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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】マイクロ流路チップ
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/08 20060101AFI20221109BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20221109BHJP
   B01J 19/00 20060101ALI20221109BHJP
   B81B 1/00 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
G01N35/08 A
G01N37/00 101
B01J19/00 321
B81B1/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018102010
(22)【出願日】2018-05-29
(65)【公開番号】P2019207132
(43)【公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-05-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000136354
【氏名又は名称】株式会社フコク
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 文章
【審査官】松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-317427(JP,A)
【文献】特開2009-047626(JP,A)
【文献】特開2016-017890(JP,A)
【文献】実用新案登録第2587198(JP,Y2)
【文献】実用新案登録第2503717(JP,Y2)
【文献】特開2012-93285(JP,A)
【文献】特開2007-320280(JP,A)
【文献】特開2017-67621(JP,A)
【文献】特開2017-67620(JP,A)
【文献】特開2016-17890(JP,A)
【文献】藤井 輝夫,”マイクロ流体デバイスのバイオ分野への応用”,生産研究,2003年,55巻2号,121-126頁
【文献】ゴム成形.COM,”マイクロ流路チップのインジェクション成形による量産技術|私たちの提案・技術のご紹介|ゴム成形.CO,[online],2019年05月13日,http://gomuseikei.com/suggestion/microfruid.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00ー37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一基板及び第二基板が接着剤を介さずに接合され、
前記第一基板はシリコーンゴムからなり
前記第一基板と前記第二基板との界面には試験液導入口と薬剤導入口および当該試験液導入口と当該薬剤導入口とを連通させる少なくとも複数の連通流路を有するマイクロ流路からなる開放凹溝と閉鎖空隙とが設けられ、
前記開放凹溝は前記第一基板と前記第二基板を積層させた時に前記試験液導入口および/または前記薬剤導入口で外気と連通し、
前記閉鎖空隙は前記第一基板と前記第二基板を積層させた時に外気から遮断されるとともに、
前記開放凹溝とは連通せず独立して存在し、さらに、
前記第一基板と前記第二基板との積層時に挟み込まれた空気を受け入れるために前記第一基板の界面の一部である平面部の前記開放凹溝が形成されていない領域に形成された空隙である
チップ本体を有する、マイクロ流路チップ。
【請求項2】
前記閉鎖空隙が、情報を表示する機能を有し、該情報は、製品情報、試験液注入口の位置、試験液注入量情報、試験液観察領域情報、あるいは薬剤情報の少なくともいずれかであり、かつ、
前記第一基板が透明で気体透過性のポリジメチルシロキサン(PDMS)である、
請求項1に記載のマイクロ流路チップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複数の基板を積層して作成されるマイクロ流路チップに関する。
【背景技術】
【0002】
混合、反応、検出等の化学操作を集積したマイクロ流路チップは、通常は2枚の基板を積層することにより作製されている。この積層の際にしばしば基板間に意図しない空気が気泡となって挟み込まれるため、この気泡の除去に関して更なる技術の改良が求められていた。
【0003】
特許文献1には複数の基板の接合方法が開示されている。その方法によれば、少なくとも一方の基板にチャンネル流路が配設されて積層されているマイクロチップのための基板において、積層界面側に空気排出用に大気と連通する副チャンネルを別に設ける。これにより、基板間に存在する微少量の空気が副チャンネルから外部へ排出され、基板間の気泡の存在がほとんど認められない歩留まりの良いマイクロチップを作製することができる、とされている。
【0004】
特許文献2には、複数枚のガラス基板を重ね合わせて、該複数枚のガラス基板の厚さ方向に圧力を加えながら加熱を行い前記複数枚のガラス基板を接合する接合方法において、ガラス基板を接合するに先立って、少なくとも一方のガラス基板の接合面に流体を流す流路溝とは別にダミー溝を形成するとともに、該ダミー溝と連結し、かつ大気中に通ずる貫通穴を形成することを特徴とするガラス基板の接合方法が開示されている。その方法によれば、加圧、加熱工程において基板接合面に生じる泡(気体)はダミー溝とダミー貫通穴とを介して基板外に排出されるので、基板接合面での泡残りを防止することができる、とされている。
【0005】
しかしながら、上記方法には、以下のような問題点がある。
(1) 湿潤環境で使用した場合に基板が界面剥離を起こす危険性がある。例えば、孵卵器中などの湿潤環境にマイクロ流路チップを置いて使用する場合、外気に通ずる副流路内に水分が浸入し、界面剥離を起こし、接着強度が低下する危険性が高くなる。
(2) 有害物質を含む液体が外部へ漏洩する危険性がある。例えば、流路内で有害物質を含む液体の反応等を行うマイクロ流路チップの場合、外部に通ずる副流路を設けると、人体に有害な液体が副流路を通じてマイクロ流路チップ外部に漏れ出す危険性がある。
(3) また、特許文献2の方法の場合、ダミー溝と連結し、かつ大気中に通ずる貫通穴を形成するための孔加工による生産コストが増加する不利益もある。
(4) 副流路の変形により気泡排出機能が損なわれる。例えば、基板の接合時に副流路が変形し、閉塞してしまった場合などには、目的とする気泡の排出が達成できなくなる可能性がある。
(5) 基板の接合界面内の使用可能面積が減少することにより機能が低下する。すなわち、基板の接合界面に、製品の主機能を担う流路のほかに、気泡の除去のみを目的とした副流路を設けると、本来別の目的で使用可能だったはずの領域が浪費されてしまう。例えば、基板の接合界面内の表示を行う事が可能な面積が減る事で、表示できる情報量が減り、有用な機能を付与することが妨げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-175330号公報
【文献】特開2004-256380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記のような問題点を解決したマイクロ流路チップを提供すること
にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、マイクロ流路チップにおいて、本来の機能を担う流路からも外気からも遮断された閉鎖空隙(気泡溜り)を設けることにより、基板の積層の際に意図せずに基板界面に挟み込まれた気泡を自発的に除去することが可能なマイクロ流路チップを提供するものである。
【0009】
本発明は以下を包含する。
[1] 第一基板及び第二基板が接着剤を介さずに積層され、
第一基板はゴム弾性を有し、
第一基板と第二基板との界面には開放凹溝と閉鎖空隙とが設けられ、
開放凹溝は少なくとも一か所において外気と連通し、
閉鎖空隙は外気からも開放凹溝からも遮断されている
チップ本体を有する、マイクロ流路チップ。
[2] 前記閉鎖空隙が、第一基板と第二基板との積層時に両基板の間に挟み込まれた空気を受け入れるように設計された空隙である、[1]に記載のマイクロ流路チップ。
[3] 前記閉鎖空隙は、第一基板あるいは第二基板の少なくともいずれか一方に存在する、[1]または[2]に記載のマイクロ流路チップ。
[4] 前記閉鎖空隙が、情報を表示する機能を更に有する、[1]乃至[3]のいずれか一項に記載のマイクロ流路チップ。
[5] 前記情報が文字情報あるいは図形情報である、[4]に記載のマイクロ流路チップ。
[6]前記情報は、製品情報、試験液注入口の位置、試験液注入量、試験液観察領域、あるいは薬剤情報の少なくともいずれかである、[4]または[5]に記載のマイクロ流路チップ。
[7] 前記第一基板が気体透過性のゴムのフィルムであるシリコーンゴムからなり、前記第二基板がガラス基板である、[1]乃至[3]のいずれか一項に記載のマイクロ流路チップ。
[8] 前記気体透過性のゴムがポリジメチルシロキサン(PDMS)である、[7]に記載のマイクロ流路チップ。
[9] 前記開放凹溝が、試験液導入口、薬剤保持部が設けられた少なくとも1つの薬剤導入口、および前記試験液導入口と前記薬剤導入口とを連通させる少なくとも1つの連通流路を有するマイクロ流路であり、
前記試験液導入口は外気と連通する、
[1]に記載のマイクロ流路チップ。
[10] 前記薬剤保持部に薬剤が配置されている、[9]に記載のマイクロ流路チップ。
【発明の効果】
【0010】
一般にマイクロ流路チップの製造時、2枚の基板を貼り合わせる際に界面に気泡が発生するが、本発明においては、製品の主機能を有する流路とは別に、基板の接合界面に滞留した気泡を自発的に吸収する気泡溜りを設け、基板の一方にゴムのような変形性に富む材料を用いることとしたため、時間経過とともに気泡を自発的に基板の接合界面から除去することができる。しかも、気泡溜りを、本来の機能を担う流路からも外気からも遮断された構造(閉鎖空隙)としたので、マイクロ流路チップを湿潤環境で使用しても、接着強度の低下などの悪影響を受けることがない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(A)は一実施の形態であるマイクロ流路チップの基板を示す斜視図であり、(B)は封止フィルムが貼り付けられたマイクロ流路チップの基板を示す斜視図である。
図2図1の基板の表面を示す拡大平面図であり、文字情報、図形情報等を気泡溜り(閉鎖空隙)として気泡の滞留が起きやすい場所に配置したものである。
図3図2におけるA-A線断面図である。
図4図2におけるB-B線断面図である。
図5図5(A)は基板の接合界面に滞留した空気が時間変化とともに気泡溜りに吸収されていく様子を示した光学顕微鏡写真であり、図5(B)は基板の接合界面に滞留した空気が時間変化とともに気泡溜りに吸収されていく様子を示した断面模式図である。
図6図2に示された複数対のマイクロ流路のうちの1つを拡大して示す平面図である。
図7】(A)~(D)は、マイクロ流路チップを用いて薬剤の感受性評価試験を行う際の手順を示す説明図である。
図8】本発明に係るマイクロ流路チップの他の実施態様を示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
マイクロ流路チップはマイクロ流体デバイスとも呼ばれ、MEMS技術などの微細加工技術を利用して微小流路や反応容器を作成し、バイオ研究や化学工学へ応用するためのデバイスの総称である。本発明に係るマイクロ流路チップは、第一基板及び第二基板が接着剤を介さずに積層され、第一基板と第二基板との界面には開放凹溝と閉鎖空隙とが設けられているものである。
【0013】
以下、細菌に対する薬剤の感受性評価や試薬の分析、反応度評価等を短時間で行うために設計されたマイクロ流路チップを例に取り、図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0014】
[マイクロ流路チップの構成]
以下、図1図4を用いて詳細に説明する。
まず、図1に示されるマイクロ流路チップMFは、矩形状の基板10を有している。基板10は、表面側の第一基板11と、背面側の第二基板12とを貼り合わせることにより形成される。
【0015】
図1および図3図4に示されるように、第一基板11の一方の長辺側には、表面11aと背面11bとを貫通する貫通孔が形成されており、この貫通孔は、試験液導入口13としての機能を有する。また、第一基板11の他方の長辺側にも同様に貫通孔が形成されており、この貫通孔は、薬剤導入口14としての機能を有する。第一基板11については、試験液導入口13と薬剤導入口14が外部に開口した面を表面11aとし、第二基板12が貼り付けられる接合面を背面11bとする。表面11aは基板10の表面である。
【0016】
図4に示されるように、第二基板12のうち薬剤導入口14に対向する部分、つまり薬剤導入口14の底面は、薬剤保持部15を構成しており、薬剤導入口14には薬剤保持部15が設けられている。
【0017】
図2図3図4に示すように、第一基板11の背面11bつまり接合面には試験液導入口13と、試験液導入口13と4つの薬剤導入口14とをそれぞれ連通させる4つの連通流路16を形成するための凹溝が形成されている。第一基板11の接合面に第二基板12を接合すると、第一基板11の凹溝と第二基板12とにより、両基板の界面(基板10の内部)には連通流路16が形成される。
【0018】
このように、各々の試験液導入口13と、4つの薬剤導入口14と、試験液導入口13を薬剤導入口14に連通するための4本の連通流路16とにより、1対のマイクロ流路17が構成される。
【0019】
なお、それぞれのマイクロ流路17は、同一形状であり、基板10の幅方向に延在し、相互に平行となって基板10の長手方向に沿って所定の間隔を隔てて基板10に設けられている。このように、マイクロ流路17は少なくとも試験液導入口13を(好ましくは薬剤導入口14も)介して外気と連通しており、本発明においては開放凹溝と称する。
【0020】
一方、基板10には外気からもマイクロ流路17からも遮断されている閉鎖空隙も設けられている。なお、図2には、閉鎖空隙として、製品を表示する文字情報を表示する18a、試験液導入口13から投入される試験液の量を示す図形情報を表示する18bなどを示してある。これらは、第一基板と第二基板との積層時に両基板の間に挟み込まれた空気を受け入れるように人為的に設計された空隙である。閉鎖空隙の形状は特に限定されないが、図5(B)に示すような矩形断面又はこれに近似する形状とすると、情報が明確に表示されやすくなるので好ましい。
【0021】
ところで、第一基板11はゴム弾性を有する。ゴム弾性は、基板の接合界面に挟み込まれた空気を数秒から数分以内に気泡溜り(閉鎖空隙)に移動させる後述のメカニズムを推進するのに必要と考えられるためである。また、第一基板11が透明であることは、試験液の変化の観察、薬剤保持部の薬剤量、薬剤と菌に反応状態(後述する薬剤感受性評価)の確認等のために有利であり、好ましい。第一基板11が気体透過性を有することも好ましい。更に、少なくとも天然ゴム以上の気体透過性を有することが好ましい。これは、理論に拘束されることは望まないが、気泡溜り(閉鎖空隙)に吸収された空気を大気中に放出し、加熱による気体の膨張によるマイクロ流路チップの破損を防止することが期待されるからである。ここで、ゴム弾性を有する好ましい素材は、JIS K6251:2010に従って測定された引張強さが40-100kg/cmであり、伸びが50-500%のものである。上記のような物性を備えたゴムとしてはシリコーンゴムが挙げられ、特にポリジメチルシロキサンが推奨される。なお、ポリジメチルシロキサンのJIS K6251:2010に従って測定された引張強さは70-100kg/cmであり、伸びが100-500%であり、特にこの範囲であることが好ましい。
【0022】
また、第二基板12はマイクロ流路チップに慣用されている基板を用いればよい。素材としては、例えば、ガラス、シリコン、有機ポリマー、ガラス・有機ポリマー複合体等が挙げられる。特にガラスは好適である。
【0023】
なお、例示のマイクロ流路チップは、薬剤導入口と試験液導入口とが表面に開口して形成された基板を有し、薬剤導入口の底面に設けられた薬剤保持部と試験液導入口との間を連通させるためのマイクロメートル(μm)レベルの微細な連通流路(開放凹溝)が基板の内部に形成されている。薬剤保持部に配置された薬剤に、試験液導入口から導入された試験液を、連通流路を介して送液することにより、薬剤と試験液とを接触させる。これにより、薬剤と試験液とを反応させて薬剤の感受性評価等を行うことができる。第一基板と第二基板との積層時に両基板の間に挟み込まれた空気は上記閉鎖空隙に収容され、両基板の接合を妨げることが無い。
【0024】
[マイクロ流路チップの製造方法]
次に、試薬内蔵型のマイクロ流路チップMFを作製する手順について説明する。
【0025】
[第一基板の準備]
図2に示されるように、試験液導入口13と薬剤導入口14とを形成する貫通孔、連通流路16を形成する凹溝、及び閉鎖空隙18、製品の文字情報を表示する閉鎖空隙18aや投入される試験液の量を示す図形情報を表示する閉鎖空隙18b等が第一基板11の背面11bに形成され、その背面11bには第二基板12が貼りあわされ、基板10が作製される。第一基板11を作製するには、まず、連通流路16を構成する凹溝、及び文字情報や図形情報などを表示する閉鎖空隙に対応した凸パターンが設けられた鋳型を用意し、基板11の原材料となる液状の未架橋シリコーンゴムをこの鋳型に流し込んで硬化させる。(図示せず。)これにより、第一基板11の背面11bに連通流路16を構成する凹溝、及び文字情報や図形情報などを表示する閉鎖空隙が形成された矩形状のシリコーンゴム製の基板11が得られる。
【0026】
続いて、このシリコーンゴム製の基板11を鋳型から脱型した後、連通流路16の一端側に対応する部分の基板11を加工することにより試験液導入口13が形成される。なお、試験液導入口13は、鋳型による基板11成型時に同時に形成しても良い。また、連通流路16の他端側に対応する部分の基板を加工することにより薬剤導入口14が形成される。連通流路16を構成する凹溝の深さは全体的に一定となっている。
【0027】
なお、第一基板11は、例えば、長辺が40mm、短辺が25mmであり、厚さは2mmである。また、連通流路16を構成する凹溝の深さは約50μmであり、文字情報や図形情報などを表示する閉鎖空隙の深さも約50μmであり、試験液導入口13の内径は約1mmであり、薬剤導入口14の内径は約1.5mmである。このように、連通路16と閉塞空隙は、フォトマスクを用いた微細加工により一括形成している。
【0028】
本実施形態のマイクロ流路チップMFは、基板10に複数対のマイクロ流路17、及び複数の閉鎖空隙18、18a、18bが設けられた形態であるが、任意の数のマイクロ流路17、及び複数の閉鎖空隙18、18a、18bを基板10に設けることができる。このように、基板10には少なくとも1つのマイクロ流路17が設けられる。また、それぞれのマイクロ流路17は、4つの薬剤導入口14と、1つの試験液導入口13とからなるが、試験液導入口13に連通される薬剤導入口14の数は、任意の数とすることができる。試験液導入口13に1つの薬剤導入口14を1本の連通流路16により連通させるようにしたマイクロ流路17を基板10に設けるようにしても良く、マイクロ流路17は少なくとも1つの薬剤導入口14を備えていれば良い。
【0029】
[第二基板の準備]
第二基板12はマイクロ流路チップに慣用されている基板を用いればよいが、以下ガラス基板を例として説明する。なお、上述の説明では、閉鎖空隙は第一基板上に形成したが、閉鎖空隙は第二基板に形成してもよい。閉鎖空隙は、第一基板と第二基板との積層時に両基板の間に挟み込まれた空気を受け入れるように設計された空隙であれば足り、第一基板あるいは第二基板の少なくともいずれか一方に存在すればよい。
【0030】
[第一基板と第二基板の積層]
このようにして作製された第一基板11の背面11bに第二基板12を接合することにより、図1(A)に示されるように、基板10が作製される。
【0031】
第一基板11はゴム弾性を有する素材であれば特に限定されないが、シリコーンゴムが好ましく、ポリジメチルシロキサンが特に好ましい。第一基板11としてゴム弾性を有する素材を使用すると、第一基板11を第二基板12上に載置するだけで密着し、接着剤等を使用することなく、第一基板11と第二基板12の積層を行うことができる。
【0032】
また、第一基板11と第二基板12は透明な材料により形成されており、基板10の内部に形成された連通流路16は外部から目視観察されることが好ましいが、図1(A)においては、連通流路16は図示省略されている。同様に、封止フィルム21も第一基板11と同種の材料により形成されており、透明であることが好ましいが、図1(B)においては、薬剤導入口14は図示省略されている。
【0033】
本発明において、第一基板と第二基板との積層時に両基板の間に挟み込まれた空気が閉鎖空隙に導かれ、収容される機構について以下に説明する。
図5(A)は、各基板接合界面に滞留した空気が時間とともに三角形状の気泡溜り(閉鎖空隙)に吸い込まれていく様子の写真である。ここで、連通流路16を構成する凹溝の深さおよび文字情報や図形情報などを表示する閉鎖空隙18、18a、8bの深さも共に50μmであり、試験液導入口13の内径は1mm、薬剤導入口14の内径は1.5mmである。図5(A)の最上段の写真に示されるように、第一基板を第二基板上に載置した直後には両基板の間に空気19が滞留した状態となる。しかし、図5(A)の下段の写真に示されるように、ゴム弾性を有する第一基板11が滞留した空気19を圧するため、時間の経過と共に滞留した空気19は近傍の閉鎖空隙18に導かれ、収容されていく。これは第一基板を第二基板上に載置してから数秒から数分の間に完了する。
図6(B)は、第一基板11と第二基板12との接合界面に滞留した空気19が時間とともに気泡溜り(閉鎖空隙)18に吸収されていく様子を示した断面模式図である。理解しやすいように、滞留した空気19の体積を誇張して大きく示しているが、実際には滞留した空気の体積は気泡溜り18(閉鎖空隙)の容量に比較すれば極めて小さく、わけなく気泡溜りの中に収容される。
また、第一基板として気体透過性の高いシリコーンゴムを用いた場合には、いったん気泡溜り(閉鎖空隙)に吸収された空気が大気中に放出されていくことが期待される。このため、本発明によれば、空気排出用に大気と連通する副チャンネルやダミー貫通孔を別に設けなければならない従来技術の不利を克服することができる。
【0034】
[薬液の導入]
次いで、薬剤の感受性評価試験にマイクロ流路チップMFが使用されるときには、図4に示す薬剤保持部15、つまり薬剤導入口14の底部に露出した第二基板12の内面に、感受性評価試験により比較評価が行われる反応物である薬剤が供給される。
【0035】
所定の薬剤保持部15に薬剤を配置するには、予め薬剤は水などの溶媒に溶かされて調製された後、マイクロシリンジなどを使用して液状の薬剤が薬剤導入口14から内部に滴下される。その後、薬剤導入口14の内部に貯留された薬剤の溶媒を蒸発させることにより、薬剤導入口14の底部15に固形の薬剤が固定される。このとき、殆どの薬剤が薬剤導入口14の底部に凝集されるので、固形化した薬剤が薬剤保持部15から剥がれても、連通流路16を閉鎖することがない。特に、図6に示すように、薬剤導入口14に連通させて下流側に向けて幅の広い拡大接続部35を連通流路16に設けると、拡大接続部35の付近に薬剤が析出しても連通流路16を閉鎖することがない。
【0036】
例えば、図7に示した1対のマイクロ流路17を構成する4つの薬剤保持部15のうち3つの薬剤保持部15に、抗菌成分の濃度が異なる同一種類の薬剤M、あるいは抗菌成分が異なる異種の薬剤等のように、薬効が相互に異なる薬剤Mを固定し、残りの1つの薬剤保持部15には薬剤Mを保持しないようにすると、1対のマイクロ流路17において、3種類の薬剤Mについての感受性評価試験を行うことができる。残りの1つの薬剤保持部15に薬剤を供給しないことにより、薬剤が使用されない場合と、薬剤を使用した場合との比較評価を行うことができる。
【0037】
さらに、基板10には、図2に示すように、6対のマイクロ流路17が設けられているので、各マイクロ流路17における3つの薬剤保持部15に相互に薬効が相違する薬剤を固定すれば、同時に18種類の薬剤の感受性評価試験を行うことができ、合計24箇所の薬剤保持部15のうち、1つの薬剤保持部15に薬剤を供給せずに、他の23箇所の薬剤保持部15に相互に薬効が相違する薬剤を固定すれば、23種類の感受性評価試験を行うことができる。また、合計24箇所の薬剤保持部15の全てに、相互に薬効が相違する薬剤を供給すれば、24種類の感受性評価試験を行うことができる。さらに、6対のマイクロ流路17の3つの薬剤保持部15に、それぞれ同じ薬効の3種類の薬剤を固定して感受性評価試験を行うと、各々のマイクロ流路17において、試験液に対する3種類の薬剤の薬効のバラツキを評価することができる。
【0038】
[封止フイルムの貼り付け]
このように、所定の薬剤保持部15に薬剤が供給された基板10の表面には、図1(B)に示されるように、薬剤が供給された薬剤導入口14を閉じるための封止フィルム21を第一基板表面11aに貼り付けてもよい。これにより、薬剤保持部15に薬剤が配置された薬剤導入口14は封止フィルム21により閉じられ、図1(B)に示されるように、基板10と封止フィルム21とからなるチップ本体20が作製される。薬剤導入口14が封止フィルム21により閉じられるので、薬剤保持部15に固定された薬剤が薬剤保持部15から剥離しても、薬剤が薬剤導入口14から外部に飛散することが防止される。なお、封止フィルム21は、図1(B)に示される全てのマイクロ流路17を構成する全ての薬剤導入口14を覆うように基板11の表面に貼り付けられているが、薬剤が配置される薬剤導入口14のみを覆うようにしても良い。さらには、試験液導入口13を含めて基板11の全体を封止フィルム21により覆うようにしても良い。なお、薬剤は、空気中の水分や酸素に触れると、劣化する場合がある。封止フィルム21として気体透過性を有する材料を使用すると、薬剤導入口14の内部の水分や酸素が、封止フィルム21を透過して、チップ本体20を包装する包装体中に配置された乾燥剤(図示せず)により吸着されるので、薬剤の劣化を防止することができる。
【0039】
[マイクロ流路チップの使用方法]
[マイクロ流路の機能]
図6は、図2に示された6対のマイクロ流路17のいずれか1つのマイクロ流路17を拡大して示す平面図である。第一基板11の背面11bには、試験液導入口13に連通する分岐部31が設けられ、分岐部31の内周面は試験液導入口13の内径よりも大径の円弧面を有している。それぞれの連通流路16の上流端は分岐部31を介して試験液導入口13に連通しており、それぞれの連通流路16は、上流側から下流側に向けて、導入部32と、反応部33と、観察部34と、拡大接続部35とを有している。分岐部31から拡大接続部35は、基板11の背面11bに形成される凹溝と、基板11に接合される基板12とにより形成される。
【0040】
導入部32は、分岐部31に連通し上流端から下流側に向けて幅が狭くなったテーパ状の狭窄導入部32aと、この狭窄導入部32aに連通するほぼ一定幅の最狭窄部32bとを有しており、最狭窄部32bは狭窄拡形部32cに連なっている。狭窄拡形部32cは、最狭窄部32bの幅よりも下流側に向けて連続的に広くなったテーパ状である。反応部33の上流側部分は、狭窄拡形部32cの下流端の幅とほぼ同一となった一定幅の部分を有している。
【0041】
試験液導入口13から導入部32に流入した試験液は、狭窄導入部32aを経て最狭窄部32bに送液され、狭窄拡形部32cにおいて流路が徐々に広げられることで、最狭窄部32b内に液残りすることなく、薬剤導入口14に向けて案内される。また、図6に示されるように、狭窄導入部32aのテーパ角度に比べて、狭窄拡形部32cのテーパ角度(逆テーパ角度)を大きくすることで、試験液が試験液導入口13に向けて逆流、つまり液戻りの発生が防止される。
【0042】
反応部33の下流側部分は、反応部33の上流側の部分よりも流路幅が狭くなるとともに、幅の狭い観察部34に連通している。1組のマイクロ流路17を構成する4本の観察部34は集合されており、集合された4本の観察部34内を位相差顕微鏡などで同時に観察することにより、薬剤に対する細菌の感受性を比較評価する。連通流路16の最下流部は拡大接続部35であり、拡大接続部35は薬剤導入口14に向けて幅が連続的に大きくなったテーパ状である。
【0043】
[感受性評価試験手順]
薬剤Mの感受性評価試験を行うときには、マイクロ流路チップMFを包装体から取り出し、チップ本体20から封止フィルム21を剥離する。
【0044】
マイクロ流路チップMFが薬剤の感受性評価試験に使用される場合には、予め薬剤が薬剤導入口14から薬剤導入口14の底面、つまり薬剤保持部15に供給される。薬剤保持部15に薬剤が供給された状態のもとで、試験液導入口13から試験液を供給する。試験液は、所定の細菌を含んだ培養液からなり、連通流路16を介して薬剤保持部15に案内される。試験液が連通流路16を流れると、連通流路16内の空気は、薬剤導入口14から外部に排出され、薬剤導入口14は排気口としての機能を有している。
【0045】
図7は感受性評価試験を行う際の手順を示す図であり、図7においては、基板10を表面側から見た状態として、第二基板12により形成される薬剤導入口14の薬剤保持部15と連通流路16とが実線で示されている。
【0046】
図7(A)はそれぞれのマイクロ流路17を構成する4つの薬剤保持部15のうちの3つに薬剤Mが固定された状態を示す。薬剤Mは、上述したように、基板10が作製された後に、薬剤保持部15に固定されている。図7(B)に示されるように、試験液導入口13から試験液Lが注入される。試験液Lは、例えば、所定の細菌を含んだ培養液からなり、試験液導入口13に挿入されるマイクロシリンジ等により連通流路16内に供給される。
【0047】
次に、図7(C)に示されるように、試験液導入口13にエアーを供給する。これにより、既に試験液導入口13から連通流路16内に導入された試験液Lは、4本の微細な連通流路16に分岐してそれぞれの連通流路16内を流れて、薬剤導入口14の底部に案内される。試験液導入口13のサイズに比して連通流路16は、相当に微細な部分を有しており、マイクロ流路チップMFの基板10を傾斜させて試験液Lを自重で連通流路16内に流動させることは難しいが、エアーによって、試験液Lを連通流路16内に押し込むことにより、確実に試験液Lを薬剤Mに送液することができる。また、複数の連通流路16を有するマイクロ流路チップMFの場合には、それぞれの連通流路16に試験液Lが均等に分岐されるので、この点においても、エアー供給による送液は有用である。
【0048】
図7(C)に示されるように、薬剤導入口14の底部に固定された薬剤Mに試験液Lが接触すると、薬剤Mが試験液Lに溶解し、薬剤Mに含まれる薬効成分と試験液Lに含まれる細菌との反応が開始される。この状態を所定時間、例えば、数時間維持することによって、薬剤Mに対する細菌の感受性が評価される。感受性の評価は、観察部34内の4本の流路を位相差顕微鏡などで同時に観察することにより行われる。
【0049】
連通流路16内に長時間に亘って試験液Lが貯留されると、一般に第二基板12を構成するガラス材は親水性が高いことから、連通流路16の反応部33に貯留された試験液Lが毛細管現象によって経時的に上流側、つまり試験液導入口13に向けて逆流することがある。逆流すると、複数の連通流路16内の試験液Lが試験液導入口13を介して混じり合ってしまい、細菌の感受性を正しく評価することができなくなる。
しかしながら、本実施の形態のマイクロ流路チップMFのように、それぞれの連通流路16の導入部32には最狭窄部32bが設けられており、最狭窄部32bの最小の開口面積は、反応部33に比べて小さいため、反応部33内の試験液Lが試験液導入口13側に濡れ広がろうとする力よりも、導入部32における高撥水性(低濡れ性)の素材(シリコーンゴム)と試験液Lとの間に働く表面張力が上回るようになる。これにより、図7(D)に示されるように、連通流路16の内部の試験液Lが試験液導入口13側に逆流することを抑制できるので、上述したような試験液Lの混じり合いを防ぐことができ、細菌の感受性を正しく評価することが可能となる。
【0050】
[閉鎖空隙の表示機能]
図2に示したように、本発明における閉鎖空隙の第一義的な機能は、第一基板と第二基板との積層時に両基板の間に挟み込まれた空気を収容する点にある。更に、本発明によれば、閉鎖空隙に文字情報、図形情報その他の情報を表示させることが可能であり、基板上に表示できる情報量を豊富にすることができるという追加の利点もある。このことは、マイクロ流路チップの使い勝手をより良くすることにつながり、本発明の産業上の利用価値を一層高めるものである。なお、図2において閉鎖空隙18として3種類の閉鎖空隙を図示する。すなわち、純粋に閉鎖空隙として機能する閉鎖空隙18、製品情報を示す文字情報である閉鎖空隙18a、試験液注入量を示す図形情報である閉鎖空隙18bである。なお、閉鎖空隙としては、図形や文字あるいはそれらの組み合わせ等、2つの基板を積層した際生じる気泡を収容できるものであれば、その大きさ、数、位置、組合せについてはいかなるものであっても良いことは勿論である。
【0051】
[変形例]
図8(A)は、本発明に係るマイクロ流路チップの他の一実施態様を示した平面図(製品のロゴを気泡の滞留が起きやすい場所に配置したもの)である。
【0052】
図8(B)は、本発明に係るマイクロ流路チップの他の一実施態様を示した平面図(気泡を除去可能な形状であって、他の機能をも併せ持った気泡溜りを気泡の滞留が起きやすい場所に配置したもの)であり、試験液注入口の位置の図形情報としての表示形態を示す閉鎖空隙18b、試験液注入量の図形情報としての表示形態を示す閉塞空隙18b、観察領域を指示するために複数の図形情報の組み合わせの表示形態である閉鎖空隙18cを有する。
【0053】
図8(C)は、本発明に係るマイクロ流路チップのさらに他の一実施態様を示した平面図(気泡を除去可能な形状であって、他の機能をも併せ持った気泡溜りを気泡の滞留が起きやすい場所に配置したもの)であり、試験液注入量の文字情報としての表示形態を示す閉塞空隙18a、試験液注入量の図形情報としての表示形態を示す閉塞空隙18b、試験液観察領域を示す図形情報としての閉塞空隙18b、薬剤情報(薬剤種類等)である文字情報を示す閉鎖空隙18aを有する。
【0054】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。このマイクロ流路チップMFを、細菌に対する薬剤の感受性評価に適用する場合について説明したが、このマイクロ流路チップMFは、試薬の分析、反応度評価等、種々の対象物の分析、評価に適用することができる。
【符号の説明】
【0055】
10 基板
11 第一基板
11a 表面
11b 背面
12 第二基板
13 試験液導入口
14 薬剤導入口
15 薬剤保持部
16 連通流路
17 マイクロ流路
18 気泡溜り(閉鎖空隙)
18a 文字情報を表示する閉鎖空隙
18b 図形情報を表示する閉鎖空隙
18c 図形情報の組み合わせで表示される閉鎖空隙
19 基板接合界面に滞留した空気
20 チップ本体
21 封止フィルム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8