(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】射出成形品、射出成形方法、射出成形型
(51)【国際特許分類】
B29C 45/16 20060101AFI20221109BHJP
B29C 33/42 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
B29C45/16
B29C33/42
(21)【出願番号】P 2018245333
(22)【出願日】2018-12-27
【審査請求日】2021-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100207181
【氏名又は名称】岡村 朋
(72)【発明者】
【氏名】永井 真
(72)【発明者】
【氏名】大月 隆史
(72)【発明者】
【氏名】中村 鷹彦
(72)【発明者】
【氏名】土田 佳史
(72)【発明者】
【氏名】山口 直宏
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-531039(JP,A)
【文献】特開2015-042463(JP,A)
【文献】特開2010-194902(JP,A)
【文献】特開平06-143333(JP,A)
【文献】特開2002-067855(JP,A)
【文献】特開2008-030300(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00-45/84
B29C 33/00-33/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる樹脂材により射出成形された第一成形層と第二成形層とを一体的に有する射出成形品であって、
前記第一成形層は、前記第二成形層との見切り部分に隣接した位置に、積層方向と反対の方向へ形成された凹部を有
し、
前記第二成形層の厚みが前記凹部の深さよりも大きいことを特徴とする射出成形品。
【請求項2】
異なる樹脂材からなる第一成形層と第二成形層とを一体的に有する射出成形品を成形する射出成形方法であって、
第一の樹脂材からなる前記第一成形層を射出成形する工程と、
一方の成形型と他方の成形型とを当接させて、その内部に前記第一成形層が配設された状態で、
前記一方の成形型に設けられたスライド型が前記他方の成形型から離反する方向へ移動することにより、前記スライド型と前記第一成形層とが面する第二キャビティを形成して、当該第二キャビティに第二の樹脂材を射出することにより、前記第二成形層を成形する工程とを含み、
前記第二キャビティに第二の樹脂材を射出する工程において、前記第二キャビティに隣接した位置で、前記一方の成形型
の前記スライド型に隣接する部分に設けられた積層方向と反対方向へ突出する凸部が、前記第一成形層に設けられた凹部
に当接することを特徴とする射出成形方法。
【請求項3】
一方の成形型と他方の成形型とを有し、異なる樹脂材からなる第一成形層と第二成形層とを一体的に有する射出成形品を成形するための射出成形型であって、
前記一方の成形型は、前記他方の成形型から離反する方向へ移動可能なスライド型と、当該スライド型に隣接する位置に、前記他方の成形型の側へ突出した凸部とを有し、
前記一方の成形型と前記他方の成形型とを当接させることで、前記一方の成形型と前記他方の成形型とが面し、前記第一成形層を成形するための第一キャビティを形成し、
第一の樹脂材を前記第一キャビティに射出して成形される前記第一成形層は、前記第一キャビティ内に配設された凸部により形成される凹部を有し、
前記第一キャビティに相当する位置に前記第一成形層を配設し、前記凸部が前記凹部内に配設された状態で、前記スライド型を前記他方の成形型から離反させることで、前記一方の成形型と前記第一成形層とが面した、前記第二成形層を射出成形するための第二キャビティを形成することを特徴とする射出成形型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形品、射出成形方法、および、射出成形型に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車の内装品(インストルメントパネル等)は、異なる材質や色を有する複数種の樹脂材料を、射出成形により積層して形成される(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような複数種の樹脂材料からなる複層の射出成形品を成形する際には、二層目を成形する際に、二層目を形成する樹脂材が一層目の側へ漏れ出すことが問題になる。
【0005】
例えば
図6(A)に示すように、固定部111、および、可動部であるスライド型112を有する上型110と、下型120とを有する射出成形型を用いて、複層の射出成形品を成形する。
【0006】
まず、上型110と下型120との間に形成される第一キャビティ131に第一の樹脂材を射出することで、
図6(B)に示すように、第一成形層101を成形する。そして、
図6(C)に示すように、スライド型112を上方へスライドさせて、固定部111とスライド型112と第一成形層101との間に第二キャビティ132を形成する。この第二キャビティ132に第二の樹脂材を射出することで、
図6(D)に示すように、第二成形層102を成形する。これにより、第一成形層101と第二成形層102を有する射出成形品100を成形することができる。
【0007】
しかし、上記の成形方法では、
図6(B)で示した第一成形層101の成形後、第一成形層101が冷却されて収縮することで、第一成形層101の上面と固定部111の下面との間に隙間が生じる。そして、
図6(C)で示した、第二キャビティ132に第二の樹脂材を射出する際に、この隙間に第二の射出材が漏れ出し、
図6(D)に示すように、第二成形層102に漏出部102aが形成されてしまう。
【0008】
漏出部102aが形成されることで、
図7に示すように、射出成形品100の外観上において、第一成形層101と第二成形層102との見切り部分の見栄えが悪くなり、射出成形品100の見た目の品質を損ねてしまうという課題があった。
【0009】
特に上記の射出成形品の一例であるインストルメントパネル(以下、インパネ)では、強度や剛性などの機械的特性と、色彩や光沢感、質感などの意匠品質を両立するために、例えば、インパネの骨格をなす第一成形層に加えて、インパネの意匠面の一部(例えばインパネの上面部の意匠面)を有する、意匠品質に優れた第二成形層を設けた二層構造をなす。しかし、このような構成の場合、第一成形層と第二成形層のそれぞれがインパネの意匠面の一部を構成しており、二つの層の見切り部分も外側に露出してインパネの意匠面の一部を構成することになるため、見切り部分を外観から隠すことが難しく、見切り部分の見た目の品質が、インパネ全体の外観品質上、極めて重要であった。
【0010】
このような事情から、本発明では、射出成形時の樹脂材の漏れ出しによる、射出成形品の外観への悪影響を防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、本発明は、異なる樹脂材により射出成形された第一成形層と第二成形層とを一体的に有する射出成形品であって、前記第一成形層は、前記第二成形層との見切り部分に隣接した位置に、積層方向と反対の方向へ形成された凹部を有することを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、第二成形層を構成する樹脂材が漏れ出した場合でも、この漏れ出した部分、特に、この漏れ出した部分と第一成形層との境界部分を、凹部内に隠すことができ、射出成形品の外観に悪影響を与えることを防止できる。
【0013】
また、上記の課題を解決するため、本発明は、異なる樹脂材からなる第一成形層と第二成形層とを一体的に有する射出成形品を成形する射出成形方法であって、第一の樹脂材からなる前記第一成形層を射出成形する工程と、一方の成形型と他方の成形型とを当接させて、その内部に前記第一成形層が配設された状態で、前記一方の成形型と前記第一成形層とが面するキャビティを形成して、当該キャビティに第二の樹脂材を射出することにより、前記第二成形層を成形する工程とを含み、前記キャビティに第二の樹脂材を射出する工程において、前記キャビティに隣接した位置で、前記一方の成形型に設けられた積層方向と反対方向へ突出する凸部が、前記第一成形層に設けられた凹部内に配設されることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、一方の成形型に設けられた凸部が、キャビティに隣接した位置で、第一成形層の凹部内に突出して設けられることで、一方の成形型と第一成形層との間に漏れ出す第二の樹脂材の方向を、第一成形層に設けられた凹部の形成方向にすることができる。従って、射出成形品の外観上、第二の樹脂材が漏れ出した部分を凹部内に隠すことができ、第二の樹脂材が漏れ出すことにより、射出成形品の外観に悪影響を与えることを防止できる。
【0015】
また本発明は、一方の成形型と他方の成形型とを有し、異なる樹脂材からなる第一成形層と第二成形層とを一体的に有する射出成形品を成形するための射出成形型であって、前記一方の成形型は、前記他方の成形型から離反する方向へ移動可能なスライド型と、当該スライド型に隣接する位置に、前記他方の成形型の側へ突出した凸部とを有し、前記一方の成形型と前記他方の成形型とを当接させることで、前記一方の成形型と前記他方の成形型とが面し、前記第一成形層を成形するための第一キャビティを形成し、第一の樹脂材を前記第一キャビティに射出して成形される前記第一成形層は、前記第一キャビティ内に配設された凸部により形成される凹部を有し、前記第一キャビティに相当する位置に前記第一成形層を配設し、前記凸部が前記凹部内に配設された状態で、前記スライド型を前記他方の成形型から離反させることで、前記一方の成形型と前記第一成形層とが面した、前記第二成形層を射出成形するための第二キャビティを形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、第二成形層を成形時に漏れ出す樹脂材を凹部によって隠し、射出成形品の外観に悪影響を与えることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る射出成形品の正面図である。
【
図2】(A)~(D)は、上記射出成形品を成形する過程を示す断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係るインストルメントパネルの斜視図である。
【
図5】(A),(B)は、射出成形型の他の実施形態を示す断面図である。
【
図6】(A)~(D)は、本発明と異なる形態の射出成形品を成形する過程を示す断面図である。
【
図7】本発明と異なる形態の射出成形品の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
図1に示すように、本実施形態の射出成形品1は、第一成形層11と第二成形層12とが積層された多層部材であり、例えば、自動車の内装品であるインストルメントパネルである。
【0020】
第一成形層11と第二成形層12とは、異なる樹脂材である第一の樹脂材と第二の樹脂材とをそれぞれ射出成形することによって、一体的に成形される。第一成形層11は、第二成形層12との見切り部分Xに隣接した位置に、第一成形層11と第二成形層12との積層方向(図の上方向)と反対方向へ設けられた溝部(凹部)13を有する。言い換えると、溝部13は、見切り部分Xに隣接した位置に形成された、第一成形層11の意匠面である表面11a(第一成形層11の積層方向の面11a)よりも凹んだ部分である。なお、第二の樹脂材が第一の樹脂材と異なる、とは、例えば、その色や材質が異なる等、当業者にとって両者の樹脂材が異なると認識される適宜のものを指す。
【0021】
第一成形層11は、第二成形層12よりもその面積が大きく、第一成形層11の表面の一部が、図の上側に露出している。図の上側の面が外観をなす意匠面であり、上層の第二成形層12だけでなく、第一成形層11の一部も意匠面を構成している。
【0022】
図2(A)に示すように、本実施形態の射出成形品1を構成する第一成形層11と第二成形層12は、同一の成形型である射出成形型20により、一体的に成形される。射出成形型20は、上型(一方の成形型)21と下型(他方の成形型)22とを有する。下型22が図の上下方向へ移動可能な可動型である。また上型21は、固定部23と可動部であるスライド型24とを有し、スライド型24は図の上下方向へスライド可能に設けられる。固定部23は、下型22の側へ突出した凸部23aを有する。
【0023】
以下、
図2(A)~(D)を用いて、本実施形態の射出成形型20によって射出成形品1を成形する方法について説明する。
【0024】
図2(A)に示すように、下型22を上型21に当接させた状態で、固定部23およびスライド型24と、下型22との間には、第一キャビティ31が形成される。この際、固定部23に設けられた凸部23aにより、固定部23の成形面の一部が、その他の部分に比べて第一キャビティ31の側へ突出している。
【0025】
第一キャビティ31内へ第一の樹脂材を射出することにより、
図2(B)に示すように、第一成形層11を成形する。この際、凸部23aによって形成された第一キャビティ31の部分的な凹みにより、第一成形層11に溝部13が形成される。
【0026】
第一成形層11を射出成形型20内で成形した後、
図2(C)に示すように、スライド型24を図の上方へ移動させる。これにより、固定部23とスライド型24と第一成形層11の上面との間に(言い換えると、固定部23とスライド型24と第一成形層11とが面する)、第二キャビティ32が形成される。
【0027】
そして、第二キャビティ32に第二の樹脂材を射出することにより、
図2(D)に示すように、第二成形層12を成形する。これにより、第一成形層11と第二成形層12とを有する射出成形品1を成形することができる。
【0028】
最後に、下型22を図の下方向へ移動させて型開きし、射出成形品1を射出成形型20から取り出す。以上の各工程により、射出成形品1を成形することができる。
【0029】
ところで、第一成形層11の成形後、第一成形層11が冷却されて収縮することにより、第一成形層11と固定部23との間に隙間が生じる。本実施形態では、
図2(C)に示すように、第二キャビティ32に隣接した位置で、第一成形層11の溝部13に、固定部23の凸部23aが嵌合している。つまり、第二キャビティ32に隣接した位置で、図の上下方向にわたって設けられた固定部23が壁になっており、上記の隙間は、第一成形層11の凸部23aに接する面と凸部23aの抜き勾配の部分との間{
図2(C)の部分A参照}で、図の上下方向にわたって生じることになる。この状態で、第二の樹脂材を第二キャビティ32に射出することにより、漏れ出した第二の樹脂材が上記隙間に流れ込み、
図2(D)に示すように、凸部23aに沿って図の下方向へ延在する漏出部12aが形成される。
【0030】
本実施形態のように、第一成形層11が、第二成形層12との見切り部分X(
図1参照)に隣接した位置に溝部13を有することにより、射出成形品1の外観において、漏出部12aを目立たなくすることができる。つまり、
図2(D)に示すように、漏出部12aが凸部23aに沿って形成されることで、漏出部12aが溝部13内へ入り込む方向へ形成されることになり、
図3に示すように、射出成形品1の外観上、漏出部12aが溝部13内に隠されて見えにくくなる。特に、漏出部12aと第一成形層11との境界が溝部13によって隠されるため、漏出部12aによって射出成形品1の外観に悪影響を与えることを防止できる。
【0031】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【0032】
図4に本発明の射出成形方法により成形される射出成形品の一例として、インストルメントパネル全体の斜視図を示す。
図4に示すインストルメントパネル40は、異なる樹脂材により形成された第一成形層41と第二成形層42とからなる。例えば、第一成形層41は、所要の機械的特性(強度や剛性など)を示す樹脂材により形成され、第二成形層42は、意匠品質の向上を目的として、所定の色彩、光沢感、質感などの外観特性を示しうる樹脂材により形成される。第一成形層41および第二成形層42、そして、両者の見切り部分Xは、インストルメントパネル40の意匠面を構成している。
【0033】
本実施形態のインストルメントパネル40においても、
図1で示した射出成形品1と同様、第一成形層41の見切り部分Xに隣接した位置に、前述した溝部を設けることにより、第二成形層42の成形時に第二の樹脂材が漏れ出した場合でも、溝部によって漏出部を隠し、見切り部分Xの外観に悪影響を与えることを防止できる。
【0034】
以上の説明では、射出成形品1が異なる樹脂材からなる第一成形層11と第二成形層12との二つの層を有するものとしたが、それぞれ異なる樹脂材からなる三つ以上の層を有していてもよい。
【0035】
以上で説明した、積層方向と反対方向へ設けられた溝部13の、「積層方向」とは、見切り部分Xに隣接した位置における、第二成形層12が第一成形層11に対して積層している方向であり、必ずしも第二成形層12全体の第一成形層11に対する積層方向と同一とは限らない。
【0036】
以上の説明では、同一型にスライド型を設けて、第一成形層および第二成形層を成形する場合(
図2参照)を示したが、第一成形層を成形後、型交換をして、第一成形層と異なる成形型により第二成形層を成形してもよい。また、
図5(A)に示すように、上型(一方の成形型)25が第一成形層を成形する第一成形部25aと第二成形層を成形する第二成形部25bとを有し、第一成形部25aと下型(他方の成形型)22との間で第一成形層を成形後、上型25が図の左方向へスライドし、第二成形部25bと下型22との間で第二成形層を成形する構成とすることもできるし、
図5(B)に示すように、上型26(一方の成形型)の一方側に第一成形層を成形するための第一成形面261を、他方側に第二成形層を成形するための第二成形面262をそれぞれ設け、第一成形面261と下型22との間で第一成形層を成形後、上型26を回転させ、第二成形面262と下型22との間で第二成形層を成形する構成とすることもできる。
【0037】
1 射出成形品
11 第一成形層
12 第二成形層
13 溝部(凹部)
20 射出成形型
21 上型(一方の成形型)
22 下型(他方の成形型)
23 固定部
23a 凸部
24 スライド型
31 第一キャビティ
32 第二キャビティ
X 見切り部分