IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧 ▶ アイシン精機株式会社の特許一覧 ▶ アイシン・エィ・ダブリュ工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-捩り振動低減装置 図1
  • 特許-捩り振動低減装置 図2
  • 特許-捩り振動低減装置 図3
  • 特許-捩り振動低減装置 図4
  • 特許-捩り振動低減装置 図5
  • 特許-捩り振動低減装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】捩り振動低減装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/134 20060101AFI20221109BHJP
   F16F 15/30 20060101ALI20221109BHJP
   F16H 45/02 20060101ALN20221109BHJP
   F16D 13/64 20060101ALN20221109BHJP
【FI】
F16F15/134 A
F16F15/30 V
F16H45/02 Y
F16D13/64 B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019024558
(22)【出願日】2019-02-14
(65)【公開番号】P2020133691
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(73)【特許権者】
【識別番号】594079143
【氏名又は名称】株式会社アイシン福井
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(72)【発明者】
【氏名】岩垣 伴
(72)【発明者】
【氏名】西田 秀之
(72)【発明者】
【氏名】石橋 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】大井 陽一
(72)【発明者】
【氏名】水上 祐
(72)【発明者】
【氏名】吉川 卓也
(72)【発明者】
【氏名】田中 克典
(72)【発明者】
【氏名】平本 知之
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-188655(JP,A)
【文献】特開2008-164013(JP,A)
【文献】特開2017-110788(JP,A)
【文献】特開2017-150626(JP,A)
【文献】国際公開第2019/098219(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/12-15/139
F16F 15/30-15/315
F16H 45/02
F16D 13/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1回転要素と、前記第1回転要素と同心円状に配置された第2回転要素と、前記第1回転要素の半径方向で前記第1回転要素と前記第2回転要素との間に配置されかつ前記第1回転要素と前記第2回転要素との少なくともいずれか一方に係合している複数の遊星回転要素と、前記遊星回転要素を回転可能に保持している第3回転要素とを有する遊星回転機構を備え、
前記第1回転要素と前記第2回転要素と前記第3回転要素とのうちのいずれか一つがエンジンで発生させたエンジントルクが入力される入力要素とされ、前記第1回転要素と前記第2回転要素と前記第3回転要素とのうちのいずれか他の一つがトルクを出力する出力要素とされ、前記第1回転要素と前記第2回転要素と前記第3回転要素とのうちのいずれか更に他の一つが前記入力要素と前記出力要素とに対して相対回転する慣性要素とされ、
前記入力要素と前記出力要素との間に前記入力要素と前記出力要素とを相対的に捩れ回転させる捩りトルクに応じて弾性変形する弾性体が設けられ、
前記入力要素と前記出力要素とのそれぞれに、前記捩りトルクに応じて前記弾性体が弾性変形できるように前記弾性体が組み付けられる窓孔部が形成され、
前記エンジントルクの振動によって前記入力要素と前記出力要素とが前記弾性体を弾性変形させて相対的に捩り回転すると共に、前記慣性要素の回転に振動が生じるように構成された捩り振動低減装置において、
前記窓孔部に前記弾性体が組み付けられかつ、前記窓孔部に組み付けられた前記弾性体を弾性変形させるように前記入力要素と前記出力要素とが相対的に捩り回転していない状態で前記遊星回転要素が配置される位置が前記遊星回転要素の基準位置とされ、
前記エンジントルクの振動によって前記遊星回転要素が往復回転する領域のうち、前記エンジントルクが入力されることによって前記基準位置から前記遊星回転要素が回転する駆動側に前記遊星回転要素が移動可能な第1領域が、前記基準位置から前記駆動側とは反対の被駆動側に前記遊星回転要素が移動可能な第2領域よりも大きく設定されている
ことを特徴とする捩り振動低減装置。
【請求項2】
請求項1に記載の捩り振動低減装置において、
前記第1回転要素は、サンギヤによって構成され、
前記第2回転要素は、リングギヤによって構成され、
前記遊星回転要素は、ピニオンギヤによって構成され、
前記第3回転要素は、キャリヤによって構成され、
前記入力要素は、前記サンギヤと前記キャリヤとのうちの一方とされ、
前記出力要素は、前記サンギヤと前記キャリヤとのうちの他方とされ、
前記慣性要素は、前記リングギヤとされ、
前記サンギヤの円周上での前記基準位置に対して前記第1領域が前記第2領域よりも大きくなるように、前記サンギヤに歯が形成され、
前記基準位置は、前記サンギヤの円周方向で前記サンギヤに形成された前記窓孔部の中央部に対して、前記半径方向に並んでいる
ことを特徴とする捩り振動低減装置。
【請求項3】
請求項1に記載の捩り振動低減装置において、
前記第1回転要素は、サンギヤによって構成され、
前記第2回転要素は、リングギヤによって構成され、
前記遊星回転要素は、ピニオンギヤによって構成され、
前記第3回転要素は、キャリヤによって構成され、
前記入力要素は、前記サンギヤと前記キャリヤとのうちの一方とされ、
前記出力要素は、前記サンギヤと前記キャリヤとのうちの他方とされ、
前記慣性要素は、前記リングギヤとされ、
前記サンギヤの円周上での前記基準位置に対して前記第1領域が前記第2領域よりも大きくなるように、前記キャリヤに前記ピニオンギヤが取り付けられている
ことを特徴とする捩り振動低減装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、入力されたトルクの変動(振動)に起因する捩り振動を低減するように構成された捩り振動低減装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
捩り振動を低減する装置として遊星歯車機構を使用した例が特許文献1に記載されている。その遊星歯車機構はロックアップクラッチを有するトルクコンバータの内部であって、かつ、半径方向でバネダンパの外側に当該バネダンパと同心円状に並んで配置されている。遊星歯車機構のキャリヤにロックアップクラッチとバネダンパの入力側部材とが連結されていて、ロックアップクラッチを介してキャリヤに、エンジンが出力するエンジントルクが入力されるようになっている。また、サンギヤにバネダンパの出力側部材が連結されている。バネダンパのトルクの伝達方向で入力側部材と出力側部材との間に中間部材が配置されており、入力側部材と中間部材とは第1弾性体を介して接続され、中間部材と出力側部材とは第2弾性体を介して接続されている。さらに、遊星歯車機構に正回転側のトルクすなわちエンジントルクが入力されたときに、中間部材が変位する方向での中間部材とピニオンギヤとの間隔が、前記中間部材が変位する方向とは反対側における中間部材とピニオンギヤとの間隔よりも大きくなるように、ピニオンギヤがキャリヤに取り付けられている。そして、エンジントルクの振動に応じてバネダンパの第1弾性体と第2弾性体とが伸縮することによって、キャリヤとサンギヤとが所定角度、相対回転する。それに伴ってリングギヤが強制的に回転させられると共にリングギヤの回転に振動が生じる。リングギヤの振動は各弾性体が伸縮することによるものであるため、これらエンジントルクの振動とリングギヤの振動とには位相のずれがある。そのため、リングギヤの振動による慣性トルクがいわゆる制振トルクとして作用し、遊星歯車機構から出力されるトルクの振動が低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/208765号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された装置は、第1弾性体と第2弾性体とを直列に接続し、また正回転側のトルクがバネダンパに入力されたときに、バネダンパが大きくねじれるように構成されている。そのため、バネダンパの全体としての合成バネ定数を小さくしていわゆる反共振点を下げ、エンジンの回転数が低い領域での振動減衰性能を向上させることができる。しかしながら、特許文献1に記載された装置では、バネダンパの入力側部材と出力側部材との間に、2つの弾性体と中間部材とを配置することになるから、部品点数や部品の種類が増大し、捩り振動低減装置を製造するための工数や製造コストが増大する可能性がある。
【0005】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、簡易な構成で、エンジントルクが入力された場合に遊星回転要素が回転する駆動側への、遊星回転要素の回転可能領域を拡大することができる捩り振動低減装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、上記の目的を達成するために、第1回転要素と、前記第1回転要素と同心円状に配置された第2回転要素と、前記第1回転要素の半径方向で前記第1回転要素と前記第2回転要素との間に配置されかつ前記第1回転要素と前記第2回転要素との少なくともいずれか一方に係合している複数の遊星回転要素と、前記遊星回転要素を回転可能に保持している第3回転要素とを有する遊星回転機構を備え、前記第1回転要素と前記第2回転要素と前記第3回転要素とのうちのいずれか一つがエンジンで発生させたエンジントルクが入力される入力要素とされ、前記第1回転要素と前記第2回転要素と前記第3回転要素とのうちのいずれか他の一つがトルクを出力する出力要素とされ、前記第1回転要素と前記第2回転要素と前記第3回転要素とのうちのいずれか更に他の一つが前記入力要素と前記出力要素とに対して相対回転する慣性要素とされ、前記入力要素と前記出力要素との間に前記入力要素と前記出力要素とを相対的に捩れ回転させる捩りトルクに応じて弾性変形する弾性体が設けられ、前記入力要素と前記出力要素とのそれぞれに、前記捩りトルクに応じて前記弾性体が弾性変形できるように前記弾性体が組み付けられる窓孔部が形成され、前記エンジントルクの振動によって前記入力要素と前記出力要素とが前記弾性体を弾性変形させて相対的に捩り回転すると共に、前記慣性要素の回転に振動が生じるように構成された捩り振動低減装置において、前記窓孔部に前記弾性体が組み付けられかつ、前記窓孔部に組み付けられた前記弾性体を弾性変形させるように前記入力要素と前記出力要素とが相対的に捩り回転していない状態で前記遊星回転要素が配置される位置が前記遊星回転要素の基準位置とされ、前記エンジントルクの振動によって前記遊星回転要素が往復回転する領域のうち、前記エンジントルクが入力されることによって前記基準位置から前記遊星回転要素が回転する駆動側に前記遊星回転要素が移動可能な第1領域が、前記基準位置から前記駆動側とは反対の被駆動側に前記遊星回転要素が移動可能な第2領域よりも大きく設定されていることを特徴とするものである。
【0007】
この発明では、前記第1回転要素は、サンギヤによって構成され、前記第2回転要素は、リングギヤによって構成され、前記遊星回転要素は、ピニオンギヤによって構成され、前記第3回転要素は、キャリヤによって構成され、前記入力要素は、前記サンギヤと前記キャリヤとのうちの一方とされ、前記出力要素は、前記サンギヤと前記キャリヤとのうちの他方とされ、前記慣性要素は、前記リングギヤとされ、前記サンギヤの円周上での前記基準位置に対して前記第1領域が前記第2領域よりも大きくなるように、前記サンギヤに歯が形成され、前記基準位置は、前記サンギヤの円周方向で前記サンギヤに形成された前記窓孔部の中央部に対して、前記半径方向に並んでいてよい。
【0008】
この発明では、前記第1回転要素は、サンギヤによって構成され、前記第2回転要素は、リングギヤによって構成され、前記遊星回転要素は、ピニオンギヤによって構成され、前記第3回転要素は、キャリヤによって構成され、前記入力要素は、前記サンギヤと前記キャリヤとのうちの一方とされ、前記出力要素は、前記サンギヤと前記キャリヤとのうちの他方とされ、前記慣性要素は、前記リングギヤとされ、前記サンギヤの円周上での前記基準位置に対して前記第1領域が前記第2領域よりも大きくなるように、前記キャリヤに前記ピニオンギヤが取り付けられていてよい。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、捩り振動低減装置の入力要素にエンジンで発生させたエンジントルクが入力される。入力要素と出力要素との間には弾性体が設けられており、その弾性体は入力要素と出力要素とのそれぞれに形成された窓孔部に組み付けられている。窓孔部に組み付けた弾性体を弾性変形させないように、入力要素と出力要素とが捩り回転していない状態での遊星回転要素の位置が、遊星回転要素の基準位置となっている。エンジントルクの振動によって遊星回転要素が往復回転する領域のうち、エンジントルクが入力されることによって基準位置から遊星回転要素が回転する駆動側に遊星回転要素が移動可能な第1領域が、基準位置から前記駆動側とは反対の被駆動側に遊星回転要素が移動可能な第2領域よりも大きく設定されている。捩り振動低減装置に入力されるエンジントルクが大きい場合には、入力要素と出力要素とは弾性体を大きく弾性変形させて大きく捩り回転し、遊星回転要素は駆動側に大きく移動する。この発明では、上述したように第1領域が第2領域よりも大きく設定されているため、弾性体の低剛性化が可能である。また、遊星回転機構を特には大型化することなく、入力要素と出力要素とを大きく捩り回転させて、駆動側に遊星回転要素を大きく移動させることができる。つまり、第1領域と第2領域とを均等に設ける場合と比較して、駆動側への捩り振動低減装置1の捩れ角を大きくできる。さらに、弾性体を低剛性化できるので、従来に比較してエンジンの低回転数側に捩り振動低減装置の共振点をシフトできる。これにより、従来よりもエンジンの低回転域でのエンジントルクの振動を低減でき、その結果、装置の全体として振動減衰性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】この発明の実施形態に係る捩り振動低減装置の一例を模式的に示すスケルトン図である。
図2図1に示すドライブプレートの一例を模式的に示す正面図である。
図3】この発明の第1実施形態に係る捩り振動低減装置の一部を模式的に示す正面図である。
図4】この発明の実施形態に係る捩り振動低減装置のトルクに対する変位量を模式的に示す図である。
図5】ドライブプレートの他の例を模式的に示す正面図である。
図6】この発明の第2実施形態に係る捩り振動低減装置の一部を模式的に示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
つぎに、この発明の実施形態を説明する。図1は、この発明の実施形態に係る捩り振動低減装置1を備えたトルクコンバータ2の一例を模式的に示すスケルトン図である。ここに示す捩り振動低減装置1は、トルクコンバータ2の内部であってかつ、駆動力源3と駆動対象部4との間のトルクの伝達経路に設けられており、駆動力源3で発生させたトルクの振動を低減して駆動対象部4に伝達するように構成されている。駆動力源3は一例としてガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関(以下、単にエンジンと記す。)であり、したがって、その出力トルク(以下、単にエンジントルクと記す。)は不可避的に振動する。また、上記のエンジン3はエンジン回転数の増大に伴ってエンジントルクが増大し、エンジントルクが最大となるエンジン回転数よりもエンジン回転数が高くなると、エンジントルクが低下し、また、エンジン回転数の増大に伴ってエンジントルクの振動が小さくなる特性を有するエンジン3である。なお、以下の説明では、駆動力源3をエンジン3と記す。駆動対象部4は例えば変速機であって、その変速機は変速比がステップ的に変化する有段式の変速機、もしくは、変速比が連続的に変化する無段変速機などの従来知られた変速機4であってよい。
【0012】
上記のトルクコンバータ2は、従来知られているものと同様の構成であって、トルクコンバータ2のハウジング5は、エンジン3の出力軸3aに連結されるフロントカバー6と、フロントカバー6に一体化されているポンプシェル7とによって液密状態に形成されている。
【0013】
ハウジング5の内部に、トルクの伝達を行うフルード(オイル)が封入されている。ポンプシェル7の内面に、複数のポンプブレード8が取り付けられてポンプインペラ9が構成されている。ポンプインペラ9によって生じさせられた流体流を受けて回転するタービンランナ10がポンプインペラ9に対向して配置されている。タービンランナ10はポンプインペラ9とほぼ対称な形状を成しており、図示しないタービンシェルと、タービンシェルの内面に取り付けられた多数のタービンブレード11とによって構成されている。タービンランナ10はタービンハブ12を介して、変速機4の入力軸4aに連結されている。
【0014】
ポンプインペラ9とタービンランナ10との間に、ステータ13が配置されている。ステータ13は一方向クラッチ14を介してトルクコンバータ2内の図示しない固定軸に取り付けられている。ステータ13はポンプインペラ9とタービンランナ10との速度比が小さい状態では、タービンランナ10から流れ出たオイルの流動方向を変化させてポンプインペラ9に供給し、速度比が大きい状態ではタービンランナ10から流れ出たオイルに押されて回転することによりオイルの流動方向を変えないように構成されている。したがって、一方向クラッチ14は速度比が小さい状態では係合してステータ13の回転を止め、速度比が大きい状態ではステータ13を回転させるように構成されている。
【0015】
フロントカバー6の内面に対向してロックアップクラッチ15が配置されている。図1に示すロックアップクラッチ15は多板クラッチであって、例えばフロントカバー6に一体化されているクラッチハブにスプライン嵌合させられた複数のクラッチディスク16と、クラッチハブの外周側を覆うように配置されたクラッチドラム17の内周面にスプライン嵌合させられかつクラッチディスク16と交互に配置された複数のクラッチプレート18とを備えている。これらのクラッチディスク16とクラッチプレート18とは、図示しないロックアップピストンとクラッチドラム17に取り付けた図示しないスナップリングとの間に交互に配置されている。したがって、ロックアップピストンが前進してクラッチディスク16およびクラッチプレート18をスナップリングとの間に挟み付けることにより、クラッチディスク16とクラッチプレート18とが摩擦接触して両者の間でトルクが伝達される。すなわち、ロックアップクラッチ15がトルクを伝達する係合状態になる。なお、トルクコンバータ2の半径方向でロックアップクラッチ15の内周側に、ロックアップクラッチ15の少なくとも一部と並んで図示しないリターンスプリングが配置されている。リターンスプリングはロックアップクラッチ15を解放させる方向に、つまり、クラッチディスク16とクラッチプレート18とを離隔させる方向にロックアップピストンを押圧している。
【0016】
トルクコンバータ2の回転中心軸線方向(以下、単に軸線方向と記す。)でロックアップクラッチ15と互いに隣接してこの発明の実施形態に係る捩り振動低減装置1が配置されている。捩り振動低減装置1はこの発明の実施形態における遊星回転機構と弾性体とを備えている。遊星回転機構は要は、遊星歯車機構や遊星ローラ機構などの三つの回転要素によって差動作用を行う機構であって、ここに示す例ではシングルピニオン型の遊星歯車機構19によって構成されている。遊星歯車機構19はサンギヤ20と、サンギヤ20に対して同心円状に配置されたリングギヤ21と、サンギヤ20とリングギヤ21とに噛み合う複数のピニオンギヤ22を回転可能に保持するキャリヤ23とを備えている。上述したサンギヤ20とリングギヤ21とが、この発明の実施形態における第1回転要素と第2回転要素とに相当し、ピニオンギヤ22がこの発明の実施形態における遊星回転要素に相当し、キャリヤ23が、この発明の実施形態における第3回転要素に相当している。
【0017】
キャリヤ23にロックアップクラッチ15のクラッチドラム17が連結されており、これが入力要素となっている。またキャリヤ23はバネダンパ24のドライブプレート25を兼ねている。バネダンパ24のドリブンプレート26の外周部にサンギヤ20が形成されており、これが出力要素となっている。リングギヤ21の外周部には、追加慣性体27が一体に設けられている。なお、追加慣性体27はリングギヤ21とは別体として構成し、リングギヤ21と一体となって回転するようにリングギヤ21に取り付けてもよい。上述したリングギヤ21と追加慣性体27とが、この発明の実施形態における慣性要素に相当している。
【0018】
バネダンパ24は、トルクコンバータ2の半径方向で遊星歯車機構19の内周側に、遊星歯車機構19と同心円状に並んで配置されている。ここで、「並んで」とは、バネダンパ24と遊星歯車機構19とのそれぞれの少なくとも一部が、半径方向で重なり合っている状態を意味している。バネダンパ24のドライブプレート25は、バネダンパ24におけるトルクの伝達方向で上流側に配置されており、ここに示す例では、環状の第1ドライブプレート25Aと環状の第2ドライブプレート25Bとによって構成されている。第1ドライブプレート25Aは軸線方向で第2ドライブプレート25Bよりもロックアップクラッチ15側に位置している。
【0019】
それらの第1ドライブプレート25Aと第2ドライブプレート25Bとは軸線方向に予め定めた間隔をあけて配置されている。また、第1ドライブプレート25Aと第2ドライブプレート25Bとは前記間隔を維持した状態で一体となって回転するように、リベットやボルトなどの連結手段によって連結されている。連結手段は、ピニオンギヤ22と同一の半径位置であって、ドライブプレート25の円周方向でピニオンギヤ22と予め定めた間隔をあけて位置している。第1ドライブプレート25Aと第2ドライブプレート25Bとの各外周部におけるそれらの間に、遊星歯車機構19のピニオンギヤ22が自転可能に取り付けられている。そのため、各ドライブプレート25A,25Bは上述したようにキャリヤ23を兼ねている。
【0020】
軸線方向における第1ドライブプレート25Aと第2ドライブプレート25Bとの間に、図1および図3に示すように、ドリブンプレート26が配置されている。それらの各ドライブプレート25A,25Bとドリブンプレート26とは所定角度、相対回転できるように、この発明の実施形態における弾性体に相当する第1バネ28と第2バネ29とを介して連結されている。第2バネ29は第1バネ28よりもバネ定数の大きいバネであって、第1バネ28が圧縮された後に圧縮されるように、各ドライブプレート25A,25Bとドリブンプレート26との間にそれらのバネ28,29が設けられている。先ず、ドライブプレート25A,25Bの構造について説明する。図2はドライブプレート25Aの一例を模式的に示す正面図である。図2に示すように、ドライブプレート25Aの円周方向に一定の間隔で、第1バネ28が配置される第1窓孔部30が形成されている。ここに示す例では、円周方向に一定の間隔で、6つの第1窓孔部30が形成されている。また、ドライブプレート25Aの半径方向で第1窓孔部30の外側に第2バネ29が配置される第2窓孔部31が形成されている。ここに示す例では、円周方向に一定の間隔で、3つの第2窓孔部31が形成されている。また、円周方向における第2窓孔部31の長さは第1窓孔部30よりも長く設定されている。なお、ドライブプレート25Bにも、同様に、第1窓孔部30と第2窓孔部31とが形成されている。ドライブプレート25Bはドリブンプレート26を挟んでドライブプレート25Aと対称に形成されている。
【0021】
図3は、この発明の第1実施形態に係る捩り振動低減装置1の一部を模式的に示す正面図である。ドリブンプレート26は各ドライブプレート25A,25Bよりも小径の円板状に形成されており、そのドリブンプレート26における前記第1窓孔部30に対応する位置に第1窓孔部30とほぼ同じ大きさの第3窓孔部32が形成されている。それらの第1窓孔部30と第3窓孔部32とを互いに重ね合わせた状態で、各窓孔部30,32の内部に第1バネ28が組み付けられる。また、第1窓孔部30と第3窓孔部32とに第1バネ28を組み付けかつ、その第1バネ28を弾性変形させないように各ドライブプレート25A,25Bとドリブンプレート26とが相対回転していない状態で、円周方向における各窓孔部30,32の中央部の外側に、ピニオンギヤ22が位置するように、各ドライブプレート25A,25Bにピニオンギヤ22が取り付けられる。上述した状態でのピニオンギヤ22の位置つまり設計上のピニオンギヤ22の組付け位置が、この発明の実施形態における基準位置NPとなっており、後述するように、捩り振動低減装置1に入力されるエンジントルクの大きさに応じてピニオンギヤ22は基準位置NPを起点として円周方向に移動する。
【0022】
ドリブンプレート26の半径方向で第3窓孔部32の外側に第4窓孔部33が形成されている。円周方向における第4窓孔部33の長さは第2バネ29の長さより僅かに短く設定されている。その第4窓孔部33の内部に第2バネ29が配置されている。ドライブプレート25A,25Bとドリブンプレート26とが相対回転して第1バネ28がある程度圧縮されたときに、第4窓孔部33に配置された第2バネ29に対して第2窓孔部31の両端部のうちの一方の端部が当接して第2バネ29が圧縮されるようになっている。
【0023】
また、ドリブンプレート26の外周面に、図3に示すように、半径方向で外側に突出した複数の突出部34が円周方向に一定の間隔で形成されている。突出部34は各ドライブプレート25A,25Bとドリブンプレート26との相対回転が予め定めた回転角度より大きくなった場合に、上述した各ドライブプレート25A,25B同士を連結する連結手段35と当接して各ドライブプレート25A,25Bとドリブンプレート26との相対回転を規制するものである。そのため、突出部34と連結手段35とがストッパーとして機能する。なお、ドリブンプレート26の内周部は上述したタービンハブ12にリベット止めされている。
【0024】
ドリブンプレート26の円周方向で互いに隣接する突出部34同士の間におけるドリブンプレート26の外周面に外歯が形成されており、これが上述したサンギヤ20として機能する。なお、上述した外周面のうち、突出部34に当接した状態の連結手段35に対応する位置にある外周面には前記外歯は形成されていない。また、上述した基準位置NPにあるピニオンギヤ22から突出部34までの距離あるいは長さは、キャリヤ23の回転方向で駆動側と被駆動側とで互いに異なっている。上述した駆動側とは、エンジン3が出力するエンジントルクが遊星歯車機構19に入力された場合に、キャリヤ23が回転する方向であって、被駆動側は駆動側とは反対の回転方向である。
【0025】
図3に示す例では、基準位置NPにあるピニオンギヤ22と、当該ピニオンギヤ22よりもキャリヤ23の駆動側にある突出部34との間の距離あるいは長さは、基準位置NPにあるピニオンギヤ22と、当該ピニオンギヤ22よりもキャリヤ23の被駆動側にある突出部34との間の距離あるいは長さよりも長く設定されている。したがって、基準位置NPからキャリヤ23の駆動側に、ピニオンギヤ22の移動可能な第1領域Aは、これとは反対側の第2領域Bよりも大きく設定されている。
【0026】
次に、第1実施形態の作用について説明する。ロックアップクラッチ15が係合状態になると、エンジン3で出力したエンジントルクがキャリヤ23に入力される。サンギヤ20には、入力軸4aを回転させるためのトルクが作用している。そのため、これらのエンジントルクと、入力軸4aを回転させるためのトルクとによって第1バネ28を圧縮する荷重が生じ、その荷重に応じた変位が第1バネ28に生じる。その結果、キャリヤ23とサンギヤ20とが所定角度、相対回転する。つまり、各ドライブプレート25A,25Bとドリブンプレート26とが所定角度、相対回転する。ピニオンギヤ22は入力されたエンジントルクの大きさに応じた角度分、基準位置NPから第1領域Aに移動する。上述した第1バネ28を弾性変形させてキャリヤ23とサンギヤ20との相対回転を生じさせるトルクがこの発明の実施形態における捩りトルクに相当している。エンジン回転数が低いことによりエンジントルクが小さい場合には、捩れトルクが小さいため、サンギヤ20に対するキャリヤ23の回転角度は小さくなる。
【0027】
エンジントルクの振動によって第1バネ28に作用する圧縮力つまり捩りトルクが変化し、キャリヤ23とサンギヤ20との捩り回転が繰り返し生じる。ピニオンギヤ22はエンジントルクの振動に応じて第1領域A内で円周方向に往復回転する。また、リングギヤ21が強制的に回転させられると共に、その回転に振動が生じる。第1実施形態では、リングギヤ21の回転速度はサンギヤ20の回転速度に対してギヤ比に応じて増速されるため、リングギヤ21の角加速度が増大されてリングギヤ21と追加慣性体27とによる慣性トルクが大きくなる。また、リングギヤ21の振動は第1バネ28の伸縮によるものであるため、キャリヤ23に入力されるエンジントルクの振動と、リングギヤ21の振動とには位相のずれが生じる。これにより、上記の慣性トルクがエンジントルクの振動に対する制振トルクとして作用し、キャリヤ23に入力されたエンジントルクは前記慣性トルクによって低減されて滑らかになり、駆動対象部4に伝達される。
【0028】
エンジン回転数が高くなることに伴ってエンジントルクが大きくなると、上述した捩りトルクも増大する。これにより第1バネ28は大きく弾性変形してサンギヤ20に対するキャリヤ23の回転角度が大きくなる。つまり、ピニオンギヤ22は、エンジントルクが小さい場合よりも、基準位置NPからキャリヤ23の駆動側に大きく移動する。また、エンジン回転数が高くなると、エンジントルクの振動は小さくなる。したがって、ピニオンギヤ22はエンジントルクの振幅に応じて第1領域A内で円周方向に往復回転つまり振動するが、ピニオンギヤ22の振幅は小さくなる。
【0029】
エンジン回転数が更に高くなることによって、エンジントルクが更に大きくなると、それによって捩りトルクが更に大きくなり、サンギヤ20に対するキャリヤ23の回転角度が更に大きくなる。そのため、基準位置NPからキャリヤ23の駆動側へのピニオンギヤ22の移動距離は更に長くなる。またこれにより第1バネ28はある程度、圧縮された状態となり、その状態で、第2バネ29を圧縮する荷重が生じ、その荷重に応じた変位が第2バネ29に生じる。エンジントルクの振動に応じて第1バネ28と第2バネ29とが伸縮し、サンギヤ20とキャリヤ23との捩り回転が繰り返し生じる。さらに、リングギヤ21が強制的に回転させられると共に、その回転に振動が生じる。そして、リングギヤ21と追加慣性体27とによってエンジントルクの振動が低減される。
【0030】
図4は、この発明の実施形態に係る捩り振動低減装置1のトルクに対する変位量を模式的に示す図である。なお、捩り振動低減装置1の第1バネ28および第2バネ29の変位量を図4に実線で記載してあり、駆動側と被駆動側とでピニオンギヤ22が往復回転する領域をほぼ同じ大きさに設定してある従来構成の捩り振動低減装置における第1バネ28および第2バネ29の変位量を図4に破線で記載してある。上記構成の捩り振動低減装置1では、第1領域Aが第2領域Bよりも大きく設定されているため、駆動側にサンギヤ20とキャリヤ23とを大きく相対回転させることができ、図4に破線で示す従来構成の捩り振動低減装置と比較して、図4に実線で示す第1バネ28の変形量を駆動側に大きくすることができる。つまり、駆動側での捩り振動低減装置の捩れ角あるいは捩れ量を従来になく大きくすることができる。また、遊星歯車機構19を特には大型化することがない。さらに、第1バネ28の変形量を大きくできるので、第1バネ28の低剛性化が可能になる。これにより捩り振動低減装置1の共振点を、従来に比較してエンジン3の低回転数側にシフトさせることができる。すなわち、上述した特許文献1に記載されたような中間部材を備える構造でなくとも、簡易な構成で捩り振動低減装置1の共振点を下げ、エンジン3の低回転数域での振動減衰性能を向上することができる。また、第1実施形態では、ドリブンプレート26のみを加工することによってピニオンギヤ22が往復回転する各領域A,Bを変更できるため、装置の全体として製造に係る工数やコストを低減することができる。
【0031】
(第2実施形態)
図5は、ドライブプレート25Aの他の例を模式的に示す正面図である。図5に示す例は、ドライブプレート25Aの円周方向で第1窓孔部30の中央部に対して、ピニオンギヤ22の取り付け位置を円周方向でキャリヤ23の負回転方向側に予め定めた角度、ずらした例である。他の構成は図2に示す構成と同様であるため、図2に示す構成と同様の部分には図2と同様の符号を付してその説明を省略する。なお、ドライブプレート25Bも同様に、ドライブプレート25Bの円周方向で第1窓孔部30の中央部に対して、ピニオンギヤ22の取り付け位置を円周方向でキャリヤ23の負回転方向側に、ドライブプレート25Aと同様な角度分だけずらしたものとなるが、各構成の配置は基本的には図5に示すドライブプレート25Aを鏡写しで反転したものとなるので図示は省略する。
【0032】
図6は、この発明の第2実施形態に係る捩り振動低減装置1の一部を模式的に示す正面図である。図6に示すドリブンプレート26では、突出部34と第1窓孔部30とが対称に形成されている。すなわち、円周方向に一定の間隔で突出部34が形成されている。ここに示す例では、合計3つの突出部34が形成されている。各突出部34の内側に第4窓孔部33がそれぞれ形成され、それらの第4窓孔部33の内側に、6つの第1窓孔部30のうちの3つの第1窓孔部30がそれぞれ形成されている。残りの第1窓孔部30は、第4窓孔部33の内側に形成された第1窓孔部30同士の間に形成されている。また、ドリブンプレート26の外周面のうち、円周方向で互いに隣接する突出部34同士の間の外周面に上述したようにサンギヤ20として機能する歯が形成されている。他の構成は図3に示す構成と同様であるため、図3に示す構成と同様の部分には図3と同様の符号を付してその説明を省略する。
【0033】
第2実施形態であっても、キャリヤ23の駆動側の第1領域Aが大きく設定されるため、サンギヤ20とキャリヤ23を大きく捩り回転させることができ、第1実施形態と同様の作用・効果を得ることができる。また、第2実施形態では、突出部34と各窓孔部30とが、ドリブンプレート26の回転中心を中心にして対称に形成されているため、エンジン回転数が高くなることによって第1バネや第2バネに大きい遠心力が作用したときに、それらの遠心力がドリブンプレート26に偏って作用することを抑制できる。そのため、ドリブンプレート26の剛性や強度を向上することができる。
【0034】
なお、この発明は上述した実施形態に限定されないのであって、遊星歯車機構19の複数の回転要素のうち、いずれの回転要素が入力要素や出力要素、慣性要素であってもよい。要は、遊星歯車機構19にエンジン3が出力するエンジントルクが入力されてキャリヤ23が回転する場合に、そのキャリヤ23が回転する方向へのピニオンギヤ22が移動することのできる範囲が、これとは反対側よりも大きくなっていればよい。
【符号の説明】
【0035】
1…捩り振動低減装置、 3…エンジン、 19…遊星歯車機構(遊星回転機構)、 20…サンギヤ(出力要素)、 21…リングギヤ(慣性要素)、 22…ピニオンギヤ、 23…キャリヤ(入力要素)、 27…追加慣性体、 28…第1バネ(弾性体)、 29…第2バネ(弾性体)、 30…第1窓孔部(窓孔部)、 32…第3窓孔部(窓孔部)、 NP…基準位置、 A…第1領域、 B…第2領域。
図1
図2
図3
図4
図5
図6