(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】ラップフィルム及びラップフィルム巻回体
(51)【国際特許分類】
B65D 65/02 20060101AFI20221109BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20221109BHJP
B29C 55/12 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
B65D65/02 F
C08J5/18 CER
B29C55/12
(21)【出願番号】P 2018160595
(22)【出願日】2018-08-29
【審査請求日】2021-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2017171085
(32)【優先日】2017-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】広崎 真司
【審査官】宮崎 基樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-168750(JP,A)
【文献】特開2014-125561(JP,A)
【文献】特開2016-161895(JP,A)
【文献】国際公開第2004/020195(WO,A1)
【文献】特公昭39-010519(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 65/02
C08J 5/18
B29C 55/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素透過度が110cm
3/m
2・day・atm at23℃ 以下であり、水蒸気
透過度が20g/m
2・day at38℃,90%RH 以下であ
り、
少なくとも一層の表面に、原子間力顕微鏡の位相像で観察される網目構造を有し、前記網目構造の網目がフィブリルにより構成され、前記網目構造において、観察されるフィブリルの平均幅が1nm以上145nm以下であり、
流れ方向の延伸倍率が3.4~4.0倍であり、かつ、流れ方向に垂直な方向の延伸倍率が5.8~8.5倍であり、
ポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を含む、事を特徴とするラップフィルム。
【請求項2】
結晶長周期が12.5nm以下である、請求項1に記載のラップフィルム。
【請求項3】
フィルムの厚みが5~15μmである、請求項1
又は2に記載のラップフィルム。
【請求項4】
塩化ビニリデン単量体が85~97質量%と、塩化ビニル単量体が15~3質量%と、からなる共重合体を含む、請求項1~
3のいずれか1項に記載のラップフィルム。
【請求項5】
未延伸シートを流れ方向と流れ方向に垂直な方向とに延伸する工程を含み、流れ方向の延伸倍率が4.0以下であり、かつ、流れ方向に垂直な方向の延伸倍率が5.8以上である、請求項1~
4のいずれか1項に記載のラップフィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のラップフィルムが、巻芯に巻きとられた巻回体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラップフィルム及びそれを用いたラップフィルム巻回体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ラップフィルムは、フィルム同士や被着体への密着性、水蒸気や酸素等の気体に対するガスバリア性、化粧箱に入れて使用する際のカット性等の特性に優れているため、食品等のラップフィルムとして多くの一般家庭で使用されている。家庭用ラップフィルムは、主として冷蔵庫や冷凍庫での食品の保存や、電子レンジで容器に盛った食品を加熱する際にオーバーラップして使用されている。
【0003】
この家庭用ラップフィルムとして現在市販されているものの中で、最も使い勝手の良いという評価を受けているものは、ポリ塩化ビニリデン系樹脂を主体としたフィルムである。一方、その他にもポリエチレン系樹脂や、ポリプロピレン系樹脂や、ポリ塩化ビニル系樹脂或いはポリ4-メチルペンテン-1樹脂等を主成分としたフィルムなども市販されているが、いずれもポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムの密着性にはおよばず、ラップ適性の劣るものであり、塩化ビニリデン製のラップが広く普及している。
【0004】
例えば、特許文献1、2には、フィルムの流れ方向に縦裂けしにくい特性に加えて、幅方向にはカットしやすい特性に関する技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、表面のフィブリル構造により密着性や、金属又は金属酸化物を蒸着した際の酸素・水蒸気バリア性を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5501791号公報
【文献】国際公開第2016/189987号パンフレット
【文献】特開平11-077824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
家庭用ラップフィルムのラップ適性には、透明性及びカット性と共に、ハリ・コシ感などが要求されている。また、電子レンジなどでの加熱調理中にも溶融穿孔及び大きな変形あるいは容器への融着やそれ自身の変質が少ない安定性を有すると共に、特にラッピング時のラップ同士及び容器に対する密着性が要求される。さらに、密着性と同時に、それに対し相反する特性である化粧箱内の巻回ラップフィルムを箱の外に引き出すときの引出し性の良さもまた消費者から強く求められている。
【0008】
しかし、特許文献1~3は、いずれも十分なカット時の巻戻り抑制効果、酸素・水バリア性、密着性、及び透明性を兼ねそろえたラップフィルムは達成できていない。
【0009】
本発明はラップ適性の良い新規なラップフィルムであり、カット時の巻戻り抑制効果、酸素・水バリア性が良好であり、使用時の密着性の良好な、透明性を有するラップフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、カット時の巻戻り抑制効果、酸素・水バリア性が良好であり、優れた密着性、透明性を有するという観点から、鋭意検討を加えた結果、酸素透過度及び水蒸気透過度を特定の範囲に制御することにより、上記課題を解決できる事を見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、以下に関する。
(1)
酸素透過度が110cm3/m2・day・atm at23℃ 以下であり、水蒸気透過度が20g/m2・
day at38℃,90%RH 以下である事を特徴とするラップフィルム。
(2)
結晶長周期が12.5nm以下である、上記(1)に記載のラップフィルム。
(3)
少なくとも一層の表面に、原子間力顕微鏡の位相像で観察される網目構造を有し、前記網目構造の網目がフィブリルにより構成され、前記網目構造において、観察されるフィブリルの平均幅が145nm以下である、上記(1)又は(2)に記載のラップフィルム。
(4)
フィルムの厚みが5~15μmである、上記(1)から(3)のいずれかに記載のラップフィルム。
(5)
塩化ビニリデン単量体が85~97質量%と、塩化ビニル単量体が15~3質量%と、からなる共重合体を含む、上記(1)から(4)のいずれかに記載のラップフィルム。
(6)
未延伸シートを流れ方向と流れ方向に垂直な方向とに延伸する工程を含み、流れ方向の延伸倍率が4.0以下であり、かつ、流れ方向に垂直な方向の延伸倍率が5.8以上である、上記(1)から(5)のいずれかに記載のラップフィルムの製造方法。
(7)
上記(1)から(5)のいずれかに記載のラップフィルムが、巻芯に巻きとられた巻回体。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、ラップ適性の良い新規なラップフィルムであり、使用時の密着性の良好な、酸素・水バリア性に優れ、透明性及び巻戻り防止効果を有するラップフィルムを提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】原子間力顕微鏡(AFM)の位相像で観察される網目構造の模式図である。
【
図2】本願の実施例1のラップフィルム表面の原子間力顕微鏡(AFM)の位相像である。
【
図3】本願の比較例1のラップフィルム表面の原子間力顕微鏡(AFM)の位相像である。
【
図4】本実施の形態のラップフィルムの製造方法の一例の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」という。)について以下詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものでなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0014】
本実施の形態のラップフィルムは、酸素透過度が110cm3/m2・day・atm at23℃ 以下であり、水蒸気透過度が20g/m2・day at38℃,90%RH 以下である事を特徴とする。
【0015】
[ラップフィルムの構成成分]
本実施の形態のラップフィルムは高分子を含む構成成分で形成されていることが好ましい。
【0016】
本実施の形態において高分子とは、フィルム形成能のある高分子である。この高分子はフィルム全体の50重量%以上を占める高分子のことを意味する。
【0017】
非晶性の高分子では後述するが密着性の付与に有効な表面網目構造を形成できないので本実施の形態ではフィルムの主体となる高分子としては用いないことが好ましい。
【0018】
ただし、非晶性高分子であっても結晶性高分子が部分的に結晶化できる量であればブレンドして用いることは可能である。さらに、結晶性高分子でも明確な結晶融点を持たないセルロースや芳香族ポリアミドのような水素結合性のポリマーでもよいが、結晶融点が分解温度以上の場合には湿式製膜を試みることになり、溶媒の回収など工程が必要となるので操作的には不利になり、操作性の観点から製造工程での溶融成形が可能である結晶融点が350℃以下のポリマーが好適に用いられる。
【0019】
本実施の形態のラップフィルムを形成する高分子として、好適にはポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂が用いられる。例えばポリオレフィン系樹脂としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリ-4-メチルペンテン-1及びこれらを主体とした共重合体等、ポリエステル系樹脂としてはポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリ-1,4-シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリ乳酸、ポリヒドロキシグリコール酸など、ポリアミド系樹脂としてはナイロン6、ナイロン7、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン46、ナイロン6Tなどを挙げることが出来る。
【0020】
本実施の形態のラップフィルムを形成する高分子として、更に好適にはポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を含む。ポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物は、塩化ビニリデン単量体の単独重合体であってもよいし、塩化ビニリデン単量体とそれと共重合可能な単量体との共重合体であってもよい。本明細書において、ポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムとは、ポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を含むラップフィルムをいう。ポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物は、1種のポリ塩化ビニリデン系樹脂を含むものであってもよいし、2種以上のポリ塩化ビニリデン系樹脂を含むものであってもよい。
【0021】
塩化ビニリデン単量体と共重合可能な単量体としては、特に限定されず、例えば、塩化ビニル、メチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアクリル酸エステル、メチルメタアクリレート、ブチルメタアクリレート等のメタアクリル酸エステル、アクリロニトリル、酢酸ビニル等が挙げられる。これらの中でも、酸素・水バリア性と押出加工性とのバランスがとりやすく、フィルム密着性も優れている観点から、塩化ビニルが好ましい。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
塩化ビニリデン単量体と、上記単量体との共重合体を用いる場合には、結晶性、加工性及びフィルム物性等の観点から、塩化ビニリデン単量体が85~97質量%と、これと共重合可能な単量体が15~3質量%と、からなる共重合体であることが好ましい。塩化ビニリデン単量体比率を85質量%以上とすることで、酸素・水バリア性やフィルムカット性をさらに向上させることができ、塩化ビニリデン単量体比率を97質量%以下とすることで加工性をさらに向上させることができる。単量体比率は、溶媒としてd-THFを用いてFX-270(日本電子社製)により測定した1H-NMRスペクトルの各単量体成分由来のピークの積分比から算出した値である。
【0023】
ポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物の重量平均分子量は、特に限定されないが、好ましくは7万~11万、より好ましくは8万~10万であることが好ましい。ポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物の重量平均分子量を上記した下限値以上とすることでさらに良好なフィルム強度を得ることができ、上記した上限値以下とすることで加工性をさらに向上させることができる。ここで、重量平均分子量は、移動相としてテトラヒドロフランを用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定し、分子量既知のポリスチレンで検量し換算した値である。
【0024】
ポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物には、公知の可塑剤、安定剤等の添加剤を配合することができる。可塑剤としては、特に限定されず、公知のものを用いることもできる。例えば、アセチルトリブチルサイトレート、アセチル化モノグリセライド、ジブチルセバケート等が挙げられる。安定剤としては、特に限定されず、公知のものを用いることもできる。例えば、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油等のエポキシ化植物油等が挙げられる。
【0025】
その他にも、本実施の形態の効果を阻害しない範囲で、食品包装材料に用いられる公知の耐候性向上剤、防曇剤、抗菌剤、ポリエステル等のオリゴマー、MBS(メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン)等のポリマー等を添加してもよい。耐候性向上剤としては、特に限定されず、公知のものを用いることもできる。例えば、2-(2’-ヒドロキシ-3’5’-ジ-tert-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾールといった紫外線吸収剤等が挙げられる。防曇剤としては、特に限定されず、公知のものを用いることもできる。例えば、グリセリン脂肪酸エステルやジグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルといった界面活性剤等が挙げられる。抗菌剤としては、特に限定されず、公知のものを用いることもできる。例えば、グレープフルーツ種子抽出物や孟宗竹抽出物といった天然物系抗菌剤等が挙げられる。
【0026】
本実施の形態のラップフィルムは1層の単独組成である必要は必ずしもなく、多層構造の場合には容器に接触する層が結晶性高分子が主体でAFMの位相像で観察される網目構造を持ち、液状成分を含んでいれば、実用上の密着性は変わりなく、2層以上の多層構造から構成されていてもよい。
【0027】
本実施の形態のラップフィルムは、液状成分を含んでいてもよい。
【0028】
液状成分は、高分子の種類によって好適に用いられる液状成分は各々異なる。そして少なくとも1種類は、フィルムに柔軟性を付与する観点から、例えば、脂肪族炭化水素系の高分子であれば、液状成分中にアルキル基若しくはメチレン連鎖部分を保有するものが好適に用いられるし、エステル系高分子、アミド系高分子ではカルボニル基やエーテル基、水酸基などの水素結合能のある官能基を含むものが好適に用いられる。
【0029】
例えば、アルキル基を持つものとしては、ミネラルオイル、流動パラフィン、飽和炭化水素化合物などが挙げられる。カルボニル基やエーテル基、水酸基などの水素結合能のある官能基を含むものとしては、脂肪族アルコール、脂環式アルコール、これらの多価アルコール、及び上述のアルコール成分と脂肪族又は芳香族(多価)カルボン酸とのエステル、脂肪族ヒドロキシカルボン酸とアルコール及び/又は脂肪酸とのエステル、及びこれらエステルの変性物、及びポリオキシエチレンアルキルエーテル及び又はそのエステルなどを挙げることが出来る。さらに具体的には、例えば、グリセリンやジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン等のポリグリセリン類、及びこれらをアルコール成分の原料とし、酸成分として、脂肪酸、例えばラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸等とのモノ、ジ、トリエステル、ポリエステル等、又はソルビタンと上記脂肪酸とのエステル、又はエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、及びこれらの縮合物と上記脂肪酸とのエステル、又は脂肪族ヒドロキシカルボン酸としてクエン酸、リンゴ酸、酒石酸等と炭素数10以下の低級アルコールとのエステル、又は多価カルボン酸としてマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸等と脂肪族アルコールとのエステル、又はこれらエステルの変性物として、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油等が挙げられる。特に、食品包装用ラップとして使用する場合は、食品衛生法で規定されている食品添加物である液状成分が好適に用いられる。また、耐熱性の観点からは液状成分の沸点は200℃以上のものが好適に用いられる。
【0030】
[ラップフィルムの表面構造]
本実施の形態のラップフィルムは、少なくとも一層の表面に、原子間力顕微鏡(以下「AFM」とも記す)の位相像で観察される網目構造を有することが好ましい。
【0031】
本実施の形態のラップフィルムにおいて、網目構造は、AFMの位相像で観察される網目を構成するフィブリルの平均幅が145nm以下であることが好ましい。フィブリルの平均幅が145nm以下の場合には、フィルム強度が適度となり、カット性が向上する。また、カット性が向上することにより、巻戻りの発生率も低下する。
【0032】
また、フィブリルの平均幅は、1nm以上の場合には網目構造が表面の添加剤を保持するのに十分となり、密着性も適度となり、引出性も向上するため好ましい。実用の使用感から、フィブリルの平均幅は、より好ましくは10nm~145nmである。さらにより好ましくは45nm~145nmである。
【0033】
ここで、AFMの位相像とは、AFMのカンチレバーの刺激に対する位相の情報が画像化されたものである。本実施の形態のラップフィルムにおいて、網目構造は、例えば、フィブリルがカンチレバーの刺激に対する位相の遅れの少ない部分で、孔が位相の遅れの大きい部分であり、
図1に例示したように、暗い部分が孔、明るい部分がフィブリルである。すなわちフィブリルと孔を比較した場合、孔の部分がより非晶的である。
【0034】
なお、本実施の形態において、フィブリルの平均幅は後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0035】
また、本実施の形態のラップフィルムにおいて、表面網目構造の形成方法については種々の形成方法があるが、例えば、網目構造は2軸の延伸過程での配向結晶化によって形成させることが出来る。本実施の形態のラップフィルムにおいて、網目構造を発現させるには2軸延伸を行うことにより上述した網目構造とすることが好ましい。ただし、湿式製膜のような場合は積極的な延伸を行わなくても、緊張下での脱溶媒などの工程があれば、収縮応力によって実質的に延伸されるので、自由収縮を起こさせなければ、積極的な2軸延伸を行わなくともよい。
【0036】
延伸のタイミングであるが、高分子の結晶化速度が速い場合はその高分子を溶融で押出して空冷し、結晶化させながら延伸させてもよいが、結晶化に時間がかかる場合は、溶融状態での延伸では結晶化が追随せず、有効に配向結晶化がおこらず、網目構造が発現しない場合があるので、一旦固体状態にしたのちガラス転移温度以上で延伸するのが好ましい。また、結晶化速度を早くするために適宜核剤を添加してもよい。
【0037】
[ラップフィルムの結晶長周期]
また、本実施の形態のラップフィルムは、結晶長周期が12.5nm以下であることが好ましく、8.2nm~12.5nmがより好ましい。前記結晶長周期が8.2nm以上の場合、カットした際にフィルムが十分な強度を有し、食品包装用の巻回ラップの場合、カットした場合のカット性が向上し、ラップフィルムの巻戻り率も低下する。また、延伸後に発達した結晶構造を形成するために、酸素・水バリア性も向上する。
【0038】
一方、前記結晶長周期が12.5nm以下であると、フィルムが切断しやすくなり、食品包装用の巻回ラップの場合、カットした場合のカット性が向上し、巻戻り率が低下する。また、結晶長周期の間に存在する非晶領域の比率が、過度に高くなることを防ぐことで、結晶と非晶との界面領域におけるボイドの発生を防ぎ、酸素・水バリア性も向上する。前記結晶長周期は、実用の使用感からは、さらに好ましくは9.0nm~12.5nmである。
【0039】
なお、本実施の形態において、結晶長周期は後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0040】
[酸素・水バリア性の評価]
一般に、ラップには鮮度保持のため、酸素バリア性、水バリア性が求められる。本実施の形態ラップフィルムは、酸素透過度X(cm3/m2・day・atm at23℃)が1≦X≦110の範囲であることが好ましい。酸素透過度が1≦X≦110の範囲であると、酸素バリア性が十分であり、食品の鮮度が十分に保持される。X<1では十分な鮮度保持性能を発現し難い場合があり、X>110では十分なバリア性を発現し難い傾向にある。実用の使用感からさらに好ましくは1≦X≦77であり、より好ましくは、1≦X≦50である。また、本実施の形態ラップフィルムは、水蒸気透過度Y(g/m2・day at38℃,90%RH)が1≦Y≦20の範囲であることが好ましい。水蒸気透過度が1≦Y≦20の範囲であると、水蒸気バリア性が十分であり、食品の鮮度が十分に保持される。Y<1では十分な鮮度保持性能を発現し難い場合があり、Y>20では十分なバリア性を発現し難い傾向にある。実用の使用感からさらに好ましくは1≦Y≦18であり、より好ましくは、1≦Y≦10である。
【0041】
酸素透過度、並びに水蒸気透過度を上記範囲に制御する方法としては、特に限定されないが、例えば、延伸倍率を流れ方向:4.0以下(好ましくは3.8以下)、流れ方向に垂直な方向:5.8以上にコントロールするか、ガラス転移温度の低い高分子を用いるか、適宜核剤を添加する方法が挙げられる。
【0042】
なお、本実施の形態において、酸素透過度及び水蒸気透過度は後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0043】
[ラップフィルムの製造方法]
次に、本実施の形態のラップフィルムの製造方法の一例について説明する。ポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を含むラップフィルムの製造方法は、種々の方法を採用することができるが、通常、インフレーション製膜法が採用されている。すなわち、本実施の形態によれば、インフレーション成形によって得られるラップフィルムとすることができる。より好ましくは、本実施の形態のラップフィルムは、上記したポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を、少なくともMD方向に延伸してインフレーション成形することによって得られるポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムである。インフレーション製膜法では、例えば、ポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を円形ダイから管状に溶融押出した後、管状の樹脂の外側を冷水槽と呼ばれる貯槽に満たされた冷水等の冷媒に接触させる。その際、ダイ口とピンチロールとに挟まれた管状(筒状)の樹脂の内部に冷媒を注入し貯留した状態で、その内側をミネラルオイル等の冷媒と接触させることにより固化させてフィルムに成形する。本明細書において、このダイ口とピンチロールとに挟まれた筒状の樹脂の部分(押出物)を「ソック」という。このソックの内部に注入する冷媒(液体)を「ソック液」という。また、ソックは上記ピンチロール等で折り畳まれ、管状のダブルプライフィルムを形成するが、このダブルプライフィルムを「パリソン」と称する。
【0044】
以下、インフレーション製膜法についてより具体的に説明する。
図4は、本実施の形態のラップフィルムの製造方法の一例の概念図である。
【0045】
まず、押出工程において、溶融したポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物が押出機(1)により、円形ダイ(2)のダイ口(3)から管状に押出され、ソック(管状のポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物)(4)が形成される。
【0046】
次に、冷却固化工程において、押出物であるソック(4)の外側を冷水槽(6)にて冷水に接触させ、ソック(4)の内部にはソック液(5)を常法により注入して貯留することにより、ソック(4)を内外から冷却して固化させる。この際、ソック(4)はその内側にソック液(5)が塗布された状態となる。固化されたソック(4)は、第1ピンチロール(7)にて折り畳まれ、ダブルプライシートであるパリソン(8)が成形される。ソック液の塗布量は第1ピンチロール(7)のピンチ圧により制御される。
【0047】
ソック液には、水、ミネラルオイル、アルコール類、プロピレングリコールやグリセリン等の多価アルコール類、セルロース系やポリビニルアルコール系の水溶液等を用いることができる。これらは単体で使用しても、2種類以上を併用してもよい。また、ソック液には、本実施の形態の効果を阻害しない範囲で、食品包装材料に用いられる上記した耐候性向上剤、防曇剤、抗菌剤等を添加してもよい。
【0048】
ソック液の塗布量は、特に限定されないが、パリソンの開口性、フィルムの密着性の観点から、好ましくは50~20000ppm、より好ましくは100~15000ppm、更に好ましくは150~10000ppmである。ここで、塗布量(ppm)とは、ソックの合計質量に対して、ソックに塗布されたソック液の質量を、質量ppmで示したものである。
【0049】
続いて、パリソン(8)の内側にエアーを注入することにより、再度パリソン(8)は開口されて管状となる。パリソン(8)は、温水(図示せず)により延伸に適した温度まで再加熱される。パリソン(8)の外側に付着した温水は、第2ピンチロール(9)にて搾り取られる。次いで、インフレーション工程において、適温まで加熱された管状のパリソン(8)にエアーを注入してインフレーション延伸によりバブル(10)を成形し、延伸フィルムが得られる。
【0050】
ラップフィルムの結晶長周期は延伸倍率、ラップフィルムを構成する高分子の結晶性によってコントロールでき、未延伸シートを流れ方向(MD方向)と流れ方向に垂直な方向(TD方向)とに延伸する工程を含み、TD方向への延伸倍率が、MD方向への延伸倍率と比較して大きくなるほど結晶長周期は大きくなる傾向にあり、高分子の結晶性が高くなるほど結晶長周期が大きくなる傾向にある。
【0051】
本実施の形態のラップフィルムの製造方法において、未延伸シートを流れ方向と流れ方向に垂直な方向とに延伸する工程を含むことが好ましく、この場合、TD方向の延伸倍率は5.8倍以上、かつMD方向の延伸倍率は4.0倍以下が好ましく、成膜性の観点から、MD方向の延伸倍率が3.4倍より大きく、3.8倍以下がより好ましい。TD方向の延伸倍率の上限は特に限定されないが、例えば、8.5倍以下である。
【0052】
延伸倍率の制御方法としては、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。例えば、再加熱用の温水温度を変更することで延伸温度を制御する方法等が挙げられる。延伸倍率を下げるためには、延伸温度が低いほど、延伸倍率が低い状態でインフレーションバブルが安定するため好ましい。その際、延伸温度はインフレーションバブルの安定性の観点から、延伸室温よりも高いことが好ましい。延伸温度はより好ましくは34℃以下であり、更により好ましくは25℃~34℃である。また、延伸温度は、MD方向、及び、TD方向へ延伸が完了した点と、巻き取りが開始する点との、MD方向における距離の中間の点における温度を測定する。
【0053】
その後、延伸フィルムは、第3ピンチロール(11)で折り畳まれ、ダブルプライフィルム(12)となる。ダブルプライフィルム(12)は、巻取りロール(13)にて巻き取られる。さらに、このフィルムはスリットされて、1枚のフィルムになるように剥がされる(シングル剥ぎ)。最終的にこのフィルムは紙管等の巻芯に巻き取られ、紙管巻きのラップフィルム巻回体が得られる。
【0054】
結晶長周期は延伸倍率だけでなく、熱履歴にも影響される。ラップフィルムが熱履歴を受けると結晶長周期は低下し、引裂強度が低下する傾向にある。そのため、ラップフィルムが過度の熱履歴を受けないようにすることが好ましい。例えば、エージング処理を行う場合だけでなく、夏場にラップフィルムを搬送する場合や、家庭での使用時にラップフィルムをコンロ等の熱源近傍に置く場合等のような種々の環境下においてもフィルムが高い熱履歴を受けないようにすることが好ましく、これにより結晶長周期が低くなりすぎることを防ぎ、フィルムが裂けやすくなることを防止できる。
【0055】
上記した説明は、本実施の形態のラップフィルムの製造方法の一例であり、上記した以外の各種装置構成や条件等によって行ってもよく、例えば、公知の他の方法を採用してもよい。
【0056】
[巻回体]
本実施の形態のラップフィルムは、種々の形態で使用することができ、例えば、ロール状のポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムとすることができる。ロール状のラップフィルムとした場合、巻芯があってもよいし、巻芯がなくてもよい。
【0057】
巻芯に巻きつける形態とする場合、例えば、円筒状の巻芯と、前記巻芯に巻きとられた本実施の形態のポリ塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムと、を備えるラップフィルム巻回体とすることができる。巻回体とは、ラップフィルムを巻芯等に巻取るなどして巻物の形状であるものをいう。
【0058】
ロール状のラップフィルム等の使用時に発生する巻戻りトラブルは、本実施の形態のラップフィルムでは効果的に抑制できる。巻芯の材質や大きさ等は特に限定されず、紙管等の公知の巻芯を用いることができる。さらに、ラップフィルムがロール状であれば巻芯はあってもなくてもよい。本実施の形態のラップフィルム巻回体は、ラップフィルムを切断する切断刃を有する化粧箱に格納して使用することができる。
【0059】
[ラップフィルムの厚み]
本実施の形態のラップフィルムの厚みは、特に限定されないが、使用感及び光学特性の観点から、5~30μmが好ましく、5~15μmがより好ましい。
【0060】
[密着性の評価]
次に、本実施の形態のラップフィルムは密着仕事量X(mJ/25cm2)が1≦X≦2.5の範囲であることが好ましい。1≦Xであると、ラップフィルムは充分な密着性を発現する傾向にある。また、X≦2.5であると、ラップフィルムの剥離が容易となりいわゆる過剰密着を抑制でき、食品包装用の巻回ラップの場合は引き出しが容易となる傾向にある。実用の使用感からはさらに好ましくは1.5≦X≦2.4であり、よりさらに好ましくは1.8≦X≦2.3である。
【0061】
なお、本実施の形態において、密着仕事量は後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。また、AFMによるラップフィルム表面網目構造の観察、ラップフィルムの結晶長周期、ラップフィルムの引裂強度、巻戻り率、密着性、透明性、の評価には以下の測定方法を使用した。
【0063】
(1)AFM測定
フィルムをSiウエハに貼付け固定し、表面をブルカー社製Dimension IconにてTappingモードで位相像を観察した。測定にはSi単結晶のカンチレバー(ばね定数 カタログ値 40N/m)を用い、Scan rateが0.5-2Hz、Scansizeが1μm×1μmで、サンプリング点数512×256若しくは512×512の条件で実施した。フィルムによってカンチレバーの触圧をコントロールしたが、target amplitudeが400mVの場合はSet Pointが240-320mV、target amplitudeが800mVの場合はSet Pointが450-500mVの範囲であった。フィブリルの幅(フィブリル径)計測の際は各位相像について1画像を4分割し、各領域毎に典型的と思われるフィブリルを5箇所選択し、特にフィブリル径が大きかったもの計5箇所の平均値をフィブリルの平均幅として採用した。
【0064】
(2)結晶長周期測定
結晶長周期は、以下の装置、条件で小角X線散乱(SAXS)測定をして求めた。
装置 (株)リガク製 NANOPIX
X線入射方向 フィルム法線方向
X線波長 0.154nm
光学系 ポイントコリメーション
(1st:0.55mmΦ、2nd:Open、guard:0.35mmΦ)
検出器 HyPix-6000(2次元検出器)
カメラ長 SAXS:1113mm
露光時間 比較例5~8、10、12 :10分/1試料
実施例1~9、比較例1~4、9、11:1時間/1試料
HyPix-6000から得られたX線散乱パターンに対して検出器のバックグラウンド補正、空セル散乱補正を行った。その後、円環平均を行い、SAXSプロフィールI(q)を得た。さらに、SAXSプロフィールI(q)に対して、q2をかけるローレンツ補正を行った。ローレンツ補正済みのSAXSプロフィールの結晶長周期由来のピークの散乱ベクトルの大きさを(式1)からブラッグ角θを算出し、これをブラッグの式(式2)に代入し、結晶長周期dを算出した。
【0065】
q=4π sinθ/λ 式(1)
θ:ブラッグ角
q:散乱ベクトルの大きさ
λ:X線波長
【0066】
2d sinθ=λ 式(2)
d:結晶長周期
θ:ブラッグ角
λ:X線波長
【0067】
(3)引裂強度
ASTM-D-1992に準拠して測定した。測定は23℃、50%RHの雰囲気中で行った。軽荷重引裂試験機(東洋精機製)を用いて、MD方向とTD方向の引裂強度を測定した(単位:cN)。
【0068】
(4)巻戻り率
市販のラップフィルムの化粧箱(旭化成ホームプロダクツ社製、商品名サランラップ(登録商標)の化粧箱、30cm×20m)を使用し、カットテストを行った。テストは23℃、50%RHの雰囲気中で行った。化粧箱の開度を30°に固定してフィルムのカットを行い、カット後のフィルムを引き出す際にフィルムの巻戻りが発生する確率(%)を算出した。N数は500回で行った(単位:%)。
【0069】
(5)酸素透過度
MOCON社製 OX TRAN 2/21MH<商品名>を用い、測定法はASTM D3985に従って酸素透過度を測定した。サンプルを装置にセットして4時間後の値を採用した。測定は23℃の条件下で行った。酸素透過度が小さいほど酸素バリア性が高い。
【0070】
(6)水蒸気透過度
MOCON社製 PERMATRAN W-398<商品名>を用い、測定法はASTM F1249に従って水蒸気透過度を測定した。サンプルを装置にセットして3時間後の値を採用した。測定は38℃、90%RHの条件下で行った。水蒸気透過度が小さいほど水バリア性が高い。
【0071】
(7)密着性
ラップフィルムを家庭で使用することを想定し、ラップフィルム同士の密着性を評価した。測定は23℃、50%RHの雰囲気中で行った。まず底面積25cm2、高さ55mm、重さ400gのアルミ製の治具を2個用意し、双方の治具の底面に底面積と同面積の濾紙を貼り付けた。双方の治具の濾紙を貼り付けた底面に皺が入らないようにラップフィルムを被せて輪ゴムで抑えて固定した。ラップフィルムを被せた側の底面が重なり合うように2個の治具を合わせて、荷重500gで1分間圧着した。次いで、引張圧縮試験機(島津製作所製)にて5mm/分の速度で双方のラップフィルム面を相互に面に垂直に引き剥したときに必要な仕事量を測定した(単位:mJ/25cm2)。
【0072】
(8)ヘイズ
JIS-K-7136に準拠して測定した。測定は23℃、50%RHの雰囲気中で行った。濁度計(日本電色社製)を用いて、ヘイズを測定した(単位:%)。
【0073】
[実施例1]
重量平均分子量が9万である塩化ビニリデン(VDC)/塩化ビニル(VC)=88/12(質量比)のポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を170℃の温度で溶融させ、溶融押出機にて溶融押出し、得られたパリソンを、インフレーション延伸して筒状フィルムとした。重量平均分子量は、移動相としてテトラヒドロフランを用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定し、分子量既知のポリスチレンで検量し換算した値である。
このとき、MD方向の延伸倍率を3.7倍とし、TD方向の延伸倍率を5.8倍にした。また、延伸温度は25℃にした。この筒状フィルムを折り畳み、巻き取った後、300mm幅にスリットし、1枚のフィルムになるように剥がしながら、外径36.6mm、長さ305mmの紙管に20m巻取り、厚み約10μmの紙管巻きラップフィルムを製造した。
得られたフィルムのAFM測定、SAXS測定、引裂強度、巻戻り率、酸素透過度、水蒸気透過度、密着性、透明性について評価した結果を表1に示す。
【0074】
[実施例2]
塩化ビニリデン(VDC)/塩化ビニル(VC)=88/12(質量比)のポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を170℃の温度で溶融させ、溶融押出機にて溶融押出し、得られたパリソンを、インフレーション延伸して筒状フィルムとした。
MD方向の延伸倍率を3.6倍、TD方向の延伸倍率を6.1倍にした。また、延伸温度は34℃とした。それ以外は実施例1に準じた操作で厚み約10μmの紙管巻きラップフィルムを製造した。
得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0075】
[実施例3]
塩化ビニリデン(VDC)/塩化ビニル(VC)=88/12(質量比)のポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を170℃の温度で溶融させ、溶融押出機にて溶融押出し、得られたパリソンを、インフレーション延伸して筒状フィルムとした。
MD方向の延伸倍率を3.5倍、TD方向の延伸倍率を6.2倍にした。また、延伸温度は31℃とした。それ以外は実施例1に準じた操作で厚み約10μmの紙管巻きラップフィルムを製造した。
得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0076】
[実施例4]
主体となる結晶性高分子(ポリ乳酸 85重量部)に液状成分(グリセリンジアセテートモノラウレート 15重量部)を220℃の温度で混合溶融させ、溶融押出機にて溶融押出し、得られたパリソンを、インフレーション延伸して筒状フィルムとした。
MD方向の延伸倍率を3.6倍、TD方向の延伸倍率を5.9倍にした。また、延伸温度は26℃とした。それ以外は実施例1に準じた操作で厚み約10μmの紙管巻きラップフィルムを製造した。
得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0077】
[実施例5]
塩化ビニリデン(VDC)/塩化ビニル(VC)=88/12(質量比)のポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を170℃の温度で溶融させ、溶融押出機にて溶融押出し、得られたパリソンを、インフレーション延伸して筒状フィルムとした。
MD方向の延伸倍率を3.4倍、TD方向の延伸倍率を5.8倍にした。また、延伸温度は25℃とした。それ以外は実施例1に準じた操作で厚み約10μmの紙管巻きラップフィルムを製造した。
得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0078】
[実施例6]
塩化ビニリデン(VDC)/塩化ビニル(VC)=88/12(質量比)のポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を170℃の温度で溶融させ、溶融押出機にて溶融押出し、得られたパリソンを、インフレーション延伸して筒状フィルムとした。
MD方向の延伸倍率を3.5倍、TD方向の延伸倍率を5.8倍にした。また、延伸温度は25℃とした。それ以外は実施例1に準じた操作で厚み約10μmの紙管巻きラップフィルムを製造した。
得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0079】
[実施例7]
塩化ビニリデン(VDC)/塩化ビニル(VC)=88/12(質量比)のポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を170℃の温度で溶融させ、溶融押出機にて溶融押出し、得られたパリソンを、インフレーション延伸して筒状フィルムとした。
MD方向の延伸倍率を3.8倍、TD方向の延伸倍率を7.6倍にした。また、延伸温度は33℃とした。それ以外は実施例1に準じた操作で厚み約10μmの紙管巻きラップフィルムを製造した。
得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0080】
[実施例8]
主体となる結晶性高分子(ナイロン66 80重量部)に液状成分(グリセリントリアセテート 15重量部)やその他添加剤(エポキシ化亜麻仁油 3重量部、ミネラルオイル 2重量部)を280℃の温度で混合溶融させ、溶融押出機にて溶融押出し、得られたパリソンを、インフレーション延伸して筒状フィルムとした。
MD方向の延伸倍率を3.7倍、TD方向の延伸倍率を8.1倍にした。また、延伸温度は34℃とした。それ以外は実施例1に準じた操作で厚み約10μmの紙管巻きラップフィルムを製造した。
得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0081】
[実施例9]
主体となる結晶性高分子(ポリプロピレン80重量部)に液状成分(ミネラルオイル10重量部)やその他添加剤(マルカレッツ(登録商標)○R5重量部、タフテック(登録商標)○R5重量部)を200℃の温度で混合溶融させ、溶融押出機にて溶融押出し、得られたパリソンを、インフレーション延伸して筒状フィルムとした。
MD方向の延伸倍率を3.6倍、TD方向の延伸倍率を6.8倍にした。また、延伸温度は29℃とした。それ以外は実施例1に準じた操作で厚み約10μmの紙管巻きラップフィルムを製造した。
得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0082】
[比較例1]
塩化ビニリデン(VDC)/塩化ビニル(VC)=91/9(質量比)のポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を170℃の温度で溶融させ、溶融押出機にて溶融押出し、得られたパリソンを、インフレーション延伸して筒状フィルムとした。
MD方向の延伸倍率を3.7倍、TD方向の延伸倍率を4.3倍にした。それ以外は実施例1に準じた操作で厚み約10μmの紙管巻きラップフィルムを製造した。
得られたフィルムの評価結果を表2に示す。
【0083】
[比較例2]
塩化ビニリデン(VDC)/塩化ビニル(VC)=88/12(質量比)のポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を溶170℃の温度で溶融させ、溶融押出機にて溶融押出し、得られたパリソンを、インフレーション延伸して筒状フィルムとした。MD方向の延伸倍率を5.0倍、TD方向の延伸倍率を6.0倍にした。それ以外は実施例1に準じた操作で厚み約10μmの紙管巻きラップフィルムを製造した。
得られたフィルムの評価結果を表2に示す。
【0084】
[比較例3]
ポリエチレンを170℃の温度で溶融させ、溶融押出機にて溶融押出し、得られたパリソンを、インフレーション延伸して筒状フィルムとした。MD方向の延伸倍率を5.0倍、TD方向の延伸倍率を5.0倍にした。それ以外は実施例1に準じた操作で厚み約10μmの紙管巻きラップフィルムを製造した。
得られたフィルムの評価結果を表2に示す。
【0085】
[比較例4]
主体となる結晶性高分子(ポリプロピレン80重量部)に液状成分(ミネラルオイル10重量部)やその他添加剤(マルカレッツ(登録商標)○R5重量部、タフテック(登録商標)○R5重量部)を200℃の温度で混合溶融させ、スリット幅が20mm×0.5mmTダイ装着した押出機より押出し、水で急冷し、フィルム上シートを形成させた。
ついでこの原反を140℃にセットした加熱ゾーンを通しながら、ストレッチャーで2.0×2.0倍に逐次2軸延伸を施し巻き取った。それ以外は実施例1に準じた操作で厚み約10μmの紙管巻きラップフィルムを製造した。
得られたフィルムの評価結果を表2に示す。
【0086】
[比較例5]
塩化ビニリデン(VDC)/塩化ビニル(VC)=88/12(質量比)のポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を170℃の温度で混合溶融させ、スリット幅が20mm×0.5mmTダイ装着した押出機より押出し、水で急冷し、フィルム上シートを形成させた。
ついでこの原反を140℃にセットした加熱ゾーンを通しながら、ストレッチャーで1.0×8.6倍に逐次2軸延伸を施し巻き取った。それ以外は実施例1に準じた操作で厚み約10μmの紙管巻きラップフィルムを製造した。
得られたフィルムの評価結果を表2に示す。
【0087】
[比較例6]
塩化ビニリデン(VDC)/塩化ビニル(VC)=88/12(質量比)のポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を170℃の温度で混合溶融させ、スリット幅が20mm×0.5mmTダイ装着した押出機より押出し、水で急冷し、フィルム上シートを形成させた。
ついでこの原反を38℃にセットした加熱ゾーンを通しながら、ストレッチャーで4.3×1.0倍に逐次2軸延伸を施し巻き取った。それ以外は実施例1に準じた操作で厚み約10μmの紙管巻きラップフィルムを製造した。
得られたフィルムの評価結果を表2に示す。
【0088】
[比較例7]
塩化ビニリデン(VDC)/塩化ビニル(VC)=88/12(質量比)のポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を170℃の温度で混合溶融させ、スリット幅が20mm×0.5mmTダイ装着した押出機より押出し、水で急冷し、フィルム上シートを形成させた。
ついでこの原反を39℃にセットした加熱ゾーンを通しながら、ストレッチャーで5.3×1.0倍に逐次2軸延伸を施し巻き取った。それ以外は実施例1に準じた操作で厚み約10μmの紙管巻きラップフィルムを製造した。
得られたフィルムの評価結果を表2に示す。
【0089】
[比較例8]
塩化ビニリデン(VDC)/塩化ビニル(VC)=88/12(質量比)のポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を170℃の温度で混合溶融させ、スリット幅が20mm×0.5mmTダイ装着した押出機より押出し、水で急冷し、フィルム上シートを形成させた。
ついでこの原反を40℃にセットした加熱ゾーンを通しながら、ストレッチャーで6.3×1.0倍に逐次2軸延伸を施し巻き取った。それ以外は実施例1に準じた操作で厚み約10μmの紙管巻きラップフィルムを製造した。
得られたフィルムの評価結果を表2に示す。
【0090】
[比較例9]
塩化ビニリデン(VDC)/塩化ビニル(VC)=88/12(質量比)のポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を170℃の温度で混合溶融させ、スリット幅が20mm×0.5mmTダイ装着した押出機より押出し、水で急冷し、フィルム上シートを形成させた。
ついでこの原反を42℃にセットした加熱ゾーンを通しながら、ストレッチャーで8.0×1.0倍に逐次2軸延伸を施し巻き取った。それ以外は実施例1に準じた操作で厚み約10μmの紙管巻きラップフィルムを製造した。
得られたフィルムの評価結果を表2に示す。
【0091】
[比較例10]
塩化ビニリデン(VDC)/塩化ビニル(VC)=88/12(質量比)のポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を170℃の温度で混合溶融させ、スリット幅が20mm×0.5mmTダイ装着した押出機より押出し、水で急冷し、フィルム上シートを形成させた。
ついでこの原反を49℃にセットした加熱ゾーンを通しながら、ストレッチャーで3.5×10.0倍に逐次2軸延伸を施し巻き取った。それ以外は実施例1に準じた操作で厚み約10μmの紙管巻きラップフィルムを製造した。
得られたフィルムの評価結果を表2に示す。
【0092】
[比較例11]
塩化ビニリデン(VDC)/塩化ビニル(VC)=88/12(質量比)のポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を170℃の温度で混合溶融させ、スリット幅が20mm×0.5mmTダイ装着した押出機より押出し、水で急冷し、フィルム上シートを形成させた。
ついでこの原反を49℃にセットした加熱ゾーンを通しながら、ストレッチャーで5.0×7.0倍に逐次2軸延伸を施し巻き取った。それ以外は実施例1に準じた操作で厚み約10μmの紙管巻きラップフィルムを製造した。
得られたフィルムの評価結果を表2に示す。
【0093】
[比較例12]
塩化ビニリデン(VDC)/塩化ビニル(VC)=88/12(質量比)のポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を170℃の温度で混合溶融させ、スリット幅が20mm×0.5mmTダイ装着した押出機より押出し、水で急冷し、フィルム上シートを形成させた。
ついでこの原反を53℃にセットした加熱ゾーンを通しながら、ストレッチャーで5.0×10.0倍に逐次2軸延伸を施し巻き取った。それ以外は実施例1に準じた操作で厚み約10μmの紙管巻きラップフィルムを製造した。
得られたフィルムの評価結果を表2に示す。
【0094】
【0095】
【0096】
図2に実施例1で得られたフィルム表面のAFMの位相像を示すが、均一な網目構造が観察された。実施例2,3,4,5,6,7,8,9、比較例4,9,10,11,12でも網目構造は観察された。実施例では、酸素透過度、及び、水蒸気透過度が特定の範囲であるので表1の評価に示すとおり所望の効果が得られた。しかしながら、比較例1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11及び12では酸素透過度、及び、水蒸気透過度が特定の範囲ではないので、表2の評価に示すとおり所望の効果が得られなかった。比較例1のフィルム表面のAFMの位相像を
図3に示す。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明に係るラップフィルムは、カット時の巻戻り抑制効果、酸素・水バリア性が良好であり、使用時の密着性の良好な、透明性を有するラップフィルムであるため、食品包装用をはじめとする種々の包装用ラップフィルムとして好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0098】
1 押出機
2 円形ダイ
3 ダイ口
4 管状の塩化ビニリデン系樹脂組成物(ソック)
5 ソック液
6 冷水槽
7 第1ピンチロール
8 パリソン
9 第2ピンチロール
10 バブル
11 第3ピンチロール
12 ダブルプライフィルム
13 巻取りロール
14 孔
15 フィブリル