(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】筋肉量推定方法、筋肉量推定装置、及び筋肉量推定プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/0537 20210101AFI20221109BHJP
【FI】
A61B5/0537 100
(21)【出願番号】P 2019528999
(86)(22)【出願日】2018-06-12
(86)【国際出願番号】 JP2018022482
(87)【国際公開番号】W WO2019012897
(87)【国際公開日】2019-01-17
【審査請求日】2021-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2017138513
(32)【優先日】2017-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000133179
【氏名又は名称】株式会社タニタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笠原 靖弘
(72)【発明者】
【氏名】児玉 美幸
【審査官】▲瀬▼戸井 綾菜
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-199728(JP,A)
【文献】特開2004-344518(JP,A)
【文献】特開2007-260210(JP,A)
【文献】特開2009-022515(JP,A)
【文献】特開2017-023311(JP,A)
【文献】特開平11-188016(JP,A)
【文献】特開2007-007445(JP,A)
【文献】特開2004-141223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/05
G01G 19/50
G06Q 50/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の身長を取得し、
前記生体について測定された電気抵抗値を取得し、
前記生体の身長及び前記電気抵抗値を含む第1の変数と、前記電気抵抗値の逆数を含む第2の変数と、を含み、前記第1の変数が
前記身長を分子に含み且つ前記電気抵抗値を分母に含む場合には、前記第2の変数の符号は、前記第1の変数の符号と逆である一方で、前記第1の変数が
前記身長を分母に含み且つ前記電気抵抗値を分子に含む場合には、前記第2の変数の符号は、前記第1の変数の符号と同符号である計算式を用いて前記生体の筋肉量を算出する
筋肉量推定方法。
【請求項2】
前記第2の変数は、前記計算式における前記第1の変数を含む項により算出される前記筋肉量に相関する算出値の変動を抑制する方向に働く変数である
請求項1記載の筋肉量推定方法。
【請求項3】
生体の身長を取得し、
前記生体について測定された電気抵抗値を取得し、
前記生体の身長及び前記電気抵抗値を含む第1の変数と、前記電気抵抗値を含む第2の変数と、を含む計算式を用いて前記生体の筋肉量を算出する
筋肉量推定方法であり、
前記第1の変数は、前記身長の二乗を前記電気抵抗値で除算する部分を含み、前記第2の変数は、前記電気抵抗値の逆数である部分を含み、前記第1の変数の符号は、前記第2の変数の符号と逆である
筋肉量推定方法。
【請求項4】
生体の身長を取得し、
前記生体について測定された電気抵抗値を取得し、
前記生体の身長及び前記電気抵抗値を含む第1の変数と、前記電気抵抗値を含む第2の変数と、を含む計算式を用いて前記生体の筋肉量を算出する
筋肉量推定方法であり、
前記第1の変数は、前記電気抵抗値を前記身長の二乗で除算する部分を含み、前記第2の変数は、前記電気抵抗値の逆数である部分を含み、前記第1の変数の符号は、前記第2の変数の符号と同じである
筋肉量推定方法。
【請求項5】
前記生体の体重を取得し、
複数の異なる前記計算式の中から、前記身長及び前記体重に対応した前記計算式を選択し、
選択した前記計算式を用いて前記生体の筋肉量を算出する
請求項1~4の何れか1項に記載の筋肉量推定方法。
【請求項6】
生体の身長を取得する身長取得部と、
前記生体について測定された電気抵抗値を取得する電気抵抗値取得部と、
請求項1~5の何れか1項に記載の筋肉量推定方法を用いて前記生体の筋肉量を算出する算出部と、
を備えた筋肉量推定装置。
【請求項7】
コンピュータに、
請求項1~5の何れか1項に記載の筋肉量推定方法に係る
処理を実行させるための筋肉量推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋肉量推定方法、筋肉量推定装置、及び筋肉量推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体インピーダンス法(Bioelectrical impedance analysis, BIA)により体組成情報(筋肉量、体水分率、体脂肪率等)を推定することが行われている(例えば非特許文献1参照)。
【0003】
生体インピーダンス法では、インピーダンスZ、レジスタンスR等の電気抵抗値を、身長Ht、体重Wtを用いて補正した変数を用いて体組成情報を算出する。
【0004】
例えば、筋肉量、体水分率等を求める際に用いられる変数H1としては、例えば次式で表されるものがある。
【0005】
H1=Ht2/Z ・・・(1)
【0006】
また、体脂肪率等を求める際に用いられる変数H2としては、例えば次式で表されるものがある。
【0007】
H2=Ht2/(Wt×Z) ・・・(2)
【0008】
また、非特許文献2には、上記の変数を応用した筋肉量(骨格筋量)SM massを推定する式として次式が開示されている。
【0009】
SM mass(kg)=[(Ht2/R×0.41)+(gender×3.825)+{age×(-0.071)}]+5.102 ・・・(3)
【0010】
ここで、genderは性別であり、男性は「1」、女性は「0」である。また、ageは年令である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【文献】「インピーダンス法による体脂肪の測定」、阪本要一、西澤美幸、佐藤富男、大野誠、池田義雄、日本人間ドック学会誌、1993年10月、p.38-41.
【文献】"Estimation of skeletal muscle mass by bioelectrical impedance analysis", Journal of Applied Physiology,[平成29年7月5日検索],インターネット<http://jap.physiology.org/content/89/2/465.short>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記(3)式は、電気抵抗値の変数としてはレジスタンスRが1つ用いられているだけである。このため、筋肉量の推定精度が良いとは言えない。また、レジスタンスRの日内変動に起因して、上記(3)式によって算出される筋肉量の日内変動も大きくなってしまう場合がある。
【0013】
本発明は、筋肉量を精度良く推定することができる筋肉量推定方法、筋肉量推定装置、及び筋肉量推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様に係る筋肉量推定方法は、生体の身長を取得し、前記生体について測定された電気抵抗値を取得し、前記生体の身長及び前記電気抵抗値を含む第1の変数と、前記電気抵抗値を含む第2の変数と、を含む計算式を用いて前記生体の筋肉量を算出する。
【0015】
本発明の第2の態様は、前記第2の変数は、前記計算式における前記第1の変数を含む項により算出される前記筋肉量に相関する算出値の変動を抑制する方向に働く変数である。
【0016】
本発明の第3の態様は、前記第1の変数に含まれる前記電気抵抗値と前記第2の変数に含まれる前記電気抵抗値とが共に分母又は分子に含まれる場合には、前記第2の変数の符号は、前記第1の変数の符号と逆である一方で、前記第1の変数に含まれる前記電気抵抗値と前記第2の変数に含まれる前記電気抵抗値との一方が分母に含まれ、且つ他方が分子に含まれる場合には、前記第2の変数の符号は、前記第1の変数の符号と同符号である。
【0017】
本発明の第4の態様は、前記第1の変数は、前記身長の二乗を前記電気抵抗値で除算する部分を含み、前記第2の変数は、前記電気抵抗値の逆数である部分を含み、前記第1の変数の符号は、前記第2の変数の符号と逆である。
【0018】
本発明の第5の態様は、前記第1の変数は、前記身長の二乗を前記電気抵抗値で除算する部分を含み、前記第2の変数は、前記電気抵抗値である部分を含み、前記第1の変数の符号は、前記第2の変数の符号と同じである。
【0019】
本発明の第6の態様は、前記第1の変数は、前記電気抵抗値を前記身長の二乗で除算する部分を含み、前記第2の変数は、前記電気抵抗値の逆数である部分を含み、前記第1の変数の符号は、前記第2の変数の符号と同じである。
【0020】
本発明の第7の態様は、前記第1の変数は、前記電気抵抗値を前記身長の二乗で除算する部分を含み、前記第2の変数は、前記電気抵抗値である部分を含み、前記第1の変数の符号は、前記第2の変数の符号と逆である。
【0021】
本発明の第8の態様は、前記生体の体重を取得し、複数の異なる前記計算式の中から、前記身長及び前記体重に対応した前記計算式を選択し、選択した前記計算式を用いて前記生体の筋肉量を算出する。
【0022】
本発明の第9の態様に係る筋肉量推定装置は、生体の身長を取得する身長取得部と、前記生体について測定された電気抵抗値を取得する電気抵抗値取得部と、前記生体の身長及び前記電気抵抗値を含む第1の変数と、前記電気抵抗値を含む第2の変数と、を含む計算式を用いて前記生体の筋肉量を算出する算出部と、を備える。
【0023】
本発明の第10の態様に係る筋肉量推定プログラムは、コンピュータに、生体の身長を取得し、前記生体について測定された電気抵抗値を取得し、前記生体の身長及び前記電気抵抗値を含む第1の変数と、前記電気抵抗値を含む第2の変数と、を含む計算式を用いて前記生体の筋肉量を算出することを含む処理を実行させるための筋肉量推定プログラムである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、筋肉量を精度良く推定することができる、という効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図4】筋肉量推定プログラムによる処理のフローチャートである。
【
図5】第1の変数と筋肉量との関係を表すグラフである。
【
図6】第1の変数と筋肉量との関係を表すグラフである。
【
図7】体重と電気抵抗値との関係を表すグラフである。
【
図8】体重と電気抵抗値との関係を表すグラフである。
【
図9】第1の変数のみを用いた計算式で計算した筋肉量とDXAで計測した筋肉量との関係を表すグラフである。
【
図10】第1の変数及び第2の変数を用いた計算式で計算した筋肉量とDXAで計測した筋肉量との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態では、本発明に係る筋肉量推定装置を、体重及び体脂肪率等の生体情報の測定が可能な体組成計に適用した場合について説明する。
【0027】
図1には、本実施形態に係る体組成計10の平面図を、
図2には、体組成計10の電気系の構成を示すブロック図を示した。
【0028】
図1及び
図2に示すように、体組成計10は、通電電極12A、12B、測定電極14A、14B、電気抵抗値測定部16、表示部18、操作部20、記憶部22、荷重センサ24、タイマ26、電源28、及び制御部30を備える。
【0029】
電気抵抗値測定部16は、電流供給部16X、電圧測定部16Y、及び電気抵抗値算出部16Zを備える。
【0030】
電流供給部16Xは、高周波の交流電流を通電電極12A、12Bに供給する。
【0031】
電圧測定部16Yは、測定電極14A、14B間の電圧を測定する。
【0032】
電気抵抗値算出部16Zは、電流供給部16Xにより供給された交流電流の電流値と電圧測定部16Yにより測定された電圧の電圧値と、に基づいて電気抵抗値を算出する。なお、電気抵抗値は、インピーダンスでもよいし、レジスタンスでもよい。
【0033】
図1に示すように、体組成計10の測定台10Aには、薄板状の4つの通電電極12A、12B、測定電極14A、14Bが互いに離間して配置され、ユーザーが体組成計10に乗ったときに、左足の爪先が通電電極12Aに、左足の踵が測定電極14Aに接触し、右足の爪先が通電電極12Bに、右足の踵が測定電極14Bに接触するようになっている。
【0034】
通電電極12A、12Bは、電流供給部16Xに接続されており、通電電極12Aに接触するユーザーの左足からユーザーの体内を通り、通電電極12Bに接触するユーザーの右足に至るまでの経路(又はこの逆向きの経路)で、電気抵抗値を測定するための交流電流を供給するための電極である。また、測定電極14A、14Bは、電圧測定部16Yに接続されており、前記交流電流が供給されているときの、測定電極14Aが接触するユーザーの左足と、測定電極14Bが接触するユーザーの右足と、の間の電圧を測定するための電極である。
【0035】
電流供給部16Xから供給される交流電流は、通電電極12A、12Bを介して利用者の体内に供給され、測定電極14A、14Bを介して電圧測定部16Yで電圧が測定される。電気抵抗値算出部16Zは、このような電流及び電圧の各値に基づいて、ユーザーの電気抵抗値を算出して制御部30に出力する。制御部30は、測定された電気抵抗値、測定された体重、ユーザーにより入力された年齢、性別、身長等のユーザー情報を、所定の計算式に代入することにより、筋肉量(四肢筋肉量)、体脂肪率、内臓脂肪レベル等の体組成情報を算出する。電気抵抗値の測定に関する構成は、公知の体組成計と同様の構成を用いればよい。
【0036】
表示部18は、測定した生体情報等が表示され、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)等の液晶表示装置を採用することができる。
【0037】
操作部20は、複数の操作ボタンを含んで構成され、身長、性別、年齢等のユーザー情報を入力するための入力ボタン、体組成計10を起動させるためのスタートボタン、体組成計10の初期設定を行うモードである設定モードを起動させるための設定ボタン、測定結果の表示項目の切り替えを行うための切替ボタンとして機能する。なお、表示部18及び操作部20をタッチパネルとし、画面に直接タッチすることで操作が可能な構成としてもよい。
【0038】
記憶部22は、例えば、半導体素子を用いた不揮発性メモリによって構成され、ユーザー情報の他、制御部30による処理結果や処理等のための各種データを記憶する。
【0039】
荷重センサ24は、本実施形態では一例としてロードセルを用いる。ロードセルは、荷重に応じて変形する金属部材の起歪体と、起歪体に貼られる歪みゲージと、によって構成される。ユーザーが体組成計10上に乗ると、ユーザーの荷重によって荷重センサ24の起歪体が撓んで歪みゲージが伸縮し、歪みゲージはその伸縮に応じて抵抗値(出力値)が変化する。
【0040】
制御部30は、荷重が掛かっていないときの荷重センサ24の出力値(ゼロ点)と、荷重が掛かったときの出力値と、の差から体重を算出することでユーザーの体重を測定する。荷重センサ24を用いた体重の測定に関する構成は、公知の体重計と同様の構成を用いればよい。
【0041】
また、制御部30は、本発明に係る筋肉量推定装置として機能する。
図3に示すように、制御部30は、機能的には身長取得部32、電気抵抗値取得部34、及び算出部36を備える。
【0042】
身長取得部32は、記憶部22からユーザーの身長を読み出すことにより、ユーザーの身長を取得する。
【0043】
電気抵抗値取得部34は、電気抵抗値測定部16から、ユーザーについて測定された電気抵抗値を取得する。
【0044】
算出部36は、ユーザーの身長及び電気抵抗値を含む第1の変数と、電気抵抗値を含む第2の変数と、を含む計算式を用いてユーザーの筋肉量を算出する。なお、計算式の詳細については後述する。
【0045】
タイマ26は、現在時刻を取得する機能及び設定された時間を計時する計時機能を有する。
【0046】
電源28は、図示しない電池又は商用電源から供給された電圧を所定の電圧に変換し、体組成計10を構成する各機能部へ供給する。
【0047】
制御部30は、ハードウェア構成としては、図示しないCPU、ROM、及びRAM等を含んで構成される。CPUは、後述する筋肉量推定処理をCPUに実行させるための筋肉量推定プログラムが記憶されたROMから当該筋肉量推定プログラムを読み出して実行する。なお、筋肉量推定プログラムは、CD-ROM、メモリーカード等の記録媒体により提供するようにしてもよく、図示しないサーバからダウンロードするようにしてもよい。
【0048】
また、制御部30は、例えば専用の装置としてもよいし、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、携帯電話、及びタブレット端末等の汎用の情報処理装置としてもよい。
【0049】
次に、本実施形態の作用として、制御部30において実行される筋肉量推定プログラムによる筋肉量推定処理について、
図4に示すフローチャートを参照して説明する。なお、
図4に示す処理は、ユーザーが体組成計10に乗ったことが検知されると実行される。
【0050】
ステップS100では、ユーザーの体重を測定する。具体的には、体重は、荷重センサ24の出力値を取得し、取得した荷重センサ24の出力値と、荷重が掛かっていないときの荷重センサ24の出力値(ゼロ点)と、の差を演算することにより求める。
【0051】
ステップS102では、ユーザーの電気抵抗値を測定する。具体的には、電気抵抗値測定部16に電気抵抗値を測定するよう指示する。これにより、電気抵抗値を測定するための交流電流が電流供給部16Xによって通電電極12A、12Bに供給される。そして、測定電極14A、14B間の電圧が電圧測定部16Yによって測定され、電気抵抗値算出部16Zによって電気抵抗値が算出される。
【0052】
なお、筋肉量を推定する場合、交流電流の周波数は例えば5kHz~250kHzの範囲の周波数が選択される。詳細は後述するが、筋肉量を算出する計算式によって選択される周波数は異なる。
【0053】
制御部30は、電気抵抗値算出部16Zによって算出されたユーザーの電気抵抗値を取得する。
【0054】
ステップS104では、ユーザー情報を取得する。すなわち、記憶部22に記憶された身長、年齢、及び性別等のユーザー情報を読み出す。
【0055】
ステップS106では、筋肉量の推定に用いる計算式を選択する。なお、計算式の詳細については後述する。
【0056】
ステップS108では、ステップS106で選択した計算式を用いて、筋肉量を算出する。なお、筋肉量の算出については後述する。
【0057】
また、ステップS108において、筋肉量の算出に加えて、例えば、体脂肪率、内臓脂肪レベル、基礎代謝量、推定骨量、及び体水分率等の生体情報を算出してもよい。体脂肪率、内臓脂肪レベル、基礎代謝量、推定骨量、及び体水分率等の生体情報は、電気抵抗値測定部16で測定された電気抵抗値と、記憶部22に記憶された年齢、性別、及び身長等のユーザー情報と、ステップS100で測定された体重と、をそれぞれの生体情報に応じた所定の計算式に代入して算出することにより求められる。
【0058】
ステップS110では、ステップS106で選択した計算式を用いて、ステップS108で算出した筋肉量を表示部18に表示させると共に、記憶部22に記憶させる。なお、ステップS108で、筋肉量の算出に加えて、体脂肪率、内臓脂肪レベル、基礎代謝量、推定骨量、及び体水分率等の他の生体情報を算出したときには、これらの他の生体情報も表示部18に表示させると共に、記憶部22に記憶させる。
【0059】
以下、筋肉量の推定に用いる計算式の詳細について説明する。
【0060】
本実施形態では、ステップS104で取得したユーザーの身長及びステップS102で測定した電気抵抗値を含む第1の変数と、ステップS102で測定した電気抵抗値を含む第2の変数と、を含む計算式を用いてユーザーの筋肉量を算出する。
【0061】
本実施形態では、例えば、筋肉量をM、ユーザーの身長をHt、電気抵抗値をZ、第1の変数をX1、第2の変数をX2として、第1の変数X1はHt2/Z又はZ/Ht2を含む変数とする。すなわち、第1の変数X1は、身長Htの二乗をインピーダンスZで除算する部分、又は、インピーダンスZを身長Htの二乗で除算する部分を含む変数である。また、第2の変数X2は、Z又は1/Zを含む変数とする。すなわち、第2の変数X2は、インピーダンスZである部分、又は、インピーダンスZの逆数である部分を含む変数である。なお、第1の変数X1及び第2の変数X2に、体重等の他の変数が含まれていても良い。
【0062】
ここで、第1の変数X1について説明する。
【0063】
筋肉は一定の水分を含んだ導電体とみなすことができる。例えば人体の筋肉を、断面積がA、長さがLの円柱状の導電体と仮定し、導電体の電気伝導度をσとする。ここで、電気伝導度とは、電気の通しやすさを表す物理量である。
【0064】
ここで、インピーダンスをZとすると、インピーダンスZは断面積Aに反比例し、長さLに比例するため、インピーダンスZは下記(4)式で表される。
【0065】
Z=1/σ×L/A ・・・(4)
【0066】
上記(4)式を断面積Aの式に変形すると下記(5)式のようになる。
【0067】
A=1/σ×L/Z ・・・(5)
【0068】
導電体の体積をVとすると、上記(5)式より、体積Vは下記(6)式で表される。
【0069】
V=L×A=L×(1/σ×L/Z)
=1/σ×L2/Z ・・・(6)
【0070】
ちなみに、人体においては、インピーダンスZとレジスタンスRは近い値となり、相関性も非常に高い。このため、上記(6)式は、下記(7)式のように表されることもある。
【0071】
V=1/σ×L2/R ・・・(7)
【0072】
従って、第1の変数X1は、体積に関する変数と言える。そして、身長Ht等の長さの情報と、インピーダンスZ等の電気抵抗値が得られれば、筋肉量の推定は可能となる。すなわち、ユーザーの筋肉量を算出する計算式における第1の変数X1を含む項は、筋肉量に相関する算出値を算出する。
【0073】
次に、変数X2について説明する。
【0074】
上記(7)式では、従来は電気伝導度σを一定値とするのが通常であった。しかしながら、電気伝導度σは、実際には個人差がある。このため、筋肉に水分が多い人、脱水傾向の人等は誤差を含みやすい。
【0075】
前述したように、電気伝導度σは、電気の通りやすさを表すので、インピーダンスZに反比例することが知られている。従って、本実施形態では、電気伝導度に関する変数X2として例えばZ又は1/Zを採用し、補正変数として使用する。これにより、精度良く筋肉量を推定することができる。
【0076】
また、体積に関する第1の変数X1として、Ht2/Z又はZ/Ht2を含む第1の変数X1と、電気伝導度に関する変数X2として、Z又は1/Zを含む第2の変数X2と、の両方を含む計算式で筋肉量を算出することにより、インピーダンスZの日内の変動の影響を抑えて精度良く筋肉量を算出することができる。なお、インピーダンスZの日内の変動は、例えば水分量の日内変動によって発生する。
【0077】
具体的には、筋肉量ASMを算出する計算式として、下記(8)式を用いることができる。
【0078】
ASM=a+b×(X1)+c×(X2) ・・・(8)
【0079】
なお、a、b、cは定数である。定数a、b、cは、例えば多数の被験者に対して筋肉量を測定した結果に基づいて予め設定される。また、第1の変数X1及び第2の変数X2は、符号を含んだ変数である。
【0080】
上記(8)式は、具体的には下記(9)、(10)、(11)、及び(12)式とすることができる。
【0081】
ASM=a+b×(Ht2/Z)+c×(-1/Z) ・・・(9)
ASM=a+b×(Ht2/Z)+c×(Z) ・・・(10)
ASM=a+b×(-Z/Ht2)+c×(-1/Z) ・・・(11)
ASM=a+b×(-Z/Ht2)+c×(Z) ・・・(12)
【0082】
第2の変数X2は、第1の変数1の変動を抑制することで、上記(8)式により算出される筋肉量ASMに相関する算出値の変動を抑制する方向に働く変数である。そのため、第1の変数X1に含まれるインピーダンス値Zと第2の変数X2に含まれるインピーダンス値Zとが共に分母又は分子に含まれる場合には、第2の変数X2の符号は、第1の変数X1の符号と逆符号となる。これに対して、第1の変数X1に含まれるインピーダンス値Zと第2の変数X2に含まれるインピーダンス値Zとの一方が分母に含まれ、且つ他方が分子に含まれる場合には、第2の変数X2の符号は、第1の変数X1の符号と同符号となる。これにより、ユーザーの日内のインピーダンスZの変動の影響を抑えて精度良く筋肉量を推定することができる。
【0083】
この点、上記(9)式を用いて筋肉量を算出する場合を一例として説明する。例えば、入浴後に電気抵抗値、例えばインピーダンスZが500Ωから450Ωに変動したと仮定する。(9)式では、第1の変数X1においてインピーダンスZが分母に含まれるため、変動後の第1の変数X1は、変動前の第1の変数X1よりも、大きくなる。そのため、インピーダンスZが500Ωから450Ωに変動したことによって、第1の変数X1を含む項により算出される筋肉量ASMに相関する算出値が大きくなる。
【0084】
しかしながら、(9)式では、第2の変数X2においてインピーダンスZが分母に含まれるため、変動後の第2の変数X2は、変動前の第2の変数X2よりも、大きくなる。加えて、第2の変数X2の符号が第1の変数X1の符号と逆になっている。そのため、第2の変数X2は、インピーダンスZが500Ωから450Ωに変動したことに起因する、第1の変数X1を含む項により算出される筋肉量ASMに相関する算出値の増加分を、減らすように働く。その結果、(9)式によって算出される筋肉量ASMは、変動が抑制された値となる。このため、電気抵抗値の日内変動を抑えて精度良く筋肉量を算出することができる。
【0085】
次に、第1の変数X1と筋肉量ASMとの関係、第2の変数X2と体重との関係について説明する。
【0086】
図5には、第1の変数X1をZ/Ht
2とした場合における第1の変数X1と筋肉量ASMとの関係を示した。また、
図6には、第1の変数X1をHt
2/Zとした場合における第1の変数X1と筋肉量ASMとの関係を示した。
【0087】
図5に示すように、第1の変数X1をZ/Ht
2とした場合においては、第1の変数X1(Z/Ht
2)の変化に対する筋肉量ASMの変化が概ね直線的に得られる。しかしながら、第1の変数X1(Z/Ht
2)が大きくなるに応じて、第1の変数X1(Z/Ht
2)の変化に対する筋肉量ASMの変化の直線性が損なわれる。例えば、領域40で表される領域は、他の領域と比較して、第1の変数X1(Z/Ht
2)の変化に対する筋肉量ASMの変化量が少なくなっている。ここで、第1の変数X1(Z/Ht
2)は、身長Htが小さくなるに応じて大きくなる変数である。すなわち、身長が低い領域40に属する人において算出される筋肉量は、領域40に属する人より身長の高い人において算出される筋肉量と比較して、インピーダンス値Zの大小による差が出にくくなる傾向がある。
【0088】
また、
図6に示すように、第1の変数X1をHt
2/Zとした場合においては、第1の変数X1(Ht
2/Z)の変化に対する筋肉量ASMの変化が概ね直線的に得られる。しかしながら、第1の変数X1(Ht
2/Z)が大きくなるに応じて、第1の変数X1(Ht
2/Z)の変化に対する筋肉量ASMの変化の直線性が損なわれる。例えば、領域42で表される領域は、他の領域と比較して、第1の変数X1(Ht
2/Z)の変化に対する筋肉量ASMの変化量が少なくなっている。ここで、第1の変数X1(Ht
2/Z)は、身長Htが大きくなるに応じて大きくなる変数である。身長が高い領域42に属する人において算出される筋肉量は、領域42に属する人より身長の低い人において算出される筋肉量と比較して、インピーダンス値Zの大小による差が出にくくなる傾向がある。
【0089】
また、
図7には、第2の変数X2をZとした場合における第2の変数X2と体重との関係を示した。また、
図8には、第2の変数X2を1/Zとした場合における第2の変数X2と体重との関係を示した。
【0090】
図7に示すように、体重が軽くなるに応じて、体重の変化に対するインピーダンス値Zの変化が大きくなっている。そのため、
図7に示すように、第2の変数X2をZとした場合においては、領域44に属する体重が軽い人が、例えば水分量の変化等によって微量の体重変化が発生したとしても、第2の変数X2を含む項の算出値に大きな変化が発生し得る。
【0091】
また、
図8に示すように、第2の変数X2を1/Zとした場合においては、体重の変化に対する第2の変数X2(1/Z)の変化が概ね直線的に得られる。一般的に、体重が重くなるに応じて、体重そのものの変動が大きくなるものである。その結果、体重が重い人、例えば領域46に属する人は、領域46に属する人よりも体重の軽い人と比較して体重の日内変動が大きい傾向にあり、第2の変数X2(1/Z)の日内変動が大きい傾向にある。
【0092】
以上より、筋肉量ASMの測定対象が、例えば飛び抜けて身長が大きい人がいない集団の場合には、第1の変数X1はHt2/Zを採用することが好ましい。従って、筋肉量ASMの測定対象が、飛び抜けて身長が大きい人がいない集団の場合、例えば日本人等のように、国籍・人種を特定できる場合には、上記(9)式又は(10)式を用いて筋肉量ASMを算出することが好ましい。さらに、飛び抜けて身長が大きい人がいない集団の人のうち、体重が比較的軽い人の場合には、上記(10)式を用いて筋肉量ASMを算出することが好ましい。逆に、飛び抜けて身長が大きくない人のうち、体重が比較的重い人の場合には、上記(9)式を用いて筋肉量ASMを算出することが好ましい。
【0093】
また、筋肉量ASMの測定対象が、小柄な人がいない集団の場合、第1の変数X1はZ/Ht2を採用することが好ましい。従って、例えば、特定のスポーツ種目の選手等のように、小柄な人がいないことを特定できる場合には、上記(11)式又は(12)式を用いて筋肉量ASMを算出することが好ましい。さらに、小柄な人がいない集団の人のうち、体重が比較的軽い人の場合には、上記(12)式を用いて筋肉量ASMを算出することが好ましい。逆に、小柄な人がいない集団の人のうち、体重が比較的重い人の場合には、上記(11)式を用いて筋肉量ASMを算出することが好ましい。
【0094】
また、筋肉量ASMの測定対象が、小柄な人から飛び抜けて身長の大きな人まで幅広く網羅されている集団の場合、ユーザーの身長及び体重に応じて上記(9)、(10)、(11)、(12)式の何れかを選択することが好ましい。
【0095】
具体的には、例えば、飛び抜けて身長が大きな人か否かを判定するための閾値TA1及び小柄な人か否かを判定するための閾値TA2(<TA1)を予め定めておく。また、体重が比較的軽い人か重い人かを判定するための閾値TBを予め定めておく。
【0096】
そして、ステップS104で取得したユーザーの身長が閾値TA1未満で且つステップS100で測定したユーザーの体重が閾値TB以上の場合には、上記(9)式を選択する。
【0097】
また、ステップS104で取得したユーザーの身長が閾値TA1未満で且つステップS100で測定したユーザーの体重が閾値TB未満の場合には、上記(10)式を選択する。
【0098】
また、例えばステップS104で取得したユーザーの身長が閾値TA2以上で且つステップS100で測定したユーザーの体重が閾値TB以上の場合には、上記(11)式を選択するようにしてもよい。
【0099】
また、ステップS104で取得したユーザーの身長が閾値TA2以上で且つステップS100で測定したユーザーの体重が閾値TB未満の場合には、上記(12)式を選択するようにしてもよい。
【0100】
代替的に、ステップS104で取得したユーザーの身長及びステップS100で取得したユーザーの体重と、上記(9)、(10)、(11)、(12)式のいずれかの計算式と、が対応付けられたテーブルを用いて、筋肉量ASMを算出する計算式を選択してもよい。
【0101】
このように、ユーザーの身長及び体重に応じて適切に計算式を選択することにより、精度良く筋肉量ASMを算出することが可能となる。
【0102】
ステップS108では、ステップS106で選択した計算式に、ステップS102で測定した電気抵抗値Z及びステップS104で取得したユーザーの身長Htを代入することにより、筋肉量ASMを算出する。
【0103】
ステップS110では、ステップS108で算出した筋肉量ASMを表示部18に表示させると共に、記憶部22に記憶させる。
【0104】
このように、本実施形態では、体積に関する第1の変数X1及び電気伝導度に関する変数X2の両方を含み、第1の変数X1の符号が第2の変数X2の符号と逆である計算式を用いて筋肉量を算出する。このため、筋肉量の日内の変動を抑えて精度良く筋肉量を算出することができる。
【0105】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0106】
本発明者らは、第1の変数X1(Ht2/Z)のみを用いた計算式(以下、計算式A)により筋肉量を算出した場合と、第1の変数X1(Ht2/Z)及び第2の変数X2(1/Z)の双方を用いた計算式、すなわち上記(9)式(以下、計算式B)を用いて筋肉量を算出した場合と、における筋肉量の精度について実験した。
【0107】
なお、被験者(97人)の年令(age)、身長(Ht)、体重(Wt)、BMI、筋肉量ASMのそれぞれの平均値(Ave)、標準偏差(SD)、最大値(MAX)、最小値(MIN)は以下の通りである。
【0108】
【表1】
図9には、計算式Aを用いて算出した筋肉量、すなわち電気抵抗値から推定した四肢筋肉量)と、DXA(Dual Enagy X-Ray Absorptiometry)で計測した四肢筋肉量と、の関係を示した。
図9に示すように、相関値rは0.85、標準誤差SEEは2.19であった。
【0109】
また、
図10には、計算式Bを用いて算出した筋肉量と、DXAで計測した四肢筋肉量と、の関係を示した。
図10に示すように、相関値rは0.93、標準誤差SEEは1.52であった。
【0110】
このように、第2の変数X2も用いた計算式Bで筋肉量を算出する方が、第1の変数X1のみを用いて筋肉量を算出した場合よりも、相関値r及び標準誤差SEEが共に優れた値となることが判った。
【0111】
また、
図11には、被験者に対して計算式Aで算出した場合の筋肉量の日内変動量と計算式Bで算出した場合の筋肉量の日内変動量との一例を表すグラフを示した。
図11では、朝7:30に測定した筋肉量を基準値とした場合の筋肉量の変化量を示した。
【0112】
図11に示すように、筋肉量の変化量が最大だったのは、計算式Aを用いて筋肉量を算出した場合、計算式Bを用いて筋肉量を算出した場合共に入浴後であった。
【0113】
具体的には、計算式Aを用いて筋肉量を算出した場合、筋肉量の変化量は-2.6(kg)であった。一方、計算式Bを用いて筋肉量を算出した場合、筋肉量の変化量は-2.0(kg)であった。
【0114】
このように、第1の変数X1(Ht2/Z)及び第2の変数X2の双方を用いた計算式Bで筋肉量を算出する方が、第1の変数X1のみを用いて筋肉量を算出した場合よりも、筋肉量の変化量の変動が抑えられることが判った。
【0115】
なお、本実施形態では、筋肉量ASMは以下の計算式として上記(9)、(10)、(11)、(12)式を例示したが、例えば第1の変数X1の符号と第2の変数X2の符号を逆にした計算式を用いてもよい。具体的には、(9)、(10)、(11)、(12)式に代えて、下記(9A)、(10A)、(11A)、(12A)式を用いてもよい。
【0116】
ASM=a+b×(-Ht2/Z)+c×(1/Z) ・・・(9A)
ASM=a+b×(-Ht2/Z)+c×(-Z) ・・・(10A)
ASM=a+b×(Z/Ht2)+c×(1/Z) ・・・(11A)
ASM=a+b×(Z/Ht2)+c×(-Z) ・・・(12A)
【符号の説明】
【0117】
10 体組成計
16 電気抵抗値測定部
16X 電流供給部
16Y 電圧測定部
16Z 電気抵抗値算出部
18 表示部
20 操作部
22 記憶部
24 荷重センサ
26 タイマ
28 電源
30 制御部
32 身長取得部
34 電気抵抗値取得部
36 算出部