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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】溶射材用粉末
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/66 20060101AFI20221109BHJP
   C23C 4/04 20060101ALI20221109BHJP
   C23C 4/06 20160101ALI20221109BHJP
   C23C 4/10 20160101ALI20221109BHJP
   F27D 1/16 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
C04B35/66
C23C4/04
C23C4/06
C23C4/10
F27D1/16 B
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2022149889
(22)【出願日】2022-09-21
【審査請求日】2022-09-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391029484
【氏名又は名称】日本特殊炉材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003085
【氏名又は名称】弁理士法人森特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 浩史
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特許第4493404(JP,B2)
【文献】特開2016-79418(JP,A)
【文献】特開平9-132470(JP,A)
【文献】特開平9-40474(JP,A)
【文献】社団法人日本セラミックス協会編,セラミック工学ハンドブック,第2版 応用,日本,2002年03月31日,P.782-784,奥付
【文献】遠藤善康、竹並潤哉,山口浩史,藤森裕章、西岡厚志,溶射補修技術の補完,耐火物,2020年09月01日,vol.72,No.9,P.357-363,裏表紙
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00 - 35/84
F27D 1/16
C23C 4/00 - 4/12
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪石の粒子又は珪砂の粒子と金属粒子とを含有する混合物と、酸素とを混合し、金属粒子の酸化発熱反応により前記混合物を溶融させて施工対象物に吹き付ける溶射法に用いる溶射材用粉末であり、
当該溶射材用粉末は、珪石の粒子又は珪砂の粒子40~80質量%と、金属粒子8~22質量%と、無機質の多孔質の粒子3~38質量%と、マグネシウムの酸化物を含む粒子とを含有し、
前記珪石の粒子又は珪砂の粒子は、シリカを90質量%以上含有し、
前記金属粒子は、金属Siを90質量%以上含むものであり、
前記多孔質の粒子は、JISR2205に準拠して求めた嵩比重が0.5~1.5であり、シリカの含量が50~85質量%であり、アルミナの含量が5~25質量%であり、カルシア、マグネシア、酸化鉄、酸化ナトリウム、及び酸化カリウムからなる群より選ばれる1種以上の無機化合物を含有するものである、溶射材用粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶射材用粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
コークス炉などの窯炉は、珪石煉瓦などの耐火物で構成されている。窯炉の炉壁は、操業時の温度変化によって亀裂が生じたり、窯炉に加熱対象物を出し入れする際の摩擦や外力によって摩耗したり破損することがある。
【0003】
窯炉を補修する際には、以下の特許文献1に示すように、溶射法が用いられる。この方法では、耐火性微粒子と金属粒子と結晶化促進剤との混合物を、酸素と共に高温の施工対象物に吹き付けて、金属粒子の酸化発熱反応により前記混合物を溶融させて施工対象物に溶着させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4493404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
硅石又は珪砂と、金属シリコンとを含有する溶射材用粉末では、溶射機を用いて溶射材用粉末を施工対象物に吹き続けると施工対象物に対して溶射体が盛り上がるように付着する。短い時間で大きな体積の溶射体を付着させることができれば、短い時間で施工を終わらせることが可能である。本明細書では、単位時間当たりにより大きな体積の溶射体が形成される場合を肉盛性がよいという。逆に、単位時間当たりに小さな体積の溶射体が形成される場合を肉盛性が悪いという。
【0006】
特許文献1のような硅石又は珪砂と、金属シリコンとを含有する溶射材用粉末では、肉盛性を改善し、これにより溶射の作業効率を改善する余地があった。本発明者らは、肉盛性を改善する試みとして、硅石の粒子又は珪砂の粒子と金属Siを主成分とする金属粒子とを含有する溶射材用粉末に対して、無機質の多孔質の粒子を配合して、溶射を行ったところ、配合する多孔質の粒子によっては、溶射材用粉末が溶射機中を搬送される過程で砕けて、溶射機から噴出する溶射材から多量の粉塵が発生し、それにより視認性が低下し、溶射作業の妨げになるという問題が生じることが明らかになった。また、各成分の配合量や配合する多孔質の粒子によっては、溶射材を施工対象物に吹き付けると、溶射材が施工対象物から弾き返されて落下し、ロス(リバウンドロス)が生じやすくなるという問題が明らかになった。また、溶射体の施工対象物に対する接着強度が低下するという問題が明らかになった。
【0007】
本発明は、シリカを主として含有する硅石の粒子又は珪砂の粒子と、無機質の多孔質の粒子と、金属Siを主成分とする金属粒子とを含有し、肉盛性能を向上させた溶射材用粉末であり、リバウンドロスと施工時における粉塵の発生量とを小さくし、施工対象物に対する接着強度の低下を抑えた溶射材用粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
珪石の粒子又は珪砂の粒子と金属粒子とを含有する混合物と、酸素とを混合し、金属粒子の酸化発熱反応により前記混合物を溶融させて施工対象物に吹き付ける溶射法に用いる溶射材用粉末であり、当該溶射材用粉末は、珪石の粒子又は珪砂の粒子40~80質量%と、金属粒子8~22質量%と、無機質の多孔質の粒子3~38質量%と、マグネシウムの酸化物を含む粒子とを含有し、前記珪石の粒子又は珪砂の粒子は、シリカを90質量%以上含有し、前記金属粒子は、金属Siを90質量%以上含むものであり、前記多孔質の粒子は、JISR2205に準拠して求めた嵩比重が0.5~1.5であり、シリカの含量が50~85質量%であり、アルミナの含量が5~25質量%であり、カルシア、マグネシア、酸化鉄、酸化ナトリウム、及び酸化カリウムからなる群より選ばれる1種以上の無機化合物を含有するものである、溶射材用粉末により、上記の課題を解決する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シリカを主として含有する硅石の粒子又は珪砂の粒子と、無機質の多孔質の粒子と、金属Siを主成分とする金属粒子とを含有し、肉盛性能を向上させた溶射材用粉末であり、リバウンドロスと施工時における粉塵の発生量とを小さくし、施工対象物に対する接着強度の低下を抑えた溶射材用粉末を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。以下に示す実施形態は、本発明の溶射材用粉末の限られた実施形態に過ぎず、本発明の技術的範囲は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。
【0011】
本実施形態の溶射材用粉末は、珪石の粒子又は珪砂の粒子と金属粒子とを含有する混合物と、酸素とを混合し、金属粒子の酸化発熱反応により前記混合物を溶融させて施工対象物に吹き付ける溶射法に用いる溶射材用粉末である。当該溶射材用粉末は、珪石の粒子又は珪砂の粒子40~80質量%と、金属粒子8~22質量%と、無機質の多孔質の粒子3~38質量%と、マグネシウムの酸化物を含む粒子とを含有する。前記珪石の粒子又は珪砂の粒子は、シリカを90質量%以上含有する。前記金属粒子は、金属Siを90質量%以上含むものである。
【0012】
前記多孔質の粒子は、JISR2205に準拠して求めた嵩比重が0.5~1.5であり、シリカの含量が50~85質量%であり、アルミナの含量が5~25質量%であり、カルシア、マグネシア、酸化鉄、酸化ナトリウム、及び酸化カリウムからなる群より選ばれる1種以上の無機化合物を含有するものである。前記多孔質の粒子は、シリカを50~75質量%含有するものであることがより好ましい。
【0013】
溶射材用粉末は、珪石の粒子又は珪砂の粒子を含有する。珪石の粒子又は珪砂の粒子は、例えば、鉱物として産出する珪石を破砕することにより得ることができるし、川砂のように粒径が小さい状態で産出する珪砂をそのまま使用してもよいし、川砂のように粒径が小さい状態で産出する珪砂を破砕して用いてもよい。また、例えば、珪石の粒子又は珪砂の粒子は、コークス炉や熱風炉などで使用されていた、使用済みの硅石煉瓦を破砕したものを使用してもよいし、使用前の硅石煉瓦を破砕したものを使用してもよい。硅石煉瓦は、公知の方法で使用したものであればよい。硅石煉瓦を破砕したものを硅石煉瓦屑と呼ぶ。珪石の破砕物、珪砂、又は珪砂の破砕物は、篩掛けにより分級してもよい。
【0014】
珪石の粒子又は珪砂の粒子としては、シリカを90質量%以上含有する、鉱物、又は公知の方法で製造された硅石煉瓦の破砕物を使用する。鉱物という場合には、産出した鉱物、すなわち、産出した硅石又は珪砂を、破砕したものが含まれるものとする。上記のシリカの含量の上限値は、特に限定されないが、例えば、99.9質量%以下にすることができる。シリカ以外の成分は、アルミナ(Al)などの無機化合物の不純物である。化学的組成は、JIS R2216に準拠して、蛍光X線分析より測定することができる。測定には、RigakuのZSX primusIIを使用する。
【0015】
珪石の粒子又は珪砂の粒子としては、主たる結晶相がクォーツであるものを使用することができる。例えば、硅石の粒子又は珪砂の粒子に含まれるシリカのうち、90質量%以上がクォーツであるものを使用することができる。珪砂の粒子又は珪砂の粒子に含まれるシリカのうち、95質量%以上がクォーツであることが好ましい。この場合のクォーツの上限値は、100質量%以下である。このような珪石の粒子又は珪砂の粒子としては、未焼成の硅石又は珪砂を使用することができる。
【0016】
珪石の粒子又は珪砂の粒子としては、主たる結晶相がトリジマイトであるものを使用することができる。例えば、硅石の粒子又は珪砂の粒子に含まれるシリカの内、50質量%以上がトリジマイトであるものを使用することができる。この場合のトリジマイトの上限値は、100質量%以下である。珪石の粒子又は珪砂の粒子は、クリストバライトを3質量%以上、かつ50質量%未満含有するものであってもよい。このような、珪石の粒子又は珪砂の粒子としては、特に未焼成の硅石煉瓦、又は焼成済みの硅石煉瓦を使用することができる。
【0017】
金属粒子は、金属Siを主成分とし、上述のように、金属粒子に含まれる金属Siが90質量%以上ものを使用する。金属粒子に含まれる金属Siの上限値は、不可避不純物を除けば、100質量%以下である。
【0018】
溶射材用粉末は、スピネル、マグネシア(MgO)などのマグネシウムの酸化物を含む粒子を含ませることで、溶射材の接着強度を向上させることが可能である。マグネシウムの酸化物を含む粒子の含量は、0.01~32質量%となるようにすることが好ましい、マグネシウムの酸化物を含む粒子の含量は、0.01~20質量%となるようにしてもよいし、0.01~12質量%となるようにしてもよい。
【0019】
珪石の粒子又は珪砂の粒子の粒径の範囲は、例えば、10~4000μm、50~3500μm、又は50~2000μmのものを使用することができる。珪石の粒子又は珪砂の粒子の全体の質量に占める、250~425μmの粒子の質量が、35~70質量%であるものを使用することが好ましい。なお、本明細書における粒径は、篩による分級による(以下、同様とする。)。
【0020】
金属粒子の粒径の範囲は、例えば、0.1~100μmのものを使用することができる。金属粒子の粒径の範囲は、例えば、0.1~75μmとしてもよい。金属粒子のモード径は、4~14μmであることが好ましい。モード径は、株式会社島津製作所のSALD2200で測定した値とする。
【0021】
また、マグネシウムの酸化物を含む粒子の粒径の範囲は、例えば、50~3500μm、又は50~2000μmにすることができる。マグネシウムの酸化物を含む粒子の全体の質量に占める、850~425μmの粒子の質量が、30~60質量%であるものを使用することが好ましい。
【0022】
上記の溶射材用粉末は、圧縮酸素を利用して溶射材用粉末を圧送し、酸素と溶射材用粉末とを混合して、炉熱を利用して溶射材用粉末に含まれる金属粒子と酸素とを酸化させる公知の溶射機を使用して、施工対象物に対して吹き付けることができる。施工対象物は、特に限定されるものではないが、例えば、コークス炉などの窯炉の炉壁、炉底、炉の天井などの構造物が挙げられる。
【0023】
溶射材用粉末においては、溶射材用粉末に含まれる珪石の粒子又は珪砂の粒子の割合は、40~80質量%とする。溶射材用粉末に含まれる珪石の粒子又は珪砂の粒子の割合は、45~78質量%としてもよいし、50~74質量%としてもよい。
【0024】
溶射材用粉末においては、金属粒子の含量は、8~22質量%とする。溶射材用粉末に含まれる金属粒子の含量は、14~22質量%とすることがより好ましい。
【0025】
溶射材用粉末は、耐火性の多孔質の粒子を含有する。耐火性の多孔質の粒子は、JISR2205に準拠して求めた嵩比重が0.5~1.5である特定の多孔質粒子を使用する。同嵩比重は、0.5~1.2であることがより好ましい。
【0026】
前記多孔質の粒子は、無機質の多孔質の粒子を使用する。前記多孔質の粒子としては、シリカの含量が50~85質量%であり、アルミナの含量が5~25質量%であり、カルシア、マグネシア、酸化鉄、酸化ナトリウム、及び酸化カリウムからなる群より選ばれる1種以上の無機化合物を含有するものを使用する。多孔質の粒子は、天然鉱物として産出するものを使用することが好ましい。多孔質の粒子は、粉砕、篩掛けして、粒度を調製して使用してもよい。
【0027】
無機質の多孔質の粒子に含まれるカルシアは、特に限定されないが、例えば、0~8質量%、又は0.4~6質量%である。無機質の多孔質の粒子に含まれるマグネシアは、特に限定されないが、例えば、0~3質量%、又は0.01~1.6質量%である。無機質の多孔質の粒子に含まれる酸化鉄は、特に限定されないが、例えば、0~8質量%、又は0.6~5質量%である。なお、酸化鉄には、FeO、Fe、又はFeが含まれる。無機質の多孔質の粒子に含まれる酸化ナトリウムは、特に限定されないが、例えば、0~8質量%、1~6質量%、又は3~6質量%である。無機質の多孔質の粒子に含まれる酸化カリウムは、特に限定されないが、例えば、0~8質量%、又は0.8~6質量%である。ただし、カルシア、マグネシア、酸化鉄、酸化ナトリウム、及び酸化カリウムのいずれもが0質量%である場合を除く。
【0028】
前記多孔質の粒子において、カルシア、マグネシア、酸化鉄、酸化ナトリウム、及び酸化カリウム、それぞれの含有量の合計値は、微量であり、シリカの含量に比して、少ないことが好ましく、5~18質量%であることが好ましい。
【0029】
前記多孔質の粒子の粒径は、特に限定されないが、例えば、10~4000μm、20~3500μm、又は20~2000μmのものを使用することができる。
【0030】
前記多孔質の粒子の全体の質量に占める、850~425μmの粒子の質量が、50~75質量%であるものを使用することが好ましい。
【0031】
溶射材用粉末は、前記多孔質の粒子を、3~38質量%含有する。溶射材用粉末は、前記多孔質の粒子を、12質量%以上含有することがより好ましく、15質量%以上含有することがさらに好ましい。
【0032】
上記の溶射材用粉末は、圧縮酸素を利用して溶射材用粉末を圧送し、酸素と溶射材用粉末とを混合して、炉熱を利用して溶射材用粉末に含まれる金属粒子と酸素とを酸化させる公知の溶射機を使用して、施工対象物に対して吹き付けることができる。施工対象物は、特に限定されるものではないが、例えば、コークス炉などの窯炉の炉壁、炉底、炉の天井などの構造物が挙げられる。
【0033】
詳細な機構は不明であるが、上記の溶射材用粉末によれば、肉盛性能を向上させた溶射材用粉末であり、リバウンドロスと施工時における粉塵の発生量とを小さくし、施工対象物に対する接着強度の低下を抑えた溶射材用粉末を得ることができる。
【0034】
上記の溶射材用粉末によれば、例えば、以下のような特性を有する溶射体を得ることができる。例えば、後述する方法で求めた肉盛性が505~850ccの溶射体を得ることができる。また、例えば、後述する方法で求めた気孔率が10%以上の溶射体を得ることができる。気孔率の上限値は特に限定されないが、例えば、45%以下である。また、例えば、後述する方法で求めた焼成による気孔率の変化が0.5~5%である溶射体を得ることができる。また、例えば、後述する方法で求めた剪断接着強度が1.8MPa以上、又は2.2MPa以上の高い溶射体を得ることができる。剪断接着強度の上限値は、特に限定されないが、例えば、3.0MPa以下、又は2.6MPa以下である。また、例えば、後述する方法で求めたリバウンドロスが49%以下の溶射体を得ることができる。リバウンドロスの下限値は、特に限定されるものではないが、例えば、40%以上である。
【実施例
【0035】
以下、溶射材用粉末の実施例を挙げる。以下に挙げる実施例は、溶射材用粉末の限られた例に過ぎず、本発明の技術的範囲は、例示した実施例に限定されるものではない。
【0036】
[実施例1]
表2に記載した鉱物組成を有しており、未焼成の珪砂を破砕して、その後、篩分けすることにより製造された珪砂1の粒子と、不可避不純物を除いたSiの含量が100質量%である金属粒子と、表3に示した化学的組成を有するスピネルの粒子と、表5に示した嵩比重と表4に示した化学的組成とを有する多孔質粒子1とを、以下の表1に記載の割合で混合して、実施例1に係る溶射材用粉末を得た。上記の珪砂は、シリカを95質量%以上含有し、残部がAlなどの無機化合物の不純物である。なお、多孔質粒子1は、多孔質の天然鉱物である。以下の多孔質粒子2ないし4も、同様に、天然鉱物である。
【0037】
多孔質骨材1の粒径の範囲は、45μm以上、かつ2500μm未満である。珪砂1の粒径の範囲は、75μm以上、かつ850μm未満である。金属粒子の粒径の範囲は、0.5μm以上、かつ50μm以下である。スピネルの粒子の粒径の範囲は、150μm以上、かつ1700μm未満である。なお、表1における空白のセルは、配合量又は含量がゼロであることを示す。他の表においても同様とする。
【0038】
[実施例2]
表1に記載のように、多孔質粒子1に替えて多孔質粒子2を使用した点以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係る溶射剤用粉末を得た。多孔質粒子2の化学的組成と嵩比重とを、表4及び表5に示す。多孔質骨材2の粒径の範囲は、45μm以上、かつ850μm未満である。
【0039】
[実施例3]
表1に記載のように、多孔質粒子1に替えて多孔質粒子3を使用した点以外は、実施例1と同様にして、実施例3に係る溶射剤用粉末を得た。多孔質粒子3の化学的組成と嵩比重とを、表4及び表5に示す。多孔質骨材3の粒径の範囲は、45μm以上、かつ850μm未満である。
【0040】
[実施例4]
表1に記載のように、配合割合を変更した点以外は、実施例1と同様にして、実施例4に係る溶射剤用粉末を得た。
【0041】
[実施例5]
72質量%の割合で配合された珪砂1を、72質量%の配合割合で硅石煉瓦屑に変更した点以外は、実施例4と同様にして、実施例5に係る溶射材用粉末を得た。珪石煉瓦屑は、コークス炉で使用されていた珪石煉瓦を破砕したものであり、粒径の範囲は、150μm以上、かつ850μm未満であり、表2に記載された鉱物組成を有しており、94質量%がシリカであり、残部がAlなどの無機化合物の不純物である。
【0042】
[比較例1]
表1に記載のように、配合割合を変更した点以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係る溶射剤用粉末を得た。
【0043】
[比較例2]
53質量%の割合で配合された珪砂1を、53質量%の配合割合で硅石煉瓦屑に変更した点以外は、実施例1と同様にして、比較例2に係る溶射材用粉末を得た。珪石煉瓦屑は、実施例5で使用したものと同様のものである。
【0044】
[比較例3]
表1に記載のように、配合割合を変更した点以外は、実施例1と同様にして、比較例3に係る溶射剤用粉末を得た。
【0045】
[比較例4]
25質量%の割合で配合された多孔質粒子1を、25質量%配合割合で多孔質粒子4に変更した点以外は、実施例1と同様にして、比較例4に係る溶射材用粉末を得た。多孔質粒子4の化学的組成と嵩比重とを、表4及び表5に示す。多孔質粒子4の粒径の範囲は、45μm以上、かつ1700μm未満である。
【0046】
[参考例1]
実施例5で使用したのと同様の硅石煉瓦屑と、実施例1で使用したのと同様の金属粒子とを以下の表1に記載の割合で混合して、参考例1に係る溶射材用粉末を得た。
【0047】
[参考例2]
実施例1で使用したのと同様の珪砂1と、実施例1で使用したのと同様の金属粒子(Si)とを以下の表1に記載の割合で混合して、参考例1に係る溶射材用粉末を得た。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
【表4】
【0052】
[鉱物組成]
表2に示した珪砂1、又は珪石煉瓦屑の鉱物組成は、JIS K0131に準拠して、X線回折による回折強度を測定した。表2の数値は、各結晶相の存在比率(質量%)を示す。また、表2に記載した結晶化度は以下により、算出した。
結晶化度=結晶に由来するX線回析強度の面積÷(結晶に由来する回析強度の面積+非結晶に由来する回析強度の面積)×100-100
【0053】
[原料の化学的組成と鉱物組成]
表3に示した示したスピネルの化学組成は、JIS R2216に準拠して、蛍光X線分析より測定した。測定は、RigakuのZSX primusIIを使用した。表4の多孔質粒子の化学的組成も同様の方法で測定した。
【0054】
[嵩比重]
JISR2205に準拠して、溶射材用粉末に使用した各多孔質粒子の嵩比重を求めた。結果を以下の表5に示す。
【0055】
【表5】
【0056】
[溶射体の物性評価]
次に、上記の各実施例と各比較例の溶射材用粉末を用いて、以下の条件で溶射を行い、形成された溶射体について、物性評価を実施した。
【0057】
溶射前の準備として、バーナー炉の中に耐火煉瓦を上下2段に重ねて配置し、バーナー炉内の温度が600℃、前記耐火煉瓦の表面温度が500℃になるまで加熱した。その後、公知の溶射機を用いてランスの先端から圧縮酸素と共に、上記の各実施例又は各比較例の溶射材用粉末を、前記加熱された耐火煉瓦の継ぎ目部分に対して吹き付けた。溶射の条件は次の通りである。溶射機が吐出する酸素の流量は28Nm/時間であり、溶射材用粉末の吐出量は、80kg/時間である。溶射機のランスの長さは2mであり、溶射用粉末をランスに供給するホースの長さは10mである。ランスの先端から吐出された溶射材用粉末に含まれる金属粒子は、炉熱によって、供給された酸素と反応して、酸化される。溶射材用粉末2.0kgを吹き切った後、溶射体が付着した耐火煉瓦を炉外に取り出して自然冷却し、溶射体の物性を評価した。
【0058】
評価した物性は、溶射体の肉盛性、溶射体の気孔率、溶射体を焼成した後の気孔率、焼成による気孔率の変化、剪断接着強度、及び溶射体のリバウンドロスである。また、溶射の作業中には、溶射材用粉末の反応性と粉塵の発生量とを評価した。各物性の評価法は、以下の通りである。
【0059】
[反応性]
溶射を行う際には、吹付用のランスを動かして、溶射材を吹き付ける場所を変えながら作業を行う。溶射材用粉末の質が悪いと、ランスを動かした際に、反応(反応光)がノズルの動きに追従しないことがある。反応がノズルの動きに追従しない場合は、未反応の溶射材用粉末が施工対象物に吹き付けられることになり、溶射体が形成されない。また、金属粒子の酸化反応によって生じる反応が脈動を起こすように明暗の変化を生じる。反応が脈動を起こすように変化すると、溶射材用粉末の溶け具合が不均一になる。この現象は、溶射材用粉末が、熱と供給された酸素とによって、酸化反応しやすいか否かに依存する。本明細書では、その反応のしやすさを反応性と呼ぶ。反応性を評価するために、バーナー炉内に設置した前記耐火煉瓦に対して吹付機のランスから溶射材を吹き付けて、反応がノズルの動きに対して適切に追従するか否か、反応に脈動が生じるか否かを、目視で確認した。評価は二重丸、丸、三角、バツの4段階で行い、先に記載したものほど反応性がよい。
【0060】
[肉盛性]
上述のJISR2205に準拠して求めた嵩比重と、上述の前記耐火煉瓦に付着した溶射体の質量(A)(g)から、次式により、肉盛性(cc)を求めた。
V=A÷C
ただし、Vは溶射材を2kg吹付けた際の肉盛性(cc)であり、Aは前記耐火煉瓦に付着した溶射体の質量(g)であり、Cは以下の方法で求めた嵩比重である。肉盛性とは、換言すると施工対象物に付着した溶射体の体積である。
【0061】
[気孔率、嵩比重]
溶射体が付着した前記各耐火煉瓦から溶射体のみをダイヤモンドカッターで切り出した。切り出した溶射体から並形煉瓦半切の大きさの試験片を2個切り出す。濡れた試験片を110℃に設定した乾燥機に入れて24時間乾燥させた。乾燥させた試験片を常温になるまで放置し、JISR2205の方法に準拠して気孔率と嵩比重を求めた。なお、質量計は、0.1g単位まで測定できるものを使用した。
【0062】
[焼成後の気孔率]
上記の方法により気孔率を測定した2個の試験片を、電気炉により1200℃で24時間にわたって焼成する。焼成後の試験片について、上記と同様のJISR2205に準拠した方法で焼成後の気孔率を求めた。
【0063】
[気孔率の変化]
上記で求めた焼成後の気孔率の値から、焼成前の気孔率の値を差し引いて求めた気孔率の差を、気孔率の変化(%)とする。
【0064】
[剪断接着強度]
次に、以下の方法により、上記の各実施例に係る溶射材用粉末を溶射して形成した溶射体と、上記の各比較例に係る溶射材用粉末を溶射して形成した溶射体とについて、剪断接着強度を求めた。
【0065】
ブロック状の珪石煉瓦を電気炉に入れて、600℃まで加熱する。前記珪石煉瓦1片に対して500gの溶射材用粉末を溶射する。溶射の条件は、上述と同様である。溶射時には、耐熱性の型枠で溶射材を吹き付ける領域以外の部分をマスキングし、縦50mm、かつ横65mmの方形の領域に溶射材用粉末を溶射する。溶射により前記領域には、厚み20mmの溶射体が形成される。溶射体が付着した溶射直後の珪石煉瓦を冷却することなく、600℃で3時間維持する。この溶射体が付着した珪石煉瓦を試験片とする。この温度管理された試験片を3℃/分の速度で1200℃まで昇温して、1200℃で24時間維持する。その後、1℃/分の速度で600℃まで徐冷して、600℃で3時間維持する。600℃の環境下において、溶射体が付着した珪石煉瓦の位置を固定し、厚み2cmの溶射体の側方から押し棒を当てて、溶射体の接着面を横方向にずれさせる方向に荷重を掛けて、溶射体が破断した時の荷重(N)を測定した。当該荷重を基に、次式により剪断接着強度(MPa)を求めた。押し棒による荷重速度は、68N/秒である。溶射体の接着面積は、上述の通り、50mm×65mmを平方メートルに換算した値である。
剪断接着強度(MPa)=破断時の荷重(N)÷溶射体の接着面積(m2)×10-6
【0066】
[リバウンドロス]
次式により、吹き付けた溶射材のうち前記耐火煉瓦に付着せずに喪失したものの割合、すなわちリバウンドロス(%)を求めた。
R=100-(A÷B×100)
ただし、Rはリバウンドロス(%)であり、Aは前記耐火物に対して付着した溶射体の質量(g)であり、Bは前記耐火煉瓦に対して吹き付けた溶射材用粉末の総量(g)である。具体的には、Bは2000gである。Aは、溶射体を吹き付けた後の前記耐火煉瓦の質量(g)から溶射体を吹き付ける前の前記耐火煉瓦の質量(g)を差し引くことにより求めた。
【0067】
上記の条件でバーナー炉内に設置した前記耐火煉瓦に対して吹付機のランスから溶射材を吹き付ける際に、吹付けた溶射材から発生する粉塵量を目視により観察した。表1において「少」と記載したものは粉塵の発生量が少なく、施工箇所の視認性が良好であったことを示す。表1において「普通」と記載したものは粉塵の発生があるものの、施工箇所を視認することが可能であり、溶射作業の支障にならない程度であったことを示す。表1において「多」と記載したものは粉塵の発生量が多く、施工箇所の視認性が悪化し、溶射作業の妨げとなる程度であったことを示す。
【0068】
各実施例、各比較例の溶射材用粉末ごとに評価した、溶射材用粉末の反応性、肉盛性、気孔率、焼成後の気孔率、剪断接着強度、溶射体のリバウンドロス、及び粉塵発生量を、表1に示す。なお、表1において、剪断接着強度について2.46≦と記載した個所は、測定装置の検出限界である2.46MPa以上の剪断接着強度を記録したことを示す。
【0069】
表1の記載から明らかなように、実施例1ないし実施例4の溶射材用粉末により形成された溶射体では、無機質の多孔質粒子を配合していない、中実な硅石の粒子又は中実な珪砂の粒子と金属粒子とのみからなる参考例2の溶射材用粉末により形成された溶射体に比して、肉盛性能が向上しており、効率的に溶射体を形成することができる。実施例1ないし実施例4の溶射材用粉末は、高い肉盛性能とそれによる施工時間の短縮が求められる用途に好適に使用することができる。しかも、実施例1ないし実施例4の溶射材用粉末により形成された溶射体では、リバウンドロスと粉塵の発生量とが小さく抑えられており、剪断接着強度の低下も抑えられていた。
【0070】
嵩比重が小さい無機質の多孔質粒子を配合した比較例4の溶射材用粉末により形成された溶射体では、溶射機中を搬送する過程で多孔質粒子が砕けて、溶射材用粉末を溶射時に粉塵が多量に発生して、溶射作業の妨げとなった。実施例1ないし4の溶射材用粉末では、溶射時に発生する粉塵は少なく、溶射作業を効率的に行うことができた。
【0071】
表1の記載から明らかなように、比較例1ないし比較例4に係る溶射材用粉末においては、剪断接着強度やリバウンドロスが悪化するものがある。実施例1ないし実施例4に係る溶射材用粉末においては、無機質の多孔質粒子を配合していない、中実な硅石の粒子又は中実な珪砂の粒子を含む参考例2の溶射材用粉末に比して、剪断接着強度の低下が抑えられ、リバウンドロスが低減されることがわかる。
【0072】
硅石煉瓦屑を使用した溶射材においても、上記と同様の効果が確認された。表1に示したように、実施例5の溶射材用粉末により形成された溶射体では、無機質の多孔質粒子を配合していない、中実な硅石の粒子又は中実な珪砂の粒子と金属粒子とのみからなる参考例1の溶射材用粉末により形成された溶射体に比して、肉盛性能が向上しており、効率的に溶射体を形成することができる。実施例5の溶射材用粉末は、高い肉盛性能とそれによる施工時間の短縮が求められる用途に好適に使用することができる。しかも、実施例5の溶射材用粉末により形成された溶射体では、リバウンドロスと粉塵の発生量とが小さく抑えられており、剪断接着強度の低下も抑えられていた。


【要約】
【課題】
シリカを主として含有する硅石の粒子又は珪砂の粒子と、無機質の多孔質の粒子と、金属Siを主成分とする金属粒子とを含有し、肉盛性能を向上させた溶射材用粉末であり、リバウンドロスと施工時における粉塵の発生量とを小さくし、施工対象物に対する接着強度の低下を抑えた溶射材用粉末を提供する。
【解決手段】
珪石の粒子又は珪砂の粒子と金属粒子とを含有する混合物と、酸素とを混合し、金属粒子の酸化発熱反応により前記混合物を溶融させて施工対象物に吹き付ける溶射法に用いる溶射材用粉末であり、当該溶射材用粉末は、珪石の粒子又は珪砂の粒子40~80質量%と、金属粒子8~22質量%と、無機質の多孔質の粒子3~38質量%と、マグネシウムの酸化物を含む粒子とを含有し、前記珪石の粒子又は珪砂の粒子は、シリカを90質量%以上含有し、前記金属粒子は、金属Siを90質量%以上含むものであり、前記多孔質の粒子は、JISR2205に準拠して求めた嵩比重が0.5~1.5であり、シリカの含量が50~85質量%であり、アルミナの含量が5~25質量%であり、カルシア、マグネシア、酸化鉄、酸化ナトリウム、及び酸化カリウムからなる群より選ばれる1種以上の無機化合物を含有する溶射材用粉末である。
【選択図】なし