(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】プレス成形方法
(51)【国際特許分類】
B21D 22/26 20060101AFI20221109BHJP
B21D 5/01 20060101ALI20221109BHJP
B21D 28/00 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
B21D22/26 C
B21D5/01 D
B21D28/00 A
(21)【出願番号】P 2018225162
(22)【出願日】2018-11-30
【審査請求日】2021-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】舘 洋一
(72)【発明者】
【氏名】山本 求
【審査官】石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-069490(JP,A)
【文献】国際公開第2015/199231(WO,A1)
【文献】特開2012-232329(JP,A)
【文献】特開2016-030290(JP,A)
【文献】特開2016-002560(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/26
B21D 5/01
B21D 28/00
B21D 24/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天板部、前記天板部の両端から延びる一対の縦壁部、及び、前記一対の縦壁部から互いに離反する側に延びる一対のフランジ部を有する断面ハット形状部を備えた絞り成形品を形成する絞り工程と、
前記絞り成形品の前記天板部と前記縦壁部との間の角部、及び、前記縦壁部と前記フランジ部との間の角部に曲げ加工を施して曲げ成形品を形成する曲げ工程と、
前記曲げ成形品のフランジ部の不要部を切断除去するトリミング工程とを
この順に行うプレス成形方法。
【請求項2】
前記トリミング工程の後に、前記曲げ成形品の前記天板部と前記縦壁部との間の角部、及び、前記縦壁部と前記フランジ部との間の角部を90°未満に成形する第二曲げ工程を有し、
前記第二曲げ工程で、前記フランジ部の長手方向一部に、他の長手方向領域よりも一段高くなった凸部を成形する請求項1に記載のプレス成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断面ハット形状の製品をプレス成形するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば下記の特許文献1には、断面ハット形状の部品(センターピラー部品)を成形するための冷間プレス成形方法が示されている。この方法では、断面ハット形状の第一成形部品を絞り成形する第1プレス成形工程と、第1成形部品のフランジ部をトリミングしてトリミング部品を得るトリミング工程と、トリミング部品を曲げ成形により成形する第2プレス成形工程とを経て、断面ハット形状の部品を成形している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、自動車の骨格部品に用いられる断面ハット形状の部品は、高強度化及び軽量化を実現するために、引張強度480MPa以上の高張力鋼板や、引張強度980MPa以上の超高張力鋼板の適用が進められている。このような高張力鋼板や超高張力鋼板を用いて上記のような冷間プレス成形を行うと、絞り成形(第1プレス成形工程)後の第1成形部品のスプリングバック量が大きくなり、その後のトリミング工程における加工精度が低下し、切断不良等の不具合が生じる恐れがある。切断不良は、その後の曲げ工程に悪影響を及ぼし、曲げ部やフランジ部の割れを誘発する恐れがある。
【0005】
例えば、絞り工程において、スプリングバック量を見込んで金型を設計することで対策する場合もある。しかし、高張力鋼板や超高張力鋼板等の大きなスプリングバック量を用いた場合、絞り成形金型の見込み量も大きくなってしまうため、絞り成形性が大きく悪化する。
【0006】
以上のような事情から、本発明は、高張力鋼板や超高張力鋼板を用いた場合でも、断面ハット形状の部品を高精度にプレス成形することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は、天板部、前記天板部の両端から延びる一対の縦壁部、及び、前記一対の縦壁部から互いに離反する側に延びる一対のフランジ部を有する断面ハット形状部を備えた絞り成形品を形成する絞り工程と、前記絞り成形品の前記天板部と前記縦壁部との間の角部、及び、前記縦壁部と前記フランジ部との間の角部に曲げ加工を施して曲げ成形品を形成する曲げ工程と、前記曲げ成形品のフランジ部の不要部を切断除去するトリミング工程とを有するプレス成形方法を提供する。
【0008】
このように、本発明では、トリミング工程の前に、絞り成形品の断面ハット形状部の角部(天板部と縦壁部との間の角部、及び、縦壁部とフランジ部との間の角部)を曲げ成形して所定の角度に矯正する。この曲げ成形品をトリミング工程の金型にセットすることで、トリミング金型におけるフランジ部の位置が安定するため、トリミング工程における加工精度が向上する。また、上記のように曲げ工程で絞り成形品の形状を矯正することで、スプリングバック量の大きい高張力鋼板や超高張力鋼板を用いた場合でも、絞り工程における見込み量をそれ程大きくする必要がないため、絞り成形性の悪化を防止できる。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、本発明のプレス成形方法によれば、高張力鋼板や超高張力鋼板を用いた場合でも、断面ハット形状の部品を高精度に成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】(A)はプレス成形品(センターピラーリーンフォースメント)の平面図であり、(B)は(A)図のB-B線断面図である。
【
図2】(A)~(F)は、各工程におけるワーク(プレス成形品)の断面図である。
【
図4】(A)(B)は、第一曲げ金型の断面図である。
【
図5】(A)(B)は、トリミング金型の断面図である。
【
図6】(A)(B)は、第二曲げ金型の断面図である。
【
図7】他の実施形態に係るプレス成形品の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
本実施形態では、プレス成形品Wとして、
図1に示すような自動車のセンターピラーリーンフォースメントを成形する場合を示す。このプレス成形品Wは、
図1(A)に示すように、車体上部に取り付けられる上側取付部Waと、車体下部に取り付けられる下側取付部Wbと、上側取付部Waと下側取付部Wbとを連結し、車体上下方向に延びる柱部Wcとを有する。柱部Wcは、
図1(B)に示すような断面ハット形状部であり、具体的には、天板部1と、天板部1の両端から延びる一対の縦壁部2と、一対の縦壁部2の端部から互いに離反する側に延びる一対のフランジ部3とを有する。天板部1には、複数の穴7が設けられる。
【0013】
上記のプレス成形品Wは、
図2に示すように、ブランク材W1に絞り加工を施して絞り成形品W2を形成する絞り工程と、絞り成形品W2に曲げ加工を施して第一曲げ成形品W3を形成する第一曲げ工程と、第一曲げ成形品W3にトリミングしてトリミング部品W4を形成するトリミング工程と、トリミング部品W4に曲げ加工を施して第二曲げ成形品W5を形成する第二曲げ工程と、第二曲げ成形品W5にピアス加工を施してプレス成形品Wを形成するピアス工程とを順に経て行われる。これらの各工程は、何れも常温環境下で行われる。
【0014】
ブランク材W1は、平板状の金属板を所定形状に打ち抜いたものである、ブランク材W1の材料としては、例えば鋼板、具体的には引張強度480MPa以上の高張力鋼板、特に引張強度980MPa以上の超高張力鋼板が使用される。
【0015】
絞り工程は、
図3に示す絞り金型10を用いて行われる。具体的には、
図3(A)に示すようにダイ11及びブランクホルダ12でブランク材W1の端部を挟持する。この状態で、
図3(B)に示すようにこれらを一体に降下させてブランク材W1をパンチ13に押し付けることにより、パンチ13の形状に倣った絞り成形品W2が形成される。絞り成形品W2を絞り金型10から取り出すと、絞り成形品W2にスプリングバックが生じ、一対の縦壁部2が、
図3(B)に示す絞り成形完了時よりも開いた状態となる(
図2(B)参照)。
【0016】
第一曲げ工程は、
図4に示す第一曲げ金型20を用いて行われる。具体的には、
図4(A)に示すように、絞り成形品W2をパンチ21の上にセットし、パッド22で天板部1を上方から押さえて絞り成形品W2を固定する。この状態で、
図4(B)に示すように曲げ型23を降下させて、曲げ型23で絞り成形品W2を押さえて成形することにより、第一曲げ成形品W3が形成される。この第一曲げ工程により、第一曲げ成形品W3の角部4,5が所定の角度θ1,θ2に矯正される(
図2(C)参照)。このように、絞り成形品W2の形状を第一曲げ工程で矯正することにより、絞り成形品の寸法精度を緩和できるため、絞り工程におけるスプリングバックの見込み量を抑えて絞り成形性の悪化を防止することができる。
【0017】
トリミング工程は、
図5に示すトリミング金型30を用いて行われる。具体的には、
図5(A)に示すように、第一曲げ成形品W3をパンチ31の上にセットし、パッド32で天板部1を上方から押さえて第一曲げ成形品W3を固定する。この状態で、
図5(B)に示すように、トリム型33を降下させて、第一曲げ成形品W3のフランジ部3の外側部分3’(不要部)を切断除去し、トリミング部品W4を形成する。尚、フランジ部3の不要部の全てを一回のプレスで切断除去してもよいし、フランジ部3の不要部を複数種のトリミング金型を用いて複数回に分けて切断除去してもよい。
【0018】
このトリミング工程において、第一曲げ成形品W3の角部4,5が第一曲げ工程で予め所定の角度θ1,θ2に矯正されているため、第一曲げ成形品W3をトリミング金型30のパンチ31の上にセットした状態では、フランジ部3が所定の位置に正確に配される。これにより、トリム型33によりフランジ部3の所定位置を正確に切断することができるため、トリミング部品W4の寸法精度が高められる。
【0019】
第二曲げ工程は、
図6に示す第二曲げ金型40を用いて行われる。具体的には、
図6(A)に示すように、トリミング部品W4をパンチ41の上にセットし、パッド42で天板部1を上方から押さえてトリミング部品W4を固定する。この状態で、
図6(B)に示すように、上型(図示省略)を降下させて曲げ型43を押し下げることにより、曲げ型43がカム44に沿って斜め方向に降下する(矢印参照)。この曲げ型43で、トリミング部品W4の縦壁部2を側方から押し込んで負角に成形する(すなわち、角部4,5を90°未満とする)ことで、第二曲げ成形品W5が形成される。
【0020】
ピアス工程では、ピアス金型(図示省略)で第二曲げ成形品W5の所定箇所(例えば天板部1)を打ち抜いて、穴7を形成する(
図1参照)。以上により、プレス成形品Wが完成する。
【0021】
本発明は、上記の実施形態に限られない。例えば、プレス成形品Wのフランジ部3には、
図7に示すように、長手方向で段差部が形成されることがある。図示例では、段差部として、フランジ部3の長手方向一部が高くなった凸部8が設けられる。このようなフランジ部3の段差部(凸部8)は、例えば、縦壁部2を負角に成形する前の第一曲げ工程(
図4参照)で成形できる。しかし、この場合、フランジ部3に設けられた凸部8(特に、フランジ部3から立ち上がった側部8a)が、その後のトリミング工程での切断が困難となることがある。従って、フランジ部3に上記のような段差部(凸部8)が設けられる場合は、
図4に示す第一曲げ工程でフランジ部3を、長手方向で段差部のない平滑面状に成形し、
図6に示す第二曲げ工程で、縦壁部2を負角に成形すると同時に、フランジ部3に段差部(凸部8)を成形することが好ましい。
【0022】
また、プレス成形品Wの縦壁部が負角でない(すなわち、角部4,5が90°以上である)場合は、第二曲げ工程を省略してもよい。
【0023】
上記のプレス成形方法で成形可能なプレス成形品Wは、センターピラーリーンフォースメントに限らず、例えば断面ハット形状部を有する他の車体骨格部品にも適用できる。
【符号の説明】
【0024】
1 天板部
2 縦壁部
3 フランジ部
3’ 外側部分(不要部)
4,5 角部
10 絞り金型
20 第一曲げ金型
30 トリミング金型
40 第二曲げ金型
W プレス成形品
W1 ブランク材
W2 絞り成形品
W3 第一曲げ成形品
W4 トリミング部品
W5 第二曲げ成形品