面するスロット13Bの径方向端縁も、2つの直線状部13c1,13c2を有している。第一の直線状部13c1は、狭窄部20aよりも外周側に位置し、外周側に向かうほど、スロット13Bの内側に向かう傾斜を有した直線よりなっている。第二の直線状部13c2は、狭窄部20aよりも内周側に位置し、内周側に向かうほど、スロット13Bの内側に向かう傾斜を有した直線よりなっている。つまり、2つの直線部13c1,13c2は、略V字状の相互配置をとっている。しかし、2つの直線状部13c1,13c2の接合部には、角形状の頂点が形成されるのではなく、2つの直線状部13c1,13c2が、ブリッジ20Bの内側に向かって凸なR形状を有する接合部13c3によって、滑らかに接合されている。
【0080】
このように、ブリッジ20Bにおいて、長手方向aに沿って幅方向両側に、直線状部17c1,17c2よりなるフラックスバリア17Bの幅方向端縁と、直線状部13c1,13c2よりなるスロット13Bの幅方向端縁が設けられていることで、狭窄部20aを中心として、長手方向aに沿って両側に、末広がり状にブリッジ20Bが広がった状態となっている。このように、直線状部17c1,17c2,13c1,13c2を利用することで、ブリッジ20Bにおいて、長手方向aに沿った幅wの変化を形成しやすく、狭窄部20aによる漏れ磁束の低減と、幅wが広くなった部位による機械的強度の確保を両立できるブリッジ20Bを設計しやすくなる。
【0081】
そして、2つの直線状部の間(直線状部17c1と17c2の間、直線状部13c1と13c2の間)が、R形状を有する接合部17c3,13c3によって滑らかに接合されていることで、上記第二の実施形態と同様に、狭窄部20aの幅方向両側において、スロット13Bおよびフラックスバリア17Bの端縁が、ブリッジ20Bの幅方向内側に向かって凸な曲線形状をとった状態となっている。これにより、ロータ10Bの回転時に、狭窄部20aの幅方向両側の位置に、応力が集中するのを緩和することができる。
【実施例】
【0082】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
【0083】
<応力分布の解析>
まず、ロータコアに設けるフラックスバリアやブリッジの形状を変えた場合に、ロータの回転によってロータコアの各部に印加される応力の分布がどのようになるかを解析した。解析は、構造解析プログラムを用いて行った。
【0084】
(解析方法)
ロータのモデルとして、以下の4種を準備した。
・従来形態A:
図7に示す、フラックスバリアがスロットと同じ径方向長さを有する円弧形状に形成された、従来一般の構成を有するロータを採用した。フラックスバリア117とスロット113間のブリッジ120の幅wは、後述する実施形態A,Bにおける狭窄部の幅wと略同一とした。
・従来形態B:上記従来形態Aを基本とし、フラックスバリア117とスロット113の間のブリッジ120の幅wを、約2倍に広げた。
・実施形態A:
図5に示す本発明の第二の実施形態にかかるロータを採用した。フラックスバリア17Aがスロット13Aよりも径方向長さが大きくなった部位を有している。そして、フラックスバリア17Aは、略円弧形状の径方向端縁17cを有している。フラックスバリア17Aの中途部には、ブリッジ21を形成している。
・実施形態B:
図6に示す本発明の第三の実施形態にかかるロータを採用した。フラックスバリア17Bがスロット13Bよりも径方向長さが大きくなった部位を有している。そして、フラックスバリア17Bおよびスロット13Bがそれぞれ、径方向端縁に、R形状を有する接合部17c3,13c3で滑らかに接合された2つの直線状部(17c1および17c2,13c1および13c2)を有している。フラックスバリア17Bの中途部には、ブリッジ21を形成している。
上記のように、スロットとフラックスバリアの間のブリッジの最も幅の狭い部位(狭窄部)の幅wは、従来形態Aおよび実施形態A,Bで、略等しくなっており、従来形態Bで、それらの約2倍となっている。
【0085】
上記従来形態A,Bおよび実施形態A,Bのそれぞれのロータについて、軸回転させた際に、遠心力によってロータの各部に印加される応力の分布を解析した。シミュレーションに用いたパラメータを、表1にまとめる。
【0086】
【0087】
(結果)
図8~11に、各形態についての解析結果を示す。
図8が従来形態A、
図9が従来形態B、
図10が実施形態A、
図11が実施形態Bの結果を示している。各図は、印加される主応力の大きさ(単位:MPa)を、グレースケールで表示しており、応力が大きくなるほど、濃い色で表示している。
【0088】
図8の従来形態Aの結果を見ると、スロットとフラックスバリアの間のブリッジの特定の場所に、大きな応力が分布している。詳細には、スロット外隅部とバリア内隅部に相当する、ブリッジの右上部と左下部の狭い領域に、大きな応力が局在している。これらの部位における応力の最大値は、510MPaである。
【0089】
図9の従来形態Bの結果を見ると、スロットとフラックスバリアの間のブリッジにおいて、特定の領域に応力が集中する傾向は緩和されている。応力の最大値は、フラックスバリアの径方向端縁の中央近傍において観測され、300MPaと、上記従来形態Aの場合よりも小さくなっている。従来形態Aの場合よりも、ブリッジの幅を広げることで、ブリッジにおいて、大きな面積に応力が分散されるようになった結果であると解釈できる。
【0090】
さらに、
図10の実施形態Aの結果を見ると、各ブリッジには、ブリッジ以外の領域と比べると、大きな応力が印加されているが、特定のブリッジに著しく大きな応力が分布しているような状態は見られない。比較的大きな応力が分布しているのは、フラックスバリアの中途部のブリッジであり、スロットとフラックスバリアの間のブリッジに分布している応力は、それよりも小さくなっている。
【0091】
図10(b)に拡大図を示すように、スロットとフラックスバリアの間のブリッジにおいて、スロット外隅部とバリア内隅部に相当する、ブリッジの右上部と左下部の領域に、他の領域と比較して、やや大きな応力が印加されているが、応力の集中の程度は、
図8の従来形態Aの場合より、顕著に小さい。また、それらスロット外隅部とバリア内隅部における応力の最大値は、275MPaとなっており、従来形態Aにおける最大値と比較して、54%に抑えられている。ブリッジの幅を広げた従来形態Bと比較しても、応力の最大値が小さくなっている。ブリッジにおいて幅が最も狭くなっている狭窄部の幅方向両側の部分に、応力が集中するような挙動も、見られていない。
【0092】
上記のように、フラックスバリアの中途部に設けたブリッジには、比較的大きな応力が分布しているが、
図10(c)に拡大図を示すように、応力は、ブリッジの長手方向に沿って均一性高く分布し、特定の位置に大きな応力が分布しているような状態は見られない。このブリッジにおける応力の最大値は、290MPaとなっている。
【0093】
このように、
図10の実施形態Aにおいては、
図8の従来形態Aと比較して、ロータコア全体に応力が分散して印加されており、スロットとフラックスバリアの間のブリッジ、特に、狭窄部、およびスロット外隅部とバリア内隅部への応力の集中を緩和できている。これは主に、狭窄部の幅方向両側の端縁の曲線形状およびスロット外隅部とバリア内隅部のR形状によって、スロットとフラックスバリアの間のブリッジの内部で応力が分散されていること、およびフラックスバリアの中途部に設けたブリッジへの引張応力の印加によって、それ以外の部位に印加される応力が低減されていることによるものであると解釈できる。
【0094】
図11に示した実施形態Bの結果を見ると、スロットとフラックスバリアの間のブリッジにおいて、幅が最も狭くなった狭窄部の幅方向両側の位置に、やや大きな応力が印加されている。しかし、その応力の集中の程度は、
図8の従来形態Aの場合におけるスロット外隅部とバリア内隅部への応力の集中と比較して、顕著に小さい。狭窄部の幅方向両側における応力の最大値は、295MPaであり、従来形態Aの場合の58%に抑えられている。
図10の実施形状Aの場合と比較して、ブリッジの幅方向両側の端縁の形状が、狭窄部近傍において急激に変化していることにより、狭窄部の幅方向両側の位置において、大きな応力が分布するようになっているものの、狭窄部の幅方向両側の端縁が、ブリッジの内側に向かって凸な角形状ではなく、曲線形状を有していることにより、応力集中の程度が小さく抑えられていると、解釈できる。
【0095】
<モータの出力特性>
上記の従来形態A,Bおよび実施形態Aのロータについて、シミュレーションを行い、トルク特性および出力特性を解析した。シミュレーションは、有限要素法(FEM)を用いた電磁界解析によって行った。
【0096】
シミュレーションには、上記表1のパラメータを用いた。また、インバータ直流電圧を、650Vとした。
【0097】
(結果)
図12,13に、トルク特性の解析結果を示す。
図12(a)が従来形態A、
図12(b)が従来形態B、
図13が実施形態Aの結果を示している。それぞれ、電流位相角の関数として、総合トルク(Total)を、マグネットトルク(magnet)およびリラクタンストルク(reluctance)とともに示している。いずれの図においても、
図12(b)の従来形態Bにおける総合トルクの最大値を1として、トルクの値を規格化して示している。
【0098】
図12(a)の従来形態Aと、
図13の実施形態Aを比較すると、実施形態Aの方で、マグネットトルクとリラクタンストルクの両方が大きくなり、その結果として、総合トルクも大きくなっている。総合トルクは、最大値で、従来形態Aを基準として、約4%大きくなっている。実施形態Aにおけるリラクタンストルクの向上は、フラックスバリアが、スロットよりも径方向長さの大きい部位を有することの結果であると解釈される。さらに、実施形態Aにおいては、スロットとフラックスバリアの間のブリッジに、他の部分よりも急激に幅が狭くなった狭窄部が設けられていることで、ブリッジにおける永久磁石の磁束およびステータのコイルからの磁束の漏れが低減され、マグネットトルクおよびリラクタンストルクの向上に効果がもたらされていると解釈される。このように、実施形態Aにおいては、フラックスバリアに径方向長さの大きい部位を設けることと、スロットとフラックスバリアの間のブリッジに狭窄部を設けることにより、トルクの向上を、上記応力分布のシミュレーションによって示された機械的強度の確保と、両立することが可能となっている。
【0099】
一方、
図12(b)の従来形態Bにおけるトルク特性を見ると、
図12(a)の従来形態Aおよび
図13の実施形態Aのいずれと比べても、マグネットトルク、リラクタンストルクともに、顕著に小さくなっている。その結果、総合トルクも小さくなっている。総合トルクは、最大値で、従来形態Aを基準として、約3%小さくなっている。これは、スロットとフラックスバリアの間のブリッジの幅を大きくしていることで、このブリッジにおける永久磁石の磁束、およびステータのコイルからの磁束の漏れが大きくなったことによると解釈できる。つまり、スロットとフラックスバリアの間のブリッジの幅が略一定となった従来一般のロータにおいては、ブリッジに印加される応力を低減するためにブリッジの幅を大きくすると、得られるトルクが低下することになり、機械的強度の確保とトルクの向上を両立させることは難しいと言える。
【0100】
図14(a)に、最大トルク発生時のトルク特性(次元:Nm)を、ロータの回転速度の関数として示し、従来形態A,Bと実施形態Aで比較する。ここでも、従来形態Bにおける最大値が1になるように、規格化して結果を示している。
【0101】
図14(a)によると、全ての速度領域で、実施形態Aにおいて、従来形態A,Bよりも、大きなトルクが得られている。最大値を比較すると、実施形態Aにおいて、従来形態Bを基準として、約7%大きな値となっており、従来形態Aを基準とした場合にも、約3%大きな値となっている。
【0102】
さらに、
図14(b)に、出力特性(次元:W)を、ロータの回転速度の関数として示し、従来形態A,Bと実施形態Aで比較する。ここでも、従来形態Bにおける最大値が1になるように、規格化して結果を示している。
【0103】
図14(b)によると、全ての速度領域で、実施形態Aにおいて、従来形態A,Bよりも、大きな出力が得られている。最大出力は、実施形態Aにおいて、従来形態Bを基準として、約8%大きな値となっており、従来形態Aを基準とした場合にも、約5%大きな値となっている。また、図示した最高速度での出力は、実施形態Aにおいて、従来形態Bを基準として約18%大きな値となっており、従来形態Aを基準とした場合にも、約10%大きな値となっている。そして、回転速度が大きくなるほど、従来形態A,Bの値に対する実施形態Aの値の差が大きくなっている。
【0104】
このように、
図14(a),(b)の回転速度の関数としてのトルク特性および出力特性は、
図12および
図13に示した電流位相角の関数としてのトルク特性とよく整合したものとなっている。これらの結果より、実施形態Aのように、フラックスバリアに径方向長さの大きくなった部位を設けるとともに、スロットとフラックスバリアの間のブリッジに狭窄部を設けることで、従来形態A,Bのように、フラックスバリアの径方向長さをスロットと等しくするとともに、スロットとフラックスバリアの間のブリッジの幅を略均一に構成する場合と比較して、トルク特性および出力特性を向上させられることが分かる。
【0105】
最後に、
図15に、永久磁石磁束の巻線磁束鎖交数を、実施形態Aと、従来形態A,Bで比較したものを示す。ここでは、実施形態Aの値を1として規格化して、各形態の磁束鎖交数を示している。
【0106】
磁束鎖交数が大きいほど、永久磁石がステータのコイルの位置に形成する磁束が大きいことを示しており、ロータコアのブリッジ等における漏れ磁束が小さいことになる。
図15によると、磁束鎖交数が、実施形態Aにおいて最も大きく、従来形態Aにおいて小さくなり、従来形態Bにおいてさらに小さくなっている。実施形態Aの値を基準として、従来形態Bにおいては、磁束鎖交数が約8%小さくなっている。この結果は、スロットとフラックスバリアの間のブリッジの形状との間に相関を有しており、ブリッジの幅が広い従来形態Bにおいては、磁束の漏れが大きくなっていると言える。ブリッジの幅が小さくなった従来形態Aおよび実施形態Aにおいては、磁束の漏れが小さく抑えられており、特に、狭窄部でブリッジの幅が急激に小さくなっている実施形態Aにおいては、磁束の漏れが効果的に抑えられていると言える。
【0107】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【0108】
なお、本発明の上記実施形態にかかる永久磁石回転子10(10A,10B)および回転電気機械1においては、大きなリラクタンストルクを与えることを課題とし、複数のスロット13(13A,13B)の間に位置するフラックスバリア17(17A,17B)が、ロータコア11の内周側の端縁と外周側の端縁との間の距離Lmが、スロット13(13A,13B)の該距離lmよりも大きい部位を有することを必須としていたが、スロット13(13A,13B)とフラックスバリア17(17A,17B)の間に設けられたブリッジ20(20A,20B)において、特定の部位に応力集中が起こるのを緩和することを課題とする場合に、任意の距離Lmを有するフラックスバリアを形成するとともに、上記で「(2)ブリッジの形状」、また「(3)フラックスバリア中途部へのブリッジの配置」として記載した各ブリッジ20(20A,20B),21の構成を採用することができる。
【符号の説明】
【0109】
1 モータ(回転電気機械)
10,10A,10B ロータ(永久磁石回転子)
11 ロータコア
12 中空部
13,14,15 スロット
13A,13B スロット
13a (スロットの)外周側端縁
13b (スロットの)内周側端縁
13c (スロットの)径方向端縁
13d スロット内隅部
13e スロット外隅部
16 永久磁石
17,17A,17B フラックスバリア
17a (フラックスバリアの)外周側端縁
17b (フラックスバリアの)内周側端縁
17c (フラックスバリアの)径方向端縁
17d バリア内隅部
17e バリア外隅部
17h 傾斜端縁
18,19 ブリッジ
20,20A,20B ブリッジ
21 ブリッジ
30 ステータ(固定子)
a ブリッジの長手方向
b ブリッジの対角線
d’ 回転子d軸
lm スロットの径方向長さ
Lm フラックスバリアの径方向長さ
w ブリッジの幅