(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】シャント抵抗器の実装構造
(51)【国際特許分類】
H01C 13/00 20060101AFI20221109BHJP
H01C 13/02 20060101ALI20221109BHJP
H01C 3/00 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
H01C13/00 T
H01C13/02 Z
H01C3/00 Z
H01C13/00 J
(21)【出願番号】P 2018095426
(22)【出願日】2018-05-17
【審査請求日】2021-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 保
【審査官】菊地 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-174555(JP,A)
【文献】特表2000-500231(JP,A)
【文献】特開2001-296184(JP,A)
【文献】特開平5-5758(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 13/00
H01C 13/02
H01C 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極と
、長さ方向において前記一対の電極の間に配置される抵抗体と
、前記一対の電極に設けられた一対の電圧検出端子とを備えたシャント抵抗器と、
制御回路を搭載した電流検出用の基板であって、前
記一対の電圧検出端子が、前記基板の電圧検出部に接続されている基板と、
前記シャント抵抗器の、一方の前記電極の温度を測定する
、前記一方の電極に隣接して設けられた第1の温度センサと
前記抵抗体の温度を測定する、前記抵抗体に隣接して設けられた第2の温度センサと、
を備
え、
前記第1の温度センサは、長さ方向において前記電圧検出端子より前記抵抗体から離間した位置に備えられている、
シャント抵抗器の実装構造。
【請求項2】
前記
第1および第2の温度センサは、前記基板に搭載されている
請求項1に記載のシャント抵抗器の実装構造。
【請求項3】
前記シャント抵抗器の他方の電極の温度を測定す
る第3の温度センサを
さらに備える
請求項1
または2に記載のシャント抵抗器の実装構造。
【請求項4】
前
記第3の温度センサは、
長さ方向において前記電圧検出端子より前記抵抗体から離間した位置に備えられている
請求項
3に記載のシャント抵抗器の実装構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャント抵抗器の実装構造(シャント抵抗器を用いた電流検出回路)に関する。
【背景技術】
【0002】
抵抗体とその両端に設けられる低抵抗な電極とにより構成されるシャント抵抗器が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1においては、電流をモニタする半導体素子が抵抗体に設けられている。半導体素子は抵抗素子および/または電力接続部の平坦な表面上に熱的に結合して配置されている。これにより、複数の負荷を有する電力供給システムにおいて短時間で正確に電流をモニタすることができる電流測定装置を低コストで実現することができるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば
図6に斜視図で示すように、シャント抵抗器101は、通常、抵抗体103を形成する抵抗材と電極105a,105bを形成する電極材との2種類の材料から構成されている。シャント抵抗器101の抵抗値温度特性の変動は、それら2種類の材料の特性に基づいて生じる。1つは抵抗材、もう1つはシャント電圧検出信号端子と抵抗材と電極端子接合間の導電材(通常は銅)である。
図6において、シャント抵抗器101の通電時の温度が高い領域、すなわち、発熱体である抵抗体103の領域がハッチで示されている。
図6からわかるように、電極105a,105bと抵抗体103とで、通電時に温度差が生じ、特に境界領域の温度が高くなっていることがわかる。
【0006】
これらの2種類の材料は異なる導電率-温度特性を有しており、また、シャント抵抗器の構造から決まるシャント抵抗値に影響する配分量からシャント抵抗値温度特性が決定される。
【0007】
図7は、上記のシャント抵抗器101を用いて求めた抵抗値の温度変化の一例を示す図である。
【0008】
シャント抵抗器101の構造から決まるシャント抵抗値に影響する配分量からシャント抵抗値温度特性が決定される。横軸は温度、縦軸は抵抗率の変化率を%で表している。
【0009】
図7において、条件1は、マンガニン温度が銅温度と等しいもの、条件2は、マンガニン温度が銅温度+15℃と等しいもの、条件3は、マンガニン温度が銅温度+25℃と等しいもの、条件3は、マンガニン温度が銅温度+35℃と等しいもの、である。
図7の実線(条件1)は、無通電のシャント抵抗器101を恒温槽に入れ、温度を可変しながら抵抗値測定を行った例を示す図であり、
図7から、条件1のデータが得られる。
【0010】
しかしながら、これでは
図6において説明したような実際の通電状態で生じるマンガニン部と銅部の温度差の影響は考慮されておらず、一方の部材の温度を用いたのみでは、高精度の電流検出のための温度補償処理としては完全ではないという問題があった。
【0011】
本発明は、シャント抵抗器を使用した電流検出回路において、シャント抵抗のTCR補償による高精度の電流検出器において、従来の方式より高精度な温度補償方式を実現することを目的とする。
【0012】
また、オーバーヒート保護動作温度に到達する前にシャント取付けネジ締め不良などによる異常検出を可能とし、通電電流を大きくしなくても異常を検出可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一観点によれば、一対の電極と抵抗体とを備えたシャント抵抗器と、制御回路を搭載した電流検出用の基板であって、前記シャント抵抗器の一対の電圧検出端子が、前記基板の電圧検出部に接続されている基板と、前記電極の温度を測定する温度センサとを備えた、シャント抵抗器の実装構造が提供される。
【0014】
前記温度センサは、前記基板に搭載されていることが好ましい。基板に搭載することで、温度補正等を行いやすい。
【0015】
前記温度センサは、前記抵抗体の温度を測定する第1の温度センサを備えることが好ましい。
【0016】
第1の温度センサにより、発熱体である抵抗体の温度を精度良く測定することができる。
【0017】
前記温度センサは、前記一対の電極の温度を測定する第2の温度センサ及び第3の温度センサを備えるようにすると良い。
【0018】
第2及び第3の温度センサによりセンシングした電極の温度と、第1の温度センサによりセンシングした抵抗体の温度とにより、シャント抵抗値の温度補償が向上する。
【0019】
前記第2及び第3の温度センサは、前記電圧検出端子より前記抵抗体から離間した位置に備えられていることが好ましい。
【0020】
発熱体である抵抗体の接合部分から少し離すことで、抵抗体の発熱の影響を抑制することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、シャント抵抗値の温度補償において、高精度の電流検出を可能にすることができる。
【0022】
また、本発明によれば、安全性に優れた高精度・高信頼性のシャント電流検出器の実装構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施の形態によるシャント抵抗器を用いた電流検出装置の一構成例を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示したシャント抵抗器を用いた電流検出装置に、制御用ICを搭載した電流検出器の基板を搭載したシャント抵抗器の実装構造の一構成例を示す斜視図である。
【
図3】
図2における第1の温度センサ近傍を拡大表示した図である。
【
図4】
図2に示す実装構造において、基板を覆うケースを取り付けた構成を示す斜視図である。
【
図5】シャント抵抗器の温度補償回路の一構成例を示す機能ブロック図である。
【
図6】従来のシャント抵抗器の構成例を示す斜視図である。
【
図7】
図6に示すシャント抵抗器を用いて求めた抵抗値の温度変化の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の実施の形態によるシャント抵抗器の実装構造(シャント抵抗器を用いた電流検出回路)について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0025】
尚、本明細書において、抵抗器の電極-抵抗体-電極が配置される方向を長さ方向と称し、それと交差する方向を幅方向と称する。
【0026】
(第1の実施の形態)
まず、本発明の第1の実施の形態によるシャント抵抗器を用いた電流検出装置1について説明する。
図1は、本実施の形態によるシャント抵抗器を用いた電流検出装置1の一構成例を示す斜視図である。
図1に示すシャント抵抗器を用いた電流検出装置1は、2つの電極5a(第1の電極)、5b(第2の電極)と、電極5a、5b間に配置された抵抗体3と、電圧検出端子17と、を備えている。なお、抵抗体3、電極5a、5bからなる部分を導電体ともいう。また電極5a、5bを電極端子ともいう。電極5a、5bは、それぞれ、端部側の主電極部(5a、5bのうち、5c、5dを除く部分を主電極部と定義している。)と、主電極部よりも幅が2W
2だけ狭い抵抗体3側の狭小電極部5c、5dとを備えている。狭小電極部5c、5dの間に、抵抗体3が配置される。狭小電極部5c、5dの長さ方向の寸法をW
1とする。この寸法W
1は、例えば、1~3mm程度である。
図1において、符号15は、ボルト孔である。
【0027】
尚、電極材、抵抗材ともに、例えば長尺の材料(板)を切り出して用いることができる。
【0028】
また、電圧検出端子17を、この例では狭小電極部5c、5dの近傍の主電極部にそれぞれ1本ずつ設けている。
【0029】
尚、電圧検出端子17を、狭小電極部5c、5dに設けても良い。電圧検出端子17を狭小電極部5c、5d又はその近傍の主電極に設けることで、電圧検出端子17間の距離を短くすることができ、4端子測定における電流測定精度を向上させることができる。
【0030】
図1に示す構造は、抵抗体3と電極部5a、5bとの溶接などにより形成された接合部分13a、13bを含む一部領域に、幅方向の内側に入り込む凹部7を設けることで幅を狭くした狭小部または幅狭部を形成することができる。この場合には、狭小電極部5c、5dの幅と抵抗体3の幅とは略等しくなる。凹部7により形成された幅の狭い部分を、狭小部または幅狭部と称する。
【0031】
尚、抵抗体3を形成する抵抗材用の材料としては、Cu-Ni系、Cu-Mn系、Ni-Cr系などの金属の板材を用いることができる。銅86%、マンガン12%、ニッケル2%からなるマンガニン(登録商標)を用いることもできる。以下では、マンガニンを用いた例について説明するが、マンガニンに限定されるものではない。
【0032】
図2は、
図1に示したシャント抵抗器を用いた電流検出装置1に、制御用ICを搭載した電流検出器の基板21を搭載したシャント抵抗器の実装構造の一構成例を示す斜視図である。
【0033】
図2に示すように、シャント抵抗器を用いた電流検出装置1の一面2a上に、基板21が立設されている。
図2の例では、基板21の一面21a上に制御用IC51が搭載され、基板21の一面21aと交差する側面21bと一面2aとが接している。この状態において、基板21の一面21aには、例えば2本の電圧検出端子17、17をそれぞれ収容する端子収容部31,31が形成されている。端子収容部31,31には、2本の電圧検出端子17、17が挿入される端子挿入孔31a,31aが形成されている。2本の電圧検出端子17、17は、端子挿入孔31a,31a内で基板21に形成された図示しない配線などと電気的に接続されることにより、2本の電圧検出端子17、17からの電圧信号が、基板21内の制御用IC51に伝達される。制御用IC51は、2本の電圧検出端子17、17からの電圧信号に基づいて、シャント抵抗器に流れる電流を求めることができる。
【0034】
尚、基板21上には、外部の装置等と接続するための端子接続部43を有するコネクタ41が形成されている。これにより、コネクタを介して、例えば、制御用IC51により求めた電流値を外部の装置において表示させる等の処理を行うことができる。
【0035】
加えて、上記一面2a上の基板21の一面21aには、第1の温度センサ18a、第2の温度センサ18b、第3の温度センサ18cが設けられている。これらの温度センサのセンシング信号は、例えば、制御用IC51により読み取ることができる。
【0036】
第1の温度センサ18aは、電極5bの上方に設けられて、電極5bの温度をセンシングする。第1の温度センサ18aは、好ましくは、抵抗体3の近傍又は凹部7の近傍の電極5b上に設けられる。
【0037】
第2の温度センサ18bは、抵抗体3の上方に設けられて、抵抗体3の温度をセンシングする。
【0038】
第3の温度センサ18cは、電極5aの上方に設けられて、電極5aの温度をセンシングする。第3の温度センサ18cは、好ましくは、抵抗体3の近傍又は凹部7の近傍の電極5a上に設けられる。
【0039】
図3は、
図2における第1の温度センサ18a近傍を拡大表示した図である。
図2及び
図3に示すように、第1の温度センサ18aが配置される位置は、電圧検出端子17より抵抗体3から長さ方向に離間した位置であることが好ましい。例えば、
図3に示すように、第1の温度センサ18の位置(長さ方向の中心位置)から上記接合部分13bまでの長さ方向の距離をL1とし、電圧検出端子17の位置(中心位置)から上記接合部分13bまでの長さ方向の距離をL2とすると、L1>L2であることが好ましい。L1をL2よりも長目にとるのは、発熱体である抵抗体3の接合部分13bに近すぎると、抵抗体3の発熱の影響を受ける可能性が高いからである。
【0040】
第3の温度センサ18cに関しても、第1の温度センサ18aと同様の位置関係を有することが好ましい。
【0041】
第2の温度センサ18bについては、抵抗体3の好ましくは長さ方向の中心の位置に設けることが好ましい。このようにすると、抵抗体3の温度を精度良くセンシングすることができるからである。
【0042】
図4は、
図2に示す実装構造において、基板21を覆うケース80を取り付けた構成を示す斜視図である。例えば、基板21を囲むように第1のケース部材81と第2のケース部材83とを設ける。第1のケース部材81と第2のケース部材83とは、公知の嵌合構造を用いて1つのケース80となるようにすれば良い。ケース80は基板21のうちの端子接続部43がケース80の外側に出るようにする。これにより、端子接続部43からの信号ケーブル等の接続を容易に行うことができる。また、ケース80の外側に、電極部5a、5bも突出した構成にする。これにより、シャント抵抗器の電極5a,5b間に所望の電圧を印加することができる。
【0043】
上記のように、ケース部材81,83で抵抗体3の周囲を覆う構造をすることで、基板21を保護することができる。基板21、すなわち、抵抗体3もケース内に収容されるため、抵抗体3及びその近傍の電極5a,5bに第1から第3までの温度センサ18aから18cまでを設けて温度補償を行うことで、ケースの影響を考慮したより正確な温度補償が可能となる。
【0044】
(温度補償回路の説明)
次に、第1から第3までの温度センサ18aから18cまでを用いた温度補償回路について説明する。温度補償回路は、制御用Ic51に搭載することができる。
【0045】
図5は、シャント抵抗器1の温度補償回路61の一構成例を示す機能ブロック図である。
図5に示すように、温度補償回路61は、第1の温度センサ18aにおける測定温度θ1と、第2の温度センサ18bにおける測定温度θ2と、第3の温度センサ18cにおける測定温度θ3との平均値を演算する平均値演算回路61-1と、測定温度θ2と平均値演算回路61-1の出力であるθpinとに基づいて、マンガニンなどの抵抗体3の温度変化(温度上昇)Δθを演算する温度変化演算部61-2と、Δθとθpinとに基づいて、抵抗値を求める抵抗値演算部(抵抗値テーブルを有する)61-3と、シャント抵抗器1のゲインとバイアスとを求める処理部61-5の出力と抵抗値とから検出される電流を求める電流演算部61-4と、求められた電流Iに基づいて、電流信号出力を求める電流信号出力演算部61-6とを備える。
【0046】
上記のように、第1から第3までの温度センサ18aから18cまでを用いた温度補償回路を用いることで、高精度な温度補償を実現することが可能となる。
【0047】
以上のように構成することで、シャント抵抗器を用いた高精度電流検出装置において、抵抗値温度特性を補償するために温度検出ポイントをマンガニンなど抵抗エレメント部とシャント電圧出力信号付近の銅部にも付加することにより、より精度良く抵抗体と電極との温度を測定することができるため、より高精度な温度補償を実現することが可能となる。
【0048】
以上に説明したように、本実施の形態によるシャント抵抗器の実装構造によれば、シャント抵抗値の温度補償において、通電時に生じるマンガニン等の抵抗体と銅などの電極との温度差を考慮することで、高精度の電流検出を可能にする。
【0049】
また、シャント取付ネジ締め付け不良の場合の異常温度上昇に関しても、シャント絶対値温度でのオーバーヒート保護レベル以下でも異常を検出することができ、安全性の優れた高精度・高信頼性のシャント電流検出器を提供できる。
【0050】
上記の実施の形態において、図示されている構成等については、これらに限定されるものではなく、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【0051】
また、本発明の各構成要素は、任意に取捨選択することができ、取捨選択した構成を具備する発明も本発明に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、シャント抵抗器の実装構造に利用できる。
【符号の説明】
【0053】
1 シャント抵抗器を用いた電流検出装置
3 抵抗体
5a,5b 電極
13a、13b 接合部分
17 電圧検出端子
18a 第1の温度センサ
18b 第2の温度センサ
18c 第3の温度センサ
21 基板
31a,31a 端子挿入孔
43 端子接続部
51 制御用Ic
81第1のケース部材
83 第2のケース部材