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特許7173887半導体装置、モータ駆動制御装置、およびモータユニット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】半導体装置、モータ駆動制御装置、およびモータユニット
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/024 20160101AFI20221109BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20221109BHJP
【FI】
H02P29/024
H02M7/48 M
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019016750
(22)【出願日】2019-02-01
(65)【公開番号】P2020127250
(43)【公開日】2020-08-20
【審査請求日】2021-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】青木 政人
【審査官】柏崎 翔
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-72807(JP,A)
【文献】特開2014-100002(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/024
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象に流れる電流を表すアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換部と、
前記アナログ信号に基づいて、前記制御対象に流れる電流が過電流閾値を超えた場合に前記制御対象において過電流が発生したと判定し、前記制御対象に流れる電流が過電流閾値を超えていない場合に前記制御対象において過電流が発生していないと判定する過電流判定部と、
前記A/D変換部の変換結果に基づいて、前記制御対象に流れる電流が目標電流に一致するように、前記制御対象の駆動を制御するための駆動制御信号を生成するとともに、前記過電流判定部によって過電流が発生したと判定された場合に、前記制御対象に流れる電流を減らすように前記駆動制御信号を生成する駆動制御信号生成部と、
前記A/D変換部の変換結果と前記目標電流とに基づいて、前記過電流閾値を設定する過電流閾値設定部と、を有し、
前記過電流閾値設定部は、前記A/D変換部の変換結果が前記目標電流よりも大きい場合に、前記過電流閾値を低下させ、前記A/D変換部の変換結果が前記目標電流よりも小さい場合に、前記過電流閾値を上昇させる
ことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
請求項に記載の半導体装置において、
前記過電流閾値設定部は、前記A/D変換部の変換結果が前記目標電流を基準とする所定の電流範囲よりも大きい場合に、前記過電流閾値を低下させ、前記A/D変換部の変換結果が前記所定の電流範囲よりも小さい場合に、前記過電流閾値を上昇させ、前記A/D変換部の変換結果が前記所定の電流範囲にある場合に、前記過電流判定部による判定結果に基づいて、前記過電流閾値を設定する
ことを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
請求項に記載の半導体装置において、
前記A/D変換部の変換結果が前記所定の電流範囲にある場合の前記過電流閾値の調整量は、前記A/D変換部の変換結果が前記所定の電流範囲外にある場合の前記過電流閾値の調整量より小さい
ことを特徴とする半導体装置。
【請求項4】
請求項またはに記載の半導体装置において、
前記過電流閾値設定部は、前記A/D変換部の変換結果が前記所定の電流範囲にあるときに、前記過電流判定部によって過電流が発生したと判定された場合に、前記過電流閾値を上昇させる
ことを特徴とする半導体装置。
【請求項5】
請求項に記載の半導体装置において、
前記過電流閾値設定部は、前記A/D変換部の変換結果が前記所定の電流範囲にあるときに、前記過電流判定部によって過電流が発生していないと判定された場合に、過電流の発生の履歴に基づいて、前記過電流閾値の変更の有無を決定する
ことを特徴とする半導体装置。
【請求項6】
請求項1乃至の何れか一項に記載の半導体装置において、
前記過電流閾値設定部は、前記目標電流の変更に応じて前記過電流閾値の初期値を変更し、前記A/D変換部の変換結果の前記目標電流に対する相対的な大きさに基づいて、前記過電流閾値を前記初期値から変更する
ことを特徴とする半導体装置。
【請求項7】
請求項1乃至の何れか一項に記載の半導体装置と、
前記制御対象としてのモータに流れる電流に応じた電圧を出力する電流検出部と、
前記半導体装置によって生成された前記駆動制御信号に基づいて前記モータを駆動するモータ駆動部と、を備え、
前記半導体装置は、前記電流検出部から出力された電圧を前記アナログ信号として入力する
ことを特徴とするモータ駆動制御装置。
【請求項8】
請求項に記載のモータ駆動制御装置と、
前記モータと、を備える
ことを特徴とするモータユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置、モータ駆動制御装置、およびモータユニットに関し、例えば、アナログ/デジタル変換回路を有する半導体装置、当該半導体装置を備えたモータ駆動制御装置、および当該モータ駆動制御装置とモータとを備えたモータユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
モータの駆動を制御するモータ駆動制御装置では、モータのコイルに流れる電流(以下、「モータ電流」とも称する。)の検出方法として、コイルを形成する巻線とグラウンド電位との間に抵抗(以下、「センス抵抗」とも称する。)を接続し、センス抵抗に電流が流れることによって生じる電圧を検出する方法が一般的に知られている。
【0003】
センス抵抗によって検出されたアナログ信号としてのモータ電流の検出値(電圧)は、アナログ/デジタル変換器によってデジタル信号に変換された後、CPU等のプログラム処理装置を含んで構成されたモータ駆動制御装置に入力されて、モータの駆動制御に用いられる。
【0004】
モータ駆動制御装置において、モータ電流の検出値をアナログ/デジタル変換する方法として、ΔΣ変調型のA/D変換回路(以下、「ΔΣADC」とも称する。)を用いる方法が知られている(特許文献1参照)。この方法によれば、ΔΣADCによってモータ電流の検出値(瞬時値)を積分してモータ電流の実効値を得ることができるので、例えば、モータ電流が目標電流値となるように制御する定電流制御を行った場合に、モータ電流の瞬時値に基づいて定電流駆動する場合に比べて、安定したモータ駆動を実現することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-65746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、一般に、ΔΣADCは、アナログ/デジタル変換処理に比較的長い時間(例えば、数十ms程度)を要する。そのため、例えば、定電流駆動中にモータの負荷が急激に増加した場合、モータ電流の実効値の算出が間に合わず、モータ電流が目標電流値を大幅に超えてしまう虞がある。
【0007】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、制御対象に流れる電流が目標値を大幅に超えないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の代表的な実施の形態に係る半導体装置は、制御対象に流れる電流を表すアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換部と、前記アナログ信号に基づいて、前記制御対象に流れる電流が過電流閾値を超えた場合に前記制御対象において過電流が発生したと判定し、前記制御対象に流れる電流が過電流閾値を超えていない場合に前記制御対象において過電流が発生していないと判定する過電流判定部と、前記A/D変換部の変換結果に基づいて、前記制御対象に流れる電流が目標電流に一致するように、前記制御対象の駆動を制御するための駆動制御信号を生成するとともに、前記過電流判定部によって過電流が発生したと判定された場合に、前記制御対象に流れる電流を減らすように前記駆動制御信号を生成する駆動制御信号生成部と、前記A/D変換部の変換結果と前記目標電流とに基づいて、前記過電流閾値を設定する過電流閾値設定部とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る半導体装置によれば、制御対象に流れる電流が目標値を大幅に超えないようにすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態に係るモータユニットの構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施の形態に係る半導体装置(制御回路部4)の構成を示すブロック図である。
図3】過電流閾値Ithの変更方法を説明するための図である。
図4】過電流閾値Ithの設定処理の流れを示すフロー図である。
図5】本実施の形態に係るモータユニットにおけるモータ電流の実効値Ieと過電流閾値Ithの変化の様子を示す図である。
図6A】実施の形態に係るモータ駆動制御装置の比較例としての従来のモータ駆動制御装置によって制御されたモータ電流の変化の一例を示す図である。
図6B】実施の形態に係るモータ駆動制御装置によって制御されたモータ電流の変化の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.実施の形態の概要
先ず、本願において開示される発明の代表的な実施の形態について概要を説明する。なお、以下の説明では、一例として、発明の構成要素に対応する図面上の参照符号を、括弧を付して記載している。
【0012】
〔1〕本発明の代表的な実施の形態に係る半導体装置(4)は、制御対象(20)に流れる電流を表すアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換部(45)と、前記アナログ信号に基づいて、前記制御対象に流れる電流が過電流閾値(Ith)を超えた場合に前記制御対象において過電流が発生したと判定し、前記制御対象に流れる電流が過電流閾値を超えていない場合に前記制御対象において過電流が発生していないと判定する過電流判定部(46)と、前記A/D変換部の変換結果(Ie)に基づいて、前記制御対象に流れる電流が目標電流(Itg)に一致するように、前記制御対象の駆動を制御するための駆動制御信号(Sd)を生成するとともに、前記過電流判定部によって過電流が発生したと判定された場合に、前記制御対象に流れる電流を減らすように前記駆動制御信号を生成する駆動制御信号生成部(42)と、前記A/D変換部の変換結果(Ie)と前記目標電流(Itg)とに基づいて、前記過電流閾値(Ith)を設定する過電流閾値設定部(47)と、を有することを特徴とする。
【0013】
〔2〕上記半導体装置において、前記過電流閾値設定部は、前記A/D変換部の変換結果が前記目標電流よりも大きい場合に、前記過電流閾値を低下させ、前記A/D変換部の変換結果が前記目標電流よりも小さい場合に、前記過電流閾値を上昇させてもよい。
【0014】
〔3〕上記半導体装置において、前記過電流閾値設定部は、前記A/D変換部の変換結果(Ie)が前記目標電流を基準とする所定の電流範囲(Rm)よりも大きい場合に、前記過電流閾値を低下させ、前記A/D変換部の変換結果が前記所定の電流範囲(Rm)よりも小さい場合に、前記過電流閾値を上昇させ、前記A/D変換部の変換結果が前記所定の電流範囲(Rm)にある場合に、前記過電流判定部による判定結果(Scmp)に基づいて、前記過電流閾値を設定してもよい。
【0015】
〔4〕上記半導体装置において、前記A/D変換部の変換結果が前記所定の電流範囲内にある場合の前記過電流閾値の調整量(±Δ)は、前記A/D変換部の変換結果が前記所定の電流範囲外にある場合の前記過電流閾値の調整量(±2Δ)より小さくてもよい。
【0016】
〔5〕上記半導体装置において、前記過電流閾値設定部は、前記A/D変換部の変換結果が前記所定の電流範囲(Rm)にあるときに、前記過電流判定部によって過電流が発生したと判定された場合に、前記過電流閾値を上昇させてもよい。
【0017】
〔6〕上記半導体装置において、前記過電流閾値設定部は、前記A/D変換部の変換結果が前記所定の電流範囲(Rm)にあるときに、前記過電流判定部によって過電流が発生していないと判定された場合に、過電流の発生の履歴(470)に基づいて、前記過電流閾値の変更の有無を決定してもよい。
【0018】
〔7〕上記半導体装置において、前記過電流閾値設定部は、前記目標電流の変更に応じて前記過電流閾値の初期値(Ith0)を変更し、前記A/D変換部の変換結果の前記目標電流に対する相対的な大きさに基づいて、前記過電流閾値を前記初期値から変更してもよい。
【0019】
〔8〕本発明の代表的な実施の形態に係るモータ駆動制御装置(1)は、上記半導体装置(4)と、前記制御対象としてのモータ(20)に流れる電流に応じた電圧Vsを出力する電流検出部(6)と、前記半導体装置によって生成された前記駆動制御信号に基づいて前記モータを駆動するモータ駆動部(2)とを備え、前記半導体装置は、前記電流検出部から出力された電圧を前記アナログ信号として入力することを特徴とする。
【0020】
〔9〕本発明の代表的な実施の形態に係るモータユニット(100)は、上記モータ駆動制御装置(10)と、前記モータ(20)とを備えることを特徴とする。
【0021】
2.実施の形態の具体例
以下、本発明の実施の形態の具体例について図を参照して説明する。なお、以下の説明において、各実施の形態において共通する構成要素には同一の参照符号を付し、繰り返しの説明を省略する。
【0022】
図1は、本発明の実施の形態に係るモータユニットの構成を示すブロック図である。
【0023】
図1に示すように、モータユニット100は、モータ(制御対象の一例)20と、モータ20を駆動するモータ駆動制御装置1とを備えている。モータユニット100は、例えばファン等のモータを動力源として用いる各種機器に適用可能である。
【0024】
本実施の形態において、モータ20は、例えば、コイルLu,Lv,Lwを有する3相のブラシレスモータである。モータ駆動制御装置1は、モータ20を構成する3相のコイルLu,Lv,Lwに周期的に駆動電流を流すことで、モータ20を回転させる。
【0025】
モータ駆動制御装置1は、モータ20を駆動させる。具体的に、モータ駆動制御装置1は、モータ駆動部2と、制御回路部4と、電流検出部6とを有している。なお、図1に示されているモータ駆動制御装置1の構成要素は、全体の一部であり、モータ駆動制御装置1は、図1に示されたものに加えて、他の構成要素を有していてもよい。
【0026】
本実施の形態において、モータ駆動制御装置1の少なくとも一部が、一つの半導体装置(IC:Integrated Circuit)としてパッケージ化されている。例えば、制御回路部4、モータ駆動部2等の回路が、それぞれ別個の半導体装置として実現されている。
【0027】
なお、モータ駆動制御装置1は、その全部がパッケージ化された半導体装置であってもよいし、モータ駆動制御装置1の全部又は一部と他の装置とが一緒にパッケージ化されて、1つの半導体装置を構成していてもよい。
【0028】
モータ駆動部2は、制御回路部4から出力された駆動制御信号Sdに基づいて、モータ20に駆動信号を出力し、モータ20を駆動させる。モータ駆動部2は、モータ20の複数相のコイルLu,Lv,Lwを選択的に通電する。
【0029】
具体的には、モータ駆動部2は、インバータ回路2a及びプリドライブ回路2bを有する。プリドライブ回路2bは、制御回路部4から出力された駆動制御信号Sdに基づいて、インバータ回路2aを駆動するための出力信号を生成し、インバータ回路2aに出力する。インバータ回路2aは、プリドライブ回路2bから出力された信号に基づいてモータ20が備えるコイルLu,Lv,Lwを通電させる。
【0030】
具体的には、インバータ回路2aは、例えば、電源電圧(直流電源)Vccの両端に設けられた2つのスイッチ素子の直列回路の対が、コイルLu,Lv,Lwの各相(U相、V相、W相)に対してそれぞれ配置されて構成されている。2つのスイッチ素子の各対において、スイッチ素子同士の接続点に、モータ20の各相の端子が接続されている(不図示)。プリドライブ回路2bは、出力信号として、例えば、インバータ回路2aの各スイッチ素子に対応する6種類の信号Vuu,Vul,Vvu,Vvl,Vwu,Vwlを出力する。これらの信号Vuu,Vul,Vvu,Vvl,Vwu,Vwlが出力されることで、それぞれの信号Vuu,Vul,Vvu,Vvl,Vwu,Vwlに対応するスイッチ素子がオン、オフ動作を行う。これにより、モータ20に駆動信号が出力されて、モータ20の各相のコイルLu,Lv,Lwに電流が流れる(不図示)。
【0031】
電流検出部6は、モータ20のコイルLu,Lv,Lwに流れる電流(モータ電流)を検出するための機能部である。電流検出部6の構成については後述する。
【0032】
制御回路部(半導体装置の一例)4は、例えば、マイクロコンピュータ、デジタル回路、およびアナログ回路等によって構成されている。制御回路部4には、モータ20の駆動を指示する信号として、速度指令信号Scおよび電流指令信号Siが入力される。制御回路部4は、これらの信号に基づいてモータ20の駆動制御を行う。これらの信号は、例えば、上位装置等の制御回路部4の外部に設けられた装置から入力される。
【0033】
速度指令信号Scは、モータ20の回転速度に関する信号である。例えば、速度指令信号Scは、モータ20の目標回転速度に対応するPWM(パルス幅変調)信号である。換言すると、速度指令信号Scは、モータ20の回転速度の目標値に対応する情報である。なお、速度指令信号Scとして、クロック信号が入力されてもよい。
【0034】
電流指令信号Siは、モータ20のモータ電流に関する信号である。例えば、電流指令信号Siは、モータ20を構成する各コイルLu,Lv,Lwに流れる電流の目標値(以下、「目標電流Itg」とも称する。)の情報を含む信号である。ここで、電流指令信号Siは、例えば、目標電流Itgに対応するPWM信号であってもよいし、クロック信号であってもよい。
【0035】
また、本実施の形態において、制御回路部4には、モータ20から、ホール信号(位置検出信号)Hが入力される。ホール信号Hは、例えば、モータ20に配置されたホール素子5の出力である。ホール信号Hは、モータ20のロータ(不図示)の回転に対応する信号である。制御回路部4は、ホール信号Hを用いてモータ20のロータの実際の回転数に関する実回転数情報を得て、モータ20の駆動を制御する。
【0036】
なお、図1では、モータユニット100に一つのホール素子5が配置される場合を例示しているが、モータユニット100に配置されるホール素子5の個数は特に制限されない。例えば、三つのホール素子5が互いに略等間隔で、モータ20の回転子の周囲に配置されていてもよい。
【0037】
なお、制御回路部4には、このようなホール信号Hに加えて、又はホール信号Hに代えて、モータ20の回転状態に関する他の情報が入力されるように構成されていてもよい。例えば、モータ20の回転子の回転に対応するFG信号として、回転子の側にある基板に設けたコイルパターンを用いて生成される信号(パターンFG)が入力されるようにしてもよい。また、モータ20の各相(U、V、W相)に誘起する逆起電圧を検出する回転位置検出回路の検出結果に基づいてモータ20の回転状態が検知されるように構成されていてもよい。エンコーダやレゾルバなどを設け、それによりモータ20の回転速度等の情報が検出されるようにしてもよい。
【0038】
制御回路部4は、電流指令信号Si、速度指令信号Sc、およびホール信号H等に基づいて、モータ20を駆動させるための駆動制御信号Sdを生成する。例えば、制御回路部4は、モータ20が速度指令信号Scに対応する回転数で回転し、且つモータ20のコイルLu,Lv,Lwに流れる電流が一定になるように駆動制御信号Sdを生成する。
【0039】
駆動制御信号Sdは、例えば、PWM(パルス幅変調)信号である。制御回路部4は、モータ駆動部2にPWM(パルス幅変調)信号である駆動制御信号Sdを供給することにより、モータ駆動部2により通電される複数相のコイルLu,Lv,Lwの通電相を所定の順序で切り替えながら、モータ20の駆動を制御する。
【0040】
本実施の形態に係る制御回路部4は、モータ20のコイルLu,Lv,Lwに流れる電流(モータ電流)の定電流制御中に、モータ20の過電流保護のための過電流閾値Ithを動的に変化させることにより、モータ20の負荷が急激に変化した場合でもモータ電流が目標電流Itgを大きく超えないようにする電流制限機能を有している。以下、この機能について詳細に説明する。
【0041】
図2は、制御回路部4の構成を示すブロック図である。
図2には、制御回路部4を構成する機能ブロックのうち、上述した電流制限機能に関連する機能ブロックが図示されている。
【0042】
図2に示すように、制御回路部4は、目標電流取得部41、駆動制御信号生成部42、A/D変換部45、過電流判定部46、過電流閾値設定部47、および電圧判定部48を有している。
【0043】
目標電流取得部41は、例えばモータユニット100の外部に存在する上位装置から出力された電流指令信号Siを取得する。具体的には、目標電流取得部41は、電流指令信号Siに含まれる目標電流Itgの情報を取得し、駆動制御信号生成部42および過電流閾値設定部47に供給する。また、目標電流取得部41は、電流指令信号Siを受け取ったとき、A/D変換部45にA/D変換処理の実行を指示する。なお、目標電流取得部41によるA/D変換処理の実行の指示は、電流指令信号Siを受け取る度(目標電流Itgが変更される度)に行われてもよいし、最初に電流指令信号Siを受け取った場合のみ、行われてもよい。
目標電流取得部41は、例えば、マイクロコントローラの外部インターフェース回路等によって構成されている。
【0044】
A/D変換部45は、制御対象としてのモータ20に流れる電流を表すアナログ信号をデジタル信号に変換する機能部である。A/D変換部45は、例えば、ΔΣ変調型のアナログ/デジタル変換回路(ΔΣADC)であり、専用ロジック回路によって構成されている。A/D変換部45は、電流検出部6から出力される信号を上記アナログ信号として入力し、ΔΣ変調方式によりデジタル信号に変換する。
【0045】
ここで、電流検出部6は、上述したように、制御対象としてのモータ20に流れる電流(モータ電流)に応じた電圧Vsを出力する回路である。例えば図2に示すように、電流検出部6は、モータ駆動部2を介してモータ20のコイルとグラウンド電位との間に直列に接続された抵抗Rs(以下、「センス抵抗Rs」とも称する。)を含み、センス抵抗Rsの両端に発生した電圧Vsを、モータ20のモータ電流の検出値として出力する。
【0046】
A/D変換部45は、電流検出部6から出力されたアナログ信号である電圧Vsをデジタル信号に変換し、モータ20のモータ電流の実効値(A/D変換部の変換結果の一例)Ieとして出力する。例えば、A/D変換部45は、目標電流取得部41からA/D変換処理の実行を指示する指令が入力されると、電圧Vsに対するA/D変換処理を開始する。例えば、A/D変換部45は、目標電流取得部41からの指令を受け取った後、A/D変換処理の停止の指示する指令を受け取るまで、電圧Vsに対するA/D変換処理を継続して実行し、所定の処理サイクル毎に、A/D変換部45の変換結果(モータ電流の実効値Ie)を出力する。
【0047】
過電流判定部46は、制御対象としてのモータ20に流れる電流を表すアナログ信号に基づいて、モータ20のモータ電流が過電流閾値Ithを超えているか否かを判定する機能部である。過電流判定部46は、例えばコンパレータ回路を含む。
【0048】
過電流判定部46を構成するコンパレータ回路は、電流検出部6から出力された電圧Vsと、過電流閾値Ithに対応する閾値電圧Vthとを比較し、電圧Vsが閾値電圧Vthより大きい場合に、モータ20において過電流が発生したと判定し、例えばハイ(High)レベルの判定信号Scmpを出力する。一方、過電流判定部46を構成するコンパレータ回路は、電圧Vsが閾値電圧Vthより小さい場合に、モータ20において過電流が発生していないと判定し、例えばロー(Low)レベルの判定信号Scmpを出力する。
【0049】
駆動制御信号生成部42は、制御対象であるモータ20の駆動を制御するための駆動制御信号Sdを生成する機能部である。駆動制御信号生成部42は、A/D変換部45の変換結果であるモータ電流の実効値Ieに基づいて、モータ電流が目標電流Itgに一致するように駆動制御信号Sdを生成するとともに、過電流判定部46によって過電流が発生したと判定された場合(モータ電流が過電流閾値Ithを超えたと判定された場合)に、モータ電流を減らすように駆動制御信号Sdを生成する。
【0050】
具体的に、駆動制御信号生成部42は、電流フィードバック制御部43と信号生成部44とを含む。
【0051】
電流フィードバック制御部43は、目標電流取得部41から出力された目標電流Itgと、A/D変換部45から出力されたモータ電流の実効値Ieとに基づいて、駆動制御信号SdとしてのPWM信号のデューティ比を指定するPWM指令信号Spwmを出力する。具体的に、電流フィードバック制御部43は、目標電流Itgとモータ電流の実効値Ieと差分に基づいて、当該差分がゼロになるようにPWM信号のデューティ比を算出し、算出したデューティ比を含む情報をPWM指令信号Spwmとして出力する。
【0052】
また、電流フィードバック制御部43は、上述したPWM信号のデューティ比の情報を過電流閾値設定部47に出力する。なお、上記デューティ比の情報は、PWM指令信号Spwmであってもよい。
【0053】
信号生成部44は、電流フィードバック制御部43から出力されたPWM指令信号Spwmと過電流判定部46から出力された判定信号Scmpとに基づいて、駆動制御信号Sdを生成する。具体的には、過電流判定部46から、過電流が発生していないことを示す判定信号Scmp(例えば、ローレベルの判定信号Scmp)が出力された場合、信号生成部44は、PWM指令信号Spwmで指定されたデューティ比のPWM信号を生成し、駆動制御信号Sdとして出力する。一方、過電流判定部46から、過電流が発生したことを示す判定信号Scmp(例えば、ハイレベルの判定信号Scmp)が出力された場合、信号生成部44は、PWM指令信号Spwmによらず、モータ電流を減少させる駆動制御信号Sdを生成する。すなわち、信号生成部44は、速やかにモータ電流を低下させるために、デューティ比が0%のPWM信号を生成し、駆動制御信号Sdとして出力する。
【0054】
電圧判定部48は、モータ駆動部2の電源電圧Vccの大きさを判定する機能部である。すなわち、電圧判定部48は、コイルLu,Lv,Lwに印加されるインバータ回路2aの出力信号の基準となる電源電圧Vccを検出し、電源電圧Vccの大きさを示す情報を過電流閾値設定部47に出力する。電圧判定部48は、例えば、A/D変換回路等から構成されている。
【0055】
電流フィードバック制御部43および信号生成部44は、例えば、マイクロコントローラ(CPU)のプログラム処理によって実現されている。なお、信号生成部44は、専用ロジック回路によって実現されていてもよい。
【0056】
過電流閾値設定部47は、過電流判定部46による過電流判定の基準となる過電流閾値Ithを設定する機能部である。過電流閾値設定部47は、マイクロコントローラ(CPU)のプログラム処理によって実現されている。
【0057】
過電流閾値設定部47は、先ず、過電流閾値Ithの初期値Ith0を設定する。例えば、過電流閾値設定部47は、予めマイクロコントローラ内の記憶装置内に記憶させておいた、過電流閾値Ithと、目標電流Itg、電源電圧Vcc、およびPWM信号のデューティ比との対応関係を示す関係式を用いて、過電流閾値Ithの初期値Ith0を算出する。すなわち、過電流閾値設定部47は、目標電流取得部41から取得した目標電流Itgの情報、電圧判定部48から取得した電源電圧Vccの情報、および電流フィードバック制御部43から取得したPWM信号のデューティ比の情報を変数として上記関係式に代入することにより、過電流閾値Ithの初期値Ith0(≦Itg)を算出する。
【0058】
なお、過電流閾値Ithの初期値算出方法は、上記関係式を用いる方法に限定されない。例えば、過電流閾値設定部47は、目標電流取得部41から取得した目標電流Itgの情報と、電圧判定部48から取得した電源電圧Vccの情報と、電流フィードバック制御部43から取得したPWM信号のデューティ比の情報とに基づいて、予めマイクロコントローラ内の記憶装置内に記憶させておいた、過電流閾値Ithと、目標電流Itg、電源電圧Vcc、およびデューティ比との対応関係を示すテーブル(ルックアップテーブル)を参照することにより、過電流閾値Ithの初期値Ith0を算出してもよい。
【0059】
また、過電流閾値設定部47は、目標電流Itgの変更に応じて、過電流閾値Ithの初期値Ith0を変更する。すなわち、過電流閾値設定部47は、目標電流取得部41から新たな目標電流Itgを示す情報を受け取った場合に、新たに受け取った目標電流Itgの情報と、電圧判定部48から取得した電源電圧Vccの情報と、電流フィードバック制御部43から取得したPWM信号のデューティ比の情報とに基づいて、上述した関係式またはルックアップテーブルを用いて、過電流閾値Ithの初期値Ith0を変更する。
【0060】
更に、過電流閾値設定部47は、A/D変換部45の変換結果であるモータ電流の実効値Ieと目標電流Itgとに基づいて、過電流閾値Ithを変更する。すなわち、過電流閾値設定部47は、過電流閾値Ithの初期値Ith0の設定後、目標電流Itgに対するA/D変換部45の変換結果(モータ電流の実効値Ie)の相対的な大きさに基づいて、過電流閾値Ithを初期値Ith0から変更する。
【0061】
図3は、過電流閾値設定部47による過電流閾値Ithの設定方法を説明するための図である。
【0062】
図3には、定電流制御中の目標電流Itgに対するモータ電流の実効値Ieの大きさに応じた、過電流閾値Ithの調整量が示されている。
また、図3において、過電流閾値Ithの最小調整量を“Δ”で表している。図3において、モータ電流の実効値Ieが目標電流Itgに対して“Itg±Z”の電流範囲が参照符号Rmで表され、モータ電流の実効値Ieが“Itg+Z”より大きい電流範囲が参照符号Rhで表され、モータ電流の実効値Ieが“Itg-Z”より小さい電流範囲が参照符号Rlで表されている。
【0063】
ここで、電流範囲Rmは、モータ20のモータ電流が目標電流Itgに対して安定したとみなせる範囲である。電流範囲Rmは、電流値“Z”の大きさを適宜変更することにより、調整することが可能である。
【0064】
過電流閾値設定部47は、モータ電流の実効値Ie(A/D変換部45の変換結果)が電流範囲Rh,Rm,Rlのうちのどの電流範囲にあるかによって、過電流閾値Ithの調整量を変更する。すなわち、過電流閾値設定部47は、モータ電流の実効値Ieが存在する電流範囲に応じて、過電流閾値Ithを調整するための動作モードを切り替える。
【0065】
以下、モータ電流の実効値Ieが電流範囲Rhにある場合の動作モードを「電流抑制モード」、モータ電流の実効値Ieが電流範囲Rlにある場合の動作モードを「電流推進モード」、モータ電流の実効値Ieが電流範囲Rmにある場合の動作モードを「電流安定モード」と称する。
【0066】
過電流閾値設定部47は、モータの実効値Ieが目標電流Itgよりも大きい場合に、過電流閾値Ithを低下させる。具体的に、過電流閾値設定部47は、モータの実効値Ieが目標電流Itgを基準とする電流範囲Rmよりも大きい場合に、過電流閾値Ithを低下させる。例えば、図3に示すように、モータ電流の実効値Ieが電流範囲Rhにある場合には、過電流閾値設定部47は、電流抑制モードとなり、直前に設定された過電流閾値Ithを“2Δ”だけ低下させる。
【0067】
すなわち、モータ電流の実効値Ieが電流範囲Rmよりも大きい場合、速やかにモータ電流を目標電流Itgまで低下させる必要があるので、過電流閾値設定部47は、過電流閾値Ithをより大きく低下させる。これにより、モータ電流に対する過電流保護が働き易くなり、過電流保護機能を積極的に活用して、モータ電流を速やかに低下させることが可能となる。
【0068】
一方、モータの実効値Ieが目標電流Itgよりも小さい場合、過電流閾値設定部47は、過電流閾値Ithを上昇させる。具体的に、過電流閾値設定部47は、モータの実効値Ieが電流範囲Rmよりも小さい場合、過電流閾値Ithを上昇させる。例えば、図3に示すように、モータ電流の実効値Ieが電流範囲Rlにある電流促進モードの場合、過電流閾値設定部47は、直前に設定された過電流閾値Ithを“2Δ”だけ上昇させる。
【0069】
すなわち、モータ電流の実効値Ieが電流範囲Rmよりも小さい値である場合には、モータ電流を速やかに目標電流Itgまで上昇させる必要があるので、過電流閾値設定部47は、過電流閾値Ithを大きく上昇させる。これにより、過電流保護機能によってモータ電流の増加が妨げられることなく、モータ電流を目標電流Itgまで速やかに上昇させることが可能となる。
【0070】
また、過電流閾値設定部47は、モータの実効値Ieが電流範囲Rmにある場合、過電流判定部46の判定結果に基づいて、過電流閾値Ithを設定する。すなわち、モータ電流の実効値Ieが電流範囲Rm内にある場合には、過電流閾値Ithの変動により過電流保護機能が頻繁に働いてモータ電流が不安定になることを防止するために、過電流閾値Ithを安定させる必要がある。そこで、電流安定モードでは、過電流の発生の有無に基づいて、過電流閾値Ithを微調整する。
【0071】
具体的に、過電流閾値設定部47は、モータ電流の実効値Ieが電流範囲Rmにある電流安定モードにおいて、過電流判定部46によって過電流が発生したと判定された場合、過電流閾値Ithを上昇させる。例えば、図3に示すように、モータ電流の実効値Ieが電流範囲Rmにあり、且つモータ20において過電流が発生した場合に、過電流閾値設定部47は、直前に設定された過電流閾値Ithを“Δ”だけ上昇させる。
【0072】
一方、過電流閾値設定部47は、モータ電流の実効値Ieが電流範囲Rmにある電流安定モードにおいて過電流判定部46によって過電流が発生していないと判定された場合、過電流の発生の履歴に基づいて、過電流閾値Ithを設定する。
【0073】
例えば、過電流閾値設定部47は、過電流の発生の履歴を示す記憶部470を有している。記憶部470は、例えばレジスタである。モータ電流が電流範囲Rmに入った後(過電流閾値設定部47が電流安定モードになった後に)、過電流が発生した場合には、記憶部470に“1”が設定され、モータ電流が電流範囲Rmに入った後(過電流閾値設定部47が電流安定モードになった後に)、過電流が一度も発生していない場合には、記憶部470に“0”が設定される。以下、記憶部470を「フラグ470」とも称する。
【0074】
過電流閾値設定部47は、過電流判定部46の判定信号Scmpに基づいて、過電流の発生の有無を判定する。過電流閾値設定部47は、電流安定モードにおいて過電流が発生した場合に、フラグ470に“1”を設定する。一方、モータ電流の実効値Ieが電流範囲Rm外(電流抑制モードまたは電流促進モード)にある場合に、フラグ470に“0”を設定する。すなわち、過電流閾値設定部47は、モータ電流が安定して電流範囲Rmに入った後に、過電流が一度でも発生したら、記憶部470に“1”を設定し、その後、モータ電流が電流範囲Rmから外れたら、記憶部470に“0”にリセットする。
【0075】
過電流閾値設定部47は、電流安定モードにおいて、モータ20に過電流が発生しておらず、且つフラグ470に“0”が設定されている場合に、過電流閾値Ithを“Δ”だけ低下させる。一方、モータ20に過電流が発生しておらず、且つフラグ470に“1”が設定されている場合には、過電流閾値設定部47は、過電流閾値Ithを変化させず、直前に設定された過電流閾値Ithをそのまま維持する(調整量:±0)。
【0076】
これにより、モータ電流の実効値Ieが電流範囲Rm内にある場合には、過電流閾値Ithを変更しないあるいは、微調整することにより、過電流保護機能が頻繁に働いてモータ電流が不安定になることを防止することが可能となる。
【0077】
次に、制御回路部4による過電流閾値Ithの設定処理の流れについて説明する。
図4は、本実施の形態に係る過電流閾値Ithの設定処理の流れを示すフロー図である。
【0078】
先ず、上位装置からモータユニット100に対して電流指令信号Siが入力されると、目標電流取得部41が電流指令信号Siから目標電流Itgの情報を取得する(ステップS1)。目標電流取得部41は、取得した目標電流Itgの情報を電流フィードバック制御部43および過電流閾値設定部47に供給するとともに、A/D変換部45にA/D変換処理の実行を指示する。
【0079】
次に、A/D変換部45が電流検出部6から出力された電圧Vsに対するA/D変換処理を開始する(ステップS2)。
【0080】
次に、駆動制御信号生成部42がモータ20の定電流制御を開始する(ステップS3)。具体的には、電流フィードバック制御部43が、制御対象であるモータ20のモータ電流を目標電流Itgに一致させるためのPWM指令信号Spwmを生成し、信号生成部44がPWM指令信号Spwmによって指定されたデューティ比の駆動制御信号Sd(PWM信号)をモータ駆動部2に供給することにより、モータ電流の定電流制御が行われる。
【0081】
なお、電流フィードバック制御部43は、定電流制御中に算出したPWM信号のデューティ比が変更される度に、PWM信号のデューティ比の情報を過電流閾値設定部47に出力する。
【0082】
次に、過電流閾値設定部47が、目標電流Itgが変更されたか否かを判定する(ステップS4)。
【0083】
ステップS4において、目標電流Itgが変更された場合、または、モータユニット100の起動後に初めて目標電流Itgの情報を取得した場合、過電流閾値設定部47は、過電流閾値Ithの初期値Ith0を設定する(ステップS5)。
具体的に、過電流閾値設定部47は、目標電流取得部41から取得した目標電流Itgの情報と、電流フィードバック制御部43から取得したPWM信号のデューティ比の情報と、電圧判定部48から取得した電源電圧Vccの情報とに基づいて、上述した手法により過電流閾値Ithの初期値Ith0を設定する。これにより、過電流判定部46は、ステップS5で設定された過電流閾値Ithを用いて過電流判定を行う。
【0084】
一方、ステップS4において目標電流Itgが変更されていない場合、またはステップS5において過電流閾値Ithの初期値Ith0が設定された場合、過電流閾値設定部47は、A/D変換部45からA/D変換結果、すなわちモータ電流の実効値Ieを取得する(ステップS6)。
【0085】
過電流閾値設定部47は、ステップS6で取得したモータ電流の実効値Ieが電流範囲Rhにあるか否かを判定する(ステップS7)。
【0086】
ステップS7において、モータ電流の実効値Ieが電流範囲Rhにある場合(Yesの場合;Itg+Z<Ie)、過電流閾値設定部47は電流抑制モードとなる(ステップS8)。電流抑制モードにおいて、過電流閾値設定部47は、設定されている過電流閾値Ithを“2Δ”だけ低下させる(ステップS9)。これにより、過電流判定部46は、ステップS9で設定された過電流閾値Ithを用いて過電流判定を行う。
【0087】
一方、ステップS7においてモータ電流の実効値Ieが電流範囲Rhにない場合(Noの場合;Itg+Z>Ie)、過電流閾値設定部47は、モータ電流の実効値Ieが電流範囲Rlにあるか否かを判定する(ステップS10)。
【0088】
ステップS10において、モータ電流の実効値Ieが電流範囲Rlにある場合(Yesの場合;Itg-Z>Ie)、過電流閾値設定部47は電流促進モードとなる(ステップS11)。電流促進モードにおいて、過電流閾値設定部47は、設定されている過電流閾値Ithを“2Δ”だけ上昇させる(ステップS12)。これにより、過電流判定部46は、ステップS12で設定された過電流閾値Ithを用いて過電流判定を行う。
【0089】
ステップS9およびステップS12の後、過電流閾値設定部47は、フラグ470に“0”を設定する(ステップS13)。
一方、ステップS10において、モータ電流の実効値Ieが電流範囲Rlにない場合(Noの場合;Itg-Z<Ie)、過電流閾値設定部47は、モータ電流の実効値Ieが電流範囲Rmにあると判定し、電流安定モードとなる(ステップS14)。
【0090】
電流安定モードにおいて、過電流閾値設定部47は、モータ20に過電流が発生したか否かを判定する(ステップS15)。具体的に、過電流閾値設定部47は、過電流判定部46の判定信号Scmpに基づいて、モータ20に過電流が発生したか否かを判定する。
【0091】
ステップS15において、過電流が発生した場合(Yesの場合)には、過電流閾値設定部47は、過電流閾値Ithを“Δ”だけ上昇させる(ステップS16)。その後、過電流閾値設定部47は、フラグに“1”を設定する(ステップS17)。
【0092】
一方、ステップS15において、過電流が発生しなかった場合(Noの場合)、過電流閾値設定部47は、フラグ470に“1”が設定されているか否かを判定する(ステップS18)。
【0093】
ステップS18において、フラグ470に“1”が設定されていない場合(Noの場合)、過電流閾値設定部47は、過電流閾値Ithを“Δ”だけ低下させる(ステップS19)。一方、ステップS18において、フラグ470に“1”が設定されている場合、過電流閾値設定部47は、過電流閾値Ithを変更しない(ステップS20)。
【0094】
ステップS13、ステップS17、ステップS19、およびステップS20の後、制御回路部4は、モータ20の停止の指示の有無を判定する(ステップS21)。ステップS21において、モータ20の停止の指示が無い場合(Noの場合)、上述した処理(S1~S21)を繰り返し実行する。一方、ステップS21において、モータ20の停止の指示を受け取った場合(Yesの場合)、制御回路部4による過電流閾値Ithの設定処理を終了する。
【0095】
図5は、本実施の形態に係るモータユニットにおけるモータ電流の実効値Ieと過電流閾値Ithの変化の様子を示す図である。
【0096】
図5において、参照符号500は、モータ電流の実効値Ieを表し、参照符号501は、過電流閾値Ithを表している。同図には、モータユニット100の起動後のモータ電流の実効値Ieおよび過電流閾値Ithの変化の一例が示されている。
【0097】
図5に示すように、モータユニット100の起動後、時刻t0において目標電流Itgが設定されたとする。目標電流Itgの設定後、電流フィードバック制御部43は、モータ20のモータ電流が目標電流Itgに一致するように定電流制御を開始する。また、過電流閾値設定部47は、設定された目標電流Itg等の情報に基づいて過電流閾値Ithの初期値Ith0を設定する。
【0098】
その後、過電流閾値設定部47は、目標電流ItgとA/D変換部45の変換結果(モータ電流の実効値Ie)に基づいて、過電流閾値Ithを調整する。具体的に、時刻t0後において、モータ電流の実効値Ieが目標電流Itgよりも十分に低いため、過電流閾値設定部47は、電流促進モードとなり、過電流閾値Ithを“2Δ”単位で増加させる。その後、時刻t1において、モータ電流の実効値Ieが“Itg-Z”を超えて電流範囲Rmに入ると、過電流閾値設定部47は、電流安定モードとなり、過電流の発生の有無に応じて、“Δ”単位で過電流閾値Ithを微調整する。そして、モータ電流の実効値Ieが目標電流Itgと一致すると、過電流閾値Ithも安定する。
【0099】
図6Aは、実施の形態に係るモータ駆動制御装置1の比較例としての、従来のモータ駆動制御装置によって制御されたモータ電流の変化の一例を示す図である。
図6Bは、実施の形態に係るモータ駆動制御装置1によって定電流制御されたモータ20のモータ電流の変化の一例を示す図である。
【0100】
図6Aには、固定値の過電流閾値Ithを有する従来のモータ駆動制御装置によって定電流制御を行ったときのモータ20のモータ電流の変化が示され、図6Bには、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置1によって定電流制御を行ったときのモータ20のモータ電流の変化が示されている。
【0101】
図6Aに示すように、従来のモータ駆動制御装置によるモータ20の定電流制御中に、例えば時刻t10から時刻t11の期間においてモータ20の負荷が急激に増加した場合、モータ20のモータ電流が2倍以上増加する。この現象は、過電流保護機能の過電流閾値Ithが目標電流Itgよりも十分に高い位置に設定されていることにより、過電流保護機能が働くまでモータ電流が上昇することが原因であると考えられる。
【0102】
一方、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置1によれば、図6Aと同様に時刻t10から時刻t11の期間にモータ20の負荷が急激に増加した場合であっても、図6Bに示すように、モータ20のモータ電流の増加を抑えることが可能となる。上述したように、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置1では、目標電流Itgに対するモータ電流の相対的な大きさに基づいて過電流閾値Ithが変化し、目標電流に近い位置まで低下するため、従来のモータ駆動制御装置に比べて、過電流保護機能が働き易くなる。これにより、急激な負荷変動時に、定電流制御の制御ループによる電流調整が間に合わない場合であっても、過電流保護の制御ループによってモータ電流の上昇を抑えることが可能となる。
【0103】
以上、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置1の制御回路部4は、制御対象としてのモータ20のモータ電流の検出値をデジタル信号に変換するA/D変換部45と、モータ電流が過電流閾値Ithを超えているか否かを判定することにより、過電流の発生の有無を判定する過電流判定部46と、モータ電流が目標電流Itgに一致するようにモータ20の駆動を制御するための駆動制御信号Sdを生成するとともに、過電流判定部46によってモータ電流が過電流閾値Ithを超えたと判定された場合に、モータ電流を減らすように駆動制御信号Sdを生成する駆動制御信号生成部42と、A/D変換部45によるモータ電流の検出値の変換結果と目標電流Itgとに基づいて、過電流閾値Ithを設定する過電流閾値設定部47と、を有する。
【0104】
すなわち、本実施の形態に係る制御回路部4は、モータ20の定電流制御中に、モータ20の破損防止のための過電流閾値Ithを、モータ電流の検出値(A/D変換結果)の目標電流Itgに対する相対的な大きさに基づいて可変することにより、過電流保護機能を積極的に働かせて、モータ電流が目標電流Itgを大きく超えないように制御する。
【0105】
言い換えれば、制御回路部4は、過電流閾値Ithを、従来のモータ駆動制御装置のようなモータ20の破損防止のためだけに用いるのでなく、モータ電流の定電流制御においてモータ電流が目標電流Itgを大幅に超えないように制御するために、積極的に用いる。
【0106】
これによれば、A/D変換部45にΔΣADCを適用して、モータ電流の実効値Ieに基づく定電流制御を行う場合であっても、過電流保護機能によって、ΔΣADCによるA/D変換処理時間の増大に伴うモータ電流の定電流制御の処理の遅れを補うことにより、図6Bに示すように、モータ電流が目標電流Itgを大幅に超えないように制御することが可能となる。
【0107】
具体的には、制御回路部4において、過電流閾値設定部47は、A/D変換部45の変換結果(モータ電流の実効値Ie)が目標電流Itgよりも大きい場合に、過電流閾値Ithを低下させ、A/D変換部45の変換結果が目標電流Itgよりも小さい場合に、過電流閾値Ithを上昇させる。
【0108】
これによれば、モータ電流が目標電流Itgよりも大きい場合に、過電流保護機能をより働き易くして、モータ電流を速やかに低下させ、モータ電流が目標電流Itgよりも小さい場合に、電流保護機能によってモータ電流の上昇が妨げられることなく、モータ電流を目標電流Itgまで速やかに上昇させることが可能となる。
【0109】
より具体的には、過電流閾値設定部47は、A/D変換部45の変換結果(モータ電流の実効値Ie)が目標電流Itgを基準とする所定の電流範囲Rmよりも大きい場合に、過電流閾値Ithを低下させ、A/D変換部45の変換結果(モータ電流の実効値Ie)が所定の電流範囲Rmよりも小さい場合に、過電流閾値Ithを上昇させ、A/D変換部45の変換結果(モータ電流の実効値Ie)が所定の電流範囲Rmにある場合に、過電流判定部46による判定結果に基づいて、過電流閾値Ithを設定する。
【0110】
すなわち、上述したように、過電流閾値設定部47は、モータ電流の実効値Ieが目標電流Itgよりも大きい電流範囲Rhにある場合に“電流抑制モード”となって、過電流保護機能によってモータ電流が大幅に増加しないように制御し、モータ電流の実効値Ieが目標電流Itgよりも小さい電流範囲Rlにある場合に“電流促進モード”となって、過電流保護機能によってモータ電流の増加を妨げないように制御する。そして、モータ電流の実効値Ieが所定の電流範囲Rmにある場合に“電流安定モード”となって、過電流の発生の有無に基づいて過電流閾値Ithを微調整する。
【0111】
これによれば、目標電流Itgそのものではなく、目標電流Itgを含む所定の電流範囲に対するモータ電流の大きさに基づいて過電流閾値Ithの調整方法を変更するので、モータ電流が目標電流Itgに近づいた状況において過電流閾値Ithが過剰に変更されることを防止することができ、安定したモータ動作を実現することが可能となる。
【0112】
特に、モータ電流の実効値Ieが所定の電流範囲Rmにある場合における過電流閾値Ithの調整量(±Δ)を、モータ電流の実効値Ieが所定の電流範囲Rm外(電流範囲Rh,Rl)にある場合における過電流閾値Ithの調整量(±2Δ)よりも小さくすることにより、モータ電流が目標電流Itgに近づいた状況における過電流閾値Ithの変動を抑えて、より安定したモータ動作を実現することが可能となる。
【0113】
より具体的には、過電流閾値設定部47は、モータ電流の実効値Ieが所定の電流範囲Rm内にあるときに過電流が発生した場合、過電流閾値Ithを上昇させる。
これによれば、モータ電流が安定している電流範囲Rmにあるときに、過電流判定部46による判定結果が頻繁に切り替わることを防止することができる。
【0114】
また、モータ電流の実効値Ieが所定の電流範囲Rm内にあるときに、過電流が発生していない場合には、過電流閾値設定部47は、過電流の発生の履歴に基づいて過電流閾値Ithの調整の有無を決定する。
【0115】
例えば、上述したように、モータ電流の実効値Ieが所定の電流範囲Rm内にあるときに一度過電流が発生したが、その後、過電流が発生していない場合、モータ電流が安定していると判断することができるので、過電流閾値Ithを変更しない。これによれば、過電流閾値Ithの過剰な変更によってモータ電流が不安定になることを適切に防止することができる。
【0116】
一方、モータ電流の実効値Ieが所定の電流範囲Rm内にあるときに、一度も過電流が発生していない場合には、過電流閾値Ithが目標電流Itgに対して高すぎる可能性があるので、過電流閾値Ithを“Δ”だけ低下させる。これによれば、過電流閾値Ithを目標電流Itgに対して適切な位置に設定することができる。
【0117】
このように、モータ電流の実効値Ieが電流範囲Rm内にある場合には、過電流閾値Ithを変更しない、あるいは、微調整することにより、過電流保護機能が頻繁に働いてモータ電流が不安定になることを防止することが可能となる。
【0118】
更に、上述したように、過電流閾値設定部47は、目標電流Itgに基づいて過電流閾値Ithの初期値Ith0を設定し、目標電流Itgに対するモータ電流の実効値Ieの相対的な大きさに基づいて、過電流閾値Ithを上記初期値Ith0から変更するので、目標電流Itgが変化した場合であっても、過電流閾値Ithを速やかに適切な値に設定することが可能となる。
【0119】
以上、本実施の形態に係る制御回路部4を搭載したモータ駆動制御装置1によれば、モータ20の負荷が急激に増加した場合であっても、定電流制御されているモータ電流が目標電流Itgを大幅に超えないようにすることが可能となる。
【0120】
≪実施の形態の拡張≫
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明はそれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。
【0121】
例えば、上記実施の形態では、半導体装置の一例である制御回路部4による制御対象がモータ20である場合を例示したが、これに限られない。すなわち、本発明における半導体装置は、制御対象がモータ以外であっても、制御対象に流れる電流を検出してA/D変換し、そのA/D変換結果に基づいて、制御対象に流れる電流が一定になるように制御することができる。
【0122】
また、上記実施の形態において示した過電流閾値Ithの調整量±Δ,±2Δは、一例であり、これらに限定されず、適用するシステムに応じて種々変更可能である。
【0123】
また、上記実施の形態において、モータ20が三相のブラシレスモータである場合を例示したが、モータ20の種類や相数等はこれに限定されない。例えば、単相のブラシレスモータであってもよい。
【0124】
また、上述のフローチャートは、動作を説明するための一例を示すものであって、これに限定されない。すなわち、フローチャートの各図に示したステップは具体例であって、このフローに限定されるものではない。例えば、一部の処理の順番が変更されてもよいし、各処理間に他の処理が挿入されてもよいし、一部の処理が並列に行われてもよい。
【符号の説明】
【0125】
1…モータ駆動制御装置、2…モータ駆動部、2a…インバータ回路、2b…プリドライブ回路、4…制御回路部(半導体装置の一例)、5…ホール素子、6…電流検出部、10…モータ駆動制御装置、20…モータ(制御対象の一例)、41…目標電流取得部、42…駆動制御信号生成部、43…電流フィードバック制御部、44…信号生成部、45…A/D変換部、46…過電流判定部、47…過電流閾値設定部、48…電圧判定部、100…モータユニット、470…記憶部(フラグ)、Lu,Lv,Lw…コイル、Rh,Rl,Rm…電流範囲、Sc…速度指令信号、Scmp…判定信号、Sd…駆動制御信号、Si…電流指令信号、Spwm…PWM指令信号、Vcc…電源電圧、Vs…電圧、Ith…過電流閾値、Ith0…過電流閾値の初期値、Ie…モータ電流の閾値(A/D変換部の変換結果の一例)、Itg…目標電流
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B