(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】眼鏡レンズの製造装置および製造方法
(51)【国際特許分類】
B24B 13/00 20060101AFI20221109BHJP
B24B 41/06 20120101ALI20221109BHJP
G02C 7/02 20060101ALI20221109BHJP
B24B 9/00 20060101ALN20221109BHJP
【FI】
B24B13/00 C
B24B41/06 Z
G02C7/02
B24B9/00 601G
(21)【出願番号】P 2018202962
(22)【出願日】2018-10-29
【審査請求日】2021-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】清水 浩
(72)【発明者】
【氏名】寒川 正彦
(72)【発明者】
【氏名】砂川 由基明
【審査官】大光 太朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-255956(JP,A)
【文献】特開2005-202129(JP,A)
【文献】特開平07-156052(JP,A)
【文献】米国特許第04158273(US,A)
【文献】特開平04-146983(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0166609(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 13/00
B24B 41/06
B24B 9/00
G02C 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低融点金属部材であるアロイと、前記アロイに固着する光学面を有するレンズ素材と、前記アロイを挟んで前記レンズ素材とは反対側にて前記アロイと固着する保持具と、を備えたレンズ素材付き保持具を保持する保持具ホルダと、
前記レンズ素材の厚さ方向を回転軸として前記保持具ホルダを回転させる保持具ホルダ駆動部と、
前記レンズ素材付き保持具が前記保持具ホルダ駆動部により回転しながらアロイ溶解部に接触したときに、
前記レンズ素材を平面視した際に前記レンズ素材よりも外方にはみ出たアロイであるアロイ外縁に追従して位置変動しつつ前記アロイを溶解させる前記アロイ溶解部と、
を備えた、眼鏡レンズの製造装置。
【請求項2】
前記アロイ溶解部は、前記保持具ホルダにて保持された前記レンズ素材付き保持具の前記レンズ素材の厚さ方向に長尺であって、前記アロイを溶解する液体を供給する複数の開口を有する管を備えた第1液体供給機構である、請求項1に記載の眼鏡レンズの製造装置。
【請求項3】
天地の天の方向を上方、地の方向を下方としたとき、
前記眼鏡レンズの製造装置は、前記第1液体供給機構の上方に第2液体供給機構を更に備え、
前記第2液体供給機構は、前記保持具ホルダに対向する方向から前記レンズ素材に向かって液体を供給する、請求項2に記載の眼鏡レンズの製造装置。
【請求項4】
前記アロイ溶解部の前記位置変動は等荷重バネにより実現される、請求項1~3のいずれかに記載の眼鏡レンズの製造装置。
【請求項5】
低融点金属部材であるアロイと、前記アロイに固着する光学面を有するレンズ素材と、前記アロイを挟んで前記レンズ素材とは反対側にて前記アロイと固着する保持具と、を備えたレンズ素材付き保持具を保持する保持具ホルダを、前記レンズ素材の厚さ方向を回転軸として回転させる回転工程と、
前記レンズ素材付き保持具が回転しながらアロイ溶解部に接触したときに、前記アロイ溶解部が
、前記レンズ素材を平面視した際に前記レンズ素材よりも外方にはみ出たアロイであるアロイ外縁に追従して位置変動しつつ前記アロイを溶解させるアロイ溶解工程と、
を有する、眼鏡レンズの製造方法。
【請求項6】
前記アロイ溶解部は、前記保持具ホルダにて保持された前記レンズ素材付き保持具の前記レンズ素材の厚さ方向に長尺であって、前記アロイを溶解する液体を供給する複数の開口を有する管を備えた第1液体供給機構であり、
前記第1液体供給機構から供給される液体は60℃以上の湯である、請求項5に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズの製造装置および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズの製造工程には、眼鏡レンズの切削工程および研磨工程が含まれる。この眼鏡レンズは、詳しく言うと両面のうち一面を光学的に仕上げたセミフィニッシュトレンズ(semi-finished lens)でありレンズ素材とも称する。切削工程および研磨工程は共に眼鏡レンズの加工装置により行われる場合が多い。この眼鏡レンズを保持具にて保持する。次に、この保持具を前記加工装置に設置する。そして、この眼鏡レンズに対して切削工程および研磨工程の少なくともいずれか(以降、加工工程または単に加工と称する。)を行う。
【0003】
前記保持具は、例えば特許文献1の
図1等に示すように、眼鏡レンズの加工装置に設置される土台と低融点金属部材とを備えている。この低融点金属部材は、土台に固着し、且つ眼鏡レンズの光学面に倣った形状を有し、且つ土台よりも融点が低い。以降、前記土台のことをヤトイ(fixture)と称する。また、前記低融点金属部材は、好ましくは低融点合金からなるためアロイ(alloy)と称する。保持具が加工装置に設置される際には、アロイにおける眼鏡レンズの光学面に倣った形状と、加工工程前の眼鏡レンズ(セミフィニッシュトレンズ)の光学面とが、保護フィルムを介して固着している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
中心厚を極力薄くした眼鏡レンズやプリズム付きの眼鏡レンズ等を作製する場合、仕様(処方)によっては、セミフィニッシュトレンズ(レンズ素材)の段階において円形ではない形状となるものがある。このようなレンズ素材のことをメッツ品とも称する。
【0006】
図1は、レンズ素材がアロイの外縁よりも外方に延出しないレンズ素材付き保持具の概略側断面図である。レンズ素材の符号は100、保護フィルムの符号は101、アロイの符号は102、保持具の符号は104、レンズ素材付き保持具の符号はLである。以降、これらの符号は省略することもある。この保持具は先に挙げたヤトイとも呼ばれ、土台の役割を担う。つまり、前記アロイはヤトイとレンズ素材との間に挟まれて接着剤の役割を果たす。
【0007】
図1に示すメッツ品すなわちレンズ素材だと、平面視でのアロイとの境界部分の形状が鋭角を有している。このレンズ素材の形状のことをナイフエッジとも言う。
【0008】
通常、レンズ素材は平面視円形である。また、通常、レンズ素材は平面視にてアロイよりも大きな径を有する。その一方、平面視にて円形ではないメッツ品であるレンズ素材をアロイに固着すると、
図1に示すようにレンズ素材の外縁からアロイがはみ出る(延出する)。この状態で研削加工(CG加工)を行うと、レンズ素材を固定しているアロイも研削されることになる。そうなると、平面視にて、レンズ素材の研削面の延長上にアロイの面が現れることになる。
【0009】
研削加工後、平面視においてレンズ素材の外縁からアロイがはみ出ていると、その後の研磨加工の際、アロイが研磨パッドに付着するおそれがある。そうなると、研磨加工の際にアロイの削り滓が生じ、この削り滓がレンズ素材に傷を付けるおそれがある。
【0010】
本発明の一実施例は、低融点金属部材(アロイ)の削り滓の発生を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記目的を達成するために案出されたものである。具体的には、装置構成の一部としてアロイ溶解部を設ける。そして、レンズ素材付き保持具をレンズ素材の側から見た時に、アロイがレンズ素材の外縁よりも外方に延出した状態を仮定する。そして、このレンズ素材付き保持具を回転させながら、レンズ素材と固着したアロイをアロイ溶解部に接触させ、アロイを溶解する。その際に、アロイ溶解部の位置を、接触するアロイ外縁の回転軌道に倣って変動可能とする。しかも、アロイ溶解部はアロイ外縁に追従して位置変動するよう設定する。これにより、最終的にはレンズ素材の外縁輪郭に沿うまでアロイが溶解される。つまり、アロイがレンズ素材の外縁よりも外方に延出した部分を削ることなく溶解可能となる。以上の知見に基づき、以下の態様が案出された。
【0012】
本発明の第1の態様は、
低融点金属部材であるアロイと、前記アロイに固着する光学面を有するレンズ素材と、前記アロイを挟んで前記レンズ素材とは反対側にて前記アロイと固着する保持具と、を備えたレンズ素材付き保持具を保持する保持具ホルダと、
前記レンズ素材の厚さ方向を回転軸として前記保持具ホルダを回転させる保持具ホルダ駆動部と、
前記レンズ素材付き保持具が前記保持具ホルダ駆動部により回転しながらアロイ溶解部に接触したときに、前記アロイ外縁に追従して位置変動しつつ前記アロイを溶解させる前記アロイ溶解部と、
を備えた、眼鏡レンズの製造装置である。
【0013】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の態様であって、
前記アロイ溶解部は、前記保持具ホルダにて保持された前記レンズ素材付き保持具の前記レンズ素材の厚さ方向に長尺であって、前記アロイを溶解する液体を供給する複数の開口を有する管を備えた第1液体供給機構である。
【0014】
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載の態様であって、
天地の天の方向を上方、地の方向を下方としたとき、
前記眼鏡レンズの製造装置は、前記第1液体供給機構の上方に第2液体供給機構を更に備え、
前記第2液体供給機構は、前記保持具ホルダに対向する方向から前記レンズ素材に向かって液体を供給する。
【0015】
本発明の第4の態様は、第1~第3のいずれかの態様に記載の態様であって、
前記アロイ溶解部の前記位置変動は等荷重バネにより実現される。
【0016】
本発明の第5の態様は、
低融点金属部材であるアロイと、前記アロイに固着する光学面を有するレンズ素材と、前記アロイを挟んで前記レンズ素材とは反対側にて前記アロイと固着する保持具と、を備えたレンズ素材付き保持具を保持する保持具ホルダを、前記レンズ素材の厚さ方向を回転軸として回転させる回転工程と、
前記レンズ素材付き保持具が回転しながらアロイ溶解部に接触したときに、前記アロイ溶解部が前記アロイ外縁に追従して位置変動しつつ前記アロイを溶解させるアロイ溶解工程と、
を有する、眼鏡レンズの製造方法である。
【0017】
本発明の第6の態様は、第5の態様に記載の態様であって、
前記アロイ溶解部は、前記保持具ホルダにて保持された前記レンズ素材付き保持具の前記レンズ素材の厚さ方向に長尺であって、前記アロイを溶解する液体を供給する複数の開口を有する管を備えた第1液体供給機構であり、
前記第1液体供給機構から供給される液体は60℃以上の湯である。
【0018】
また、上記の態様に組み合わせ可能な他の態様を列挙すると以下のとおりである。
【0019】
本発明の第7の態様は、
前記アロイ溶解部は、前記保持具ホルダにて保持された前記レンズ素材付き保持具の前記レンズ素材の厚さ方向に長尺である。
【0020】
本発明の第8の態様は、
前記アロイ溶解部は、前記アロイを溶解する液体を供給する開口を(好ましくは3~5個)有する。
【0021】
本発明の第9の態様は、
前記アロイ溶解部は、アロイ溶解部自体が熱を帯びる態様である。
【0022】
本発明の第10の態様は、
前記レンズ素材を平面視した際に前記アロイは前記レンズ素材よりも外方にはみ出ている。
【0023】
本発明の第11の態様は、
前記アロイ溶解部は管を備え、前記管の外面であって少なくともアロイと接触する部分が円筒形状である。より好ましくは、前記管の外面の全体が円筒形状である。
【発明の効果】
【0024】
本発明の一実施例によれば、低融点金属部材(アロイ)の削り滓の発生を抑制する技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、眼鏡レンズがアロイの外縁よりも外方に延出しない眼鏡レンズ付き保持具の概略断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の一態様に係る眼鏡レンズの製造装置の概略斜視図であり、給除材ユニットにより保持ユニットにレンズ素材付き保持具が取り付けられる様子を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の一態様に係るアロイ溶解部をX’方向に向かって見た時の概略側面図である。
【
図4】
図4は、本発明の一態様に係るアロイ溶解部が位置復元性を有しながらアロイを溶解する様子を時系列的に示した、Y’方向に向かって見た時の正面概略図である。
【
図5】
図5は、本発明の一態様に係る眼鏡レンズの製造装置の概略斜視図であり、アロイが溶解される様子を示す図である。
【
図6】
図6は、本発明の一態様に係る眼鏡レンズの製造装置の概略斜視図であり、レンズ素材が面取りされる様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本明細書において、眼鏡レンズの「眼球側の面」とは、眼鏡レンズを備えた眼鏡が装用者に装用された際に眼球側に配置される面(例えば凹面)をいい、「物体側の面」とは、物体側に配置される面(例えば凸面)をいう。
本明細書において、「~」は「所定の値以上且つ所定の値以下」のことを指す。
本明細書において、天地方向の天の方向を上方、地の方向を下方とする。また、本明細書においては、上方をZ方向且つ下方をZ’方向とし、詳しくは後掲するがレンズ素材の回転軸の方向であって給除ユニットが存在する方向を前方またはY方向且つその逆の方向を後方またはY’方向とし、この2方向に垂直な方向であって保持ユニットに相対する向きから見て左方をX方向且つ右方をX’方向とする。
【0027】
[本発明の一態様に係る眼鏡レンズの製造装置および製造方法]
本発明の一態様に係る眼鏡レンズの製造装置は、
低融点金属部材であるアロイと、前記アロイに固着する光学面を有するレンズ素材と、前記アロイを挟んで前記レンズ素材とは反対側にて前記アロイと固着する保持具と、を備えたレンズ素材付き保持具を保持する保持具ホルダと、
前記レンズ素材の厚さ方向を回転軸として前記保持具ホルダを回転させる(回転工程を行う)保持具ホルダ駆動部と、
前記レンズ素材付き保持具が前記保持具ホルダ駆動部により回転しながらアロイ溶解部に接触したときに、前記アロイ外縁に追従して位置変動しつつ前記アロイを溶解させる(アロイ溶解工程を行う)アロイ溶解部と、
を備える。
【0028】
前記保持具ホルダは、レンズ素材付き保持具を保持でき、保持具ホルダ駆動部により回転させられるなら特に限定は無い。
【0029】
前記アロイ溶解部の詳細、好適例および変形例については後述するが、レンズ素材付き保持具をレンズ素材の側から見た時に、アロイがレンズ素材の外縁よりも外方に延出した状態を仮定した場合、このレンズ素材付き保持具を回転させながら、レンズ素材と固着したアロイをアロイ溶解部に接触させ、アロイを溶解するのがアロイ溶解部である。
【0030】
本発明の一態様の特徴の一つが、アロイ溶解部の位置を、接触するアロイ外縁の回転軌道に倣って変動可能に設定することにある。これにより、最終的にはレンズ素材の外縁輪郭に沿うまでアロイが溶解される。なお、アロイ溶解部は倣い部材と称しても構わない。
【0031】
その結果、アロイがレンズ素材の外縁よりも外方に延出した部分を削ることなく溶解可能となり、アロイの削り滓の発生を抑制でき、最終的に眼鏡レンズを得る際の歩留まりを向上させられる。
【0032】
[本発明の一態様に係る眼鏡レンズの製造装置の好適例および変形例]
以下、本発明の一態様の詳細、好適例および変形例について説明する。
【0033】
図2は、本発明の一態様に係る眼鏡レンズの製造装置1の概略斜視図であり、給除材ユニット3により保持ユニット2にレンズ素材付き保持具が取り付けられる様子を示す図である。
【0034】
本発明の一態様に係る眼鏡レンズの製造装置1(以降、単に装置1とも称する。)は主に以下のユニットにより構成される。
・レンズ素材の保持ユニット2
・装置1内へのレンズ素材の給除材ユニット3
・レンズ素材付き保持具におけるアロイ溶解ユニット4
・レンズ素材に対する面取りユニット5
・上記の各ユニットとは異なる液体供給ユニット6(第2液体供給機構6)
・本装置1にて使用した液体の排液ユニット7
これらのユニットのうち少なくとも保持ユニット2、アロイ溶解ユニット4、面取りユニット5、および第2液体供給機構6は(場合によっては排液ユニット7も)前記装置1の筐体(不図示)内に配置される。各ユニットは、装置1内の制御部(不図示)により動作が制御される。
【0035】
<保持ユニット2>
図2の左上方向にあるレンズ素材の保持ユニット2は、レンズ素材の厚さ方向がY-Y’方向となるようにレンズ素材付き保持具における保持具(ヤトイ)を保持する保持具ホルダ21a,21bを備える。
【0036】
保持具ホルダ21a,21bはX方向に2つ並んで配置される。つまり本発明の一態様に係る装置1ならば2つのレンズ素材に対して同時に作業が可能である。以降、符号の後に付すa,bは2つ一組の部材のことを指し、符号a,bを省略することもある。
【0037】
保持具ホルダ21の後方には保持具ホルダ駆動部22が配置される。保持具ホルダ駆動部22は棒状の連結部23を介して保持具ホルダ21と連結される。保持具ホルダ駆動部22は連結部23とともに保持具ホルダ21を回転させる機能を備える。また、保持具ホルダ21がレンズ素材付き保持具を保持する機能(例えば真空吸着機能)を備える。
【0038】
ちなみにアロイから外方にはみ出たレンズ素材の部分を保持しても(いわゆる外周チャックを行っても)よいが、先に述べたようにレンズ素材の部分がはみ出ない場合も想定される。そのため、真空吸着機能にて保持具を保持するのが好ましい。
【0039】
以上の機能を備えるものであれば、保持ユニット2自体には構成上の限定は無いし、公知の構成を使用しても構わない。
【0040】
<給除材ユニット3>
X-X’方向に配置されたコンベアから流れてくるレンズトレイ31を2か所のストッパー32により固定した後に、
図2の右方向にある給除材ユニット3は、レンズトレイ31上のレンズ素材付き保持具を保持具ホルダ21へと移動させる機能を備える。逆に、面取りを終えたレンズ素材付き保持具を保持具ホルダ21からレンズトレイ31へと移動させる機能も備える。これらの機能を備えるものであれば、給除材ユニット3自体には構成上の限定は無いし、公知の構成を使用しても構わない。
【0041】
<アロイ溶解ユニット4>
アロイ溶解ユニット4は、保持具ホルダ21に保持されたレンズ素材の下方に配置される。アロイ溶解ユニット4は、アロイ溶解部41に接触したときに、アロイ外縁に追従して位置変動しつつ前記アロイを溶解させるアロイ溶解部41を備える。アロイ溶解部41は、各保持具ホルダ21に対し、左右対称(X-X’方向に対称に)に設けられる。
【0042】
更に、アロイ溶解ユニット4は、アロイ溶解部41と一端にて連結され且つX-X’方向に長尺なアロイ溶解ガイド42を備える。このガイドの他端にはZ-Z’方向に長尺なアロイ溶解昇降部43の上端と連結され、アロイ溶解昇降部43の下端はアロイ溶解駆動部44と連結される。アロイ溶解昇降部43はアロイ溶解駆動部44によりZ方向に伸縮可能である。
【0043】
アロイ溶解部41は、保持具ホルダ21にて保持された前記レンズ素材付き保持具の前記レンズ素材の厚さ方向(Y-Y’方向)に長尺であるのが好ましい。この場合、レンズ素材を平面視した際に、レンズ素材よりも外方にはみ出たアロイの厚さ方向にまんべんなくアロイ溶解部41を接触させられる。その結果、アロイの溶解残しを抑制できる。なお、この「平面視」は、レンズ素材と対向して見た時、更に具体的に言うと、後述の
図4のようにレンズ素材付き保持具を装置にセットしてY’方向に向かって見た時のことを指す。
【0044】
図3は、本発明の一態様に係るアロイ溶解部41bをX’方向に向かって見た時の概略側面図である。
【0045】
本発明の一態様に係るアロイ溶解部41の好ましい態様としては、アロイを溶解する液体を供給する開口411を有する管を備える。
【0046】
この液体としては、アロイ溶解を実施でき且つ装置1に支障を与えない液体であれば特に限定は無いが、例えばアロイの融点以上(例えば60℃以上、好適には80℃以上)の湯であれば環境負荷が少なくて済むしコストも抑えられる。以降、本明細書における「液体」は同様とする。
【0047】
この構成により、後述の第2液体供給機構6により溶解アロイを洗い流すまでもなく、アロイ溶解部41の内部から開口411を介して液体(
図3中の白抜き矢印、後述の
図4においても同様)が供給され、溶解アロイは洗い流される。この構成は、液体によりアロイ溶解部41はアロイを溶解するための熱を帯びることが可能になるうえ、溶解アロイを洗い流すことも可能となるという一挙両得の効果がある。この態様のアロイ溶解部41のことを「第1液体供給機構41」とも言う。
【0048】
なお、管の長尺方向(Y-Y’方向)の両端を貫通させてもよいが、一端413を非貫通とすることにより効率的に開口411から液体をアロイに供給できる。このとき、貫通側すなわち液体流入側の管の一端412はY’方向側に設けてもよい。
【0049】
なお、管の外面であって少なくともアロイと接触する部分が円筒形状であるのが好ましく、全体が円筒形状であるのがより好ましい。これにより、アロイと良好に接触可能となり、効率的にアロイを溶解させられる。
【0050】
なお、この開口411は複数あるのが好ましく(例えば3~5個、本発明の一態様だと3個)、長尺方向(Y-Y’方向)に沿って開口411が複数あるのが好ましい。この場合、レンズ素材よりも外方にはみ出たアロイの厚さ方向に、更にまんべんなくアロイ溶解部41を接触させられる。その結果、アロイの溶解残しを更に抑制できる。
【0051】
なお、開口411のサイズおよび形状には特に限定は無いが、例えば直径0.5~1.5mmの円形の孔であってもよい。また、開口411が複数ある場合、各開口411のサイズまたは形状を異ならせてもよい。また、各開口411同士の間隔を異ならせてもよい。
【0052】
ちなみに、本発明の一態様に係るアロイ溶解部41は、アロイ溶解部41自体が熱を帯びる態様であれば特に限定は無い。例えば、アロイ溶解部41がはんだごてのように自ら熱を発する構成を採用しても構わない。また、アロイ溶解部41は中空としつつも前記開口411は設けず、中空内に高温の液体を供給し続ける構成を採用しても構わない。但しそれらの場合は、後述の第2液体供給機構6により液体をアロイ溶解部41の上方から供給し、溶解アロイを洗い流すのが好ましい。
【0053】
アロイ溶解部41の素材については特に限定は無いが、60℃以上の湯を使用する場合、湯の熱をアロイ溶解部41に伝達させる必要がある。そのため、熱伝導率が比較的高い素材(例えばアルミニウム、または鉄あるいはステンレス)であるのがよい。
【0054】
図4は、本発明の一態様に係るアロイ溶解部41bが位置復元性を有しながらアロイを溶解する様子を時系列的に示した、Y’方向に向かって見た時の正面概略図である。
【0055】
図4に示すように、本発明の一態様に係るアロイ溶解部41は位置復元性を有する。この「位置復元性」とは、レンズ素材付き保持具が装置1に配置された際に、レンズ素材付き保持具が配置されなかった場合のアロイ溶解部41bの位置へと戻ろうとする性質のことを指す。その様子を示したのが
図4であり、黒矢印方向にレンズ素材付き保持具の回転を繰り返すことによってアロイが溶解される度に、アロイ溶解ガイド42bの撓りが無くなり、アロイ溶解部41bが元の上方の位置(例えば
図4(c)の配置)に戻っていく様子を示している。つまりアロイ溶解部41の位置復元性とは、アロイ外縁に追従して位置変動することを意味する。
【0056】
この位置復元性は、例えば前記X-X’方向に長尺なアロイ溶解ガイド42を等荷重バネとすることにより実現されてもよい。ただ、アロイ溶解部41の位置を、接触するアロイ外縁の回転軌道に倣って変動可能となる位置復元性が実現できるならば、等荷重バネには限定されない。また、本発明の一態様ではレンズ素材の下方にてアロイ溶解部41を接触させたが、上方や側方から接触させてもよい。
【0057】
<面取りユニット5>
面取りユニット5は、アロイ溶解ユニット4と給除材ユニット3との間に配置される。面取りユニット5は、レンズ素材に対して面取りを行う面取り部材51(研磨治具すなわち砥石)を面取り部材駆動部52の先端に備える。面取り部材51および面取り部材駆動部52はX-X’方向に2つ並んで配置される。
【0058】
面取り部材駆動部52が面取り部材51を回転させることにより、レンズ素材の面取りが可能となる。そして面取り部材駆動部52はY-Y’方向に伸縮可能な面取り伸縮部53の一端と連結する。面取り伸縮部53は面取り第1駆動部54と他端にて連結する。この面取り第1駆動部54により面取り伸縮部53はY-Y’方向に伸縮可能である。そして面取り第1駆動部54はZ-Z’方向に昇降可能な面取り昇降部55の上端と連結する。面取り昇降部55は面取り第2駆動部56と下端にて連結する。この面取り第2駆動部56により面取り昇降部55はZ-Z’方向に伸縮可能である。
【0059】
前記各機能を備えるものであれば、面取り部材駆動部52自体には構成上の限定は無いし、レンズ素材の面取り装置における公知の構成を使用しても構わない。
【0060】
<上記の各ユニットとは異なる液体供給ユニット6(第2液体供給機構6)>
本ユニットは、前記第1液体供給機構41とは別に配置された第2液体供給機構6である。第2液体供給機構6は、保持ユニット2およびアロイ溶解ユニット4の上方に配置される。前記第2液体供給機構6は、前記保持具ホルダ21に対向する方向から前記レンズ素材に向かって液体を供給する。
【0061】
この液体の供給は、アロイ溶解ユニット4稼働時および面取りユニット5稼働時に行われる。
【0062】
アロイ溶解ユニット4稼働時には、レンズ素材に向けて液体が供給される。主にアロイ溶解部41である第1液体供給機構41によりアロイは溶解されるが、アロイ溶解の補助として第2液体供給機構6からも液体が供給される。第2液体供給機構6はレンズ素材に向けて液体を供給することにより、溶融アロイの洗い流しを確実にするという効果がある。また、通常、アロイと固着するのはレンズ素材の凸面であって第2液体供給機構6から液体が供給されるのはレンズ素材の凹面となり、凹面に高温の液体が溜まることにより、レンズ素材自体を温めてアロイを溶解しやすくする効果もある。
【0063】
面取りユニット5稼働時にも、レンズ素材に向けて液体が供給される。これにより、面取りの際のレンズ素材の削り滓を洗い流すことが可能となる。なお、この洗い流しの際、湯ではなく常温水を使用しても構わない。
【0064】
前記各機能を備えるものであれば、第2液体供給機構6自体には構成上の限定は無いし、レンズ素材の面取り装置における公知の構成を使用しても構わない。また、更に別の液体供給機構を設けても構わない。
【0065】
<排液ユニット7>
排液ユニット7についてであるが、アロイ溶解ユニット4を稼働するのか、面取りユニット5を稼働するのかによって、排液経路を変化させる。以下のモード変更は先に述べた装置1内の制御部(不図示)が行う。
【0066】
(アロイ溶解ユニット4稼働モード)
アロイ溶解ユニット4を稼働する場合、アロイ溶解部41の下方に配置されたトレイ71にアロイ含有排液が流れ落ちる。その後、配管72を下って第1貯留部73へと排液が貯留される。貯留部には水位計兼温度センサ74およびヒータ75が設けられる。
【0067】
第1貯留部73にて貯留された排液の上澄み液はポンプ機構76により吸い上げられ、前記第2液体供給機構6にて供給される液体として再利用される。この再利用に係る一連の構成(特にポンプ機構76)を循環機構76と呼ぶ。なお、水位計兼温度センサ74における検出結果に応じてポンプ機構76により第1貯留部73へと湯を上方から追加する。
【0068】
ちなみに、第1貯留部73の底に溜まった溶解アロイを回収して再生してもよい。つまり、新たに作製する予定のレンズ素材付き保持具におけるアロイとして、回収した溶解アロイを再利用してもよい。
【0069】
(面取りユニット5稼働モード)
面取りユニット5を稼働する場合、保持ユニット2の下方に、排液ユニット7の一部として配置されていた面取り排液用トレイ77を、アロイ溶解部41と前記第2液体供給機構6との間に配置する。面取り排液用トレイ77のY’方向側の部分を面取り排液用伸縮部78と連結し、面取り排液用伸縮部78を面取り排液用駆動部79と連結する。面取りユニット5の稼働の際に、面取り排液用駆動部79は伸縮部をY方向へと伸ばし、面取り排液用トレイ77を、アロイ溶解部41と前記第2液体供給機構6との間に配置する。
【0070】
第2液体供給機構6から供給されて面取りに使用された排液は、面取り排液用トレイ77に流れ落ちる。そして、面取り排液用トレイ77と連結する配管(不図示)から第2貯留部(不図示)へと排液が貯留される。面取り後の排液にはレンズ素材の削り滓が含有されている。先に述べたアロイの削り滓と同様、レンズ素材の削り滓も最終的な眼鏡レンズの歩留まりに影響を与える。そのため、第2貯留部に貯留された排液は再利用せず、別途処理する。
【0071】
[本発明の一態様に係る眼鏡レンズの製造方法の一具体例]
本発明の一態様に係る眼鏡レンズの製造方法の一具体例について説明する。但し、本発明は以下の態様に限定されない。また、先に述べた[本発明の一態様に係る眼鏡レンズの製造装置1]および[本発明の一態様に係る眼鏡レンズの製造装置1の好適例および変形例]にて述べた内容(特に機能、効果)と重複する部分については一部記載を省略する。
【0072】
図5は、本発明の一態様に係る眼鏡レンズの製造装置1の概略斜視図であり、アロイが溶解される様子を示す図である。
図6は、本発明の一態様に係る眼鏡レンズの製造装置1の概略斜視図であり、レンズ素材が面取りされる様子を示す図である。
【0073】
<保持工程>
まず、先に挙げた
図2に示すように、給除材ユニット3によってレンズトレイ31上のレンズ素材付き保持具を保持具ホルダ21へと移動させる。
図2では給除材ユニット3がZ’方向に向けてレンズ素材に接触してこれを保持し、回動(
図2中の黒抜き矢印)によりX’方向に向けて保持具ホルダ21へとレンズ素材付き保持具を受け渡し、保持具ホルダ21にてレンズ素材付き保持具を保持させる(保持工程)。
【0074】
<回転工程>
その後、保持具ホルダ駆動部22が、前記レンズ素材の厚さ方向(Y-Y’方向)を回転軸として、レンズ素材付き保持具を保持する保持具ホルダ21を回転させる。なお、回転数には特に限定は無いが、アロイ溶解工程だと1~60rpmとしてもよく、面取り工程だと1~300rpmとしてもよい。
【0075】
<アロイ溶解工程>
アロイ溶解部41を前記第1液体供給機構の態様としている場合、60℃以上の湯を第1液体供給機構41に通液し、Y-Y’方向に沿って形成された複数の開口411から湯を噴出させておく。なお、第1液体供給機構41への通液は通液チューブ(不図示)にて行ってもよい。ちなみに湯の流量には特に限定は無いが10~500cc/分に設定してもよい。
【0076】
その後、
図5に示すように、アロイ溶解駆動部44がアロイ溶解昇降部43をZ方向に伸ばし、レンズ素材付き保持具を回転させながら、レンズ素材の外方にはみ出たアロイに対してアロイ溶解部41を接触させる。その際に、前記第2液体供給機構6は下方(Z’方向)に伸び、液体供給ノズルがレンズ素材の凹面に対向するように配置され、液体が供給される。
【0077】
先に挙げた
図4に示すように、レンズ素材付き保持具が回転しても第1液体供給機構41(アロイ溶解部41)は、アロイ溶解ガイド42を等荷重バネとしたことにより、接触するアロイ外縁に追従して位置変動する。
【0078】
なお、レンズ素材の外方にはみ出たアロイの溶解が完了したか否かを、センサ等を用いてアロイの有無を検出することにより確認してもよい。また、その確認を行わない場合でも、レンズ素材の外方にはみ出たアロイを完全に溶解させるのに要する時間よりも多めの時間を本工程に費やしてもよい。
【0079】
アロイ溶解工程の終了後、アロイ溶解駆動部44が昇降部をZ’方向に縮め、アロイ溶解工程前の配置へとアロイ溶解部41を戻す。
【0080】
<面取り工程>
図6に示すように、面取り部材駆動部52が面取り部材51を回転させつつ、面取り第2駆動部56が面取り昇降部55をZ方向に伸ばし、面取り部材51がレンズ素材の縁と相対するようにする。そして面取り第1駆動部54が面取り伸縮部53をY’方向に伸ばし、面取り部材51をレンズ素材の縁に接触させ、面取りを行う。
【0081】
本工程の際には、前記第2液体供給機構6から液体を供給する。また、保持具ホルダ21も、予め設計された面取り加工の態様に合わせて回転させる。そして、排液ユニット7は面取りユニット5稼働モードとする。すなわち、面取り排液用駆動部79は伸縮部をY方向へと伸ばし、面取り排液用トレイ77を、アロイ溶解部41と前記第2液体供給機構6との間に配置する。そして、第2液体供給機構6から供給されて面取りに使用された排液を、アロイ溶解工程での排液とは別経路にて回収する。
【0082】
面取り工程の終了後、面取り部材駆動部52による面取り部材51の回転を停止し、面取り第1駆動部54および面取り第2駆動部56により面取りユニット5を元の配置に戻す。
【0083】
以上の工程(ひいては前記装置1の構成)により、アロイがレンズ素材の外縁よりも外方に延出した部分を削ることなく溶解可能となり、アロイの削り滓の発生を抑制でき、最終的に眼鏡レンズを得る際の歩留まりを向上させられる。しかも以上の工程は自動化により行うことが可能である。例えば、レンズ素材に対する研削加工(CG加工)と研磨加工の間にインラインで組み込むことが可能となる。これは、作業の効率化およびリードタイム短縮化が可能となることを意味する。
【符号の説明】
【0084】
1 眼鏡レンズの製造装置
2 保持ユニット
21a,b 保持具ホルダ
22a,b 保持具ホルダ駆動部
23a,b 連結部
3 給除材ユニット
31 レンズトレイ
32 ストッパー
4 アロイ溶解ユニット
41a,b アロイ溶解部(第1液体供給機構)
411a,b 開口
412a,b 一端(貫通)
413a,b 一端(非貫通)
42a,b アロイ溶解ガイド
43a,b アロイ溶解昇降部
44a,b アロイ溶解駆動部
5 面取りユニット
51a,b 面取り部材
52a,b 面取り部材駆動部
53a,b 面取り伸縮部
54a,b 面取り第1駆動部
55a,b 面取り昇降部
56a,b 面取り第2駆動部
6 液体供給ユニット(第2液体供給機構)
7 排液ユニット
71 トレイ
72 配管
73 第1貯留部
74 水位計兼温度センサ
75 ヒータ
76 ポンプ機構(循環機構)
77 面取り排液用トレイ
78 面取り排液用伸縮部
79 面取り排液用駆動部
100 レンズ素材
101 保護フィルム
102 低融点金属部材(アロイ)
104 保持具(ヤトイ)
L レンズ素材付き保持具