IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ミネベア株式会社の特許一覧

特許7173775モータ駆動制御装置及びモータの駆動制御方法
<>
  • 特許-モータ駆動制御装置及びモータの駆動制御方法 図1
  • 特許-モータ駆動制御装置及びモータの駆動制御方法 図2
  • 特許-モータ駆動制御装置及びモータの駆動制御方法 図3
  • 特許-モータ駆動制御装置及びモータの駆動制御方法 図4
  • 特許-モータ駆動制御装置及びモータの駆動制御方法 図5
  • 特許-モータ駆動制御装置及びモータの駆動制御方法 図6
  • 特許-モータ駆動制御装置及びモータの駆動制御方法 図7
  • 特許-モータ駆動制御装置及びモータの駆動制御方法 図8
  • 特許-モータ駆動制御装置及びモータの駆動制御方法 図9
  • 特許-モータ駆動制御装置及びモータの駆動制御方法 図10
  • 特許-モータ駆動制御装置及びモータの駆動制御方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】モータ駆動制御装置及びモータの駆動制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/18 20160101AFI20221109BHJP
   H02P 6/22 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
H02P6/18
H02P6/22
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018137123
(22)【出願日】2018-07-20
(65)【公開番号】P2020014367
(43)【公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100110788
【弁理士】
【氏名又は名称】椿 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100124589
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 竜郎
(74)【代理人】
【識別番号】100166811
【弁理士】
【氏名又は名称】白鹿 剛
(72)【発明者】
【氏名】周 霄
(72)【発明者】
【氏名】海津 浩之
(72)【発明者】
【氏名】青木 政人
(72)【発明者】
【氏名】寺田 光成
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-050284(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0087559(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/18
H02P 6/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの複数相のコイルに選択的に通電するモータ駆動部と、
駆動制御信号を前記モータ駆動部に出力することにより、前記モータ駆動部の動作を制御する制御回路部と、
前記複数相のうちいずれか1相に対応し、前記モータの前記複数相のうちの1つの相とロータとの位置関係に対応して信号レベルの上下を周期的に繰り返す信号である位置信号を出力する位置検出器とを備え、
前記制御回路部は、前記モータの起動を開始するとき、
前記位置検出器が出力した前記位置信号の立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジを基準として開始し、前記位置信号の周期を用いて検出を終了するまでの期間である検出期間を設定し、該検出期間において、前記1相に誘起する逆起電圧の値の推移を検出し、
前記逆起電圧の値の推移の検出結果に基づいて前記モータの回転方向を含む前記モータの回転状態を判定する、モータ駆動制御装置。
【請求項2】
前記制御回路部は、前記検出期間を、前記位置信号の立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジより後に始まり前記位置信号の周期の四分の一の時間が経過するよりも前に終わるように設定する、請求項1に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項3】
前記制御回路部は、連続する複数周期分の前記位置信号の周期の平均値を前記位置信号の周期とする、請求項2に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項4】
前記制御回路部は、前記モータの起動を開始するとき、
複数の互いに異なる前記検出期間のそれぞれにおいて前記逆起電圧の値の推移を検出し、
複数の互いに異なる前記検出期間のそれぞれにおける前記逆起電圧の値の推移の検出結果に基づいて前記モータの回転状態を判定する、請求項1から3のいずれかに記載のモータ駆動制御装置。
【請求項5】
前記制御回路部は、前記検出期間において、前記逆起電圧の値が増大傾向であるか減少傾向であるか増大傾向と減少傾向とのいずれでもないかに基づいて、前記モータが正回転しているか逆回転しているか正回転と逆回転とのいずれでもないかを判定する、請求項1から4のいずれかに記載のモータ駆動制御装置。
【請求項6】
前記制御回路部は、前記モータの回転状態の判定結果に基づいて、その後に行う駆動制御方法を決定する、請求項1から5のいずれかに記載のモータ駆動制御装置。
【請求項7】
前記制御回路部は、
前記位置信号に応じて前記逆起電圧の値を検出するタイミングを示す信号を生成するタイミング信号生成部と、
前記タイミング信号生成部で生成された信号に応じたタイミングで、前記逆起電圧の値を検出する電圧検出部と、
前記検出期間において前記電圧検出部で複数回検出された前記逆起電圧の値に基づいて、前記逆起電圧の値の推移に関する演算を行う電圧推移演算部と、
前記電圧推移演算部の演算結果に基づいて、その後の前記複数相のコイルへの通電方式に関する指令を行う通電方式指令部と、
前記通電方式指令部による指令に基づいて、前記駆動制御信号を生成する通電信号生成部とを有する、請求項1から6のいずれかに記載のモータ駆動制御装置。
【請求項8】
モータ駆動制御装置の制御回路部において実行される複数相のコイルを有するモータの駆動制御方法であって、
前記モータの起動を開始するとき、前記複数相のうちいずれか1相に対応し前記モータの前記複数相のうちの1つの相とロータとの位置関係に対応して信号レベルの上下を周期的に繰り返す信号である位置信号の立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジを基準として開始し、前記位置信号の周期を用いて検出を終了するまでの期間である検出期間を設定し、該検出期間において、前記1相に誘起する逆起電圧の値の推移を検出する逆起電圧検出ステップと、
前記逆起電圧検出ステップの検出結果に基づいて前記モータの回転方向を含む前記モータの回転状態を判定する回転状態判定ステップとを備える、モータの駆動制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、モータ駆動制御装置及びモータの駆動制御方法に関し、特に、いわゆる1センサ駆動を行うことができるモータ駆動制御装置及びモータの駆動制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータの駆動を制御するモータ駆動制御装置には、ロータの磁極位置検出用のセンサを1個だけ用いる、いわゆる1センサ駆動によりモータを駆動させるものがある。例えば、モータの磁極位置を検出するためのホールセンサを1個だけ用いてモータを駆動するものがある。
【0003】
1センサ駆動によりモータを駆動する場合、複数のセンサを用いる場合とは異なり、磁極位置を特定することができない。そのため、起動制御を開始する前にロータロックを行い、ロータロック後に起動を開始する方法が採られる。ロータロックは、ロータを所定の位置に位置決めする制御動作である。
【0004】
下記特許文献1には、ロータの磁極位置検出センサを1個しか使用しないファンモータ駆動制御装置の構成が記載されている。このファンモータ駆動制御装置においては、ブラシレスモータの起動前に、磁極位置検出センサの出力信号に基づいて、インバータ回路の正電圧側及び負電圧側のいずれか一方の1個のスイッチング素子及びいずれか他方の2個のスイッチング素子をPWM通電してロータを所定位置に位置決めする制動制御が実行される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-140962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、1センサ駆動では、駆動前に、モータの回転軸に外的負荷が加わって回転軸が逆回転している状態などの異常状態が発生したとき、問題が発生することがある。
【0007】
具体例について説明する。ファンモータにおいて、ファンを逆回転させる負荷がかかり、ファンモータが強制的に逆回転させられる状態が発生することがある。例えば、使用環境によっては、駆動されていないファンモータが、強い外風により、強制的に回転指示方向とは逆方向に回転してしまう場合がある。また、複数のファンモータが設けられている装置において、駆動中の他のファンモータの影響により、装置の内外の気圧差が大きくなり、駆動されていないファンモータが強制的に逆回転することがある。このように逆回転しているモータが起動されるとき、起動時のトルクでは回転軸を正回転させることが不可能であり、そのまま強制的に逆方向に回転する状態が継続してしまうという場合がある。
【0008】
このようにモータが異常状態であるとき、それを検知してモータの起動を停止させることができればよいが、1センサ駆動方式では、異常状態であることを検出することができない場合がある。
【0009】
この発明はそのような問題点を解決するためになされたものであり、モータの異常状態を検知してモータを速やかにかつ確実に起動することができるモータ駆動制御装置及びモータの駆動制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するためこの発明のある局面に従うと、モータ駆動制御装置は、モータの複数相のコイルに選択的に通電するモータ駆動部と、駆動制御信号をモータ駆動部に出力することにより、モータ駆動部の動作を制御する制御回路部と、複数相のうちいずれか1相に対応し、モータのロータの位置に対応して位相が変化する位置信号を出力する位置検出器とを備え、制御回路部は、モータの起動を開始するとき、位置信号の変化タイミングに対応する検出期間において、1相に誘起する逆起電圧の値の推移を検出し、逆起電圧の値の推移の検出結果に基づいてモータの回転方向を含むモータの回転状態を判定する。
【0011】
好ましくは、制御回路部は、検出期間の長さが位置信号の周期に対応する長さになるように検出期間を設定する。
【0012】
好ましくは、制御回路部は、検出期間を、位置信号の変化タイミングより後に始まり位置信号の周期の四分の一の時間が経過するよりも前に終わるように設定する。
【0013】
好ましくは、制御回路部は、連続する複数周期分の位置信号の周期の平均値を位置信号の周期とする。
【0014】
好ましくは、制御回路部は、モータの起動を開始するとき、複数の互いに異なる検出期間のそれぞれにおいて逆起電圧の値の推移を検出し、複数の互いに異なる検出期間のそれぞれにおける逆起電圧の値の推移の検出結果に基づいてモータの回転状態を判定する。
【0015】
好ましくは、制御回路部は、検出期間において、逆起電圧の値が増大傾向であるか減少傾向であるか増大傾向と減少傾向とのいずれでもないかに基づいて、モータが正回転しているか逆回転しているか正回転と逆回転とのいずれでもないかを判定する。
【0016】
好ましくは、制御回路部は、モータの回転状態の判定結果に基づいて、その後に行う駆動制御方法を決定する。
【0017】
好ましくは、制御回路部は、位置信号に応じて逆起電圧の値を検出するタイミングを示す信号を生成するタイミング信号生成部と、タイミング信号生成部で生成された信号に応じたタイミングで、逆起電圧の値を検出する電圧検出部と、検出期間において電圧検出部で複数回検出された逆起電圧の値に基づいて、逆起電圧の値の推移に関する演算を行う電圧推移演算部と、電圧推移演算部の演算結果に基づいて、その後の複数相のコイルへの通電方式に関する指令を行う通電方式司令部と、通電方式指令部による指令に基づいて、駆動制御信号を生成する通電信号生成部とを有する。
【0018】
この発明の他の局面に従うと、モータの駆動制御方法は、複数相のコイルを有するモータの駆動制御方法であって、モータの起動を開始するとき、複数相のうちいずれか1相に対応しモータのロータの位置に対応して位相が変化する位置信号の変化タイミングに対応する検出期間において、1相に誘起する逆起電圧の値の推移を検出する逆起電圧検出ステップと、逆起電圧検出ステップの検出結果に基づいてモータの回転方向を含むモータの回転状態を判定する回転状態判定ステップとを備える。
【発明の効果】
【0019】
これらの発明に従うと、モータの異常状態を検知してモータを速やかにかつ確実に起動することができるモータ駆動制御装置及びモータの駆動制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施の形態の1つにおけるモータ駆動制御装置の構成を示す図である。
図2】位置信号と逆起電圧との関係を模式的に示す図である。
図3】モータが正回転している場合における位置信号と逆起電圧との関係を説明する図である。
図4】モータが正回転している場合における位置信号及び逆起電圧の推移の一例を示すグラフである。
図5】モータが逆回転している場合における位置信号と逆起電圧との関係を説明する図である。
図6】モータが逆回転している場合における位置信号及び逆起電圧の推移の一例を示すグラフである。
図7】モータの起動を開始するときの位置信号及び逆起電圧の推移の一例を示すグラフである。
図8】制御回路部の動作の一例を示すフローチャートである。
図9】電圧値取得、判定処理を説明するフローチャートである。
図10】回転状態確定処理を示すフローチャートである。
図11】起動制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態におけるモータ駆動制御装置について説明する。
【0022】
[実施の形態]
【0023】
図1は、本発明の実施の形態の1つにおけるモータ駆動制御装置1の構成を示す図である。
【0024】
図1に示されるように、モータ駆動制御装置1は、制御回路部4と、分圧回路5と、位置検出器6と、モータ駆動部9とを備える。モータ駆動制御装置1は、モータ20に駆動電力を供給し、モータ20を駆動する。なお、本実施の形態におけるモータ20は、U相、V相、W相のコイルLu,Lv,Lwを有する3相モータである。
【0025】
位置検出器6は、モータ20の複数相のうちいずれか1相に対応し、モータ20のロータの位置に対応して位相が変化する位置信号を出力する。具体的には、位置検出器6は、例えば、ホール素子やホールICなどの磁気センサであり、位置信号としてホール信号が出力される。位置検出器6から出力される位置信号は、制御回路部4に入力される。位置検出器6は、モータ20の1箇所においてロータの位置を検出し、位置信号を出力する。位置信号は、ロータが1回転する間に、所定の位置をロータが通過したとき(ロータが第1の回転位置になったとき)にローからハイになり(立上り;立上りエッジ)、それとは別の所定の位置をロータが通過したとき(ロータが第2の回転位置になったとき)にハイからローに戻る(立下り;立下りエッジ)。位置信号は、ロータの回転に応じて周期的にハイ、ローとなる信号である。位置検出器6は、モータ20のU相、V相、W相のいずれか1相に対応している。すなわち、第1の回転位置と第2の回転位置は、モータ20のいずれか1相に対応する位置である。位置信号は、ロータの位置に応じて、すなわちモータ20のいずれか1相とロータとの位置関係に応じて、位相が変化する信号である。
【0026】
本実施の形態において、例えば、W相のコイルLwに対応する1つの位置検出器6が設けられており、ロータの回転によるW相の位相の変化に対応して位相が変化する位置信号Hwを出力する。なお、位置信号Hwとして、周期的にハイ、ローを繰り返す信号が直接位置検出器6から出力されてもよいし、位置検出器6から出力されたアナログの位置信号Hwが制御回路部4に入力された後に、周期的にハイ、ローとなる信号に変換されるようにしてもよい(以下の説明において、このようにアナログの位置信号Hwが変換された後の信号も位置信号Hwと呼ぶ)。
【0027】
本実施の形態において、1つの位置検出器6のみが設けられている。すなわち、モータ20のうち1箇所のみで検出された位置信号Hwが制御回路部4に入力される。なお、複数の相のそれぞれに対応する複数の位置検出器6が設けられており、そのうち1箇所の位置検出器6のみから出力された位置信号が制御回路部4に入力されて用いられるようにしてもよい。本実施の形態においては、1つの位置検出器6から出力された位置信号Hwが制御回路部4に入力される。モータ駆動制御装置1は、ロータの位置を検出するための位置検出器6を1つのみ使用する1センサ方式で、モータ20を駆動する。
【0028】
モータ駆動部9は、モータ20の複数相のコイルLu,Lv,Lwに選択的に通電する。モータ駆動部9は、インバータ回路2と、プリドライブ回路3とを有している。モータ駆動部9には、制御回路部4から出力される駆動制御信号S6が入力される。
【0029】
インバータ回路2は、プリドライブ回路3から出力される6種類の駆動信号Vuu,Vul,Vvu,Vvl,Vwu,Vwlに基づいてモータ20の3相のコイルLu,Lv,Lwに選択的に通電し、モータ20の回転を制御する。
【0030】
本実施の形態において、インバータ回路2は、モータ20のコイルLu,Lv,Lwのそれぞれに駆動電流を供給するための6個のスイッチング素子Q1-Q6を備えている。スイッチング素子Q1,Q3,Q5は、直流電源Vccの正極側に配置されたPチャンネルのMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)からなるハイサイドスイッチング素子である。スイッチング素子Q2,Q4,Q6は、直流電源Vccの負極側に配置されたNチャンネルのMOSFETからなるローサイドスイッチング素子である。スイッチング素子Q1,Q2の組み合わせ、スイッチング素子Q3,Q4の組み合わせ、及びスイッチング素子Q5,Q6の組み合わせのそれぞれにおいて、2つのスイッチング素子が直列に接続されている。そして、これらの3組の直列回路が並列に接続されて、ブリッジ回路が構成されている。スイッチング素子Q1,Q2の接続点がU相のコイルLuに接続され、スイッチング素子Q3,Q4の接続点がV相のコイルLvに接続され、スイッチング素子Q5,Q6の接続点がW相のコイルLwに接続されている。
【0031】
プリドライブ回路3は、インバータ回路2の6個のスイッチング素子Q1-Q6のそれぞれのゲート端子に接続される複数の出力端子を備えている。各出力端子から駆動信号Vuu,Vul,Vvu,Vvl,Vwu,Vwlを出力して、スイッチング素子Q1-Q6のオン/オフ動作を制御する。制御回路部4から出力される駆動制御信号S6は、プリドライブ回路3に入力される。プリドライブ回路3は、駆動制御信号S6に基づいて、駆動信号Vuu,Vul,Vvu,Vvl,Vwu,Vwlを出力することにより、インバータ回路2を動作させる。すなわち、インバータ回路2は、駆動制御信号S6に基づいて、モータ20の各相のコイルLu,Lv,Lwに選択的に通電する。
【0032】
分圧回路5は、本実施の形態において、W相への通電ラインとグランド(接地電位)との間にもうけられている。分圧回路5は、2つの抵抗R1,R2を直列に接続して構成されている。W相の通電ラインには、抵抗R1の一端が接続されている。抵抗R1の他端は抵抗R2の一端に接続されており、抵抗R2の他端はグランドに接続されている。抵抗R1と抵抗R2との間の電位が、制御回路部4に入力される。すなわち、W相への通電ラインの電位に対応する電位が、制御回路部4に入力される。モータ駆動部9による通電が行われていないとき、制御回路部4には、W相のコイルLwで発生する逆起電圧に対応する電位が、制御回路部4に入力される。
【0033】
制御回路部4は、駆動制御信号S6をモータ駆動部9に出力することにより、モータ駆動部9の動作を制御する。制御回路部4は、モータ駆動部9に駆動制御信号S6を出力することにより、複数相のコイルLu,Lv,Lwの通電相を所定の順序で切り替える。制御回路部4は、例えば、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、マイクロコンピュータなどのプログラマブルデバイスを用いて構成することができるが、これに限られるものではない。
【0034】
制御回路部4は、回転位置検出部41と、通電信号生成部46とを有している。また、制御回路部4は、タイミング信号生成部42と、電圧検出部43と、電圧推移演算部44と、通電方式指令部45とを有している。
【0035】
回転位置検出部41には、位置信号Hwが入力される。回転位置検出部41は、例えば、位置信号Hwの立ち上がりエッジ又は立ち下がりエッジに応じて、位置検出信号S1を出力する。位置検出信号S1は、タイミング信号生成部42に入力される。
【0036】
通電信号生成部46は、駆動制御信号S6を生成し、プリドライブ回路3に出力する。モータ20の通常駆動時において、通電信号生成部46は、モータ駆動制御装置1の外部の装置から入力される速度指令信号に基づいて、モータ20が速度指令信号に対応する回転数で回転するように、駆動制御信号S6を生成する。通電信号生成部46は、例えば、回転位置検出部41から出力された位置検出信号S1に応じて、駆動制御信号S6を生成する。すなわち、駆動制御信号S6は、制御回路部4に入力された位置信号Hwと速度指令信号とに基づいて生成される。なお、速度指令信号は、モータ駆動制御装置1の内部で生成される信号であってもよい。
【0037】
ここで、制御回路部4は、モータ20の起動を開始するとき、以下のような起動開始動作を行う。
【0038】
すなわち、詳細は後述するが、制御回路部4は、モータ20の起動を開始するとき、位置信号Hwの変化タイミングに対応する検出期間において、1相(すなわち本実施の形態においてはW相)に誘起する逆起電圧の値の推移を検出する(逆起電圧検出ステップ)。そして、制御回路部4は、逆起電圧の値の推移の検出結果に基づいて、モータ20の回転方向を含むモータ20の回転状態を判定する(回転状態判定ステップ)。制御回路部4は、検出期間において、逆起電圧の値が増大傾向であるか減少傾向であるか増大傾向と減少傾向とのいずれでもないかに基づいて、モータ20が正回転しているか逆回転しているか正回転と逆回転とのいずれでもないかを判定する。そして、制御回路部4は、モータ20の回転状態の判定結果に基づいて、その後に行う駆動制御方法を決定する。
【0039】
起動開始動作は、以下のような制御回路部4の各部が動作することにより行われる。
【0040】
タイミング信号生成部42は、位置信号Hwに応じて逆起電圧の値を検出するタイミングを示すタイミング信号S2を生成する。すなわち、タイミング信号生成部42は、回転位置検出部41から出力される位置検出信号S1に基づいて、タイミング信号S2を生成し、電圧検出部43に出力する。
【0041】
電圧検出部43には、W相への通電ラインの電位に対応する電位が、分圧回路5から入力される。モータ駆動部9による通電が行われていないとき、電圧検出部43は、タイミング信号生成部42で生成されたタイミング信号S2に応じたタイミングで、W相の逆起電圧の値を検出する。本実施の形態では、後述のように、位置信号Hwの変化タイミングに対応する検出期間において、複数回(例えば、4回)の逆起電圧値V1,V2,V3,V4が検出される。検出結果は、検出電圧情報S3として電圧推移演算部44に出力される。
【0042】
電圧推移演算部44は、検出期間において電圧検出部43で複数回検出された逆起電圧値V1,V2,V3,V4に基づいて、逆起電圧値V1,V2,V3,V4の推移に関する演算を行う。電圧推移演算部44は、例えばメモリである記憶部を有している。記憶部には、電圧検出部43から出力された検出電圧情報S3に基づいて、逆起電圧値V1,V2,V3,V4が記憶される。電圧推移演算部44は、記憶された逆起電圧値V1,V2,V3,V4を比較するなどの演算を行い、演算結果を演算情報S4として通電方式指令部45に出力する。
【0043】
通電方式指令部45は、電圧推移演算部44の演算結果すなわち演算情報S4に基づいて、その後の駆動制御方法すなわち複数相のコイルLu,Lv,Lwへの通電方式に関する指令を行う。すなわち、通電方式指令部45は、後述のように、逆起電圧値V1,V2,V3,V4の演算結果に対応する通電方式を示す通電指令情報S5を通電信号生成部46に出力する。
【0044】
通電信号生成部46は、モータ20の起動を開始するとき、通電方式指令部45による指令すなわち通電指令情報S5に基づいて、駆動制御信号S6を生成する。モータ20の起動を開始するとき、このようにして駆動制御信号S6が生成されるので、タイミング信号S2に基づくタイミングで検出された逆起電圧値V1,V2,V3,V4に基づいて設定された通電方式でモータ20のコイルLu,Lv,Lwに通電が行われる。起動開始時の通電が行われた後は、通電信号生成部46が上述のように速度指令信号に基づいて駆動制御信号S6を生成することで、モータ20の通常駆動が行われる。
【0045】
図2は、位置信号Hwと逆起電圧との関係を模式的に示す図である。
【0046】
図2においては、モータ20に通電されていない場合であって、モータ20が正回転している場合における位置信号Hw及びW相の逆起電圧のそれぞれの推移が示されている。なお、図2においては、参考として、U相及びV相に対応する位置検出器が設けられている場合の位置信号の推移と、U相及びV相の逆起電圧の推移とが、破線で示されている。以下の説明では、モータ20が正回転している場合における位置信号HwとW相の逆起電圧とが図2に示されるような関係になるように位置検出器6が配置されていることを前提とする。
【0047】
図2に示されるように、本実施の形態においては、位置信号Hwの立ち下がりタイミング(図2において数字「1」で示されるタイミング)を基準として、立ち下がりタイミングから、最大で位置信号Hwの周期(以下、位置信号Hwの周期を単に周期ということがある)の1/4(四分の一)の時間までの検出期間内における逆起電圧の値が、4回検出される。逆起電圧の値の推移の検出は、タイミング信号S2に基づいて、電圧検出部43により行われる。
【0048】
本実施の形態において、逆起電圧の値の推移の検出期間は、制御回路部4により設定される。すなわち、電圧検出部43は、タイミング信号S2に基づいて、4回の検出タイミングを設定し、その検出タイミングに逆起電圧の値を検出する。1つの周期における、1回目の検出タイミングと4回目の検出タイミングとの間の時間が、逆起電圧の値の推移の検出期間であるといえる。なお、逆起電圧の値の推移の検出期間や検出タイミングの設定は、タイミング信号生成部42により行われてもよい。例えば、タイミング信号生成部42が各回の検出タイミングにおいてタイミング信号S2を出力し、タイミング信号S2が出力される度に制御回路部4が逆起電圧の値を検出するように構成されていてもよい。
【0049】
逆起電圧の値の推移の検出期間は、検出期間の長さが位置信号Hwの周期に対応する長さになるように設定される。換言すると、1回目の検出タイミングと4回目の検出タイミングとの間の時間が、位置信号Hwの周期に対応する長さになるように、検出タイミングが設定される。
【0050】
また、逆起電圧の値の推移の検出期間は、位置信号Hwの立ち下がりタイミングよりも後に始まり、位置信号Hwの周期の1/4の時間が経過するよりも前に終わるように設定される。換言すると、1回目の検出タイミングは位置信号Hwの立ち下がりタイミングよりも後であって、4回目の検出タイミングが、位置信号Hwの立ち下がりタイミングから1/4周期後のタイミングよりも前になるように、検出タイミングが設定される。1回目の検出タイミングと4回目の検出タイミングとの間の時間が1/4周期を超えないように、検出タイミングが設定される。
【0051】
なお、検出タイミングは、周期を所定値で除算することなどにより設定すればよい。この場合、位置信号Hwの周期に応じて除算に用いる所定値を変更することで、逆起電圧の検出タイミングを適切に設定するなどしてもよい。例えば、周期が比較的長い場合には除算する所定値を大きくすることで、周期に対する逆起電圧の値の推移の検出期間が占める割合が1/4よりも相当短くなるようにし(例えば1/6周期や1/8周期にするなど)、モータ20の進角や遅角の設定が後述のような回転状態の判定に与える影響を軽減したり、位置検出器6の配置位置のばらつきの影響を軽減したりすることができる。
【0052】
図3は、モータ20が正回転している場合における位置信号Hwと逆起電圧との関係を説明する図である。図4は、モータ20が正回転している場合における位置信号Hw及び逆起電圧の推移の一例を示すグラフである。
【0053】
図3においては、逆起電圧値V1,V2,V3,V4の検出の基準となる位置信号Hwの立ち下がりタイミングが時刻t11として示され、その1/4周期後のタイミングが時刻t12として示されている。
【0054】
図3に示されるように、位置信号Hwの立ち下がりタイミングから1/4周期後のタイミングまでの間に、逆起電圧の値の推移の検出期間が設けられる。検出期間においては、1回目の検出タイミング、2回目の検出タイミング、3回目の検出タイミング、4回目の検出タイミングのそれぞれにおいて、逆起電圧の値が検出される。これにより、逆起電圧値V1,V2,V3,V4が得られる。
【0055】
図4に示されるように、モータ20が正回転している場合には、逆起電圧にノイズや外乱などが寄与しなければ、逆起電圧値は、逆起電圧の値の推移の検出期間において、減少傾向となる。すなわち、モータ20が正回転している場合には、逆起電圧値V1,V2,V3,V4は時間の経過とともに減少するものとなり、V1>V2>V3>V4の関係が成り立つ。換言すると、本実施の形態においては、逆起電圧値V1,V2,V3,V4についてV1>V2>V3>V4の関係が成り立つ場合であって、最も大きい逆起電圧値V1と最も小さい逆起電圧値V4との差(以下、逆起電圧値幅wということがある)が所定の範囲より大きいときには、モータ20が正回転していると判定することができる。また、逆起電圧値幅wが所定の範囲内であるときには、モータ20が停止していると判定することができる。
【0056】
図5は、モータ20が逆回転している場合における位置信号Hwと逆起電圧との関係を説明する図である。図6は、モータ20が逆回転している場合における位置信号Hw及び逆起電圧の推移の一例を示すグラフである。
【0057】
図5においては、逆起電圧値V1,V2,V3,V4の検出の基準となる位置信号Hwの立ち下がりタイミングが時刻t21として示され、その1/4周期後のタイミングが時刻t22として示されている。図5においては、モータ20の回転方向に対応させて、時間が経過する方向が図3とは逆になるようにして示されている。図6においては、時間が経過する方向が図4と同じになるようにして示されている。
【0058】
図5に示される例でも、位置信号Hwの立ち下がりタイミングから1/4周期後のタイミングまでの間に、逆起電圧の値の推移の検出期間が設けられる。逆起電圧の値の推移の検出期間においては、1回目の検出タイミング、2回目の検出タイミング、3回目の検出タイミング、4回目の検出タイミングのそれぞれにおいて、逆起電圧の値が検出される。これにより、逆起電圧値V1,V2,V3,V4が得られる。なお、図5においては、1回目の検出タイミングが時刻t21であり、2回目の検出タイミングが時刻t22である。すなわち、逆起電圧の値の推移の検出期間が周期に比して最も長く設定されている例が示されている。
【0059】
図6に示されるように、モータ20が逆回転している場合には、逆起電圧にノイズや外乱などが寄与しなければ、逆起電圧値は、逆起電圧の値の推移の検出期間において、増大傾向となる。すなわち、モータ20が逆回転している場合には、逆起電圧値V1,V2,V3,V4は時間の経過とともに増大するものとなり、V4>V3>V2>V1の関係が成り立つ。換言すると、本実施の形態においては、逆起電圧値V1,V2,V3,V4についてV4>V3>V2>V1の関係が成り立つ場合であって、最も大きい逆起電圧値V4と最も小さい逆起電圧値V1との差である逆起電圧値幅wが所定の範囲より大きいときには、モータ20が逆回転していると判定することができる。また、逆起電圧値幅wが所定の範囲内であるときには、モータ20が停止していると判定することができる。
【0060】
図7は、モータ20の起動を開始するときの位置信号Hw及び逆起電圧の推移の一例を示すグラフである。
【0061】
図7においては、例えば、モータ20が正回転している場合において、モータ20の起動を開始する場合が示されている。個々の検出タイミングの一例は、一点鎖線で示されている。
【0062】
図7に示されるように、制御回路部4は、逆起電圧の値の検出に先立って、位置信号Hwに基づいて、位置信号Hwの周期を検出する。本実施の形態において、制御回路部4は、連続する複数周期分(例えば、4周期分)の位置信号Hwの周期の平均値(例えば、図7における周期T1,T2,T3,T4の平均値(T1+T2+T3+T4)/4)を、位置信号Hwの周期として検出する。位置信号Hwの周期は、例えば、電圧検出部43がタイミング信号S2に基づいて検出するが、これに限られるものではない。このように複数周期分の周期の平均値を位置信号Hwの周期として算出することで、確実に周期を計算することができる。
【0063】
また、制御回路部4は、モータ20の起動を開始するとき、複数の互いに異なる検出期間のそれぞれにおいて逆起電圧の値の推移を検出し、複数の互いに異なる検出期間のそれぞれにおける逆起電圧の値の推移の検出結果に基づいて、モータ20の回転状態を判定する。例えば、制御回路部4は、連続する3周期のそれぞれの周期について、位置信号Hwの立ち下がりタイミング後に1セットの逆起電圧値V1,V2,V3,V4を計測してモータ20の回転状態を判定する。そして、3周期分の判定結果に基づいて、モータ20の回転状態の判定結果を最終的に確定させる。その後、制御回路部4は、最終的に確定させた回転状態の判定結果に対応する通電方式で、モータ20を起動させる起動制御を行う。
【0064】
図8は、制御回路部4の動作の一例を示すフローチャートである。
【0065】
図8に示されるように、ステップS11において、制御回路部4は、モータ20を回転させる回転指令を取得すると、制御回路部4がステップS12からステップS16の起動開始動作を開始する。
【0066】
ステップS12において、電圧検出部43は、タイミング信号S2に基づいて、位置信号Hwの周期を計算する。これにより、電圧検出部43は、検出タイミングを設定することができる。
【0067】
ステップS13において、電圧検出部43及び電圧推移演算部44は、電圧値取得、判定処理を行う。
【0068】
図9は、電圧値取得、判定処理を説明するフローチャートである。
【0069】
図9に示されるように、ステップS21において、電圧検出部43は、設定した4回の検出タイミングにおける分圧回路5から出力される電圧の値を検出し、逆起電圧の値を検出する。得られた逆起電圧値V1,V2,V3,V4は、順次電圧推移演算部44に検出電圧情報S3として送られ、電圧推移演算部44の記憶部で保持される。
【0070】
ステップS22において、電圧推移演算部44は、逆起電圧値V1,V2,V3,V4に基づいて、逆起電圧値幅wを算出する。そして、逆起電圧値幅wが、所定の範囲内であるか否かを判断する。逆起電圧値幅wが所定の範囲内でなければ(NO)、ステップS23に進む。逆起電圧値幅wが所定の範囲内であれば(YES)、制御回路部4は、図8に示される一連の処理を終了する。なお、制御回路部4は、後述の起動制御(ステップS16)としてショートブレーキを行った後に初期通電を行うように制御を行うなど、他の処理を行うようにしてもよい。なお、所定の範囲は、モータ毎に適切な値を設定することができる。
【0071】
ステップS23において、電圧推移演算部44は、逆起電圧値V1,V2,V3,V4が、単調に増大又は減少しているか、いずれでもないかを判断する。単調に増大(V1>V2>V3>V4)の関係が成り立つ場合あるいは単調に減少(V4>V3>V2>V1)の関係が成り立つ場合には(YES)、ステップS25に進む。いずれでもない場合には(NO)、ステップS24に進む。
【0072】
ステップS24において、電圧推移演算部44は、モータ20の回転状態を、停止と判定する。停止している回転状態とは、モータ20が、正回転しているとも逆回転しているとも判定されない程度の回転状態であることをいい、厳密にロータが制止している状態に限られない。電圧推移演算部44は、判定結果を演算情報S4として通電方式指令部45に出力する。
【0073】
ステップS25において、電圧推移演算部44は、逆起電圧値V1,V2,V3,V4が、単調に増大しているか否かを判断する。単調に増大(V1>V2>V3>V4)の関係が成り立つ場合には(YES)、ステップS27に進む。単調に増大(V1>V2>V3>V4)の関係が成り立たない場合(すなわち、単調に減少(V4>V3>V2>V1)の関係が成り立つ場合)には(NO)、ステップS26に進む。
【0074】
ステップS26において、電圧推移演算部44は、モータ20の回転状態を、正回転と判定する。電圧推移演算部44は、判定結果を演算情報S4として通電方式指令部45に出力する。
【0075】
ステップS27において、電圧推移演算部44は、モータ20の回転状態を、逆回転と判定する。電圧推移演算部44は、判定結果を演算情報S4として通電方式指令部45に出力する。
【0076】
ステップS24、ステップS26、ステップS27のいずれかが終了すると、その周期における電圧値取得、判定処理が終了し、図8に示される処理に戻る。
【0077】
図8に戻って、ステップS14において、電圧推移演算部44は、所定数(例えば、3回)の周期分の回転状態の判定が完了したか否かを判断する。完了した場合には(YES)、ステップS15に進む。完了していない場合には(NO)、ステップS13に戻る。
【0078】
ステップS15において、回転状態確定処理が行われる。
【0079】
図10は、回転状態確定処理を示すフローチャートである。
【0080】
図10に示されるように、回転状態確定処理が開始されると、ステップS31において、通電方式指令部45は、これまでに得られた複数回(例えば、3回)の判定結果が互いに一致しているか否かを判断する。判定結果が一致していれば(YES)、ステップS32に進む。判定結果が一致していなければ(NO)、ステップS33に進む。
【0081】
ステップS32において、通電方式指令部45は、一致した判定内容を、最終的なモータ20の回転状態の判定結果として確定する。
【0082】
他方、ステップS33において、通電方式指令部45は、モータ20の回転状態の判定結果が一致しなかったこと(一致せず)を判定結果として確定する。
【0083】
ステップS32、ステップS33のいずれかが終了すると、回転状態確定処理が終了し、図8に示される処理に戻る。
【0084】
図8に戻って、ステップS16において、起動制御が行われる。
【0085】
図11は、起動制御を示すフローチャートである。
【0086】
図11に示されるように、ステップS41において、通電方式指令部45は、回転状態確定処理で確定された、回転状態の判定結果がいずれであるかを判断する。判定結果が正回転である場合には(正回転)、ステップS42に進む。判定結果が逆回転である場合には(逆回転)、ステップS43に進む。判定結果が正回転と逆回転とのいずれでもない場合(電圧値取得、判定処理での判定結果が停止の場合、または、回転状態確定処理での判定結果が“一致せず”の場合)には、ステップS44に進む。
【0087】
ステップS42において、通電方式指令部45は、モータ20を停止せずに同期をとって通電を行う通電方式で駆動するように、通電信号生成部46に通電指令信号S5を出力する。そうすると、通電信号生成部46は、例えば、所定時間毎に通電相が切り替わり、かつ、通電相の切り替え周期が徐々に短くなるように、駆動制御信号S6を出力する。これにより、モータ20が正回転方向に回転している状態のまま、モータ20の回転と通電相とを速やかに同期させることができる。
【0088】
なお、本実施の形態において、通電相の切り替え周期は、ステップS12で算出された位置信号Hwの周期に対応する時間となるように設定される。具体的には、例えば周期が所定の時間よりも短いときなど、周期が比較的短い場合には、モータ20が比較的高速で正回転している状態であると考えられるため、通電相の切り替え周期が比較的短い状態から通電を開始させる。他方、例えば周期が所定の時間よりも長いときなど、周期が比較的長い場合には、モータ20が比較的低速で正回転している状態であると考えられるため、通電相の切り替え周期が比較的長い状態から通電を開始させる。このように、モータ20の正回転時における回転速度に応じて通電相の切り替え周期を適切に設定することにより、速やかにモータ20の回転を同期させることができ、モータ20を速やかに起動することができる。
【0089】
ステップS43において、通電方式指令部45は、通電方式としてショートブレーキが適用されるように、通電信号生成部46に通電指令信号S5を出力する。それに応じて通電信号生成部46が駆動制御信号S6を出力することで、モータ20が停止される。
【0090】
なお、本実施の形態において、ショートブレーキを適用する時間は、ステップS12で算出された位置信号Hwの周期に対応する時間となるように設定される。具体的には、例えば周期が所定の時間よりも短いときなど、周期が比較的短い場合には、モータ20が比較的高速で逆回転している状態であると考えられるため、ショートブレーキを比較的長い時間適用させる。他方、例えば周期が所定の時間よりも長いときなど、周期が比較的長い場合には、モータ20が比較的低速で逆回転している状態であると考えられるため、ショートブレーキを比較的短い時間適用させる。このように、モータ20の逆回転時における回転速度に応じてショートブレーキの適用時間を適切に設定することにより、モータ20を速やかに停止することができる。
【0091】
ステップS44において、通電方式指令部45は、停止状態からの初期通電を行うように、通電信号生成部46に通電指令信号S5を出力する。通電信号生成部46は、駆動制御信号S6を出力することで初期通電動作を行い、モータ20の正回転方向への回転を開始させ、モータ20の回転を徐々に加速させる。
【0092】
ステップS42、ステップS44のいずれかが終了すると、起動制御が終了し、図8に示される処理に戻る。
【0093】
図8に戻って、ステップS17において、起動制御が終了した状態から、通常駆動が行われる。すなわち、通電信号生成部46から速度指令信号と位置信号Hwとに基づいて駆動制御信号S6が出力され、モータ20の1センサ駆動が行われる。通常通電が終了すると、一連の処理が終了する。
【0094】
以上説明したように、本実施の形態においては、1つのみの位置検出器6を用いて、モータ20の起動時において、モータ20の回転状態を的確に判定することができる。モータ20を停止させる必要がない正回転状態である場合には、ショートブレーキを適用してモータ20を一旦停止させることなく、そのままモータ20を起動させることができる。したがって、速やかにモータ20を正回転方向に起動させることができる。他方、モータ20が逆回転状態である場合には、モータ20を一旦停止させることができる。したがって、モータ20が正回転状態でない場合には、モータ20を停止状態から初期通電させることで、確実に起動させることができる。モータ20の回転方向を判別するための特別な回路構成を採用する必要がないので、モータ20の製造コストを低く抑えることができる。
【0095】
1つの周期において、逆起電圧の値の検出を複数回検出した結果に基づいて、モータ20の回転状態が判定される。したがって、逆起電圧の値の推移を的確に把握して、容易に、確度の高い回転状態の判定を行うことができる。モータ20の回転状態の判定結果は、複数周期分の逆起電圧の値の推移の検出結果に基づいて確定される。したがって、回転状態の判定制度を向上させることができる。
【0096】
位置信号Hwの周期は、所定数の周期の平均値として求められる。したがって、モータ20の回転速度を精度良く検出することができる。モータ20が逆回転しているときには、その後のショートブレーキの実施時間を的確に設定できる。モータ20が正回転のときには、その後の同期処理の通電相の切り替え周期を的確に設定できるようになる。
【0097】
[その他]
【0098】
モータ駆動制御装置は、上述の実施の形態やその変形例に示されるような回路構成に限定されない。本発明の目的に適合するように構成された、様々な回路構成が適用できる。
【0099】
また、位置検出器を配置する相は、特定の相に限定されない。また、逆起電圧を検出する相も、特定の相に限定されない。位置信号の立ち上がりタイミングやその他のタイミングを基準にして、逆起電圧の検出や回転状態の判定を行うようにしてもよい。例えば、位置検出器の配置位置を、正回転のときに逆起電圧の値が増大傾向となるようにしてもよい。位置検出器は、位置信号の変化タイミングが、検出対象となる相の逆起電圧のゼロクロス点付近となるような位置に配置されることが望ましい。また、位置検出器は、モータ20の進角や遅角によるずれの発生を考慮した位置に配置されることが望ましい。
【0100】
本実施の形態のモータ駆動制御装置により駆動されるモータは、3相のブラシレスモータに限定されず、2相以上の複数相のコイルを備える種々のモータであってもよい。
【0101】
上述のフローチャートなどは、動作を説明するための一例を示すものであって、これに限定されない。フローチャートの各図に示したステップは具体例であって、このフローに限定されるものではなく、例えば、各ステップの順番が変更されたり各ステップ間に他の処理が挿入されたりしてもよいし、処理を並列化してもよい。
【0102】
上述の実施の形態における処理の一部又は全部が、ソフトウエアによって行われるようにしても、ハードウエア回路を用いて行われるようにしてもよい。例えば、制御部は、マイコンに限定されない。制御部の内部の構成は、少なくとも一部がソフトウエアで処理されるようにしてもよい。
【0103】
上記実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0104】
1 モータ駆動制御装置、2 インバータ回路、3 プリドライブ回路、4 制御回路部、5 分圧回路、6 位置検出器、9 モータ駆動部、20 モータ、41 回転位置検出部、42 タイミング信号生成部、43 電圧検出部、44 電圧推移演算部、45 通電方式指令部、46 通電信号生成部、Hw 位置信号、Lu U相のコイル、Lv V相のコイル、Lw W相のコイル、S1 位置検出信号、S2 タイミング信号、S3 検出電圧情報、S4 演算情報、S5 通電指令情報、S6 駆動制御信号、V1,V2,V3,V4 逆起電圧値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11