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特許7173665ロータを使用して空気力学上で一般的な剛体翼として疑似的に機能する垂直離着陸航空機
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】ロータを使用して空気力学上で一般的な剛体翼として疑似的に機能する垂直離着陸航空機
(51)【国際特許分類】
   B64C 27/08 20060101AFI20221109BHJP
   B64C 3/38 20060101ALI20221109BHJP
   B64D 27/24 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
B64C27/08
B64C3/38
B64D27/24
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019523033
(86)(22)【出願日】2017-11-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-14
(86)【国際出願番号】 US2017059809
(87)【国際公開番号】W WO2018151777
(87)【国際公開日】2018-08-23
【審査請求日】2020-11-02
(31)【優先権主張番号】62/416,168
(32)【優先日】2016-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520339482
【氏名又は名称】ジョビー エアロ インク
【氏名又は名称原語表記】JOBY AERO, INC.
【住所又は居所原語表記】340 Woodpecker Ridge Santa Cruz,CA,U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100069615
【弁理士】
【氏名又は名称】金倉 喬二
(72)【発明者】
【氏名】ジョーベン ビバート
(72)【発明者】
【氏名】アレックス ストール
(72)【発明者】
【氏名】ミキッチ グレゴール ベブル
【審査官】藤井 浩介
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0031355(US,A1)
【文献】特公昭38-016375(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2012/0091257(US,A1)
【文献】米国特許第05374010(US,A)
【文献】米国特許第07410122(US,B2)
【文献】特開2005-280412(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0215746(US,A1)
【文献】米国特許第05899410(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 3/38;27/08
B64D 27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータを使用して空気力学上で一般的な剛体翼として疑似的に機能する、垂直離陸及び水平飛行に適合した空中乗物であって、
前記空中乗物は、
乗物本体と、
右側合成翼であって、前記右側合成翼は、
第1の翼幅方向に沿う前方に傾斜した構成の複数の右側翼ロータであって、各々の前記右側翼ロータのスピン軸は前方に傾斜している、複数の右側翼ロータと、
前方に傾斜した右側後縁翼であって、前記右側後縁翼は、前記乗物本体において第1端部を有し、且つ、複数の前記右側翼ロータの後方で、前記第1の翼幅方向に沿って翼端に近いほうに延びる、右側後縁翼と、
を備える右側合成翼と、
左側合成翼であって、前記左側合成翼は、
第2の翼幅方向に沿う前方に傾斜した構成の複数の左側翼ロータであって、各々の前記左側翼ロータのスピン軸は前方に傾斜している、複数の左側翼ロータと、
前方に傾斜した左側後縁翼であって、前記左側後縁翼は、前記乗物本体において第1の端部を有し、且つ、複数の前記左側翼ロータの後方で、前記第2の翼幅方向に沿って翼端に近いほうに延びる、左側後縁翼と、
を備える、左側合成翼と、
を備え、
前記右側翼ロータの傾斜角度及び前記左側翼ロータの傾斜角度は、調整可能でない、空中乗物。
【請求項2】
請求項1に記載の空中乗物であって、
前記右側翼ロータのスピン軸は、8~12度の範囲にある角度で前方に傾斜しており、且つ、前記左側翼ロータのスピン軸は、8~12度の範囲にある角度で前方に傾斜している、空中乗物。
【請求項3】
請求項1に記載の空中乗物であって、
前記右側翼ロータのスピン軸は、5~15度の範囲にある角度で前方に傾斜しており、且つ、前記左側翼ロータのスピン軸は、5~15度の範囲にある角度で前方に傾斜している、空中乗物。
【請求項4】
請求項3に記載の空中乗物であって、
前記右側翼ロータの傾斜角度及び前記左側翼ロータの傾斜角度は、調整可能でない、空中乗物。
【請求項5】
請求項1に記載の空中乗物であって、
前記右側翼ロータのスピン軸は、5~20度の範囲にある角度で前方に傾斜しており、且つ、前記左側翼ロータのスピン軸は、5~20度の範囲にある角度で前方に傾斜している、空中乗物。
【請求項6】
請求項2に記載の空中乗物であって、
前記空中乗物は、制御可能な操縦面を有さない、空中乗物。
【請求項7】
請求項3に記載の空中乗物であって、
前記空中乗物は、制御可能な操縦面を有さない、空中乗物。
【請求項8】
請求項4に記載の空中乗物であって、
前記空中乗物は、制御可能な操縦面を有さない、空中乗物。
【請求項9】
請求項1に記載の空中乗物であって、
各翼ロータは、複数の羽根及び電気モータを有し、前記電気モータは、前記ロータのスピン軸に対して中心に取り付けられ、且つ、前記スピン軸に対して前記羽根の内側の端部は、前記電気モータの外側にある、空中乗物。
【請求項10】
請求項2に記載の空中乗物であって、
各翼ロータは、複数の羽根及び電気モータを有し、前記電気モータは、前記ロータのスピン軸に対して中心に取り付けられ、且つ、前記スピン軸に対して前記羽根の内側の端部は、前記電気モータの外側にある、空中乗物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
この出願は、Mikic等によって2017年11月2日に出願された米国仮特許出願第62/416,168号に対する優先権を主張し、これによって米国仮特許出願第62/416,168号は、その全体が参照によって組み入れられる。
【0002】
この発明は、空中乗物に関し、ロータを使用して空気力学上で一般的な剛体翼として疑似的に機能する空中乗物に関する。
【発明の概要】
【0003】
垂直離着陸航空機は、垂直離着陸(VTOL)動作及び前進飛行動作の両方に対して、固定ロータを使用する。ロータは、合成翼を形成し、且つ、高い翼幅効率を達成するように配置される。ロータは、合成翼の翼幅にわたって、揚力を均一にするように配置される。合成翼はまた、狭い前部翼型及び後部翼型を有してもよく、これらは、前進飛行中に揚力を提供すると同時に、構造的な支持体を提供してもよい。翼ロータは、前方に傾斜しており、且つ、水平飛行中は、いくらかの前進推進力を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1A】本発明の幾つかの実施形態による、積み重ねられた逆回転するプロペラを使用する合成翼を備えた空中乗物の陰影付きレンダリングである。
図1B】本発明の幾つかの実施形態による、積み重ねられた逆回転するプロペラを使用する合成翼を備えた空中乗物の陰影付きレンダリングである。
図1C】本発明の幾つかの実施形態による、積み重ねられた逆回転するプロペラを使用する合成翼を備えた空中乗物の陰影付きレンダリングである。
図1D】本発明の幾つかの実施形態による、積み重ねられた逆回転するプロペラを使用する合成翼を備えた空中乗物の陰影付きレンダリングである。
図2A】本発明の幾つかの実施形態による、積み重ねられた逆回転するプロペラを使用する合成翼を備えた空中乗物の図面である。
図2B】本発明の幾つかの実施形態による、積み重ねられた逆回転するプロペラを使用する合成翼を備えた空中乗物の図面である。
図2C】本発明の幾つかの実施形態による、積み重ねられた逆回転するプロペラを使用する合成翼を備えた空中乗物の図面である。
図2D】本発明の幾つかの実施形態による、積み重ねられた逆回転するプロペラを使用する合成翼を備えた空中乗物の図面である。
図3】本発明の幾つかの実施形態による、前進飛行における空中乗物の解決策を示す図である。
図4A】本発明の幾つかの実施形態による、合成翼を備えた空中乗物の陰影付きレンダリングである。
図4B】本発明の幾つかの実施形態による、合成翼を備えた空中乗物の陰影付きレンダリングである。
図5A】本発明の幾つかの実施形態による、合成翼を備えた空中乗物の図面である。
図5B】本発明の幾つかの実施形態による、合成翼を備えた空中乗物の図面である。
図5C】本発明の幾つかの実施形態による、合成翼を備えた空中乗物の図面である。
図6A】様々なパラメータ値に対する揚力-抗力曲線である。
図6B】様々なパラメータ値に対する揚力-抗力曲線である。
図6C】様々なパラメータ値に対する揚力-抗力曲線である。
図6D】様々なパラメータ値に対する揚力-抗力曲線である。
図6E】様々なパラメータ値に対する揚力-抗力曲線である。
図6F】様々なパラメータ値に対する揚力-抗力曲線である。
図6G】様々なパラメータ値に対する揚力-抗力曲線である。
図7】本発明の幾つかの実施形態による、長手方向に互い違いに配置されたロータを使用する合成翼を備えた空中乗物の図である。
図8】本発明の幾つかの実施形態による、垂直方向に互い違いに配置されたロータを使用する合成翼を備えた空中乗物の図である。
図9A】異なる乗物構成に対する揚力の均一性を示す略図である。
図9B】異なる乗物構成に対する揚力の均一性を示す略図である。
図9C】異なる乗物構成に対する揚力の均一性を示す略図である。
図9D】異なる乗物構成に対する揚力の均一性を示す略図である。
図9E】異なる乗物構成に対する揚力の均一性を示す略図である。
図10A】本発明の幾つかの実施形態によるロータの図である。
図10B】本発明の幾つかの実施形態によるロータの図である。
図11A】本発明の幾つかの実施形態による空中乗物の図である。
図11B】本発明の幾つかの実施形態による空中乗物の図である。
図11C】本発明の幾つかの実施形態による空中乗物の図である。
【発明を実施するための形態】
【0005】
本発明の幾つかの実施形態において、空中乗物は、合成翼又は疑似翼として機能するように構成されたロータの配列を有する。ロータは、ロータ配列の揚力が、疑似翼の翼幅に沿って比較的に均一な揚力を有するように、空中乗物本体に対して、及び互いに対して配置される。合成翼は、(比較的に)均一な揚力、及び比較的に均一な後部垂直速度(洗流)を生み出す。発生する渦巻き運動は、伝統的な翼型の翼と同様、翼先端に集中する。
【0006】
幾つかの実施形態において、ロータは、空中乗物本体に結合された構造体にしっかりと取り付けられる。ロータは、空中乗物の長手軸に沿って互い違いに配置してもよく、それによって、長手軸に沿う差動推力は、ロータからの前進推力成分を提供するために、乗物の前方へのピッチングを可能にする。ピッチング制御はまた、昇降舵制御のような、他の手段を使用して達成してもよい。幾つかの実施形態において、ロータは、幾つかの明瞭に表現できる態様を有してもよい。
【0007】
幾つかの実施形態において、合成翼を構成するロータ配列は、ロータの前方に、短翼弦の前方翼を有してもよい。空中乗物は、離陸の間、垂直推力のためのロータを使用するので、空中乗物は、離陸動作の間、伝統的な翼からの有意な揚力を必要としない。短翼弦長の前方翼は、より速い対気速度での動作の間、前進飛行中の揚力を可能にする。空中乗物はまた、ロータの後方に、短い後方翼を有してもよい。短翼弦長を備えた後方翼は、より速い速度での前進飛行動作の間、揚力を提供してもよい。後方翼はまた、疑似翼の洗流を更に均一にしてもよい。前方翼及び後方翼は、ロータを支持する支柱を支持する構造要素として、使用してもよい。前方翼及び後方翼は、翼端に近いほうの端部で合体してもよく、このことは、強度及び安定性の増加を可能にするであろう。加えて、ロータの配列の外側付近の(水平面内の)適所に設置される前方翼及び後方翼は、ロータの回転する羽根の周りの遮蔽体として、ユーザ及び地上人員のための安全要素を提供する。
【0008】
幾つかの実施形態において、後縁翼だけが存在してもよい。幾つかの実施形態において、前縁翼だけが存在してもよい。幾つかの実施形態において、前縁翼及び後縁翼の両方が存在してもよい。
【0009】
幾つかの実施形態において、前進推力を提供するために、1つ以上のロータが使用される。幾つかの態様において、単一の推進型ロータは、空中乗物の後部で使用してもよい。幾つかの実施形態において、翼ロータの回転軸は、垂直に対して傾斜していてもよい。幾つかの実施形態において、翼ロータは、前方に傾斜していてもよい。前方に傾斜した翼ロータは、前進飛行中に、空中乗物の前進推力に寄与する。幾つかの実施形態において、前進飛行中の前進推力の合計は、前方に傾斜した翼ロータと、空中乗物のロール軸に平行なスピン軸を備えた1つ以上の伝統的なロータとの組み合わせから引き出される。
【0010】
空中乗物は、揚力が、翼と前進飛行における翼ロータとの両方によって提供されるように構築すると共に、前進推進力が、尾部プロペラと前方に傾斜した翼ロータとによって提供されるように構築してもよい。
【0011】
前進飛行中の航空機の効率(揚力/抗力比)は、他の航空機パラメータをバランスさせながら、実現可能な限り高くなるように探求してもよい。例えば、前進飛行中の航空機の速度に対する、前進飛行中の回転する翼ロータの先端速度の比は、効率を求めて設計する際に考慮するべき重要な比である。また、(翼と翼ロータを加えた)全揚力に対する、翼ロータによって提供される揚力の百分率は、効率を求めて設計する際に考慮するべき重要な比である。また、翼ロータ間の動力分布と、翼ロータ及び伝統的な前進推力プロペラ(例えば、尾部ロータ)の両方に伝えられる全動力の比は、効率を求めて設計する際に考慮するべき重要な比である。これらの比の間の関係は、複雑であってもよく、且つ、明白な最適化には役立たない。基礎となる設計パラメータは、翼ロータが、航空機を安全に離着陸させるのに十分な、垂直離着陸の間の垂直推力を提供する、というものである。
【0012】
本発明の実施形態による空中乗物は、翼ロータを使用する垂直離着陸に適合している。離陸のためには、翼ロータは、自身のホバリング毎分回転数の範囲にある速度まで回転を上げる。翼ロータが、自身のスピン軸を、空中乗物の水平軸に対して前方に傾斜させた実施形態では、空中乗物は、翼ロータの平面が水平であるように、離着陸の間、機首を上げるであろう。離陸後、翼ロータがまだ動力を受けている間に、空中乗物は、尾部ロータのような、前方に押し進める(又は前方に引っ張る)プロペラを回転させてもよい。空中乗物は前進速度を得るので、前縁翼及び後縁翼によって揚力が生成され、且つ、翼ロータによって提供される揚力の割合が減少する。航空機がその巡航速度に近づくにつれて、翼ロータは、通常、その毎分回転数を減少させるが、しかし翼ロータは、動力を受けたままであり、且つ、空中乗物の全揚力の一部を提供する。
【0013】
本発明の実施形態による空中乗物は、個々のロータの速度を操作することによって、且つ、任意の更なる操縦面に対する必要性も無しに、必要な全ての操縦及び姿勢調整を含めて、ホバリング、離陸、着陸、及び前進飛行に従事することが可能であろう。幾つかの実施形態において、空中乗物は、補助翼、若しくは昇降舵、又は任意の他の制御可能な操縦面を有さないであろう。幾つかの実施形態において、各翼に対する翼ロータは、直線に沿って、又は曲線に沿って配列され、各ロータは、航空機本体から更に外に出ている。翼ロータはまた、ロータが航空機のロール軸に沿った異なる測点に存在するように、前方又は後方に後退した構成であってもよい。ロール軸に沿った異なる測点あることによって、翼ロータは、その場合、ピッチ軸の周りの制御を提供することが可能である。航空機本体から更に外に出た距離に間隔をとることによって、翼ロータは、ロール軸の周りの制御を提供することが可能である。
【0014】
幾つかの実施形態において、図1Aから図1Dの陰影付きレンダリング、及び図2Aから図2Dの線図に見られるように、空中乗物100は、積み重ねられた逆回転するプロペラを使用する右合成翼102及び左合成翼103に結合された本体101を有する。この典型的な実施形態において、短翼弦の前縁翼107及び短翼弦の後縁翼108によって、複数のロータ組立体104が、翼幅長に沿って設置される。ロータ組立体104は、前縁翼107及び後縁翼108に結合された翼幅支持体109上に取り付けられる。翼先端部分110は、前縁翼107を後縁翼108に合体させる。
【0015】
ロータ組立体104は、第1プロペラ105及び第2プロペラ106を有してもよい。幾つかの態様において、第1プロペラ105及び第2プロペラ106は、反対方向に回転する。そのような構成において、一方のプロペラの前縁は、ロータのスピン軸の翼端に近い側で前に進み、且つ、他方のプロペラの前縁は、プロペラのスピン軸の航空機本体に近い側で前に進む。前進飛行モードでは、プロペラ羽根は、一般的な対気速度の風に対して後退する時よりも、一般的な対気速度の風の中に進入する時に、高い推力を有するであろう。逆回転する同軸プロペラによって、下向きの推力は、ロータ軸の航空機本体に近いほうで、及びロータ軸の翼端に近いほうで均一化される。
【0016】
典型的な実施形態において、空中乗物は、一人の乗客を収容すると共に、315kgの質量を離陸させてもよい。翼の翼幅は6mであってもよく、且つ、乗物の長さは3.5m、高さは1.5mであってもよい。疑似翼は、各々が4つの同軸ロータ組立体であってもよく、各々は、一対の逆回転するプロペラを備える。各プロペラは3つの羽根を有し、その場合の羽根翼弦は、75%半径で0.05mである。空中乗物は、0.5m平均の翼弦を備えた短翼弦の前部翼、及び0.75m平均の翼弦を備えた短翼弦の後部翼を有する。理想化された巡航速度は100ノットであり、その場合の最高巡航速度は150ノットである。理想的な巡航での電力消費は20kWであり、且つ、ホバリングモードでの電力消費は80kWである。バッテリ質量は50kgであり、且つ、乗物の航続距離は50マイルである。
【0017】
合成翼の態様は、ロータが、合成翼の翼幅に沿って比較的に均一な推力を提供するように構成される、というものである。1つのアプローチは、上で議論したように、ロータ組立体上の逆回転するプロペラが、疑似翼の翼幅に沿って、互いに対して隣接して配置される、というものである。同軸の逆回転するプロペラを使用しない別のアプローチは、重なり合う、後退する羽根面積及び前進する羽根面積を有するプロペラを有する、というものである。例えば、ロータは、翼端に近い側で前進する羽根、航空機本体に近い側で後退する羽根を用いて配置してもよい。このロータからちょっと航空機本体に近いほうに、翼端に近い側で前進する羽根を備えた別のロータが存在してもよい。ロータは、この重なりを許容するべく、垂直方向に一定の間隔で配置してもよい。幾つかの態様において、ロータは、この重なりを許容するべく、長手軸に沿って一定の間隔で配置してもよい。
【0018】
図3は、合成翼の機能的な態様を示し、ここで該合成翼は、典型的な実施形態として、乗物本体の両側に3つの逆回転するロータ組立体を備えた空中乗物を使用している。図の左側は、翼の後の垂直速度を示し、そして図の右側は、渦巻き運動の大きさを表す。合成翼の設計の目標は、合成翼の翼幅にわたる揚力の変動を減少させることである。翼の翼幅に沿った揚力の変動の減少は、翼の後の垂直速度をモデル化することによって、明らかになるかもしれない。図の左側は、翼幅に沿った垂直速度の比較的安定な量を示すが、このことは、3つの逆回転するロータ組立体を使用した合成翼が、空気力学的な意味において、中空でない翼型形状を使用して構築された一般的な翼として、機能することを実証している。
【0019】
図の右側は、翼の翼幅に沿った、及び翼先端における、渦巻き運動の大きさを示す。翼幅に沿った垂直速度の均一性は、上で議論したように、第一近似として、渦巻き運動の大きさの同一基準の均一性を示すはずである。合成翼の中に配列されたロータを使用する場合、翼幅に沿って高い渦巻き運動の個所を導入することは、本当に起こり得ることである。ロータの位置は、翼幅に沿って発生する渦巻き運動の大きさを最小化するのに、非常に重要である。
【0020】
図3に見られる結果は、モデル化された合成翼についての出力を表してはいるが、時間における羽根位置の変動に関連する出力には、ある程度の時間に依存する変動があることが理解される。
【0021】
幾つかの実施形態において、図4Aから図4Bの陰影付きレンダリング、及び図5Aから図5Cの線図において見られるように、空中乗物200は、翼に取り付けられたロータを使用する、右合成翼202及び左合成翼203に結合された本体201を有する。この典型的な実施形態では、短翼弦の前縁翼207及び短翼弦の後縁翼208によって、複数の翼ロータ組立体204が、翼幅長に沿って設置される。翼ロータ組立体204は、前縁翼207及び後縁翼208に結合された翼幅支持体209上に取り付けられる。翼先端部210は、前縁翼207を後縁翼208に合体させる。空中乗物200は、逆回転する、積み重ねられたロータ組立体を使用しない。積み重ねられた組立体は、幾つかの実施形態(そこでは、水平飛行の間、ロータによって伝えられる揚力百分率がより低い)において、負荷分布に関して明確な利点を有するかもしれないが、効率的な飛行は、空中乗物200のような単一ロータによって、達成されるかもしれない。更に、単一ロータは、コスト及び複雑さの低減を可能にする。
【0022】
幾つかの態様において、翼ロータ組立体204は、航空機の一定高度の巡航平面に対して垂直ではなく、ある角度212だけ前方に傾斜している。幾つかの態様において、ロータは、5~20度の範囲で前方に傾斜している。幾つかの態様において、ロータは、5~15度の範囲で前方に傾斜している。幾つかの態様において、ロータは、8~20度の範囲で前方に傾斜している。幾つかの態様において、ロータは、8~12度の範囲で前方に傾斜している。典型的な実施形態において、ロータは、10度で傾斜している。傾斜角度は、ロータ軸と、最大翼の空力平均翼弦線との間の角度として定義してもよく、ここで最大翼は、幾つかの実施形態において、後縁翼であってもよい。
【0023】
空中乗物200は、通常飛行の間、水平推力を提供するように適合された水平推力後部ロータ組立体211を有する。空中乗物200の典型的な実施形態のサイズ及び構成の詳細は、表1に見られる。図A及び図Bは、その中心ハブ221(これは、電気モータを含んでもよい)及び羽根220を備えたロータ204を示す。
【0024】
幾つかの態様において、翼ロータ組立体204は、電気モータを備えた回転するプロペラを有する。幾つかの態様において、水平推力後部ロータ組立体211は、電気モータを有する。幾つかの態様において、モータは、1つのバッテリ又は複数のバッテリのような電源によって、電力供給される。
【0025】
【表1】
【0026】
前方に傾斜している翼ロータ組立体の使用によって、部分的には翼ロータ組立体によって、及び部分的には通常の水平推力プロペラによって提供されるべき前進推進力が可能になる。この前進推進力の共有において考慮するべき因子は、前進巡航飛行中の、翼ロータと通常のプロペラの両方に伝えられる全動力に対する、翼ロータに伝えられる全動力の割合である。
【0027】
考慮するべき別の因子は、前進飛行中の、翼と翼ロータの両方によって提供される全揚力に対する、翼ロータによって伝えられる揚力の割合である。ロール制御を含む全ての姿勢制御が、翼ロータのモータ速度の操作によって誘導される、又は維持される実施形態では、翼ロータによって提供される揚力の割合は、翼ロータの操作が航空機姿勢の制御において有効であることを可能とするのに、十分高くなければならない。幾つかの態様において、巡航速度で翼ロータによって提供される揚力の割合は、0.2よりも大きい。幾つかの態様において、翼ロータによって提供される揚力の割合は、0.25よりも大きい。幾つかの態様において、翼ロータによって提供される揚力の割合は、0.3よりも大きい。
【0028】
考慮するべき別の因子は、前進飛行中の、航空機の速度に対する翼ロータの先端速度の比である。この因子は、翼の1つに関する揚力を減少させて、ロールを生じさせるべく、1つ以上の翼ロータの速度を低下させる際に、作用し始めてもよい。そのような操縦では、他の翼上の翼ロータは、揚力を増加させるべく、回転を上げてもよい。名目的には、航空機の速度の低い倍数で運転する場合、後退するロータ羽根に関して、失速の危険が生じる。幾つかの態様において、名目的な巡航翼ロータ先端速度は、航空機の巡航速度の2.0倍大きい。幾つかの態様において、名目的な巡航翼ロータ先端速度は、航空機の巡航速度の2.5倍大きい。
【0029】
上で議論した因子は、航空機の迎え角に対する航空機の前進速度と対比させた翼の先端速度の関数として、空中乗物200についての抗力に対する揚力の比L/De(実効抗力)を決定するべくモデル化されており、且つ、このデータが、図式化して表されている。抗力に対する揚力の比は、抗力に対する揚力の比を表す色分けとして見ることができる。抗力に対する揚力の比(実効抗力)は、航空機の前進速度によって除算された、航空機の総合軸動力である。この色分けの上に置かれているのは、上で議論した他の因子を表す等高線である。ここで他の因子とは、翼ロータに伝えられる全動力の割合、翼ロータによって伝えられる揚力の割合、そして更に航空機の速度である。抗力に対する揚力の比は、翼ロータに対する異なる前方傾斜角においてモデル化されると共に、異なる翼ロータ羽根ピッチングによってもまたモデル化される。航空機200の巡航速度範囲(50~75m/s)の間のグラフの部分を囲むことによって、及び、2.0を超える航空機速度比に対する翼ロータ先端速度を有する領域を見直すことによって、明白でない範囲のパラメータが、抗力に対する揚力の比が最も高い動作モードを与える、ということが発見された。好ましい結果は、上で議論した制約値の範囲内で、8を超える、抗力に対する揚力の比を有することであり、その場合、9又は10のより高い比がなお更に望ましいということである。
【0030】
図6Aから図6Gは、異なるバージョンの空中乗物に対して、上で議論したパラメータを比較検討する計算流体力学(CFD)の結果である。図6Aは、上で議論した空中乗物200対する結果を示す。輪郭601は、巡航速度50m/s及び75m/sによって境界が定められた領域で、且つ、航空機速度と対比させたロータ先端速度の比が2.0を超える領域の周りの境界を形成する。見ての通り、L/Deが8を超える有意な領域が存在し、該領域は、9を超える有意な領域、及び10を超える幾つかの有意な領域を含む。このことは、10度の前方傾斜した翼搭載ロータを備えたこの乗物が、様々な動作シナリオに関して、これらのL/De比を達成できる、ということを表している。
【0031】
図6Bは、前方傾斜が0度であるロータを備えた、同様な乗物を示す。見ての通り、2.0の速度比の線より上で、9と同程度に高いL/Deの領域は、ほとんど存在しない。
【0032】
図6Cは、傾斜が20度であるロータを備えた、同様な乗物を示す。見ての通り、範囲内での動作が利用可能である、8よりも高いL/Deの領域は存在しない。
【0033】
図6Dは、0度の前方傾斜を備えるが、しかし図6Bの場合よりも5度大きなピッチングを有するロータ羽根を備えた、同様な乗物を示す。見ての通り、2.0の速度比の線より上で、8と同程度に高いL/Deの領域は、ほとんど存在しない。
【0034】
図6Eは、10度の前方傾斜を備えるが、しかし図6Aの場合よりも5度大きなピッチングを有するロータ羽根を備えた、同様な乗物を示す。ロータ羽根において、5度大きなピッチングを有する他の場合に比べて、これは最適であるように見えてはいるが、見ての通り、2.0の速度比の線より上で、8と同程度に高いL/Deの領域は、ほとんど存在しない。
【0035】
図6Fは、20度の前方傾斜を備えるが、しかし図6Cの場合よりも5度大きなピッチングを有するロータ羽根を備えた、同様な乗物を示す。見ての通り、特に水平飛行の領域において(迎え角が0度)、2.0の速度比の線より上で、9と同程度に高いL/Deの領域は、ほとんど存在しない。
【0036】
本発明の幾つかの実施形態において、図7に見られるように、左側の合成翼202(右側の合成翼は示されていない)を備えた空中乗物200は、長手軸に沿って互い違いに配置されたロータを有する。航空機本体に近いほうのロータ207は、そのプロペラについて、前進方向側208及び戻り側209を有する。航空機本体に近いほうのロータ207の戻り側209は、疑似翼202の翼幅方向に沿って、次のロータ204の前進方向側と有意に重なる。このことは、続くロータ205、206に関して繰り返される。前進方向側及び戻り側にある隣接したロータのこの有意な重なりは、前進飛行中に提供される揚力を均一にするが、これは、前進飛行速度が、プロペラ回転の前進移動部分に関する揚力を高めるからである。
【0037】
本発明の幾つかの実施形態において、図8に見られるように、左側合成翼301及び右側合成翼302を備えた空中乗物300は、合成翼の翼幅に沿って垂直に互い違いに配置されたロータを有する。航空機本体に近いほうのロータ303は、そのプロペラについて、前進方向側307及び戻り側308を有する。航空機本体に近いほうのロータ303の戻り側308は、合成翼301の翼幅方向に沿って、次のロータ304の前進方向側と有意に重なる。このことは、続くロータに関して繰り返される。前進方向側及び戻り側にある隣接したロータのこの有意な重なりは、前進飛行中に提供される揚力を均一にするが、これは、前進飛行速度が、プロペラ回転の前進移動部分に関する揚力を高めるからである。
【0038】
図9Aから図9Eは、伝統的な翼及び合成翼に対する、翼幅方向の揚力分布を示す。図9Aは、仮想的な、均一な翼幅方向の揚力分布を示すが、これは、伝統的な翼に関して見られるようなものであろう。図6Bから図6Eは、様々なタイプの合成翼の揚力分布プロファイルを示しており、各揚力分布プロファイルは、楕円形の理想的な揚力分布(点線で見える)と対比される。より均一な翼幅方向の揚力分布を備えたロータ配列構成は、理想的に負荷がかけられた、中空でない翼型の翼と比較して、より低い誘導抗力の比を与えるであろう。より少なくてより大きなロータとは対照的に、より大きな数のより小さなロータを使用する態様は、与えられた翼幅の長さに対して、より少ない全羽根面積、及びより少ない抗力が存在する、というものである。一般的に、平均羽根翼弦は、与えられた全揚力及び先端速度に対して、ロータの数に応じて変化せず、そのため、より小さなロータは、より好ましいアスペクト比(平均翼弦に対する半径の比)を有する。
【0039】
図9Bは、4つのロータシステム(合成翼当たり2つのロータ)を示す。負荷変動は、ロータ構成により20%である。理想的に負荷がかけられた翼の誘導抗力に対する、この構成の誘導抗力の比は1.22である。図9Cは、8つのロータシステム(合成翼当たり4つのロータ)を示す。負荷変動は、ロータ構成により20%である。理想的に負荷がかけられた翼の抗力に対する、この構成の誘導抗力の比は1.43である。
【0040】
図9Dは、4つのロータシステム(合成翼当たり2つのロータ)を示す。負荷変動は、ロータ構成により40%である。理想的に負荷がかけられた翼の誘導抗力に対する、この構成の誘導抗力の比は1.88である。図9Eは、8つのロータシステム(合成翼当たり4つのロータ)を示す。負荷変動は、ロータ構成により40%である。理想的に負荷がかけられた翼の誘導抗力に対する、この構成の誘導抗力の比は2.71である。
【0041】
図10は、本発明の幾つかの実施形態によるロータを示す。見ての通り、(表1及び表2に寸法取りされるように)ロータ羽根の内側の端部には有意な半径が存在する。そのような構成では、ロータ羽根の内側の端部は、羽根がスピン軸に向かってもっと先に延びる構成と比較して、その後退する羽根を失速させにくい。ロータのこの中央領域は、個々のモータ(又は逆回転する羽根構成における一対のモータ)の配置を可能にする。したがって、ロータ羽根は、モータ自体の(スピン軸に対して)半径方向外側で始まってもよい。
【0042】
幾つかの実施形態において、図11Aから図11Cに見られるように、空中乗物300は、右側疑似翼302及び左側疑似翼303を形成する、二組の前方に傾斜したロータを有してもよい。前縁翼及び後縁翼はまた、前進飛行中に揚力を提供する。空中乗物の本体301は、前進推力尾部ロータ311を支持する。典型的な実施形態の詳細及び寸法は、表2に見られる。
【0043】
【表2】
【0044】
二列の翼ロータに関する幾つかの実施形態において、翼ロータの列は分離していてもよく、且つ、列間に1つ以上の翼要素を含んでもよい。幾つかの実施形態において、2つ以上の翼ロータの列が存在してもよい。
【0045】
上の説明から明らかなように、本明細書に与えられた説明から、多種多様な実施形態が構成されてもよく、且つ、当業者にとっては、付加的な利点及び変更が容易に生じるであろう。本発明は、それ故に、そのより広い態様において、図示されると共に説明された、特定の詳細及び例証的な実施例に限定されない。したがって、出願人の一般的な発明の趣旨又は範囲から逸脱することなく、そのような詳細からの逸脱がなされてもよい。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図6G
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
図10A
図10B
図11A
図11B
図11C