(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】測距装置および測距方法
(51)【国際特許分類】
G01C 3/06 20060101AFI20221109BHJP
G01B 11/00 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
G01C3/06 110W
G01B11/00 H
(21)【出願番号】P 2019003332
(22)【出願日】2019-01-11
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100111453
【氏名又は名称】櫻井 智
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 圭太
(72)【発明者】
【氏名】迫田 尚和
【審査官】飯村 悠斗
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-329852(JP,A)
【文献】特開2014-215039(JP,A)
【文献】特開2013-222254(JP,A)
【文献】特開2017-219440(JP,A)
【文献】特開2013-156109(JP,A)
【文献】国際公開第2014/006832(WO,A1)
【文献】特開2017-167079(JP,A)
【文献】特開2013-134667(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 3/00- 3/32
G01B 11/00-11/30
G01B 21/00-21/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステレオカメラと、
発光部と、
前記ステレオカメラが撮影した測距対象の画像を基にして、前記測距対象までの距離を測定する第1の測距と、前記発光部が前記測距対象に光ビームを照射して、反射されてきた反射光を基にして、前記測距対象までの距離を測定する第2の測距と、を選択して実行する測距部と、
前記測距対象までの空間に存在する粉塵により、前記第1の測距ができるか否かを判定する判定部と、を備え、
前記測距部は、前記第1の測距ができない判定がされたとき、前記第2の測距を実行し、前記第1の測距ができる判定がされたとき、前記第1の測距を実行し、
前記判定部は、前記粉塵の濃度を示す指標値を予め定められたしきい値と比較し、前記指標値が前記しきい値を超えているとき、前記第1の測距ができないと判定し、前記指標値が前記しきい値以下のとき、前記第1の測距ができると判定し、
前記指標値は、前記画像に対するエッジ検出によって検出された、前記画像に写る前記測距対象のエッジを構成する画素の数を基にしている、測距装置。
【請求項2】
前記エッジ検出によって検出された前記測距対象のエッジを構成する画素の数をn1とし、前記画像に写る、前記測距対象が発生するエリアの面積を構成する画素の数をn2とし、前記エッジ検出によって検出されたエッジを構成する画素の数をn3とし、前記エッジ検出によって検出された前記エリアの形状を示すエッジを構成する画素の数をn4としたとき、前記指標値は下記式で示される、請求項1記載の測距装置。
n1=n3-n4
指標値=n1/n2
【請求項3】
前記測距装置は、ゴミ焼却炉および前記ゴミ焼却炉と連結された配管の少なくとも一方である製品の外部に配置され、前記製品に設けられた、前記製品の内部につながる貫通穴を介して、前記内部に発生した前記測距対象までの距離を測定する、請求項
1に記載の測距装置。
【請求項4】
ステレオカメラと、
発光部と、
前記ステレオカメラが撮影した測距対象の画像を基にして、前記測距対象までの距離を測定する第1の測距と、前記発光部が前記測距対象に光ビームを照射して、反射されてきた反射光を基にして、前記測距対象までの距離を測定する第2の測距と、を選択して実行する測距部と、
前記測距対象までの空間に存在する粉塵により、前記第1の測距ができるか否かを判定する判定部と、を備え
る測距装置であって、
前記測距部は、前記第1の測距ができない判定がされたとき、前記第2の測距を実行し、前記第1の測距ができる判定がされたとき、前記第1の測距を実行し、
前記測距装置は、ゴミ焼却炉および前記ゴミ焼却炉と連結された配管の少なくとも一方である製品の外部に配置され、前記製品に設けられた、前記製品の内部につながる貫通穴を介して、前記内部に発生した前記測距対象までの距離を測定する、測距装置。
【請求項5】
前記ステレオカメラを構成する一方のカメラと他方のカメラとの間隔は、前記一方のカメラおよび前記他方のカメラが前記貫通穴を介して前記測距対象の撮影が可能となる前記間隔の最大値である、請求項4に記載の測距装置。
【請求項6】
前記発光部は、赤色の波長帯より短い波長帯に含まれる波長を有する前記光ビームを前記測距対象に照射し、
前記測距装置は、前記ステレオカメラと前記貫通穴との間に配置され、前記光ビームの波長に対して透過性を有し、前記赤色の波長帯以上をカットする光学フィルタをさらに備え、
前記測距部は、前記ステレオカメラを構成するカメラの一つを用いて撮影された前記反射光の画像を基にして、三角測量方式で前記測距対象までの距離を測定する前記第2の測距を実行する、請求項4または5に記載の測距装置。
【請求項7】
ステレオカメラが撮影した測距対象の画像を基にして、前記測距対象までの距離を測定する第1の測距と、発光部が前記測距対象に光ビームを照射して、反射されてきた反射光を基にして、前記測距対象までの距離を測定する第2の測距と、を選択して実行する測距方法であって、
前記測距対象までの空間に存在する粉塵により、前記第1の測距ができるか否かを判定する判定ステップと、
前記第1の測距ができない判定がされたとき、前記第2の測距を実行し、前記第1の測距ができる判定がされたとき、前記第1の測距を実行する測距ステップと、を備え、
前記判定ステップは、前記粉塵の濃度を示す指標値を予め定められたしきい値と比較し、前記指標値が前記しきい値を超えているとき、前記第1の測距ができないと判定し、前記指標値が前記しきい値以下のとき、前記第1の測距ができると判定し、
前記指標値は、前記画像に対するエッジ検出によって検出された、前記画像に写る前記測距対象のエッジを構成する画素の数を基にしている、測距方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測距装置および測距方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴミ焼却施設において、ゴミ焼却炉およびこれと通じる配管には、ゴミ焼却によって発生した粉塵等が堆積した堆積物(例えば、クリンカ)が付着し、堆積物が徐々に成長する。ゴミ焼却炉に堆積物が成長すると、堆積物が炉内の気体の対流を阻害し、焼却不良が発生する。配管に堆積物が成長すると、配管を通る気体の流れが悪くなり、最悪、配管が詰まる。このため、ゴミ焼却炉および配管に付着した堆積物の厚みを監視する必要がある。
【0003】
例えば、特許文献1は、ステレオカメラを用いた測距によって、高温炉(例えば、ゴミ焼却炉)に堆積した堆積物の厚みを監視する技術を開示する。例えば、特許文献2は、レーザ光を用いた測距によって、ゴミ焼却炉と連結された配管に堆積した堆積物の厚みを監視する技術を開示する。
【0004】
ステレオカメラを用いた測距とは、複数箇所に設置されたカメラが撮影した測距対象の画像を基にして、三角測量の原理で測距対象までの距離を測定する。
【0005】
レーザ光を用いた測距とは、レーザ光を測距対象に照射し、測距対象から反射されてきた反射光を基にして、測距対象までの距離を測定する。レーザ光を用いた測距の方式には、三角測距方式、位相差検出方式、TOF(Time of Flight)方式がある。光源としてレーザ装置の替わりにLEDを用いることもできるので、レーザ光を用いた測距の替わりに、光ビームを用いた測距と記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-85069号公報
【文献】特開2017-219440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ステレオカメラを用いた測距、光ビームを用いた測距は、それぞれ長所と短所を有する。本発明者は、測距対象が置かれた環境に応じて、これらの測距を使い分けることができる測距技術について検討した。
【0008】
本発明の目的は、測距対象が置かれた環境に応じて、ステレオカメラを用いた測距と光ビームを用いた測距とを使い分けることができる測距装置および測距方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1局面に係る測距装置は、ステレオカメラと、発光部と、前記ステレオカメラが撮影した測距対象の画像を基にして、前記測距対象までの距離を測定する第1の測距と、前記発光部が前記測距対象に光ビームを照射して、反射されてきた反射光を基にして、前記測距対象までの距離を測定する第2の測距と、を選択して実行する測距部と、前記測距対象までの空間に存在する粉塵により、前記第1の測距ができるか否かを判定する判定部と、を備え、前記測距部は、前記第1の測距ができない判定がされたとき、前記第2の測距を実行し、前記第1の測距ができる判定がされたとき、前記第1の測距を実行する。
【0010】
本発明者は、測距対象までの空間に存在する粉塵(塵埃)に着目した。第1の測距(ステレオカメラを用いた測距)は、測距範囲が広い長所を有し、測距対象までの空間に浮遊する粉塵の影響を受けやすい短所を有する(粉塵の濃度が高くなると、測距が不可能となる)。第2の測距(光ビームを用いた測距)は、測距対象までの空間に浮遊する粉塵の影響を受けにくい長所を有し(粉塵の濃度が高くても測距が可能である)、測距範囲が狭い短所を有する。
【0011】
本発明の第1局面に係る測距装置は、測距対象までの空間に浮遊する粉塵により、第1の測距ができない判定をしたとき、第2の測距を実行し、第1の測距ができる判定をしたとき、第1の測距を実行する。従って、本発明の第1局面に係る測距装置によれば、測距対象が置かれた環境に応じて、ステレオカメラを用いた測距と光ビームを用いた測距とを使い分けることができる。
【0012】
上記構成において、前記判定部は、前記粉塵の濃度を示す指標値を予め定められたしきい値と比較し、前記指標値が前記しきい値を超えているとき、前記第1の測距ができないと判定し、前記指標値が前記しきい値以下のとき、前記第1の測距ができると判定し、前記指標値は、前記画像に対するエッジ検出によって検出された、前記画像に写る前記測距対象のエッジを構成する画素の数を基にしている。
【0013】
測距対象までの空間に浮遊する粉塵の濃度が低いとき、ステレオカメラが撮影した画像には、測距対象が有する凹凸形状が反映され、凹凸形状を有する測距対象が写る。これに対して、測距対象までの空間に浮遊する粉塵の濃度が高いとき、ステレオカメラが撮影した画像には、測距対象が有する凹凸形状が反映されず、平坦な測距対象が写る。
【0014】
本発明者は、ステレオカメラが撮影した測距対象の画像に対するエッジ検出によって検出された、その画像に写る測距対象のエッジを構成する画素の数と、粉塵の濃度とは正の相関関係を有することを見出した。従って、上記画素の数を基にして、粉塵の濃度を示す指標値を定めることができる。判定部は、この指標値を用いて、第1の測距ができるか否かを判定する。
【0015】
上記構成において、前記エッジ検出によって検出された前記測距対象のエッジを構成する画素の数をn1とし、前記画像に写る、前記測距対象が発生するエリアの面積を構成する画素の数をn2とし、前記エッジ検出によって検出されたエッジを構成する画素の数をn3とし、前記エッジ検出によって検出された前記エリアの形状を示すエッジを構成する画素の数をn4としたとき、前記指標値は下記式で示される。
n1=n3-n4
指標値=n1/n2
【0016】
この構成は、指標値の一例を示す。なお、n1自体を指標値にしてもよい。ここでは、レンズが粉塵に汚染されてステレオカメラの視野が狭くなる等の要因によって測距対象が発生するエリアの計測面積が変化することを考慮して、n1/n2を指標値として挙げている。
【0017】
上記構成において、前記測距装置は、ゴミ焼却炉および前記ゴミ焼却炉と連結された配管の少なくとも一方である製品の外部に配置され、前記製品に設けられた、前記製品の内部につながる貫通穴を介して、前記内部に発生した前記測距対象までの距離を測定する。
【0018】
製品の内部(ゴミ焼却炉内、配管内)には、測距対象となる堆積物が堆積するので、測距装置を用いて堆積物の厚みを監視する必要がある。測距装置が製品の内部に配置される場合、測距装置を冷却するための設備(冷却用配管等)も製品の内部に配置される必要がある。この場合、測距装置、および、これを冷却するための設備が、製品の内部に配置されているので、これらのメンテナンスに手間を要する。この構成によれば、測距装置、および、これを冷却するための設備が、製品の外部に配置されるので、これらのメンテナンスに手間がかかることはない。
【0019】
測距装置が製品の内部に配置される場合、測距装置に測距対象が付着することにより、ステレオカメラの視野が妨げられることがある。この構成によれば、測距装置が製品の外部に配置されるので、このようなことは発生しない。
【0020】
上記構成において、前記ステレオカメラを構成する一方のカメラと他方のカメラとの間隔は、前記一方のカメラおよび前記他方のカメラが前記貫通穴を介して前記測距対象の撮影が可能となる前記間隔の最大値である。
【0021】
一方のカメラと他方のカメラとの間隔が大きいほど、第1の測距の精度が向上する。測距装置は、製品の外部に配置されており、これらのカメラは、貫通穴を介して製品の内部の測距対象を撮影する。このため、これらのカメラの視野をそれぞれ確保するために、これらのカメラの間隔は、貫通穴の直径の制約を受け、上限値(最大値)がある。この構成によれは、その間隔を最大値に設定することにより、第1の測距の精度を可能な限り向上させている。
【0022】
上記構成において、前記発光部は、赤色の波長帯より短い波長帯に含まれる波長を有する前記光ビームを前記測距対象に照射し、前記測距装置は、前記ステレオカメラと前記貫通穴との間に配置され、前記光ビームの波長に対して透過性を有し、前記赤色の波長帯以上をカットする光学フィルタをさらに備え、前記測距部は、前記ステレオカメラを構成するカメラの一つを用いて撮影された前記反射光の画像を基にして、三角測量方式で前記測距対象までの距離を測定する前記第2の測距を実行する。
【0023】
製品の内部は、高温なので、内部から検出される光は、赤色の波長帯以上の波長帯の強度が高い。このため、赤色の波長帯以上の波長帯では、ノイズの強度も高くなる。この構成では、光学フィルタ(例えば、バンドパスフィルタ)によって、赤色の波長帯以上をカットしている。従って、ステレオカメラで撮影された測距対象の画像、および、ステレオカメラを構成するカメラの一つを用いて撮影された反射光の画像は、それぞれ、SN比を向上させることができる。
【0024】
本発明の第2局面に係る測距方法は、ステレオカメラが撮影した測距対象の画像を基にして、前記測距対象までの距離を測定する第1の測距と、発光部が前記測距対象に光ビームを照射して、反射されてきた反射光を基にして、前記測距対象までの距離を測定する第2の測距と、を選択して実行する測距方法であって、前記測距対象までの空間に存在する粉塵により、前記第1の測距ができるか否かを判定する判定ステップと、前記第1の測距ができない判定がされたとき、前記第2の測距を実行し、前記第1の測距ができる判定がされたとき、前記第1の測距を実行する測距ステップと、を備え、前記判定ステップは、前記粉塵の濃度を示す指標値を予め定められたしきい値と比較し、前記指標値が前記しきい値を超えているとき、前記第1の測距ができないと判定し、前記指標値が前記しきい値以下のとき、前記第1の測距ができると判定し、前記指標値は、前記画像に対するエッジ検出によって検出された、前記画像に写る前記測距対象のエッジを構成する画素の数を基にしている。
【0025】
本発明の第2局面に係る測距方法は、本発明の第1局面に係る測距装置を方法の観点から規定しており、本発明の第1局面に係る測距装置と同様の作用効果を有する。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、測距対象が置かれた環境に応じて、ステレオカメラを用いた測距と光ビームを用いた測距とを使い分けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】実施形態に係る測距装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】
図1に示す測距装置と、この測距装置が配置された配管との関係を示す模式図である。
【
図5】溶融炉の内部で燃焼中に、配管の内部で測定されたスペクトルを示すグラフである。
【
図6】配管の内部に浮遊する粉塵の濃度が低い状態において、ステレオカメラが撮影した配管の内部の画像を示す画像図である。
【
図7】配管の内部に浮遊する粉塵の濃度が高い状態において、ステレオカメラの一方のカメラが撮影した配管の内部の画像を示す画像図である。
【
図8】指標値を算出する工程を説明するフローチャートである。
【
図9】二値化処理された画像の一例を示す画像図である。
【
図10】エッジ検出処理がされた画像の一例を示す画像図である。
【
図11】堆積物のエッジを示す画像の一例を示す画像図である。
【
図12】実施形態に係る測距装置の動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳細に説明する。各図において、同一符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、その構成について、既に説明している内容については、その説明を省略する。本明細書において、総称する場合にはハイフンを省略した参照符号で示し(例えば、カメラ20)、個別の構成を指す場合にはハイフンを付した参照符号で示す(例えば、カメラ20-1、カメラ20-2)。
【0029】
図1は、実施形態に係る測距装置100の構成を示すブロック図である。
図2は、ガス化溶融炉200の一部を示す模式図である。
図3は、測距装置100と、測距装置100が配置された配管203との関係を示す模式図である。
図2を参照して、ガス化溶融炉200は、溶融炉201と、ボイラ202と、これらをつなぐ配管203と、を備える。溶融炉201には、ゴミが熱分解されることによって生成された可燃性ガスおよびチャー(炭状の未然物)が供給される。溶融炉201で、これらが燃焼される。燃焼により生成されたスラグは、出滓口204から排出される。燃焼により発生した熱は、ボイラ202によって回収され、蒸気が発生する。
【0030】
配管203の内壁には、測距対象の一例である堆積物300が付着している。堆積物300は、クリンカ(溶結状の灰)であり、溶融炉201で可燃性ガスおよびチャーが燃焼されたときに発生した粉塵が堆積することにより生成される。配管203の内壁に付着した堆積物300の厚みを監視するために、測距装置100が用いられる。測距装置100の配置位置P1は、配管203の外部の上側である。
【0031】
図1および
図3を参照して、測距装置100は、本体部1と、ステレオカメラ2と、バンドパスフィルタ3と、発光部4と、筐体5と、を備える。本体部1、ステレオカメラ2、バンドパスフィルタ3および発光部4は、筐体5の内部に配置されている。筐体5の前面には、ガラス窓部50が形成されている。
【0032】
配管203には、配管203の内部を観察できるポート7が形成されている。ポート7はノズルと称されることがある。ポート7は、ポート本体71と、フランジ72と、を備える。ポート本体71は、配管203と通じる貫通穴73を有する短い筒状の部材である。フランジ72は、ポート本体71の上端部の周囲に形成されている。測距装置100は、ガラス窓部50を貫通穴73と対向させて、フランジ72に固定される。
【0033】
ステレオカメラ2は、2台のカメラ20により構成される。カメラ20は、可視光カメラである。カメラ20-1のレンズ21-1の前面にはバンドパスフィルタ3-1が取り付けられており、カメラ20-2のレンズ21-2の前面にはバンドパスフィルタ3-2が取り付けられている。バンドパスフィルタ3の詳細は、後で説明する。
【0034】
カメラ20-1のレンズ21-1は、ガラス窓部50-1と対向して配置されている。カメラ20-1の画角は、ガラス窓部50-1および貫通穴73を介して 配管203の内部に設定されている。同様に、カメラ20-2のレンズ21-2は、ガラス窓部50-2と対向して配置されている。カメラ20-2の画角は、ガラス窓部50-2および貫通穴73を介して 配管203の内部に設定されている。
【0035】
カメラ20の画角(視野)に堆積物300が存在すると、堆積物300の厚みが大きくなるに従って、測定された距離が短くなる。配管203の内部に堆積物300が存在しない状態で測定された距離と、配管203の内部に堆積物300が存在した状態で測定された距離との差が、堆積物300の厚みとなる。
【0036】
発光部4は、例えば、レーザダイオードである。発光部4の出力は、例えば、40mWである。発光部4が出射する光ビームLの波長は、例えば、520nmである。レーザダイオードの替わりに発光ダイオードでもよい。
【0037】
発光部4は、ガラス窓部50-3と対向して配置されている。発光部4は、ガラス窓部50-3および貫通穴73を介して、配管203の内部の測定点P2に光ビームLを照射する。測定点P2は、カメラ20-1の画角およびカメラ20-2の画角に入る範囲に設定されている。測定点P2に堆積物300が存在すると、堆積物300の厚みが大きくなるに従って、測定点P2までの距離が短くなる。配管203の内部に堆積物300が存在しない状態で測定された測定点P2までの距離と、配管203の内部に堆積物300が存在した状態で測定された測定点P2までの距離との差が、堆積物300の厚みとなる。
【0038】
図1を参照して、本体部1は、機能ブロックとして、制御処理部10と、通信部11と、測距部12と、判定部13と、を備えるコンピュータ装置である。制御処理部10、測距部12および判定部13は、ハードウェアプロセッサである。詳しくは、これらは、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、及び、HDD(Hard Disk Drive)等のハードウェア、上記機能ブロックの機能を実行するためのプログラム及びデータ等によって実現される。
【0039】
制御処理部10は、本体部1の各部(通信部11、測距部12、判定部13)を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御するための装置である。
【0040】
通信部11は、制御処理部10の制御に従って通信を行うための通信回路である。通信部11は、ガス化溶融炉200(
図2)を制御する中央制御室400に配置されたコンピュータ装置401と通信する。通信部11は、通信インターフェース回路によって実現される。
【0041】
測距部12は、第1の測距と第2の測距とを選択的に実行する。第1の測距は、ステレオカメラ2を用いた測距である。測距部12は、ステレオカメラ2が撮影した堆積物300の画像、すなわち、カメラ20-1およびカメラ20-1がそれぞれ撮影した堆積物300の画像を基にして、三角測量方式で堆積物300までの距離を測定する。測距部12は、測定した距離を基にして堆積物300の厚みを算出する。
【0042】
第2の測距は、光ビームLを用いた測距である。第2の測距には、発光部4とステレオカメラ2の一方のカメラ20が用いられる。一方のカメラ20は、発光部4が測定点P2に光ビームLを照射して、反射されてきた反射光の画像を撮影する。測距部12は、反射光の画像を基にして、三角測量方式で、測定点P2までの距離を測定する。測距部12は、測定した距離を基にして、堆積物300の厚みを算出する。
【0043】
制御処理部10は、コンピュータ装置401を宛先として、測距部12が算出した堆積物300の厚みを示す厚み情報を、通信部11に送信させる。コンピュータ装置401は、受信した厚み情報が示す厚みを、コンピュータ装置401のディスプレイに表示させる。
【0044】
判定部13は、堆積物300までの空間に存在する粉塵(塵埃)により、第1の測距ができるか否かを判定する。測距部12は、判定部13が第1の測距をできない判定をしたとき、第2の測距を実行し、判定部13が第1の測距をできる判定をしたとき、第1の測距を実行する。
【0045】
ステレオカメラ2と発光部4の配置関係について説明する。
図4は、ポート7を上方からみた平面図である。
図3および
図4を参照して、ポート7に形成された貫通穴73の直径Dは、例えば、80mmであり、フランジ72を含むポート7の直径は、例えば、160mmである。ステレオカメラ2を構成するカメラ20-1とカメラ20-2との間隔Sは、カメラ20-1およびカメラ20-2が貫通穴73を介して堆積物300(測距対象)の撮影が可能となる間隔Sの最大値にされている。
【0046】
2つのカメラ20の間隔Sが大きいほど、ステレオカメラ2を用いた測距(第1の測距)の精度が向上する。測距装置100は、配管203の外部に配置されており、2つのカメラ20は、貫通穴73を介して配管203の内部の堆積物300を撮影する。このため、2つのカメラ20のそれぞれの視野を確保するために、2つのカメラ20の間隔Sは、貫通穴73の直径Dの制約を受け、上限値(最大値)がある。実施形態によれは、間隔Sを最大値に設定することにより、ステレオカメラ2を用いた測距の精度を可能な限り向上させている。
【0047】
具体的に説明する。平面視した貫通穴73の中心を中央にして、一方側にカメラ20-1が配置され、他方側にカメラ20-2が配置されている。中央からカメラ20-1までの距離、中央からカメラ20-2までの距離がそれぞれ、40mmとする(従って、2つカメラ20の間隔Sは、80mmとなる)。この場合、計算によれば、ステレオカメラ2を用いた測距(第1の測距)は、誤差±35mm程度にできることが分かった。
【0048】
発光部4は、カメラ20-1とカメラ20-2との間であって、平面視した貫通穴73の中心に配置されている。発光部4とカメラ20-1との間隔および発光部4とカメラ20-1との間隔はそれぞれ、40mmとなる。この場合、計算によれば、光ビームLを用いた測距(第2の測距)の誤差は、±100mm程度にできることが分かった。
【0049】
バンドパスフィルタ3(光学フィルタの一例)について説明する。
図5は、溶融炉201の内部で燃焼中に、配管203(
図2)の内部で測定されたスペクトルを示すグラフである。グラフの横軸は、スペクトルの波長を示す。グラフの左縦軸は、分光器が出力した分光強度を示す。グラフの右縦軸は、ハイパースペクトルカメラが出力した分光強度を示す。分光器、ハイパースペクトルカメラのそれぞれを用いて、スペクトルを測定した。
【0050】
溶融炉201の内部は、高温なので、これと接続された配管203の内部も高温となる。従って、測定されたスペクトルは、赤色の波長帯以上の波長帯の強度が高い。このため、赤色の波長帯以上の波長帯では、ノイズの強度も高くなる。また、Na等の元素に起因する輝線を示す波長があり(例えば、580nm付近)、これはノイズとなる。バンドパスフィルタ3は、光ビームLの波長(例えば、520nm)を含む波長帯(例えば、524nm±46nm)に対して透過性を有し、これ以外の波長帯をカットする。従って、ステレオカメラ2(カメラ20-1,20-2)で撮影された堆積物300の画像、および、ステレオカメラ2を構成するカメラ20の一つを用いて撮影された反射光の画像は、それぞれ、SN比を向上させることができる。
【0051】
図1および
図3を参照して、判定部13は、配管203の内部に浮遊している粉塵の濃度を示す指標値を予め定められたしきい値と比較し、指標値がしきい値を超えているとき、第1の測距ができないと判定し、指標値がしきい値以下のとき、第1の測距ができると判定する。指標値は、ステレオカメラ2が撮影した堆積物300の画像に対するエッジ検出によって検出された、その画像に写る堆積物300のエッジを構成する画素の数を基にしている。
【0052】
指標値について詳しく説明する。
図6は、配管203の内部に浮遊する粉塵の濃度が低い状態において、ステレオカメラ2が撮影した配管203の内部の画像Im1を示す画像図である。
図3および
図6を参照して、画像Im1-1は、カメラ20-1(左カメラ)が撮影した画像である。画像Im1-2は、カメラ20-2(右カメラ)が撮影した画像である。画像Im1は、貫通穴73を介して撮影されているので、配管203の内部のうち、貫通穴73と対向する部分が写されている。この部分に堆積した堆積物300が画像Im1に写るので、この部分を、堆積物300が堆積するエリア301(測距対象が発生するエリア)とする。エリア301の全体に堆積物300が堆積している。貫通穴73の内壁に堆積物(不図示)が堆積していなければ、エリア301の形状は、円形となる。貫通穴73の内壁に堆積物(不図示)が堆積していれば、エリア301の形状は、円形とならずに、この堆積物の形状を反映したいびつな形状となる。
【0053】
配管203の内部に浮遊する粉塵(測距対象までの空間に浮遊する粉塵)の濃度が低いとき、ステレオカメラ2が撮影した画像Im1には、堆積物300が有する凹凸形状が反映され、凹凸形状を有する堆積物300が写る。画像Im1-1に写された堆積物300の一部分302と、画像Im1-2に写された堆積物300の一部分303とは同じである。堆積物300の一部分302,303は、見やすくするために、白点線で囲む処理がされている。
【0054】
これに対して、配管203の内部に浮遊する粉塵の濃度が高いとき、ステレオカメラ2が撮影した画像Im1には、堆積物300が有する凹凸形状が反映されず、平坦な堆積物300が写る。これを
図7に示す。
図7は、配管203の内部に浮遊する粉塵の濃度が高い状態において、ステレオカメラ2の一方のカメラ20-1(左カメラ)が撮影した配管203の内部の画像Im1-3を示す画像図である。画像Im1-3において、堆積物300の表面の凹凸形状がほとんど写されていない。なお、画像Im1-3は、発光部4が光ビームLを堆積物300に照射した状態で撮影されており、光ビームLの反射光RLは写されている。
【0055】
本発明者は、ステレオカメラ2が撮影した堆積物300の画像Im1に対するエッジ検出によって検出された、画像Im1に写る堆積物300のエッジを構成する画素の数と、粉塵の濃度とは正の相関関係を有することを見出した。従って、上記画素の数を基にして、粉塵の濃度を示す指標値を定めることができる。判定部13は、この指標値を用いて、第1の測距ができるか否かを判定する。
【0056】
指標値の例を説明する。エッジ検出によって検出された堆積物300(測距対象)のエッジを構成する画素の数をn1とし、画像Im1に写る、エリア301(測距対象が発生するエリア)の面積を構成する画素の数をn2とし、エッジ検出によって検出されたエッジを構成する画素の数をn3とし、エッジ検出によって検出されたエリア301の形状(外形)を示すエッジを構成する画素の数をn4としたとき、指標値は下記式で示される。
n1=n3-n4
指標値=n1/n2
【0057】
この指標値を算出する工程について説明する。
図8は、この工程を説明するフローチャートである。
図1および
図8を参照して、判定部13は、ステレオカメラ2の一方のカメラ20が撮影した堆積物300の画像Im1(不図示)に対して、二値化処理をする(ステップS1)。これにより、二値化処理された画像Im2が生成される。
図9は、画像Im2の一例を示す画像図である。
【0058】
判定部13は、画像Im2に対してエッジ検出処理をする(ステップS2)。これにより、エッジ検出処理がされた画像Im3が生成される。
図10は、画像Im3の一例を示す画像図である。エリア301内において、堆積物300の複数のエッジ304が検出されている。これらのエッジ304を構成する画素の数が、n1となる。これに加えて、エリア301の形状(外形)を示す線もエッジ305として検出されている。エッジ305を構成する画素の数が、n4となる。従って、エッジ検出によって検出されたエッジを構成する画素の数n3は、n1+n4となる(すなわち、n1=n3-n4)。
【0059】
判定部13は、画像Im3からエッジ305を除去する(ステップS3)。これにより、堆積物300のエッジ304を示す画像Im4が生成される。
図11は、画像Im4の一例を示す画像図である。
【0060】
判定部13は、
図11に示す画像Im4に写された堆積物300のエッジ304を構成する画素の数n1をカウントし、
図9に示す画像Im2に写されたエリア301の面積を構成する画素の数n2をカウントする(ステップS4)。
【0061】
判定部13は、指標値(=n1/n2)を算出する(ステップS5)。
【0062】
次に、測距装置100の動作について説明する。
図12は、この動作を説明するフローチャートである。
図1および
図12を参照して、測距装置100に測距を開始する命令がされると、判定部13は、指標値を算出する(ステップS11)。これについては、
図8で説明した。判定部13は、指標値が予め定められたしきい値を超えているか否かを判断する(ステップS12)。
【0063】
判定部13が、指標値がしきい値以下と判定したとき(ステップS12でNo)、測距部12は、第1の測距(ステレオカメラ2を用いた測距)を実行する(ステップS13)。測距部12は、測距を終了する命令がされたか否かを判断する(ステップS14)。測距部12は、測距を終了する命令がされたと判断したとき(ステップS14でYes)、測距を終了する(ステップS15)。測距部12は、測距を終了する命令がされていないと判断したとき(ステップS14でNo)、測距装置100は、ステップS11の処理に戻る。
【0064】
判定部13が、指標値がしきい値を超えていると判定したとき(ステップS12でYes)、測距部12は、第2の測距(光ビームLを用いた測距)を実行し(ステップS16)、測距装置100はステップS14を実行する。
【0065】
実施形態の主な効果を説明する。
図3を参照して、本発明者は、配管203(測距対象までの空間)に浮遊する粉塵に着目した。第1の測距(ステレオカメラ2を用いた測距)は、測距範囲が広い長所を有し、配管203に存在する粉塵の影響を受けやすい短所を有する(粉塵の濃度が高くなると、測距が不可能となる)。第2の測距(光ビームLを用いた測距)は、配管203に浮遊する粉塵の影響を受けにくい長所を有し(粉塵の濃度が高くても測距が可能である)、測距範囲が狭い短所を有する。
【0066】
図3および
図12を参照して、測距装置100は、配管203に浮遊する粉塵により、第1の測距ができない判定をしたとき(ステップS12でYes)、第2の測距を実行し(ステップS16)、第1の測距ができる判定をしたとき(ステップS12でNo)、第1の測距を実行する(ステップS13)。従って、実施形態によれば、堆積物300(測距対象)が置かれた環境に応じて、ステレオカメラ2を用いた測距と光ビームLを用いた測距とを使い分けることができる。
【0067】
測距装置100が配管203(製品)の内部に配置される場合、測距装置100を冷却するための設備(冷却用配管等)も配管203の内部に配置される必要がある。この場合、測距装置100、および、これを冷却するための設備が、配管203の内部に配置されているので、これらのメンテナンスに手間を要する。実施形態によれば、測距装置100、および、これを冷却するための設備(不図示)が、配管203の外部に配置されるので、これらのメンテナンスに手間がかかることはない。
【0068】
測距装置100が配管203の内部に配置される場合、測距装置100に堆積物300が付着することにより、ステレオカメラ2の視野が妨げられることがある。実施形態によれば、測距装置100が配管203の外部に配置されるので、このようなことは発生しない。
【符号の説明】
【0069】
2 ステレオカメラ
20(20-1,20-2) カメラ
3(3-1,3-2) バンドパスフィルタ
4 発光部
7 ポート(ノズル)
71 ポート本体
72 フランジ
73 貫通穴
100 測距装置
203 配管
300 堆積物(測距対象の一例)
301 堆積物が堆積するエリア
302,303 堆積物の一部分
304,305 エッジ
D 貫通穴の直径
L 光ビーム
P1 配置位置
P2 測定点
RL 反射光
S 2つのカメラの間隔