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  • 特許-徐放性麻酔組成物及びその調製方法 図1
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  • 特許-徐放性麻酔組成物及びその調製方法 図3A
  • 特許-徐放性麻酔組成物及びその調製方法 図3B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】徐放性麻酔組成物及びその調製方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/127 20060101AFI20221109BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20221109BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20221109BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20221109BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20221109BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20221109BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20221109BHJP
   A61K 31/167 20060101ALI20221109BHJP
   A61K 31/445 20060101ALI20221109BHJP
   A61K 31/40 20060101ALI20221109BHJP
   A61K 31/381 20060101ALI20221109BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20221109BHJP
   A61P 23/00 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
A61K9/127
A61K47/24
A61K9/16
A61K9/14
A61K47/10
A61K47/28
A61K47/22
A61K31/167
A61K31/445
A61K31/40
A61K31/381
A61K9/19
A61P23/00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020511474
(86)(22)【出願日】2018-08-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-05
(86)【国際出願番号】 US2018048329
(87)【国際公開番号】W WO2019046293
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-08-16
(31)【優先権主張番号】62/550,983
(32)【優先日】2017-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/621,730
(32)【優先日】2018-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514090142
【氏名又は名称】ティーエルシー バイオファーマシューティカルズ、インク.
(73)【特許権者】
【識別番号】507317971
【氏名又は名称】タイワン リポソーム カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100116872
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 和子
(72)【発明者】
【氏名】ホン キールン
(72)【発明者】
【氏名】カオ ハオ-ウェン
(72)【発明者】
【氏名】リン イー-ユー
(72)【発明者】
【氏名】グオ ルーク エス.エス.
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-500105(JP,A)
【文献】特開昭62-181225(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0018230(US,A1)
【文献】特表2010-505785(JP,A)
【文献】国際公開第2014/046191(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
徐放性麻酔組成物の調製方法であって、
少なくとも1種のアミド型麻酔薬、及び
少なくとも1種のホスファチジルコリンを含む脂質混合物
を含む脂質構造を作製する工程と、
前記脂質混合物及び前記少なくとも1種のアミド型麻酔薬を溶媒系に溶解し、液体構造を形成する工程であって、前記溶媒系が、tert-ブタノール又はtert-ブタノール/水共溶媒を含む工程と、
前記液体構造から前記溶媒系を除去する工程と、
前記脂質構造を5.5~8.0のpHの水性緩衝溶液で水和する工程と、
を備え、前記脂質構造を水和する工程は、捕捉されたアミド型麻酔薬を有する多層小胞体(MLV)を形成し、前記捕捉されたアミド型麻酔薬を有するMLVのメジアン径が少なくとも1μmであり、前記捕捉されたアミド型麻酔薬を有するMLVの中のホスファチジルコリンに対するアミド型麻酔薬のモル比が少なくとも0.5:1である方法。
【請求項2】
前記脂質構造が、ケーキ、粉末、非膜固体塊状物、又はこれらの組み合わせの形態にある請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶媒系を除去する工程が、前記液体構造を凍結乾燥又は噴霧乾燥する工程を備える請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記脂質混合物がコレステロールを含む請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記脂質混合物中のコレステロールのモル百分率が50%以下である請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1種のホスファチジルコリン及びコレステロールが1:0.01~1:1のモル比にある請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1種のアミド型麻酔薬が、リドカイン、ブピバカイン、レボブピバカイン、ロピバカイン、メピバカイン、ピロカイン、アルチカイン又はプリロカインである請求項1から請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1種のアミド型麻酔薬がロピバカイン塩基である請求項1から請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記水性緩衝溶液が1mM~200mMの範囲の濃度のヒスチジンを含む請求項1から請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
必要とする対象に局所麻酔薬を局所投与するための徐放性麻酔組成物であって、前記組成物は、請求項1から請求項のいずれか一項に記載の方法によって調製され、前記麻酔組成物の中の前記捕捉されたアミド型麻酔薬を有するMLVのメジアン径が少なくとも1μmであり、前記捕捉された局所麻酔薬を有するMLVの中のホスファチジルコリンに対するアミド型麻酔薬のモル比が少なくとも0.5:1である徐放性麻酔組成物。
【請求項11】
前記少なくとも1種のアミド型麻酔薬がロピバカイン塩基である請求項10に記載の徐放性麻酔組成物。
【請求項12】
前記水性緩衝溶液が、1mM~200mMの範囲の濃度のヒスチジンを含む請求項10に記載の徐放性麻酔組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2017年8月28日出願の米国仮出願第62/550,983号、及び2018年1月25日出願の米国仮出願第62/621,730号に基づく優先権の利益を主張する。これらの米国仮出願の各々は、参照によりその全体が援用される。
【0002】
技術分野
本発明は、徐放性麻酔組成物の送達のための薬物送達システムに関する。本発明は、この薬物送達システムの調製方法に関する。本発明は、有効性の長い継続時間を有する薬物送達システムに適合した徐放性医薬組成物にも関する。
【背景技術】
【0003】
徐放性局所麻酔薬を開発するためのいくつかのアプローチが報告されており、その例としては、1)脱水-再水和方法を使用して多重膜リポソーム局所麻酔薬を調製すること(米国特許第6,926,905号明細書)、2)硫酸アンモニウム勾配充填(勾配ローディング)手順を使用して巨大多胞性(giant multivesicular:GMV)リポソーム局所麻酔薬を調製すること(米国特許第7,357,944号明細書)、及び3)油中水手順を使用して多胞性リポソーム(multilamellar vesicle:MVL)局所麻酔薬を調製すること(米国特許第8,182,835号明細書)が挙げられる。
【0004】
脱水-再水和方法により多重膜リポソーム局所麻酔薬を調製するために、tert-ブタノールに溶解したリン脂質及びコレステロールが凍結乾燥され、次いで脱水されて、多層小胞体(MLV)が形成され、このMLVは、ホモジナイズされて、小型単層小胞体(small unilamellar vesicle:SUV)が得られる。次に、局所麻酔薬、例えばブピバカイン、がこのSUV溶液に溶解され、引き続き凍結乾燥され、水和され、高浸透圧性生理食塩水で洗浄され、遊離のブピバカインが除去される。
【0005】
GMVリポソーム局所麻酔薬を調製するために、脂質を溶媒に溶解し、その溶媒を除去し、硫酸アンモニウム溶液を用いて水和してMLVを形成することにより、脂質薄膜が得られる。次いで、MLVは、ホモジナイズされて、SUVが得られ、このSUVが凍結融解されてGMVが生成される。外部のリポソーム媒体は、勾配を作り出すように置き換えられ、麻酔薬 -例えば、ブピバカイン- が活発にGMVの中へと充填され、そして封入されなかったブピバカインは除去される。
【0006】
MVL局所麻酔薬を調製するために、例えばブピバカインが、水溶液に容易に溶解されうるように好適な塩形態へと変換され、次いでブピバカイン水溶液は、機械的な乱流を伴う有機溶媒中で脂質成分と混合され、油中水エマルションが形成される。この油中水エマルションは、次に、第2水相に分散されて、溶媒小球体が形成される。最後に、有機溶媒を除去した後に、MVL局所麻酔薬が得られる。
【0007】
1991年に、Legrosら(米国特許第5,244,678号明細書)は、L-α-ホスファチジルコリン(EPC)及びコレステロールを4:3のモル比で含むMLVリポソームブピバカインの調製を開示した。その後、このグループは、EPC及び無極性の麻酔薬から構成される脂質薄膜を作製し、続いてこの脂質薄膜を、上記無極性の麻酔薬が無電荷の形態に留まるpH調整した緩衝液で水和することによる、リポソーム麻酔薬の調製を開示した(米国特許第6,149,937号明細書)。例えば、リポソームブピバカインを調製する際に、脂質薄膜は、好ましくはpH8.1の緩衝液で水和され(ブピバカインのpKaは8.1である)、この緩衝液は、50%のブピバカインを電荷を帯びていない形態に維持する。Legrosらは、冷凍乾燥した、リポソームに封入された両親媒性薬物組成物の調製方法も開示した(国際公開第1997042936号パンフレット)。この両親媒性薬物組成物は、脂質成分及び両親媒性薬物組成物、特にブピバカインを含む薄膜を生成し、この薄膜をpH8.1の緩衝溶液で水和してリポソームに封入されたブピバカインを形成し、このリポソームに封入されたブピバカインを膜安定剤としてのソルビトールと一緒に冷凍乾燥し、次いで使用前に再水和してMLVリポソームブピバカインを得ることにより、得られる。
【0008】
先行技術の上記の例のいくつかは、薬物の高い程度の捕捉、すなわち高い薬物対脂質比を達成できない。先行技術の例のいくつかは推定上の高薬物対脂質比を有する配合物を例証するが、これらの配合物を製造することは、長々しい手順及び高い製造コストを伴う。それゆえ、徐放性リポソーム局所麻酔薬を製造するための、改善され簡略化された製造プロセスに対するニーズは、まだ満たされないでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許第6,926,905号明細書
【文献】米国特許第7,357,944号明細書
【文献】米国特許第8,182,835号明細書
【文献】米国特許第5,244,678号明細書
【文献】米国特許第6,149,937号明細書
【文献】国際公開第1997042936号パンフレット
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、1工程凍結乾燥を用いて、局所麻酔薬と1以上のリン脂質及び/又はコレステロールを含む脂質混合物とを含む高度に捕捉された脂質構造(highly entrapped lipid structure:HELS)を得て、次いでこのHELSをpH調整した緩衝溶液で水和して、捕捉された局所麻酔薬及び任意に捕捉されていない局所麻酔薬を伴う多層小胞体(MLV)を形成する、徐放性麻酔組成物の調製方法を提供する。この徐放性麻酔組成物は、最小の毒性で、麻酔の即効性及び局所麻酔の長い継続時間をもたらす。いくつかの実施形態では、この局所麻酔薬はアミド型麻酔薬である。
【0011】
本発明に係る例示的な局所麻酔薬は、ロピバカイン等のアミド型麻酔薬である。使用されてもよい他の局所麻酔薬としては、リドカイン、ブピバカイン及びレボブピバカインが挙げられる。いくつかの実施形態では、本発明に係るHELSは、無極性のロピバカイン、リン脂質、及びコレステロールを溶媒系、例えば、tert-ブタノール単独又はtert-ブタノール/水共溶媒に溶解し、続いて凍結乾燥技術を用いてその溶媒系を除去することにより調製される。いくつかの実施形態では、ロピバカイン組成物は、上記HELSを5.5よりも高いpHの薬学的に許容できる緩衝溶液で水和することにより形成される。理論上電荷を帯びていないロピバカインは、pKa(ロピバカインのpKaは8.1である)からの算出に基づくと、pH6.0では利用可能なロピバカインの0.8%である。しかしながら、pH6.0の緩衝液が水和溶液として選択されるとき、得られた麻酔組成物の会合効率(AE)は64%超であり、これは、電荷を帯びていないアミド型麻酔薬の百分率は、AEに大きくは寄与しないことを実証する。
【0012】
とはいうものの、薬学的に許容できる緩衝溶液のpH値は、麻酔組成物のMLV中の未捕捉の麻酔薬に対する捕捉された麻酔薬の比を調整するために選択することができる。ある実施形態では、麻酔組成物の捕捉されたアミド型麻酔薬を有するMLVの中のリン脂質に対するアミド型麻酔薬のモル比(mol薬物:molリン脂質)は少なくとも0.5:1であり、十分な量のアミド型麻酔薬を、それを必要とする対象に提供して、インビボ局所投与後の麻酔の継続時間を延長することができる。加えて、未捕捉のアミド型麻酔薬の量を制限することで、最小の最大血漿中濃度(Cmax)曝露で迅速な麻酔開始を成し遂げることができる。
【0013】
本発明の他の目的、利点及び新規な特徴は、添付の図面と併せて解釈されると、以下の詳細な説明からより明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、ロピバカイン組成物(pH5.5ヒスチジン溶液で水和されたもの、黒四角;pH6.0ヒスチジン溶液で水和されたもの、黒三角;及びpH6.5ヒスチジン溶液で水和されたもの、黒丸)の皮下(SC)注射後、又は未処方ロピバカイン(白菱形)のSC注射後のラット中のロピバカインの血漿中濃度を示すグラフである(すべてのデータは、平均±標準偏差(SD)として示されている)。
図2A図2A及び図2Bは、機械的刺激に対するマウスの後肢逃避反応閾値への、ロピバカイン組成物(丸)、ロピバカイン(四角)及びビヒクル(三角)のSC投与後の効果を描く一連のグラフである(すべてのデータは、平均±平均値の標準誤差(SEM)として示されている)。図2Aは、時間対逃避反応閾値(g)のグラフでのプロットである。
図2B図2A及び図2Bは、機械的刺激に対するマウスの後肢逃避反応閾値への、ロピバカイン組成物(丸)、ロピバカイン(四角)及びビヒクル(三角)のSC投与後の効果を描く一連のグラフである(すべてのデータは、平均±平均値の標準誤差(SEM)として示されている)。図2Bは、時間対機械的閾値の変化(%)のグラフでのプロットである。
図3A図3A及び図3Bは、同じ投薬量のロピバカインと比較した、ロピバカイン組成物の1回の皮内(IC)注射後の経時的な麻酔効果を描く一連のグラフである(すべてのデータは、平均±SEMとして示されている)。図3Aは、ロピバカイン組成物(黒四角)又はロピバカイン(白四角)のIC膨疹あたり3.0mgを投薬されたモルモットコホートに対する麻酔効果を示す。
図3B図3A及び図3Bは、同じ投薬量のロピバカインと比較した、ロピバカイン組成物の1回の皮内(IC)注射後の経時的な麻酔効果を描く一連のグラフである(すべてのデータは、平均±SEMとして示されている)。図3Bは、ロピバカイン組成物(黒三角)又はロピバカイン(白三角)のIC膨疹あたり1.5mgを投与されたモルモットコホートに対する麻酔効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上記及び本開示全体にわたって用いられる場合、以下の用語は、特段の記載がないかぎり、以下の意味を有すると理解されるものとする。
【0016】
本願明細書で使用する場合、単数形の「a」、「an」及び「the」は、文脈と明らかに矛盾する場合でないかぎり、複数の指示対象を含む。
【0017】
本明細書中のすべての数は、「約」によって修飾されていると理解されうる。この「約」は、量、時間的な継続等の測定可能な値に言及するとき、特定された値から±10%、好ましくは±5%、より好ましくは±1%、さらにより好ましくは±0.1%の変動を包含することを意味する。というのも、そのような変動は、特段の記載がないかぎり、所望の量の薬物を得るために適切であるからである。
【0018】
「会合効率」(AE)は、麻酔組成物中の多層小胞体(MLV)によって捕捉された薬物物質の量を表し、もとの麻酔組成物の中の薬物物質の量に対するMLV中に捕捉された薬物物質の量の比によって算出される。捕捉された薬物を有するMLVは、MLVの物理的特性及び当該技術分野における一般的知識に従って当該技術分野で公知の方法により得ることができる。好ましくは、捕捉された薬物物質を有するMLVは、遠心分離法、例えば、従来の遠心分離、密度勾配遠心分離、分画遠心法を使用して、又は濾過方法、例えば、ダイアフィルトレーション(透析濾過)、ゲル濾過、膜濾過法により、麻酔組成物から未捕捉の薬物を分離することにより得ることができる。
【0019】
多層小胞体
用語「多層小胞体(MLV)」(単複の場合とも)は、本願明細書で使用する場合、小胞を形成する1以上の二重層の膜によって外部の媒体から隔離された水性の内部空間を有することを特徴とする粒子を指す。多層小胞体の二重膜は、通常、脂質、すなわち、空間的に分離された疎水性ドメイン及び親水性ドメインを含む合成又は天然由来の両親媒性分子によって形成される。本発明のある実施形態では、多層小胞体は脂質二重膜の複数の層によって形成される。
【0020】
一般に、MLVの二重膜は、典型的にはリン脂質、ジグリセリド、二脂肪鎖糖脂質等の二脂肪鎖脂質、スフィンゴミエリン及びスフィンゴ糖脂質等の単一脂質、コレステロール及びその誘導体等のステロイド、並びにこれらの組み合わせを含む脂質混合物を含む。本発明に係るリン脂質の例としては、1,2-ジラウロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DLPC)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)、1-パルミトイル-2-ステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(PSPC)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン(POPC)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、水添大豆ホスファチジルコリン(HSPC)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1’-rac-グリセロール)(ナトリウム塩)(DMPG)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1’-rac-グリセロール)(ナトリウム塩)(DPPG)、1-パルミトイル-2-ステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1’-rac-グリセロール)(ナトリウム塩)(PSPG)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1’-rac-グリセロール)(ナトリウム塩)(DSPG)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1’-rac-グリセロール)(DOPG)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン(ナトリウム塩)(DMPS)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン(ナトリウム塩)(DPPS)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン(ナトリウム塩)(DSPS)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン(DOPS)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-リン酸塩(ナトリウム塩)(DMPA)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-リン酸塩(ナトリウム塩)(DPPA)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-リン酸塩(ナトリウム塩)(DSPA)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-リン酸塩(ナトリウム塩)(DOPA)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DPPE)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(POPE)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1’-ミオイノシトール)(アンモニウム塩)(DPPI)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホイノシトール(アンモニウム塩)(DSPI)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1’-ミオイノシトール)(アンモニウム塩)(DOPI)、カルジオリピン、L-α-ホスファチジルコリン(EPC)、及びL-α-ホスファチジルエタノールアミン(EPE)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
局所麻酔薬
用語「局所麻酔薬」は、神経終末部における興奮の低下又は末梢神経における伝導(伝達)プロセスの阻害によって引き起こされる対象の限局的な領域における感覚の喪失を引き起こす物質の1以上の群を指す。いくつかの実施形態では、この局所麻酔薬はアミド型麻酔薬である。典型的なアミド型麻酔薬構造は、分子の中心の近傍で-NHCO-連結によってつながる親油性部分及び親水性部分を含有する。好適なアミド型麻酔薬としては、リドカイン、ブピバカイン、レボブピバカイン、ロピバカイン、メピバカイン、ピロカイン、アルチカイン及びプリロカインが挙げられるが、これらに限定されない。ある実施形態では、上記アミド型麻酔薬はロピバカイン塩基である。
【0022】
高度に捕捉された脂質構造
用語「高度に捕捉された脂質構造」(HELS)は、脂質混合物及び1以上のアミド型麻酔薬を含有する固相の凍結乾燥されたケーキ又は乾燥粉末であって、組成物の貯蔵寿命を延ばすように製造し、長期に保存することができ、そして臨床使用の直前に水和することができるものを指す。上記の脂質混合物は、コレステロールなしで1以上のリン脂質を含むことができるし、又は、全脂質混合物の量に対して50%以下のコレステロールのモル百分率を有して1以上のリン脂質を含むことができる。あるいは、脂質混合物に対するコレステロールのモル百分率は、約0%~約50%、任意に約33%~約40%である。本発明のいくつかの実施形態では、リン脂質(1又は複数種)及びコレステロールは1:1~3:1のモル比にある。
【0023】
上記HELSは、1)脂質混合物及び1以上のアミド型麻酔薬を溶媒系に溶解し、均一な溶液を形成するための1以上の溶媒を含む液体構造を形成し、2)この溶媒(1又は複数種)を除去して、脂質混合物及びアミド型麻酔薬(1又は複数種)の処方物を固化することにより、調製することができる。溶媒除去は、冷凍乾燥(凍結乾燥)又は噴霧乾燥等の公知の技法を用いて実施することができる。冷凍乾燥に好適な溶媒系の例としては、アセトン、アセトニトリル、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、メタノール、ジクロロメタン、ジメチルスルホキシド、及び四塩化炭素等の他の非水溶媒を伴う又は伴わない、tert-ブタノール及びtert-ブタノール/水共溶媒系が挙げられるが、これらに限定されない。噴霧乾燥に好適な溶媒系の例としては、水、エタノール、メタノール、クロロホルム、ジクロロメタン、ジエチルエーテル、四塩化炭素、酢酸エチル及びジオキサンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
麻酔組成物
用語「麻酔組成物」は、局所投与に好適な多層小胞体(MLV)生成物を指す。ある実施形態では、麻酔組成物は、MLVによって捕捉されたアミド型麻酔薬、及び未捕捉のアミド型麻酔薬を含む。用語「捕捉する」又は「捕捉」は、標的薬物物質を封入するか、標的薬物物質を包埋する(埋め込む)か、又は標的薬物物質と会合するMLVの二重膜を指す。捕捉されたアミド型麻酔薬を有するMLVは、当該技術分野で公知の方法により、好ましくは、遠心分離法、例えば、従来の遠心分離、密度勾配遠心分離、分画遠心法を使用して、又は濾過方法、例えば、ダイアフィルトレーション、ゲル濾過、膜濾過法により、麻酔組成物から未捕捉のアミド型麻酔薬を分離することにより得ることができる。本発明に係る捕捉されたアミド型麻酔薬を有するMLVの粒度分布は、当該技術分野で公知の種々の方法によって決定することができる。捕捉されたアミド型麻酔薬を有するMLVの例示的な粒径は1μm以上であり、任意に、5μm超、例えば5μm~50μm、又は10μm~25μmの範囲にある。あるいは、当該麻酔組成物の捕捉されたアミド型麻酔薬を有するMLVのメジアン径(D50)は1μm以上であり、任意に、5μm超、例えば5μm~50μm、又は10μm~25μmの範囲にある。
【0025】
使用のための当該麻酔組成物を調製するために、HELSは、5.5を超えるpH値の水性緩衝溶液で水和される。いくつかの実施形態では、この水性緩衝溶液は、5.5~8.0、任意に6.0~7.5のpH範囲にある。
【0026】
本発明に係る好適な水性緩衝溶液は、クエン酸(クエン酸塩)、酢酸(酢酸塩)、リンゴ酸(リンゴ酸塩)、ピペラジン、コハク酸(コハク酸塩)、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、ヒスチジン、ビストリス(bis-tris)、リン酸(リン酸塩)、エタノールアミン、N-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸(ADA)、炭酸(炭酸塩)、N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸(ACES)、1,4-ピペラジンジエタンスルホン酸(PIPES)、3-モルホリノ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(MOPSO)、イミダゾール、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸(BES)、4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-エタンスルホン酸(HEPES)、トリエタノールアミン、リジン、トリス、及びグリシルグリシンを含むが、これらに限定されない。当該組成物中の未捕捉のアミド型麻酔薬の量は、臨床的適応及び総注射投薬量に基づいて水性緩衝溶液に対する適切なpH値を選択することにより、麻酔薬の分配係数に基づいて調整することができる。
【0027】
いくつかの実施形態では、水性緩衝溶液は、1mM~200mM、10mM~150mM、又は40mM~120mMの範囲の濃度のヒスチジンを含む。
【0028】
未捕捉のアミド型麻酔薬の量は、遠心分離法によって決定される当該麻酔組成物の会合効率(AE)の関数である。数学的には、未捕捉のアミド型麻酔薬の量は、以下のように表される。
【数1】
上記式中、A未捕捉は、未捕捉のアミド型麻酔薬の量であり、Aは、麻酔組成物中のアミド型麻酔薬の全量であり、AEは、MLV中に捕捉されたアミド型麻酔薬の量を麻酔組成物中のアミド型麻酔薬の全量で除算することにより得られる。本発明に係るAEは、少なくとも60%、任意に70%~95%である。
【0029】
捕捉されたアミド型麻酔薬を有するMLVのリン脂質に対するアミド型麻酔薬のモル比(mol薬物:molリン脂質、D:PL)は、好ましくは少なくとも0.5:1であり、0.7:1、0.9:1、1.2:1、又は1.4:1が挙げられるが、これらに限定されず、捕捉されたアミド型麻酔薬を有するMLVのメジアン径(D50)は、好ましくは1μm以上、例えば5μm以上、任意に、5μm~20μm、又は5μm~15μmの範囲内にある。
【0030】
当該麻酔組成物のアミド型麻酔薬の濃度は、臨床治療の利益を成し遂げるためには2mg/mLよりも高い必要がある。好適なアミド型麻酔薬の濃度としては、2mg/mL~30mg/mL及び10mg/mL~20mg/mLが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の麻酔組成物の中の未捕捉の麻酔薬の限定された量は、より高い最大耐量(中枢神経系及び心血管系の毒性を引き起こす血漿中麻酔薬濃度に依存する)を成し遂げるという恩恵をもたらすことができ、即効性の有効性を提供するために使用することができる。いくつかの実施形態では、ロピバカイン組成物の投与後のCmaxは、未処方(未組成物化)ロピバカインの投与後のCmaxの16.7%であり、これは、この麻酔薬の安全窓の範囲内で6倍高い承認された臨床投薬量が使用されてもよいことを示す。
【0031】
臨床使用のために、AEは、本発明のある実施形態では、70%~95%の範囲にある。捕捉されたアミド型麻酔薬を有する残留するMLVは、このアミド型麻酔薬を治療上有効な投薬量をその局所部位で維持するように、局所環境へと徐々に放出するためのデポーとして作用する。いくつかの実施形態では、本発明に係るロピバカイン組成物の1回のSC投与から導かれるロピバカインの半減期は、未処方ロピバカインの半減期と比べて、少なくとも10倍延びている。本発明のロピバカイン組成物の投与後の麻酔効果の継続時間は、未処方ロピバカインの麻酔効果の継続時間を超えて有意に延長される。
【0032】
本開示は、以下の具体的な非限定的な例を参照してさらに説明される。
【実施例
【0033】
以下の例は、本発明の特定の実施形態の調製及び特性を例証する。
【0034】
実施例1
ロピバカイン組成物の調製
HSPC及びDMPCは、NOF Corporation(日油株式会社)から購入した。コレステロールは、Sigma-Aldrich(シグマ・アルドリッチ)から購入し、ロピバカインはApollo Scientific(アポロ・サイエンティフィック)又はDishman(ディッシュマン)から購入した。すべての他の化学物質はSigma-Aldrichから購入した。
【0035】
いくつかのHELSを調製するために、以下のモル比、HSPC:コレステロール:ロピバカイン=1.5:1:2.2、HSPC:コレステロール:ロピバカイン=2:1:2.9、DMPC:コレステロール:ロピバカイン=2:1:2.9、及びDMPC:DPPG:コレステロール:ロピバカイン=1.85:0.15:1:2.9のロピバカインを有する異なる脂質混合物を使用した。上記脂質及びロピバカインを混合し、次いでtert-ブタノール又はtert-ブタノール/水共溶媒系(1/1、体積/体積)に溶解し、液体構造を形成した。各液体構造試料を30~60分間冷凍し、次いで一晩凍結乾燥し、凍結乾燥したケーキの形態でHELSを得た。
【0036】
ビヒクル対照のための脂質構造を調製するために、DMPC:コレステロール=2:1のモル比の脂質混合物を秤量し、次いでtert-ブタノールに溶解した。得られた試料を60分間冷凍し、次いで一晩凍結乾燥し、ビヒクルの凍結乾燥したケーキを得た。
【0037】
上記凍結乾燥したケーキを、異なるpH値の異なる緩衝液で、好適な温度(例えば、DMPCについては25℃/常温(AT)より高く、HSPCについては60℃より高い)で2~10分間水和し、それぞれロピバカイン組成物及びビヒクル組成物を形成した。
【0038】
実施例2
ロピバカイン組成物の特性解析
上記の調製物の各々の会合効率(AE)を以下のようにして決定した。各ロピバカイン組成物の200マイクロリットルを遠心分離機に移し、4℃で、3000×gで5分間回転した。上清を静かに移した後、捕捉されたロピバカインを有するMLVを得て、200μLの最終体積に再懸濁した。基準の吸光度標品を、各薬物物質(例えば、ロピバカイン)に対して、既知の濃度の試験薬物物質の溶液に基づいて確立した。もとのロピバカイン組成物及び捕捉されたロピバカインを有するMLVの両方の薬物量を、紫外/可視(UV/Vis)分光光度計を用いて測定した。AEは、上記ロピバカイン組成物の中の薬物量に対する捕捉されたロピバカインを有するMLVの中の薬物量の比を表す。捕捉されたロピバカインを有するMLVのD:PLは、HELSのD:PLにAEを乗じることにより算出した。結果の要約を表1に示す。
【0039】
各ロピバカイン組成物の粒径は、レーザー回折アナライザー(LA-950V2、Horiba(堀場))を用いて測定した。HELS(DMPC:コレステロール=2:1)を50mMヒスチジン緩衝液(pH6.5)で水和することにより形成した、捕捉されたロピバカインを有するMLVのメジアン径(D50)は、11.1±0.3μm(n=3)であった。
【0040】
【表1】
【0041】
実施例3
ロピバカイン組成物の薬物動態研究
頸静脈カニュレーション施術済みの(JVC)雌のスプラーグドーリー(Sprague-Dawley)ラットを、薬物動態(PK)研究のために使用した。このラットを、12時間明/12時間暗の概日周期で稼働し、水及び食料を自由に提供する飼育室内で飼育した。ロピバカイン組成物を実施例1に従って調製し、DMPC:コレステロール:ロピバカイン=2:1:2.9のHELSを、それぞれpH5.5、6.0及び6.5の50mMヒスチジン緩衝液で水和した。未処方ロピバカインは、ロピバカイン塩酸塩一水和物を0.9%NaCl中に24.0mg/mLで溶解することにより調製した。ラットの群(一群あたりn=3又は4)に投与したそれぞれのリポソームロピバカイン組成物及び未処方ロピバカインのインビボPKプロファイルを、20.0mg/kgのロピバカインの投薬量での皮下(SC)注射後に比較した。血液試料を注射後15分、1時間、2時間、4時間、8時間、24時間、48時間及び72時間で採取した。血漿試料を、遠心分離によって得て、分析まで-80℃で凍結して保った。これらの試料から得たPKデータを、ノンコンパートメントモデル(WinNonlin(登録商標)ソフトウェア)を用いて解析した。このモデルから誘導されたPKパラメータを表2に示す。
【0042】
【表2】
【0043】
ロピバカイン組成物のCmaxは、水和溶液のpH値がよりアルカリ性である場合に、より低かった。未処方ロピバカイン群と比べて、Cmaxは、pH5.5のヒスチジン溶液で水和したロピバカイン組成物については55.5%、pH6.0のヒスチジン溶液で水和したロピバカイン組成物については35.5%、pH6.5のヒスチジン溶液で水和したロピバカイン組成物については16.7%であった。すべての3つのロピバカイン組成物の半減期(T1/2)は、未処方ロピバカインの半減期(T1/2)と比べて、有意に延びていた。曲線下面積(AUC0-t)に基づくと、ロピバカイン組成物の注射の72時間後にロピバカインの84.6%~90.8%が放出された。このPK研究の結果を図1に示す。同じ投薬量の投与後、すべてのロピバカイン組成物群において血漿中のロピバカインを72時間まで検出することができたが、しかしながら、未処方ロピバカイン群では、24時間後には血漿中でロピバカインは検出できなかった。
【0044】
実施例4
肢切開マウスモデルにおける麻酔効果
野生型の雄のC57/BL6マウス(8週齢、Envigo(エンヴィーゴ))を、Anesthesiology. 2003年10月;99(4):1023-7及びJ Neurosci Methods. 1994年7月;53(1):55-63に記載されているような肢切開後の麻酔有効性を評価するために使用した。マウス飼育室は、光を使用しないことを確保するために12時間明/12時間暗の概日周期で稼働し、研究者及び実験助手が暗周期の間にマウスルームに入らないようにする。ロピバカイン組成物及びビヒクル(媒質)を実施例1に従って調製し、DMPC:コレステロール:ロピバカイン=2:1:2.9のHELS及びDMPC:コレステロール=2:1のビヒクルの脂質構造を、各々、pH6.0の50mMヒスチジン緩衝液で水和した。未処方ロピバカインは、0.1N HClを含有する9.4%スクロース溶液中に18.3mg/mLでロピバカインを溶解することにより調製した。上記ロピバカイン組成物、未処方ロピバカイン、及びビヒクル(一群あたりn=8)のインビボ有効性研究を、切開あたり0.18mgのロピバカインの投薬量での肢切開後のSC注射の後に比較した。
【0045】
32匹のマウスのベースライン(T=-2時間)機械的(von Frey)閾値(収縮閾値)を外科手術に先立って取得した。ベースライン閾値は、マウスの左後肢で測定した。すべての32匹のマウスは、その左後肢に足底切開(長さ5mm及び深さ5mm)を受けた。手術後2時間(T=0時間)で、各マウスの機械的閾値を再評価し、各マウスにおける機械的アロディニアの存在を確認した。32匹のマウスを4つの群にランダム化した(一群あたり8匹のマウス)。2.5%イソフルラン麻酔で麻酔するあいだに、各マウスは、ビヒクル(10μL)、ロピバカイン組成物(18.3mg/mLの10μL)又は未処方ロピバカイン(18.3mg/mLの10μL)のSC注射を受けた。各マウスの50%後肢逃避反応閾値を、ベースライン時間点(-2)、及びSC注射処置後の指定の時間点(0時間、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、8時間及び24時間)で上げ下げ法を用いて得た。
【0046】
肢切開後のロピバカイン組成物(丸)、未処方ロピバカイン(四角)及びビヒクル(三角)の麻酔有効性を図2A及び図2Bに示す。各処置群についての平均50%逃避反応閾値をグラフ化した。逃避反応閾値(g)として提示したデータを時間に対してプロットした(図2A)。個々のマウスのベースライン機械的感受性のばらつきを補正するために、外科手術及び処置後の各マウスの50%後肢逃避反応閾値をそれ自身のベースライン50%逃避反応閾値(T=-2時間)に対して規格化した。各処置群についての平均の規格化50%逃避反応閾値をグラフ化した。ベースライン閾値に対する機械的閾値の%変化として提示したデータを時間に対してプロットした(図2B)。投与後のロピバカイン組成物及び未処方ロピバカインによる麻酔の開始時は同様であり、逃避反応閾値は、第1時間点(T=1時間)で0.04gからそれぞれ0.26g及び0.22gまで上昇した。ロピバカイン組成物群は、最大(約88%)かつ最長(少なくとも5時間)の鎮痛作用をもたらし、未処方ロピバカイン群も、ビヒクル群と比べていくらかの程度の無痛覚をもたらした。
【0047】
実施例5
改変IC膨疹ピン刺激モデルを用いたモルモットに対する麻酔効果
雄のモルモット(8週齢、約500g、Charles River Laboratories(チャールズ・リバー・ラボラトリーズ))を用いて、J Pharmacol Exp Ther. 1945;85:78-84に記載されているように麻酔有効性を評価した。すべてのモルモットを、ケージあたり2匹の動物で群ケージの中で飼育し、適正な養育及び富化(エンリッチメント)を確実にするためにモルモット食料(Healthy Pet(登録商標))及び水を自由に摂取させた。この飼育条件を12時間明/12時間暗の概日周期で、65~75°F(約18~23℃)で制御した。12日間の実験室条件への馴化の初期期間の後、モルモットを無作為に1番から8番まで番号を付けた。ロピバカイン組成物を実施例1に従って調製し、DMPC:コレステロール:ロピバカイン=2:1:2.9のHELSをpH6.0の50mMヒスチジン緩衝液で水和した。未処方ロピバカインを、ロピバカイン塩酸塩一水和物を超純水中に20.5mg/mLへ溶解することにより調製した。
【0048】
上記モルモット(一群あたりn=4又は6)のこのインビボ有効性研究は、それぞれIC膨疹あたり3.0mgのロピバカイン及びIC膨疹あたり1.5mgのロピバカインの投薬量での皮内(IC)注射後に、ロピバカイン組成物及び未処方ロピバカインを比較した。実験の1日前にモルモットの背中の毛を剃った。実験の日に、4つの領域を薬物投与前に背中に線引きし、これらの領域の感受性をピン刺激によって決定した。各動物は、4つの指定された配合物を背中に受け、これらはそれぞれ4つの膨疹を作り出した。注射部位でのピン刺激に対する反応を、配合物の注射後0分、15分、1時間、2時間、4時間、5時間、6時間、8時間、10時間、12時間、及び23時間で試験した。各時間点で、ピン刺激を、最初に膨疹の外部の対照領域に加えた。膨疹の外部でのピン刺激に対する動物の正常な反応を観察した後、6回の刺激を膨疹内部に加え、モルモットが反応できなかった刺激を無反応と記録した。すべての刺激に対して100%応答を提示した動物は、さらなる時間点ではモニタリングしなかった。
【0049】
同じ投薬量の未処方ロピバカイン群と比較したロピバカイン組成物群の麻酔効果を決定し、結果を図3A及び図3Bに示す。3.0mg(図3A)及び1.5mgロピバカイン(図3B)の投薬量の両方でのロピバカイン組成物及び未処方ロピバカインの両方の麻酔の開始を、最初の時間点で、つまり15分以内に観察した。ロピバカイン組成物群は、両方の投薬量についての未処方ロピバカイン群について観察したものと比べて、持続した麻酔効果を呈した。IC膨疹あたり3mgのロピバカインの投薬量については、未処方ロピバカイン群と比べて、有意に持続した麻酔効果を、ロピバカイン組成物群について注射後10時間及び12時間で観察した(p<0.05)。IC膨疹あたり1.5mgのロピバカインの投薬量についても、未処方ロピバカイン群と比べて、麻酔効果は、ロピバカイン組成物群について長く持続し、有意差(p<0.05)は注射後2時間、4時間及び5時間で認められた。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B