(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】遺伝子組み換えトリパノソーマ・クルージJL7抗原変異型およびシャーガス病を検出するためのその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 14/44 20060101AFI20221109BHJP
C12N 15/30 20060101ALI20221109BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20221109BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20221109BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20221109BHJP
G01N 33/569 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
C07K14/44
C12N15/30 ZNA
C12P21/02 C
G01N33/53 N
G01N33/543 541Z
G01N33/569 A
(21)【出願番号】P 2017523290
(86)(22)【出願日】2015-11-04
(86)【国際出願番号】 EP2015075692
(87)【国際公開番号】W WO2016071393
(87)【国際公開日】2016-05-12
【審査請求日】2018-05-17
【審判番号】
【審判請求日】2021-03-16
(32)【優先日】2014-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2015-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100196243
【氏名又は名称】運 敬太
(72)【発明者】
【氏名】ウプマイヤー,バーバラ
(72)【発明者】
【氏名】ツァルント,トラルフ
(72)【発明者】
【氏名】レスラー,ディーター
【合議体】
【審判長】福井 悟
【審判官】伊藤 良子
【審判官】高堀 栄二
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-508506(JP,A)
【文献】J.Immunol.Methods,2001,Vol.257,pp.51-54
【文献】Exp.Parasitol.,2011,Vol.127,pp.672-679
【文献】Clin.Vaccine Immunol.,2009,Vol.16,No.6,pp.899-905
【文献】Transfusion,2003,Vol.43,pp.91-97
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
CAPLUS/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/WPIX(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離された生体試料におけるトリパノソーマ・クルージ(Trypanosoma cruzi)に対する抗体の検出に好適なポリペプチドであって、前記ポリペプチドがJL7特異的アミノ酸配列を含み、前記トリパノソーマ・クルージJL7特異的アミノ酸配列が、配列番号4で表される配列からなるものであり、
さらなるトリパノソーマ・クルージ特異的アミノ酸配列が、前記ポリペプチド中に存在しない、前記ポリペプチド。
【請求項2】
単離された生体試料におけるトリパノソーマ・クルージ抗原に対する抗体の検出に好適なポリペプチドの組成物であって、請求項1に記載のポリペプチドと、1F8、クルジパイン、KMP-11、およびPAR-2からなる群より選択される少なくとも1つのトリパノソーマ・クルージポリペプチドとを含む、前記組成物。
【請求項3】
可溶性で免疫反応性のトリパノソーマ・クルージJL7ポリペプチドを製造する方法であって、
a)請求項1に記載のポリペプチドをコードする作動可能に連結された遺伝子組み換えDNA分子を含む発現ベクターによってトランスフォームされたホスト細胞を培養するステップと、
b)前記トリパノソーマ・クルージJL7ポリペプチドの発現ステップと、
c)前記トリパノソーマ・クルージJL7ポリペプチドの精製ステップと
を含む、前記方法。
【請求項4】
単離された試料においてトリパノソーマ・クルージに対して特異的な抗体を検出する方法であって、請求項1に記載のポリペプチド、または請求項2に記載の組成物が、前記トリパノソーマ・クルージ抗体に対する捕捉試薬および/または結合パートナーとして使用される、前記方法。
【請求項5】
単離された試料においてトリパノソーマ・クルージ抗原に特異的な抗体を検出する方法であって、
a)体液試料を、請求項1に記載のポリペプチド、または請求項2に記載の組成物と混和することによって、免疫反応混和物を形成すること、
b)ポリペプチド試料の組成物に対する体液試料中に存在する抗体を、トリパノソーマ・クルージポリペプチドの前記組成物と免疫反応させて免疫反応生成物を形成させるのに十分な期間、免疫反応混和物を維持すること、および、
c)いかなる免疫反応生成物についてもその存在および/または濃度を検出すること、
を含む、前記方法。
【請求項6】
請求項5に記載の単離された試料においてトリパノソーマ・クルージ
抗原に特異的な抗体を検出する方法であって、前記免疫反応が、
a)前記試料に、固相に直接的または間接的に結合することができ、かつバイオアフィン結合対の一部であるエフェクター基を有する第1の請求項1に記載のポリペプチドと、検出可能な標識を有する第2の請求項1に記載のポリペプチドとを加えるステップであって、第1および第2のトリパノソーマ・クルージJL7ポリペプチドが、前記抗トリパノソーマ・クルージ抗体に特異的に結合させること、
b)第1のトリパノソーマ・クルージJL7ポリペプチド、試料抗体、および第2のトリパノソーマ・クルージJL7ポリペプチドを含む免疫反応混和物を形成すること、ここで前記バイオアフィン結合対に対応するエフェクター基を有する固相が、免疫反応混和物を形成する前、形成中、または形成後に加えられる、
c)体液試料中の第1および第2のトリパノソーマ・クルージJL7ポリペプチドに対するトリパノソーマ・クルージ抗体を第1および第2のトリパノソーマ・クルージポリペプチドと免疫反応させて免疫反応生成物を形成させるのに十分な期間、免疫反応混和物を維持すること、
d)固相から液相を分離すること、および、
e)固相もしくは液相またはその両方において、いかなる免疫反応生成物についてもその存在を検出すること、
を含む、二重抗原サンドイッチ形式において実施される、前記方法。
【請求項7】
前記第1のトリパノソーマ・クルージJL7ポリペプチドがビオチン部分を有し、および前記第2のトリパノソーマ・クルージJL7ポリペプチドが、電気化学ルミネセンス性のルテニウム錯体によって標識されている、請求項6に記載のトリパノソーマ・クルージ
抗原に特異的な抗体を検出する方法。
【請求項8】
抗トリパノソーマ・クルージ抗体の検出のためのインビトロ診断試験における、請求項1に記載のポリペプチド、または請求項2に記載の組成物の使用。
【請求項9】
請求項1に記載のポリペプチド、または請求項2に記載の組成物を含む、抗トリパノソーマ・クルージ抗体の検出のための試薬キット。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
トリパノソーマ・クルージ(Trypanosoma cruzi)は、シャーガス病と呼ばれる熱帯性の寄生虫病を引き起こす鞭毛原生動物である。シャーガス病の過程において、感染患者は、典型的には、急性期と、その後に、軽症から生命に危険を及ぼすまでの幅広い範囲で変わる症状を有する慢性期を経る。患者は、初期段階においてのみ、抗寄生虫治療の効果がある。患者によっては、死に至る心臓または腸の合併症を発症する。
【0002】
T.クルージは、一般的に、媒介昆虫であるオオサシガメ亜科の吸血性「オオサシガメ」(サシガメ科;ドイツ語では「Raubwanzen」)によってヒトおよび他の哺乳動物に感染する。当該疾患は、輸血および臓器移植、寄生生物で汚染された食べ物の摂取によって、ならびに母体から胎児へと広がり得る。シャーガス病のさらなる拡大を防ぐために、特に、メキシコ、中南米、および合衆国南部のような主な感染地域では、寄生虫の存在およびT.クルージに対する抗体について、献血および血液をベースとする医療製品を検査することは重要である。
【0003】
現在では、例えば、間接免疫蛍光法、間接赤血球凝集反応、補体結合、免疫ブロット法、およびELISAによるT.クルージに対する抗体の検出など、いくつかの血清学的診断法が、T.クルージの感染を検出するために利用可能である。分子生物学による方法(例えば、PCR)および入念な外因診断法も適用される。媒介生物による感染の外因診断では、研究室で育てられた無菌の昆虫(ここでは、オオサシガメ)に患者を吸血させる。当該昆虫の腸の内容物が、病原菌(ここでは、トリパノソーマ・クルージ)の存在について調べられる。
【0004】
これらの方法のそれぞれは、感度および特異度に関して、それ自体の短所および長所を示し、したがって、今のところ、利用可能なゴールドスタンダードとなる方法は存在しない。
【0005】
抗体の検出のためのシャーガス病アッセイの開発の当初、天然の抗原溶解物が適用されていたが、それは依然として用いられている。しかしながら、溶解物を使用する場合、この抗原組成物中に対応物が含まれるのはT.クルージの3つの発症段階のうちの1つについてのみであり、したがって、他の2つの段階の感染を見逃してしまう可能性がある程度ある。より現代的なアッセイは、遺伝子組み換え抗原の混合物を適用し、T.クルージ感染の全ての段階を示す。
【0006】
トリパノソーマ・クルージ抗原に対する抗体を検出するための血清学的アッセイは、従来技術の文献において広く説明されてきている。例えば、Silveiraら(Trends in Parasitology 2001,Vol.17 No.6,p.286-291)は、いくつかの研究所によって単離された、血清学的診断に関連するT.クルージ遺伝子組み換え抗原について記載している。これらの遺伝子のいくつかは、反復アミノ酸配列モチーフを示すタンパク質を結果として生じる縦列反復配列を有する。
【0007】
T.クルージに対する抗体の検出のために血清学的アッセイにおいて広く使用される抗原のうちの1つは、JL7(UniProtデータベースのエントリ:Q4CS87)であり、同義語FRA、Ag1、およびH49によっても記載されている(レビューについては、例えば、Cotrimら 1995,Mol Biochem Parasitol 71,89-98およびUmezawaら 1999,J Clin Microbiol,1554-1560を参照のこと)。Silveiraら(上記)も、ELISAアッセイにおいて使用するための様々な追加のT.クルージ抗原のいくつかの混合物において、FRA(JL7)について記載している。しかし、特異的JL7関連ポリペプチドについては開示されていない。
【0008】
Valiente-Gabioudら(Exp.Parasitol.2011,127,p.672-679)は、T.クルージFRA(JL7)タンパク質の免疫原性および抗原性に対する反復の効果について論じている。ヒト感染血清から満足のいくELISA信号を得るために、4つの反復性の反復配列を使用することが推奨されている。しかし、アッセイの特異度の問題は、取り扱われておらず、特異的JL7ポリペプチドは開示されていない。
【0009】
上記において言及したJL7配列に基づく全ての抗原変異型は、菌株とT.クルージの分離株との間において高度に保存される68のアミノ酸の反復配列を有する。JL7は、68のアミノ酸による上記モチーフの約3.5の反復配列を含む、226のアミノ酸による推定上のカルパインシステインペプチダーゼである(
図1を参照のこと)。しかしながら、いくつかの同一のまたは非常に類似する反復配列を有する抗原は、しばしば、抗T.クルージ抗体の存在について分析される試料中に存在するIgMまたはIgG分子あるいはリュウマチ性因子の非特異的結合によって引き起こされる干渉を受ける傾向にある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、干渉感度に関する欠点を克服する、遺伝子組み換えJL7抗原組成物およびトリパノソーマ・クルージによる感染を検出するための診断方法を提供することにおいて課題を認めることができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題は、特許請求の範囲において指定される本発明によって解決される。特許請求される抗原および組成物ならびに診断方法は、高い特異度および感度ならびに信頼性高い再現性を有する免疫診断的解決策を提供する。
【0012】
本発明は、単離された生体試料におけるトリパノソーマ・クルージJL7抗原に対する抗体の検出に好適なJL7抗原の変異型に関する。これらの抗原は、JL7特異的アミノ酸配列を含み、当該JL7特異的配列は配列番号2の2つのコピーからなり、当該2つのコピーのそれぞれは、配列番号2に対して少なくとも90%のアミノ酸相同性を有し、さらなるトリパノソーマ・クルージ特異的アミノ酸配列が当該ポリペプチド中に存在しない。本発明はさらに、トリパノソーマ・クルージに対する抗体の検出にとって有用なポリペプチドの組成物であって、T.クルージポリペプチド1F8、クルジパイン、KMP-11、およびPAR-2のうちの少なくとも1つと共に、上記において特徴付けられたJL7抗原を含む組成物に関する。さらに、本発明は、JL7抗原を製造する方法、ならびに当該JL7ポリペプチドを使用したT.クルージ抗体を検出するための診断方法に関する。それに加えて、本発明は、当該JL7ポリペプチドまたはトリパノソーマ・クルージポリペプチドの組成物を含む試薬キットに関する。
開示されるアミノ酸配列の説明
配列番号1は、FRA、Ag1、H49としても知られる、T.クルージタンパク質の部分配列JL7(UniProtエントリ:Q4CS87)を示している(完全記述名:カルパインシステインペプチダーゼ(推定上))。配列番号1は、上記のUniProtデータベースエントリのアミノ酸位置62~287を示しており、結果として226のアミノ酸長さを有するポリペプチドを示す。当該全長タンパク質は、1~1275のアミノ酸を含む。
【0013】
【0014】
配列番号2は、抗原JL7short1を示しており、配列番号1のアミノ酸位置1~68としても示される。
【0015】
【0016】
配列番号3は、抗原JL7short2を示しており、配列番号1のアミノ酸位置69~136としても示される。
【0017】
【0018】
配列番号4は、配列番号2および3の組み合わせに対応する抗原JL7short1+2を示しており、配列番号1のアミノ酸位置1~136としても示される。
【0019】
【0020】
配列番号5は、配列番号1のアミノ酸位置137~226に対応する抗原JL7short3+4を示している。
【0021】
【0022】
配列番号6は、配列番号1のアミノ酸位置137~204に対応する抗原JL7short3を示している。
【0023】
【0024】
配列番号7は、本発明によるポリペプチドのN末端に、または好ましくはC末端に追加することができるヘキサ-ヒスチジンタグを示している。当該タグは、タンパク質の精製を容易にするために使用される。
【0025】
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】完全JL7アミノ酸配列における反復配列の構造。上側:4つ全ての反復配列が、アミノ酸相同性(太字)および差違(通常の下線文字)を示すように揃えられている。下側:JL7変異型およびそれらの反復配列ドメインの相対位置の概略図。JL7short1+2は、本発明によるJL7抗原を表している。
【
図2】JL7、JL7short1、JL7short2、JL7short1+2、およびJL7short3+4の遠紫外線CDスペクトルを示す図である。当該スペクトルは、20℃において、サーモスタット式セルホルダーにおいてJasco-720分光偏光計により記録した。タンパク質濃度は、0.1cmのキュベットにおいて0.2mg/mlであった。緩衝液は、pH7.5の10mMのリン酸カリウムであった。帯域幅は、1nmであり、解像度は、1nmであり、走査速度は、2秒の応答において50nm/分であった。スペクトルは、8回記録し、信号対雑音比を向上させるために平均を取った。当該信号は、モル楕円率(deg・cm
2/dmolで与えられる)に変換した。JL7およびJL7short1+2のスペクトルは、高含有量のα-螺旋構造要素(208nmおよび222nmの信号帯域)を有するタンパク質を指している。JL7short1、JL7short2、およびJL7short3+4のスペクトルは、高度な不規則構造を有するタンパク質を表している(200nm付近の信号帯域)。
【発明を実施するための形態】
【0027】
T.クルージJL7抗原およびそのアミノ酸配列の特性は、現状技術水準において広く記載されている。しかしながら、複数の反復配列を有する抗原によって引き起こされるT.クルージ診断アッセイが、より干渉を受けやすい問題は、十分には対処されていない。例えば、分析される試料中に存在するリュウマチ性因子を伴う非特異的IgM分子または非特異的IgGは、陽性試験結果を生じ、本当は当該試料は陰性として検出されるべきであるのに、あたかも抗T.クルージ抗体が試料中に存在するかのような振る舞う場合、干渉に対する当該高い脆弱性は、誤った陽性結果を生じ得る。誤った陽性結果は、アッセイの特異度における望ましくない減少を生じる。しかしながら、規制当局は、感染病パラメータに対する診断方法において、高度な特異度を要求する。
【0028】
驚くべきことに、本発明者らは、依然として試料の抗体によって結合されるのに十分な抗原特性を有しつつも、誤った陽性結果を生じない、JL7変異型を特定した。当該完全なJL7ポリペプチドは、68のアミノ酸のモチーフの約3.5の反復配列を有する。疑問は、1つの反復配列で、好適な診断用希少試薬を提供するのに十分であるか否かであった。反復配列1および2(それぞれ、JL7short1(配列番号2)およびJL7short2(配列番号3)として指定される)が、別々の抗原として発現した場合、短くされた変異型のいずれも、陽性試料の全てを正しく検出することができなかった(表2)。同じことが、JL7short3+4(配列番号5に示される)と呼ばれる、約1.5の反復配列からなる短くされた変異型に対しても当てはまった。しかしながら、例えば配列番号4など、当該68のアミノ酸モチーフの2つの反復配列が、一緒に隣接して存在する場合、3.5の反復配列を有する完全なJL7ポリペプチドを使用して初めは陽性と診断された試料は、結局、実際には誤った陽性試料であることが判明した。その一方で、配列番号2に示される68のアミノ酸反復配列を2つ有するJL7ポリペプチドは、真の陽性試料を陽性として、すなわち、T.クルージに対する抗体を含むとして、信頼性高く正しく検出することができた。
【0029】
したがって、本発明は、JL7特異的アミノ酸配列を含む、単離された生体試料におけるトリパノソーマ・クルージJL7抗原に対する抗体の検出に好適なポリペプチドであって、当該JL7特異的配列が、配列番号2の2つのコピーからなり、当該2つのコピーのそれぞれが、配列番号2に対して少なくとも90%のアミノ酸相同性を有し、さらなるトリパノソーマ・クルージ特異的アミノ酸配列が当該ポリペプチド中に存在しない、ポリペプチドに関する。本発明により、配列番号2の当該2つのコピーは、さらなるアミノ酸が当該2つのコピーの間に存在しないように、お互いに直接隣接していてもよい。代替手段として、それらは、JL7特異的配列には存在しないリンカー配列によって隔てられていてもよい。
【0030】
配列番号2のこれら2つのコピーは、完全に同一である必要はないが、両方の配列は、配列番号2に対して少なくとも90%のアミノ酸相同性を示さなければならない。例えば、配列番号4(JL7short1+2)は、配列番号2(JL7short1)および配列番号3(JL7short2)を含む。配列番号2は、単純に、配列番号2に対して100%のアミノ酸相同性を示し、配列番号3は、68のアミノ酸のうち66のアミノ酸が配列番号2と同一であり、結果として、97%のアミノ酸相同性である。別の例として、
図1に示される反復配列3(配列番号6)は、配列番号2と比べて6のアミノ酸位置において異なり、結果として、91%のアミノ酸相同性である(62/68)。したがって、本発明により、JL7ポリペプチドは、JL7特異的部分が、配列番号2および3、あるいは配列番号2および6、あるいは配列番号3および6からなる、アミノ酸配列を含む。好ましい様式において、当該JL7特異的部分は、配列番号2および3の組み合わせである配列番号4からなる。
【0031】
明瞭にするなら、62、63、64、65、66、または67のアミノ酸より短い長さのJL7特異的アミノ酸配列も(この場合、当該短くされたJL7断片の残りのアミノ酸残基は全て、配列番号2と同一である)、配列番号2に対して少なくとも90%のアミノ酸相同性という要件を満たす(例えば、62/68=91%)。別の実施形態において、配列番号2に対するアミノ酸相同性の要件は、少なくとも95%である。好ましくは、当該短くされたJL7断片の欠失は、N-およびC末端アミノ酸残基に関してであり、JL7配列番号2配列のコア部分は、完全なままである。
【0032】
JL7特異的アミノ酸配列は別として、さらなるトリパノソーマ・クルージ特異的アミノ酸配列が本発明によるポリペプチド中に存在しないことは、重要である。明瞭にするなら、明確に説明されるものの域を超えるさらなるJL7特異的アミノ酸配列は、当該ポリペプチドに存在しない。したがって、配列番号1において開示される全長JL7は、本発明に包含されない。本発明を明瞭にするなら、例えば、配列番号2に示される配列モチーフの2つの反復配列を既に有する例えば配列番号4などのいくつかの分子も、同じポリペプチド鎖上に存在し得ない。
【0033】
本発明により、JL7特異的配列が配列番号2の2つのコピーからなり、それぞれが、配列番号2に対して少なくとも90%のアミノ酸相同性を有するという前提条件が満たされる限り、そのようなJL7抗原の変異型も想到される。ある実施形態において、当該アミノ酸相同性は、配列番号2に対して少なくとも95%である。変異型は、インビトロ診断イムノアッセイにおける免疫反応性が維持される限り、そのようなものとして分類され、すなわち、当該変異型は、依然として、試料中に存在する抗T.クルージ抗体に結合することができ、それらを検出することができる。変異型は、例えば、ポリペプチドまたは抗原への、リンカーアミノ酸配列、標識、タグ、アミノ酸配列、または担体部分の共有結合によって修飾されたJL7ポリペプチドでもある。用語「変異型」は、翻訳後に修飾されたタンパク質、例えば、グリコシル化またはホスホリル化されたタンパク質など、あるいは、クローニング、発現、精製、およびフォールディングを容易にする融合タンパク質にも関する。
【0034】
JL7変異型、JL7抗原、JL7ポリペプチド、またはJL7抗原性ポリペプチドもしくはタンパク質なる用語は、本明細書において同じ意味において使用される。トリパノソーマ・クルージ(=T.クルージ)特異的抗原またはT.クルージポリペプチドなる用語も同義語として理解され、それぞれが、UniProtなどの国際タンパク質配列データベースによってアクセス可能な任意の天然に存在するT.クルージ菌株に見出すことができるポリペプチド配列を意味し、またアミノ酸配列を意味する。
【0035】
通常、T.クルージ感染の全ての段階を検出するために、いくつかの異なるT.クルージ抗原が、T.クルージ抗体を検出するためのアッセイにおいて適用される。したがって、本発明のさらなる態様は、単離された生体試料におけるトリパノソーマ・クルージ抗原に対する抗体の検出に好適なポリペプチドの組成物であって、上記において指定されるようなJL7ポリペプチドと、1F8、クルジパイン、KMP-11、およびPAR-2からなる群より選択される少なくとも1つのトリパノソーマ・クルージポリペプチドとを含む組成物である。これらの追加の抗原に由来するアミノ酸配列は、当技術分野において既知であり、UniProtなどの公的に利用可能なデータベースから取得可能である;例えば、1F8(UniProtエントリ:Q4D1Q2)(FCaBP、TC24、またはTC28としても知られる);クルジパイン(UniProtエントリ:Q9TW51)(クルザイン、gp51/57、Ag 163B6としても知られる);KMP-11(UniProtエントリ:Q9U6Z1);PAR2(UniProtエントリ:Q01530)(PFR2としても知られる)など。
【0036】
組成物なる用語は、単離された別々のT.クルージポリペプチドが混和物へと混合されることを意味する。この用語は、全てのポリペプチドが多重抗原融合ポリペプチドとしての1つだけのポリペプチド鎖上に位置するように、アミノ酸からなる単一鎖上において遺伝子組み換え的に発現させたかまたは合成したポリペプチドを含まない。換言すれば、天然において単一のペプチド鎖上には現れないいくつかのエピトープの多重エピトープ融合抗原は除かれる。むしろ、追加のT.クルージポリペプチドの1F8、クルジパイン、KMP-11、およびPAR2のそれぞれは、別々のポリペプチド鎖上に発現するか、別々のポリペプチド鎖として化学的に合成される。当該組成物は、個々のT.クルージポリペプチドを1つの容器または管において混合することによって作製され、結果として組成物を生じる。
【0037】
当該組成物は、液体であり得、すなわち、当該T.クルージポリペプチドは、水可溶形態または緩衝液可溶形態において混合物に加えられる。好適な緩衝液の原料成分は、当業者に既知である。当該組成物は、固体であってもよく、すなわち、T.クルージ抗原を凍結乾燥状態またはそれ以外の乾燥状態において含む。
【0038】
さらに、本発明は、上記においてより詳しく説明される、可溶性で免疫反応性のトリパノソーマ・クルージJL7ポリペプチドを製造する方法であって、
a)トリパノソーマ・クルージJL7ポリペプチドをコードする作動可能に連結された遺伝子組み換えDNA分子を含む発現ベクターによってトランスフォームされたホスト細胞を培養するステップ、
b)トリパノソーマ・クルージJL7ポリペプチドの発現ステップ、および
c)トリパノソーマ・クルージJL7ポリペプチドの精製ステップ
を含む方法にも関する。
【0039】
本発明の別の態様は、単離された試料においてトリパノソーマ・クルージに対して特異的な抗体を検出する方法であって、上記において開示されるトリパノソーマ・クルージJL7ポリペプチド、または上記において定義される方法によって得られるトリパノソーマ・クルージJL7ポリペプチド、またはまさにその説明されたトリパノソーマ・クルージポリペプチドの組成物が、当該トリパノソーマ・クルージ抗体に対する捕捉試薬および/または結合パートナーとして使用される、方法である。
【0040】
さらなる別の実施形態は、単離された試料においてトリパノソーマ・クルージに対して特異的な抗体を検出する方法であって、
a)体液試料を、本発明によるトリパノソーマ・クルージJL7ポリペプチド、または既に説明した組成物、または本明細書の先行の段落において説明した方法によって得られるトリパノソーマ・クルージJL7ポリペプチドと混和することによって免疫反応混和物を形成するステップ、
b)ポリペプチド試料の上記組成物に対する、当該体液試料中に存在する抗体を、トリパノソーマ・クルージポリペプチドの当該組成物と免疫反応させて、免疫反応生成物を形成させるのに十分な期間、当該免疫反応混和物を維持するステップ、および
c)いかなる免疫反応生成物についてもその存在および/または濃度を検出するステップ
を含む方法である。
【0041】
さらなる態様において、本発明によるイムノアッセイ方法は、シャーガス病診断に対して最も関連するサブクラスとしてIgGおよびIgMを含む、全ての可溶性の免疫グロブリンのサブクラスのT.クルージ抗体の検出に好適である。
【0042】
本発明はさらに、いわゆる二重抗原サンドイッチ形式DAGSにおいて、単離された試料においてトリパノソーマ・クルージに対して特異的な抗体を検出する方法に関する。単離された試料においてトリパノソーマ・クルージに対して特異的な抗体を検出するための上記方法は、好ましくは二重抗原サンドイッチ(DAGS)形式において実施される。そのようなアッセイでは、少なくとも2種の異なる所定の抗原の分子をその2つ(IgG、IgA、IgE)または10(IgM)の抗原結合部位に結合させる抗体の能力が必要とされ、ならびにその能力を利用する。上記DAGSイムノアッセイにおいて、「固相抗原」および「検出抗原」の基本構造は、本質的に同じであり、そのため、当該試料の抗体は、2つの特異的抗原の間に橋かけを形成する。したがって、1つの抗体が両方の抗原に結合することができるように、両方の抗原は、同一であるかまたは免疫学的に交差反応性であるかのどちらかでなければならない。そのようなアッセイを実施するための必須要件は、関連するエピトープ(複数可)が両方の抗原に存在することである。2種の抗原の一方は、固相に結合し得、他方は検出可能な標識を有する。
【0043】
この方法は、
a)単離された試料に、固相に直接的または間接的に結合することができ、かつバイオアフィン結合対の一部であるエフェクター基を有する第1のトリパノソーマ・クルージJL7ポリペプチドと、検出可能な標識を有する第2のトリパノソーマ・クルージJL7ポリペプチドとを加えるステップであって、第1および第2のトリパノソーマ・クルージJL7ポリペプチドが、上記抗トリパノソーマ・クルージ抗体に特異的に結合する、ステップ、
b)第1のトリパノソーマ・クルージJL7ポリペプチド、試料抗体、および第2のトリパノソーマ・クルージJL7ポリペプチドを含む免疫反応混和物を形成するステップであって、上記バイオアフィン結合対における対応するエフェクター基を有する固相が、免疫反応混和物を形成する前、形成中、または形成後に加えられる、ステップ、
c)体液試料中の第1および第2のトリパノソーマ・クルージJL7ポリペプチドに対するトリパノソーマ・クルージ抗体を、第1および第2のトリパノソーマ・クルージポリペプチドと免疫反応させて、免疫反応生成物を形成させるのに十分な期間、免疫反応混和物を維持するステップ、
d)固相から液相を分離するステップ、
e)固相もしくは液相またはその両方において、いかなる免疫反応生成物についてもその存在を検出するステップ
を含む。
【0044】
当該説明したサンドイッチ法の好ましい様式において、第1のトリパノソーマ・クルージJL7ポリペプチドは、ビオチン部分を有しており、第2のトリパノソーマ・クルージJL7ポリペプチドは、その信号を検出することができる電気化学ルミネセンス性ルテニウム錯体で標識される。
【0045】
本発明はさらに、抗トリパノソーマ・クルージ抗体の検出のためのインビトロ診断試験における、全てが上記において本明細書において詳細に説明される、トリパノソーマ・クルージJL7ポリペプチドの使用、またはT.クルージ特異的ポリペプチドの組成物の使用、または上記において定義される遺伝子組み換え製造方法によって得られるJL7ポリペプチドの使用も網羅する。
【0046】
本発明の別の態様は、本発明によるトリパノソーマ・クルージJL7ポリペプチド、または上記において詳細に説明される製造方法によって得られるJL7ポリペプチド、またはJL7ポリペプチドの組成物と、1F8、クルジパイン、KMP-11、およびPAR2から選択される少なくとも1つのさらなるT.クルージ抗原とを含む、抗トリパノソーマ・クルージ抗体の検出のための試薬キットである。
【0047】
当該キットは、抗トリパノソーマ・クルージ抗体の検出のためのインビトロ診断試験にとって有用であり、さらに、別々のバイアル瓶での対照および標準溶液、ならびに一般的な添加剤、緩衝液、塩、洗浄薬などを伴う1つまたは複数の溶液形態もしくは凍結形態での追加の試薬、ならびに当業者に既知の使用のための取扱説明書も含み得る。
【0048】
本発明はさらに、実施例のセクションによって説明される。
【実施例1】
【0049】
トリパノソーマ・クルージJL7抗原変異型のクローニングおよび精製
免疫診断試験におけるその適用に好適な、T.クルージJL7抗原の最小サイズを調査するために、1つまたは2つの反復ユニットからなるいくつかの変異型を作製した。
【0050】
表1に一覧される、T.クルージ抗原をコードする合成遺伝子は、Eurofins MWG Operon(エーバースベルク、ドイツ)から購入した。Novagen(マディソン、ウィスコンシン、米国)のpET24a発現プラスミドに基づいて、以下のクローニングステップを実施した。当該ベクターをNdeIおよびXhoIで消化し、それぞれのT.クルージ抗原を含むカセットを挿入した。結果として得られるプラスミドのインサートを配列決定し、所望のタンパク質をコードすることを見出した。結果として得られるタンパク質のアミノ酸配列が、本発明の配列プロトコルに示されている。全ての遺伝子組み換えT.クルージポリペプチド変異型は、Ni-NTA-補助精製を容易にするために、C末端ヘキサヒスチジンタグ(配列番号7)を有した。配列番号を表1にまとめる。
【0051】
全てのT.クルージ抗原を以下のプロトコルに従って精製した。発現プラスミドを宿す大腸菌BL21(DE3)細胞を、カナマイシン(30μg/ml)を伴うLB培地において1OD600まで培養し、37℃の培養温度において、1mMの最終濃度までイソプロピル-β-D-チオガラクトシド(IPTG)を加えることによって、サイトゾル過剰発現を誘発させた。誘発の4時間後、遠心分離(5000×gで20分間)によって細胞を収穫し、冷凍して、-20℃で保存した。細胞溶解物に対しては、緩衝液50ml中における25mMのpH8.5のリン酸ナトリウム、6mMのMgCl2、10U/mlのBenzonase(登録商標)、1タブレットのComplete(登録商標)、および1タブレットのComplete(登録商標)EDTA-フリー(プロテアーゼ阻害剤カクテル)に凍結ペレットを再懸濁させ、結果として得られる懸濁液を高圧ホモジナイゼーションによって溶解させた。粗溶解物に、50mMのリン酸ナトリウム、10mMのイミダゾールとなるようにこれらを補った。遠心分離後、当該上澄みを、緩衝液A(50mMのpH8.5のリン酸ナトリウム、100mMの塩化ナトリウム、10mMのイミダゾール)で事前に平衡化させたNi-NTA(ニッケル-ニトリロトリアセテート)カラム上に適用した。溶離の前に、汚染タンパク質を除去するためにイミダゾール濃度を40mMまで上げた。次いで、250mMの濃度のイミダゾールを適用することによって、タンパク質を溶離させた。最終的に、当該タンパク質をサイズ排除クロマトグラフィにかけて、タンパク質含有分画をプールして濃縮した。
【0052】
【実施例2】
【0053】
分光計測
円偏光二色性分光法(CD)は、タンパク質における二次構造を評価するための最適の方法である。アミド範囲(190~250nm)における楕円率は、タンパク質骨格における規則的な反復要素、すなわち、二次構造を反映する。
【0054】
近紫外CDスペクトルは、サーモスタット式セルホルダーを備えるJasco-720分光偏光計によって記録し、モル楕円率に変換した。緩衝液は、pH7.5の10mMのリン酸カリウムであった。経路長は0.1cmであり、タンパク質濃度は、0.2mg/mlであった。帯域幅は1nmであり、走査速度は、1nmの解像度において50nm/分であり、応答は2秒であった。信号対雑音比を向上させるために、スペクトルは、8回測定して平均した。
【0055】
図2は、JL7、JL7short1、JL7short2、JL7short1+2、およびJL7short3+4の遠紫外線CDスペクトルを示している。JL7およびJL7short1+2のスペクトルは、高含有量のα-螺旋構造要素(208nmおよび222nmの信号帯域)を有するタンパク質を指し示している。JL7short1、JL7short2、およびJL7short3+4のスペクトルは、高度な不規則構造を有するタンパク質を表している(200nm付近の信号帯域)。
【0056】
したがって、よく構造化された変異型JL7short1+2がイムノアッセイにおいて最も良好な結果を示した(実施例4および表2)という調査結果は一貫している。本発明者らは、より短い変異型JL7short1、JL7short2、およびJL7short3+4は、試料の抗体によって結合されることができる、重要な認識可能なエピトープを維持する三次元構造を維持することができないと仮定する。JL7short1+2は、配列番号2のアミノ酸配列の2つの完全な反復配列を有しないより短い変異型JL7short1、JL7short2、およびJL7short3+4と比べてより良好なアクセス可能な方式において、試料の抗体に対する関連するエピトープを提示する。
【実施例3】
【0057】
T.クルージJL7抗原変異型へのビオチンおよびルテニウム部分のカップリング
遺伝子組み換えタンパク質のリジンε-アミノ基を、約10mg/mlのタンパク質濃度において、それぞれ、N-ヒドロキシ-スクシンイミド活性化ビオチンおよびルテニウム標識によって修飾した。標識/タンパク質のモル比は、それぞれビオチンおよびルテニウム標識コンジュゲーションに対して、5:1および15:1に調節した。反応緩衝液は、50mMのリン酸カリウム(pH8.5)、150mMのKCl、0.5mMのEDTAであった。当該反応を室温において30分間実施し、緩衝されたL-リシンを10mMの最終濃度まで加えることによって当該反応を止めた。当該カップリング反応後、粗タンパク質コンジュゲートをゲルろ過カラム(Superdex 200 HI Load)を通すことによって未反応の遊離標識を除去した。
【実施例4】
【0058】
免疫診断試験における遺伝子組み換えT.クルージJL7抗原変異型の干渉に対する免疫学的反応性および脆弱性の評価
異なるタンパク質の免疫学的反応性を、自動化されたcobas(登録商標) e601アナライザ(Roche Diagnostics GmbH)において評価した。測定は、二重抗原サンドイッチ形式において実施した。それにより、ビオチン-コンジュゲート(すなわち、捕捉抗原)が、ストレプトアビジンをコーティングした磁性ビーズの表面に固定され、その一方で、当該検出抗原は、シグナリング部分として、錯体化されたルテニウムカチオンを有する。cobas(登録商標) e601におけるシグナル検出は、電気化学ルミネセンスに基づいている。
【0059】
特異的免疫グロブリン分析物の存在下で、当該発色性ルテニウム錯体は、固相に橋かけ結合し、白金電極での励起後に620nmにおいて発光する。シグナル出力は、光の任意単位による。測定は、いくつかの供給元から購入した、抗T.クルージ陽性および陰性のヒト血清およびヒト血漿試料において実施した。
【0060】
本発明による遺伝子組み換えT.クルージJL7抗原変異型を、二重抗原サンドイッチ(DAGS)イムノアッセイ形式において対毎に評価した。例えば、JL7-ビオチンコンジュゲートを、50mMのMES(pH6.5)、150mMのNaCl、0.1%のポリドカノール、0.2%のウシアルブミン、0.01%のN-メチルイソチアゾロン、0.1%のオキシ-ピリオンを含有するアッセイ緩衝液において、それぞれ100ng/mlの濃度において、JL7-ルテニウム錯体コンジュゲートと共に評価した。使用した試料体積は30μlであった。抗T.クルージ陰性ヒト血清を対照として使用した。抗T.クルージ陽性ヒト血清を使用して各変異型の抗原性を評価した。
【0061】
【0062】
表2に、表1に一覧される全てのT.クルージJL7抗原変異型(JL7short3を除く)の免疫学的活性を示す。
表2の全ての試料を、製造元の取扱説明書に従って、いくつかのT.クルージ抗原を使用するがJL7は使用しない市販のシャーガス病アッセイ(Biokit S.A.のbioelisa Chagas)によって試験した。
【0063】
バイエルン赤十字からの血液ドナー(n=998)を含む特異度研究では、バイエルン(ドイツ)は、シャーガス病の風土病地域ではなく、承認されたbioelisa Chagas(Biokit S.A.)も非反応性であったという事実から、抗T.クルージ抗体に対して4つの試料が誤った反応性であると予想されることが明らかとなった。
【0064】
試料が反応性であるかまたは非反応性であるかを決定するために、平均バックグラウンド信号を特定し(陰性試料の平均)、当該平均バックグラウンド信号の4.5倍(平均×4.5)としてカットオフ値を算出した。
【0065】
試料が反応性であるかまたは非反応性であるかを特定するための閾値としての当該カットオフ値は、個別に、アッセイ条件に応じて選択される。そのような手順は、当業者に既知である。それに加えて、絶対信号カウントは、当該信号カウントを所定のカットオフ値で割ることによって正規化することができる(データは示されず)。したがって、陽性、すなわち反応性試料は、1を超える(>1)正規化された値として現れ、非反応性試料による結果は、0と1の間の値を有するであろう。
【0066】
再び表2を参照すると、T.クルージJL7抗原変異型の反応性が、完全反復ユニットの数に強く依存していることは明らかである。そのため、当該孤立した繰り返しユニット1または2、ならびに短くされたユニット4と融合された繰り返しユニット3は、著しく減少した抗原性を示した。干渉に対するその脆弱性も、直ちに著しく減少すると思われる。これとは対照的に、変異型JL7short1+2の場合のように2つの完全な繰り返しユニットの融合は、完全なJL7分子の場合と同様に全体の抗原性を維持し、同時に陰性および陽性試料を正しく識別する。4つの干渉試料のうちの2つは、測定された信号において著しい減少を示した。JL7特異的部分が配列番号2の2つの反復配列のみからなるJL7変異型(ならびに配列番号2に対して、少なくとも90%、ある実施形態では少なくとも95%のアミノ酸配列相同性を有する変異型)の使用は、抗T.クルージイムノアッセイの特異度をかなり増加させる。
【配列表】