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特許7173655切断刃及びそれを用いた医療用弁体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】切断刃及びそれを用いた医療用弁体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B26D 3/00 20060101AFI20221109BHJP
   B26D 1/06 20060101ALI20221109BHJP
   A61M 39/06 20060101ALN20221109BHJP
   F16K 15/14 20060101ALN20221109BHJP
【FI】
B26D3/00 603A
B26D1/06 Z
B26D3/00 601E
A61M39/06 122
F16K15/14 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018175371
(22)【出願日】2018-09-19
(65)【公開番号】P2020044613
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100144048
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 智弘
(72)【発明者】
【氏名】外所 厚史
(72)【発明者】
【氏名】島田 武久
【審査官】山本 裕太
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-096310(JP,A)
【文献】特開2000-317881(JP,A)
【文献】特開2011-217991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26D 3/00
B26D 1/06
A61M 39/06
F16K 15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性薄膜の一方の面に垂直方向から刺し入れ、前記弾性薄膜の他方の面まで貫通させて直線状のスリットを形成する切断刃であって、
基体部と刃先とからなり、
前記基体部が、前記スリットの長さ方向の端部であって、前記切断刃を刺し入れる方向に対して平行な2つの端部を有し、
前記2つの端部と前記弾性薄膜に刺し入れる側の端部とに刃先を有し、
前記刺し入れる側の端部に刃山を少なくとも1つ有する医療用弁体用切断刃。
【請求項2】
前記切断刃の厚さが、0.2mm以上0.4mm以下である請求項1記載の医療用弁体用切断刃。
【請求項3】
前記刺し入れる側の端部に、前記スリットの長さ方向に2つの刃山を有し、
前記2つの刃山の頂点が、それぞれ、前記基体部の前記2つの端部上に位置する請求項1又は2記載の医療用弁体用切断刃。
【請求項4】
弾性薄膜からなり、内側に凹部を有する逆円錐台形の弁本体部と、該弁本体部の開口端部から外側に突出するフランジ部とから構成され、前記凹部の底面に直線状のスリットを有する医療用弁体の製造方法であって、
ゴム組成物を加硫及び成形して前記弁本体部と前記フランジ部とを一体的に形成する第一の工程と、
請求項1から3いずれか1項記載の医療用弁体用切断刃を、前記凹部の開口から前記底面に向かって垂直方向に刺し入れ、前記底面に貫通させて前記スリットを形成する第二の工程と、
を備える医療用弁体の製造方法。
【請求項5】
前記凹部の底面が長方形であり、
前記第二の工程において、前記医療用弁体用切断刃と前記底面の長辺とが平行になるようにして前記医療用弁体用切断刃を刺し入れる請求項4記載の医療用弁体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切断刃及びそれを用いた医療用弁体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野において薬液投与や輸血等を行うためのカテーテルには、薬液の混注等を行うため三方活栓やY形コネクタが接続される。三方活栓やY形コネクタには、シリンジ等の雄コネクタを接続可能とするために医療用コネクタが設けられている。医療用コネクタは、接続口を常時液密にシールする一方、必要時に限って接続口を開いて薬液等を投与するため、弾性体にスリットが形成された医療用弁体を備えている。このような医療用弁体は、スリット内面が互いに密着するため、高い密閉性を有する。
【0003】
スリットが形成された医療用弁体として、例えば、特許文献1に、ディスク状の弾性体に十字のスリットが設けられたものが開示されている。特許文献1に記載の医療用弁体のスリットは、円筒体のまわりに弁素材を巻付け、円筒軸方向に対し直角に刃物で切り込みを入れて形成される。これにより、開口の軸方向の一方の端面と他方の端面で開口幅が異なるスリットが形成されて、密閉性が向上すること記載されている。
また、特許文献2には、ディスク状の弾性体に軸中心から三方向に分岐したスリットが設けられてなる弾性弁体が開示されている。特許文献2に記載の弾性弁体のスリットは、スリットと同じ形状の刃先を有するカッターを、弾性体に対し垂直方向から押し当てて貫通させることにより形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第2510887号公報
【文献】特表2014-046271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
医療用弁体のスリットは、スリットとシリンジとの間から液が漏れるのを防ぐため、スリット内面とシリンジとの間に隙間ができないような開口幅で形成されるため、シリンジをスリットに挿入する際に大きな挿入抵抗が生じる。さらに、スリットの切り口表面が粗いと、挿入抵抗が高くなり、シリンジの挿脱によりスリットが劣化しやすくなる。
上記特許文献では、刃先が、弁体のスリット形成面に対して平行なカッターを用いてスリットを形成しているため、刃を押し込んだ際に弾性体が湾曲変形し、切り口表面が粗くなる、又は、所望の寸法とは異なるスリットが形成されるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、弾性薄膜に高い寸法精度でスリットを形成することが可能な切断刃、及びその切断刃を用いた、寸法精度及び密閉性が高い医療用弁体を製造するための医療用弁体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の切断刃は、
弾性薄膜の一方の面に垂直方向から刺し入れ、弾性薄膜の他方の面まで貫通させて直線状のスリットを形成する切断刃であって、
基体部と刃先とからなり、
基体部が、切断刃を刺し入れる方向に対して平行な2つの端部を有し、
2つの端部と弾性薄膜に刺し入れる側の端部とに刃先を有し、
刺し入れる側の端部に刃山を少なくとも1つ有するものである。
【0008】
切断刃の厚さは、0.2mm以上0.4mm以下であることが好ましい。
【0009】
本発明の切断刃は、刺し入れる側の端部に2つの刃山を有し、
2つの刃山の頂点は、それぞれ、基体部の2つの端部上に位置するものであってもよい。
【0010】
本発明の医療用弁体の製造方法は、弾性薄膜からなり、内側に凹部を有する逆円錐台形の弁本体部と、弁本体部の開口端部から外側に突出するフランジ部とから構成され、凹部の底面に直線状のスリットを有する医療用弁体の製造方法であって、
ゴム組成物を加硫及び成形して弁本体部とフランジ部とを一体的に形成する第一の工程と、
本発明の切断刃を、凹部の開口から底面に向かって垂直方向に刺し入れ、底面に貫通させてスリットを形成する第二の工程と、
を備える。
【0011】
凹部の底面は長方形であり、
第二の工程において、切断刃と底面の長辺とが平行になるようにして切断刃を刺し入れることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の切断刃によれば、弾性薄膜に高い寸法精度でスリットを形成することが可能である。
また、本発明の医療用弁体の製造方法によれば、本発明の切断刃を用いているため、寸法精度及び密閉性が高い医療用弁体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の切断刃の一実施形態を用いて弾性薄膜にスリットを形成する工程を示す側面図である。
図2】本発明の切断刃の一実施形態の側面図である。
図3】本発明の切断刃の他の実施形態と弾性薄膜とを示す正面図である。
図4】医療用弁体の一実施形態であって、スリットを形成する前の斜視図である。
図5】医療用弁体の一実施形態であって、スリットを形成する前の平面図である。
図6図5おけるA-A断面図である。
図7図5おけるB-B断面図である。
図8】本発明の医療用弁体の製造方法を示す断面図である。
図9】本発明の医療用弁体の製造方法によって製造された医療用弁体の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、以下の実施形態は例示の目的で提示するものであり、本発明は、以下に示す実施形態に何ら限定されるものではない。
【0015】
[切断刃]
まず、本発明の切断刃について説明する。図1に、本発明の切断刃の一実施形態を用いて弾性薄膜にスリットを形成する工程を示す。図2に、本発明の切断刃の一実施形態の側面図を示す。
図1に示すように、本実施形態の切断刃10は、弾性薄膜20の一方の面21aに垂直方向(図中Z)から刺し入れ、弾性薄膜20の他方の面21bまで貫通させて直線状のスリット22を形成するものである。
本実施形態の切断刃10は、基体部11と刃先とからなり、基体部11は、切断刃10を刺し入れる方向Zに対して平行な2つの端部12及び13を有する。そして、2つの端部12及び13と、弾性薄膜20に刺し入れる側の端部14とに、それぞれ刃先12a、13a、及び14aを有し、刺し入れる側の端部14に刃山15を1つ有する。
端部14の刃先14a、2つの端部12及び13の刃先12a及び13aが、順次、弾性薄膜20に挿入されることによって(図1(b)参照)、直線状のスリット22が形成される(図1(c)参照)。
【0016】
本実施形態の切断刃10は、刃山15を有することによって、刃山15の頂点15tが最初に弾性薄膜20と接し、次に、刃先14a、刃先12a及び13aが順次、弾性薄膜20に刺し入れられるので、従来の刺し入れる側の端部が弾性薄膜の表面と平行な刃先を有する切断刃に比べて、弾性薄膜20が湾曲変形する領域を少なくすることができる。また、切断刃10が、刺し入れる方向Zに平行な端部12及び13に刃先12a及び13aを有していることにより、所望の寸法通りにスリット22を形成することができる。さらには、スリット22の長さ方向の端22a(図1(c)参照)を滑らかに直線状に形成することができる。切り口の表面が粗いと、シリンジの挿脱によって、その箇所から破断等して劣化が進みやすいが、切り口が滑らかで直線状であることによって、破断しにくく、かつスリットにシリンジを挿入しない場合の密閉性も高めることができる。
【0017】
刃先12a、13a、及び14aの幅d(図1(a)参照)は、0.2mm以上1.5mm以下が好ましい。
また、切断刃10の長さL図1(a)参照)は、一般に医療分野で使用されている、スリットに挿入するシリンジ等の外径が4mm以上10mm以下であることを考慮すれば、4.5mm以上6.0mm以下であることが好ましい。
【0018】
図2に示すように、切断刃10の厚さtは、0.2mm以上0.4mm以下であることが好ましい。例えば、医療用弁体等の弾性薄膜にスリットを形成する場合、スリットにシリンジを挿入しない場合には、薬液等が逆流しないようにしっかり閉じている必要があるが、シリンジを挿入する場合は、スリットに通しやすく、かつ、シリンジとの隙間から薬液等が漏れないようにする必要がある。このような観点から、切断刃10の厚さtは、上記範囲とすることが好ましい。
【0019】
次に、本発明の切断刃の他の実施形態について説明する。図3に、その切断刃及び弾性薄膜の正面図を示す。本実施形態の切断刃30は、刺し入れる側の端部34に刃山を2つ有するものである。
図3に示すように、本実施形態の切断刃30は、基体部31と刃先とからなり、切断刃30を刺し入れる方向Zに対して平行な2つの端部32及び33と、弾性薄膜20に刺し入れる側の端部34とに、それぞれ刃先32a、33a及び34aを有し、刺し入れる側の端部34に2つの刃山35及び36を有する。刃山35及び36の頂点35t及び36tは、それぞれ、基体部31の2つの端部32及び33上に位置する。
【0020】
刃山35及び36の頂点35t及び36tが、基体部31の端部32及び33上に位置することによって、切断刃30を刺し入れる際、まず、頂点35t及び36tが弾性薄膜20に接するので、この2点で弾性薄膜20を固定することができる。そして、切断刃30は、切断刃30を刺し入れる方向Zに対して平行な2つの端部32及び33に刃先32a及び33aを有しているため、スリット22の長さを、刺し入れる側の端部34の長さLと同じにすることができ、高い寸法精度でスリット22を形成することができる。さらには、刃先32a及び33aによって、スリット22の長さ方向の端22aの切り口を滑らかに直線状にすることができる。
スリット22の長さは、一般に医療分野で使用されているシリンジ等の外径が4mm以上10mm以下であることを考慮すれば、4.5mm以上6.0mm以下であることが好ましい。
【0021】
上記2つの実施形態では、刺し入れる側の端部14及び34に、刃山をそれぞれ1つ及び2つ有する場合について説明したが、3つ以上であってもよい。刃山を2つ以上有する場合は、スリット22の長さ方向の端22aの切り口を滑らかにし、かつ寸法精度を高くするという観点から、刃山の頂点が、刺し入れる方向Zに平行な端部上に位置することが好ましい。
【0022】
[医療用弁体の製造方法]
次に、医療用弁体の製造方法について説明する。図4に、医療用弁体の一実施形態であって、スリットを形成する前の斜視図を示し、図5に平面図を示す。図6に、図5におけるA-A断面図を示し、図7に、図5におけるB-B断面図を示す。
本発明の医療用弁体の製造方法によって製造される、スリットを形成する前の医療用弁体40は、図4に示すように、内側に凹部41を有する逆円錐台形の弁本体部42と、弁本体部42の開口端部42c(図6参照)から外側に突出するフランジ部43とから構成される。
図6及び図7に示すように、凹部41の底面44は、長さL、幅W、厚さtを有する長方形の薄膜である。一般に医療分野で使用されている、スリットに挿入するシリンジ等の外径が4mm以上10mm以下であることを考慮すれば、底面の長さLは、5mm以上12mm以下であることが好ましく、底面44の幅Wは、0.3mm以上1.0mm以下であることが好ましい。
底面44の厚さtは、シリンジの挿脱時の抵抗に耐え、破断しにくい厚さであることを考慮すると、0.5mm以上1.5mm以下であることが好ましく、0.8mm以上1.2mm以下であることがより好ましい。
【0023】
弁本体部42は4つの側面を有し、向かい合う2つの側面42aは、図4及び図7に示すように、逆円錐台形の湾曲した側面が切り落とされたような平面状であり、他の向かい合う2つの側面42bは、図4及び図5に示すように、逆円錐台形の湾曲した形状を有する。
【0024】
次に、本発明の医療用弁体の製造方法について説明する。図8は、本発明の医療用弁体の製造方法を示す断面図である。図9は、本発明の医療用弁体の製造方法によって製造された医療用弁体の平面図である。
(第一の工程)
ゴム組成物を加硫及び成形して弁本体部42とフランジ部43とを一体的に形成する。
ゴム組成物のゴム成分としては、シリコーンゴムが好ましい。シリコーンゴムのJIS A硬度は、30以上70以下が好ましく、40以上60以下がより好ましい。また、シリコーンゴムの破断時の伸びは、300%以上700%以下であることが好ましい。
【0025】
(第二の工程)
図8(a)に示すように、第一の工程で作製した、スリットが形成されていない医療用弁体40を台座50に凹部41を上にしてセットする。スリットが形成されていない医療用弁体40の上方に、切断刃10を配置して、切断刃10と底面44の長辺44aとが平行になるように調整する。切断刃10の長さL図1参照)は、底面44の長方形の長辺44a(図5参照)の長さL図6参照)と同じである。
次に、図8(b)に示すように、凹部41の開口から底面44に向かって垂直方向(Z方向)に刺し入れ、底面44に貫通させてスリット45を形成する。
最後に、図8(c)に示すように、切断刃10を医療用弁体40の底面44から抜き取ることにより、図9に示すように、スリット45が底面44の中央に形成される。
【0026】
本実施形態では、台座50は、スリットが形成されていない医療用弁体40をセットしたとき、底面44の下部に空隙51を有するように形成されている。台座50が金属の場合は、切断刃10の刃山15が台座50に衝突しないように、空隙51を設けることが好ましい。
また、台座50は弾性体であってもよい。弾性体の場合には、空隙51を設ける必要がなく、医療用弁体40の底面44が台座50に当接されていてよい。この場合、切断刃10の刃山15を台座50内部まで挿入することができる。医療用弁体40の底面44が台座50に当接されていることにより、医療用弁体40の湾曲変形を小さくすることができ、寸法精度を高くすることができる。
【符号の説明】
【0027】
10、30 切断刃
11、31 基体部
12、13、14、32、33、34 端部
12a、13a、14a、32a、33a、34a 刃先
15、35、36 刃山
15t、35t、36t 頂点
20 弾性薄膜
21a 一方の面
21b 他方の面
22 スリット
22a 端
40 医療用弁体
41 凹部
42 弁本体部
42a、42b 側面
42c 開口端部
43 フランジ部
44 底面
44a 長辺
45 スリット
50 台座
51 空隙
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9