(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】シート及び建造物変形評価用物品
(51)【国際特許分類】
G01B 11/16 20060101AFI20221109BHJP
C09J 7/20 20180101ALI20221109BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
G01B11/16 G
C09J7/20
E04G23/02 A
(21)【出願番号】P 2016249022
(22)【出願日】2016-12-22
【審査請求日】2019-12-19
【審判番号】
【審判請求日】2021-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(72)【発明者】
【氏名】中山 丞
(72)【発明者】
【氏名】布 一馬
【合議体】
【審判長】中塚 直樹
【審判官】濱本 禎広
【審判官】濱野 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-184043(JP,A)
【文献】特開昭61-184407(JP,A)
【文献】特開2011-191282(JP,A)
【文献】特開2012-247229(JP,A)
【文献】特開2006-258628(JP,A)
【文献】国際公開第2015/199957(WO,A1)
【文献】特開2010-271253(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/16
G01L 1/00,1/24
G01L 3/00,3/12
G01L 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の主面、及び前記第1の主面に対向する第2の主面を有するシートであって、
前記シートが、
第1のパターンイメージを有する第1部、
第2のパターンイメージを有する第2部、及び
前記第1部と前記第2部との間に存在する第3部、
を有し、
前記第1部が前記第2部よりも大きい伸長性を有し、
前記第1部が前記シートの第1の主面を含み、
前記第2部が前記シートの第2の主面を含み、
前記第1のパターンイメージが前記第2のパターンイメージを介して視認可能であり、
前記第1の主面が高粘着面及び低粘着面を含
み、
前記第1のパターンイメージの歪みと、歪んでいない前記第2のパターンイメージとによって生じるモアレ縞が、前記第1の主面の法線方向から前記シートを観察した際に前記低粘着面と重なる領域において検出可能であるように構成されている、
シート。
【請求項2】
前記高粘着面が、アクリル系、ゴム系及びエポキシ系からなる群から選択される1種以上の感圧接着剤で構成されている、請求項1に記載のシート。
【請求項3】
前記第1の主面の法線方向から前記シートを観察した際に前記低粘着面と重なる領域を含む領域に配置されたゲージを有する、請求項1又は2に記載のシート。
【請求項4】
前記高粘着面の面積Aに対する前記低粘着面の面積Bの比B/Aが、1%~500%である、請求項1~3のいずれか一項に記載のシート。
【請求項5】
第1の主面、及び前記第1の主面に対向する第2の主面を有するシートであって、
前記シートが、
第1のパターンイメージを有する第1部、
第2のパターンイメージを有する第2部、及び
前記第1部と前記第2部との間に存在する第3部、
を有し、
前記第1部が前記第2部よりも大きい伸長性を有し、
前記第1部が前記シートの第1の主面を含み、
前記第2部が前記シートの第2の主面を含み、
前記第1のパターンイメージが前記第2のパターンイメージを介して視認可能であり、
前記第1の主面が、第1粘着部と、前記第1粘着部から離隔して配置された第2粘着部とを含
み、
前記第1のパターンイメージの歪みと、歪んでいない前記第2のパターンイメージとによって生じるモアレ縞が、前記第1の主面の法線方向から前記シートを観察した際に前記第1粘着部及び前記第2粘着部と重ならない領域において検出可能であるように構成されている、
シート。
【請求項6】
前記第1粘着部及び前記第2粘着部の各々が、アクリル系、ゴム系及びエポキシ系からなる群から選択される1種以上の感圧接着剤で構成されている、請求項5に記載のシート。
【請求項7】
前記第1の主面の法線方向から前記シートを観察した際に前記第1粘着部及び前記第2粘着部と重ならない領域を含む領域に配置されたゲージを有する、請求項5又は6に記載のシート。
【請求項8】
前記第1の主面の面積Cに対する、前記第1粘着部及び前記第2粘着部の合計面積Dの比D/Cが、10%~99%である、請求項5~7のいずれか一項に記載のシート。
【請求項9】
前記第1部は、前記第1のパターンイメージを有する高伸長性層を含み、
前記第2部は、前記第2のパターンイメージを有する低伸長性層を含み、
前記第3部は、粘弾性層を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のシート。
【請求項10】
前記シートを引張試験に供したときに、
前記高伸長性層が、ヤング率0.5GPa以下を示し、
前記低伸長性層が、ヤング率1.0GPa以上を示す、請求項9に記載のシート。
【請求項11】
前記シートを引張試験に供したときに、
前記高伸長性層が、引張強度0.5MPa以上100MPa以下及び伸び3%以上200%以下を示し、
前記低伸長性層が、引張強度50MPa以上350MPa以下及び伸び1%以上200%以下を示し、
前記粘弾性層が、引張強度0.01MPa以上100MPa以下及び伸び10%以上3000%以下を示す、請求項9又は10に記載のシート。
【請求項12】
前記高伸長性層のみを前記シート面内方向に引っ張ったときに、前記高伸長性層の破断が前記低伸長性層の破断よりも先に生じる、請求項9~11のいずれか一項に記載のシート。
【請求項13】
前記高伸長性層の前記破断時において、低伸長性層の伸びが、高伸長性層の伸びに対して0~35%である、請求項12に記載のシート。
【請求項14】
前記高伸長性層が、ポリスチレン、ポリオレフィン、オレフィンコポリマー、ビニルコポリマー、(メタ)アクリルポリマー、(メタ)アクリルコポリマー及びポリウレタンからなる群から選択される少なくとも1種のポリマーを含む、請求項9~13のいずれか一項に記載のシート。
【請求項15】
前記低伸長性層が、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリビニル、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリイミド、ポリウレタン、ポリイミド、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテル、ポリアセタール、ポリフェニレン、ポリエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ナイロン及びポリカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種のポリマーを含む、請求項9~14のいずれか一項に記載のシート。
【請求項16】
前記粘弾性層が、ポリオレフィン、オレフィンコポリマー、ビニルコポリマー、(メタ)アクリルポリマー、(メタ)アクリルコポリマー、ポリウレタン、及びシリコーンポリマーからなる群から選択される少なくとも1種のポリマーを含む、請求項9~15のいずれか一項に記載のシート。
【請求項17】
前記第1部の変位量100%に対する前記第2部の変位量の割合が30%以下である、請求項1~16のいずれか一項に記載のシート。
【請求項18】
前記第1部を10mm変位させたときに前記第2部が3mm以下の変位を示す、請求項1~17のいずれか一項に記載のシート。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか一項に記載のシートを含む、建造物変形評価用物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シート、及び該シートを含む建造物変形評価用物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建造物等の対象物の歪み、損傷等を検出するための方法が種々提案されている。例えば建造物等の構造物のコンクリート壁の変形は、構造物に深刻な損傷をもたらす。このような変形の進行を監視する方法としては、歪みゲージ又はルーラーによる測定が従来公知である。しかし、これらの方法は、歪みゲージ又はルーラーを用いるという測定方法に起因して、測定者による測定値のばらつき(すなわち測定誤差)を有する可能性があり、変形の正確な検出という要求を十分満たすものではない。加えて、測定は対象物の付近で行う必要がある。よって、対象物に近づく必要がなく、かつ正確で簡便な変形測定を可能にする方法に対する要求がある。
【0003】
特許文献1は、モアレ縞を利用して2地点間の微小な相対変位を計測するモアレ縞を使った変位計測方法であって、計測対象に沿うように設置され相互に重ねられた2枚の板状の部品からなる計測装置の2枚の板状の部品のそれぞれに、空間的に周期構造をもつ格子を表示し、格子同士の光学的な干渉により生じるモアレ縞の移動量を読み取ることで計測対象の変位を計測することを特徴とするモアレ縞を使った変位計測方法を提供する。
【0004】
特許文献2は、モアレ縞を使って観測地点の微小変位を計測する微小変位計測装置であって、前記観測地点に設置した空間的に周期構造を持つ実体格子を遠隔地点から撮像する撮像手段、前記撮像手段の撮像出力をディジタル信号に変換して実体格子画像データを出力する変換手段、および別途作成した参照格子画像データと前記変換手段から出力された実体格子画像データとを加算平均してモアレ縞画像データを出力する画像処理手段を備えた、モアレ縞を使った微小変位計測装置を提供する。
【0005】
特許文献3は、被測定対象に直接的或いは間接的に取り付けられ、複数の平行線が施された固定側モアレスリット板と、前記被測定対象に直接的或いは間接的に取り付けられる振動伝達部材と、前記振動伝達部材に固定される振動子と、前記振動子に固定され、複数の平行線が施された移動側モアレスリット板と、を備え、それぞれの前記平行線の角度が異なるように前記固定側モアレスリット板と前記移動側モアレスリット板とが重ねて配置されてモアレ縞を発現させ、前記振動伝達部材を経由する前記被測定対象の振動による前記振動子の変位により前記移動側モアレスリット板をスライドさせ、前記モアレ縞の変位量を前記振動子の変位量よりも大きくして表示する、ことを特徴とする微小変位表示デバイスを提供する。
【0006】
特許文献4は、シート状繊維にマトリックス樹脂を含浸させて形成した繊維含有プラスチックプレートと、該繊維含有プラスチックプレートをコンクリート表面に貼付するための接着材とで構成されるセンサで、該繊維含有プラスチックプレートを該接着材で被測定コンクリートのひび割れを跨ぐように貼付して、ひび割れ幅の拡大に対応して生じる白化部分に基づいて該ひび割れの成長を検出できるようにしたことを特徴とするコンクリートひび割れセンサを提供する。
【0007】
特許文献5は、第1のパターンイメージを有する変形追従部、第2のパターンイメージを有する非変形追従部、及び該変形追従部と該非変形追従部との間に存在する変形緩衝部、を有するシートであって、該第1のパターンイメージが該第2のパターンイメージを介して視認可能である、シートを記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2011-191282号公報
【文献】特開平10-082614号公報
【文献】特開2010-271253号公報
【文献】特開2012-093260号公報
【文献】特開2015-184043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1~3に記載される方法では、モアレ縞を生成させるための部品及び発生させたモアレ縞を計測するための装置の構成が複雑であり、変位の計測を簡便に行えるものではなかった。一方、特許文献4に記載されるセンサ及び特許文献5に記載されるシートによれば、変位の計測を比較的簡便に行えると考えられるが、対象物における歪み、損傷等による変位の発生初期段階では、変位量が小さいために当該変位を明瞭に観測するという点では改善の余地があった。
【0010】
本発明は、上記の課題を解決し、対象物の変位が小さい場合にも当該変位を明瞭かつ簡便に観測することを可能にするシート、及び該シートを含む建造物変形評価用物品の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、
第1の主面、及び該第1の主面に対向する第2の主面を有するシートであって、
該シートが、
第1のパターンイメージを有する第1部、
第2のパターンイメージを有する第2部、及び
該第1部と該第2部との間に存在する第3部、
を有し、
該第1部が該第2部よりも大きい伸長性を有し、
該第1部が該シートの第1の主面を含み、
該第2部が該シートの第2の主面を含み、
該第1のパターンイメージが該第2のパターンイメージを介して視認可能であり、
該第1の主面が高粘着面及び低粘着面を含む、シートを提供する。
【0012】
本発明の別の態様は、
第1の主面、及び該第1の主面に対向する第2の主面を有するシートであって、
該シートが、
第1のパターンイメージを有する第1部、
第2のパターンイメージを有する第2部、及び
該第1部と該第2部との間に存在する第3部、
を有し、
該第1部が該第2部よりも大きい伸長性を有し、
該第1部が該シートの第1の主面を含み、
該第2部が該シートの第2の主面を含み、
該第1のパターンイメージが該第2のパターンイメージを介して視認可能であり、
該第1の主面が、第1粘着部と、該第1粘着部から離隔して配置された第2粘着部とを含む、シートを提供する。
【0013】
本発明の別の態様は、上記シートを含む建造物変形評価用物品を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、対象物の変位を検出する際に、小さい変位量であっても当該変位を明瞭かつ簡便に検出することを可能にするシート及びこれを含む建造物変形評価用物品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本開示のシートの例を示す図である。
【
図2】
図2は、本開示のシートの第1の主面における固定領域及び非固定領域の例を示す図である。
【
図3】
図3は、本開示のシートの例を示す図である。
【
図4】
図4は、本開示のシートの例を示す図である。
【
図5】
図5は、本開示のシートの例を示す図である。
【
図6】
図6は、本開示のシートによる対象物の変位評価について説明する図である。
【
図7】
図7は、本開示のシートによる対象物の変位評価について説明する図である。
【
図8】
図8は、本開示のシートの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の例示の態様について説明するが、本発明は以下の態様に限定されず、特許請求の範囲の精神及び範囲から逸脱しない任意の改変が本発明に包含されることが意図される。
【0017】
<シート>
図1は、本開示のシートの例を示す図であり、
図1(A)は使用前の変形していない状態のシート、
図1(B)は使用時に変形した状態のシートを示している。本発明の一態様は、第1の主面S1、及び該第1の主面S1に対向する第2の主面S2を有するシート1を提供する。シート1は、第1のパターンイメージ(図示せず)を有する第1部101、第2のパターンイメージ(図示せず)を有する第2部102、及び該第1部101と該第2部102との間に存在する第3部103を有する。一態様において、第1部101は、第2部102よりも大きい伸長性を有する。本開示で、「伸長性が大きい」とは、たとえば弾性率(ヤング率)の数値が小さいこと、同じ力で引っ張ったときの伸びの数値が大きいこと、破断に至るまでの伸びの数値が大きいことを意味する(必ずしもすべての数値条件を満たす必要はない)。一態様において、第1部101はシート1の第1の主面S1を含み、第2部102はシート1の第2の主面S2を含む。一態様において、第1のパターンイメージは第2のパターンイメージを介して視認可能である。一態様において、本開示のシートは、第1の主面S1の一部の領域が対象物に固定され得るように構成される。
【0018】
第1部101は第1のパターンイメージを有し、第2部102は第2のパターンイメージを有する。本開示のシート1は、第1のパターンイメージと第2のパターンイメージとが生成するモアレ縞が検出可能であるように構成されている。より具体的には、第1のパターンイメージは第2のパターンイメージを介して視認可能である。ここで第1のパターンイメージが第2のパターンイメージを介して視認可能であるとは、第2の主面S2側からシート1を観察したときに、第1のパターンイメージが第2のパターンイメージとともに視覚化できることを意味する。視覚化の手段は任意に選択でき、例えば各種カメラを用いた可視光下でのパターンイメージ撮影を例示できる。第1のパターンイメージが第2のパターンイメージを介して視認可能であるような構成によれば、第1のパターンイメージと第2のパターンイメージとの干渉によって生成するモアレ縞もまた視認可能である。従って、本開示のシートによれば、対象物の変形を簡便に評価することが可能であり、例えば、対象物に近接する必要がなく遠方からの評価が可能である。
【0019】
第1のパターンイメージが第2のパターンイメージを介して視認可能であるための好ましい態様において、本開示のシートの、第1のパターンイメージから第2のパターンイメージを介してシート表面に至るまでの部位は、典型的には明澄な材料で構成されている。本開示で、「明澄な材料」とは、300~830nm波長光における全光線透過率が30%以上であること、より好ましくは80%以上であることを意味する。上記全光線透過率は、ヘイズメーター(例えば、NDH2000ヘイズメーター(日本電色工業(株)製 東京都文京区))にて測定される値である。
【0020】
本開示のシートの主要な特徴の1つは、第1部の変位によって第1のパターンイメージが歪むこと、及び、第2部が有する第2のパターンイメージは、上記第1のパターンイメージの歪みの影響を実質的に受けないこと、すなわち実質的に歪まないことである。シートは、対象物に固定されたときに該対象物の変位を第1のパターイメージの歪みによって検出できる。そしてこの第1のパターンイメージの歪みと、歪んでいない第2のパターンイメージとによって生じるモアレ縞を検出及び解析することにより、該対象物に生じた変位を評価できる。
【0021】
第1部101が、第2部102よりも大きい伸長性を有することで、第1部101が変形追従部(すなわち、シートが対象物に固定された状態で対象物に変位が生じた際に、該対象物の変位に追従して変位する能力を有する(
図1(B)に示すように)部位)として機能するとともに、第2部102が非変形追従部(すなわち、第1部に変位が生じた際に該変位に実質的に追従せず、従って実質的に変位が生じない(
図1(B)に示すように)部位)として機能することができる。典型的な態様において、第3部103は、変形緩衝部(すなわち、上記第2部102が上記第1部101の変位によって実質的に変位しないために十分な変形緩衝能力を有する(
図1(B)に示すように)部位)として機能できる。
【0022】
一態様において、本開示のシートは、第1の主面S1のうち一部の領域(本開示で、固定領域ともいう。)が対象物に固定され、他の領域(本開示で、非固定領域ともいう。)が対象物に固定されないような態様で、対象物に対して固定されることが予定される。一態様において、固定領域は、シートを、被着体としての対象物(例えば当該シートを建造物変形評価用に用いる場合の建造物)に接着させるのに十分な粘着性を備えている。一方、非固定領域は、対象物への接着を可能にするのに十分な粘着性を備えている必要はない。すなわち、本開示のシートの第1の主面は、対象物に対して、実質的に固定領域のみで接着されていてよい。
【0023】
図2は、本開示のシートの第1の主面における固定領域及び非固定領域の例を示す図である。例示の態様において、固定領域101a,101b及び非固定領域101cの配置としては、以下に限定されないが例えば、
図2(A)に示すような第1の主面の長さ(L)方向中央部に幅(W)方向全体に亘って延びる矩形形状の非固定領域101cとこれを挟む固定領域101a,101bが、長さL方向に広がっていく変位の測定(たとえば線状の損傷やひび割れの幅が広がっていく変位の測定)には適している。また、
図2(B)に示すような長さ(L)方向及び幅(W)方向の中央部に配置された矩形形状の非固定領域101cとこれを囲む固定領域101a、
図2(C)に示すような長さ(L)方向及び幅(W)方向の中央部に配置された楕円形状の非固定領域101cとこれを囲む固定領域101a等の配置は、長さLと幅Wの方向に放射状に広がっていく変位の測定(たとえば点状の損傷やひび割れが放射状に広がっていく変位の測定)には適している。
【0024】
図3~5は、本開示のシートの例を示す図である。一態様において、固定領域101a,101bと非固定領域101cとの組合せは、高粘着面S111a,S111bと低粘着面S111cとの組合せ、高粘着面S121a,S121bと低粘着面121cとの組合せ、高粘着面S131a,S131bと低粘着面S131cとの組合せ、等である。これらの態様では、シート1の第1の主面S1は、高粘着面と低粘着面とで構成されることになる。本開示で、「高粘着面」とは、シートを被着体に貼りつけた際の接着力が「低粘着面」よりも強いこと意味する。接着力が強いとは、たとえばシートの被着体に対する剥離力(90°ピール等)、剪断力、保持力の数値が高いことを意味する(すべての数値が大きいことは必須ではない)。「低粘着面」は、いわゆる接着力が実質的にない面であってもよい。なお
図3~5では、固定領域101a,101b及び非固定領域101cが
図2(A)に示すように配置される場合について例示している。
【0025】
一態様において、
図3に示すように、高粘着面S111a,S111bは第1部101の低粘着性の本体111上に配置された高粘着部(第1粘着部111a、及び該第1粘着部111aから離隔して配置された第2粘着部111bとして)によって与えられ、低粘着面S111cは本体111が露出している部位によって与えられる。
【0026】
図3の他の一態様において、
図4に示すように、高粘着面S121a,S121bは第1部101の高粘着性の本体121が露出している部位によって与えられ、低粘着面S121cは本体121上に配置された低粘着部121cによって与えられる。
【0027】
図3及び4の他の一態様において、
図5に示すように、高粘着面S131a,S131bは第1部101の本体131(高粘着性でも低粘着性でもよい)上に配置された高粘着部(第1粘着部131a、及び該第1粘着部131aから離隔して配置された第2粘着部131bとして)によって与えられ、低粘着面S131cは該本体131上に配置された低粘着部131cによって与えられる。
【0028】
上記低粘着性の本体は、例えば、高伸長性層として後述するような材料で構成できる。
【0029】
上記高粘着部は、感圧接着剤で構成されていることができ、例えば単層フィルム状の感圧接着フィルム、2つの感圧接着層を有する両面接着シート等が挙げられる。感圧接着剤は、例えば、粘着性ポリマーを含有する塗膜として形成できる。好ましい接着剤は、粘着性ポリマーと粘着性ポリマーとを架橋する架橋剤とを含有する。本開示で、粘着性ポリマーとは、常温(約25℃)で粘着性を示すポリマーである。感圧接着剤としては、アクリル系、ゴム系ポリウレタン、エポキシ系等が挙げられる。
【0030】
上記高粘着性の本体は、上記粘着性ポリマーで構成できる。
【0031】
上記低粘着部は、高伸長性層として後述するような材料であって被着体に対する実質的な接着力がない材料で構成されていてもよいし、フッ素系樹脂のように被着体に対する滑り容易性を向上する材料で構成されていてもよいし、上記高粘着部と同等の材料であって接着力が高粘着部よりも弱い材料であってもよい。
【0032】
本開示のシートを用いて対象物の変位を評価する際にはシートのモアレ縞を検出することになる。モアレ縞の検出機器は、必ずしもシート近傍まで接近する必要はないため、本開示のシートは簡便な評価という点で有利である。加えて、本開示のシートは、安価であり、かつ電源等を必要としないため設置が簡便であるという点でも有利である。
【0033】
更に、本開示のシートは、特に対象物の変位が小さい場合にも当該変位を明瞭に観測できる点で有利である、以下、本開示のシートを対象物に固定した際にこの利点が得られる理由について説明する。
図6は、本開示のシートによる対象物の変位評価について説明する図である。
図6(A)は
図3に示す本開示のシート1による対象物の変位評価について示しており、
図6(B)は比較シート10による対象物の変位評価について示している。比較シート10は、粘着部11aが第1の主面全体に形成されている他は
図3に示すシート1の第1部101と同様である第1部10、並びに、該シート1と同様の第2部102及び第3部103を有している。
【0034】
図6(A)を参照し、高粘着面S111a,S111bによってシートを対象物Oに固定した状態で該対象物Oに変位量Dの変位が生じると、該対象物Oの変位に追従してシートの第1部101が変位する。一方、第2部102は第1部101よりも伸長性が小さく、第1部101の変位に追従しない。これにより第1のパターンイメージと第2のパターンイメージとの間に干渉が生じ、モアレが現れる。このとき、シートにおける低粘着面S111cは、対象物Oに固定されていないため、シートを第2の主面側から、第1の主面の法線方向に(すなわち図中の矢印Aの方向に)みたときに、低粘着面S111cに対応する領域R101全体にモアレが観測される。モアレの周期は、干渉に係る2つのパターンイメージの周期の差が小さい方が大きく表れる。従って、変位量Dの変位によって第1のパターンイメージと第2のパターンイメージとを干渉させ、それによって表れるモアレを、変位が生じた領域よりも広範囲である領域R101で観測すると、比較シート10(すなわち変位量Dによるモアレを領域R11で観測する)と比べて、モアレをより大きい周期及びより大きい視認面積にて評価できる。従って、本開示のシートは、特に対象物の変位が小さい場合にも当該変位を明瞭に観測できる点で有利である。
【0035】
また、このような大面積での明瞭なモアレ観測によれば、変位を検出及び記録するための装置をより単純化できる。例えば、本開示のシートを用いた変位評価は、一般的なカメラを用いても十分有効である。従って、本開示のシートによれば、少ない時間及びコストでの変位評価が可能である。
【0036】
本開示のシートの第1部、第2部及び第3部は、単層又は複数層で構成されていることができる。単層が適切な厚み及び物性を有していることによって、第1部、第2部及び第3部が構成されていてもよい。また、第1部、第2部及び第3部が、材質、厚み等が互いに異なる複数層で構成されていてもよい。また、更に別の例示の態様においては、第1部、第2部及び第3部が、第1部及び第2部として機能する層と、第3部として機能する層との2層で構成されることができ、又は、第1部として機能する層と、第2部及び第3部として機能する層との2層で構成されることができる。以上のように、シートの層構成は、第1部、第2部及び第3部として機能する部位を有することを条件として任意に設計可能である。
【0037】
第1のパターンイメージ及び第2のパターンイメージとしては、モアレ縞により変位を評価するのに用いられる従来公知の任意のパターンイメージを採用できる。パターンイメージの詳細、例えばパターンイメージ形状の種類、ピッチ等は、目的の変位の量等に応じて適宜選択できる。パターンイメージ形状としては、グリッド、千鳥模様、ドット、複数の平行な直線等を例示できる。例示の態様において、第1及び第2のパターンイメージが、それぞれピッチ約0.4mm~約0.8mm程度を有するグリッドであることができる。例えば、本開示のシートの好適な用途である建造物の壁面等の変形評価においては、例えば0.1~2.0mm程度の変位の検出が所望される場合が多い。このような用途に適したパターンイメージの形状及びピッチの例としては、例えば、一辺が100mm程度のサイズのシートにおいて、ピッチ約0.3mm~約1.0mm程度が挙げられる。
【0038】
好ましい態様において、第1部の変位量100%に対する第2部の変位量の割合は、約30%以下、約20%以下、約10%以下、又は約0%であることができる。上記割合は、後述する変位の測定方法において、シートの少なくとも一部が破断するまでのいずれかの任意の時点で満足されればよい。しかし好ましい態様においては、第1部の変位が0mmである状態から該変位を増大させたときに、例えばシートの少なくとも一部が破断するまでの全時点で、上記割合が満足される。
【0039】
また、好ましい態様において、第1部を10mm変位させたときに、第2部が示す変位は、約3mm以下、又は約2.0mm以下、又は約1.0mm以下、又は約0mmであることができる。
【0040】
但し上記の変位は、各々、以下の方法又はこれと同等であることが当業者に理解される方法で測定される。
【0041】
図7は、本開示のシートによる対象物の変位評価について説明する図であり、
図7(A)は上面図であり、
図7(B)は側面図である。
図7を参照し、所定サイズ(例えば長さ100mm×幅25mm)の本開示のシート1、及び、シートを固定可能な矩形の板3(例えば、ステンレス板等の金属板)2枚を準備する。シート1が長さ方向Lにおいて2枚の板3に跨るようにシート1の第1の主面の固定領域を板3表面に固定する。2枚の板3の各々を把持具(図示せず)で把持し、2枚の板3を互いに引き離す方向に(すなわち
図7(A)中の矢印Aの方向に)、5mm/秒で板間距離が所定距離(例えば10mm)になるまで、引張試験機(例えばSHIMADZU AUTOGRAPH AGS-X 株式会社島津製作所製 京都府京都市)で引っ張る(
図7(B)に示すように)。このとき例えば第1部が破断した場合にも引っ張り操作は継続する。このときのシートの第2部102側表面の長さL1を計測(長さが最大となる箇所にて計測)し、試験前の第2部102の長さ(例えば上記の100mm)を差し引いて、第2部102の変位とする。第2部の変位が第1部の変位の約30%以下であること、又は、第1部を10mm変位させたときの第2部の変位が約3mm以下であることは、いずれも、第1のパターンイメージと第2のパターンイメージとが生成するモアレ縞に基づいた変位の評価の精度が良好であることを示す。
【0042】
図8は、本開示のシートの例を示す図である。
図8(A)は第2の主面側からみたときの第2部について説明する図であり、
図8(B)は第2の主面側からみたときの第1部について説明する図である。シートにおいては、
図8(B)に示すような第1部101と、第3部(
図8では図示せず)と、
図8(A)に示すような第2部102とがこの順に配置されていることが理解されよう。一態様において、シートは、ゲージ、マーカー、及びルーラーから選ばれる1つ以上の目印を有してよい。これら目印は、シートの、第1部、第2部又は第3部に、例えば印刷により配置されてよい。
図8を参照し、例示の態様において、第1部101に、第1のパターンイメージP101、ゲージ104、マーカー105、ルーラー106を例えば印刷によって形成し、第2部102に、第2のパターンイメージP102を例えば印刷によって形成することができる。なお、ゲージ104は、対象物の変位(クラック等)の幅を当該ゲージとの照合により計測するために種々の線幅を表示するものであり、マーカー105は、シート1を対象物に対して位置合わせするためのマークを表示するものである。またルーラー106は寸法目盛を表示するものである。
【0043】
例示の態様において、ゲージ104及び/又はマーカー105が、第1の主面の法線方向からシートを観察した際に非固定領域に重なる部位に配置されることは、対象物の目的の評価位置上に非固定領域を確実に位置合わせする点で有利である。
【0044】
一態様においては、第1の主面の法線方向からシートを観察した際に低粘着面と重なる領域を含む領域に配置されたゲージを有する。また、一態様において、第1の主面の法線方向からシートを観察した際に第1粘着部及び第2粘着部と重ならない領域を含む領域に配置されたゲージを有する。
【0045】
好ましい態様において、第1部は、第1のパターンイメージを有する高伸長性層を含む。好ましい態様において、第2部は、第2のパターンイメージを有する低伸長性層を含む。好ましい態様において、第3部は、粘弾性層を含む。好ましい態様において、シートは、高伸長性層、低伸長性層及び粘弾性層からなる。
【0046】
典型的な態様において、高伸長性層と粘弾性層とは、高伸長性層自体の粘着性によって、若しくは粘弾性層自体の粘着性によって、若しくは別途の接着層によって、又はこれらの2つ以上の組合せによって、互いに接着されている。また典型的な態様において、粘弾性層と低伸長性層とは、粘弾性層自体の粘着性によって、若しくは低伸長性層自体の粘着性によって、若しくは別途の接着層によって、又はこれらの組合せによって、互いに接着されている。
【0047】
(高伸長性層)
高伸長性層は、第1部として機能するのに十分な伸長性を有する任意の材料で構成されていることができる。特定の態様において、パターンイメージの視認可能性の観点から高伸長性層は明澄である。好ましい態様において、高伸長性層は、ポリスチレン、ポリオレフィン、オレフィンコポリマー、ビニルコポリマー、(メタ)アクリルポリマー、(メタ)アクリルコポリマー及びポリウレタンからなる群から選択される少なくとも1種のポリマーを含む。なお本開示で、「(メタ)アクリル」とは、アクリル又はメタクリルを意味する。
【0048】
好ましい態様において、高伸長性層は、(A)カルボキシ基含有(メタ)アクリルコポリマーと、(B)アミノ基含有(メタ)アクリルコポリマーとを(A):(B)質量比約10:90~約90:10で含む。この場合、高伸長性層は優れた耐候性、及び被着体への追従性を有することができる。
【0049】
好ましい態様において、(A)カルボキシ基含有(メタ)アクリルコポリマーは、主成分であるモノエチレン性不飽和モノマーと、カルボキシル基を含有する不飽和モノマーとを含む組成物を共重合させて得たものであることができる。
【0050】
好ましい態様において、(B)アミノ基含有(メタ)アクリルコポリマーは、主成分であるモノエチレン性不飽和モノマーと、アミノ基を含有する不飽和モノマーとを含む組成物を共重合させて得たものであることができる。
【0051】
(A)カルボキシ基含有(メタ)アクリルコポリマー及び(B)アミノ基含有(メタ)アクリルコポリマーのそれぞれにおいて、上記共重合は、ラジカル重合により行なうことが好ましい。この場合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合、塊状重合等の公知の重合方法を用いることができる。開始剤としては過酸化ベンゾイル、ラウロイルパーオキサイド、ビス(4-ターシャリーブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートのような有機過酸化物や、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-2-メチルブチロニトリル、4,4’-アゾビスー4-シアノバレリアン酸、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル、アゾビス2,4-ジメチルバレロ二トリル(AVN)等のアゾ系重合開始剤が用いられる。この開始剤の使用量としては、モノマー混合物100質量部あたり、約0.05質量部~約5質量部とするのがよい。
【0052】
高伸長性層において、(A)カルボキシル基含有(メタ)アクリルコポリマー及び(B)アミノ基含有(メタ)アクリルコポリマーの一方のTgを0℃以上とし、かつ他方のTgを0℃以下とすることが好ましい。高いTgを有する(メタ)アクリルコポリマーは高伸長性層に高い引張強さを与える一方、低いTgを有する(メタ)アクリルコポリマーは高伸長性層の伸び特性を良好にするからである。
【0053】
好ましい態様において、(A)カルボキシ基含有(メタ)アクリルコポリマー及び(B)アミノ基含有(メタ)アクリルコポリマーの重量平均分子量は、それぞれ、約10,000以上、又は約50,000以上、又は約100,000以上であり、また約10,000,000以下、又は約1,000,000以下である。
【0054】
好ましい態様において、上記モノエチレン性不飽和モノマーとしては、一般式CH2=CR1COOR2(式中、R1は水素又はメチル基であり、R2は直鎖又は分岐状のアルキル基、フェニル基、アルコキシアルキル基、又はフェノキシアルキル基である)で表されるモノマー、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニルモノマー、酢酸ビニル等のビニルエステル類が挙げられる。このようなモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等のフェノキシアルキル(メタ)アクリレート、メトキシプロピル(メタ)アクリレートや2-メトキシブチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。モノエチレン性不飽和モノマーは、所望のガラス転移温度、引張強さ、及び伸び特性を得るために、その目的に応じて1種又は2種以上を使用できる。
【0055】
例えば、メチルメタクリレート(MMA)、n-ブチルメタクリレート(BMA)等、単体で重合した場合のホモポリマーが0℃以上のTgを有するような(メタ)アクリル系モノマーを主成分として共重合させることにより、容易にTgが0℃以上の(メタ)アクリルコポリマーを得ることができる。
【0056】
また、エチルアクリレート(EA)、n-ブチルアクリレート(BA)、2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA)等、単体で重合した場合のホモポリマーが0℃以下のTgを有するような成分を主成分として共重合させることにより、容易にTgが0℃以下の(メタ)アクリルコポリマーを得ることができる。
【0057】
ここで、(A)カルボキシル基含有(メタ)アクリルコポリマー、及び(B)アミノ基含有(メタ)アクリルコポリマーのガラス転移温度(Tg)は、各ポリマーがn種類のモノマーから共重合されているとして、FOXの式(下式)より求められる。
1/Tg=X1/(Tg1+273.15)+X2/(Tg2+273.15)+・・・
+Xn/(Tgn+273.15)
(Tg1:成分1のホモポリマーのガラス転移点
Tg2:成分2のホモポリマーのガラス転移点
X1:重合の際に添加した成分1のモノマーの重量分率
X2:重合の際に添加した成分2のモノマーの重量分率
X1+X2+・・・+Xn=1)
【0058】
上記モノエチレン性不飽和モノマーと共重合してカルボキシル基含有(メタ)アクリルコポリマーを構成する、カルボキシル基を含有した不飽和モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ω-カルボキシポリカプロラクトンモノアクリレート、フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、β-カルボキシエチルアクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸等が挙げられる。
【0059】
カルボキシル基含有(メタ)アクリルコポリマーは、モノエチレン性不飽和モノマーを主成分として(具体的には約80質量部~約95.5質量部の範囲で)、かつカルボキシル基を含有する不飽和モノマーを約0.5質量部~約20質量部の範囲で共重合して得るのが好ましい。
【0060】
上記モノエチレン性不飽和モノマーと共重合してアミノ基含有(メタ)アクリルコポリマーを構成する、アミノ基を含有する不飽和モノマーとしては、N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート(DMAEA)、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(DMAPAA)、N,N-ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、及びビニルイミダゾール等の含窒素複素環を有するビニルモノマーに代表される3級アミノ基を有するモノマー等が挙げられる。
【0061】
アミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマーは、モノエチレン性不飽和モノマーを主成分として(具体的には約80質量部~約95.5質量部の範囲で)、かつアミノ基を含有する不飽和モノマーを約0.5質量部~約20質量部の範囲で共重合して得るのが好ましい。
【0062】
上記のようにカルボキシル基含有(メタ)アクリルコポリマーと、アミノ基含有(メタ)アクリルコポリマーとをそれぞれ別々に重合した後、通常のフィルム成形方法により、高伸長性層を形成できる。例えば、これらのポリマーの溶液を混合し、ライナーの剥離面上に塗布し、乾燥・固化させることにより高伸長性層を形成することができる。塗布装置としては、通常のコータ、例えば、バーコータ、ナイフコータ、ロールコータ、ダイコータ等を用いることができる。固化操作は、揮発性溶媒を含む塗料の場合の乾燥操作や、溶融した樹脂成分を冷却する操作と同様である。また、高伸長性層は、溶融押出成形法によっても形成することができる。
【0063】
高伸長性層の形成において、カルボキシル基含有(メタ)アクリルコポリマーと、アミノ基含有(メタ)アクリルコポリマーとの配合比を変化することにより、所望の引張強さ及び伸び特性を有する高伸長性層を得ることができる。具体的には、カルボキシル基含有(メタ)アクリルコポリマーとアミノ基含有(メタ)アクリルコポリマーのうち、Tgが相対的に高いポリマー:Tgが相対的に低いポリマーの配合比を、約10:90~約90:10、又は約20:80~約90:10、又は約30:70~約90:10とすることができる。好ましい態様においては、Tgが相対的に高いコポリマーの量を、Tgが相対的に低いコポリマーの量よりも多くする。
【0064】
好ましい態様において、高伸長性層は、上記(A)カルボキシ基含有(メタ)アクリルコポリマー及び上記(B)アミノ基含有(メタ)アクリルコポリマーに加え、(C)カルボキシル基と反応する官能基を有する架橋剤を更に含む。この架橋剤は、(A)カルボキシ基含有(メタ)アクリルコポリマーと(B)アミノ基含有(メタ)アクリルコポリマーとの架橋に寄与する。このような架橋により網目構造が形成され、高伸長性層の低温における伸び特性が更に向上する。有利には、架橋剤は、カルボキシル基と反応することのできる官能基を有し、具体的にはビスアミド系架橋剤(例えば、3M製RD1054)、アジリジン系架橋剤(例えば、日本触媒製ケミタイトPZ33、アビシア製NeoCrylCX-100)、カルボジイミド系架橋剤(例えば、日清紡製カルボジライトV-03,V-05,V-07)、エポキシ系架橋剤(例えば綜研化学製E-AX,E-5XM,E5C)等を使用できる。架橋剤の使用量は、(A)カルボキシル基含有(メタ)アクリルコポリマー100質量部に対して約0.1~約5質量部である。
【0065】
高伸長性層は、所望に応じて更に各種の添加剤を1種以上含んでもよい。添加剤としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、滑材、帯電防止剤、難燃剤、充填剤等を例示できる。
【0066】
好ましい態様において、高伸長性層は、例えば数mm程度の変位に対して破断しないような強度を有している。この観点において、高伸長性層は、引張強度約100MPa以下を有することが好ましい。またこの観点において、高伸長性層の厚みは、例えば、約10μm~約150μm、又は約30μm~約100μmであってよい。
【0067】
好ましい態様において、高伸長性層は、第1及び第2の主面を有し、該第1の主面上に第1のパターンイメージを有する。第1のパターンイメージは例えば印刷層である。例えば、前述したようなポリマーから形成した伸長性フィルムの表面に所望のパターンイメージを直接印刷する方法、支持体上に形成した所望のパターンイメージを有する印刷層を該伸長性フィルム上に転写する方法、等によって、印刷層を有する高伸長性層を形成できる。印刷は、インクジェット、グラビア、凸版、フレキソ、スクリーン、静電複写、昇華放熱転写等で行うことができる。例示の態様においては、上記第1の主面が粘弾性層と対向するように高伸長性層と粘弾性層とが互いに固定されている。この場合、第1のパターンイメージが粘弾性層によって保護され、損傷しにくい点で有利である。別の例示の態様においては、上記第2の主面が粘弾性層と対向してもよい。この場合、第1のパターンイメージがコート層等により保護されてもよい。
【0068】
(低伸長性層)
低伸長性層は、高伸長性層よりも伸長性が小さい層である。低伸長性層は、第2部として機能するのに十分な低伸長性を有する任意の材料で構成されていることができる。パターンイメージの視認可能性の観点から低伸長性層は典型的には明澄である。
【0069】
好ましい態様において、低伸長性層は、ポリエステル、ポリオレフィン及びポリビニルからなる群から選択される少なくとも1種のポリマーを含む。低伸長性層は、典型的には硬質フィルムであることができる。硬質フィルムは市販で入手可能なものであってもよく、市販品としては例えばポリエステル、ポリオレフィン、ポリビニル、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリイミド、ポリウレタン、ポリイミド、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテル、ポリアセタール、ポリフェニレン、ポリエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ナイロン及びポリカーボネート等が挙げられる。
【0070】
典型的な態様において、低伸長性層は、使用時に環境中に露出する場合がある。従って低伸長性層は優れた耐候性を有していることが好ましい。この観点から好ましい低伸長性層としては、ポリエステルが挙げられる。
【0071】
典型的な態様において、低伸長性層は、高伸長性層に変位が生じたときに実質的に変位しないために十分な強度を有している。この観点において、低伸長性層は、引張強度約50MPa以上を有することが好ましい。またこの観点において、低伸長性層の厚みは、例えば、約10μm~約150μm、又は約50μm~約100μmであってよい。
【0072】
好ましい態様において、低伸長性層は、第1及び第2の主面を有し、該第1の主面上に第2のパターンイメージを有する。第2のパターンイメージは例えば印刷層である。例えば、非伸長性フィルムの表面に所望のパターンイメージを直接印刷する方法、支持体上に形成した所望のパターンイメージを有する印刷層を非伸長性フィルム上に転写する方法、等によって、印刷層を有する低伸長性層を形成できる。印刷は、インクジェット、グラビア、凸版、フレキソ、スクリーン、静電複写、昇華放熱転写等で行うことができる。例示の態様においては、上記第1の主面が粘弾性層と対向するように低伸長性層と粘弾性層とが互いに固定されている。この場合、第2のパターンイメージが粘弾性層によって保護され、損傷しにくい点で有利である。別の例示の態様においては、上記第2の主面が粘弾性層と対向してもよい。この場合、第2のパターンイメージがコート層等により保護されてもよい。
【0073】
(粘弾性層)
粘弾性層は、第1部の変位を弾性変形作用により減衰させる能力を有し、第2部が第1部の変位によって実質的に変位しないために十分な変形緩衝能力を有する任意の粘弾性材料で構成されていることができる。パターンイメージの視認可能性の観点から粘弾性層は典型的には明澄である。
【0074】
好ましい態様において、粘弾性層は、ポリオレフィン及びオレフィンコポリマー(以下、纏めてオレフィン(コ)ポリマーともいう。)、ビニルコポリマー(例えば塩化ビニルポリマー等)、(メタ)アクリルポリマー及び(メタ)アクリルコポリマー(以下、纏めて(メタ)アクリル(コ)ポリマーともいう。)(例えば、ポリ(メタ)アクリレート、アクリル酸及びアクリルアミドの共重合体等)、ポリウレタン(例えばポリエーテルウレタン、ポリエステルウレタン等)、並びにシリコーンポリマー(例えばメチルビニルシリコーン等)からなる群から選択される少なくとも1種のポリマーを含む。また、粘弾性層はゴム層であってもよく、ゴムとしてはブタン系ゴム、ブチル系ゴム等が挙げられる。
【0075】
(メタ)アクリル(コ)ポリマーの原料モノマーとしては、例えば、炭素数が14から22の直鎖又は分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリルモノマー(以下、C14-22(メタ)アクリルモノマーともいう。)、例えばイソステアリル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、n-ステアリル(メタ)アクリレート、n-ベヘニル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、イソパルミチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0076】
原料モノマーは、不飽和モノカルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸等)、不飽和ジカルボン酸(例えば、マレイン酸、イタコン酸等)、ω-カルボキシポリカプロラクトンモノアクリレート、フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、β-カルボキシエチルアクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、又は2-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸等のカルボキシル基含有モノマーを含んでもよい。
【0077】
例えば、原料モノマーが、C14-22(メタ)アクリルモノマーとカルボキシル基含有モノマーとを含む場合、配合は、C14-22モノマー約92質量%~約95質量%に対し、カルボキシル基含有モノマーは約5質量%~約8質量%であることができる。カルボキシル基含有モノマーの量が約5質量%以上である場合、粘弾性層のせん断貯蔵弾性率G’が大きく、凝集力が良好である点で有利である。また、損失正接tanδが大きく変位緩衝性能において有利である。一方、カルボキシル基含有モノマーの量が約8質量%以下である場合、変位緩衝性能の温度依存性が小さい点で有利である。
【0078】
オレフィン(コ)ポリマーとしては、飽和ポリオレフィン、すなわち、実質的に炭素間二重結合及び三重結合を持たないポリオレフィンが挙げられる。例えば、飽和ポリオレフィンに含まれる炭素間結合のうち、90%以上が単結合であることが好ましい。飽和ポリオレフィンの例としては、ポリエチレン、ポリブテン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリα-オレフィン、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・α-オレフィン共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体、水添ポリブタジエン等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上で組み合わせて用いてもよい。
【0079】
飽和ポリオレフィンには非結晶性のポリマーを用いることもできる。非結晶性のポリマーとは、結晶化度が極めて低いか、結晶化状態になり得ないポリマーを意図する。非結晶性のポリマーでは、ガラス転移温度は測定されるが、融点は測定されない。非結晶性のポリマーを用いた場合、粘弾性層の0℃~40℃でのせん断貯蔵弾性率G’を、例えば1.5×104~5.0×106パスカル(Pa)に調整して、良好な変形緩衝性能を得るとともに粘弾性層と他の層とを良好に接着することができる。
【0080】
飽和ポリオレフィンブロックと、芳香族ビニルモノマーブロックとを含むブロック共重合体(以下、ブロック共重合体)もまた使用でき、これは、実質的に炭素間二重結合及び三重結合を持たないポリオレフィンからなるブロックと、芳香族ビニルモノマーからなるブロックとを含む。飽和ポリオレフィンブロックに含まれる炭素間結合のうち、90%以上が単結合であることが好ましい。芳香族ビニルモノマーとしては、スチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、インデン等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上で組み合わせて用いてもよい。ブロック共重合体としては、たとえば、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン-プロピレンブロック共重合体、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体等が挙げられる。
【0081】
飽和ポリオレフィンブロックは非結晶性のものを用いることもできる。非結晶性のものを用いた場合、粘弾性層の0~40℃でのせん断貯蔵弾性率G’を、例えば約1.5×104~約5.0×106パスカル(Pa)に調整して、良好な変形緩衝性能を得るとともに粘弾性層と他の部材とを良好に接着することができる。
【0082】
飽和ポリオレフィン、及び/又はブロック共重合体の配合比は、(メタ)アクリル(コ)モノマー100質量部に対して、約2質量部~約40質量部とすることができる。約2質量部以上である場合温度依存性の小さい粘弾性層が得られ、約40質量部以下である場合耐候性が良好であり、長期の使用の信頼性、及び他の部材の接着性において有利である。
【0083】
(メタ)アクリル(コ)ポリマーの重量平均分子量は、約10,000~約2,000,000の範囲とすることができる。上記範囲は、弾性率が高く、長期使用の信頼性において有利である粘弾性層を得る点で有利である。
【0084】
粘弾性層は、上記のようなポリマーに加え、粘着付与樹脂、例えばロジン系樹脂、変性ロジン系樹脂(水素添加ロジン系樹脂、不均化ロジン樹脂、重合ロジン系樹脂等)、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、C5系及びC9系の石油樹脂、クマロン樹脂等を含んでもよい。また、増粘剤、チキソトロープ剤、増量剤、充填剤等の通常用いられる添加剤を含んでもよい。
【0085】
粘弾性層に使用できる粘弾性材料の例のより詳細な例は、例えば特開2009-249485号公報、特開2006-28224号公報等に記載されている。
【0086】
粘弾性層が薄すぎる場合には、高伸長性層の変形によって低伸長性層も変形する場合があり、一方厚すぎる場合には、第1のパターンイメージと第2のパターンイメージとが観測角によってずれる場合があり、従ってモアレ縞の視認性が低下する場合がある。好ましい態様において、粘弾性層の厚みは、約100μm~約1.5mm、又は約500μm~約1.0mmである。
【0087】
<シートの特性>
好ましい態様において、シートを引張試験に供したときに、高伸長性層は、引張強度0.5MPa以上100MPa以下及び伸び3%以上200%以下を示す。好ましい態様において、シートを引張試験に供したときに、低伸長性層は、引張強度50MPa以上350MPa以下及び伸び1%以上200%以下を示す。好ましい態様において、シートを引張試験に供したときに、粘弾性層は、引張強度0.01MPa以上100MPa以下及び伸び10%以上3000%以下を示す。
【0088】
引張強度及び伸びは、JISK6251(2010年度版・ISO37)に規定される方法に準拠し、以下の条件で測定される。
・測定サンプル形状:JISK6251に記載される「ダンベル状3号形」
・引張速度:300mm/min
・測定温度:23±1℃
引張強度T(単位:MPa)は、測定サンプルの各層の破断に至るまでの最大引張力F(単位:N)と、測定サンプルの各層の断面積A(単位:mm2)とを測定し、以下の式から求める。
T=F/A
伸びE(単位:%)は、測定サンプルにおける各層の破断時の標線間距離L1(単位:mm)と、標線間距離L0(25mm)とを測定し、以下の式から求める。
E=(L1-L0)/L0×100
【0089】
本開示のシートを上記引張試験に供した際には、通常、各層が順次破断し、例示の態様では低伸長性層、粘弾性層及び高伸長性層の順に破断する。従って上記方法にて各層の引張強度及び伸びとして測定される値には他の層による寄与が含まれることになるが、本開示ではそのような測定値をシートにおける各層の引張強度及び伸びとして規定する。
【0090】
好ましい態様において、シートの高伸長性層のみをシート面内方向に引っ張ったときに、高伸長性層の破断が低伸長性層の破断よりも先に生じる。このことは、
図5を参照して上記した変位の測定方法において、高伸長性層の破断が低伸長性層の破断よりも先に生じることによって確認できる。
【0091】
また、好ましい態様において、高伸長性層の上記破断時において、低伸長性層の伸びは、高伸長性層の伸びに対して0~35%である。この比は、高伸長性層の破断時における、高伸長性層の伸びと低伸長性層の伸びとの比として評価できる。このような比は、モアレ縞による対象物の変位量の精度良い評価に寄与する。
【0092】
好ましい態様において、第1部又は高伸長性層のヤング率は、約0.5GPa以下、又は約0.1GPa以下、又は約0.05GPa以下である。また、好ましい態様において、第2部又は低伸長性層のヤング率は、約1.0GPa以上、又は約1.5GPa以上、又は約2.0GPa以上である。なお上記ヤング率は、幅10mmに切り出したサンプルを、チャック間距離100mmで引張試験機にセットし、1mmpmのスピードで鉛直方向に引張り、ひずみ%で0.05~0.25%となる部分のS-Sカーブの傾きよりヤング率を算出することで得られる値である。
【0093】
固定領域、すなわち高粘着面の好ましい接着特性としては、JISK5600(ISO 2409)に準拠した、モルタル板に対する接着力が、剪断方向で約1.0N/cm2以上であることが挙げられる。このような接着特性は、例えば対象物がコンクリート、金属等である場合にシートを対象物に良好に固定できる点で有利である。
【0094】
好ましい態様において、本開示のシートは、第1及び第2のパターンイメージ、並びに、ゲージ、マーカー及びルーラーを除く実質的に全ての部位が明澄な材料で構成されている。
【0095】
第1の主面において、固定領域の面積に対する非固定領域の面積の比(例えば、高粘着面の面積Aに対する低粘着面の面積Bの比B/A)は、モアレの視認性を良好にする観点から、好ましくは約1%以上、又は約5%以上であり、対象物に対する良好な固定の観点から、好ましくは約500%以下、又は約300%以下であるとよい。
【0096】
第1の主面において、第1の主面の面積に対する固定領域の面積(例えば、第1の主面の面積Cに対する、高粘着部の面積(例えば第1粘着部及び第2粘着部の合計面積)Dの比D/C)の比は、対象物に対する良好な固定の観点から、好ましくは約10%以上、又は約30%以上であり、モアレの視認性を良好にする観点から、好ましくは約99%以下、又は約95%以下であるとよい。
【0097】
また、低粘着面のアスペクト比は、モアレ縞による変位評価の際に、二次元平面でx軸とy軸の両方向で同量に近い空間周波数解析を行えるようにするための観点から、約0.5~約2.0、又は約0.7~約1.3、又は約0.9~約1.1であるとよい。
【0098】
本開示のシートのサイズは、被着体や測定対象の損傷に応じて貼り易さも鑑みて適宜設計できる。例示の態様において、第1の主面の総面積(すなわち固定領域と非固定領域との合計面積)は、約1cm2~約1000cm2、又は約2cm2~約500cm2が建造物のコンクリートのひび割れを測定する用途には適している。
【0099】
なお、本開示の一態様に係るシートは、固定領域及び非固定領域を有するが、本開示は、第1の主面の実質的に全面が固定領域である他は前述の本開示のシートと同様であるようなシートも包含し、特に、このようなシートにおいてゲージ、マーカー、及びルーラーから選ばれる1つ以上の目印を設ける態様も包含する。
【0100】
<建造物変形評価用物品>
本発明の別の態様は、上述した本開示のシートを含む建造物変形評価用物品を提供する。典型的な態様において、建造物変形評価用物品は、本開示のシートの固定領域によって当該建造物変形評価用物品と対象物とを固定できるように構成されている。本開示の建造物変形評価用物品は対象物に固定可能な任意の形態で提供されうる。一態様において、建造物変形評価用物品は本開示のシートである。
【0101】
<シート又は建造物変形評価用物品の使用>
本開示のシートは、対象物において生じた変位を明瞭かつ簡便に評価できるという特性を活用して、種々の対象物の変位の評価に使用できる。本開示のシートは種々の材質及び形状の広範な対象物に適用できるが、特に想定される対象物としては、建造物、トンネル、橋架等のコンクリート面(例えば壁面)、金属面等が挙げられる。
【0102】
第1及び第2のパターンイメージによって生じたモアレ縞の評価は、従来公知の装置及び方法を用いて行うことが可能である。例えば、モアレ縞を3Dカメラ等の撮影装置で撮影し、得られた画像を適切な画像解析ソフトで解析処理することで、モアレ縞に基づいて第1部の変位を評価でき、従って対象物に生じた変位を評価できる。撮影方法等は適宜設定可能であるが、例えば、第1及び第2のパターンイメージのピッチ差によってモアレ縞を生じさせる場合、拡大倍率は、第1及び第2のパターンイメージのピッチをこれらパターンイメージ間のずれで除した値の2乗に設定することができる。例えば、第1及び第2のパターンイメージの一方のピッチが0.5mm、他方のピッチが0.4mmである場合に拡大倍率を25倍とする方法、また、第1及び第2のパターンイメージの一方のピッチが0.5mm、他方のピッチが0.45mmである場合に拡大倍率を100倍とする方法、等を例示できる。例えば、第1及び第2のパターンイメージの一方のピッチが0.5mm、他方のピッチが0.45mmである場合、ピッチが(0.5/(0.5-0.45))2mmであるモアレ縞が観測されることが当業者の技術常識により理解されるであろう。
【0103】
以上、実施形態を説明したが、本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本開示のシートは、変位の評価を必要とする任意の対象物に固定して使用することで、小さい変位量であっても変位を明瞭かつ簡便に評価できる。該シートは、特に建造物変形評価用物品の用途において有用である。
【符号の説明】
【0105】
1 シート
101 第1部
102 第2部
103 第3部
104 ゲージ
105 マーカー
106 ルーラー
101a,101b 固定領域
101c 非固定領域
111,121,131 本体
111a,131a 第1粘着部
111b,131b 第2粘着部
121c,131c 低粘着部
O 対象物
P101 第1のパターンイメージ
P102 第2のパターンイメージ
S1 第1の主面
S2 第2の主面
S111a,S111b,S121a,S121b,S131a,S131b 高粘着面
S111c,S121c,S131c 低粘着面