IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社 堀場アドバンスドテクノの特許一覧

<>
  • 特許-電磁気センサ 図1
  • 特許-電磁気センサ 図2
  • 特許-電磁気センサ 図3
  • 特許-電磁気センサ 図4
  • 特許-電磁気センサ 図5
  • 特許-電磁気センサ 図6
  • 特許-電磁気センサ 図7
  • 特許-電磁気センサ 図8
  • 特許-電磁気センサ 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】電磁気センサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/07 20060101AFI20221109BHJP
   G01N 27/22 20060101ALI20221109BHJP
   G01N 27/06 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
G01N27/07
G01N27/22 B
G01N27/06 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017241193
(22)【出願日】2017-12-15
(65)【公開番号】P2019109097
(43)【公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】592187534
【氏名又は名称】株式会社 堀場アドバンスドテクノ
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】戸田 憲輔
(72)【発明者】
【氏名】市成 祐一
(72)【発明者】
【氏名】芝田 学
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-135241(JP,A)
【文献】特開2013-032945(JP,A)
【文献】特開2014-095692(JP,A)
【文献】特開2003-202321(JP,A)
【文献】特表2007-527540(JP,A)
【文献】特開2016-180601(JP,A)
【文献】特開平10-227655(JP,A)
【文献】特開2014-089110(JP,A)
【文献】米国特許第05178744(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/404
G01N 27/414-27/416
G01N 33/00-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に供給されて保持された試料溶液に接触させて該試料溶液の電気伝導率、比抵抗又は誘電率を測定するセンサであり、
前記基板と、
該基板に形成された貫通孔と、
前記基板の表面に取り付けられた電極と、
前記貫通孔と前記電極とを覆う筐体とを備え、
前記基板において前記電極が取り付けられている側の面とは反対側の表面に供給された試料溶液が、前記貫通孔から前記筐体内部に流れ込んで収容されることにより、前記試料溶液と前記電極とが接するようにしてあることを特徴とする電気伝導率センサ、比抵抗センサ又は誘電率センサ。
【請求項2】
請求項1記載の電気伝導率センサ、比抵抗センサ又は誘電率センサと、
前記電気伝導率センサ、比抵抗センサ又は誘電率センサが備える前記基板に取り付けられて、該基板に供給された試料溶液に接触させて該試料溶液の電気化学的性質を測定する他のセンサと、を備えるマルチセンサユニット。
【請求項3】
請求項1記載の電気伝導率センサ、比抵抗センサ又は誘電率センサと、
前記電気伝導率センサ、比抵抗センサ又は誘電率センサからの出力信号を受信し、当該受信した出力信号を所望の情報に変換して出力する情報処理回路とを備える電気化学測定装置。
【請求項4】
同じ種類のセンサを3つ以上備えている請求項2記載のマルチセンサユニットと、
前記センサからの出力値の平均値を算出する算出部と、
該算出部で算出された平均値と各センサの出力値との絶対値差が所定の閾値を越えた場合に該センサの出力値が前記平均値と等しくなるように校正する校正部とを具備していることを特徴とする測定装置。
【請求項5】
同じ種類のセンサを3つ以上備えている請求項2記載のマルチセンサユニットを用いて、前記複数のセンサの出力値の平均値と、各センサの出力値との絶対値差が所定の閾値を越えた場合に、前記センサの出力値を前記平均値に等しくなるように自動校正することを特徴とするセンサ校正方法。
【請求項6】
同じ種類の複数のセンサを備えている請求項2記載のマルチセンサユニットと、
前記複数のセンサからの出力値に基づいて演算することで、該出力値に含まれるノイズを除去した測定値を算出する算出部とを具備することを特徴とする測定装置。
【請求項7】
同じ種類の複数のセンサを備えている請求項2記載のマルチセンサユニットを用いて、
前記複数のセンサからの出力値に基づいて演算することで、該出力値に含まれるノイズを除去することを特徴とする測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料溶液の電気伝導率、比抵抗、誘電率等を測定する電磁気センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気伝導率等を安定して測定するには、内部に試料溶液を収容し、かつ、測定電極を覆って電気力線や磁力線等の広がり範囲を制御する筐体が必要である。
そのため、例えば、特許文献1に示すように、従来の電気伝導率センサでは、基板上に取り付けられた電極を覆うように、電気力線の広がり範囲を制御する筐体が設けられ、この筐体内部に形成された流路に試料溶液を流通させて測定している。
【0003】
しかしながら、このような従来の電気伝導率センサでは、電極が前記筐体内部に生じる試料溶液の流れに直接曝されているので、試料溶液に固形物が混入している場合等に前記電極が該固形物と接触して破損してしまう恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-135241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前述したような課題に鑑みてなされたものであり、たとえ試料溶液に固形物が混入している場合であっても安定して電気伝導率、比抵抗又は誘電率等を測定することができる電磁気センサを提供することを主な目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明に係る電磁気センサは、基板と、該基板に形成された貫通孔と、前記基板の表面に取り付けられた電極と、前記貫通孔と前記電極とを覆う筐体とを備え、前記基板における前記電極が取り付けられている側の面とは反対側の表面に供給された試料溶液が、前記貫通孔から前記筐体内部に流れ込んで収容されることにより、前記電極と接するようにしてあることを特徴とするものである。
【0007】
このような電磁気センサによれば、前記基板の前記電極が取り付けられている側の面とは反対側の表面に供給された試料溶液が、前記貫通孔から前記筐体内部に流れ込んで収容されることにより、前記試料溶液と前記電極とが接するので、該電極が試料溶液の流れに直接曝されにくい。
そのため、たとえ試料溶液に固形物が含まれている場合であっても、前記電極が破損するおそれを低減することができ、安定して電気伝導率等を測定することができる。
【0008】
ところで、電極を印刷したシート状の基板11に電磁気センサ123等の複数種類のセンサを搭載し、この基板11上に少量の試料溶液Sを接触させて測定するマルチセンサユニット1においては、従来、図9に示すように、前記基板11上に設けられた、例えば、電気伝導率測定用の電極1232を覆うように、前記基板11の試料溶液Sが供給される側に突出するように筐体125が取り付けられ、この筐体125に貫通孔が形成されている。
また、前記基板11に、前記複数種類のセンサの1つとして、例えば、イオン選択性電極121等を取り付ける場合、特にISFET電極121Pは前記基板11の試料溶液Sと接触する面とは反対側に突出するように取り付けられている。
【0009】
そのため、このような従来のマルチセンサユニット1では、図9に示すように、試料溶液Sの電気伝導率などを測定する場合には、少なくとも前記基板11の表面から前記筐体125の高さまでが試料溶液Sで満たされている必要がある。
さらに、複数種類のセンサと試料溶液Sとを接触させるためには、ある程度の面積に試料溶液を行き渡らせる必要があるので、測定に必要な試料溶液Sの量を低減することが難しいという問題がある。
また、前記電気伝導率センサ123と、前記ISFET電極121Pとが、前記基板11を挟んで反対向きにそれぞれ突出してしまうので、前記マルチセンサユニット1の厚みを小さくすることが難しいという問題もある。
【0010】
そこで、本発明では、このようなマルチセンサユニットについて、基板と、該基板に取り付けられた複数種類のセンサとを具備するものであり、前記センサうちの一つである電磁気センサが、前記基板に形成された貫通孔と、前記基板の表面に取り付けられた電極と、前記電極と前記貫通孔とを覆う筐体とを備え、前記基板の前記電極が取り付けられている側の面とは反対側の表面に供給された試料溶液が、前記貫通孔から前記筐体内部に流れ込んで収容されることにより、前記試料溶液と前記電極とが接するものとした。
【0011】
このようなマルチセンサユニットによれば、前記電磁気センサの筐体が前記基板の試料溶液が供給される面とは反対側の面側に配置されているので、前記基板から試料溶液側へ突出する部分を小さくすることができる。
その結果、前記基板の表面に供給される面積あたりの試料溶液を低減することができるので、測定に必要な試料溶液の量を従来よりも低減することができる。
【0012】
また、例えば、従来から前記基板の試料溶液が供給される側の面とは反対側に突出するように取り付けられている前記ISFET電極等を、前記基板に取り付けた場合には、前記電磁気センサと前記ISFET電極等とが前記基板に対して同じ方向に突出するようにできるので、前記マルチセンサユニットの厚みを従来よりもさらに薄いものにすることができる。
【0013】
前述したようなマルチセンサユニットによれば、マルチセンサユニットに供給される面積あたりの試料溶液の量を低減することができるので、同じ量の試料溶液で一度に測定できるセンサの数を従来よりも増加させることも可能である。
ところで、複数のセンサを備えたマルチセンサユニットでは、設計時にあらかじめ想定されている校正時期よりも早くに出力値がずれてしまうセンサが混ざっていることがある。
このような場合、従来は一番早くに出力値がずれてしまうセンサに合わせて校正時期を決める必要があるので、前記複数のセンサ全体について頻繁に校正しなければならないという問題がある。
【0014】
そこで、同じ種類のセンサを3つ以上備える前記マルチセンサユニットを使用して、前記複数のセンサの出力値の平均値と各センサの出力値の絶対値差が所定の閾値を越えた場合に、前記センサの出力値を前記平均値に等しくなるように自動校正すれば、設計時にあらかじめ想定されている校正時期よりも早くに出力値がずれてしまうセンサが混ざっている場合であっても、前記複数のセンサについて設計時に予め想定された校正時期まで、前記複数のセンサ全体を構成する必要がない。
そのため、前記マルチセンサユニットの校正にかかる手間やコストを削減することができる。
【0015】
また、特に低濃度の試料溶液を測定する場合等には、前述したように同じ種類のセンサを複数個備えるマルチセンサユニットを使用して、前記複数のセンサからの出力値に基づいて演算を行い、ノイズを除いた測定値を算出する電気化学測定方法によれば、試料溶液の濃度が低濃度の場合であっても、前記マルチセンサユニットを備えた電気化学測定装置による測定精度をより向上することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、前記基板の前記電極が取り付けられている側の面とは反対側の表面に供給された試料溶液が、前記貫通孔から前記筐体内部に流れ込んで収容されることにより、前記試料溶液と前記電極とが接するので、該電極が試料溶液の流れに直接曝されにくい。
そのため、たとえ試料溶液に固形物が含まれている場合であっても、前記電極が破損するおそれを低減することができ、試料溶液中の固形物を取り除くなどの手間をかけずに、幅広い試料溶液の電気伝導率等を安定して測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る電気化学測定装置全体を示す摸式図。
図2】本実施形態に係るマルチセンサユニット全体及び端面を示す模式図。
図3】本実施形態に係るマルチセンサユニットと試料溶液との関係を示す摸式図。
図4】他の実施形態に係るマルチセンサユニットの全体及び端面を示す摸式図。
図5】他の実施形態に係る電気化学測定装置全体を示す摸式図。
図6】他の実施形態に係るマルチセンサユニットの校正についての説明図。
図7】他の実施形態に係るマルチセンサユニットの測定値算出についての説明図。
図8】他の実施形態に係るマルチセンサユニットの測定値算出についての説明図。
図9】従来のマルチセンサユニットと試料溶液との関係を示す摸式図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の一実施形態について、図面を用いて説明する。
本実施形態に係るマルチセンサユニット1は、例えば、試料溶液Sの電気伝導率、比抵抗、誘電率、各種イオン濃度、酸化還元電位等の電気化学的性質を測定するマルチイオンセンサ等の電気化学測定装置100に使用されるものである。
【0019】
前記電気化学測定装置100は、例えば、図1に示すように、複数種類のセンサを備えたマルチセンサユニット1と、該センサからの出力信号に基づいて測定値などを算出する情報処理回路2と、該情報処理回路2によって算出された測定値などを表示する表示部3等を備えたものである。
【0020】
前記マルチセンサユニット1は、例えば、図1に示すように、長さが3cm、幅が1cm、厚みが0.5mm程度の液晶ポリマー、ポリ塩化ビニル又はポリエチレンテレフタレート等からなるシート状の基板11と、該基板11上に設けられたセンサ部12等を備えたものである。
【0021】
前記情報処理回路2は、CPUやメモリ、通信ポート等から構成されたデジタル回路と、バッファーや増幅器等を具備するアナログ回路と、これらデジタル回路とアナログ回路とを仲立ちするADコンバータ、DAコンバータ等を具備するものである。そして、前記メモリに記憶させた所定のプログラムに従ってCPUやその周辺機器が協働することにより、例えば、前記マルチセンサユニット1から出力される出力値に基づいて測定値を算出する算出部等としての機能を発揮するものである。
【0022】
以下に、前記センサ部12について詳述する。
前記センサ部12は、例えば、図2に示すように、前記基板11上に形成されたプリント配線によって、前記情報処理回路2とそれぞれが接続されているイオン選択性電極121、比較電極122、電磁気センサ123、サーミスタ124等を備えたものである。
【0023】
前記イオン選択性電極121は、この実施形態では、例えば、試料溶液S中の水素イオン濃度を測定するpH電極121Pと、ナトリウムイオン濃度を測定するナトリウムイオン選択性電極121Nと、カリウムイオン濃度を測定するカリウムイオン選択性電極121Kである。
【0024】
前記pH電極121Pは、前記基板11に形成されたpH電極用貫通孔121P1と、前記基板11の試料溶液Sに接する面とは反対側に印刷された、例えば、半田バンプなどである2つのISFET電極用接続部材121P2と、該2つのISFET電極用接続部材121P2によって前記基板11上に印刷された前記プリント配線に対して、いわゆるフリップチップ実装によって電気的に接続されているISFETチップ121P3とを備えたISFET電極121Pである。
前記ISFETチップ121P3は、その感応面が前記pH電極用貫通孔121P1を介して前記試料溶液Sと接触するように、前記基板11の試料溶液Sが供給される側の面とは反対側に突出するように取り付けられている。
前記ISFETチップ121P3としては、例えば、ゲート絶縁膜上にTaO膜を積層して前記感応面を形成したものを挙げることができる。
【0025】
前記ナトリウムイオン選択性電極121Nは、前記基板11に形成されたナトリウムイオン選択性電極用貫通孔121N1と、該ナトリウムイオン選択性電極用貫通孔121N1を塞ぐように取り付けられたイオン感応膜121N2と、前記基板11の試料溶液Sが供給される側の面とは反対側の面に取り付けられた、例えば、銀/塩化銀電極などからなる内部電極121N3と、該内部電極121N3を覆うように前記基板11に取り付けられた筐体125と、該筐体125の内部に収容された、例えば、NaCl水溶液などの内部液121N4とを備えるものである。
前記イオン感応膜121N2としては、例えば、PVC膜、イオノフォアを含む液膜や固体膜、測定対象イオンを含む固体膜などを挙げることができる。
【0026】
前記カリウムイオン選択性電極121Kは、前記基板11に形成されたカリウムイオン選択性電極用貫通孔121K1と、該カリウムイオン選択性電極用貫通孔121K1を塞ぐように取り付けられたイオン感応膜121K2と、前記基板11の試料溶液Sが供給される側の面とは反対側の面に取り付けられた、例えば、銀/塩化銀電極などからなる内部電極121K3と、該内部電極121K3を覆うように前記基板11に取り付けられた筐体125と、該筐体125の内部に収容された、例えば、CaClとKClとを含有する水溶液などの内部液121K4とを備えるものである。
前記イオン感応膜121K2としては、例えば、PVC膜、イオノフォアを含む液膜や固体膜、測定対象イオンを含む固体膜などを挙げることができる。
【0027】
前記比較電極122は、前記イオン選択性電極121の参照電極として機能するものであり、前記基板11に形成された比較電極用貫通孔1221と、該比較電極用貫通孔1221を塞ぐように設けられたセラミック等からなる液絡部1222と、前記基板11の試料溶液Sが供給される側の面とは反対側の面に取り付けられた、例えば、銀/塩化銀電極などからなる内部電極1223と、該内部電極1223及び前記比較電極用貫通孔を覆うように前記基板11に取り付けられた筐体125と、該筐体125の内部に収容された、例えば、3.3mol/LKCl水溶液などの内部液1224とを備えるものである。
【0028】
しかして、この実施形態においては、前記電磁気センサ123は以下の様な特徴を有している。
前記電磁気センサ123は、試料溶液Sの電気伝導率、比抵抗、誘電率などを測定するものであり、この実施形態では、例えば、試料溶液Sの電気伝導率を測定する電気伝導率センサ123である。
前記電気伝導率センサ123は、前記基板11に形成された2つの電気伝導率センサ用貫通孔1231と、前記基板11の試料溶液Sが供給される面とは反対側の面の、前記2つの電気伝導率センサ用貫通孔1231に挟まれる位置に印刷された2つの測定電極(電圧極)1232と、これら2つの測定電極1232を囲むように印刷された2つの電流極1233と、前記基板11上に取り付けられた筐体125とを備えたものである。
【0029】
前記筐体125は、前記測定電極1232と電気力線を発生させる前記電流極1233を前記基板11の試料溶液Sが供給される側の面とは反対側から覆うように取り付けられている四角いカップ状のものであり、その内部の空間に試料溶液Sを収容して、電気力線の広がりを制御するものである。
この筐体125は、この実施形態では、前記ナトリウムイオン選択性電極121Nやカリウムイオン選択性電極121K、比較電極122等の前記筐体125と一体に形成されているものであり、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリプロピレン等で形成されている。
【0030】
前記筐体125の内部には、前記各電極の各内部液や試料溶液Sが互いに混ざり合わないように各内部液や試料溶液Sを収容する空間をそれぞれ液密に仕切る仕切り壁125Wが設けられている。
前記筐体125は、その内部に前記電気伝導率センサ123の前記測定電極1232間の電気力線の広がり範囲を制御するために適切な量の試料溶液Sが入れる大きさであればよく、この実施形態では、例えば、前記基板11の表面から試料溶液Sと接する面とは反対側に2mm程度突出する大きさにしてある。
【0031】
このように構成した電気伝導率センサ123を備えたマルチセンサユニット1によれば、以下の様な効果を奏することができる。
前記基板11の前記測定電極1232及び前記電流極1233が取り付けられている側の面とは反対側の表面に供給された試料溶液Sが、前記貫通孔1231から前記筐体125内部に流れ込んで収容されることにより、前記試料溶液Sと前記測定電極1232及び前記電流極1233とが接するので、これら測定電極1232及び電流極1233が試料溶液Sの流れに直接曝されにくい。
そのため、たとえ試料溶液Sに固形物が含まれている場合であっても、前記測定電極1232及び前記電流極1233が破損するおそれを低減することができ、試料溶液S中の固形物を取り除くなどの手間をかけずに、幅広い試料溶液Sの電気伝導率を安定して測定することができる。
【0032】
また、前記電気伝導率センサ123の筐体125が前記基板11の試料溶液Sが供給される側の面とは反対側の表面に配置されているので、前記基板11から試料溶液Sが供給される側へ突出する部分を小さくすることができる。
その結果、図3に示すように、前記基板11の試料溶液S側の表面に供給される面積あたりの試料溶液Sの量を低減することができるので、測定に必要な試料溶液Sの量を従来よりも低減することができる。
【0033】
また、測定に供給される面積あたりの試料溶液Sの量を低減することができるので、同じ量の試料溶液Sで一度に測定できるセンサの数を従来よりも増加させることも可能である。
【0034】
前記電気伝導率センサ用貫通孔1231が2つ形成されており、例えば、一方の穴から試料溶液Sが前記筐体125内に入りこむ場合に、他方の穴から空気が抜けるので、前記筐体125の内部に前記基板11の表面に供給された試料溶液Sを取り込みやすい。
前記電気伝導率センサ123が4つの電極を備えた4極式のものであるので、より電気伝導率の測定精度を向上することができる。
【0035】
さらに、前記電気伝導率センサ123の筐体125と、前記各イオン選択性電極121や前記比較電極122の筐体125又はISFET電極121PのISFETチップ121P3とが前記基板11に対して同じ方向に突出するように取り付けられているので、前記マルチセンサユニット1の厚みを従来よりも薄いものにすることができる。
【0036】
前記ISFET電極121Pでは、前記ISFET電極121Pの前記ISFETチップ121P3が試料溶液Sと接触する感応面に接触するように前記ISFET用接続部材121P2が取り付けられている必要がある。
そのため、前記ISFET電極121Pの前記ISFETチップ121P3を、前記基板11の試料溶液Sが供給される側に突出するように取り付けると、前記ISFET用接続部材121P2と前記基板11とを接続するためにワイヤボンディングが必要である。
このワイヤボンディングが外部に露出していると、外部からの衝撃や劣化によってワイヤが切れてしまうおそれがある。
そのため、このワイヤを覆って保護する樹脂などからなる保護部材をさらに取り付けなければならず、前記マルチセンサユニットの厚みがどうしても大きくなってしまう。
また、製造の手間もかかるので、前記マルチセンサユニット1の製造コストが高くなってしまうという問題もある。
【0037】
本実施形態に係るマルチセンサユニット1では、前記ISFETチップ121P3がフリップチップ実装によって前記基板11に取り付けられているので、前記ISFETチップ121P3をワイヤボンディングにより前記基板11に取り付ける場合よりも、前記マルチセンサユニット1の製造を簡単にして、かつ、薄くすることができる。
【0038】
前記筐体125がポリエチレンテレフタレートやポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等の柔軟性の高い素材で形成されており、また前記筐体125の厚みが2mm程度と小さいので、前記マルチセンサユニット1そのものを従来よりも曲げやねじれ等に柔軟に対応できるフレキシブルなものにすることができる。
また、前記基板11が、薄いシート状の液晶ポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、又は、ポリエチレンテレフタレート等であるので、前記マルチセンサユニット1をより曲げやねじれ等に柔軟に対応できるフレキシブルなものとすることができる。
この技術を応用すれば、ウェアラブルにして、人の皮膚表面に装着し、汗などの微量な試料溶液の電気化学的性質を測定することも可能である。
【0039】
前述したようなマルチセンサユニット1によれば、前記電気伝導率センサ123用の電極と、他のセンサの電極や接続部材等を前記基板11の同じ側の面に全て印刷することができるので、従来のように前記基板11の両面に電極や接続部材等を印刷する手間やコストを省くことができる。
【0040】
次に、前記マルチセンサユニット1の変形例について説明する。
前記電気伝導率センサ用貫通孔1231は同じ大きさの貫通孔を2つ形成しているが、大きさが異なる2つの貫通孔としてもよいし、3つや4つ等2つ以上の貫通孔を形成するようにしても良い。
前記貫通孔1231から前記筐体125内部に流れ込んで収容される試料溶液Sは、前記測定電極1232と接していれば良く、前記試料溶液Sが前記基板11の前記測定電極1232が取り付けられている側の面と接触していても良いし、接触していなくても良い。
前記電気伝導率センサ123は4極式のものに限らず、2極式のものであっても構わない。
【0041】
前記筐体125は、他のセンサの筐体125と一体に形成されたものに限らず、前記電気伝導率センサ123専用の筐体125として独立して形成されていても良い。
前記筐体125の大きさは、前述したものに限らず、その厚みをより小さくしても良いし、より大きくしても良い。
前記筐体125の形は四角いカップ状のものに限らず、前記基板11に接する端面から内部に向けて空間が形成された円筒形のものや多角柱形のもの、異形柱状のものなどでも良いし、柱状のものに限らず、半球状、半楕円形状、円錐状、多角錐状などのものであって良い。
【0042】
また、図4に示すように、前記イオン選択性電極121や前記比較電極122について、内部液を使用せずに、例えば、イオン性液体含有ポリマー126を使用しても良い。
このようなものであれば、前記筐体125から前記内部液が漏れ出たり蒸発したりすることを考慮しなくて良いので、前記マルチセンサユニット1をよりフレキシブルなものにすることができる。
【0043】
前記電気化学測定装置100を、図5にしめすような、前記マルチセンサユニット1と、該マルチセンサユニット1を囲むように配置され試料溶液Sを保持する試料保持部と、前記情報処理装置、表示部等を一体に備え、持ち運びができる大きさの装置としても良い。
【0044】
また、前記電気化学測定装置100が前記表示部3を備えているものに限らず、前記情報処理回路2が算出した測定値などを、パソコン、タブレット、スマートフォン、その他のポータブル機器等の外部機器に無線乃至有線で送信され、その外部機器が有するディスプレイに表示するように構成してもよい。
また、前記情報処理回路2の機能を、前記した外部機器に持たせてもよい。この場合には、当該外部機器に所定のアプリケーションをインストールすることにより、前記マルチセンサユニット1からの出力信号を無線乃至有線で受信し、この受信した出力信号を測定値等の所望の情報に変換して、外部機器が有するディスプレイに表示するように構成されてよい。この所定のアプリケーションはプログラムとしてユーザに提供されてもよく、このプログラムは、光ディスク、半導体メモリ等の記録媒体に記録されて提供されてもよいし、ネットワークを介してダウンロードされて提供されてもよい。
【0045】
前記マルチセンサユニット1のセンサ部12は、前記電磁気センサ123、pH電極121P、ナトリウムイオン選択性電極121N、カリウムイオン選択性電極121Kに限らず、硝酸イオン、アンモニウムイオン、フッ素イオンなどを検出するイオン選択性電極やその他の電気化学センサであっても良い。
前記ISFETチップ121P3の感応面を形成する膜としては、TaO膜以外にも、例えば、窒化シリコン膜(Si膜)、アルミナ膜(Al膜)、PVC膜、イオノフォアを含む液膜や固体膜、測定対象イオンを含む固体膜などを挙げることができる。
前記マルチセンサユニット1は、複数種類のセンサを備えたものであるが、同じ種類のセンサを、例えば、100個や1000個の単位で備えるものとしても良い。
以下に、このようなものの一例として、pH電極121Pを80個備えたマルチセンサユニット1を備えた電気化学測定装置100について説明する。
【0046】
前記電気化学測定装置100は、さらに校正部を備えるものとしても良い。
前記校正部は、前記情報処理回路2がその役割を担うものであり、例えば、前記pH電極121Pについて、設計時に想定される校正期間が経過するまでの期間、pH電極121Pを自動校正するものである。
【0047】
この自動校正の手順は以下の様なものである。
図6に示すように、まず、前記算出部が、前記80個のpH電極121Pそれぞれから出力され出力値の平均値を算出する。
前記校正部が、前記平均値と各pH電極121Pからの出力値を比較して、平均値と前記出力値との絶対値の差が、所定の閾値を超えたpH電極121Pについて、その出力値が前記80個のpH電極121Pの出力値の平均値、又は前記閾値を越えたpH電極121Pを除いた残りのpH電極121Pの出力値の平均値に等しくなるように校正する。
【0048】
このような電気化学測定装置100では、従来、これら多数のpH電極121Pのうち出力値が最も早くずれるものに校正時期をあわせる必要があるので、頻繁に校正作業を行わなければならず、校正作業に非常に手間がかかる。
【0049】
一方、本実施形態に係る校正方法によれば、前記マルチセンサユニット1に備えられた多数のpH電極121Pの中に、設計時に想定される校正期間よりも早く出力値がずれてしまうものが混ざっている場合であっても、前記多数のpH電極121P全体を校正する時期を早めに設定する必要がないので、前記多数のpH電極121P全体を校正する頻度を従来よりも少なく抑えることができる。
【0050】
このような校正方法は、前述したようにpH電極121Pを80個や100個、1000個等備えたものに限らず、pH電極121Pを3つ以上備えたマルチセンサユニット1を具備している様々な電気化学測定装置100に適用することができる。
自動校正することができるセンサは、前述したpH電極121Pに限らず、一定期間毎に校正が必要なセンサであれば良い。
【0051】
本発明に係る電気化学測定装置100のさらに別の実施形態としては、前記算出部が、前記マルチセンサユニット1に備えられた同じ種類の複数のセンサからの出力値に基づいてノイズを除去した測定値を算出するものを挙げることができる。
この実施形態では、前記算出部が、前記マルチセンサユニット1に備えられた、例えば、図7に示すように、80個のpH電極121Pからの出力値の平均値を算出して、算出された値を測定値として出力するようにしている。
【0052】
従来、特に、pH電極121P等のイオン選択性電極121では、試料溶液S中のイオン濃度が低い場合には、pH電極121Pの出力値に含まれるノイズの影響が大きくなってしまうという問題がある。
【0053】
この点、本実施形態に係る測定値算出方法によれば、濃度の低い試料溶液Sのイオン濃度を測定する場合であっても、ノイズの影響を抑えて測定精度を向上することができる。
【0054】
前記算出部は、前述したように出力値の平均値を算出する以外にも、前記電気化学測定装置100の使用用途や測定環境に応じて、例えば、図8に示すように、フーリエ変換等を利用して、複数のpH電極121Pからの出力値に共通する周波数のみを抽出するようにしても良いし、複数のpH電極121Pからの出力値に共通する周波数のみを排除するようにしても良い。
【0055】
例えば、抽出したい周波数が分かっているような場合には、複数のpH電極121Pの出力値から共通する周波数のみを抽出することができれば、より効率よく測定精度を向上することができる。
また、例えば、使用環境などによって、共通のノイズが生じているような場合には、複数のpH電極121Pからの出力値の中で共通しているノイズの周波数を除くことが有効な場合もある。
【0056】
このような測定の算出方法は、センサの種類に関わらず、同じ種類のセンサを2つ以上備えている様々な電気化学測定装置100に適用することができるものである。
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、種々の変形や実施形態の組合せを行ってもかまわない。
【符号の説明】
【0057】
100・・・電気化学測定装置
1・・・マルチセンサユニット
2・・・情報処理回路
11・・・基板
123・・・電磁気センサ
1231・・・貫通孔
1232・・・測定電極
125・・・筐体


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9