(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】トリヒドロキシベンゼンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 37/07 20060101AFI20221109BHJP
C07C 39/10 20060101ALI20221109BHJP
C07C 37/72 20060101ALI20221109BHJP
C12P 7/26 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
C07C37/07
C07C39/10
C07C37/72
C12P7/26
(21)【出願番号】P 2018201017
(22)【出願日】2018-10-25
【審査請求日】2021-09-13
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「非可植性植物由来化学品製造プロセス技術開発/研究開発項目 (2) 木質系バイオマスから化学品までの一貫製造プロセスの開発/木質バイオマスから各種化学品原料の一貫製造プロセスの開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】吉川 修
(72)【発明者】
【氏名】矢部 正樹
(72)【発明者】
【氏名】和田 光史
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 祐介
(72)【発明者】
【氏名】大内 秀紀
【審査官】小路 杏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第06/112000(WO,A1)
【文献】特許第5373066(JP,B2)
【文献】KAKINUMA, K. et al.,An expeditious chemo-enzymatic route from glucose to catechol by the use of 2-deoxy-scyllo-inosose synthase,Tetrahedron Letters,2000年,Vol.41,pp.1935-1938
【文献】Hansen, C.A. et al.,Deoxygenation of Polyhydroxybenzenes: An Alternative Strategy for the Benzene-Free Synthesis of Aromatic Chemcals,Journal of the American Chemical Society,2002年,Vol.124,pp.5926-5927,doi: 10.1021/ja0176346
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 37/07
C07C 39/10
C07C 37/72
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デオキシシロイノソース(DOI)を含む細菌培養液を、80℃以上の高温で加熱して、トリヒドロキシベンゼン(THB)を含む産物溶液を取得する工程を含む、トリヒドロキシベンゼン(THB)の製造方法。
【請求項2】
前記細菌培養液は、DOIを合成する細菌の培養によって1g/L以上のDOIが蓄積したものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記加熱の前に、DOIを合成する前記細菌を液体培地中でDOI合成条件下で培養する工程をさらに含み、前記培養後の液体培地が前記細菌培養液を提供する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記加熱をする前に、前記細菌を前記細菌培養液から除去する工程をさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記高温は90~300℃である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記高温における加熱は、少なくとも30秒間行われる、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記産物溶液からトリヒドロキシベンゼン(THB)を分離する工程をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記分離する工程は、溶媒抽出を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記溶媒抽出における溶媒は酢酸エチルである、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリヒドロキシベンゼン(THB)を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デオキシシロイノソース(2-deoxy-scyllo-inosose。DOIと略記される。)は、様々な有用な化学物質へと誘導することができる化合物である。一般に、産業的に有用な化学物質、特に炭素六員環化合物は、化石資源、特に石油を原料として化学的に製造されることが多い。しかしながら、DOIは、特定の酵素を発現する細菌を用いたバイオプロセスにより糖類から合成できることが知られているため(特許文献1~3)、化石資源依存からの脱却および地球環境保全の観点から、特に魅力的な化学物質である。
【0003】
すなわち、例えば木材チップのような、セルロースを主成分とする植物材料を、公知の技術によってグルコース等の単糖類に分解し、その単糖類を、上述のバイオプロセスによりDOIに変換することにより、非化石資源を有効利用した化学製品製造を実現することができる。
【0004】
DOIから誘導され得るさらなる中間物質のうち、最も代表的な1つが、トリヒドロキシベンゼン(THB)である。THBは、DOIからの脱水反応(1分子のDOIから合計2分子の水が脱離する)により生成される化合物である。THBはさらに、クエルシトール、カルバグルコース、カテコール、アジピン酸誘導体、ハイドロキノン、トリメトキシベンゼン、トリメトキシ安息香酸フェニルエステル、セサモール等の有用化合物へと誘導することができる。これらのTHB由来有用化合物は、例えば糖尿病治療薬、ナイロン、写真薬、重合抑制剤、Li二次電池添加剤、セルロースフィルム添加剤、抗うつ薬等のアプリケーションに用いることができる(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2006/109479号
【文献】国際公開第2010/053052号
【文献】国際公開第2015/005451号
【非特許文献】
【0006】
【文献】生物工学、第93巻、533-535、2015年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
細菌を用いたバイオプロセスにより合成されたDOIから、THBを得るために、従来は、培養培地の酸性化、遠心分離、濾過、陽イオン交換、陰イオン交換、乾燥、濃縮、メタノール共沸、乾燥、晶析、および濾過乾燥を含む多数の工程を経て精製粉末DOIを取得し、それを水に溶解して、例えば170℃、2時間加熱することによって最終的に製品THBを得るということが行なわれていた。しかしながら、このような多くの工程は、手間と時間がかかり、製造コストを著しく高くしてしまう。製造工程の簡略化、および/または収率の向上によって、THB製造の効率性を改善することが望まれる。
【0008】
本発明は、効率性が改善されたTHB製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、DOIを合成した細菌の培養液を直接加熱することにより、高収率でTHBが生成されることを発見した。本発明はこの発見に基づくものである。
【0010】
本発明は、少なくとも以下の実施形態を含む。
[1]
デオキシシロイノソース(DOI)を含む細菌培養液を、80℃以上の高温で加熱して、トリヒドロキシベンゼン(THB)を含む産物溶液を取得する工程を含む、トリヒドロキシベンゼン(THB)の製造方法。
[2]
前記細菌培養液は、DOIを合成する細菌の培養によって1g/L以上のDOIが蓄積したものである、[1]に記載の方法。
[3]
前記加熱の前に、DOIを合成する前記細菌を液体培地中でDOI合成条件下で培養する工程をさらに含み、前記培養後の液体培地が前記細菌培養液を提供する、[2]に記載の方法。
[4]
前記加熱をする前に、前記細菌を前記細菌培養液から除去する工程をさらに含む、[3]に記載の方法。
[5]
前記高温は90~300℃である、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]
前記高温における加熱は、少なくとも30秒間行われる、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]
前記産物溶液からトリヒドロキシベンゼン(THB)を分離する工程をさらに含む、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]
前記分離する工程は、溶媒抽出を含む、[7]に記載の方法。
[9]
前記溶媒抽出における溶媒は酢酸エチルである、[8]に記載の方法。
【0011】
本発明により、THBを生産する効率が著しく改善される。すなわち、細菌によるDOIの合成からTHB生産までのプロセスの工程数を減少させて著しく簡略化することができ、またそのプロセスの一部または全部を連続的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るTHB製造システムの概略を示す。
【
図2】
図2は、別の実施形態に係るTHB製造システムの概略を示す。
【
図3】
図3は、DOI発酵液(原液)およびそれを加熱したものの外観(a)およびDOI含有量(b)を示す。
【
図4】
図4は、DOI発酵液から得られたTHB産物溶液(下)、および溶媒抽出後のTHB試料(上)の
13C-NMRスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
一側面において、本開示は、デオキシシロイノソース(DOI)を含む細菌培養液を、80℃以上の高温で加熱して、トリヒドロキシベンゼン(THB)を含む産物溶液を取得する工程を含む、トリヒドロキシベンゼン(THB)の製造方法を提供する。
【0014】
デオキシシロイノソース(DOI)の構造を下記に示す。
【化1】
【0015】
トリヒドロキシベンゼン(THB)の構造を下記に示す。
【化2】
【0016】
上で示した構造は、1,2,4-トリヒドロキシベンゼンに相当するが、本実施形態で製造されるTHBには、1,2,4-トリヒドロキシベンゼンに加えて、1,2,3-トリヒドロキシベンゼン(ピロガロール)も含まれ得る。また、産物溶液にはカテコールも含まれ得る。
【0017】
加熱される細菌培養液中のDOIの濃度、すなわち、加熱される前の段階の細菌培養液中のDOIの濃度は、好ましくは1g/L以上であり、より好ましくは10g/L以上であり、さらに好ましくは50g/L以上である。DOIの濃度の上限は特に限定されないが、通常は100g/L以下であり、例えば90g/L以下、または80g/L以下である。
【0018】
細菌培養液は、DOIを合成する細菌を液体培地中でDOI合成条件下で培養した後に得られる、DOIを含有する馴化液体培地である。DOIを合成する細菌の培養に適した液体培地は当業者に知られているか、または当業者が通常の知識に基づいて調製することができ、典型的には、定常期(stationary phase)において107細胞/mL以上、好ましくは108細胞/mL以上の細胞密度での培養をサポートできるものである。当業者に知られるように、細菌培養用の液体培地は通常、炭素源(特に、糖類)、窒素源(アミノ酸など)、ビタミン類、無機塩類などを含む。本実施形態では、上記のように比較的高い細胞密度での培養とDOI合成をサポートできる液体培地でさえあれば、具体的な材料成分が異なっていても同様の結果が得られることが確認されている。グルコース以外の糖類もグルコースに代謝され得るものの、液体培地がグルコースそのものを含んでいると、DOI合成のための基質が直接的に提供されることとなり効率がよいため、好ましい。
【0019】
本実施形態の細菌培養液を得るために使用することができる典型的な液体培地の一例は、YE培地であり、これは、水6.5LあたりBD Bacto Tryptone(カゼインの膵消化物)を50~200g(2×YE培地では104g)、BD Bacto Yeast Extract(酵母の水溶性抽出物)を60~260g(2×YE培地では130g)、NaClを15~60g(2×YE培地では32.5g)、グルコースを200~800g(2×YE培地では377~390g)、マンニトールを150~650g(2×YE培地では335g)含み、任意で、アンピシリン等の抗生物質、フィチン酸、消泡剤等の添加物を少量(例えば合計で5g以下)含み得る。フィチン酸は細菌によるDOI生産量を向上させ得る添加成分であり、例えば50%(w/w)フィチン酸水溶液を上記量のYE培地あたり1~20g添加し得る。
液体培地の別の具体例(CSL培地)は、水52.6kgあたり、CSL(コーンスティープリカー)を150~700g(標準で325g)、グルコースを1000~5000g(標準で2010g)、フルクトースを1000~5000g(標準で2010g)、キシロースを100~500g(標準で200g)、硫化アンモニウムを50~500g(標準で170g)、塩化アンモニウムを20~200g(標準で78.2g)、硫酸マグネシウム7水和物を20~200g(標準で78.2g)、リン酸水素二カリウムを40~200g(標準で91g)、リン酸二水素カリウムを40~200g(標準で91g)、硫酸鉄(II)7水和物を2~10g(標準で4.55g)含むものである。CSL培地は、水52.6kgあたり、50%(w/w)フィチン酸を40~200g(標準で91g)さらに含んでもよい。CSL培地は消泡剤を含んでもよい(例えば上記量のCSL培地あたり5~30gのアデカノール消泡剤)。
培養途中に、培地成分の一部または全部を随時補給してもよい。例えば、培養途中に糖成分を補給することが好ましい。
【0020】
加熱される細菌培養液には、細菌細胞が含まれていてもよいし、含まれていなくてもよい。すなわち、一実施形態において、加熱される細菌培養液は、細菌を培養した後の液体培地であって、その細菌を含むもの、またはその細菌が除去された後のものである。なお、本明細書において、「溶液」という用語(「水溶液」を含む)は、溶媒とは異なる少なくとも1種の物質が溶解または懸濁された液を意味する。溶液には、不溶性物質や固形物質が懸濁されていてもよい。ここでいう不溶性物質および固形物質には、生物学的な細胞が含まれ得る。
【0021】
つまり、加熱される細菌培養液、すなわち加熱される前の段階の細菌培養液には、DOIを合成した細菌の菌体が含まれていてもよい。例えば、液体培地中で細菌を培養して糖からDOIを合成させた後に、細菌の除去とDOIの精製を行うことなく、細菌およびDOIを含むその液体培地(すなわち細菌培養液)をそのまま高温で加熱することにより、本実施形態の方法を実施することができる。このような実施態様により、THBの製造と使用済み細菌の不活化/滅菌処理とを同時に行うことができるため、全体的な手順が大幅に簡略化されるだけでなく、バイオセーフティおよび衛生の観点からも有利となる。
【0022】
一実施形態において、本方法は、細菌培養液を加熱する段階の前に、DOIを合成する細菌を上記液体培地中でDOI合成条件下で培養する工程をさらに含む。培養後の液体培地が、加熱されるための細菌培養液を提供する。
【0023】
加熱される細菌培養液は、好ましくは12時間以上、より好ましくは16時間以上の培養を経たものであり得、例えば24時間以上、または32時間以上の培養を経たものであり得る。培養においては、104細胞/mL以下の細胞密度から24時間以内に好ましくは107細胞/mL以上、より好ましくは108細胞/mL以上の細胞密度が達成され得る。DOIを合成する細菌の培養によって、好ましくは1g/L以上、より好ましくは10g/L以上、さらに好ましくは50g/L以上のDOIが細菌培養液中に蓄積する。培養温度は通常は25~38℃であり、30~37℃が好ましい。細菌にDOIを合成させるための培養条件は、当業者が通常の知識に基づいて適宜調節することができる。
【0024】
DOIを合成する細菌は、当業者に知られており、あるいは、公知の情報に基づいて当業者が同定または取得することができる。そのような細菌種の具体的な例として、大腸菌、バシラス・サーキュランス、バシラス・アミロリケファシエンス、バシラス・サチリス、コリネバクテリウム・グルタミカム、およびゲオバシラス・ステアロサーモフィラスが挙げられるが、これらに限定されない。大腸菌が特に好ましい。細菌は、好ましくは、2-デオキシシロイノソース合成酵素を発現するものである。最も好ましくは、DOIを合成する細菌は、2-デオキシシロイノソース合成酵素を発現する大腸菌である。2-デオキシシロイノソース合成酵素の好ましい例として、Bacillus circulans由来のbtrC遺伝子の産物が挙げられるが(特許文献1)、DOI合成活性が維持されている限り、他の細菌由来の相同的遺伝子産物や、天然配列を改変したものも代用できることが当業者に理解される。そのような遺伝子は、内因的なものでもあり得るが、遺伝子工学的手法により外因的に導入されたものが好ましい。プラスミドベクターの選択、プロモータの選択、コドンの最適化等、遺伝子発現を増加および/または最適化するための手段は当業者に知られている。例えば、プロモータは、恒常的に発現するプロモータであってもよいし、発現誘導可能なプロモータであってもよい。
【0025】
2-デオキシシロイノソース合成酵素が導入される宿主細菌は、その他の遺伝子が改変、追加、または削除されていてもよい。例えば、DOI合成のための基質となるグルコース-6-リン酸を別化合物に代謝してしまう遺伝子であるpgi、zwf、およびpgmのうちの1つ以上もしくは全て、および/または、定常期におけるタンパク質合成抑制に関与する遺伝子であるrmfを破壊した大腸菌を宿主として用いることにより、DOIの収率を増加させることができる(特許文献1)。その場合、マンニトール等、グルコース以外の炭素源を培地に添加することが必要になり得る。しかしながら、例えば、スクロース加水分解酵素の遺伝子(cscA)を大腸菌に追加することにより、栄養源としては安価なスクロースを使用しながらグルコースからのDOI合成を効率よく行わせることができる(特許文献2)。これらの系により、培地1リットルあたり少なくとも数十グラムのDOIを蓄積させることができることが示されている(特許文献1~3)。
【0026】
細菌がDOIを合成した後の液体培地(細菌培養液)には、2-デオキシシロイノソース(DOI)のほか、以下のものから選ばれる1つまたは複数の関連化合物が少量(例えば、合計で、2-デオキシシロイノソース(DOI)の重量の20%以下、15%以下、10%以下、または5%以下)含まれ得る:1-epi-DOI、α,β-不飽和ケトン、(+)vibo-クエルシトール、およびscyllo-クエルシトール。
【0027】
細菌が含まれたままの状態で細菌培養液の加熱を行ってもよいが、加熱を行う前に細菌の菌体を細菌培養液から除去する工程を加えてもよい。この工程により、加熱された菌体から放出される多量の不溶物質が産物溶液の純度を低下させたり反応を阻害したりする可能性を回避することができる。細菌培養液から細菌の菌体を除去する工程において使用される技術は、当業者が公知のものから適宜選択することができ、例えばフィルター濾過および遠心分離が挙げられる。フィルター濾過は比較的単純な機構で行うことができるため好ましい。
【0028】
菌体を除去するためには、カットオフが1μm以下の濾過フィルター、例えば0.2μm孔径の濾過フィルターを使用することができる。孔径の異なる複数の濾過フィルターを組み合わせてもよい。フィルターの孔径を選択することにより、加熱前の細菌培養液から菌体以外のものも除去することもできる。例えば、適切なフィルター濾過により、細菌培養液から、THB合成に不要な成分を除去しておくことによって、加熱後の産物溶液におけるTHB純度を改善させ得る。THB合成に不要な成分を、塩析によって除去することもできる。
【0029】
細菌培養液を加熱する「高温」の温度は、80℃以上である。80℃未満であると、DOIの変換反応自体は起こり得るが十分な変換効率が得られないと考えられる。高温の温度は好ましくは90℃以上、より好ましくは100℃以上、より好ましくは130℃以上、さらに好ましくは140℃以上、特に好ましくは160℃以上、最も好ましくは170℃以上である。
【0030】
上記高温について、上限は特に限定されないが、通常は300℃以下、あるいは200℃以下である。高温は、典型的には130~180℃である。高温を、大気圧を超える高圧と組み合わせてもよい。そのような高圧は例えば1MPa以下、0.8MPa以下、0.5MPa以下、または0.2MPa以下である。
【0031】
高温における細菌培養液の加熱の時間は、使用する温度や望まれるTHB収量によっても異なり得るが、通常は少なくとも30秒間、好ましくは少なくとも1分間、より好ましくは少なくとも2分間、より好ましくは少なくとも5分間、より好ましくは少なくとも10分間、さらに好ましくは少なくとも30分間である。1時間以上、2時間以上、または4時間以上加熱を行ってもよい。加熱は、上記の時間に渡って連続してもよいし、断続的な加熱によって高温に達する累積時間が上記の時間であってもよい。加熱の時間の上限は特に限定されないが、例えば24時間以下、4時間以下、2時間以下、1時間以下、30分間以下、または10分間以下である。
【0032】
細菌培養液を高温で加熱することは、当業者に知られる技術を用いて達成することができ、例えば、細菌培養液中に熱気(蒸気)もしくは熱液を注入すること、細菌培養液を固体熱源に接触させること、細菌培養液を含む容器もしくは管の内壁を加熱すること、細菌培養液に通電すること、および/または細菌培養液にマイクロ波を適用することによって達成することができる。
【0033】
細菌培養液の加熱時の雰囲気は、空気、窒素およびアルゴンのような不活性ガス、またはこれらの混合物であることが好ましい。細菌培養液の加熱時の雰囲気は、実質的な水素(H2)非含有雰囲気であることが好ましい。実質的な水素非含有雰囲気は、例えば水素体積濃度が1ppm未満である。また、細菌培養液の加熱は、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、白金、イリジウム、ニッケル、コバルト、銅のような金属触媒ないし還元触媒の実質的な非存在下で行うことが好ましい。
【0034】
「産物溶液」とは、細菌培養液の加熱後に得られる、THBが溶解または懸濁された溶液を意味する。
【0035】
産物溶液から不純物を除去するために、フィルター濾過処理または遠心分離処理を行ってもよい。特に、細菌の菌体を含んだ細菌培養液を加熱した場合には、変性した菌体に由来する不溶物が産物溶液に多量含まれ得るので、これらの処理が特に有意義になり得る。
【0036】
本実施形態の方法は、産物溶液からTHBを分離する工程をさらに含んでいてもよい。THBの分離は、公知の手法を適宜使用することができる。好ましくは、溶媒抽出によって、産物溶液からTHBが抽出される。溶媒抽出は1回以上繰り返してもよい。抽出溶媒としては酢酸エチルまたは酢酸メチルが好ましく、特に酢酸エチルが好ましいが、必ずしもこれらに限定されない。抽出に使用される抽出溶媒の体積は産物溶液の体積以上であることが好ましい。溶媒抽出は、当業者に理解されるように、産物溶液と有機溶媒を混合した後に有機層と水層とに分離し、THBを含有する有機層を回収することにより行われ得る。水溶性の塩を産物溶液に加えて溶媒抽出を行ってもよい。例えば、飽和濃度未満の塩化ナトリウムを産物溶液に加えてから溶媒抽出を行うと収率が改善され得る。また、酸、例えば塩酸を産物溶液に加えてpHを低下させてから溶媒抽出を行うと収率が改善され得る。pHは2未満とすることが好ましく、1.5未満とすることがより好ましく、1未満とすることがさらに好ましい。分離後のTHB試料に不溶物が含まれている場合には、例えばフィルター濾過により不溶物を除くことができる。
【0037】
分離後のTHB試料は、不溶物と溶媒を除いた後の乾燥重量でTHB含量が好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上である。また、分離後のTHB試料は、不溶物と溶媒を除いた後の乾燥重量でカテコール含量が好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下、より好ましくは2%以下、特に好ましくは1.5%以下である。
【0038】
(a)細菌の培養によるDOIの合成の段階から高温での加熱によるTHBの生成の段階まで、および/または(b)THBの生成の段階からTHBの分離の段階までは、連続的に実行され得る。これらの段階をバッチごとに実行してもよい。
【0039】
別の側面において、本開示は、DOIを合成する細菌を含む液体培地を保持して前記細菌を培養して細菌培養液を生成する、培養槽と、前記培養槽に接続され、前記細菌培養液を80℃以上の高温で加熱して、トリヒドロキシベンゼン(THB)を含む産物溶液を生成させる、加熱装置とを含む、トリヒドロキシベンゼン(THB)を製造するためのシステムを提供する。
【0040】
このシステムは、本開示の前述の側面に係る方法を実施することに適したものである。すなわち、本明細書において、方法の実施形態についての説明内容が、システムの実施形態についても適用され得、その逆も然りである。例えば、液体培地は、上述したように典型的には定常期において107細胞/mL以上、好ましくは108細胞/mL以上の細胞密度での培養をサポートできるものである。細菌についても上述したとおりである。
【0041】
培養槽には、細菌の培養に適した条件を提供するための付属設備が備えられていてもよい。例えば、培養槽は、培地を撹拌するための撹拌装置、培地を振とうするための振とう装置、培地を曝気するための曝気装置、および培地を加温するための加温装置のうちの1つ以上を有していてもよい。培養槽には、新鮮な液体培地の成分の一部または全部を培養槽内に供給する液体培地供給ラインが接続されていてもよい。一実施形態において、この液体培地供給ラインは、切換え弁を有しており、培養槽が液体培地供給ラインと後述する送液管との間で切り替わって接続できるようになっている。
【0042】
培養槽は、送液管を介して加熱装置に接続され得る。この場合の加熱装置は、培養槽から送られてくる液を加熱装置の内部で加熱するものである。例えば、加熱装置は、内部に連続的な加熱通路が備えられており、この加熱通路を通過する細菌培養液が加熱されるという構造であってもよい。加熱通路は例えば、通過する細菌培養液に熱気もしくは熱液を注入すること、または、通路の内壁もしくは通路内に配置された固体熱源を熱することによって、液体培地を加熱し得るが、可能な加熱方法はこれらに限定されない。熱気は例えば加熱された空気、水蒸気、または窒素である。熱液は例えば加熱された水または新鮮な液体培地である。加熱通路中の加熱温度、保持時間、および流速は任意に調節することができる。加熱通路は、異なる温度に設定できる複数の加熱ゾーンを有していてもよい。加熱装置は、加熱されてTHBが生成された産物溶液を回収するための取出し口が備えられていてもよい。
【0043】
培養槽は、細菌培養液から細菌の菌体を除去する菌体除去装置を介して加熱装置に接続されていてもよい。菌体除去装置は、濾過フィルター、または遠心分離機を含み得る。菌体を除去するための濾過フィルターを含む菌体除去装置が好ましい。孔径の異なる複数の濾過フィルターを菌体除去装置に備えさせてもよく、菌体以外の不要成分をこの段階で除去することもできる。菌体除去装置は送液管の途中に備えられていてもよい。
【0044】
送液管は、菌体除去装置、液を移送するためのポンプ、過剰な内部圧力(例えば10bar以上)を防ぐための安全弁、および流速を調節するための流速調節装置のうちの1つ以上を有し得る。これらの付属設備の種類および数ならびに液流の方向に対する配置順序は、当業者が適宜決定することができる。
【0045】
あるいは、加熱装置は、培養槽そのものの内部で細菌培養液を加熱する、一体型加熱装置であってもよい。この場合の加熱は、例えば培養槽の内部に熱気もしくは熱液を注入すること、または、培養槽の内壁もしくは培養槽内に配置された固体熱源を熱することにより達成され得るが、可能な加熱方法はこれらに限定されない。熱気は例えば加熱された空気、水蒸気、または窒素である。熱液は例えば加熱された水または新鮮な液体培地である。
【0046】
加熱装置による加熱温度および加熱時間については、上記THBの製造方法の実施形態について説明したとおりである。
【0047】
加熱装置(一体型加熱装置の場合は、それが備えられた培養槽を含む)には、産物溶液から固形物質および不溶物質を除去する浄化装置が接続されていてもよい。浄化装置は、例えば、濾過フィルターまたは遠心分離機を有し得る。加熱された細菌培養液が細菌の菌体を含んでいた場合には、変性した菌体に由来する不溶物が産物溶液に多量含まれ得るので、この浄化装置によって、その不溶物を除去することができる。孔径の異なる複数の濾過フィルターを浄化装置に備えさせてもよい。同様に、加熱装置は、液の温度を下げるための冷却装置に接続されていてもよい。高温での加熱後の液は例えば室温まで冷却され、冷却装置はこの冷却を促進することができる。
【0048】
さらに、加熱装置(一体型加熱装置の場合は、それが備えられた培養槽を含む)は、産物溶液からTHB産物を分離する、分離装置に接続されていてもよい。分離装置は、上述した浄化装置の下流に接続されることが好ましい。分離装置は、例えば遠心抽出機、ミキサーセトラー、マイクロリアクター、フローリアクター、およびパルスカラム等の、公知の溶媒抽出装置を含み得る。溶媒抽出装置は、THBを含有する有機層を排出する有機層排出口を有し得る。溶媒抽出装置は、さらに、水層を排出する水層排出口を有し得る。
【0049】
加熱装置は送液管を介して分離装置に接続されていてもよい。この送液管も、上述したような、ポンプ、安全弁、冷却装置、浄化装置、流速調節装置等の付属設備を任意の数および配置順序で有し得る。
【0050】
本実施形態のシステムは、全体が1つの装置として統合されていてもよい。
【0051】
さらなる側面において、本開示は、本実施形態のTHB製造システムを用いてTHBを製造する方法を提供する。
【0052】
本実施形態に係るシステムの一例を
図1に示す。この例のシステム100では、DOIを合成する細菌101および液体培地102が培養槽103に保持されており、培養槽103中で培養が行われる。すなわち液体培地102は細菌培養液102’となる。培養槽103は、切換え弁104によって、液体培地供給ライン105または送液管106のいずれかに接続できるようになっている。送液管106は、濾過フィルターを有する菌体除去装置107、液(すなわちフィルター濾過後の細菌培養液102’)を移送するためのポンプ108、過剰な内部圧力(例えば10bar以上)を防ぐための安全弁109、および流速を調節するための流速調節装置110を備えており、加熱装置111に接続されている。加熱装置111の内部では、細菌培養液は加熱通路112を通過し、その際に加熱される。この例では、加熱装置111内には3つの加熱ゾーン113A,B,Cが設けられ、それぞれ1つ以上の加熱通路を有して、互いに異なる温度で液体培地を加熱できるようになっている。高温での加熱を経た細菌培養液は、THBを含む産物溶液となり、取出し口114から加熱装置111を出る。取出し口114は、産物溶液を冷却する冷却装置115と、濾過フィルターを有し産物溶液から固形物質および不溶物質を除去する浄化装置116とを介して、遠心抽出機を含む分離装置117に接続されている。分離装置117は、産物溶液に有機溶媒(例えば酢酸エチル)を加えて抽出を行って、有機層118および水層119を排出する。THBは有機層118中に分離されている。
【0053】
本実施形態に係るシステムの別の一例を
図2に示す。この例のシステム200でも、DOIを合成する細菌201および液体培地202が培養槽203に保持されており、培養槽203中で培養が行われる。すなわち液体培地202は細菌培養液202’となる。培養槽203には、一体型加熱装置211が備えられている。一体型加熱装置211は、培養槽203の内部に熱気220を注入することによって、培養後の液体培地202すなわち細菌培養液202’を高温に加熱する。従って、細菌培養液202’は、培養槽203の中で、THBを含む産物溶液に変換される。培養槽203は、切換え弁204によって、液体培地供給ライン205または送液管206のいずれかに接続できるようになっている。送液管206は、産物溶液を移送するためのポンプ208、過剰な内部圧力を防ぐための安全弁209、産物溶液を冷却する冷却装置215、濾過フィルターを有し産物溶液から固形物質および不溶物質を除去する浄化装置216、および流速を調節するための流速調節装置210を備えており、遠心抽出機を含む分離装置217に接続されている。分離装置217は、産物溶液に有機溶媒(例えば酢酸エチル)を加えて抽出を行って、有機層218および水層219を排出する。THBは有機層218中に分離されている。
【実施例】
【0054】
2-デオキシシロイノソース合成酵素(btrC遺伝子産物)を発現する大腸菌をDOI合成条件下で2×YE培地中で培養した後の細菌培養液(以下、DOI発酵液という)を約80℃で不活化処理する際に、DOI発酵液の変色が見られ、発明者らは、このDOI発酵液中でDOIからTHBへの変換反応が起こった可能性を推測した。
図3は、pH6またはpH3におけるDOI発酵液(原液)、ならびに、それを95℃で30分間加熱したもの、105℃で30分間加熱したもの、132℃で20分間加熱したもの、および132℃で1分間加熱したものの外観(a)およびDOI含有量(b)を示す。DOI発酵液の変色に伴ってDOI含有量の減少が見られており、THBの生成が示唆された。これらの加熱試料を、液体クロマトグラフィー(カラム:YMC-Pac ODS-AQ、溶出液:10mM酢酸水溶液/アセトニトリル=3/97、検出器:蒸発光散乱型検出器)および質量分析で分析したところ、THBが生成されていたことが確認された。例えば、DOI発酵液を132℃で20分間加熱した試料では、DOIの約30%がTHBに変換され、約50%が他の脱水物に変換されていたことが明らかになった。
【0055】
次に、
図1に示されるものと本質的に同様の槽・加熱装置を用いて、異なる試験条件下で、精製DOI水溶液(DOI濃度70g/L)と、DOI発酵液(0.2μmMF膜で濾過したもの;DOI濃度59.1g/L)とを加熱し、加熱後の液に含まれる化合物を分析して、結果を比較した。このDOI発酵液は、上述のようにbtrC遺伝子を発現する大腸菌を、CSL培地中で32~40時間培養して得たものである。分析結果を下記表1に示す。
【0056】
【0057】
表1において、精製DOI水溶液試料およびDOI発酵液試料に関して試験条件が同じものは、同じ行に示している。DOI残率は、加熱前試料に含まれていたDOIの何%が加熱後に残存していたかを表し、1,2,4-THB変換率は、加熱前試料に含まれていたDOIの何%が1,2,4-THBに変換されたかを表す(一脱水物変換率も同様)。なお、同様の実験で、1,2,3-THBの生成も確認されている(データは示していない)。例えば「160℃30秒 5回繰り返し」という記載は、160℃において30秒間の加熱を5回繰り返したことを意味し、すなわち試料が累積時間2.5分間に渡り160℃で加熱されたことを意味する。
【0058】
表1の結果から、加熱の累積時間が長ければ長いほど変換量が増加すること(例えば、精製DOI水溶液の試料2~4を比較)、および、加熱温度が高い方が変換効率が向上すること(例えば、DOI発酵液の試料2と5、試料3と6、または試料4と7を比較)が見て取れる。
【0059】
重要なことに、同じ加熱条件下では、精製DOI水溶液と比べてDOI発酵液において著しく高い効率でDOIからTHBへの変換が達成された。すなわち、精製DOI水溶液試料2におけるTHB変換率は2.33%であったのに対し、同じ加熱条件のDOI発酵液試料5におけるTHB変換率は27.19%であった。同様に、精製DOI水溶液試料3のTHB変換率は5.23%であったのに対しDOI発酵液試料6のTHB変換率は43.40%であり、精製DOI水溶液試料4のTHB変換率は9.55%であったのに対しDOI発酵液試料7のTHB変換率は54.66%であった。DOI発酵液の試料7では、160℃の高温において、累積5分間という比較的短時間の加熱で50%を超えるTHB変換率が達成された。材料成分が異なる液体培地を用いても同様の結果が得られることから、細菌の増殖をサポートできる液環境そのものがTHB変換反応について何らかの触媒作用を提供していると推測される。
【0060】
フィルター濾過して細菌を除去したDOI発酵液を加熱した場合の方が、フィルター濾過していないDOI発酵液を加熱した場合よりもTHB収率が向上し、さらに塩析処理をフィルター濾過に組み合わせた場合にはTHB収率がさらに向上した(データは示していない)。
【0061】
別の実験において、THB水溶液、DOI水溶液の加熱によって得られたTHB産物含有溶液、またはDOI発酵液の加熱によって得られた産物溶液に対し、酢酸エチルを抽出溶媒として用いて、THBの溶媒抽出を試験した。1回目の溶媒抽出で大部分のTHBを回収できることが確認された。溶媒抽出前に、THB産物溶液に塩酸を加えてpHを2未満に低下させた場合、または、飽和濃度未満の塩化ナトリウムをTHB産物溶液に加えた場合には、THBの回収率が向上することが観察された。抽出に先立つTHB生成反応の条件および程度によって、最終的に抽出されるTHBの収率は異なってくる。DOI水溶液を175℃の高温で少なくとも3時間加熱して反応を進行させて得たTHB産物含有溶液を用いた例では、抽出後の有機溶媒層に溶解していた有機化合物溶質の大部分(70重量%以上、場合によっては90重量%以上)がTHBであり、不純物の大部分は水層に残ることが確認された。この結果は、溶媒抽出がTHB精製効果を有することを示すものである。マイクロリアクターを用いた抽出においても高い収率でTHBが回収され、細菌培養液の加熱からTHBの分離まで、あるいはDOI合成細菌の培養によるDOI合成から細菌培養液の加熱を経てTHBの分離までを連続的に実施できることが原理的に証明された。
【0062】
DOI合成細菌の培養によるDOI合成から、細菌培養液(DOI発酵液)の加熱を経て、溶媒抽出によるTHBの分離までを連続的に行った一例を以下に記述する。
DOI合成細菌を培養して得たDOI発酵液150mL(DOI濃度:60g/L)を、170℃の条件下2時間反応させて、DOIをTHBに変換させた。次いで、得られたTHB含有反応液をメンブレンフィルター(0.45μm)で濾過し、THB産物溶液を調製した(
図4下に
13C-NMRスペクトルを示す)。その後、YMC社製ミキサ(Deneb Helix型)を用いて、THB産物溶液(1mL/min)と酢酸エチル(1mL/min、1.5mL/min、2mL/min、および3mL/minの4条件)を送液し、それぞれ溶出液を取り出した(溶出時間1分間)。得られた溶出液の酢酸エチル層を分液後、減圧濃縮しTHB収量を求めた(実験はすべて三連で実施した)。その結果を下記表2にまとめた。THB産物溶液と酢酸エチルの比が1:1の場合のTHB収率は平均74.7%であった。酢酸エチルの比率が高くなるに連れて収率は向上する傾向を示し、THB産物溶液と酢酸エチルの比を1:3とした場合は平均86.9%であった。得られたTHB抽出試料の
13C-NMRスペクトルを
図4上に示す。
【0063】