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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】物標検出装置および物標検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/34 20060101AFI20221109BHJP
   G01S 13/58 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
G01S13/34
G01S13/58 200
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018150591
(22)【出願日】2018-08-09
(65)【公開番号】P2020026977
(43)【公開日】2020-02-20
【審査請求日】2021-07-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000237592
【氏名又は名称】株式会社デンソーテン
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 樹
【審査官】渡辺 慶人
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-090296(JP,A)
【文献】特表2016-524707(JP,A)
【文献】国際公開第2016/080156(WO,A1)
【文献】特開2001-116833(JP,A)
【文献】特開2017-072421(JP,A)
【文献】特開2017-090143(JP,A)
【文献】特開2018-115930(JP,A)
【文献】特開2018-063130(JP,A)
【文献】特開2017-090066(JP,A)
【文献】特開2017-058291(JP,A)
【文献】特開2016-023948(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0097907(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/64
13/00 - 17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数変調された送信波と、物標による当該送信波の反射波とを混合して得られるビート信号に対して周波数解析を行うことで、距離方向および相対速度方向に対する2次元周波数スペクトルを生成する生成部と、
前記生成部によって生成された前記2次元周波数スペクトルにおけるピーク分布の前記距離方向への広がりに基づいて前記物標の種別を判定する判定部と
を備え、
前記判定部は、
前記ピーク分布の前記相対速度方向への広がりに基づいて前記物標が自車両に対して接近か離反かをさらに判定すること
を特徴とする物標検出装置。
【請求項2】
前記判定部は、
前記ピーク分布の前記相対速度方向への歪みに基づいて前記物標が自車両に対して追い越し前か追い越し後かを判定すること
を特徴とする請求項に記載の物標検出装置。
【請求項3】
前記物標の種別に応じた前記ピーク分布の分布モデルを示すモデル情報を記憶する記憶部をさらに備え、
前記判定部は、
前記モデル情報における前記分布モデルと、前記生成部によって生成された前記2次元周波数スペクトルにおける前記ピーク分布とを比較することで、前記物標の種別を判定すること
を特徴とする請求項1又は2に記載の物標検出装置。
【請求項4】
前記生成部によって生成された前記2次元周波数スペクトルに基づいて前記ピーク分布をマップ化したマップ情報を生成するマップ生成部をさらに備え、
前記判定部は、
前記マップ生成部によって生成された前記マップ情報に基づいて前記物標の種別を判定すること
を特徴とする請求項1~のいずれか一つに記載の物標検出装置。
【請求項5】
レーダ装置が物標を検出する物標検出方法であって、
周波数変調された送信波と、物標による当該送信波の反射波とを混合して得られるビート信号に対して周波数解析を行うことで、距離方向および相対速度方向に対する2次元周波数スペクトルを生成する生成工程と、
前記生成工程によって生成された前記2次元周波数スペクトルにおけるピーク分布の前記距離方向への広がりに基づいて前記物標の種別を判定する判定工程と
を備え、
前記判定工程は、
前記ピーク分布の前記相対速度方向への広がりに基づいて前記物標が自車両に対して接近か離反かをさらに判定することを含む、
ことを特徴とする物標検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物標検出装置および物標検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物標を検出する物標検出装置として、周波数変調された信号を送信して物標との距離および相対速度を含む物標情報を検出するレーダ装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-3873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したレーダ装置では、検知した物標情報について、物標の種別を早期に判定する点で改善の余地があった。具体的には、従来は、物標の種別を判定しようとした場合、1スキャンで取得した複数の物標情報を組み合わせて種別判定したり、あるいは、一の物標に由来する物標情報の時間変化により種別判定したりするため、判定処理の時間が嵩んでしまう。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、物標の種別を早期に判定できる物標検出装置および物標検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る物標検出装置は、生成部と、判定部とを備える。前記生成部は、周波数変調された送信波と、物標による当該送信波の反射波とを混合して得られるビート信号に対して周波数解析を行うことで、距離方向および相対速度方向に対する2次元周波数スペクトルを生成する。前記判定部は、前記生成部によって生成された前記2次元周波数スペクトルにおけるピーク周辺の分布形状の前記距離方向への広がりに基づいて前記物標の種別を判定する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、物標の種別を早期に判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A図1Aは、実施形態に係る物標検出方法の概要を示す図である。
図1B図1Bは、実施形態に係る物標検出方法の概要を示す図である。
図2図2は、レーダ装置のブロック図である。
図3図3は、生成部の処理内容を示す図である。
図4図4は、生成部の処理内容を示す図である。
図5図5は、モデル情報の説明図である。
図6図6は、判定部の判定処理を示す図である。
図7図7は、判定部の判定処理を示す図である。
図8図8は、レーダ装置が実行する判定処理の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本願の開示する物標検出装置および物標検出方法の実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。また、以下では、実施形態に係る物標検出装置であるレーダ装置が物標検出方法を実行する場合について説明する。
【0010】
まず、図1Aおよび図1Bを用いて、実施形態に係る物標検出方法の概要について説明する。図1Aおよび図1Bは、実施形態に係る物標検出方法の概要を示す図である。図1Aでは、レーダ装置1を搭載した自車両MCと、自車両MCの隣接レーンにおいて自車両MCに先行するトラックである他車両OCとを示している。
【0011】
図1Aに示すように、実施形態に係るレーダ装置1は、例えば、自車両MCの前端部に搭載され、他車両OC等の移動物や、静止物等の物標を検出する。また、図1Aに示すレーダ装置1は、例えば、FCM(Fast Chirp Modulation)方式のレーダ装置である。
【0012】
FCM方式とは、周波数が連続的に変化する複数のチャープ波が繰り返される送信波を出力して検出範囲内に存在する各物標との距離および相対速度を含む物標情報を検出する方式である。
【0013】
具体的には、FCM方式のレーダ装置1は、「周波数解析処理」、「ピーク抽出処理」および「物標検出処理」を行うことで物標情報を生成する。
【0014】
「周波数解析処理」では、周波数変調された送信波(チャープ波)と、物標による当該送信波の反射波とを混合して得られるビート信号に対して周波数解析を行う。具体的には、「周波数解析処理」では、各チャープ波により得られるビート信号それぞれに対して距離方向(縦距離の方向)および相対速度方向の2次元の高速フーリエ変換処理(以下、2次元FFT処理と記載する場合がある)を行うことで、距離方向および相対速度方向に対する2次元周波数スペクトルが生成される。2次元周波数スペクトルでは、物標までの距離(縦距離)に対応する周波数毎(以下、距離ビンと記載する)および物標との相対速度に対応する周波数毎(以下、速度ビンと記載する)のピークが含まれる(図1B参照)。
【0015】
「ピーク抽出処理」では、生成した2次元周波数スペクトルの中に存在するピーク候補のパワー(ピーク候補の大きさ)が所定値以上となるピーク候補をピークとして抽出する。「物標検出処理」では、抽出したピークに基づいて物標の距離および相対速度を検出する。具体的には、「物標検出処理」では、ピークに対応する距離ビンを物標の距離とし、速度ビンを物標の相対速度として検出する。
【0016】
実施形態に係る物標検出方法では、「周波数解析処理」によって得られた2次元周波数スペクトルを使って、「ピーク抽出処理」の前に物標の種別を大まかに判定するものである。物標の種別とは、例えば、トラック、乗用車、人等のように、物標の距離方向への長さの違いにより分類された区分である。
【0017】
ここで、従来の物標検出方法による物標の種別判定について説明する。従来の物標検出方法では、物標の種別を判定しようとした場合、1スキャンで得られた複数の物標情報を組み合わせて判定したり、あるいは、一の物標に由来する物標情報の時間変化(つまり複数スキャンの物標情報)により判定したりするため、判定処理の時間が嵩んでしまう。
【0018】
例えば、複数の物標情報を組み合わせて物標の種別を判定する場合、一の物標について複数の物標情報が必要になり、かつ、上記した「物標検出処理」の後に物標の種別を判定することとなる。つまり、物標の種別判定を行うために、少なくとも「物標検出処理」を行う必要があり、処理時間が嵩む。
【0019】
また、例えば、物標情報の時間変化により物標の種別を判定する場合、複数スキャン分の物標情報を得る必要があるため、処理時間が嵩む。このように、従来は、物標の種別を早期に判定する点で改善の余地があった。
【0020】
そこで、実施形態に係る物標検出方法では、1スキャンで、かつ、「ピーク抽出処理」よりも前に、物標の種別を大まかに判定する。具体的には、実施形態に係る物標検出方法では、「周波数解析処理」により生成した2次元周波数スペクトルにおけるピーク候補周辺の分布形状(以降、ピーク分布と呼ぶ)の距離方向への広がりに基づいて物標の種別を判定する。
【0021】
図1Bでは、「周波数解析処理」によって生成された2次元周波数スペクトルと、2次元周波数スペクトルにおけるピーク分布の分布モデル(図1Bでは、トラックおよび乗用車)とを示している。図1Bに示す分布モデルは、距離ビンおよび速度ビンを座標軸とする2次元平面にピーク候補周辺のパワーを各ピクセルの濃淡として配列したマップの画像であり、パワーが強いほど、ピクセルの濃淡が濃くなっている。かかる分布モデルは、例えば実験等によって予め生成されるが、かかる点については後述する。
【0022】
図1Bに示すように、トラックの分布モデルは、乗用車の分布モデルに比べて距離ビンの範囲が広いことがわかる。換言すれば、トラックであれば、乗用車に比べてピーク分布の距離方向への広がりが大きくなるということである。
【0023】
そして、実施形態に係るレーダ装置1は、得られた2次元周波数スペクトルの中に、分布モデルと類似するピーク分布が存在するか否かを探索する。そして、レーダ装置1は、2次元周波数スペクトルの中に、トラック(あるいは、乗用車)の分布モデルと類似するピーク分布が存在した場合、かかるピーク分布については、物標の種別がトラック(あるいは、乗用車)であると判定する。
【0024】
すなわち、実施形態に係る物標検出方法では、ピーク分布の距離方向への広がりと、物標の距離方向への長さとの相関関係を利用して物標の種別を判定する。従って、実施形態に係るレーダ装置1では、1スキャンで、かつ、「ピーク抽出処理」の前に、物標の種別判定が可能となるため、従来に比べて、物標の種別を早期に判定できる。
【0025】
なお、実施形態に係るレーダ装置1では、物標の種別に加えて、かかる物標が自車両MCに対して離反か接近かの判定や、隣接レーンから自車両MCを追い越し前か追い越し後かの判定等を行うことができるが、かかる点については後述する。
【0026】
次に、図2を用いて実施形態に係るレーダ装置1の構成について説明する。図2は、レーダ装置1のブロック図である。図2に示すように、レーダ装置1は、車両制御装置2に接続される。
【0027】
車両制御装置2は、レーダ装置1による物標の検出結果に基づいてPCS(Pre-crash Safety System)やAEB(Advanced Emergency Braking System)などの車両制御を行う。なお、レーダ装置1は、車載レーダ装置以外の各種用途(例えば、飛行機や船舶の監視等)に用いられてもよい。
【0028】
レーダ装置1は、送信部10と、受信部20と、処理部30とを備える。送信部10は、信号生成部11と、発振器12と、送信アンテナ13とを備える。信号生成部11はノコギリ波状に電圧が変化する変調信号を生成し、発振器12へ供給する。発振器12は、信号生成部11で生成された変調信号に基づいてチャープ信号STを生成して、送信アンテナ13へ出力する。
【0029】
送信アンテナ13は、発振器12から入力されるチャープ信号STを送信波SWへ変換し、かかる送信波SWを車両MCの外部へ出力する。送信アンテナ13が出力する送信波SWは、複数のチャープ波Ch1~Chnが繰り返される波形である。送信アンテナ13から自車両MCの前方に送信された送信波SWは、他車両OCなどの物標で反射されて反射波となる。
【0030】
受信部20は、アレーアンテナを形成する複数の受信アンテナ21a~21d、ミキサ22a~22dおよびA/D変換器23a~23dを備える。各受信アンテナ21は物標からの反射波を受信波RWとして受信し、かかる受信波RWを受信信号SRへ変換して受信アンテナ21毎に設けられたミキサ22へそれぞれ出力する。なお、図2に示す受信アンテナ21の数は、4つであるが3つ以下または5つ以上であってもよい。
【0031】
各受信アンテナ21から出力された受信信号SRは、不図示の増幅器(例えば、ローノイズアンプ)で増幅された後にミキサ22へ入力される。ミキサ22は、チャープ信号STと受信信号SRとの一部をミキシング(混合)し不要な信号成分を除去してビート信号SBを生成し、A/D変換器23へ出力する。
【0032】
これにより、チャープ信号STの周波数fST(以下、送信周波数fSTと記載する)と受信信号SRの周波数fSR(以下、受信周波数fSRと記載する)との差となるビート周波数fSB(=fST-fSR)を有するビート信号SBが生成される。ミキサ22で生成されたビート信号SBは、A/D変換器23でデジタルの信号へ変換された後に処理部30に出力される。
【0033】
処理部30は、送信制御部31と、信号処理部32と、記憶部33とを備える。信号処理部32は、生成部321、マップ生成部322、判定部323、ピーク抽出部324、演算部325および出力部326を備える。記憶部33は、モデル情報331を記憶する。
【0034】
かかる処理部30は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入出力ポート等を含むマイクロコンピュータであり、レーダ装置1全体を制御する。
【0035】
かかるマイクロコンピュータのCPUがROMに記憶されたプログラムを読み出して実行することによって、送信制御部31および信号処理部32として機能する。なお、送信制御部31および信号処理部32のうち少なくとも一部または全部をASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアで構成することもできる。
【0036】
記憶部33は、RAMに対応する。記憶部33に記憶されたモデル情報331は、2次元周波数スペクトルにおけるピーク分布の分布モデルを示す情報であり、物標の種別毎に予め生成される。
【0037】
送信制御部31は、送信部10の信号生成部11を制御し、信号生成部11からノコギリ状に電圧が変化する変調信号を発振器12へ出力させる。これにより、時間の経過に従って周波数が変化するチャープ信号STが発振器12から送信アンテナ13へ出力される。
【0038】
信号処理部32は、各A/D変換器23から出力されるビート信号SBに対してそれぞれ2次元FFT処理を行い、かかる2次元FFT処理の結果に基づいて物標の距離、相対速度および方位を演算する。以下、信号処理部32の各部の処理について説明する。
【0039】
生成部321は、各A/D変換器23から出力されるビート信号SBそれぞれに対して2次元FFT等の周波数解析を行うことで、距離方向および相対速度方向に対する2次元周波数スペクトルを生成する。ここで、図3および図4を用いて、生成部321の処理内容について具体的に説明する。
【0040】
図3および図4は、生成部321の処理内容を示す図である。なお、図3では、2つの太い下向きの白色矢印で3つの領域に区切られているが、これら領域を上から順に、上段、中段、下段と記載する。
【0041】
まず、送信部10による送信処理、および、受信部20による受信処理により、ビート信号が生成される点については既に述べた。これにより、図3の上段に示すように、送信周波数fSTと受信周波数fSRとの差となるビート周波数fSB(=fST-fSR)を有するビート信号が、チャープ波ごとに生成される。なお、ここでは、1回目のチャープ波Ch1によって得られるビート信号を「B1」とし、2回目のチャープ波Ch2によって得られるビート信号を「B2」とし、n回目のチャープ波Chnによって得られるビート信号を「Bn」としている。
【0042】
また、図3の上段に示す例では、送信周波数fSTは、チャープ波ごとに、基準周波数f0から時間に伴って傾きθ(=(f1-f0)/Tm)で増加し、最大周波数f1に達すると基準周波数f0に短時間で戻るノコギリ波状である。また、チャープ波の変調周波数Δfは、Δf=f1―f0で表すことができる。
【0043】
なお、図示していないが、送信周波数fSTは、チャープ波ごとに、基準周波数f0から最大周波数f1へ短時間で到達し、かかる最大周波数f1から時間に伴って傾きθ(=(f1-f0)/Tm)で減少し、基準周波数f0に達するノコギリ波状であってもよい。
【0044】
このように生成され、入力される各ビート信号に対し、生成部321は、まず「1回目のFFT処理」を行う。上述したように、送信信号に基づく送信波は、送信アンテナ13から送信され、かかる送信波が物標で反射して反射波となり、かかる反射波が受信波として受信アンテナ21で受信されて受信信号として出力される。送信波が送信アンテナ13から送信されてから受信信号が出力されるまでの期間は、物標とレーダ装置1との間の距離に比例して増減し、ビート信号の周波数であるビート周波数fSBは、物標とレーダ装置1との間の距離に比例する。
【0045】
そのため、ビート信号に対して1回目のFFT処理を行って生成したビート信号の周波数スペクトルには、物標との距離に対応する周波数ビンfr(距離ビンfr)にピークが出現する。したがって、かかるピークが存在する距離ビンfrを特定することで、物標との距離を検出することができる。
【0046】
ところで、物標とレーダ装置1との間の相対速度がゼロである場合、受信信号にドップラー成分は生じず、各チャープ波に対応する受信信号間で位相は同じであるため、各ビート信号の位相も同じである。一方、物標とレーダ装置1との間の相対速度がゼロでない場合、受信信号にドップラー成分が生じ、各チャープ波に対応する受信信号間で位相が異なるため、時間的に連続するビート信号間にドップラー周波数に応じた位相の変化が現われる。
【0047】
図3の中段には、時間的に連続するビート信号(B1~B8)の1回目のFFT処理結果とビート信号間のピークの位相変化の一例を示している。かかる例では、同一の距離ビンfr10にピークがあり、かかるピークの位相が変化していることを示している。
【0048】
このように、物標とレーダ装置1との間の相対速度がゼロでない場合、ビート信号間において同じ物標のピークにドップラー周波数に応じた位相の変化が現われる。そこで、各ビート信号の1回目のFFT処理により得られる周波数スペクトルを時系列に並べて、図3の下段に示すように「2回目のFFT処理」を行うことで、ドップラー周波数に対する周波数ビンにピークが出現する周波数スペクトルを得ることができる。すなわち、生成部321は、周波数解析である2回のFFT処理を行うことで、図4に示す距離ビン(距離方向)および速度ビン(相対速度方向)毎にピークが出現する2次元周波数スペクトルを取得できる。なお、後段の演算部325は、かかるピークが出現した周波数ビン、すなわち速度ビンを検出することで、物標との相対速度を検出することができる。
【0049】
図2に戻って、マップ生成部322について説明する。マップ生成部322は、生成部321によって生成された2次元周波数スペクトルに基づいてピーク分布をマップ化したマップ情報を生成する。
【0050】
例えば、マップ生成部322は、距離ビンおよび速度ビンを座標軸とする2次元平面に配列したスペクトル情報を画像情報に変換したマップの画像をマップ情報として生成する。マップの画像は、例えば、パワーをピクセルのRGB等の表色系や、色の濃度(例えば、濃淡)等によって表現可能である。なお、マップ生成部322は、スペクトル情報をマップの画像に変換する場合に限らず、例えば、データ値そのものを距離ビンおよび速度ビンを座標軸とする2次元平面に配列したデータ行列をマップ情報として生成してもよい。
【0051】
判定部323は、生成部321によって生成された2次元周波数スペクトルに基づいて物標の種別を判定する。具体的には、判定部323は、2次元周波数スペクトルにおけるピーク分布の距離方向(距離ビンの方向)への広がりに基づいて物標の種別を判定する。
【0052】
例えば、判定部323は、モデル情報331の分布モデルと、生成部321によって生成された2次元周波数スペクトルにおけるピーク分布とを比較することで、物標の種別を判定する。ここで、図5を用いて、モデル情報331について具体的に説明する。
【0053】
図5は、モデル情報331の説明図である。図5では、物標の種別がトラックである分布モデルと、乗用車である分布モデルとを示している。
【0054】
図5に示すように、モデル情報331における分布モデルは、ピーク分布をマップ化したマップ情報である。具体的には、マップ情報としてのモデル情報331は、距離ビンおよび速度ビンをパラメータとするピークを画像平面に離散的にプロットしたマップの画像である。図5では、ピークのパワーを濃淡で示しており、色が濃いほどピークのパワーが大きいことを示す。
【0055】
図5に示すように、トラックの方が乗用車に比べて、分布モデルにおける距離ビンの範囲が広い。つまり、トラックの方が乗用車に比べて、分布モデルにおける距離方向への広がりが大きい。
【0056】
すなわち、モデル情報331には、物標の種別毎に距離ビンの範囲が異なる分布モデルが含まれており、判定部323は、2次元周波数スペクトルの中に、各分布モデルと類似するピーク分布が含まれるか否かを判定する。このように、2次元周波数スペクトルと分布モデルとを比較することで、高精度に物標種別を判定することができる。
【0057】
なお、図5では、モデル情報331の分布モデルをマップの画像(例えば、濃淡画像や、色画像)として表した場合について説明したが、分布モデルは、マップの画像に限定されるものではない。例えば、分布モデルは、各ピークを離散的なデータ値として表してもよい。
【0058】
あるいは、モデル情報331の分布モデルは、機械学習の所定のアルゴリズムであってもよい。所定のアルゴリズムとして、例えば、ニューラルネットワークや、サポートベクターマシン、ベイジアンネットワーク等の任意のアルゴリズムを採用可能である。
【0059】
具体的には、判定部323は、2次元周波数スペクトルと分布モデルとを比較する場合に、テンプレートマッチング法を採用可能である。すなわち、判定部323は、分布モデルのマップの画像を使って2次元周波数スペクトルのマップの画像を走査し、分布モデルとの類似度が所定の閾値以上となるピーク分布を検出する。
【0060】
なお、類似度として、SAD(Sum of Abusolute Difference)や、SSD(Sum of Squared Difference)、NCC(Normalized Cross-Correlation)等の任意の尺度を用いることができる。
【0061】
なお、判定部323による物標の種別判定は、テンプレートマッチング法に限定されるものではない。例えば、判定部323は、2次元周波数スペクトルにおけるピーク分布の距離ビンの範囲と、分布モデルの距離ビンの範囲とを比較して物標の種別を判定してもよい。
【0062】
具体的には、判定部323は、2次元周波数スペクトルにおけるピーク分布の距離ビンの範囲と、分布モデルの距離ビンの範囲との差分が所定値未満である場合に、かかる分布モデルの種別をかかるピーク分布の物標の種別として判定する。
【0063】
また、モデル情報331の分布モデルが機械学習のアルゴリズムであった場合、判定部323は、かかるアルゴリズムに対して2次元周波数スペクトルを入力データとして与えることで、物標の種別を判定してもよい。
【0064】
また、判定部323は、2次元周波数スペクトルに基づいて物標が自車両MCに対して接近か離反かを判定することができる。かかる点について、図6および図7を用いて、説明する。
【0065】
図6および図7は、判定部323の判定処理を示す図である。図6では、隣接レーンの他車両OCである物標が自車両MCを追い越す状況を示している。かかる場合に、判定部323は、物標が自車両MCに対して接近か離反かの判定と、追い越し前か追い越し後かの判定を行うことが可能である。
【0066】
まず、図6を用いて、物標が自車両MCに対して接近か離反かの判定処理について説明する。図6に示すように、物標が自車両MCに対して接近する場合、ピーク分布が負側に速度ビンの範囲を有することとなる。つまり、物標が自車両MCに対して接近する場合、ピーク分布が負側の相対速度方向へ広がることとなる。
【0067】
そこで、判定部323は、ピーク分布の相対速度方向へ広がる特性から接近または離反を判定する。つまり、判定部323は、ピーク分布が負側の相対速度方向へ広がる場合、物標が自車両MCに対して接近すると判定する。一方、判定部323は、ピーク分布が正側の相対速度方向へ広がる場合、物標が自車両MCに対して離反すると判定する。
【0068】
このように、判定部323は、ピーク分布の速度方向への広がる特徴を利用することで、後段の相対速度演算の前に、物標が自車両MCに対して接近か離反かを判定できる。つまり、自車両MCに対して接近する物標等を早期に検出できるため、例えば、車両制御装置2の応答を早めることができる。
【0069】
次に、物標が自車両MCに対して追い越し前か追い越し後かの判定処理について説明する。図6に示すように、物標が自車両MCを追い越す前の場合、ピーク分布が速度方向へ歪む特徴が表れる。図7では、追い越し前および追い越し後における歪む特徴を模式的に示した。
【0070】
図7に示すように、判定部323は、かかる速度方向への歪む特徴を利用して物標が自車両MCに対して追い越し前か追い越し後かを判定する。図7では、追い越し前および追い越し後において、ピーク分布の各距離ビンについて、パワーが最も大きいビンを結んだ線を追い越し前および追い越し後それぞれについて示している。
【0071】
図7に示すように、追い越し前および追い越し後それぞれを表す線は、速度ビンの方向に歪んだ曲線となっている。すなわち、判定部323は、ピーク分布が負側の速度方向へ広がり、かつ、負側の速度方向へ歪んだピーク分布の形状であった場合、物標が自車両MCに対して追い越し前であると判定する。
【0072】
一方、判定部323は、ピーク分布が正側の速度方向へ広がり、かつ、正側の速度方向へ歪んだピーク分布の形状であった場合、物標が自車両MCに対して追い越し後であると判定する。
【0073】
このように、判定部323は、ピーク分布の速度方向への歪みに基づいて追い越し前か追い越し後かを判定できるため、例えば、車両制御装置2により隣接レーンを走行する物標に対して適切に応答することができる。
【0074】
図2に戻ってピーク抽出部324について説明する。ピーク抽出部324は、生成部321によって生成された2次元周波数スペクトルに存在するピーク候補からパワーが閾値以上のピーク候補をピークとしてを抽出する。例えば、ピーク抽出部324は、抽出されるピーク数が規定数を超えた場合、判定部323の判定結果を考慮してもよい。
【0075】
例えば、ピーク抽出部324は、判定部323の判定結果により、種別情報が付与されたピーク候補や、接近すると判定されたピーク候補、追い越し前と判定されたピーク候補を優先的に抽出してもよい。これにより、自車両MCの安全性を高めることができる。
【0076】
演算部325は、ピーク抽出部324によって抽出されたピークに基づいて物標との距離、相対速度および角度(方位)を演算する。
【0077】
具体的には、演算部325は、ピーク抽出部324によって抽出されたピークの距離ビンおよび速度ビンの組み合わせに基づいて物標との距離および相対速度を導出する。
【0078】
また、演算部325は、所定の角度演算処理により物標の角度を推定する。具体的には、演算部325は、4つの受信アンテナ21a~21dの受信信号SRに基づく4つのビート信号SBの周波数スペクトルそれぞれの同一距離ビンのピークの位相の違いにより物標の角度を推定する。なお、同一距離ビンのピークの位相の違いにより、同一距離ビンに複数の物標が存在することが検出された場合、それら複数の物標それぞれについて角度推定を行う。
【0079】
なお、演算部325における角度推定は、例えば、ESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)、DBF(Digital Beam Forming)、または、MUSIC(Multiple Signal Classification)などの所定の推定方式を用いて行われる。
【0080】
出力部326は、車両制御装置2に対して物標情報を出力する。例えば、出力部326は、検出した物標の距離、相対速度および角度を物標情報として車両制御装置2へ出力する。
【0081】
また、出力部326は、判定部323の判定結果を物標情報として出力してもよい。つまり、出力部326は、判定結果である種別情報や、離反・接近、追い越し前・追い越し後等を物標情報として出力する。
【0082】
次に、図8を用いて実施形態に係るレーダ装置1が実行する判定処理の処理手順について説明する。図8は、レーダ装置1が実行する判定処理の処理手順を示すフローチャートである。
【0083】
まず、図8に示すように、生成部321は、周波数変調された送信波(チャープ波)と、物標による送信波の反射波とを混合して得られるビート信号に対して周波数解析を行うことで、距離方向および相対速度方向に対する2次元周波数スペクトルを生成する(ステップS101)。
【0084】
つづいて、判定部323は、生成された2次元周波数スペクトルのピーク分布と、モデル情報331である分布モデルとを比較する(ステップS102)。
【0085】
判定部323は、比較の結果、ピーク分布と、分布モデルとが類似するか否かを判定する(ステップS103)。判定部323は、分布モデルと類似すると判定した場合(ステップS103,Yes)、ピーク分布が分布モデルに対応する物標の種別であると判定する(ステップS104)。
【0086】
また、判定部323は、ピーク分布が相対速度方向(速度ビンの方向)に広がりを有するか否かを判定する(ステップS105)。判定部323は、ピーク分布が相対速度方向(速度ビンの方向)に広がりを有すると判定した場合(ステップS105,Yes)、かかる広がりが正側の相対速度方向か否かを判定する(ステップS106)。
【0087】
判定部323は、広がりが正側の速度方向であった場合(ステップS106,Yes)、ピーク分布が自車両MCに対して離反する物標であると判定し(ステップS107)、処理を終了する。
【0088】
一方、ステップS103において、判定部323は、ピーク分布と、分布モデルとが類似しない場合(ステップS103,No)、処理を終了する。
【0089】
また、ステップS105において、判定部323は、ピーク分布が速度方向に広がりを有しない場合(ステップS105,No)、物標が自車両MCと等速であると判定し(ステップS109)、処理を終了する。
【0090】
また、ステップS106において、判定部323は、ピーク分布の広がりが負側の相対速度方向であった場合(ステップS106,No)、ピーク分布が自車両MCに対して接近する物標であると判定し(ステップS108)、処理を終了する。
【0091】
上述してきたように、実施形態に係るレーダ装置1は、生成部321と、判定部323とを備える。生成部321は、周波数変調された送信波と、物標による送信波の反射波とを混合して得られるビート信号に対して周波数解析を行うことで、距離方向および相対速度方向に対する2次元周波数スペクトルを生成する。判定部323は、生成部321によって生成された2次元周波数スペクトルにおけるピーク分布の距離方向への広がりに基づいて物標の種別を判定する。これにより、物標の種別を早期に判定できる。
【0092】
なお、上述した実施形態では、送信波SWの複数のチャープ波Chすべては、周波数が連続的に増加する(すなわち、アップチャープ)場合を示したが、例えば、周波数が連続的に減少する(すなわち、ダウンチャープ)チャープ波Chであってもよい。
【0093】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0094】
1 レーダ装置
2 車両制御装置
10 送信部
11 信号生成部
12 発振器
13 送信アンテナ
20 受信部
21,21a~21d 受信アンテナ
22,22a~22d ミキサ
23,23a~23d A/D変換器
30 処理部
31 送信制御部
32 信号処理部
33 記憶部
321 生成部
322 マップ生成部
323 判定部
324 ピーク抽出部
325 演算部
326 出力部
331 モデル情報
100 レーダ装置
MC 車両
P 物標
S レーダシステム
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8