(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】擬似体臭組成物及びこれを用いる評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/497 20060101AFI20221109BHJP
C11B 9/00 20060101ALI20221109BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
G01N33/497 D
C11B9/00 R
G01N33/50 F
(21)【出願番号】P 2018100518
(22)【出願日】2018-05-25
【審査請求日】2021-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100162422
【氏名又は名称】志村 将
(72)【発明者】
【氏名】橋本 恵美子
(72)【発明者】
【氏名】橋本 亮
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 安信
(72)【発明者】
【氏名】田中 結子
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-263102(JP,A)
【文献】特表2016-519947(JP,A)
【文献】米国特許第08993526(US,B2)
【文献】Xiao-nong Zeng,Analysis of characteristic odors from human male axillae,Journal of Chemical Ecology,1991年,volume 17,pp.1469-1492,DOI:10.1007/BF00983777
【文献】Kohei Takeuchi,Identification of novel malodour compounds in laundry,Flavour Fragr. J.,2012年,27,pp.89-94,DOI 10.1002/ffj.2088
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)4‐エチルオクタン酸、
(B)3‐メチル‐2‐ヘキセン酸、
(C)4‐エチルオクタン酸、3‐メチル‐2‐ヘキセン酸及びノナン酸以外の、炭素数3~10の低級脂肪酸1種以上、及び
(D)ノナン酸
を含む擬似体臭組成物であって、該
擬似体臭組成物の総質量に対して、前記(A)成分の含有量が0.01~0.2質量%、前記(B)成分の含有量が0.01~0.3質量%、前記(C)成分の含有量が0.1質量%以下、かつ前記(D)成分の含有量が0.01~0.1質量%であり、(A)、(B)、(C)及び(D)の質量比が、(A):(B):(C):(D)=1~10:10~30:1~5:1~10である、擬似体臭組成物。
【請求項2】
90.0質量%以上の溶剤を更に含む、請求項1記載の擬似体臭組成物。
【請求項3】
炭素数2~13のアルデヒドを含まない、請求項1又は2記載の擬似体臭組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の擬似体臭組成物を使用して擬似体臭臭気を評価する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、擬似体臭組成物及びこれを用いる評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スポーツする人口の増加、更に、スポーツする際に着用する衣類(例えば、化学繊維)については、汗臭や体臭が残りやすく、衣類に付着する汗臭や体臭のニオイを気にしている生活者が多くなっている。
このような体臭に対するファブリックケア製品を開発する目的で、衣類に付着・残存する体臭を再現し、スクリーニング方法を確立するための体臭モデル臭気の開発が望まれている。
【0003】
特許文献1に記載の擬似体臭組成物は、実際の汗臭、特にアポクリン腺の分泌物に由来する特有な臭気を再現しようとするものであり、腋の刺激臭に特化したものである。腋臭は体臭の要素ではあるが、腋臭以外の体幹部分をも含めた体臭を再現するものではない。
特許文献2及び3には擬似腋臭組成物が記載されているが、擬似体臭組成物ではない。
非特許文献1には、腋の下の分泌物中の酸性物質の一例として、4‐エチルオクタン酸が記載されている。
繊維製品評価技術協議会で基準となる汗臭、体臭は、アンモニア、酢酸、イソ吉草酸、ノネナールを用いているが、実衣類でこれらの組合せのみで構成される臭気はなく、総合的な体臭を再現するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-263102号公報
【文献】特許第4081039号
【文献】特開2004-309455号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】「味とにおいの分子認識」、化学総説 No.40、1999、p.205-211
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、衣類に付着・蓄積残存する体臭を忠実に再現することができる擬似体臭組成物及びこれを用いる評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、4‐エチルオクタン酸により、衣類に付着・蓄積残存する体臭を再現し得ることを見出した。本発明は、このような新規な知見に基づいて完成されたものである。
従って、本発明の一実施態様において、4‐エチルオクタン酸を含む擬似体臭組成物が提供される。
本発明の一実施態様によれば、擬似体臭組成物は、4‐エチルオクタン酸以外の炭素数3~10の低級脂肪酸1種以上を更に含む。
本発明の一実施態様によれば、4‐エチルオクタン酸以外の炭素数3~10の低級脂肪酸は、3‐メチル‐2‐ヘキセン酸及び/又はノナン酸である。
また、本発明の一実施態様において、
(A)4‐エチルオクタン酸、
(B)3‐メチル‐2‐ヘキセン酸、
(C)4‐エチルオクタン酸、3‐メチル‐2‐ヘキセン酸及びノナン酸以外の、炭素数3~10の低級脂肪酸1種以上、及び
(D)ノナン酸
を含み、(A)、(B)、(C)及び(D)の質量比が、(A):(B):(C):(D)=1~10:10~30:1~5:1~10である、擬似体臭組成物が提供される。
更に、本発明の一実施態様において、擬似体臭組成物を使用して擬似体臭臭気を評価する方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の擬似体臭組成物により、衣類に付着・蓄積残存する体臭を再現し得る。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、衣類、特には、普段着用している肌着、Tシャツなど肌に直接触れる衣類に付着・蓄積残存する体臭を再現する擬似体臭組成物、及びこれを用いた臭気評価方法に関するものである。
本明細書において、「体臭」とは、肌着等の衣類の胸部や首、背面部に主に感じる比較的脂っぽい臭気のことである。また、本明細書において、「擬似体臭」とは、肌着等の衣類の胸部や首、背面部に主に感じる比較的脂っぽい臭気を擬似的に再現したものである。
なお、衣類に付着・蓄積残存する不快な臭気としては、腋臭や、汗や菌由来の非常に酸っぱい臭気もあるが、これらは本明細書に示す体臭とは異なる。
【0010】
[4‐エチルオクタン酸:(A)成分]
4‐エチルオクタン酸は、不快なニオイ成分として知られている成分であり、臭気成分としてはアニマリックな臭気をもたらすものである。本発明の擬似体臭組成物において、この成分が含まれることにより、着用後の衣類に付着・蓄積残存する体臭、特には、着用後の衣類に付着・残存する皮脂に由来する体臭の再現性が高まる。これは、4‐エチルオクタン酸が発するアニマリックな臭気が、単にその他低級脂肪酸によりもたらされる臭気にはない、衣類の布のニオイ(古着的な古めかしいニオイ)を再現するためである。
本発明の擬似体臭組成物中、4‐エチルオクタン酸の配合量は特に限定されないが、擬似体臭組成物の総質量に対して、0.01~0.2質量%が好ましく、0.01~0.1質量%がより好ましい。4‐エチルオクタン酸の配合量が0.01~0.2質量%の範囲内であると、その臭気が強すぎず、より衣類に付着・残留する体臭を再現するのに適している。
【0011】
[3‐メチル‐2‐ヘキセン酸:(B)成分]
3‐メチル‐2‐ヘキセン酸は、腋臭症の原因物質の研究において、古い雑巾のような脂肪酸臭をもたらす成分として知られている。3‐メチル‐2‐ヘキセン酸とグルタミンが結合した分泌物が、皮膚の細菌により分解されて臭気が発生するといわれている。このニオイは、腋臭の臭気の一部となる。
着用した衣類に付着・蓄積残存する臭気としては、炭素数3~10の低級脂肪酸によるものが挙げられる。例えば、酢酸は汗の酸っぱいニオイであったり、イソ吉草酸も汗様の脂肪酸臭に独特のツンとした臭気が加わったもの、同様にヘキサン酸も汗っぽい脂肪酸として捉えられるようなものとして存在するが、3‐メチル‐2‐ヘキセン酸の臭気は、腋臭の臭気に似ている。本発明の擬似体臭組成物において、この成分を加えると、衣類の腋部に付着する成分の臭気の再現性を高めることになり、腋臭の要素も含む擬似体臭組成物の再現性が高まる。
本発明の擬似体臭組成物中、3‐メチル‐2‐ヘキセン酸の配合量は特に限定されないが、擬似体臭組成物の総質量に対して、0.01~0.3質量%が好ましく、0.1~0.2質量%がより好ましい。3‐メチル‐2‐ヘキセン酸の配合量が0.01~0.3質量%の範囲内であると、腋臭の特徴が出過ぎず、臭気のバランスよく体臭を再現し、所謂、衣類に付着・蓄積残存する脂っぽいニオイや衣類っぽさの臭気を再現する4‐エチルオクタン酸による臭気を十分に残すことができる。
【0012】
[炭素数3~10の低級脂肪酸:(C)成分]
炭素数3~10の低級脂肪酸は、着用回収した肌着類より検出される臭気成分である。なお、本発明の擬似体臭組成物において、4‐エチルオクタン酸、3‐メチル‐2‐ヘキセン酸及びノナン酸も炭素数3~10の低級脂肪酸であることから、これらの具体的成分が含まれる擬似体臭組成物中においては、炭素数3~10の低級脂肪酸は、当該具体的成分以外のものを指す。例えば、ある態様では、炭素数3~10の低級脂肪酸は、4‐エチルオクタン酸以外の炭素数3~10の低級脂肪酸であり得るし、またある態様では、炭素数3~10の低級脂肪酸は、4‐エチルオクタン酸、3‐メチル‐2‐ヘキセン酸及びノナン酸以外の炭素数3~10の低級脂肪酸であり得る。
本発明の擬似体臭組成物において、炭素数3~10の低級脂肪酸を1種以上配合することができる。
本発明の擬似体臭組成物に含まれ得る炭素数3~10の低級脂肪酸の具体例としては、3‐メチル‐2‐ヘキセン酸、ノナン酸、酢酸、酪酸、イソ酪酸、イソ吉草酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、4‐メチル‐3‐ヘキセン酸、3‐ヒドロキシ‐3‐メチルヘキサン酸、デカン酸、ペンタン酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明の擬似体臭組成物中、炭素数3~10の低級脂肪酸の配合量は特に限定されないが、擬似体臭組成物の総質量に対して、0.1質量%以下が好ましく、0.05質量%以下がより好ましい。
【0013】
[ノナン酸:(D)成分]
ノナン酸は、炭素数3~10の低級脂肪酸の中で、着用回収した肌着類から検出される最も特徴的な成分である。
本発明の擬似体臭組成物中、ノナン酸の配合量は特に限定されないが、擬似体臭組成物の総質量に対して、0.01~0.1質量%が好ましく、0.01~0.05質量%がより好ましい。
【0014】
本発明の擬似体臭組成物において、上記(A)、(B)、(C)及び(D)成分の配合割合は、特に限定されないが、(A)、(B)、(C)及び(D)の質量比が、(A):(B):(C):(D)=1~10:10~30:1~5:1~10であることが好ましい。このような配合割合の範囲内であると、より忠実に衣類に付着・蓄積残存する体臭を再現し得る。
【0015】
[溶剤]
本発明の擬似体臭組成物において、溶剤を配合し得る。溶剤としては、本発明の擬似体臭組成物の擬似体臭に影響を与えないものであれば特に限定されないが、例えば、トリエチルシトレイト(TEC)、ジプロピレングリコール(DPG)、エチレングリコールモノブチルエーテル(BEG)等が挙げられる。
本発明の擬似体臭組成物中、溶剤の配合量は特に限定されないが、擬似体臭組成物の総質量に対して、90.0~99.9質量%が好ましく、99.0~99.9質量%がより好ましい。
【0016】
[評価方法]
本発明の擬似体臭組成物の体臭類似性については、混合した成分について、その臭気を3~10名の専門パネルを用い、その再現性、類似性を判定することにより行われ得る。
具体的には、調整した擬似体臭組成物をにおい紙につけ、直後ににおい紙のにおいを嗅ぎ評価を行う。調整された本発明の擬似体臭組成物は、実際に存在する衣類に付着・蓄積残存する様々な体臭をより正確に再現することができる。従って、本発明の擬似体臭組成物を使用して衣類に付着・蓄積残存する擬似体臭臭気を評価することができる。更に、本発明の擬似体臭組成物を使用して、衣類に付着・蓄積残存する体臭のマスキング又は消臭効果を的確に且つ簡易に評価できる。つまり、本発明の擬似体臭組成物を使用して、衣類に付着・蓄積残存する体臭に対してその臭いのマスキング作用又は消臭作用を有する物質を効率よくスクリーニングすることができる。
本発明の擬似体臭組成物を使用した衣類に付着・蓄積残存する体臭を消臭する評価、即ち、体臭の強度の評価方法は、例えば、容量既知の密栓できるバイアル瓶を用意し、そこに、綿球を入れて、そこに規定量の擬似体臭組成物を添加し、その臭気を嗅ぎ、次いで被検体(消臭作用する物質)を加えた際に、臭気がどうなるかを比較することにより行うことができる。また、実際に綿衣類や化繊衣類を擬似体臭組成物の塗布対象布にして、被検体による体臭の消臭効果を評価しても良い。
【実施例】
【0017】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。尚、実施例において、成分配合量は、下記表4の「組成物濃度v/v%」を除きすべて質量%(指定のある場合を除き、純分換算)を示す。
【0018】
[擬似体臭組成物の調製]
・A-1:4‐エチルオクタン酸
・B-1:3‐メチル‐2‐ヘキセン酸
・C-1及びC-2:下記表1記載の混合物
【表1】
・D-1:ノナン酸
・比較化合物1:4‐メチル‐3‐ヘキセン酸
・比較化合物2:3‐ヒドロキシ‐3‐メチルヘキサン酸
・溶剤:トリエチルシトレイト(TEC)
上記の成分を、下記表3に記載の濃度になるよう、50mLのガラス容器内にて順に溶剤に溶解して、組成物とした。
【0019】
[擬似体臭組成物の臭気評価方法]
調製した各例の擬似体臭組成物について、体臭との類似性及び臭気強度を以下のように評価した。
<体臭との類似性の評価>
各擬似体臭組成物をにおい紙につけ、直接、専門パネラー6名でにおい紙のにおいを嗅ぎ評価し、以下の表2に示される評価基準にて総合的に判断して点数を付け、平均点を算出した。
【表2】
算出した6名の平均点を以下のとおり整数で表した。3点以上が好ましい。
6名の評価平均点:
1.0点~1.5点未満 → 1点
1.5点以上~2.5点未満 → 2点
2.5点以上~3.5点未満 → 3点
3.5点以上~4.5点未満 → 4点
4.5点以上~5.0点 → 5点
結果を下記表3に示す。
【0020】
【0021】
<臭気強度の評価>
表3に記載の実施例1の擬似体臭組成物を10倍濃縮したものを準備した。
30mLのバイアル瓶に、綿球(No.14)を一つ入れ、更に、当該擬似体臭組成物の10倍濃縮組成物を、下記表4に記載のとおりトリエチルシトレイト(TEC:トリエチルシトレイト試薬)にて希釈したものを100μL滴下し、密栓して、室温にて1時間放置した。その後、ヘッドスペースの臭気を、専門パネラー3名が以下に示す基準に従って、評価し、協議の上点数を決定した。3点が好ましい。
下記表4に記載の実施例6~実施例9は、表3に記載の実施例1の擬似体臭組成物の10倍濃縮組成物について、記載の各混合比でTECで希釈し、その際のバイアル瓶口の臭気強度について試験したものである。結果を下記表4に示す。
(6段階臭気強度の評価基準)
5点:強烈なにおい
4点:強いにおい
3点:楽に感知できるにおい
2点:何のにおいかがわかる弱いにおい(認知閾値濃度)
1点:やっと感知できるにおい(検知閾値濃度)
0点:無臭
【0022】