(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】燃料電池システム及び発電方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04 20160101AFI20221109BHJP
H01M 8/0444 20160101ALI20221109BHJP
H01M 8/04492 20160101ALI20221109BHJP
H01M 8/04537 20160101ALI20221109BHJP
H01M 8/04791 20160101ALI20221109BHJP
H01M 8/0662 20160101ALI20221109BHJP
H01M 8/249 20160101ALI20221109BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20221109BHJP
H01M 8/14 20060101ALN20221109BHJP
【FI】
H01M8/04 J
H01M8/0444
H01M8/04492
H01M8/04537
H01M8/04791
H01M8/0662
H01M8/249
H01M8/12 101
H01M8/14
(21)【出願番号】P 2018137448
(22)【出願日】2018-07-23
【審査請求日】2021-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤羽 俊之輔
(72)【発明者】
【氏名】中村 和郎
(72)【発明者】
【氏名】中島 達哉
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-199979(JP,A)
【文献】特開2007-280797(JP,A)
【文献】特開2003-327411(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0023097(US,A1)
【文献】特開2008-147178(JP,A)
【文献】特開昭63-091966(JP,A)
【文献】特開2010-055927(JP,A)
【文献】特開2005-166515(JP,A)
【文献】特許第6470778(JP,B2)
【文献】特開2016-184504(JP,A)
【文献】特開2005-259530(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/04- 8/0668
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガスを用いて発電を行う第1燃料電池セルスタックと、
前記第1燃料電池セルスタックから排出された未反応の前記水素ガスを含むアノードオフガスから、少なくとも一部の水蒸気を分離する分離手段と、
前記分離手段の下流に配置され、少なくとも一部の水蒸気が分離された前記アノードオフガスを用いて発電を行う第2燃料電池セルスタックと、
を備え、
前記第1燃料電池セルスタックの出口における前記アノードオフガスの燃料濃度を第1燃料濃度、前記第2燃料電池セルスタックの出口における前記アノードオフガスの燃料濃度を第2燃料濃度とし、前記第1燃料電池セルスタック及び前記第2燃料電池セルスタックの全体の燃料利用率が特定値である場合に前記第1燃料濃度及び前記第2燃料濃度の値が等しくなるときの値をCとすると、前記全体の燃料利用率が前記特定値である場合の前記第1燃料濃度及び前記第2燃料濃度がそれぞれ0.9C以上を満たし、
前記第1燃料電池セルスタックの入口におけるアノードガスの燃料濃度をC
0、前記第1燃料電池セルスタックの燃料利用率をU
f(first)としたとき、前記第1燃料濃度は、C
0×(1-U
f(first))であり、
前記第2燃料電池セルスタックの入口における、少なくとも一部の水蒸気が分離された前記アノードオフガスの燃料濃度をC
3:C
1/{1-除去率
×(1-C
1)}(C
1は前記第1燃料濃度であり、除去率は前記分離手段での前記アノードオフガスからの水蒸気の除去率である。)とし、第2燃料電池セルスタックの燃料利用率をU
f(second)としたとき、前記第2燃料濃度は、C
3×(1-U
f(second))であ
り、
C、C
1
及びC
3
は、対応するアノードオフガス全体を1としたときの各燃料濃度の割合を意味し、C
0
は、前記アノードガス全体を1としたときの燃料濃度の割合を意味し、除去率、U
f(first)
及びU
f(second)
はそれぞれ、0~1の範囲の割合を意味する燃料電池システム。
【請求項2】
水素濃度が99体積%以上である水素ガスを用いて発電を行う第1燃料電池セルスタックと、
前記第1燃料電池セルスタックから排出された未反応の前記水素ガスを含むアノードオフガスから、少なくとも一部の水蒸気を分離する分離手段と、
前記分離手段の下流に配置され、少なくとも一部の水蒸気が分離された前記アノードオフガスを用いて発電を行う第2燃料電池セルスタックと、
を備え、
前記第1燃料電池セルスタックの出口における前記アノードオフガスの燃料濃度を第1燃料濃度、前記第2燃料電池セルスタックの出口における前記アノードオフガスの燃料濃度を第2燃料濃度とし、前記第1燃料電池セルスタック及び前記第2燃料電池セルスタックの全体の燃料利用率が特定値である場合に前記第1燃料濃度及び前記第2燃料濃度の値が等しくなるときの値をCとすると、前記全体の燃料利用率が前記特定値である場合の前記第1燃料濃度及び前記第2燃料濃度がそれぞれ0.9C以上を満たす燃料電池システム。
【請求項3】
前記分離手段にて少なくとも一部の水蒸気が分離された前記アノードオフガスの露点は、90.5℃以下である請求項1又は請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記第1燃料電池セルスタックが備える燃料電池セルの有効表面積の合計をα
1、前記第2燃料電池セルスタックが備える燃料電池セルの有効表面積の合計をα
2としたとき、α
1/α
2が3.0超である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記第1燃料電池セルスタックが備える燃料電池スタックと前記第2燃料電池セルスタックが備える燃料電池スタックとが同一である場合、第1燃料電池セルスタックにおける燃料電池スタックの数β
1、第2燃料電池セルスタックにおける燃料電池スタックの数β
2としたとき、β
1/β
2が3.0超である請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記第1燃料濃度及び前記第2燃料濃度がそれぞれ6体積%以上である請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記第1燃料濃度及び前記第2燃料濃度がそれぞれ12体積%以上である請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の燃料電池システムを用いた発電方法。
【請求項9】
前記第1燃料電池セルスタック及び前記第2燃料電池セルスタックを等しい電流密度で作動させて発電を行う請求項8に記載の発電方法。
【請求項10】
前記第1燃料電池セルスタックが備える燃料電池セルにおいて、有効表面積と前記第1燃料電池セルスタックを作動させたときの電流密度との積の合計をγ
1、前記第2燃料電池セルスタックが備える燃料電池セルにおいて、有効表面積と前記第2燃料電池セルスタックを作動させたときの電流密度との積の合計をγ
2としたとき、γ
1/γ
2を3.0超に調整して発電を行う請求項8又は請求項9に記載の発電方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システム及び発電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムにおいて、発電効率を向上させるため、燃料電池セルスタックを複数設けて多段式とする手法が知られている。例えば、燃料電池セルスタックを複数設け、前段の燃料電池セルスタックから排出された使用済みの燃料ガス中の未反応の燃料ガスを後段の燃料電池セルスタックで再利用する多段式の燃料電池システムが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、特許文献1に記載の多段式の燃料電池システムでは、前段及び後段の燃料電池セルスタックから排出されるアノードオフガス中の燃料濃度については何ら検討されていない。多段式の燃料電池システムにおいて、前段及び後段の燃料電池セルスタックから排出されるアノードオフガス中の燃料濃度、すなわち、前段及び後段の燃料電池セルスタックの出口における燃料濃度が低い場合、燃料電池セルスタックの酸化等により燃料電池セルスタックの耐久性が低下するおそれがある。
【0005】
本発明は、燃料電池セルスタックの耐久性に優れた燃料電池システム、及びこの燃料電池システムを用いた発電方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、例えば以下の手段により解決される。
<1> 水素ガスを用いて発電を行う第1燃料電池セルスタックと、前記第1燃料電池セルスタックから排出された未反応の前記水素ガスを含むアノードオフガスから、少なくとも一部の水蒸気を分離する分離手段と、前記分離手段の下流に配置され、少なくとも一部の水蒸気が分離された前記アノードオフガスを用いて発電を行う第2燃料電池セルスタックと、を備え、前記第1燃料電池セルスタックの出口における前記アノードオフガスの燃料濃度を第1燃料濃度、前記第2燃料電池セルスタックの出口における前記アノードオフガスの燃料濃度を第2燃料濃度とし、前記第1燃料電池セルスタック及び前記第2燃料電池セルスタックの全体の燃料利用率が特定値である場合に前記第1燃料濃度及び前記第2燃料濃度の値が等しくなるときの値をCとすると、前記全体の燃料利用率が前記特定値である場合の前記第1燃料濃度及び前記第2燃料濃度がそれぞれ0.9C以上を満たす燃料電池システム。
【0007】
本形態の燃料電池システムでは、分離手段により第1燃料電池セルスタックから排出されたアノードオフガスから、少なくとも一部の水蒸気が分離され、アノードオフガスが再生されてその燃料濃度が上昇する。そして、燃料濃度が上昇したアノードオフガスが第2燃料電池セルスタックに供給されるため、本形態の燃料電池システムでは高い燃料利用率での運転が可能となり、高い発電効率を得ることができる。
【0008】
一般的に、多段式の燃料電池システムでは、第1燃料電池セルスタック中でのアノードガスの燃料濃度は、第1燃料電池セルスタックの入口にて最も高く、第1燃料電池セルスタックの出口にて最も低くなる。第2燃料電池セルスタック中でのアノードガスの燃料濃度についても同様である。ここで、第1燃料電池セルスタック及び第2燃料電池セルスタックにおいて、燃料電池セルスタック中におけるアノードガスの燃料濃度が低下すると、燃料電池セルスタックの酸化等により燃料電池セルスタックの耐久性が低下するおそれがある。そのため、燃料濃度が最も低くなる、第1燃料電池セルスタックの出口及び第2燃料電池セルスタックの出口における燃料濃度を高めて燃料電池セルスタックの酸化(例えば、燃料極の酸化)等を抑制することが好ましい。
【0009】
そこで、本形態の燃料電池システムでは、分離手段によりアノードオフガスを再生させて燃料濃度を高めるとともに、第1燃料電池セルスタックの出口における燃料濃度(第1燃料濃度)及び第2燃料電池セルスタックの出口における燃料濃度(第2燃料濃度)を高めることで、燃料電池セルスタックの酸化等を抑制している。より具体的には、第1燃料濃度及び第2燃料濃度を等しくすることで、第1燃料濃度及び第2燃料濃度の値をともに高い値とすることができ、燃料電池セルスタックの酸化等を好適に抑制することができ、燃料電池セルスタックの耐久性により優れた燃料電池システムを提供することができる。また、全体の燃料利用率が特定値である場合に第1燃料濃度及び第2燃料濃度が等しいときの値をCとしたとき、全体の燃料利用率が前述の特定値である場合の第1燃料濃度及び第2燃料濃度が、0.9C以上、すなわち、それぞれの濃度が等しいときの90%以上であれば、第1燃料濃度と第2燃料濃度との差を抑制することができ、また、燃料電池セルスタックの酸化等のリスクを抑制し、燃料電池セルスタックの耐久性に優れた燃料電池システムを提供することができる。
【0010】
<2> 前記分離手段にて少なくとも一部の水蒸気が分離された前記アノードオフガスの露点は、90.5℃以下である前記<1>に記載の燃料電池システム。
【0011】
本形態の燃料電池システムでは、アノードオフガスの露点が上記数値範囲を満たすことにより、アノードオフガスが再生されてその燃料濃度が好適に上昇する。そのため、本形態の燃料電池システムではより高い燃料利用率での運転が可能となり、より高い発電効率を得ることができる。
【0012】
<3> 前記第1燃料電池セルスタックが備える燃料電池セルの有効表面積の合計をα1、前記第2燃料電池セルスタックが備える燃料電池セルの有効表面積の合計をα2としたとき、α1/α2が3.0超である前記<1>又は<2>に記載の燃料電池システム。
<4> 前記第1燃料電池セルスタックが備える燃料電池スタックと前記第2燃料電池セルスタックが備える燃料電池スタックとが同一である場合、第1燃料電池セルスタックにおける燃料電池スタックの数β1、第2燃料電池セルスタックにおける燃料電池スタックの数β2としたとき、β1/β2が3.0超である前記<1>~<3>のいずれか1つに記載の燃料電池システム。
【0013】
本形態の燃料電池システムでは、α1/α2又はβ1/β2が3.0超であることにより、α1/α2又はβ1/β2が3.0以下である場合と比較して、第1燃料濃度及び第2燃料濃度の値をともに高い値とすることができる。そのため、燃料電池セルスタックの酸化等を好適に抑制することができ、燃料電池セルスタックの耐久性により優れた燃料電池システムを提供することができる。
【0014】
<5> 前記第1燃料濃度及び前記第2燃料濃度がそれぞれ6体積%以上である<1>~<4>のいずれか1つに記載の燃料電池システム。
<6> 前記第1燃料濃度及び前記第2燃料濃度がそれぞれ12体積%以上である<1>~<5>のいずれか1つに記載の燃料電池システム。
【0015】
本形態の燃料電池システムでは、第1燃料濃度及び第2燃料濃度の値を上記数値範囲内とすることにより、燃料電池セルスタックの酸化等を好適に抑制することができ、燃料電池セルスタックの耐久性により優れた燃料電池システムを提供することができる。
【0016】
<7> 前記水素ガスは、水素濃度が99体積%以上である前記<1>~<6>のいずれか1つに記載の燃料電池システム。
【0017】
本形態の燃料電池システムでは、水素濃度が高い水素ガスを燃料電池の燃料ガスとして用いることにより、二酸化炭素の排出を抑制することができる。
【0018】
<8> <1>~<7>のいずれか1つに記載の燃料電池システムを用いた発電方法。
<9> 前記第1燃料電池セルスタック及び前記第2燃料電池セルスタックを等しい電流密度で作動させて発電を行う<8>に記載の発電方法。
【0019】
本形態の発電方法では、前述の燃料電池システムを用いて発電を行うため、燃料電池セルスタックの耐久性に優れ、長期的に安定した発電が可能となる。
【0020】
<10> 前記第1燃料電池セルスタックが備える燃料電池セルにおいて、有効表面積と前記第1燃料電池セルスタックを作動させたときの電流密度との積の合計をγ1、前記第2燃料電池セルスタックが備える燃料電池セルにおいて、有効表面積と前記第2燃料電池セルスタックを作動させたときの電流密度との積の合計をγ2としたとき、γ1/γ2を3.0超に調整して発電を行う<8>又は<9>に記載の発電方法。
【0021】
本形態の発電方法では、γ1/γ2が3.0超であることにより、γ1/γ2が3.0以下である場合と比較して、第1燃料濃度及び第2燃料濃度の値をともに高い値とすることができる。そのため、燃料電池セルスタックの酸化等を好適に抑制することができ、燃料電池セルスタックの耐久性により優れ、より長期的に安定した発電が可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、燃料電池セルスタックの耐久性に優れた燃料電池システム、及びこの燃料電池システムを用いた発電方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】一実施形態に係る燃料電池システムを示す概略構成図である。
【
図2】水蒸気除去率が99%である場合における、第1燃料電池セルスタックの燃料利用率と、第1燃料濃度及び第2燃料濃度との関係を示すグラフである。
【
図3】アノードオフガス中の水蒸気の除去率とスタック比との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例の一例に示されている値に置き換えてもよい。
【0025】
以下、本発明の実施形態について説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
【0026】
以下、本発明の燃料電池システムの一実施形態について
図1を用いて説明する。
図1は、一実施形態に係る燃料電池システムを示す概略構成図である。一実施形態に係る燃料電池システム10は、水素ガスを用いて発電を行う第1燃料電池セルスタック11と、第1燃料電池セルスタック11から排出された未反応の前記水素ガスを含むアノードオフガスから、少なくとも一部の水蒸気を分離する分離手段16と、分離手段16の下流に配置され、少なくとも一部の水蒸気が分離されたアノードオフガスを用いて発電を行う第2燃料電池セルスタック12と、を備え、第1燃料電池セルスタック11の出口におけるアノードオフガスの燃料濃度を第1燃料濃度、第2燃料電池セルスタック12の出口におけるアノードオフガスの燃料濃度を第2燃料濃度とし、第1燃料電池セルスタック及び第2燃料電池セルスタックの全体の燃料利用率が特定値である場合に第1燃料濃度及び第2燃料濃度の値が等しくなるときの値をCとすると、全体の燃料利用率が前述の特定値である場合の第1燃料濃度及び第2燃料濃度がそれぞれ0.9C以上を満たす。すなわち、燃料電池システム10は、全体の燃料利用率が前述の特定値である場合の第1燃料濃度及び第2燃料濃度がそれぞれ0.9C以上を満たすように運転が行われる。
【0027】
本実施形態の燃料電池システム10では、分離手段16により第1燃料電池セルスタック11から排出されたアノードオフガスから、少なくとも一部の水蒸気が分離され、アノードオフガスが再生されてその燃料濃度が上昇する。そして、燃料濃度が上昇したアノードオフガスが第2燃料電池セルスタック12に供給されるため、燃料電池システム10では高い燃料利用率での運転が可能となり、高い発電効率を得ることができる。
【0028】
一般的に、多段式の燃料電池システムでは、第1燃料電池セルスタック中でのアノードガスの燃料濃度は、第1燃料電池セルスタックの入口にて最も高く、第1燃料電池セルスタックの出口にて最も低くなる。第2燃料電池セルスタック中でのアノードガスの燃料濃度についても同様である。ここで、第1燃料電池セルスタック及び第2燃料電池セルスタックにおいて、燃料電池セルスタック中のアノードガスの燃料濃度が低下すると、燃料電池セルスタックの酸化等により燃料電池セルスタックの耐久性が低下するおそれがある。そのため、燃料濃度が最も低くなる、第1燃料電池セルスタックの出口及び第2燃料電池セルスタックの出口における燃料濃度を高めて燃料電池セルスタックの酸化等を抑制することが好ましい。
【0029】
そこで、燃料電池システム10では、分離手段16によりアノードオフガスを再生させて燃料濃度を高めるとともに、第1燃料電池セルスタック11の出口における燃料濃度(第1燃料濃度)及び第2燃料電池セルスタック12の出口における燃料濃度(第2燃料濃度)を高めることで、燃料電池セルスタックの酸化等を抑制している。より具体的には、第1燃料濃度及び第2燃料濃度を等しくすることで、第1燃料濃度及び第2燃料濃度の値をともに高い値とすることができ、燃料電池セルスタックの酸化等を好適に抑制することができ、燃料電池セルスタックの耐久性により優れたシステムを提供することができる。また、全体の燃料利用率が特定値である場合に第1燃料濃度及び第2燃料濃度が等しいときの値をCとしたとき、全体の燃料利用率が前述の特定値である場合の第1燃料濃度及び第2燃料濃度が、0.9C以上、すなわち、それぞれの濃度が等しいときの90%以上であれば、第1燃料濃度と第2燃料濃度との差を抑制することができ、また、燃料電池セルスタックの酸化等のリスクを抑制し、燃料電池セルスタックの耐久性に優れたシステムを提供することができる。
【0030】
本実施形態に係る燃料電池システム10は、例えば、第1燃料電池セルスタック11が備える燃料電池セルの有効表面積の合計(α1)に対する第2燃料電池セルスタックが備える燃料電池セルの有効表面積の合計(α2)の比率(α1/α2)を調整したり、第1燃料電池セルスタック11が備える燃料電池スタックの数(β1)に対する第2燃料電池セルスタックが備える燃料電池スタックの数(β2)の比率(β1/β2)を調整したり、第1燃料電池セルスタック11が備える燃料電池セルの電流密度及び第2燃料電池セルスタックが備える燃料電池セルの電流密度をそれぞれ調整したり、分離手段における水蒸気の分離の度合いを調整したりする等により、第1燃料濃度及び第2燃料濃度を0.9C以上に調整することができる。
【0031】
以下、本実施形態に係る燃料電池システム10の各構成について説明する。
【0032】
(水素ガス供給経路)
本実施形態に係る燃料電池システム10は、水素ガスを第1燃料電池セルスタック11のアノード(図示せず)に供給する水素ガス供給経路42を備えている。水素ガス供給経路42には、水素ガスを第1燃料電池セルスタック11のアノードへ送るための水素ガスブロワ24が設置されている。
【0033】
水素ガス供給経路42内を流通する水素ガスとしては、水素を含むガスであればよく、水素濃度が99体積%以上である水素ガス(純水素ガス)であることが好ましい。水素濃度が高い水素ガスを燃料電池の燃料ガスとして用いることにより、二酸化炭素の排出を抑制することができる。
【0034】
純水素ガスを得る方法としては、メタン、メタノール等の改質可能な炭素化合物原料を改質して水素ガスを含む改質ガスを改質器にて生成し、改質器にて生成された改質ガスを水素精製器を用いて純水素ガスとそれ以外の成分とに分離する方法、再生可能エネルギーに由来する電気を用い、水を電気分解する方法などが挙げられる。再生可能エネルギーとしては、太陽光、太陽熱、風力、水力、地熱、バイオマス、潮力、波力、海流等のエネルギーが挙げられる。
【0035】
本実施形態に係る燃料電池システム10は、炭素化合物原料を改質して改質ガスを生成する改質器及び改質器にて生成された改質ガスを精製して純水素ガスとする水素精製器を更に備えていてもよい。
【0036】
また、本実施形態に係る燃料電池システム10を、再生可能エネルギーを利用して発電する発電装置、及び発電装置での発電により生じた電力を用いて水を電気分解する水電解装置と組み合わせて発電システムとしてもよい。
【0037】
(空気供給経路)
本実施形態に係る燃料電池システム10は、空気を第1燃料電池セルスタック11のカソード(図示せず)に供給する空気供給経路44を備えている。空気供給経路44には、水素ガスを第1燃料電池セルスタック11のカソードへ送るための空気ブロワ25が設置されている。
【0038】
(第1燃料電池セルスタック)
本実施形態に係る燃料電池システム10は、水素ガス供給経路42を通じて供給された水素ガスを用いて発電を行う第1燃料電池セルスタック11を備えている。第1燃料電池セルスタック11としては、例えば、空気極(カソード)、電解質及び燃料極(アノード)を備える燃料電池セルを複数積層あるいは複数接続した燃料電池スタックを少なくとも一つ備えた燃料電池セルスタックである。また、第1燃料電池セルスタックとしては、600℃~1000℃程度で作動する高温型の燃料電池、例えば、600℃~1000℃程度で作動する固体酸化物形燃料電池、600℃~700℃程度で作動する溶融炭酸塩形燃料電池が挙げられる。なお、第1燃料電池セルスタック11及び後述の第2燃料電池セルスタック12としては、燃料濃度の低下を抑制でき、燃料電池セルスタックの酸化等のリスクをより好適に抑制できる点から、固体酸化物形燃料電池であることが好ましい。
【0039】
第1燃料電池セルスタック11が固体酸化物形燃料電池の場合、第1燃料電池セルスタック11のカソードには、空気供給経路44を通じて空気が供給される。空気がカソードに供給されることにより、以下の式(a)に示す反応が起こり、その際、酸素イオンが固体酸化物電解質(図示せず)の内部を移動する。
O2+4e-→2O2-・・・・(a)
【0040】
第1燃料電池セルスタック11が固体酸化物形燃料電池の場合、第1燃料電池セルスタック11のアノードには、水素ガス供給経路42を通じて水素ガスが供給される。アノードと固体酸化物電解質との界面にて水素が固体酸化物電解質の内部を移動する酸素イオンと反応することにより、以下の式(b)に示す反応が起こる。
H2+O2-→H2O+2e-・・・・(b)
【0041】
第1燃料電池セルスタック11が溶融炭酸塩形燃料電池の場合、第1燃料電池セルスタック11のカソード(図示せず)には、空気供給経路44を通じて酸素及び二酸化炭素を含むガスが供給される。酸素及び二酸化炭素を含むガスがカソードに供給されることにより、以下の式(c)に示す反応が起こり、その際、炭酸イオンが電解質(図示せず)の内部を移動する。
O2+2CO2+4e-→2CO3
2-・・・・(c)
【0042】
第1燃料電池セルスタック11が溶融炭酸塩形燃料電池の場合、第1燃料電池セルスタック11のアノードには、水素ガス供給経路42を通じて水素ガスが供給される。アノードと電解質との界面にて水素が電解質の内部を移動する炭酸イオンと反応することにより、以下の式(d)に示す反応が起こる。
H2+CO3
2-→H2O+CO2+2e-・・・・(d)
【0043】
上記式(b)及び式(d)に示すように、第1燃料電池セルスタック11での水素ガスの電気化学的な反応により、固体酸化物形燃料電池及び溶融炭酸塩形燃料電池では水蒸気が生成される。また、アノードで生成された電子は、外部回路を通じてカソードに移動する。このようにして電子がアノードからカソードに移動することにより、第1燃料電池セルスタック11にて発電が行われる。
【0044】
カソードから排出されたカソードオフガスは、下流側の空気供給経路44を通じて、第2燃料電池セルスタック12のカソード(図示せず)に供給される。
【0045】
一方、アノードから排出された未反応の水素ガスを含むアノードオフガスは、オフガス経路52を通じて分離手段16へ供給される。ここで、未反応の水素ガスを含むアノードオフガスは、第1燃料電池セルスタック11が固体酸化物形燃料電池の場合、水素、水蒸気などを含む混合ガスであり、第1燃料電池セルスタック11が溶融炭酸塩形燃料電池の場合、水素、水蒸気、二酸化炭素などを含む混合ガスである。
【0046】
オフガス経路52及びオフガス経路54には熱交換器21が設置されており、熱交換器21により、オフガス経路52内を流通するアノードオフガスと、オフガス経路54内を流通する少なくとも一部の水蒸気が分離されたアノードオフガスとの間で熱交換を行う。これにより、オフガス経路52内を流通するアノードオフガスは、分離手段16により少なくとも一部の水蒸気を分離する際に好ましい温度まで冷却され、オフガス経路54内を流通する少なくとも一部の水蒸気が分離されたアノードオフガスは、第2燃料電池セルスタック12の作動温度に適した温度に加熱される。そのため、システム全体の発電効率及び熱効率がより向上する。
【0047】
(分離手段)
本実施形態に係る燃料電池システム10は、第1燃料電池セルスタック11から排出された未反応の水素ガスを含むアノードオフガスから、少なくとも一部の水蒸気を分離する分離手段16を備えている。
【0048】
燃料電池システム10では、分離手段16にて少なくとも一部の水蒸気が分離されるため、第2燃料電池セルスタック12に供給されるアノードオフガス中の水蒸気濃度を低くすることができ、燃料電池システム10の発電効率を高めることができる。
【0049】
分離手段16としては、アノードオフガスから少なくとも一部の水蒸気を分離できるものであれば限定されず、水吸収材、水吸着剤、分離膜、凝縮器等が挙げられる。
【0050】
分離膜としては、アノードオフガス中の少なくとも一部の水蒸気を分離できるものであればよく、有機高分子膜、無機材料膜、有機高分子-無機材料複合膜、液体膜等が挙げられる。また、分離膜は、ガラス状高分子膜、ゴム状高分子膜、イオン交換樹脂膜、アルミナ膜、シリカ膜、炭素膜、ゼオライト膜、セラミック膜、アミン水溶液膜又はイオン液体膜であることが好ましい。また、分離膜は、多孔質性の支持体に支持されていてもよい。
【0051】
水吸収材、水吸着剤及び分離膜において、アノードオフガス中の水蒸気除去率、及び少なくとも一部の水蒸気が分離されたアノードオフガスの露点は、アノードオフガスの流量、アノードオフガスの温度等を調節することにより、適宜調節することができる。
分離膜を用いる場合、分離効率を向上させるため、透過側にスイープガスを供給してもよい。
【0052】
凝縮器としては、アノードオフガス中の水蒸気を凝縮により分離できるものであればよい。また、凝縮器におけるアノードオフガス中の水蒸気除去率、及び少なくとも一部の水蒸気が分離されたアノードオフガスの露点は、凝縮温度を調節することにより、適宜調節することができる。
【0053】
また、分離手段としては、アノードオフガスを再生させてその燃料濃度を好適に上昇させる点から、少なくとも一部の水蒸気が分離されたアノードオフガスの露点は、90.5℃以下であることが好ましく、90℃以下であることがより好ましく、85℃以下であることが更に好ましく、80℃以下であることが特に好ましい。アノードオフガスを再生させてその燃料濃度を好適に上昇させることにより、燃料電池システムにおいて、より高い燃料利用率での運転が可能となり、より高い発電効率を得ることができる。また、前記アノードオフガスの露点は、20℃以上であってもよい。
【0054】
また、分離手段としては、アノードオフガスを再生させてその燃料濃度を好適に上昇させる点から、水蒸気除去率が60%以上を満たすことが好ましく、65%以上を満たすことがより好ましく、70%以上を満たすことが更に好ましく、80%以上を満たすことが特に好ましい。アノードオフガスを再生させてその燃料濃度を好適に上昇させることにより、燃料電池システムにおいて、より高い燃料利用率での運転が可能となり、より高い発電効率を得ることができる。また、水蒸気除去率の上限は、100%以下であればよく、例えば、99%以下であってもよい。
【0055】
第1燃料電池セルスタック11が溶融炭酸塩形燃料電池の場合、分離手段16としては、未反応の水素ガスを含むアノードオフガスから、少なくとも一部の水蒸気とともに少なくとも一部の二酸化炭素を分離するものであってもよい。このとき、1つの分離手段にて未反応の水素ガスを含むアノードオフガスから、少なくとも一部の水蒸気及び少なくとも一部の二酸化炭素を分離してもよく、2つ以上の分離手段を組み合わせて未反応の水素ガスを含むアノードオフガスから、少なくとも一部の水蒸気及び少なくとも一部の二酸化炭素を分離してもよい。
【0056】
1つの分離手段を用いて未反応の水素ガスを含むアノードオフガスから、少なくとも一部の水蒸気及び少なくとも一部の二酸化炭素を分離する場合、この分離手段としては、吸収材、吸着剤、分離膜等が挙げられる。分離膜としては、前述したものが挙げられる。
【0057】
2つ以上の分離手段を用いて未反応の水素ガスを含むアノードオフガスから、少なくとも一部の水蒸気及び少なくとも一部の二酸化炭素を分離する場合、少なくとも一部の二酸化炭素を分離する分離手段としては、二酸化炭素吸収材、二酸化炭素吸着剤、分離膜、吸収液等が挙げられる。分離膜としては、前述したものが挙げられる。
【0058】
吸収液としては、アノードオフガス中の二酸化炭素を吸収できるものであればよく、例えば、アミン等のアルカリ性水溶液が挙げられる。また、吸収液としては、アミン等のアルカリ性水溶液のように、アノードオフガスと接触させ二酸化炭素を吸収させた後に加熱することで二酸化炭素を分離できるものであってもよい。
【0059】
第1燃料電池セルスタック11が溶融炭酸塩形燃料電池の場合、分離手段としては、アノードオフガスを再生させてその燃料濃度を好適に上昇させる点から、二酸化炭素除去率が60%以上を満たすことが好ましく、65%以上を満たすことがより好ましく、70%以上を満たすことが更に好ましく、80%以上を満たすことが特に好ましい。アノードオフガスを再生させてその燃料濃度を好適に上昇させることにより、燃料電池システムにおいて、より高い燃料利用率での運転が可能となり、より高い発電効率を得ることができる。また、二酸化炭素除去率の上限は、100%以下であればよく、例えば、99%以下であってもよい。
【0060】
(第2燃料電池セルスタック)
本実施形態に係る燃料電池システム10は、分離手段16の下流に配置され、少なくとも一部の水蒸気が分離されたアノードオフガスを用いて発電を行う第2燃料電池セルスタック12を備えている。第2燃料電池セルスタック12としては、例えば、空気極(カソード)、電解質及び燃料極(アノード)を備える燃料電池セルを複数積層あるいは複数接続した燃料電池スタックを少なくとも一つ備えた燃料電池セルスタックである。なお、第2燃料電池セルスタック12における電気化学的反応は、上述の第1燃料電池セルスタック11と同様であるため、その説明は省略する。
【0061】
燃料電池システム10では、第2燃料電池セルスタック12は、少なくとも一部の水蒸気が分離されたアノードオフガスを用いて発電を行う。そのため、第2燃料電池セルスタック12では、電極間の酸素分圧差に起因する理論電圧が向上するとともに、アノードオフガス中の少なくとも一部の水蒸気が分離されたことに起因して濃度過電圧が低減され、特に高電流密度時に高い性能を発揮することができる。よって、燃料電池システム10は、高い発電効率を得ることができる。
【0062】
<第1燃料電池セルスタック及び第2燃料電池セルスタックの好ましい条件>
本実施形態に係る燃料電池システム10では、全体の燃料利用率が特定値である場合に第1燃料濃度及び前記第2燃料濃度の値が等しくなるときの値をCとすると、全体の燃料利用率が前述の特定値である場合の第1燃料濃度及び第2燃料濃度がそれぞれ0.9C以上を満たしていればよく、好ましくは、第1燃料濃度及び第2燃料濃度がそれぞれ0.95C以上を満たしていればよい。なお、第1燃料濃度の上限としては特に限定されず、例えば、1.7C以下であってもよく、1.5C以下であってもよく、1.1C以下であってもよい。第2燃料濃度の上限としては、特に限定されず、例えば、1.2C以下であってもよく、1.1C以下であってもよい。
【0063】
本実施形態に係る燃料電池システム10では、第1燃料電池セルスタック11が備える燃料電池セルの有効表面積の合計をα1、第2燃料電池セルスタック12が備える燃料電池セルの有効表面積の合計をα2としたとき、α1/α2が3.0超であることが好ましい。これにより、α1/α2が3.0以下である場合と比較して、第1燃料濃度及び第2燃料濃度の値をともに高い値とすることができるため、燃料電池セルスタックの酸化等を好適に抑制することができ、燃料電池セルスタックの耐久性により優れた燃料電池システムを提供することができる。なお、燃料電池セルの有効表面積が増加すると、水素ガスの消費量も増加する傾向にある。
α1/α2は、3.5以上であることがより好ましい。
【0064】
α1/α2は、第1燃料濃度及び第2燃料濃度の値の低下を抑制する、特に、第1燃料濃度の値の低下を抑制する点から、15以下であることが好ましく、12以下であることがより好ましく、10以下であることが更に好ましく、8.0以下であることが特に好ましく、6.0以下であることがより一層好ましい。
【0065】
なお、第1燃料電池セルスタック11及び第2燃料電池セルスタック12にそれぞれ含まれる燃料電池スタックが同一のものである場合等には、第1燃料電池セルスタック11における燃料電池スタックの数β1、第2燃料電池セルスタック12における燃料電池スタックの数β2としたとき、β1/β2が3.0超であることが好ましい。β1/β2の好ましい数値範囲は、上述のα1/α2と同様である。
【0066】
また、本実施形態に係る燃料電池システム10を用いて発電を行う場合、第1燃料電池セルスタック11及び第2燃料電池セルスタック12を等しい電流密度で作動させて発電を行うことが好ましい。前述の<第1燃料電池セルスタック及び第2燃料電池セルスタックの好ましい条件>を満たしつつ、第1燃料電池セルスタック11及び第2燃料電池セルスタック12を等しい電流密度で作動させて発電を行うことにより、燃料電池セルスタックの耐久性に優れ、長期的に安定した発電が可能となる。
【0067】
また、第1燃料電池セルスタック11が備える燃料電池セルの有効表面積と第1燃料電池セルスタック11を作動させたときの当該燃料電池セルの電流密度との積の合計をγ1、第2燃料電池セルスタック12が備える燃料電池セルの有効表面積と第2燃料電池セルスタック12を作動させたときの当該燃料電池セルの電流密度との積の合計をγ2としたとき、γ1/γ2を3.0超に調整して発電を行うことも好ましい。これにより、γ1/γ2が3.0以下である場合と比較して、第1燃料濃度及び第2燃料濃度の値をともに高い値とすることができるため、燃料電池セルスタックの酸化等を好適に抑制することができ、燃料電池セルスタックの耐久性により優れ、より長期的に安定した発電が可能となる。γ1/γ2の好ましい数値範囲は、上述のα1/α2と同様である。
なお、第1燃料電池セルスタック11が備える特定の燃料電池セルの有効表面積と、この燃料電池セルの電流密度との積を求め、かつ、第1燃料電池セルスタック11が備える他の燃料電池セルについても同様に積を求めたときの、これらの積の合計値がγ1に対応し、γ2についても同様である。
また、γ1及びγ2は、それぞれ第1燃料電池セルスタック11及び第2燃料電池セルスタック12における水素ガスの消費量と比例関係にある。
【0068】
燃料電池セルスタックの酸化等を好適に抑制する点から、第1燃料濃度及び第2燃料濃度がそれぞれ6体積%以上であることが好ましく、12体積%以上であることがより好ましく、14体積%以上であることが更に好ましく、16体積%以上であることが特に好ましく、18体積%以上であることがより一層好ましい。
【0069】
本実施形態に係る燃料電池システム10では、全体の燃料利用率が80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、85%以上95%以下であることが更に好ましく、90%以上95%以下であることが特に好ましい。本実施形態に係る燃料電池システム10では、分離手段を設けることにより、第2燃料電池セルスタックでの燃料利用率及び全体の燃料利用率を高めるとともに、上記条件を満たすように第1燃料濃度及び第2燃料濃度を調整している。そのため、本実施形態に係る燃料電池システムでは、高い燃料利用率による発電効率の向上と、燃料電池セルスタックの耐久性の向上とを両立している。
【0070】
第2燃料電池セルスタック12のカソードからカソードオフガスが排出され、第2燃料電池セルスタック12のアノードからアノードオフガスが排出される。
【0071】
本実施形態に係る燃料電池システム10は、第1燃料濃度及び第2燃料濃度がそれぞれ0.9C以上を満たすように第1燃料電池セルスタック及び第2燃料電池セルスタックの作動条件を制御する制御部を備えていてもよい。また、制御部は、水蒸気除去率又は少なくとも一部の水蒸気が分離されたアノードオフガスの露点に基づき、第1燃料濃度及び第2燃料濃度がそれぞれ0.9C以上を満たすように第1燃料電池セルスタック及び第2燃料電池セルスタックの作動条件を制御する構成であってもよい。例えば、制御部は、前述の水蒸気除去率又は前述のアノードオフガスの露点に基づき、第1燃料電池セルスタック及び第2燃料電池セルスタックの燃料利用率を調節すればよい。燃料利用率は、例えば、第1燃料電池セルスタック及び第2燃料電池セルスタックでの電流量、燃焼温度、ガス流量等を変動させて調節すればよい。
また、第1燃料電池セルスタック11が溶融炭酸塩形燃料電池の場合、制御部は、水蒸気除去率又は少なくとも一部の水蒸気が分離されたアノードオフガスの露点、及び二酸化炭素除去率に基づき、第1燃料濃度及び第2燃料濃度がそれぞれ0.9C以上を満たすように第1燃料電池セルスタック及び第2燃料電池セルスタックの作動条件を制御する構成であってもよい。
【0072】
前述の一実施形態では、空気供給経路44が直列となっているため、第1燃料電池セルスタック11に空気を供給した後、第2燃料電池セルスタック12に第1燃料電池セルスタック11から排出されたカソードオフガスが供給されるが、空気供給経路44は並列であってもよい。つまり、空気が流通する空気供給経路44が分岐し、第1燃料電池セルスタック11及び第2燃料電池セルスタック12のカソードに空気をそれぞれ供給する構成であってもよい。
【0073】
[本発明の一例]
以下、本発明の一例の燃料電池システムについて検討する。燃料電池システムとしては、第1燃料電池セルスタック、分離手段及び第2燃料電池セルスタックを備えるシステムについて検討した。検討における条件は以下の通りである。
<条件>
第1燃料電池セルスタック及び第2燃料電池セルスタック:固体酸化物形燃料電池
燃料ガス:水素
セルの負荷電流:第1燃料電池セルスタック及び第2燃料電池セルスタックで同じ
全体の燃料利用率:93(%)
燃料利用率の関係:Uf(total)=[Uf(first)+(1-Uf(first))・Uf(second)](式中、Uf(total)は全体の燃料利用率、Uf(first)は第1燃料電池セルスタックの燃料利用率及びUf(second)は第2燃料電池セルスタックの燃料利用率を指す。)
第1燃料電池セルスタックの入口における燃料濃度C0:99%(体積%)
<各パラメータの算出式>
第2燃料電池セルスタックの燃料利用率:Uf(second)=(Uf(total)-Uf(first))/(1-Uf(first))
第2燃料電池セルスタックのスタック数に対する第1燃料電池セルスタックのスタック数の比率(燃料電池セルスタックを構成する燃料電池スタック及び電流密度は全て同じ、β1/β2に対応):Uf(first)/(Uf(total)-Uf(first))
第1燃料電池セルスタックの出口におけるアノードオフガスの濃度(第1燃料濃度C1):C0×(1-Uf(first))
第2燃料電池セルスタックの入口における燃料濃度(第3燃料濃度C3):C1/{1-除去率(1-C1)}
第2燃料電池セルスタックの出口におけるアノードオフガスの濃度(第2燃料濃度C2):C3×(1-Uf(second))
【0074】
(検討1)
分離手段にて水蒸気を少なくとも一部分離除去する場合について説明する。以下、分離手段にて水蒸気を60%~99%分離除去する場合(前述の算出式における「除去率」が0.6~0.99である場合)の燃料電池システムについて検討する。
【0075】
水蒸気の除去率が99%である場合において、第1燃料電池セルスタックの燃料利用率と、第1燃料濃度及び第2燃料濃度との関係を
図2に示す。燃料電池システムの全体の燃料利用率が一定である場合、
図2に示すように、第1燃料電池セルスタックの燃料利用率を増加させると、第1燃料濃度C
1が小さくなる。一方、燃料電池システムの全体の燃料利用率が一定の条件にて第1燃料電池セルスタックの燃料利用率が増加した場合、第2燃料電池セルスタックの燃料利用率が低下する効果が大きいため、
図2に示すように、第2燃料濃度C
2は大きくなる。そして、
図2に示すように、第1燃料濃度C
1及び第2燃料濃度C
2が等しくなるときに、第1燃料濃度C
1及び第2燃料濃度C
2の最小値が最大となり、燃料濃度の低下によるセルスタック酸化等のリスクを低減することができる。
【0076】
分離手段にて水蒸気を99%分離除去する場合、すなわち除去率が0.99である場合に、第1燃料濃度C1及び第2燃料濃度C2が等しくなるとき、前述の算出式に基づき、以下の値が算出される。
第1燃料電池セルスタックの燃料利用率Uf(first):0.7378(73.78%)
第2燃料電池セルスタックの燃料利用率Uf(second):0.733(73.3%)
第1燃料濃度C1及び第2燃料濃度C2が等しくなるときの値(最大濃度):25.96%
第2燃料電池セルスタックのスタック数に対する第1燃料電池セルスタックのスタック数の比率(スタック比):3.84
【0077】
次に、第1燃料濃度C1及び第2燃料濃度C2が、第1燃料濃度C1及び第2燃料濃度C2の最小値が最大となるときの90%以上、すなわち、25.96%の90%以上であれば、第1燃料濃度C1及び第2燃料濃度C2をともに高い値とすることができ、第1燃料電池セルスタック及び第2燃料電池セルスタックにて燃料濃度の低下によるセルスタック酸化等のリスクを低減することができる。そこで、第1燃料濃度C1及び第2燃料濃度C2の下限値を算出すると23.36%となる。
【0078】
第1燃料濃度C1が23.36%である場合、前述の算出式に基づき、以下の値が算出される(表3参照)。
第1燃料電池セルスタックの燃料利用率Uf(first):0.764(76.4%)
第2燃料電池セルスタックの燃料利用率Uf(second):0.7034(70.34%)
第2燃料電池セルスタックのスタック数に対する第1燃料電池セルスタックのスタック数の比率(スタック比):4.6
【0079】
また、第2燃料濃度C2が23.36%である場合、前述の算出式に基づき、以下の値が算出される(表2参照)。
第1燃料電池セルスタックの燃料利用率Uf(first):0.7075(70.75%)
第2燃料電池セルスタックの燃料利用率Uf(second):0.7607(76.07%)
第2燃料電池セルスタックのスタック数に対する第1燃料電池セルスタックのスタック数の比率(スタック比):3.18
【0080】
したがって、上記条件を満たし、かつ、分離手段にて水蒸気を99%分離除去する場合、セルスタック酸化等のリスクを低減する点から、第1燃料濃度C1及び第2燃料濃度C2をともに23.36%以上とし、スタック比を3.18以上4.6以下とすることが好ましい。
【0081】
次に、検討1において、分離手段にて水蒸気を60%~95%分離除去する場合における、最大濃度、第1燃料電池セルスタックの燃料利用率U
f(first)、第2燃料電池セルスタックの燃料利用率U
f(second)、第2燃料電池セルスタックのスタック数に対する第1燃料電池セルスタックのスタック数の比率(スタック比)、及び90%濃度(最大濃度の90%)を前述の各パラメータの算出式に従い、それぞれ算出した。
分離手段にて水蒸気をともに99%分離除去する場合とともに結果を表1~表3及び
図3に示す。スタック比としては、
図3における最大値及び最小値の間の範囲を取ることが好ましい。
なお、表1中において、「露点」は、水蒸気を60%~99%除去したアノードオフガスの露点を意味する。
また、表1中において、「最大濃度」は、全体の燃料利用率が93%であり、かつ水蒸気除去率が60%~99%である場合に第1燃料濃度及び第2燃料濃度が等しくなるときの値を意味する。
また、表1において、「90%濃度」は、最大濃度の90%の値を意味し、第1燃料濃度及び第2燃料濃度がともに表1に示す90%濃度以上であれば、燃料電池セルスタックの酸化等のリスクが軽減される。
表2では、第2燃料濃度C
2を表1の90%濃度の値にしたときのU
f(first)、U
f(second)及びスタック比を示している。
また、表3では、第1燃料濃度C
1を表1の90%濃度の値にしたときのU
f(first)、U
f(second)及びスタック比を示している。
【0082】
【0083】
【0084】
【符号の説明】
【0085】
10…燃料電池システム、11…第1燃料電池セルスタック、12…第2燃料電池セルスタック、16…分離手段、21…熱交換器、24…水素ガスブロワ、25…空気ブロワ、42…水素ガス供給経路、44…空気供給経路、52、54…アノードオフガス経路